PandoraPartyProject

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春風を届けて

 ――凄く寒いの。深緑も春が近付いていたはずなのに、遠く遠く忘れてしまった。まるで冬の王が目覚めた時みたい。
   それに、茨が私達を近づけないために伸びるの。迷宮森林を飲み込んでしまうように……ぐんぐん伸びて……。

 それが妖精女王ファレノプシスが深緑より命辛々、妖精の門(アーカンシェル)を通って帰ってきた妖精に聞いた言葉であった。
 彼女は斯う推測する。『冬の王』は力を奮っている、きっと近いうちに迷宮森林は冬に閉ざされる。まるで『あの日』と同じように。
 迷宮森林を飲み込んでいるのは『咎の花(ターリア・フルール)』と呼ばれた冬の王を封じた道具の暴走だろう。
 あの茨は魔法道具に『冠位魔種等に相応する想像も付かない強い力の所有者』による細工が行われた結果なのだろう、と。
 ファレノプシスの懸念は深緑に起きた異変に妖精郷が巻込まれる事であった。
 アーカンシェルを閉ざし、深緑との行き来を完全に遮断しておけば妖精郷はこれ以上は巻込まれる事は無い。
 与えられた『ラサへの通行ダンジョン』を整備すれば妖精達は『人間』との関わりを断つことなくこれまで通りの生活を行えるのだ。

 だからこそ、ファレノプシスは『迷っていた』
 ラサへの通行を許した魔種は『妖精は巻込まれただけだ』と言った。深緑に関わらなければ、妖精郷は安全だと彼女が言ったように聞こえたのだ。
 其れが魔種の思惑の一つで、何らかの裏がある可能性を『特異運命座標』オルレアン(p3p010381)は疑わずには居られなかった。
 勿論、女王として国と民を護りたいと願う気持ちは十分に分かると『Neugier』煌・彩嘉(p3p010396)は言う。
「契約内容、もう一回聞かせてもらっても?」
 問いかける『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)――『司書』はファレノプシスの口から聞きたかったのだ。
「……もう二度と、この国を危険に晒したくはないのです。
 英雄『ロスローリエン』と『エレイン』のように、私は妖精達を、妖精郷を守り切ることは、屹度できません」
 誰かを危険に晒すのならば、其れが一番少ない方法を選び取れ。それが女王としての在り方であるとファレノプシスは声を震わせる。
「馬鹿ね」
 揶揄うように『スピリトへの言葉』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は笑った。
「一人で背負い込まないでよ。私の無茶しいの友達だって『無理はしないでくれ』って言って居た。私だって同じ考えよ」
 その上で、敢えて『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は提案した。
「私達としては妖精郷から深緑を目指す他手段がない。フランツェルとイルスの話を聞く限り、茨をこじ開け出入りするのは無理だ」
 妖精の門(アーカンシェル)は妖精郷への直通通路だ。
 その道を開いてくれとはとてもじゃないが言えない。だが、アーカンシェルを利用せずとも妖精郷に『回り道』できる大迷宮ヘイムダリオンを使用させて欲しい、と。
「貴女も妖精達も、深緑に行ったきりの仲間や深緑の友人達の安否は気になっているだろう?」
「……はい」
 ファレノプシスは小さく頷いた。
 深緑に遊びに行ったまま帰らぬ妖精達。妖精郷のために尽力する深緑の民。
 それは、関係ない人かもしれない。ファレノプシスにとって、不安であれども『妖精郷と天秤に掛けて今危険を冒すべきかどうか』の判断も難しい存在なのかもしれない。
 『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)にとっては見過ごしても些細な出来事の一つであったかもしれない。
 だが、斯うして此処までやってきたのだから『深緑』という国とその他身のために戦っても良いと、決意したのだ。
「女王様に心配な事があるなら、なんだってするよ。妖精郷に危険が及びそうなら、生命を賭けてでもみんなを守る! だからどうか、お願いします!」
 母も、父も。領主様も。
 沢山の人たちが、囚われている。助けたいという想いを胸に、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は不安を抱きながらも此処までやってきたのだ。
「御同胞が被害に遭われているのも心配でしょう。此処を通して頂く代わりに、御同胞を必ずや妖精郷へ。荒事はアタシ達の仕事です。どうか、信じて頂けませんかね」
 彩嘉の提案にファレノプシスは「私は『妖精郷』の為に深緑を斬り捨てようと考えました。その保身を許して下さるのですか」と声を震わせた。
「それって、妖精の為だったんだよね? 良いんだよ。背負っている物が違うのは分かるから。
 ……私達は今、此処に来れなかった皆の想いを……助けたいって想いを背負ってるから、女王様にお願いしたいんだ」
 屹度、フロックスに『ラサと交流させて欲しい』と言わせるのは簡単だった。そう言わせずに、道がある事を示し、情報収集にだけフロックスを送り出したのはファレノプシスにも『深緑を救うチャンス』であるという考えがあったはずだ。
 真摯に告げる『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)にファレノプシスはぐ、と息を呑んだ。
「まあまあ! 大丈夫です! なんかあっても我々が全部なんとかしちゃいますから!妖精さん達は見てるだけでもOKです!
 ウチらお人好し多いですしなんとかなりますよ! しにゃも可愛い妖精に何かあるのは我慢なりませんし。ね?」
 花丸や『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)がなんとかしてくれると言いたげに微笑んだ『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)
 しにゃこの頭をがしがしと乱雑に撫でたルカは真っ向から妖精女王を見た。
 途惑い、そして不安が滲む。それは仕方が無い事だ。
 時間を掛ければ他の道が、解決方法があるかも知れない。『かも』も『たられば』も必要なかった。
 そんな事を考えている時間は少しも残されていない――不安そうに家族を思い浮かべた『いい女』やアレクシアを思えばこそ、ルカは頭を下げることも厭わなかった。
「妖精郷を危険が襲うなら絶対になんとかする! 直接力を貸してくれとは言わねえ!
 ヘイムダリオンを通してくれるだけで良いんだ! ――頼む……! 俺に仲間を助けさせてくれ……!」
 ヘイムダリオンを使用することで、妖精郷に危機が及ぶ可能性は否めない。それでも『その道を諦めて遠い未来に危機が訪れる』可能性もあるのだ。
「直通通路の『門』は開くことは出来ません。
 ですが、ヘイムダリオンならば……あの内部にも深緑から此方を目指すモンスターが存在しているかも知れません」
「それが此処に到達する可能性は?」
「現在はありませんが――『将来』にどうなるかは」
 イーリンは『ヘイムダリオンの掃討を請け負う』と提案した。妖精郷への危害を出来る限り排除して、それを道として利用するのだ。
「後の不安は俺たちがなんとかする。特異運命座標が深緑に向かうための拠点の一つ、魔種からお前達を護る護衛にもなる」
「宜しいのですか」
 ファレノプシスにオルレアンは頷いた。
『大迷宮ヘイムダリオン』を越え、アンテローゼ大聖堂にまで到達することが出来れば――ファルカウは目の前だ。
「……ヘイムダリオンの攻略と、アンテローゼ周辺の攻略。やることは多くなるけれど、それでも攻略の足掛かりになるなら――!」
 任せて欲しいとアレクシアは堂々とそう言った。
 常春の都、美しき妖精達の春花の世界。
 この地を出れば極寒の冬が待ち受けているかも知れない――それでも、冬を越え、征かねばならない。
 春風を届け、季節を置き去りにした儘とする『冬』を終わりにするために。

 ※妖精郷で女王と謁見しました! 報告書がローレットに齎されています!!

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