PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<咎の鉄条>蜃気楼の虹を越え

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヴァズの知らせ
 ラサ西部――比較的深緑近い場所に存在する『ヴァズ』は砂漠はまだ残る物の少しずつ緑が見え始める場所である。
 豊富な湧き水を湛えたオアシスを中心にラサと深緑の交易を中心に行い、幻想種との貴重な架け橋となるこの都市は旅人の休息の地であり、深緑の玄関口の一つであった。
「ぷはあー」
 水を勢いよく飲み干したのは妖精フロックス。『紆余曲折』があり何とか妖精郷からラサへと脱出した精霊種(妖精)の一人である。
「無事でよかったの! サイコーなの! 祝い酒をキメてハッピーになるの!」
「そんな場合じゃないのです!」
 エアグラスを掲げたストレリチアはショックを受けたようにフロックスを見遣った。
 この交易の地、ヴァズにフロックスが何とか辿り着き森林警備を行っていた幻想種に保護されてからは話が早い。
 イレギュラーズや難を逃れた深緑の者達との合流を果たすことが出来てフロックスは先ずは一安心だと漸く翅を休めたのである。
「んふふ、それにしてもビックリしたよ。メルメルが何か咥えてたからさ!」
「そ、そうです。フロックスはパカダクラに咥えられて此処まで……」
 メルメルと呼ばれたパカダクラが「だかぁ」と相槌を返す。森の『際』と呼ぶべき国境線を散歩していた幻想種アルリア・レ・ルマールは家に帰れなくなった代わりに妖精を拾い、交易都市のヴァズへとやってきたそうだ。
 そこで情報収集に当たっていた森林警備隊のルドラ・ヘスと合流し――
「それで、もう一度話を聞かせて貰っても?」
「ええ。最初から説明して欲しいの。丁度、イレギュラーズさんたちも到着する頃だから」
 アンテローゼ大聖堂から脱出を図り、命辛々外へと逃げ果せたイルス・フォル・リエーネとフランツェル・ロア・ヘクセンハウスの両名に一先ずの状況説明を行っていたらしい。
「はいです。フロックス達妖精は『深緑の異変』を感じとりました。
 女王様――ファレノプシス様は大迷宮ヘイムダリオンにも異変が感じられると、直ぐに妖精に使用を禁止したのです。
 妖精郷は元から外部との交流を必要とはしていないので、深緑が変な茨に覆われても問題は無かったですが……」
「遊びに出掛けていた妖精達が心配で、情報収集のためにフロックス、君が来たと?」
「はいです。外に出る事は出来そうになかったですが……その、魔種……ブルーベルはご存じです?」
 フロックスの問いかけにイルスとフランツェルは頷いた。怠惰の魔種、やたらと毒舌を吐く幼い少女の姿をした魔種であっただろう。
 彼女は突如として妖精郷に現れ、ファレノプシスに告げたのだという。

 ――大迷宮ヘイムダリオンの内部も『イレギュラーズの侵入を防ぐ為』にギミックが仕込まれてる。
   だから、無駄に死傷者を増やしたくないなら深緑には踏み入れないで欲しい。約束してくれるなら、外への道を繋いでやる。

「……それをブルーベルが?」
「はいです。魔種だけど……あの子は、自分のご主人様に言われた事だけしかしないですから……信頼できると女王様が……」
 現に彼女がこの地にまで辿り着いているのだからブルーベルは嘘を吐いてはいない。
 ファレノプシスは深緑に妖精が立ち入ることを禁じ、フロックスを使者として『外』へと送り出したのだろう。
「確かに、ブルーベルは勇者パーティーの一員であった魔法使い『マナセ』の作った『咎の花』を奪いはした。
 だが、それは彼女の手にはないと考えるべきだろう。『咎の花』は彼女の主人の手に渡っていると考えるべきだ」
「ええ。それに冬の王の力もブルーベルは手にしていなかったわね。確か……クオン・フユツキの手に渡っていた。
 現状でも彼女は『お遣い』をしているだけ。巻込まれた妖精郷を不憫に思って送り出したというなら……まあ、悪人ではないのでしょう」
 イルスとフランツェルの推測に首を捻っていたのはアルリアであった。ルドラはと言えば先程から腹を減らしたパカダクラ、メルメルに引っ張られ続けている。
「一先ず、ブルーベルの善悪は置いておいて、だ。
 フロックスが使った道はこれからも使用できるのだろうか?」
「あ、はいです。『往復、アタシが面倒見るとかダルいから自分でなんとかしろよな』ってブルーベルさんが安全な道を教えてくれたです!」
「……魔種の研究をしては居るのだけれど、その性根全てが悪に染まりきらない魔種を見ると何とも言えない気持ちにさえなるな」
 肩を竦めたイルスにフランツェルは何も言えずに肩を竦めた。魔種であるからには避けられぬ結末がそこにはある。
「あ、でも、大迷宮ヘイムダリオンの使用は女王様が禁止してますから……」
「一先ずは、ファレノプシス様とお話しするところから、かしら?」
 ブルーベルが道を残しているならば、其れを辿って妖精郷に入れば良い。
 イレギュラーズ側は大迷宮ヘイムダリオンの使用許可をファレノプシスに得る事で、ファルカウの麓を目指せば良い。
 国境沿いを歩き回るだけでは茨に阻まれ時間が掛かりすぎる。大迷宮ヘイムダリオンを使用することがファルカウに最も近づける策だろう。
「フロックスが出てきた場所ならメルメルと案内しようか?」
「そうして欲しいの! ……そういえば、妖精郷は被害は何か出ているの?
 みんなが無事だと嬉しいの……心配すぎてアルコールも2L位しか喉を通らないの」
 問いかけるストレリチアにフロックスはにんまりと微笑んでから「深緑に出なければ平和そのものだったです!」と告げたのだった。

●『蜃気楼の架け橋』
 妖精郷とラサを行き来する為の道も大迷宮ヘイムダリオンと同じく、『迷宮』であった。
 アルコールの入っているストレリチアと情報収集役のルドラにはヴァズに残ってもらい、フランツェルとイルス、そして案内役のアルリアとペットのパカダクラ『メルメル』はその入り口と呼ぶべき場所にやってきた。
 一見すると何もない砂漠の空間である。揺らぐ蜃気楼を目にしてからアルリアは「此処でメルメルがフロックスを咥えてた」と指さした。
「有り難う。それじゃあ、此処からブルーベルがフロックスに教えてくれた道を辿って妖精郷ね」
「はいです。ブルーベルが『アタシがいて怯えて出てこないけどモンスター出てくるかも知れないから帰りは護衛でも雇え』って言ってたです!」
 護衛を雇え――イルスは「護衛を雇うための賃金は?」とフロックスに問いかける。フロックスは肩から掛けていたポシェットから小さなポーチを取り出した。『Bell』と刺繍されたそれには僅かながら小銭が入っているようである。
「わたし、どんぐりを持ってたら、ブルーベルがお小遣いくれたです」
 小さな妖精と少女魔種の間に何があったのかは聞かないでおくことにして一先ずはこの迷宮の踏破からだ。
 アルリアを危険な目に遭わすことは出来ない。彼女とメルメルにはこの出口を瞠って貰うこととし、迷宮の踏破を開始しようではないか。
「内部は暗いので、灯りを降りて直ぐの所に置いておいたです。其れを持って、歩いて妖精郷を目指すです!」
「それじゃ、一先ずは妖精郷に。それから、到着後は直ぐに妖精女王に面会を申し入れましょう」
 フランツェルは良いかしらとイレギュラーズを振り向いた。大所帯で押しかけては驚かしてしまう。先ずは少人数での交渉に赴こう。

GMコメント

 夏あかねです。

●成功条件
 その1)『蜃気楼の架け橋(迷宮パンタスマ)』の踏破
 その2)妖精女王に『大迷宮ヘイムダリオン』の使用許可を貰う

●蜃気楼の架け橋『迷宮パンタスマ』
 魔種ブルーベルが妖精達が深緑に出ない代わりに、ラサ側に出られるようにと与えた道です。
 ブルーベルの思惑は定かではありませんが(当人の言い分を信じるならば「妖精は巻込まれただけだから」「宝物を奪ったお詫び」ですが……)この道を通ってフロックスはラサにやってきました。
 今回は逆にラサから迷宮パンタスマを踏破して妖精郷を目指します。
 ただし、迷宮パンタスマ内はモンスターが現れることが推測されますので、危険に備えてください。
 迷宮内での戦闘はフロックスの言葉を信用して備えておく必要がありそうです……。

 フロックス曰くの内部の様子。
「何だか、遺跡のような雰囲気だったですが、歩いていると突然お花畑にになったり、海みたいな風景に変化するです!
 ブルーベルがゴーレムとか、妖精の振りした悪い邪妖精が出てくるって言ってたです」

●妖精郷
 フロックス曰く『平和そのもの』。常春の国。
 大迷宮ヘイムダリオンを通じて深緑に遊びに出掛けていた妖精達が今回の一件に巻込まれているそうです。
 妖精女王ファレノプシスは『大迷宮ヘイムダリオン』の使用を禁じ、妖精達に深緑との出入りを行わないように注意しています。
 迷宮パンタスマを抜けてから直ぐに妖精城に向かうこととなります。

●『ファレノプシス』
 妖精郷の女王。イレギュラーズに救われた過去を持ち、イレギュラーズを信頼しています。
 フロックスを外に送り出すために、魔種ブルーベルの持ちかけた深緑には踏み入れないという取引に頷きました。
 妖精郷が巻込まれないように、深緑に通じる道を封鎖し、深緑側からの『アクション』を拒絶している節が見られます。

●同行NPC
 ・フロックス
 女王の侍女。ブルーベルに翅をつかまれながらラサに出てきたふわふわ妖精。
 戦闘能力はありません。フランツェルに抱えられて、迷宮パンタスマを歩きます。

 ・フランツェル・ロア・ヘクセンハウス
 深緑の大樹ファルカウの麓に存在する『アンテローゼ大聖堂』の司教。
 イルスと共に何とか深緑を脱出し、ラサで情報収集を行っていました。魔法使いです。サポートを行います。

 ・イルス・フォル・リエーネ
 魔種の研究者。フランツェルと共にアンテローゼ大聖堂から何とか脱出してきた幻想種です。
 妖精郷の一件でも深く関わりを持っていたために同行してくれます。魔法使いです。サポートを行います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <咎の鉄条>蜃気楼の虹を越え完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月16日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
オルレアン(p3p010381)
特異運命座標
煌・彩嘉(p3p010396)
Neugier

リプレイ


 案内役を担っていた少女の姿を一瞥してから、『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)はうんと頭を悩ませた。
 紺碧の色の髪に鮮やかな紅色の瞳。幻想種の種族特徴である長耳の少女はパカダクラを飼い慣らし、フロックスを見付けた場所までイレギュラーズを誘った。その背中に感じた面影はラダの祖母『ニーヴァ・ジグリ』のものである。飄々とした『おばあさま』と比べれば幾分も幼く可愛らしいアルリア・レ・ルマールではあるが、動物の扱いに長けている部分とその外見特徴から血族であるのは明らかだ。
「……あの婆様瓜二つの子はうちの親戚、でいいんだよな? ……よし」
 独り言ちてからラダは深く息を吐いた。相手は、ラダ・ジグリが親戚である事は知らないだろう。
 気付いた頃にはラサに飛び出していったニーヴァ。その家族が深緑にいた事はラダとて知らなかった。ニーヴァに聞けば家族くらい居ると答えるだろうが孫娘にとっては寝耳に水なのだ。
「アルリア。私はラダ・ジグリという。暫くはうちにいるんだよな?  なら色々話すのは帰ってからにしよう。行ってくるよ」
「オーケー、ラダ。そう、ヴァズに来てから皆の視線が痛いの何の。理由はヴァズの住民であるラダが教えてくれるんだよね。
 それなら無事に帰ってくるのを待ってる。妖精郷に行っても帰ってくる時間くらいはあるだろうからさ、待ってるよ」
 深緑の問題が解決するまで自身も森には戻れなさそうだと肩を竦めるアルリアにラダは大きく頷いた。
 そう、深緑――ファルカウを中心にして形成された『迷宮森林』は謎の茨に鎖されている。茨は意思を持つように蠢き、内部に入ることを拒む。そして内部に居る者には著しい倦怠と眠気を与えてくるのだという。
 内部より逃げ果せたフランツェル・ロア・ヘクセンハウスに言わせれば「呪いめいたもの」であり、「謎」そのものであった。
 大樹ファルカウに何らかの急変が起こったことは確かなのだろうがファルカウに近付こうとすれば深き眠りに苛まれるのだ。今は内部の情報を少しでも持って逃げ果せることが得策であろうとフランツェルはイルス・フォン・リエーネと共に遙々ヴァズまでやってきたのだという。
「師匠もフランさんも無事だったんだね! 良かったあ……ってホッとしてる場合じゃないね。深緑までの道を切り開かないと……!」
「ああ。まあ、驚いたよ。アンテローゼ大聖堂で一先ずは茶でもしながら竜について考察しようとしていた所だったからね」
「本当に。イルスったら悠長に『紅茶が淹れ立てだったというのに』と拗ねるんだもの。
 ……ごめんなさいね、アレクシアさん。貴女のご両親の無事は分からないの。ニンファエア樹層区も恐らくは――」
 苦々しく呟くフランツェルに『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は首を振った。
 ファルカウの最下層似存在するニンファエアはアレクシアが領地を預る場所である。イレギュラーズとして領地を拝借してはいるが、実際は自身では無くマールナ・ヘラ・フィオーラというアンテローゼの司祭が領主である。
「マールナさんも……」
「ええ、マールナの事も何も分からないの」
 命辛々逃げ果せたと言った様子のフランツェルにアレクシアは大丈夫と首を振った。そう、自身だけの問題ではない。故郷の森が窮地に立たされているのだ。
「おととしみたいに大変な事になっていないみたいなのは安心したけれども。
 深緑全体はどうなっているのかというかんじで。ヘイムダリオンが使えるととても助かる、という理解なの。協力していただけるといいわね」
「その為に妖精郷に無事に着かなくっちゃいけないわね。
 妖精郷はどうなっているのかと思っては痛けれど、まさか抜け道になりそうとはねぇ……危機に陥ってなかっただけ安心するべきかしら」
 状況を把握すべくアルリアのパカダクラ『メルメル』に加えられていたフロックスをちらりと見遣った『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)と『スピリトへの言葉』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は「びゃー」と叫ぶのんきな妖精に肩を竦めた。
 そう、彼女がこの場所でパカダクラに咥えられて進んでいる事からも分かるように、妖精郷は窮地に貧してはいない。寧ろ、その逆――妖精郷は『魔種』の助言を受け、ラサへの道を得たのだという。
「……思惑はどうあれ魔種ブルーベルから深緑に繋がる切っ掛けが齎されるとは思わなかったよ」
 敵対してきた魔種『ブルーベル』が何を考えているのか。それは又聞きの状態となる『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)には分からない。
 フロックスは「あの子は悪い子なのか分からなくなるです」と困った調子だ。
「魔種にどんな思惑があるかは分からないが、我々は深緑へ行く為にこの手を利用するしかない。
 ……この先のダンジョンか。アルリアは案内に感謝を。気を付けて進もう」
 蜃気楼が幾重にも重なっているかのような奇妙な光景。深き森に入るのでは無く、そこから別の場所に繋がっていることを教えてくれるかのような微かな違和感が『特異運命座標』オルレアン(p3p010381)を包み込む。
 花丸は一度深く息を吐いた。彼女は魔種は倒さなくちゃいけない、敵だから倒すべき。そんな考えを持つような少女ではない。
 ブルーベルが何を考えているのかは分からなくともこれが『切っ掛け』で『糸口』ならば無碍に扱うべきではない。
「でも、それも結局は切っ掛け。架け橋を渡り切って、この事件の解決の糸口を掴み取らなきゃっ!」


「深緑からしか妖精郷へ行けねえイメージがあったから、妖精郷から渡る発想はなかったな……それが出来れば解決に大きく近づくかも知れねえ」
 階段を確かめるように一段ずつ降りながら『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)はそう言った。
「勿論、『大迷宮ヘイムダリオン』は迷宮森林に繋がっている架け橋だったです。
 ファレノプシス様が護っていらっしゃるその道を妖精郷に繋いでしまうと、直接、寒い気配と怖い物が入ってくるかも知れないから今は閉じているのです!」
「へえ、逆に使えなくしてるのか。まあ、そうだな……繋がってなけりゃ只のダンジョン攻略が必要な場所だ」
 イレギュラーズの中でも妖精郷に渡る方法を探す者は居た。だが、其れを妖精側がシャットアウトしていたとなれば『見付けられなかったこと』こそ正解なのだ。
 ルカは妖精達の自衛に感心しながらも蜃気楼の架け橋――ラサと妖精郷を繋ぐ『迷宮パンタスマ』へと降り立った。
「イイですねェ、妖精郷。そして迷宮攻略! この響き! ふー、いやァ、楽しみは幾らあってもいいもんです。ええ!」
 始めて訪れる場所であると心を躍らせたのは『Neugier』煌・彩嘉(p3p010396)。その知的好奇心を刺激する風景が眼前には広がっていた。
 先程まで砂漠地帯に立っていたかと思えば、蜃気楼に飲まれた先には地下へと繋がる階段、そして遺跡が如き『ダンジョン』が待ち受けているのだ。
「楽しいです?」
「ああ……これでも真面目なんですよ、ええ、アタシ仕事はする亜竜ですから。
 他所への興味は山ほどあれど、縁があっても機会が少ない場所でしょう。喜んでしまうのは探求家の性でして」
 首を傾げたフロックスに彩嘉が肩を竦めれば「違いないわね」と『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は笑った。
 迷宮探索は『司書殿』にとってもお好みのシチュエーションの一つだ。罠の対処にも気を配り、先頭に立ったイーリンは懐中時計を確認する。
「針は12を刺したわ。これから活動開始しましょう。
 ええ、まあ。さて、妖精郷には縁もゆかりもないけれど、迷宮がいい場所だったっていうのは覚えているわ。
 助ける理由はそれで十分でしょ。始めましょう――『神がそれを望まれる』」
 環境が激変する。ならばこそ、彼女は慣れた様子で聞き耳を立て、罠を対処しワイヤーフックを手に進む。
 殿のルカを確認し、傍らに居る花丸にしっかりと捕まっていた『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)は一番安全そうな場所で『花丸バリア』の背後に立っていた。
「それゆけダンジョーン! なんか世にも奇妙な迷宮らしいですけど。
 これだけ頼れる人達がいれば余裕ですよね! ちょっとしたアトラクション気分で行きましょう!」
「頼れる人です?」
「勿論! しにゃの事を皆が護ってくれますから!」
「……置いていこうかな」
 軽口を交わしたのはフロックスを安心させるためなのだろう。僅かに足下を浮かび上がらせて、地に足を着けぬように注意したしにゃこは周辺警戒に自身の感覚全てを活かす。それは花丸も同じだ。異常を検知してくれるイーリンの声を聞き漏らさぬように、罠の位置確認を続けて行く。
「フロックスは中心から離れないように。危険を感じるかも知れないが、必ず守りきるから安心してくれ」
「はい、です」
 頷いたフロックスにラダは出来ればフランツェルとイルスからも内部情報を聞けないだろうかと声を掛けていた。
 迷宮内部を隈無く確認するオデットはこの迷宮は『ヘイムダリオン』に細工した物の一つだろうと考察するフランツェルとイルスの言葉を聞き、同様の物であることを確認していた。高名なる魔術師の成果物であると言う迷宮の架け橋はその在り方を少しばかり『いじった』事によりダンジョンを越える必要が生じたのだろう。
「精霊はいないのね。それに、景色も人工物みたい。自然の物じゃなさそう……けど、徘徊するモンスターは本物ね」
 オデットの観察眼に頷いたアレクシアは「そうだね」と頷く。幻想種は森の声を聞く――アレクシアの言葉は迷宮内に茂る植物には届かず、其れ等全てが迷宮のオブジェクトの一つであることが分かる。
 方角が分かるようにと方向感覚を活かして地図を書けば分かり易い。景色が変化し、感覚が狂うが『一本道』であるようだ。
「モンスターがいるのは仕方がないにしても、一本道とは……この道を提案した魔種は妖精達を有事の際に逃がす気だったのだろうか」
「そう、かな? 師匠はそう思う?」
「まあ。……ブルーベルは魔種研究家の目で言わせれ貰えば『悪人』じゃない。
 確かに主人――冠位魔種に協力はしているようだけれど、それはそれ、これはこれ。無関係の妖精が巻込まれる事を避けたのかも知れない」
 魔種研究家であるイルスの言葉にルカは「成程ねぇ」と呟いた。
「不思議なのね。魔種にも性格がそれぞれだわ」
 胡桃にルカは頷いた。「魔種ったって元は人だからな」と呟いた言葉は重く、それでも在り方を違えた彼女達を何時かは殺さなくてはならないと再確認させられたかのようだった。
「まあ、奴さんの思惑とやらは今後も聞き出せるだろう。先ずは妖精郷に到着するところからだ」
 周囲を確かめながら進む一行は出来うる限りの対策を講じていた。
 前を進むイーリンが「定期的な休息は大事よ」と罠の仕掛けられていない窪みを指差した。
 陣地として構築し、簡易的に拠点を作成したイーリンはサイドバックからクッキーを取り出す。
「ところで女王様って、どんな人なの?」
「とっても優しくって妖精は皆、女王さまがだいすきです!」
 にこりと笑ったフロックスにイーリンはそうなのね、とクッキーを手渡した。逢ったことはないが妖精女王というのは代々『妖精』が選ばれるものなのだそうだ。
 妖精姫と呼ばれる時代の『女王』の話はイーリンも聞いたことがあるだろう。
 ストレリチアが『真夏の恋』を間違えてタータリクスに与えてしまった過去の話だ。
 妖精達の中で誰が女王に選ばれるかを妖精達は察知する。妖精は女王が大好きで、女王は妖精達と妖精郷を愛している。
 彼女達は使命を帯びている。
 使命のことは誰だって知っていた。フロックスは語る――『冬の王の封印維持』と『妖精郷の門の維持』。
 その為に命を削る妖精女王は『妖精』の中では短命だ。
「そう、心優しい人なのね」
 眼を細めて笑ったイーリンに「司書さんにも分かって貰えてうれしいです!」とフロックスはにんまりと微笑んだ。
 小休憩中に花丸が地図を作るアドバイスをするアレクシアを見遣ってからイルスは弟子が元気そうな顔をしたことを安堵するように胸を撫で下ろした。
「あら、押しかけ弟子が可愛い?」
「……いいや?」
 ふい、と外方を向いたイルスを見遣ってからルカがからりと笑う。ルカはアレクシアや自身の友人の家族がどうなっているかが心配なのだとイルスにだけこそりと話した。
「アレクシアの家族も、友人殿の家族も眠っていて命に害はないと信じたいが……」
「まあ、眠り続けりゃ『害』が出るかも知れないよな」
 ルカのぼやきにフランツェルは頷いた。
「幻想種だからまだ、大きく問題にならないとはいえるわよね」
「それって、老いるのが遅いからです?」
 話を聞いていたしにゃこにフランツェルは「そうね」と返答する。命の尺度の違う幻想種達ならばこの眠りも『僅かな物』で済むかも知れない。
 だが、其れが何時まで続くかは分からないのだ。眠る者達の身体が自然に朽ちていく可能性とてある。
「……謎だらけってのも困り物ですねぇ」
 彩嘉の嘆息にオデットは「取りあえず妖精郷が無事出ある事を知れただけでも、進歩なのかも知れないわね」と呟いた。
 オルレアンは仲間達を眺めて妖精女王に思いを馳せる。妖精に愛される女王は様々な不安を抱いているのだろう。
 魔種が出入りした事、残された妖精や知り合い達のこと、そして、妖精郷の事――
 その不安を感じ取りながら頬杖を付いていたオルレアンは「そろそろいこうか」と立ち上がった。
 足下の不安から逃れるように、罠を看破する彩嘉は唐突に周辺の景色が変化したことに気付く。
 石ばかりのダンジョンが大きく変化し、突如として身体が水面に投げ出されたのだ。
「わっ!?」
 驚いたように身を逸らしたオデットに「水なの? 泳げぬので、ちゃんと気を付けるの」と胡桃が一歩たじろぐ。
 彩嘉は「違います。これは――」と深呼吸をしてみせた。水中と思わしき景色。幻影である事を看破して両足に力を込める。
「ぶくぶくぶく……はっ、これ幻影ですか!? 簡単に騙される程しにゃは甘くないですよ!」
 ざばりと水面から顔を出した仕草をしたしにゃこが睨め付ける。邪妖精がぴょん、ぴょんと跳ねる背を追い掛けて花丸は引付けて天をも掴むかの勢いで殴りつけた。
 続き、胡桃は「良くも騙したの」とこやんぱんちを叩きつける。
 もふもふの爪付きグローブが現れた邪妖精を引っ掻けば、それらは逃げ果せるように走り出す。
「誘い込むつもりだね」
 アレクシアの花弁の魔力が周囲に舞い散りオデットがこくりと頷いた。太陽の恵みが込められたリボンが光を帯びる。
 誘い込まれたとて、叩きつける攻撃には変わりない。放たれたのは熱砂の嵐。ラサの砂漠より遣ってきた異邦の旅人はその痛烈さを語るように眼前に現れたゴーレムを巻込んだ。
「さて――出口ももう少しか」
 銀弾は気まぐれにゴーレムを貫いた。
 ぱかりと土塊の肉体に空いた穴の向こう側から陽光が漏れている。
 イーリンは「全員、集中!」と叫んだ。オルレアンが放つ憎悪の爪がゴーレムの頭上を行く。
 ラダの弾丸は真っ直ぐに射貫く。アレクシアと花丸が引付けるゴーレムへとルカが振り下ろした凶刃は鋭くも土塊を地へと返した。


 春の香りが鼻腔を抜ける。随分と遠く感じられた芽吹きはこの地に鎖され居たかのような暖かさが身を包む。
「着いたわね」
 嘆息し、衣服に絡んだ汚れをはたき落としたイーリンは周囲をきょろりと見回した。平和そのもの。そう言い表す事が正しいと言わんばかりの美しさ――常春の国『アルヴィオン』は美しき花々を薫らせてイレギュラーズの眼前に佇んでいた。
「ここが妖精郷! 正しく常春と呼ぶに相応しい場所ではありませんか。ええ、ええ、素晴らしい。
 人が立ち入ることの出来る妖精城、大迷宮ヘイムダリオンを越えた先にこの様な場所があるとなれば旅人はさぞや驚いたでしょう」
 声を弾ませて彩嘉が周囲を見回せばフロックスは「そんなに褒められると照れるです」と照れくさそうに笑った。
 精霊種と言えども妖精と呼ばれた小さな彼女達の住処は見下ろす程度の者が多い。オデットならばさておき、ラダは足下を確かめて進むしかあるまい。
「それじゃあ女王様に会いに行こうか」
 衣服に付いた汚れは出来うる限り除去し、女王への謁見に相応しくあるようにと心掛けた。

「久々だな女王サン。元気そうで何よりだぜ」
「皆さんも息災で……ゆっくりなさって下さい、とは申し上げにくい状況ですね」
 片腕を上げて軽い挨拶をしたルカにファレノプシスははあと大袈裟なほどのため息を吐いた。
 柔らかな空色を宿した瞳に滲んだ焦燥にアレクシアは息を呑む。
「お久しぶり。今日はお願いがあってやってきたんだ」
 挨拶は礼儀作法。イレギュラーズは『願い出る側』である。それならばファレノプシスを不快にさせぬようにと細心の注意を図る。
 面識がなかったイーリンは「ご機嫌麗しゅう、女王陛下」と恭しく頭を垂れた。先ずは距離感を的確に把握するところからだ。
「気楽にして下さい。元はと言えば、フロックスが皆さんに救援を求めた事が始まりです。
 私の側こそ、斯う申し上げるべきでしょう。道中お疲れ様です。急造された道では不便も多くあったでしょう。私が道を閉ざしているが故の入らぬ苦労です」
 申し訳なさそうにそう告げるファレノプシスに「事情があるのだもの、仕方が無いわ」とオデットは首を振った。
「『無理はしないでくれ』って、いつも妖精郷のために無茶しちゃう友達からの伝言も伝えておきたかったから」
「……ええ、あの子にも後ほどお礼を言わなくてはなりませんね。
 外からアルヴィオンへの道を探してくれていると聞きましたが、私が鎖した事を伝える術がなく心配をかけて終いました」
 オデットは妖精郷の為ならばと身を張る友人を思い浮かべてから頷いた。その頑張りを妖精女王も良く分かってくれているならば安心だ。
「それじゃ、早速お話をしようとおもうの。難しいことはよくわからぬの。
 特に、わたしたちは外の人間だから貴女の懸念も言って貰えなければ分からぬ気がするの。
 ……ただ、わたしにとっては関係のない人達の話かもしれなくとも『わたし』は深緑という国とその民の為に戦ってもいいの。今決めたの」
 胡桃がしっかりとファレノプシスに向き直れば、その瞳に籠もった意志は強い光となる。
 鮮やかな石榴の色は熱を帯び、小さなファレノプシスを真っ直ぐに照らしているかのようだ。
「お話をしましょう。どうか、楽な姿勢で」
 妖精サイズの小さなティーテーブルに腰掛けたファレノプシスは『人間用』として用意していたクッションを指さした。
 勢いよく桃色のクッションを抱き寄せてからにんまりと悪意の欠片もないスマイルを乗せたしにゃこは『きゃぴっ』と音も出そうなポージングでファレノプシスへと向き直る。
「改めまして、ちはーっす! 超絶美少女しにゃこちゃんです☆
 お願い事は他の皆からちゃーんと言いますから、ファレノプシス様も緊張しないで下さいね!」
「はい」
 こくりと頷いたファレノプシスは緊張しているようだった。交渉が必要となる理由は彩嘉にも痛いほどに良く分かる。
 もしも自身の故郷に何らかの影響が出るとするならば――国を護りたい、同胞を出来る限り護りたい。
 それが『女王』の立場として必要不可欠である判断だ。彩嘉もそれを理解した上で交渉に当たらんと考えた。
 状況はシンプルな説明が添えられた。
 深緑は突如として強大なる『呪い』に包まれた。
 それを『呪い』と称したのは抗いがたき永劫の停滞(ねむり)が襲い来るからだ。
 命辛々と言った様子で妖精郷に繋がる妖精郷の門(アーカンシェル)へと辿り着いた妖精は言った。

 ――凄く寒いの。深緑も春が近付いていたはずなのに、遠く遠く忘れてしまった。まるで冬の王が目覚めた時みたい。
   それに、茨が私達を近づけないために伸びるの。迷宮森林を飲み込んでしまうように……ぐんぐん伸びて……。

 真夏の恋をも凍らせた。理不尽なる猛烈なる凍土。妖精の発言を聞いてファレノプシスは斯う認識したらしい。
『妖精郷の外では冬の王が目覚めている』
『冬の王を封じていた魔法使いマナセの咎の花が茨棘となって迷宮森林を封じようとしている』
 前者は妖精郷に封じていた大精霊の封印が解き放たれたからだ。
 後者は魔法使いマナセの『咎の花』を悪用した大いなる存在が居ると事が想像される。
「その後者は魔種ブルーベル……ではないんだよね?」
 花丸の問いかけにファレノプシスは「彼女にはそうするだけの力は無いでしょう」と悩ましげに否定した。
 其れを為せるだけの力を持つのは恐らくは冠位と呼ばれる大魔種達。ブルーベルが咎の花の奪取に関わっていたならば――
「……『怠惰』か」
「師匠もそう思った?」
 アレクシアの問いかけにイルスは頷いた。ブルーベルは怠惰の魔種だ。
 変わりゆく世界より停滞を選んだという元・奴隷の少女。彼女が主人と慕うのはおそらくは、
「ブルーベルの主人――『怠惰の冠位魔種』の権能が咎の花に絡んだ可能性がある……だよね」
「はい。もしくは、別の魔種が更に力を貸して居る可能性もあります。
 そこまでは分かりませんが、ブルーベルは妖精郷はターゲットではなく、私達は巻込まれた側であると」
 ファレノプシスがフロックスを一瞥すれば『Bell』と書いたポーチから子供の小遣い程度の小銭はイレギュラーズの雇い賃として使用するように言われていたのだと彼女は宣言する。
「事情は分かった。彼女については考察の範囲を出ない。
 ……俺は思うのだが、今ここに俺達が居る事自体が魔種の望みであったらどう思う?
 お前達妖精を外に流す為なら、ここから外への一方通行の迷宮を用意すれば良いと思わないか?」
「それは、そうです」
「態々行き来できる道を用意するなんて、特異運命座標に助けを求めに行く様仕向けているのではないか?
 妖精郷を通じて俺達が深緑へ乗り込み、大樹の嘆きを解除する……もし、それを魔種が望んでいるとしたら、お前達は奴等の期待通りに動いたって事になるだろう。そうしたら、お前達が魔種に報復されるという事も無いと思うがな」
「……いいえ、『深緑』をどうこうというのはまた他の話ではないでしょうか」
 オルレアンの言葉にファレノプシスは頭を悩ませながら紡ぐ。
「私達は人との交流を断たない。妖精郷が危機に瀕した際に、その手助けとなる外の人々を邪険にしないからです。
 ですが、深緑の『門』を開けば、深緑を襲う未曾有の危機に妖精郷がさらされる可能性がある。私が門を閉ざしたのはそうした理由からです」
 オルレアンは頷いた。ファレノプシスが『女王』として国を守る為に下した判断だ。
「ですからあの門は『深緑を捨てて、他の人間と交流せよ』としたものではないかと考えました」
「……ははあ。深緑意外と交流をしイレギュラーズの力を借りられるようにしておけば、妖精郷の危機には助けがありますしね。
 確かに其れは捨てがたい判断です。うーん、ブルーベルをとっ捕まえて『そうなの?』って聞きたいくらいですね」
 しにゃこは『うぐうぐ』と唸った。悩ましげな彼女に頷いたファレノプシスは何処か暗い表情をしていた。
「それでいいのかな」
「……はい?」
「だって、女王様だってこのチャンスを広げたいって……そう思ってるからこそフロックスさんを送り出したんじゃないの?
 だから女王様が途惑っている理由を教えて欲しい。躊躇することがあれば、私達がなんとかするから」
 花丸は沢山の想いを背負ってきていると胸を張ってそう言った。助けたい人が居る。
 ルカも頷いた。アレクシアの家族――そして、彼と共に冒険をする幻想種の少女の故郷でもある深緑を救いたいと願っているのだから。
 ルカがアレクシアを促せば、彼女は緊張したように言葉を紡ぐ。
「知っての通り、今深緑には何か異変が起こってる。それを調べるために、ヘイムダリオンを使わせてほしい。
 私は……深緑にお母さんもお父さんもいるの。それに、必ず助けると約束した大事な友だちも……他にも良くしてくれた人もたくさんいる。
 だから、一刻も早く異変の原因を調べて、みんなを助け出したいんだ!」
 どうかよろしくお願いしますと頭を下げたアレクシアにファレノプシスは目を伏せた。


「契約内容、もう一回聞かせてもらっても?」
 問いかけるイーリンはファレノプシスの口からちゃんと聞きたかったのだ。
「……もう二度と、この国を危険に晒したくはないのです。
 英雄『ロスローリエン』と『エレイン』のように、私は妖精達を、妖精郷を守り切ることは、屹度できません」
 誰かを危険に晒すのならば、其れが一番少ない方法を選び取れ。それが女王としての在り方であるとファレノプシスは声を震わせる。
「馬鹿ね」
 揶揄うようにオデットは笑った。
「一人で背負い込まないでよ。私の無茶しいの友達だって『無理はしないでくれ』って言って居た。私だって同じ考えよ」
 その上で、ラダ提案した。
「私達としては妖精郷から深緑を目指す他手段がない。フランツェルとイルスの話を聞く限り、茨をこじ開け出入りするのは無理だ」
 妖精の門(アーカンシェル)は妖精郷への直通通路だ。
 その道を開いてくれとはとてもじゃないが言えない。だが、アーカンシェルを利用せずとも妖精郷に『回り道』できる大迷宮ヘイムダリオンを使用させて欲しい、と。
 勿論、ブルーベルの発言をラダは忘れてはいない。

 ――大迷宮ヘイムダリオンの内部も『イレギュラーズの侵入を防ぐ為』にギミックが仕込まれてる。
   だから、無駄に死傷者を増やしたくないなら深緑には踏み入れないで欲しい。約束してくれるなら、外への道を繋いでやる。

 オルレアンの推測では『魔種はイレギュラーズが深緑に入り込む』可能性を理解していて妖精達に助け船を出したのではないか、と。
 ならばヘイムダリオンの内部を理解した上でやりとりするべきだ。ギミックを承知し、その危険性を理解した上で挑まなくてはならない。
 妖精女王とて無用な犠牲をイレギュラーズには出したくはないだろうから。
「貴女も妖精達も、深緑に行ったきりの仲間や深緑の友人達の安否は気になっているだろう?」
「……はい」
 ファレノプシスは小さく頷いた。
 深緑に遊びに行ったまま帰らぬ妖精達。妖精郷のために尽力する深緑の民。
 それは、関係ない人かもしれない。ファレノプシスにとって、不安であれども『妖精郷と天秤に掛けて今危険を冒すべきかどうか』の判断も難しい存在なのかもしれない。
 胡桃にとっては見過ごしても些細な出来事の一つであったかもしれない。
 だが、斯うして此処までやってきたのだから『深緑』という国とその他身のために戦っても良いと、決意したのだ。
「女王様に心配な事があるなら、なんだってするよ。妖精郷に危険が及びそうなら、生命を賭けてでもみんなを守る! だからどうか、お願いします!」
 母も、父も。領主様も。
 沢山の人たちが、囚われている。助けたいという想いを胸に、アレクシアは不安を抱きながらも此処までやってきたのだ。
「御同胞が被害に遭われているのも心配でしょう。此処を通して頂く代わりに、御同胞を必ずや妖精郷へ。荒事はアタシ達の仕事です。どうか、信じて頂けませんかね」
 彩嘉の提案にファレノプシスは「私は『妖精郷』の為に深緑を斬り捨てようと考えました。その保身を許して下さるのですか」と声を震わせた。
「それって、妖精の為だったんだよね? 良いんだよ。背負っている物が違うのは分かるから。
 ……私達は今、此処に来れなかった皆の想いを……助けたいって想いを背負ってるから、女王様にお願いしたいんだ」
 屹度、フロックスに『ラサと交流させて欲しい』と言わせるのは簡単だった。そう言わせずに、道がある事を示し、情報収集にだけフロックスを送り出したのはファレノプシスにも『深緑を救うチャンス』であるという考えがあったはずだ。
 真摯に告げる花丸にファレノプシスはぐ、と息を呑んだ。
「まあまあ! 大丈夫です! なんかあっても我々が全部なんとかしちゃいますから!妖精さん達は見てるだけでもOKです!
 ウチらお人好し多いですしなんとかなりますよ! しにゃも可愛い妖精に何かあるのは我慢なりませんし。ね?」
 花丸やルカがなんとかしてくれると言いたげに微笑んだしにゃこ。
 しにゃこの頭をがしがしと乱雑に撫でたルカは真っ向から妖精女王を見た。
 途惑い、そして不安が滲む。それは仕方が無い事だ。
 時間を掛ければ他の道が、解決方法があるかも知れない。『かも』も『たられば』も必要なかった。
 そんな事を考えている時間は少しも残されていない――不安そうに家族を思い浮かべた『いい女』やアレクシアを思えばこそ、ルカは頭を下げることも厭わなかった。
「妖精郷を危険が襲うなら絶対になんとかする! 直接力を貸してくれとは言わねえ!
 ヘイムダリオンを通してくれるだけで良いんだ! ――頼む……! 俺に仲間を助けさせてくれ……!」
 ヘイムダリオンを使用することで、妖精郷に危機が及ぶ可能性は否めない。それでも『その道を諦めて遠い未来に危機が訪れる』可能性もあるのだ。
「直通通路の『門』は開くことは出来ません。
 ですが、ヘイムダリオンならば……あの内部にも深緑から此方を目指すモンスターが存在しているかも知れません」
「それが此処に到達する可能性は?」
「現在はありませんが――『将来』にどうなるかは」
 イーリンは『ヘイムダリオンの掃討を請け負う』と提案した。妖精郷への危害を出来る限り排除して、それを道として利用するのだ。
「後の不安は俺たちがなんとかする。特異運命座標が深緑に向かうための拠点の一つ、魔種からお前達を護る護衛にもなる」
「宜しいのですか」
 ファレノプシスにオルレアンは頷いた。
『大迷宮ヘイムダリオン』を越え、アンテローゼ大聖堂にまで到達することが出来れば――ファルカウは目の前だ。
「……ヘイムダリオンの攻略と、アンテローゼ周辺の攻略。やることは多くなるけれど、それでも攻略の足掛かりになるなら――!」
 任せて欲しいとアレクシアは堂々とそう言った。
 常春の都、美しき妖精達の春花の世界。
 この地を出れば極寒の冬が待ち受けているかも知れない――それでも、冬を越え、征かねばならない。
 春風を届け、季節を置き去りにした儘とする『冬』を終わりにするために。
「……それに俺は目覚めたばかりで何も知らない……ついでに、お前達の事を教えてくれ」
 これから、護ると誓うから。オルレアンの言葉にファレノプシスは頷いた。
 不安ばかりの心を照らした希望。英雄『ロスローリエン』と『エレイン』も勇者一行を見て、こう思ったのだろうか。

 ああ、『外』の世界は怖いことばかりではないのだ――と。

成否

成功

MVP

オルレアン(p3p010381)
特異運命座標

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした!
 妖精郷はとても平和。妖精郷への門は妖精女王自らが閉ざした物だとイレギュラーズに語っていました。
 彼女達を護るという約束は屹度、一人で抱え続けた女王にとっては何物にも代えがたい喜びであったでしょうね。
 MVPは女王にとって最も、安心できた言葉をくれた貴女に。

PAGETOPPAGEBOTTOM