PandoraPartyProject

ギルドスレッド

Wiegenlied

【1】Eingang

【唄う鵯亭】

幻想――”レガド・イルシオン”某所。
繁華街の大通りに店を構える大衆酒場である。
気っ風の良い老婦人と其の息子夫婦が切り盛りする繁盛店だ。
地元民よりは冒険者達が情報交換の場として利用している事が多い。

1階は酒場、2Fは宿屋。
早い、安い、美味い。

今日も、眠らない街が湧いている。

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(暮れ頃。酒場の一角、カウンター席の隅に腰掛けているのは宵色で全身を覆った小柄な影だった。其の体格は定かではないが、身体どころか顔まで隠す其の姿は、お世辞にも場に溶け込んでいるとは言い難い)

はぁ。

(店内の多くの男達が酒を呷り、”そう”あるべき姿で怒号や笑い声を交わしている中。誰と連むでもなく、影はジョッキを満たす果実水に口を付けた。未だ、酒を飲める年齢では無いのだ。律儀に守る必要性は感じないが、酩酊しては情報収集などまともに出来る訳が無い)
(果たして此の中に、”同胞”が何人居るものやら。諦め半分に冒険者達の噂話に耳を傾け乍ら、影は小さく息を吐いた)
(酔っ払い達は自分たちの話に夢中だったし、其処に自分が介入する事はまず無いと思っていた矢先の出来事だった)
(横から掛かる声に肩が僅かに跳ねる。予想もしていなかったのだ。華美に着飾った娼婦の類でも無い、常連客でもない自分に、店主以外が声を掛けてくるなんて)

……目立つ、だろうか。

(半ばをフードに覆われた顔が男を見上げて、直ぐに逸れた)
(大柄な男だ。血の様な緋の双眸に見下ろされれば、影は居住まいが悪そうにフードを目深に被り直し)

他所から来たんだ。とは言っても、”旅人”の類では、ないのだけれど。

(ふと気付く。視界の端に一瞬映った”其れ”の存在に思わず二度見した)
(男の頭から顔を覗かせる、毛に覆われた尖った耳。ヒトではない、しるし)
(イヌ科だろうか? 僅かに首を傾ぎ乍ら。”人間”以外との面識が未だ少ない影は、物珍しさから不躾に視線を送り掛けて、止まる。――流石に失礼だ。小さく頭を下げて謝意を示し)
(少し声が大きかっただろうか。僅かばかり跳ねる肩に、そんなことを思う。)
(立つ私を見上げるようにしたその人と、僅かばかり目が合う。照明が反射したそれは、海のようだと思えた。)

あぁ、室内でそのように目深にフードを被っていればね。

(苦笑しながら、言葉に応える。)
(声と体型から察するに女人だろうか。わざわざそうも体を包むように外套を着こんでいるのだから、何かしらの訳があるのだろう)

あぁ、ではウォーカーではなく、トラベラーといったところかな

(どこから来たのか、と聞こうとして、その言葉を喉元でとめる)
(あまり女人に質問をするのも失礼か、という考えと……それが何か彼女の事情に抵触するかもしれない、という迷い)
(瞬考してる間に、ふと、彼女の目線に気付く。)

獣種に会うのは初めてかな?狼の血筋でね。

(微笑みながら、彼女の目線に耳が来るようにしゃがみ込む)
(すなわち、私の方が少し下から見上げる形になった。)
(女か、変声期を迎えていない少年か。顔の全容が見えなければ何方かに絞られる)
(顔を隠したいなら仮面でも被れば良いのだが、それはそれで胡散臭さが増すような気がして、こうしてフードを被っていた。が、これはこれで目立つのか。頭の片隅で、そんな事を考え乍ら)

……故郷は此処よりも、窮屈だったから。

(曖昧な返事で以って暈す。嘘は吐いていないし、強ち間違ってもいない)
(獣種。話半分に聞いた事はある。街中で幾人かとすれ違った事もあるが、間近で見るのは初めてだった)

狼。……待って。そ、んな。つもりじゃ。

(ない、と。屈んでくれた事に対して、慌てて制止しようと伸び掛けた手が宙を彷徨った)
(目前にあるふわふわした物体をつぶさに観察しようとして、――此の角度では顔を見られてしまう事に気付いたのか、また顔が逸れる)
(なんとも挙動不審だったが、彼が視線を上げていたならば、影の面が一瞬視界に映った事だろう)
(しゃがむと、その人の顔が一瞬だけ視界に映る)
(漆黒の髪と、薄い唇、それだけ見えて、すぐに顔をそらされてしまった)

あぁ、失礼。顔を覗くつもりではなかったのだが……
…あまり人に見られるのは苦手か?

(しゃがんだままくるりと後ろを向き、そして後ろ目に話しかける)
(これで少しでも安心できればいいのだが、そう思いながら)

そういえば、今日はどうしてここへ?
食事をとるだけならば、もっと静かな場所を好みそうだと思ってね。

(そこまで聞いて、そういえば自己紹介がまだだった事に気づく)
(必要な礼儀を欠いていたことに心の中で反省しながら、再度口を開く)

失礼、まだ名乗っていなかったな。
私はラノール・メルカノワ。良ければ貴殿の名前もお聞かせ願えないだろうか?

(もちろん、嫌ならば名乗らなくて大丈夫だ、と付け加え)
(それでも、出来れば名を知り、名を呼び会話をしたいというのが、私のささやかな願いなのだ。)
(直ぐに降ってきた謝罪に、慌てて居住まいを正した)
(いきなり顔を背けては、明らさまに顔を隠しては、失礼に当たるのでは無いか、と)
(思う迄は良いが、行動が伴わない。ふるふると小さく頭を振ることで、自身は気分を害していない事を伝えようとする事が精一杯だった)

自分の顔が、……好きじゃ、なくて。

(だから、咄嗟に避けてしまったのだと。申し訳無さそうに声を、顔を上げ掛けて、)
(対面したのは男の後頭部だった。小さい子どもでもあやすようなその所作に、ふ、と笑みに満たぬ吐息を零して)

……覗き込まれなければ、平気。

(隣に座ったら、と。空いている席を軽く引いて示し)
(どうしてと。重なる問いには僅かに首を傾ぎ)
(逡巡する事暫し。影の唇から紡がれたのは、”大規模召喚”――未だ其の日から日の浅い、世界を揺るがす事象の一片だった)

ここに来れば、”特異運命座標”のひとりやふたり、居るかと思って。

(そうして名乗る男の目を、半ばを隠した蒼が漸く正面から見据え)

……夜鷹。皆、そう呼ぶ。
(端目に小さく頭を振るのが見える。それが彼女なりの私への気遣いだという事はすぐに理解できた)
(次いで紡がれる言葉に、小さく首を傾げ)

そうなのか?私は素敵な顔だと思うがね。
……あ、いや、他意があるわけではなく。

(考えなしに言った言葉が、まるで街で見かける軟派な男のそれと似たようなものだという事に気づき、両手を振って注釈をする)
(とはいえどう伝えればいいものか……そう……)

…ただ、綺麗な瞳をしているな、と思っただけさ。

(結局、思ったことを素直に口に出すしかできない単純な脳みそなことを恨む)
(覗かなければ平気、という彼女の弁にはほっと胸をなでおろしつつ、引かれた席に座らせてもらう)
(覗かないように、されど失礼のないような姿勢を取るにはどうすればいいか、と地味に試行錯誤する私は、傍目に見れば変な動きなことだろう)
(少しの後、結局背筋を伸ばして彼女のフードの上から向き合う事にした)
(綺麗だ、と思った蒼の瞳が、半月となって私を見据える)
(夜鷹、聞きなれない言葉だ。皆が呼ぶというのなら、あだ名の類なのだろうか)

では、夜鷹殿。貴殿の考えが正しいことは、私が身をもって証明できそうだ。

(にっと歯が見えるように笑って、一層姿勢を正す)

先ほど省いたことも併せて改めて自己紹介するとしよう。
ギルド、ローレット所属、”特異運命座標”のラノールだ。
……よろしく頼む。

(丁寧に、一礼)
(そして頭を上げて、微笑んだ。)
(褒め言葉を素直に受け取れない厄介な性質であるらしく、影はフードの下で眉を顰めた)
(尤も其れは拒絶や嫌悪の類ではなくて、純粋に戸惑っているだけなのだけれど)

……。

(何方の親にも似なかった此の顔は、色彩は。影にとって恥ずべきものであるらしかった)
(色素の飛んだ碧眼がフードの下ですうっと細まって――革手袋に覆われた両のてのひらで覆い隠された。見てはならぬと、主張するように)

氷のようだと、ヒトは謗る。

(言葉尻は強いが、声音が伴っていない。不自然に震えた声を気取られないようにするのが精一杯だった)
(要するに、褒められ慣れていないのだ。褒めてはならぬと微かな声で告げ乍ら、容易く染まった頬を隠す様にかんばせを俯けて)
(ローレット。特異運命座標を支援する、此の一角では最も名の知れたギルドの名だ)
(丁寧に名乗りを上げる男の姿を、暫し呆然と眺めて)

驚いた。
噂話を聞ければ良いか、ぐらいの考えだったから。

(張本人が話し掛けて来るとは思わなかったと、緩く頭を振り)
(少しの沈黙の後、湿した唇を震わせ乍ら。恐る恐る問いを紡ぎ)

……あなたにとって。大規模召喚は、幸運?
(軟派な言葉を掛けてしまった後の沈黙ほど気まずいものはない)
(冷や汗が流れる、をまさに今体感している状態だ。)
(やがて、彼女はその両手でその目を隠した。次いで発せられる言霊)

そ、そうなのか?それは……私とは価値観の違う方々なのだな

(どうにも彼女の言葉にこもる感情が読みがたい。怒っているわけでは…ない…?)
(だが、ごくか細い声で褒めるなと釘を刺されてしまった。やはり怒っているのだろうか)
(ちらりと見えた紅の色がどういう物なのか。私には分からないのだった)
(自己紹介の言葉に、視線が刺さる)

おや、ならば君は幸運だったな。…いや、相手が私なのが幸運なのかはわからないが。

(しばしの沈黙。そしてその後に投げかけられる問いに、顎に手を当てる)

……中々難しい質問だな。あまり深く考えたことはなかった。

(少し目を閉じ、考えに耽る。)
(…所詮、私の頭だ。大層な答えなど用意はできないが……)

…私はこう見えて傭兵でね。戦場で過ごす時間が多いんだ。
誰かを傷つけ、それでその日を生きる……あまり褒められた生き方はしていない。
………だから、幸運かどうかはわからないが、嬉しかったな。
私でも、何か、間違いなく誰かの、世界のためになることができるのだと、そう思えてね。

(少し大げさかな、と恥ずかしさをごまかすように笑い、頬を掻き)
(無感情無感動無表情という訳では無い。割とフードの下で百面相をしている。のだが)
(如何せん表に出す事を得手としていないらしく、フードを目深に被り直す事で誤魔化した)

怒っていない。……褒められ慣れていないんだ。ひとと話すことも。

(田舎者だから、すこしばかりおかしくても気を悪くしないでほしいと口籠りつつ)
(問いに対しての黙考を邪魔しないよう、目線を自分の拳に落として)
(やがて返る言の葉を頭の中で反芻する。傭兵。冒険者然とした姿に体格を見れば納得も出来た。成る程、彼の背負う其れは得物だったのか)

いきなり世界を救えだなんて、唐突にも程があると思ったけれど。
そう。……そうなの。

(生きる意味を。戦う理由を。天から与えられた事を不幸だと嘆く者も、きっと少なくは無いだろうけれど、)

私も、うれしかった。
何かのために、出来ることがあるって、言われて。

(生きていても良いのだと、赦されたような気がして。微かな声は、獣の耳を持つ彼には届くだろうか)
(分からなかった彼女の感情を、彼女自身から聞くことができた。)
(それに内心安堵しつつ、微笑んだ)

そうか。実は怒らせてしまったかと怯えていた。
大丈夫、悪い気分にはなってないよ。楽しい会話だと思っている。

(子供をあやすような言葉になってしまっただろうか、とちょっと思いつつ)
(返答の後の、小さな呟き。獣の耳を持っていたからこそ聞こえるほどの、か細い声)

……?

(言葉の意味を理解できずに首を傾げる)
(否、正確には、その発言に至る考え方というべきか。)

……生きるのに、誰かの赦しが必要なのか?

(彼女からすれば間の抜けた疑問だと感じるだろうか)
(それでも、なんとなく、口に出さずにはいられなかった)

…人は皆、自由なものだ。もちろん法や道徳という縛りこそあれど…
なにをしてもいいし、どう生きてもいい。ましてや、生きる事そのものなどもってのほかで……
…あ、い、いや、別に君の考えを否定するわけではないのだ。ただ……そのような考え方は、悲しいなと……

(思えば、この考え方はラサ出身のもの特有のもので、他のものは彼女の考え方が一般的なのかもしれない)
(そう考えると今のは余計な口出しだっただろうか?そう頭によぎる)
(結局、すまないと謝罪の言葉を出して、耳を垂らすのだった。)
(たのしい。其れは其れでどうなのかと言った体で首を傾ぐ)
(愛想の良い女でもないし、口の上手い人間でもない。揶揄われているのだろうかとも思ったが、不快では無いと言われているのだから、気にしないでいるとしよう)

……。

(問い掛けに、落ちる言の葉に。覆われた視界の中で眉を顰めた)
(何方の親にも似ない顔。暗い、昏い宵の髪。其の癖瞳の色と来たら、湖面の薄氷のように色素が薄い。日に焼けぬ皮膚が恨めしい。自分を構成する、何もかもが厭わしい)
(長年蓄積され押し付けられてきた”普通”、”人道”、”正義”。影が影を纏うに至る迄。引き結ばれた唇を、そろ、と開き)

”悲しい”と。言ってくれる人に出会えたことの方が、今の私にとっては幸運なのかもしれない。

(其れが一時の同情だったとしても。”君は自由だ”と言って貰えたことは、少なくとも自分にとっては得難い赦しだったのだ。ありがとう、と。か細く告げ乍ら頭を下げ)
(再びの沈黙。やはり余計なお世話だっただろうか?)
(正直、自身もそこまで会話が上手い方ではない)
(知らぬうちに何か気に障ることを言ったかもしれないと、耳をぴくぴくさせる)
(しかし、数瞬の後に帰ってきた言葉は、少なくとも攻撃的なものではなかった)

や…私は当然のことを……いや…あー…どういたしまして?

(否定するよりも、今は素直に受け取ったほうが良い気がして、言葉を変える)
(グラスを口に運ぶ。氷が器の中で滑り、ガラスとぶつかる音がかすかに響く)
(こういう時、どのような話をするべきなのだろうか。自身の経験不足が恨めしい)

…そ、そうだ!せっかく大きな街にきたのだ。何かやりたいことはないのか?
仕事以外で…そう、たとえば食べ歩きだとか……娯楽だとか……
私の方が少しばかり長くこの街にいる故、何か力になれるかもしれん!

(閃いたとばかりに声を上げる)
(実際の所当たり障りない話題であることに、獣人は気づかない)
(当然の事なのだと。其れこそが、影にとって”普通”では無かった)
(空中庭園に召喚された、大規模召喚の日。自身にとって、はじめて目にした”亜人”達。自身と同じ、”ニンゲン”では無い存在。目前の男が、異世界、或いは混沌中から集められた”彼ら”の存在が。自分にとってどれだけ救いとなったことか。其れ故、影は男が名乗りを上げた時、戸惑いよりも安堵したのだ。人慣れしていないが故の、不器用な受け答えばかりしてしまうけれど)

私も、同じ。
数多の運命を持つ者が集められた、あの日。あの場所にいた。
だから、……知りたかった。聞いてみたかった。

(神託の少女が齎した”お告げ”を、あの場に居た者達はどんな思いで聞いていたのかを)
(どういたしましてと。素直に礼を受け取ってくれた男に小さく頷きを返し)
やりたいこと?

(唐突に降ってきた問いに、影の頭が緩く傾いだ)
(”やるべきこと”は見つかったが、”やりたいこと”となると話は大きく変わってくる。食べ歩き。娯楽。何れもとんと縁の無いものだったから、腕組みをして逡巡すること暫し)

……”お菓子”は、また、たべてみたいと。思った。

(”特異運命座標”達が多く集まる場で、ひとりの少女に貰った紅玉の様な甘露。あれは確か――)

あめ。飴玉と、言っていた。
果実の味がするのに、果実よりも甘い、不思議な玉だった。

(果物以外の甘味を口にした事が無かったので大層驚いたのだと、訥々と語り)
(紡がれる言葉を、仕草を見る、聞く)
(この長くない時間の中、少なからず分かったことがある)
(男と見まごうような服装、隠した顔、静かな口調)
(影のような外見に、人との関わりを避けていそうな所作に気を取られていたが)
(……存外、彼女は”普通の女の子”らしい。)

はは……中々可愛らしい望みだ。
そうか、そうであるならば……そうだな……生憎と菓子の売っている場所まではまだ知らないが……
仕事が斡旋されるまではまだ時間もある。どうせならば探してみてはいかがだろうか。

(せっかくのやりたいこと、やらねば損だろう?と微笑みかけ)
(自信が自由なのだと、身をもって体感してもらいたいという気持ちもあった)

…もし差し支えなければ、私も探すのを手伝おうか?
や、嫌ならいいのだが…何分、ここしばらくはやることがなくてね…ありていに言って、暇なのだ。

(などと、苦笑いをしながら提案しつつ)
(目標も無い。指針もない。当て所無い旅を続けて来た中で。驚き続けて来たのは、”食文化”だ)
(調味料を殆ど使わない豆のスープ。硬い硬いパン、あとは屑野菜)
(質素どころではない食生活だった影にとって、外の世界の食事は驚きの連続だった)

味気ない食事ばかりだったから。全部、珍しくて。

(成る程、ヒトにはそう言った楽しみもあるものかと小さく頷き)

……あなたが?わたしと?

(次いで齎された提案に、ぱち、と瞬きひとつ)
(誰かと共に行動をするなんて考えもしなかった)
(けれど、運命を共にする同胞らと肩を並べて仕事をする必要性もこれからは出てくる筈だ。其れを思えば、”ヒト慣れ”する為にも男の申し出は願ってもない筈なのだが、)

”男”が、買いに行っても。笑われないだろうか。

(男二人連れで甘いもの探し。自分は指をさされることに慣れているけれど、彼は?)
(自分のせいで迷惑を掛けてしまうのではなかろうかと、伺う様に見上げ)
国によって文化も違うからね。旅をするときの楽しみの一つだな

(うんうんと腕を組みながら頷く)
(私の提案に、フードの下でおそらくきょとんとしている顔)
(やはり嫌だっただろうか?と考えたが、どうやら違う点についての心配だったようだ)
(上へと傾くその首に、はははと笑い声で応対し)

君は君の欲しい物を欲し、私は私のやりたいことをやるのだ。
それに後ろ指を指す輩の事を考えるなど、時間の無駄だとは思わないかい?

(出身柄、そして職業柄の、ある種豪快ともいえる考え)
(”自分は自分””他人は他人”という確固たる分け隔て)

そのような輩のことなど、放っておけばいいのだよ。
そうして偏見を持つ輩は、このように会話する楽しさを知らぬまま過ごすのだから。
いっそ優越感すら感じるな!

(偽りない瞳で、そう言ってのける)
(よろしくな夜鷹殿、と笑いながら最後に付け加え)
(旅の楽しみだなんて考えた事も無かった。今日を生き延びる事が出来れば僥倖、位にしか感じて来なかった。思えば、同じ年頃の子どもが何を感じ、何を考え、何を夢見て生きているのかだって、考えた事が無い)

楽しみ……。

(戸惑う様に伺う視線は逸れぬ侭。男の笑い声に僅かに肩が跳ねて、反射的に身を隠そうと動き掛けた体が止まる。男は負の感情を向けている訳では無いのだと理解した故に)
(放って置けと。自分は自分だと。呆気なく言いのける男の言の葉は力強い。躊躇いがちに、恐る恐ると云った体で。小さく小さく、一度だけ頷きを返し)

私は、ヒトと話すことに慣れていないけれど、
……その。なるべく、喋る。

(おかしなことがあったら、言って欲しい。添えて、影はカウンターへ向かい直した)
(気まずいのである。正面から見据えられる事にも、慣れていないのだ)
(極僅かな首の動き、だがそれは紛れもなく許容の証)
(その光景に笑顔を浮かべ、彼女の言葉に耳を傾ける)

あぁ、無理はせず……されど、頑張るといい。

(身体を前へ向ける彼女に倣って、自身もそうする)
(話すのが苦手なのならば、こちらから何か話を振るべきだろう)
(失礼にならない程度に、彼女の全体像を垣間見る)

……そういえば、服は買わないのかい?

(ちらりと、彼女の衣服の綻びに目を配らせる)
(別段、それに対して何か文句があるわけではないのだが)
(だが、女人が綻びた衣を身にまとっているのもどうにも気になる)
(まぁ、彼女は女人扱いはしてほしくないのかもしれないが)

今後は色々な所に赴くことにもなるだろうし、服もいくつかあるといいやもしれんな。
どうせなら綺麗な物の方が、心も踊るというものだ。

(無論、懐が許す範囲なら、ではあるが)
(なるべく喋る。宣言はしたものの、其れの何と難しい事か)
(元より誰かと会話をする機会が無かった影は”当たり障りの無い会話”と云う物の何たるかを理解していない。頭の中で少ない言葉の引き出しを漁っていたら、)

……。

(当たり前のように落ちてくる言の葉に目を瞬かせた)
(”ぼろ”を身に纏っているのは、態とだ。肌を極力露出せず、然れど”金を持っている”風に見せない為の)
(氷が半ば溶けて薄まった果実水を飲み下せば、幾らか乾いた喉を潤す事が出来た)

洗濯はしているから、不自由はしていないけれど。
……これがないと落ち着かないんだ。

(これ、と言い乍らフードの端を軽く摘んで見せる)
(自分と外界を隔てる一枚の壁。此れがなければまともに喋る事も出来ないのだと、面を俯け)
(杯を傾け、飲み物を嚥下する様を眺める)
(その後に続く説明に、なるほどと首を縦に動かし)

そうか、いずれはそれがなくとも話せるようになればいいのだがね。
…フードの代わりに帽子を被ってみるのもいいやもしれん。いや、だがそれだと頭全体は覆えないか……

(鍔のある帽子ならば、少なくともフードと遜色なく顔は隠せるだろう。)
(まぁ、まずは人との会話に慣れるのが先か、と笑いつつ)
(彼女がそれを受け入れてるというのならば、あえて無理強いする必要もないだろう)

お菓子のお店に入るときだけは、私の外套を貸そうか?大きいからその上から羽織れるだろう。
そのままだと冷やかしだと思われるかもしれん。

(金を持ってることを示せば大丈夫であろうが、それでも最初は冷たくあしらわれる事もあるだろう)
(私だけなら構わないが、流石に彼女も冷たく対応されるのを見るのは居た堪れない)
(故に、襟に毛皮の付いた外套を指さして提案した。)
(必要無いとにべもない言の葉を投げ掛けるのは憚られた)
(好意的なニンゲン。肯定的なニンゲン。其の何方も知らぬ影は、折衷案を柔らかく放ってくる男にどう対応すれば良いのか、わからなかった)
(確かにぼろきれを纏ったままでは女子供が集まる華やかな店には不釣り合いだろう。ううん、と小さな唸り声を上げて)

……それなら、街に出掛ける服を買う。
あなたの外套では、裾を引き摺って汚してしまいそうだから。

(上背だけでも軽く頭一つ分は差があるであろう男と自分では体格が違い過ぎる)
(それならばせめて、彼が恥をかかない程度には身形を整えよう。顔の隠れるものを、何か――)
(――どすん!)



(自分の隣、ラノールの座っている方とは反対側に位置する席にどっかりと大柄な男が座り込む気配に小さく、文字通り飛び上がった。幸い飲み物は空っぽだったのでカウンターを水浸しにする事は無かったが)
(席の間隔はそう広く無い。大柄な男二人に挟まれれば影は其の身を更に小さく縮こめた)
(他にも席は空いているだろうに、何でまたこんな隅の席に。恐る恐る目線だけを上向けて、)

あ。

(暮色の髪に栗色の瞳。鼻筋を通る一文字の傷。声がでかく、体がでかく、豪快に笑う男。街角で出会った時の印象と若干異なる振る舞いに、記憶が合致する迄に時間がかかったが、そうだ。確か――)

えと、……こんばんは。

(力強い握手と眩すぎる笑顔ばかりが記憶に残っていて、彼が周囲に何と呼ばれていたかが思い出せない。伺う様に男の顔を見上げて)
(とりあえず、挨拶)
(「邪魔するぜ」そう一言発して“あの目”をしたフードの隣に座ったが、その実、先のことは何も考えちゃいなかった)
(ま、思い立ったら先に体が動いちまうから仕方ねぇか)
(だが…ほら見ろ、案の定ビビってやがる。どうすっかな…。幸い人違いではなかったが、このままじゃこいつだけじゃなく隣のブルーブラッドにまで不審に思われちまうぜ…。)
(………)
(ああ!色々考えるのはメンドクセェ!)
(そう思い立つと、俺は挨拶すんのも忘れてフードの“あの目”を凝視しようと、ズイッと身を乗り出した。)

(……何か思い出すんじゃねぇか、って思って必死だったのさ。)




(後になって振り返るとこりゃ完全に愚策だったな。傍から見りゃ強面の男がいきなりメンチを切り始める。女に。“最悪”だ。)
(仕方ねぇだろ、この時は“まだ”知らなかったんだからよ。)

(ああ、そうだった。策なんてなかったな、最初から。)
(唸り声の後の彼女の言葉に、うむ!と返事を反す)
(若干気を遣わせたやもしれんが、まぁ、綺麗な服を持つこと自体は悪い事ではないだろう)
(と、考えてるところに。どすんと、反対側に座る大きな影)
(私とそう差異のない体格の男が、気づけば隔隣に座っていた)
(彼女の知り合いだろうか?と首を傾げつつ、二人の顔を交互に見る)
(………見つめ合っている……いや、睨みつけている……?)
(だ、大丈夫なのだろうか。目を覗かれるのは苦手なのでは?)

え、えーっと……お、お知り合いだろうか?

(余計なお世話かと思いつつも、少し首を突っ込む)
(今の私はさぞ困った顔をしていることだろう)

……あ!私の名はラノール・メルカノワ。こちらの……えー…男性とは先ほど知り合ったばかりで少しばかり話に付き合ってもらっていたのだ。
貴殿の名前を聞いてもよろしいだろうか?

(慣れない方便に少しどもりつつ、まずは自己紹介が先決だと話を振ってみる。)
な、何、

(返事は無い。代わりとばかりに身を乗り出した傷面の男に身じろいだ)
(何だ、何だ。自分は顔を晒していない。忌々しい、尖った耳だって晒していない。粛清されるべき、唾棄すべきものでは無い筈だ。少なくとも、”此の国”では)
(困惑と僅かな怯えを滲ませた薄氷の双眸と一瞬だけ視線が重なり――宵に覆われた)
(鼻先までフードを下ろした影は、反対隣から聞こえる気遣わしげな声に、緩々と頭を横に振り)

街で、一度。言葉を交わした、たぶん。
……名前は、知らない。

(記憶違いで無ければ、此の男は”特異運命座標”へ向けた御触れを掲げる掲示板の周辺で出会った男だ)
(ただ、記憶の中での男は快活に笑う人好きする青年だったように思う。少なくとも睨まれる覚えは無い)
(諸々説明を端折った影の紡ぐ音は、獣種の男に誤解を招いてしまうかもしれないが)
(カツ、と静かな、然れど高い靴音。酒焼けした男達の声の合間を貫く凛とした声)
(振り向けば其処には、場に相応しいとは言い難い、所謂女中の姿をした女の姿が在った)

……わ、たし?

(”あなた”、と。呼ばう声に恐る恐る問いを返し、息を飲む)
(皺の無い肌を覆い隠す女中服。刃を思わせる琥珀の双眸に、艶やかな黒い髪。細身なれどしなやかな体躯は一分の隙も無い。女は確かに”うつくしい”存在だったが、其のうつくしさは”女”と云うよりも、”武器”の様な冷ややかさを持っていた)

えと、

(現状は自分にとって”乙女のピンチ”であるか。女の直球な問いに既に一杯一杯な影の頭に更に混乱を重ねた)

乙女ではない、けれど、……こ、困っては、いる。
(睨め付ける男の意図は判らなかったし、人とまともに会話を試みた事など数える程しかない。喧嘩を売られているのだとしても此れだけ体格差のある相手と真面に打ち合いなんてしたくないし、抑、店の中で暴れたりしたらせっかくの情報収入の場から出入り禁止になってしまう)
(何より――影は純粋に恐ろしかったが為に、手も声も碌に出せなかったのだ。他者からの”視線”が、何よりも恐ろしい。指差す蔑視が。明け透けな嘲笑が)

(尤も、傷面の男に其処までの悪意は、きっと無い筈だろうけれど)
(覗き込んだ先に“あの目”はあった。だが、視線が合ったのはまた一瞬だった)
(そんなんじゃ何もわかんねぇよ!)
(と、口に出そうになった時、獣種の男が困惑した表情で間に入る)
(この男、フードと並んでいるせいもあってかやたらと厳つい。傭兵風の出で立ちでありながら俺に問いかける言葉は紳士的だ。男はそのまま俺に自己紹介をした)
(ラノール・メノカノワ…言いにくい)

(ここで初めて状況に気づく)

(フードを目深に被り、俺の名を知らないと言う男。困惑した表情のラノールって奴)
(またやっちまったよ。碌に反省するでもなくそう心中で呟く)
(つーか名前くらい覚えてろよ!)
(これまた喉元まで出かかるが何とか飲み込む。俺は馬鹿じゃない。これ以上状況を悪化させるなんてアホだ)

(俺はいつもの調子で名乗った)
俺か?
俺は流しの冒険者、ギリアスだ!よろしくな!

(何も思い出しはしなかったが、心がチクリと痛んだのは気のせいだろうか?)
(精悍な男達と二人に挟まれたフードの人物。縮こまって見えた様子はこちらから掛けた声に対しても、そう変わりはない)
(か細く、途切れ途切れではあるが返事を聞くと小さく頷いて)

なるほど、ピンチではないけれど、困ってはいる。

(乙女ではない、等などは取り敢えず置いておく)
(次はサイドに座っている男性二人を順に見詰め、ゆっくりと声を掛けた)

だそうです、傍目に見ても明らかです。
となれば…

御二方、こちらは混乱、困惑といった状況にあるそうです。
そこで提案なのですが、まずは皆杯を満たし、このカウンター片隅での巡り合わせに乾杯でも致しましょう。
(ちらりと傷の男を見やり)
こうして顔を合わせたのですから、覚える覚えないは今からでも遅くないのでは?

(そう言って、持っていたグラスをそっと傾けた)
(彼女の言葉になおさら困惑する)
(ただ一度顔を合わせただけで、今こうして睨みつけていたという事か)
(喧嘩腰?あるいはナンパ……?いずれにせよ荒事になるのは避けたいのだが……)
(困ったように耳を垂らしているところで、男が快活に名を名乗った)
(先ほどまでとは打って変わってフレンドリーな口調だ。やはりただ知り合いに顔を見せに来ただけだろうか?)
(と、言ったところで現れる女人の声)
(振り向けば、そこには女中然とした人が立っていた)

あ、あぁ、いい提案だ!やはり酒場では飲まねばな!
夜鷹殿もギリアス殿もそれでよいだろう?

(場を収めようと働きかけてくれる女人に内心女神かと感涙する)
(店主に度数の高くない酒を注文し、持ち寄られた盃を手に持つ)
(そうしていつでも乾杯できるようにと、それを掲げた)
(俺が颯爽と名乗ると、そこにはメイドがいた。)
(誰がメイドを呼んだんだ…?)
(俺の頭に?マークが浮かんでいるとメイドは何やらフードと言葉を交わし始めた。何だ、ただの知り合いか、良かった。)
(いや、良くねぇ!この状況ならば明らかにあっちに加勢に来たに違いない…。いや、そもそも俺はここに情報収集を兼ねて酒飲みに来ただけだったんだが…)

(まずいぜ…)

(どうしたもんかと考えあぐねていると、メイドは乾杯しようと言い出した。その提案にラノールは快諾する)
(お、これは良い流れなんじゃねぇか?…よし、汚名挽回だ!)
(とばかりに俺もその提案に乗った)

よ、よし!
何だか知らねぇがとりあえず乾杯しようぜ!

(これで万事解決だろ。めでたしめでたし、俺は安堵しつつ杯を手に持った)

(ん…?そういやあのメイド。俺の考えてることがわかったのか…?)
(メイドが杯を手にする前、俺に発した言葉が引っ掛かり、俺は怪訝な顔で奴を見た)
(影は夜色のマントで全身を覆い、体型も定かではない。覗く拳は革手袋に覆われ、肌の露出はほぼ無い。擦り切れたフードから覗く口元だけが、いやに白かった)

……どうして、見るの。

(そうだ、確か街角でそんな名で呼ばれていたような気がする)
(ラノールとギリアス、二人の男が名乗り合う間に挟まれて、影は更に萎縮していた)
(どうして、傷面の男――もとい、ギリアスは自分の顔を見ようとするのだろうか。見ても面白い事なんて、何一つ無いと云うのに。恐る恐る口を開いて、静かに問うた)
(か細い声は、喧騒に掻き消えてしまったかもしれないけれど)
(居住まい悪そうに縮こまって居たら、次いで聞こえてきたのは女の良く通る声だった)
(――助け舟を出そうとしてくれている?自分に?)

えと、

(空になった自分のジョッキを見下ろして、逡巡すること暫し。一杯だけで帰るつもりだったけれど、此処で逃げ出しても恐らく寝覚めの悪い事になるだろう)
(通り掛かった給仕に恐る恐る声を掛ければ、直ぐに新しい果実水が運ばれて来た)

あの……ありがとう。
私は、小さな村の出で。人とあまり話したことも、なくて。
大きな町に来たのは、はじめてだったから。

(ヒト同士の対話に、慣れていないのだと。訥々と語り乍ら自身を取り巻く三人へ其々頭を下げ)

私は、夜鷹。そう呼ばれてる。
”特異運命座標”を探して、……彼らが何を成したいのか、大規模召喚に、与えられた運命に。何を思うのかが、知りたくて。
ヒトが沢山あつまる、この店に来た。そうしたら、……その。みんなに、話しかけて、もらえた。
(訝しげな視線には慣れている、と言わんばかりにそれらの視線を無視している女は、心中少しばかりの驚いていた)
(乾杯を勧めたが3人共すんなりと賛同した、とすればあながち間違った提案ではなかったようだ)

(男性の一人、ギリアス視線に気付くが一瞥しただけで直ぐに視線を戻す)
(なに、これ程感情が顔に出ている者も多くはないだろう。素直な人物なのだろう、そう思った)

では、わたくしはこちらへ移動しましょう。
(3人座ったカウンターに4人目が上手く加わるのは物理的に難しい。そう判断すると徐に店主の元へ戻って言った)
(何やら話をするとカウンターの中へ入り、3人が座っているカウンター越しに杯を挙げる)
こちらから失礼致します。
そして、名乗り遅れてしまったこともお許し下さいませ。

わたくしはニコ、従僕を生業としています。
(カウンターで隠れて見えないがつっと黒いスカートの端を摘み、お辞儀をした)
(随分とカウンター側が似合って見えるかもしれない)

わたくしは一時の休息と、新たな主人のヒントを求めてこちらへ。
(俺が名乗った直後くらいか?)
(フードのか細い声で「どうして」と聞こえた気がした。その後に続く言葉については聞こえなかったが、その問いの意味するところはわかっちゃいた)

(わかっちゃいた、が…。)

(いつもの俺なら一も二も無く返答していただろう。だが、今回は聞こえないフリをした。なんでだ?)
(俺の行動を明確に説明する言葉が思い浮かばなかったから?それとも俺は何かにビビっている…?わからねぇ…。)

(既にフードに覆われたそいつをチラリと見る)
(歯切れの悪い自分と妙なもやもやが歯痒くて、杯を持つ手にぐっと力が入った。)
(フードを目深に被り、黒色のマントで全身を覆った“あの目”)
(俺の視線に気づいて尚、何を言うでもなく余裕ですまし顔をキメるこの“メイド”)
(二人が順に名乗って行く。夜鷹にニコ。それがあいつらの名前だ。)

(乾杯前の口上ってところか?夜鷹が自らの目的について語ると、ニコもまたそれに呼応した。)
(こういうのは得意だ。ならば俺も、と力を入れ言い放った)

俺は世界を見て回りたい!
そのために冒険者をやってるぜ!

ま…一応カミサマに選ばれた”特異運命座標”ってやつさ。

(俺は正直、選ばれたことに関して快く思っちゃいない。)
(俺は何事も自分の意思でやりたいからだ。人からやらされ、与えられるだけの人生なんてつまらねぇ。)
(そう思って今までやってきたことが、神だか何だかの掌の上で転がされていたと思うとムカつくだろ?そういうことだ)
(夜鷹殿、女中……ニコ殿、そしてギリアス殿と、三者三様に自信の在り方を語っていく)
(良い雰囲気だ。やはり自己紹介は知らぬ者同士の距離を縮めるな。内心そう頷く)
(私もこの流れに乗るべきであろう。ギリアス殿の紹介が終わるとともに口を開く)

では改めて……私はラノール・メルカノワ。特異運命座標に選ばれてこそいるが、本業は傭兵だな。
ラサの出身……と言えばある程度は分かってもらえると思う(自身の獣耳を指し)
まぁ、人の助けになることをたくさんすることが目標だな。この店へは単純に飲み食いに…
そこで夜鷹氏を見つけ、声をかけ、今に至る。

(別に無理に迫っていた訳ではない(つもり)のだと、ニコ殿には一応弁明しておく)
(とはいえ周りから見てそのように見えるというのは由々しき事態だ。今度はもっと気を付けよう)

えー、では……乾杯!

(誰がやっても変わらぬだろうと、音頭を取り、盃を中央へと伸ばした)
(ラノールの音頭に調子を合わせ、周りの連中の杯に自分の杯を近づけ、大声を出す)

カンパーーーイッ!!

(杯をほぼ垂直に傾け一気に酒を飲み干す。)
(喉が熱くなる感覚が走る。)

カーッ!サイコーッ!

(この時既に色々考えていたことを俺は忘れていた。)
(まぁ、細かいことは水…じゃなく酒に流せってことさ!)
(”他所”から招かれた旅人達の存在で、良くも悪くも街の景色が変わったように思う。宿は何処も満室だらけで、今日だって此の店に部屋を取る事が出来たのは奇跡と言っても過言では無い。三者三様の男女の姿をそろそろと伺いつつに)
(人の名前を呼ぶ事に慣れない。其々自身の事を簡単に紹介し合う男女を視線で追いかけ乍ら、乾杯、と音頭を取る声に合わせて恐る恐るラノールの所作を真似てジョッキを掲げた。村の男衆も、こうして酒を酌み交わしていたっけ。そんな時、自分は――)
(記憶の渦に足を無造作に踏み入れ掛けそうになって、慌ててふるふると頭を振った)

……、

(自身の問いに、ギリアスの応えは無かった。聞こえなかったのかもしれない)
(不躾な視線に対する不信感と恐怖心を拭い切る事が出来なかったが、下手に怯え過ぎて舐めて掛かられては此の姿で居る意味が無い。平然を装い乍ら杯を満たす果実水に口を付けた。目線を合わせる事は出来なかったが)

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