PandoraPartyProject

ギルドスレッド

手記

【RP】見知らぬ世界で

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下宿先で朝食をもらい、数少ない私物を手に外へと出た。
今のところのは私は無職で、やるべきこともなにもない。
強いて言えば、この世界についての最低限の知識を得るために、ギルド・ローレットへと足を運ぶことが日課だった。
そうして知ったことは数多いが、正直『特異運命座標』が一体どういう存在であるのか、いまだによくわからない。実感もなかった。

――溜息を堪えて、小さく苦く笑った。

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(“あの日”から、いくばくかの日が経った。私の肺を満たすのは、慣れ親しんだ、あの濃密な森と水の匂いではなく、排他的な小さな村のよそよそしい匂いでもなく、もはや記憶も薄れた美しき都の遠いそれですら、ないのだと。そう理解した)(このままただ嘆き続けていても、無意味であることも。諦めることも受け入れることも慣れている。それでも、理不尽極まりないと苛立つ気持ちを、どう宥めればいいのだろう)
(誰かを憎めばいいの? ――例えばざんげを、もしくはこの世界の神を?)(そうじゃないわ。決して好意的には見られないけれど、憎みたいわけでもないし、憎しみを感じるわけでもないのよ。ただ、どうして私なのかと、私はそう嘆きたいだけ)
……そう、だから。私は、諦めることも、受け入れることも、……慣れているのよ。仕方がないんだわ。(拠り所を失ったこの不安を、切り離され奪われたこの喪失感を。容易く憎しみなどに転換できやしない。だって、そんな瑞々しい心なんて、とうに忘れてしまった)
ああ、だめね。何だかいじけてるわ、私。(軽く頭を振って、湿った思考を切り替える。履き古しの靴が石畳を叩く音を響かせながら、そういえばと、今朝方に下宿先の大家――名をアンナという40歳ほどの女性で、既婚者らしいがご主人の姿を見たことはない。詳しい事情は知らない――と交わした会話を思い出す。この世界における化粧や身嗜みがどうの、という女同士らしい何気ない話の流れだったのだけれど)(――『アンタ、いつもいいにおいがするよねえ。香水?』)
……花の、香りねえ。(歩きながら、自分の髪の匂いを嗅いでみるが、特にそれらしい匂いは感じない。二の腕に鼻を近づけても、これもまたよくわからない。故郷では手作りの洗剤や石鹸にハーブを配合して香りづけをしたりもしていたけれど、そんな香りはとうに消えてしまっているはずだ。下宿先で使っている洗剤や石鹸は匂いの少ないものらしく、アンナが言うには全く別の、花のような匂いが、するそうだ)
(心当たりが、ないわけではない)(なくは、ないけれど)……うーん、そんな、まさかねえ。だって、今までは全然……血も薄れてるはずだし。(私に流れる血筋の一方には、確かにそうした“特性”が備わっている、らしい。けれど、外部と交われば一気に薄れるらしいその特性が、何代も隔てた末端の私の身に、これまで顕れたことはなかった。それが、何故)
考えても、仕方のないことかしら。あとでローレットで相談してみるか……でも、別に困るようなことじゃないものねえ。……香水いらずで、得かしら。損かしら。(そんなふうに他愛なくひとりごちながら、途中の広場で一休みを挟む。下宿先とローレットはそう近いわけではないけれど、一息に歩いていけないほどの距離でもない。ただ、今日はなんとなく、)――……、(瞼が重い。思いのほか、溜息が深くなった)
(広場のベンチに腰を下ろして、目を閉じた。下した瞼の薄い皮膚越しにも、明るい陽射しが感じられる。耳を澄ませれば、木陰のささやきすら聞こえそうな、そんな雰囲気の良い場所だった。馴染みはないけれど、丘向こうの街で見かけた“公園”と同じようなものだろうか)
(駆け回って遊ぶ子どもたちの声。後ろを通り過ぎていく、恋人同士らしき気配。どこからか小さな獣たちが呼び合うような鳴声と、そして乗り物らしき車輪の回る音)
……不思議な世界だわ。(瞼を開けて、咳をひとつかふたつ。どうやら、ここ最近の気疲れが出てきたのかもしれない。故郷では薬草を煎じていたところだけれど、こういう時にこの世界ではどうすればいいのだろう。ギルドで……いや、帰ったらアンナに訊いておこうか)
(視界の中には、“ひとではない見目”をしたものたちの姿も、数多い。この世界固有の種族たちに加えて、ありとあらゆる世界から『特異運命座標』は召喚されているそうで、私の認識からすれば“化け物”とでも呼んでしまいそうな姿をしたものさえ、いて。正直、それも恐ろしかった。恐ろしかったけれど――半面、物語の世界を想起させるようなこの現実に、まったく心躍らないといえば、嘘にもなりそうだ)
(見知らぬ世界を、異世界で繰り広げられる冒険譚を、夢見るような幼心はとっくに忘却の彼方にあると思っていたけれど、そこに欠片たりとも惹かれる心がなければ、私は今も本に囲まれる生活など送ってはいなかっただろう。――翼持つひと、毛皮持つひと、大きなひとに小さなひと、私の想像を超えた目の前の光景に、怖れとともに憧憬を抱かずにはいられないのだと――)
……!(それでも、身構えてしまうのは致し方ない。すぐそばを通り過ぎて行った、ひとならざる姿のひとに全身を強張らせて、横目でその後姿を見送った)
……本当に、おかしな世界。
(緩く息を吐きながら、あまりに臆病で、あまりに正直な己の体に、思わず自嘲の声音が混じった。こんな私に、この世界は一体なにを求めているというのだろう)(なんて、そんなこと)

……。
いつまでもここにいたって、しょうがないし。……行かなきゃねえ。
(一度大きく伸びをして、立ち上がった。朝の眩しさには参ってしまうけれど、太陽が中天へと至る前に、早いところローレットでの用を済ませて今日は帰ろう。どうにも体調が思わしくないの、そう伝えれば、アンナはきっと必要なことを私へ教えてくれるだろう)
(舗装された石畳を歩くと、硬い靴音が響く。この街は、故郷の丘向こうの町よりもずっと整備が進んでいて、きれいで、人が多い。もしかしたら、豊かさでは王都にも近しいかもしれない。雰囲気もどことなく――そう、遠い記憶でしかないけれど、少し似ているような気もする)
不思議だわ。異世界でも、王様がいて、貴族がいて、街があって……ひとの営みに、大した違いはないものなのね。
(幼い子どもが両親らしきひとと手を繋いで歩く姿に、口許を緩める。店先で赤子をあやす女性の姿もある。たとえ彼らが鳥獣のそれに似た外見をしていようと、親を慕い、子を慈しむ姿は、私の記憶にあるものと違わない)
(もちろん、違うところもたくさんある。挙げればきりがないほど、日々ここが異世界であることを実感もしている。それでも、)……あ。(思わず、声が漏れた)
(そこは、店構えからしてどこか古びた雰囲気があった。店内は薄暗く、小さなガラスの窓越しに、林立する棚に数えきれないほどの商品が並べられているのが見えた。紙と、ほこりと、インクのにおいが漂ってきそうな……)

……本。

(書店だった。ぼんやりとしたまま、無意識に足が動いていた)
(店の扉をくぐると、古びた紙の、乾いたにおいがした。肌に馴染んだ、書物たちのそれ。店内は灯りが絞られており、扉の窓越しに外の光が小さく射しこんで陽だまりと作っている)(人気はなかった。店主はどこにいるのだろう)
……お邪魔します。(声をかけてから、何となく足音を立てぬよう静かに棚を巡る。古書の類が多く、背表紙は掠れて消えかかったものも混じっていた。見ればわかる。ここには、歴史が眠っているのだと)
(目に留まったひとつの背表紙を、指先で愛でるように撫でる。濃い藍色の布地に、月の光を編んだような白金で題字が記されている。その下には、小さな文字で著者名らしき名がひとつ)
…………、(殺していた息が、細く、零れる。頼りなげな吐息に、ぐっと唇を噛みしめた)
(なにを)(なにが?)(―――――読めてしまう、ことに)
……こんなの、(記された文字は、当然ながら、見たこともない異世界の文字だ。それはわかる。そして同時に、その見慣れぬ文字が“遙か遠い空の冒険譚”を意味していることも、読み取れてしまった。こんなことは、)――意味がわからないわ。……とんでもないことね。ああ、もう、ほんとうに。
(この感覚を、この無力感を、この脱力感を、どう言葉にすればいいだろう。この世界では、私の職業は何ら意味をなさない。歴史と共に生まれ、歩み、進化を遂げる言語というものへの敬意も、それを学ぶことも、操ることも、きっと私の世界とはまるで意味が異なるのだろう。あの長年の努力の結果が、この世界ではあたかも生得的な能力であるかのように、私に備わっているだなんて!)
ほんと、意味がわからない……(率直に言って、正直気味の悪い感覚だった。これまで親しんできた多言語との距離感が、ここには存在しない。書棚で眠る本たちが、まるでちっぽけな私に迫ってくるかのような圧迫感に、息が詰まる)(背表紙に触れていた指先を、握りこむ)

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