シナリオ詳細
    <Scheinen Nacht2022>冬粧いのフェアリーテイル
  
オープニング
●Scheinen Nacht
 ――輝かんばかりの、この夜に!
 混沌世界を覆う白雪は、平和を象徴するかのようにはらはらと降り積もる。
 誰も彼もが戦う事を止めた12月24日の夜。聖女の御伽噺(フェアリーテイル)は誰もが知る物語だ。
 祝祭の如く、祝われた『シャイネンナハト』の過ごし方は人それぞれ。
 ある者は家族とともに。
 ある者は想いを伝えるために。
 ある者は、今宵だけの僅かな平穏を楽しむために。
 ……まだ、『今年は』。
●
 深々と降り積もる雪を眺めながら鼻の頭を赤く染めたユリーカ・ユリカはくしゅんと嚔を漏した。
 小さく震えた少女に「大丈夫かい?」とホットワインのグラスを掲げたのはショウ。その傍らにはプルーの姿も見える。
「はいです」
 窓を閉じたユリーカは泥だらけの靴で路地裏へと走って行く子供の姿を見かけた。ヴィーグリーズの一件以降はある程度落ち着きを取り戻したかと思われたフォルデルマン三世だが長年の濁りきった政治が好転するのも難しかろう。アーベントロートの動乱の後、フィッツバルディに関しても噂が巡るほどでもある。
 先程路地裏へと走って行ったのはスラムの子供達なのだろう。ユリーカは何とも言えぬ心地になりながら嘆息した。
「どうかしたのかい?」
「ああ、はい……その、色々と難しいのですね」
 ローレットの受付嬢であるユリーカも世界情勢はよく把握している。その言葉に込められている意味をプルート商は感じ取ったかのようだった。
 現在を以て動乱の最中、そして強烈な寒波の訪れる混沌世界は一時のみの平穏を感じている。
 鉄帝国ではパルス・パッションが何時ものように過ごしているだろうか。
 それでも新皇帝派の影に怯える者もいるだろう。チケットを手にした新皇帝派軍人をラド・バウは受け入れ、各地に点在する各派閥でも細やかなパーティーが行なわれる筈だ。
 グラスに水を注ぎ、打ち合わせるだけの簡便なものでもうんと幸せを感じられるのが人である。
「イレギュラーズちゃんたち、寒さは今日は少し和らぎましたね」
 銀の森の女王エリスは細雪を感じ取りながらも柔らかな声音で告げた。
「ああ、そうだな、イレギュラーズちゃんたち! どうやら聖夜を祝福するように暖かな気配がする!」
 やっとの事でエリスからゆらんぽを借りることの出来た冬の王オリオンも嬉しそうに笑っている。
 銀の森から地続きのラサの砂漠はオアシスが凍った事で騒ぎにはなっていたが例年通りのサンドバザールを行なうらしい。
「やっぱりこういう時に騒いどかなくっちゃいけないっすよ!」
 と、言うのはフィオナ・イル・パレストの談。兄のファレンもネフェルストの邸宅では客人を招いての交流会をする予定なのだそうだ。
「肉は?」
「肉ばかり食べてはいけませんよ。野菜も食べなくては」
 嘆息したイルナス・フィンナにハウザー・ヤークが「げ」と言いたげな表情を見せていた。ラサの平穏を楽しむように星を眺めたイヴは「幸せでよかった」と囁いた。
 ――一方の海洋王国では海が凍り付いていると大騒ぎをして居た。
 ソルベ・ジェラート・コンテュールはそれでも普段通りのバザールのクリスマスマーケットを開催したらしい。
「今年はシレンツィオでもイベントを行ないますからね、何時もよりも華やぐ日々をお約束しましょう」
「ふむ。妾も見に行ってみたいモノじゃが……」
「構いませんよ。ええ、其の儘『事故』が起きないことをお祈りしますが」
「ほう?」
 相変わらず平和な火花を散らす女王イザベラとソルベの様子を不思議そうな顔で眺めていたのは『竜宮』の乙女達。
 彼女達もシャイネンナハトのイベントをそれぞれで行なう予定なのだそうだ。
「こほん、シレンツィオや竜宮についてのイベントは承知しました。
 お客様のことは丁重にもてなしてください。一大リゾート地である『シレンツィオ』の栄光を汚さぬように」
 ソルベは微笑んだ。考えることは山積みだが今宵くらいは、ささやかにでも聖夜を祝福していたい。
「寒いの! はあー、燗に限るの!」
 赤ら顔をしたストレリチアに頬を膨らませたのはフロックス。
「相変わらずです」
 困った顔をした彼女はそそくさと妖精達と常春のパーティーを開催する。これでは季節感を感じないと妖精達はわざわざアルティオ=エルムから雪を拾ってきて「溶けた!」と騒ぐものも居た。
「外はどんな感じです?」
「リュミエ様がファルカウと一緒にパーティーしてるの! 皆も呼んで大騒ぎなの!」
 祝福を授ける為に集いを。麓のアンテローゼでもミサが行なわれているそうだ。
 深緑にとっての象徴、大樹ファルカウ。動乱の過ぎ去ったばかりであるからこそ平穏を祈る幻想種は多いのだろう。
 豊穣郷での祝宴を眺めていた中務卿、建葉 晴明は「はあ」と嘆息した。今宵は霞帝の誕生日だ。
「うむうむ、良いな」
「はい。豊穣も幸いが溢れていればしあわせなのですが」
 微笑んだのは黄龍と黄泉津瑞神。その傍には朱雀や白虎の姿も見られた。人の姿を取った彼等は豊穣郷の今の主の生誕を祝う――と見せかけて旅人達の持ち込んだ文化に触れていたのだった。
「がおー! たのしいなー!」
「……ん」
「………」
「パァァァァーーーリーーー!」
 わいわいと盛り上がる彼らを眺め遣ってから晴明は僅かにでも落ち着きを取り戻して欲しいと願い、傍らを見た。
「ふん、相変わらずね」
「でも、そそぎも楽しそう」
 にこにこと笑った双子巫女を眺めるだけで晴明の心は温かくなるのだ。
 はらはらと降り注ぐ雪を眺めながらひよのは練達は『気候管理』が為されていた事に安堵するべきなのだろうと『外』を思い出す。
 冬を作り出す気候変動システム。ちらつく雪がクリスマスを象徴している。
 クリスマスマーケットや遊園地も楽しかろう。どこも人が溢れ、当たり前のような平穏を謳歌していた。
 一年ほど前になったR.O.Oの動乱も、竜の襲来も忘れたかのように――ただ、平穏ばかりが溢れている。
 ――竜。
 覇竜領域ではにんまりとした珱・琉珂がイレギュラーズを出迎えた。
「こんにちは、私のトモダチ! アナタ達を待ってたの!」
 蠢いているケーキらしき『料理』を手にした琉珂はにんまりと微笑む。
「今宵だけは平和な一日。だからこそ、とっても楽しみたいと思うわ。
 何をする? 何処かの国に遊びに行くのも良いわよね。ダンスでもする? ふふ、何だって出来るわ。
 戦わずに済むならば、それってとっても幸せだって私は思うもの。
 ね、この輝かんばかりの夜をどうやって過ごすか、教えてくれる?」
 ――輝かんばかりのこの夜に。
 今宵、あなたはどう過ごしますか?

- <Scheinen Nacht2022>冬粧いのフェアリーテイル完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2023年01月12日 22時05分
- 参加人数67/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 67 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(67人)
リプレイ
●鉄帝
 戦の気配も遠離る。聖女が悪魔に願ったフェアリーテイル。雪化粧の混沌世界は何処までも美しい。
 鉄帝国も今宵ばかりは戦の気配が治まっていた。パルスのライブがあるならばと張り切る焔は穏やかな空気を感じている。
 ローレットが拠点を置いた銀の森ではリックがエリスをパーティーに誘っていた。
「銀の森も含めて鉄帝が今大変な状況っぽいのが、シャイネンナハトで少しの間平和になるんならみんなも休めるのか?」
「はい。聖女は素晴らしいですね」
 まるで呪いのようだと呟くエリスにリックはぱちりと瞬いたが、楽しめるのならば喜ばしい。
「せっかくシャイネンナハトだし温かい飲み物でもゆっくり飲みながら、緊張を解いて一息つこうぜ!
 それぞれの派閥からなんか面白いものを持ち寄ったりできてたらもっといいな。ラド・バウはライブがあるらしいぜ」
 
「クリスマスライブです」
 魔法乗除部隊を引連れてやって来たハイデマリー。パルスは「わーい!」とハイデマリーを迎え入れて両手を上げている。
 華やかな魔法少女部隊達。パルスに勢い良くあれよあれよとステージへと誘われた彼女達は『ハイデマリーバースデーライブ』も兼ねているらしい。
 虚無顔のハイデマリーはゴーレム達が照明を担当し、スキルも使って派手なライブが開催されることを呆然と感じている。
 何だか遠くに来て仕舞った気がするのだ。
(やるしかないんだよなー。民衆が楽しみにしているんだから。それに応えてあげるのが軍人であり貴族であるのだから……)
 そう、それこそがヴァイセンブルクの務め。務めったら務めなのだ。
 ――あぁ、なんで私は歌って踊れるんだ????
 そんな疑問を口にするハイデマリーに「ボクともコラボライブをしてよ!」とパルスが嬉しそうに手を振っている。
「輝かんばかりのこの夜に! ヴァイス☆ドラッヘ只今参上。さぁ、行くわよパルスちゃん! 楽しませて楽しむわよ!」
 揃いの衣装でステージへと飛び出したヴァイス☆ドラッヘことレイリー。歌って踊ってステージを駆け回る彼女は楽しげで。
 観客と一緒に声を上げ、楽しみ、夢を見て聖夜を輝かせることこそがレイリーの使命だとでも言う様に。
 正直に口にするならばシャイネンナハトの夜が動乱の最中の鉄帝でも『御伽噺』の通りであったことにほっとしたのだ。
 動乱による暴力も理不尽な冬の寒さも終わっていない。終わらないからこそレイリーは「まだまだライブは続くわよ! みんな、ついてきてね!」
 怒りではなく微笑みを。たくさんの夢を護る為に過ごしているのだ。自身が倒れなければ、護れる人が増えていく。
 だからこそ決意をその歌声に乗せて――
 咳が響く。クラースナヤ・ズヴェズダーが使用している本拠の一室にヴァレーリヤは盥に水を汲み上げて舞い戻った。
「うん、熱は下がったみたいですわね。この分なら、数日休めば治りそうかしら」
「いえ、もう大丈夫です! ご心配をおかけしてすみません。もう働けますから!」
 無理が祟ったのだろうか。疲弊し、寝込んだアミナは古布を絞り介抱をしてくれていたヴァレーリヤに申し訳なさばかりが募り体を起こす。
「こーらっ、病人が無理するものではなくてよ。それに、ここで無理をしてまた倒れてしまったら元も子もないでしょう?
 お仕事なら気にしなくて大丈夫。ブリギットや他の皆がやってくれていますわ。だから安心して休んで頂戴」
「同志達が……すみません。戦いでお役に立てない分、頑張らないといけないのに……」
 心配しないでと頬を撫でた。寝付けないのであれば子守歌を歌おうかと提案すればアミナの頬が赤く染まった。
 昔、こうやって熱を出した。教会に来て不安ばかりで、そうして疲弊して倒れたのだ。その時も子守歌を歌ってくれたことを覚えて射る。
「ねえ先輩。戦いが終わって平和になったら、また……皆で……」
 ――皆で、パーティーをしたい。
 ――皆で、楽しく笑い合いたい。
 ――皆で……。
 夢を抱くようにアミナは唇を動かしてから、寝息を立てた。
「おやすみなさい、アミナ。初めて教会に来た時、あんなに不安そうにしていた小さな子が……成長したものですわね」
 まだほんの子供だと思っていたのに。もうこんなにも大人びてしまって。頭を撫でてからヴァレーリヤは優しく微笑んだ。
 願わくば、彼女に幸いが訪れるますように――
●幻想I
 毎年恒例のパーティーに訪れたタイムはぎこちなく周囲を見回して。
 この様な場所だからうんとおめかししたドレスは豪奢で少しだけ動きづらい。手袋に包まれた指先は階段の手すりをなぞりエスコートをしてくれる『彼』を待った。
「待った?」
 タイムがことあるごとに『服装のテコ入れ』をしてくれる。タイムチョイスのタキシードに身を包んだ夏子は「自分だけでやるとどうしても 派手にしすぎちゃう時あるんだよね~」と揃いの装飾のあるドレスを着たタイムに微笑みかけた。
 普段より格好良く見える彼。そんな風に考えてからふと唇を引き結んだ。
(わたしにとってはいつも格好いいのに人に言うと変な顔されるのよね。失礼しちゃうわ! ……まあだらしない所もあるけど)
 何時だってカッコイイと思って居た彼だ。だらしない所――例えば、貴婦人に目を盗まれそうになっている所――を見せる彼の横顔に「夏子さんダンスは出来る?」と問い掛けた。
「人並みには 一般教養程度ですが 踊れま~すよ」
「それじゃエスコートして貰ってもいいかしら?」
 エスコートできる程達者ではないと彼は言うが、彼女がそう言うならばと手をそっと差し出して。
「今宵僕と 踊っていただけますか 麗しのお嬢様」
「ええ、喜んで」
 目を逸らさないでねと囁いたタイムに夏子は小さく笑った。
 余所見をすれば足を踏んづけてくる『可愛いプリンセス』。あなただけのものよ、なんて囁く彼女に「こういうの、嗜むんだなあ」と揶揄えばぎゅうと足を踏まれたのはご愛敬だった。
 ――王宮でのパーティーは様々な事があったことで余り浮かれた気分になれないリーゼロッテには妙な心地の悪さがあった。
 余り引き籠もっていれば『アレ(クリスチアン)』に笑われそうなのも癪である。気分転換を兼ねてやって来たリーゼロッテは何時も通りの青いドレスを着用して居た。
 美しい蒼薔薇であれどアーベントロートの騒動の中ではあまり構う者も居ない。
「輝かんばかりの、この夜に。招待状は無事届いたようで何よりです」
 タキシードにカフス、タイチェーン。あくまでも薔薇を引き立てる額縁であると自身を定義する寛治はリーゼロッテに手を差し伸べた。
「こっそり練習しているんですよ。シャイネンナハトで貴女をリードできるように、ね」
「あら、エスコートがお上手で」
 気分が沈んでいる彼女に配慮しながらも強引なリードをしてみせる寛治をその眸が捉えた。
「いつまでも下を向いていては、クリスチアンに笑われてしまいます」
 ――私、彼に負けたくないんですよ。
 その言葉にリーゼロッテは妙な顔をした。
「本当に色々ありましたからね……お辛い時は弱音を吐いて、時には泣くのも良いでしょう。私でよければ、胸をお貸しします。
 それが終わったら前を向きましょう。その時に少しだけ私の方を見ていただければ嬉しいです、リズ」
 彼女の答えはない。だが、寛治は己の好意を誤魔化さなかった。それでも気持ちを押し付けないのは彼女に任せていたかったからだ。
「お忘れですか?青薔薇の花言葉は『奇跡』。我々は、それを成し遂げたのですから」
「まあ、それもお上手ですこと」
 揶揄われるような響きは心地良くもあった。
「リーゼロッテ様、騒動でお疲れの中での社交パーティはまたお疲れ様じゃな……」
 声を掛けるオウェードに気付いてリーゼロッテは苦い笑いを浮かべる。グラスに揺らいだシャンパンを眺める令嬢は世界情勢を告げられて「存じておりますわ」と頷いた。
 流石は青薔薇。幻想の貴族としてある程度を把握しているのだろう。
「ワシはリーゼロッテ様に世話になりすぎた……これから先もどうかワシを宜しく頼む……。
 ワシはリーゼロッテ様の為ならさらに高みに登って見せよう……アーベントロート派の一人として……」
 リーゼロッテの眸は彼を見詰めてから愉快そうに細められる。アーベントロートも此の儘燻ってはいられない。
 美しい薔薇は自らダンスに誘うことはない。あくまでもエスコートが必要だ。もしも、踊るならば一流のエスコートをして見せるべきだろう。
 誘う言葉の一つ、それにも気を配らねば屹度プレゼントも渡せまい。オウェードは普段よりも口数の少ない淑女をまじまじと見詰めていた。
 お手紙を送ったけれど、とレジーナは唇を引き結ぶ。彼女は着てくれるかと華やかなパーティーの片隅で過ごしていた。
 赤い薔薇をイメージした美しいドレスも誰に褒められたって満足できない。シャンパンで喉を潤して、待ち人の姿が見えず俯いた。
(やっぱり来るべきでは――いや、我(わたし)が決めたのだ)
 来るかどうかは貴女次第だという誘い文句は消極的だっただろうか、それでも目の前に現れた薔薇の姿に非道く感動を覚えたものだ。
「ねぇお嬢様、あれから貴女はお変わりないですか、レジーナはずっと心配をしていたのですよ。
 その分の埋め合わせをお願いしても良いですか? ……ホンの我儘です」
「……そう言えばレナさん、あまり壁の花が板についていなくてよ? ――ふふ、私が言うのだから説得力は十分でしょう?」
 む、とレジーナは唇を尖らせた。
「お嬢様がそれを言うのですか。まったく、貴女はそんな意地悪なことばかり。我(わたし)だっていじけてしまう事だってあるのです。
 ……かわりに、最後のダンスの相手に我(わたし)を選んでくれますか? その後、少し風にあたりに行きませんか」
 よろしくてよ、と囁いた彼女の背中に問い掛けたくなった。
 貴女に――貴女の中に大事な人はいるのでしょうか。我(わたし)はその中にいられるのでしょうか。
 そう問うて何処かへ攫って終いたかった。あの人が、苦しむ姿なんて見たくはなかったから。
「とっても楽しかったわね! プルーちゃん、どんなお洋服も似合うんだもの♪」
「有り難う。服のセレクトが素晴らしいのだと思うわ。ウィンター・ローズばかりでは詰まらないものね」
 頷いたプルーの指先を絡め取ってからジルーシャは「寒いもの、手を繋ぎましょう」と微笑んだ。
 此の儘冬が終わらなければ、そうやって手を繋ぎ熱を分け合うことが出来るのだろうか。少しだけ、握った手に力が籠った。
「――アタシ、アンタのことが大好きよ。大事な仲間として、だけじゃなくて…一人の女の子として」
 ぱちりと瞬いたプルーにジルーシャは緊張しながら唇を震わせる。花火の音に隠した感情より、しっかりと届けるように。
「お返事は今じゃなくていいの。
 これからもっともっと頑張るから――いつか、アタシの色も好きになってくれると嬉しいわ」
「……そうね。心地良いフレンチ・モーヴだけれど、少しだけ待っていて頂戴」
 向き合えるまで、未だ、少しだけ時間が欲しいと彼女は彼の頬を指先で撫でてから笑った。
 ローレットに顔を見せたドラマは唇を尖らせて。 
「レオン君! 年の瀬で溜まったお忙しいのは分かりますが、そう根を詰めすぎては身体に毒です。
 少しくらいならお手伝いもしますから、外の空気を吸いにいきましょう」
 唇を尖らせるドラマにレオンは「はいはい」と返事をした。重い腰を上げた男は浮かれた街を眺めては「そりゃ、浮かれてるよな」とぼやいた。
 いつかの日にユリーカに強請られたあの時は子守であったからこそげんなりしたが――今回は『デート』なだけ救いがあった。
「この時期のマーケットは賑やかで良いですね!
 沢山の物品もそこかしこから集まってきますし、沢山の希少な本も……あ、あれは新作の!! ……はっ!
 私ばかり楽しんでいてはいけません。レオン君の気になるモノも見ていきましょう」
 首を振ったドラマに「荷物運び兼お財布役も必要だろう?」と揶揄うように声を掛けた。
「もう。料理だっていっぱい、勉強したのですよ。……私、大人っぽくなったでしょう?」
「昔の感じじゃ精々父親と娘だったからなぁ……いやいや、怒るな。褒めてる、褒めてる」
 肩を竦めるレオンにドラマは『貴女の所為』だと唇を尖らせて。「耳、動いてるぞ」と揶揄ったのは彼女が分かり易かったからだ。
●幻想II
 ――あの人に会いたい。
 飛呂は緊張しながらもユリーカの元へと向かう。クリスマスマーケットでそれらしい菓子を買ってローレットに向かえば彼女は笑顔で出迎えてくれた。
「か、輝かんばかりのこの夜に!
 マーケットで買ってきたものあるから、め、迷惑じゃなければ一緒に食べません? せっかくのシャイネンナハトなんだし」
 ぎこちない敬語で声を掛ける飛呂にユリーカはにんまりと笑う。
「はいなのです! 何か飲み物用意しましょうか?」
「あ、ホットワインとかもあるのか……俺はまだ飲めないけど、20になったらユリーカさんと一緒に飲んでみたいな」
 飛呂の提案にユリーカは瞬いてから「今、おいくつでしたっけ」と首を捻った。流石に多く居るイレギュラーズのプライベートな部分までも把握し切れていないのだろう。
「18」
「もう少しなのですね。じゃあ、約束なのです!」
 お誕生日が来たら乾杯しましょうと笑った彼女に飛呂は驚いたように目を見開いてから、ぎゅうと唇を噛んだのだった。
 親友達とのパーティー準備を行なうヨゾラはエアツェールング領の街を歩いていた。
 ちらつく雪が冬の寒さを思わせる。思わずふるりと身を揺らせば気になったのは猫たちのこと。
「幻想も寒いね……皆や猫達は大丈夫かな。防寒対策の為なら僕も手間は惜しまないけど、シャイネンで賑わったら嬉しい」
 路地裏の猫たちも屹度寒さに震えているだろう。出来れば保護してあげて暖炉の傍で温めて上げたいけれど――
 猫たちの幸せを願いながら、はあと息を吐いた。
 夜になれば屹度満点の星空を見ることが出来るだろう。最近であった妖精達は今も空で遊んでいるだろうか?
「フローエ・シャイネンナハト。輝かんばかりのこの夜に……幸あれ!」
 ――そして、来年もその先もずっと幸あれと思う。
 根拠もないけれど、次の一年に何か恐ろしいことが起こるような気がして、唇が乾いていく。
(来年も僕はここにいるかな、こうしていられるかな。『星空の友達』の3人と、フローエさんと皆と……一緒に、幸せに……)
 クリスマスコンサートを見終えて、マーケットに立ち寄ったアルテミアは人波に押されて流され掛けた事に気付く。
「あ、アルテミア」
 慌てて手を差し出すウィリアムにアルテミアはほっと胸を撫で下ろした。コンサートの感想を語り合うばかりで、つい逸れてしまいそうになったと二人顔を見合わせて笑う。
「ごめんなさい。……また逸れそうになったら嫌だから手を繋いでいて良い?」
 我ながららしくない。アルテミアはそう思いながらも手を離そうとした彼の指先を絡め取り強く握りしめた。鼓動が煩い。ああ、顔だって熱い。
 マフラーに埋もれるアルテミアにウィリアムは可愛らしいと微笑んでからぎゅ、と手を繋いだ。
 その可愛らしさも、伝わる熱も、すべてがこの夜を幸せにしてくれて。
(……この後僕が告白とかしなければこのまま素敵に終わるだろうな。
 でも進むって決めたからね。そんなに分は悪くないと思うけど、どうだろう)
 悩ましげなウィリアムの横顔にアルテミアは蒼炎の宝石のペンダントを購入したいと告げた。屋台の店主は仲の良いカップルだと揶揄うが――アルテミアの表情は僅かに暗い色が宿される。
「アルテミア、このネックレスをお返しにプレゼントするよ」
 リーフ型のネックレスを贈り、人気のない場所まで進んだウィリアムはいよいよ『勝負』だと口を開こうとし、手を離したアルテミアに目を丸くする。
 歩いて行く彼女は、背を向けたままだ。
「私ね、近々婚約する事が決まったの。望んだ婚約ではないけれど、家の立場もあってこれ以上は引き延ばせないからね。
 ……ウィリアムさん、貴方の事が好きでした。最後にこの日を大好きな貴方と一緒にすごせて良かったわ」
「アルテ、ミア」
「大切な思い出をありがとう……さようなら……ッ」
 走り去っていく。貴族である彼女の事情は理解していたつもりだった。
 それでも、衝撃がウィリアムの足を止めてしまった。「待って」と手を伸ばしても脚が動かない。彼女に追いつけやしない。
「僕は……僕も、君のことが」
 ――それ以上は、何も言えなかった。
 幻想王国で開かれていたクリスマスマーケットに向かうベネディクトの前をポメ太郎がしゃっきりとした様子で歩いている。
 その鼻先がひくついている様子を見るに並んだ露店の商品が気になっているのだろう。リュティスが「摘まみ食いはいけませんよ」と注意しているのも日常そのものだ。
「やはり活気があって、人もたくさん居るな。今日ばかりは戦いが起きぬ特別な日、か」
「日常的にこの光景が見れるように頑張らなければいけませんね」
 ――と、言えどもこの様な平温が簡単に崩れ去ることをリュティスは知っている。
 ポメ太郎に何か玩具でも買ってやろうかと微笑むベネディクトの横顔も戦場では見られぬ者だと感じられた。
「あっちでは台所用品の実演販売の様な物もやっている様だぞ、見に行ってみるか」
 包丁にまな板、様々な物があるらしいと告げるベネディクトは彼女に贈り物をするならば普段遣いの者である方が受け取ってくれるだろうと考えていた。同様に、仕事の報酬だと告げれば彼女は真っ先に仕事道具を求めるはずだ。
「ふむ……。それでは包丁でしょうか? 豊穣で見た時から気になっておりましたので」
 刺身包丁を手に取ってみたリュティスは選ぶ基準は性能重視だと告げる。作りの良い包丁は鋼が違うのだそうだ。
 己の手に合う長さの包丁は使い勝手も違う。衛生面を考えても使い分けた方が良いとはきはきと話す彼女にベネディクトは頷いた。
「よし、後は皆にお土産でも見て帰るか。何が良いかな」
●深緑
「メリークリスマス、そして輝かんばかりのこの夜に!」
 ファルカウの集まりであれどやはり冷えるものは冷えるとクロバはリュミエにコートを掛けた。ぱちりと瞬いた彼女は「貴方は寒くありませんか」と問う。
「大丈夫だと言っても信用はしませんよ。元気に過ごしていらっしゃいましたか?」
「うん、俺もまぁ……そうだな、元気にはしてたかな。あ、ああ、そうだ、乾杯をしよう」
 霊樹も光を帯びるなら、イルミネーションのようにしてみるのもどうだろうかとクロバは提案した。流石に不敬かと頬を掻けば「ファルカウにお伺いをしてみても良いでしょうね」と彼女は頷いた。
 強き信仰の巫女であった彼女にも僅かな変化が訪れているのだろうか。文を交している中では感じられない変化が目の前にある。
 此処は静かで良いところだ。人々が行き交う場所も賑わいがあって良いが、此処から見る景色は穏やかで美しい。
 それを慈しむように見詰めるリュミエの姿も美しいと思うと、口にしたクロバにリュミエは「お上手ですね」と微笑んだ。
「……ちなみに冗談とか建前みたいなのは苦手だ」
 ふふ、と唇の端に滲んだ笑みにクロバは頬を掻いた。目標がある。決意表明のようなそれを聞いて欲しい。
「でも、いつかは見せたいと思う。ここ以外の色んな景色を。
 ――その時は一番近くで貴女が世界を目にする姿を見たい、って大分我儘な願い、が今の俺の夢かな」
 我儘をつい口にしてしまう程に彼女の事が好きなのかも知れないとクロバは思いを秘めて微笑んで。
 アンテローゼ大聖堂のミサへと手伝いにやって来たアレクシアは今年のシャイネンナハトは予想通り大忙しなのだと目を回していた。
 ファルカウへと祈りを捧げるものは復興を目指しているのだろうか。
 神官達は困り顔、司教フランツェルの眦も疲弊が滲んでいるのが分かる。その負担を出来るだけ軽くするためにアレクシアは尽力していた。
 主な儀式や祭礼は司教達以上が行なう。勿論中心はフランツェルではあるが細かな部分はアレクシアでも十分カバーが出来た。
「こんにちは」
 にこりと微笑んでアレクシアは案内や客人達の話を聞くことに徹する。
 通い慣れた者も多いが、今宵に誰かに話を聞いてほしいものや人波に押されて迷子になった子供の姿も目立った。
 礼拝堂の中で目をぐるぐると回して「はあー」と呟いたアレクシアへとフランツェルはにんまりと微笑んで顔を見せた。
「お疲れ様?」
「お疲れ様、フランさん! フランさんも疲れてるでしょ?」
 ちょっとだけお休みしませんかと声を掛けたアレクシアにフランツェルは悪戯っ子のように笑って「じゃーん、ホットココア!」とマグカップを二つ掲げたのだった。
 妖精郷の華やかなパーティーを飾っているのはストレリチアの音頭だった。
「深緑の一件以来妖精郷がどうなっていたか気になっていたのよね。
 とはいえみんな元気そうで何よりだし、妖精女王になったと聞いたけどストレリチア達は変わらなさそうだわ。
 ……なんだか様付けするのも変な感じになるわね、そうじゃない?」
「ストレリチアはストレリチアだもの」
「飲んだくれだもの」
 非道い言われようだとオデットはくすくすと笑った。自身の領地から持ち込んだ林檎を皆に振る舞って、皆で楽しく過ごそうと声を掛ける。
(きっと今の妖精郷の在り方が先代の妖精女王が望んだ形でもあるだろうから。
 ね、ファレノプシス様――貴女にも見えているかしら)
●練達I
 ナヴァンと共にクリスマスマーケットに向かったニルはaPhoneでひよの達にイルミネーションや食事処の情報を聞いていた。 
 オススメの雑誌やお勧め特集URLを入手して、『おでかけがたのしい!』とナヴァンに思って貰うことが今回の目的だ。
「でーとすぽっと、というものなのだそうです。だいすきな人とお出かけする場所なのですって」
「いや、それは――」
 デートスポットは自分と一緒で良いのかと問うたナヴァンにニルは首をこてんと傾げる。今までならば根回しをされて外に連れ出されていたが、ニルの誘いに二つ返事で応じるようになった彼は何処か不思議そうでもある。
 前を進んだニルに「逸れるな」と声を掛けるナヴァン。その姿だけでも、ぽかぽかの冬を過ごせる気がしてニルはにんまりと笑った。
 誰かと一緒だと、こんなにも暖かい。ナヴァンも、ともだちも、ニルはみんなみんなだいすきだった。
 ずっとずっとずっとずっと一緒にいたい。だからこそ、おでかけがとても楽しいのだ。
「輝かんばかりのこの夜に! と、メリークリスマス! です」
「ああ、メリークリスマス」
 来年も一緒に過ごせますように、と。そう願った。
「……クリスマスマーケットかあ……クリスマスっぽい小物とか……良いのがあったらいくつか買っていこうかな……」
 友人達のお土産にもなるだろうとグレイルはクリスマスマーケットを眺めている。
 菓子の販売した店舗も幾つか回ってみれば良いだろう。未だ見ぬ店舗と出会える可能性はあった。
「……お菓子とかもいくつか買っていこう……出店してるお店とかもメモしておいて……。
 美味しかったお店は……また後日行ってみようかな……? …あとは…他の人へのお土産に……多めに買っておけば……間違いないよね……」
 シュトーレンやクッキーなどを購入しながらホットココアを啜る。この穏やかな時間が何よりも幸せなのだ。
 クリスマスに飾られたショッピングモールで買い物を、と意気込んでいた祝音はふらつくことに気付いた。
(何か僕、変だ……)
 ふらついてベンチに座ってから祝音は大仰に息を吐いた。クリスマス、再現性東京、平和なショッピングモール。
 何も起らないようなこの空間なのに、何かが恐ろしくて堪らない。大切な誰かがいないような気がして、非道く恐ろしかった。
 降る雪と、楽しげなクリスマスキャロル。薄らと感じたのはそれを瞬時に台無しにするあの鮮やかな――鮮やかな、光だ。
 祝音は顔を上げた。観覧車が存在したことに気付く。
 買い物リストを眺めるのはフーガと望乃の二人であった。
 夕食用のフランスパンにパイ用の林檎、それから赤薔薇の種と白バラの種、シマエナガの毛布と文房具、来年分の手帳とキッチン用具。
 ――それから、彼女との結婚指輪。
 フーガは買い物リストの最後に添えた『大切なもの』を確認してから楽しげに手帳を販売している文具店を眺める望乃の背中を見詰めていた。
「わぁ、この手帳可愛い……! ぁ、こっちのも素敵……フーガ、どっちが良いと思います?」
「色んな手帳があるんだなあ……確かにどれも可愛いぜ。どっちが良いか、悩んじまうが……うーん……」
 手に取ったのは花柄だった。可愛らしい彼女にはぴったりだと差し出せばぱあと華のような笑みが咲く。
「お花柄の方、どうだろう? 望乃に合いそうだ。おいらもお揃いにしてみようかな?」
 お揃い、嬉しいと笑った彼女と手を繋いで、フーガはイルミネーションを見に歩を進めた。片手には持てるだけの荷物を、もう片方の手はしっかりと繋いで離れないようにと力を込めた。
「星の海、綺麗だよなあ……そのせいで望乃がもっと輝いてみえて……身も心も温かくなるよ」
「……叶わない恋だと、思っていたから、こんな素敵な夜を、あなたと過ごせるなんて夢みたいです」
 その言葉にフーガは唇を震わせた。召喚されたとき自分だって全てが夢だと感じていた。それでもコレが現実だと傍らの温もりが、眩い光が照明してくれる。
「……本当に、愛してるよ、望乃。来年も……この先も、アンタと一緒に、星の海を見に行こう」
「わたしも……愛してます、フーガ」
 囁きと共に降った口づけが、冷えた唇を温める。輝くあなたに見蕩れていた――なんてお互い様のような感想を唇に添えて。
「あ、花丸ちゃん達を誘えば良かったな……」
 何となく『癖』で購入したホールケーキ。毎年のクリスマスはいつもの四人で過ごしていた。音呂木神社のひよのの自宅はパーティー会場にうってつけだった。
 だが、今夜は約束していない。だと言うのに購入して、一人で食べれやしないのにと定は俯いた。
 今年は手袋も両方付けているのに妙に寒い気がする。こんなにも寒いのは二年ぶりだろうかと白い息を吐いた先に猫が座っていた。
 路地裏から顔を出した猫が、寒さから逃れるように雑踏に紛れていく。
 ――『猫』は寒がってないだろうか。ちゃんとご飯は食べてるのだろうか。
 風邪は引いていないだろうか……泣いて、いないだろうか。
「……何にも変わってないな」
 どうにかしたかった。彼女の特別になれた気がしてた。頑張ったから報われているなんて思い上がりだったのかと定は俯く。
 自分のことを少し上から眺める自分が「どうしようもないじゃないか、あの娘がそうしたかったんだぜ」と達観して笑っている。
 ――クソッタレだ。
 君の為だと強くなっても何の役にも立たない。君が好きだって分かったって、何の意味もない。結局ずっと、僕は僕が最優先だった。
(ダサ過ぎるぜ……どうすればいいかなんてわからない。何をしたらいいかなんてわからない。
 それでも、どうしたいかだけはハッキリしている。君の笑顔がみたいんだ。君が、笑ってくれるなら、どんなことだって)
 けれど、君も『同じ事を考えている』なんて――屹度、『僕』は分からない儘なんだ。
●練達II
「こういうの好きかなって思って声かけたんだけど……どう? 観覧車からの夜景」
 小さな箱の中、向かい合わせで二人。ギルオスが選んでくれたロングスカートは少し歩きづらくて、ちょっとだけぎこちない。
 そんな彼女をエスコートするギルオスは窓に手を当ててにこりと笑った。
「観覧車か――こういうのに乗るのも久しぶりな気がするなぁ」
 ハリエットと共に眺める夜景は美しくて、二人きりの小さな場所は穏やかに過ごすことが出来ると彼は目を細める。
 眼下に望めば小さな光。舞い散る雪が光に注ぐのを眺めてくれる人が居る。又一つ大切な思い出が出来たとハリエットは唇にだけ笑みを浮かべる。
「ギルオスさん。今までは仕事の調査のついでとか、仕事終わりとか。そんな理由で出かけることが多かったよね」
 彼が此方を見た、どうして彼にそんな言葉を告げたいと思ったのか分からない。感情の意味も知らないけれど、思ったままに口にして。
「これからは『ギルオスさんと出かけたいから』誘っても、いい?」
 ギルオスは「喜んで」と返した。分かったと頷くハリエットの笑みの意味を彼は真に理解してないかも知れない。
 本当は「――ああ勿論だよ。またいつでも、君と一緒に、どこでも行こう」なんて、返したかった。自身だって楽しかったからだ。
 どこまでも、どこへでも。彼女とならもっと思い出を紡いでいける。そう思わせてくれたその存在が彼の中でも大きくなってくる。
 こんな感情は何時ぶりだろうか。静まった空間でただ、ふたり夜景を眺める。何方も、まだ、真に自分の感情の意味を口に何てしないまま。
 パンフレットを手にしていた竜真の傍で晴陽は何処か居心地が悪そうに視線を右往左往としている。
 その様子を見れば、好意を伝えたことで困惑されてしまったのだと竜真も気付いた。好意を伝えなければ『弟』のように可愛がってずっと傍に居られたのだろう。
 弟をあれだけ可愛がっている彼女だ。その立場にある事はある意味特別で、それでも己の中で気付いた気持ちを蔑ろにするものでもあった。
「……晴陽さん、ノンアルコールのホットワインがあるらしい。一緒にどうだろうか」
「あ、あ、はい」
 頷いた晴陽に竜真は先ずは最も近しい友人にならねばならないと奮起した。そうでなくては、その先には進めない。
「しかし元々はドイツの文化か……欧州の地域だと聞いた覚えがある。俺のいた時代の地球だと、随分昔に欧州共同体の一つになってしまっていた。
 晴陽さんはどうなんだ? 再現性東京でもなにか触れる機会があったりとか」
「……そう、ですね。再現性東京は『再現された都市』ですから、文化は流入されているかと思いますが……」
「お、これとかどうだろう。ソーセージ、あっちだとブルストって言うらしい。歩きながら食べやすいし、たまには買い食いでもどうだ?」
 まじまじと屋台を眺めていた晴陽は「そうしましょうか」と頷いた。つい、弟にするようにお手拭きを取り出した彼女は慌ててそれを鞄に仕舞い込む。
 それを望まれていないと気付いたからにはどう接するべきか――迷ってしまうのだ。
「こんにちは晴陽ちゃん、みゃーこちゃん! 再現性東京ではメリークリスマスだったっけ?
 私の誕生日にドレスを見繕って貰ったし、カジュアルな服を見に行くのはどうかな?」
 可愛い妹のように扱ってくれる晴陽へとサクラはにんまりと微笑んだ。
「晴陽ちゃん、仕事着と夏の浴衣と水着しか着てるの見てないし、もっといろんな服着ても可愛いと思うんだよね! みゃーこちゃんもそう思わない!?」
「ええ、姉さんってあんまり服装に興味がなくって。サクラさんが思うがままに着せ替えるのも良さそうですよね」
 うきうきとした水夜子にサクラは「だよね」と笑った。晴陽のサクラの言うことなら出来るだけ聞いて上げたいという感情の傍に不安げな色が見えている。
 ブディックでの『着せ替え人形』になった晴陽を水夜子とサクラが取り囲む。
「これ似合うよ! あ、こっちも似合いそう! あれも良さそう! うーん……全部着てみて!
 やっぱり可愛い系も似合うよねー! でもやっぱり清楚系というか大人系の方がしっくり来るかな」
「姉さん、和風なのもどうですか」
「それってみゃーこちゃんの趣味だよね?」
 バレましたかと和柄が入ったパーカーを着用していた水夜子がぺろりと舌を見せた。まじまじと眺めていたサクラは普段は余り分からないが晴陽のスタイルはそれなりだと胸元をまじまじと見詰めて言う。
「晴陽ちゃんは好きな人いないの? 気になる人でも良いんだけど。
 もしいるんだったらその人にアピールする為にその武器は積極的に使っていくべきだよ!」
「気になる、ですか……いえ、恋愛感情ではないのでしょうけれど、友人にお一人、健康状況について気になる方が」
「どう言う見方かな?」
 何となく、喫煙履歴がと言われた時点で誰を指しているか見当が付いてサクラは笑った。
「なんだかセクハラしてるみたいになってきちゃったような!
 あ、みゃーこちゃんはやっぱり可愛い系の服がよく似合うよね~。
 美人さんだからキレイ系も似合いそうだし羨ましいなあ。私も大人っぽくなりたいなぁ!」
「あら、サクラさんだって絶対に似合いますよ」
 楽しげな従妹と妹分を見て晴陽は「選んだ服を買いましょうか」と唐突に提案してくるのであった。
「――というわけでROOなら平和的かつ享楽的にデスゲームもできるのではないだろうか。
 まぁ、座標なら何かりあるでもデスゲームしてそうなイメージあるけど。変な依頼いっぱいあるし。脱がせたり着せたり」
 愛無は水夜子にも色々とあってストレスも溜まっていそうだとR.O.Oのワンデーパスを用意していた。
 ビーバーの姿ではっちゃけて貰えば彼女も楽しめるはずだと考えた。「デスゲームするんですか!?」と声を掛ける水夜子に愛無もぱちくりと瞬く。
「人は争う生き物だ。水夜子君の心の平穏のため夜空の星になってもらおう。
 ……うむ。命の輝きとはかくも美しい。
 何にせよ、この時期は人間は忙しい時期なのだろう? 社会人一年目の水夜子君を労ういい機会だろうし、ゲームが終わったらクレープでも食べに行こうか」
「そーーれではッ! はりきらなくっちゃ!」
 楽しげに笑った水夜子に愛無はふと思い出したように「そういえば。クリスマスプレゼントは届いただろうか?」と問うた。
「何にするか色々迷ったが。少しでも水夜子君の役に立ってくれればいいのだが。
 ……次は誕生日かな。少し気が早いかもしれないが誕生日には何が欲しいかな?
 人間のアクセサリーは色々と意味合いもあるようだし。中々難しいと聞くゆえに」
「愛無さんは何が良いと思います?」
 聞き返されたと愛無は困ったような顔をした。どうにも人間で言うところの『へたれ』なのだと自覚しているというのに――考えておくと告げてから、ふと物思った。
(それまでに僕も君の支えに。君の心にもっと寄り添えるようになれれば良いとは思うのだが)
●練達II
「メリークリスマス。先生。練達の外じゃ、輝かんばかりのこの夜にって言うんだよな。やっぱり不思議な感じがするぜ」
「メリークリスマス。私もそうですね」
 こくりと頷いた晴陽を天川はクリスマスマーケットに誘った。何だかんだでブサカワグッズを集める内に妙にハマってしまった気がしてならない。
「先生。こいつなんかどうだ? トナカイかなんだかよく分からない生物だが可愛くないか?」
「顔がいいですね」
 頷いた天川に「これは」と取り出したのは妙な鳥だった。クリスマスのコスチュームを着ているが動体と呼ぶべき部分は存在していない。
「此方も素晴らしいですがこのセーターの柄も、見ていて笑顔になれます」
「ほぅ……流石は先生だ。良いセンスをしている……」
 ――それで良いのかと思いながら『クソダサセーター』を眺め頷いた晴陽はトナカイと鳥のマスコットを購入することに決めたらしい。
 グッズを手に楽しげにも見えた晴陽と共に天川は観覧車へと向かった。マスコット達もちゃんと座席に座らされている。
「割とでかいな……。この高さに昇るのはこの間の飛行体験ぶりだな。先生は平気か?」
「ええ。大丈夫です。妙な安心感があります」
「そうか……先生と出会ってそろそろ1年か」
 ふと思い返せば昨年は練達も窮地に陥っていたのだ。その頃からもう一年も経過したのだ。
「最初はビジネス目的でお近付きになろうって話だったが、色々変わっちまったな」
「……そうですね」
「俺にとって先生は恩人であり、大切な人になった。
 先生にとっての俺ってのはまるで想像が付かんが、少なくとも俺は先生に何かあればすぐに飛んで行くし、いつでも助けになる。それだけは覚えておいてくれよ?」
 彼の言葉に晴陽はぱちりと瞬いてから――「有り難うございます。健康には気をつけて下さい」と妙な
「ひよのさん、こっち!」
 何時も通り過ごしたかったけれど、なじみは行方不明になって、定はなじみを心配して其れ処ではなくて。
 無理矢理手を引いてパーティーに誘っても良かったけれど、と花丸は俯いた。
「花丸さん、私のことは見ないんですか」
 ひよのが花丸の頬をぎゅうと押さえてから笑う。花丸ははっと顔を上げてから首を振った。
「って、クリスマスにお出掛けしてるんだから湿っぽいままじゃダメだよねっ!
 ひよのさん、アッチでホットショコラと焼き菓子のセットがいただけるみたいだよ!
 マグカップはそのままお土産にも出来るみたいだし行ってみようよっ!」
「ええ、勿論。マグカップは色を選べるみたいですし、私は赤色が良いです。花丸さんは青で」
 勝手に決めた、と笑った花丸にひよのもくすくすと笑みを零す。まだまだマーケットを一緒に回ろう。
 クリスマスは始まったばかり。輝かんばかりの『日常』を貴方と一緒に過ごしたいから。
 エト、エト。呼べば彼女の色付く眸が熱っぽい色彩を帯びて見上げてくれる。
「寒くはないか」
 問うたウィリアムに「寒い?」と問い返してから首を振った。
「……ううん。ウィルくんが、手を繋いでいてくれるから」――きっと、歩幅だって、遭わせてくれていると知っている。
 手をぎゅうと握りしめて、はじめてのイルミネーションを見詰めるコルクは「聖夜なんて、はじめて」と呟いた。
「イルミネーションーー例えて言うなら、人の手による星空、星座。
 意識して観に来たのはこれが初めてだけど、綺麗なものだな。或いは……エトと一緒だから、かも知れない」
 ぼやく彼にコルクはくすりと笑った。イルミネーションの中で、眼窩の眩い星の姫君はイルミネーションの海でも煌めいて見える。
 彼女は一番星だ。そうやって眺めれば、コルクは少し不思議そうな顔をして。
(でも、ほら。……ウィルくんと、お付き合いをしてから。
 わたしの世界は、ぐるっと変わってしまったの。まるでおとぎ話みたいに!)
 ……だから、そう。あまり、思い詰めた顔をしていると、心配してしまうのだけど
 どうしたの、なんて気取っているだろうか。ウィルくんと呼び掛ける声は少し震えてしまって。
「なあ、エト。俺も、お前の事をーー」
 唇を重ねて、いやだったかと問うた。
「……ど、どうしたの。急に、こんなこと。い、嫌な訳……冗談言わないで!」
 ――その言葉一つで喜んでしまえるのだ。愛しいばかりが溢れるから。
●潮騒と、熱砂と
「せっかくだ、シレンツィオでのクリスマスパーティーとやらに呼ばれるとしようか。
 思い返してみりゃぁ、リゾート地だってのにごたごた続きで満喫できていなかったからな」
 そう笑った縁はホテルのバーカウンターに向けて歩き出す。ドレス姿の蜻蛉を見付け慣れないスーツにしっかりと締めたネクタイを僅かに指先で緩めてから「嬢ちゃん」と声を掛けた。
「――輝かんばかりのこの夜に」
「輝かんばかりのこの夜に。洋装もなかなかええやないの、男前があがって見えます」
 揶揄い笑った蜻蛉に慣れない洋装も、笑ってしまうくらいの気取った仕草も、その全てが愉快そのもので。
 グラスを軽く合せれば、その音さえも妙に洒落て聞こえるのだから困ったものだ。
 真紅に染まるマンハッタンは彼女のドレスと同じ色だ。酒言葉は『切ない恋心』と揶揄うように告げる彼女に縁は目を細めた。
「海苔に巻かれてる気分だがねぇ。嬢ちゃんほどの美人にそう言って貰えるとは光栄だ」
「お魚の海苔巻きは好きよ? ……いつもそればっかり」
 己の手にしたカクテルはブルームーン。手許で揺れる青い色彩も、一人では訪れることのないその場所も縁は傾けたグラスの青の通りだと目を細めた。
 蜻蛉。
 彼女と過ごすこの夜は――紛れもなく、“幸福な瞬間”だ。
 そう口にしはしない彼の横顔に『お前さんに』と言ってくれるだけで嬉しい蹴れどと目を細めて、照れ隠しばかりの彼の前で切ない恋心を飲み干した。
 海洋王国でのパーティーに参加しているカイトは背筋をぴんと伸ばした。
 ソルベの下僕とは彼は称するが軍部の護衛役は貴族であるソルベには必要不可欠だろう。きりっと仕事モードのカイトはそれなりの洒落た服装をして居た。
「なんだかそうしていると別人のようですね」
 揶揄うような彼に「そうですか?」とそれらしい口調で答える。
「ほら、敬語」
 笑った彼にふにゃりとカイトは思わず笑い返してしまった。
「ソルベ様、料理が鱈腹あるだろ?余ったら持ち帰っていいよな! 持ち帰ってリリーと一緒に食べるんだぜ!
 だめ? ……ところで、飛行種も多いのにチキンがあるのは海種からの挑戦か?」
「いいですよ」
 そう言うソルベは普通に魚介類を食べていた。海鮮とチキンである意味どっこいどっこいなのかもしれない。
「赤犬で酒盛り……ねぇ。酒盛りか……」
 膝を立てて座っていたディルクが大仰にため息を漏す。エルスは「お酒を飲んではいけないのですか!?」と驚き慄いた。
「なんでですかディルク様!! なんでそんなに微妙な反応……っ」
「ああ、何で微妙な反応だって? 何でだろうねェ。何処かのお姫様の酒癖が酷いからじゃないかねェ」
「さ、酒癖が悪いなんてディルク様の幻想ですよ!!
 へ? なんで皆さんまで……私がお酒に強い事は知ってるでしょう?! 酔ったりも寝たりもしてません! 子供じゃあないんですから!!」
 周囲を見回すエルスにディルク始め赤い犬の面々はやれやれと肩を竦めた。
 流石にディルクの『女』に手出しをする傭兵達は居ないだろうが、酔ったエルスがどの様になるのかを何となく勘付いている傭兵達は不可抗力で何らかのアクシデントに巻込まれぬように戦々恐々としている。
「うーお酒ぇ……解せない……解せない……うぅっ。こうなったら後で私に付き合ってもらうんですからねっ!
 逃げないで下さいよ! ディルク様が参ったって言うまで飲んでやるんですから!!」
「はいはい。で、気は済んだかね?」
「って、また子供扱いしないで下さいよ、ディルク様!!」
 叫ぶエルスの声だけが木霊していた。
●白き都と、静かな森に
 騎士団の訓練を見にやって来たスティアは叔母への挨拶やミサへの時間の暇潰しだとぼんやりとベンチに腰掛けている。
 決して、以前叔母の傍に居た男性が気になったわけではない。イルの準備が出来るまで訓練を眺めていようと思っただけだ。
「着々と経験を積んでそうなイルちゃんの勇姿を見ないとね。聖騎士になれる日も近いのかなー?」
「実は、試験を受けることになって!」
 もにょもにょと告げるイルに「すごいねえ」とスティアは微笑んだ。実はこれまで何度か試験を受けたが緊張して『落ちて』しまっていたらしい。
 少しずつでも、前を向きたいという彼女には少しの擦り傷があった。治療を手伝うスティアが周囲を見回していることに気付きイルは「エミリア様か?」と問う。
「うん。見た?」
「さっきあっちに――」
 二人でエミリアを探しに向かえば――彼女はあからさまに困惑した表情をして居た。
「……」
「エミリア」
 薔薇の花束を手にした青年がエミリアの前に傅いている。一体どう言う状況なのかとスティアとイルが息を呑んだとき――青年、ダヴィットと目があった。
「あ」
 思わず声を漏した二人にエミリアは気付き、ダヴィットを凄まじい形相で睨め付けたのだった。
 今日はお家デートなのだとアイラは笑みを零す。映画を見てのんびりしましょうと寄り添えばラピスは緩やかに頷いた。
 様々な種類のものを借りて選り取り見取りだ。今夜は特別な夜、小言は言わせやしないのだとベッドに木製の盆を置きジュースや菓子をセットした。
 風呂はもう終えてしまって、『悪い子』二人は身を寄せ合って何れを見ようかとラインナップを眺め遣る。
「ほら、ラピスはこっち! ボクのことぎゅってしててください。ね?
 ボク、この映画なんか良いと思うんですけど。ラピスはどれが良いと思いますか?」
「ふふ、君の仰せのままに。……そうだね、君の観たい映画から観ようか。その次は……これとかどうかな」
 二人でどうしようかと語り合う時間だって幸せだ。
 幾つかの映画を眺めていれば、腕の中の彼女が普段よりも暖かいと感じられた。
「ふぁ……ラピス、なんだかとってもぽかぽかで、眠くなってきちゃいました」
「アイラ、ちょっと眠くなってしまったかな?」
「だってだって、ラピスからいいにおいがするんですもん。うー……」
 目を細めて困ったように欠伸を噛み殺したアイラにラピスはくすりと笑う。
「そっか、暖かいか。匂いを嗅がれるのは、どうしても少し照れるけど……」
「いいところになったら起こしてくださいね。ボクは、すこぉしだけ、寝ることにしますから……えへへ」
「うん、分かったよ。ちょっとだけおやすみ、アイラ」
 可愛い、いとしい、アイラ。僕だけのアイラ。そうやって言葉を並べてからその頭を撫でた。愛してると唇に乗せれば、少し緩んだ頬が可愛らしくて。
 放浪の旅の途中でシャイネンナハトが訪れてしまったとバクルドは白い息を吐いた。
 珍しいことではないが一人で祝うのも妙な心地だ。テントを張って少し早いが休息を取ろうかと鍋に湯を沸かす。
「そういえば今日は気持ちばかし寒さが和らいだようにも感じるな」
 どうやら天候も穏やかだ。珈琲も凍らずに済みそうだ。保存食ばかりのディナーだって温めれば存外悪くはない。
「街角のあいつらは今頃どうしてんだか、少なくとも俺よりマシなもん食ってるか」
 あちこちであれやこれやと起きているようだが、少しばかりの放浪を楽しむのだって悪くはないか。
「輝かんばかりのこの放浪にな! ……あー酒が呑みてぇ」
 息を吐出せば白く染まる。冬はまだまだ続きそうだ。
●豊穣
「ママー! おなか減ったですよ!
 豊穣は中々行かないから新鮮ですよ。お魚沢山あるですよ!」
 周囲を見回したブランシュはずるずると妙見子を引き摺ってやって来た。
「豊穣の冬は冷えますねぇ…ふふっストールを持ってきて正解でした」
 ストールを膝に掛けていた妙見子ではあるが中務卿は本日も多忙そうである。忙しそうにして居る彼がある程度落ちて居てから――あ、もうすこしあとで――それから……そんな風にもだもだとしている妙見子にブランシュは『うさんくせえ奥手モード』の彼女をまじまじと見てから晴明の元へと特攻した。
「すみませーん! 中務卿、我が母がお見えになりたいそうなので一つ、会って頂けませんでしょうか?」
「あ、ああ。構わないが……母上……?」
 驚いた様子の晴明を連れて遣ってきたブランシュは「連れて来ましたですよ」と胸を張る。
「……は、晴明様、こんばんは……! 輝かんばかりのこの夜に、ですねっ!
 え~っと……お手紙で言っていたチーズハットグ、練達で買ってきたものになりますが……ってコラ~! 島風様勝手に食べようとしない! めっ!」
「……義母、照れすぎ隙だらけ」
 もぐもぐと食事をして居る島風はごくり、と呑んでから「早く あの言葉 言ったら?」と揶揄った。
「あぁもう……騒がしくてすみません……」
「いや、構わぬが……」
 子供が居たのかと不思議そうな顔をする晴明に気付いてブランシュは背筋を伸ばした。
「なんかママ、楽しそうですよ。いつも借金で苦しんでるの見てると、今は笑顔で良い感じですよ。ねー島風ちゃん」
「……」
「違います! 晴明様!!!!!」
「あ、申し遅れました。水天宮 妙見子が娘のブランシュ=エルフレーム=リアルトですよ。まあ義理なので血縁関係は無いんですが」
「初めまして。当方名称 島風。艦姫最速 v。ブラ姉……最大火力? 義母、奥手。でも、大事にしてくれる……いいひと」
 ぼそぼそと告げる島風と笑顔のブランシュを前に晴明は「中務卿、建葉 晴明だ。宜しく頼む」と頷いた。
「せっかくですしご紹介しようかと思って……私の義理の娘のブランシュ様と島風様です。
 その、主上にもご挨拶を、とは思ったのですが……私みたいな女が帝様に謁見するのは……ちょっと元居た世界で色々ありまして……」
 もじもじとする妙見子の様子を遠巻きで眺めていた双子巫女は不思議そうな顔をして居る。
「そちらの可愛らしいお二方がつづり様とそそぎ様ですね?
 初めまして、妙見子と申します♡ ……ってこんな怪しい女警戒しますよね。ブランシュ様と同じお歳らしいですよ? ふふっ♪」
「つづりとそそぎだ。俺にとっては妹のような、……そそぎ蹴るではない」
「……ふん」
 外方を向いたそそぎが離れていく様子を眺めてから晴明は可笑しそうな顔をした。
「せっかく晴明様にお会いできましたし……ちょっとお酌していってもいいですか……?」
「ふむ、では有り難く頂こうか」
「……領地でカラフルなカジキマグロを狩っていたら年を越していたんだ。
 カジキは献上物にそっと紛れ込ませておいて、俺は犯人じゃないからって面でご挨拶に伺おう
 いや、それが光る件については俺は完全に無罪だしな??」
「マグロは光るのだな!」
 楽しげな霞帝にアーマデルは献上品のカジキマグロを手に「賀澄殿、誕生日おめでとう」と告げた。
「……はっ、豊穣に領地があるということは俺も広義の賀澄殿の民なのでは?
 再現性東京で言うところの『○○の女』みたいなやつだ。……成程」
「成程、ならばアーマデル殿も俺の女だな」
 凄まじいことを言う霞帝に気付いて晴明の胃がずきりと痛んだ気がした。
「……晴明殿の胃は丈夫になっただろうか
 瑞殿も、巫女殿たちも、四神殿たちも……皆、健やかに穏やかに(たまにはトンチキに)過ごせる良い年になりますよう。……そう、願ってやまない」
「帝さんのお誕生日なのだわ鬼灯くん!」
 嬉しそうな章を抱えて、鬼灯はやって来た。今年は様々な事があり中々謁見が叶わなかった。霞帝に会いたいと章も膨れ面にはなっていた。
 勿論、霞帝は章のためならば何時だって謁見を許してくれるだろう。だからこそ、誕生日くらいは合いに行きたいとお洒落をさせてやってきたのだ。
「帝さんお誕生日おめでとうなのだわ!」
「いやはや、もう一年経ったとは。時の流れは早いな帝」
「帝さん、あのね似顔絵とねプレゼントとねそれから絵本とね……」
 背筋を伸ばす章に笑顔で「ああ、章姫」と頷く霞帝。そうして目をあわせ我が子のように慈しんでくれる様を見れば得難い存在だとも感じられる。
(俺にとっても暦にとっても、章殿にとっても。何より豊穣にとっても――必ずや護り抜こう)
 この国の要でもある御仁だ。そう決めれば、この光景こそを大事にして置きたいと胸に誓うこととなる。
 ぐるぐるしてもやもやして。折角の日なのにとメイメイは晴明の袖をちょんと引いて静かな場所へとやって来た。
 瑞たちとの宴を楽しみにしていたけれど、それでも心がもやもやするから。
「あの……晴明さま、これ、食べて下さい……! お口、開けて……はい!」
「あ、ああ……」
 メイメイの手許に合わせるように膝を付いた晴明は口へと運ばれた焼き菓子を咀嚼する。
 彼女の指先からそのまま食すのは妙な気恥ずかしさがあったが、何か事情があるのだろうとまじまじと見遣った。
「あっ……す、すみません、いきなりで……説明、しないとです、ね。
 晴明さまが、贈り物を瑞さまに先にお捧げしたのを聞いてから。
 瑞さまにも喜んで貰えて嬉しいことの筈なのに、すごく嬉しかったのに、何故か、後から悲しい気持ちが湧いてしまったの、です。
 こんな感情、初めてで…沢山、考えて、どうしたらいいかって思ったら、こうなった次第です……」
 メイメイの言葉に彼女の贈り物を食べたがってあんぐりと口を開いていた黄泉津瑞神が頭に過る。
(……あれが晴明さまの為に、作ったものだったから。本当は、一番に頂いて欲しかったんだなって)
 そう思っても、口には出来なくて。メイメイは耳をぺしゃりと下げた
「今日は、楽しい気持ちで過ごしたくて、晴明さまに改めてお菓子を食べて貰おう、としたのです、が。
 これでは晴明さまのお気持ちを、ないがしろにしています、ね……」
「ああ、いや、違うのだ。本当は俺が一人で食べたかったが……瑞神は一応、神霊なのでな」
 何故か言い訳のように告げる晴明は頬を掻く。
「今度は、俺が最初に頂く事にする。すまないな、俺も、気が使えぬ男だ」
「えへへ、もう、大丈夫です。やっぱり、晴明さまはお優しい……さ、戻りましょう」
 困ったように笑った彼にメイメイは首を振ってからふにゃりと笑った。
●覇竜
「今年も色々あったね、アントワーヌ。今回は俺の思い出深い所、ってことで覇竜に誘わせて貰ったけれども……」
 どうだろう、と問うた行人にアントワーヌは「覇竜で可愛らしい子に会ったりね」と揶揄うように笑った。
「来年は今年よりも良い年になると俺は思っているよ。アントワーヌ、俺はもう少しだけ頑張る。
 その途中で少し君の元を離れることも多くなると思うけれども、大丈夫だから……心配しないでくれ。っていうのはちょっと湿っぽすぎるかな」
「来年……そうだね、君と出会ってもうどれだけの時を重ねたんだろう。
 懐かしいなあ、まだ覚えてるよ学園祭で目を丸くしてた行人君のこと。……私のお姫様はね、自由な風のような人だと知っているもの、平気だよ」
 いつだって、迎えに行く。王子様はそういうものだから。そう笑ったアントワーヌに行人は「流石だな、王子様は」と笑った。
「切り替えていこうか! 俺の話は聞いて貰った、君の話を聞かせて欲しいな。
 俺も、できる限り君の願いは叶えるからさ。輝かんばかりのこの夜に聞くんだから、それは果たされなきゃね?」
「んー、そうだな。私、私かい? 君の旅の終着点が私であればいいと思う」
 アントワーヌはそっと行人を見上げた。
「……ちょっと違うかな?
 君がもし、歩き疲れて休みたくなった時に抱きしめてあげられるように。
 いつか君の旅に私も連れて行って欲しいな。この右手は君の為だけにあるんだから」
 待っているだけでは王子様ではないだろうから、と微笑んだ彼女に行人は緩やかに頷いて。
「え?シャイネンナハト? べ、べつにやらなくてもいいんじゃない ?だって、ほら、宗派? が違うし」
 また準備があるんだから、色々遣りたくはないとアルフィオーネはそそくさとなかったことにしようとしたが――
「はい? フリアノンはもう、飾り付けとか始めてる? うちはうち! よそはよそ!
 なぁに村長? へ? やらないって決まって以来、村人が意気消沈して寝込む者まで現れた?
 ……ッあ~もぅ~! やればいいんでしょ! やれば! いいこと? みんなのためなんだからねっ!」
 アルフィオーネはやるからには目一杯にご馳走を用意しなさいと唇を尖らせた。そんな彼女から依頼を受けてやって来たのはアルフィンレーヌ。
「あれ? あなた、シレンツィオか竜宮あたりに遊びに行きたいとか言ってなかった? ま、いいけど。やるからには、最高のおもてなしをしないとね」
「……」
 アルフィオーネはお出かけできなかったのだとアルフィンレーヌを見詰めた。
 買い出しにメニューの選定、会場の設営、調理、給仕。手伝ってくれるアルフィンレーヌにアルフィオーネは汗を拭いながらせっせと準備を続けた。
「思わぬ忙しい一日になったけれども、なんだかんだ言っても、みんなにおいしいいって喜んでもらえるとうれしいわね。あなたもそうでしょ? アルフィオーネ?」
「まあ……」
 出掛けられなかったけれどとぼやけども、楽しかったことは楽しかったのだ。
「毎年恒例? のさとちょーくっきんぐもんすたー! もー! だれかとめなかったのー!?」
 どうして、と叫んだユウェルにお料理を手にしてにんまり笑顔の琉珂は「お料理作ったのよ!」と胸を張っている。
「お料理作ったわよ! じゃないわよリュカ! イキのいいケーキって何なのよねえジェニファーって!?」
「食材拾ってきたの」
「拾ってきたの!?」
 鈴花が叱るような声音で言うが琉珂は「あ、何処か行きそう」と動き出すジェニファー(仮)を眺めていた。
「琉珂さんのケーキは、楽しそうだね! ジェニファー? は、大人しくなったら切り分けて食べちゃおう」
 にんまりと笑った瑞希に玲樹は「捕まえなきゃ行けないかな?」と声を掛ける。
「クリスマスには料理が一杯出るし、食べられるって聞いて!
 あと、動く料理を琉珂が作れるらしいから、友達になれると良いなぁ!」
「友達になるの?」
 朱華の問い掛けに玲樹は頷いた。まさかジェニファー(仮)が瑞希に食べられちゃうなんて叫んでるとは誰も思うまい。
「何だかビクビクしてるけど、生まれたばかりだからかなぁ? よろしくね、ジェニファー(仮)
 まって、鈴花! ジェニファー(仮)は危険な料理じゃないよ!」
「動いてるのに!?」
 指差す鈴花に玲樹は頷いた。むしろ動いている状態が気になるのだと紫琳はまじまじと見詰める。
「琉珂様の作ったケーキの対処ですね。ケーキの対処とは一体?
 本当にケーキが動いてますね。ジェニファーさんですか。なるほどー……。
 ケーキが動くのはどういう原理なのでしょう? 何か特殊な食材が? 或いは手順?
 それとも琉珂様固有の能力? つまり琉珂様が調理の過程で生物を生み出してい(省略)(早口)(現実逃避)」
 紫琳が現実逃避しちゃったじゃない、と朱華が困ったような顔をした。フリアノンのシャイネンナハトが異様な盛り上がりが見せているのはイレギュラーズとの交流が出来て、閉鎖的でなくなったから……だとは分かりながらもジェニファーがどうしても気になってしまう。
「だから琉珂、そのジェニファー(仮)だか何だかは閉まっておきなさいっ! 蠢くケーキって何なのよ!」
「食べられるから――あっ」
「あっ、逃げた!」
 琉珂と玲樹がそう漏せばユウェルは「うひゃークリーム撒き散らさないでー! ジェニファー(仮)すてーい!」と慌てた様に掴もうとする。
「ジェニファー! ピンクのアラザンとか、生クリームをもっと載せるとかどうだい?
 安心して、俺は器用な方だし、琉珂にもイチゴを切って貰おうかなあ。俺が可愛くしてあげる。友達だからね!! ね?」
 にんまりと近寄ってくる玲樹は何故か器用にジェニファーを捕獲し、可愛らしく飾っていく。
「あれ、どうしたの? ジェニファー(仮)?? た、大変だ琉珂! 動かなくなっちゃったよ!?」
「て、照れてるのかも!?」
 ――一体どう言うことなのだと鈴花は叫びたくなった。
 早速気を取り直してパーティーを開始する。鈴花の準備した料理はラサのスパイスをたっぷりまぶしたローストチキンや海洋の魚介のパエリア、天義のワインや幻想のパン。フリアノンの食糧番とっておきのフルコースである。ちょっとだけ琉珂とユウェルの頑張りも添えてはある。
「あ、わたしも持ってきたよーそんなに警戒しなくてもおかーさんが作ったやつだよ。
 この時期はおかーさん忙しくてお台所入れさせてもらえないもん。宝石ケーキ作ろうと思ったのにー」
「よかった」
 安心する朱華にユウェルは「え~」と膨れ面をした。
「紫琳は不思議なお洋服なのね」
「この服ですか? 練達で手に入れました。少々丈が短いですがサンタの服装を模した物ですね。
『パーティーグッズ』とあったのでパーティーで着る物なのでしょう。琉珂様の分もありますが……着ますか?」
「着て見るわ!」
 興味があるのだろうかるんるん気分で着替えに行った琉珂を見送って朱華はふうと息を吐いた。
「ボクは、少しずつ料理を取って、全部楽しみたいなぁ。寒いから、温かい料理は身体に沁みるね!」
 にんまりと笑う瑞希は琉珂が戻ってきたら歌って欲しいのだとリクエストを受けている。楽しく歌う瑞希を琉珂は「綺麗な声で好きよ」と気に入っているようでもあった。
 サンタクロースの衣装になった琉珂は瑞希に手を振って微笑んだ。食べ終わったら歌ってねと改めて約束をした里長は楽しげでもある。
「琉珂さんは、どの料理が好き?
 あぁ、でも。一番を決めるは、難しそうなくらいどれも美味しい! 来年も、こうやって騒げたら良いな」
「勿論よ。皆が居てくれて本当に嬉しい」
 頬を緩める琉珂に朱華は「そうね、縁ってすごい」と微笑んだ。
「どれもこれも、この一年でアタシやリュカ達が繋いだ縁の証ね。
 里の皆で楽しむシャイネンナハトも楽しかったけど、もっと賑やかなのも悪くないわ。
 ……ぶっしゅどのえるとか、しゅとーれんとか、美味しそうなものも沢山だし!?」
 外って悪くはないのね、と陥落している鈴花はこほんと咳払いをしてから瑞希や玲樹の皿に料理を足して行く。
「ほらほら皆もっと食べなさい! ジェニファーだったものもまだ残ってるわよー!
 ってねぇリュカそれはなに? ジェニファーの友達……?」
「ジャック」
「……ジャック……」
 何それと鈴花は頭痛がしたが笑顔の琉珂を見ると仕方がないだろうなんて気持ちが浮かんでくるのがずるい所だ。
「今年はみんなで楽しいこともいっぱいできたし来年もいーっぱい遊ぼうね! さとちょーは動かないお料理頑張って。今回は何入れたのさ」
「えっとねー」
 説明を始めた琉珂に鈴花は「もう二度と入れちゃダメ」と口を酸っぱくし朱華は「案外美味しいのね」と頷くのだった。
「それじゃ、改めて――輝かんばかりの、この夜に! 夜はまだまだ終わらないわ!」
 亜竜種達のパーティーはまだまだ続くのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
輝かんばかりのこの夜に!






































































GMコメント
夏あかねです。自由行動が出来ます!!!!!
●シャイネンナハト
ご存じのクリスマス。御伽噺は特設ページをご覧下さい。
混沌世界では聖女の逸話による祝福の日や戦闘が起こらない日であると認識されています。
今日という日はフローズヴィトニルの寒波も少し和らいだようですね。
鉄帝国は動乱の最中、しかも寒波襲来中ですが戦いは起っていないようです。『御伽噺』の効果でしょうか?
各国何処へでも行くことが出来ますし『NPCに参加提案』を行なう事でお誘い頂く事も可能です。
が、書式と場所はしっかりとチェックしてくださいませ。迷子になるかも知れません
●プレイング書式
一行目:【場所】
二行目:【グループ】or同行者(ID) ※なしの場合は空行
三行目:自由記入
例:
【ギルド】
リリファ・ローレンツ(p3n000042)
●場所
※当シナリオでは名声は【幻想】に入ります。
何処へでも行くことが出来ます。大きくは【ギルド】【幻想】【鉄帝】【練達】【ラサ】【天義】【海洋】【深緑】【豊穣】【その他】
妖精郷は深緑に、再現性東京系列は練達にお願いします。
ギルドはご自身の所属ギルドハウスや自宅です。自宅でのんびりと言う場合はギルドをお選び下さい。
★ご参考に。
こんな事が街では起こっているよ!という例を記載します。その他のイベントもあるとは思いますのでお気軽に。
それぞれのイベントごとでは各国のNPCが参加しております。
【幻想】
・王家によるシャイネンナハトのパーティー
・街中ではクリスマスチャリティーコンサートやクリスマスマーケットが開かれています。
【鉄帝】
・パルスちゃんクリスマスライブ&チャリティーステージ(バトル)(※ラド・バウ)
・各派閥による細やかなパーティー
【天義】
・聖夜のミサ
・騎士団の訓練
【ラサ】※オアシスが凍った!と騒いでいたりします。
・サンドバザールのクリスマスマーケット
・砂漠の雪を見ながらの傭兵団の酒盛り
【海洋】※海がちょっと凍りかけているとてんやわんやして居ます。
・王家によるシャイネンナハトのパーティー
・バザールの食べ歩き(クリスマスマーケット)
・シレンツィオでのクリスマスパーティー
【深緑】
・大樹ファルカウでのシャイネンナハトの集い
・アンテローゼ大聖堂でのミサ
・妖精郷でのパーティー
【豊穣】
・霞帝による祝宴(お誕生日会も含)
【練達】
・セフィロトでの忘年会by佐伯操
・再現性東京でのクリスマスマーケット、イルミネーション、ショッピングモール買い回りや観覧車
【覇竜】
・フリアノンでのクリスマスイベント 里長「お料理作ったわよ!(動いている)」
あくまで一例が上記になります。
迷ったな~と言うときは是非参考にしてあげてください。
また、同行者などの書式テンプレートには『必ず』従ってください。迷子になりやすいのでとっても注意です。
誰も誘う人が居ないな~!と言う場合は夏あかねのNPCにお声かけ頂ければ一緒にお散歩させて頂きます。
それでは、どうぞ、楽しんで!
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