PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<霊喰集落アルティマ>L glandes argentum

完了

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●六晶攻略
 霊喰晶竜クリスタラードは覇竜領域と世界に対して猛威を振るった『六竜』のひとつである。
 その特徴はなんといっても彼が追従させる六つの水晶体(クリスタル)であり、この力によって彼は無敵といっていい力を手にしていた。
 練達を襲った当時。ローレットの精鋭チームをもってして、クリスタルを一つ一つ順序よく破壊しその力を剥がすことでなんとかクリスタラードに『手傷』を追わせることに成功できたが、精鋭チームは瀕死の重傷を負うという結果からも、その脅威が分かるだろう。
 そんなクリスタラードを討つために計画されたのが、彼のエネルギー供給源である『霊喰集落アルティマ』を攻略することであった。
 クリスタラードはその強大な力と引き換えに、クリスタルの維持に莫大な生命エネルギーを要している。
 アルティマはそんな生命エネルギーを得るための『人間牧場』なのだ。

 そんな霊喰集落アルティマと呼ばれるエリアは七つに分かれ、全ての支配者であるドラゴン霊喰晶竜クリスタラードのもつ力の水晶が七つであることを起源にしてか、それぞれのエリアは色の名で呼ばれている。
 ――高い塔が並ぶブラックブライア
 ――地下空洞ホワイトホメリア
 ――死都ヴァイオレットウェデリア
 ――溶岩地帯レッドレナ
 ――海底遺跡オーシャンオキザリス
 ――密林イエローイキシア
 ――楽園グリーンクフィア
 いまこの六つの集落は、攻略を目前としていた。
 同時にそれは、彼らが不退転の反撃を示す最大の難所であることを、意味しているのだ。

●ホワイトホメリア:最後の民
「人間を集めなさいぃ! かき集めるんですよぉおお!」
 狂ったように叫ぶ、巨大な白蛇がいた。
 ホワイトホメリア集落の管理亜竜、『ホワイトライアー』である。
 この大蛇を襲っているのは餓えの苦しみであり、死への恐怖だ。
 痩せ細った鉱山労働者が穴蔵へと走るのを、無数の蛇型眷属が追いかけ、足や腕へと噛みついて転倒させる。
 そこへ新規に生み出されたであろう人型の魔物『蛇人間(レイズィー・マッドネス)』が飛びかかり、地面をひっかいてでも逃れようとする労働者の足を掴んで引きずっていく。
 そして、円形に掘り広げられた大きなスペースへとまるでモノのように放り投げた。
 中央には大きなクリスタル状の『鳥籠』があり、その中に放られた人間が慌てて飛び出そうとするも見えない壁に阻まれた。
 捕らわれているのは皆痩せ細り飢えた亜竜種(ドラゴニア)であり、老人もいれば若い女性やその腕に抱かれ震える幼子すらある。
 それらを見つめ、ジジジとうなりをあげるホワイトライアー。
 今すぐにでも彼らを喰らい、餓えを満たしたい。そんな感情を、首を振ることで押さえ込む。
 脳裏には、餓えや怠惰よりも強烈に焼き付いているのだ。
 そう……。
「この者たちをクリスタラード様に献上しなければ、私達は殺されるんですよぉ! 皆殺しにぃぃい!」
 なりふりなどかまっていられない。
 追い詰められた恐怖が、そこにはあった。
 そしてそれゆえに……この亜竜を討ちホワイトホメリアを解放する最大のチャンスなのだ。

「『兵糧攻め』は上手くいったみたいだね!」
 にかっと笑う『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)。
「周辺集落からへびさんがいなくなったって!」
「自分の集落で人をかき集めて今を凌ごうとしてんのかな?」
「そうねぇ……もう、よそに人手を割いてられなくなっちゃったのねぇ」
 『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)と『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がそれぞれ報告書を手に顔を見合わせる。
「え? つまり……」
 『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)は物事を単純に理解するために想像をはたらかせる。
「マジでおなか空いたとき、コンビニに行くことすらしんどいからもう家にあるもんをガツガツ食っちまおうってことか?」
「借金取りが玄関前で圧をかけ続けてるから部屋の中の小銭ですら今すぐ出さなきゃ殺される。ってことじゃあないのか?」
「あー……」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)の例えに納得がいったらしい千尋。
 報告書を持ってきた鉱山警備隊隊長アダマス・パイロンが小首をかしげる。
「その『借金取り』って……もしかしてクリスタラードのことかい?」
「ホワイトライアーにとっちゃそうだろうな」
「嫌だねぇ。上司って扱いですらないのかい」
 だが、そこまで余裕がないなら、突入のチャンスだ。アダマスはニッと笑ってモカたちを見た。
「うちの連中も手を貸すよ。ホワイトホメリアに今度こそブッコミかけるんだろう?」
「勿論」
 彼らと出会った時の約束を、ついに果たすときだ。
 ホワイトホメリアの住民を助け出し、ホワイトライアーとその眷属達を討つのだ!

●レッドレナ:祖霊の灯火
 行進の足音が、天と大地を揺らしている。
 亜竜種の男性、女性、中には老人までもが交じり、中央で太鼓を叩く音に合わせて行進しているのだ。
 この太鼓は『ムドド』という古い民族楽器で、フレイムワイバーンの腹の革をなめして作られる。『祖霊の灯火』という遺跡に唯一残っていたムドド用のフレームに、改めて革をはったものである。
 先頭をゆく男がワンフレーズを歌う。
 それに追従するように、皆がそのフレーズをくり返した。
 歌は重なり、まるで咆哮する竜の如く集団は突き進む。
 目指すは彼らの第二の故郷にして、一度は支配を受け入れた土地――レッドレナ集落。
 管理亜竜バルバジスの支配を、彼ら亜竜種たちは諦観していた。
 勝てるはずがないと諦め、定期的に生贄を差し出し続けていた。
 だがそれは、過去の彼らだ。
「すごい、まるで集団全体がひとつの楽器みたいだ」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は行進に交じりながら、進む彼らの顔を見る。
 どの顔も活気に満ち、闘志に溢れ、未来を掴まんと燃えていた。
「これなら、皆で一緒に戦えるな!」
 『紲家のペット枠』熾煇(p3p010425)もそれに続く形で歌をあわせる。
「炎の集落を統べる亜竜が、支配していた住民達の怒りの炎に焼かれる……皮肉なのです」
 『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は薄く笑い、その横で『帰ってきた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が皮肉たっぷりの苦笑いを浮かべた。
「かもな。見ろよ、未来も何も知らねえってツラをしてた連中が……故郷のため、家族のため、武器を取って戦うってんだ」
 バクルドは自らの胸に手を当て、トルハという少女のことを思う。
 思えば、あれが『最初』だった。
 娘のために、武器も持たず力ももたない両親が亜竜へ立ち向かい、血を流し足にしがみついてでも娘を守ろうとした。あの光景が、始まりだったように思う。

 ――さあ、反撃の始まりだ。
 ――俺たちはヴェンデッタ(復讐者)だ。
 ――奪われたものを取り返し、そのために武器とをるのだ。

 歌を、叫ぶ。
 それは弱者達の怒りであり、そして力だ。
 彼らの向かう先は、レッドレナ。管理亜竜ジグバルドとその配下たちを倒すため。
 いざ、進め。

●イエローイキシア:ハディ族とカッマ族
 草と土のかおりに満ちた、そこはジャングルの奥地。
 少数部族が細い細い道だけを介してわずかに繋がるだけの亜竜小集落群。それは『イエローイキシア』である。
 そんな小集落のひとつ。パルパ族小集落にて。
 『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)、そして『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)を尋ねて二人の老人が現れた。
 一人は屈強な体つきに黒い肌。鼻や耳には骨素材とおぼしきピアスをあけている。
 もう一人は腰を大きく曲げ髭と眉が繋がるのではとおもうほど顔を毛だらけにした男だ。
 そんな毛玉めいた方の老人が、毛をもごもごと動かしながら声を出す。
「ワシはカッマ族の族長、ェランカッマ・クゥエッマじゃ『カッマ族の族長』という意味の名じゃ、その呼び名で構わん。こちらは……」
「ハディ族の長。名は無い。我が部族は、一切を過ぎると名を捨てる習わしだ」
 ハディ族長は眉間に中指を当てる独特の動作でこちらに礼をとると、手にしていた錫杖のような道具を地に打ちならす。言うべきことは終わりだという動作らしいが……レイチェルは困惑したようにオデットのほうを見た。
「彼らは……何を求めてここへ?」
「うん。それなんだけど……『泉の精霊』さんを覚えてる?」
 オデットの問いかけにレイチェルが頷くと、それにカッマ族長が話を繋いだ。
「ハディ族は代々精霊を信仰しておる。他の部族よりもより強く、依存といっていいほどにのう」
「確かに。つまり……この二人を守護するように、精霊からの『お告げ』があったということかな?」
 話に加わってきたのはパルパ族の族長であった。
 藁葺き屋根の小屋から姿を見せ、族長たちに礼のしぐさをとる。
「パルパ族も精霊信仰は強いが……ハディ族ほどに深く通じてはいない。彼らは人とは最低限の会話しかせぬが、精霊との疎通能力に優れておるのだ」
「いかにも」
 カッマ族長は頷き、未だ沈黙するハディ族長をちらりと(毛玉顔の内側から)見た。
「わしらカッマ族は祖先を信仰し、逆にそれ以外を信じておらぬ。故に『今回の騒動』でも中立を今まで保ち、そして最後に『多数派』となった方へつくと決めておった。我が一族が一人でも存続しさえするならば、なんでもよいとな」
「それで、『多数派』となった私達につくことに決めたということですか?」
「多数派、ねぇ……部族の数でいえば五分五分だと思うけれど」
 別の場所で作業をしていたらしい『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)が話に加わってきた。『闇之雲』武器商人(p3p001107)もだ。
 武器商人の言葉にカッマ族がごほごほと咳払いをする。
「プロパガンダの効果が出たと言うことでしょう」
 『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)がビラを一枚てにとり、小屋の中から出てきた。
 ビラにはイエローイキシアを管理する亜竜ヘラクレスの実情と、『収穫』の失敗という実例が生まれたことが(やや脚色しつつ)書かれていた。
 自部族の保身を考えるカッマ族の人間達が、イレギュラーズに協力すれば生き残れるという意見でいっぱいになったという所だろう。
 保身で動く集団は保身によって強固となる。ある意味、これは心強い味方だ。
「いいニュースばかりでもないぞ。デデ族、トイタ族、ペンセゴフイナ族がそれぞれ宣戦布告の意志を表明してきた。彼らはヘラクレス側につくらしい」
 『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が手帳を翳して立っていた。
 小集落群は互いの文化に対して相互不干渉をとることで独自性を保っていたが、それだけに戦闘力は最低限のレベルで拮抗している。
「今回のことで味方になった部族は――クヌェ族、パルパ族、ハディ族、カッマ族の四つ。
 対して敵対を表明したのはデデ族、トイタ族、ペンセゴフイナ族の三つだ。
 部族の数ではこちらが上だが、亜竜たちの戦力を加味すれば互角……といった所だろう」
「『ゲゼルキドン』……強力な亜竜だったねえ」
 武器商人が『これは弱った』とばかりにややオーバーなリアクションをとってみせると、樹龍(p3p010398)がしばらく彼らの顔をきょろきょろ見た後ポンと手を叩いた。
「平たく言うと……儂らがその『亜竜のぶん』を倒してしまえばこの戦いに勝てるということじゃな!?」
「平たく言うとそうだけど平たく言い過ぎだな!」
 それが一番手を焼くポイントなんだぞ! と錬は続けようとしたが……そもそも自分達の目的がソレなのだ。いずれやらねばならないことである。
 それが、今になったということだ。
 リディアが剣を抜き、天に掲げてみせる。
「ヘラクレスとクリスタラード。彼らは全ての部族を食らいつくそうとしています。
 この運命を切り拓き、自由を手にするのは今です!」
 その横にクヌェ族の族長が並び、パルパ族、ハディ族、カッマ族の族長がそれぞれ手を翳す。
「共に戦いましょう! 自由のために!」

●ブラックブライア:塔は折れたのだから
 これは崩壊の物語であり、革命の物語だ。
 ブラックブライアという集落にはルールがある。いや、あった。
 住民達は戦い続け、勝者のみが塔を上る。上階の人間は階下に命令権を持ち、絶対の服従が求められる。この構造こそが彼らの生命力を高め、そして敗者を供物とすることで集落は牧場として機能できた。
 だがある者たちの到来によって、それらは全て過去の異物となりはて、ルールは崩壊したのだ。
「これからが本番だよ!」
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)はぴょんと飛び上がり、両手を腰に当てて立った。
 その隣では、『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)は静かに腕組みをしている。
 彼らは所謂『塔の覇者』であり、戦い抜いたことで頂点を手に入れた者たちだ。
 同時に、決定的格差社会であった筈のブラックブライアからそのルールを取り去り、『自ら最下層へと降りてきた』覇者である。
 セララと貴道の後ろにはバルマとボンズという前覇者たちが渋い顔で立っていた。
 いや、それだけではない。塔の第二階から最上階に至るまでの『全員』が、最下層に集められてしまったのだ。
 これはまさにルールの崩壊であり、秩序の破棄だ。
「……そっちはどうだ」
 貴道がちらりと振り返ると、『紲家』紲 月色(p3p010447)と『残秋』冬越 弾正(p3p007105)が頷きをもって返す。
「全員集まった」
「いつでも始められるぜ」
 彼らもまた、ルールの破壊者だ。最下層から順に全員を味方につけ、出来レースによって塔の構造そのものを支配してしまったのである。
 もはや塔の上り下りは見せかけだけの勝敗によって簡略化され、神聖視すらされていた隔たりはただの上りづらい階段と化している。
「ビクトリアは軍を再編するでしょう。ことここへ至れば、あの程度の集団でボクたちを止められない」
 『朽金の座』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)が、隣に立つ『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)に『ご一緒にいかが?』というジェスチャーをした。
 その手をとって、どこかシニカルに微笑んでみせる未散。
「押しつけた秩序を取り戻すために、管理亜竜の『ブラックアイズ』と結託してこの場所を襲撃する筈です。わたしたちはそれをただ、迎え撃てばいい」
 弱肉強食がこの塔の最後のルールであったなら。
 それをもって、この集落を攻略しよう。
 ブラックブライアを統べるのは――自分達人間か、はたまた亜竜たち怪物か。
 勝者がそれを、決めるのだ。

●ヴァイオレットウェデリア:死奉石(ほし)に願いを
 乙女たちが手を合わせ、祈りを捧げている。
 それは今亡き怪物への信奉であり、優しい過去への願いだ。
 この地。ヴァイオレットウェデリア集落は……行ってみれば『マシな場所』だった。
 旧管理亜竜バザーナグナルの支配と保護のもと、人々は周囲の怪物や狂暴な亜竜たちから襲われることなく暮らし、バザーナグナルの背景にはかのクリスタラードがついていたことから喧嘩を売ってくるような連中もいなかった。
 民は守られ、そして死を前にした者がその感謝と祈りによってクリスタラードへその残った生命を捧げるという独自の文化が根付いていた。
 彼らにとって死とは別れであると同時に循環でもあったのだ。クリスタラードという強大な存在の一部となって大空を舞うことで、祖先の魂は自由になるのだと。そう信じていたから。
 全てが壊されたのは、この地にひとりの魔種が出現してからだ。
 『超越者(ウルトラ)ヴァイオレット』と呼ばれる見目麗しき少女は、その飢えた瞳と狂暴な力を振り回し、民を次々に喰らっていったのだ。
 バザーナグナルは民を守るために立ち向かい――そして、滅びた。
 骨ばかりとなった亡骸はアンデッド化され、『死奉石』によって未来永劫この集落専用の暴力装置として操られることとなったのである。
「……以上が、集落ヴァイオレットウェデリアの過去だ」
 『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は調査書を手にそう締めくくった。
「あの寒々しい土地にも、美しかったころがあった……ってか」
 『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)は仮面の額部分に手を当て、やれやれと首を振る。
 ふと視線をやれば、『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)が祈りを捧げる乙女たちを見ていた。
「……あの方々も、『奪われた』のですね」
 『死奉石』。それは髑髏型の紫水晶でできたマジックアイテムだ。あれがバザーナグナルを支配する道具であり、逆に言えばバザーナグナルの魂が残った最後の器である。
「つくづく、生きてるうちに話してみたかった……」
 『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)の呟きに、『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)が肯定の頷きをした。
 ヴァイオレットウェデリアでにらみを聞かせていたアンデッド『リデッドバザーナグナル』を倒し、それを支配する道具を手に入れた彼ら。
 当然、次に行うべきは再びヴァイオレットウェデリアへと向かい、捕らわれている人々を救出することだ。
 あの場所から連れ出すことが出来たのは、いま祈りを捧げている数人乙女たちしかいないのだから。
 だがそのためには……。
「超越者ヴァイオレットと、今度は正面切って戦わなきゃならねぇ。正直、あの『ヴァイオレットちゃん』とやりあって勝てるきがしねえんだけどな」
 カイトの非常識なまでの回避性能を裏切るかのように鷲掴みにされたあの思い出が蘇る。
「……けど、やらねえと」
「はい」
 『死奉石』に目をやる。
 乙女たちは、これ以上バザーナグナルの魂が捕らわれることを望まない。『死奉石』を破壊し解放することを望むだろう。
 だが、最後にもう一度だけ、『かつての優しい支配者』と共に戦うという選択肢もある。
 選ぶのはあなただ。
 なぜなら、最後に戦うのもまた、あなただからだ。
 この物語に、決着を。

●グリーンクフィア:人は過去のパッチワークでしか未来を描くことができない
 理想のはなしをしよう。
 あるいは、理想だったものの話だ。
 『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はギターをゆったりと弾き、ある老人の話を思い出す。
 焼けた野原と焦げた岩場だけしか残らなかったこの場所――グリーンクフィア集落に住む老人の話だ。
「『ここはかつて、寂しい寂しい場所だった』――」
「『誰もが餓え、誰もが怯え、洞窟の奥で震えるだけの場所だった』――」
 彼岸会 空観(p3p007169)が続きをつぶやき、そして目を閉じる。
 グリーンクフィアという名が、初めからあったわけではない。
 なぜならこの場所は怪物たちに脅かされ住処をなくし洞窟へ逃げ込んだ亜竜種たちのたまり場に過ぎなかったからだ。
 彼らは元々、近隣の集落――ヴァイオレットウェデリアという場所から逃げてきた民だった。
 優しい支配者バザーナグナルの死と、新たなる暴虐な支配者からの逃避。しかし何もないこの場所で、彼らは『まだ死んでいない』だけにすぎなかったのだ。
 そんな土地に、管理亜竜『ベルガモット』が現れた。
 彼女――ベルガモットは住民達にあるものを贈った。
 それは花であり、未来だった。
 白く美しい花は、彼らに死の恐怖を忘れさせ、悲しい過去を忘れさせ、幸せな今だけを与えてくれた。
「あの『花』は人から欲望を奪う。生への渇望を捨てれば、確かに人はどんな環境でも『幸せに生きる』ことができたかもしれない。だが……」
 『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)はゆっくりと首を横に振った。
「あれは生きてるって言えないよ。歌って踊って、自ら身を投げて。クリスタラードの餌になることが幸せだって『信じ込まされて』飼われるなんて」
 『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)がぎゅっと拳を握りしめる。
 確かに、洞窟に隠れ震えて暮らすのはつらいだろう。
 けれどそれが世界の全てじゃない。
 怖くて震えていい。悲しくて泣いていい。けれど今を、自分を持って生きてこそ……人は人たりえるのだ。
「花丸ちゃんにはね、帰りたい場所がある。それができなくて泣いちゃうことだって、あるかも。けどね……それでいいんだよ。悲しくてつらくて、痛くて泣いちゃうような人生が……ちゃんと『過去』になるんだ。それが、『魂』ってやつなんだ」
「魂……」
 『七晶石』を手に、ぎゅっと握りしめる『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)。
「もしかしたら、ベルガモットは幸せな場所を作りたかったのかもしれない。けど、このやり方は正しくないよ」
 タイムたちは炎をもってこの場所を燃やし尽くし、そして住民達を『偽りの今』から解放した。
 彼らは怯え、未来への不安に震えている。
 一度は退いたベルガモットは、すぐにでも亜竜たちをまとめ上げ再びこの地を奪い返しにやってくるだろう。
 未来への不安を払えるのは。
 死への怯えを壊せるのは。
 いま、あなたしかいない。
 あなたが退けば、きっとこの場所はまたあの花でいっぱいになるだろう。
「皆、やるよ……」
 もう皆、夢から覚めたのだ。
 戦おう。
 己の意志で生きるために。

●オーシャンオキザリス:鈴の音が聞こえたら、君が来た合図だ
「ありがとう……皆を取り戻してくれて……ありがとう……」
 大粒の涙をこぼし、鈴・呉覇(リー・ウーパー)は『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)の手を握った。
「きみが事情を話せなかったのは……『これ』が理由だったんだね」
 トストが振り返ると、『海の秘宝』を持った『ゴミ山の英雄』サンディ・カルタ(p3p000438)が椅子に腰掛けていた。
 その周りには困惑した表情の老若男女。いや、若い人が大半だ。
 皆、鈴家の治める集落からおくられた『生贄』たちで、つい最近までオーシャンオキザリス集落でぼんやりと暮らしていた。
 当然、彼らはクリスタラードの餌として献上されるために飼われていたのだが……。
「『海の秘宝』に洗脳効果があったなんてな。こいつが『アリアベル』の弱点だっていうのは、そういうことか」
「アリアベルにとっては、クリスタラードへの供給を安定させるための道具だったし、いざとなれば敵対する存在を支配することだってできる……恐ろしい武器よね」
 『特異運命座標』鯤・玲姫(p3p010395)が秘宝に手を翳してみる。
 どうやら元々置いてあった神殿から持ち去った時点で力は失われており、今やちょっと綺麗な水晶玉にすぎない。
「ねえ、これで終わりじゃないでしょう?」
 玲姫が問いかけると、トストとサンディが勇ましい目をした。
「『海の秘宝』がまた作られれば今のようなことがくり返される。だから、ここで叩かなきゃ……」
「幸い、住民もみんな逃げてきた。盾にされる心配もないな!」
「あら、その人数だけで行くつもり?」
 呉覇がさっきまでの表情をコロッと変えて、くすくすとどこか挑発的な笑みを浮かべて見せた。
「私達がアクアベルに頭を垂れ続けるのはもう終わりよ。皆を取り戻し、洗脳の心配もなくなったからには……」
 どんっ、と胸を叩いて呉覇はその胸を張った。
「鈴家の名に賭けて、あなたたちと一緒に戦うわ! 倒しましょう、海底の支配者を!」

GMコメント

 <霊喰集落アルティマ>を巡る長編シナリオ第三回。
 『アルティマ』という集落群をめぐる物語はおそらくこれが最後となるでしょう。
 クリスタラードを丸裸にするための、これは最強の一手となるはずです。
 内容的には続きモノとなっていますが、OPに示した部分は途中参加がしやすいパートとなっていますのでお好きなパートを選択して参加してください。

※このシナリオは『霊喰集落アルティマ』にまつわるものです。
必ずしも過去の内容を参照する必要はありませんが、過去のシリーズやTOPログを見ることで解決する謎や疑問もあるかもしれません。
また、途中参加や「前までの内容を忘れてしまった」という方も特設ページを使うとわかりやすいでしょう。
 https://rev1.reversion.jp/page/ultima

・プレイングのかけ方、選び方
 『パートタグ』の説明のなかで、誰でも参加が可能なパートについて説明しています。
 ですが中には、前回のなかで特別な役割や使命を与えられた方もいるかもしれません。
 そういった方はそれに対応したパートタグを選択しつつ、自分なりの行動をとってください。
 迷ったら相談掲示板などで周りに尋ねてみてもいいかもしれません。
 第一回(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7413)
 第二回(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7790)

■■■プレイング書式■■■
 迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
 大きなグループの中で更に小グループを作りたいなら二つタグを作ってください。
・三行目:実際のプレイング内容

 書式が守られていない場合はお友達とはぐれたり、やろうとしたことをやり損ねたりすることがあります。くれぐれもご注意ください。

■■■パートタグ■■■
 以下のいずれかのパートタグを一つだけ【】ごとコピペし、プレイング冒頭一行目に記載してください。
 ここで紹介しているものは途中参加OKなものです。
 また、専用のミッションを与えられているPCが直接新規参加者に協力を求めることもOKとします。

【黒】ブラックブライア
 特徴:高い塔|飛行有利|鳥系亜竜
 管理亜竜『ブラックアイズ』及び『ビクトリア』による全部隊との最終決戦を行います。
 特徴に『飛行有利』とありますが、ビクトリア戦には飛行能力は必要ありません。
 この戦いには支配した三つの塔の住民たちが味方として参戦しています。
・ブラックアイズ
 巨大な鴉型亜竜であり、高い空中戦闘能力及び高高度爆撃能力を持っています。
 対抗するためにはこちらも飛行し、空中で戦う必要があるでしょう。
 風を操った斬撃や射撃を得意としているため動きの激しいドッグファイトが展開されます。
 また、ブラックアイズの眷属とみられる『大鴉』が大量に出現しこちらの妨害をはかるでしょう。
・ビクトリア
 この地に古くから住まう亜竜種です。ヴィクトールに対し強い執着と、そして恐怖をもっています。
 剣を主武装とした格闘戦を得意とし、個人戦闘力は非常に高く、自らが支配する塔のファイターたちを引き連れ一個の軍としています。
 また、他参加者はビクトリアに関して調査した記録を偶然あるいは意図して見たことがあってもよいものとします。
『ビクトリア調査記録(https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/3114)』

【白】ホワイトホメリア
 特徴:地下空洞|暗視有利|蛇系亜竜
 管理亜竜『ホワイトライアー』率いる蛇の軍団へブッコミをしかけます。
 ホワイトホメリアは大きな洞窟のようなつくりになっており皆暗視能力を有しています。そのためこちらも暗視能力をアクティブにするか、そのへんに灯りになるものを投げて戦うのがよいでしょう。
 また、この戦いにはアダマス率いるペイト坑道警備隊が味方として参戦します。数は多くありませんが全員めちゃ屈強な戦士達です。
・ホワイトライアー
 巨大な白蛇型の亜竜で、人間をひとのみにして殺すだけのパワーがあります。
 今回は焦りと恐怖によって発狂状態にあるため、全力でこちらを殺しにくる筈です。
・蛇人間
 ホワイトライアーが焦りから生み出した眷属です。
 人型のフォルムと人間並みの知能をもち、戦闘能力もまあまあの戦士なみにあります。
 ホワイトライアーのための私兵として機能するでしょう。
 また、これ以外にも大蛇型の眷属が大量に出現しこちらを迎え撃つでしょう。

【紫】ヴァイオレットウェデリア
 特徴:廃都|霊魂多数|屍系亜竜
 超越者ヴァイオレットとの最終決戦が行われます。
 前回のあとがきに記した通り、このパートの参加者のうち半数以上が『死奉石を用いて使役する』旨を宣言した場合、リデッドバザーナグナルを味方として戦わせることができます。
・超越者ヴァイオレット
 圧倒的戦闘力を誇る魔種です。その戦闘スタイルは近接格闘に偏っているとはいえ、凄まじいステータスの高さでこちらを圧倒してきます。
 また、EXFの高さや高い再生能力もあって非常に倒しづらい相手でもあるようです。
・『たべかす』
 超越者ヴァイオレットによって作り出されたアンデッドモンスターの群れです。
 が、今回非常に数が少なく、その代わりに特別製のアンデッドが複数体召喚されています。
 数こそ少ないですが、放っておくと厄介になりがちな敵です。

【赤】レッドレナ
 特徴:溶岩地帯|過酷耐性&火炎耐性有効|炎系亜竜
 溶岩地帯のレッドレナへ、住民達と共に一斉攻撃を仕掛けます。
 敵は管理亜竜バルバジス率いる亜竜軍団。住民達の闘志を信じて共に戦いましょう。
・バルバジス
 人型の亜竜であり、巨大な斧を武器としています。
 非常にパワーが高く、少人数でかかると敗北の危険があります。
 5~6人程度の精鋭でチームを組んで挑みましょう。
・亜竜軍団
 溶岩地帯にすまう炎の亜竜たちです。炎系BSに耐性をもち、炎系の攻撃を行います。
 彼らとの戦いを住民達に任せるか、あるいは1~2人で住民達を指揮するかといった対策をとることになるでしょう。

【青】オーシャンオキザリス
 特徴:海底&海辺|水中行動必須|両生類系亜竜
 このエリアでは『水中行動』スキルが必須になります。
 強力な亜竜たちを相手に、最後の戦いを挑みます。
 これまで温存されてきた管理亜竜『アリアベル』を中心に、海中を激しく動き回るダイナミックな戦いが起こります。
 また、この戦いでは鈴家の戦士達が援軍に駆けつけ、援護射撃や回復支援を行ってくれます。
・アリアベル
 巨大魚の姿をした亜竜です。岩山や建造物を破壊しながらも激しく泳ぎ回り、水を圧縮した弾丸を放ったり相手をかみちぎったりと獰猛な戦い方をするでしょう。
 精鋭チームで力を合わせ、この巨大な敵に立ち向かいましょう。
・海中亜竜
 ピラニアの群れや巨大アナゴ、オウムガイといったような姿をした怪物たちです。
 多くは鈴家の戦士達が引き受けてくれますが、彼らの被害を減らすにはこちらを担当するメンバーも必要になるでしょう。

【黄】イエローイキシア
 特徴:密林|毒耐性有効|虫系亜竜
 部族を二つに分かれた最終決戦が行われます。
 戦場はジャングルの中。鬱蒼と生い茂る木々の中を駆け抜け、大量の虫型亜竜や敵対する部族の亜竜種たちを倒しましょう。
 味方には四つの部族がついており、彼らも武器を取って戦ってくれます。
・ヘラクレス
 このエリアの管理亜竜で巨大なカブトムシ型の怪物です。
 高い防御とそこからくりだす高火力の攻撃。倒すには一工夫いる相手でしょう。
・ゲゼルキドン
 非常に狡猾で高い火力を持った虫型亜竜です。通称『不死殺し』。
 連携して戦わなければこの敵を攻略することは難しいでしょう。ですが逆に言えば、連携こそがこの敵を倒す鍵となります。
・敵対部族&虫系亜竜部隊
 デデ族、トイタ族、ペンセゴフイナ族の亜竜種たちです。
 主には味方部族たちに任せて大丈夫ですが、彼らの被害を減らすために指揮をとって戦ってもよいでしょう。

【緑】グリーンクフィア
 特徴:高原(焼け野原)|不気味|植物&獣系亜竜
 一度は退いた管理亜竜『ベルガモット』が全ての亜竜を集合させ、再度この土地を取り戻すべく襲撃を仕掛けてきます。
 住民達は戦力にはならないので彼らをひとまず逃がし、皆さんの力を合わせてベルガモット軍を迎え撃ちましょう。
・ベルガモット
 第三の目をもつ獣型の亜竜です。いわゆるドレイクタイプにあたり、獣のような獰猛さや力強さ、そして生命力の高さを武器としています。
 眷属として従えている亜竜もこのドレイクタイプが主であり、四足獣らしい機動力の高い戦闘スタイルをもっています。
 引っ張り回されないためにこちらも騎乗戦闘で対抗したり、高い機動力で対抗したりするとよいでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <霊喰集落アルティマ>L glandes argentum完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月14日 22時10分
  • 参加人数50/50人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(50人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
武器商人(p3p001107)
闇之雲
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
冬越 弾正(p3p007105)
終音
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
天下無双の狩人
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
ノア=サス=ネクリム(p3p009625)
春色の砲撃
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
襲・九郎(p3p010307)
フレジェ
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者
鯤・玲姫(p3p010395)
特異運命座標
熾煇(p3p010425)
紲家のペット枠
紲 月色(p3p010447)
蝶の月
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

リプレイ

●イエローイキシア:自由の部族
 密林の奥にひっそりと存在する泉には、精霊がいる。
 彼女に名はなく、古代語における『泉の精霊』という意味のことばがあてられていた。
 ゆえに本来ならば自由意志はなく、この地でおきた支配や搾取の歴史にも干渉しない姿勢を維持していた。
 そのはずだったのだが……。
「レイチェル、オデット……あなたとの出会いが、私を変えたのでしょうか」
 世界を信じる気になった、などと言えば陳腐だろうか。
 泉の精霊はただ、ほんのすこしだけ、彼らを助ける気になったのだ。
 それは奇跡と称して、およそ間違いはない。この精霊にとって『気が変わった』などと、はるか昔から閉じた世界で流るる水のごとく存在してきた存在にとって、異例のことであったのだから。
 想いをはせる。
 戦いに、彼らは勝利することができるのだろうか。

 三つのリズムを刻み、槍や弓を掲げ団結するクヌェ族とパルパ族。
 代表となる巫女が舞いを踊ることで祈りの姿勢を強くとるハディ族。
 勇猛さを示し祖先を誇れ、冥界で祖先が臆病と嗤われることをよしとするのかと叫ぶカッマ族。
 多種多様な独立した文化をもつ小部族たちが、いまここに団結していた。
 各部族の長たちは、『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)のもとに集まりその光景を見ている。
「よもや、こうして団結することがあろうとは。いったい年百年ぶりだろうか?」
「さあ。もはやだれも覚えていないほど古来から、我等は互いに距離をとりあってきた」
「それが今、お主等の力で纏まったのじゃ」
 髭達磨のようなカッマ族の族長ェランカッマ・クゥエッマがリディアと、その仲間達を見る。クヌェ族の族長がつるりとした頭をなでた。
「デデ族、トイタ族、ペンセゴフイナ族を非難するつもりはない。強者につき生きながらえることは、部族の民を守ろうとするならありえる選択だ。ここに正当性などというものはない。部族の種を残すことこそが、族長の真なるさだめなのだから」
「ありがとうございます……皆さん」
 リディアは剣を抜き、先頭をきって歩き出す。
 イエローイキシア密林の中央。全ての部族が決戦を迎える森の中は、背の高い木が刈り取られたことであちこちに強い木漏れ日があった。
 大きく距離をあけ、敵対部族の亜竜種たちとゲゼルギドン、そしてヘラクレスがこちらを睨んでいる。
 スポットライトのごとき光をあび、剣を高く掲げるリディア。
「デデ族、トイタ族、ペンセゴフイナ族の戦士達――そして"管理者"ヘラクレスと、その軍勢よ!
 私達の目的は、貴方達の命を奪う事でも、この地を平定する事でもありません!
 この地に生きる全ての命に、真の自由を取り戻す為に戦っているのです!
 貴方達が、心から『霊喰晶竜』に身命を捧げる事を望むなら、この剣で雌雄を決する他ありません」
 全ての部族の目に闘士が宿る。
 その目を見て、リディアはこの戦いが避けられないものだと理解した。
 彼らは己の家族を守るため、他部族をクリスタラードに捧げてでも生き残るべく、鬼と化すことを決めたのだ。
 彼らからすれば、管理亜竜はともかくクリスタラードという最強の存在に人間が太刀打ちできるとは思えないのだ。未来をイレギュラーズに賭けるには、確かに重すぎる責任だろう。
「……いいでしょう。ならば、見せつけるまでです。
 恐怖と絶望によって支配されたこの世界を、勝利と希望によって照らすまで!」
 想いだせ。人類は戦える。
 リディアは『続け!』と叫ぶと敵対三部族めがけ突撃した。
「レオンハートの名に懸けて――!」

 リディアの突撃は、ペンセゴフイナ族による精霊魔法の雨を掻い潜り敵陣を破壊する。
 いいスタートをきってくれたと、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は深く頷いた。
「あの人、本当に『使える』ひとですねえ……」
 美咲が見ていたのは今回の勝利であると同時に、『勝利した後』であった。
 ヘラクレスたちがこの集落から撤退しても、全七部族が真っ二つに分かれて敵対したままでは結局殺し合いが起きてしまう。
 勝利したあとに彼らを迎え入れるための準備を、美咲は事前にしていたのであった。
『彼らはいま五分五分の賭けをしている状態っス。貴方がたはたまたまこちらに賭けた。負ければ全員クリスタラードのエサっス。けれど勝ったら? 相手を誰かのエサにしますか? 相手もこちらと同じ人間。同じ条件なんでス』
 この戦いに勝利すれば、イエローイキシアはついに七部族が手を取り合い暮らす亜竜集落となるだろう。
 勝利すれば、だが。
「さあて、これが一番難しいんスよねー」
 美咲はワイバーンのバーベへと跨がり、空へと飛び上がる。眼鏡の側面をタップして突撃していく味方部族をターゲットするとAR画面右上に『回復支援ON』のシグナルマークが表示された。
「相手部族の皆さん。ここで殉じるならそこまでっスよ?」
 リディアの演説によって多少なりとも気持ちがゆらいだ連中もいるだろう。士気でいえば、こちらが圧倒的に上なのだ。
「はぁ…クリスタラードの前に亜竜種を殴らねばならんのか。多少は鬱憤を晴らしたいところだ」
 一方で『威風戦柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は味方部族のなかに交じりつつ、広域にわたって回復支援を行っていた。
 練達式魔導五輪バイクで木々の間を疾走しながら、敵陣から飛び出してくる巨大なダンゴムシ型の亜竜たちを指さす。
「部族の頭数はこっちが上だ。気力も体力も纏めて回復してやる。なんとか持たせてくれよ」
「頼んだ」
 パルパ族の戦士が弓を構え、亜竜めがけ部族の戦士達と共に一斉に射撃を仕掛ける。
 ボーリングのピンのように彼らは吹き飛ばされるが、マニエラの治癒によって立ち上がれれば『数の利』は維持される。
 ヒーラーの強みが活きるのはこんな時だ。特に継戦能力の高いヒーラーであるマニエラが部族の猛攻を維持し続けることで相手を一方的にすりつぶすことができる。
「邪魔ナ治癒使イガイルヨウダ。潰セ!」
 そんなマニエラを脅威と睨んだゲゼルキドン。彼は斧をもったデデ族の戦士達をつれマニエラへと強襲をしかける。
「クリスタラードを後悔させるまでは簡単に死ぬわけにもいかぬので、な」
 マニエラは自らを治癒しながら後退。美咲に後の回復支援を頼むようサインを出しながらゲゼルキドンの誘導を開始した。

「よーしきたきた、マニエラ! そのまま走れ!」
 待ち構えていたのは『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)。
 一見無作為に打ち込んだようにみえる木杭の列はには見えづらいワイヤーが張り巡らされ、容易に通れる場所とそうでない場所がわかれている。
 いちいち全員で試行錯誤したくない敵は成功例を辿るように集中することになり、結果敵の流れを効率的に限定できるのだ。
 デデ族の動きをある程度制限したところで、錬は用意していた『式符・陰陽鏡』を発動。
 瞬間鍛造した魔鏡が頭上に現れ、虚像の鏡像から溢れる暗黒の雫がデデ族へと降り注ぐ。
 結果、彼らは別のワイヤーにひっかかり団子状に転倒。潜伏していた数人のクヌェ族が彼らを一気に抑え込んだ。
「交代だ! 『不死殺し』相手とならば俺の方が耐えやすい!」
 飛び出していった錬はゲゼルキドンの繰り出すカマキリのような凶悪な腕による打撃を瞬間鍛造した石壁によって防御。即座に破壊されるものの、大きく飛び退いて構えた。
「ヒヒヒ、なるほどねぇ……」
 その様子を見ていた『闇之雲』武器商人(p3p001107)は、ゲゼルキドンがもとから亜竜種たちと連携するつもりがないことを早々に見抜いていた。
 更に言えば、こうして突出した時点でヘラクレスとの連携も考えられいないとみるべきだろう。
 つくべき隙はここであり、活躍のしどころもまた、ここである。
『対抗陣地に誘い込むよ。ついておいで』
 錬にハイテレパスで指示を送るとゲゼルキドンを倒すために設営した陣地へと走り出す。
 一方ゲゼルキドンは腕を振り回し錬を追い回すことで密林の奥へと進んでいく。
「ドウシタ。逃ゲルノミカ」
「ああ逃げるだけさ。――それで勝てるからな」
 錬がニヤリと笑い、地面に柱を瞬間鍛造することで大きく後方へとジャンプする。
 柱を破壊しながら追いかけるゲゼルキドン。宙に浮いた相手など斬り放題だとばかりに腕をふりこむ――が、彼の足はがくんとおちた。
 それは、浅く広い川だった。追いかけることに夢中で川の存在を忘れていたゲゼルキドン。
 細長い構造の彼の足は、水辺を進むことに適していない。
 戻ろうとした所で、複数の木々が音を立てて倒れ後退を阻んだ。
「ヒヒヒ……」
 前方から現れる武器商人。
 武器商人は『神滅のレイ=レメナー』を発動し、至近距離から大量の魔力を叩き込んでいく。
「小癪ナ!」
 ゲゼルキドンは武器商人を払いのけるべく高い火力で攻撃をしかけるが、『あえて』パンドラを使用して復活した武器商人はその有り余るダメージ値をそのまま利用し、ゲゼルキドンへと殴りかかる。
 今度こそ潰してやると必殺の構えをとるも、それを今度は庇いに入った錬が受け止め【棘】能力によって反射するという具合だ。
 ハメられた。ゲゼルキドンはそう察しこの場を逃れるべく暴れ出す。
 そこへ――。
「泉の精霊さん……かっこ悪いところは見せられないね」
 潜伏していた『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が木々の間から飛び出し、流れる川の水面へと手を浸す。
「これで終わりにするわ、そして精霊さんのためにも平和なジャングルを取り戻すのよ」
 オデットが送り込んだ光の粒は水中を通り、水面を乱反射。
 大量のプリズムがゲゼルキドンの周囲へと広がっていく。
「クッ!」
 早く逃れなくては。焦ったゲゼルキドンは跳躍しようとするも、浅い川底はやわらかく足をとられるばかりだ。
「オノレ! コノヨウナ手デ、我ガ、収奪の槍ガ!」
「光なら無限にあるわ、いくらだってあんたた達を殴ってやるんだから」
 くらいなさい! とオデットは力を流し込んだ。
 乱反射する光が熱光線となって全方位から次々にゲゼルキドンへと殺到。
 ゲゼルキドンの巨大な身体は次々にバラされ、最後には頭がどしゃんと川へと落ちた。
「オノ……レ……」
 鈍る声で呟き、ついに動きをとめるゲゼルキドン。武器商人はその様子をじっと見つめ、そして歩き出した。ヘラクレスのほうへとあたるつもりだろう。
 オデットもそれに続こうとしたところで、川の水面からふわりと何かが浮かび上がった。
「これは?」
 小さな、そしておぼろげな影は『泉の精霊』に見えた。
 力の届く範囲から大きく離れているせいだろう。姿も小さく力もあまり感じられない。
 けれど、こちらに手を振るそのジェスチャーは明らかに応援のそれであった。
「うん、ありがとう! 行ってくるね!」
 オデットもまた手を振り、翼をはばたかせた。

 部族間の戦いは回復支援に富んだイレギュラーズ側が優勢。
 亜竜の準主力であるゲゼルキドンは武器商人たちに倒され、そちらの戦力はいまヘラクレス側へと向かいつつある。
「ふむ。こりゃあ、泉の精霊に礼を言わんとなァ」
 ヘラクレスと対峙していた『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が、その巨体から繰り出す突進をかわしながら呟いた。
「今こそ此の地を…ヘラクレスとクリスタラードの手から取り戻すぞ!」
 そして、クリスタラードの横っ面に今度こそ最高のパンチをくれてやるのだ。
 実際、彼の餌場であり力の源であった集落を失うことでどれだけ取り乱し、そして怒り狂うのか。想像するだに愉快である。
「──先ずはお前からだ。ヘラクレス!」
 レイチェルはぎゅっと握った緑色の石に想いを込め、そして腕にはしった紋様をなぞるように指をはわせる。
 そのときふと、手の中で石が震えた気がした。言葉にならぬ何かで、レイチェルを応援するような、そんな震えだ。
 口の端で小さく嗤うレイチェル。
「何がおかしい?」
 ヘラクレスは振り返り、レイチェルを睨む。
「いや。アンタの消えた密林はさぞ暮らしやすいだろうと思ってなァ」
 レイチェルの挑発的な言葉に、まっすぐな突進をしかけるヘラクレス。
 対抗し、レイチェルは右半身の術式制限を解除。燃え上がる炎のような。あるいは吹き上がる血のような魔力がヘラクレスへと解き放たれる。
 一対一による真正面からの激突――かに、思われたが。
「隙だらけだな」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の『験禳・搶魂汞手』が、ヘラクレスの横っ面を思い切り殴りつけた。
 水行のマナが堅く凝固したそれは石より堅く土より柔軟だ。
「ウウッ!?」
 思わず突進の角度を誤ったヘラクレスは巨木へと激突。
「遂に、ここまで追い込む事が出来たのか。
 あともう一息――正念場だな、皆」
 すたっと枝に着地した汰磨羈のもとへ、武器商人や仲間達が集まってくる。 
「随分と分厚い甲殻のようだが。さて、その総重量はどのくらいの負荷を生むのかな?」
「…………」
 汰磨羈は早くもヘラクレスの弱点に気付いていた。
 というのも、彼の『収穫方法』は虫型亜竜たちに任せ集落を一個ずつ襲うというもので、その利点は亜竜を広域に散らす必要がないことにある。しかも現場監督にゲゼルキドンを向かわせるほど自らは動かない。
 ここまでくると、ヘラクレスが『できるだけ動きたくない』と考えていることがわかる。
 実際、ペイトら大集落へと仮にでたホワイトホメリアやブラックブライアに比べ、ここイエローイキシアは外部への狩りにすら出ていないということがわかっっていた。
 こうなるともはや確定したようなもの。長く様々な戦いを経た結果か、あるいは成長し過ぎた反動か。ヘラクレスはその防御力とパワーの一方で、継戦能力に酷い欠点を抱えているのだ。
「さあ、一本目だ!」
 汰磨羈は凝縮したマナをウォーターカッターのように噴射。ヘラクレスの前足関節部を破壊する。
「ぐおっ!」
 がくんと身体が傾き、ヘラクレスは残った足を駆使して汰磨羈へと突進をかける。
 が、武器商人や錬たちが庇いに、美咲やマニエラが治癒にあたることで突進のパワーが吸収される。
 更にリディアとオデット、更にレイチェルがヘラクレスの脚部関節をピンポイントで攻撃し始めた。
「こんな! こんなはずじゃあなかった! 私だけは生き残って……!」
「残念ながらそうはならん」
 足を折られどすんと地面に腹をつけ、がしがしと半端な足で地をかくのみとなったヘラクレス。
「搦め手で生じた隙にパワープレイをねじ込む――その効果を、死んで覚えていけ」
 汰磨羈は最後の一撃を、ヘラクレスの装甲の隙間を通すように打ち込んだ。

●ヴァイオレットウェデリア:LAST HOPE
 乾ききった廃都に、少女はいた。石でできた尖塔の上に立ち、砂混じりの風を浴びている。
 クリスタラードから受けた傷は、未だに癒えない。ヒリヒリと体中が痛み、それが本能的恐怖となって体中を支配しているように思える。
 塔の上から積み上がった檻のエリアに目を向ける。『牧場』の人間はまだ大半が残っている。これを贄として献上すれば、暫く持ちこたえることはできるだろう。
 減ってしまった『たべかす』は、何人か殺してアンデッド化することで労働力として補充できた。魔力を注ぎ込み戦闘力を強化させたことで、セキュリティ面は以前より向上したと言える。
 生産性は、大幅に低下してしまったのだが。
「大丈夫。まだ大丈夫。亜竜集落を襲えば人間は確保できるし、私一人でもそのくらいはできるはず。問題は……」
 塔の上で目を細める。
 こちらへ歩いてくる六人の人影が見えたからだ。
 隠す気も無く堂々と廃都ヴァイオレットウェデリアへ踏み込んだ六人こそ……。

「ありがとな、リュート。お前から貰ったこの『鍵』……今こそ使わせて貰うぜ」
 亜竜種たちを閉じ込めている檻。それを開くためのマスターキーを手に握りしめ、『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)は翼を広げた。
「俺は檻の解放と避難を優先する。ヴァイオレットに食べかすにされる、もしくは力にされるのが一番厄介なことになるからな。
 ……そっちは頼めるか?」
 カイトが視線を向けると、『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)が手にした『死奉石』を見つめていた。
 一秒ほどの沈黙を挟んで、『はい』と小さく答える。
 彼らが何をするのか理解しているのだろう。
 『たべかす』や両腕を肥大化させたアンデッド兵たちが集まり、こちらの行く手を塞ぐ。
 『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は剣に手を伸ばすと、身を僅かにかがめるような姿勢をとった。
「さて、ここまで来たらヴァイオレットとの決戦か……このヴァイオレットウェデリアの民を解放するためにも、今ここで決着をつけよう!」
 攻撃の意志を感じ取ったからだろうか。
 身構え飛びかかろうとしたアンデッド兵の腕が突如として外れ、地面に落ちる。
 ハッとした様子でそれを見下ろすアンデッド兵。その頭すらも切れて落ち、次の瞬間にはシュンと音を立ててシューヴェルトが元の位置に立っていた。
 カチンと刀を収め、再びの抜刀に至る構えに移る。
 その一方で、『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)が『たべかす』めがけて走り出した。
「隙だらけである!」
 両腕を鎖で拘束した彼だが、跳躍しソバットキックを繰り出せばその亜竜種独特の踵爪が『たべかす』の頭部へ食い込むように突き刺さり、後方へ投げるかのように飛ばす。
 練倒は一度着地すると連続ジャンプキックを繰り出しながらアンデッド兵たちをはねのけていく。
「竜の支配する牧場、旧支配者バザーナグナル、全てを破壊した超越者(ウルトラ)ヴァイオレット……だいたい分かったぜ。
 人の牧場ってのは結構アレだけど、あれだけ慕われてたならまあ、悪いやつじゃなかったんだろうな」
 『ヤドリギの矢』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は弓を構え、アンデッド兵の頭へと狙いをつける。
 矢を放つ――その瞬間、ミヅハの肩からとんだ『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)が矢へとしがみつく。
 高速で飛んだ矢とリリー。矢尻がアンデッド兵の頭に突き刺さった瞬間にリリーは再び跳躍。頭の上を飛び越えつつも、とりだした『DFCA47Wolfstal改』を頭めがけて撃ちまくった。
 くるりと宙返りをかけ、飛んできたワイバーン『リョク』につかまって上空へと飛び上がる。
「覇竜の皆の為にも……頑張らなきゃねっ……!」
 そのままバザーナグナルのもとへ飛ぼう――とした矢先、リリーは凄まじい殺気に身をびくりと震わせた。それはリョクも同じだったらしく、本能的に身をよじる。
 そのおかげだろう。真上から雷のごとく下りてきた『衝撃』を奇跡的に避けることが出来た。
 ズドンと音をたてたそれは半壊した屍兵を粉々に吹き飛ばし、はじけた血肉の破片が『それ』に付着する。
「あら、あらあら……」
 ハニーシロップのような甘い、そして幼い声色で立ち上がる少女。美しくも艶めかしい赤いドレス。紫色の瞳とルージュ。
 斜めにカットされた前髪は、どこか都会的な大人を思わせる。
「そっちから来てくれるなんて、お姉さん嬉しい」
 彼女――超越者(ウルトラ)ヴァイオレットは頬に付着した肉片を指でぬぐい、口へと持っていく。
 ぺろりとなめるその仕草すら艶めかしく、その欲望に満ちた瞳に澄恋たちはぶるりと本能的な震えを得た。
 以前に戦った時のそれとは比べものにならない程の『本気』だ。
「丁度おなかがすいてるの。『いただいて』いいかしら――!」
 ヴァイオレットが飛びかかる。
 狙いは澄恋。澄恋はすかさず死奉石を仲間にパスし、突き出された超越者ヴァイオレットの両手をがしりと自らの手で掴む。互いの五指をからめるように握り込むと、至近距離で顔をつきあわせた。
 放り投げられた死奉石はカイトがキャッチし、そのまま空中を高速滑空しながらリリーへとパス。それをシューヴェルトへと間接的にトスすると、シューヴェルトは片手でキャッチしくるんと一回転をかけ勢いをのせつつ練倒へとパスした。
 練倒は拘束された両手でそれを掴むと猛烈な速度でダッシュ。
 倒れたバザーナグナルへと死奉石を押し当てた。
「バザーナグナル殿、状況は理解していると思うであるが良き統治者であった貴殿に超越者ヴァイオレット殿との戦いに助力を願いたい!」
 一息に叫ぶ練倒。
「目覚めよ、リデッドバザーナグナル!」
 輝く死奉石。バザーナグナルの目がカッと開き、紫の光を帯びる。
 霊魂疎通を試みた練倒は、その魂から溢れる意志の濃度にびくりと背筋を伸ばした。
 無念や怒りや憎しみ、その他数え切れないほどの感情を渦巻いたその上で。
 『民を守るべし』という強烈な意志が爆発的に広がっていったのだ。
 ゴオオオウ、という遠い雷鳴にも似た咆哮と共に起き上がるバザーナグナル。
「よし!」
 練倒は反転。ハッとして振り返る超越者ヴァイオレットめがけてファイアーブレスを放出した。
 同時にバザーナグナルが紫の光を帯びたブレスを放射。
 澄恋とつかみ合っていたがため防御もできない超越者ヴァイオレットは、その一瞬だけ『ギッ』と歯を見せ……そして笑った。

 空に向けて乱射される骨の弾幕を、しかしカイトは芸術的なまでのマニューバで回避していった。
「ヴァイオレットちゃんならともかく、アンタらじゃ俺をとらえられねえよ!」
 翼をまるめ鋭く檻の山へと着地すると、次々に檻を解錠していく。
 とはいえ、全ての檻の鍵穴に鍵を刺して回してをくり返していれば隙もできようものである。
 何回かめの解錠をしようとしたタイミングで、カイトの背にアンデッド犬が飛びかかる。犬と言っても人間を無理矢理犬のように変形させた怪物であり、いびつに変形し裂けた顎からはのこぎり状の歯がのぞいている。
「――ッ!?」
 殺気に気付いたが、鍵を差し込んだ状態で逃れる暇はない。鍵を置いていくわけにもいかないのだ。
 と、そこへ。
「そのまま続けろ!」
 間に割り込んだシューヴェルトが抜刀。剣の描いた白く美しいラインがアンデッド犬の顎を強制的に撃ち弾く。
「貴族騎士流奥義――『碧撃』」
 すかさず腰から抜いた小ぶりなマスケット銃に呪いの力を解放すると、アンデッド犬の胴体に押しつけて引き金を引いた。
 通常の銃撃ではありえない衝撃がアンデッド犬を貫いていく。
「住民の統率と避難は僕に任せろ」
 パスを求めるように手をかざすシューヴェルト。カイトは『助かった』とばかりに彼に鍵をパスすると、垂直離陸で高度をとって超越者ヴァイオレットの方角へ反転。空中で直角に曲がるほどの威力で翼を羽ばたかせ仲間の支援へと向かった。
 それを一瞥してから、シューヴェルトは鍵を手の中で回す。

「いただきまぁっす!」
 大きく口を開き、歪んだスマイルでミヅハへと迫る超越者ヴァイオレット。
 ミヅハは引き撃ちをかけながら相手の足を狙って弓を放つ。
 彼の矢は見事に超越者ヴァイオレットの右足を貫通したが、知ったことではないとばかりに踏み込み、瞬間的に距離を詰めてくる。
 第二射。超越者ヴァイオレットの手のひらを貫通。そのまま超越者ヴァイオレットはミヅハの腕をがしりと掴み、引き寄せる。
 小柄な肉体からは想像もつかないほどの強さで引き寄せられたミヅハの顔面に食らいつかんばかりに口を開く超越者ヴァイオレット――だが、その側頭部をリリーの銃撃が襲った。
 特殊弾頭のコンボによって、そこいらのモンスターであれば完封できるほど強力な攻撃が仕掛けられた……はずだが。超越者ヴァイオレットは顔の半分が吹き飛んだだけで済んでいた。
 いや、外見的には全然済んでいない。即死していて然るべき外傷だ。
 にも関わらず、腕をナイフで切り落として飛び退くミヅハから興味をうつし、リリの方をふりかえって半分しかない顔で笑う。
「リョク!」
 乗っていたワイバーンに呼びかけ飛び退こうとするが、それよりも早い速度で超越者ヴァイオレットは距離を詰め、跳躍し、リリーの身体をがしりと掴んだ。
 ぺろりと唇を舐める超越者ヴァイオレット――を、バザーナグナルの爪が強引にひっぱたいた。
 縮尺的に言えば、リリーに対する超越者ヴァイオレットと同じほどの大きさである。強引に地面へ叩きつけられた超越者ヴァイオレットに、かけつけたカイトが槍を放つ。
「今だ!」
「超越者ヴァイオレット殿! 聞きたいことがないわけではないであるが教えて貰えるとは思っていないであるから全力でお相手させて貰うである!」
 練倒のドラゴンブレスに合わせ、澄恋が跳躍し腕を振り上げた。
 紫の蝶の幻影があふれ出し、それらが右手に集中し巨大な爪を作り上げる。
「無念を、ここで――!」
 手を伸ばす超越者ヴァイオレット。
 が、それよりも澄恋の爪がその胸を貫くほうが早かった。
 地面に倒れ、叩き潰された形でひどく変形した超越者ヴァイオレットは……半分だけの顔でにへらと笑った。
「あぁ……美味しかった」
 目が上向き、伸ばしていた手がだらんと地面に投げ出される。
 これが魔種の最後だといわんばかりに、その肉体は急速に腐り、朽ちていった。

 シューヴェルトがやってくる。一度は避難した民を再び連れ、その中には『バザーナグナルの乙女』と呼ばれた女性たちの姿もあった。
「バザーナグナル様……!」
 駆け寄り、膝をつき、祈りの姿勢を取る乙女たち。
 その様子を、澄恋は黙って見つめていた。
 澄恋が彼女たちと出会ったのは、この集落にやってきて最初のことだった。
 支配者である亜竜と亜竜種。普通に考えれば暴力的な関係にあるはずが、澄恋が感じ取ったのは信頼と崇拝だった。
 良い関係……と述べると語弊があるだろう。なにせクリスタラードの人間牧場であることには変わらないのだ。しかし、それでも。
『――感謝する』
 頭の中に直接響くような声がして、澄恋や練倒たちはハッとして振り返る。
 聞こえたのは、それだけだ。
 しかし確かに聞こえ、バザーナグナルからはアメジストカラーの美しい光がたちのぼっていた。
 魂が消え始めている。
 そう感じた澄恋は死奉石を高く翳す。
「私からも、感謝を。バザーナグナル様」
 ぱきぱきとヒビのはいっていく死奉石。
 やがて粉々に砕け散り、バザーナグナルの骨は全ての力を失って地面へと散らばった。
「お疲れ様……バザーナグナル」
「貴殿とは、できればちゃんと話がしたかったである」
 カイトと練倒が骨に手を当て、目を瞑る。
 ミヅハとその肩にのったリリーも一度顔を見合わせ、そしてきびすを返し歩き出した。
 いいのか? と声をかけるシューヴェルトに、ミヅハは頷く。
「あとは、この集落の人達の問題だ。バザーナグナルを語り継ぐにしても、生きていくにしても、俺たちが過剰に関わっちゃいけない。一生の面倒を見れるのは、結局の所自分だけなんだから」
「そう、だね」
 言いながら、リリーは振り返る。
 膝をつき祈る乙女たちの嗚咽が聞こえてきたが、リリーはあえて背を向けた。
 ここからの未来は、彼女たちのものだから。

●オーシャンオキザリス:本当の明日を掴むため
 巨大なアナゴやオウムガイに似た亜竜たちが、海底都市オーシャンオキザリスから現れ、展開する。
「ひるむな、一斉射撃!」
 両手で印を結んだ鈴・呉覇は巨大な魔方陣を展開し、それに伴って鈴家の戦士達も魔方陣を展開。鈴剣という柄に鈴のついた剣を踊るように構えると、一斉に魔法を放った。
 対抗し、突進をかけてくる亜竜たち。
 『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)はそんな状況を観察し、まずは巨大アナゴ型亜竜の足止めにはしった。
「アリアベルの方に加勢に行かれても困るし、鈴家の戦士達の被害もなるべく抑えたいしな……手を貸してくれるか」
海パン一丁でドルフィンキックをかけるゲオルグを横目に、『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が『良いですけど?』とでもいうように首をかしげる。
「強大な相手と海。いつか味わった様なシチュエーションですね。
 ですが、いつぞやの海竜に比べれば可愛いものでしょう」
 アッシュは銀の弓を構えると、矢に力を伝達させる。
 狙いはアナゴ型の亜竜。発射された矢は鋭い流星のごとく海中をはしり、相手の身に突き刺さった。
「小癪な――!」
 アナゴ型亜竜は身を震わせ、矢を払い落とす。
「我が名はディルハザード。アリアベル殿の臣下にして、クリスタラード様のしもべ。
 捕らえていた餌共が、わざわざ仲間を連れて戻ってくるとは。好都合というものよ!」
 ズオオ、とディルハザードは大きく水流を吸い込み、そして魔力を込めて吐き出した。
「怯え竦め人間共よ!」
 精神を錯乱させる波動が籠もった水流に、鈴家の戦士達の一部が恐慌状態に陥る。が、それを『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が『コーパス・C・キャロル』の効果範囲内に収めることで解消していった。
「さて、いよいよアルティマに関わる戦いも終盤戦かな? やる以上は負けるつもりはないよ?」
 ゼフィラは義手をカチンと鳴らすと、義足の魔力を高め水中移動モードへと切り替える。発生した空圧によってゼフィラは魚のように加速し、ディルハザードの放つ拡散する波動を回避しながら仲間達の間を駆け抜けていく。
「治癒は私に任せておいてもらおうか。その間に、あの厄介なヤツを頼むよ」
「いいだろう」
 ゲオルグは猛烈に直進しつつも、真正面から放たれた波動に対して身を丸くして防御。
 交差した腕を通して心をかき乱すような衝撃が走るが、ゲオルグは奥歯を強くかみしめることでそれをこらえた。
「奮――!」
 強く気合いを入れ、両腕を広げるように構える。するとゲオルグを包んでいた波動が霧散し、かき消えていく。
「何!? 雑魚ども、あの人間を喰らい尽くせ!」
 ディルハザードの命令によって岩窟より飛び出したのはピラニアの群れ。これもまた亜竜だというのだろうか。鋭い牙をもった魚が巨大な塊を思わせるほどに密集し、ゲオルグめがけて突っ込んでくる。
 ゲオルグは水中用ゴーグルごしにその様子を観察すると、小さく『よし』と呟いた。
「好都合だ。あの群れは私が止めよう」
 ゲオルグは右手の拳に力を込めると、水中を穿つようにパンチを放つ。
 一見空振りにも見えるそれは激しい奔流を作り出し、波動となってピラニアの群れを飲み込んだ。
 次の瞬間。ゲオルグへ一斉に襲いかかったピラニアたちがまるで統率を失ったかのように互いに衝突。攻撃に失敗する。
「今だ!」
 ゲオルグの呼びかけに応じた鈴家の戦士たちが一斉砲撃。小さな魔法の爆発が無数におき、ピラニアの群れを飲み込んで行く。
 それだけではない。ディルハザードをも飲み込んだそれは大きく光を広げていく。
「おのれ……!」
 攻撃を振り払い、飛び出してくるディルハザード。直接食らいつこうというのだろう。
 アッシュはその間に割り込むと、弓を片刃のブレードへと変形させた。
 刀身を優しく撫でると銀色の美しい光が宿り、飛び込んできたディルハザードの牙を強引に撃ち弾く。
「――っ!」
 食いちぎり飲み込んでやろうと狙っていたディルハザードは攻撃に失敗したことを悟ると大きくターン。
「我が餌となれ! 人間!」
 豪速でアッシュへ突っ込みばくんと喰らった――ように、はたからは見えた。
 しかしディルハザードは目を見開き、そして大きく血を吐く。
 反対側の者からは何が起こったのかよく見えていた。アッシュは紙一重で回避し、相手の速度を利用して胴体を切断してしまったのだ。
「馬鹿な!? 人間如きにこの――!」

「見て、神殿よ!」
 鈴・呉覇がうーぱー型の身体を器用につかって泳ぎながら、オーシャンオキザリスの中央にある神殿を指さす。
 と、次の瞬間神殿が崩壊。内側から巨大な魚型亜竜が姿を見せた。
「……アリアベル!」
「危ない!」
 驚く呉覇を掴み、『星灯る水面へ』トスト・クェント(p3p009132)がサンショウオボディを駆使して急加速。
 突っ込んでくるアリアベルの巨体を回避する。
 回避はしたものの、まきこんだ水流によって派手に踊らされ、二人は岩に叩きつけられた。
 腕に抱えた呉覇を見る。
(呉覇くんはどれだけ心を削ってこれまで当主の勤めを果たしてきただろう
 泣くことができてよかった。そして、また本当に笑うことができるかは…おれたちの戦いにかかってるだろう)
 トストは決意を胸に抱き、そして呉覇をその場に残して飛び出した。
「残念だったねアリアベル。数でしか見てないやつらに足下を掬われて。『海の秘宝』の力に胡座をかいた結果がこれだよ」
「宝玉を盗み出せたからといって、調子に乗るのが早いのではないですか?」
 鼻につくような口調で、アリアベルは大きくターンをかける。それだけで岩の山が崩れ、がらがらと集落が埋まっていく。
「私こそがアリアベル。クリスタラード様に集落の管理を任されるだけの実力を備えた亜竜。直接戦ったとて、この私が負けることなどありえませんね」
「どうだかな」
 『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)はカードナイフをホルダーから取り出すと、それをアリアベルめがけて連続投擲。そして一気に反転してその場から逃げる。
 アリアベルはサンディを追いかけ、立ち並ぶ石作りの建造物を次々に破壊しながら突き進んできた。
「私に挑みはしたものの、逃げ惑うばかりではありませんか。それとも、あなたのその矮小な刃物で私をいつまでも斬り付け続けるつもりですか?」
「わっ!」
 『特異運命座標』鯤・玲姫(p3p010395)は咄嗟に洞穴に入り込みアリアベルのタックルを回避する。
 長い尾びれを駆使して加速すると、崩れゆく洞穴の中をくぐり抜け反対側から飛び出した。と同時に、岩の山もろとも破壊してアリアベルが追いついてくる。
「眠気が吹っ飛んじゃった。いくらなんでも滅茶苦茶だよ」
 玲姫はそう言いながら、内心では別の事を考えていた。
 彼女には『逃げ癖』があった。大事な時に眠くなる。ダメだと分かっていてもどこかに旅だってしまいたくなる。
 今まではそれでなんとかなってきた。覇竜のスローライフは彼女のスタイルを許容したし、多少のトラブルこそあれど命に関わるようなことはなかった。
 けれど、今は違う。
(玲ちゃんはもう特異運命座標、寝ても誰も代わりにはなってくれないんだから、さ……!)
 ギュルッと反転し、剣を構える。
 いわゆる中華刀というやつで、まっすぐな刀身に和風の柄がついている。
 それをくるくると回しながら振り、アリアベルを威嚇するように突き出した。
「おやおや、かわいい抵抗ですねえ!」
 アリアベルは大きく口を開く。玲姫をひとのみにできるような、おぞましい闇が口の奥に広がっている。
 と、その時。
「なっ――!?」
 大きく口をあけたまま、アリアベルが停止した。
 よく見れば、海中に大量のワイヤーが張り巡らされていた。アリアベルの牙でもすぐには断ち切れないほど頑丈なそれにひっかかったのだ。サンディが声を上げる。
「罠にかかった! すぐに解かれるぞ。やれ、九郎!」
 そう、これらの罠はサンディがこっそりと仕掛けたものだ。敵陣に乗り込んでなおかつ罠をしかけなおかつその場所に誘い込むなんていうことは、相当腕が良くないとできないことだ。サンディの深い勘と経験、そして技術と才能によるものだろう。
「マジかよ。絶対次こっち狙ってくるだろあいつ」
 ブルーの魔法少女ルックに身を包んだ『フレジェ』襲・九郎(p3p010307)がマジカル水中ライフルを構え、アリアベルに狙いをつける。
 いわゆる公安所属魔法少女フレジェ、マリン・フォームである。
「できればすぐに死んでくれますように、っと」
 信じてもいない神に祈りながら引き金を引く。
 タンッという独特の銃声と共に放たれたライフル弾がアリアベルに撃ち込まれ、その巨体がびくりと震える。
「効いてるぞ」
「効いてるのかあ? 相手がデカすぎて実感がわかねえな」
 九郎はそう言いつつも第二第三の発砲をしかけ――たところで、アリアベルがワイヤーを引きちぎって自由を得た。
「所詮は人間の知恵と力。私を捕らえることなどできはしないのです」
 周囲を破壊しながら一直線に突っ込んでくるアリアベル。
「ほらみろこっち来たじゃねえか!」
 九郎は消費の激しい弾を打ちまくり、続いてマジカル・ドスを引き抜く。
 ハート模様の鞘を放り捨て、ショッキングピンクとマリンブルーで彩られた刀身をまっすぐに構える。
「……けど、こっちのほうが分かりやすくてイイぜ」
 九郎は『タマとったらぁ!』と叫びながらアリアベルへと加速。
 まっすぐにぶつかり合う――かに思えた、その時。
 トンッとトストの手がアリアベル側面に触れた。
「さようなら、アリアベル」
 途端に大量のサンショウオ型エネルギー体が群れを成して出現。アリアベルの周囲で円を描いて周回する。その流れによって体勢を崩したアリアベルの目に、九郎のドスが突き刺さる。
「もーいっぱつ!」
 玲姫が反対側の目に剣を突き立て、ぐりっとねじった。
「私はね、何の罪も無い人々を生贄にしようとしてるのも嫌いなんだけども。
 それ以上に、洗脳で思考をいじって望まないことを強要させるってのが気に入らないの!」
「があああああ!?」
 叫びをあげるアリアベル。
 サンディはトドメの一撃をその巨大な脳天めがけ叩き込む。彼の紫電を帯びたナイフが堅い鱗を破って刺さり、内部に衝撃を撃ち込んだ。
 『やった』と確信したのは、アリアベルの巨体から力が抜け、ゆっくりと海底へと沈んでいくのを目にしたときだ。
 玲姫はぜえぜえと荒く肩で息をして、剣をだらんとさげる。
「なあ、水中なのにどうやってゼエゼエやってんだ?」
「しらない」
 サンディの軽口にたしいて雑に答え、玲姫は鞘に剣を収めた。
 今日は気持ちよく眠れる気がした。

 勝鬨の声があがっている。
 トストはそんな風景を眺め、そして次に崩壊しきったオーシャンオキザリスを振り返る。
 鈴・呉覇は同じように景色を眺めて黙っていた。
「呉覇くん。これからどうするの?」
「どうするのかしらね?」
「おれに聞かれても」
 苦笑するトストをからかうように、呉覇は唇に指をあててころころと笑った。
「もう私達を縛るものはない。クリスタラードの支配も、鈴家に課せられた秘密も。
 けどそうね……とりあえず、里のみんなに『ごめんなさい』しようかしら。
 話はそれからだと思わない?」
 また問いかけられたトストだが、今度は答えられそうだ。
「そうだね。前に進むって、そういうことだよね」

●レッドレナ:弱者の行進
 民族楽器『ムドド』の音にあわせ、レッドレナの民が行進する。
 家族を、先祖を、そしてなにより自分達の誇りを殺された怒りが、彼らの足取りを強く、そして確かなものにしていた。
「覚えたよ、その音色。この音や歌には皆さんの魂を感じる……奮い立つようだ」
 民に合わせ歌を口ずさみ、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は進む。
「さぁ、未来を勝ち取る戦いを始めよう」
 もはやイズマたちは、この集落とひとつになっていた。
 巨大な群れであり、巨大な怪物だ。
 それまで虐げられていた弱者たちが、今こそ牙を剥くと決めて生まれた怪物だ。
 そのトリガーとなったのは、間違いなくイズマたちだろう。
「バルバジス……」
 行進に交じり、『紲家のペット枠』熾煇(p3p010425)はこれから戦うであろうバルバジスのことを考えた。
 強者として振る舞い、暴力によって支配した人型亜竜バルバジス。
「バルバジス、お前のことは嫌いじゃないぞ。強いしな。でも、強いだけで、本当は弱い。本当に強いやつは、クリスタラードみたいなやつの言うことは聞かないはずだ……」
 次に出会ったら、言っておきたいことがあった。
 それにどう答えるのか、熾煇はずっと空想している。
 実現の時は、近い。
「長い間、お前さんらは辛酸を嘗め続けた苦渋を甘受する他なかった、希望を見出すことが出来なかった」
 行進の先頭をゆくのはかつての村長でり、その隣には『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)がいた。
「だが! それを後に続く者に残して良い道理はどこにある?いやない!
 いいか! ここが分水嶺だ! お前たちは蜂起した、ならば勝ち取れ! 自由の火を灯せ! 希望への階となれ!」
 おう、と揃った声と共に武器が掲げられた。
 粗末な武器だが、勇敢な武器だ。
 バクルドの呼びかけで彼らはこの武器をとり、戦うことを選んだのだから。
「奴の火を絶やすのは俺たちの役目だ」
 吠えるように叫ぶバクルド。
 誰のために? なんのために? 問いかけたなら、最初に浮かぶ顔がある。彼の元に身を寄せることになったトルハという亜竜種の少女の顔だ。
 バルバジスを倒せば、彼女に笑顔は戻るだろうか。
 両親はもう戻らないが、けれど、これ以上『奪わせない』ことならできる。
「ああ、暑苦しい。私、情熱的な殿方は好きですがこういった血の気タイプは参りますねえ。
 ま、住民の士気が高ければそれで良し。ドラゴンのちょっかいかけれればそれもよし」
 『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)はそんなことを言って顔の辺りをぱたぱたと扇いでいる。
 今回における当事者は自分ではないと、リカは考えているのかもしれない。仮に当事者がいるのだとすれば、隣をゆく『迷い猫』クーア・M・サキュバス(p3p003529)だ。
「燃え上がるような激情を、戦を、解放を……」
 呟くその言葉には熱があり、彼女の奥底に今なおくすぶり続ける古き炎を思わせた。
「此度の一戦、我らが望むは溶岩の暑さを凌ぐ熱気。かの悪趣味の完全な討滅。
 さあ、竜共を片っ端から吹っ飛ばして差し上げましょうか!」
 どこか楽しげに吠えて、クーアは空に手を翳した。炎が渦を巻き、天を焼く。
 そんな一団を、『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)は一歩下がった視点で見つめていた。
(練達の際は、とても厳しい戦いだったと聞いています。私も、別の方と対峙していましたので、脅威は身をもって……)
 レッドレナ。ここもまた、竜の爪痕が残る地なのだろうか。
 少なくとも六竜がひとりクリスタラードによって支配され、今なお亜竜バルバジスによって管理され続けた『人間牧場』だ。
 それが、今日終わる。
「『あれ』を再現させないため。
 新しい犠牲を生まないため。
 命をモノと扱わせないため。
 微力ですが、尽力させていただきます」
 彼らの後を進む足取りに迷いはない。
 その向かう先に栄光が、幸福が、そして救いがあってほしいのだと……グリーフはほのかに想った。

 レッドレナに布陣した亜竜の軍勢は堅く、そして圧倒的だった。
 なぜならイレギュラーズたちが戻ってくることを彼らは確信していたからだ。
 だが確信できたのはそれだけだった。
「何……!?」
 ムドドの音と重なる歌。大地の向こうから歩み来る『軍勢』を見たとき、バルバジスは確かに困惑の表情を浮かべた。
 力によって支配し、心を折り、家畜に落とした人間達。彼らが古き集落へ逃げ延びたまではわかる。
 だが彼らが武器を取り圧倒的強者である自分達に立ち向かうなどとなぜ思うだろう。
「死にに来たか。まあ良い……奴らを捕らえ、クリスタラード様の贄とする! 行け!」
 周囲のフレイムワイバーンたちに命令を下し、バルバジスは大きな斧を振りかざした。

 迫り来る亜竜の軍勢。対するは雄叫びを上げて挑むレッドレナの民達。
 個体戦力差こそ圧倒的だがそれだけではない。グリーフは自らの治癒の力を活性化させると、先陣を切って走り出す。
「こちらのことは、心配なさらず。簡単には倒れませんから。ご安心を」
 まるで民達を鼓舞するかのように亜竜へと突っ込んでいったグリーフは大量の炎を浴びつつも即座にそれを治癒。
 グリーフに遅れるなとばかりに突撃する民達の槍が、フレイムワイバーンへ次々に突き刺さる。
 死に物狂いで暴れ炎をまき散らすが、グリーフは治癒のフィールドを広げることで民達を守った。
「今の住民達は、最初に見た時からは想像できないほど生き生きしてる。
 お前はずっと、燃えかすのような生贄をクリスタラードに捧げてたんだな。
 長らく生贄を受け入れてきたがそれももう終わりだ、バルバジス。
 決着を付けよう」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はあえて言葉を口に出すと、亜竜たちの群れを突っ切りバルバジスを目指す。
「よおまた会ったな! 邪魔するぜぇ! バルバジス!
 俺達はテメェの悉くを粉砕する、その為に何度でも立ちはだかってやる」
 バクルドもまた射程に収めるべく走り出し、邪魔しようと割り込んだフレイムワイバーンに『ガウス・インパクト』を放った。
 ドウッと音をたて吹き飛び、マグマへと転げ落ちるフレイムワイバーン。
 それを一瞥したクーアは、バルバジスめがけ走り出す。
「周りの相手は住人の方々に任せますが……行けますね?」
 クーアが住民達に目を向けると、勇ましく村長が頷いて返した。
 次にリカへと視線を向ける。
「こちとらけが人、『息をするだけで精一杯』ですよ」
 などと冗談を言いながら共に走り出す。
「参りましたねえ。ま、自慢の飼い猫に傷が付くよりはましよ」
 二人は息をピッタリあわせ、バルバジスへと襲いかかった。
 リカの抜いた『夢幻の魔剣』が怪しく光り、蛇腹状に形を変えてバルバジスの腕に巻き付いた。
 それを引っ張り解こうとするバルバジスだが、高速で距離をつめるクーアが『ジ式・漁火』を発動。至近距離から激しい火花を散らし、それは雷雲に飲み込まれたかとおもうほどの奔流を作り出した。
 払いのけようと斧を振り込むバルバジスだが、絶妙なタイミングで蛇腹剣を引き、かつ『テンプテーション』の瘴気をまくリカによって動きが乱れる。
 クーアは斧が自らの胴体を真っ二つに切り裂くよりも早く相手を蹴って飛び退き、後方宙返りをかけて石の像のうえへと着地。
 次なる攻撃を狙って構える。
「亜竜たちを雑魚に任せ、我を狙うか。賢いが……いいのか? あの家畜共は囚われ、貴様等は死ぬ。たったそれだけの未来しか訪れんぞ」
「さあ、どうでしょう?」
 あえてとぼけた回答をするクーア。今度はリカと同時に飛び込み、同時に斬りかかった。
 炎と瘴気を纏った剣を、バルバジスは水平に翳した斧の柄で受け止める。
 物理的な衝撃は止められたものの、炎と瘴気がバルバジスを覆った。
「――ッ!」
 己の耐性によって延焼こそふせいだものの、直接的な熱や気まで無効化できるわけではない。
 バルバジスの顔が歪み、そして焦ったようにクーアたちを強く突き飛ばした。
 そして背を向け、中央の神殿へと向けて走り出す。
 後を追って走るクーアたちには燃える岩のような亜竜たちが行く手を塞ぎ組み付いた。
「こちらは任せて下さい。お早く」
 グリーフが亜竜たちをおさえながら呼びかけてくる。
「チッ、逃がすか!」
 バクルドとイズマが走り、バルバジスを追いかけた。
 中でもバルバジスにいち早く追いついたのは熾煇だった。
「バルバジス。このままで良いのか?」
 神殿。円形のホールの中央で立ち止まるバルバジスに、熾煇は呼びかける。
「無傷だったクリスタラードをイレギュラーズは追い返して弱体化させた、そして今こうして生贄を封じてさらに弱体化させようとしてる。クリスタラードももう後がないだろ。自由を得るのは今だぞ?」
 熾煇の言葉に、バルバジスはゆっくりと振り返った。
「フ、フン……」
 その表情には、焦りと怒り、そして『弱さ』が見えた。
「貴様等を捕まえ、クリスタラード様に献上する。そうすれば、今からでも――」
「残念だよバルバジス。クリスタラードと関係なく、お前とやりあいたいんだ。
 ……そして、お前を手に入れる!」
 先に仕掛けたのは熾煇だった、
 紅焔の魔力を纏わせた腕がバルバジスへと直撃し、バルバジスもまた斧で熾煇を振り払う。その表情は、すこしだけ笑っているように見えた。
「バルバジス、楽しいな。全身全霊を込めた戦いって。お前もクリスタラードの枷を外して本気で来い。追い詰められた戦いなんて、楽しくないだろ。どうせ、この戦いは生きるか死ぬかしかないんだから」
 ハッとしたように顔を押さえるバルバジス。
 が、それ以上の暇は与えない。イズマが突っ込み、『響奏撃』の構えをとったのだ。
 精神を揺さぶる一撃。イズマの放った拳は空を打ち鳴らし、音は波となってバルバジスの身体へと浸透する。ゴブッとバルバジスが口から血を吐いた瞬間を、イズマは不敵に笑って見つめた。
「勝ったらバルバジス(おまえ)で楽器を作ろう。特別なムドドを作るんだ」
「ふざけるな……」
「ふざけてんのはテメェだ! 骨まで砕けてくたばりやがれ! バルバジィィィィィィィス!」
 口元を抑えたバルバジスに、バクルドが殴りかかる。零距離で義手の機能を解放すると、激しい衝撃がバルバジスの腹に穴をあけた。
 がくりと崩れ落ちたバルバジスが、バクルドの足に掴みかかる。
「ふ、ふざけるな! 我が、この我が負けるはずがない!」
「そうか。お前は最後まで、『自分のこと』なんだな」
 娘のために身を挺し、怪物にしがみついた男女を思い出す。
 本当の強者は、きっと彼女たちだったのだろう。
「勝利だ! 自由は此処にある! お前たちの生き様を刻みつけろ!」
 バルバジスの斧をつかみ振りかざす。
 歓声が上がり、雄叫びがあがった。
「仇は取ってやったぜ、トルハ」
 バクルドは駆け寄ってきた村長に斧を手渡すと、ホールをあとにして歩き出す。
「よかったのか?」
 熾煇とイズマが横についた。問いかける熾煇に、イズマが代わりに答える。
「この集落をこれから守っていくのは彼らだ。斧は……強者の象徴は、彼らの手にあるべきだろう」
 しばらくゆくと、亜竜たちを倒したグリーフやリカ、クーアたちが出迎えた。
 残る亜竜は逃げていったようで、集落に残っていない。
 そう、今ここに在るのは。
 勝利と自由、だけなのだ。

●ホワイトホメリア:餓えと乾き
 洞窟内は騒然としていた。穴蔵の奥へ隠れ、塞いだ岩で時間を稼ぐ住民達。それをなんとしてでも破壊しようとかじりつく蛇眷属たち。
 がりがりと岩の表面が削れていくその一方で、管理者亜竜ほわいとらいあーはガチガチと歯を鳴らしていた。
「今回だけ! 今回だけでも乗り切れば、次から近くの集落から亜竜を浚ってくればいいのですよぉ……! この集落が空になったところで、なんとでもぉ……!」
 自分に言いきかせるように呟くホワイトライアー。だが、不安が取り除かれる事は無かった。
 『ギャッ』という悲鳴のような声と共に吹き飛んだ蛇人間(レイズィー・マッドネス)が地面を転がる。暗視の効くホワイトライアーには、その薄暗い洞窟内でも誰が何をしたのか分かった。
「ホワイトライアー軍団の皆様、空腹になった気分はどうだい?
 残念だが、今後も食わせるわけにはいかんのだ」
 後ろ回し蹴りのフォームでぴたりと足を高く掲げたまま止めていた『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が、それをゆっくりと降ろす。
「飢えたまま滅ぶがいい。そして私たちがホワイトホメリアを開放する」
「ローレットぉ……!」
 唸るホワイトライアー。と同時に、集落の民をかき集めようと動いていた眷属達のヘイトが一斉にモカたちローレット・イレギュラーズへと向いた。
 対抗するように、バイクのエンジン音が唸る。ヘッドライトが皓々と光り、跨がった『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)がにやりと笑う。
「さて、お前らよ、準備は出来てるよな?」
 カッとライトアップされた洞窟内には、彼の仲間達に加えアダマスたち坑道警備隊の面々が集まっていた。
 チラリと振り返る千尋。
「アダマスの姉貴、前警備隊長の仇……ついに取れるぜ」
「だな。もう容赦しねえ。ギッタギタにしてやるよ」
 独特の剣をじゃらりと鳴らし、構えるアダマス。
「いつものやっときな!」
「おう!」
 千尋は深く息を吸い込み、そして吠えるように叫んだ。
「行くぞテメーー--ー-らァ!!!!!」

「わっはっはっはっ! 上等だコノヤロー!
 3日後100倍なんよ! よっしゃオラかかってこいやー!」
 眷属達の集団へと突っ込んでいく『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。
 骨でできた半月状の剣を構える蛇人間たちと早速つばぜり合いになると、豪快に相手を蹴飛ばす。
 飛ばされた蛇人間が体勢をたてなおそうとするが、素早く踏み込み抜刀した『紫閃一刃』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)によって袈裟斬りに身体を切断されていた。
「人間牧場…全く、オレが嫌いなことを平気でしやがるな。
 だが、もはやそれも機能不全だ、仕掛けにいくぞ!」
 両サイドから同時に斬りかかってくる蛇人間。
 紫電と秋奈は一切の合図もなく全く同時に互いの位置を入れ替えると、その運動エネルギーをそのまま使って剣を振り込む。
 充分な勢いをつけて飛びかかった筈の蛇人間たちの剣は物の見事に弾かれ、回転し洞窟の壁や天井に突き刺さる。
 ハッとそれを目で追った蛇人間の首を、返す刀で二人は切り落とした。
 秋奈は近未来チックなサングラスっぽい専用ゴーグルを装着すると、側面をタップする。
「暗視チェック、ヨシ!
 ホワイトライアーんとこまで悠久チームに置いてかれないようにしなきゃな!
 ほら、手ぇ出して! ダッシュでいくぞ!」
 誘うように手を出した秋奈の左手を、紫電はぎゅっと握る。開いた左手で刀を掴み、伝わる熱に胸を高鳴らせた。
「大丈夫? アゲてく?」
「そうだな秋奈。派手にカチコミ入れて、暴れ尽くしてやろうぜ!」
「フフ、いいだろ。紫電ちゃんも派手派手でいこうぜ!」
 二人は手を繋いだまま走り出した。並み居る蛇人間もなんのそので、互いの刀で斬り付け切り拓く。時には紫電が秋奈をぶん回し、逆に秋奈が紫電をぶつけるような形で見たこともないようなコンビネーションを疲労していく。

 その後ろを爆走するのは『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)。
 フランスパン印のフードワゴン……ではなく、排気量の強そうな大型バイクに跨がってである。
「ホワイトライアーの野郎も随分と焦ってるみたいだな。
 其れに俺も前回の縁もあるし、何よりクリスタラードには因縁もある。
 テメェらの好きにさせてたまるかってんだ。
 此処で決着、つけてやろうぜ!」
 アクセルをひねり、加速。
「やってやるー!」
 蛇人間を強引に撥ねると、『雷槍』の術式を発動させた。
 堅いランスパンを弾丸のごとく射出する零の得意技だ。
 大きな骨の盾を構えた蛇人間が防御に徹しようとフランスパンを受け止める――が、直後に『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)が豪快に殴りかかった。
 弾丸(パン)を斜めに弾こうと必至の蛇人間など隙だらけだ。
 伊達のバイクからぴょんと飛び降りる形でユウェルは宙を回転すると、素早く翼を広げて地面から1m弱を滑空。
「隙ができたら次は攻める! それが今!
 ホワイトライアーから皆を助けるなら行くしかない!」
 斧槍(ハルバート)を握り込むと、ハッとしてこちらを見た蛇人間の胴体めがけて叩き込む。
 防御もできずに真っ二つにされた蛇人間が上下バラバラに地面を転がり、一方のユウェルはくるんときりもみ回転をして伊達のバイクへと戻っていく。
「ナーイス!」
 小さく振り返り笑う千尋。
 そんな彼らを足止めすべく大量の蛇型眷属が湧き出し、襲いかかった。
 数人で調査に来た時、これをやられたらひとたまりもなかっただろう。
 だが今は違う。万全の準備と調査をし、戦力を整えてやってきたのだ。
「千尋たちを先へ行かせるんだ!」
「雑魚どもは任せな!」
 アダマスたちは湧き出してきた眷属へと襲いかかり、『足止めの足止め』を仕掛ける。
 それでも進路上にたち、ブロックをかけようと腕の四本ある蛇人間が現れるが……。
「ホワイトホメリアの皆さんはさぞやお腹がぺこぺこでしょうけど、私達はもう前菜はお腹一杯なのよねぇ
 そろそろメインディッシュのクリスタラードを頂かないと、あの人も私のことを忘れちゃうかも!」
 などと茶目っ気のあることを言って、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は二本指を唇にあてた。
 紅をひき、売るんだ唇がやわらかく形を変える。
 冷たい指先をはなし、投げるように蛇人間へと放った。
 すると、パンッという弾けた音と共に小さな花火が炸裂し蛇人間が軽くのけぞった。
 続けて何度も小さな花火が炸裂し蛇人間を何度も小さくノックバックしていく。
「今だ……!」
 『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)はそんな蛇人間の隙を見逃さず、強く確かに踏み込んだ。
「多くの人たちを長らく苦しめていたクリスタラードの『牧場』も、いよいよ終わりのときだ!
 時はきた! 亜竜を叩き潰し、人々を解放する! いくぞ!」
 黄金の気を纏い、きりもみ回転しながら飛び出す風牙。
「ッシャオラー! ぶちかますぞオラー!!」
 風牙の『突き』をなんとけ受け止めようと蛇人間が腕を突き出すが、もはや無駄な抵抗であった。
 あまりにも強力な気を纏った風牙を、蛇人間は掴むことすらできない。
 螺旋状に回転するドリルのごとく蛇人間を貫くと、風牙は槍をまっすぐに構えた姿勢でザッと石の地面にブレーキをかけた。

 まず悲劇があった。
 練達の都市が竜種たちに襲撃され、崩壊する景色を見た。
 次にまた悲劇があった。
 クリスタラードの支配する集落に閉じ込められ、痩せ細りながらも飼育され続ける亜竜種たちと出会った。
 彼らは管理亜竜ホワイトライアーに反抗の意志をもちつつも、非力であるがゆえに言いなりになるしかない人々だった。
 だが、それももう終わる。
 ホワイトライアーの怠惰な集落運営は兵糧攻めという作戦によって破綻し、ホワイトライアーもまた破滅寸前である。
 あとは、自棄になって住民達を贄に変えてしまうまえに、ホワイトライアーを討つだけだ。

 眷属達が次々と破られるのが、ホワイトライアーには分かった。
 怠惰な彼女は自分ができるだけ惰眠と惰食を貪り続けられるように眷属を作る癖があり、それらが勝手な意志や行動をもたないように設定していた。面倒を嫌い、単調さこそを求めたためだ。
 それゆえ全ての眷属は彼女と魔術的な繋がりをもち、殺されればそれがわかる。イメージするなら、洞窟内にならぶ大量の蝋燭だ。一本作って火を付けるまでが眷属の製造だとすれば、フッと火が消えるのが眷属の死である。
 いま、心の中の洞窟では無数の蝋燭が次々と消え、あたりにはスンとした煙が香るような状態にあった。
 残り僅かな蝋燭も、弱々しく炎を小さくしていくばかりだ。
「こんな、こんはずでは……」
 震えた声を出すホワイトライアー。
 だが、滅びはもう目前に迫っていた。
 心の中で、ではない。現実で、今まさに、目の前に、
「追い詰めたぜ、ホワイトライアー」
「皆との約束、やっと守れるわねぇ」
 零とアーリアが、ホワイトライアーへと手をかざす。
「――ッ!」
 咄嗟に口を大きく開け、白刃の光線を無数に放つ。
 対する零は黒い刀身の刀を抜くと、飛来するそれらを次々に払いのけ、そして破壊していった。
 すべて、ではない。防ぎきれなかった斬撃が零の肩や膝を切り裂いているが、血を吹き出しながらも零はにやりと笑って立っていた。
「お前らなんかの身勝手な理由で、此奴らの命は散らせない!
 てめぇの最後の晩餐は俺達の攻撃だけだ」
「やだぁ、ちゃんと食べてよく寝ないとお肌には悪いわよ……って、絶食中でしたっけ!」
 アーリアの魔法が発動し、甘い香りと囁きがホワイトライアーの逃げ込んだ洞窟内に充満した。
 首を振り、アーリアの誘惑を解こうと暴れるホワイトライアー。
「借金取り(クリスタラード)には済まないが、借り主が全員いなくなってしまったな」
 隙だらけとなったホワイトライアーめがけ、モカが猛烈な速度で走り、飛び、宙返りをはさみ――。
「今までご苦労さまだったな。ブラックな上司のためにせっせこせっせこ人を集めて、貢いで……結果がこれだよ。まったく、報われないよな」
 同じく走り、飛び、宙返りをはさんだ風牙が足先に気を集める。
 二人の気が混ざり合い、青と金の二重螺旋が描かれた。
「ま、同情はまったくしないけどな。お前に苦しめられ、殺された人たちを思えば、むしろ足りないくらいだ。
 ほら、人を集めるどころか『牧場』が台無しになるぜ。クリスタラードが今の状況を知ったらどう思うだろうな?」
 直撃。ホワイトライアーの頑強な鱗がかろうじて受け止めるも、貫かれるのは時間の問題であった。
「ここで死ぬわけには、死ぬわけにはいかないんですよぉ……!」
 必至にこらえるホワイトライアーだが、まだ半分も受けていない。
「亜竜種が届かなくなって、腹を空かせた気分はどんな気分だ?クソヘビさんよ。
 だが、それは貴様らが亜竜種達にした仕打ちだ。管理をせず減らすばかりで、足りなくなったら拉致る。そのツケを今、払ってもらうぞ!」
 紫電の刀が急速に迫り、ホワイトライアーの頬を派手に切り裂いた。
 全く同時に飛び込んだ秋奈の刀が反対側の頬を切り裂いて行く。
「アゲてアゲてアゲてけぇーっ! せーのっ! か弱い乙女ーっ!」
 胴体までに達した二人の斬撃が、激しい血しぶきを洞穴の壁にまき散らしていった。
 薄暗いその中で、二人の目がギラリと光る。
「焦りで我を忘れたのが、貴様の負け筋だ!ホワイトライアー!
 今だ、ぶった斬れ秋奈! このクソ蛇を真っ二つにして、蛇肉にしてやれ!」
「オッケ、たよりになるとこ見せてやんよ!」
 両サイドからの高速斬撃がホワイトライアーを挟み込む。
「があああああ!?」
 ついに痛みに耐えきれず叫びを上げた。
「いまだー! いっけー!」
 ユウェルがハルバートを振り上げて叫ぶ。
「誇りを失くした竜はもう竜じゃない。クリスタラードに怯えているだけのお前はもうただの蛇だ。消えろッ!ホワイトライアー!お前が犠牲にした皆に謝りながら!!! その首、落とさせてもらう!」
 勇猛なユウェルを乗せた千尋のバイクは、にやりと左右非対称に笑う千尋によって加速する。
「まいどぉ~~~~~~『悠久ーUQー』の伊達千尋です。
 債権の回収に参りましたァ~~~~~~!!!!!
 まずは利子の回収で~~~~~~す!!」
 真っ黒な流星となったバイクがホワイトライアーへ突っ込み――。
 そして。
 口の中に消えていった。
「あっ」
「あ」
「あ?」
 周りで見ていた仲間。あとから駆けつけたアダマスたち。そしてホワイトライアーすらもその状態に唖然とした。
 ぱくんと口を閉じるホワイトライアー。
「ああああああああああああああ!」
 やる気満々で突っ込んだリーダー(?)がそのまま敵のボスに食われるという映像を目にして、アダマスがなんともいえない叫びをあげる。
 一方でホワイトライアーはクフフとやっと彼女らしい笑い声をあげた。
「間抜けなリーダーさんでしたねぇ~。けど、『ごはん』をたべて力を取り戻した今なら皆さんをひとひねりで――」
 笑みに歪んだ口元が、更に歪む。
 ボッと胴体の横からハルバートの先端部が突き出て、そのまま斧の中間部までが顔を出したのだ。
 と同時に、傷口からバイクのエンジン音が響き渡る。
 まるでチェーンソーのうなりのごとく。
 ホワイトライアーの『中身』を切り裂きながら突き進んだのだ。
「が、がああ!?」
 これにはたまらずホワイトライアーは叫び、そして喉の奥からあふれ出した血によって叫び声すらごぼごぼと消えた。
 そして。
 つまりは。
 千尋はバイクに跨がったまま、ホワイトライアーの『向こう側』まで駆け抜けたのだった。
「フッ、これぞUQ奥義一寸法師のじゅ――あぺっ!?」
 そして洞窟の行き止まりにバイクもろとも激突した。

「あ……あ、あ……」
 頭の上半分だけが残ったホワイトライアーが、何かを言おうと喉を鳴らしている。
 それを、『ダイアモンドドレイク』アダマス・パイロンはじっと見下ろしていた。
「アニキがこいつに食われたと知ったときね、おねーさんが思ったのは『復讐』とか『憤怒』とか、そういうドロドロしたやつだったのさ」
 口調は、とても落ち着いている。
 こんな風におだやかに喋るアダマスを見るのは、千尋(包帯まみれ)としても久しぶりだった。
「アダマスの姉貴……」
「けど、なんでだろうね。もうそんな気持ち、どっかにいっちまったよ。
 千尋、あんたが調査の話を持って帰ってきたとき。ジョナサン集落を守って戦った時。
 アタシの心にあったのは使命感だった。守らなきゃ。助けなきゃってさ。
 それで分かったよ。
 アニキも、同じ気持ちであのとき戦ったんだろうってさ」
 振り上げた剣が蛇腹状態から大剣状態へと収まり、その重量をもってホワイトライアーの頭を叩き潰す。
 そこには復讐心も、怒りも、まして憎しみもなかった。
「これで、この集落の奴らも救われる。いーい気分だねえ、千尋!」
 アダマスは振り返り、すっきりとした顔で笑った。

●グリーンクフィア:死への過程が人生ならば
「怯えているのかね。それも当然だ。
 だが、貴方がたは薬に囚われた生から解放されたのだ。死にたくないと望んでいるのだろう?
 ならば、戦が始まる前に遠のき給え。
 道に惑うのはそれからだ」
 『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)にそう諭され、グリーンクフィアの住民達は離れた荒野へと避難していた。彼らが再びこの地に戻ることはあるのだろうかと、ルブラットは想う。
 この、一面焼け野原となった……『理想郷だったもの』に。

「私、前にこの集落の依頼が出ていたこと知ってました。
 でもその時は、戦うことの意味がわからなかった。
 だから応募すらしませんでした。たくさんお世話になっている、覇竜の地のひとつなのに」
 くるるっ、と喉を鳴らすワイバーン『ワイくん』の背にのって、『未来を願う』ユーフォニー(p3p010323)は焼け野原の空を大きく旋回していた。
 地上で待機している仲間達に手を振ってから、問いかけるようにフードの中から顔を出したエイミアに振り返った。
「けど、今は分かる気がするんです。沢山の出会いが、あったから」

「シュヴァくんは亜竜っぽいわんわんだから安心して後ろの犬車に乗ってくれ。運ぶの大好きだから噛まないぞー」
 『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)はそう言って、最後に残った住民を馬車に乗せる。
 ここから遠く離れた場所にキャンプ地を作り、住民を一時避難させているのだ。
 馬車につながっていたシュヴァくんは『なの!』と鳴いて目的の方角へと走り出す。
 亜竜っぽいというか普通に亜竜なのだが、この覇竜領域でそのカテゴリーに大きな意味は無い。わんわんはわんわんである。
 ウェールはその様子を見守って満足そうに頷くと、空で旋回飛行するユーフォニーへ手を振った。これで最後の一人だという合図である。
「しかし……飼育、か。元生物兵器として首輪付けてた身としては反吐が出るな」
 誰にも聞こえないように呟いたつもりだったが、『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)の耳にはどうやら届いたようだった。
 そして、同意するように頷く。
「かつて亜竜種から欲望を奪い、幸福を植え付け、そのまま生け贄へ捧げていたと聞いています。
 なるほど、支配と犠牲を共に強いるには非常に合理的なやり口です。
 ですが、欲望とは人になくてはならないものです。
 欲望があるからこそ喜びや幸福、感情があります。
 欲望を奪ってそれらを植え付けるという矛盾。
 少なくとも、それを人の幸福と呼ぶのは難しいでしょう」
 誰もが、同じようにそう思ったはずだ。
「ベルガモットは強大な存在です。
 生け贄を強要することもできたことでしょう。
 もしかしたら、犠牲者のせめてもの慰みとして、白い花とやらを与えたのかもしれません。
 ですが、それは不要です。僕達には欲望がある。それを否定することはできません。
 欲望を満たす中で人は定めを知り、成していくのだと、僕はそう考えています」
 己の考えを述べてから、ハインは……あえてその先を述べなかった。
 言うべき相手は、ここにはまだいない。それを誰もが分かっているから、ハインに続きを求めない。

「プルネイラ……」
 『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は胸に下げていたロケットペンダントを取り出した。
 行きがけ、彼女から受け取ったものだ。『占い師』である彼女にしては珍しく、何も言葉を添えずにただ黙ってそれをヤツェクに手渡したのである。
 ペンダントの仕掛けを操作して開いて見ると、幼いプルネイラとおぼしき亜竜種の少女と、知らない男性が写っている。
「……」
 ヤツェクはペンダントを閉じ、胸の奥へとしまいなおした。
「さてと、良く燃えてるな? 決戦の舞台は派手な方がいい。
 与えられた『夢』は終わりだ。今度はおれ達がヒトとしての『希望』を勝ち取るときだ」
 あえて勇ましくそう言うと、胸の前で両手を組んでいた『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)がそっと目を開いた。
「この地はもう『あなた』の思い通りにはできないわ。
 それでも、戦うのなら、わたしも引けない」
 そっと手を開くと、七色の光が淡くのこる七晶石があった。
 ベルガモットの放つ緑色の雷光を、避雷針のように吸い込むこの石。これがあれば、ベルガモットに対抗することができるだろう。
 そして石の光りは魂の光なのだという。
 どこかのだれかの、魂の光。
 タイムは感謝するように沈黙の中で祈り、そして……。
「来るよ」
 静かに、囁いた。

 ベルガモット率いる亜竜の軍勢は、人によれば卒倒したかもしれないほどの威圧と暴力に満ちていた。
 ズンと大地を踏みしめ、巨大なドレイク型亜竜ベルガモットが吠える。
 咆哮に押されるかのように走り出した巨大な狼型ドレイクたちがイレギュラーズの一団へと迫る――が。
「アンカーフック射出! 足を止めろ!」
 ヤツェクが簡易レバーをひいて発動させた複数のフック射出機がドレイクたちの足や胴体へと突き刺さり、時には足にワイヤーを巻き付けた。
 流石に巻き取り構造まではつかなかったものの、まっすぐ突っ込んでくるドレイクの足を止めるには充分な罠だ。
 そしてそれこそが、機動力に優れたベルガモット亜竜軍を少数精鋭で撃退するための、ヤツェクがたてた戦術であった。
 避難民を送り終え、身軽になったシュヴァくんの背に飛び乗るウェール。
 上部をオープンにした馬車にはヤツェクとルブラットが乗り込み、豪速で走り出す。
 足を止めたドレイクたちの間を駆け抜けるウェールたち。それを追おうとワイヤーを引きちぎりにかかるドレイクだが、ハインはその隙を突いて大きな鎌『テートリッヒェ・リーベ』を振りかざした。
 『シュバルツロートゥス』が怪しく黒い魔力を放ち、刀身を纏うように広がっていく。
「決着を付けましょう、ベルガモット」
 ハインは深い決意と共に呟くと、ドレイクたちを次々に切り裂いて進んでいく。
 初動はこちらが抑えた。
 次に仕掛けてくるのはベルガモット側のほうだ。
 岩の鎧で覆われたアフリカ象のようなドレイクが、轟音を鳴らしながら突進してくる。
 こればかりは罠で足止めできない堅さと大きさだ。
「正面から相手するぞ。防御を頼む、ヤツェク!」
「まかせときな」
 ヤツェクは馬車から跳躍すると、突進してくるドレイクをその身で受けた。
 派手に吹きtロバされるが、その間にウェールはシュヴァくんを加速。『なのなのなのなの―!』と雄叫び(?)をあげて突進するシュヴァくんもろともドレイクに体当たりを仕掛けた。
 像型ドレイクが突進の勢いを今度こそ止め、ぐらりとその巨体がゆらいだ。
「――」
 ルブラットはすかさず『残影百手』の魔術を発動。手にしたメスを走らせドレイクの堅い装甲を高速でがりがりと削り取っていった。
「今井さん頼みました……! 世界に万華鏡の輝きを!」
 その時、上空から一気に高度を落としてきたユーフォニーがワイくんの背から叫ぶ。
 答えるように万能遠距離攻撃係長『今井さん』が両手でスッと陰陽陣を組み、背負っていた書箱から大量の紙片を展開。高速で鶴の形に折りたたまれた紙が一斉にドレイクへと飛んでいく。そのさまは戦闘機からの機銃掃射さながらである。
「ベルガモット……!」
 ウェールのシュヴァくんに飛び乗ったタイムは、そのままドレイクたちの前衛部隊をやぶりベルガモットへと距離を詰める。
「――」
 早速バチンと大気が緊張し、緑色の雷撃が走る。
「元々はクリスタラードに命を捧げた人達の、魂の欠片。使わせて貰うね……!」
 魂を探知し直撃させるというベルガモットの雷は、しかし宙に放ったタイムの七晶石に吸われた。
 が、その光景は自分達も、そして相手も一度見たもの。対策をして当然である。
 ベルガモットは即座に第二の雷を生み出すべく、頭上に緑色の雷の球を作り出した。
「来るぞ!」
 ヤツェクが叫ぶ。
「ベルガモット、わたしがあなたの雷に耐えられるか勝負をしましょう? 来なさい!」
 タイムの手元へと落ちた七晶石はパチンと音をたて、その輝きを弱めていた。
 第二の雷撃を吸収できる様子は、ない。
 ゆえにタイムは石を握って祈りの姿勢を取り、自らの周囲を巨大な聖域へと変えた。
 激しい雷撃がタイムひとりへと吸い込まれ、『ぐっ』とタイムが呻く。
 その類い希なる回復力と防御力、ひいては総合防衛力をもってしても、耐えきることが難しい攻撃なのだ。
 タイムはついにたえかね、馬上から転落。焦げた野原をバウンドし転がる。
「タイム!」
「大丈夫、やって……!」
 しかしタイムは薄目を開け、叫んだ。
 ウェールたちが思い切りベルガモットへと突進。
 激突した衝撃を利用して飛んだヤツェクとルブラットだが、雷はそんな二人へ再び放たれた。
「まだこんな力を残していやがったか!」
 ヤツェクは舌打ちし、ルブラットをかばうように前へ身を乗り出す。
 爆発のような衝撃がはしり吹き飛ぶヤツェク。
 一方でルブラットは手にしたメスをベルガモットの額――第三の目へとへと突き立てた。
 それだけではない。飛びかかったハインがベルガモットの足を、ユーフォニーの今井さんが激しい砲撃を浴びせかける。
 対してベルガモットは……思いのほか、あっけなくその場に横たわる。
 巨大な身体がずしんと音をたて、その事実に周囲のドレイクたちが困惑したように飛び退いた。
「これ以上やるなら……!」
 ユーフォニーがキッと強い視線でドレイクたちを見つめると、ドレイク達はばらばらにではあるが撤退を始めた。
 もはや二度と、この地に戻ってくることはないだろう。
 出番がなかった事にある意味安堵したらしいムシャムシャくんがユーフォニーの頭からぴょこんと花を出した。

「ベルガモット。グリーンクフィアの人達は夢から醒め自分の意志を取り戻したわ。
 あなたもクリスタラードから自由になることは選べなかったのかな」
 そんな風に呟くタイムの目の前には、横たわるベルガモットの巨体があった。その顔に、そっと触れるルブラット。
「私は過去も今も、そしてきっと未来でも、悲劇を悲劇のまま捨て置きたくないと思っている。君も同じだったろうか?」
 答えは、ない。
 だがそれでもルブラットは続けた。
「何にせよ私は、この度の出来事も悲劇として終わらせたくはない。
 花は燃え尽きていない。最初に我々が採集した分が残っている。
 分量を調整し、麻酔や終末期医療に活かす道を考えている」
 その言葉を聞いてか、ベルガモットの目が僅かに開いた。
 ザザッとノイズの混じったような感覚と共に、テレパス通信がルブラットたちの頭の中に響いた。
『間違った過去は、消えないのです』
 その言葉が全てを意味しているように思えて、ウェールとユーフォニーは顔を伏せる。
 ハインは、あえて背を向けていた。
 その時である。
 タイムたちは周囲に白い光が満ちるのを幻視した。
 まるで蛍の群れのように生まれてはわきあがっていく光の群れ。
 それがこの地に身を投じてきた魂たちのなれはてなのだと……なぜか直感できた。
「……プルネイラ」
 焦げた野原に仰向けで、ヤツェクはペンダントを取り出す。
 光の中に、おぼろげに誰かの輪郭が見えた気がしたのだ。
 その輪郭は、ペンダントにはいった写真のそれにそっくりだった。
 世界には、言葉に出来ない確証がある。目に見えない運命がある。
 もしかしたら彼女は、それを察してヤツェクにペンダントを預けたのかもしれない。
 いずれにせよ、そう。
 そうだ。
「終わったぜ」

●ブラックブライア:革命前夜に朝が来る
「鬨の声をあげろ!今こそ戦場に『黒響族』の力を響かせる時だ!
 戦って、皆で掴み取るぞ……自由の空を!」
 マイクを握りしめ、叫ぶ。それだけで人間は動き、世界は動き、歴史は動くのだ。
 これはその一端に過ぎないが、しかし逆に言うならば――。
「黒響族、俺達に続けぇえっ!!」
 『残秋』冬越 弾正(p3p007105)はいま、歴史を動かす一ページに手をかけたのだ。
 走り出す弾正。その隣には『メタルカオス・ライダー』ノア=サス=ネクリム(p3p009625)と『紲家』紲 月色(p3p010447)が並んでいる。
 塔の最上階を走る三人の後ろには、いくつかの塔の間で組まれた『連合』のファイターたちが続き、何人かが放つ飛行付与の魔法によって一斉に飛び立つ。
 同じく付与効果を受けて飛行状態となった弾正を迎え撃ったのは漆黒の空。
 ……否、空を埋め尽くすかと思えるほどの大鴉の群れである。
「ブラックアイズの眷属か」
「奴らを突破しないかぎり、管理亜竜のもとまでたどり着くことすら難しいだろうな」
 月色は空のドラゴンロアを小さく唱え骨の翼を広げると、羽ばたき空を自在に滑空する。
 そんな彼が腰から抜いたのはふたつの片刃剣。それぞれ柄の端にレバー状のトリガーがつき、刀身の根元にはリボルバー弾倉が取り付けられている。
 トリガーごと柄を握り込むと弾倉が周り、ガチンと落ちた撃鉄によって叩かれたブリットが炎の魔術を発動させた。
 そう、射撃のための武器ではない。外付けの魔術兵装なのだ。
「部隊の統率は私とノアに任せろ。弾正、貴様はとにかく連中をそのマイクで煽り続けろ」
 できるな? と振り向き目で問われた弾正は、唇の端をちいさくあげることでそれに肯定した。
「無響和音、アクティブ。行くぞ皆!」
 おう! とファイターたちから声があがる。
 これまで互いを敵視し、蹴落としあいながら頂点を奪い合っていた者たち。
 彼らに統率を求めるのは困難だったかもしれない。しかし頂点を取った者たちと、底辺をまとめた者たち。その二つが手を取り合う姿に彼らは憧れ、そして今一度団結の道をとったのだった。
「俺には一騎当千の力はないし、カリスマや華やかさもない。
 特異運命座標である事をのぞいたら、ブラックブライアの下層の者達とさして変わらない……貴様らにしてみれば虫けらのような命だろう。
 だが、虫けらには虫けらなりの戦い方がある。この攻撃は、ブラックブライアの人々の 想いを束ねた一撃だッ!」
 弾正は吠え、そして赤い鎖と化した平蜘蛛を螺旋状に纏わせ大鴉の群れへと突進する。
 それに続く大勢のファイターたちが大鴉の群れへと激突し、そして無理矢理に撃破していった。
「ノア、隊を半分貰うぞ」
 月色は塔の比較的上層で争っていた強力なファイターたちを引き連れ大鴉を迂回するルートをとる。
 彼は再びトリガーを握り『バーンアウトライト』の魔術を発動させると、大鴉の群れへと斬りかかった。
(そもそもの目的は水晶とやらへのエネルギー供給をストップさせることだったか。
 弱者が生贄として生命エネルギーへ変換される忌々しい制度させ無くなってしまえば、ブラックアイズ自体の処遇は吾輩の知ったことではないな……)
 仲間はどうやら何かしら考えがあるようだ。だが、月色にとって大きな問題ではない。
 ここを切り抜けることが重要なのだ。
 その一方。
「初めましてね、塔の住民の皆さん。私はノア…貴方達が支配に抗おうとしていると聞いて駆けつけました」
 隊の半分を受け持ったノアは改めてファイターたちへ自己紹介をすると、心の中で呟いた。
(この人達は家畜じゃなく、一人の人として、当たり前の権利を勝ち取るために抗う道を選んだのだ。だったらその道を先導し、抗う意志を絶やさないようにしてやらなければならない……)
 言うべきことを考え、そして大きく息を吸い込む。
「聞きなさい、塔の皆! これから始まる戦いはクリスタラードの支配を脱する為の戦いよ!
 一人一人が自由に生きられるように…! あの大鴉を恐れない者は武器を取って、共に抗いましょう!」
 ノアは叫び、騎乗していたメタル・カオス・ワイバーンのシートの上で魔術プログラムを実行した。
 翼竜形態をとったバイクの前方から竜顎を摸したパーツが開き、砲身が露出する。
 放たれた雷の魔術が前方の大鴉たちを焼き、更に突っ込んでいったファイターたちが傷付いた大鴉たちを次々に撃墜していく。
(生きようとしている彼らを戦いに投入する、矛盾しているかもしれない。
 だからせめて、戦っている人が帰れるように回復をして……散っていった人のことは決して忘れない)
 当然こちらが一方的に勝利するわけではない。これは戦いであり、ブラックブライア集落単体でみれば『戦争』といって差し支えないものだ。
 犠牲は出る。傷付く者もある。しかしそれを覚悟して彼らは望んだのだ。ノアはそれにこたえるべく治癒の魔術を展開し、負傷し墜落していった者に対しては仲間の補助と撤退を指示した。
 殺すために、死なせるために戦うのではない。彼らの明日を勝ち取るための戦いなのだ。

 三つの塔で連合を組むまでに巨大化した黒響族。
 彼らが大鴉とその先に待ち受ける管理亜竜ブラックアイズにほぼ全て投入されたことには、実のところワケがある。
「あの情けない姿を見ても貴方方はビクトリアの味方をするのですか?」
 美しく整ったスーツ姿で、『毀金』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)は両手をやわらかく広げ、そして微笑みすら浮かべて歩いてゆく。
 対するビクトリアはびくりと半歩下がり、それに率いられていた部下達はより大きく下がった。
「あ、あんた、ヤれるって話じゃあ」
「相手は二人よ。皆でかかれば」
「じゃあお前が行けよ!」
「捨て駒になれっていうの!?」
「俺は最初にやめようって言っただろ! もう抜けるぞ!」
 ビクトリアの部下たちは徐々に逃げ出し、数が減るにつれその勢いは増し、最後に残った数人もビクトリアの顔色をうかがいつつ少しずつ後ろに下がるという有様であった。
「ふふ」
 『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)は長い髪を耳にかけ、ヴィクトールと同じように笑う。
「よもや、あの様な失態を起こしておきながら生き永らえるだなんて、格好悪いでしょう?
 宛ら、赤子の様でしたではありませんか」
 最後に残ったビクトリアは黒い剣を手に構え、未散たちを牽制する。
 褒めるべき、なのだろうか。最もみっともなく恐れ最初に逃げ出した筈の彼女はいま、最後まで残り、『半歩よりさきは』後退しなかったのだ。
「も、もう『心臓』は手に入れたのです。あ、あなたたちなんて、ただの抜け殻です! 意味なんてない! はやく死――早く死んで!」
 裏返った声で叫び斬りかかるビクトリア。
 しかし塔を制覇しただけのことはある。これだけ取り乱していてもその剣筋は鋭く、動きは洗練され、常人であれば呼吸する暇すらなく殺せただろう。
 だがこちらとて、常人ではない。
 未散は抜いた刀で相手の剣を弾く。宙空に弧を描く剣の動きはなめらかで、まるで高速で回転する車輪を打ったかのようにビクトリアの剣がながされる。
 それでも諦めずに未散をキッとにらみ付けるビクトリア。今度は大きく飛び退くが、それは逃げるためではない。間合いを計り次の一撃に繋げるためだ。
 しかし未散はといえば……。
「存分に振るって下さいまし。ヴィクトールさま」
「わかっています、チル様。ココまでお膳立てされたのですから少しばかりは格好をつけさせてもらいましょう」
 未散の剣である『玉響』をくるりと反転させ、刀身をつまんでヴィクトールへと差し出した。
 まるで、パーティーホールでダンスに誘うかのように美しいその所作に、ヴィクトールは小さく礼をしながら柄を握る。
 未散は冗談のようにウィンクをしたが、ヴィクトールはそれに答えるように投げキスをした。
 きょとんと一瞬だけ目をみひらき、そして元の微笑みに戻った未散はビクトリアの横を抜けて走って行く。
 逃げた連中が戻ってこないように追い回し、相手取っておくつもりなのだろう。
 未散は走りながら、心の中で呟いた。
(さては今の彼、相当に機嫌が良いな)
 見ているのが自分だけでよかった。
 動悸が少し弾むのは、走っているからだけじゃない。
 それに。
(対象がぼくじゃないのが。少し、悔しいだなんて)

 必至に斬りかかるビクトリア。
 対するヴィクトールはそれを鮮やかに切り払い、もと立つ位置から一歩も動かない。
「今日は貴方を殺しに来ました。ビクトリア」
 剣がぶつかり合う音が聞こえなくなるほど鮮明に、彼は言う。
「あの心臓のことも、貴方が今なぜ私に怯えているかもわかりませんが一つだけ解ることがあります――きっとこれが貴方にとって初めてじゃあないのだと」
 そして初めて踏み込むヴィクトール。
 ビクトリアは思わず『ヒッ』と声を上げ、そしてそれゆえに動きが固まった。
 ヴィクトールの剣は見事に彼女の胸を貫き、そのことに気付いた彼女は絶望の顔で刀身を見つめていた。
「おとうとも、こうやってころしたの……?」
「わかりません。貴方も言ったでしょう? 私は『ぬけがら』だと」
 だから、私を求めるな。
 私に期待するな。
 私に恐怖するな。
 それは、貴方が抜いた心臓に、すべてあったのでしょう?

 大鴉たちがああもあっさりと駆逐されていく。
 管理亜竜ブラックアイズはその事実に、どこか終焉の気配を感じていた。
 あれらはこの塔――つまりはブラックブライア集落のルールの象徴だ。
 塔から勝手に出ること。勝負を捨てることや、最下層に居続けること。そうした人間達を浚い、クリスタラードの贄とすることで彼らの生命力を高く維持させる。
 効率的な牧場であり、彼にとって理想の社会だった。
 人間は自分によって管理され、短く太い人生を送ればよい。強さを求め競い、他を疑い考え、己を磨き続ければよい。それが理想であり、全ての人間がそうすべきだとすら思う。
 そんな彼の社会は、物理的に壊れていった。
「よう、ブラックアイズ」
 『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)がスゥ――と中へ浮かびブラックアイズの前に『立った』。
 空中に地面があるかのように足を付け、ずっしりと身体に芯の通った構えをとる。
 つまりは、ボクシングの構えだ。超高速で距離を詰め必殺の拳を必殺の箇所に最高速で押し当て殺す。人間という『動物』の強さを極限までつきつめたような存在が、ブラックアイズの前で構えているのだ。
 引くことは、勿論できない。
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)が靴から魔法の翼を広げ、聖剣ラグナロクを抜いていた。
「ブラックアイズ、ボク達が勝ったらボク達に従って貰う。それがルールだからね」
 こちらもまた、でたらめな存在だ。
「イヤだと言ったら?」
「またバトルをして決める。だってここはそういう場所なんでしょ?」
 セララは無邪気ににっこりと笑い、剣に魔力を込めた。黄金のそれは太陽のように一瞬だけまばゆく輝き、その後も燃えるように魔力を可視化させている。
「ボクが勝ったら、そうだなー。もしキミが良ければボクと友達になって欲しいな」
「ぐう……!」
 滅茶苦茶だ。勝者の権利が『友情』など。うわべだけの口約束で裏切ることなど容易だというのに。
 いや、違う。友達という権利を行使してこちらへ無限に要求をし続けるつもりだろうか?
 疑心が膨らみ混乱しかけたブラックアイズだが、セララはやはりニコニコ笑っているだけだ。
「今は友達になるのが無理なら、ボク達がキミを縛るクリスタラードをやっつけてくるから、そのあとでもいいよ!」
「う、ううう……!?」
 本当にわけがわからない。彼女は『本気』で言っているのだ。人間を家畜として飼育し、消費し、あまつさえ食ってもいた存在と友達だと?
 彼女は逆に、家畜の豚や鶏が友達になりたいと言ってきたらなるのだろうか? いや、なる。彼女はなる。
 ――そうブラックアイズが思ってしまうほどの目で、ブラックアイズをただ真剣に見つめていた。
「獣は手負いが一番怖いって言うじゃない?
 人間だろうと亜竜だろうとその辺りは一緒ってあたり好感は持てるね。
 まあ話を聞いた限りでは今まで散々他の命を食い物にして来たんだから。
 これも因果応報ってやつでしょう」
 自分の考えをあえて口に出しつつ、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は横を飛ぶ『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)に視線を向ける。
 ルーキスはプルイーナという燻んだ灰色の角と白鱗を持つ亜竜の背に乗っていた。ルーキス自身にも青く美しい翼があるが、それは飛ぶためのものではないのだろうか。確かに飛行に適した部位に生えているものではないが。
 第一、ルーキスはプルイーナを非常によく懐かせ、まるで自らの身体の一部であるかのように自在に操っている。ともすれば、自分の翼以上に自由に。
 一方でブランシュは最近獲得した船姫型拡張武装を背に接続し、そのうえで静音化したフライトユニットで飛行している。
 とんでもない重武装を背負っているにもかかわらずそれを感じさせないほどの静音性と機動力。
 それが今、発揮されようとしていた。
「ブラックアイズ。自分が一番得意なフィールドだと思い上がりましたか?
 頭脳を使うことですね。空戦は頭脳によって決せられる」
 ブランシュはそう呟き、ブラックアイズの上をとり砲身をブラックアイズへ一斉に向けた。
「モード・シューティングスター! 五連装聖滑腔砲、撃ッ!」
「――ッ!」
 ブラックアイズもまた動き出す。巨大な鴉にもにた亜竜ブラックアイズはその飛行戦闘能力ひとつとってもずば抜けている。
 ブランシュの正確無比な射撃を受けながらもギリギリの所で魔力のシールドを形成し直撃を免れている。
 が、それを逃すルーキスではない。
「私達のコンビネーションを見せてあげようかプルイーナ」
 急加速したプルイーナの上で、ルーキスは『星灯の書』を開き魔術を起動。同時に抜いた黒銃でブラックアイズの背を撃ちまくる。
「我ながら随分と、前に出て汚れることに慣れてきたなぁ!
 良くも悪くも旦那の影響かな? 必要ならこういうこともやるさ」
 対応力の広さと柔軟さはルーキスの得意であり、彼女のいうところの『旦那』の得意でもある。今はひとりでそれをこなしているようなものだ。
 そしてそういう仲間がいることで、ブランシュのように鋭く尖った戦い方をする仲間が自由に動けるのである。戦術におけるマスターキー的存在とでもいおうか。
 そしてそれは、すぐに効果を発揮する。
 ルーキスの放った銃撃がブラックアイズのシールドによって防がれた。なぜかと目を細めてみれば、ブラックアイズのシールドには魔術を阻害する結界術が施されていたのだ。
「そうか……なら」
 ルーキスは更に距離を詰め、特殊な魔術をこめて銃を構える。
「そいつは困る。ちょっと干渉しますよ」
「何!?」
 ルーキスの放った弾はシールドに接触した途端反発を起こし、シールドをガラスのようにひび割れ破壊させてしまったのだ。
「そっちばかり見ている暇があるのですよ!?」
 ブランシュが上をとったまま連続砲撃。更に集中した砲撃に衝撃波を浴びせ、ブラックアイズの意識を貫いていく。
「この……!」
 ブラックアイズはブランシュに追いつくべく上昇をかけるが、ブランシュの凄まじい機動力には追いつけない。
「航空猟兵相手にケツ取れると? 甘いのですよ」
「全力全壊! ギガセララブレイク!」
 そしてだからこそ忘れてしまっていた。
 ヤバイ相手の存在を。
 セララは魔力を燃え上がらせた剣でもってブラックアイズの翼を派手に斬り付ける。
 なんとかもう一方の翼でバランスをとろうとした、その時。
「勝負は急がせてもらうぜ、鳥目野郎!」
 貴道が間合いに入ってきた。
 入ってきた時には既に拳が放たれ、とんでもない速度で連打が入る。
 ブラックアイズの体内に浸透した衝撃は臓腑を狂わせ、骨を軋ませ、大量の血を吐き出すに充分な威力となる。
 逆に言えば、貴道のパンチを食らって『血を吐く』程度で済んでいるだけブラックアイズは強靱だということなのだが。
「く、くそ、こんなところで……終わるわけには……!」
 魔術を解き放ち全方位攻撃を仕掛けようとした、その瞬間。
「いや、finish(おわり)だ」
 貴道のパンチがブラックアイズの脳に直接響いた。意識が暗転する。

 塔の上にだらんと横たわる形で、ブラックアイズが気を失っている。
「殺さなかったのか?」
「セララの希望でな。ここまでやれば、もう何もできんだろう」
 貴道や弾正たちが会話する一方で、ファイターたちはこれからのことを話し合っている。
 塔の頂上をかけたデスゲームはもう終わりだ。これからは塔でいかにして生きていくかを決めなければならない。おそらく、それが彼らにとっていちばんの難題になるだろう。
 暫くすると、ヴィクトールたちが塔の最上階へと戻ってくる。
 彼もまた、自分の問題をひとつ片付けたらしい。本当に欲した答えを得たのかは、傍目にはわからないが。少なくともどこか満足そうだ。
「さて、と。帰るか。あとのことは、ここの連中に任せるのがいいだろう」
 月色があえてラフな口調で言うと、仲間達もそれに頷いて塔から飛び立った。
 貴道が振り返ると、ボンズが小さく手を翳しているのが見えた。あとは任せろと、彼の堅く握った拳が告げている。
 セララも振り返ってみれば、バルマが微笑んで手を振っている。セララと貴道は顔を見合わせ、そしてブラックブライアの明けた空のかなたへと飛んでいった。

成否

成功

MVP

セララ(p3p000273)
魔法騎士

状態異常

なし

あとがき

●各エリアの活動
 今回の調査の成否のみを共通公開します。
 【白】ホワイトホメリア:成功
 【紫】ヴァイオレットウェデリア:成功
 【赤】レッドレナ:成功
 【青】オーシャンオキザリス:成功
 【黄】イエローイキシア:成功
 【緑】グリーンクフィア:成功

 全ての集落はクリスタラードの支配から解放され、結果としてクリスタラードはそのエネルギー供給源を失うことになりました。
 各集落の情報から贄の儀を行っていた場所を割り出すことができましたが、集落を失ったことを察したクリスタラードはもうその場には寄りついていませんでした。
 己の牧場を失った状態で、過去の戦いで消費してしまったエネルギーをいかにして復旧させるつもりなのか。それはまだ、わかってはいないのです。
 しかし、クリスタラードを追い詰めるための確かな勝利を、ローレット・イレギュラーズは刻んだのでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM