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シナリオ詳細

<祓い屋>別たれる道

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 煌めく太陽は燦々と降り注ぎ、近づいて来る夏の気配が広い中庭を覆う。
 希望ヶ浜の一区画。燈堂家の中庭には、青々とした緑の息吹が咲き誇っていた。
 艶やかな葉をつけた木々が陽光を受けて地面に木漏れ日を落す。
 ピンクや青、紫を抱く紫陽花は、まるでウェディングブーケのように花開いていた。
 その中を赤い絨毯が真っ直ぐに伸びている。
 ゆっくりとした足取りで絨毯の上を歩いてくるのは、紋付き袴を着た『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)と白無垢を身に纏う『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)だ。
 二人とも幸せそうに――少し照れくさそうに手を繋ぎ進んで行く。
 一見すれば神前式の結婚風景に見える二人の姿を、集まった人々は静かに見守っていた。

 以前の暁月ではあり得ない、優しげな微笑み。
 全てはイレギュラーズ達が彼らの運命に深く関わったから勝ち得たもの。
 歪な形で悪影響を与えていた妖刀無限廻廊は、星の導きにより正しい道筋を辿り。
 万年桜の下で絡まった『過去』とも、きちんと別れを告げた。
 前へ、進めるなんて、想像もしていなかったのだ。
 だから、今日この日がとても幸せで。明日が少しだけ寂しいと暁月は想った。

 ――――
 ――

「やあ、来てくれてありがとう。こういうのは人が多い方が良いからね」
 暁月は柔らかな笑みを浮かべイレギュラーズへと手を振った。
「さっきの結婚式は、まあ、一種の儀式なんだよ」
 紋付き袴を着た暁月はゆっくりと振り返り、白無垢を身に纏う廻へと視線を向ける。
「廻はこの前の戦いで、『泥の器』にされてしまったからね。今すぐに死ぬというものではないけれど、体内に溜った穢れはやがて廻を蝕んでしまう。だから、それを浄化するために本家に行くのさ」

 この前の戦い――暁月が当主としての重圧や黒呪の印により暴走した事件だ。
 星の奇跡とイレギュラーズの想いが暗闇から暁月を救い上げた。
 しかし、暁月を救えた裏側で、葛城春泥の暗躍により廻が重大な呪い『泥の器』にされてしまったのだ。
 これを浄化するには、本家に赴くしか無いのだと暁月は『寂しげに』告げる。

「それで、一旦『繰切の巫女』という役目を終えて、深道へと居を移すんだ」
 単純に引っ越すというだけではないのかと、疑問を浮かべるイレギュラーズに暁月は少し真剣な表情を浮かべ頷いた。
「そうだね。こういうのは手順を踏まなければ、因果は廻へ悪影響を与えてしまう。だから、一番手っ取り早い『嫁入り』という形をとったんだ。まあ、形式的なものだよ」
 暁月は「見てご覧」と中庭ではしゃぐ門下生に視線をあげる。
 そこには、白蛇を巻いた銀髪の少女がウェディングドレスを着てくるりと回っていた。隣にはタキシード姿の少女もいて、どちらも楽しげに笑っている。
「彼女達は門下生の湖潤・仁巳と煌星 夜空だ。……ふふ、気になるかい? 君も着てみるといい。ちょっと照れるかもしれないけど。割と楽しいよ」
 紋付き袴の袖を持ち上げた暁月はイレギュラーズに悪戯な笑みを浮かべた。

「おら、主役が何処ほっつき歩いてんだよ」
 鋭い目つきで暁月を見遣るのは『番犬』黒曜だった。彼も何時もよりお洒落なスーツを身に纏っている。
「主役って、もう式は終わったじゃないか」
「ちげーよ。そっちじゃねぇ。誕生会の方だ」
 この宴会は、イレギュラーズへのお礼と、廻の送別会、それに暁月、廻、龍成の誕生会を兼ねていた。
 先の戦いから慌ただしい日々がようやく落ち着いたのだ。
「しかたないなぁ、黒曜は。……君も一緒にお祝いしてくれるかい?」
 振り返った暁月は顔を綻ばせて子供みたいに笑った。

 ――――
 ――

 白無垢の重さと帯の締め付けに、しっとりと汗ばむ廻の肌。
 その額へハンカチを押し当てるの『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)の指先。
「廻くん……」
 とうとうこの日がやってきてしまった。分かってはいたけれど、寂しいという気持ちばかりがシルキィの心を覆ってしまう。本家に行くということは、燈堂の離れに帰っても「おかえりなさい」という廻の声がきけないということなのだ。

「まあ、泥の器を浄化する事が出来れば、また戻って来るから心配はいらないよ。半年もすれば元通りさ」
「半年も……その間は会えなくなるのかなぁ?」
 シルキィは廻の手を取って悲しげに瞳を揺らす。本家に尋ねて行けば会えるのだろうかと。
「そうだね。深道の人間であっても禊の蛇窟がある『煌浄殿』は、ごく限られた者しか立ち入る事を許されていない。煌浄殿の主『深道明煌』の許し無くてはね」
 深道佐智子の末子。暁月の叔父にあたる人物がその建物の管理を任されているらしい。

「……その人に許して貰えれば、会う事は出来るんですかね?」
 こてりと首を傾げた廻はシルキィと共に暁月を見つめる。
「うん。許しが出れば会えるよ。煌浄殿の『呪物』に対して明煌さんは絶対権限を持っているんだ。呪物の中には凶暴なものも多いからね。だから、特異な能力を持った叔父が一任されている。廻は呪物『泥の器』として、その理に縛られる事になる」
 つまり許しが無ければ、外に出ることすら叶わないという事だ。
 絶対的な強制力にシルキィは不安げに視線を落す。

 暁月は廻の頬に手を当てて謝罪の言葉と共に唇を噛んだ。
「傍に居てやれなくてすまない。君だけを他所へやってしまう」
「僕は大丈夫ですから。穢れをきちんと祓って、戻って来ますよ。だけど、その間にまた暁月さんが落ち込んでしまったら僕はとても悲しいので、しっかりと燈堂を守ってください。約束ですよ?」
 悪戯そうな笑みを浮かべた廻に、暁月は目を細める。こんなやり取りでさえ、以前の暁月であれば落ち込んでいただろう。されど、イレギュラーズが彼の心を救い上げた。だから、寂しいけれど送り出せる。
「ああ、約束だ。廻もしっかりと勤めを果たしてくるんだよ」
「はい!」
 廻はくしゃりと笑みを零した後、シルキィと愛無へ向き直った。
 二人の手を取り、眉を僅かに下げて、指に力を込める。
「ちょっと、本家深道へ行ってきます。必ず帰って来ますから、待っててくださいね。愛無さんはシルキィさんを僕の代わりに守ってあげてください。シルキィさんは愛無さんが拾い食いをしてお腹を壊さないように見守ってあげてください。……帰って来たらまた三人で美味しいもの食べましょうね」
 約束を指先に絡ませて廻は愛無とシルキィへ、精一杯の笑顔を向けた。

「あ、シルキィさん……これ渡しておこうと思って」
「ふぇ? なぁに?」
 廻が懐から取り出したのは美しい刺繍が入った小袋。
 中を開くと、黄緑色の丸い宝石がチェーンと共に転がってくる。
「ネックレス?」
「はい、この僕が持ってるネックレスと同じ石を割って作られています。ペリドットなんですけど」
 廻の掌にはもう一つのペリドットネックレスがあった。
「これを握って僕の名前を呼んでください。そうしたら、ちょっとの間だけ会話が出来るんです」
 魔術的な術式を組み込んであるのだろう。
 ほんの少しだけでもお互いの声が聞きたい時に。想いを乗せて伝える言葉。
「嬉しいよぉ! ありがとう、廻くんっ!」
 シルキィは白無垢の廻を力一杯抱きしめた。

 ――――
 ――

 廻は白無垢の裾をたくし上げながら『刃魔』澄原龍成(p3n000215)と『ぬくもり』ボディ・ダクレ(p3p008384)の元へとやってくる。
 慣れない衣装と草履に転びそうになるのを龍成が咄嗟に抱え込んだ。
「しっかり立てよ」
「うん……ありがと」
 綿帽子の間に廻のアメジストの瞳が物憂げに揺れる。こういう顔をするときは何か言いたい事を戸惑っている時なのだ。龍成は「どうした?」と優しく問いかけた。
「龍成……あのね。暁月さんのこと頼めるかな? 元気になったとはいえ、ちょっと心配だから」
「ん、分かった。見とくようにする」
 もっと深刻な事かと思えば、廻の口から出たのは暁月の心配だった。
 今の暁月なら心配は要らない。頼りがいのある友人もいる。

 それよりも――

「廻も気ぃつけてな。あいつ居るんだろ? 葛城春泥だっけ? 暁月達はあいつの事信用してるかもしれねぇけど。俺は怪しいと思ってる。だから、何かされそうになったら逃げて帰って来い。いいな?」
「うん、分かったよ。ありがとう……ふふ」
 廻の頭を撫でようとした手は、綿帽子に阻まれ。代わりに頬を突くように龍成の指先が触れる。
「何笑ってんだよ」
「出会った時は龍成が何かする方だったのにね」
「悪かったって」
「冗談だよ」
「知ってる」
 こんな会話の応酬が出来る程に仲良くなったから。龍成は廻にとって気が置けない友達なのだ。
 だから暁月を任せて行ける。
「じゃあ、行ってきます」
「おう。頑張れよ」

 振り返るとボディがじっと龍成を見つめていた。
「……寂しいですね」
 ボディは自分の感情には疎いくせに、龍成の寂しさや不安を敏感に察知する。
「ん、まあしゃーねぇ。穢れを祓うには深道に行かなきゃなんねーんだろ」
 優しい親友の緑黒の髪をわしわしと撫でつけて、龍成は去って行く廻の後ろ姿を見つめた。

「廻君~! こっちこっち!」
「アーリアさん……っ」
 宴会場で廻へと手を振った『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の後ろには、『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)と『桜舞の暉盾』星穹(p3p008330)が並んでいた。
 その向かいには『刀身不屈』咲々宮 幻介(p3p001387)と『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)、それに『求道の復讐者』國定 天川(p3p010201)が杯を交していた。
「ほら。ここ座って」
 簡易椅子に腰掛けた廻はアーリアから杯を手渡される。
「暁月さんの事はお姉さんに任せなさい。だから、自分のことだけ考えて、しっかり穢れを落して、無事に戻ってくるのよ」
 万年桜で彼らは暁月の傍に居てくれたらしい。暁月の忘れられぬ記憶を『過去』にしてくれた。
 アーリア達にならば今の暁月を任せられる。
 きっともう彼は。あの暗い座敷牢の中、鬱屈した瞳で、自分を支配した暁月では無いのだ。
 雁字搦めだった糸は、やわらかな輪となって、暁月と廻を結んでいる。
「はい。頑張ってきます。……暁月さんのこと、お願いします」
 ぺこりと頭を下げた廻の肩を、天川がヴェルグリーズが次々に優しく叩いていく。

「じゃあ、今日はぱーっと飲み明かすわよ!」
「はい! いっぱい呑みましょうね……せーの、乾杯!!!!」

 ――――嫌な予感を振り払うように。廻は杯を蒼穹広がる天に掲げた。

GMコメント

 もみじです。
 いよいよ、祓い屋第三部『最終章』となります。
 今回はこれまで参加出来なかったという方の為にラリー形式にしています。
 この機会に是非、祓い屋の物語へご参加ください!

●パート
 後述のパートごとに分れています。
 どれか【1】~【6】の一つのみ参加できます。

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●燈堂家で宴会(イベント)

●ロケーション
・希望ヶ浜の燈堂家。
 大きな和風旅館のような佇まいです。
 門下生が生活する南棟、東棟、訓練場がある西棟。
 とても広い中庭は四季折々の草花が見られます。
 北の本邸には和リビング、暁月や白銀、黒曜の部屋があります。
 離れには廻、シルキィ、愛無、龍成、ボディの部屋があります。
 本邸の地下には座敷牢と、そこから続く階段があり、無限廻廊の座へと繋がっています。

●できる事(どれか1つ)
【1】中庭をお散歩
 戦いの爪痕も綺麗になりました。
 広大な中庭には季節の花が咲きます。
 今の季節は青や紫、紅の紫陽花。桔梗や撫子、梔子などの花が咲いています。

 小川が流れています。風光明媚でお散歩には丁度良いです。
 各所にベンチ等がありますので、ゆっくりお話も出来るでしょう。

 暁月と廻に習い、ウェディングドレスや白無垢を着てみるのもいいでしょう。
 門下生なども楽しんでいるようです。

【2】宴会
 中庭には茶屋があります。
 今日は祝勝会と快気祝い、そして『廻の送別会』です。
 爽やかな風が吹く中庭で宴会をしましょう。
 簡単な家庭料理やおにぎり、サンドウィッチやオードブルなど。
 未成年にはジュース、大人はビールや缶チューハイ、カクテルなど。

【3】室内
 南棟には広い食堂や大きな温泉があります。
 特に温泉はあったまります。宴会の後にお泊まりをしてもいいですよ。
 燈堂家本邸にも立ち入ることが出来ます。
 繰切の居る無限廻廊の座はここです。

【4】稽古をつけてもらう
 西棟には門下生の為の訓練場があります。
 体育館程度の広さがありますので、問題無く稽古が出来ます。
 暁月達と剣を交えて武を磨きましょう。

【5】その他
 燈堂の敷地以外の場所(希望ヶ浜)にお散歩でも大丈夫です。
 どこへ行きたいか書いてください。

●NPC
【1】~【5】に居ます。

○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
 希望ヶ浜学園大学に通う穏やかな性格の青年。
 裏の顔はイレギュラーズが戦った痕跡を綺麗さっぱり掃除してくれる『掃除屋』。
 今は『泥の器』にされてしまい穢れた状態です。
 それを浄化する為に、本家深道へと送り出す日となっています。
(白無垢を着ているのはそのため)
 廻とはしばらくの間会えなくなるでしょう。

○『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)
 希望ヶ浜学園の教師。裏の顔は『祓い屋』燈堂一門の当主。
 記憶喪失になった廻や身寄りの無い者を引き取り、門下生として指導している。
 精神不安に陥り暴走しましたが、イレギュラーズに救われ笑顔を取り戻しました。

○『刃魔』澄原龍成(p3n000215)
 元々は獏馬と共に廻達と争っていたが、イレギュラーズに殴り飛ばされ改心しました。
 意外と根は真面目で、優しい一面を持っています。
 口が悪いのは照れ屋で不器用なせいです。

○その他
・『獏馬』しゅう、あまね(あまねは現在廻の中で深く眠っており会話不可)
・『三妖』黒曜、牡丹、白銀(白銀は敷地外には出られません)
・『双猫と住人』黒夢、白雪、雨水、灰斗、神々廻絶空刀
・『燈堂門下生』湖潤・狸尾、湖潤・仁巳、煌星 夜空、剣崎・双葉
・『本家筋』深道佐智子、深道和輝、深道夕夏、深道朝比奈、周藤夜見、周藤日向
・『蛇神』繰切は【3】無限廻廊の座の、封印の奥に居ます。直接会うことは出来ませんが扉越しに会話は出来ます。

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【6】夜妖を祓う(戦闘)

 祓い屋のお仕事を実際に体験してみましょう。
 主に、夜妖憑きとなった人や魔物と戦い、夜妖を祓います。

●目的
・夜妖を祓う

●ロケーション
・夜の公園です。
・広い敷地内には門下生が結界が張っているので人の気配はありません。
・足場や光源も問題ありません。

●出来る事
・戦闘パートです。
・祓い屋ってどんな事をするのという方にもおすすめのパートです。
・練達の情勢不安によって夜妖憑きが発生しました。
・暁月達と一緒に祓い屋として夜妖憑きを祓いましょう。

●敵
○夜妖憑き『黒闇鴉』
 本体は黒い鴉の形を取ります。
 普段は夜の闇に潜み、時に人に憑き、転々としている名も無き者。
 練達の情勢不安や『黒呪の印』で増殖しています。
 黒呪の印は葛城春泥が前回、暁月達に掛けた呪いです。
 一度追い払えば数ヶ月はその場所に現れない性質を持ちます。
 依代となっている少女が戦場の隅に居ます。

 数体で群がり闇の力で攻撃をしてきます。
 物理的ダメージもありますが、精神的な汚染も注意が必要です。

○『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)
 希望ヶ浜学園の教師。裏の顔は『祓い屋』燈堂一門の当主。
 記憶喪失になった廻や身寄りの無い者を引き取り、門下生として指導している。
 精神不安に陥り暴走してしまったが、イレギュラーズに救われ笑顔を取り戻した。
 腰に下げた刀で戦う。かなり強力な剣術の使い手。
 自分の身は自分で守ります。

○『刃魔』澄原龍成(p3n000215)
 元々は獏馬と共に廻達と争っていたが、イレギュラーズに殴り飛ばされ改心しました。
 意外と根は真面目で、優しい一面を持っています。
 口が悪いのは照れ屋で不器用なせいです。
 ナイフで戦います。

○その他
・黒曜、灰斗
・『燈堂門下生』湖潤・狸尾、湖潤・仁巳、煌星 夜空、剣崎・双葉

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以下は物語をより楽しみたい方向け。

●希望ヶ浜とは
 練達国にある現代日本を模した地域です。
 あたかも東京を再現したような町並みや科学文明を有しています。
 この街の人達はモンスター(夜妖)を許容しません。
 なぜなら、現代日本にそのようなものは無いからです。
 再現性東京202Xと呼ばれるシナリオが展開されます。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないもの。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●夜妖憑き
 怪異(夜妖)に取り憑かれた人や物の総称です。
 希望ヶ浜内で夜妖憑き問題が起きた際は、専門家として『祓い屋』が対応しています。
 希望ヶ浜学園では祓い屋の見習い活動も実習の一つとしており、ローレットはこの形で依頼を受けることがあります。

●祓い屋とは
 練達希望ヶ浜の一区画にある燈堂一門。夜妖憑き専門の戦闘集団です。
 夜妖憑きを祓うから『祓い屋』と呼ばれています。

●前回は何があったの?
・暁月が当主としての重責や、その他心身の負荷から精神崩壊をおこしました。
・星の奇跡と多くのイレギュラーズの活躍で暁月は救われました。
・真性怪異繰切の封印が強化されました。
・暗躍していた葛城春泥に廻が『泥の器』にされてしまいました。
・あまねが力を使い果たし、廻の中で深い眠りについています。

●これまでのお話
 燈堂家特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/toudou

  • <祓い屋>別たれる道完了
  • GM名もみじ
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月30日 19時35分
  • 章数1章
  • 総採用数57人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

星穹(p3p008330)
ヴェルグリーズ(p3p008566)
桜舞の暉剣

「お疲れ様です、暁月様」
「式も無事に終わったようで何よりだよ」
 緩く手を上げたヴェルグリーズと星穹は暁月の柔らかな笑みに胸を撫で下ろす。
「二人ともありがとう」
「でも、やっぱり少し寂しくなってしまうね……廻殿の早くの帰りを祈るばかりだ」
 肩をぽんと叩いたヴェルグリーズの隣、星穹は暁月へ誕生日の祝辞を述べた。
「貴方の笑顔を廻様も好いていらっしゃいますからね。
 次に会うときも笑顔を絶やさず、ですよ。いいですね?」
「厳しいなぁ……努力するよ。ああ、そうだ。二人とも贈り物ありがとうね。大切にするよ」
 加籃菜の鉢植えと、水晶のピアスを少し前に貰っていたのだ。

 ヴェルグリーズは神々廻絶空刀と灰斗が中庭ではしゃいでいるのを視線で追う。
 暁月はその視線が、従兄弟の和輝が息子を見守る姿と一緒で、思わず頬が緩んでしまった。
「気になるのかい? 空のことが」
「うん。あれから家で一緒に過ごしている限りではテアドール殿のように、まだまだ生まれたての精霊と言った感じだったけれど。彼の存在自体については俺もよく分からない部分も多い。むしろ無限廻廊の分霊としては暁月殿の方がよく知っているんじゃないかと思ってね」
 ヴェルグリーズの言葉に星穹も頷く。『自分の子供』なのに知らない事が多すぎるのだ。
「親としても、分霊の主としても不甲斐なくて。だから知りたいのです。仮にもしあの時、私達が奇跡を起こせずとも、私達が分霊を宿すならば、背負うべき責任だと思っていますから」
 二人が思ったよりも『親』の顔をしていたから、暁月は居住まいを正し視線を上げた。

「私の妖刀。これは空のように人の形を取っていない。星穹ちゃんの分霊もそうだね。人の形を取るには大きな切欠が必要なんだ」
 暁月は紋付き袴に差してある妖刀無限廻廊の柄に手を置く。
「あの子は本当に奇跡のような子だからね。私にも分からない事がある。まあでも、願いの末に生まれ落ちたのだから、きっと、それを叶えようとするだろうね。特に君達二人の願いは。
 だから、力を使う時は慎重にならなければいけない。剣としての性質が強いから、星穹ちゃんの鞘の存在は重要だよ。暴走を止める抑止力になってあげてほしい」
「暴走するのかい?」
「君達次第かな。星穹ちゃんもヴェルグリーズもきちんと『生きる』んだよ。その背にはもう空という命を負っているんだからね。……君達危ういからさ」
「暁月様がそれを言いますか?」
 星穹はこの前の戦いを思い出して眉を寄せた。
「そういえば、私達は貴方と同じように刀憑きという区分になるのでしょうか?」
 尋ねてから星穹は質問ばかりだったかと視線を泳がせる。
「そうだね。刀憑きだ。……星穹ちゃんもヴェルグリーズも『親バカ』の顔してる。私は君達のそんな顔を見る事があるなんて思って無かったよ。嬉しいな」
 この会話さえ、楽しくて。暁月と星穹とヴェルグリーズは顔を見合わせ笑みを零した。

成否

成功


第1章 第2節

ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
導きの戦乙女
恵垣 萌(p3p009248)
新刊あります
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー

「ふふ! 待っていたぞっ! この時を……!」
 颯爽と現れた萌の、透る声が中庭に響く。不敵な笑みを浮かべ「結婚式風の送別会なんて素晴らしいじゃないか。推しがウェディングスタイルならば……」と勢い良く袴に着替える萌。
「待っててくれ! 今行くぞっ! 暁月氏ーーっ!」
 猛烈な勢いで走り込んできた萌をしっかりと受け止めた暁月は、とりあえず彼(?)を隣に座らせる。
「初めまして!! 暁月氏! 突然だが写真を撮っても良いだろうかっ!」
「ええと、構わないよ」
 暁月のことはローレットの情報で聞いたこと、無事で良かった、失われれば世界の損失だったと萌は早口で目を煌めかせながら捲し立てた。
「これからもしぶとく長く、生きてくれるととても嬉しい! おっと、お誕生日おめでとうっ!」
 差し出された赤い薔薇を暁月は受け取り、「ありがとう」と目を細めた。

 祝音は初めて着る白無垢に頬を緩め、友人の白雪の前ではにかんだ。
「白雪さん、お揃いの真っ白だよ。似合う?」
「にゃーお!」
 抱き上げられた白雪は祝音の頬をペロリとなめる。
 祝音は白雪を抱っこしながら暁月と廻の前にやってくる。
「廻さん……中にいるあまねさんも。絶対戻ってきてね。何かあったら、逃げても良いし助けを呼んでね。
 そして皆でまたここでのんびり過ごすんだ。約束、だよ」
「はい。約束です。また一緒にのんびりお昼寝しましょうね」
 祝音は廻と小指を絡ませる。
「嘘ついたら……猫さんもふもふさーせる! みゃー!」
「ふふ……」

 二人の元を離れた祝音は腕の中の白雪の、寂しそうな背を撫でた。
「僕も時々、遊びに来るから……何かあったらこっそりで良いから知らせてね」
「にゃー」
 祝音は白雪の頼もしい声に嬉しそうに頷く。それでも、心配である事に変わりは無い。
 本家に居を移す廻に何かあったら許さないと真剣な表情で拳を握った。

 ブレンダは中庭に咲き乱れる紫陽花を眺め『約束』を果たしに来た。
 戦いの爪痕も残っていないのは燈堂の人達が花を植え治したのだろう。
 ベンチに腰掛けたブレンダは忙しそうにしている暁月を眺め目を細める。
「時間はたっぷりあるしな。やっと掴んだ平和な時間だ。ゆっくりしてもバチは当たるまい」

 晴れやかなる祝辞の合間。ブレンダに気付いた暁月が手を上げて近づいて来た。
「……やあ、来てくれたんだねブレンダ先生」
 紋付き袴を着た暁月がベンチの隣に腰掛ける。
「いつにもまして忙しそうだな、暁月殿」
「今日は廻の送別会も兼ねてるからね」
 少し寂しそうに笑う暁月の横顔。それでも彼は前を向いて此処に居る。ブレンダ達が繋いだ命だ。
 自分達の行いは意味があったのだとブレンダは安堵した。
「やはりここは夏の花も綺麗だな。これだけで来た甲斐がある。秋も冬もまた見に来るよ」
「ああ、話し相手ぐらいにはなるよ」
「その言葉を聞けて安心した。……ほら、廻達が呼んでいるみたいだぞ。行ってやれ。学園ではまたよろしくな、暁月先生」
 手を振った暁月にブレンダも振り返し――

成否

成功


第1章 第3節

チック・シュテル(p3p000932)
燈囀の鳥
冬越 弾正(p3p007105)
残秋

「……ん。暁月や廻、燈堂の家の……皆と。今日を一緒に迎えられて、とっても嬉しい」
 チックは廻が本家へ行くのを寂しいと感じていた。けれど、それが永遠ではない事も事実で。
 ならば、楽しい思い出を作らねばと、約束を思い出す。
 視線を上げれば灰斗と空、それに白銀が忙しそうにご飯を運んでいた。
 チックはそれを手伝うと申し出て、ついでに灰斗へも声を掛ける。
「灰斗も一緒に、食べよ? 料理……どれも美味しそう、だけど。灰斗は、何が好き……思った?」
「僕は、いなり寿司が好きだよ」
「俺は母さんの作った料理が好きだ」
「ふふ……」
 灰斗と空のやりとりが、どこか家で待つ子らに似ていて。思わず笑みを零すチック。
 この宴会は廻の送別会と誕生会も兼ねているらしい。
「じゃあ、おれからも……歌のプレゼント。三人と、それから……灰斗が生まれた事への、祝福を込めて」
「僕も、歌う」
 チックの歌声に会わせ、灰斗と空の声が中庭に響く。

 仄暗い無限廻廊の座の奥。封印の扉の前で弾正は日本酒の瓶を石畳に置いた。
 現実世界で繰切と会うのはこれが初めてだが、恋人が巫女を担うと決めた相手である。
「それで挨拶に来たというわけか。殊勝な心がけよな。……この酒は上手いぞ、弾正」
「神は人に試練を与えるもの。特に貴方は人を喜ばせる事を優先するような神ではなさそうだが」
 温情を与えぬ神でもないのだろうと弾正は扉の向こうに消えて行った酒瓶に問うた。

「何が言いたいのだ? まあ、大方想像はつくが」
「どうか巫子を大切にしてやってくれ。俺は……巫子の守り人としては役不足かもしれない。恋人も、双子の弟も、救いたいと願った少女の命さえ掴み損ねた錆び刀だ」
 悔しさに拳を握る弾正の言葉に、繰切は耳を傾ける。
 挫折してばかりの男だと宣う弾正が、恋人だけは守りきると真っ直ぐに扉を見つめた。
「彼に試練を課す時は、どうか側に寄り添わせてくれ。代わりに貴方が望むなら、俺は貴方の刃となろう」
「何を言い出すかと思えば……いま、我は此処から動けんのだ。だから、お主の考えているような『試練』は杞憂というものだ。欲しいというのならば、与えんこともないが……もしや弾正、お主そういう趣味なのか? ふうむ。試練も一興か……」
「いや、そういうわけでは」
 思ったよりも人間味溢れる神様に弾正は調子が狂うと頬を掻いた。
「あ……おきゃくさん……、お邪魔だった?」
「よいぞ、チック。白銀の料理を持って来てくれたのだろう。弾正も食べて行くがいい」
「うん。教えてもらったから……今度、カーティスとコルトにも、作ってあげる、やつ」
 其れ其れの大切な人の為。想いを紡ぎ。

成否

成功


第1章 第4節

ラズワルド(p3p000622)
流転の綿雲
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
オフィーリアの祝福
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官

「暁月さんと廻さん……お二人は結婚するんでありま……えっ違う?」
 ムサシは暁月と廻の前でにっかりと笑った。
「ともかく、お二人共お疲れ様であります……!」
 暁月の暴走と、万年桜での過去との決別。不安な事も多いけれど、それでも暁月の笑みは、きっと壊れたりしないだろうとムサシは確信していた。
 だからこそ、その幸せを壊させたりしない。
「廻さん、暁月さんのことは任せてくださいであります。……ある人に託されたでありますからね。この希望ヶ浜の平和は、宇宙保安官にまかせて!」
「ムサシさん……暁月さんをよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げた廻の肩へ、ムサシはそっと手を置いた。
「そして貴方も助けが必要な時があったなら、助けを呼んでください。
 ……自分で良ければ、飛んで行くでありますから!」
 ムサシの輝かんばかりの笑顔は、見ている人に勇気を与えるものだ。
「はい。何かあれば助けて貰いますね」
「廻、あのね、気をつけてね!」
 白無垢姿の廻の裾を引いたのはイーハトーヴだ。
「無理しないで、具合が悪い時はちゃんと休んでね。何か気になることがあったらすぐにこっちに連絡するんだよ。君のことを大切に想ってるひとが沢山いて、勿論俺だって……」
 ぽろりと溢れた雫をぐいぐい手で拭ったイーハトーヴは、心配そうに自分を見つめる廻に大丈夫だと微笑んでから彼の手をぎゅっと握る。
「……廻、行ってらっしゃい! ちょっと遠くなっちゃうけど、また絶対、一緒に遊ぼうね! 型抜き勝負の時の約束、まだ生きてるんだからね!」
「はい!」
 涙を拭いながら去って行くイーハトーヴの背中を見送った廻の隣。
 暁月の姿に何故か苛立ちを覚えるラズワルドは目を逸らし、「おーけー、これ(紋付き袴)着て奪いに行けばいーんだよねぇ?」と頬を膨らませる。
 酒瓶を早々に開けたラズワルドは白無垢を着た廻へと抱きついて暁月へと眼光を送る。
「僕的にはひとっつも目出度くなんかないんだけさぁ! 僕とも乾杯してくれるかなぁ?」
 安眠できる場所(廻)を盗られるのだ。恨み言の一つぐらい言いたくもなる。
 共に日向ぼっこをし、酒を飲み、昼寝をする。
 そんな楽しみを次会う時まで貯めておかねばならないのだ。
「ラズワルドさん……」
 頭を撫でる廻に抱きつけば、体内に雑音が混じっているのに気付く。
「梅酒、繰切サマのとこに置いて保存することにしたからさぁ。……帰ってきたら一緒に飲むって約束してくれる?」
 たくさん繰切の居住に入らないぐらい用意しておくから。
 おかえりとただいま。そんな言葉を願わずにはいられない。
「はい。約束です」
「言えなかったら、化けて出るからねぇ……いってらっしゃい」
 送り出す言葉とは裏腹に。ラズワルドは廻の肩に顔を埋め。

「りゅーせぇー! しゅうー!」
 イーハトーヴのテンションの高い声が中庭に響いた。
「飲み過ぎだ。水のめ水」
 龍成は酔っ払ったイーハトーヴのカップを水に変える。
「今はいーい気分なんらぁ。ん……でも、ちょっとだけ飲みすぎた、かも……?」
「ほら、ちょっと休め」
 イーハトーヴの頭を自分の太ももに乗せた龍成は濡れタオルを彼の額に乗せた。
 伝えたい言葉は沢山あるのに。海もキャンプもカラオケも一緒に行きたいと、上手く言えただろうか。
 呂律の回らない舌に。それでも伝えないととイーハトーヴは口を開ける。
「りゅーせ、たんじょーび、おめ、とー」

成否

成功


第1章 第5節

メイメイ・ルー(p3p004460)
ひつじぱわー
恋屍・愛無(p3p007296)
戦飢餓
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
冬隣
ニル(p3p009185)
眠らぬ者

 愛無は先日の戦いで廻の傍に居た葛城春泥を思い出す。
 廻を『泥の器』にした張本人であり、深道の相談役――『妙な匂い』のする女だ。
 心の内にある奇妙な忌避感を愛無は感じていた。本能(きおく)が警告を鳴らす。
 されど、春泥がこのまま成りを潜めるとはどうしても思えなかったのだ。
「今回のように糾える縄の如く禍福をもたらすのか」
「愛無さん?」
「いや、何でも無い。少し席を外すよ。話したい人がいるのでね」
 小首を傾げる廻の傍を離れ、愛無は深道の実権を握る一人『深道佐智子』の元へやってくる。

「……そうですね。葛城先生は少し誤解を受けやすい方ではあります。けれど、それは大局では私達の為になることが多いんです。何度も、何度も助けられて来ました」
 佐智子が語る春泥は知恵を持って多角的な方面から深道を導く者として深く介入している事が覗えた。
「もちろん、先生のお考えは突拍子も無く、反発する声もあります。先の廻さんへの『泥の器』とて、何か別の意図があるのやもしれません。煌浄殿の主。私の末の子『明煌』は、己が管理する敷地へ葛城先生の出入りを許しているのです。『面白い人だ』と明煌は先生を慕っているようです」
「ふむ……」
 愛無は佐智子の言葉に眉を寄せた。葛城春泥の影響力は廻が居を移す『煌浄殿』の主にも及ぶ。
 呪物『泥の器』は本来であれば穢れを溢れさせるだけの低俗な呪いだ。
 されど、廻の中に入っている器は『そう』ではない。シルキィと愛無が繋いだ『絆』に神の力が宿るものなのだ。愛無は穢れと神気を合わせた『器』の適正と価値、その危険性を佐智子に問う。
「ええ、おそらく廻さんの穢れを煌浄殿で浄化すれば……『泥の器』は『神の杯』となるでしょう」
 その適正と価値は、器を求めし者にとって渇望と執念の対象となるだろう。

 アーマデルは廻との再会を祈りノンアルコールカクテルを注ぐ。
「無事の帰りを待っているぞ、皆も、俺も。繰切殿の事は俺が出来る限り見ておくから、廻殿は自分の事をいちばんだいじに。勿論、繰切殿に想い馳せたりしても、喜びそうだけど」
「はい! 繰切様のことよろしくお願いしますねアーマデルさん!」
 乾杯とグラスを鳴らしたあと、アーマデルは白無垢の廻へと視線を流した。
「それにしても花嫁衣裳とは」
「着てみます?」
「いや、この前ゾンビを殴り倒した時に着た」
「ゾンビ……」
 何故という言葉に瞳を伏せたアーマデルは緩く首を振る。
「……廻殿。様々な縁を紡いで繋いだ廻殿だ、今更言うまでもないと思うが」
 アーマデルは横から廻の腰に手を回し力を込め、額の端をこつんと合わせた。
「廻殿、『自分が我慢すれば皆恙なく。耐えれば丸く収まる』という考えは、呪いだ。俺は昔はそう思っていたし、信じていた。だが、それで救われた者は誰もいなかった、俺も含めて」
 己が身に染みているからこそアーマデルの言葉は重みがあった。
「はい……」
 廻は次の句を継げず。ただ心配そうに自分を見つめるアーマデルの手を握る事しか出来なかった。
 不安に迷う魂に、どうか光があらんことを、友に導きが訪れる事をアーマデルは祈った。

「廻さま、お綺麗でした、ね。……ふふ、良い、お式でした」
「メイメイさん……」
 ふわりと微笑んだ羊少女に廻も笑みを零す。晴れやかなる風景に、和やかな二人の笑は見ている者の心を緩やかな気持ちにさせてくれる。
「『泥の器』のことも、心配ですけれど、暫くお会い出来なくなるの、とても寂しい、です」
 穢れを祓うためには本家に行き、何かしらの対処をするのだろう。解呪とは手順と儀式を伴うものだというのはメイメイにも理解できる。けれど、寂しいものは寂しいのだ。垂れ下がる羊耳。
 廻が心配そうに覗き込んだ瞬間メイメイは「はっ!」と視線を上げた。
 ふるふると首を振ったあと笑顔で廻を見つめる。
「わたしも、約束、してもいいです、か? 帰ってきたら、また遊びましょう。新しいお店も増えているかもしれませんし、ね」
「はい……! 帰って来たら遊びに行きましょう!」
 廻の手を握ったメイメイは僅かに瞳を揺らしたあと顔を上げて笑顔を作る。
「あちらでも、どうかお元気で。呼ばれれば、いえ、呼ばれなくても。いつだって廻さまの為なら、えんやこら、です、よ……廻さまの「ただいま」に、「おかえりなさい」をしたい、ので。
 ………いってらっしゃい、ませっ」
「はい、行ってきますっ!」

 廻達の元へふわりと歩いて来たのはニルと雨水だ。
「結婚っていうのは、家族になることだって聞いたのです。でも、廻様と暁月様は家族、では……?」
 こてりと首を傾げるニルに暁月は「そうだね」と顔を綻ばせる。
「今回は本物の結婚式ではなく、仮初めの嫁入りみたいなものかな。廻が穢れ……病気の方が分かりやすいかな? それを治す為に引っ越しするんだよ。まあ入院みたいなものだね」
「引っ越し、入院。大変、ですね……しばらく離れ離れになっちゃうのはさみしいです、けど、早くよくなってくださいね、廻様!」
「はい、頑張ってきます!」
 廻に手を振って雨水と歩き出すニルは中庭に戦いの傷跡が見えない事に安堵する。
「お庭も、きれいになってよかったのです。
 ……ね。雨水様、ニルはお花に虹がかかったら、きれいだと思うのですよ」
「たしかに。少し降らせてみようかな」

 家族は、だいじ
 一緒にいる人は、だいじ
 一緒にいられる場所は、だいじ

「おかえりを言える場所も、おかえりを言える人も、ニルはとってもとっても大事だと思うから」
 青空へ視線をあげれば、霧状の水に光が反射して、七色の色彩が煌めいた。
「行ってらっしゃいの日が、いい1日になるといいのです――」

成否

成功


第1章 第6節

茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の巫女見習い
紫桜(p3p010150)
会えぬ日々を思い
ギュスターブくん(p3p010699)

 無限廻廊の座。薄暗い灯火の中に佇む多腕を廻は一瞬、繰切と見間違う。
 されど、その華奢な体躯は自分の知る蛇神では無いとすぐに気が付いた。
「やあ。こうして本当の姿で顔を合わせるのは初めましてだね」
 手を差し出した紫桜は「お疲れ様」と廻に笑ってみせる。
「君も暁月君も無事でよかったよ。暫く会えなくなるんだってね。寂しく思う人が多そうだ。君は人気者だからね……」
 廻の言葉を待たず矢継ぎ早に唇へ音を乗せる紫桜。
 相手の視線に気付いた紫桜は少しばつが悪そうに息を吐いた。
「あーその、ごめんね? 誰かと話したいって思ったのは何分初めての事で上手く言葉が紡げなくて」
「大丈夫ですよ、紫桜さんの事は知ってます。繰切様が友達だって言ってましたから」
 繰切は何を廻に吹き込んだのだろうと思案しつつ、紫桜は居住まいを正す。
「とにかく、君の無事を祈ってるよ……」
 何かあれば助けを求めること、我慢するのは得策ではないと紫桜は恥ずかしそうに言葉を告げた。
「ありがとうございます、紫桜さん……じゃあ、僕は上に戻りますね」
 現れた時と同じように廻は忽然と姿を消す。

「……どうだ、お主が廻と話したいと言うから呼んでやったのだぞ」
「だって、皆が居る所で話しかけるとか無理だし。助かったよ繰切」
 照れ屋で臆病な紫桜は、封印の扉に手を置いた。
「ねえ、繰切。この家も随分と寂しくなるね」
 繰切は気軽に出現できず、廻も本家へ行ってしまう。ここには他の人達も来るだろうけど。
「でも繰切。俺は寂しいよ。声だけで満足できなくなるなんて本当欲張りになっちゃったな」
 一瞬だけ現れた繰切の手が己の頬を撫でて行くのを、指先で追った紫桜。
 その刹那の温もりが余計に孤愁を感じてしまうのだ。

「こんにちは、ぼく、ギュスターブくん」
「珍しい客人だな……此処は初めてか?」
 繰切は未だ見ぬ来訪者に、封印の扉越しに語りかける。
「なにやらお祝いがあるって聞いたから 来ちゃった。ここは、人間のひとのおうちなんだねえ。人間のひとも、じぶんより大きなおうちに住むんだねえ。ぼくが住んでいた河ほどじゃないけど」
 巨大な躯体を振わせるギュスターブくんの声に、繰切は興味深そうな気配を見せた。
「ほう……河か、そのデカイ図体が泳ぎ回れるとあらば、さぞ巨大な河なのだろうな」
「そうだよお。でも、君は狭そうだね? そんな扉の中に居てさ」
 ギュスターブくんは封印の扉をつんつんと突く。
「まぁな。約束と契約があるからな」
「ぼくの住んでいた河なら、もうすこし蜷局を緩くして座れるよ。こんど、遊びにおいでよお。お肉がおいしいよお」
「それは、楽しみにしておこう……」
「むっ、誰か話してるみたいだな? よぉーし、話は聞かせてもらったぁー!」
 繰切とギュスターブくんの間に颯爽と現れたのは秋奈だ。
「フッフフ」
 偶然を装った風の秋奈は、ROOで縁があるような無い様なと捲し立て。
「……なんか面白そうだったんで!」
 そうにっかりと笑う。
「私ちゃんはアレでアレなやつです。この土地の真性怪異コンプしてまわってるみたいな? どうよ? いろんな意味で匂うっしょ?」
「まさか、風呂に入って無いとかそういう類いのか?」
「えっ、ぼくの河で泳ぐ?」
「まってまって? 入ってるよ! 物理的に匂うとかじゃないよ! 霊的な? そういうの。なんやかんや巫女でなんやかんや真性怪異に好かれてるのよ。マジで。そっち系の縁がヤバいのなんの。『いい子』にしてなさいってパイセンに釘ぶっさされちゃったしさー……なんかオススメある?」
 いい子になる気がまるで無い秋奈は、繰切達の返事も待たず「そういえばさー!」とカメラを取り出す。
「かーっ! 白無垢よかったわー! みんなが助けたんだぜー。かわいいのなんの! 廻くんチェキったの見る見る?」
 秋奈のテンション高い声が無限廻廊の座に反響した。

成否

成功


第1章 第7節

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒き葬牙
笹木 花丸(p3p008689)
竜交
國定 天川(p3p010201)
求道の復讐者

「ふっふっふ、暁月さんが今度ご馳走してくれるって言ったからねっ!」
 約束通りご馳走になりに来たと手を振る花丸を、暁月も快く迎え入れる。
「それはそれとしてお疲れ様、暁月先生。それと、お誕生日おめでとうございます、だよっ!」
「ありがとう。花丸ちゃん」
 ここまで様々な事があったけれど、一段落ついたと思って良いのだろうかと花丸の胸に不安が過った。
 まだ何かあるのでは無いか。そんな予感がしてしまうのだ。
「花丸ちゃん?」
「ううん。何でも無い! 祝いの席で不安になってたらダメだよねっ! よーし、食べるぞーっ! 花丸ちゃん、暁月先生のお家の料理とっても好きなんだよねっ!」
 白銀の作った料理はどれも味が染みていて美味しいのだ。
「お気に召したようで何よりですよ、花丸さん」
「あ、黒夢さんっ!」
 口いっぱいに唐揚げを頬張った花丸は黒猫の魔法使いに視線を上げる。
「あのね、よければ黒夢さんが知ってるお父さんのお話、また聞かせてくれないかな?」
「お父様――笹木 誠司さんの事ですね。ええ、ちょうどその事でお話がありまして。
 現在は再現性京都……深道本家がある地域におられるようです。夜妖退治や困りごとなどを請け負っているフリーの所謂何でも屋といった所でしょうか」
「探偵みたいな? お父さんそんな事してるんだ! 会いたいな! でも、突然押しかけたらお父さん吃驚しちゃうよね? うーん、どうしよう?」
 小首を傾げた花丸に黒夢は大きな帽子をクイと上げた。
「今度、お会い出来る様に取り計らいましょう。こう見えて、結構顔が利きますので」
「やったあ! じゃあ、お願いするね!」
 久々の再会に花丸は胸を躍らせる。
 血は繋がらねど、花丸にとって彼が『父親』で在る事に変わりは無いのだ。

「全てが終わった訳では無いが、二人の笑顔を見る限り息を吐く暇は得る事が出来たのだと思うとほっとするよ」
 暁月と廻に微笑むベネディクトは杯を掲げ音を鳴らす。
「廻とは暫く会えなくなる、との事だったが……そうなると、寂しくなるな」
「はい……ちょっと寂しくなりますね」
 体調には気を付けて元気な姿を見せて欲しいと廻に視線を移すベネディクト。
「暁月も、何かと気になる事はあるだろうが。支えてくれる者は多いだろう? 何かあればすぐ駆けつけてくれる者達も居るだろうし、頼ると良い。無論、俺も手を貸す」
「君は本当にお人好しだねぇ。そういう所、すごく好ましい……ありがとう。ベネディクトには何度も助けられたけど。これからも、見守っていてほしい。頼りにしてるよ」
 開いた掌で暁月はベネディクトに握手を求める。
「人との縁は星の煌めきの様な物だ。雲に消える事も、幾つも瞬く事もある。
 俺には、二人を祝福する星々の輝きが見える様な気がするよ」
 握り返した手に。瞳に笑みを乗せて。ベネディクトは言葉を紡いだ。

「かんぱぁい!」
 蒼穹に杯を掲げ。廻へと注ぐ酒の祝い。
 アーリアは廻の前に料理を盛った皿とおにぎりを差し出す。
「元気になったっていったって、まだまだ体力をつけなきゃいけないんだもの。だから、もうたーくさん飲んで、たーくさん食べてね」
 海苔が巻かれたおにぎりの塩分を身体が欲していたのだろう。リスのように頬張った廻の頬に米粒が残されていたのをアーリアはウェットティッシュでそっと拭き取る。
「ふふ、美味しそうに食べてると男の子なんだなって思うわねぇ。弟が居たらこんな感じかしら?」
「あわわ。すみません」
 頬を染めて、それでもおにぎりと杯を離さない廻に自然と顔がほころぶ。
 アーリアはそんな廻との別れを惜しむように、ぎゅうと抱きしめて背中を撫でる。
「……いってらっしゃい」
 多くの幸せがこの背に降り注ぎますようにと祈るのだ。

「ほーら暁月さん、飲んでる?」
 廻との別れを告げ、アーリアは暁月の元へとやってくる。白無垢と紋付き袴二人とも良く似合ってるとアーリアは朗らかに笑う。いつか本当に暁月が結婚する時は、嬉しくもあり寂しくもあり。泣いてしまうかもしれないと伝うアーリアに暁月は眉を下げた。
「――なぁに、変な顔! それより傷は大丈夫?」
「ああ、私は大丈夫。君こそ問題無いかい?」
「平気よ? 見てみる? ……なぁんて、えっち。見せないわ……」
「ふむ。詳しく見てみないといけないようだね?」
「って、あの、その、だから大丈夫だってばぁ! もぉ!」
 アーリアの甘やかな声と暁月の笑い声が中庭に響き――

 天川は龍成達の姿を見つけ手を振って近づいて来る。
「よぉ! お三方! 綺麗な庭園だな! 身体の調子はどうだ? ……ってふむ。二人共よく似合ってるじゃねぇか」
 紋付き袴と白無垢は特別な装いで、何時もと違う雰囲気を纏うようだ。
「それはそうと、この4人で話をする機会ってのは中々なかったな……。特に廻とはこれまで中々ゆっくり話す時間も取れなかったし、この機会に少し話でもしよう」
「はいっ!」
 暁月が兄貴分と感じる存在は廻にとっても特別だった。話しに聞く天川は芯の通った人格者である。
 彼の言葉は廻達の心へ響く。同じ業を背負うであろう暁月が、天川を慕う気持ちも頷けた。
「っとまぁこんな感じで探偵業で生計を立ててる。廻も何かありゃ格安で仕事を請け負ってやるからな」
「はい、頼もしいです! よろしくお願いします!」
 綿帽子を潰さぬよう軽く廻を撫でた天川は龍成へと向き直る。
「それと暁月に龍成。お前さん達も忘れるな? 俺はいつだってお前さん達の力になる」
「おっさん……」
 龍成は真っ直ぐに言葉を投げる天川に頬を掻いた。
「だからいつでも頼れ。たとえお前さん達が何も言わなくても、察すりゃ絶対に助けに行く。少し色々ありすぎてな。どうも心配性になってるらしい。特に廻も離れることになるんだろう? 気を付けてやってくれ」
「分かったよ」
「それと龍成……。あれから先生はどうだ?」
「姉ちゃん? 俺にはあんま分かんねーんだよな。意地張ってんのか何なのか」
 弟には見せられない頼れない姉の尊厳というものがあるのだろう。
「あの人は芯の強い人だが、強いが故に頼るのが下手くそだ。吹っ切れた様子だったが、ほんの少し心配だ。別に先生が頼るのは俺でなくてもいい。様子を見ててやってくれ」
 天川の言葉に龍成は了解と頷いた。

成否

成功


第1章 第8節

咲々宮 幻介(p3p001387)
背で語る
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵

「たのもー! ですよ!」
 今日は暁月達のお祝いの席ではあるけれど、手合わせする事も出来るのだと行き勇みやってきたのはブランシュと雄斗だ。
「これから先、何があるかわからないしここらで皆の実力を見て見たいですよ。みんな纏めて本気でかかってきて欲しいですよ!」
「僕の強さはヒーロースーツに頼ってるから少しでも強くなりたい。後やっぱり剣で戦うヒーローはかっこいいと思うんだよね」
 ブランシュはメイス手に暁月と対峙する。
「此処に刀などあらず。そこに見出すは至高の大太刀の如き。無刀流――無ノ太刀、参ります」
「ふふ……行くよ!」
 大人げないが自分は子供なのでマジの一撃をお見舞いするブランシュ。
 暁月はそれを受け止め「良い太刀だ」と目を細めた。
 あの時のような暗い戦いではない。純粋な力のぶつけ合いに興じる二人。
「僕も、行くよ暁月さん!」
 まずは本気の一撃を雄斗は速度に乗せて叩き込む。
 その太刀筋は軽く暁月の妖刀にいなされ、柄で頭を小突かれた。
「暁月さん、痛い」
 実際には痛くはないけれど頭を抑えるのは気分なのだと雄斗は暁月に視線を上げる。
「流石は暁月さん、強いね。もう一度お願いします!」
 この先の不安を掻き消すように。廻や暁月、そして八重垣冷子の為に。強くなりたいから。雄斗は木刀を構え直した。ここに彼女を連れて来たのも何か分かるがあればと思ってのこと。
 雄斗は木刀に想いを込め、暁月へと一歩踏み込んだ。

「こうして剣を交えるのは、あの時……お前が狂っちまった時以来だな暁月?」
「ああ、そうだね」
 剣の鍔を重ね、弾き距離を取った暁月と幻介。
「あん時ゃ、死に物狂いでよ……どうすればいいか、どうすればお前や廻、龍成を救えるか……頭を抱えたもんだぜ。いや、責めてる訳じゃねえんだ……むしろ、お前はよく耐えた方だと思うぜ? 俺は……耐えられなかったからな、お前がちゃんと戻ってくれて喜んでんだぜ、これでもよ?」
 幻介の気持ちは『分かって』いるのだと剣檄が交わされる。
「しかし、やっといつも通り……かと思ったんだがなあ」
 廻が本家へ行ってしまうこと。穢れを浄化するためには必要なことなのだ。
 仕方が無いとは分かっている。
「……けど、寂しいもんは寂しいしな。それが大人だろうと、子供だろうとな。……帰ってくるまでに強くなろうぜ、今度は負けねえ様にな。夜妖や真性怪異だけじゃねぇ、何より自分自身によ?」
「寂しいね。あの子は私に救われたと思っているだろうけど。逆なんだよ。私が居なければ生きていけない廻という存在は、私にとっての救いだった。雁字搦め、堂々巡り……でも、君達のお陰で結構楽になったんだ。ありがとうね」
 その言葉は訓練場の傍に連れて来られていた龍成と廻にも届いた。
 抱え込んだ心の内を聞かせるため、幻介が連れて来ていたのだ。
 暁月の想いはきっと二人にも伝わったに違いない。

「稽古と言いますか、手合わせをしてみたいと思います。門下の方々……よりは、暁月さんと」
 先日の戦いでは暁月がまともでは無かったから。
 それに見るだけではなく、暁月の様子を観察したかったのだと、舞花は剣を構える。
「舞花ちゃんは綺麗な太刀筋だね。見とれてしまうよ」
「それは、どうも……」
 軽口をたたける程には回復したと言う事なのだろう。剣尖が翻り、刃が鳴った。
 二度、三度と剣檄が応酬した後、舞花は暁月の懐へ入り込む。
「……お気付きかは分かりませんが。恐らく先の一件以前からずっと、暗躍している者が居ます」
「それは……」
 目星も付いていると零す舞花の言葉を促す暁月。
 ……けれど、それは燈堂家の人々にとって受け入れられる内容だろうかと僅か視線を落す。
「葛城春泥……本家と廻君の件、何も起きないとは思えません。どうか、お気をつけて」
「ああ、そうだね。あの人は本当に何をしでかすか分からないからね。それに私の叔父も、かなり変わった人でね。其処も心配なんだよ」
「変わった人ですか……」
「会うことがあれば、吃驚するかもしれない。なんせ、双子かと見紛うぐらい私とそっくりなんだ。声も背も殆ど一緒だから……まあ、色々あったんだよ」
 叔父ということであれば、見た目が似ていようとも年齢で分かりそうなものだがと舞花は視線を上げる。
「そんなに年齢も変わらないからね」
 遅くに生まれた末の子を深道佐智子は大層可愛がっているらしい。特にすぐ上の子が病死してしまった後に生まれた明煌を溺愛しているのだという。
 暁月との確執がある明煌の元へ、廻を送り出さねばならない心象は、一体どれ程のものだろうかと舞花は思案し眉を寄せた。

成否

成功


第1章 第9節

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
剣の麗姫
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計

 暗き闇夜の狭間。街の明りが遠く揺れる夜の公園――
 暁月達は夜妖憑きを祓う為、この公園を訪れていた。
 公園を取り巻くように、人払いの結界が門下生によって張り巡らされている。
 滲むように電灯の影から無数の黒き翼が羽ばたいた。

「けーっきょくの処ね? 下準備だとか説得だとか裏工作とかね? いや、正直得意だし大事だわ?でも最近そればっかりやっててね! 偶にはこう纏めてドーンってやりたいのだわ!」
 きゐこは杖を地面にドンと突いて。
「――と言う事で黒曜! 付き合いなさい!」と振り向いた。
「いや、良いけど。何で俺?」
「そちらも戦闘訓練になるし何より……また黒呪の印関係みたいじゃない? 前もそれで色々めんどくさい事されたのだし同じ原因の夜妖に八つ当たりしてストレス発散するわよ! きっと少しは気が晴れるわよ!」
 きゐこは無数の黒鴉を追い込むように、黒曜へ指示を飛ばす。
「ふははは! やっぱり纏めて魔術で薙ぎ払うの最高だわ―!」
「ちょ、危ねぇ! 巻き込むなよ!?」
 髪を焦がした黒曜が悪態を吐きながらきゐこへと振り返った。

「ヨゾラだよ、よろしくねー! 祓い屋に絡める貴重な機会だと思うしお仕事の手伝い頑張るよ!」
「ありがとう。頼りにしてるよ」
 依代となっている少女も助けたいとヨゾラは戦場を見渡す。
「少女は助けられるかな?」
「大丈夫。依代になっているだけだから、祓えば元に戻るよ」
 暁月の言葉にヨゾラは胸を撫で下ろした。
 口には出さないけれど、ヨゾラは不安であるのだ。
 廻が深道へ嫁入りすること。形式的なものでも胸がざわついてしまう。
『婚姻』は魔術的にも深い縁を刻むものだから。
 あとで『離婚』出来るのだろうか。勝手に燈堂との縁を切られたりしないのだろうか。
 不安がヨゾラの心を揺さぶってしまう。
「暁月さんや龍成さん達の願いが叶いますように。廻さん……はここにはいないけど、変なものにされちゃ駄目だよって伝えてね。燈堂の皆に幸あれ、と僕からも願うよ」

「スケさん、新参者ですが『祓い屋』の皆さまの武勇は聞き及んでおります!」
 肩を並べて戦えるのは光栄だとヴェルミリオは歯を鳴らして笑った。
 同じ『無辜なる混沌』に暮らす者として、暁月達の助けになるとヴェルミリオは悠久杖を掲げる。
「おっと、見た目は歪ですが皆さまと友だちになりたいただの骸骨ですので、どうぞお見知りおきを!」
 己は皆の盾になるのだと、一歩前へ出たヴェルミリオ。
「今回は祓いに参加させていただきますが、スケさんができることは皆さまの盾役にございます」
 ヴェルミリオは杖で灯火を照らし、黒闇纏し鴉の群れを呼び寄せる。
「しかし、夜妖とは不思議な存在ですなあ……」
「怪異や夜妖についてはaPhoneで記録を見たが……」
 祓い屋については正直よく知らないのだと十七号は暁月達の背を見遣った。
 ――自分自身が怖さ故、一方的に避けていた、というのが正しいだろうか。
 それでも先日は澄原水夜子からの依頼で練達まで来ていたのだ。そろそろ腹を括るべきかと考えたのだ。
「ということで、祓い屋稼業を手伝いたい」
「人手は多いに越したことは無いからね。助かるよ」
 暁月達の事情には踏み込まず、十七号は夜妖を祓いに来たのだと告げる。そのうち避けては通れなくなるような強大な怪異が現れないとも限らない。
「特に柵もない身だ。働かせるなら、好きにしてくれ。協力もいつでも請け負おう」
「じゃあ、左方は任せたよ!」
「ああ!」
 十七号の傍をゴリョウが駆け抜ける。
 日除け帽子を被り、耳を隠して、普通の人間ぽい変装をしたゴリョウが敵陣の中に切り込んだ。
「郷に入っては郷に従えってな! まぁ俺ぁ夜妖との殴り合いの経験も少ねぇし。ここはいっちょ感触を思い出すためにもしっかりと仕事させていただきますかね!」
 ヴェルミリオをフォローする形で、敵の半分を受け持つゴリョウ。
 不敵な笑みを浮かべたゴリョウはその強靱な肉体で、城塞のような堅牢さを誇った。
「ぶはははッ、その程度の突っつきじゃあ豚一匹倒せんぜぇッ!」
「やるねぇ……!」
 ゴリョウの剛毅な戦い振りに暁月も感心するように目を細める。
「ちょっと気になることがあってな。まぁそれも確認したいんで今日ばかりは素直に手伝いさせて貰うぜ」
 暁月の隣に立ったカイトは仲間を巻き込まぬよう正確に狙いを定めた。
「向こうが群れるならそれを丸ごと封じてやる、ってこと」
 範囲攻撃とピンポイントを巧みに使い分け、戦場を動かすのがカイトの戦い方だ。
「まぁ、いうてこの場が『はじめて』って奴もいるだろ。そいつらも含めて下支えしてやるってのが、教師の仕事でもあるだろ。な?」
「頼りにしてるよ」
 元よりカイトは派手な術より技巧――『封じ手』を得意とする。
「龍成も無事で。暁月もまぁ『憑き物が取れた』と言うべきだろーな。でも部外者だからこそ、気になる事があってさ」
 戦いの最中、カイトは暁月へ言葉を投げる。
「……廻を『泥の器』にすることだけで済んだ、のは事実として正しいけど。実際の所、それだけだとアイツの目的が腑に落ちなくて、な? じゃあ、『泥の器』を本家に持ち込ませる事自体が目的だとしたら?」
「そうだね。カイトの言うとおりその可能性は高いと思う。だからこそ、心配ではある」
 されど、泥の器が深道の秘術ならば、それを浄化するのもまた、深道でしか成し得ない。
 儘ならない状況に、暁月もカイトも眉を寄せた。

 Я・E・Dは先日の戦いで共に戦った暁月達の援護にやってきたと口の端を上げる。
「というわけで、お手伝いだよ。足手まといにはならないから一緒に行かせてね」
 希望ヶ浜に来る事はあっても『祓い屋』に関わる事は無かったから。
 良い機会だと見学しにきたのだ。
「邪魔をするつもりは無いから、ここで見てるよ」
「おや、手伝ってくれないのかい?」
「援護はするよ。まあ、心配無いと思うけど」
 Я・E・Dの銃身から弾丸が迸るのに、アンナは金色の視線を上げる。
「結婚式……初めて見たけれどなかなか素敵だったわね」
 今まで関わって来ていないのに、宴に参加するのは気が引けると、祓い屋の仕事へやってきたアンナ。
 刀身に魔性の氷を纏わせたアンナは、夜妖の黒き闇を、演舞の如く軽やかに、切り裂いた。
 祓い屋の仕事がどのようなものなのか。
 アンナの探究心は暁月達の攻撃手段や『夜妖を祓う』その事象へと向いていた。
「じっくり……と言いたいけどなるべく早く倒すところを見せて頂戴ね。痛いから」
「了解だよ。みんな、行くよ!」
「ああ!」
 きゐこと黒曜が先陣を切り、ヨゾラの魔法が迸る。
 ゴリョウとヴェルミリオも最後まで戦場に立ち続けた。
 アンナはЯ・E・Dと共に黒鴉を撃ち払い。
「闇夜を断ち切るは月を纏いし刃。限定解呪。――廻廊ノ光ッ!」
 暁月の一閃と、十七号の刀が闇夜を裂いて。
 敵影は散り散りに消え失せたのだ。

「夜妖というか希望ヶ浜はやっぱり独特なんだよね。何度か希望ヶ浜には来たことがあるけど、敵を倒すのも色々と気を遣うし」
 肩を竦めたЯ・E・Dはうんと伸びをして依代となった少女に視線を上げた。
「今回はそこの女の子を助ければ終わりかな?」
 気を失った少女を助け起こしたЯ・E・Dは、怪我が無くて良かったと目を細めたのだ。

成否

成功


第1章 第10節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
駆け出し錬金術師
星穹(p3p008330)
ヴェルグリーズ(p3p008566)
桜舞の暉剣
すみれ(p3p009752)
薄紫色の栞

 紫陽花の咲き乱れる中庭をすみれと日向がゆっくりとした足取りで歩いていた。
 日向の看病のお陰で傷も癒えたからと、いつものドレスで笑みを零すすみれ。
 珍しく袴を着込む日向に似合いますねと手を引いて。
「さて、少し話をしましょう」
 すみれ真剣な眼差しで日向に向き直る。
「暁月様を救い深道三家を護る。この任務こそ私と日向様が出会う切掛でしたね」
 そして、先の戦いで暁月は笑顔を取り戻した。少年の任務は一区切り付いたということだ。
「御兄姉に会う、周藤へ帰る、燈堂で引続き過ごす等ありますが。
 日向様は、今後どう過ごされますか? どう過ごしたいですか?」
「僕は廻と一緒に深道に行くよ。心配なんだ。『禊の蛇窟に入る者は、浄化と共に、人から逸脱して行く』って言われているからね。だから暁月兄さんも本当は不安で仕方ないんだと思う」
「……それは、日向様自身で考え導き出した答えですか? それともご親族からの命ですか?」
 頬を撫でるすみれの手に、自分の手を重ね。日向は真っ直ぐに意思を告げる。
「僕の意思で行くよ。深道に行っても何も出来ないかもしれない。『煌浄殿』に入る許可が下りないかもしれない。でも、何かあったら、僕なら真っ先に知らせる事ができるから」
 その身に管狐を宿す深道三家の伝令役。その有用性を日向はしっかりと理解していた。
「ふふ……立派になられましたね。この世界で初めて出来た友達の成長が、自分の事の様に嬉しいです。何かあれば知らせてくださいね。有事には駆けつけます」
「うん。頑張ってくるね」
 命令を聞く『良い子』だった日向が、すみれ達と出会い、自分の意思を持ち、歩み出そうとしている。
 それが、すみれにとっては、何より嬉しい事だった。

「お疲れ、ヴェルグリーズに星穹」
 詳しい事は分からないが報告書によれば随分と頑張ったそうじゃないかとクロバは二人を労う。
「ふふ、労いをありがとうございます、クロバ様」
「本当に色々あってね、何から話せばいいやら……あぁ、空ちょうどいいところに」
 ヴェルグリーズは灰斗と遊んでいた神々廻絶空刀を手招きした。
「俺もここがどうなったか聞いときたかったんだ。その子は?」
 星穹とヴェルグリーズの間に立った空をまじまじと見つめるクロバ。
「俺と星穹殿で起こした奇跡の余波で生まれた少年でね。名前は空というんだ、本当はもっと長い名前なんだけれどね」
「空。此方は私達の友人のクロバ様です。挨拶をお願いできますか?」
「……本当の名前は言っちゃ駄目だから。ええと、空だ。よろしく」
「ふふ。良い子ですね、ありがとう。お母さんはとっても鼻が高いですよ」
「お母さん? どういうことだ?」
 クロバは星穹の口から思わぬ言葉が飛び出し目を瞠った。
「ええと。奇跡の余波で少年を授かりまして……とっても良い子でしょう? 私達のことを母や父と呼んでくれていて――」
「そっかぁ~……子供かぁ、出来ちゃったかぁ」
 腕を組み上空を仰ぎ見るクロバに、星穹とヴェルグリーズは何かを悟り、頬を赤くして『違う』『心配していることは何も無い』のだと否定する。
「あ、あーーー…いや、違うんだ、そうは思えないかもしれないけれど。星穹殿との間にそういったことは無くて……とりあえず分かったから天を仰ぐのはやめようかクロバ殿」
 遠くを見つめるクロバの肩を揺さぶるヴェルグリーズと。
「私達は変わらず相棒ですし、協力して子育てをするだけで……あとは……隣に引っ越したくらいで……
 ちょっとクロバ様、聞いていますか!?」
 更なる突拍子も無い情報を重ねる星穹。
「大丈夫そんな間柄じゃなのは解ってるが、二人の強い絆が結んだ奇跡というか、可能性ってすごいんだなぁって。……じゃま、俺はクロバ・フユツキ。
 二人の友達で、いつか正式に”剣聖”になりたい男だ。よろしくな、空」
 差し出されたクロバの手をぎゅっと握った空は、「不束者ですがよろしくお願いします」と素直にお辞儀をしてみせたのだ。


成否

成功


第1章 第11節

ユーフォニー(p3p010323)
ドラネコ配達便の恩返し
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
輝奪のヘリオドール

 中庭をエメラルドの瞳で見渡すのはマリエッタだ。
 ローレットの報告書によれば、ここは仲間が想いを重ね戦い、奇跡が輝いた場所なのだという。
「初めてくる場所ですけど……本当に素敵な空気を感じます」
 青や紫、白や桃の紫陽花が咲き乱れている小道をゆっくりと歩く。
 ふと、気付けば周りは花だらけで。
「あ、わわ。ここはどこですか」
「おや? どうしました?」
 小道の向こうで銀髪で眼鏡を掛けた男――白銀が目を瞬かせた。
「ええと、迷子になってしまって」
「ふふ、燈堂は広いですからね。皆の所に案内しましょう」
「……廻さん、白無垢を着ていました。本当の結婚では無いと聞いていますが」
「着てみますか?」
「いえ! 私は、あれを着る資格はありませんから」
 緩く首を振ったマリエッタに白銀は深く踏み込まぬよう「そうですか」と微笑んだ。
「あ、えっと。ここには初めて来て……それで、その読んで良い本とかってありません? 新しい土地で本を探したい気持ちが抑えられなくて!」
「そうですね、蔵になら書物が沢山ありますよ。其処へも案内しましょう」
 微笑んだ白銀の瞳が、不思議な色の虹彩で、マリエッタは彼が人ならざる者なのだと理解した。

「あ、マリエッタさん!」
 友人の姿に手を振ったのはユーフォニーだ。
「ユーフォニーさんも来てたんですね」
「はい。これまですごく大変だったって聞いて。何もお手伝い出来なかったですけど、これから先は幸せな色で満ちますようにって、プレゼント持って来たんです……でも、初めてお会いするし。菓子折とかで良かったですかね?」
 困った様に眉を下げるユーフォニーにマリエッタは「大丈夫ですよ」と肩に優しく手を置いた。

「初めまして、ユーフォニーです」
「マリエッタです」
「暁月さん廻さん龍成さん、お誕生日おめでとうございます!」
 初対面なのに、という言葉に暁月は「そんな事気にしなくて大丈夫だよ」と優しく微笑み掛ける。
「祝いなら増えても問題ないかな……? と思いまして……これ、プレゼントです。お好みのものがあればいいですが……」
「わぁ! ありがとうございます! ユーフォニーさん、マリエッタさん!」
 満面の笑みを浮かべる廻の周りを「「「「「「「 にゃー♪ 」」」」」」」とドラネコたちが回り出す。
「ミーちゃんたちも、おめでとうって言ってます♪」
 朗らかに。賑やかに。宴は続く――

成否

成功


第1章 第12節

オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)
同一奇譚
古木・文(p3p001262)
結切
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
うそつき

「廻くん、大変だと思うけど頑張ってね!」
 サクラは廻の背をぽんと押して、ウィンクをして見せた。
 深道本家も練達国の中にある。実際の距離はそれほど遠くない。けれど、簡単に門戸を開くような場所でもないことはサクラにも分かる。
「aPhoneは持っていけるのかな? アドレス教えておくから寂しくなったりこっちの様子が気になったりしたら気軽に送ってね!」
「はい、ありがとうございます」
「……ないと思いたいけど、危ない目にあってもね!」
 危ない目、という言葉に廻は大袈裟に「ひえー!」と身体を震わせてみる。本当の所は、きっと廻も不安であるのだろう。けれど、それをサクラに見せるのは気が引けるのだ。
「龍成くんも廻くんが戻ってくるまでにもっと格好良くなってないとね!」
「は? 元から格好いいだろ」
「あはは!」
 龍成の悪態(ボケ)を笑い飛ばしたサクラは廻の肩に手を置く。
「廻くんがいないと暁月さんと龍成くんが喧嘩しないか心配だよぉ~。早く帰ってきてね!」
「おい! サクラ!」
 昔であれば喧嘩もしただろう。けれど、今の龍成なら大丈夫だと確信があるから。サクラは冗談めかして明るく振る舞う。廻が笑っていられるように。

「誕生日会と送別会って大事な日だからね!」
 リュコスはお祝いといってらっしゃいの挨拶をするために燈堂へとやってきた。
「決しておいしいご馳走だけにつられてやって来たわけじゃないよ!!!!」
 リュコスがわたわたと汗を掻くのに白銀はくすりと笑みを零す。
 次々と白銀のご飯を平らげていくリュコスは暁月と廻の結婚式を見つめ「あれはなに?」と首を傾げた。
「廻さんが深道へ居を移すので、その儀式ですね。ふふ……白無垢着てみますか?」
「うん! 着てみる!」
 リュコスは白銀に白無垢を着せてもらい、満面の笑みでカメラを差し出す。
「写真とってー! あとで友だちにも見せる」
「はい、行きますよ」
 パシャリとカメラに映った白無垢姿にリュコスは満足そうに白銀へと抱きついた。
 白銀は子供をあやすようにリュコスを抱き上る。
「とってもいい天気! みんなも楽しそう。まだ全部終わったわけじゃないけど廻がちゃんと戻ってきたらいいよね。繰切も、その時には一緒にいられるようになったらいいな」
「ええ、そうですね」

「友人の友人の誕生日会だと聞いて来てみれば、此処は暁月さんのお住まいだったんだね」
 暁月の元を訪れた文はおずおずとお菓子を差し出す。
「菓子……こんなに立派なお屋敷なら逆に邪魔だったかな」
「そんな事ないさ。子供達も沢山いるからね、とても嬉しいよ。ありがとう」
 夜妖絡みの事件で身寄りの無くなった子供達を引き取り育てているのだ。お菓子はあればあるほど子供達が喜ぶと暁月は文に顔を綻ばせた。
「六月だから結婚式の格好をしているのかと思ったけれど」
「ああ、これから廻が本家に居を移すからね。その為の儀式なんだ」
「おめでとう、願わくばこの場にいる皆が善い日々を過ごせますように」
 文は暁月達に手を振って、紫陽花の中庭を散策する。
 紫陽花の他にも、桔梗に薔薇、マーガレット、ポピーに睡蓮なんか咲いているようだった。
「みんな幸せそうで良かった」
 楽しげで、朗らかで。そんな雰囲気が文の心を充たしてた。

「宴――で在るならば、成程、豪勢に成すべきだ」
 オラボナはベンチに座り杯を掲げる。
「夜妖(やつ)等とは齧る程度の縁(なか)だが。嗚呼、ホイップクリームの咀嚼具合で善し悪しが解るのだよ。貴様等は尽く『付き合い』方を理解している筈だ。ならば――故、無くとも乾杯に『酔わせ』給えよ」
 されど、オラボナのカップに入っているのはリンゴジュースだ。
 何でも喰らいそうな見た目だが下戸であるらしい。
「脂身には油味を垂らし、添えるべきは純白の泡立ちか」
 素晴らしいと手を叩くオラボナは傍に佇む少女を招いた。
「生徒を混ぜても構わないか?」
「もちろん、歓迎するよ」
「――赤城。赤城、ゆい。ほら、良質な戯れには上質な食材を捧げねば勿体ないのだよ。Nyahahahaha!
 ホイップクリームは多量に、多人数で呑むからこそ甘いのだから」
 唐揚げを一口食んだオラボナは「ふむ。この唐揚げは実に塩味だ」と懐から砂糖を取り出す。
「もっと砂糖を振りかけるが良い。正しく、タラフクに食い、呑む為の深淵か。Nyahaha!」
 オラボナの笑い声が中庭に響き渡った。

成否

成功


第1章 第13節

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
タイム(p3p007854)
揺れずの聖域

 タイムはほのぼのとした宴会の空気に、青い瞳を細める。
「初めまして廻さん!」
 楽しげな表情で手を差し出したタイムの隣、夏子が心配そうに佇んでいた。
「めでたい席ってな事で誘われて来たの」
 お酒が飲めると聞いたけれど、タイムは滅法酒に弱い。
 だから、夏子は介抱せねばと傍に寄り添っているのだ。
 晴れ舞台と聞いてはいたけれどと廻を見遣る夏子。彼は男子に見えるけれど白無垢を着ている。
 そういった風習もあるのかと夏子は、視線を逸らした。
「お二人とも来てくれてありがとうございます」
「会ったばかりでお別れも少し変な感じね。でもまた会える日を楽しみにしてる。
 暁月さんならきっと大丈夫。随分すっきりした顔だし。何かあればすぐ飛んでいくから任せてね」
 笑顔で振り返ったタイムは、可愛い女の子をこっそり見つめる夏子に首を傾げた。
「……夏子さん?」
「え なにタイムちゃんこの辺の景色珍しいから見入っちゃってさぁ~」
「景色を見てた? ほんとに~? ほら夏子さんも挨拶を
 ……って、ちょっと、こんな時に悪戯は……もうっ!」
 お尻を撫で回す夏子の手を引っ張って「普段は頼りになる人なの! 嘘じゃないのよ!」と眉を下げるタイムに微笑んだ廻。

「にしても白無垢素敵だったなあ……いつかわたしも誰かのお嫁さんになるのかな」
 廻達と離れた後、タイムは夏子の耳元で囁く。
「ね~~~え? 夏子さん、どう思う?」
「お嫁……さ……ん? 綺麗……だと思うよ うん 間違いないね」
 そういうのは考えたこと無かったと頬を掻きながら、夏子は青い空を仰いだ。

成否

成功


第1章 第14節

レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ラズワルド(p3p000622)
流転の綿雲
チック・シュテル(p3p000932)
燈囀の鳥
チェレンチィ(p3p008318)
夜を斬る
星影 昼顔(p3p009259)
陽の宝物
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

「よう、龍成」
「おおレイチェルか」
「お前の誕生日、バタバタしてて当日に祝えなくて悪い!!」
 折角の祝いだとレイチェルは龍成へとカクテルチューハイを渡す。日本酒も好きだが、気兼ねないチューハイやビールで十分だと龍成は笑った。
「……おめでとう、龍成」
「ありがとう」
 医者を目指すと告げた龍成にレイチェルはとても嬉しかったのだと笑みを零す。
「餞別って訳じゃないが、これを渡しておこうか。……ぶっちゃけ、大変で。理不尽な現実と向き合う事の方が多い。だけど、折れるンじゃねぇぞ?龍成」
 龍成へと手渡した参考書を開けば、レイチェルの経験を踏まえたアドバイスが書き込まれていた。
 感謝を告げる龍成にレイチェルは真剣な眼差しを向ける。
「龍成。お前は春泥をどう思う? 俺の勘だけど、アレはロクな奴じゃねぇと思うンだ。
 俺の知ってる男──お前をログアウト不可に追い込んだ奴と同じ雰囲気なンだ」
 悪辣な外道。嫌な気配。廻の事も、繰切の事も。
「深道三家全て、奴の掌の上で良いように転がされてる気がするんだよ」
 レイチェルが追っている『ヨハネ』と同じ性質であるならば、春泥も裏で道筋を整えている筈だと。
「俺も探りを入れてみるが……気を付けろよ、龍成も」
「ああ、アイツめちゃくちゃ怪しいからな。気を付ける」

 折角の宴会だからとチェレンチィは隅の方でお酒を煽る。
「祝勝会に快気祝い。ここを離れなければならない廻さんへの心配。ボクにだってありますしね」
 チェレンチィは中庭ではしゃぐ空と灰斗を見つめた。
 人と共にある存在になって欲しい。チェレンチィは灰斗にそう願ったのだ。
「あとボクに出来るのは、そんな彼を導くのではなく、見守ることくらいでしょう……あ、龍成さん!」
「おお、チェレンチィか」
「すっかり良くなったようで何よりです。先の事変では、駆け付けられなくてすみませんでした。道案内に、服選びに、色々お世話になったのに、お礼が言えないままになってしまうのではと不安だったので。
 ……本当に、無事で良かった」
 あの戦いで龍成の為に動こうと思ったのに、中々上手く行かないとチェレンチィは眉を下げる。
 龍成は『少年』の頭を「気にすんな」とわしわし撫でまわした。
「そういえば今日は普段着ですか? てっきり龍成さんも周りの方々に倣って、紋付き袴かタキシード辺りを着ていると思ったんですが」
「そうだよ。龍成氏……何でタキシード着ないの?」
 二人のところへ歩いてきた昼顔が懐からカメラを取り出す。
「何でだよ」
「ほら、いつも廻氏と合わせているのって、暁月先生じゃなくて龍成氏のイメージあったからさ。
 お陰で二人が本当に結婚するのかと吃驚したけど」
 誕生日に着てた衣装をアレンジすればタキシードになると昼顔は提案する。
「君は準備してた方が良くない?」
「そうですね」
「だから、何で」
「ほら、龍成さんボディさんと仲が良いじゃないですか。
 だからドレスとタキシードで合わせて、とか思ってたんですけどねぇ? ふふ」
 揶揄うように笑みを浮かべるチェレンチィと昼顔に呆れた顔で肩を落す龍成。
「そういえば前に来た時と中庭、違う花が咲いてるね。もうすぐ夏だし、向日葵も咲くのかな?」
「あー、咲くんじゃねぇかな?」
 昼顔は向日葵の花が好きだった。母の名前と同じ花だから。
「……此処でも別の所でも良いけど、皆で向日葵を見に行きたいね」
「倒れんなよ?」
「そこは、まあ……善処するよ」

「そいえば……廻達も、だけど。門下生の子達も、いつもと違う服……着てるね」
 ふわりとやってきたチックに龍成は着てみれば良いと告げて。
「うん……おれも、着てみよう……かな。真っ白な、衣装。ちょっと親近感……ある、かも」
「じゃあ、龍成氏と一緒に着替えておいでよ」
 昼顔はチックと龍成を衣装のある部屋へ押して行く。

「ドレスは確か、お嫁さんが着るもの……だっけ?」
「そうだな……」
 チックと共にタキシード姿へと着替えさせられた龍成は、照れくさそうに頬を掻いた。
「……なる、ほど。これが、『結婚』する時の……衣装、なんだね」
 龍成と別れて中庭を歩くチックの傍らに、灰斗の姿があった。
「チック? タキシード着んだね。似合うね」
「そうかな……よかった。この中庭はね、君のお父さん、繰切とお話した場所……なんだよ。
 少し前なのに……懐かしく感じる。不思議、だね」
 ベンチに座たチックは隣をポンポンと叩いて灰斗を呼んだ。
「もし繰切が、自由に外……出られる状態だったなら。この服を着る、してるの。見られたの……かな?」
 繰切は大きいからきっと似合うだとうとチックは笑みを零す。
 中庭には、他にもドレスやタキシードを着ている人がいた。
「いつか友達が……大切な人を見つけたら。沢山、おめでとうの歌……奏でたいなって、思う」
「じゃあ、チックの時は僕が歌ってあげるね」
「……おれ? おれは……。……考えた事、なかった」
 チックは蒼穹の空を見つめ、ふんわりと思考の海に揺蕩った。

 ラズワルドは梅酒を持って繰切の元へやってくる。
「ご機嫌いかがー? 繰切サマ」
「おう。ラズワルドか」
 扉の向こうから相変わらずの声が聞こえ、安心するラズワルド。
「……封印の中は住み心地がイイのかなぁ? それとも窮屈?」
 自分なら退屈でそこら中を引っ掻きそうだとラズワルドはペロっと舌を出した。
「……廻くん、しばらく帰ってこないんだってねぇ。だから代わりにちょっと預かっておいてほしいんだけどさぁ。名前書いとくから。たまにコレの様子とか見に来るついでに、話し相手になってあげてもいーよ。
 ほら、この間、廻くんを助ける知恵を貸してくれたお礼っていうかぁ……」
 一方的に貰うのは落ち着かないのだとラズワルドは扉にもたれ掛かった。
「そのお酒、ちょっとなら飲んで良いからさ……乾杯しよう」
「うむ……良い酒だ」
 突然現れた繰切の手がラズワルドの頭を撫でていく。
「繰切サマとも飲みたいしねぇ」
 少し寂しげな呟きが、薄暗い空間に広がった。

「明日から廻さんいないの、寂しいから。お泊まり……しても、いい?」
「ああ、構わないよ」
 祝音は廻や暁月、白雪と一緒に。縁側でのんびりと、温泉に入った後の夕涼み。
 そのあとは無限廻廊の座へと赴き、封印の扉の前でこてりと首を傾げた。
「えっと、初めまして……祝音・猫乃見・来探、です。繰切さんも……本当に、ありがとう」
「何だ、今日はここへやってきたのか。いつもは白雪ところころしているだろうに」
「うん。廻さんが向かう深道の家にも、繋がってるのかは、分からないけど、繰切さんや皆のこれからに幸せが沢山ありますようにと願ってます、みゃー」
 祝音の『繋がっている』とはレイラインの事だろう。力の奔流。霊脈や竜脈と呼ばれるもの。
 万が一、深道で何かあったときに、繰切に悪い影響が出ないことを。願わずにはいられないのだ。
「心優しき白き子猫よ。お主も気を付けることだな」
「うん。ありがと」
 祝音の頭をひと撫でした繰切の手が、封印の扉の中へと消えて行った。

「私、夜妖退治って初めてなんですが夜妖ってもっと幽霊みたいにおどろおどろしい感じかな?って思ってたんですけど案外普通の見た目なんですね」
 暁月達と共に黒闇鴉を祓いに来ていた千代がラピスラズリの双眸を上げた。
「というか、何で烏なんですかね?烏天狗を自称する者として闇=烏という認識は大変おこです。ぷんぷん丸です! なので頑張って退治していきます!」
 翼を広げた千代は暁月達が狙う夜妖に照準を合わせ、八咫烏と白烏の名を冠する二丁狙撃銃で正確に敵の胴体を撃ち貫く。
「私は烏天狗! 決してポンコツスナイパーではないのです! もちろん近づかれても、ちゃんと対処出来ますからご安心ください!」
「ああ、そっちは任せたよ」
 千代の頼もしい声に暁月も目を細める。

「ふぅ……中々に大変でしたが祓い屋も立派なお仕事でした!」
 愛らしい笑顔を見せる千代に「お疲れ様」と労いの言葉を掛ける暁月。


成否

成功


第1章 第15節

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
冬隣
紫桜(p3p010150)
会えぬ日々を思い

 忙しそうな白銀にアーマデルは手伝いを申し出る。
「だ、大丈夫だぞ、手伝うのは料理じゃなくて運ぶ方だからな」
 唐揚げに勝手にレモンかけたりもしないと首を振るアーマデルに白銀は感謝を告げた。
「白銀殿は手際もいいし、盛り付けも綺麗だな……」
 後から覗き込むアーマデルは桶に貯まった皿を見遣り、ゴム手袋をぎゅっと着けた。
「皿洗いはそこそこ慣れてるから大丈夫だぞ」
「ふふ、じゃあお願い出来ますか?」
 アーマデルは燈堂の住人ではない。だから、お客様扱いだったのが少し寂しかったらしい。
 それをくみ取った白銀は彼にお皿洗いを任せたのだ。
「白銀殿は『反抗期』なのか? 俺も最近、イシュミルに、反抗期が来たのかなって言われてな」
「ふふ、リュコスさんに『はんこうきになろう!』と言われてしまいまして」
「……そうだ、あとで繰切殿のところにも行こうと思ってるんだ。おかず少し取り分けておいてもいいだろうか?」
「はい。構いませんよ」
 アーマデルはおかずを取り分ける白銀の背中を見つめ、繰切の子である彼は父神『クロウ・クルァク』より母神『白鋼斬影』に似ているのだろうと目を瞬かせる。
 せっかく一つになったというのに、自分の中から白鋼斬影の力が抜けていくのは、寂しい事なのかもしれないとアーマデルは視線を落す。己も一翼の加護が薄くなれば寂しく感じると思うから。

 廻が去ったあと、紫桜はしばし繰切と共に会話を続けていた。
「君と居ると時間が過ぎるのを忘れてしまうよ。迷惑、だったかな?」
「何を言うかと思えば……我は楽しいと思わぬ者と、こんなにも会話を続けんぞ」
 つんと額を小突かれた紫桜は石畳の上に視線を落す。
「……君が封印されて、気軽に会えなくて。それが君の選択だって分かってはいるんだけど……時々怖い想像をしちゃって。君には無用な物なんだろうけれど。自分でも上手く感情とかを制御できなくて」
 顔を両手で押さえて「はぁ」と溜息を吐いた紫桜。
「君には弱い姿を見せてばかりだ。もっと楽しませれるような話題とかでも出来たらよかったんだけど。
 人間の方の感情に引っ張られてるって言うのか」
 紫桜の頭を繰切の手がわしわし撫でつける。
「うう……。繰切、その、俺の事目一杯甘やかしてくれない? 抱きしめたり、触れ合ったりして、さ」
 繰切は封印の中から気軽に出られる状態に無い。
 それでも、紫桜はぬくもりが欲しいのだと扉に手をついた。
 繰切という存在を感じたい。この封印の中に行けたのなら――
「欲しいんだ。だから、お願いだよ繰切。俺をもっと君で満たして」
「……仕方ない奴だのう。ほれ」
 分体を顕現させた繰切は、紫桜を抱き上げ、優しく抱擁する。
「うぅ……繰切」
「お主の涙は美しいが、目を瞑っていては、折角の顕現が勿体ないぞ。ほれ、我を見よ」
 視界いっぱいに広がる繰切の姿に紫桜は涙を零し、力一杯抱きついた。

成否

成功


第1章 第16節

シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者

「良かったら、わたしもドレスにお着替えしようかなぁ?」
 シルキィの声に廻は顔を綻ばせる。
 廻が彼女の為に選んだのはデコルテの開いたオフショルダー。
 胸元はレースを使い、首から下がるペリドットネックレスが美しく光った。
 シルエットはソフトなAラインで、オーガンジーとソフトチュールを使い、柔らかく華やかさもある。
 風に広がる長いマリアヴェール、シルキィの羽も相まって、まるで白き妖精のよう。
「シルキィさん……とても綺麗です」
「あわ、わ。ありがとうだよぉ」
 白無垢とウェディングドレス。二人で手を繋ぎ紫陽花咲く中庭を歩く廻とシルキィ。
「これだとどっちが花嫁さんか分からなくなるねぇ」
 こうしてドレスを着ながら廻と歩いていると不思議な気分になる。
 いつか、本当に彼の隣で……なんて思ってしまうのだ。
「……ね、廻君。もらったこのネックレスって、わたしのと同じ石になってるんだよねぇ。ってことは、廻君の方からでもお話はできるのかなぁ?」
「はい。僕からも出来ます」
 会いたくなっても直ぐには会えない。けれど、声を届けることだけは叶うから。
「わたし、寂しくなったらキミの名前を呼ぶから。だからキミも……わたしのこと、呼んでねぇ」
「はい! 僕もシルキィさんの声が聞きたいですから」
「えへへ~」
 笑顔を向けたシルキィの緑瞳が揺れる。
 正直な所、廻が深道へ赴くことが不安で仕方が無い。けれど、一番不安なのは廻だろうから。
 だから、シルキィは彼を笑顔で送り出す。
「いってらっしゃい、廻君。わたしはキミの帰りを待ってるからねぇ」
 シルキィの言葉に彼女の手を取った廻。
 手首に触れた廻の唇、切なさと熱を帯びた紫瞳に、シルキィの鼓動が高鳴る。
「行ってきます……」
 ふにゃりと廻はいつも通りの笑みを浮かべたのだ。

成否

成功


第1章 第17節

ボディ・ダクレ(p3p008384)
ぬくもり

 廻が居なくなってしまう。彼を大切にしている龍成にとって、それは寂しいことだろう。
 ボディ龍成を励ます為、腕をぐいと引っ張った。
「龍成、一緒に着てみませんか」
「あー、ウェディングドレス?」
 昼顔とチェレンチィによって既にタキシードへと着替えさせられていた龍成は、ボディの誘いに「仕方ねぇなぁ」と易く応じる。
 龍成は割と拘りが強い方だ。ボディのウェディングドレスを選ぶとなれば、最高に可愛いものをセレクトしたいと思う程に。
 胸元はハートラインで愛らしいデザイン。シルエットはプリンセスラインを選ぶ龍成。
 アシンメトリーでフリルが多く、腰に巻かれたリボンにはサムシングブルーの花が添えられる。
「ふむ、こういった着心地なのですね。いつもと全然異なりますね……でも面白いです。どうです龍成、似合いますか?」
「うん、似合ってる」
 ボディの背に手を回した龍成は、もう片方の手で柔らかな頬をつまむ。
 二人で収まった写真はまるで絵本の中の王子様とお姫様のよう。
 少し頬に熱が籠もる。
 ボディは「どうした?」と顔を覗き込む龍成と視線を合わせられない。
 あの戦いの後から、こうして時々顔が熱くなり、顔を背けてしまうのだ。
 活動停止しかけて、龍成に助けられたから申し訳なく思っているのだろうか己の思考回路は。
 特にこの衣装を着てからエラー塗れだった。
「分かりません」
「んー? 顔赤いけど、熱あんのか? もしかして、体調悪いンか?」
 龍成が額をくっつけてくる。いつもなら何とも思わない触れあいが。
 呼吸を忘れる程、熱くて。熱くて。
 エラーが収まらないのは、どうしてだろうと、ボディは混乱のまま目を閉じた。

成否

成功


第1章 第18節

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

 夜暮れて。縁側でアーリアの姿を見つけた暁月と廻は彼女の名を呼んだ。
「あら、今日は帰ると思った? ざぁんねん、今夜はここにお泊りしちゃいまぁす!」
 湯上がりの三人は縁側に座り、月夜に杯を交わす。

「あ、そうだわ! 廻くん手を出して」
「はい」
 素直に差し出した掌をひっくり返し、アーリアは廻の右小指に深い蒼色を塗る。
「花嫁さんにはね、幸福のための四つのアイテムがあるの」
 これはそのうちの一つ『サムシング・ブルー』だとアーリアは笑みを零した。
「どうか、寂しくなったらこれを見てね。……元気に会いましょ」
 契る蒼は約束の証。
「指切りげんまん――はい暁月さんも!」
 三人で交わす再会を願う歌。祝福とおまじない。

「……大丈夫? 寂しくない?」
 酔い潰れた廻の頭を撫でながら暁月はアーリアに「君は?」と問いかける。
「私は寂しいわよ! 当たり前じゃないの。でもね、寂しいとか、悲しいとか、そういうことは無理に呑み込まなくていいって知ったから。だから、暁月さんもなんだって零していいんだから!」
「そうだね。もちろん寂しいよ。廻は私の大切な家族だからね。この子が、私無くては生きられなかったように。当時の私もこの子無しでは生きられなかった。共依存ってやつだよ」
 されど、イレギュラーズが関わる中で、二人の関係性も解れ、改善した。

「……あ、そう、そういえば今更だけど年も近いし「さん」付けもどうかって思うのよね」
「確かに?」
「暁月くん」
「……君に言われると、むず痒いね、アーリア?」
 呼び名を変えること。それは少し気恥ずかしく。大切な儀式だ。
「勿論学園ではちゃんと燈堂先生だけど――外での秘密の呼び方! ね、暁月くん」
 照れた様に笑う暁月とアーリアは、和やかな夜に杯を鳴らした。

 二人の笑い声に目を開けた廻は、膝枕の心地よさと、いつも通りのこの時間に涙を零す。
 穢れを祓い終わるまで、こうして甘える事さえ出来なくなるのだと。
 暁月の着物を、ぎゅっと握った。

成否

成功

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