シナリオ詳細
<覇竜侵食>ウェスタ絶対防衛戦線
オープニング
●その「時」は突然に
亜竜集落イルナークの全滅から始まったアダマンアント事件。
アダマンアントの巣の調査。
散発的なアダマンアントの襲撃と、その撃破。
同時多発的な小集落への襲撃と、その迎撃。
その中で明らかにイレギュラーズに対応した戦闘種も現れ……しかし、それでも撃破した。
相当数のアダマンアントを撃破し、ここ数日はアダマンアント発見の報告も聞かなくなった。
里長たちは「今回のアダマンアント達は大規模な攻撃能力を喪失した」と結論付け、今まさにアダマンアントの巣への攻撃作戦が提案されようとしていた。
……だが、出来なかった。出来なかったのだ。
何故か。理由は簡単だ。
亜竜集落ウェスタ。
ピュニシオンの森と呼ばれる深き森の近くに存在する地底湖周辺に集落を築いた水竜が始祖である集落であり、地中でペイトやフリアノンと繋がる道を有する大集落の1つ。
三大集落と称される程に規模が大きく、同時に安全を保証された場所であった……はずだった。
そう、過去形だ。
硬い岩盤をも貫くアダマンアント達が狙ったように小集落を襲撃していたのは偶然ではなかったのだ。
アダマンアント達は周辺調査を完了し穴を掘り進め、ウェスタに繋がるルートを開通させてしまったのだ。
そして今ペイトやフリアノンへの道はアダマンアントによって制圧されてしまっている。
もっとも、これはアダマンアントにとっても相当に重要な作戦に位置付けられているのだろう。
その「道」に陣取ったアダマンアントの中に、巨大なアダマンアント……すなわちアダマンアントクイーンの姿があったのだ。
アダマンアントの1つの群れに対し、アダマンアントクイーンは1体だけ。この原則は破られたことはない。
ならばこれはアダマンアントによる決戦なのだろうか。
事実、これまでイレギュラーズはアダマンアントの勢力を削り続けてきた。
それこそ「アダマンアントの一勢力」にしては過剰すぎるほどの数を……だ。
だからだろうか。今ウェスタから他へと繋がる道はアダマンアントによって塞がれ、アダマンアントがフリアノン、そしてラサに到達できる位置に辿り着いてしまった。
チェックメイトに近いこの状況をどうにかしなければ、人類に未来はない……!
●絶対防衛線
「皆、大変だよ!」
『鉄心竜』黒鉄・奏音(p3n000248)はそう叫ぶが……事実、ウェスタに居るイレギュラーズで「それ」を知らない者は居ないだろう。
ウェスタと他を繋ぐルートのアダマンアントによる占拠。
その恐るべき事実は、今回偶然ウェスタに来ていた面々にとっては幸運か、あるいは不運か。
いきなり最前線に放り込まれてしまったようなものだ。
今この瞬間にも、アダマンアント達は隊列を整え「進撃」の準備を開始しているのだ。
もし、もしもの話だ。
ウェスタが落ち、そこからペイトやフリアノンに到達し、更にラサにアダマンアント達が進撃すれば……アダマンアントという「覇竜のモンスター」が外へと放たれることになる。
しかも他のモンスターや亜竜よりも爆発的に増加し、驚くほどの進化速度と対応力を誇るアダマンアントが……だ。
そうなれば、世界中が覇竜のように人がモンスターから隠れて暮らす地域と化すかもしれない。
国家という枠組みが消え、その一日を生きられたことを感謝するような……そんな場所へと成り果てるかもしれないのだ。
覇竜から脅威が世界に浸食し、染まっていく。そんな恐ろしいことが現実になってしまうかもしれないのだ!
「それを防ぐには……3つの作戦が必要になる」
静李はそう言うと、3本の指を立ててみせる。
「まずは1つ目。地上から攻めてくる勢力からウェスタを守り切ることだ」
そう、亜竜集落ウェスタがアダマンアントの手に落ちれば、様々なものが変わってしまうだろう。
三大集落の陥落は、それほどまでの大事だ。
だからこそ、アダマンアントをウェスタには一歩だって入れてはならない。
「2つ目。地下通路を占拠したアダマンアントからの防衛ね。地上で勝っても地下で負けたら意味がない、わ」
棕梠の言う通り、地下通路のアダマンアントに負ければ何の意味もない。
アダマンアントは、まずはウェスタを確実に墜とす構えであるようだ。
此処で負ければ、ウェスタはイルナークの二の舞……いや、もっと酷い事になるだろう。
それだけではない……もし此処が突破されれば被害はペイトやフリアノンに及び、大災害に発展してしまう。
何としてでも死守しなければならないだろう。
「そして3つ目! アダマンアントクイーンを此処で倒す! そうすればこれ以上増えないはずだよ!」
奏音の言葉通り、今回のアダマンアントはあくまで「1つの巣」のアダマンアントによるものだ。
……それはそれで、非常に恐ろしいことなのだが今はさておこう。どの道、アダマンアントという「種」自体を駆逐するのは無理なことだ。
とにかく、1つの巣に対してアダマンアントクイーンは1体であるとされている。
だからこそ、此処でアダマンアントクイーンを倒す事は、このアダマンアント騒動の「頭」を潰すだけではなく「大きな意志」の喪失によるアダマンアントの攻撃性の排除にも繋がるだろう。
元々アダマンアントは専守防衛思考の方が強い生き物なのだ、今の騒動はアダマンアントクイーンの意志に引きずられてのものと考えて間違いないはずだ。
「この3つをクリアすれば、ボク達の勝ちだよ!」
作戦1、ウェスタ地上絶対防衛線の構築。
作戦2、ウェスタ地下絶対防衛線の構築。
作戦3、アダマンアントクイーン討滅作戦。
「どの作戦も同じくらいに重要だ。どれか1つが欠けても、世界は大変なことになるだろう」
だからこそ、やらなければならない。
今頃ラサ側でも慌ただしく防衛線が構築されているはずだ。
だからこそ、守り切る。
だからこそ、此処でアダマンアントクイーンを倒す。
この騒動を、解決するために。
今こそ、集い戦う時なのだ。
- <覇竜侵食>ウェスタ絶対防衛戦線Lv:10以上完了
- GM名天野ハザマ
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年06月17日 22時05分
- 参加人数50/50人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 50 人
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参加者一覧(50人)
リプレイ
●ウェスタ絶対防衛線
アダマンアントの群れによる小集落の襲撃事件。
それから少しの間平穏が続いていたが故の油断……いや、油断ではないだろう。
アダマンアントの動きは、あまりにも素早かった。
亜竜集落ウェスタ。
ピュニシオンの森と呼ばれる深き森の近くに存在する地底湖周辺に集落を築いた水竜が始祖である集落であり、地中でペイトやフリアノンと繋がる道を有する大集落の1つ。
三大集落と称される程に規模が大きく、同時に安全を保証された場所であった……はずだった。
此処が墜ちるのは亜竜種全体の問題だからこそ警戒も厳にされており、だからこそ今回の襲撃は予想外だったのだ。
亜竜集落イルナークの事件も衝撃的であったが、ウェスタ襲撃はそれと比べてもない規模の違う大事件だ。
それくらいに「ありえない」事態であったのだ。今頃フリアノンでもペイトでも大騒ぎだろうが……だからといってすぐに何が出来るわけでもない。
一歩間違えば今頃滅ぼされていたであろうウェスタは、たまたまこの場に居た50人のイレギュラーズによってかろうじて僅かな準備期間が与えられている状況だった。
アダマンアントクイーンも含む文字通りの総攻撃。それは防衛戦を強いられるイレギュラーズにとっては、非常に不利な状況でもあった。だが、やらなければならない。
「ついにきたか……アダマンアントの総攻撃。だが覇竜の民たちは俺達を頼ってくれた。これに応えずしてなんのためのイレギュラーズ、ローレットか。アリどもめ、一匹たりとも通すまいぞ」
『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)の決意がウェスタに響く。
地上、そして地下。ウェスタに通じる全てのルートはアダマンアントによって封鎖され、三大集落の1つであるウェスタは完全に孤立していた。
……常々より、アダマンアントの戦術については言われていたが、今回の作戦は包囲殲滅戦。確実にこちらを潰すという意図の見える動きに対抗するべく、ウェスタに滞在していたイレギュラーズによる防衛線がすでに構築されていた。
それは皮肉ではあるが、これまでのイレギュラーズとアダマンアントの戦いにより蓄積された経験のなせる業とも言えるだろう。
そしてウェスタが墜ちればどうなるかは分かり切っている。
いや、一体のアダマンアントもウェスタに通してはならない。
防衛戦に加え救出戦も加われば、戦線は一気に崩壊する。その先にあるのは……考えたくもない、地獄だ。
「ふむん……敵の数がそこそこ居るのじゃが一匹でも逃せば大変な事になるのじゃったな。ならば空を行く亜竜族の一人である妾としては相手を絶対に見失うわけにはいかんのじゃ!!」
『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)は自分を空中偵察機&情報の中継器として位置づけ、空属性の亜竜種としての利点を活かすように高空を飛行していた。
万が一敵が変な場所から現れて防衛戦を突破しようとしても上空から超視力で監視していれば絶対に見逃さないし、見つけた全ての敵の状況はハイテレパスによって戦場に居る味方に随時伝えることができる。
場合によっては遠く離れた位置の戦場の味方にもハイテレパスで状況をリアルタイムで双方向通信できる。
しかし……そうやって戦場を俯瞰する小鈴であるからこそ、この状況の恐ろしさは充分に理解できていた。
「戦力が足らずとも妾達がここで蟻を防ぎ続けて時間を稼いで女王を倒しに行ったもの達が全てを終わらせるまで何とか持ちこたえるのじゃ!!」
そう自分を鼓舞しなければ押し潰されてしまいそうな圧力が……眼下にはあった。
20体のアダマンアント、そして新種の戦闘種、アダマンアントドラグーン。
これだけの相手を限られた人員で守り切るのは……正直、相当な困難だろう。
絶対防衛線の名の通り、此処を完全に守り切らなければならないのだから。
だがそれをやらなければならない。その重みが、小鈴の肩には載っていた。
いや、小鈴だけではない。地上絶対防衛線、地下絶対防衛線。
2つの絶対防衛線を守る者たちに載っている共通の重みであるだろう。
この戦いが世界の行く末を決める。そんな戦いにプレッシャーを感じない者など居るはずもないのだから。
だから、というわけではないだろう。『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は努めて明るい雰囲気を作っていた。
「蟻専用の殺虫剤はあったからしらね? そんな便利な物は無い? 仕方がない古典的な殺虫剤(物理)で叩き潰してあげましょうか!」
そんな冗談を言いながらイナリは仲間と共に土嚢を積んで簡易的な防護壁を作っていた。
一人用の蛸壺も何個か掘り、更に陣地構築に練達上位式や式神使役を使用し手伝わせて少しでも構築速度を高めようともしていた。
ちなみにこの蛸壺、状況がそれを許し、可能ならこの蛸壺に入り土砂や蟻の蟻酸……つまり香を身体に塗りたくり姿と香りを隠蔽、蛸壺の脇に敵が通行したら飛び出して一撃、なんて奇襲戦法を実施したいと考えてのものだった。
それで戦いの趨勢を決める……などと期待はしていないが、僅かな差や工夫が逆転の一手に繋がることもある。
時間は足りないが、時間の許す範囲内で出来る事は全てやるつもりだった。
『花咲く龍の末裔』咲花 イザナ(p3p010317)もまた、イナリやエーレンと協力しながら様々な仕掛けを施している。
「この防衛戦を1匹でも突破されては拙い——となれば、突破されそうな状況を周知する為の仕込みをしておいた方が良かろう」
「思うに敵はドラグーンの超射程を活かすべく、前衛にアダマンアント、後衛にドラグーンが控える……といった陣形で攻め込んでくる可能性が高いのではなかろうか」
戦闘時に於いては目が届き難そうな箇所へ鳴子の設置など、警報装置の仕組み作り。
罠での足止めは困難であろうから、不意の動きの察知さえ出来れば良いと割り切り、イナリの防護壁作りにも注力していく。
「進化速度と対応力に優れたあだまんあんと。「どらぐーん」たる亜竜の特徴を取り込んだ個体をも生み出した、のか。竜を模したその力は、果たして……」
その呟きは、ある意味で不安の発露だろうか。
勿論、これが一種の気休めを含むものであることはイナリ……そしてイザナ自身が分かっている。しかし仲間と共に構築していく陣地はそれだけでウェスタの住人の不安を多少なりとも和らげる効果があるだろう。
視覚的な効果、そして何よりも実際の陣地というものは無いよりも確実に効果をもたらすのだから。
たとえそれが一瞬で崩れるものであろうと、その一瞬で何かが変わることがあるのは戦いの経験の者ほどよく理解できるだろう。
だからこそ『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)も一瞬でもアダマンアントを止められるように……アダマンアントのパワーに対応するため、鉄線(ワイヤ)で強化した、くくり罠や仕掛け網を仕掛けていた。
敵の動きを一時的にでも止めたり鈍らせることが出来れば、それだけで目的は達成だ。
「可能な限り設置しておかないとな……」
味方が罠にかからないよう、設置場所には目印を付け、作戦前に当戦場参加者全員に周知しておくことも必要だが、それは問題ないだろう。
(私にできることは何だろう。今までの覇竜からの依頼知識を活かして、みんなで協力して、この戦線を守らないと!)
『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)もまた、自分の知る限りのアダマンアントの習性等を伝えて、防御に役立ててもらうように立ち回っていた。
そして……響く地響きは、アダマンアントの侵攻開始の合図。
ドレイク種に何処となく似た特徴を持つアダマンアントドラグーンをリーダーとする、総勢21のアダマンアント。
それだけで集落を完全に蹂躙し得る大部隊が進撃を開始し、イナリとイザナが緊張感と共に叫ぶ。
「来るわよ!」
(とにかく数的に劣勢だから、敵一体に攻撃を集中させて早めに撃破、劣勢状態を少しで緩和させたいわね)
「敵を倒し切れればそれに叶ったことはない、が。決死隊が「くいーん」を墜とすまで防衛線を維持することこそが肝要である。歯を食いしばり耐え切れ!」
相手を倒し切るのは戦力的に不可能に近い。だが……決死隊がアダマンアントクイーンを倒すまではもたせなければならない。
「折角皆で拓いた道、そして交流を持った里だ。アダマンアントたちの目的はともかく、こんな早々に潰されちゃ困るんだよね」
『神翼の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)はアダマンアントへとラフィング・ピリオドを放つ。
少し高い所に陣取っているジェックは、そうであるからこそ絶望的な状況がよく見える。
だが……それでも引くわけにはいかない。
(関節の隙間や触角のように、他より防御が薄くなりがちなところを狙って弱点を探っていこう。アタシの精度(命中)なら、できないことじゃない。そうでしょう?)
そう自分を鼓舞するジェックの攻撃に合わせ、『紲家のペット枠』熾煇(p3p010425)が魔砲を放つ。
「でっけぇー!あれ、アリなのか!? めっちゃドラゴンじゃん!? かっけーな! 今回はいつものアリと一緒にあれも倒すのか。なかなか大変そうだな! でもやるぞー!」
リトルワイバーンに乗る熾煇の放つ魔砲はアダマンアントに命中し、しかしそれでもひるまない。
「ワイバーン、一緒に飛び回って魔砲でどーんだからな! 全体の数を減らして、それからあのでかいのを攻撃するからな。よーく、相手の攻撃がどんなものか見極めるんだぞ。背中とか、腹とか、大丈夫そうなところがないかも確かめよう!」
リトルワイバーンにそう声かけながら、少しでも有利になる情報がないかを熾煇は探ろうとして。
「なるほど、一匹でも通せば"詰み"ってわけか……!」
「うん、アダマンアントを1匹でも通してしまえば、大変なことになっちゃう。これ以上イルナークのような犠牲を出さないためにも、絶対に私たちが食い止めなくちゃ!」
「俺は特に関係者ってわけじゃねえが、見ないフリはできねえ。此処に来てた縁だ。この一大事、いっちょ噛ませてもらうぜ!」
『劇毒』トキノエ(p3p009181)は『正義の味方』 咲良と共にそう叫び、ヴェノムジュエルを撃ち込む。
たまたまウェスタにいた。その程度の縁ではあるが……それでも縁だ。此処で立ち上がらないことなど、トキノエには出来はしない。
だからこそ自分を前衛の支援と位置づけ、トキノエはこの絶望的な戦場に立っていたのだ。
「どこもかしこも硬いらしいが、撃ち続けりゃいつかどっかが壊れる……はずだ!」
そして咲良も前に立ち、アダマンアントへとバーンアウトライトを打ち込んでいく。
可能ならば早期決着を目指したいが、この戦力差ではそれを望むべくもない。
だが、それでも戦うことで守れるものがあるから。
「ここを絶対に通さないために、倒れるわけにはいかない!」
絶対に通さない。その意思を『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)も見せていた。
「アダマンアント共もとうとう大集落に牙を掛けてきたか。しかし奴らも運がないな、何せこの覇竜一の知識人にしてスゥーパァーインテリジェンスドラゴォニアである吾輩がここにいるのだからな。近くの集落には吾輩の研究所がある以上ここで殲滅するである」
練倒とて、アダマンアントドラグーンを含む大部隊が絶望的な戦力である事は分かっている。
いるが……「それはそれ」だ。
「ガーハッハッハ、これでもくらうである!」
放つチェインライトニングはアダマンアントに命中し、しかしそれ故に練倒は舌打ちをする。
アダマンアントは硬く、タフ。その事実を再度確認する羽目になったからだ。
だが効いていないわけではない。ないが……この防衛戦においては、中々に厳しい要因の1つだろう。
「どうやら厳しい戦いになりそうであるな……!」
「だが負けられはせん……!」
エーレンも叫び、サザンクロスを構えアダマンアントの群れへと立ちはだかる。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。俺の目が黒いうちはお前たちを決して通さぬ。覚悟しろ!」
1体でも強敵のアダマンアントの群れを押しとどめることの難しさ。
だがそれでも、やるしかないのだ。
(司令塔のドラグーンを真っ先に片付けたいが……俺の推論が正しければまずは突破口を開かねばそれもままならんだろう。ウェスタ防衛の意味でもまずはアダマンアントの頭数を減らしていくのがいいだろう。仲間と声をかけあい、集中攻撃で一匹ずつ確実に倒していった方が良さそうだな)
エーレンはそう考えながらも鳴神抜刀流・太刀之事始『一閃』を放つ。
「みんな、頑張れ! ウェスタの民の安寧が俺達の肩にかかっている!」
「覇竜の……いや、世界のぴんちですねっ。サンゴさんもこの戦場のどこかにいるんですかね……いや、ともかく先にこの状況を何とかしないとですね。がんばるぞっ」
『ドラゴンライダー』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)も叫び、相棒のリトルワイバーンであるロスカへと声をかける。
「行くよロスカ!」
「くぁ〜!」
ウテナがスケフィントンの娘を発動させ、植木鉢から急成長させた茨をアダマンアントへと伸ばしていく。
「ロスカっ!ㅤ燃やしちゃってください!!」
放つレッドブレスはアダマンアントの装甲を焼き、しかしそんなウテナたちに酸が発射される。
強い。やはり強い。だが、引くことは出来ない。
「黒狼の仲間たちがアリの親玉を討ちにに行ってる。あいつらなら絶対やり遂げる。なら、オレの役目は『こっち』だ。これ以上一人たりとも命を奪わせない! アリどもの食い散らかしも終わりだ。お代を回収させてもらうぜ!」
『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)がAチームの面々を鼓舞し声をあげる。
「いくぜ、即席結成Aチーム! まずはしにゃこを特攻させ、そこに群がるアリをまとめて吹っ飛ばす命知らずの特攻作戦!! ……冗談、冗談だって!」
「ここを任せてくれた決死隊の皆さんの為にも全力で守り通しますよ! 行きましょう! 特攻しないけどAチーム! ふぁいとーオー!」
「皆さんを無事に帰らせられるように頑張りますめぇ」
『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)が風牙の足を踏みながら叫び、『ふわふわめぇめぇ』メーコ・メープル(p3p008206)や仲間達も再度それに応える。
メーコは風牙やしにゃこを庇う作戦……つまるところ、今の宣言は心意気だけでなく実際の行動を宣言していたわけだが。
だが風牙もしにゃこも、メーコにだけ無理させる気など微塵もない。
「さあ、行くぜAチーム!」
烙地彗天を構えた風牙を先頭にしにゃこやメーコも突っ込んでいき……奪塞・其先が放たれる。
そしてしにゃこは戦場を見渡し自分達が孤立し囲まれないように気を付けながらもプラチナムインベルタを放つ。
「いいぞしにゃこ! 褒めてやる! 次は囮だ! 餌になれ! あ、めーこさんは危ないからあんまり前出ないようにな?」
「皆さんもう一踏ん張りです! きっとしにゃの友達が親玉を倒してくれるはずです!」
「ガン無視! ははっ、いいな! その調子でいこうぜ!」
「頑張りますめぇ」
メーコの危急の鐘鳴らしが響いて。モカも戦場の中で踊るように拳を振るい雀蜂乱舞脚を放つ。
「アダマンアントどもよ。ウェスタにもフリアノンにも、そして他の混沌各国にも、絶対に進ませはせんぞ。人間と共存できない蟻どもに容赦はせん」
モカは鷹のファミリアーたちを飛ばし、上空から戦場を偵察、捜索し続けている。
その情報を元に、周囲のイレギュラーズたちに接近してくるアダマンアントの位置を教えるのもまたモカの大事な仕事だが……それは万が一を防ぐ為の布石でもある。
一体でも通してはならない状況では「想定外」を可能な限り排除しなければならない。つまりはそういうことだ。
地上での絶対防衛線は、激戦を繰り広げて。しかし……地下の絶対防衛線もまた、同様の激戦を繰り広げていた。
●地下の攻防
少し、時間は巻き戻る。
地下絶対防衛線。地上よりもアダマンアントクイーンに「より近い」この場所は、地上防衛線よりも広さがない。
通常であればそれは利点になるはずだが、岩壁を掘るアダマンアント相手ではそれは利点にならない。
だが……今回に限っては、見逃しさえなければ絶対防衛線の横っ面を叩かれることはないはずだ。
「コャー。ついにアリさんと決戦なの。女王様さえ倒せばアリさんの群れは止まる、でいい……のよね?」
「連中、遂にウェスタにまで牙をその牙を届かせてきたのね。オマケに群れの長であるアダマンアントクイーンまで現れたって言うじゃない。文字通り総力戦って感じかしら?」
「アダマンアントとの小競り合いも飽きたし、攻めに出たいと思っていたらこうなるとはね。でも、胡桃の言う通り……クイーンを倒せばおしまいなら、今倒してしまえばおしまいよね?」
「それでいい、はずだ」
『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)と『炎の剣』朱華(p3p010458)、そして『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)にベネディクトはそう応え……少しの不安を振り払う。
あるかもしれないしないかもしれない可能性を考えている余裕は、今はない。それは胡桃も同じであったが故に、そう口にする。
「兎にも角にもここで立ち止まる選択肢はないの。防衛線が機能する内に何とかして決着をつけたいの」
「―上等じゃない。連中には散々好き勝手やられたんだもの。長が現れたって言うなら此処で今迄の借りを倍にして返してもらうだけよっ!」
「そうっすね! 散々っぱら各地に迷惑かけてきたんすからしっかり害虫駆除させてもらうっすよ!」
胡桃に朱華、そして『No.696』暁 無黒(p3p009772)もそう叫んで拳を握る。
絶対防衛線などと名付けたのは、伊達でもカッコつけでも適当でもない。
文字通りの絶対防衛線であり、最終防衛線なのだ。
地上、あるいは地下のどちらかを抜けられウェスタに到達されれば負けが決まる。これは、そういう戦いなのだ。
「覇竜領域が危ない場所なのは分かっていたつもりだけど。ほんと、いきなり決戦って感じね……。とにかく、今は守るよ。女王アリの討伐までウェスタを守れば私たちの勝ち!」
『銀雀』ティスル ティル(p3p006151)は言いながらファミリアーを偵察に飛ばす。
地下で視界が通らなくても、やらないよりマシでしょ? とのことだが……そう、此処は地下だ。
具体的にはフリアノンへと繋がる地下通路。
そのウェスタ側の入り口では、地下側防衛戦線の担当メンバーが慌ただしく動いていた。
「たいまつを燃やせ!! 遠くへ放り投げて暗闇を潰すんだ!!」
『希望ヶ浜学園高等部理科教師』伏見 行人(p3p000858)はそう叫び、無数のたいまつを用意していた。
篝火や発光施設くらいはあるが、少しでも戦いやすさを向上させたい。そういう考えだった。
事実、フリアノンとウェスタを繋ぐ通路は暗闇というわけではない。ないが……真昼のように明るいというわけでもない。
そんな無駄な資源の使い方を覇竜でやっているはずもない。だからこそ行人のやっていることはこの状況において確実にこちらの不利を潰す一手であり妙手でもあった。
「良いかい? 矢や魔法は俺を目掛けて撃ってくれ。そうすれば敵に当たる。だが、ティターンを最優先してくれ。俺は恐らくかなり危機的な状況に陥ると思うが、大事なのは全体を把握して「何処が抜かれそうか」を考えて行動することだ。ここを守る事が目的だからね。それを履き違えないように頼むぜ」
そう3人娘に頼むのも忘れない。行人がアダマンアントの引き付けを担当するつもりだからこそ言えることだが……それはかなり危険なことでもある。アダマンアントは、決して容易い相手ではないからだ。
「ん。容赦なく撃つの」
「お、おう」
一切冗談の色を映していない棕梠に行人は一歩引いてしまうが……まあ、望むところではある。
「なぁに、何とかするさ。みんなと、俺と、君たちで、だ。あ、酒を冷やしておいて欲しいかな?」
場を和ませるように行人はそんな冗談を飛ばして。
「これからいよいよ反撃だって考えてたら向こうから攻めてくるなんてね。こっちが動くより素早く嫌な手を何度も打ってくる。―これ、どっちかっていうと獣だとかより人が考えるような嫌らしさだよね?」
『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)はそこまで言って、その考えを振り払うように笑う。
「って、そんなことありえないよね。これだとこの動き自体がまた別の意味を持ってることも考えられるし……なんて、これから戦いだって言うのにこんな事を考えてる場合じゃないよねっ! だって今回の戦いは棕梠さんや静李さんの暮らすウェスタを守る戦いなんだもん。気を引き締めていかないとっ!」
「ん、とても良い気合いだと思うの」
「それに、それだけじゃないんだよね。此処を抜かれればウェスタだけじゃない、奏音さんや朱華さん、琉珂さんの故郷のフリアノン。果ては……―。だから、負けられない。守りたいって思う日常を、皆を守る為に。やろう、私の…今の私達に出来る精一杯をっ!」
パチパチと手を叩く音が聞こえてきた辺りで、花丸はギョッとそこにいた棕梠へと振り返る。
「棕梠さん、いつからそこに!」
「最初からいたの」
はたしてそうだったか。言われてみればそうだった気もする。花丸は「あー……」と呟いて、思い出したように棕梠へと声をかける。
「クイーンも倒して、皆無事に帰ったら棕梠さんとまたお昼寝がしたいかな。ずっと忙しかったし、どうかな?」
「ん、そしたらお勧めのスポットを紹介してあげないこともない、わ」
「約束だよ!」
そんな小さな約束も、これから始まる戦いに勝ち残る為には必要なことだろう。
絶望は、すぐそこにある。それを乗り越える為には希望が必要なのだから。
「こんなところまで敵がーーー避難も出来ないこの状況。どうやら、集落の皆さんを守りながら戦うしかなさそうですね」
「此処が陥落すればもう後は無い、まさに喉に突き付けられた刃物だわ。何がなんでも此処を死守して、この侵攻を食い止めるわよ!」
そんな『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)の呟きと『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)の叫び声が、場に響く。
地上と地下。一斉侵攻故に同時に対処せねばならず、この地下防衛線は決死隊が出撃する場所でもある。
故にアルテミアは木材や土嚢袋を積み、簡易的なバリケードを後方に設置していた。
酸で簡単に溶かされるとはいえ、溶けるまでの僅かな隙があれば後衛の後退や被害は多少抑えられるかもしれない。
やれるべきことはやる。それが勝利に繋がると、そうアルテミアは分かっていた。
(懸念点があるとするなら、サンゴさんの存在。仮に生きているとするなら、楽観視は出来ない何らかのアクションはしてくるかもしれないわ)
サンゴ。未だに行方不明のその少女のことをアルテミアは思うが……一体何処にいるのか、未だに手がかりすらつかめてはいない。
そしてサルヴェナーズはアダマンアントティターンを警戒していた。
通常よりも巨大な個体であるアダマンアントはこちらの防衛線を突き破るだけの突破力を有しているだろう。
だからこそアダマンアントティターンが現れた場合は、サルヴェナーズは最優先で対応をするつもりだった。
(あの巨体を後ろに行かせては、被害は避けられないでしょうから)
なんとか止める為の手段を講じて、それでも駄目であれば組み付いてでも動きを止めて、他のメンバーがアダマンアントティターンを倒す時間を稼ぐつもりだった。
無論、そんな状況に追い込まれる前にどうにか出来るのが理想ではあったが……最悪の可能性を考えておけば慌てずに済む。
そしてその為にも全員が様々な手段を講じていた。
「私は【稀久理媛神の使い】を賜ってるから、ファミリアを4体扱えるのだわ」
そう仲間に伝える『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が今回用意したのは4羽の鴉だ。
事前に作戦区域の中で均等に配置して全域の状況を把握できるようにしておくのを目的としており、瑞稀自身が使うのは勿論、3人娘含め必要に応じて仲間と共有できるようにするつもりだった。
そう、瑞稀は仲間を支援する時は、自分自身が前に立って攻撃のターゲットになる事で被害を分散するべきだとすら思っていた。
戦線を維持する為皆をサポートして回ることが、この地下絶対防衛線を守る助けになる。それが分かっているからだ。
そして……地下通路から響いてくる地響きは、侵攻開始の合図。
この絶対防衛線を維持し、決死隊が通り抜けていく隙をも作らなければならない。
「絶対防衛戦線の事は宜しく頼む。万が一がないとも限らない、それは俺達も本意ではないからな」
だからこそ決死隊の1人である『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は静李や『鉄心竜』黒鉄・奏音(p3n000248)にそう声をかける。
今回は大規模な戦いだ、何らかの要素一つで戦況が引っ繰り返る事だってあるだろう、油断は出来ない。
ベネディクト自身、それはよくわかっていた。
「互いの無事を祈る。戻ったら、また皆の元気な姿を見せてくれると嬉しいが」
「あなたも。無事を願っている」
「だね! この戦い、ハッピーで終わらせないとね!」
「わたしも行くね。特攻して生きて帰ってくるために」
そして奏音に、『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)もそう覚悟を告げる。
それは、ココロ自身が望む結果の為に。それを望むから。
だからこそ、ココロは【蟲殺】の一員としての決死隊への参加を決意したのだ。
「奏音さん、今回はスタンプたくさん用意していてね。1枚じゃ足りないから」
「あははっ! そしたらスタンプじゃなくてお祝いにしよっか! 凄いのやろうね!」
それはココロがしっかりと帰ってくる前提の言葉。「頑張れ」ではない、確かな応援の形。
そんな応援を受けて、ココロとベネディクトは決死隊の仲間のところへと走っていく。
「なーーーーはっはっは! アリどもめ、勝負をかけてきおったか。良いじゃろ良いじゃろ、この一条夢心地、逃げも隠れもせぬ。真っ向から迎え撃ってやるわ」
『殿』一条 夢心地(p3p008344)の声が響き、東村山を引き抜く。
(取り違えてはならぬのが、必ずしもアリを全滅させる必要はない、ということじゃな。女王に向かった者達が事を成し遂げる迄、いかに凌ぎ切るか。一匹たりとも抜かせぬことだけ考えておれば良い)
とにかくまずは突出した個体から斬っていく。そう考え、夢心地は戦場へと躍り出ていく。
「また結果の如何を問わず、三人娘に万が一のことがあっては最早作戦失敗じゃからな。ここは殿的存在感の見せ所よ。斬って斬って斬って斬って斬って。倒れる時は前のめりじゃ。はっは、女王の指示に従い、突っ込んできたに過ぎぬモノたちが────この防衛線を、ただの一歩でも通り抜けられるとでも思ったか!」
夢心地の勇猛なる姿を見ながら、『からくり憂戯』ラムダ・アイリス(p3p008609)は考える。
(はてさて、どう攻めたものか…見た目があんなだし……昆虫型の戦い方なんてあまり役に立ちそうにないね……取り敢えず斬り刻んでから検討しようか……そうだね、大型だし重量もあるだろうからセオリー通り脚をつぶすところから始めようか……)
まるで鉄帝や練達のプレスマシンをも思わせるアダマンアントティターンの脚だが、やってやれないことはないだろう。
「此処がボーダーライン……後ろにはウェスタがあるんだ。通すわけにはいけないね? 起きろ無明世界! 華散らせ彼岸花!」
魔導機刃『無明世界』を手に持ち走りながらも、アイリスは思考を止めはしない。
(ひとまずは落ち着いてきてたって聞いていたけど此処でまさかの大攻勢とはね……自暴自棄? 勝算の目途がたった? それとも、クイーン自ら動いても良い状況になった? まぁ、推測はこれぐらいにして目の前の此れをどうにかしないといけないか……)
そう、アダマンアントティターンはアダマンアントの堅牢さを更に増し、巨大化した……まさに蹂躙の為にあるような個体だ。
恐らく侵攻という場面において、これほど向いた戦闘種は別ベクトルからの侵略性を高めたドラグーンくらいのものだろう。
「クカカカッ……我よりもデカイな」
その巨大さに、『復讐の炎』ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)も思わずそう笑ってしまう。
ギフト『化ケ之皮』を解除し、顔の皮裂き本来の姿で戦いに臨むロックは先頭に立つアダマンアントたちの間を駆け抜け、アダマンアントティターンへと向かっていく。
「一番槍、頂く」
バーストニトロを付与し走るロックは骸槍『狂骨』を振るいデッドリースカイをアダマンアントティターンへと叩き込む。
だが、即座にアダマンアントティターンはロックを踏み潰すように蹂躙機動を開始する。
その凄まじい暴威に暴狼としての自分を刺激されながらもロックは未だ残った冷静な思考をフル稼働させる。
(周囲のアダマンアントもどうにかせねばならんだろうが此処の頭をどうにかしなければ統率が崩れることはないだろう……)
言ってみれば現場指揮官のようなもの。なんとしてでも此処で仕留めなければならない。
「此処は通さん……貴様ら蟻共の野望も此処で打ち止めだ」
宣言と共にロックはティターンの前に立ち塞がって。しかしアダマンアントの侵攻がそれで止むわけではない。
「少しでも多くの敵を引き付けましょう……!」
サルヴェナーズのイブリースの囁きが響き渡り、少しでも長く持ちこたえられるように立ち回る。
(私が長く持ちこたえれば、それだけ皆さんの戦いが楽になるでしょうから)
そして持ちこたえることは、先程駆け抜けていった決死隊の有利にもつながる。
此処が落ちればアダマンアントはウェスタになだれ込み、数を爆発的に増やしフリアノンへ……そしてラサへ攻め込むだろう。
それを許すつもりは、サルヴェナーズにはない。
「わらわこそは、名高きアルハットの裔にして最新の世界守護者、アルハ・オーグ・アルハットである! ウェスタの地を侵さんとする獣よ、わらわの輝きを目にして退くなら良し。さもなくば……死してこの地の糧となること、覚悟せよ!」
『名高きアルハットの裔』アルハ・オーグ・アルハット(p3p010355)も叫び魔砲を放つ。
始まりの赤による底上げを受けた魔砲を受けたアダマンアントはダメージを受けながらもそこに健在であり、アルハは「分かってはいたが、よもや此処までの……!」と僅かな畏怖の声をあげる。
硬い。タフ。ただそれだけのことが、これほどまでに威圧感を与えてくる。
しかし、切り札もある。導きの輝石に触れながら、アルハは精一杯の声を張り上げる。
「まだまだここから……! わらわの全火力を以て貢献しよう!」
「そう、ここからだ」
聞こえるアルハの声に、ジン(p3p010382)はそう頷く。
「ここに至り、敵の思惑が何であるかは関係が無い。ただ、護り切るのみ」
ジンの手にあるのは鏡花水月。
「招かれざる客人達よ、去るがいい。ここより先は亜竜集落ウェスタ、お前たちにその門戸は開かれていない。それでも足を踏み入れんとするならば、死を覚悟して来るがいい」
アダマンアントティターンの抑え、通常のアダマンアントへの対処。
どちらも手が足りておらず、戦力差では完全に不利。
(ティターンを早く仕留めれば仕留める程楽になるのは間違いないが、それは手段の範疇だ。目的を違えてはならない。重要な事は、蟻を一匹も通さず抑えきること。通常の蟻の抑えが足りないようならば、ティターンに加えてそちらも数匹引き付けよう。無理を通して道理が引っ込むのならば、望む所。己の危機など安いものだ)
ジンはアトラスの守護を受けている。それはある意味で保険だが……俺一人が倒れても、多くの仲間を守れるならと、そう考えている。
しかし同時にジンは思うのだ。
クイーン打倒は決死隊次第。
正直、心配は尽きないが、一方で確信のようなものも持っている。
絶海を越えし勇者たちならば、この程度やってのけるはずだ、と。
そう、そして此処にいる仲間だって頼りになる者ばかりだ。
「オーホッホッホ! まさか亜竜集落ウェスタに赴いたらこの様な一大事に巻き込まれるとは……これも姫の宿命かしら?」
叫び拳を振るう『姫拳』劉・麗姫(p3p010422)も、その1人だ。
「ですが、相手は悪名高きアダマンアント。ならば、ここで引くことなど出来る筈もなし。何より罪なき人々を見捨てるなど言語道断!姫の辞書に「逃げる」なんて言葉はありませんわ!」
どれだけ硬かろうと、いつか届く。そんな信念と共に振るわれる姫の拳は、確かな威力をもってアダマンアントに叩き込まれる。
まあ、姫ビームに姫パンチ……つけた名前はともかく、威力は抜群だ。
「私が姫である限り! 蟻さん達はデストロイ! しますわよ! さあさあ! 皆様行きますわよ! さあ、蟻さん達! 姫が悉くぶっ倒してやりますわ~~~!!!」
まさに絶好調といった麗姫から少し離れた場所では、『不死身の朱雀レッド』朱雀院・美南(p3p010615)が決死の覚悟をもって挑んでいた。
「幸か不幸か…憎き蟻共との最終決戦に参戦出来るなんて僕も運がいい!」
美南は、実は故郷をアダマンアントに滅ぼされている。まあ、今回のアダマンアントと同じ巣であるかは分からない。
だが、アダマンアントであれば同じことだと美南は思う。
「大勢の罪なき人達を護る為……この身を捧げようじゃないか! さあ、覚悟するがいい、蟻共! ここから先はこの「不死身の朱雀レッド」が相手さ☆ 一匹として通れると思わない事だね!」
盾役として振舞う美南の不死鳥☆彡アタックは自爆アタックだが……まあ、本人が元気なら構わないだろう。
「うおおおお! あっちぃぃぃ!!!」
そんな叫び声をあげながらも元気な美南は、アダマンアントへと叫ぶ。
「フハハハ! 僕こそが悪の秘密結社「シュヴァルツァーミトス」が所属、怪人「不死身の朱雀レッド」さ! さあ、愚かな蟻共に悪の鉄槌を!」
そんな元気な美南をチラリと見て、ティスルは僅かに微笑む。その姿勢はある種見習うべきものがあると……そう思ったのだ。
「どんなに硬くても、衝突の衝撃までは消しきれないはず。何度だってぶつかってやるから。それに。1体も通せないなら、1体ずつ仕留める戦い方も効果あるでしょ?」
メルクリウス・ブランド、メルクリウス・ブラスト。2つの武器を手に、ティスルティルは笑う。
「どんなに硬くても……生物なら倒せるものね?」
そう、死なない生き物は居ない。
それはイレギュラーズにもアダマンアントにも、どちらにも適用される唯一無二の法則だ。
ならば……ティスルティルの言う通り倒せる。
一体でも多くのアダマンアントを仕留める。それがこの地下防衛線を守り切る、最良の方法なのだ。
●決死隊の死闘
地上絶対防衛線。
地下絶対防衛線。
ウェスタを守る2つの絶対防衛線が耐えている間……そして地下絶対防衛線のメンバーが戦っている混乱の隙をつき、決死隊のメンバーは戦場を走り抜けていた。
(……大侵攻の理由、大規模に餌を集め始めた理由がまだ分かっていない。間違いなくまだ何かがあり、今回のこの動きもその一端……だとは思うけれど好機なのも事実、そして退く事の出来ない局面なのも事実。逆撃にて本陣を突き、必ずやアダマンアントクイーンを討ち果たしましょう。後の事を考えるのは、それからです)
『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は思考を巡らせ、すぐに打ち切る。
それは思考の切り替えであり、余計な思考を巡らせていては勝てないという合理的判断からであった。
ウェスタからフリアノンへと続く道を押さえたアダマンアントたちの先にアダマンアントクイーンがいる。
そう、アダマンアントクイーン。
亜竜集落イルナークを滅ぼしたアダマンアントの『1つの巣』の女王にして、確認されている限りでは覇竜最大の規模と凶暴性を持つアダマンアントの群れ。
ついに大勢の前に現したその姿は威厳と荘厳さすら併せ持つ、生まれながらの女王そのものだった。
此処に辿り着く為には可能な限り、戦場の突破を敢行する上での被害は減らすべき。それはリースリットに限らず、誰もに共通した考えだっただろう。
(ある意味幸いなのは、今回は敵の方こそが進軍する側であると言う事。タイミングを計って私達突破部隊が突入を敢行すれば、敵侵攻部隊の動きを乱す事で友軍迎撃部隊の戦いを有利にもできる筈。可能なら迂回して突破できれば良いですが、無理ならば戦線の薄い箇所を食い破って往く他ありません。そういう作戦でしたが……)
事実、戦いの隙を突き地下絶対防衛線における戦いの隙を突き、戦場をリースリットたちは突っ切ってきた。
だからこそリースリットたちはこの場に……アダマンアントクイーンの居る場所へと辿り着いた。
しかし、辿り着いてみればアダマンアントクイーンは侵攻に加わっているアダマンアントティターンを超える難敵であることが明らかになる。
こんなものがいれば戦いが終わるはずもない。そう納得させる、そんな威容であった。
「散々撃退してきたのに、あの大きいアリ倒しても倒してもキリがないよお!」
「向こうも自分で出なきゃならないぐらいには追い詰められてるハズでして! いつもいつもいつも反省も何もせずに成果のほぼ無い襲撃を繰り返して、お互いに意味のないこんな不毛な争いはここで終わらせるのですよ!」
どうなってるの、と少しばかりの弱音を言う『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)を『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は鼓舞すると……そのままルシアは魔砲が放ち、その先のアダマンアントクイーンを見据える。
「前にいる味方が女王の下に進むための道は、ルシアが切り拓くのでして!」
「ああ、任せた!」
ベネディクトが叫び、【黒狼】の仲間達へと呼びかける。
「今一度その姿をこの目に写す事が出来たか、アダマンアントクイーン! あの時は手を出す事も叶わなかったが、今は違う!」
そのベネディクトの姿を、アダマンアントクイーンも見ていた。
知っている。自分のいた場所へと辿り着いた、その姿を。
「幾多の襲撃を乗り越え、漸く俺達は此処まで辿り着いた……ウェスタを守り抜き、そしてクイーンを打ち倒す。皆が住むこの土地を必ず守り抜くぞ!」
「はい!」
「了解致しました。御主人様」
援護はこのリュティスにお任せ下さい、と応える『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)に続きタイムも叫び、寓喩偽典ヤルダバオトをぎゅっと抱きしめる。
(う。ちょっと気持ち悪い……なんて言ってる場合じゃないわね)
アダマンアントクーンのいる場所まで抜ければ、そこにいるのはクイーンと2体の通常種の護衛。
(敵がどんなに強くとも怯んでなんかいられない。命は無駄にしたくないけれど、わたしもすっかり肝が据わってきたみたい。だってお祈りだけじゃ人の命は救えないから)
「戦い抜いて勝つまで、わたし達は止まらない」
「行くぞお前らァ!!!」
『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が自らのギフトたるウォークライを発動させ、殲滅兵団をもってして仲間の補助をする。
準備は幾らしても足りないということはない。そういう相手であり、負けの許されない戦いだ……必ず勝たなければならない。
そう、その為にも。万全の体制をもってして挑まなければならない。
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)たち【蟲殺】の面々はまさに、その万全の体制を作り出すつもりだった。
「消耗戦になる前に決戦に出る戦略眼、それが可能な戦力の蓄積。女王の生存戦略は正しいと言わざるをえない。だから――私たちは首を狙って特攻するハメになる。刈り取るわ」
神がそれを望まれる、と。そう宣言しイーリンは紅い依代の剣・果薙を掲げる。
「ズバット惨状ズバッと解決! 人呼んでワタリのキャット!」
負傷者を離脱させる役目のヘイリンがそう叫び「え、イーリンからツッコミが来ないニャン?」と寂しそうにしているが……まあ、余裕がないだけだろう。たぶん。
「ココロ、ジュート! 無限陣を張るわよ!」
「ええ!」
「ああ!」
『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)とココロもそう応え、無限陣と名付けた回復供給陣の体制をとる。
「笑えてきちまうよな。最初はアダマンアントが危険だからって、会わないように巣穴を調査するところから始めてさ、気付けば大将戦だ。足が震えたって立ち止まるかよ、俺は幸運の亜竜種なんだぜ!」
「強き者は戦う相手に強き者を求める習性があります。だから、みなさんがクイーンを目指すのは当然の事。そんなみなさんを支えたい。たとえ大怪我しても元気でいて、笑ってほしい。それは、わたしがそれを望むから」
奇襲は不可能。こんな決死隊で挑むしか方法はない。
「ジュートさんが命を賭けて戦うなら、私も何か、出来る事をお手伝いしたいと思います。だって彼は、私の大切な名付け親さんなんですから!」
『希望の軽空母』ケイク=ピースメイカーもそう声をあげ、攻撃の準備が整っていく。
1度戦場を抜けて此処に辿り着きさえすれば、多少ではあるがその余裕もある。彼等は、1人ではないのだから。
「ついに来たですよ。アダマンアントクイーン。長きに渡ったアリ退治も今日でおしまいにするですよ。司書殿の言うように、女王の生存戦略は正しいですよ。だからこそ、その頭かち割るですよ。TypeSinブースター最大解放! リフルクロス展開!」
『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)はジュートと協力して過去のアダマンアント関連の依頼でマッピングした巣穴の地図や習性を共有し、どういう風に動くか考えながら黒狼隊と挟み撃ちにするようにクイーンの後ろに回ろうとしていた。それ自体は地下である上にアダマンアントクイーンが岩壁を背にしている為に出来なかったが……アダマンアントの基本行動パターンは頭にインプットできているはずだ。
神鳴神威を放ち、無限陣から離れないように位置を調整しながらブランシュは動く。
とにかく回復を任せつつ、最大最速の火力を叩きつける。それが【蟲殺】というチームにおけるブランシュの基本戦術だ。
「地底に帰りやがれ! ですよ!」
そんな過激な台詞を吐きながらも、ブランシュは常にクールだ。この戦いは、冷静さを失って勝てるものではない。
それをブランシュはよく理解できているのだ。
「長かったアリさんとの戦いもこれが最後! わたしたちが負けちゃったらウェスタは大変なことになっちゃう……なら頑張るしかないよね! いよーし、ユウェルいっきまーす!」
『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)はそう叫び、アダマンアントクイーンを真っすぐ狙いに行く。
「あなたたちも生きたいだけなのかもしれない。でもわたしたちだってここで生きてるんだ!」
その言葉へアダマンアントクイーンは答えず、しかしユウェルには関係ない。
これは問いかけではない。ユウェル・ベルクという個人の表明であり宣言なのだから。
「これはただの討伐依頼じゃなくてわたしたち亜竜種にとっては生存競争なんだ。ずっとずっと続けてきたどっちが強くてどっちが生き残るかを賭けた戦い……だからいつも以上に負けられないの!」
爆速啾鬼四郎片喰を振るい、ユウェルはドリームシアターで作った分身を囮に飛行しながらアダマンアントクイーンへと迫る。
「クイーン、これが最後の戦いだよ!」
今回ばっかりはせんぱいたちに頼っていられない……そんな思いが、知らず知らずのうちにユウェルの武器持つ手に力を籠める。
放つは猪鹿蝶。当てた感触は……「強い」、だった。
反撃のように放たれた女王電波はとんでもない範囲で広がっていき、真正面にいたユウェルも脳をかき回されるような痛みにふらつく。
「諦めるもんか! やっと外の世界のことを知って、わたしたちの世界が広がったんだ。だからこんなとこで負けてなんていられない! 明日もそのまた明日もその先もわたしたちはずーっとここで生きていくんだ! ここは! わたしたちの場所だ!!!」
「その通りですよー! さあ、そこのけそこのけ、リカちゃんのお通りですよ!」
「こげねこメイドのクーア・ミューゼル、仮令退かなかろうが罷り通るのです!」
ユウェルをサポートするように『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)と『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)が躍り出る。
利香のテンプテーション、そしてクーアの逆さ雷桜【一重咲】。叩き込まれる攻撃は、アダマンアントクイーンに自分達を意識させるには充分すぎた。
「怪電波如きで、私の火の手を抑えられるなどと思わないことなのです!」
「こちとら種族柄精神攻撃には慣れてるんです、クーア、このまま行きますよ!」
そんなクーアの挑発じみた台詞も飛ぶが、実際2人の役目は「それ」であった。
「ああ、うんざりするくらいの敵、敵、敵……こいつがアリじゃなくて例のアレじゃないのが幸いですが。クーア、調子は大丈夫ですか?金属ならバリッとしとくんでそうじゃなかったら思いっきり焼いちゃってくださいねー、どっちも通らないなんてないでしょうしねー。じゃ、やっちゃいますか!」
幸いにもアダマンアントはアダマンゴッキーではないが……それはそれで別の地獄だっただろうか。
「覇「竜」だというのにアリばっかり、などと思っていたらとうとう竜っぽいアリまで出て来やがったのです……アレが黒光りするアレじゃなくて本当に良かったのです。主に利香の精神衛生的な意味で。ともあれ、ようやく女王にまで手が届くようになったのは不幸中の幸い。我が紅蓮と利香の雷で一気呵成に滅ぼすのです!」
2人の戦法……コンビならではの動きはこれ以上ないくらいに熟練していて。さながら2人を合わせて鉄壁というところだろうか?
「……ついに表に出てきたねっ。というか予想通り本当に来たねっ。やられて終わりにする気がしなかったもん。こっちだって立て直しに時間必要だしねっ。……まぁ、でもそれなら話は早いや、ぶっ倒す!」
リトル・ライを伴った『自在の名手』リトル・リリー(p3p000955)のリトル・スタンピードが炸裂し、ライがデータを取るべく観察する。この場でソレが役に立つことはないが……いずれ似たような事件が起きた時、役に立つだろうか。
今日の戦い「だけ」で終わらない。それはリリーの確かな戦術だ。
「相手が頭使ってくるなら、リリー達だって頭を使うんだけっ! もうリリーはただの馬鹿でも、甘えるだけの小人じゃないもん!
……でも油断はできないよねっ、前のや他の蟻達とは違うもん、気は抜いちゃダメ。落ち着いて行こうっ……とはいえ、容赦はなし。多分他にもクイーンはいるだろうけど、まずはこのクイーンだけでも……仕留めに行く覚悟で行くよっ!」
そう、今もこの瞬間、何処かの巣にアダマンアントクイーンがいるかもしれない。
しれない、が……今はそれを考えても仕方がない。種としてのアダマンアントを殲滅することが不可能な以上、こうして害為すアダマンアントを倒すのが限界なのだから。
だがその限界の中で、必死に戦うことは無駄なんかではない。
(こいつをやれば一件落着のはずだよな……多分)
『竜剣』シラス(p3p004421)は拳を振るいながら、そんなことを考える。
アダマンアントクイーン。幾度も攻撃を受けて尚揺らがぬ巨体は、この一連のアダマンアント事件のボスに相応しい。
過去の覇竜の歴史をみても、アダマンアントクイーンこそがアダマンアントの首領であり頭脳だ。
それは間違いない。だというのに、一抹の不安がシラスの中にはある。
(何かを見落としてるような胸騒ぎがするけれど今はいい。この死闘……迷いを抱えて戦えるような甘い状況じゃあない。一瞬が生死を分かつことを肝に銘じなきゃな)
アダマンアントの護衛も2体ではあるが、その2体も決して油断できる相手ではない。
もしそれ以上の護衛を置いていたら……決死隊の勝ち筋は薄くなっていただろう。
だからこそ此処で絶対にきめなければならず……それ以上を考えている余裕はない。
シラスはアダマンアントクイーンの巨体を意識し、こまめにポジションを変えて背後や横を突き、あわよくば滑り込んで下側から打ち抜く戦法をとっていた。
(蟻の外骨格は強靭だが均一じゃあない。何より奴らは本来は自分よりデカい敵と戦うように作られている。小さな相手が腹に潜り込んで来たり骨格の隙間を突いてくるような攻撃には対応しにくいはずなんだ)
その弱点をどうにかする手段を持っているアダマンアントもいる。
アダマンアントクイーンの女王電波などは、その代表格だろう。あの頭の中身をかき回すような痛みは、慣れるものではない。
「デカくなり過ぎたんだよ、テメーらは!」
叫ぶシラスは、恐れずアダマンアントクイーンへと立ち向かう。その強さを、その身に刻んでも変わらないままに。
「よもや、向こうから前線に出てくるとは。アリ共とはさんざんやり合ったが、ここで女王を狩る」
『黒竜翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)もまた【黒狼】や【蟲殺】の面々、そしてクーアや利香、ルシアたちと連携するように、そして波状攻撃になるように動いていた。
言ってみれば主攻となる【黒狼】や【蟲殺】の合間を縫う刺客の動きを取っているのだ。
撃ち込む破式魔砲は、一射撃ったら射角を移動する……基本的にこの動きを繰り返す。
他の地下生物が乱入してこないか、アダマンアントの増援は居るのか……気にするべきことは山のようにあるが、ひとまずその気配はレイヴンには感じられなかった。
幾度となく放たれる女王電波はレイヴンに耐えがたいダメージを与えてくるが……仲間の援護によってなんとかやれている。
「討ち漏らしは似合わん隊でさあ、ちゃんとこうして巡り合えるワケ」
『イケるか?イケるな!イクぞぉーッ!』コラバポス 夏子(p3p000808)はシリウスを構えグロリアスを振るいながら、そんなことを呟く。
討ち漏らし。それは実に面白い言葉だろう。攻めるのは自分達だと、そう宣言しているかのようだ。
「ピンチはチャンスとは良く言ったモンで、ここキチっとやりゃあ一気に捲れる~。油断とか慎重とかそんな感情無いだろうけど。ま これも自然淘汰なんでご了承」
危機的状況の女性はチームとか関係なくどんな時でもかばう。そんな夏子は「そうするだろう」と予測していたタイムに「あとで沢山ご褒美あげちゃうから頑張って耐えて!」などと応援されていたが……ならばこそ、更に気合を入れる。それが夏子だ。
「やっぱ女性に回復貰えると嬉しいね え? ご褒美? ソレはまた…… ぐふふ お楽しみが増えましたじゃ~ん」
多分凄い褒美が待ってるハズなので今日は特に頑張れますなぁ~、などと緊張感のないことを言う夏子だが、その動きは真面目そのものだ。
「しかしすげーラッキーだよな。懸念事項がわざわざやってきて我々が現着して解決すんだからさ」
夏子の相手はアダマンアントクイーンではなく通常のアダマンアントだ。
それは夏子なりのこだわりがあるわけだが……。
「女王狙いは残念だけど譲ってんのよ…… いや別に嫌じゃないのよ? 君らの相手 女性でしょ兵隊蟻も」
本当にそうだろうか。アリは基本的に全て女性だというから、その法則に従えばそうなのかもしれないが……アダマンアントにその法則が適用されているかどうかは不明だ。まあ、夏子がその方がやる気が出るのであればそれでいいのかもしれない。真実はどうであれ。
「アリたちとも長い間の付き合いだったけれど佳境に入って来たって感じがするね!どっちが強い種族なのかハッキリさせようじゃないか!」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は叫び、アダマンアントクイーンへと向かっていく。
護衛である他のアダマンアントは他のメンバーに任せ、アダマンアントクイーンを「削る」のがイグナートの狙いであり……だからこそ、他には目もくれない。
「やっと集落のミンナとも仲良くなれてきたところだからね! 絶対に守り抜いて見せるさ!」
覇竜トライアルから始まった「仲良くなる」為の試みは順調に進み、イグナートには確かな手ごたえを感じられていた。
今日この日、ウェスタに来ていたのも偶然ではあったが、それをイグナートは幸運と思いこそすれ不運などとは思わなかった。
此処に……ウェスタにいたからこそ、この守るための戦いに参加できたのだから。
「まずは感覚器官をぶっ壊してやるよ! ついでに頭もカチ割って行こうか!!」
頭部の触角が感覚器官であるかは普通のアリとは違うので定かではないが……まずはそれ、とイグナートは決めていた。
ジェットパックの簡易飛行を補助にしつつ、頭部の触覚を狙って攻撃を仕掛けていくイグナートにも当然のように女王電波が降り注ぐが……だからといって心折れるつもりは、一切ない。
「覇竜集落の滅び、他の国への侵攻、そんな展開を黙って見ているだけというのはできなかったの」
胡桃のこやんぱんちがアダマンアントクイーンへと繰り出され、呼びかけるように胡桃は語る。
「種の繁栄、生存本能を否定する気はないの。ただ、お互いのそれがぶつかりあった結果があっただけなので。最後まで抗うというのなら。来るといいの。相手になるの」
当然、答えは期待していない。崩れないバベルの大原則をもってしてもアダマンアントとの会話はなされていない。
それはつまり、アダマンアントに言語が存在しないという証明でもあるかのように思えたからだ。
だが……アダマンアントクイーンは女王電波を放ちながら、その口から言語らしきものを垂れ流す。
「……その肉。さぞかし良い戦闘種を産みだすだろう。その命、その肉。捧げる事を許そう」
「コャー。こっちの話を聞く気が見えないの」
どうやらアダマンアントクイーンは会話が出来るらしい。
だが残念なことに、アダマンアントクイーンに「会話する気」がない。
たとえ崩れないバベルの大原則をもってしても、会話する気のない相手と会話を成立させることはできない。
言ってみれば練達のラジオ相手に喋っているのと何ら変わりない。
ならば対話する意味はない、と『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は切り捨てる。
いや、元々そんな余地はなかったのだろう。相手はこちらを捕食せんとする生き物だ。
「調子に乗ってここまで来たのが運の尽きだ。故に思い知れ。貴様等が呼び込んでしまったのは、決して獲物などではない」
だからこそ、汰磨羈はそう宣言する。
答えなど、あってもなくてもいい。もうそういう次元は過ぎ去ったからだ。
「怒り、学び、そして排除する力を持つ、この世で最も強固な縄張りを形成する種族――人類という名の、『天敵』だ」
構える妖刀『絹剥ぎ餓慈郎』の切っ先に、迷いはない。
旺霊圏・綴爻発卦 招幸楔は卦を以って悪しき気運を剪定する事で流れを好転させていくが、その行く先にアダマンアントは居ないだろう。
アダマンアントクイーンをしっかりと見据え動きながら、汰磨羈は思い返す。
「これで、クイーンとやり合うのは二度目だな。こんな所まで来たところを見るに、前に与した個体よりも攻撃的な性質を持つ可能性はあるが……どちらにせよ、やる事は変わらん」
そう、やるべきことは変わらない。どのような道を辿ろうと、結局はそうなったのだ。
だからこそ、これもまた宣言でしかない。
「貴様が生きた災厄である以上。私には、貴様を屠る義務がある――!」
答えなど、聞いていない。
そしてディアナもまた傾国を振るいながら自らの意志と立ち位置を思い返す。
「私は黒狼の人間じゃないけれど、どうせ狙うなら大物をとここにお邪魔したわ。いまひととき、ここに集う狼と力を合わせましょう」
そう、だからこそディアナは此処にいる。だからこそ……アダマンアントクイーンを前に、臆するつもりはない。
「幸か不幸か、あんた達に対応したおかげで多少なりとも実戦経験が積めたのよね。全力で行くわよ!」
放つはダークムーン。その手に輝く闇の月は敵のみを暗い運命で照らすべく輝いて。
「アンタたちの目的なんてどうでもいいの。この地に生きている人たちがいる。あんたたちの侵攻で彼らの命が、生活が奪われるのなら、私はそれをよしとしない。それだけよ」
ディアナは思う。
私は貴族の生まれ。
末娘とて、領民の幸せを願う気持ちはお父様やお兄様お姉さまたちと同じ。
そして、その思いは領地だけには留まらず。
だから。だからこそ。
「これが一方的な蹂躙であろうと、生きるための侵攻であろうと。命を脅かすものは、脅かされる側に立つことも承知の上なんでしょう?ねぇ。クイーンさん?」
たとえ此方に返事がなくとも語りかけながら、手が出せる限り手を出すことをディアナは誓う。
「私は消して折れない」と、たとえ傷つこうと、衣装がボロボロになることすら厭いはしないだろう。
アダマンアントクイーンをここで打ち倒す。それだけのために。
「朱華の―……煉家の流儀は『やられたらやり返す』。礼を尽くされると礼を返す。尊敬に値する者には敬意を払う。そして、害意には害意を。悪意には悪意を返す。―さぁ、煉家の流儀を魅せてやりましょう?」
朱華もまた、ディアナ同様に【黒狼】の面々に同行している1人だ。
敵がどれだけ強力であったとしても、彼らとなら乗り越えられる。そう思わせてくれるんだもの……とは朱華の言葉だが。
今まさに目の前にいるアダマンアントクイーンの威容はそれまで出会ったアダマンアントよりも更に強く、強大で。
これだけの攻撃を受けて尚怯まぬその姿は、まさに女王に相応しい。
女王電波によるダメージを受けながら、朱華は歯を食いしばる。
「―その威容、流石は女王って言ったところかしら。けどね、そんなもので引き下がるわけにはいかないのよ」
そう、引き下がるという選択肢は朱華にも……誰にもない。
此処から一歩だって引くつもりはないのだ。
「弱肉強食は世の常。それに、此処は覇竜領域デザストル。他と違って尚更その傾向が強いって言えるでしょう。それでも朱華達は必死になって生きてきた。生きて、繋いで、可能性に手を伸ばして―……それで……それで……」
握るは灼炎の剱。自らの支配する属性を炎の剣という形で顕現させた象徴兵装。
「先に手を出したのは貴方達よ? ―恨み言なんて言わせない。聞きたくもない。ケリをつけるわ。今日、此処でっ!」
放つは灼炎剣・烈火。焼き尽くさんという勢いで放つそれは、確実にアダマンアントクイーンを削っていく。
(クイーンが強いからって護衛の数がこれだけって少しおかしい……でも、作戦目的を考えれば……!)
拳を振るい幾度目かの名乗り口上をアダマンアントへとあげながら、花丸は考えを巡らせる。
これまでのアダマンアントの動きは、たとえるならば「勝利できる最低限」を繰り出して来ていた。
それと比較して今回はどうか? 簡単に言うなら「合致しているが合致していない」が答えだ。
今回アダマンアントは最低限の戦力で確実に勝てる……というよりは「確実に勝つ」戦力配置をしている。
アダマンアントクイーンの守りを最低限に……いや、守りを薄くし決死隊が出てくることを予測し、確実にウェスタを磨り潰すことを目的にしているかのような戦力配置だ。
実際、決死隊が失敗、あるいは千日手に陥ればウェスタはアダマンアントに制圧され、結果としてアダマンアントの勝利が確定するだろう。これはそういう戦力配置だ。恐らく作戦も「そう」だろう。
実際、ここまで増援が現れる気配はない。まだ温存しているのでなければ、増援はない。そう考えていいだろう。
ならば、花丸の取るべき手は変わらない。
「皆はあっちに集中して! こっちは私が出来るだけ何とかしてみせるからっ!」
護衛のアダマンアントを可能な限り引き付け、1人でも多くの仲間をアダマンアントクイーン戦に集中できるようにする。
その為なら、花丸は怪我すら厭うことはない。
「誰もやらせない、もう何も奪わせない。私の子の手が届く限り、私が皆を守るんだ!」
「大体な攻勢に出てきたということは相手も余力はないはずです。ここが最終決戦の局面ということでしょうか? 全力でアダマンアントクイーンを打ち倒しましょう」
増援もなく、女王たるアダマンアントクイーンが前に出てきている。
ならばそういうことだろうとリュティスは思う。
そんなリュティスの役割はヒーラーであり、イーリン達が敷いた無限陣ほどの強固なサポートと連携し仲間達の支援を的確に行っていた。
それだけではない。アダマンアントクイーンの動きに注目し、行動パターンや予備動作を探り出そうとしていた。
支援に徹するが故にわかることがあるとは思いますのでクイーンの行動が割り出せた時は、行動前に注意喚起を促そうとしていたのだ。
結果として分かったこととしては……アダマンアントクイーンの女王電波は強力かつ広範囲であり、動く必要すらなく相手を制圧できる……つまりはアダマンアントクイーン自身がアダマンアントという軍勢における1つの砲台であり要塞であるという事実だった。
だからこそアダマンアントクイーンはほぼ動かない。必要がないからだ。だからこそ此方も思うような陣形をとれるわけだが……。
「クイーン自ら指揮しているのは好都合です。戦場における指揮系統最上位者が誰なのか、一目で解ると言う事なのですから――アダマンアントの女王、貴方を此処で討ち果たす!」
リースリットが叫び、花丸の引き付けているアダマンアントをシルフィオンで撃ち抜く。
「こいつらほんっと外殻が硬すぎて嫌になるんすよね~」
無黒がそこにバーストストリームを放ってトドメを刺し、疲れたように声をあげる。
「ただ護衛が2匹だけって…正直敵の数が少な過ぎて、やっぱり気持ち悪いっす……囲まれないように現存勢力外にも足音、振動、壁の崩れとかに気を配ってるっすけど……」
「ええ、増援は出てこない。こちらが勝つと確信する瞬間まで温存しているなら話は別だけど」
「たぶんないっすね」
リースリットとそう頷きあいながら、無黒は残る敵を見据える。
此処で勝たなければ、他での勝利はない。
「ここにいるのは俺だけじゃないっすから、他のイレギュラーズを信じて皆でクイーンも群れも殲滅するっすよ!」
そんなことを叫びながら、無黒は気合を入れ直す。
「装甲ごと!! ぶち破る!!」
ルカの猪鹿蝶がアダマンアントクイーンへと叩き込まれ、アダマンアントクイーンがが防御をしにくいように、かつ纏めて攻撃されねえように立ち回る。
「タイマンじゃあ勝てる相手じゃなかっただろうな。知恵も強さも大したもんだ。それでもチームワークと使命感はこっちの方がちょっとばかし上だったみてえだな!」
叫ぶルカの姿は、自信に満ち溢れている。事実、戦いは厳しいが順調に推移している。
「大丈夫、魔砲少女には痛みなんていつものことなのですよ。それに、一人じゃないから少し耐えれば痛みは取ってもらえるのです……ならば、他のところで頑張ってくれている人たちのためにも引けないのですよ!」
ルシアも叫び破式魔砲を放つ。凄まじい威力の破式魔砲はアダマンアントクイーンに確実にダメージを与え、しかしルシアもまた無傷ではない。
激しい戦いだが……イーリンやリュティスたちによるサポートは継戦能力に影響を及ぼしている。
そんな中、ベネディクトは過去の騒動で行方不明となった者の姿は無いかを確認していた。
この様な場所に姿が見えるとは限らないが、念のため……という程度ではある。
そして事実として、過去の騒動で行方不明となった者の姿はこの場には無かった。
始まりの行方不明者、サンゴも含めて……だ。だからこそ、マトモに答えないかもしれないとは思いつつもベネディクトはアダマンアントクイーンへと「問い」を投げかける。
「お前達……アダマンアントに攫われたがまだ生きている者達の居場所について教える気はあるか?」
当然、それに対する答えはない……あるいは、言葉は通じていても話の通じない答えが返ってくるだろうと誰もが思った。
だがそれでもベネディクトは問いかけた。アダマンアントクイーンであれば確実に知っていると。そう分かるからだ。
「まだ無事な者達も居るかも知れない、或いは残酷な現実が待っているのかも知れないが──俺はそれでも確かめたい。弔いが必要な者も居るだろう、故郷に戻れるなら帰してやりたいんだ」
そんな情の籠った問いも当然、アダマンアントクイーンには届かないだろう。生物として、互いの間にある溝は何よりも深い。
ベネディクト自身もそう考え、答えが返ってくるのを諦めかけて。
しかし、アダマンアントクイーンは「……覚えているぞ、お前を」と。そんな呟きを漏らす。
「お前からの問いならば1つだけ答えてやろう。お前にはその価値がある。だが、その上でこう答えよう……教える気はない」
「……そうか」
「絶望の果てに苦しみ抜くがいい。そしてお前の……お前達の生は、此処で終わる」
それはアダマンアントクイーンからの確実なる殺害宣言なのだろうか。
だが、殺される気は微塵もない。此処にいる決死隊の、誰1人としてだ。
地上で、地下で……そして、此処で。全員が必死に戦い、守り、そして攻める。
「わたしは先頭で戦うお師匠様が見たいの。行ってください!」
そんなココロの声を受けて、イーリンは笑う。
「大将は、先陣を切るものよ」
あくまで余裕をその表情に貼りつけたまま、イーリンは走って。
アダマンアントクイーンの外殻を吹き飛ばさんとする勢いでカリブルヌス・改弐を突き立てる。
「続いて!」
「任せな司書ちゃん、今日は君が幸運の女神サマだ!」
ジュートもまたファントムレイザーをアダマンアントクイーンへと放ち。
「総員突撃! 命令は一つ! 「大将首を地面に叩き落せ」ですよ! さあ、その首置いてけェ!!」
あまりにも物騒過ぎる掛け声と共にブランシュはデッドリースカイを放って。
「弱肉強食は世の摂理。そして、"今回は私達の方が強かった"。それだけの話だよ」
汰磨羈の花劉圏・斬撃烈破『舞刃白桜』が、アダマンアントクイーンへとトドメを刺す。
そうして……今まさに命の火が消えようとするアダマンアントクイーンへと、ルカは近づいていく。
「俺らが勝ったんだ。ちょっとした質問ぐらい答えろよ」
アダマンアントクイーンは答えない。だが、それでもルカは構わずに問いかける。
「お前らの上はどこにいる?」
単独の女王が襲撃に出るだけならあり得ただろう、とルカは語る。
「だが独立してるはずの複数の巣がほぼ同時に襲撃かけるなんて偶然はあり得ねえ」
そう、それは1つの違和感。前回の同時多発襲撃時……アダマンアントクイーンのいる巣とは「別の巣」のアリが混ざっていたのだ。それは、気付こうと思わなければ気付けない、しかし確かな違和感だっただろう。
タイミングを合わせさせる「何か」があった。そう考えるのが当然だった。
「お前ら女王の上……アダマンアントエンプレスとでも言えば良いのか? 女帝がいるってこったろ」
言いながら、ルカは思う。俺は最悪の想像をしてる、と。
「そいつの名前は……『サンゴ』か?」
イルナーク壊滅事件における行方不明の少女の名を、ルカは口にして。
「そこの男にも言ったはずだぞ。何も、答える気はない」
そう言い捨てて、アダマンアントクイーンは事切れる。もう、その口からは何も紡がれることはないだろう。
「……チッ、どうとでもとれる答えだな」
アダマンアントクイーンの知能の高さをこれ程恨むことはないだろうとルカは舌打ちする。
答える気はない。その答えは受け手によって様々な意味に変化する。是とも否とも、それ以外とも解釈できてしまう。
下手に無言や誤魔化し、虚言を言われるよりも余程解釈に悩む答えだった。
だが……聞こえてくる歓声。それは間違いなく仲間達のものであり、どうやら絶対防衛線を襲撃していたアダマンアントたちがアダマンアントクイーンの死により攻撃の意志を喪失したのであろうことを想起させた。
そして聞こえてくる地響き。
「え!? こ、これって!?」
「アダマンアントです!」
驚くタイムに、リュティスがそう叫ぶ。リュティスの言葉通り……此方に向かってアダマンアントたちの群れが地響きをたてながら向かってきているのが見えた。
「ま、まさかこっちに攻撃を!?」
花丸はそんな最悪の想像をしてしまうが……アダマンアントたちは地下通路に空けた穴の中に潜って、そのまま戻ってこなくなってしまう。
まるで狂騒から冷めて素に戻ったかのような、そんな変化。
「これで終わりよね? 次のクィーンがもう生まれてるとかそういうパターンが怖いけれども……ちゃんと制圧ができれば念の為にガサ入れはしておきたいの」
胡桃はそう言いながら……少し考えてコャーと鳴く。アダマンアントによる襲撃の意志が消えたとしても、巣の中に追撃を駆ければ当然反撃はしてくるだろう。
状況を確認すれば、どうやら地上のアダマンアントたちも波が引くように何処かへと逃げ去っていき……文字通りに「統率を失った」かのようである状況であるようだった。
となると……これで全部終わり……なのだろうか?
「しかしまあこんな土臭いところで長々とやったら疲れましたね色々と……ゆっくりお風呂に入ってのんびりしたいですね、卵が体にくっついて……なんて事が無いようにも」
他の班の面々も集まってくる中で練達のホラー映画のラストじみたことを利香は言うが、当然卵がついている者などいない。
あとは、この場所に空いた大穴も塞がなければならないだろうが……まあ、それはどうにでもなるだろう。
「懸念点があるとするなら、サンゴさんの存在。仮に生きているとするなら、楽観視は出来ない何らかのアクションはしてくるかもしれないわ」
アルテミアはルカと同じような懸念を抱き、そう呟く。此処に至るまでサンゴの姿は、やはりなかった。
ならば死んでいる……のだろうか? それを示す証拠も、また存在しない。
だがリースリットはずっと引っかかっていることがあった。戦いの最中では考えている暇のなかったソレを、リースリットは言語化する。
「……それにしても。彼らの知能の高さからして女王が部隊の指揮をするのは兎も角としても、巣を出てきているというのが……とても、気になる」
そう、巣の中にいても良かったはずなのだ。
決戦と位置付けたから出て来た……という考えもあるが、なんとなくスッキリはしない。
「今回のアダマンアントの数、確かに多いけれど……女王が自ら巣を出る程にしては数が少ない印象もある。それに、各地で見かけた上位種も部隊には殆ど見かけなかった」
居たのは新種である「ドラグーン」と「ティターン」のみ。小集落襲撃の際に現れた「新種の戦闘種」は居なかったのだ。
アレで品切れということであればいいのだが……やはり気になってしまう。
「例の女の子の件、集めた餌の件。例えば……新しい女王。或いは、複数の巣を統率し得る存在……?」
やはりリースリットが行きつくのも、そこだ。
アダマンアントクイーンすら超える存在。そんなものが、もし存在するとしたならば。
これほど恐ろしいことはない。リースリットが感じた悪寒は、当然のことではあるだろう。想像するだに背筋が寒くなるような想像だ。想像で済んでくれれば、これほど良いと思える事は無い。
「巣の様子、早急に確認すべきですね」
だが、皆ボロボロだ。今すぐにアダマンアントの巣の奥に潜るのは……正直に言って、無理だろう。
アダマンアントクイーンを超える何かが居ないとしても、死地に向かうのとほぼ変わりはない。
全員に一定の休息が必要なのは確実な状況だった。
そして何より……未だ不安の消えないウェスタの住民を安心させてあげる必要だってあるだろう。
「二度とこのような事が起こらないようにする為に、今後の対策をよく考えるべきだろうな。例え、時間がかかっても」
汰磨羈の呟きに、誰もが頷く。
急進派であるアダマンアントクイーンの撃破。それは間違いなく大戦果であり、これまでの常識に照らし合わせればこれで全て終わり……のはずだ。
しかし解決していないことが多すぎて、誰も「これで終わり」などとは思えない。
たとえ終わりだとしても汰磨羈の言うように、これから解決していくべきことは山のようにある。
「巣に簡単に辿りつけるなら見ておきたかったのですけどね。クイーンが出てきた理由がわかるかもしれないですから」
リュティスもそう呟くが、今すぐには無理であると分かっている。
「それに他のアダマンアントと相対する時に使える情報が残っているかもしれません。戦いにおいては敵を知ることが何より大事なことですからね」
連れ去れた人々の遺体を見つけることが出来るなら、弔うことだって出来る。
それを考えれば、やはりこれで「めでたし」とはいかないのだろう。
だが、それでも……ウェスタの危機を救い世界の危機を乗り越えた英雄たちに、祝福を。
それを受けるに値する50人の英雄たちに、幸福よあれ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
アダマンアントクイーンを倒しました!
これでめでたしめでたし……なのでしょうか?
GMコメント
ようこそ、不運にして幸運なイレギュラーズの皆様。
アダマンアントの牙は、ついにウェスタに届きました。
ウェスタが占拠されればアダマンアントは過去例に見ない程の大軍勢と化し、アダマンアントクイーンの指揮の下にフリアノン、そしてラサに向け侵攻するでしょう。
絶対防衛線を築き迎撃しましょう。1体でも防衛線を抜けるようなことがあれば、それは凄惨な事件へと繋がってしまうでしょう。
そして防衛線で頑張っている間に決死隊は戦場を駆け抜け、アダマンアントクイーンを打ち倒しましょう。
この巣のアダマンアント達の状況は過去の例に照らし合わせればアダマンアントクイーンによるものです。
つまりクイーンさえ倒してしまえば、アダマンアントたちは戦う理由を無くすのです……!
というわけで、今回の役割は3つです。どれかを選びプレイングの最初にご記入ください。
またチームにて行動する方はチーム名もご記載ください。
作戦1:ウェスタ地上絶対防衛線
地上でウェスタへとに繋がる場所に陣取り、アダマンアントを迎撃します。
実際の侵攻までにはほんの少しだけ時間があるので、なんらかの小細工も可能かもしれません。
作戦2:ウェスタ地下絶対防衛線
地下通路からウェスタに繋がる場所(ウェスタ側)に陣取り、アダマンアントを迎撃します。
実際の侵攻までにはほんの少しだけ時間があるので、なんらかの小細工も可能かもしれません。
なお、フリアノン3人娘は何もなければ此処で後方支援にあたっています。
作戦3:アダマンアントクイーン討滅作戦(危険度:大)
ウェスタからの決死隊により戦場を駆け抜け、アダマンアントクイーンを倒しに向かいます。3つの作戦の中で一番危険ですが、この戦いの趨勢を決定づける部隊でもあります。
敵の真っただ中を突き抜ける必要があるので、かなり高い実力を要求されるでしょう。
アダマンアントクーン自身、決してお飾りではありません。
●敵勢力(作戦1)
・アダマンアント×20
嫌になる程硬い巨大アリ。攻撃方法は岩をも溶かす酸を弾丸のように飛ばす技と、強靭な顎による振り回し&叩きつけ攻撃です。
・アダマンアントドラグーン×1
アダマンアントの戦闘種にして上位種、そして新種です。今回の戦いの為に生み出されたようです。
何処となく亜竜……ドレイク種に似ている気がします。
攻撃方法は超範囲のアシッドブレス、そして近・中・遠の3タイプを使い分ける超強力な電撃放射です。
●敵勢力(作戦2)
・アダマンアント×20
嫌になる程硬い巨大アリ。攻撃方法は岩をも溶かす酸を弾丸のように飛ばす技と、強靭な顎による振り回し&叩きつけ攻撃です。
・アダマンアントティターン×1
アダマンアントの戦闘種にして上位種、そして新種です。今回の戦いの為に生み出されたようです。
全長は5mほど、通常のアダマンアントの2.5倍の大きさを誇ります。
攻撃方法は岩をも溶かす酸を弾丸のように飛ばす技と、その巨大な身体で全てを踏み砕く「蹂躙機動」です。
●敵勢力(作戦3)
・アダマンアント×2
嫌になる程硬い巨大アリ。攻撃方法は岩をも溶かす酸を弾丸のように飛ばす技と、強靭な顎による振り回し&叩きつけ攻撃です。
・アダマンアントクイーン×1
アダマンアントの統率者にして女王。アダマンアントの「巣」の方針はアダマンアントクイーンの誕生時に決まると言われています。
全長8m。攻撃方法は敵にダメージと共に混乱・麻痺・魅了効果を与える「女王電波」です。
脳をかき回すような不快な痛みが特徴で、威力もかなりのものであるようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
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