シナリオ詳細
<マジ卍文化祭2021>代わり映えしない日々にお祭りを
オープニング
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そこはまるで――《東京》であった。
再現性東京――それは練達に存在する『適応できなかった者』の過ごす場所だ。
考えても見て欲しい。何の因果か、神の悪戯か。特異運命座標として突然、ファンタジー世界に召喚された者達が居たのだ。スマートフォンに表示された時刻を確認し、タップで目覚ましを止める。テレビから流れるコメンテーターの声を聞きながらぼんやりと食パンを齧って毎日のルーティンを熟すのだ。自動車の走る音を聞きながら、定期券を改札に翳してスマートフォンを操作しながらエスカレーターを昇る。電子音で到着のベルを鳴らした電車に乗り込んで流れる車窓を眺めるだけの毎日。味気ない毎日。それでも、尊かった日常。
突如として、英雄の如くその名を呼ばれ戦うために武器を取らされた者達。彼らは元の世界に戻りたいと懇願した。
それ故に、地球と呼ばれる、それも日本と呼ばれる場所より訪れた者達は練達の中に一つの区画を作った。
再現性東京<アデプト・トーキョー>はその中に様々な街を内包する。世紀末の予言が聞こえる1999街を始めとした時代考証もおざなりな、日本人――それに興味を持った者―――が作った自分たちの故郷。
ならば『故郷を再現するため』『日常を謳歌するため』に『学生として』欠かせないイベントが存在した。
それこそが、学園祭である。
希望ヶ浜学園では例年9月に文化祭を10月に体育祭を行っていた。
そう、昨年度『折角なら盛り上げるために名前を付けよう』と特異運命座標に公募した結果!
紅爆祭、軌跡祭 『Road to glory』、光明祭、みんな大好きフェス!、爆肉舞闘祭、タイガーVDM祭り、銀杏祭、暁光祭、希掲祭などなどの候補を退け、希望ヶ浜学園の文化祭・体育祭は『マジ卍祭り』と名付けられたのだった―――!!!
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「成程、9月26日はマジ卍文化祭だと。なじみさんが先週から『マジ卍祭りなにしようね!』とはしゃいでいたので遂には夜妖<ヨル>が頭にまで……? などと考えたのですが」
「ひどい! なじみさんは普通にお祭りの名前を呼んでいただけだよ!」
拗ねる綾敷 なじみをどうどうと収める澄原 水夜子。希望ヶ浜学園からすると『外部』の人間である二人は珍しくも希望ヶ浜学園の敷地内にやって来た。
白昼堂々、外部の生徒達が遊びに来る事ができるのが学園祭である。
無ヶ丘高校の生徒であるなじみにとっては『学園祭でなければ入れない珍しい場所』であり、私立高校(しかもお嬢様校である!)に通う水夜子にとっても中々入る機会に恵まれない希望ヶ浜学園は今日という日はイベント会場である。
「あ、金券渡しておきましょうか?」
「金券?」
「何ですか、サービスチケットですか?」
好奇心を剥き出したなじみと水夜子に音呂木 ひよのは落ち着きなさいと溜息を吐いた。
幼稚舎から大学まで。そんなマンモス校である希望ヶ浜学園では学園祭の際に『チケット』が配られているそうだ。
学食でも使用可能の『何でも1食引き換えチケット2枚』と『遊戯チケット3枚』の計5枚に加えて友人や家族の来校を申請しておけば3名までは同様のチケットを配ってくれるらしい。勿論、チケットには在校生が名前を記載し悪用されないように気を配るわけだが。
「どうせ来ると思って水夜子さんやなじみの分も申請しました。貴女は食いしん坊ですし足りないかも知れませんが」
「ええ……」
「申請しておけばチケットを貰えるなら、晴陽姉さんの分も申請して引っ張ってこれば良かったですよね。
姉さんの好きそうゆるキャラのパフェも食べることが出来そうですし、お化け屋敷に放り込みたいです」
相も変わらずマイペースな二人の手綱を握っては居られないとひよのは溜息を吐いた。
学生達の出し物は多種多様だ。水夜子が言ったお化け屋敷も在れば漫研による作品展示、着ぐるみ同好会のもふもふ体験etc……。
ステージではバントの演奏が披露され、ミスコンと共にコスプレコンテストまで行われているそうだ。
「このチケットって学食でも使えるの?」
「勿論です。希望ヶ浜学園の学食は美味しいですよ」
楽しみと微笑んだなじみはカリフラワーは嫌いだけど、と小さく呟いた。ワクワクした様子の彼女は体育祭の運動部のレクリエーションに参加するのも楽しそうだと尾を揺らす。
折角の今日だ。お祭りの日はコスプレだと見做されて夜妖憑きであろうと自由に本来の姿を見せられる。
「そういえば、龍成さんは誘わなくって良かったんですか?」
「燈堂さんちと来るでしょうし。私は晴陽姉さんに鬼電をして連れ出すのが仕事だと思っていますから」
にんまりと微笑んだ水夜子は「さあ、お祭りを楽しみましょう!」と微笑んだ。
秋風も吹き始めた希望ヶ浜。日常を追い求めたこの場所は、有り触れた毎日を過ごす事には適している。
代わり映えしない日々に、突拍子もない名前のついたこの文化祭を添えて――
- <マジ卍文化祭2021>代わり映えしない日々にお祭りを完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年10月16日 22時05分
- 参加人数55/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 55 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(55人)
リプレイ
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「うおおおおおおおおおおお!!!! 屋台の甘味は全て制覇してやるっすよおおおおおおおお!!!!」
やる気ばっちりの無黒はチケットを手に行く先のマップを確認していた。
「甘味道は一日にしてならず!!! 有名店だけでなく、その場の雰囲気や風情を一緒に楽しみ、
その場に合った甘味を味わうのもまた甘味道っす!!!! うおおおおおおおお待ってるっすよ『ゆるキャラパフェェェェェェェェ!!!』」
――そう。ゆるきゃらパフェという不思議なパフェが販売されているのだ。
祝音は首を傾いで「猫さんのゆるキャラかな、他の動物さんかな」と地図を辿る。その間にもたこ焼きにちょっぴり心が奪われて。
「ふー、ふーふ……」
あつあつだからふーふーしなければ食べられない。学校のお祭りに屋台はとても楽しくて。パフェの屋台を探しながら散策し続ける。
程良く冷めたたこ焼きは美味しい。辿り着いた屋台には『オリジナルゆるキャラ』や希望ヶ破魔では人気キャラクターの姿が並んでいる。
「可愛い……けど、一部溶ける前においしく食べよう。このゆるキャラさん、何て名前なのかな……?」
店員役の生徒が「それはオリジナルキャラクターのねこまんもすくんです!」と堂々語る。
その様子を穏やかに微笑んでいた長門は「ねこまんもすくん……」とぱちりと瞬いた。
「凄いね。僕の故郷でも、こういった祭事はあったけれど…此処はもっと活気があって、ちょっとだけ変わった出し物が多いみたいだ。
色とりどりの食べ物、処によっては耳を劈くような、あるいは目を瞠るようなチャレンジなんてのも見かけられるのかな。とはいえ、僕は食べ物に目が行ってしまいそうで……」
餡と白玉で可愛らしいねこまんもすくんパフェを食べながら、次は何処に行こうかと周囲を見回して。
程良い甘さで食べやすい。学食チケットのもう一枚は綿菓子を探そうかと見回す長門へと生徒がおまけです、と白玉団子をこっそりとプレゼント。
学生服に身を包んで瑠璃は不思議そうに希望ヶ浜学園を見回った。ある種憧れの地であるその場所で食べ歩きを夢見る彼女に「現金でも大丈夫ですよ」とひよのは食べ歩きの夢を叶えてくださいと微笑んだ。
手打ちうどんをもぐもぐと食べながらゆるキャラパフェでフィニッシュ予定の瑠璃にとっては青天の霹靂。
「成程、チケットを使わずに購入する手ですか。OKなんでしょうか」
「特待生ならなんとかなりますよ。校長に直談判です」
頑張りますよと微笑んだひよのに瑠璃はこくりと頷いた。さて、美味しい料理を食べ歩きに出掛けようでは無いか。
「あ、いたいた! ひよのさん! はい! 本日の未来科学部の活動はー! じゃん! 『マジ卍祭りを遊び尽くす!』これで決まりッスよー!」
にんまり微笑んだイルミナ――その背後には暁が潜んでいることをひよのは知っている。
「あれ? イルミナさん、何時もの彼は?」
「ああ……という訳で! たぶんその辺に暁さんがいると思うので……スゥーッ……暁さーん!!! どこッスかー!!! 屋台回るッスよー!!! ……と、このように呼んでおけば……あ、ほら来たッス」
スッと姿を現した暁は「どうかしたか?」とさも偶然通りかかったような顔をした。ずっと見ていたのに……。
「私はぐるぐると回ってきますからまた落ち合いましょうか」
「そうっスね! なじみさんもさがしてみるッス! ……ま、今日は未来科学部オンリーということで! まずはゆるキャラパフェから、甘い物全制覇ッスよー!」
行くぞと張り切ったイルミナを追いかける暁を見てひよのは思うのだった.彼の淡い恋心に彼女が気付く日は何時訪れるのだろうか――
バンド参加をした昨年を思い出しながら、正純はのんびりと普段着こと巫女服で見て回る。学生達もコスプレ衣装も多い、案外落ち着いて回れそうだと息を吐いた刹那――
「あら? 澄原先生……所在なげに佇まれておりますが、ふむ」
水夜子に無理に誘われてなあなあでやってきたは良いが如何すれば良いのか判別が着かないのだろう。今日は白衣では無く落ち着いた普段着である晴陽は雑踏に紛れ込んでいる。
「ええと、澄原先生でよろしいでしょうか」
「……はい」
不思議そうに瞬く晴陽に正純は嫌な顔をされなかったとほっと胸を撫で下ろした。無を顔面に貼り付けている彼女から僅かな困惑を見て取れる。
「よろしければ一緒に学園を回りませんか? あ、自己紹介がまだでしたね。小金井・正純と申しまして、異国にて巫女をしております。
それで、私も1人ですし、暇つぶしの御相手ができるかなーと。……ほら、ゆるキャラパフェとかいかがです?」
「正純さんですね。澄原……澄原は人数も多いですし晴陽で結構です。それで、ゆるキャラパフェとは?」
興味を抱いた晴陽の瞳に情熱宿された……ような気がしたのだった。
正純の案内でゆるキャラパフェへと辿り着いた晴陽に「晴陽君」と小さく手を振ったのは空理であった。
非常勤講師でとして働いている才蔵は見回りに空理が着いてくるとは思わなかったと肩を竦める。晴陽が戸惑いとゆるキャラへの誘いで正純の隣所在なさげにしているのはなんとも愉快だ。
「空理さん。才蔵さんも。こんにちは、今日は体調は良いのですか?」
「やあ、晴陽君。勿論。『空理』はいつだも元気さ。勿論、ボクもね。今日は『空理』で居るための観察に来たんだ。ついでに、美味しい物でも」
さらさらと言葉を並べ立てる空理は夜妖憑き。つまり、晴陽の患者の一人だ。才蔵に引き取られている『伽藍構造』は日常を謳歌している最中なのだろう。
「随分と面白い顔をしているじゃないか……会いたくない人でもいるのかい?」
晴陽の表情にあからさまに『思い出した』という意味合いのものが宿ったことに正純と才蔵が顔を見合わせた.そんなにも逢いたくないとでも言うのか。
「フフッ……まぁ何であれ今は祭。ヒトは祭りの時は楽しむものだろう? だからキミも楽しみなよ」
フランクに話しかける空理に才蔵は「と、言うわけだ」と切り出した。
「ミス・晴陽、祭りを楽しむとは言えない表情だが……落ち着かないならば何処か落ち着く場所まで案内するさ。
ついでに元気そうに空理として生きている『こいつ』の近況報告と空理が好奇心で頼んだゆるキャラパフェを食ってもらおうかとな。
……俺がこの顔でパフェは似合わんだろう?」
一緒に食べて欲しいと懇願すれば晴陽はゆるキャラパフェを見てほんの僅かに表情を緩め――「しょうがないですね」
全然喜んでいますと言いたげな仕草でスプーンを手にしたのだった。
「飛呂がシェア出来るのはシェアしたら色々食べれるって提案してくれたのにゃ。みんなで分けっこ楽しそうにゃ!」
るんるん気分のちぐさと共に飛呂は「楽しみだ」と再現性東京の文化祭を見回した。彼の故郷だという東京をエドワードは不思議そうに見回して。
「友達の故郷って聞くとなんとなく感慨深いものがあるぜ……
見たこともない建物の作りしてんだなー……別の世界にでも来たみてーだ!」
まるで違った風景がエドワードの気持ちを高揚させる。祭り会場の賑わいも心を躍らせて仕方ない。
はじめての友達にわくわくそわそわとしていたニルは『おともだちは呼び捨てをする』と教わってまだまだ言い慣れないと彼らの名前を呼ぶ。
ラサの祭りでは屋台をやる側。今日は客として見て回るとなれば緊張が溢れ出す。
「いろんな食べ物があるのですね。目移りしてしまいます」
ニルはあまいものでもからいものでも。『おいしい』は分からないけれど、皆が笑って美味しいというならばそれが『おいしい』なのだと理解している。
「僕は『屋台の焼きソバ』食べてみたいにゃ。元の世界でテレビで見たにゃ。お祭りといえば屋台の焼きソバらしいのにゃ!」
「屋台なら屋台らしいの食べたいよな、綿飴とか、チュロスも好きだし食べやすそうかな」
ちぐさと飛呂に「あ、食べたいの被ってたらさ、一緒に分け合いっこしよーな!」とエドワードは微笑んだ。
エドワードとニルは共に祭りに参加したことはある。それでも、参加側であるのは新鮮で。ちぐさは友人と遊ぶことさえ初めてで。
初めてづくしは楽しくて。ちぐさにはぐれるなよと笑ったエドワードにこくこくと一生懸命に頷いて。
「あっ、焼きソバ発見にゃ! みんなで分けるからか美味しさ倍増なのにゃ!」
「あっ! ……追いかけるぞ? ニルはさ、こうやってみんなでご飯食べるのとか好きそうだったから声かけてみたんだけど……どうだ?
ここで食べる食事、美味しかった、か? だといいんだけど、へへ」
「はい。おいしいです」
皆のおいしいが幸せだから。飛呂はエドワードとニルを見遣ってからもっとおいしいをシェアしようかと笑いかけた。
だから、また次も――共に遊びに行こうと約束をして。
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「賑わってるみてえで何よりだが、そうなると羽目を外しすぎる生徒達がいるもんだ。
元気なの何よりだが、やりすぎは禁物……心を鬼にして、しっかり注意していかねえとな」
暁月と共に巡回をする幻介はアーリアのやっているシャッフルカフェまでの巡回経路を辿る。
「と、ウルズ達も来てたのか。つーか、何で制服着てんだ?」
ふと、暁月にとっては何時も真面目そうな表情をしている幻介。だが彼の表情が僅かに緩む。柔らかい、穏やかな笑顔だ。
「学生服着てみたかったんすよね!
夢が一つ叶ったっす、これが学生気分っすか……いいっすね、ワクワクするっす!
これが文化祭っすか、少し取り戻せた記憶の中にもニッポンという国の漫画やアニメで似た物を見た事があるっす!」
にんまり微笑んだウルズは「せーんせっ! せんせ……どうっすか?」とくるくると回ってみせる。スカートがひらりと踊り、自信満々に微笑んで。
その隣でフラーゴラが胸を張る。「幻介さんがちゃんとやってるか見てこなきゃね……!」と言われれば「いやいや」と幻介は『友人の襲来』に慌てている様子なのであった。
「ホラ、幻介さんってお金にだらしなくて酒癖も悪いから面倒見てあげなきゃだし。
つまりは弟のようなもの。ワタシは姉! ……子供じゃないもん」
「先生になんてことを」
フラーゴラは小さく笑う。幻介の前で今か今かと言葉を待っているウルズは「せーんせ?」ともう一度問いかけて。
「いや、似合ってはいるが……まぁいいか、これくらいなら許容範囲だし見逃しとくけどよ。
普段はだめだからな、指定制服だから。それ着て忍び込んだりするんじゃねぇぞ」
「おやおや?」
意外に教師になっている姿も様になっている.フラーゴラは「ふーん」と呟いた。
「……それじゃあ、この後制服姿で買い食いもいいかもね。ワタシ虹色のわたあめ食べたいなあ」
「そうっすね! じゃあ、せんせ『またあとで』!」
「あっ風船あるよ! 緑と紫と、黄色と水色。ワタシたちの目みたい……! って、待って待って廊下走らないで……!」
勢いよく駆けてゆくウルズと追いかけるフラーゴラに「廊下は走るな-」と声をかけた幻介は微笑ましそうに微笑んだ暁月に気付いてなんとも言えない表情になった。
「ふふん、去年の『さかさまカフェ』に続いて今年は『シャッフルカフェ』! 参加者内で服装を交換して、その人になりきって接客!」
そう微笑んだのは学ランとマント、胸をちゃんとお潰して髪はウィッグと所謂『廻のコスプレ』をしているアーリアである。
即売会的なアレで暁月のコスプレをしたこともある。一人燈堂家なのである。
アーリアの格好にシャッフルされる愛無には丁寧なコスプレをするアーリアは「ああ、もう、動かない!」と声をかける。
「きょうはのんあるこーるでゆうしょうしていくのよー」
アーリアと言えばアルコールなのだという愛無は皆、何時もと違ったイメージで魅力的だと頷いた。祭りの賑やかな雰囲気にはバッチリ合っている。
「いらっしゃいませのよぉー」
……やっぱりちょっとアーリアらしさは難しいと思う愛無なのだった。
「のう……これは幼子が着る様な衣服なのではないか? 似合ってる、ではないわこのたわけ!」
ぷんすことしている刀神『響命』こと『ひめ』はシャッフルカフェにこっそりと混じって居た。
「そ、そんな食べ物に釣られる程、儂は安くは……あ、これ美味いのう?
はっ!? こ、これは違……やめろ、そんな生暖かい目で儂を見るでない……やめろぉ!?」
小学生達が可愛い可愛いとお世話をするひめはぷんすこと怒っている。店員の筈が、こうも愛でられると居心地が悪いのだ。
「廻先生も愛無先生もかわいいねぇ。あ、ちがう。わた……僕もなりきらなくてはならないな」
愛無のフォーマルな衣装を着用したシルキィは背筋をぴんと伸ばした。愛無っぽい話し方を必死に勉強してきたのだ。
「いらっしゃいませだ、お客様。お席に案内させて頂こうか。
では、御注文をどうぞ。お好きな物を選んでくれて良い、わた……僕がお持ちしよう」
案内される夜空はシルキィの様子にくすくすと笑う。さすがはマジ卍。休憩がてらに遊びに来たけれど、皆が皆、何時もと違う。
お茶を楽しむ傍らで、そんな彼女たちを眺めるだけでも愉快そのものだ。
白衣にベージュのセーター。黒いタイトスカートに黒ストッキング。ロングのウィッグと触覚のシルキィコスチュームの廻は加賀美の前で百面相。
「……去年のメイド服もすごく恥ずかしかったけど。今年のシルキィさんの格好もすごく照れてしまいますね」
アーリアにメイクをされながら「完璧!」と言われたがそれでもやっぱり恥ずかしいのである。
「あの、やっぱり僕がシルキィさんの格好は無理があるような」
「だめですよ。ほら、『暁月さんが来ましたし』」
口調を真似するアーリアにぐいぐいと押されれば巡回中の暁月とばちりと目が合って――廻は「わああ」と叫び出しそうになりながら一生懸命にこらえて見せた。
暁月は「口調も似せているんだね。新鮮で面白いじゃ無いか」と微笑んだ。シルキィの頭をわしわしと撫でれば彼女は嬉しそうに微笑んで。
「あー水夜子ちゃんに晴陽ちゃんじゃないー」
多分、アーリアはこんな感じ。そんな口調で声をかける愛無に晴陽は驚愕したように暁月の姿を認めて後退した。
「姉さん。逃げないで」
「嫌です。嫌です。嫌です」
勢いの良すぎる晴陽の様子を指さして幻介は「何したんだ?」と暁月に問いかける。愛無は晴陽の好きそうな宇宙ビーバードーナツやカラフルなチョコレートをあしらったドーナツと珈琲を用意しておいたのにと呟いた。……それは食べるらしい晴陽の気まずそうな表情がなんとも言えない。
「不慣れだけど頑張る恋屍ちゃんはとーっても人間らしくて愛おしいのよねぇ。
恋屍ちゃんになりきっているシルキィちゃんも、時折ぼろが出てるのがかわいいわぁ」
にっこりと微笑んだアーリアに夜空もこくりと頷いた。
「皆で写真を撮るなら、私が撮ってあげよう。ほら、みんな笑ってごらん」
「晴陽ちゃんも」
「むぐ、む、む……」
嫌ですと言いながらドーナツを頬張っている晴陽を捕まえて、愛無は集合参加へと彼女を引っ張った。
暁月に撮られることが不服だとでも言うような彼女。それでも、皆が笑っている空間が廻に撮っては幸せで堪らない。
――また来年も、さかさまカフェが開けると嬉しいねぇ。
去年、シルキィが笑ったとおりに今年にもう一度があったことが何よりも嬉しい。
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今年もこの季節がやってきた。ブレンダは自身の仕事をしようと屋外を見て回っていたが――チケットで購入したたこ焼きを手に訪れたのは運動部。
グラウンドから「先生、チャレンジしてよー!」と声が掛かる。
「成程?」
「ブレンダせんせーの活躍楽しみにしてます!」
揶揄うような生徒達にやる気を出すかとブレンダはいざ、チャレンジ!
「……ちょっとやり過ぎた、か?
チャレンジイベントの記録を軒並み更新するのは大人気なかったかもしれん。
ま、まぁ他にもイレギュラーズは来ているのだし誰か更新するだろう、うん」
運動部も驚愕の結果を残したブレンダはそそくさとロッカーへと景品を持って帰って行ったのだった。
「改めて見ると、この学校には色んな部活動があるんだね。生徒も楽しんでいるようだし、活気もある。
自分の好きな事や興味のある分野を見つけられるのは喜ばしいことだし、そういった教育風土を育んできた実力は素直に尊敬できるな」
文は前回は出店を回ったからこそ今回は展示を回ってみようと考えていた。
校長は悪い先生ではないが愉快犯的な行動をとる。いまいち信じ切れないのが現状だと彼は小さく笑みを零した。
「おや、あそこにいるのはひよのさんかな?」
「ああ。古木先生ですか。こんにちは」
手を振ればひよのは会釈を返す。彼女も年相応に友人達と文化祭を楽しんでいるのだろう。
展示の上をするりと通り抜けたのはナハトラーベ。もぐもぐとマジ卍の文字列に負けない『マジ卍』な祭りを満喫し続ける。
人気の無い奥地にワイルドな風貌の生徒達がナハトラーベを取り囲む。どうやら生徒指導の目を掻い潜って裏の露店を開いていたのだろう。
そう――その店で取り扱っているのは超ウルトラハイパーメガ大盛焼きそばチャレンジである。希望ヶ浜の歴史に於いて完食者0の“山”……挑むは、勇気か蛮勇か。
大盛り上がりな裏を覗いた後、汰磨羈はパンフレットをまじまじと見下ろしていた。
「今年も、結局はその名称で開催する事になったのか。なんだか、このまま定着しそうだな……?」
もう定着している気がします。
「食事用の引換チケットが2枚というのは、些か心許ないがな。そう思わないか?」
「お小遣いで買えるようにひよひよが打診してくれたいけどお財布が心許ないよね!」
なじみは汰磨羈の問いかけに唇を尖らせた。なじみはと言えば出店選びの為にマップに齧り付きである。
「さて、私は何を食べようかな。出来れば美味しい甘味を頂きたい所だ。
好物のシュークリームがあれば最高なのだが。こう、トッピングマシマシに出来るやつがいい、うむ。
なじみは何が好きなんだ? いい機会だから聞いておきたいな。奢る時に役立つだろう?」
「なじみさんはチョコレートが好きだよ。でもねー、こういう所のたこ焼きも良いよね」
むむと悩ましげに呟いたなじみに汰磨羈は「足りなければ弁当も用意している」と彼女の頬をぷにりと突いた。
「やったぜ!」
「ああ。遠慮無く食べれば良い。――ところで、なじみ。最近、猫鬼とはどんな調子なんだ?
いやなに、猫仲間として気になってね。折角のイベントなんだ。"彼女"も表出して楽しみたいとか言ったりしないのかね」
「んー、あんまりないかなあ。なじみさんの中に入るけど、なじみさんは猫鬼とは『仲良し』だけど『お話』はしないから」
その瞳が歪に光る。微笑んだ彼女のその笑顔に何らかの裏を感じて、汰磨羈は息を飲んだ。
汰磨羈の心に引っかかったままの『猫鬼』の言葉――その真意を問えるのは何時だろうか。
高校生最後の文化祭。メイド喫茶で知り合いにご主人様と言っているのは見られるのは気恥ずかしい。
花丸はこの時間は来ないでと事前に定に連絡しておいた。定と言えばなじみに「ひよのさんが行きたいところあるんだって」と手招いた。
「卒業してまだ半年だって言うのにもう随分懐かしい感じがするよ」
「はっ、ほんとうだ!」
なじみが驚いたように定を見遣る。どうやら進路を気にしてるのだろう。卒業できたのか。そんな視線がなじみから送られている。
「晴れてるぜ? 曇って先行き不安なんて事は無かったさ、ああ無かったよ!
ほ、ほらそろそろ花丸ちゃんのクラスだからさ! 僕の進級の話なんておいておこうぜ」
「定くん……」
彼女の視線に困ったような顔をした定はひよのさんも悪い女だぜと呟いた。そう、花丸は絶対来ちゃだめと言っていたのだから。
「お帰りなさいませ、ご主人……様? えええええええええええっ!?
ちょ、ちょっと何で来たのどうして来たの!? この時間帯は避けてって花丸ちゃん言わなかったかなっ!?」
「言われたら来ますよ」
「へえ、凄い似合ってるじゃん。ひよのさん? そう、僕が教えて来て貰ったんだ。花丸ちゃんの給仕服姿を是非ともみたいって言うからさ!」
ひよのは自信満々に花丸に微笑んだ。酷い裏切りだと非難がましい視線を送った花丸に定は痛み分けだと笑みを零す。
「花丸さん、可愛いですよ。さ、『お嬢様』をエスコートしてください」
「メイド服が似合ってる?あ、えっと……うん。それはありがとう……じゃなくてっ!
はぁ、来ちゃったんなら仕方ないよね。他のお客さんも居るんだしちゃんとやらなきゃ」
「ふふ」
手を差し出したひよのに花丸は困り顔でエスコート。そんな背中を楽しげに眺めているなじみにと定はそっと耳打ちをした。
「なじみさん今年もキャンプファイヤー……一緒に見ない?」
「うん。いいよ! ねえ、定くんは一緒に踊ろうって誘わないね?」
――君の方が一枚上手だ。全くもって!
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「文化祭、存在は知っていましたが、見るのも参加するのも初めてです……楽しみですね、お姉ちゃん!」
折角だからとおそろいで制服をと望んだステラに今年23歳になるウィズィは「まだ制服着て大丈夫よね……?」と鏡とにらめっこ。
似合ってますと笑うステラと共に部活の展示を巡れば、博物館や美術館よりもバラエティやパッションに富んでいて見ているだけでも楽しくて堪らない。
「ステラちゃん。一緒に参加できるもの……あ、あれは?」
ほらと指さした先には巨大迷路が設置されている。はぐれないように手をぎゅっと握りしめ、いざ出発。
「あ、勿論スキルは使いませんよ?
……普段ならこういう時、スキルで探索索敵をしながら進みますから、完全に手探りで進むのって久し振りで、ちょっと不思議な感じもしますね」
ぐるぐると似たような風景を見て回る。スキルを使わなければ方向音痴な事がばれてしまうかもと悩ましいウィズィにステラは「じゃあこっちへ」と手を引いた。
気付けばエスコート役がウィズィからステラへと。「お姉ちゃん、こっちです」とそう笑った彼女が可愛らしく、ウィズィは「楽しかったね」と笑みを零した。
「学校の催し物にしては随分と賑やかねぇ。まぁいいわ、わんこ! 片っ端から見て回るわよ!!」
「応とも、端から端までお供するぜ。やたらめったら楽しみマース!!」
コルネリアに連れられてわんこはタピオカ片手にイベントを眺めている。どうしてタピオカを見ると人は飲みたくなるのだろう。本能なのだろうか。
タピオカとゆるキャラパフェを入手する事を目標とするわんこにコルネリアは「え、うどんなんかもあるの。寄ってこ寄ってこ」と手招いた。
「後何しようかしら。チョコバナナとぉ、わたがしとぉ……わんこは何買ったの? 交換しない?」
「わんこの多めに持ってって良いデスヨ」
後でグランドに赴いたら、二人夜まで過ごそう。今日の思い出を語り合うことが出来るから。
「ひっひー、お祭り、楽しそう、するぞ。せっかくだから、もっと仲良くなる、したい友だちクロエ、誘う、してみた。
いっぱい、楽しいって思い出、できるとよいな!」
にんまり笑顔のカルウェットにクロエは「マジ卍ってどういう意味なんでしょう? 知ってます?」と首を傾いで。
カルウェットに引っ張られながら二人揃って屋台の中へ。一緒に過ごせる時間にクロエは楽しいと胸弾ませる。
「おぉー! みたことない、食べ物、ちょこちょこ、ある、するな! ねぇねぇ、クロエ! あれ、なに、する?」
「美味しそうな匂い……あれはたこ焼きですね! あつあつトロっとした生地にたこが美味しいんですよ。
わけっこして食べてみますか? 熱いから気を付けて下さいね。はふはふ」
「…たこ焼き? クロエは、なに、好き、する?」
「私も甘い物大好きです! ゆるキャラパフェというのがオススメなんでしょうか? 食べてみたいですよね。探しに行きましょう」
はふはふと二人であつあつたこ焼きを冷ましながらマップを見遣る。クレープやゆるキャラパフェだって二人にとってはごちそうだ。
「元になってるゆるキャラさんもいるかもしれません」
「おぉー! クロエといえば、動物好き、するから、それ関係、探すのも楽しそう」
クロエと共にゆるキャラ探しも屹度楽しい。一緒に探そうと手を引けば「はい」とクロエは微笑んだ。
「今年も学園祭の季節ですか、早いものですね。さぁ、どこへなりともお供を――」
そっと手を差し出したフェルディンにクレマァダは何処へ行こうかと見遣る。お化け屋敷はどうですかと呼びかける生徒の声に二人は顔を見合わせた。
「お、お化け屋敷?! 我がわざわざそんなところに行くわけ……」
「ゑ? お化け屋敷? い、いや、それは……
なんというか、いざとなれば剣で斬れる手合いならまだしも、得体の知れないものは少々苦手でして……」
「な、何?お主も……いや、お主は怖いとな? ふ、ふーん。……まあ? 我は? 怖くないが?」
秘技クレマァダの強がりなのである。ちら、とフェルディンをみやれば彼はうんうんと頷いている.その表情が信じていないような気がして――
「本当じゃからな。本気じゃ。嘘ではないぞ! 亡霊なんぞが怖くて静寂の青の番人なぞできるか! 疑うのか?! 良い、なら証拠を見せてやる!!」
「や、やっぱり行くんです、か? わ、分かりました、お手をどうぞ……!」
――そして二人はお化け屋敷で絶叫を繰り返したのだった。
「しかしこうして入ってしまった以上は気丈にギャーー!! なんかひんやりするのが首に触った!!
フェル手をつないでギャーーお化け!! 窓に! 窓に! ギャアーー!!
「この命に代えてもお護りを――え? 窓? ギャーーーッ!?」
思わず抱き合って絶叫する二人にお化け屋敷の生徒達もご満悦だ。ぎゅっと抱き締めたクレマァダはそのままフェルディンを放り捨てて脱兎に出逃げる。
「待ッ、ちょっ! クレマァダさん! 置いていかないでー!!」
半べそで泣きながら追いかける騎士フェルディンに彼を置いて逃げた主クレマァダ。抱き合って怯えたことは何時思い出すだろう……?
依頼でゴースト退治の経験のあるノルンはちょっぴり背伸びしてアリスをリードしたいお年頃。
二人で進むお化け屋敷は――思ったよりも恐ろしくて。
「無理です……本物より怖いですぅ……」
「アリス……お化け……よくわからない……女の子が死んじゃっても生きてるの……素敵……
でも雰囲気……少し怖い……けど、ノルンが頑張ってて……頼もしいな……」
アリスの方が一枚上手。可愛いと引っ付いてくるノルンにくっついて、「大丈夫……怖いの来てもアリス……守る……よ……」とアリスはノルンをよしよし。
これではリードできていないと少し悔しいけれど。二人でゴールまでたどれたことは大きな経験だ。
「こ、こわかったぁ……」
「もう大丈夫……今度は楽しいとこ……いこ!」
安心してため息を吐いたノルンをぎゅうと抱き締めてからアリスは彼の手を引いた。安心したら次は笑えるような楽しい場所を目指そう。
今日は希望ヶ浜の学生としての参加だという雄斗。最近は忙しくしていたが今日は学園生徒して目一杯に楽しむのだ。
自身の仕事は校舎の外を見回って困っている人がいたら助けてあげること。たこ焼きを食べながら、助けを呼ぶ人をしっかりと探し続ける。
「お祭りで食べるものって普段より美味しく感じるの不思議だよね、なんでだろう?」
助けを呼ぶ声が聞こえれば雄斗が直ぐに馳せ参じるのであった。
「そこの方、何か困っていませんか?」
声をかけられたのはアルクであるう。錬金術の講義や研究室が無いことをしょんぼりとしていた彼は理系の発表を見に行きたいのだという。
「成程。じゃあ、場所を教えますね!」
にんまりと微笑んだ雄斗にアルクは頷いて。二人で別の校舎へ向けて歩き出すのだった。
道案内も人助け。とっても大事な役割なのです。
●
「祭りだ! ライブだ!! 音楽だ!!!」
涼花はアコースティックギターを掻き鳴らす。歌唱による弾き語りやギターソロのストリートビートのアコースティックライブ。
「はじめまして、柊木涼花です! 文化祭楽しんでますかー!? わたしも音楽で盛り上げていきますので、ここからもっと楽しみましょう!」
演奏の技術も歌唱の技術もプロレベル。タッピングにスラップ、スラム奏法、ウィスパーボイスやがなり。
エキスパートな音楽技術で観客を魅了し続ける。
今年は万葉と共にアイドルライブ。張り切って彼方は慎重仕立てのゴスロリ衣装で歌を歌う。
ギフトも活かした最大限のかわいさは彼方曰く『二人で楽しめる可愛いパフォーマンス』に重点を置いて。
「さ、万葉ちゃん。いくよ!」
「ええ! 彼方さんが教えてくれたレッスンが役に立つのね!」
新米アイドルとして頑張りますとやる気を漲らせた万葉と共にステージへと飛び出して。彼方はマイクを持って精一杯のパフォーマンス。
「みんなー! 今日は来てくれてありがとー! コーレスいくよ! かなたちゃーん! かずはちゃーん!」
ステージの最前列で面白山高原先輩と蛸地蔵君がアピールしてくれる。それだけでもおかしくて二人は舞台の上で顔を見合わせて笑い合った。
「見たまえチラリゴケくん、ステージでコスプレコンテストをやっているみたいだね。
これも何かの縁だ、君もヒラヒラしたメイド服なんかで出てみたらどうだい」
エクレアにチラリゴケは「ねぇちゃんも一緒にな」とさらりと返した。良く分からないが折角『ねぇちゃん』が誘ってくれたのだから楽しまねばならない。
「え、僕も ?それはちょっと……わ、分かったよ。着るよ、着るともさ。だから真顔で見ないでおくれよ……」
まずメイド服が何なのか。どうやって着用するのかも分からない。ミニスカメイド服を着用して「あってるか?」と問うたチラリゴケにエクレアはこくりと頷いて。
「……不思議だ。初めは死を覚える程の恥を覚えていたが、ステージに出てしまえば何か吹っ切れたように爽快な気分だよ。これも僕の美貌と大人の魅力のお陰だね、ふふふふふ」
死ぬほど恥ずかしかったエクレアも吹っ切れたというのか。チラリゴケはと言えば優勝賞品はなんだ! と楽しげに問うているのであった。
「ほう、これがうわさのミスター・ミスコンテストでありますか……
これに優勝すればきっとひよの殿やなじみ殿が『ジョーイくんすっごーい!』と言ってくれるに違いありませぬな!
さらにまだ見ぬ女子たちにもモテモテに……乗るしかないでありますこのビッグウェーブに!」
――凄い下心なのである。ジョーイは無性別ではあるが一度も除し扱いされたことのないフォルムであった。
メットはキャストオフでステージを眺めるひよのとなじみに手を振って。
「あ、ひよの殿ー! なじみ殿ー! 吾輩の応援シクヨロでありますー!」
「……」
「ひよひよ、知り合い?」
「え? だれって? 吾輩でありますよ吾輩! ノーメットですがジョーイであります!」
「「え」」
その驚き顔だけでなんだか優勝した気分なのだった。
「マジ……マ? 卍? 言葉の意味はわかりませんがこれが希望ヶ浜学園なんですね! いいのですねそれで覚えますからね!」
呆然としたボタンは初めての学園に高揚した気持ちを抑えられない。
眞田は自分が紹介するまでも無く見て分かる混沌ぷりを感じ取ってくれれば嬉しいとボタンを手招いた。
「ステージ、飛び入りOKだし俺らも何かしようよ! やっぱりさ、コスプレと言えばメイドじゃない?」
「コスプレコンテスト? ステージに立つのは緊張しますが眞田さんと一緒なら。眞田さんはオシャレだし格好いいのでなんでも似合います!」
地味に誘導されているボタンは気付かぬままにメイド服を着用する。相方がメイド服なら、自身は執事でぴしりと決める。
ボタンが格好良いと言ってくれるならバリバリ頑張ってみせるのが眞田の信条だ。
ステージ上で、二人は声を合わせてご挨拶。
「おかえりなさいご主人様」「お食事の準備は整っておりますよ、ご主人様」
ひらりと一礼したボタンに胸に手を添えてお辞儀をする眞田。眞田曰く100点満点の出来である。
「ボタンさん、このまま学園回ろう!」
「え? コスプレしたまま学園まわるの大丈夫ですか?」
大丈夫なんでしょうかと首を捻ったボタンをそのまま連れて他の展示も見に行こう。
「私は美術部顧問、オラボナ=ヒールド=テゴス。生徒どもの期待に応えるならば如何様な『変なファッション』でも着こなして魅せよう。
選択すべきは異端審問、魔女狩りじみた格好で登場だ。鎌かその他か迷うところだが、敢えて素手で行く。
仮貌に仮面を嵌めたならば二重の顔無し、パフォーマンスのひとつとして連れの首を切断してやろう
勿論、マジックだ。種も仕掛けも存在する、あの一文字に罪状を込めて両断だ――Nyahahahaha!!!」
堂々たるパフォーマンスを見せるオラボナと共にステージに立っていたのは一般人『N』である。彼女ならばどのようなマジックでも受け入れてくれる。
「さあ、貴様の在り方、千分の一を魅せ給え。我々は生徒を導かなければならないのだよ。
このご都合主義もしくは素敵なデウスエクスマキナ。もしも必要で在れば幾らかの肉を削いでいくと良い。味わい深いとも」
Nは何らかを告げた――ノイズで言葉は聞こえないが了承してくれたのだろう。首にがちゃこんと嵌めてしまえばさよなら世界。
続きは美術室での講習で。
「祭りと聞いて駆け付けたよ。学校に通ったことがないし、トーキョーも未知の世界だ。実に面白い」
そんなディアーヌはセーラー服を着用しいざ、文化祭への参加である。何故、セーラーであるのかと問われれば『正装』であると聞いたからに他ならない。
イベント会場をぶらりと歩けば『ミス&ミスター&性別不明コンテスト』が開催されている。衣装も貸し出しが可能らしい。
「ふむ……」
男性貴族風の衣装を着用し誰か居ないだろうかと見回せば「イベントだし、期待に応えるぜ!」と亮が女性物のドレスを着用してディアーヌとのダンスに応じる。
「さあ、わたしもそれなりの家の出だ。リードは任せてほしい」
「じゃあ、任せようかな! よろしく!」
にんまりと笑った亮の手を取って軽やかなワルツを観客に見せつけん――!
●
「無名偲・無意式先生は……去年と同じく校長室におられるのかね?」
ジョークを混じらせたマニエラに「居るぞ」とグラスを掲げた無意式はすでに晩酌を行っていたのだろう。
「いやはや、時が過ぎるの早いものだ。そして去年は台風の渦中だったかな? 今年は……電子の災厄の渦中ときた。佐伯さんも大変だろうね……」
「あれが仕事だろう。アイツは。まあ、今年の体育祭はないだろうが……仕方がないだろう」
「そうか。色々あったが……私達にとってはこれからだ。
出来れば、この先も先生とは道が違わず、途切れず、進めればいいと思ってるよ。本心さ。
先生の昔話を話してくれてもいいんだぞ? どんな学生だったのか……とかね」
晩酌を共にしようと持ち込んだツマミに酒をテーブルに並べれば無意式は「さて、俺如きの子供時代なんざ、面白くもないぞ」とジョークのように返す。
茫と。校舎の屋上からロゼットはかがり火の周りで楽しげに踊る者達を眺め見ゆる。
この『再現性都市』である東京はロゼットの故郷である里と比べれば科学的に進んでいる。光などそれほど有り難いと言うものでもなく、当たり前に存在しているものに過ぎない。
だと言うのに。彼らはわざわざ集まって火を囲っている。
「この者がそうであったように、彼らも火に何かを感じることがあるのだろうか? 環境が人を作る」
この街の人々と本当の意味でわかり合えるかと言われれば屹度、それは無理だろうとさえ思う。それは想像も出来ないくらいの相違があるからだ。
それでも火を囲って、楽しそうに踊ってる姿を見ると、故郷の事を思い出す。少し、切なくなる夜だ。
教室から眺める炎は美しい。伽藍とした教室もメイド喫茶から普段通りに変化して。シルフィナはまじまじと見下ろした。
自室に戻って休息をとった方が良いのだろうが、クラスメイトが余り物を購入してパーティーをすると言うから。
……もう少しだけ、彼女たちと過ごしていたい。シルフィナは炎に背を向けて笑い合うクラスメイトの輪へと歩を進めた。
「悪かねーな。祭りの雰囲気は俺も好きだぜ?
ただ、突然違う世界に召喚されて半年も根無し草をやってるような状況じゃ、全部を全部手放しで楽しめねーってだけ」
ブライアンは和やかに――空っぽの財布を眺めながキャンプファイヤーの前に立っていた。
思案文字盤もコネクションも実力も、努力も評価も名声も。まだ半年分。そんな時分にこの祭り。
緩んだ空気に口も軽くなりがちとくれば、多少なりとも親交のあるヤツらに探りを入れて情報を仕入れる機会だろ。
つまりは、なんだか大変そうな澄原さん家の家庭事情を聞き出すために三人娘をナンパしたのだが。
現在目の前でもぐもぐとフランクフルトを食べている水夜子は「タピオカ美味しいですよね」と微笑んでいる。
話すどころか食べ続けている。
「コイツらホントによく食うな! 財布が保たねーよ! 付き合いきれるか!」
「あっ……まあ、澄原って実は財閥なので、私が奢ってあげた方が良かったですかね? いえいえ、でも奢ってくれると……」
もぐもぐと食べている水夜子から逃げたブライアンは適当にナンパして適当に散在させられ適当に言い訳して逃げ出して。
最後に教室からキャンプファイヤーの炎の見物だ。
「はー、まったくよ。散々な目に会ったぜ……」
楽しかったとは言わない自分の捻くれ具合にはあきれてしまうが。来ては良かったくらいは言ってやりたい。
キャンプファイヤーの明かりの中に、再現性東京で助けた生徒が楽しげに歩き回っている。そんな笑顔を見れるなら、『悪くはない』祭りだった。
「結局コスプレコンテストとかも見ちゃったわね……祭りの締めって感じねぇこれも。
どう、わんこ楽しかった? アンタもたまにゃ自分の為に遊べば良いのよ。人の為に働くのも良いのだけれどね」
コルネリアの問いかけにミネラルウォーターを手にしていたわんこはマジ卍な規模を全力で楽しんでしまったと悪戯っ子のように笑う。
「……楽しかったか、だなんて。キャヒヒ、そりゃあもう。
貴女とならなんだって楽しいんデス、そこに祭りが合わさりゃ最強だな!!
徹頭徹尾自分の為っていうのは慣れマセンガ、肝に銘じておきマストモ」
姉御と共に楽しんだ一日がわんこにとっては素晴らしいものとなったことだろう。
「あと一か月もしたらなじみさんの誕生日だね」
「本当だね。二回目。定くんが祝ってくれる素敵な日だ」
にこりと微笑んだなじみに定は「当日はまた『いつもの』メンバーでお祝いしようね」と約束を。
なじみは彼を見上げて「欲しいものがあるって言ったら如何する?」と問いかけた。
「何々? なじみさん何が欲しいのさ」
「『約束』」
「約束?」
「そう。『無事にちゃんとお祝いして、クリスマスもお正月も一緒』。ひよひよと花丸ちゃんもさ」
――ちょと期待した。そんな表情をした定になじみは悪戯っ子のように微笑んだ。
「二人でってなら、君から言わなくっちゃいけないぜ。定くん!」
「キャンプファイヤーか。前に見たときからもう1年経つんだな。はえーよな」
屋台の食べ物は鱈腹楽しんだ。ご満悦であるソフィリアの横顔を眺める誠吾は一年間の出来事が頭を過ったが――打ち消すように彼女の小さな頭に手を置いた。
「……ソフィリア、ちっとは背伸びたか?」
「うちもちゃんと成長してるのですよ!」
頬を膨らませたソフィリアに誠吾は小さく笑う。
「毎日たくさん食ってるから、まだ伸びるかもな」
今のままでも可愛いなんて、口にすれば彼女は拗ねてしまうのだろうけれど。大きくなると宣言するソフィリアは誠吾の指さす方を眺め見る。
「あそこに踊ってるやつらがいるが、見学と混ざるのとどっちがいい?」
「んー……去年は眺めてたし、今年は参加してみるです?」
文化祭の後。彼に訪れた恐ろしい出来事をソフィリアは知っている。この世界で戦ってでも生きていくと決意した彼。
それは、誠吾にとってどれ程大きな選択だっただろう。悩み、苦しんだ彼を知っているからこそ。今、この場で笑って彼が笑ってくれてそれでいい。
誠吾にとって。『召喚された一般人』にとって。手の甲に消えないひっかき傷が、首を絞めて殺した女の顔が、永遠に消えない。恨んだ女を切り捨てた事もある。この世界で自身はどれだけの罪を負うのだろう。
それでも、彼女が笑ってくれるなら――彼女の笑顔が曇らないように。泣かないように護る強さを手に入れられたなら。
「シャル・ウィ・ダンス? 学園祭での機会ははじめてかしらね。
お祭りの締めくくりとしては相応しいかしら? 学園祭はどうだった?」
そっとミニュイの手を取ればレジーナはくすりと微笑んだ。キャンプファイヤーの炎が立ち上る。
「ねぇ、我(わたし)の熱を感じるかしら? お化け屋敷は怖かったわね。ふふ、実際のアンデッドは平気で滅するのだけれども。
雰囲気がそうさせるのかしら? みにゅは怖くなかった? ノーコメントはだーめ」
唇を尖らせたレジーナのエスコートに応じてミニュイは笑う。
「お化け屋敷?別にどうということは無かったよ。だって私の方が速い。何が来ても逃げられる。レナも抱えて」
早く、早く。そのまま駆けてゆけるから。貴方と過ごした一日が、有り触れた日常に華を咲かせてくれるのだから。
今日はもう少しだけ踊っていましょう――?
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
このたびはご参加ありがとうございました。
残念ながら体育祭は今年は『未曾有の電力事件』で中止になってしまいましたが……!
文化祭をお楽しみいただけたのならば幸いです。
希望ヶ浜での日常を、これからも楽しんでくださいね!
GMコメント
夏あかねです。
昨年付けられたマジ卍祭りで今年も行きます。どうして……。
※ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
※行動は冒頭に【1】【2】【3】【4】でお知らせください。
●マジ卍祭り
ネーミングは特異運命座標による大喜利――いえ、公募で決定されました。文化祭です。
幼稚舎から大学まである希望ヶ浜学園の一大イベントです。とても広く様々な催しが行われるために地域や近隣の方々も遊びに来るテーマパーク状態となっています。
高等学校グラウンドにはメインステージが設置され、ミスコンやコスプレコンテストが開催されているようです。
また、バンドや演劇などやメイド喫茶やお化け屋敷など校舎内での催し物等なども自由に行うor自由に見て回ることも出来ます。
学食による屋台では『学食チケット(一人2枚!)』を使用し、食べ歩きが出来る簡単な料理やタピオカドリンクが頂けますし、普通の屋台を見て回ることも出来ます。
総じて『こんなの有りそう!』が大体叶うので是非、こんなのしてみたい!を提案してみて下さいね。
【1】メインステージ
高等部のグラウンドに設置された簡易ステージです。メインステージとして様々なイベントが進行します。此処ではバンドによるパフォーマンスや時間事の各地のイベントの紹介の他、『ミス&ミスター&性別不明コンテスト』『コスプレコンテスト』が行われているようです。
・『ミス&ミスター&性別不明コンテスト』
・『コスプレコンテスト』
立候補自由! 女装や男装でもなんでもOKです。折角なので出てみませんか?
衣装は被服関係の部活の協力で用意しても良いですし、不思議な姿でも何でもコスプレだと見做してくれます。穏やかな日ですね。
・バンド演奏参加
バンドのパフォーマンスを楽しめます。お友達同士で参加してみても良いかもしれませんね!
【2】屋台を見て回る(外)
適当に屋台を確認して回ることが出来ます。外では食事関係の屋台をチェックすることが可能です。
何でも1食引き換えチケットで『ゆるキャラパフェ』を探してみるのも良いかもしれませんね。おいしそう。
チョコバナナにポップコーン、イカ焼きにたこ焼き、タピオカドリンクや手打うどん……。様々な屋台を楽しむことが出来ます。
こんなのありそう! と言えば何でもあります。そう、なんでも!
また、グラウンドなどでは運動部のレクリエーションやチャレンジイベントが行われているみたいですよ。
【3】展示を見て回る(中)
メイド喫茶やお化け屋敷、各部活動の展示等など。様々な展示を見て回ることが出来ます。
どうやら第三体育館を使用した大規模な迷路などがあるようです。迷ってみるのも楽しそうですね。
体育館ステージでは演劇やバンドなど。出場するのもOKですし、展示をする側でもOKです。
【4】キャンプファイヤー
夜にグラウンドで囲う事ができます。踊るもの良し、遠巻きに眺めるもよし。
教室の片隅でひっそりと後夜祭を楽しむのもいいですね!
●NPC
希望ヶ浜の関係者や
・音呂木・ひよの(希望ヶ浜学園高校)
・綾敷・なじみ(外部生)
・無名偲・無意式(希望ヶ浜学園校長)
・澄原 水夜子(外部生)
・澄原 晴陽 ←水夜子に呼び出されましたが少し居心地が悪そうです。
につきましてはお気軽にお声かけ下さい。特にひよのとなじみは学生なので一緒に見て回るのを楽しみにしています!
その他、クリエイター所有のNPCは登場可能な場合もありますので、お気軽にお声かけください。
夏あかねNPC(月原・亮やフランツェル・ロア・ヘクセンハウス、リヴィエール・ルメス、陽田 遥 など……)もお気軽にお声かけ頂ければ!
(各国有力のNPC(※王や指導者)や希望ヶ浜にはいないだろうNPCについては申し訳ないです!
また、ご希望に添えない場合もありますのでご了承頂けますと幸いです……)
それでは、楽しんで!
宜しくお願いします!
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