シナリオ詳細
<竜骨を辿って>隠れ里クスィラスィア
オープニング
●
Rapid Origin Online――
それは練達三塔主の『Project:IDEA』の産物。練達ネットワーク上に構築された疑似世界。第二の混沌と呼ぶほどに類似したワールド設計。
混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境はイベントクリアを行う事でMMOの如く『アップデート』された。
2.0と銘打った新規パッチで追加された領域『竜の領域』のクリアを行うべく伝承国王より申し伝えられたクエストの名こそ『竜域踏破』
竜の領域と覇竜領域デザストル。
其れが同様であるか――未知とも呼ばれた未開の地。
入り口に踏み入った者は多く居る。その最奥がどの様な場所であるかをローレットはまだ知らず。
仮想空間の中であれども、未知を切り拓き辿り着いたのが亜竜種の領域、集落『フリアノン』であった。
「亜竜種と呼ばれるのは旅人(ウォーカー)ではないのさ。モンスターの分類で呼ばれる竜種や亜竜とも違う。
我々、練達が夢の如く見かけたことの或る異形なる竜とは大いに違った世界にとっての当たり前の存在。
詰るところ、純然たる無辜なる混沌に生まれ出ずる純種。『人種』の1つなのさ。彼、彼女は君たちの仲間に成り得る存在だ」
朗々と言葉を連ねるDr.マッドハッターに有栖川 卯月(p3p008551)はぴんと背筋を伸ばして頷いた。
「やあ、特異運命座標(アリス)達。『竜域踏破』のクエストデータは見たかい?
簡単に観測情報をおさらいしておけば、『山越え谷越え、森を越え、幼竜を倒し辿り着いたのがフリアノンと呼ばれる集落』だった」
「OK、その当たりは理解してる。聞きたいのは、このデータは現実に通用するものなの?
誰も観測していない筈の領域をシステムが勝手に構築した可能性もあると思う。だから、聞いておきたい」
Я・E・D(p3p009532)の問い掛けにマッドハッターは「奇を衒うシステムは白の歩(ポーン)を嘲笑う事も無いのさ」とちぐはぐな言葉を続ける。
「『再来週に起こること』を教えて貰っても?」
マッドハッターのジョークに合わせてアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は問うた。何を聞いているのだと不思議そうに、眉根を寄せる冬越 弾正(p3p007105)は愉快そうに目を細めて笑ったマッドハッターの言葉を待つ。
「ああ、『君たちは屹度、その道を辿ることになるだろう』!
その道の集落は何処か。ご覧、レディ――いいや、シスター『ルージュ』が辿ったこの道は砂嵐に繋がっていた。
ならば、現実世界のラサにこの道の『元になった場所』が存在して居る! ならば、そこを探し当てれば、チェックメイトさ」
現実で『琉珂』と名乗る少女は誰もが観測していた。彼女の存在を、そして『オジサマ』を起にデザストルの情報を『ネクスト』が勝手な事に得ている可能性もある。それだけ、このシステムは塔主のコントロールを離れているという事か。
「我々、練達はその地を探す為にフィールドワーカーを差し向けたのだけれどね、さて、話の続きは君で良いのかい?」
「ええ。今日は『台本』の通りに話してくれて感謝しますヨ、ドクター。ご紹介の通りフィールドワーカー、ファン・シンロンデス。
R.O.Oでは――ええ、『あの姿の話は秘密』でしたか?」
笑うファン・シンロンに炎堂 焔(p3p004727)は「そうだね。知られたくない人も居るみたいだし」と同調した。
「シンロンさんが調査に向かってたの?」
「そうです。ラサでの調査ですので、ディルクさんとファレンさん、そして隠里と云えば、とイルナスさんにご協力頂きまして……」
ラダ・ジグリ(p3p000271)は察する。屹度、その調査結果は芳しくなかったのだ。もしも先に『里』を見つけられていたならばディルクもハウザーも一番乗りだと飛び込んでいきそうなものである。
「見つからなかったのだろう? ならば存在して居ない可能性だってある」
「けど、それを『情報を持っている俺達』を使って探し当てたいって事だろ?」
シラス(p3p004421)にラダは「人使いの荒い国だ」と小さく呟いた。シラスも同意するように笑みを浮かべる。
「あの、覇竜観測所の皆さんは?」
「そちらは後程に。どうやら『裏口』ですからネ……見つかるまでは大所帯で押し掛けすぎても危険でしょう」
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は成程、と頷いた。後程情報を持ち帰り、現実世界の覇竜観測所メンバーと情報共有の機会を設けるのも良いだろう。
「質問! 隠されていて、皆が見つけられなかった里を私達はどうやって探すのかな?」
「ええ、そうねぇ……練達とラサの叡智を集結させてもダメだったのでしょう? 其れを見つけることは出来るのかしら」
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)へとアーリア・スピリッツ(p3p004400)は大きく頷いた。
「クエストの情報を精査して、新しい可能性を見つけたとか?」
黙って話を聞いていたヴェルグリーズ(p3p008566)はそうやって問い掛けた。
ファンは頷く。崎守ナイトらが打ち倒した竜『オルドネウム』について、アレクシア始めとする観測隊面々が持ち帰った石版は御伽噺が書かれていただけではなかった。
――隠れ里クスィラスィアへ至る者。
――道を下り、降りて行け。我らフリアノンの尾の先へ触れし者。
――蜃気楼の向こうへ至るならば、
先が掠れて読めないが、何らかの妨害魔術で里を隠して居ることは察することが出来た。ならば探しようもあろう。
「さあ、特異運命座標(アリス)、頼めるかい? 砂漠の夜はさぞ寒いだろうが、君たちは不思議な列車に乗り込んだばかりなのさ。
『鏡の国』の中に存在する『名無しの森』へと辿り着こう。それが君たちの良き未来に繋がっているように――
何、こんな事を言うのは柄では無いのだがね? 敢て口にしておこう『ドラゴンたるもの男児の浪漫』なのだよ、と」
●
結果として、ドクターマッドハッターの研究室に集められていた面々については『適当に呼び付けたのさ』との事であるが――さて。
一行はラサの砂漠地帯での『隠れ里クスィラスィア』を探すこととなる。
情報を纏めれば、蜃気楼と石版に描かれていたのは何らかの妨害魔術なのだろう。
其れの所為で『その里について知る者』以外は辿り着けなくなっているのではないかとファン・シンロンは云った。
曰く――
『そう言う魔法は真名を知っているかどうかがキーポイントですシ、
次に竜種を信仰する手前、亜竜種以外の人間にその場所を悟られたくないと考えている可能性だってありまス』
竜信仰の一族がどの様な姿をして居るのかも分からない。
「向かうのはラサの南方です。その当たりには集落も存在せず、古代遺跡が点在していますね」
現地の民、と言うには少し距離が離れているが南西部の集落を拠とすることが多いイルナス・フィンナ(p3n000169)は地図をとん、と叩いた。
無辜なる混沌でもラサは居住域より砂漠が多い。様々な部族が砂漠に集落をつくり点在しているが、デザストルが近くなる程にその数は減少していって居る。
「過去は其処文明が栄えたのかな? それって、はあ~~素晴らしい事だけど!?
竜が滅ぼしたとかそういう素晴らしい物語を見ることが出来るのでは!? いやはや……違うか」
興奮した様子でそう告げる陽田 遥 (p3n000155)。練達からサポート役として訪れた彼女は情報解析などを担当しているらしい。
「えーと、はい、後でチェックした結果なんだけど。どうやら、クスィラスィアを知らなければ気付けば近くのオアシスに戻されるんだって。
結構強固な幻術だよね。練達のデータベース的にはこれは深緑の妖精郷もダンジョンを越えて行かなくっちゃならなかったんでしょ? 同じ感じかな」
転移の門『アーカンシェル』と同じような原理が働いているのだろうと遥はそう言った。
「と、言う事は一先ずはその転移の門らしきものを探さなくてはならないと言う事でしょうか」
「そうなりますね! まあ、これも『冒険』の試練。データによればその門へ辿り着けばダンジョンに転移して――ひえ、このエネミーデータって……!?」
目玉が飛び出しそうな勢いで退いた遥の手元を覗き込んでからイルナスは首を捻った。
「幻惑の蜃気楼……出現エネミーデータ推測……オルド、ネウム……?」
成程、『クエスト』の情報が役立ちそうではないか。だが、あくまでも幻影程度。それ程強くはないだろうが皆で協力する必要がありそうだ。
さあ、『亜竜種』と出会うが為――ラサの南方に存在するであろうその隠れ里を見つけに往こう。
- <竜骨を辿って>隠れ里クスィラスィア完了
- GM名夏あかね
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年09月30日 22時06分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
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草木茂ることのなき渇いた大地。遠く、地の果てさえ見失いそうな砂に覆われた領土を有するラサ傭兵商会連合。
点在するオアシスに拠点や集落を造り日々を営む彼等にとってもこの砂漠は謎多き場所であった。古代の遺跡を有すれば、隣接するのは大いなる迷宮森林。そして南には聳え立つ山岳が立ち入る者を許さず、南西に至れば未知が存在して居る。
傭兵稼業と流通の要たるキャラバン隊を率いた商人達による共同体は幻想王国に拠点を有するローレットにとっても良き友人なのであった。
故に、此度は練達のフィールドワーカーからの協力要請にもローレットが噛んでいるならと快く応じてくれたのだろう。砂漠の幻想種、はぐれ長耳乙女とも称された『レナヴィスカ』の頭領であるイルナス・フィンナはイレギュラーズと共に『隠れ里』を探すことと決めていた。
少しの時を遡れば、如何にラサが協力的であるかを知る事ができよう――
「……仮想世界(バーチャル)、ですか?」
書類を手に首を捻ったイルナス・フィンナにファン・シンロンは頷いた。その後方に控えている陽田 遥はおっかなびっくりといった様子で肩を竦めているのである。
「『遊びに』行っては来たが凄いもんだな、練達」
「ああ……あの時の」
仕事をさぼってまで、と呟いたイルナスからディルク・レイス・エッフェンベルグは目線を逸らした。基本的には彼等は別の所属になるが、ラサの共同体の議論を纏める際には重要なポジション出ることは確かだ。イルナスが問題点を纏めている最中に『何処かにほっつき歩いている』と思えば、仮想世界だったというのだから驚きだ。
「そ、そこでイレギュラーズが『覇竜領域』らしき場所を探索しているんですが……ええっと、ネクストは、それはそれはリアルに作られていまして」
「まだ到達したことがない場所でもデータがあると言うことですか?」
「それは練達の技術的なお話にはなるんですが、置いといてー……あるはずです。其の儘その通りそっくりに、とは行かなくても『似たようなものは』」
同じデータであればうれしいけれどと呟く遥にデータの吸い上げを行って作成された世界なら信用してみても良いだろうかとイルナスは考えたのだろう。
「ならば、『今回は』私が行って参ります」
「は?」
「よろしいですよね。『前回は』貴方でしたから」
――と、云うわけで彼女が探索に参加しているのである。
「頑張って隠れ里をハッケンしようね! ホンカク的に調べる前に、砂の精霊についての伝承や、幻楼についての伝承は残ってないのかな?
イルナスやハルカナが知ってると嬉しいんだけど! ラサにはそういうのってあったりする?」
問う『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)に遥は「一応データは持ってきたけど-」と首を捻った。
「『幻楼』というのは、蜃気楼に纏わる物語でしょうか。
蜃気楼に攫われて消えてしまう……と言った者は何処でもよく聴きますよね。まあ、これは子供に一人で出歩いては行けないと教えるものでしょうが」
特にこの広い砂漠では道を違えれば帰ることが出来なくなる。だが、ザントマンの御伽噺の例もある。蜃気楼が攫った先が『幻楼』であった――何てことがあるのかも知れないとイグナートは頷いた。
未踏の迷宮。それが『ゲーム』に存在して居た隠れ里に繋がっていると考えるだけで心が躍り出す。協力しチームを組んで動く者も居れば、その場その場で臨機応変に動く者も居る。
オアシスから外に出た経験が乏しい『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)にとってはこの大砂漠こそが未知の領域であっただろう。
「まじで砂漠だ」と呟けば、居住域(オアシス)が如何に恵まれている場所なのかがよく分かる。食べ物一つを考えても、この場所では何も得られそうにないのだ。さっさと『隠れ里』に辿り着いて美味しい料理にありつきたいものである。
「一応旅の準備はしておいた。水と塩飴、日除け用のマントも必要だろう。経験上で必要なものではあるが……無いよりマシだと思って」
Gペリオンの背に積み荷を乗せた『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はイシュミルからも水や土の知識を得ていた。
そんな彼に準備を任せながらも『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)は兵装のアップグレードを辻峰 道行にオーダーしておいた。やれることはなんだって。現実の『ツルギ』はアーマデルの剣となれるほどに強い男ではないかも知れない。だが、努力もせずに俯いていては、いつまでたっても理想には近づけない。ここで、男を上げて理想に近付かねばならないのだ。
「漸くこの世界の素晴らしき捕食者、竜種の住処へとたどり着けるかもしれないのだね。
どうにも心が躍ってしまうけど、新たな出会いに思いを馳せつつも気を引き締めて臨もうか」
そう。この世界にとっての竜は未知なる存在であり、危険そのものである。『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の興奮とはまた別の『意味合い』を滲ませていた『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)はにゅふふと小さく笑みを漏らした。
「R.O.O(あっち)でフレになったリュカちゃんにオフで会いに遙々来ちゃったワケ」
――つまり、オフ会なのである。向こうにとってはなんのこっちゃか分からずとも、夏子にとっては理由になる。
そして、彼女の性格そのものが反映されていたならば現実(こっち)でもフレンドリーになれるわけであり――そう、夢は広がった。異文化交流として平和の象徴そのものといえる望まれた混血の子供……そこまで考えてから背にぞうと厭な気配が走った。現実は何が有るか分からない。
「R.O.Oでの体験で、混沌でもいつかは、とは考えていた、が。まさか此程早く、動くことになるとは、な。腕がなる」
ダンジョンに思い馳せる友人の背へとフラーと呼び掛ける『雨上がりの少女』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は幻楼へ辿り着くまでは仲間達との共同戦線を選んでいた。
「ダンジョンと! 聞いて……!」
瞳をキラリと輝かせたのは『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)。ダンジョンと言えば思い人の『旅行先』である。
彼も情報を持ち帰れば喜んでくれるだろうが――それ以上に、混沌に於ける竜域『踏破』への第一歩であると思えば気も昂ぶると言うものだ。
「ROOでの情報によると恐らく武力での解決は望まないはず。怖がらせるつもりはないの。精霊さんやドラゴンさんとお友達になれたらいいな……」
フラーゴラに頷いたのは『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)。精霊達は遊び回っているだけだろう。それをわざわざ害したいわけではない。
イルナスが思い浮かべていた蜃気楼の御伽噺では悪戯精霊が攫ってしまうと子供達には語り継がれていたが、きちんと対話を行えば精霊達も悪戯にその様なことはしないだろう。
「シミュレートで捕捉したって話だが、この分ならあっちを進めるだけで他の不明領域の攻略法も把握できるんじゃないのかね。……ま、どうせ何らかがまた邪魔するんだろうが」
『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)の呟きにエクスマリアは「どうなのだろう、な」と首を捻った。
「クスィラスィアという隠れ里の名を知っていれば入れるのだったかしら?」
『あちら』での経験はない『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)の問い掛けにフラーゴラは「場所まで判別付いてないから、そこからかも」と難しい表情を見せた。フルールは竜人――亜竜種との出会いがあるのだろうかと心を踊らせている。
クスィラスィアの名を知ったのはR.O.Oで至った者が居たからである。だが、場所の全容が知れていないのはイレギュラーズでその地に至った者が少なかったからだ。クスィラスィアを知っているというのは名だけではなく、場所、そして在り方様々な意味合いを内包しているとすれば――最初は砂漠での探索か。
「こうして本来では踏破出来ない世界への切り口を求める。
ROOは本来は練達の実験用世界と聞いたけれど、本来の使い方の一つにも考えられていたのだろうね」
練達がこの世界を解明し、元世界への回帰の為の『世界のルール掌握』。その為に作られた場所が『もう一つの混沌(ネクスト)』であったならば。
自身らが得た情報は、世界を知る為という用途として理に適っている。『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は新たな出会いが待っているのだろうと胸を躍らせた。新た――いや、もう一度と言えるのかも知れない――な出会いの為、『フリアノン』への道を繋げなくてはならないのだ。
「……ぶっちゃけさー、こんなことマッドハッターさんに頼まれなきゃやらないんだよねぇ。
私はROOのフリアノンの歌い手だけど、コチラ側では偶像でもなければまだ私が一目見て心揺さぶられた琉珂さんとも出逢えてない。……竜域への興味はそれなりにあるけどそれだけ」
彼女にとって、Dr.マッドハッターという存在がどれだけ『大きい』のかは目に見えて分かる。『お茶会は毎日終わらない!』有栖川 卯月(p3p008551)の言の通り、彼女が心揺さぶられた琉珂はまだまだ遠くその場所に辿り着くという確約さえない。
それでも――『琉珂と出会う前までの冒険』を追体験するように、謳ってみせるのだとそう心に決めていた。
「クスィラスィアを必ず見つけ出すよ。この世界でも、わたしはもう一度あの場所に辿り着きたいんだ」
『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)にとって、R.O.Oとは『自分の中に存在する妹』が活動する場所であった。
故に、妹があれだけ命を賭して努力をし辿った道なのだ。『彼女』が頑張ったのならば、自分だって努力をしたい。
混沌でだって、竜種に、亜竜種……いや、オルドネウムや琉珂とも相見えたい。彼女たちとの出会いに期待を込めて、探索へと乗り出したのだ。
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「クスィラスィアか……どの様な場所なのだろうな。やはり、亜竜もまたその土地に住んでいるのだろうか」
覇竜領域に足を踏み入れるために至らねばならない場所。『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は首を捻った。
『クスィラスィア』はイレギュラーズにとっては朗報となる場所であった。今までの覇竜領域は竜種と亜竜(モンスター)の跋扈する危険地帯を抜けて行かねばならないとされていた。彼等が大量召喚の儀を経てからファントムナイトで姿を見かけたことのあった『亜竜種』もその道を越えてきたのだろうと――そう、考えられていたのだ。
だが、地中に深く埋まっていた『竜の尾』が道となり容易に砂の都へと至ることが出来ていたという新事実。それは『覇竜観測所』の面々さえ目を剥き、事実の収集に当たりたいと叫ぶ程のものだった。
「かなりの大冒険だったが結局は仮想世界。ここからが本番だな」
パカダクラを事前に集め、情報収集に当たる『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)が探すのは『幻楼』の存在する地点である。
「R.O.Oではフリアノンに至る竜骨の道があり、道から外れた場所に竜信仰の砂の民がいるのでしたわね」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は思い出すように宙に指先を滑らせた。フリアノンと呼ばれた集落に繋がっている竜信仰の者達の隠れ里。その地へと繋がっているのが『蜃気楼』なのだと口にされれば心も躍るというものだ。
蜃気楼――それが里を隠して居るのだとすれば、まずは正式な入り口を探し至ることが先決か。
その地点に至れば『魔法騎士』セララ(p3p000273)の考え通り、幻楼に入るための手立てを立てれば良い。そもそも、幻楼は人除けのものなのだそうだ。その場所を知っているか、そしてその場所に至るに適した存在か。外敵を遮断するための精霊達による魔術。
「まずは場所探しだけど、でも、辿り着くにはポイントがあるよね。『どういう人達に隠れ里へ来て欲しいのか』だよね。
だって、危害がある存在に入って欲しくないのは確かでしょ? なら、竜を敵視していないこと、善人である事、目的が買ってること、かな……」
そうしたデータを組み合わせて、場所の特定を行い幻楼(ダンジョン)に踏み込まなくてはならないか。
蜃気楼の場所を探し、蜃気楼で相見えるであろうモンスターを出来るだけ弱体化できないかと『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は考えた。彼にとっては幼馴染みであるシュラハ=カノーネ=グラキオールの事も気になる。
その姿は竜人とも呼べる。もしや、この領域からやって来たのではないのかという疑問が首を擡げている。
「くすぃらく……くすぃらふぃ……くしらしら……ええと、クスィラスィア! ちょっといいづらい名前だけどおぼえたよ!
隠里ってことだから、お邪魔するにしてもびっくりさせないようにしなきゃね」
その前に辿り着けるか、から始まりなのだと『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が笑えば、遥からデータを受け取って頭を悩ませていた『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が「うーん」と唸った。
「竜信仰の一族の隠里かぁ。一体どういう所でどんな一族なんだろう?
リュカさんとかも信仰されていたりするのかな? その答えを知るためにも頑張らないといけないね」
「ふんふん……」
後方でこっそり潜んで眺めて居た『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)も今回は『スタート地点』からの参加である。現実で訪れられるなら、話は別。得意であるのが砂ではなく炎であるのだって今回はさて置いて。怯んでは居られないのだとやる気を漲らせる。
「まずは幻楼に入らなければ話は始まらないな。相手は関門竜『オルドネウム』か」
思い浮かべる『竜剣』シラス(p3p004421)の渋い表情とは対照的に『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はスティアの手を引いてウキウキとした様子であった。
R.O.Oに引き続いてこっちでも。そう思えば何とも胸が躍る。覇竜領域を観測する者達にも良い土産になるかもしれない。それ以上に『亜竜姫』と出会えるのだろうか――
「なるほど、あっちの世界の情報がこっちにも活かされてる、ってことねぇ。
すこぉし気味は悪いし、隠れていたい物を暴くのには抵抗もあるけど……『ドラゴンたるもの男児の浪漫』なら、『秘密を知りたいのは女の浪漫』かしら? なぁんて!」
『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)がくすくすと笑えば『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は「リュカちゃんとお友達になれるかな?」と瞳を輝かせた。こっちにもちゃんとフリアノンは存在して居るのだろうか。まだまだ話したいことはある。興奮した様子の焔と同じく『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)の瞳もきらりと輝いた。
「新しい種族! 新しい死体! ROOで交流したとはいえやっぱりそう言うのはちゃんと生で見るに限りますよね♪
……とはいえROOと現実の隠里が同じとは限りませんが……しかも、隠れ里に至ったのは一人だけ……どんな場所ですかね」
そう、フリアノンとクスィラスィアは大きく違う。イレギュラーズが訪れたフリアノンは亜竜種の里であった。クスィラスィアは果たして誰が住んでいるのか。
「そうか。現実と大きく違うならば『長』であった冠位魔種も存在しない可能性がある。成程、それは確かだ。
だが、存在して居る可能性もあるか。まさに鬼が出るか蛇がでるかという状況ではあるが。面白そうな状況である事には違いない。おねむにおもまたあえるかもしれないしな」
『神異の楔』恋屍・愛無(p3p007296)の言う『おねむ』――オルドネウムは此度は関門竜と呼ばれているらしい。彼に変化があったのだろうかと不安げなねねこに愛無はふと、思いついた用意言った。
「幻楼内での話なら精霊の作った『関門』であり、本来のおねむではないのかもしれない」と。
砂漠での情報収集を行いながら南へ。『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)は胸を高鳴らせ、深く息を吐いた。
「未知の場所に未知の種族!正直わくわくしちゃうな……と、だけど気も引き締めなくちゃ。折角のチャンスを不意にする訳にはいかないから」
幻楼は隠れ里へ行くための試練だという。ならば、武力だけではなく、しっかりと己の意志を示さなくてはならないか。
武力に頼っては行けないと言う言葉に『厳冬の獣』リズリー・クレイグ(p3p008130)は腹を抱えて笑った。
「迷宮探索には少し心惹かれるけど、アタシ前出っと武力に走っちまいそうだしねえ」
今回は裏方だと告げれば、ディルクが戻されたという近場のオアシスへと足を運んだ。その地が『出口』の一つだったのならば、ここを起点に出来る筈だ。
方向感覚を頼りに南へ進むことを選んだ焔は聳え立った山岳に至るまでの『未知』を夢見るように微笑んで。
「さぁ、行こう! またリュカちゃんとお友達になるために! まずはクスィラスィアを目指してしゅっぱーつ! ボク達でなら向こうと同じようにきっとたどり着けるよ!」
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目視とそしてレーダーでの異常検知。美咲は砂漠で体力が奪われることは出来るだけ避けなくてはならないかと燦々と降り注ぐ太陽を眺めて居た。
フラーゴラをリーダーとして、探索を行う一行は事前の情報収集から余念はない。得られた情報を活かして幻楼(ダンジョン)の攻略へと向かう算段を整える。
「フラー、どうやら、オアシスを起点に進めば蜃気楼へは近づけそうだ」
「けれど、『蜃気楼』は広範囲に広がっているようですわね。適当に踏み出せば直ぐに此処に戻されてしまいますもの」
エクスマリアは唇を尖らせる。ヴァレーリヤは精霊達がフェイクとして広範囲に蜃気楼を生み出して、旅人を惑わせているのだろうと呟いた。
成程、本当の入り口に触れさせぬように真に場所を知っている人間のみを選別したいのか。幻惑のダンジョンを間に挟んだとて武力で突破される可能性もある。
「精霊達と彼等は共存関係にあるのですね。……そうして共に棲まっているのは良いこと。
けれど、目視にて竜の遺骸が眠って居るであろう山の地形を見ることが出来ないのは『精霊の用心深さ』を感じさせますわね」
ヴァレーリヤの言うとおり蜃気楼が景色を惑わせているのがよく分かる。騎乗して移動していたマカライトは体力の節約を図り、音の反響を確認しながら一つ一つ虱潰しに回るしかなさそうだと告げた。
「景色だけならば音はどうだろうか。しかし、……人間は眼中にないと思ってたが……よく分からんな」
呟いたマカライトに同情していたのはイグナートであった。竜種にとって人間は眼中にないのだろう。だが、イルナス達から聞いた亜竜種達は人間で、情報を有する遥曰く『クスィラスィア』での観測データを見るに竜信仰の民は人間種達ではないかと言うことだ。
「ハルカナ、竜信仰の民って人間種ってホント?」
「え、そうそう。ラサの人間種で竜という強大な尊大を神様として讃えた人達が尾の繋がる先にあった古代遺跡に居住地を作り上げたのだとかなんとか。
そういう風にネクストではなってたんだけどー……まあ、そこから竜っぽい人が出てきたらそりゃあ、喜ぶよねえ」
ネクストでのフリアノンは竜骨の道と呼ばれた『竜種フリアノンの骨』を道として利用していたらしい。尾は地中に埋まりトンネルのようにその中を刳り抜かれた。尾の先がラサの遺跡を掘り当てたのは偶然なのだろう。
「けれど、閉鎖的な場所で過ごしていた人達なのでしょう? どんな風に生活をして居るのかしら?
異世界のドラゴンを見ると喜ぶのかしら。竜の血が交わっていたりとか……そんな風に想像するだけでもとてもとても楽しいわ?」
ころころと笑ったフルールの側で彼女の使役する精霊は何かを警戒する様に低く声を漏らす。成程、蜃気楼のヴェールはソレだけ強固な砂の精霊によるものなのか。
オアシスに拠点を座したリズリーの元に何度か戻る事になったのは蜃気楼による惑わせの術だろう。パカダクラを足にして情報を得て移動するイレギュラーズ達の様子を書く印紙ながらラダは近隣集落での話を聞き込みしていた。
南西部に棲まう砂漠の幻想種であったイルナスの伝手にラダは聞き込みを行っていた。砂の精霊達は、此の地を害する事無く静寂を望む者達を酷く好いているという御伽噺は『幻想種らしい』と言っても良いだろう。永きを生きる長命の長耳乙女達ならば詳しく知っているはずだとラダは耳を傾けた。
「私達もその場所には行ったことがないのですよ。幼い頃から御伽噺としてずっと昔から語り継がれていたのは聞いています。
あの子……イルナスからも聞いたでしょう? 『蜃気楼に連れ去られて戻って来られなくなる』と。精霊達も無闇に命を奪いたくはない。だからこそ、旅人は迷い込めばこのオアシスに戻されるのでしょうね」
穏やかに微笑んだ長老の言葉にラダは頷いた。精霊達がどうして蜃気楼を張り巡らせているのか、と。シャルティエは考えずには居られなかった。
混沌へと訪れた『旅人』であった彼はこの世界でも様々な出会いを経験した。ただ無邪気に友人になりたいと笑いかけて手を伸ばす幼い子供のような行いを今になっては恥ずべき行いであったと思うこともある。それは、隣人や友人となるならば、相手のことをよく知らなくてはならぬと思い返したからだ。
何も知らなければ、どうして欲しいのか、どうするべきなのかも分からない。知った上で相手を思いやって歩み寄らなくては――そう考えるからこそ精霊達が『自身らを招き入れたい』と思ってくれるような誠意を見せなくてはならないとより一層気を強く持つ。
「広範囲に広がっている蜃気楼の何処かに幻楼へと繋がっている新の入り口がある、か。
成程ね。皆に探索して貰った結果を地図に纏めてあるけれどね。うん、現地の集落についてはこの通りさ」
リズリーが地図に書き示したのは砂漠地帯に点在する集落や遺跡の分布。そして、蜃気楼に辿り付いた――が、此処に戻されたという仲間達のデータである。其の儘、ラサの南部地帯にも使用できそうな精巧な出来にイルナスは「素晴らしいですね」と頷いた。
「見える範囲は探索したのかな? 練達で手に入れた情報を精査してみるのも良いかと思ったけれど、どうかな?
ヴェルグリーズに遥がこくりと頷いた。まずはR.O.Oの事からである。『竜骨の道はフリアノンの尾が地中深くへと突き刺さったもの』である。
御伽噺の石版にも『道を下り、降りていけ』とある。その方向性はなんとなく一致している。ならば、まず、道は地下か。
「隠れ里が地中にあるからはさて置いて……砂に埋もれているって言う古代遺跡が怪しいのは確かかも知れないね。
精霊達が遊び回っている場所があれば、こちらの様子を確認しているのかも知れない。それだけ『隠して居る』なら出入り口も容易に見つからない可能性がある」
足下に隠し通路が隠されている場合もあるとヴェルグリーズは調査指針を提案した。頷くフラーゴラは集積されたデータから自身と行動を共にする面々に『地上での虱潰し』に加えて音や精霊達の様子などのデータを共有するようにと伝達した。
「此れだけ広い砂漠だけれど、場所は絞れているから……。
ワタシたちは……『精霊』と『遺跡』に注目していこうか……」
「なら、わたしも精霊達を探すね」
Я・E・Dはイレギュラーズの中で唯一『竜骨の道を辿った』存在である。混沌側で隠れ里を探すことを考えて走った。位置関係が同じかは分からないが、覇竜観測所からフリアノンへ。そこまではシステムデータを確認しても思い出せた。次に竜骨の道や隠れ里。ラサの位置関係をリズリーの地図を確認してチェックを続ける。
「妹(わたし)が辿り着いたのは丁度この付近。けどネクストには蜃気楼が無かったから……」
「出入り口の場所は変わってるだろうな」
リズリーにЯ・E・Dは頷いた。そう、ネクストでのЯ・E・Dは『蜃気楼に出会うことなく』ラサの砂漠へと辿り着いた。だが、現実では広範囲の蜃気楼が幻楼(かんもん)まで用意して待っていたのだ。
「精霊達に蜃気楼のことを聞いてみたのだけれどね」
「……単刀直入に聞けたのか」
驚いたアーマデルと弾正にラムダは「道を下って、と答えられたよ」と肩を竦める。どうやら彼等は遊び相手を探しているだけなのだ。幻楼が隠れ里の民にとっては『部外者を選別する関門』であれど精霊達にはほどよい遊び道具を手にする機会でしかないのかもしれない。
「まあ、さぞかし彼等にとってのほどよい娯楽にもなるだろうね……。
『幻楼』を打ち破りしものが里の真の名『クスィラスィア』を知っているならば里へと至ることができるという試練を鑑賞するっていう娯楽をね」
「……遊びに付き合ってやる甲斐性は用意していた方がよさそうだな」
弾正の呟きにアーマデルはやれやれと肩を竦めたのだった。そう、精霊は何時だって気紛れだ。今だってコチラが探し続けて居る様子を面白がって見詰めて居るのだろうから――
●
「集落も遺跡も井戸があるだろう、底へ降りてみたい。
砂漠の水源は主に地下水で、複数の地下水の池や湖が繋がっている…つまり同じ水源を利用している事がままある。
地下水層を山脈方面へ辿れれば……山脈からの地下水と合流してるかもしれない。隠里が竜信仰の一族の『洞窟』なら、それは平地より山にありそうだしな」
ほら、と。アーマデルはとんとんと地図を叩いた。彼の言葉を受けてリズリーは作っていた地図に徴を作る。
「なら、この辺りが最有力候補か」
彼女の言うとおり点と点を結べば戦が出来上がる部分があった。広がった蜃気楼。それでも違和感を覚える場所は多い。
「此処か」
精霊達が無数に遊び合う。その場所に辿り着いたエイヴァンは蜃気楼が揺らぐその場所をまじまじと眺めて居た。蜃気楼そのものを解除することは出来ないだろうが道を作り出すことは出来ないかとまじまじと眺める。
ラダは皆の情報を収集し、リズリーと共にその地に訪れていた。事前に調査を行っていたフラーゴラ始めとする面々が『可笑しな地点を見つけた』と伝令をくれたことでこうしてこの地に訪れたのだ。
「足手纏いになるやもしれませんがー、よろしいですかー!?」
慌てる遥にラダは頷く。研究者である彼女にはある程度の知識を練達へと持って帰って貰うべきだ。何より、練達では嘗て竜種を観測したことがあるのだという。今後の襲来に備えて準備を整えて貰って置いた方が良いだろう。
「最近ROO多かったし、動き方引っ張られっと……あホラ今まさに飛ぼうとした。ヤバいよなぁ」
そんなに容易に肉体は飛ばないのだと呟いた夏子は肩を竦める。適当すぎても死んじゃうからと周囲を見回せば何も存在しなかったはずの土に奇妙な違和感を覚える。蜃気楼――何もないように見せてくる。これが里を隠す幻影か。
「さてさて、こっちで無理はオススメしかねるけど~? 流石に、進まないわけにはいかないかぁ」
「ああ。……あちらでの経験が役立てば良いが。行けるか?」
問うたベネディクトに夏子は勿論と微笑んだ。モンスターの知識を活かし、幻楼を進めるだろうか。一本道ではあるが、それは『彼の地の再現』をしてくる可能性もある。
「作戦は決まってる? ベネとん。出来りゃ回避で行きたぃ……んだけどな」
「さて、どうだろうな。それを精霊が赦すかどうか、だ」
ベネディクトに「ですよねー」と夏子は軽い調子で返した。口調こそ軽いが、此れまでの経験則で命を大事しに無くてはならないという不安と隣り合わせである。ネクストでの動きが体に染み付いているように現実で同じように動けば直ぐに死んでしまう。そして復活はなしなのだから。
「あのねあのね。長い道のりになるかもしれないからっておじさまが沢山お弁当とか持たせてくれたの! 疲れたら休憩とかしながら、焦らずすすんでいこうね」
ルアナがにっこりと微笑めば夏子がその頭を撫でる。頼れるおにーちゃんとの『未知への冒険』
ルアナは愉しげではあるが『おじさま』は気が気でないのだろう。お弁当にはそんな気持ちが透けているようにも思える。
「そうねぇ、こっちでも我ら友情永遠不滅のパワーで……こほん。ナンデモナイデス」
何となくバーチャルに意識が引っ張られているのは夏子だけでは無かったのだろう。えいえいおーと拳を振り上げたアーリアは頬を赤らめる。
「この骨はどこまで続いてるやら」
幻惑は位置とナルノならば、ダンジョンが作られてオルドネウムが関門として待ち受けているのだろう。『一度』経験したのならば間違えることはないと識らすとアーリアは頷き会った。
「この結界を張った人たちが、隠れ里を害から守ることを意図していたのなら、力だけをたのみに突破してくる相手を認めて受け入れようとは思わないだろうね。
でも同時に、ROOで琉珂君が語っていたように、覇竜は力がない人は命を永らえられない場所。
私達がそうでないことを示すためにも、ROOと同様一度は戦わなければいけないとも思ってるよ。……だから、避け続けられないかも」
アレクシアは試練の意図をよく認識して居た。焔は彼女に頷きやる気に瞳を輝かせる。
「罠とかあればボクで何とか出来ないか考えるから。あ、そうだ。お弁当とか、ちょっとしたおやつとかも持ってきておいたからね。
確か前に精霊さんもご飯を食べたりは出来るって前に銀の森に遊びに行った時エリスちゃんが言ってたし!
ここを作り出してる精霊さんも誘ってみようかな? 仲良くなれると良いよね!」
のんびりとした調子で笑みを浮かべた焔に「それはいいね!」とアレクシアが同意を示す。簡単にご飯を一緒に食べてくれるのだろうかと呟いたシラスはふと笑みを浮かべるスティアに気付いた。
「ノーヴァークライトで」
「どういうことかな?」
「あー。ノースペシャルで」
随分と軽口も慣れた調子だ。あれだけの大冒険をしたのだからアーリアの言う『友情パワー』は強ち嘘ではないのかも知れない。
「それにしてもこれが話に聞く竜骨の道……の幻影ですのね。
竜種信仰の村に入るための試練ということは、恐らく、幻影と言えども竜を倒したりや竜骨の道を戦闘に巻き込んで壊したりして乗り越えて欲しいわけではないのでしょう。彼らにとっては神聖なものでしょうし、ね。基本的には戦闘を避けつつ、竜種を畏れ敬う形で進んだ方が良さそうかしら」
首を傾いだヴァレーリヤは幻楼はソレなりに広く、先も見通せないことから『試練』としての形なのだろうと呟いた。
マカライトはと言えば、やむを得ない場合は戦闘を行うが基本はフラーゴラに任せようと一任する。
「よろしく頼もう。チームリーダー」
「……探索をして、関門を探そうか」
屹度それがヒントであるはずだと目標を定めるフラーゴラにエクスマリアが頷いた。
「竜域と同じであれば良いんですが……それに、ローリンさんにプレゼントを持って帰ってあげれると嬉しいんですけどね!」
ねねこはそれにしても、と溜息を吐く。ふわふわとしていて何処か可愛らしくも感じたあの竜が関門なのだという。
彼を気に入っていたねねこからすれば、そうも『設定変更』が行われるとショックも滲むというわけだ。
「隠れ里という事は外部との交流は普段は断っているのだろう。敵意が無い事を示す事は元より、そこに+αが求められるのではないか。
ROOでも試練があった。此方の行動が、かの地を脅かすような事があってはならぬのだろうから。取捨選択を取り違えぬ様にだけはしておこう」
愛無は幻楼に入る為にと一度心持の整理を見せた。リスポーンは存在しない。言葉を交えても変わらぬ未来もあるかも知れないと目指すのは全員での帰還だ。
「それにしても、道を下り、降りて行け。我らフリアノンの尾の先へ触れし者か。
地下の存在を示唆するのか。あえて道を外れる必要等があるのか。そして頭部等でなく尾の先というのも気になる」
「出口が尾、ということではなくて?」
「……成程?」
ふとЯ・E・Dに瞬いた愛無。ソレは確かにそうである。巨大な竜フリアノンの体を集落としていた亜竜種達。
ならば、此方に繋がっているのはフリアノンの尾だ。その御伽噺は『外へ出るため』の手順であったならば。
「逆に尾の先から胴へと辿れば、道を上り、駆け上がれるのか。フリアノンに」
そう呟いた愛無にリズリーは「情報は揃ったね?」と振り返った。此れまでの収集してきた情報を活かし、白紙の地図の上に出来た位置関係でやっとの事で辿り着いたこの場所だ。
ここから先は未知ではあるが、それ故に仲間達をサポートし無事に試練を越えたいとリズリーは意気込んだ。
「さてさて、ここからスタートなんですね。精霊さん達の生態には興味がありますが、ああした存在は基本は自由気ままだと聞いているのです。
ご機嫌取りを兼ねて適宜遊んでみても良さそうですね。交友が身を助けるのはひと同士に限らないのです!」
クーアにアーマデルは「この精霊達、暇していそうだし」と呟いた。弾正からすれば暇をして居るからこそ惑わされる可能性があるとさえ思えるのだが。
「征くぞ二人とも。俺達の強さを見せつけてやろう!!」
堂々とそう告げる弾正のカンテラが揺らぐ。
「精霊達と一緒に進まなくっちゃね。けれど、砂の精霊だというのなら、仲良くなれないのかしら?」
フルールは首を傾げる。何ものかが此方を伺う気配がする――屹度それは気のせいではないのだ。
「ボクの目的は琉珂ちやベルゼーさんと友達になることだよ!
そのために亜竜集落『フリアノン』へたどり着かないとね。だから隠れ里クスィラスィアへ行きたいんだ。
動機はそれだけ。他に武力や賢さを見たいってことなら、頑張って突破してみせるね! どうして知ってるのかは里に行けたら教えてあげるね、だから、『導いて』!」
叫ぶセララの前に姿を現したのはオルドネウムであった。『関門』の名を冠するそれは彼の姿を借りた砂の精霊なのだろうか。
『――宜しいでしょう。進みなさい。貴方達があの地を害する存在ではないと、見極めたいのです』
オルドネウムらしきその存在はセララの発言の何か一つが気になったというようにイレギュラーズを眺め見た。
エイヴァンは「見極めるか」と呟いた。マルベートも肩を竦める。やれやれと行った様子であるのは仕方が無いのかも知れない。
その微かな違和感にラダはふと気付く。『ベルゼー』。その名か。幼竜であったオルドネウムそのものはフリアノンで居眠りをして居るのだろう。だが、精霊が姿を借りた『関門竜』はベルゼーが何者であるかを知っている。
(冠位魔種……。ソレを此方が観測できているならば砂の精霊が識らぬ訳もない。
ファルベライズに座したファルベリヒトや、カムイグラの神霊のように大精霊とも称される存在が『冠位魔種』の存在に警戒を顕わしているなら……?)
嘗ては此の地にベルゼーは居たのか。そして、今は存在して居ないのではないか。ベルゼーという存在を知り、ソレとの友誼を結ぼうとするイレギュラーズに関門竜が違和感を覚えたのであれば『その違和感を吹っ飛ばす』程度には実力を理解し、精霊達への理解を深めておかねばならないか。
「――ッ、ここは!?」
見遣れば幻惑が道となる。そして、至近に存在したのはリンノルムか。シャルティエが目を見開いて剣を構えるが。
『チュートリアルです』
精霊の声音と共に、勢いよく手痛い攻撃が体を襲う。「な、」と呟くラダの視線の先――シャルティエの姿は掻き消えていた。
「全く、リンノルムに食べられた何て言わないね?」
そう問うたマルベートは『避け』を意識していた。何かしらの痕跡を探して歩いて来た彼女はシャルティエの痕跡がまるで消えた事が気になったのだ。
「どういうこと?」
ラムダが首を傾げれば『オルドネウム』の口を借りた精霊は当たり前の様に頷いた。
『オアシスへと戻る事となりますが――貴方方が望めば直ぐにこの幻楼へと招き入れましょう』
まるでサクラメントだとルアナが呟けばセララは「どこまでも再現してくるね?」と首を傾ぐ。
「それは、優しさのつもりかな? ……嗚呼、違うか。試練として『自らが招き入れる』と決めてくれたと言う事か」
「まあ、少しは優しくしてくれるなら此の儘通してくれたら良いのに」
舌舐めずりをし、マルベートは受けて立とうと微笑んだ。フルールは拗ねたように唇を尖らせる。砂の精霊はどうやら此方で遊んでいるのだろう。
「あわよくば内部の精霊さんにも普通にご協力を頂きたいなーと思うのですが……ダメなのです?」
クーアは優しいならそうしてくれないかと問い掛けた。オルドネウムの姿を借りて居た精霊の姿が変化する。紅色のヴェールを纏った美しい女は『いけませぬよ』と微笑むだけだ。
『では――ご武運を。旅人の皆さん』
その姿が掻き消える。何処までも続くと思えた道に無数のモンスターの姿が見えた。クーアは「うーん、後ろで見て居た感じ見た事ある敵がいるのです」と呟く。
「見た事あるよな?」
「……見た事ありたくなかったような、そうでないような」
アーマデルと弾正が顔を見合わせる。幾度も殺されてきた経験がある弾正からすれば見覚えがない方が喜ばしいモンスターがエンカウント待ちをして居るのだ。
疑似的にR.O.Oの竜域での動きを行えるというならば、彼の地での経験が多ければ多いほどに活かすことができるのだろう。
見た事のあるモンスターばかりであるのは記憶を読み取られているのだろうかとスティアは首を傾いだ。
「この試練ってどんな意味なんだろう。やっぱり、仲良く出来るって事を示せば良いって事なのかな」
シャルティエはゆっくりと頷いた。団結力を見せながら、戦いに勝つのが目的ではないと認識し、オルドネウムまで到達しなくてはならないか。
歌声を響かせた卯月は「なんだかうさてゃんの為のパーティー会場にはならないみたい」と頬を膨らませた。
幻術でもモンスターはモンスター。もう一度と戦線復帰したシャルティエも居るが、サクラメントよろしく何度も戻されては堪ったものではない。
戦わねばならぬのならば。Я・E・Dは全員揃った状態で進んでいる幻楼から出来るだけ離脱者が出ないようにするべきかと振り返った。
「休憩しつつ行くッスよ」
美咲にフラーゴラは「OK」と静かに返す。エクスマリアが警戒をし、前を見遣れば迫り来るリンノルムが食事よろしく飛び込んでくる。
「GOは? リーダー」
マカライトへとフラーゴラは淡々とゴーサインを出すのだった。
ならば、支える者も必要だ。可愛い女の子のお願いは聞いてくれなくっちゃ行けないと卯月はにっこりと微笑んで、唇に歌声を乗せた。
――『ねぇ、お願いだからうさてゃんのために死んでくれる?』
●
「何故此の地をこの様に守っているのか問うても? 蜃気楼を張って迄守る必要がある理由は?」
『――遠き約束なんだって。精霊様が言ってた』
くすくすと笑う精霊の声を聞く。精霊達との意思の疎通は叶うが幻楼へと取り込む意志は堅い。
否、精霊達が此方に害を与える訳ではないのだからわざとその場をこじ開ける必要は無いとアーマデルは言った。
「お前達は優しいのだな。近づくものを蜃気楼で乾き死ぬまで惑わせる事も出来るのに……そうせずオアシスへ導く」
故に、足場も含め此方を害するつもりはないのだろうとアーマデルはそう言った。
「この足場も壊さない方がいいのです?」
首を傾いだクーアに恐らくはとアーマデルは頷いた。
「幻影の強さは確かにあちらの世界よりも控えめ、ではあるか?」
首を捻ったベネディクト。リンノルムを避けてやってきたヴェルグリーズはううんと小さく呻いた。
「勢いと武力任せに進んでいったら侵略の意思アリと見なされそうだし、そういった言動は慎みたいね。
けどこれまでのモンスターの勢いと言ったら……」
がくりと肩を竦める彼は嘆息した。これから先のオルドネウムはこの手の話の定番なら謎かけ出もしてきそうなものだがR.O.Oの彼は案外頭が回らない存在であったようにも思える。
「オルドネウムと話が通じるならコミュニケーションを取りたいよね。どんな風に話が出来るか……っと、また来たみたいだ」
ハイドラかと呟けば直ぐに臨戦態勢になったのは夏子である「どうする?」と問うた彼にベネディクトは「乗り越えるぞ」とだけ返した。
ラムダが仲間を支えれば、するりと前線へと飛び出したフラーゴラは説得できないなら仕方ないと武器を手に取る。
防衛に徹する上でも攻撃は最大の防御だ。フラーゴラが一瞥すれば後方で卯月がその歌声を響かせる。
「歌声が聞こえたのなら安心して、私が来たよ。大丈夫、あなたは絶対に損なわせないから」
美咲はフラーゴラの指示に従い直ぐさまに鋼の驟雨を降らせた。基本的には継続運用を使用しての消耗を避けた戦いだ。
逃走も恥ではない。美咲はそもそも会話が通じる相手かどうかを確認し生物と相対していた。
フルールは怪我をする心配が無いのならばのんびりと進みましょうと仲間達の援護を行う事と決めていた。
セララはR.O.Oでの『攻略法』を活かそうとイレギュラーズに声を掛けた。
頷くラダは後方からの火力支援を、そして前線で立ち回るセララは前線で全てを受け止める。セララスペシャルは煌めきの如く襲い来る敵へと叩き付けられた。
「ROOでは散々死に戻りさせられた相手ばかりか。
まともに戦う相手じゃない。正しく恐れ、危険は避けて行こう。……とはいえこれも神経が削がれるな。休憩ポイントではしっかり休もうか」
精霊の優しさか休憩ポイントは確かに存在していた。ラダに頷き返したエイヴァンは「幻影が弱くなる、なんてことはないか」と呟く。
「どうかな……私達を見極めるだけだから、R.O.Oよりも弱くなってる気は、する」
ルアナは無闇矢鱈に何か傷付けたくないと考えていた。その気持ちに応えるように相対するリンノルムは致死的な動きは見せない。
エイヴァンは「死にかければオアシスってのは良いのか悪いのか」とぼやいた。
「――去なすだけでは試練にならないなら、倒さなくてはね。さ、皆で愉しく倒そうじゃないか」
マルベートが地を蹴った。外よりこの場を見遣れば蜃気楼の向こうに僅かに盛り上がった土が存在して居た。ならば、これは地下に潜る道を幻惑で魅せているのか。本来の位置を此方に伝えずに『隠れ里』を守護する用意周到振りには感嘆さえ覚える。
「マリア達は、クスィラスィアを目指している。どうか、この先へ進むことを、許して欲しい。そのために必要な事柄があるならば、応じる所存、だ」
エクスマリアが声を掛けたのは関門たるオルドネウム。避けては通れぬ『関門竜』
それはネクストでは微睡竜と呼ばれていた存在であった。避けては通れないが進むには大きな要因ではある筈だ。
「俺達はクスィラスィアの巫女様に用がある。どうか通してくれないか?」
弾正がそう声を掛けたのは理由がある。オルドネウムは唯一対話が可能な存在としてこの幻楼に姿を見せている。つまりはその言葉には砂嵐の精霊や、彼の地の巫女の意見が混じると想定しての問いかけだ。
オルドネウムは動かない。戦闘態勢になることもない。今までのモンスターとは大きく違っているようにも考えられた。
「こんにちは、君がオルドネウム、だよね? 少しお話したいんだ」
アレクシアは彼に声を掛けた。言葉を交して、想いを伝え合って仲良くなりたい。
覇竜領域という道を冒険したいという気持ちも、好奇心もある。力を借りたいという打算もあるかもしれない。
それでも、友達になりたいという気持ちは嘘ではないから。
全てを誠実に話さなくては道は開かれない。アレクシアは「皆、『嘘は吐かずにいこう』」と微笑んだ。
元から観測隊と銘打っていたアレクシア一行はオルドネウムが狙いであった。アーリアは彼とまじまじと向き在った。
言葉を発さぬオルドネウムから感じる圧はR.O.Oとの比ではない。恐ろしいと見慣れているはずの姿にも怯えが滲む。
「オルドネウムとちゃぁんとご紹介しなくっちゃね。『本当』の名前を教えるから覚えて帰ってくれるかしら?」
アーリアは本気でぶつかって、覚悟を伝えるのだとじいとその姿を眺めた。
「……きっと貴方はとっても長生きなんでしょう?
なら、魔種がどういうものかもきっと知っている。私の話、聞いてくれるかしら?
私の故郷はね、強欲の冠位に滅ぼされかけた。沢山の奇跡にも頼って、故郷を守れたけど、この世界は危機のまま。
貴方達の眠りも、守るべき人達もこのままでは危ない――私はね、自分も、皆も、あの時向こうで見た皆の笑顔も守りたい」
だから、鱗(かぎ)を譲って欲しい。アーリアの言葉を黙したまま聞いているオルドネウムの中に『他の誰か』の意志が混じっているようにも思える。
この姿を借りた砂の精霊が聞いているのだろう。誰かの別の目を感じながらシラスは「言葉は分かる?」と問い掛ける。
オルドネウムは頷いた。あくまで『対話する気』が薄いのだろう。冒険者達の言葉に耳を傾ける為なのだろうか。
「俺達は物見遊山にここを訪ねたわけじゃあない。
世界は段々とおかしくなり始めて今にも滅茶苦茶になりそうだ。御伽噺の一つに思っていた魔種が大勢で蠢いてる。
裏から領土を支配していたなんて話はもうざらにある。俺の国では野山の動物まで反転を始めて村がいくつも消えた……力を尽くしても悪い方に傾いていって手がかりも無いんだ」
シラスが苦しげに告げればオルドネウムは何かに悩むように頭を垂らした。
「私達は争うためにここに来たんじゃなくてフリアノンの人達と仲良くするために来たんだよ!
こっちでもROOと同じような生活をしているか、少し違っているのか興味があったりもするけど……でもリュカさんと会って仲良くしたいっていうのが一番の理由かな?」
微笑んだスティアはアタッカーの壁となり、身を挺しても言葉を届けようと考えていた。
「争うことが目的じゃないからここを通してくれないかな?
嘘じゃないってことを証明するのは難しそうだけど……精霊さんなんとかならない?」
スティアのお茶目な問い掛けにアーリアは「ええ、精霊さんが赦してくれたら嬉しいわ」と微笑みを乗せる。
「もっと昔から世界を見つめてる者たちの知恵を借りたい。頼むよ」
シラスは真っ直ぐに、彼を見遣った。オルドネウムは浅く息を吐く。
「僕は亜竜種や、隠里の人達…未だ遠い人達の事を知り、歩み寄って、隣人や友人になりたいんです。
すぐには出来る事じゃなくても、どんな困難だとしても。まずは一歩、踏み出さないと始まらないから」
シャルティエは不安げに言葉を重ねる。ベネディクトはゆっくりと見遣る。
「砂の精霊よ、どうかこの場を通して欲しい。俺達はこの先にある真実を知りたい。その上で考え、決断したい」
――この先にもしも、冠位魔種が存在して居れば?
勿論ソレとは敵対する存在だ。故に、慎重になることは仕方が無いとベネディクトは頭を垂らして悩ましげな姿勢になったオルドネウムを見遣っていた。
好奇心だけでやって来たわけじゃない。だが。この先に『琉珂』が――そして『オジサマ』が存在して居る可能性もあるのだ。
『……難しい』
そう呟いたのは誰の声音だったのだろう。オルドネウムが目を白黒している様に見えたのは気のせいではないのだろう。ベネディクトとリズリーが顔を見合わせる。
「何だって?」
『冠位魔種とは、恐ろしき御伽噺であると思って居たが、のう……どう思う、精霊よ』
『難しいから問わないでおくれよ。スィアリェア……』
オルドネウムの耳を、そして口を借りて居たのであろう精霊と、竜信仰の巫女が対話しているのだろう。どうやら、惑わせてしまったのだろう。
卯月は首を傾いだ。「難しいなら通して見ない?」と単純明快な答えを携えて。
「叶うならば、別の世界にて縁を得た亜竜種の方々と、こちらでも縁を繋ぎたいと思いここへ来ましたの。
決して、貴方達の信仰を冒涜したり、静かな暮らしを壊したりするような真似はしないと、約束致しますわ」
ヴァレーリヤは何者かが聞いている気配を感じていた。それはスティア達も同じだろう。
砂の精霊か、それとも『他の誰か』であるのかは判別は付かないが、声は確かに届いてそうだ。
「えっと、あの……本当は戦いたくなくて、お友達になりたいの……! というのを簡単に伝えたかったのはソレだけ」
『ならば、どうするスィアリェア』
『一先ずこの体を倒してみると良い。良いかな? 砂の旅人殿』
その言葉に頷くが早いかオルドネウムが突如として襲い来る。フラーゴラが「来た」と呟けば、武器を構えたエクスマリアが「行こう」と囁く。
相手にしなくてはならないかとマカライトは対話を届かせるために気力を削ぐ事に注力し続けた。
「コミュニケーションは出来てソウだけど、コッチの実力をカクニンしてるのかな?」
イグナートは後方で隠れながら此方を伺っていた遥に問い掛ける。確かにR.O.Oでも自身らの元に訪れるにたる存在かどうかを『オルドネウム』を使って琉珂がテストしていたではないか。
「ギャフンとさせれば良いと思う?」
「良いと思いまーす!」
手を真っ直ぐに上げた遥に「じゃあそうしようか」とイグナートとマカライトは頷いた。シミュレートの情報を過信してはいないが、シミュレート上でもオルドネウムは不殺の対象であった。つまり、関門が降参すれば此処は通り抜けられるはずなのだ。
ならば。仮想空間での経験を活かしてねねこがサポート役となる。ノウハウを伝えれば、シャルティエの体はその通りに動いた。
Я・E・Dは今までの情報を羅列する。
――リンノルム 目が無く聴力感知、炎弱点
――サイクロプス 眼からビーム
――ハイドラ 毒血液、再生能力、首を全部落とせば死ぬ
――オルドネウム 氷の吐息、爪と尾攻撃、腹が鱗薄く逆鱗有り、炎&毒等のBS有効
「つまり?」
「つまり、『わたし』たちの此れまでの経験を活かして越えてこいってことらしい」
Я・E・Dが鋭く地を蹴った。ルアナは「どうする!?」と慌てたように夏子とベネディクトを振り返り――
「やるしかないだろう」
「やるっきゃないね」
最後の攻防よろしく、イレギュラーズとオルドネウムの決死の戦いが始まったのだった。
●
「霊魂達が友好的だと良かったのですが案外何も聞こえないというか……あ、後。死体はエンバーミングして持ち帰れる物は持ち帰ります♪」
いいですかね、と微笑んだねねこはゆっくりと膝を突いたオルドネウムに近付いて――
「にしてもこの竜は本物なんスかね? 幻楼出たら砂になるとかだったら掃除が……」
そう呟いた美咲は――暫くした後に「あー」と小さな声を漏らすのだった。ねねこにとっては残念だが、それは竜ではない。
砂の精霊による幻惑。つまりは遺体であると認識した者は全て、砂であったのだ。
霧が晴れるように――視界がクリアになってゆく。
元より、この幻楼で死人を出すつもりは無かったのだろう。死んだと錯覚した者は直ぐにオアシスへと排出されていたのだから。
「……誰ぞが精霊の『幻楼』に囚われたのかと思いきや……」
嗄れた声が響く。そろそろと目を開いたエイヴァンの前には人間種が立っていた。褐色の肌を包むのは深き紅色のヴェールか。
老女の背後にはこちらを伺う金の瞳の娘が立っている。幻楼を越えた事に気付きセララはほっと胸を撫で下ろした。
「お騒がせしてごめんね。ボク達は皆に危害を与えるつもりはないよ」
セララの言葉にヴェールの老女はでしょうなと頷いた。そのつもりであったならば『関門』は聳え立ち、オルドネウムを斃すことも出来なかっただろうと。
ルアナもそれは感じていた。クスィラスィアに入るに相応しいかを見極められていた。故に『入ることを許可』された瞬間に自身らを包んでいた霧は晴れたのか。
「砂の精霊が認めてくれたから此処まで辿り着けたって事でいいんスかね」
「勿論。砂の精霊がお認めになったと言うならば、皆様をお客人として迎え入れます。いいですよね、おばば」
金の瞳の娘に老女は些か躊躇った表情を見せたが直ぐに頷いた。大仰な髪飾りに、千夜一夜と物語を育んできたかのような華美な装飾を身に付けた彼女は周囲で伺い見る里の者達の中では一際目立った存在だ。
「あ、わたしはЯ・E・D。イレギュラーズだよ。貴方達と友達になりに来たんだ」
安心させるようにとЯ・E・Dがそう告げれば、金の瞳の娘はぱちりと瞬いた。
「ああ。私は竜信仰(クスィラスィア)の今代の巫女付き、リクルスと申します。砂の旅人の皆様」
「砂の旅人……?」
ルアナが首を傾げればセララは「砂の精霊の試練を越えたから?」とリクルスへと問い掛けた。
「ええ。あの幻楼を越えた方は皆、その様に呼ぶのです。ご紹介が遅れました。里長であり、巫女であるスィアリェア……おばばです」
おばばと呼ばれていたヴェールの老女は「おばばで構いませぬよ、砂の旅人殿」と嗄れた声でそう言った。
遺跡の地下空間と洞穴を繋げているのか、外から伺い見るよりも広々とした里内には30人ほどが共同生活を営んでいるのだろう。
その最奥には祭壇が存在して居るのが窺い見えるがその当たりには立ち入ることは難しそうである。
「驚きました。此の地を知っていらっしゃったのでしょう? そうでなくては精霊達は許しはしません。
時折、フリアノンの方が『此処を教え』て交流する事はありますが、そうでもなさそうで……どうしてこの場所を知ったのかを教えていただいても?」
問うたリクルスの声音は固い。美咲はその真意を察する。不安になるのは当たり前だろう。此れだけ厳重に精霊達が守った土地を誰かの縁故ですらなく訪れたのだ。それがまさか『練達の作成したバーチャル空間でフリアノンの亜竜種と出会ったから』だと言うのだから。
「……話せば長くなるのだが、到底理解出来る者でもないだろうし、納得して欲しいわけではない。真実であるのは確かだが」
困り顔で肩を竦めたラダに「お話し下さいませ」とリクルスは頭を下げた。
「――……はあ」
随分と気の抜けた返答になった。彼女たちにとってはそもそも練達という国が遠い異国なのだ。ラムダはこの反応で当たり前だろうと肩を竦める。
「それで、亜竜種の皆さんを目指して、此処までいらっしゃったという事ですね」
ベネディクトは「余りに急な話で申し訳ない」と彼女等に告げた。首を振ったリクルスではあるが、理解にはまだ遠いのだろう。困惑が見て取れる。
フラーゴラとエクスマリアは顔を見合わせる。これ以上にどう説明すれば良いのかも分からない。此の地に到達し、迎え入れられた事をまずは感謝する事しか出来ないだろうか。
「一先ずは、おばば、どうしましょう」
「聞いておりましたからな。そこの赤毛の娘が我らの信仰を冒涜する事もなければ、静かなる暮らしを壊す事が無いとも言っておったでしょうに。巫女は『幻楼』のことは見えておりますからな」
老女の微笑みを向けられたヴァレーリヤはしっかりと頷いた。自身らは『関門』たるオルドネウムにしっかりとその言葉を伝えてやって来たのだ。
腹を空かせているアルミラージに「何か食事を与えてやりなさい」と告げるスィアリェアにフルールは「あら」と瞬いた。
「何かいただけるの?」
「我々もラサでの食事と同じ者を取っておりますか期待に添えるかは分かりませんが」
此処は一応ラサなのでと告げるリクルスは此の地からフリアノンにも物資を運んでいるのだと告げた。
大きな文化の違いが無いのは生活をより豊かにするためなのだろう。だが、彼女等が近寄ることを赦さぬ『祭壇』の向こう側に広がって居るであろう『尾』を辿った先には大きく文化を違える存在が棲まうて居る事だろう。
「……簡単なことを聞いても? 幼馴染みが竜の姿をして居てな。……此の地に所縁があるのではないかと考えたのだが」
「亜竜種は余り外には出ませんからな。覇竜領域の者ではありませんでしょう。そも、亜竜種は所詮は人の子。
我らと姿を違えただけで獣種や海種などとは大きく違いはありませぬ。赤子がこのクスィラスィアを抜けて往く事はできませぬ」
首を振った『おばば』ことスィアリェアにエイヴァンは頷いた。彼が幼馴染みのルーツを探したいという気持ちに水を差してしまっただろうかと気の毒になったスィアリェアは「亜竜種は嘗て分たれたと聞いております。幼馴染みの方が異邦人であろうと、亜竜種であろうとも、良き未来を歩まれる事をお祈り致しましょう」と目を伏せた。
リクルス曰く、リヴァイアサンがあの海に眠っていたように。竜種と共にその身辺の世話をするべく居住地を各地に移した者は居るらしい。
彼等から得られる情報もあるだろうが、交流はまたの機会か。
ヴェルグリーズは此の地への来訪の理由を告げた。先程の説明の通り此方は『フリアノン』を知っているのだから。
一先ずは此の地に辿り着けたのだから『その先』を目指さなくてはならないだろうか。
覇竜観測所の面々のかんばせを思い出しアレクシアは「先に進むことは出来ますか」と問うた。緊張を滲ませるアレクシアの傍らではシラスが固唾を呑んで見守っている。
「リクルス、フリアノンに伝令を出しなされ。
……『砂の旅人』殿、申し訳ありませんが彼等にとっては貴方方は見知らぬ存在。居所へと踏み入れるのですからその許しを乞わねばなりませぬ」
スィアリェアにヴェルグリーズは「いきなりお邪魔しては驚かしてしまうからかい?」と首を傾げる。
琉珂と会いたいとそう願う卯月にとっては『お預け』になって仕舞うが致し方あるまい。ヴェルグリーズも卯月も彼女等の答えを待つだけだ。
強行突破をしたとしても良い事はないだろう。『竜骨の道』を守っていた隠れ里の民達だ。亜竜種へと使いを出し許可を得てから道を開放したいと言う事だろう。
「幾許か時間は掛るでしょう。未知なる貴方方を『理解』して貰わねばなりませぬ。
……かのフリアノンの里長は度々、市中を見て回ってましたからね、理解は早いでしょうが……」
「里長とは」
問い掛ける愛無はベルゼーの存在を予感していた。そうだ彼は冠位魔種として練達のデータベースにも記載されていた。
『暴食』を司った彼が現実世界でもフリアノンの長であれば。
「年若い姫君が後を継がれましてな。琉珂と申します。彼女一人であれば容易に迎え入れてくれましょう。
ですが、里内の皆に『砂の旅人』殿の来訪が認められるかはまた違う。暫し時間をいただけますかな。時が来たら――直ぐに迎えを出しましょう」
スィアリェアに愛無は頷いた。ベルゼーの存在は、どうやらこの里では認識されていない。現実とネクストでは大きく違うのだろうか。
卯月は琉珂と言う名に胸を高鳴らせる。ああ、彼等が友好的な存在であれば良いのに。
もしも二人が敵であったなら? もしも此方に手を伸ばしたら? 大好きな彼の方と悲劇の如く分たれてしまうかも知れない――!
少女の感傷とは対照的に此方でも友好的に手を取り合えることを夢見る夏子は「リュカちゃんが却下しないなら何時か逢えるかな」と声を弾ませた。
その時には仲良くなりたい。アレクシアや焔が望むように、そしてシラスとアーリアが乞うた魔種への対応も進むかも知れない。
クーアは「それは任せていいのですね?」と確認するように問い掛ける。
「ええ、屹度――その時が来たならば使いを出しましょう。『砂の旅人』殿。
蜃気楼を越え、此処まで馳せ参じてくれたその勇気を我ら『竜信仰(クスィラスィア)』の民は亜竜種様へしかとお伝えさせていただきましょう」
約束は違えず。
此の地には『精霊達』が屹度また招いてくれる。その時まで『次を』心待ちにして居てくれと老婆は恭しく礼をした。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
辿り着いた隠れ里クスィラスィア。
棲まう人々は皆さんの到着に驚きながらも、『先の者』達にも伝達を行ってくれるそうです。
異邦人である皆さんの来訪を受入れる体制が整った頃に、もう一度彼女たちが連絡をくれることでしょう。
どうかその時を楽しみに……。
GMコメント
夏あかねです。ネクストでは『竜域踏破』クエストのクリアをおめでとう御座います。
現実世界ではまず『クスィラスィア』を探しに行きましょう。
●目的
隠里『クスィラスィア』へと辿り着く事
●本シナリオで出来る事とは?
本シナリオはクエスト『竜域踏破』の結果を踏まえ、現実でも覇竜領域に存在するであろう『フリアノン』への到達を目指すシナリオです。
本シナリオでは『クスィラスィア』への到達を目的としています。クスィラスィアがどの様な場所だろうかと推測してみるのも良いですし、『幻楼』のダンジョンに挑んでみるのも良いでしょう。
場所そのものも『不定』です。非戦闘スキルを使用して探してみるのも良いでしょう。(竜域踏破にて、道を辿って『砂嵐に到達した』イレギュラーズが一人だけだった為、情報精度は低く見積もられています)
●情報精度
このシナリオの情報精度はD-です。
基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
不測の事態は恐らく起きるでしょう。
●探索地点(ラサ南部スポット)
イルナス・フィンナら砂の幻想種が拠点とする『砂の幻想種の里』が点在する南西から更に下った地点が探索スポットです。
周囲には古代遺跡などが点在しているほか、精霊達が遊び回っている様子が見られます。まさに自然しかない空間です。
人気無く、古代遺跡は砂に埋もれている者も多く見られます。古い集落跡や獣の住処なども点在しています。
●隠里『クスィラスィア』
ネクストでのクエスト『竜域踏破』で得た情報よりその名を入手しました。
何らかの防衛魔術で蜃気楼が張り巡らされていることが推測される竜信仰の一族の隠里です。
里には『竜骨の道』と呼ばれたフリアノンへ至る為の通路が存在して居るとされています。
以下は、竜域踏破で得られた情報(プレイヤーが入手したアイテムを覇竜観測所が解析した結果)です。
・クスィラスィアはラサの南方に位置しており蜃気楼の中に存在する。
・蜃気楼に近付く『場所を知る者』を妨害する魔術は訪れた者を『幻楼』に捕える。
・『幻楼』とは即ち、砂の精霊による固有結界であり、不可思議なダンジョンを作り出す。
(ダンジョン自体は罠が張り巡らされ、ドラゴンが追いかけてくるなど精霊の悪戯を思わせる程度のようです)
・『幻楼』を打ち破りしものが里の真の名『クスィラスィア』を知っているならば里へと至ることが出来る。
どうやら出入りの鍵を得ていない者は里へ辿り着くための試練が存在するようです。
砂の精霊達が作り出した蜃気楼は強固な結界であり、場所を推測できない者には試練を受けさせることも無くその場には何もないと認識させます。
●『幻惑の蜃気楼(幻楼)』
クスィラスィアへ至る者を妨害する砂の精霊の魔術です。幻術とも呼べます。
クスィラスィアを知らぬ者はこの幻術に掛ることも無く、気付けば近くのオアシスに辿り着いています(ファンやディルクがそうでした)
皆さんは如何した事か真っ白な竜の骨の道を辿っている幻影を見ます。
道は果てしなく続いていますが、其れなりに休憩ポイントなどは存在して居そうです。
その中で出てくるのはドラゴンやワイバーンなど。まるで『竜域踏破』で倒してきたモンスター達が関門のように襲い掛かってくるのです。(強さはデスカウントを重ねるほどではなさそうですが……)
モンスターの例:
関門竜『オルドネウム』、ワイバーン、サイクロプス、ロック鳥、巨大ワーム『リンノルム』、ハイドラ、ピアレイ etc……
砂の精霊は皆さんがクスィラスィアへ至るに相応しい存在であるかを見極めます。
つまり、武力で越えて来て欲しいわけではないのでしょう。工夫してクリアしてあげてください。
●同行NPC
・イルナス・フィンナ(p3n000169):ラサの傭兵団『レナヴィスカ』の団長。ディルクの副官のような女性です。皆さんをサポートします。
・陽田 遥 (p3n000155):練達からサポート役として付いてきました。戦いには向きませんが情報の解析などを担当します。
●同行者がいる場合
多人数となりますのでプレイング冒頭にて【名前+ID指定】【グループタグ】で教えて下さい。
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