シナリオ詳細
竜域踏破
完了
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
オープニング
●ネクスト patch2.0『遥かな東と竜の脅威』
イベント《Genius Game Next》 クリア評価値がA(最大S+)――
update:2.0 エリアデータをRapid Origin Onlineにインストールします。
――――『『竜の領域』がインストールされました』
混沌大陸において南方の山脈地帯は安易なる立入りを禁止されている。
渇いた大地を潤す恵みの雨も怖れるように雲を割く、覆い被さる黒き影は何人をも竦ませた。
天を裂いた慟哭。地をも包み込む闇。それが1つの生命体による物であるなどと、誰が考えるだろうか。
否、此れまで幾重もの戦いを越えて来た勇者は識っているはずだ。
――《竜種》
それは絶望の海で廃滅の呼気を吐きながらイレギュラーズを圧倒したリヴァイアサンのような。
それは熱砂吹き荒れた麗しのオアシスを襲い来た水晶の骸、ライノファイザのような。
小さき定命の人の子をせせら嗤う脅威。
それらは混沌大陸でも早々お目に掛れやしない。
その伝説を目にしたくば死をも覚悟せねばならない覇竜の領域デザストルの奥地へ行かねばならない。
だが、ネクストは易々と。
イレギュラーズ達に『ご褒美』を与えるようなつもりでその場所を『実装』して見せたのだ。
険しい岩山に、入り組んだ渓谷、全てを覆い隠す森……。
MAPに描かれた情報を見るだけでもその道が過酷である事に気付かされる。
……だが、MAPは未だ立入りが禁止されている。
――クエストが発生しました。地点《伝承 王宮》 クエスト依頼人《フォルデルマン二世》
どうやらクエストの受注を以て開放が為されるのだ。そうした所までも如何にも《ゲーム》らしい!
●覇竜観測所
ネクストにもその場所は存在して居た。フォルデルマン二世の親書を手にしたあなたの向かう先には古びた屋敷が存在して居た。
その周辺には研究棟が連なり、竜の領域の至近にまで観測塔が存在して居る。防波堤や堤防を思わせる高い塀を有したその場所は大陸各国の寄付を受けて運営が成されているのだろう。様々な国家の特色が入り混じった不可思議な空間であった。
――砂嵐をも撃破することの出来た勇者達よ。未踏領域へと踏み入る事が可能となったらしい。
彼の地は《竜の領域》、竜種と呼ばれる者共の巣窟である。伝説、伝承、それらに触れてみる気はないか――
伝承・国王陛下からの直々のクエストである。
彼からのクエストが発生した時点でエリアマップは広がり、立ち入ることが出来なかったこの場所まで進むことが出来るようになっていたという訳である。
……今までも此の地まで近付くことは出来たが固く鎖された屋敷の門はさながら国境を隔てる塀のようであった。
「わ、もう到着してる!? ラ、ラナさん、どうして言って下さらなかったんですか! お待たせしちゃった……」
「声は掛けたが望遠鏡を話さなかったのは誰だ? 国王陛下さえ待たせるお前が勇者を待たせるくらい如何という事でも無いだろうに」
その場所を――《覇竜観測所》を眺めて居たイレギュラーズの元へと走り寄ってきたのは柔らかな白銅色の髪を持った少女であった。
幼さを滲ませるが彼女は成人した立派な女性である。フォルデルマン二世は『クエスト受注の際』に言っていた。
――伝承王国の貴族の娘が覇竜観測所の所長を務めている。エルヴァスティン家の才媛だ。力になってくれるだろう――
「申し遅れました。私は伝承貴族エルヴァスティン子爵家が三女、ティーナです。宜しくお願い致します。
覇竜研究所にようこそ。皆さんの訪問を所員一同歓迎致します! ……あまりおもてなしも出来ないような場所ですが」
「ティーナ、違うだろう。無謀な挑戦者達だ。もてなすのは私達では無く竜種、そうだろう?」
所長ティーナの背後に立っていたのは観測所の警備を担う幻想種ラナ・グロッシュラーである。
「そんな。竜種のもてなしなど恐ろしい事ではありませんか。……いえ、けれど、彼等を間近で見られるのは素晴らしいことでしょうね!」
瞳をきらりと輝かせた研究員レーン・クレプスキュルもラナと同じ幻想種である。翡翠の奥深くに『引き籠もっている』筈の彼女達も参入しているのは何とも不可思議な様子にも思えた。それだけ竜種という存在は人を惹きつけるとでも言うのだろうか……。
「そのデータを私達に齎してくれるというならば実に興味深い。キミはどう思う? ミロン」
「……少しばかりモンスターの動きが活発になっているようだがね。危険は承知の上なら、進入も構わないだろう」
ルーク・ドリーマーの問い掛けに観測塔より通信を介してミロン・メレフの言葉が届けられる。
「国王陛下からのご依頼だって言うなら、ミロンさんとて、そりゃあ断ることはできないでしょうに。意地が悪いですよ、ルークさん」
「そういうローリンは彼等が此方に圧倒されている間に国王陛下からの依頼内容を把握しているとは……」
ルークの溜息に笑顔を返したのは『ラインの黄金』とも称される商人ローリン・ヒルデヴォルクである。
フォルデルマン二世は政治的見地からこのクエストを出したのでは無い。勇者達に冒険を与えようと提案してくれたのだろう。つまり――真なる『勇者であれば冒険してこそ』なのである。
「こほん!」
咳払いで場を整えるティーナは「アウラさん、竜種及び亜竜種の行動予測を頂けますか?」と通信機を介して屋敷内部の研究棟へと伝達を飛ばしていた。
「はいっ、領域内から亜竜達は出てくる予測は無いけれど、内部で……ヴァンジャンス岩山でモンスターが活発化してるのはミロンの言う通りだよ。
第一の関門はその辺りかな……。ピュニシオンの森にまで辿り着けたらそこにサクラメントを設置して貰えばいいかも?」
「そうですね。拠点を幾つか設置しながら進んで貰う事になるかと思います。
逐一私達は《行動予測》《観測情報》を皆さんのマップに展開しますが……私達が思う以上に竜は知能を有している」
「……ただのモンスターって訳じゃないって事さ。怖じ気着いたならクエストを破棄しても構わない」
ラナさん、とティーナは非難の視線を向ける。彼女は伝承貴族の一員、救国の勇者達に対する期待は人一倍強いのだろう。
「こほん! 竜の領域は危険です。竜だけでは無く存在するモンスターも全て格上です。
此れより先は『未知の領域』です。踏み入れるならば死を御覚悟下さい。……どうかお気を付けて」
――イベント情報が更新されました。
patch2.0『遥かな東と竜の脅威』
クエスト名 《竜域踏破》 クエスト内容 《竜の領域を踏破せよ――》
- 竜域踏破完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2021年08月27日 17時00分
- 章数4章
- 総採用数620人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
――デポトワール渓谷。
ヴァンジャンス岩山を登り切った先、山頂から見下ろすことが出来た渓谷だ。
此処からは下りになります。草木は茂ること無く、荒廃した岩山が連なっているその山を下りきればデポトワール渓谷に入ることになるだろう。
屍が転がり肉食のモンスターが多く存在することが推測される。荒廃しきった渓谷ではあるが、草木が増え、沼地が無数に存在して居るようだ。
……足下には気をつけておきたい所だ。
《行動予測》
・当地域ではモンスターが活発に動き回っている。
・ワイバーンが複数体イレギュラーズを向けて襲い掛かってくる。岩山を下る際には急いで渓谷まで逃げ切ることが必要となるだろう。
・竜種が出現しない区域であろうと推測される。その為か、モンスター及び亜竜の行動が活発となっている。
・ピアレイやハイドラの観測域だ。注意されたし。
・人が立ち入ることで飢えたモンスターが多く集まる可能性もある。隠れる事、非戦闘スキルの使用や工夫も念頭に入れて欲しい。
《観測情報》
・ワイバーンが複数体イレギュラーズを追っている。餌と認識されているだろう。
・ハイドラの存在視認済み。避けては通れない。
・複数の亜竜の巣を視認済み。索敵に注意されたし。
・岩山中腹付近にサイクロプスの住処を視認済み。避けては通れない。
『――以上、観測所からの情報です。
岩山にはイレギュラーズが設営した拠点があります。利用しながら、進軍して下さい。ご健闘をお祈りしています!』
第2章 第2節
「うん、いい眺め。これなら空からの偵察は今回は無くていいかな」
眼下に広がる景色は美しい。スイッチは開けた景色をまじまじと見下ろした。頂きに辿り着けばどれ程にヴァンジャンス岩山が難関であったかが窺える。
「登山ってのはさ、登る時より降る時の方がヤバいのよ」
そう口を開いたのは指差・ヨシカである。その昔3000m級の山に登ったことがあると告げれば、スイッチは感心したように「へえ」と頷いた。
「登山家?」
「自発的? ……まさか、学校の行事。登りは良かったよ、おやつに持ってきたスナック菓子の袋が気圧差でパンパンに膨れたりして楽しんだの」
其処まで語ってからヨシカはセピア掛った思い出をなぞるように溜息を吐いた。
そう、問題は下りだった。意気は良い良い帰りは怖いとは言うが、まさにその通り。ヨシカはほんの少し脚を滑らせた。当たり前の事だが、山頂よりその体は一気に転げ落ちる。誰かが手を掴んでくれなかったら命の危険さえ感じるほどの――
一度走り始めたならば、これだけ急な坂道だ。止るわけがないのである。
「なら、いっその事突っ切ってやるわ!」
ヨシカは勢いよく走り出した。何か使用できる非戦闘スキルを有するわけでも無い。つまり、突っ込んで現況を後方の仲間に見せる事が己の責務であると坂を下るのだ。
「言わば地均しね、行くわよ」
その様子を眺めていたΛは飛来する複数の亜竜にああ、と溜息を吐いた。
「これは完全に餌認識されて補足されているなぁ……さて、どう立ち回ったものか。
よし……どうせこのままだとジリ貧だし亜竜の巣かハイドラにうまく立ち回ってぶつけるか……」
出来るだけ引っ張って、互いにモンスター同士で潰し合わせれば良いか。走るヨシカの後方より放つのは挨拶代わりの連装魔導噴進砲。
得ていたパッシブスキルにより自在に空を飛ぶΛを見上げる『クマさん』は嬉しそうにぴょんと跳ねる。
「ワイバーンに追いかけ回されるとは、貴重な体験です。
しかしこのままやられるのも癪ですね。こうなったら可能な限り引っかき回しましょう」
――そうなのだ。ハルツフィーネの言う通り、先行しだしたヨシカやΛを狙うのはワイバーンである。
スイッチは低く飛びながら、ワイバーンを狙うΛと共にその注意を引いていた。
「餌と思われてるようだけど狩るのは俺たちの方だって、分からせてやらないとね」
「はい、けれど流石は亜竜……此方の分は悪いでしょうが『注意を引けば』走り抜けられる可能性は高まります」
クマさん=エンジェルは翼を得てすいすいと進み始める。テディベアが宙を踊る様子はワイバーンにとっても違和感の塊だ。
確かに亜竜は強い。だが、クマさんにだって意地があるのだ。
「クマさんは地上では最強ですが、空でも強いです。そう簡単には、落とされません」
全員が行動開始。ワイバーンに追いかけ回される状況が始まった。
死の鬼ごっこを眺めて居たイルシアは驚愕に息を飲む。
「なんて事、エルシアちゃんの足に合わせてたら逃げ切れないわ?」
彼女は『エルシア』と共に居た。8歳程度の外見に見える少女は『母』を驚いた様に見上げている。
「……違うのよエルシアちゃん貴女のせいだって言いたいんじゃないの、私が可愛い貴女を嫌いになる訳がないじゃない。
だから私が言いたい事は……一緒にワイバーン達を燃やしましょって事!」
中々に勢いが良いので在る。イルシアはそっとエルシアの手を握りしめる。仲睦まじい親子が手を繋ぎ歩くように、だ。
「エルシアちゃんに、綺麗な“竜”星雨を見せてあげたいわ。ファイアストームに巻かれた彼らの皮翼は、どれほど綺麗に燃え上がるのかしら?」
にんまりと微笑んだイルシアに迫るワイバーン。だが、彼女は何時も通りの笑みを浮かべていた。
「ふふふ、怖がらなくてもいいわ可愛いエルシアちゃん……だって、どんな時も私達は一緒なんだから……ワイバーン達に食べられる時も」
――それって、良いのだろうか……。
成否
成功
状態異常
第2章 第3節
「思ったより進行が速いな。先のパターンからするとつまるところ、エリアでボスを倒せば進めるようになるらしい」
CyberGhostは推測する。横道に潜んでいた巨大なワームの巣を走り抜けて山の頂に辿り着いたイレギュラーズ。
困難を退ければ、先に進めるのではあるまいか。周囲の仲間達と足並みを揃えて進むとCyberGhostは決めていた。
「ハイドラまでさっさと到達することが重要事項だろうしな。
元の混沌にも亜竜種の目撃例は少ない。この世界が計算の結果予想する亜竜と言うのも少し見ておきたいしな」
亜竜そんものは現実世界では覇竜領域に『引き籠もっている』事も多い。早々お目に書かれる存在では無い。
だが――ハイドラ。それは現実で嗅いでの己が使役する『ハイドロイド』に似通った存在なのだろうか。一抹の不安が過るのだった。
――ステージ2をスタートします。
スクエアは動きやすさを重視して『~』の形を象っていた。ワーム状態でするすると進んでゆく。
体表の色合いは地形に似通った岩肌を思わせるが、敵からの視認性を下げる事は有用そうだ。マップをチェックしながら進んでは居るが――例えば、そう。
『バーチャイレギュラーズ』で作り出した幻影にワイバーンが食い付くことは多い。端的に言って狙われている。
地上を進むスク絵の傍らを野生の魚のように『全力ダッシュ』しているのは蕭条。
「渓谷まで一目散に走りぬけます野生の魚のようにぃぃー!!
どなたかが渓谷に辿り着ければ良いのですから、とにかく全力で走って……いやこの場合は泳いで? ……思い返せば、私、どうやって走ってるんでしょう?」
気持ち的には二足歩行だがアバターは『すい~』と言う感じの蕭条は懸命に逃げ続ける。
「ああ……再会、嬉しくないです……」
飛来するワイバーン。まさに、川の中を泳いでいると突如上から鳥が食い付いてきた気持ちで或る。尾ヒレをしょんぼりさせながら蕭条は懸命に進んでいた。
「一度デスした分、今度は簡単に死んでやりません。八つ当たりに燃えますです」
成程、ワイバーンが上から来る。ならば、かぐやは頭には(・◡・*)を。体にはワイバーンに食い散らかされたのであろうモンスターの屍を纏ってずんずんと進んでいた。
味方、例えば、傍で見て居たすあまにとっては異様な存在が進軍しているようにも見える。
「上手くいけば儲けもの、ということで、モンスターなりきり作戦、いざ開始! 騙し切ったらご喝采! かぐやちゃん大進撃、ですわ!」
匂いも、姿も、何もかもが『異様』としか言いようのないかぐやが進む背中を眺めるすあまは「凄いのが歩いてる……」と呟いてからそっと周囲を見回した。
「あ、緑が見える。ちゃんと草も木もあるんだね。ここの生き物みーんな肉食です! って顔してたからこの先ずーっと荒野が広がってるのかもって思ってた!」
「そうですね。ですが、森が挟まることを考えれば此れから植物が増えてくるのでは無いでしょうか?」
問うたファン・ドルドにすあまはこくりと頷いた。「下りですか。ならば、飛ぶのが速いですね」と提案する彼は低空域を飛行する。すあまも同じくラダに抱き抱えられて『びゅーん』と空を飛んでいた。
「例えば、上からびゅーんっとワイバーンが来たり。見下ろしたら見える沼地からざばーって出てくるのかな。
水の中って何が居るんだろう? 普通のお魚も居るかな。それか、怖いモンスターかも!」
にんまりと笑ったラダにファン・ドルドは「上空から現われるワイバーンは分かりますが、沼地には『何か』が潜んでいるでしょうね」と肩を竦めた。
ワイバーンだらけではあるが、この坂道を追いかけられながら下りきるのは少々骨が折れそうだ。
仲間達が『餌』となりながら走り降りてゆくが、目指す渓谷までは空ルートでは『ワイバーンによる襲撃』が中々に激しい。
「成程……戦闘を行うのでは無く、逃げ切り渓谷まで進めばワイバーンは少ない様ですね」
「本当?」
「ええ。見て下さい。彼等は山頂付近を根城にしていますから。喰った遺骸を渓谷に落しているようで……つまり、追いかけられながらも下りきれば問題は無いでしょう。
未知領域の踏破範囲を広げ、後続の仲間に情報を提供する事を役目とするならば。これは先駆け、抜け駆けは欠かせませんからね」
ファン・ドルドは着実な攻略は後続に任せ、先ずは山を懸命に下っていた。
すあまが「彼処に何か住んでるのが見える!」と叫ぶ。山の中腹付近に見えた『穴』は岩山をショートカットするのに使用できる可能性を鑑みてファン・ドルドは「目指してみる価値はありますね」と頷いた。
……頷いたが後方から現われるワイバーンは無慈悲にも捕まえに来るのであった。
成否
成功
状態異常
第2章 第4節
「直近の障害はワイバーン、それを越えたらピアレイやハイドラかな。
ピアレイ……水の……もじゃもじゃ……いまいちイメージが湧かないな」
そう呟いたのはイズル。ワイバーンは機動性が高く、空からの俯瞰も可能である。遮蔽になる様な樹木も存在して居ない。
さて、如何したものか。悩ましげなイズルは「振り切るのは難しそうかな。こちらは5人、いけるだろうか?」と首を捻った。
「さて……今までワイバーンの事は避けて通っていたが、今回からはそうもいかないな」
どうしたものであろうかとスキャット・セプテット自身も悩ましげである。
「グレイ、『初デスペナ』の感想はどうだ? まぁ現実で死ぬのは許さねーが、危険を越えるほど男は磨かれるものじゃねーの。
派手に邪魔な物をなぎ倒して行きたいが、今回もそうは行かないみてーだな」
崎守ナイトが屈託無く笑うその笑顔をちらりと見てからグレイガーデンは「あっという間に死んでたし! 油断大敵!」と呻いた。
「ええと……探索とかはまだ準備が……雑草なら美味しく食べられるけど、その雑草もそもそも全然ないけど!」
「……ところでグレイは雑草ムシャムシャ君なのか?」
グレイガーデンにスキャットはどうしたものかと言うようにちらりと見遣った。
「設営された拠点の物資や環境を見ておければ、次回閃く作戦もあるかもしれませんね。
色々と考えて進んだ方が良さそうです。身を隠すことは出来るでしょうが、ワイバーンに見つかったならば、出来るだけ視界を遮った方が良さそうです」
九重ツルギの冷静な判断にスキャットは「進もう」とずんずんと進軍してゆく。五人でならばなんと名駆るような気がしたのだ。
「イズルのいう水のもじゃもじゃ? どんな攻撃して来るんだろうな。何が来ても、社長舞踏戦術でブッ倒すぜ!」
「もじゃもじゃは銅だろうね。ハイドラやピアレイの住処は沼地だろう。其処まで進まなくては為らないけど……。
其処まで進んだらツルギさんの事は運ぼうか? 高く飛びすぎないように注意するから」
やる気十分のナイトを見詰めていたスキャットとグレイガーデンは音を迂回しながら山を進み、イズルは先を見下ろしてツルギを見遣る。
イズルに身を任せるのならばツルギにとっても幸運だ。喜ばしいと微笑む彼は「何か来ますね」と囁いた。
「何!? ワイバーンが来るぞ!」
ナイトは真っ先に躍り出る。スキャットは足止めを行い、為るべく遠くマッピングが後続部隊の糧になる筈だと走り出した。
「ワイバーンか……空飛んでるってことは、腹はそれほど弱く無さそうだよね、地上に晒した格好になるし。狙うなら翼か……口の中とか……?」
「口? グレイは食べられるのか?」
「い、いや、そんな――」
フラグみたいな、と呟いたグレイはワイバーンの鳴き声を聞き、引き付けるスキャットに声を掛ける。
「ちょっと降りてきて貰わないと届かないかもしれないけれど、それってあちらが攻撃してくるタイミングって事だよね。噛み付かれてそのまま持ってかれないよう気を付けて!」
「HAHAHA! そんな――」
「しゃ、社長ー!?」
ナイトがずん、と掴まれる。くそ、と呻いたスキャットはツルギとイズルに先に進んでくれと叫んだ。
岩山の『下り道』は先程と同じだが、ワイバーンが脅威である。先程と同じく騒ぎを聞きつけたサイクロプスなどが顔を出しては問題だ。
「出来るだけ進んでくれ。此処は食い止める!」
「食べられたくない……けど、弱いなら口の中!」
グレイガーデンは『色々な詰め合わせ』でワイバーンを戒めた。その体を包み込む雷の気配に翼がばさりと開かれる。
効果があったと拳を握るが――成程、ワイバーンはそうは甘くはなさそうだ。
成否
成功
状態異常
第2章 第5節
「おー、山のテッペン制した的な? でもってこっから下りでさらにヤバいわけ。なるなる。
まーうちらは賢くパないチームなわけで? つまりいきなりブッこむわけじゃなくちゃんと用意周到なインテリちゃんなんだなー!」
ふふんと胸を張ったのはエイル・サカヅキ。全員で飛行してなるべく足を取られないように。
そう提案するエイルにアレクシアは「頑張ろうね!」と意気込んだ。
「やっと岩山を抜けたー! と思ったら今度は下るんだね! まだまだ竜種への道のりは遠そうだ!」
先行する鳥たち。下る道はまだまだ続きそうだが、緑が見えるだけで少しは気が休まるというものだ。だが、景色が変われば存在するモンスターにも変化がある。
「まさに山あり谷ありってわけだ。ワイバーン、ピアレイ、ハイドラ、サイクロプスとなんだっけ? どう進んでも敵とぶつかると思った方が良い」
神妙にそう言ったシラスは仲間の代わりにモンスターを引き付ける囮役を担っていた。
シラスの隣ですいすいと進んでいくのは『サメちゃん』こと精霊である。見下ろせば距離も遠く感じられる渓谷にスティアは「餌場ってことで獰猛な肉食獣とか多かったりするのかな?」と首を傾いだ。
「ワイバーンが空からやって来て、下る人を餌にしてる――ってのは分かりやすいが、そうした残骸を放り込んでるんだろうな」
「綺麗好きってこと?」
首を捻ったスティアにシラスは「龍については分からないことばかりだからな……」と呟いた。
「あそこがデポトワール渓谷、今度はどんなものが待っているのかしらね。
……まずはここがどんな場所か知る事から始めましょうか」
慎重に進むことを提案する吹雪は先程までの『昇り』と比べれば下りに道にはモンスターの残骸が多数見られ、亜竜の巣やモンスターの棲家が多く見える。
「洞窟内を通って来たからあまりちゃんと確認出来たわけではないけれど、昇りの岩山ではあまり見かけた記憶はないわよね?」
「そうだね。って事は餌場なのかも。うーん、何だかモンスターの死骸がたくさんでちょっと怖い感じ!
ハイドラは首がいっぱいついてるやつで、ピアレイはどんなだっけ……もじゃもじゃした感じのだっけ? 本で読んだことがある気がするよ!」
アレクシアに吹雪は「そいつらが食べてるんでしょうね」と呟いた。遠く渓谷の先を見遣れば森が見える。
森にまで入ってしまえば外を移動する大柄なモンスター達にとっては餌が得にくいからだろうか。
「こんな風に死骸が落ちているとなると、食べるために狩ったとうのとは違うのかしらね。
縄張り争いでもあったのか……それともこの領域に住んでいるモンスターの墓場、みたいな場所だったりするのかしら」
「屍はここに挑戦した人が死んだやつか、それともモンスターか、近くから連れてこられたか。食べられたのか、それとも侵入=排除なのかもかも気になるね」
其れを問うても答えられるほどに人語を解する知能を有する物は少ないが、投げ入れられているのを見れば『侵入者=弱い=排除』であるのは確かなようである。
「でも、こうやって少しずつ前に進んでいけてるのはいいことだよね! 冒険、って感じもあるし! さあ、どんどんいこうー!」
意気込んだ『観測隊』の五人は早速空を進む。ワイバーンを引き付ける先行隊のお陰で往きはそれ程、苦は無いが――
「エイルさんありがとー! これならワイバーンが襲ってきても大丈夫だね」
スティアがふんすと喜ぶ前で突然サメちゃんが警告するように尾をぶんぶんと振った。
シラスは「言ってると来るぞ!」と天を仰ぎ見る。飛来するのは大柄な翼。だが、何のために5人でいるか。シラスは直ぐさまに引き付け、逆方向へと飛来する。
「今のうちに行けよ、また後でな!」
「返ってきたらお疲れ様の『スティアスペシャル』を準備して置くからね!」
スティアのその言葉にシラスはスティアスペシャル、此の体なら食べれるのだろうか……。そう考えながらワイバーンを引き付ける。
勢いよく下る。エイルは眼前に見えたサイクロプスに気付き「あー真面目に考えすぎた! 頭くるくるぱー! しんど!」と叫んだ。
「万が一的に見つかったらとりま敵をひきつけて、みんな撤退! やべー!」
「返り討ちだー! ……って皆逃げるの!? わー、まってー!」
勢いよく『引き付けて逃げる』観測隊。エイルとスティアを追いかけて、モンスターの巣が其処に存在することを確かに視認したアレクシアはその目から突然放たれた光線に「ビームが出たよ! ゲームだ!」と楽しげに笑った。
(……一つ目だからってビームを出さなくても良いと思うけれど。まあ、それが『R.O.O』のバグって奴なのかしら……)
一行は取り敢えず引き付けながら脱兎の如く走り出し――結果は言わずもがなである。
成否
成功
状態異常
第2章 第6節
「当機の目的は渓谷の踏破ですが、なるほど。まずは下り切る必要があるのですね。
――インタラプトミッション【仲間の滑降を援護する】を発動します。貴方の健康を守ります」
淡々と告げるのはIJ0854。仲間達の支援を行うと宣言する『彼』――パイロットは『彼女』である――の傍らで質実剛健とした『ロボ』とは大きく毛色の違う偶像アイドル・三月うさぎてゃんは「すご~い!」とまじまじと渓谷を見下ろしている。
「それにしても、渓谷ねぇ…………落ちて戻って来なかった人も多そうね。
まぁそれはそれとして! 渓谷だろうがなんだろうが、関係なしに死なば諸共アイドルオンステージ! なんだよ!」
胆力は勇者レベルのアイドルは『アリス』達を死なせないためにと自身が囮になる事に決めていた。三月うさぎてゃんとIJ0854の支援を受けて進むことになるのは夢見・ヴァレ家と夢見・マリ家の二人である。
「ここがデポトワール渓谷……絶景だけれど、なんだか心と身体がピリピリしますね。……此処にいてはいけないと、警告を発しているような」
冷静なヴァレ家の手をぎゅうと握りしめたマリ家は「ヴァ、ヴァレ家!」と怯えたように彼女を呼んだ。
「絶景なのはいいのですが! ここ! なんだかやばそうですよ!」
「はい。強力な敵が多いという噂もありますから、速やかに見つからないように通り抜けましょう」
「ヴァレ家の直感、きっと当たっています! 気を付けて進みましょうね。いざとなったらギフトで合体して駆け抜けましょう!」
「そうですね。付近や上空に魔物の姿がないか警戒しながら、魔物の死体に隠れながら進むのが良さそうでしょうか」
作戦は完璧だ。索敵は怠らないようにと気をつけるマリ家にヴァレ家は早速と進みだし――
「にゃーっはっはっはゲホゲホ! ついに登り切ったが岩! 岩! 岩! 妾、飽きた!
誰じゃあ! 刺激的な旅になるとかおいしいもの食べられるとか言ったやつは! 妾か! にゃはは!」
玲が突如と躍り出て笑う。玲はどちらかと言えば隠れながら動くよりもかっこよくキメて不可避の敵を排除して、頂上で「がはは! この山捕ったー!」位に笑っていたかった訳なのだが――
「とおいのじゃあ! のじゃあ! のじゃあ! のじゃあ!」
セルフエコーを響かせる玲。ヴァレ家とマリ家は彼女が堂々と天より飛来するワイバーンを睨め付けている横を摺り抜けた。
「奥に進めば進むほど、敵は強力に地形は複雑になるというわけだ。まぁ、道理だな。
しかも今回は開けた地形で、天よりワイバーン。成程、進めばサイクロプスの住処が待っている、と。
ふむ……サイクロプスは容易に倒せそうだが、問題は……其れより先のハイドラと推測する。山を下る分にはサイクロプスを退かし、ワイバーンから逃れれば良いが……」
渓谷まで降りてこないワイバーンは玲と攻防を繰り広げている。その支援に当たる三月うさぎてゃんとIJ0854のお陰でワイバーンに接敵せずに奨めていることを真読・流雨は内心で感謝しながら息を潜めた。
「ひええ、近くまで追ってきましたよ! 息を潜めて、見つからないように……」
ヴァレ家にマリ家は「ひぇぇ!! ヴァリューシャぁぁ! こんなの命がいつくあっても足りないよぉ!」と思わず素に戻る。
だが、息を潜めれば、仲間達が進む援護をしてくれる。
「他のアリスたちによそ見してる暇ある? うさてゃんはここだよ!」
ターゲットを集め続ける三月うさぎてゃんは拗ねたように唇を尖らせた。沼地の場所まで一直線に彼等が進めるように。
アイドルは堂々と歌い続ける。サードソロシングル、ファンなら垂涎ものである。
――さぁ! 進め! 私のボルケーノ♪ 君がいなくなってしまっても私がち ゃんと覚えてるから♪
「これより当機はユーザーネーム『三月うさぎてゃん』の援護を行います。貴方の健康を守ります」
「ええ! 二人でアリスを先に進めましょう?」
IJ0854が心がけたのは出来るだけイレギュラーズをサイクロプスの住処に届けることであった。一糸乱れぬ修練はそうすることに長けている。
一方で目立った玲は「ワイバーン! きさまー!」と叫んでいる。
(……さて、此処がサイクロプスの住処、か)
眼からビームが出るから気をつけて、なんて。可笑しな物にも思えるが、姿勢を屈めて流雨が勢いよく飛び込んだ。
「マリ家、行きますよ! 眼を狙ってサイクロプスを放置して逃げます!」
「分かったよ、ヴァレ家! 凄い近いよ!」
叫ぶ二人に「一撃食らわせたら其の儘坂を下りきってくれ」と流雨は囁いた。その先に待ち受ける沼地に近付けば――さて、待ち受けるのはモンスターか。
足下には注意した方が良さそうだ。
流雨は「此処で、倒しておかねば『死に戻り』も困るだろう。積極的に闘っておこうか」とサイクロプスの一つ目へと竹槍を投げ付けたのだった。
成否
成功
状態異常
第2章 第7節
「……渓谷には亜竜が沢山、ですか。先程囮として亜竜に食われ仲間を逃せた例より、接敵時に生贄を用意しながら進むのはアリかと。
速度重視かつ餌として見られているなら尚更。
しかし捕食未経験の澄恋にはわからないでしょうが……圧倒的威力と素早さ、そして食べられる時の絶望感…正直二度と味わいたくないですよ」
そう告げる純恋の傍らで、澄恋と言えば変わらぬ笑顔を浮かべているのだ。
「わあ〜其処ら中怪物の死体だらけです。わたし達もこうなりつつ進むことになるのでしょうね!
非戦スキルまでとっちゃって、餌にぴったりじゃないですか。
竜域踏破も人体錬成と同じ……一縷の成果には尊き犠牲がつきものですよ? 二回目はきっと こわくなーいよっ」
明るく告げる澄恋が指したのは純恋が得てた『エス・ステガノグラフィー』。つまりは自身はか弱い存在だと認識させる能力だ。
純恋は「まあ、何回も死ねば恐怖にすら慣れるもんですかね……」とぽそりと呟いた。
此度も純恋は囮に。澄恋は調査のために進む。抜け道や比較的安全な道は、と伺えばサイクロプスの巣穴を上手く経由する事ができそうだ。
ただ、その為にはサイクロプスを『外』で倒してしまった方が言い。巨躯が巣穴に詰っては道にもなりやしないからだ。
「さて、サイクロプスを倒してきましょうか。それでは、あなた、か弱いのでしょう?」
――喰われてこい、と。
「ここが噂の竜の領域ですか? さっきから全身のプルプルが止まらないのですが……
ここで怯んでいたらウサ侍の名が廃るのです。だから勇気を出して行きますよ!」
傍らの花嫁たちの会話のせいではないだろうと認識しながらミセバヤはワイバーンから逃走していた。ウサギの聴力に嗅覚、視力を活かして全力疾走。その間にワイバーンの狙いを他に逸らして多くをサイクロプスに向かわせる算段だ。
「渓谷まで生き残るためにはサイクロプスを倒して道を得て置いた方が良いんですよね。降りたらハイドラが待っていますし」
「うん。見えている『穴』――『サイクロプスの巣穴』に到達する為にも、ワイバーンをまともに相手どる必要がありそうだね」
スイッチはミセバヤを狙うワイバーンを引き寄せる。ターゲットスコープで狙い定め、勢いよく推進力で切り込んでゆく。
「おいで、ワイバーン。一緒に踊ろうじゃないか。多少の空中戦なら覚えがある。簡単にはやられてやらないからな」
スイッチと純恋が気を引いている最中に、澄恋とミセバヤが進む。
「次は渓谷だね☆ さぁ、ずざーっと下ろう! さっきの岩山も渓谷も、混沌世界にもあるのかな?
いつの日か現実でも進む時が来るのだろうし。気合入れて探索だー! ……探検するよー☆」
先ずは『穴』だとスイッチに合図したナハトスター・ウィッシュ・ねこは猫たちと共に走り出す。
ワイバーンが来ている、急げ急げと足早に。
「んじゃ、下りはダッシュだな。一回目だから様子見みたいなもんだし、真っすぐ一気に駆け下るぜ!!」
勢いよく坂を下り降りてゆくルージュは真面目な話をすれば闘わなければ絶対に突破できない場所以外は闘わずに走り抜けた方が良いと考えていた。
「もしかして下りも、ここを通らないと森まで行けねーって道があるのかもな。
ハイドラかサイクロプスか、どっちかだけ倒せば良いんだったら楽なんだけどなー。もしくはサイクロプスが簡単に倒せる、とか」
にい、と笑ったルージュはどちらかの強敵に――とスイッチの指した『穴』を目指した。そこがサイクロプスの巣穴だというならば、撃破してしまえば良い。
当たって砕けろの精神なくてはやってられない。竜域は『困難』の前に立ってこそ、なのだ。
サイクロプスは眼からビームを出して攻撃を続けて居るという。だが、それ程の脅威には見えない。一度の攻撃なら耐えられそうなのだ。
「わ、後ろ! やーだ、ボク達は君達のごはんじゃなーい☆」
「……!」
ルージュに行ってねとナハトスターは目配せする。隠れるためのスキルは無くても子供らしくワイバーンを引き付ければ良い。
「こっちです!」
ルージュを呼ぶミセバヤに頷けば、ナハトスターは真っ直ぐにスイッチや純恋の側へと走り寄った。
その間に辿り着いたサイクロプスの巣穴では巨人が膝を折りたたんでイレギュラーズを忌々しげに睨め付けていたのだった。
成否
成功
状態異常
第2章 第8節
「せっかくこれだけのメンバーが集まっているんだし、次は大物狙いでいきたいよね。狙いはサイクロプス。皆で力を合わせて打倒し、道を切り拓こう」
マークの宣言にベネディクト・ファブニルは頷いた。メインアバターの調整を終えて、視界が高い事に驚く彼は一度ログアウトし、仲間達との合流を果たしていた。
「わわ、すごいね! 高いとこまで来たー! でもまだまだ先も長いし、頑張っていこーねベネディクトさ……あれどこー!? わんこは!?」
もふもふまん丸むっちりわんこボディが消え去ったことに驚愕したルフラン・アントルメ。
「あれー! ベネディクトさんポメ太郎じゃなくなってる。リュカさんと合わせたんだ? ラサ風味で二人とも素敵ですよ」
微笑んだタイムの言葉にルフランは『リュカと合わせたラサ風味=人間』だと言う事に気付いて足下ばかりを見ていた視線を上げてぴょんと尾を揺らした。
「はっベネディクトさんが人になってる! あらためてよろしくね、ボス!」
「ああ。今まで犬だった事もあって慣れないがよろしく頼む」
ベネディクトの微笑みにねこ神さまは「ふっふっふ」と楽しげに胸を張る。
「ねこです。よろしくおねがいします。今回はサイクロプスねらいです。ねこより遥かに大きいです。強そうですね。
でも今回はベネディクトさんがポメ卒を果たしましたからね。存在感の大きさで言えばトントンなのではないでしょうか?」
ポメ卒――そんな言い方をするねこ神さまにベネディクトは黒狼隊の一大イベントを作り出したのかと頬を掻いた。さておき、一行は仲間達の支援もあってサイクロプスの巣穴まで辿り着いている。
「さあおいでませボスバトルっ! ふふっ、ふふふふふふ!!!!!!
なんだかこのROOの楽しみ方がわかってきました! だって死なない! 死なないなら私は……僕は『死ぬまで戦える』!!!」
リラグレーテの眸がきらりと輝いた。サイクロプスやハイドラ。その双方を『倒す』事でステージクリアだと考えれば比較的ゲームとして感じやすい。
現場・ネイコも同じくなのだろう。見下ろす渓谷は深いが、其れだけでも感動を覚えるほどだ。
「やって来ましたデポトワール渓谷っ!
ココまでガンガン進んできたけどこうやって進めるのもROOだからなんだよね、きっと。現実じゃリスポーン何て出来るものでもないし……」
例えば、あの山を越えることさえも常人にとっては難しいことなのだろう。そう思えば此れまで立ち入ることさえも難しいとされていたデザストルの脅威を肌でも感じられる。
「――兎も角っ! このまま進めるとこまで頑張っていくよ、オーッ!」
「ええ! ええ! おまけに今は天使(カミ)でも紛い物(ヒト)でもない!
あぁ……楽しい、楽しい……っ! いきましょうベネディクトさん、リュカさん。サイクロプスの目玉なんてプチっと潰しちゃいましょうっ!」
テンションは最高潮のリラグレーテ。ネイコと共に前を進む二人にマークによる『予習』が齎される。途中でワイバーンの襲撃があればタイムが『此処は任せて先に行け!』と挑発し、遠く離れてからリスポーンで黒狼隊を推し進めた。
「へー、サイクロプスね。巨人とは混沌で戦ったばっかだが、1つ目となると初めてかね。
ワイバーンがぶんぶん飛んでるところに住んでるならとんでもねえ実力なんだろうな。楽しみじゃねえか!」
リュカ・ファブニルがにい、と笑みを浮かべる。彼の言葉に頷いたシャスティアはサイクロプスの巣穴をまじまじと見遣ってから輪生態勢を整えた。
「デポトワール渓谷か。色々な生物が棲息しているのですね、此処も。
この様子だと、此処に住む生物達同士も熾烈な生存競争をしている、という所でしょうか……。
転がっている屍から、その辺りの関係も調べられれば役には立ちそうですが、先ずはある程度戦って減らさねばなりませんか」
さて、どう仕掛けるか。シャスティアは意思の疎通を願いたかったがサイクロプスはどうにも『前情報』を聞く限りはそうも易く会話は不可能そうである。
リュティスはと言えば主人の期待に応えるならば文字通り『死力』を尽すつもりである。
「なるほど、今回はサイクロプスを倒せばいいんだな! 向こうもなかなかの筋肉量、俺も負けてはいられないぜ!」
準備運動(ダイナミックストレッチ)は棲んでいる。ダテ・チヒロはマークの齎す予習にうんうんと大きく頷いた。
「交戦した人の情報によると、巨体の割に動きは相当速いらしいから、気をつけて」
「OK、それじゃ、ジョギングから開始だ!」
「皆が安全に通れるように、頑張って倒すのです!」
ふんすとやる気を漲らせたミルフィーユが張り切って武器を準備する様子をトルテは理解不能だと言うように見詰めていた。
「……今回はあのでっかいのを叩けばいいらしい、が……
おまえ、元の世界ではヒーラーの筈なのに何でそんな嬉しそうに前に出れるんだ」
「ひえ? 嬉しそうなのです? んー……普段出来ない事を出来る、から……?」
「……ゲームとはいえ、お前が倒されるところ見るのはあんま好きじゃないから、程々にな?」
そんなにほのぼのと返されたら『死んで欲しくないから前に出ないで』なんて言えないトルテは溜息を吐いて、ミルフィーユの背をぽんと叩いた。
方針はか弱き女性陣が危ないときは庇う。シャスティアは強そう。ネイコも強そう。ひめにゃこは盾。これは前回同様だ。
自在に宙を進んでいた神様は「奇襲を開始する」と静かに囁いた。
相手は一つ目。ならば、正面を担うベネディクトに狙いが集中するはずだ。走り寄っていくサイクロプスを盾役が引受ければ作戦勝ちとも言えるだろう。
「嫌だー! もう死にたくないです! いくらゲームだからって酷すぎます! じゃあ来なきゃいいじゃんってそれも嫌ですー!
強いモンスター倒したりレアアイテムゲットしてマウント取りたいんですぅー!
ちょっと静かにしろって!? いやこれが黙ってられますかって! サイクロプスの最後の一撃だけください! なんかいい感じに痛めつけてトドメください!」
叫び続けるひめにゃこ。通称『デコイ』『肉壁』――「征くのだ 究極完全体超絶美盾」とは神様の談だ。
「違いますー!?」
叫ぶひめにゃこ。その声にサイクロプスがぐるりと振り向いた。
リュカは直ぐさまに武器を構える。抜刀状態には慣れたものだ。
「簡単にやられるんじゃねえぞ!」と『弟』であるベネディクトへと囁けば、青年は大きく頷いた。身を屈め一気にサイクロプスの眼前へと躍り出る。
「目の前の敵の注意はこちらが引く! 増援が現れたら、誰かそちらの対処を頼む! ――さあ、派手に暴れるぞ」
「承知致しました」
するりと闇を縫うように進むリュティスはひめにゃこにぼそりと囁く。
「奇襲されたとしても優秀なデコイが敵の注意を引きつけてくれるはずです。……さあ出番がきましたよ?」
「誰がデコイかー!?」
ひめにゃこが噛み付くように叫ぶ声を聞きながらミルフィーユは「えーい!」と側面から勢いよくセイクリッドスフィアを突き刺した。
マークの情報ならばサイクロプスの動きは素早い。その巨体ながら生き残るために鍛え上げた肉体は脅威と言う事だろうか。
サイクロプスの前に立っているベネディクトは存在感を放ち、引き付けている。先ずは彼の番からだ。マークは側面から躍り出て立てた剣を振り下ろす。仲間達が何時だって目の前でして居たように、である。
「ぐうっ、なかなか仕上がってる上腕二頭筋じゃないか!」
チヒロは空気砲をお見舞いしながら懸命にサイクロプスへと飛び込み続ける。夢想転身を示す。憧憬と時期を胸に、空想弾を己の胸に向けて打ち込んでリラグレーテはにんまりと微笑んだ。薔薇飾りを踊らせて、強くありたいと願う仲間達を鼓舞し続ける。
「さあ、さあ! 貴方もお疲れでしょう? 叩き込みましょう!」
リラグレーテが放つは絶対貫通。求める結末のために――だが、その喧騒に誘われたワイバーンが上空から顔を出すか。
ぐるりと振り向いた神様が鋭く輝きを放つ。不意を打たれたワイバーンは驚いた様に仰け反り、後退した。
「少さな駒で大きな戦果……と なるかな?」
「おお! 完璧な不意打ちなのです!」
称賛の声を上げたミルフィーユに「一度だけかもしれないけれど、大丈夫です。二度はありません」とねこ神さまは頷いた。
「今回はデコイさんが駄々こねてますが、デコイさんはああ見えて期待に応える女です。信頼して今回もメインタンクを任せましょう」
「どういう意味の『メインタンク』です!?」
「めちゃくちゃ・たたかれる」
むきいとひめにゃこが叫ぶ。だが、我関せずのねこ神様は黒ねこにアピールをし――ねこがぐぅんと伸び上がる。神さまの意図を汲みサイクロプスの意図せぬ所から切り裂くその一撃に巨人が膝を付く。
「デカくたって簡単に負ける心算は無いけども! けど、まだまだでしょ? 大丈夫、満足させて上げるから!」
ネイコが放ったのはアクティブスキル。君のハートを舗装しちゃうとぞ勢いよくプリンセスチャージで光を帯びて。
「皆すごいな~。じゃあ私は背後からお邪魔しちゃお~。えいえい! ぱーんち!」
ぐんと伸びるようにタイムは後ろから背中に飛び乗った。放つのはぱんち! そして、すごいぱんちである。
脳天目掛けた一撃に巨人がぐうと唸った声を聞きタイムはやったあと手を上げて――
「やったかな? ――やっちょっ、急に立ち上がらないで わわっ」
「あ」
シャスティアがぱちりと瞬いた。だが、其れを見詰めてばかりではいられない。『白の夢サイレジアス・シレニア』は魔術神の槍を再現する。概念の模倣をし、リュカが拳を叩き付けると共に一撃をお見舞いする。
「大した強さだが、竜種としちゃあ負けてられねえな!」
――気を取り直してリュカは竜の呪いを伴い、サイクロプスへと自慢の拳を叩き付ける。
足の一本ぐらいへし折れば良い。もう少しだ。
「後はひめにお任せを! うおおお!」
これが絶好の機会だとひめにゃこは影からニャコニウムビームを放った。メロメロになるかもしれないビームが飛び込んでいく。
その間にとルフランはデザートの魔法使いが食べたくなる砂糖菓子をフラし続けた。深緑の法衣に身を纏い、アン、ドゥ、トロワで仲間を支えるルフラン。
「今死んだって、この傷は次に絶対生きるはずだもん! くらえ、あたしの全力!」
サイクロプスへと叩き付けたその甘い匂い。神様は「おっと」と手を差し伸べてルフランの首根っこを掴んだ。
「ぎゃっ」
「危ないところだ」
「あ、有難う……神様……」
神話的な状況が其処には広がっているが――さて。
トルテはリュティスに「どう思う?」と囁く。一行の陣容は半壊とも言えるが、サイクロプスには致命傷を負わせることが出来ている。
「そうですね、一度退却して体勢を整えるべきですね。構いませんか?」
「ああ。下がってくれ」
ベネディクトがゆっくりと竜刀『夢幻白光』を構える。チヒロはヒュウと口笛をひとつにんまりと輝かんばかりのスポーツマンシップで微笑んだ。
「今だ! ベネディクト! 君の全力をお見舞いしてやれ!」
マークが建て直す為の地点を仲間達へと伝達する。マークと視線を交錯し合ってからベネディクトは勢いよく放った。
「――そう易々と命だけをくれてやる心算は無い」
逆境に放つ。龍の地と魂の力を乗せた渾身の――
成否
成功
状態異常
第2章 第9節
「足場の支援なら任せてくれ。無事に渓谷の沼地まで届けてやるぜ」
微笑んだダブル・ノットに礼を言ってから一行はサイクロプスの巣穴を目指している。ワイバーンなどの大物が相手になれば『困ってしまう』というダブル・ノット。目指すは近辺の敵を引き付けておくことであるが。
「現実でホストの俺が、ワイバーンにお持ち帰りされちまうとは……隠しても溢れ出るほどのモテオーラってやつを見せつけちまったな!」
からからと笑った崎守ナイトにグレイガーデンはげんなりした表情を返していた。
「ワイバーンには雷が効くみたいだけど。僕が雑草みたいにムシャムシャされるのはゴメンだよ……社長もあっという間にお持ち帰りされちゃったしさ……!」
先程の光景が余りにも『恐ろしかった』のだろう。グレイガーデンの肩をぽんと叩いたイズルは「それにしても巣穴の内部で戦えないのは、どうしたことか」と首を捻った。
「彼らが掘り進んで作ったのか、別の生物が作った穴を利用しているのか。
穴の中で戦うとサイクロプスの身体で穴が塞がってしまうなら、後者だろうか」
「後者だろうな。内部で戦えば穴に詰まったサイクロプス、か……分かる。分かるぞその気持ち。狭い所は落ち着くよな。私も端のお店の席とか好きだ」
其れは少し違うのではとスキャット・セプテットをちらりと見遣った九重ツルギ。
宙を踊るようにしなやかに進む三人を支援していたダブル・ノットはすあまとスイッチと共にサイクロプスの巣穴へと辿り着いた。
黒狼隊が致命傷を負わしたサイクロプスは『敵の供給』に苛立ったように眼よりビームを放ち威嚇を行っているようだ。
「目からビーム出る生き物いるってホント? わぉ、ほんとに出してる。目が一個しかないのにビーム出してる!
……あれ眩しくないのかな、前見えてる? 撃ってる時無防備過ぎない?」
「それだ」
「わ?」
首を傾いだすあまにスイッチは頷いた。『眼からビーム』を出した単眼の巨人。その光線は侮ることも出来ないが、その隙を付けば現状ならば倒す余地があると言えるのでは無かろうか。
「サイクロプスの眼が塞がっている間に体を傷付けて倒そう。弱点は眼だろうから。不意を突けば……。
それに、中ボスの後のエリアボス――ハイドラまでの道だ。巣穴を通ってお目見えかな? さて、どんなのが出てくるか……楽しみだね」
スイッチを支援するダブル・ノットは「気をつけろよ!」と叫ぶ。
ナイトがワイバーンを回避して辿り着いたサイクロプスに向けて渾身のプレジデント・ポーズを放つ。
「サイクロプスの目からビームかっけェ! だが、俺達が目玉焼きになるのはノーサンキューだ。唸れ必殺、目玉焼き返し! 社長舞踏戦術でも喰らえ!」
社長舞踏戦術(danceing president night)はキレッキレのダンシングでフィーバーしながら輝くミラーボールの下でサイクロプスを驚愕の渦へと包み込む。
先程までの質実剛健とした黒狼隊との戦いとは打って変わった突然のプレジデントダンスタイムの開始だ。
「聞いているようだな。そのまま目を奪っていてくれ」
先程までは散々だったと肩を竦める放つ『アクティブスキル』は随分とスキャットのその身に馴染んできたのだろう。
ツルギはサイクロプスを外へと誘い出し、そのビームを受け止めた。それこそが仲間を護る盾の使命だ。
ブレイブウォールを身に纏い、美と叡智の座にどっしりと腰掛けたツルギの余裕綽々とした様子。サイクロプスが勢いよく棍棒を振り上げるが、そんなもの痛くも痒くもないと回避行動が入る。
「どうにもこの『おれにかまわず先に行け』的な進行には慣れないね……けど、此の儘押し切れば……!」
イズルがツルギを回復支援し続ける。アイアトロマンサーの本領発揮である。今は同じ戦場にダブル・ノットも立っていた。
此の儘、サイクロプスを押し切ることが可能だろうと保護色を身に纏ったイズルはじっと睨め付けて――黄昏の傍観者でサイクロプスを一体倒せば一気に渓谷を下りきる事が出来るとグレイガーデンは宣言する。
「此の儘倒せば大丈夫だよ」
小さな蝙蝠の健闘に感謝しながらグレイガーデンが放つのは二種類のアクティブスキル。存在感を低めてワイバーンをやり過ごしてきた甲斐がある。
出来るだけ無傷の儘でここまで進めたのだから仲間達の『後方支援』も十分であったのだろう。
「渓谷を抜ければ森。なら、ゴールはもう少し……もう死にたくないしさ……!」
「ああ! グレイ見て居ろ。これが俺の社長舞踏戦術だ!」
ミラーボールが眼に眩しい。チカチカすると眼を押さえたすあまは小さく笑ってからその背中に勢いよく飛び乗った。
「さぁどっちかなーどっちにするのかなー?
皆ばっかり見てて前しか見てなかったよねー? 此の儘バリバリしたら痛いぞー?」
楽しげに笑うすあまの体を受け止めるラダ。よし、と勢いよく爪を立て、飛び降りる。宙を駆る能力はダブル・ノットから拝借済みだ。
「すあまさん、そのままひっかいて!」
「はーい!」
猫の爪は鋭いのだとスイッチは小さく笑う。ハイドラの元へ進むため――あと一押しの戦いを!
成否
成功
状態異常
第2章 第10節
「まったくワイバーンのヤツめ、こんなにも大家族とは思わなかったぞ。
現代の少子化問題に真っ向から立ち向かう姿勢は胸に熱く込み上げるモノがあるな、うむ」
そう褒め湛えた天狐は早速気を取り直して満身創痍の状態で闘っているサイクロプスを饂飩にするが為に訪れていた。
「竜倒せなかったのは残念ですが攻略的に言えばサイクロプスの方が大事ですしね。サイクロプスを撃破して通り道を確保します。
それに『龍なら後で倒せるから安心しろ』って神様のお告げが聞こえましたし♪」
にんまりと微笑んだアカネにトリス・ラクトアイスは「ええ!? もっと怖いことがあるってこと!?」と衝撃を覚えたように振り仰ぐ。
「だって、『越えてきました岩山を! そして目の前には渓谷が! これぞ竜域の秘密。秘境のうどん屋を目指す』:みたいになってるよ?
なんか再現性東京で見たバラエティ番組みたいになってる……見たでしょ? まあ、混沌、秘境というには秘境が多すぎるけど」
がくりと肩を落したトリス。隠れる事は致命的苦手だったが、こそこそと姿を隠して仲間の支援を得て何とか辿り着いたサイクロプスの巣穴に一安心の心地であった。
「澄恋の元に推参すればサイクロプスですか。巨人はこの間の幻想の戦いで散々相手にしましたからね。現実の経験を活かし突破を図りたいものです」
淡々と現状を把握する純恋が身に纏ったのは自分を『■■■』と定義し『理想』の近似解と相成る生きる死兆と成り得た状況だ。
そんな純恋の傍らで澄恋は一時的に現実世界の姿を顕現させてにんまりと微笑んだ。正解と不正解の二律背反が其処で揺れている。
「巣穴と聞いて狭いかと心配しましたが、巨人の住む場なれば広そうで安心です!
にしてもあの逞しく大きな身体……包容力抜群で旦那様にピッタリですね。どのような遺伝子なのか気になります、サンプリングしましょう!」
サイクロプスが旦那様錬成に使われてしまう可能性が高鳴っている。何故ならばそろそろサイクロプスは危険域である事が目に見えて分かるからだ。
「あー、くっそ……空飛んでるヤツはアタシの得意分野じゃねーんだよなー!」
げんなりした様子で進んできたイルミナは空からの視線を誤魔化しながらちまちまと進み、やっとこさでサイクロプスの元へと辿り着いていた。
「さて、思いっきり暴れるか!」
からりと笑ったイルミナに大きく頷いたのは『妹』ルージュである。万人の妹である彼女はその体をバネのように跳ね起したサイクロプスに接近する。
「よし、じゃあ今度はサイクロプスを無理やり動かすところからだな、やってやるぜ!!」
巣穴から引き寄せられた瀕死の巨人。だがその状態からこそモンスターの本領が分かる。所謂、生存への執着だ。
振り回される棍棒。ひゅ、と風を切る音を聞きルージュが頭の上を過ぎゆくその勢いにヒュウと息を吐く。
「おれが死んだ後に巣穴にまた戻られても困るけどなー。まぁ、その辺りはトライ&エラーでやってみるしかないぜ」
「ああ、そのまま! 引き寄せとけ!」
イルミナが勢いよく剣を振り下ろす。愛の力でサイクロプスを思い切り引き寄せるルージュの努力の甲斐もありサイクロプスへと攻撃は鋭く叩き付けられた。
「まあ、か弱い乙女の追撃も甘い物ではないでしょう?」
澄恋がくすくすと笑う。攻撃方法何て『乙女の秘密』なのである。甘い笑みを浮かべた澄恋は現実世界で巨人と相対したプロ花嫁である純恋のアドバイスを無碍にはしない。
「体力勝負の持久戦に持ち込むと恐らく勝てませんからね。巨躯のコントローラーである脳を破壊し行動不能にさせた方が良いかと。
それに、瀕死状態になったからこそ大暴れとも言えます。此方の消耗を気にしすぎては勝利は遠い。全力で『落ち着いて頂きましょう』」
「ええ。旦那様に求めるのは貞淑なる花嫁を愛する心持。包容力ですものね! さあ、お静かに?」
二人の花嫁の追撃が放たれる。ルージュが『引き寄せる』事に気付いてトリスは「さあ、こっちだよ!」と目立つようにステージ上で踊りだした。
ヒーラーで或るトリスの支え。後方から支援をするトリスに支えられて、アカネの傘が鋭くサイクロプスを追撃し続ける。
「ふむ。随分と大暴れしてくれたのう」
踏み潰されないように天狐がリヤカーうどん屋台『麺狐亭』を勢いよく引き続けた。喰らえ! せつなさみだれうち!
天狐の荒々しい無数の攻撃エフェクトが超高速で振り下ろされる。その時間を稼ぐアカネの傘から生み出された風が『fullmark(IDEAScript+)』を得て一気にサイクロプスを引き寄せた。
「! ほう!」
天狐の眸が輝いた。ならば、今こそ『うどん』の大発射だ。
「戦闘終了する頃にはきっと食べ頃じゃぞ! ……筋っぽくてマズそうじゃがなコイツ!!」
「美味しいかなあ……」
思わずゲテモノ系の番組を思い出したトリスが目映い光を感じてぎゅうと目を閉じた刹那――ビームを全身で受け止めたルージュとアカネを越えて二人の花嫁が巨人の眸を釘付けにしていた。
ずん、と音を立てて倒れ行く巨人――巣穴の向こう側に見えたのは目映い光であった。
成否
成功
状態異常
第2章 第11節
「ふむ……そろそろ荒廃した景色も見納めですか。草木が増えてきたとはいえ、沼地も多いですね。
足元には十分注意しておきましょう。空にはワイバーンもいることですしね」
天を仰ぎ見た沙月はふうと小さく息を吐く。手懐けられるかどうか。それが第一の問題ではあるが一度くらい試してみるのは悪くはない。
強者の言う事を聞く可能性はある。
複数のイレギュラーズが攻撃を重ねていたワイバーンを無理やり捕縛する。その際に沙月は『奇妙』な少女と出会ったのだ。
「ワイバーンなら、翼の付け根よ」
「え? はい。……こういうのはテイミングというのでしたっけ? 足になって貰いましょう」
「ふふ。けど、アナタは普通の人間だから――『ちょっと難しい』かも?」
首を捻った沙月はあなたも、と言いかけるが飛び付いたワイバーンに乗って移動を行おうとして一気に真っ逆さま――に落ちたのだった。
「ぴょーん」
ふわふわと浮かんでいるエイラの傍らに沙月が見える。仲間達がサイクロプスと闘っていた中で引き付けていたのはエイラだ。
電気クラゲとばちばち輝いたエイラは「飛び降りるのはぁシンプルな手法だからこそぉとにかく試してみるのもありかなぁって。ある意味一番早い方法だしねぇ」と微笑んで居た。
成程、飛び降りられないわけでは無いがワイバーンの襲来が多いか。
「わ~、皆がサイクロプスを倒したんだねぇ。その巣穴を通り抜ければ。落ちた場所に付くのかなぁ~?」
外から見れば、丁度地上に穴が空いている。緑が増えて沼地だらけの部分に繋がっているようだ。
「エサだと思われてるのは驚異だと思われていないから。
つまり、驚異だと思われれば良い。虎の威を狩るキツネ作戦、開始なのだ!」
と、言うわけでセララはリンノルムとサイクロプスの死骸を合わせて匂い袋を作っていた。其れを手にして、一度死に戻り――そして再度降りてきたが、効果はあるように感じられる。
サイクロプスが此処で生抜いていた理由。それを考えれば『サイクロプスはどうしてかこの場所のワイバーンには好かれていない』のかも知れない。
「ふふん。成程! ほら、今のボクはめっちゃ強そうな臭いだよ。近寄ると食べちゃうぞー! ってね!
それで、辿り着くのは……沼だ! 此処が『渓谷のボスが居るところかな?』」
セララは上からふよふよと落ちてきたエイラを眼に映してから「あ」と呟いた。
そのままふよふよと落ちてきたエイラを迎え入れたのは沼より勢いよく無数の首を持つ蛇である。セララはどう見ても亜竜種だと認識した。
その背後をふよふよと飛んでいる毛むくじゃらはピアレイか。
『幸運』な事に彼女はそれを見ているだけで済んでいた。
エイラが囮となっている間に無事に着地することが叶ったフィーネは「どうやら穴の中を拠点にした方が良さそうですね。沼地はピアレイとハイドラが待ち受けて居るみたいですし」と呟く。
「セカンドミッション受諾。作戦行動開始します。サイクロプスの巣穴出口付近を『拠点』と認識」
アンジェラに頷いたファントム・クォーツは「拠点近くにエリアボスの領域だなんて! 刺激的な場所ね。じゃあもっとドキドキしましょうか」と微笑む。
「モンスターの糞の匂い。体臭。足跡。地響き。羽音や風圧。鳴き声……ええ、とても多いけれど『巣穴』の中ならば拠点は出来そう。サイクロプスの匂いが凄いのね」
ファントムの言葉にセララが先程配っていた匂い袋の効果を実感しフィーネは頷く。
「じゃあ、此処にしましょう。これまで隠密での索敵を行ってきましたが……これ以上進むならば、ハイドラを倒さなくては道がない。
それから、その後ろに広がっている森林地帯が、覇竜観測所の方が言っていたピュニシオンの森、でしょうか」
そこまで行けば死に戻りも容易になる。逆に言えば『ゲームだからこそ其処に拠点がもう一つ設置されている』という事だ。
(……何か、危険な区域なのでしょうか)
フィーネが悩ましげに呟くその横顔を見てからアンジェラは「此処に中継拠点を設置します」と準備を開始した。
「ええ。……ハイドラね。どうにも、『数の暴力』で越えなくては為らない気がするけれど……大丈夫かしら?」
呟いたファントムに「大丈夫よ」と微笑み返したのは――さて、見た事の無い少女だった。
成否
成功
状態異常
第2章 第12節
《システム》
――『サイクロプス』撃破によりプレイヤーは沼地へと進軍しました。
――エネミーデータが更新されました。
『ハイドラ』 脅威度:A
『ピアレイ』 脅威度:B
ハイドラを撃破し、ピュニシオンの森へと進軍して下さい。
ピュニシオンの森へと到着後、エリア内に『拠点用サクラメント』が設置されます。
《システム:エラーメッセージ》
――プレイヤーが予期せぬ『NPC』と接触しました。
『竜の領域』クエスト情報が更新されます。
領域内エリア『???』にて『****』『亜竜姫』との謁見を行う事
――システムデータが更新されました。
『亜竜姫』 脅威度:?? エリア内を自在に行動中。友好的対象だと推測される。
第2章 第13節
『亜竜 巣 多いて』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧達一行、『美食屋』の目的はハイドラの討伐であり、可食部の確保であり、食材の調達だ。
『…… たまご』
卵は美味しい。かの幻想王国の美食家貴族がイレギュラーズに懇願するほどにレアリティの高い食材『ワイバーンの卵』
それを思い浮かべたか縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧より伝わった思念にアイは「卵か」と小さく呟いた。
「さっきと違ってモンスターも活発らしイけド……だからこそ未知なる食べ物や存在も居る訳デ。
そう考えるとワクワクしちゃうよネ。皆も案外そうなったり……ハッ、話の途中だけどワイバーン……とかならないよネ……?」
お決まりのソーシャルゲーム的展開を警戒するアイに「有り得なくは無いわよね?」とザミエラは首を傾いだ。
拠点にてアウルベアやリンノルムの肉を共有し、無事に『美味しく頂いて』いたじぇい君は「ハイドラかあ」と腹を高らかに鳴らす。
「ハイドラは爬虫類だから、鶏肉の近い感じかな? 塩ダレをつけて食べたら美味しそうだよね。食べたばっかりなのに、僕お腹が空いてきちゃった」
「……」
ホニャホニャとした発声で『美味しい 多分』と告げる縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧にじぇい君は大きく頷いた。食いしん坊な小さな少年はにっこり笑顔で此れまでのモンスターをしっかりと食べてきたのだ。
「あれがハイドラなんだよね? 大きい、というか……エリアボスかあ」
「ああ、此処まで来たならワイバーンは追いかけてこないらしいケド……ワイバーンより強敵の亜竜だからカモ」
アイの呟きに『ワイバーンの振りをしようとして共食いをされた』ヴァリフィルドは戦線に復帰して「これがハイドラの巣か」と呟いた。
「成程。強大な敵であるのは確かなようだな。
それにしてもワイバーンの死骸を齧って見ればリスクを軽減できるかとも思ったが、難しかったか」
「ワイバーンになるのは楽しそうだけれど」
首を傾げてくすりと笑うザミエラにヴァリフィルドは肩を竦める。
「ワイバーンやハイドラはちょっとお味も気になるけど、かなり危なそうだし、小動物を探そうかな。
サイクロプスは、うん。食べたい見た目じゃあないよね……あ、でも何を食べてるかは知りたいかも。凄い珍味隠してたりして……!」
回れ右のザミエラは「あれも美味しくなさそうね」とピアレイを指さした。
ハイドラの取り巻きのように存在する無数のピアレイは毛むくじゃらで何が美味しいかも分からない。サイクロプスの食事であったモンスターは沼地に棲まう物が多かったのか可食部が多そうだ。
「サイクロプスが食べていたモンスターを食べながラ、ハイドラに一撃喰わせるカイ?」
「いいよ! もしかするとハイドラを『美味しく』食べられる機会になるかもしれないし!」
じぇい君がぴょんと跳ね上がる。ハイドラの前へと踊りだしたじぇい君に「中々強敵のようだが、小手調べだ」とヴァリフィルドの咆哮が響き渡った。
「……あれってとても強そうじゃない?」
「強そうだネ」
「……そうよね?」
ザミエラとアイが顔を見合わせる。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は『でも、美味しそう』とそう言った。
ふくよかにも見えた亜竜ハイドラ。可食部はとても多そうなのである。塩だれで頂くためにも美食屋の攻防が始まる!
成否
成功
状態異常
第2章 第14節
「随分と殺風景な場所だ。奥に進めば森か……ま、やる事は同じだがな……派手に行くぞ!」
君塚ゲンムがサイコロジカルガトリング砲を構えればホワイティは堂々とサンライズソードを掲げてみせる。グレイミラージュを握りしめ、ホワイトナイトはいざ出陣なのである。
「……とはいえ、楽になんてならないねぇ。敵がうじゃうじゃ!」
「ああ。とにかく派手に戦い、敵の耳目を集める。俺は攻めに徹する。ホワイティ、盾を頼んだ……あんたの護り、頼りにしている」「
ゲンムが勢いよく放った広範囲の魔弾を追いかけてホワイティはにんまりと微笑んだ。
「こちらこそ、ゲンムさんの力を存分に頼らせて貰うからねぇ。その分守りは任されたよぉ!」
ハイドラが首をぐん、と上げる。無数の首が縦横無尽に動いている。ゲンムと同様のタイミングに飛び込んだホワイティはハイドラが勢いよく起した波飛沫を盾で受け止める。
沼地に棲まうという事は『沼地という地形』を最大に利用した戦術を好むと言う事か。リヴァイアサン程の荒波を作り出しはしないが、成程、立っているだけならば足が取られかねない。
「ゲンムさん!」
「ああ。それじゃあもう一遍……派手に死に散らかすとしようか」
情報収集のフェーズというのは考えることが少ない。だが、悪いことではない。思考に割くリソースは攻撃に回すことが出来るのだ。
ホワイティはハイドラが立ち上がったことに気付く。亜竜。無数の首を持った蛇ではあるが四つ足を有するのは移動する為か。
その足は『些か頼りなさげに見える』
「……陽光の一撃、単に熱いじゃ済まないよぉ?」
陽だまりに降注ぐ。そんな鮮やか魔力を叩き付ける。炎の如き気配。それに魅入られたように笑みを零したのはイルシアであった。
「まあ!」
うっとりとした笑みを浮かべたイルシアの傍らでエルシアがそっと寄り添い身を縮めている。
「可愛いエルシアちゃんを無慈悲に食べてしまったワイバーン達に怒りをぶつけたい気持ちはあるのだけれど……
流石の私も目的を疎かにしてまで復讐に現を抜かすような事はあんまりしないわ! ねえ、エルシアちゃん。見て?」
のんびりと追い付いてきたのだけれど、と微笑んだイルシアは周辺を幻惑の炎に包み込む。ハイドラは驚いた様に沼より立ち上がり、その爪先でホワイティを翻弄するが――「みんな、一旦離れて!」
イルシアの言葉と共にエルシアとの全力の火の嵐が舞踊る。その余波に驚いた様にピアレイがハイドラの傍から一斉に離れた。
「成程」
IJ0854は接敵する。ピアレイ。ふよふよと浮遊する毛むくじゃらの役割はハイドラの居る沼地へと『誘い込む』事か。
直ぐさまにIJ0854を捕まえたピアレイにずるずると引き摺られるようにIJ0854は沈むが、体当たりでその体を沼地から一気に陸へと押し上げる。
「当機は此れよりピアレイの情報収集を行います。後続のために」
淡々と告げられた言葉。ピアレイは悪霊だと言われている。故に、実態は無い――成程データで或る故に『水の悪しき精霊』として表現されているのか。水鉄砲のような魔力がIJ0854へと襲い来る。
そんなピアレイの腕を叩き切ろうとしたのは輝海伝説アトランティスサーディンである。
「聴こえる…いわしを食べる連中の罪の音が。
モンスターだろうがドラゴンだろうが、いわしを食べる罪深き連中は例外なく叩き斬るよ。このさいきょーの剣でね!」
アンジュは叫んだ。イワシを食べる子は居ねぇがー! と。ドラゴンだろうが何だろうが容赦はしないイワシの守護者はピアレイへと向けて空より強襲を仕掛ける。
「現実世界だと空を自由に飛べないからね〜、こっちだとスイスイ飛べていいかんじ! エンジェルイワシのお通りだー!」
突然現われたイワシの守護者が叩き切ったピアレイがぽちゃんと沼へと落ちる。だが、まだまだ数は多いか。警戒するIJ0854は引き続きの情報収集を行うべく足を進めた。
成否
成功
状態異常
第2章 第15節
「はいどうも! P-Tuberのアリスです! もとい、ROOの中では今はリデルです!
戦いも盛り上がり新たなエネミーやNPCが公開された昨今、しっかりと情報共有をしていきましょう!」
にんまり笑顔の■■■■■はP-Tuberとしてカメラに向かって現状の解説を行っている。
彼女の役割は『現況』ってどんな感じ? 参加する方法は? という素敵な説明なのである。
「今は、ここ、デポトワール渓谷に降りてきたにゃ!
拠点はヴァンジャンス岩山山頂付近、デポトワール渓谷入り口付近に設置されてるから立ち寄ってみて欲しいにゃ!
亜竜リンノルムを倒したイレギュラーズ達はヴァンジャンス岩山を登り切り、ワイバーンに追いかけられながら下りきったのにゃ。
サイクロプスを撃破して、巣穴を抜けた先には沼地が待ち受けていた!
其処に棲まうのは亜竜ハイドラとその取り巻きピアレイ達。
えーと、見えるかにゃ? ハイドラは沢山の首を持ってるにゃ! ピアレイは毛むくじゃらで沼に引き摺り込もうとする見たい。
それから、ユーザーコメントで。
『謎の女の子』と出会った!? 彼女は、この先に存在する『ピュニシオンの森』まで来て欲しいみたいにゃ!
皆で頑張って追いかけよう! それじゃあ、戦いにカメラを―――」
成否
成功
第2章 第16節
「今回はお休みタイム! って違うー! 情報収集の時間だったね」
ほうと息を吐いたスティア。現在、彼女たちはスタート地点である覇竜観測所の中に居た。
出迎えてくれたティーナは「健闘されてますね!」と心を躍らせている。アレクシアは「まだまだ先はながーい! よ!」と楽しげに微笑んだ。
「たぶん、データってあんまり無いよね?」
「そうだな。我々は岩山周辺までしか正確な観測は不可能だ。あれだけ高い山であれば、先など望めない」
ミロンにエイル・サカヅキは「だしょー? はーウケる死んだ超死んだ! けど、手土産としてはまーその辺の屍とか? 骨とか?」と袋に詰め込んだ物を差し出す。
「あ、礼には及ばないけどビールとかあればあげぽよっす。ちなみにそこのシラぽよはマブダチのいいドラゴンなんでそこんとこよろ」
マブダチだと呼ばれるシラスはチェス盤を見つけてラナと向き在っていた。これまで竜域を見て居た彼等の見解を聞いておきたいという彼等の来訪を観測所メンバーは快く迎え入れてくれたのだ。
「……確か、アウラさんはここに来て長いのよね?
それならたくさんの情報を持っていて面白い話が聞けるのではないかしら」
吹雪の問い掛けに「はいはーい!」と望遠鏡を覗いていたアウラが応じる。どうやらその目は行動予測を行い続けて居るのだろう。
「探索する上で役に立ちそうな情報について聞いたりしたいけれど。この辺りであった変わったことや面白いことなんかも興味があるわね」
「時々、桃色の髪の女の子が見に来るくらい、かな?」
桃色の髪と言う言葉に顔を上げたシラスは「ほら、チェックメイトだろ? やっと俺の勝ちだぜ」とラナとの『一興』にケリを付ける。
「……あの、普通に考えれば女の子がいただなんて見間違いかと思うところだけれど。
実際に人が住めるような場所でもあるのかしら、覇竜領域の奥には」
吹雪の問い掛けにエイルも「そう! 聞きたかったんよね。なんかさーこの辺に住んでる可愛い子とかいる? いや、風の噂の話だけど!」と顔を上げた。
行動予測や観測情報以上に敵の能力や此れまでの情報を伝えていたエイルが慌てたように身を乗り出したことにティーナはきょとんとした顔を向けた。
「皆さん、ご存じなんですか?」
「ううん、風の噂、だけど。レーンさんはモンスターの生態とか、人間に友好的な種族とか知らないかなー?
中には温和な生き物とかいても良さそうだけど……全部食べられちゃうのかな。それとも、誰か……?」
スティアの問い掛けにレーンは「見た限りでは入り口付近はただの獣だらけですから」と肩を竦める。
「けれど、その『桃色の女の子』でしたら……所長?」
「う、うん、そうですね……どうして『その子の話になったのか』聞いておいても?」
レーンに促されたティーナが緊張したようにアレクシアを見遣る。その眸は期待が込められているようだ。
「覇竜領域の中で、私たち以外に女の子がいたらしいんだけど、なにか心当たりとかないかな?
普通の子が迷い込むなんてありえないよね。中に人が住んでるとか……あるのかな?」
「そう。覇竜領域に『人間が住める場所』があるのか。それが気になるところなのよ」
アレクシアと吹雪の言葉にティーナはむむ、と唇を尖らせる。シラスは念押しをするように「あり得るかい? 絶対に普通の相手じゃない」と問うた。
「――《亜竜種》というのはご存じですか?」
ティーナは緊張したように、そして、どこか高揚したように五人に言った。
「亜竜種……?」
シラスは幼さを滲ませる少女のかんばせをまじまじと見遣る。自身の気持ちも高揚し始めているのは、気のせいではない筈だ。
「きっと、そうではないかと。竜域の御伽噺で申し訳ありませんが。
竜種(ドラゴン)の奉仕種族が存在して居ると聞いたことがあります。ワイバーン等の亜竜とは違う。
人型の、私達と交流を取る事のできる歴とした純種の一種。屹度、彼女はそうではないのか、と」
「彼女は時より此処やラサに立ち寄って何食わぬ顔で遊んで帰るらしいです。
その際に名乗っているのは琉珂(リュカ)という名前だそうですが……それ以上は……」
首を振ったレーンにアレクシアとシラスは顔を見合わせた。ハイドラを観測することの叶わない彼女たちから齎された新たな情報は確かな手がかりであるように感じられた。
成否
成功
第2章 第17節
「岩山を抜けたと思ったら、また強敵が連なる場所か……」
「岩山の次は渓谷。変化に富んで素敵……なんて言いたくないわねこの状況」
興味深そうに周囲を見回すグレイシアの傍らで、溜息を漏らしたのはルチアナ。竜域で有る以上は致し方が無い話ではあるが、強敵だらけというのは中々に愉快だ。死に戻りが可能で無ければ挑戦する気力も湧かないとグレイシアは小さく呟いた。
「……ここに来てのアナタ、楽しそうよね? まったく…仮にも魔王ともあろう存在がはしゃいじゃってみっともない」
威厳もありゃしないと口を酸っぱくして言うルチアナは青年の姿をしたグレイシアを横目で見遣る。若返ったからと言うわけでは無くこれが当人の気質なのだろう。ある意味では『魔王』らしからない人間に近すぎる実に『困ってしまう』青年の喜色滲んだ表情。
「ふむ……? 本来なら敵わぬ相手であっても、此処では何度も挑戦できるという点は、確かに楽しくもあるだろうか?」
当のグレイシアはルチアナの憂鬱など気付きやしないのだ。死にながらも何度も挑戦できるなんて現実では有り得ない。
「……ゲームならば、楽しんで挑むのは正しい事だろう」
「存外、俗人的なのね? 魔王様は」
やれやれと肩を竦めるルチアナはグレイシアが狙いを付けたハイドラに向き直った。無数の首が蠢く龍だ。
「死なないようにね?」
「――……そう言われるとは思わなかったが、ああ、そうだな」
せいぜい、死なないように。そう掲げて二人揃ってハイドラへ一撃を投じる。
するりと横を抜けるように長い髪を揺らがせた沙月はハイドラへと流れるように攻撃を放った。
「ワイバーンを手懐けることができそうということがわかったのは僥倖でしょうか?
しかし未熟なゆえに落ちてしまいましたね。もっと精進せねばなりません」
「それは手懐けられたと言うのだろうか。いや、そうではないか。謎のノンピーシーの言葉を借りるなら『ちょっと難しい』程度なのだろうか」
首を捻ったのは真読・流雨であった。二人の眼前のハイドラは立ち上がり、波濤の魔術を放つ。
水の気配を避けるように、流雨は竹槍をふすりと刺した。
「ハイドラか。伝説に倣うなら、毒と再生力に注意すべきか。とはいえ、こんな相手に咬まれれば、毒も何も死にそうだな。
ごりごりいくぞ。ぱんだだけど」
「ええ!? ゴリラじゃないとごりごりだめなのかな!? ううん、きうりだって塩もみでごりごりするぞ!」
勢いよくえいえいおーと拳を振り上げたのはきうりんであった。咬まれたら即死しそうだと呟く流雨とは対照的にきうりんは『咬まれ』に行っていた。
「ヒポグリフくんはもういないっぽいね……!ㅤ寂しくなっちゃうぜ。
しかたないから新しいマブダチを探すか! 囮も兼ねてね!ㅤどうせ足おっそいし、役に立てることをしなくちゃね!」
大体のモンスターがきうりんを食べる。其れは確かなことだった。ハイドラの傍らのピアレイでさえサラダをもしゃもしゃしそうである。
最も美味しく食べてくれる『ワイバーンくん』はハイドラに畏れを成してか此処まではやってこない。
「はい! エサでーす!」
勢いよく両手を広げてしぶとく翡翠よりの恵みで生き残るきうりんを一つの首ががじがじと齧っていた。
「おいしく食べてね!ㅤいやまぁ別においしくは食べなくてもいいけど、残さず食べてね!
あ、私のことは気にしなくていいから早く先に進んで!ㅤモンスターくんが私を食べ終わる前に!」
「……なら、顔が多いようですが、全て潰してしまえば良いのでしょうか? とりあえず、きうりんさんに夢中の首から」
行きますと飛び込んだ沙月。沙月へと助言を齎した彼女は誰であったのだろうか。
気にもなりながら――今は目の前のハイドラに打撃を追わせることが優先だ。取り敢えずは『きうりん』に夢中の首から!
成否
成功
状態異常
第2章 第18節
「そこの!」
叫んだ玲が呼び止めたのは沙月に話しかけていた桃色の髪の少女であった。つり目がちの眸に、龍を思わす角と尾、そして小さな翼を有している彼女は「ハイ」とくるりと振り返る。
「この先に何か建物があるのじゃろう? そこに案内してくれぬか? ……まあそのためにも、ハイドラを倒すじゃな。
約束してくれんかの。妾たちが追い付く為に……えーと……」
「亜竜姫、で良いわ。本当にお名前を呼んで欲しいときは『その後』だから」
くすくすと笑った彼女に「亜竜姫! 約束じゃぞ!」と玲は頷いた。チェックポイントまでもう少しだというならば、目の前のハイドラに突貫しなくてはならない。
気付けば姿を消していた彼女を探すように三月うさぎてゃんは周囲を見回した。
「死に戻りするとやっぱりロスが……けど、死に戻りしても良かった、のかも……。
データ更新された『亜竜姫』さんとすれ違えた気がするもの。何かわからないけど、この人に歌を捧げてみたいって思うのは何でかな?
ちょっと気になるかも……」
三月うさぎてゃんの呟きにリリィは「竜の姫、かぁ」と呟いた。
竜種、そして『亜竜』。其れとは別に人種としての種別に亜竜種と称される存在が在ると言うことはどこかで聞いたこともあった。彼女がワイバーンではない人型個体の亜竜種だというならば――愉快そのものではないか。
「……なんか面白い事になって来たじゃないか。というかあれ、どこかで見た事が……まぁいいや。
今回はあのボス? を倒さなきゃいけないらしいね。ならば、どんどん行こうか」
リリィにとっての『とっておき』も準備完了済みだ。ミラー・ミラージュはハイドラに向かって走り寄っていく。
眸をキラキラと輝かせていたすあまは「ワイバーンて乗れるの? 乗れちゃうの? いーなー!」とぴょんと跳ねる。
理論上は問題ない。特に、ここはR.O.Oだ。現実はさて置いても『ゲームの中ならば何だって可能になる』かもしれないのだから。
「確かラダのばーちゃんが乗りたいって言ってたよね。1匹捕まえてお土産……は無理かな。しょうがない、進も。
それじゃあ、ラダ頑張れ! ざぶざぶ行くと引き摺り込まれちゃうから飛んでどついて頑張るぞ!」
すあまは幾人かが出会った亜竜姫に声を掛けたいと願っていた。
――一人じゃ危ないから、一緒に行こう?
そう声を掛けたら彼女はなんと言うだろうか。何処かで見たような、そうでもないような。不思議な心地のする少女。
彼女の事ばかりを気にしては居られない。ドーナツをかじってから聖剣チョコソードを構えたセララはにんまりと微笑んだ。
「ハイドラ、めちゃめちゃ格好良いね。まさにゲームのボスって感じ!
なら――狙いは首! お誂え向きに一個だけ『興味が逸れてる』首があるみたい! そこに、行くよ! ――全力全壊!ギガセララブレイク!」
セララにとっての全力全開。威力を載せたその攻撃は『全力』で『全開』で『全壊』の超スペシャルギガセララブレイクとなってハイドラへと叩き付けられる。
首に入った亀裂より毒の血液が溢れ出す。触れないようにと後退するすあまは「危ない!」とセララに走った。
「わ、毒!?」
「毒だなんて酷いわよね。アリスに何てことをするの! うさてゃんたちの邪魔をしないで!」
痛みなんて無い偶像。三月うさぎてゃんの歌声が響き渡り、玲がセララの体を後方に押してからにんまりと笑う。
「すたいりっしゅな妾の一撃、冥途の土産にとくとその目に焼き付けるのじゃ!
なーに、うっかり死んでもすぐ追いついて追撃じゃ! にゃっはっはっはっは! 接近、攻撃、攻撃、攻撃、攻撃!」
叫ぶ玲は堂々と微笑んで、退屈なんて疾うに忘れさせてくれる竜へと攻撃を繰り返した。リリィはその攻撃に続き、小さな声音で呟く。
「……しかし、なんであの姫は急に出て来たのだろうね?」
その疑問に答える者は、まだいない――
成否
成功
状態異常
第2章 第19節
「亜竜姫か……すごく気になるけれど、今は単純に探すのは無理そうかな……ハイドラを相手取って次に進みたいけど……」
さて、と攻撃態勢を整えるスイッチ。その言葉を聞きながらΛはやれやれと肩を竦めた。
「見た目と想像だけの能力で普通に多段攻撃、猛毒の息、超回復力持ちな感じだし……
で場所は沼地だから足場も悪いと……いや~現実世界だと回れ右したくなるような雰囲気よね~まぁやるだけやってみるかぁ」
回れ右したくなるようなモンスターが現実でもうようよと存在するのかと思えばげんなりもする。
だが、沼地にモンスターがいるのには理由があるのだろうとルージュは推測していた。
「引きずり込むピアレイと、脚が細く見えるハイドラ……これもしかして、ハイドラって沼地じゃないとまともに動けないんじゃねーのか?
普通に硬い地面だと脚が持たない気がする。なら、沼地を固めるか、沼地から相手を引っ張りだせば……」
「成程。なら、引きずり出したい――けど巨体だね」
ルージュはだなあと小さく呟いた。仲間達の奮闘で頭の一つは潰れた状態だが再生能力と毒の血液が中々に厄介だ。それでもピアレイが側に居られるのは『毒を無効化する』能力でもあるのだろうか。
「まっ、とりあえず死に戻りのトライ&エラーだけどなー」
沼地に入らないように引き付ける役を担うルージュ。そして、上空からの索敵を行いながら自信を苛む毒を軽減する作戦を組み立てたΛ。
Λにとっては毒には毒をの精神で相手には出来うる限りの苛みを与え続ける事が有効策にも思えたが――
「戦闘ロジックは考えてみたけど想定以上に厳しいよねコレ」
それを個人技で熟すのは難しい。スイッチは攻撃方法を予測する。ハイドラは飛べない。空から攻撃を狙えども渓谷の沼地付近にワイバーンは降りてこない。
「渓谷の方までは来ないとのことだったから何か警戒してたりするのかな? とりあえずは……検証勢として……」
スイッチは少し飛翔してみる。渓谷から抜け、サイクロプスの巣穴付近まで上がればワイバーンの姿が見えたが、下までは降りてこない。眼窩にはハイドラ。
……警戒されているのはハイドラだろうか。流石のワイバーンでもあれには勝利できないか。そしてハイドラは飛ぶ事は無い。立ち上がれども細い足は直ぐに畳み込まれるように沼地の中に収ってしまう。
「先行くためにハイドラを素早く処理すべきですが、ピアレイが邪魔ですねえ。
死に戻り前提の行動ゆえ中間リスポーン地点のサクラメントは早めに設置したいところ……」
「雑魚処理の純恋に任されわたしはハイドラのお相手をば、他のイレギュラーズの皆様とも協力し数の暴力で攻めにいきたいですね!」
頑張りましょうとやる気を出した澄恋&純恋。乙女の護身術で心強く前進する澄恋は足場の不安定さを感じていた。
「あとは美女によるオ’レンジ・キスで幸せのあまり昇天させてやりましょう! ええ、乙女による『曲芸』ですよ?」
喜ばしでしょうと微笑んだ澄恋に純恋はどうでしょうと小さく呟いた。ハイドラの視線を奪いたい花嫁は引き付けることを狙っている。
ルージュはと言えばその傍らから攻撃を重ね、楽しげに微笑み続ける澄恋の横顔をチラリと見遣った。
「ところで亜竜姫様はエリア内を自在に行動するらしいですがイレギュラーズ複数人がかりでやっと倒せる敵と共存していることになるのですかね?
竜域の攻略方法も知っていたり? 友好的対象なら、いつかお会いした際に味方にできると良いですねー!」
「案外、R.O.Oだから誰かが手を引いているかもよ?」
そう笑ったルージュは何処かで少女の笑い声を聞く。横に立っていた二人の『菫蘭』をちらりと見るが首を振った。
(……誰かがイレギュラーズとハイドラとの戦いを見てるのか……?)
成否
成功
状態異常
第2章 第20節
「どうやらまたやっべぇ敵が出てきたみてぇだな。面白いじゃねぇか。
……と言うか、あのお嬢さんは何者だ? 聞きたい事は滅茶苦茶あるが、先ずは目の前の敵を何とかしねぇとなァ」
そうで無くては名すら名乗らないつもりで在ると言う『亜竜姫』。そうな乗った彼女と話すためにもハイドラを倒さねばならないかとヨハンナはグラヴィティフィールドに暗色のエフェクトを走らせる。
「新たなエネミー、ハイドラとピアレイか。今回も厄介な敵であることは容易に想像できるが、やはり情報が無くてはな。
得られているのは足が細く、首が幾つも。毒の血液を有し、噛み付く。そして再生能力が高い、か。
私達の唯一の利点は、この無尽蔵な命。これを使って、少しでも奴らの情報を集めるとしよう……次の者に向けて、な」
プロメッサはそれ以上に得られる者があればカメリアに持って帰って欲しいと振り返った。
大きく頷いたカメリアの星撃の蒼炎が揺らいでいる。
「強大な敵ほど、燃えるものです。どんな敵だろうと、どんなに傷つこうとも、勝つまで負けなければいい。
――さぁ、血が滾る闘争を! 何度でも何度でも、穿いてみせます」
殴って殴って、殴り続ける。そんな単純なことを行えるだけでも『焔』は堂々と燃え続けられるのだから。
途切れること無く展開される猛る焔、凍て付く冰の二種の力。限界まで吹き上げた其れの勢いがハイドラへと襲い行く。
「特にハイドラ、よく聞く異世界の伝承では複数の首を持つというが。思考、知能、判断は一個体のモノか、全てそれぞれのモノか。
何でも良い、何かしらの情報をこの手に……この命を対価として」
得られるならば――プロメッサが放ったのは天頌旋ヴォルガノン。爆裂するエフェクトが出続けるメイス。
派手な花火が放たれ続けるその刹那、直ぐさまにヨハンナは隙を付くように飛び付いた。幾重にも攻撃が重なっていた首の傷口は全てが再生し続けるわけでは無いのだろう。
毒の血液に触れた皮膚に亀裂が走っていることをプロメッサは見逃さない。堅牢な鱗の隙間に覗いた皮膚に無数に刻まれた刀傷がそれを壊死させているか。
(成程、己の毒にやられるとは無様だな。そして、その痛みを他の首が感じ取っている。思考、知能、判断は同一の個体か)
考えることは山のように。アズハは三人に続き、スナイパーライフルを放った。
「竜域には初めて来るんだけど……何と言うか……生きて帰れる気がしないね。
でも逆に興味が湧くよ。普通なら立ち入れないような領域を踏破するなんて、面白そうだ」
生きて帰れない場所だからこそゲームで体感する。死んでも情報を持ち帰ると決めたプロメッサのように、殴り続ける事を選んだカメリアのように、支援するヨハンナと同じくアズハは攻撃を重ね続けた。
「ハイドラの首は柔らかくは無いけれど、攻撃した鱗までは再生できないんだね。傷だけ残ってる。なら……首を切り落とせばもう倒せてしまうのかな?」
アズハの呟きにカメリアは「いいですね!」と声を弾ませた。首を切り落としてしまえば良い。毒性のある魔物が己の毒で傷付くならば、それさえも利用して沼に沈めてやれば良い。
アズハは首を執拗に狙い続けた。腹は見えない。尾や足も沼の中だ。狙いやすいのは矢張り、露出した首か――!
成否
成功
状態異常
第2章 第21節
「拠点が洞窟内に出来たのは良い事ですね。
近い場所から美と叡智の座を使い、分析する時間がとれますから。敵はいずれも沼に住む魔物という点を上手く突ければ倒しやすいかもしれませんね」
如何でしょうかと悠々と腰掛けて居た九重ツルギが問い掛ける。洞窟が拠点となったのならば作戦も立てやすいと言う事だ。
「死にたくないとは確かに思ったよ。けどさ、自分以外なら死んでもいいって訳じゃないんだよ?
そこのとこわかってる? 社長? ここは『そういうところ』だとは知ってるけどさ……もう!」
唇を尖らせ拗ねたようにそう言うグレイガーデンに崎守ナイトは一寸だけきょとんとしたかのような表情を見せたが、直ぐに常通りの快活さを滲ませ、グレイガーデンの頭を乱雑に撫でた。
「あーはいはい、分かってるって。グレイは優しいよな! 俺、お前のそーいう所、大好きだぜ! ……だから無茶しても、守りたくなんだよな」
後半の言葉は聞こえぬように。気を取り直したようにナイトは「さて!」と叫ぶ。
「洞窟抜けて出てきた敵をブン殴る、分かりやすくていいじゃねーの。コソコソ移動するより、よっぽど俺向きだぜ!」
「社長! 分かってる?」
グレイガーデンにナイトは応えやしない。
「ハイドラ……多頭の蛇、か。あれを倒さねば先へは進めない……成程、なかなか手強そうだ。
そしてピアレイ……え、飛ぶの? 水中から引き込むのではなく?」
「浮遊しているあのもふもふがピアレイか。遠巻きに見るとファンシーな生き物だが、どうなのだろう。もっと近くに寄る……のは、危険なのだろうか。
飛んでいるのはアレだろう? 『ハイドラが固有のオブジェクト』のように動かない代わりだ。実に効率的だ」
頷いたスキャット・セプテットにイズルは「そう言う物?」と問うた。スキャットは「そういうもの」だとさらりと返す。
先ずは盾役であるツルギが前線へと進んだ。イズルがツルギとナイトに対して毒を無効にし、災いを緩和する力を授けてサポート役に回る。
だが、それもイズルにとっては僅かな居心地の悪さだった。回復手はパーティーには必須だ。だが、前戦で戦う仲間の力になりたいという気持ちは揺るぎない。
そんなイズルにツルギは「イズルさん、有難うございます」と微笑んだ。
「防御ならばお任せを! 僅かでも長く、皆さんが戦場に立てるよう貢献させて頂きます! 汚い沼に沈むなんてデスカウント以上に悍ましい!」
ツルギの足下に出来上がったのは氷面。ハイドラの動きを固定した彼は勢いよく雷を放つ。毒頭竜ハイドラの体の内部を駆け巡る雷が水に濡れたその体を痺れさせたか。
だが――ツルギに向けて寄っていくピアレイの姿が見える。スキャットは狙う。狙撃役として『一番言ってみたかった』台詞を用意して。
「――落ちろ!」
一度入ってみたかったお馴染みの台詞。その模倣を口にした彼女の方をぽんと叩いてからナイトは前線へと飛び出した。
「こんな場所じゃ娯楽もねぇだろ。俺の情熱(Passion)溢れるダンスで昇天させてやろうじゃねーの!」
ナイトの得たスカイフォース・アタックは水上を自在に『踊る』事が出来るものだった。故に、社長舞踏戦術(danceing president night)のキレが落ちることは無い。
キレッキレの動きを繰り返すナイトにグレイガーデンは「話覚えてる?」と小さく呟いた。ネイビーアームズで水上を動き、雷の力で毒への抵抗力を失わせる。
「首を落しきれば再生は追い付かない。再生能力なんて万能なものじゃ無いんだ。
鱗だってまだ治癒できてないし……なら、首を落して! その傷口を役のがお約束。治癒が間に合わなければ、他の部位を傷付けて一斉攻撃で倒せるはずだから!」
グレイガーデンのその言葉にナイトは「OK!」と叫んだ。イズルのサポートを得て、受け止め続けるツルギの表情が歪む。周囲のピアレイを駆逐することを優先するスキャットは此れまでの仲間達の攻防で傷付いた――きうりんをよく食べていた――首が落された瞬間を確かに見たのだった。
成否
成功
状態異常
第2章 第22節
「結構進めてきた感じね。右も左もって感じで。これから先がどれだけあるのか、っていうのも分からないけど……聞いた話だと、そろそろ『ヒント』は貰えそうなのかしら?」
こてりと可愛らしく首を傾いで見せたトリス・ラクトアイスにアカネは「亜竜姫さんと言う人が待っているそうですからね!」と大きく頷く。
「行くぞ! 未知の世界へ!! 邪魔するヤツは全部ぶっとばーーーーす! 覚悟ハイドラ!」
そして、亜竜姫に『うどん』をプレゼントしてやるのも吝かではない天狐はびしりと前線を指さしたのだった。
ハイドラ狩りの開始である。亜竜姫との『出会い』を楽しみにしているトリスも居るが、それ以上にハイドラに興味を示している若干二名。
「さて♪ このままどんどん突き進みましょう♪
次はハイドラ……えーと……首が沢山ある奴でしたっけ? それは個人的にはどういう死体になるのかとても興味が……こほん」
「あら、興味があるなら落ちた首の一つくらい頂いていくのはどうかしら? 再生しようとしてびくびくしているけれど」
怯える『エルシアちゃん』の背をそっと撫でたイルシアは「可愛いわね。びくびくしてる」と囁いた。幼児は首を振っているが――母は興味は無いのである。
「ふふふ、慌てて逃げ出すピアレイ達も可愛らしいけれど、やっぱり私、ハイドラを燃やし切るまで浮気はできないわ!
それに、ハイドラだって私の事を、きっと脅威だと思ったに違いないもの。
幾ら私でも、敵に背を向けてピアレイ燃やしごっこに感けたらどうなるのかくらい解ってるわ! 解っててもどうにも出来ないかもしれないけど!」
さあ、燃やしてしまいましょうと微笑んだイルシアは可愛いエルシアが食べられてしまわないようにと全力で焔を放つ事を決めていた。
先程グレイガーデンが『傷口を燃やしてしまえ』と言っていたが、イルシアにとっては盛大に同意する内容だ。
「さあ、見て居てね。エルシアちゃん!」
母の頑張りを全力で見せる。そんな姿を見て育ったエルシアは屹度素晴らしい大人になるはずなのだと。イルシアは堂々と宣言した。
「……後はまあ、今回は派手にいっても大丈夫かな。
『この先』に向かうならパフォーマンスで気を引けるようにしておくのは無駄ではないでしょ」
誰かが見て居るようだし、と囁いたトリスにアカネは「亜竜姫さんではなさそうですね?」と首を傾いだ。わざわざ面白がって見て言る『タイプ』であれば姿をこの段階で現す筈が無いというのが見解だ。
「さて、首を全て此方に向かせましょうか。全部の首をしっちゃかめっちゃかに吹き飛ばしてやります♪」
にんまりと微笑むアカネはハイドラの首を引き寄せるように立っていた。その華奢な体を苛む痛みを拭い去るのはトリスである。
回復の射程ギリギリに立っているトリスはパフォーマンスを見せ付けるようにアカネを支え続ける。
無数の首からの攻撃を『跳ね返す』様に、痛みのお裾分けを続けるアカネは「地味に聞いてますね♪」とにんまりと微笑んだ。
焔が美しい。そして、暴風が舞踊る。そんな中を進むのは天狐。
掴み取れ幸運! もぎ取れ勝利!
そう掲げ、無理ゲーなんて言わせない勢いで放つせつなさみだれうち。ハイドラの首から鱗を剥ぎ取り残る首を『もぎ取って』やるのだ!
「幸運パワーで突き進む! このワクワクは誰にも止められない! ――いざ! 突貫!!」
成否
成功
第2章 第23節
「ちっくしょー、ボクはご飯じゃねーんですよー!
オマエらボクが強くなったら絶っっっ対食いにきてやっからなぁッ!
覚えとけよワイバーンちくしょー、てめーら顔覚えたかんなー!?」
叫ぶみゃーこはワイバーンを見上げて小さな手でばしりと指し示す。渓谷の中を走り、獣の死骸の上を抜けてゆく。
屍肉そのものを囮にしてするすると辿り着いたハイドラは『猫』と比べれば巨大そのものだ。
「あれ、倒すんです?」
「そう。……むー……ハイドラに接近できるメンバーを増やすしかないかぁ、と思ってたけど……」
「ボク?」
Λはこくりと頷いた。俊敏に動き回るみゃーこならばハイドラに接近できるのでは無いかとΛは考えたのだ。アクティブソナーで周辺の警戒を行い、翼を開く。
背部に増設されたエーテルコンバーター内蔵翼型スタビライザーがばさりと開いた。
「毒を使用するらしい。寧ろ血液までもが、毒、と」
げーと言う顔をしたみゃーこにΛは「だが、倒せる!」と力強く頷いた。放った魔導砲。周辺をふわふわと飛ぶピアレイを優先して攻撃し続ける。
「流石にハイドラも数の暴力状態で攻められたら沈むでしょ……沈むといいなぁ」
希望的観測というわけでは無い。そう認識して居るヨハンナは「よし」と力強く頷いた。
「首1本落ちたか。こりゃ俺らも負けてられねぇなァ。行くぞ、カメリア! プロメッサも合わせられるか?」
三人で突撃を。ヨハンナの言葉に異をとなる者は居ない。プロメッサはふんと鼻を鳴らすように笑ってから天頌旋ヴォルガノンを構えた。
「首が一本落ちたか。つまり――倒せぬ相手ではないということだ! 行くぞ、ヨハンナ、カメリア! 私達も奴の首を刈り取るぞ!」
一本の首に攻撃を仕掛ける。強力な脚力で地を蹴り飛ばしたプロメッサの背後から漂ったのは凍て付く氷、そして滾る炎の気配。
「傷つき、その鱗砕けるなら、狩り尽くす事ができる筈、何度でも、何度でも続けて穿いてみせます!
プロメッサ様、ヨハンナ様――狩りの時間です」
にい、と笑ったカメリアは焔の勢いで飛び上がる。その勢いを利用したまま身を投じたのはハイドラの元だ。
ハイドラの首が一本落ちた。その修復には時間が掛っている。治癒も再生も万能では無い。ならば、『再生しきる前』に他の部位に攻撃を重ねれば良いのだ。
カメリアは不動の精神で何が起ころうとも揺るぎない。空狐の直感は全てをお見通しにする如く。叩き付けたのは紅い氷に蒼い焔。
混じり合う訳のない二つの力を滾らせて。赫々たる紅と晴れ渡った青が混じり合う。その、揺るぎない焔。救世の如く――叩き付ける。
「もう1本くらい首置いてって貰おうか――!」
ヨハンナはにぃと笑った。己の力生み出した矢がハイドラへと突き刺さる。だが、その効果時間は短いか。短くとも構わない。何度だって繰り返せば良いのだから。
跳ね上がるように宙を踊ったヨハンナのサポートにプロメッサとカメリアの攻撃がハイドラの首へと叩き付けられる。横面を叩かれたように首が『ぐねり』と曲がる。だが、まだ浅いか。
「再生できてませんね。このまま!」
声掛けたカメリアにプロメッサは文字通り決死の覚悟で攻撃を放ったのだった。
「貴様が己の毒でダメージを負うことは確認できている……ならば、この毒を受けた体で貴様の首に食らいついてみせよう! 突撃だ!!
真に恐ろしいのは、追い詰められた際の――”餌”の命を賭した反撃だということを教えてやろう」
成否
成功
状態異常
第2章 第24節
「次はハイドラなのですよ! ……ハイドラってなんなのです?」
こてりと首を傾げたミルフィーユにトルテはハイドラ知らないのかとミルフィーユのかんばせを見遣った。サブカルチャーにも造詣深い普通の男子であったトルテにとっては予備知識はある意味万全ではある、が。
「さぁなぁ。脅威度Aらから気を付け……ああ、あれがそうだな。首が一つ落されてる。けど、まあ、強敵っぽいよなぁ、アレは」
「おぉ……アレは確かに、脅威度Aとかになりそうなのです……」
ゆっくりと後退するミルフィーユの背に手を添えてから「怖いなら下がってていいんだぞ?」とトルテは囁いた。
――因みに此れは『危険な目に合って欲しくないから頼むから後ろで見て居てくれ』の意味である事にミルフィーユは気付いてはいない。直ぐに倒されないようにちゃんと準備を、とパーティーメンバーの揃い踏みを待っているのだ。
「ん? 大丈夫なのですよ!」
やっぱり伝わらない。不憫なトルテが溜息を漏らしたその横顔へルフラン・アントルメがくすくすと笑い続ける。屹度、彼と彼女は何時だって空回りなのだ。
「ひゃー! なんだかとってもボスの気配! ハイドラを倒して、サクラメント設置するぞー! えいえいおー!」
足下の沼に対しては飛行で対処をするというルフランは小さな体でふわふわと浮き上がって『隊長』の指示を待つ。
パーティーの集合を確認してからゆっくりと仲間に向き直ったベネディクト・ファブニルは堂々と宣言を下した。
「さて、俺達の障害はハイドラか……多頭竜が相手となると、実質は敵が何体も居る様な物だ。
気を付けねばな。サイクロプスよりも強力な敵だ。皆、注意してかかれ!」
ベネディクトの指示を受ければリュティスは「御意に」とスカートをそっと持ち上げる。揺るぎない従者魂は此度の敵にもしっかり対処するつもりなのだろう。
「首が多いだけの爬虫類みたいなものでしょうか?
それぞれが別の意志を持って居ないようですし、まとめて薙ぎ払ってしまえば問題ないでしょう。もう首が一つもげています。
いいですか? これはチャンスなのです。更なるチャンスを作るために、今回も囮は任せましたよ。グッドラック」
ひめにゃこにとっての身内敵その1の発言で或る。デコイ扱いをされているひめにゃこは「そんなことより!」と叫んだ。
「なんか竜にも姫がいるらしいですね? 絶対見つけ出して姫バトルを挑まないとですね! どちらが姫として格上か思い知らせないといけません!
その為にはまず邪魔な頭いっぱいのドラゴン……ハイドラ? を倒さないとですね! 頭がいくつあろうと賢いひめには勝てないんですよ!」
そう、亜竜姫と呼ばれた存在が気になるのだ。亜竜種、混沌世界でも存在を仄めかされてきた『存在して居るはずの人種』との領域での出会いはリラグレーテの心を大いに震わせる。
「亜竜のお姫様……これだよこれって感じ。ROOの執筆者って人は冒険ってものをわかってるなぁ! 最高! ……いるのかは知らないけどさ!」
「まあ、R.O.Oも『ゲーム』だとなればシステム設計者の神の眼というものは存在して居るのかも知れませんね。
謎の少女は兎も角として……何にせよハイドラを撃破しなければピュニシオンに到達できないのなら、このまま倒すしかないですね。
ハイドラ。多頭蛇、遥か神代に生きた不死殺しの毒蛇か……何処まで同じようなものなのかは兎も角、少なくともワイバーンよりは強力で、サイクロプスと比べてもどうかという所でしょうか」
まじまじと見遣ったシャスティアにリラグレーテは「しかも相手はハイドラ!」と紅色の眸に嬉嬉たる興奮を乗せる。
「ハイドラ……多頭の蛇竜、ね。こういうThe物語に出てきますよって怪物と戦うのってやっぱりわくわくしちゃうな」
文字通り『頭数』が多いなら数で勝負の黒狼隊。リラグレーテ、《御伽に茂しロゼッタネビュラ》を発動、武装(メイクアップ)!!
「亜竜ハイドラ! まさに伝説や神話の存在そのものだな。相手にとって不足なし!
ハイドラよ! そしてまだ見ぬ竜の使者たちよ! 聞くがよい! そして刮目せよ!
我が名はストームナイト! 白銀の騎士! 揺ぎ無き友誼を結びし仲間たちと共に神話を乗り越え、伝説を紡ぐ者のひとりである!
これより行われる戦いを、しかと目に焼き付けるがよい!!」
堂々と宣言をする白銀の騎士ストームナイトにタイムが「すごい!」と手をぱちぱちと叩いた。張り切るストームナイトさん(中身が誰なのか分からない)はとてもカッコイイのである。
「……ま、要するに、目ん玉かっぽじってよく見とけってこった!」
「ん? その言い方知ってるような……まあ、いっか! こんなのすごいのが混沌世界にも存在するのかしら?
ストームナイトさんも張り切ってるしわたしもがんばろー! えいえいおー!」
手を振り上げたタイム。首が落ちたハイドラをまじまじと見遣ってジョギングしながら登場したダテ・チヒロは空気砲で浮かび上がりながら爽やかなフィットネススマイルを浮かべて見せた。
「真打は遅れたころにやってくる! 俺の分のフィットネスチャンスは残しておいてくれてるよね!」
キラリと光る汗が輝いている! そんなチヒロはハイドラの首の一つくらいはフィットネス(意味深)して起きたいと考えていた。
先程、プロメッサやカメリア、ヨハンナの攻撃で首の一つが打撃を受けている。首を全て切り落とさなくとも彼方が毒で蝕まれて沼に沈むのが早いかもしれないのだ。
「大丈夫、まだまだ首は沢山残ってる! 謎の少女も気になるけど先ずは目の前の脅威を何とかするのが先決だよねっ!
いや、うん。出会ったら出会ったで仲良くしたいけどもっ! だってこんな場所での出会いとかスッゴイ楽しそうな感じだもん!
――その為にもハイドラが相手だって負けてられないんだから! いくよ! 貴方の心に安全確認っ!」
いくつもの戦いを経て成長した気がする現場・ネイコはハイドラの前へと躍り出る。ハイドラの注意を引き付けるネイコの後方よりねこ神さまの黒ねこさんが鋭い爪と牙でハイドラへと迫り言った。
猫の幻影は全ての首を『こんがらがらせる』ように走り回る。接近戦は怖い。だからこそ少しは距離をとるように、ねこ神さまはハイドラを見据えていた。
「ねこです。よろしくおねがいします。竜族にも姫と名乗る者がいるそうですね。姫です。王族です。彼らも王権主義なのでしょうか?
いつか遭遇できる日を楽しみにしていましょう。未知ですね。今回のターゲットはハイドラだそうです。
多頭竜ですね。多い事が有利とは限らないのですよ。寧ろこうした場面では不利にもなり得るのです」
ねこ神さまの『猫』に首を動かしたハイドラを其の儘受け止める様に首の一つを引き寄せるマークは言ったもん勝ちバリアを張り巡らせながらぽつりと呟く。
「そろそろ黒狼隊にも武勲がほしいよね。相手がハイドラなら、首級はいくつも上げられそうだ」
そう。エネミー討伐を行った達成感が黒狼隊にも必要なのだ。ハイドラの首の二本くらいは頂いていきたいか。違いないと笑ったリュカ・ファブニルの爪を思わすオーラがハイドラの肉を断つ。断面が見え、毒の血液が周囲を焦がす。
「ハッ、良いぜ、ワイバーンよりずっと強敵って感じの竜だ! 楽しませてくれよな!」
胴体へと叩き込んだ攻撃は幾重にも重ねて鱗を削る。竜の剛力で肉を断てば、ハイドラの無数の首が揺れ動く。
こいつを倒してこいと『亜竜姫』は言っていた。リュカにとってはラサで相対した『琉珂』となのった少女が思い出されて仕方が無い。
「デザストルに亜竜っつーのがいんのか? そういやいつだったか琉珂ってやつにワイバーン退治頼まれたな。
こっちじゃ名前まで同じの上、俺の見た目もそれっぽくなっちまったな。……縁ってやつを感じるぜ。こっちでも会ってみてえが、あっちでも再会したいもんだな」
現実世界にも彼女が存在して居ることは確かだ。ならば、今回、R.O.Oで少しでも情報を集めておけば覇竜領域の琉珂と出会うことも可能ではあるまいか。
胴を狙うリュカと同じく細く頼りない足を狙ったストームナイトは肉薄し、沼地へと己を引き摺り込もうとするピアレイ諸共何度も何度も攻撃を叩き込む。木こりの如き仕草で放つ剣にハイドラの体が揺らいだ。
「流石に硬いな、相手もまだまだ余力は残していると言った所か。だが、行ける!
攻撃の手を緩めるな! 今回の交戦だけでは駄目でも、次の者達に繋げるんだ!」
ベネディクトの号令にルフランは「囮にばっか夢中の莫迦な竜さんの首がこんがらがってきたよ!」と叫んだ。
慌てて飛び回るルフランが慌てすぎてマークと『ごっつんこ』するのもご愛嬌。デザートの魔法使いの様に、食べたいお菓子で誘えば、食いしん坊さんは何時だって首を『永く』してみせるのだ。
「トルテさん! ハイドラの首がこんがらがってるのです!」
「じゃあ、マークの言うとおり『二本』くらい貰っておこうぜ!」
攻められる場所が多いハイドラは黒狼隊の一斉攻撃に途惑っているのだろう。ミルフィーユとトルテに頷くようにリュティスは言った「役目でしょう」と。言われた側のひめにゃこの衝撃を受けた表情にリュカがく、と小さく笑う。
「琉珂に会うためにさっさと行くぜ、ひめにゃこ!」
「ええ! どちらが本当の姫であるかを教えないと。って、あれ? ひめが行く事になってます?
いいや、ちがいますね! ふふーん、ひめの可愛さで翻弄してやりましょう! 頭ぐるぐるになーれ☆」
にんまり微笑んだひめにゃこの放ったぷりてぃたいふーん――もうマヂムリ、ひめにゃこ尊い、しゅき……な気持ちになるビームである。
ねこ神さまは「その調子ですよ」と頷きシャスティアの槍が一斉攻撃を続けた黒狼隊の狙った『首』一つに突き刺さる。
「確か――急所は中央の首、傷口を灼き切れば再生も止まるでしょうか?」
「成程! じゃあ、落しちゃえ!」
ネイコが叫ぶ。マークの眼前へと迫ったハイドラの首に向けて叩き付けたカラミティストライク。
マークが「その調子だ!」と微笑めば。沼に足を取られたくは無かったタイムが「うわーーーん! ヤケクソのすごいぱんちえーい!」と激しい勢いで飛び込んでくる。
其の儘、首が落ちる。沼に落ちたくない。タイムは「助けてえええ!?」と叫んだ。沼に落ちてドロドロになんかなりたくないけれど、首を一つ落とせたことが嬉しくて堪らない。
「えっ、固いのに柔らかかった! 皆凄いー! このお肉って叩くと柔らかくなって美味しいし、討ち取ったあと何か料理できないかな~? まって、違う、落ちちゃう~!」
慌てるタイムの手を掴んだリラグレーテは「なら、次の首を狙おうか!」と微笑んだ。
「ちょっと違うけどリヴァイアサンを思い出しちゃう……ああもう、どうせならああいうのと戦いたいなぁ!?」
リラグレーテはそう呟いた。リヴァイアサンは五面作戦であった。其れと思えば死に戻っては居るがまだまだ『亜竜ハイドラ』は弱い方か。
そんなこと言っている場合ではないとチヒロと共に狙い定め首を落さんと距離を詰める。
「この華麗なステップ、見切れるかな? あーっ! 効いてる効いてる! 大腿四頭筋とハムストリングスに効いてる!
謎の少女にスムージーをプレゼントするクエストが出てるんだ! さあ、健全な精神は健全な肉体に宿るんだぞ!」
ルフランが引き付けていた首へとフィットネス(意味深)を行い続けたチヒロに「ナイス!」と声を掛けたストームナイトは「倒すぞ!」と叫んだ。
足が揺らぎ、バランスを崩したハイドラの三本目の首へ、シャスティアの槍が深々と突き刺さった。
成否
成功
状態異常
第2章 第25節
「ハイドラは、やはりタフだな。ならばここはアバターとしての特権をフルに活かして挑むしかあるまい」
真読・流雨はじわじわとハイドラと距離を詰める。ぞろりろ揃っていた首も数が少なくなればリミットも分かりやすい。あと3本か。
死亡することを前提にダメージを負わせ、首を落してやれば良い。回復が間に合わず自滅する時が近いことを流雨はひしひしと感じていた。
ふすりぷすりと竹槍を投げ入れて、攻撃重ね続ける流雨と同じくハルツフィーネはクマさんにいってらっしゃいと応援を一つ。
「首がたくさん。落としてみろと言わんばかりですね。
首が一つでもクマさんは負けてないと証明してみせましょう。その挑戦、受けて立ちます」
セイクリッド・クマさん・フォームとなったクマさんが三本も首を落されたハイドラの弱いところを狙うようにクマさんクローを叩き付ける。
首が三本落ち、再生が間に合わぬハイドラの抵抗も徐々に弱くなっているか。クマさんを操縦するハルツフィーネはぽそりと呟いた。
「クマさんは燃費があまり良くないので後先考えずに飛ばしてきましたが……すぐお腹が空きます。……食べてもあまり美味しくなさそうですね。残念です」
確かに首が無数存在するハイドラだが、血が毒となれば美味しそうともいえないだろう。
「そういえば、練達に丑の日なるモノがあるのだったか? こういうにょろにょろしたモノを喰うと精がつくのたまったか。何時か解らぬが、景気付けにさいいだろう」
首を捻った流雨にスティアが「ががーん!」と叫んだ。どうやら食べる気満々なのである。
「私に斬れない物はないはずだー! その首刈りとってみせるよ!
そしてハイドラの活け造りを作ってみせるんだー! 皆が大満足のスティアスペシャルになっちゃうね。流雨さんもハルツフィーネさんも食べてね!」
情報収集を終えてきたスティア達一行の突然の『お願い』にハルツフィーネの表情が曖昧なものに変化する。
ばれないように、と姿勢を低くして情報をキャッチしていた指差・ヨシカは「死んでリスポーンする間の瞬間で眠っちゃってた……しかも、ハイドラを食べさせられそうじゃん……」と呟く。
「それで皆が言ってるのは? ……NPCの亜竜姫か。へえ~アバター可愛いな、竜って言うくらいだからこの竜域クエストとの関係もあるんだろう。
好意的だって言うから味方NPCだといいな~。可愛い女の子キャラは何人いてもいいものだからね!」
にんまりと笑ったヨシカにスティアは「あ、ヨシカさんもハイドラ食べようね!」と手を振った。後ろで首を振っているエイル・サカヅキ曰く「シラぽよに任せたしー」なのだ。
「えっ!? と、取り敢えずその子と話をするためにも、目の前の敵を倒しましょう。ハイドラ、多人数での討伐クエストに相応しい大型mobじゃない!」
ゲームらしいとうずうずとしたヨシカが地を蹴った。天空に浮かんだ魔法陣より放たれるのはプリンセスパイルハンマー。
首を狙うヨシカと同じようにハイドラ退治を行うアレクシアは「一本だけ首を庇ってるみたいだよね。殺気まで縦横無尽に動いてたけど!」とシラスを振り返った。
「ああ、確かに。あの首が『本体』か?」
「どうだろう。けど、目指すべきものはわかったし、琉珂って子にあってみたいし、森までドンドン進もう! 狙うはあの首だ!」
連携だってしっかりとこなせるようになってきた。アレクシアが攻撃を放てば、それに合わせるように吹雪はハイドラの視線を奪う。
「しっかり休んで、面白いお話も聞けたところで探索を続けましょうか。
とはいえ、まずはあのハイドラを倒さなくては先に進めないようね。琉珂さんにも会ってみたいし、そのためにも早く片づけてしまいましょう」
「ああ。ピュニシオンの森の景色は、現実ではまだ誰も目にしていないじゃない? よし、燃えてきたぜ!
……ところで、スティア。何を盛り上がって……ハイドラの活造りですてぃあすぺしゃる? マジで言ってるの? なにそれ怖い」
「ええー? 美味しいよ、屹度」
「却下」
「ががーん!」
シラスが首を振る。エイルによってすべて『プレゼント』されかねないシラスは戦々恐々としながらハイドラを受け止める盾となる。
「ッ、活け作りで思考が!」
「敵は身内にあり……私は、その、そう!実は観測所で少しお菓子をいただいてしまったからお腹がすいていないのよ。
やっぱり体も大きいからシラスさんは沢山食べるのではないかしら? だから遠慮せずに私の分まで食べてしまっていいのよ」
微笑んだ吹雪に裏切者とシラスが叫ぶ。吹雪の氷刃がハイドラの首を傷付けた。アレクシアが指摘した『庇われる首』に攻撃は通らないか。
「いやーウチらのチームワーク、そろそろ我等友情永久不滅的な?」
ハイドラだろうがジョッキで殴れば死ぬんだよと勢いよくぶち上げたエイルは狙う首は一つ。それでも其れを庇う首があるならば一斉攻撃で『首に攻撃を届けさせてダメージを蓄積させれば良い』と考えていた。
スティア・スペシャル・アタックで『活け造り』を作ろうとしていたスティアは「喰らえー!」と叫ぶが、ヨシカやハルツフィーネ、流雨はその様子を眺めているだけだった。
べちん。
成否
成功
状態異常
第2章 第26節
「なるほど、狙うは首か。そうと分かれば恐れるものは無し。
頭さえ落としてしまえば流石に無事では済まないだろうしね。ここを突破してサクラメントを設置すれば大幅な前進だし――全部ぶった切ってやろうじゃないか」
それにしても、とスイッチは『何処からか感じる視線』を探すように周囲を見回した。ラサにまで遊びに来る亜竜姫、彼女が先程この辺りを歩き回っていたのも何らかの理由があるのだろうが――さて。上空には何も存在して居ないか。普段も『オジサマ』と慕う男性と共に活動していると言うが。
「謎は多い、か……それも亜竜姫に聞けば分かるかな?」
沼地を避けて、ハイドラの首を狙う。スティアが傷付けた首に一太刀浴びせれば、一度後退。血液を浴びないように気を配る。
同じ首を狙うすあまは残る三本の中でも庇われる一本を傷付けるためにその障害を取り払っていた。
「うえー、ハイドラって血も毒なんだね。竜種、亜竜……どっちでもいいんだけど、1回ちゃんとお肉食べてみたいよね! あ、卵はいいです」
すあまは捕食でもぐもぐしながら、ハイドラって『案外』――すあま的に美味とはいかない!――美味しいのかも知れないとか感じていたのだった。
「……血は毒なのにスキルで食べると回復するんだよなぁ。ご都合主義最高だね。R.O.Oで良かった!
でも味はイマイチなんだよなぁ。美味しく食べられるってスキルにしとけばよかった! 何でも美味しく食べられます、的な……」
それならばお腹も膨らんだのに。拗ねるすあまの周りで毒を感じないピアレイがふわふわと浮かんでいることにアズハは首を傾いでいた。
「ハイドラは普段どうやって生きてるんだろう。そこのピアレイと共生してるのか? ……ともかく、今度こそハイドラ討伐を目指すぞ!」
空を踊り、ハイドラの首を狙う。誰かが見ている事はアズハにとっても気になることだった。探ることは出来るだろうが、深追いしない方が良いのかも知れない。
そも、イレギュラーズの大半が目指す『亜竜姫』は森で待っているらしい。彼女以外に『見られている』ならば、それは触れずに置いた方が良いのだろうか。
「さて、と……最初の討伐にしては、前回の成果は上々だったと思うが……いったい何本あるんだ、奴の首はッ!」
憤慨するスキャット・セプテットに指折り数えたグレイガーデンは「あと三つ」と囁いた。
「盾役が負傷し易いのも、回復が足りなくなりがちなのも、よく知ってる。結局、損耗を抑えるには――敵を早く落とすしかないのもね!
雷は効いてる…? 凍結で水面を凍らせるのも効いてる、のかな。僕もその辺りは持っているから、切らさないよう入れ続けるよ。被害を減らそう」
やる気を出したグレイガーデンに「二度も戦えば効率的に倒す術も見つけられるってモンじゃねーの!」とへらりと微笑んだのは崎守ナイト。
「それにしても、固定のオブジェクトに道を阻まれるって、実にオンラインゲーム的だよな。
他のルートを阻むのは、見えない壁じゃなくって凶悪なエネミーだろうけどよ!」
ナイトの言葉にイズルは「オンラインゲーム」と呟いた。「イズル、ナイト、ツルギ、グレイ…なんだか古き良き時代のRPGのようだね」と笑うその言葉に九重ツルギは「と、言うと?」と問い掛ける。
「そう、濁点や半濁点も1文字に数え、最大4文字しか名前に使用出来なかったレトロゲーだよ。
レトロ風のギルパンクエストとかいうのを遊んだことがあるけれど、やはり本物とは違うのだよね……」
「まあ、死んだ感覚は感じられますしね」
「そうだね。取り敢えずハイドラは自分の毒に抗体は無いんだ。鱗が特殊抵抗を賄っている。鱗の落ちた部分や落した首からBSを付与するのが良さそうだよ」
ほら、とツルギとナイトに支援を送ったイズルは「これが精一杯だから」と囁く。その『精一杯』が心に染みたツルギはある種感動していた。
「俺にはこれがあるだけでもうひと働き出来ます。これだけ、などと言わないでください。
どうしても気になるようでしたら、この戦いが終わった後にご褒美のハグでも……いえ、何でもありません」
「こほん! さ、行くぞ! 首を狙え!」
スキャットの指令を受けて、ツルギは氷乃上を滑るように攻め立てる。
「貴方の本性(なかみ)……ブチまけて戴きますよ!!」
仲間達の攻撃でハイドラの『狙うべき首』は分かっている。ナイトが放ったのはおニューのアクティブスキルだ。見て居ろと叫んだ彼をグレイガーデンは眺め続けるが――
「肩にかけてる背広から名刺を取り出して、シュッて投げるぜ! かっけー技だろ! スキル名絶賛募集中!」
「え……どう見ても、スタイリッシュ名刺交換にしか見えない……」
どうみてもスタイリッシュ名刺交換にしか思えないスタイリッシュな名刺交換で事故を固辞するナイトにスキャットは「キリキリ働け!」と叫んだ。
「どうやら首が落ちたことで『護るべき首』を庇いだしたみたいだな! あの首を狙え!」
「そうだね。あれを狙おう。というか、社長でしょ、秘書(イズル)でしょ、重役(ツルギ)でしょ………平社員かバイトしかポジションあいてなくない?」
グレイガーデンの呟きにナイトは「HAHAHA!」と大きな声で笑うだけだった――ハイドラ討伐まで後少し!
成否
成功
状態異常
第2章 第27節
「それにしても、亜竜となると迫力があるし大きいな。でも、それだけ食べごたえがあるっ事だね」
しかももう少しで討伐フラグ。そうともなればじぇい君のお腹もぎゅうと鳴るというものだ。これを食べるためならば、倒さなくては為らない。
『ハイドラ 見っけ』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧がホニャホニャと伝えるその言葉にじぇい君がこくこくと頷いた。
『首 多い』
「ああ、けれど随分と首は落ちたな。相手もそろそろ倒せそうだ」
フー・タオが笑いかければ縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はならば、食事の時間が近いのだと宣言する。
『食いで ◎』
ハイドラを討伐せねば食べられるものも食べられない。ヴァリフィルドは『斃環』のデータを本流として放つ。データをクラッシュさせるようにハイドラの――先程、ストームナイトが執拗に攻撃を喰らわした――右足がバグのようにブレた。常ならば前線で闘うヴァリフィルドと代わり、一番手を担ったのはミミサキである。
「どーもー。遅れて登場、ミミックのミミサキです。
ROOでもなければハイドラなんて食えませんからねー。ファンタジー飯、チャレンジしてみましょー」
レアドロップの予感をさせながら、其れっぽい雰囲気を出してハイドラの首を引き付ける。引き寄せれば、その後、只管『捕食』タイムなのである。
喰らいながらハイドラからHPを吸収し続ける。耐え続けるには中々厳しい戦いだが、タンカーを交代するメンツは揃っている。それに、ハイドラも虫の息だ。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は『同時に多数の首を狙ってハイドラの思考を割かせる』事を考えた。良いと頷いたのはアイだ。
「ハイドラ……あぁ確かに複数あるのなラ、同時に狙って落とすのは大有りだネ! 何せ、残る首は三本。庇う首が2本に、庇われるのが一本と来タ!」
ならば此の儘攻撃を重ねてやれば良い。毒のある生物だって食べることが出来るのだと告げればじぇい君の眸がきらきらと輝いている。
「フグとかもそれサ。こうすれば食べれる、っていう方法を見つけられるかもしれない!
何なら戦闘時に特定の部位を特定の順番でたたくと毒性が抜けル、なんていう特殊調理食材的な其れの可能性だって否定は出来まいヨ! 分かったならその通りにやってみようじゃぁないカ!」
「血抜きをするのもアリかも知れない」
そう呟いたヴァリフィルドにアイは「アリだネ!」と手を打ち合わせた。食べることに執念を燃やす美食家達。
アルヴェールは「沼以外の草木は茂っている。ならば、ハイドラの毒に耐性があるんじゃないかい?」と問い掛けた。
「竜の住む地……現実じゃあないとはいえ、あちらでは早々踏み込めない場所だ。
これは大冒険のチャンス……じゃなくて、調査の絶好の機会だね。竜が忌避するとか、逆に惹かれる植物があったりするかもしれないし、そうでなくとも、食べられる物があれば調査行の役に立ってくれそうだ。
具体的には食べれる物を見つけ次第に味見をしつつ……これは調査、調査だよ、決してつまみ食いではゲフン」
ほら、と指さした草を食んだアルヴェールは「此れを見て貰っても?」とアイに問い掛ける。アイの魔眼曰く――『薬草を遣えばハイドラの毒性を失せさせることが出来る』という。出血過多状態。沼は最早毒沼に化しているがそれがハイドラの血抜きになっているならば此の儘攻め立てるが吉だろう。
「僕はハイドラのお肉は塩だれで食べたい! だから、かかってこい! 僕がお前の相手だ!」
気を引くように叫んだじぇい君の後方でミミサキが一度体制と立て直す。ヒュドラが見せた不意の悪意がハイドラの首を切り裂いた。
毒の血潮が体へと被さるが、気に止めてはハイドラを食酢には通らない。フー・タオはゲテモノ分類されるであろうハイドラを眺めて居て呟いた。
「ふむ、ハイドラと言うが、蛇なのか竜なのか……どちらにせよ、ゲテモノ分類される事に違いは無い。
肉にまで毒が回っているかどうかは気を付けねばならぬであろうな。いや、回っていないか。毒の耐性がないのだから」
鱗は毒をも退ける。だが、肉は毒に蝕まれているのだ。お肉は美味しく頂けそうだ。内臓は毒袋が存在するため注意した方が良いだろうが。
そう思えば満身創痍のハイドラを攻撃するのも吝かではない。フー・タオの蒼火がハイドラを蝕んだ。沼に転がるように落ちたその体が毒にもぬめっているがヴァリフィルドは気にも止めない。
「此の儘食べるぞ! ……まぁ首の一つでも仕留められれば、しれっと持ち帰ってもバチは当たらぬだろう。
無論一人で食おうなどという抜け駆けはせぬぞ。そこは皆で倒したものであるが故、わきまえておる。が、つまみ食いも良さそうだな?」
口をあんぐりと開けたヴァリフィルドにアイは小さく笑った。「もう少しで倒せるよ」とそう告げたのは一つの首がころんと転がり落ちたからだ。
最早再生も出来ないか。ハイドラのダメージも蓄積し、足下が揺らいでいる。これならば、倒しきり先に進むことが出来る――!
成否
成功
第2章 第28節
「亜竜姫さんに逢えなかったなぁ……でも進んでいけば歌も捧げられるはず……!!
捧げれば何かわかる気がするの! どこかで聞いててくれないかなぁ? ううん、こいつを倒せば会えるんだものね!」
頑張らなくっちゃと三月うさぎてゃんはドセンターに位置するガチ勢ハイドラくんが『アリス』達のパフォーマンスでクラクラである事に気付く。
回避優先、死なないこと。そして亜竜姫に会うために三月うさぎてゃんはとびきりのプレゼント。
新曲のRrestrictedDataはちょっぴりお茶目な女の子をイメージしたソロシングルだ。
――誰だって秘密を抱えて生きてる♪ この世界で解放しちゃえ! あの子もその子も秘密のデータ♪ バラさなければわかんない♪
その歌声を聞きながら、ピアレイを殲滅し続けるIJ0854の奮闘の甲斐もあったか。ハイドラを狙い続ける事ができるのはピアレイを殲滅するIJ0854の様な支援があるからである。
「複数個体が邪魔をするというのは十分に理解できました。
であれば当機は、後続、否。今前に立つ味方の障害を排除します。すなわちピアレイ達です」
IJ0854がアクティブスキルを使用してガトリングで攻撃を重ねる。
「派手に目立てば、それを刈り取りに来る味方もいるでしょう。居なければ十分、当機に集まればそれで良いのです。死んで、走って、戻る」
そのサイクルを重ねれば、そのうちに仲間達がハイドラを攻め立てる。IJ0854は『何度目か』を試した。ハイドラが地に伏せている。
「亜竜姫のねーちゃんとも、ちゃんと話してみてーしな。そろそろ潰させてもらうぜハイドラ!!」
やる気漲らすルージュが地を蹴り飛ばした。水上を走り抜け、生き残って森に到達するために愛の力で圧し折るが為。
「このままひたすら攻撃してても倒せる気はするんだけどな、『他に見ている人』が居る以上、急いだ方が良いかもしんねー」
ルージュの言葉に応えるようにセララが前線へと飛び込んだ。ハイドラへと毒属性を付与した『ギガセララブレイク』を放つ。
「仮に通じなくても威力が落ちるワケじゃないしガンガン行くよ!」
魔除けにも使えそうなハイドラの死骸を得て、其れを持って森に進むために。もはや動きの鈍くなったハイドラへと玲は飛び込んだ。
「――お主を、打ち貫き、先へ往かせてもらうぞ、長いの!」
互いが満身創痍。それには変わりない。だが、その分だけ攻撃は重ね続けたのだ。
「亜竜姫にあーうーのーじゃー。お名前を呼んで欲しいときは『その後』ということじゃし! ぜーったい突破してやるのじゃあ!
解ってはいるのじゃ、もう少し、もう少しが、足りぬ。まだこの竜域踏破は、まだまだ序の口。
だが、それでも。それでもじゃ! この緋衝の幻影が出来ぬはずがない! 妾は最強じゃからな!」
「そう! 最強だよ!」
セララが胸を張る。玲とセララの攻撃にハイドラが沈黙する。庇い続けて居た首を落されたことで一番に脆い首にイレギュラーズの一斉攻撃が加わったのだ。己の身から染み出た毒でハイドラは動くことも最早叶わないか。
水上を走っていたルージュはその体を踏み付けて、動かなくなったことを確認してから一気に駆け出した。
「森だ!」
森へと飛び込めば、サクラメントの光が見える。
――《簡易ワープポイントが開放されました》
システムメッセージを受けてルージュはぴたりと足を止めた。
「ちぇっくぽいんともそこなのじゃろ? であればだっしゅなーのじゃー! うぬ、うぬ、して、亜竜姫の名前はなんじゃろな?」
ひょこっと顔を出した玲。そして後ろから「亜竜姫さん!?」と三月うさぎてゃんが肩を跳ねさせる。
其処に立っていたのは――
「来てくれたのね!」
竜の角、翼、尾を持った肌に鱗を踊らせた《竜》の少女。謎のNPCであった亜竜種の娘であった。
成否
成功
GMコメント
●目的
『竜の領域』クエストクリア
・『竜の領域』クエストクリア場所までの到達
・『竜の領域』にて『****』『***』との謁見を行う事
フォルデルマン二世からの紹介状(クエスト)で訪れることが可能となった領域です。
現実世界では踏み入れていない『覇竜領域デザストル』をネクスト風に変化させた領域である事が推定されます。
伝承王国としての政治的な意味合いは絡みません。あくまでも『冒険』エリアが拡張されたと捉えて下さい。
●当シナリオは
『サクラメントでのリスポーン前提』のラリーシナリオとなります。
ネクスト2.0パッチを受けて冠題にもされたパッチメインストーリー『竜の領域』の踏破を目指します。
皆さんは当ラリーの終了まで何度でも参加する事が可能です。本ラリーに限っては『危険領域』である事からある程度のリスポーン・リトライを推奨します。
・ある一定数の情報、もしくは『各エリア』クリアフラグ達成で章が変更されます。
・クエストクリアまで、のんびりと進行してゆきますので当たって砕けろの精神で様々な行動を行ってみて下さい。
・前述通り『簡単に死にます』。竜種だけではなく亜竜、モンスターも他域の数倍強敵です。心して挑んで下さい。
・参加時の注意事項
『同行者』が居る場合は【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。
ソロ参加の場合は指定はなくて大丈夫です。同行者の指定記載がなされない場合は単独参加であると判断されます。
※チーム人数については迷子対策です。必ずチーム人数確定後にご参加下さい。
※ラリー相談掲示板も適宜ご利用下さい。
※やむを得ずプレイングが失効してしまった場合は再度のプレイングを歓迎しております。
●情報精度
このシナリオの情報精度は『未定義』です。
覇竜観測所より随時送信される《行動予測》《観測情報》は皆さんに随時(章変更ごとに冒頭に)『ある程度の予測』を与え行動の指針を齎します。
ですが、彼女たちは観測しているだけです。無いよりマシと捉えて下さい。
●重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
当シナリオに置いては『リスポーンを前提に探索を行う』事を念頭に置いて下さい。
●フィールド『竜の領域』
現実世界では覇竜領域デザストルに該当する区域です。混沌大陸南方の山脈に拠点を置く竜種の領域です。
情報は少なく、観測情報は余り多くありません。幾つか覇竜観測所による観測地域があります。
・ヴァンジャンス岩山
入り口に当たる険しい岩山ですです。岩肌を曝け出した険しい山が続いています。
草木は茂らず、ラサの砂漠地帯よりも荒廃とした雰囲気が感じられます。
亜竜種やモンスターが多く存在します。竜種で無いからと甘く見てはいけません。モンスターそのものも脅威です。
詳細不明。
・デポトワール渓谷
モンスターの死骸が落ちている渓谷です。ミロン曰く此の地は観測上、凶暴なモンスターが多いとされています。
詳細不明。
・ピュニシオンの森
ヴァンジャンス及びデポとワールを抜けた先に存在して居ると思われる森です。モンスターの根城となっており上空より偵察可能な岩山よりも危険な領域となります。
全方位に注意して下さい。この地点に到着した時点で『拠点用サクラメント』が設置されます。
詳細不明。
・???
詳細不明。
ピュニシオンの森の奥地に存在するエリアです。現在はマップにも開示されていません――
●覇竜観測所
覇竜及び竜種を研究するために覇竜領域付近に建てられた研究所です。大陸各国の連名で設立され、多額の補助金が出ています。
立場は中立であり、竜種を観測(めったに姿を見せない)するという職務上、閑職気味の場所であると認識されています。
所長ティーナ・エルヴァスティンを中心に、竜種に関しての観測を行っています。
所員『アウラ・グレーシス』による行動予測と『ミロン・メレフ』の観測情報が都度皆さんのマップに表示されます。
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