シナリオ詳細
竜域踏破
完了
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
オープニング
●ネクスト patch2.0『遥かな東と竜の脅威』
イベント《Genius Game Next》 クリア評価値がA(最大S+)――
update:2.0 エリアデータをRapid Origin Onlineにインストールします。
――――『『竜の領域』がインストールされました』
混沌大陸において南方の山脈地帯は安易なる立入りを禁止されている。
渇いた大地を潤す恵みの雨も怖れるように雲を割く、覆い被さる黒き影は何人をも竦ませた。
天を裂いた慟哭。地をも包み込む闇。それが1つの生命体による物であるなどと、誰が考えるだろうか。
否、此れまで幾重もの戦いを越えて来た勇者は識っているはずだ。
――《竜種》
それは絶望の海で廃滅の呼気を吐きながらイレギュラーズを圧倒したリヴァイアサンのような。
それは熱砂吹き荒れた麗しのオアシスを襲い来た水晶の骸、ライノファイザのような。
小さき定命の人の子をせせら嗤う脅威。
それらは混沌大陸でも早々お目に掛れやしない。
その伝説を目にしたくば死をも覚悟せねばならない覇竜の領域デザストルの奥地へ行かねばならない。
だが、ネクストは易々と。
イレギュラーズ達に『ご褒美』を与えるようなつもりでその場所を『実装』して見せたのだ。
険しい岩山に、入り組んだ渓谷、全てを覆い隠す森……。
MAPに描かれた情報を見るだけでもその道が過酷である事に気付かされる。
……だが、MAPは未だ立入りが禁止されている。
――クエストが発生しました。地点《伝承 王宮》 クエスト依頼人《フォルデルマン二世》
どうやらクエストの受注を以て開放が為されるのだ。そうした所までも如何にも《ゲーム》らしい!
●覇竜観測所
ネクストにもその場所は存在して居た。フォルデルマン二世の親書を手にしたあなたの向かう先には古びた屋敷が存在して居た。
その周辺には研究棟が連なり、竜の領域の至近にまで観測塔が存在して居る。防波堤や堤防を思わせる高い塀を有したその場所は大陸各国の寄付を受けて運営が成されているのだろう。様々な国家の特色が入り混じった不可思議な空間であった。
――砂嵐をも撃破することの出来た勇者達よ。未踏領域へと踏み入る事が可能となったらしい。
彼の地は《竜の領域》、竜種と呼ばれる者共の巣窟である。伝説、伝承、それらに触れてみる気はないか――
伝承・国王陛下からの直々のクエストである。
彼からのクエストが発生した時点でエリアマップは広がり、立ち入ることが出来なかったこの場所まで進むことが出来るようになっていたという訳である。
……今までも此の地まで近付くことは出来たが固く鎖された屋敷の門はさながら国境を隔てる塀のようであった。
「わ、もう到着してる!? ラ、ラナさん、どうして言って下さらなかったんですか! お待たせしちゃった……」
「声は掛けたが望遠鏡を話さなかったのは誰だ? 国王陛下さえ待たせるお前が勇者を待たせるくらい如何という事でも無いだろうに」
その場所を――《覇竜観測所》を眺めて居たイレギュラーズの元へと走り寄ってきたのは柔らかな白銅色の髪を持った少女であった。
幼さを滲ませるが彼女は成人した立派な女性である。フォルデルマン二世は『クエスト受注の際』に言っていた。
――伝承王国の貴族の娘が覇竜観測所の所長を務めている。エルヴァスティン家の才媛だ。力になってくれるだろう――
「申し遅れました。私は伝承貴族エルヴァスティン子爵家が三女、ティーナです。宜しくお願い致します。
覇竜研究所にようこそ。皆さんの訪問を所員一同歓迎致します! ……あまりおもてなしも出来ないような場所ですが」
「ティーナ、違うだろう。無謀な挑戦者達だ。もてなすのは私達では無く竜種、そうだろう?」
所長ティーナの背後に立っていたのは観測所の警備を担う幻想種ラナ・グロッシュラーである。
「そんな。竜種のもてなしなど恐ろしい事ではありませんか。……いえ、けれど、彼等を間近で見られるのは素晴らしいことでしょうね!」
瞳をきらりと輝かせた研究員レーン・クレプスキュルもラナと同じ幻想種である。翡翠の奥深くに『引き籠もっている』筈の彼女達も参入しているのは何とも不可思議な様子にも思えた。それだけ竜種という存在は人を惹きつけるとでも言うのだろうか……。
「そのデータを私達に齎してくれるというならば実に興味深い。キミはどう思う? ミロン」
「……少しばかりモンスターの動きが活発になっているようだがね。危険は承知の上なら、進入も構わないだろう」
ルーク・ドリーマーの問い掛けに観測塔より通信を介してミロン・メレフの言葉が届けられる。
「国王陛下からのご依頼だって言うなら、ミロンさんとて、そりゃあ断ることはできないでしょうに。意地が悪いですよ、ルークさん」
「そういうローリンは彼等が此方に圧倒されている間に国王陛下からの依頼内容を把握しているとは……」
ルークの溜息に笑顔を返したのは『ラインの黄金』とも称される商人ローリン・ヒルデヴォルクである。
フォルデルマン二世は政治的見地からこのクエストを出したのでは無い。勇者達に冒険を与えようと提案してくれたのだろう。つまり――真なる『勇者であれば冒険してこそ』なのである。
「こほん!」
咳払いで場を整えるティーナは「アウラさん、竜種及び亜竜種の行動予測を頂けますか?」と通信機を介して屋敷内部の研究棟へと伝達を飛ばしていた。
「はいっ、領域内から亜竜達は出てくる予測は無いけれど、内部で……ヴァンジャンス岩山でモンスターが活発化してるのはミロンの言う通りだよ。
第一の関門はその辺りかな……。ピュニシオンの森にまで辿り着けたらそこにサクラメントを設置して貰えばいいかも?」
「そうですね。拠点を幾つか設置しながら進んで貰う事になるかと思います。
逐一私達は《行動予測》《観測情報》を皆さんのマップに展開しますが……私達が思う以上に竜は知能を有している」
「……ただのモンスターって訳じゃないって事さ。怖じ気着いたならクエストを破棄しても構わない」
ラナさん、とティーナは非難の視線を向ける。彼女は伝承貴族の一員、救国の勇者達に対する期待は人一倍強いのだろう。
「こほん! 竜の領域は危険です。竜だけでは無く存在するモンスターも全て格上です。
此れより先は『未知の領域』です。踏み入れるならば死を御覚悟下さい。……どうかお気を付けて」
――イベント情報が更新されました。
patch2.0『遥かな東と竜の脅威』
クエスト名 《竜域踏破》 クエスト内容 《竜の領域を踏破せよ――》
- 竜域踏破完了
- GM名夏あかね
- 種別ラリー
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2021年08月27日 17時00分
- 章数4章
- 総採用数620人
- 参加費50RC
第3章
第3章 第1節
――ピュニシオンの森。
ハイドラを倒し、デポトワール渓谷を抜けた先に存在したその森には『簡易ワープポータル』が存在した。
サクラメントにもたれ掛って立っていたのは桃色の髪の少女である。
鬱蒼と茂った草木の中では、何処からモンスターが出てくるか不安感があるが、彼女は安全地帯を知っているのか堂々とその場に佇んで居たのだ。
「ふふ、皆なら来てくれると思っていたの!
こんにちは。わたしは『亜竜姫』と呼ばれているわ。
亜竜と言ってもワイバーンやハイドラと同じじゃないの。種族としての亜竜、亜竜種(ドラゴニア)。
わたしの名前は珱・琉珂(おう・りゅか)。呼びやすいように読んで貰って構わない。
実は『オトモダチ』が領域(クニ)の中で誰かが遊んでいるって教えてくれてオジサマに様子を見てくるように頼まれたの。
……本来なら、オジサマと一緒に領域(クニ)で待っているはずだったんだけど。此処は皆のトモダチ――覇竜観測所からも観測できないでしょ。
だから、ボーナスステージよ。わたしに会いたいと思ってくれた皆のためにね。
ここは、ピュニシオンの森。モンスターだらけよ。亜竜だって沢山。
まあ、ワイバーンみたいな『空から来る奴』はそんなに居ないけどね。その分、木々の間から……ほら、見てる。
実はみんなをわたしの領域(クニ)にお招きしたいと思っていたの。……けど、その前にテストをしないとね?」
琉珂はそう笑ってから、モンスターの観測情報を齎してくれた。どうやら、観測所の代わりに彼女が情報提供を行ってくれるのだろう。
《行動予測》
・当地域には森という地形を利用して複数のモンスターが潜んでいる。その強弱は差が大きく弱い個体も存在するようだ。
・上空を覆い隠した草木により暗く鬱蒼とした印象を与えるが上空からの奇襲はそれ故に少ないだろう。
・カプロスやステュムパリデスなど、無数のモンスターや虫等が多く生息している。
《観測情報》
・『琉珂のテスト』と呼ばれた存在が森の出口付近に陣取っている。
それは彼女と『オジサマ』が領域に客を招くための力試しであるらしい。その脅威度はSに相応するとみられているが――
「あ、テストはね、『微睡竜』って呼ばれてるの。
リヴァイアサン達よりはずぅっと弱いわ。弱いけど、ライノファイザってご存じ?
おバカな若者が竜域(クニ)に飛び込んできて闘ったことのある竜種なのだけど――それよりはもぉっと強いわ。だって、わたしたちの『オトモダチ』だもの」
……どうやら、森を探索後、『微睡竜』を檄はしなくては為らないようだ。彼女の物言いから、相手は……竜種か。
第3章 第2節
「到達だぜ!! なぁ、琉珂ねーはこの先で暮らしてるって事で良いのか? この地でまともに、町だか村だかがある事も知らなかったんだけど」
琉珂となのった『謎の少女』に微笑みかけたルージュはイレギュラーズが死に戻り前提で進んでいる場所を普通に散歩感覚で移動している彼女がどの様な存在なのかと疑うように見据えていた。
「わたしはこの先で暮らしているわ。けど、今回は特別なのよ」
「特別?」
「ええ。実はね、新しいオトモダチが『自由に歩ける』ようにしてくれたの。何時もは砂嵐に向かう抜け道を使ってたのだけど!」
どうにも、気になることは盛り沢山だ。彼女の話をより詳細に聞くためには『微睡竜』と呼ばれた彼女からのテストをこなさなくては為らないか。
「雪村沙月と申します。先程はありがとうございました」
「ああ、さっきの。琉珂よ。よろしくね!」
「はい。上手くは乗れませんでしたが、ワイバーンに乗れることがわかっただけでも有意義な時間だったかなと思います。
いつかは乗り越せるようになりたいなと思っておりますが……コツなどを伺っても良いでしょうか?」
「コツ、かあ……子供の頃から育てるとか?」
流石は領域内に棲まう亜竜種だろうか。それは中々に難しいが亜竜種ならばなせる技なのかと舌を巻く沙月に琉珂は「まあ、友好的な子は居るという事なのだわ」と揶揄うように笑った。
「うぬうぬ。では妾も今日からリュカ殿のトモダチということじゃな!
亜竜種(ドラゴニア)とは! かっこいいのーう。めんこいのーう。服とか同じのどこで買えるかとか気になるのーう」
「これ? ばあやが作ってくれたの。カワイイでしょう?」
「カワイイのじゃ。妾達はここの地理もよう知らぬのじゃ。作法とか気になるのじゃ。
余所者であれば真っ先に狙われたりするでな、後々役に立つかもなのじゃ……して、リュカ殿。なんか食べたいものとかあるかのう!?」
現実で出会ったときに何かの交渉材料になるかも知れないと身を乗り出す玲に琉珂は「色々好きよ? ラム肉とか……あ、ワイバーンも美味しいかも」と微笑んだ。
「ワイバーン?」
「そう! 岩山じゃなくって森に棲んでる個体は草ばかり食べているから臭みが無くて美味しいの。試してみたら?」
玲は琉珂にどうしようかのうと笑顔を溢したのだった。そんな様子を眺めていたロードはまじまじと亜竜種を名乗った少女を眺める。
(俺がログインしてない間にこんなイベントが起きていたのか。これが乗り遅れる気分……ずるい。俺も混ぜろ)
姫と呼ばれるのだから屹度えらいのだろう。お土産の可愛らしいぬいぐるみを抱えた琉珂は嬉しそうに「少しはお話しするわ!」と胸を張る。
「えーと……うーん、姫も遊びたいのか? なんというか、そちらはこちらを観測できるだろう?
なら楽しい事とか面白いことがわかっているはずでえーっと、なんというか……領域から少し離れた場所で遊ばないかってお誘いだ」
「領域から……オジサマが許してくれるかしら?」
ロードも気になっていたオジサマと言う存在に沙月は「オジサマとも言われておりましたし、他にも何人かいらっしゃるので?」と問い掛ける。
「え? うん。居るわ。けどそれは……」
「ああ、後のお楽しみということであれば、まずはテストを乗り越えてみせねばなりませんね。それではまた後ほどお話致しましょう」
そう、目的は彼女の『オトモダチ』と呼んだ竜との『テスト』なのである。三月うさぎてゃんは待ち望んだ亜竜姫との逢瀬に胸を高鳴らせる。
「亜竜姫……いや琉珂さんだね! 私ね、貴女に歌を捧げたいの。
でもそれはここを抜けて貴女が言う領域(クニ)に行ってから。だから私の『三月うさぎてゃん』っていう名前だけ覚えてね!」
「三月うさぎてゃん。ええ、覚えた。じゃあ、うさぎてゃんはオトモダチのテストにいくの?」
大きく頷く三月うさぎてゃん。サクラメントが光輝いている。
森のドームでのアイドルオンステージで『琉珂』のオトモダチの元へと進まねばならない。
「見て居てね、琉珂さん! うさてゃんが真っ先にオトモダチの所にいってあげるんだから!」
「オーケー、ねーちゃん! じゃあ、手伝うぜ。何をしたっていいよな、琉珂ねー?」
くるりと振り返ったルージュに琉珂は「この領域では何だって良いのよ!」と大きく頷く――勢いよく火炎が森をなぎ倒す。見通しが良くなると道を開いたルージュは「琉珂ねー、オトモダチはどっちだ?」と好奇の眸で振り返るのだった。
成否
成功
第3章 第3節
(『亜竜姫』、琉珂さん。……彼女、数年前、ラサのファントムナイトでフライドスパイシー系のおやつを食べていた子によく似ている)
蕭条は伺うように琉珂を眺めて居た。あの時の彼女も『魔法』に紛れてラサに遊びに来ていた。オジサマと呼ぶ亜竜種らしき存在と共に、だ。
(R.O.Oは現実世界と変わらない部分もある。という事はラサには亜竜種が出入りしている可能性があるという事か?
ここでの彼女を見るにわるい子では無さそうだけど狙いは一体何だろう。……いや。今はとにかくクリアが優先だ。彼女が手助けをしてくれると言うなら、これ以上頼もしいことはな――)
蕭条は足を止めた。友好的にも見られた少女から突拍子もない『オーダー』が下されたからだ。
「らいのふぁ……?」
思い出したのはラサの水晶偽竜。そうだ、それは『色宝での黄泉がえり』だった。ならば、本当に生きている存在は強いのか。
後から考えようと森探索に進み出る蕭条の背後でハイドラの毒を武器に塗って魔物よけのハイドラの匂い袋を装備したセララは「亜竜姫ちゃんってどっかでみたよーな?」と首を捻っていた。
「あ、そっか。ラサに遊びに来てたんだった。でも、なんで遊びに来るんだろ? 亜竜姫ちゃんは外にはよく出るの?」
「え? ええ。砂嵐への抜け道があるの。けどね、彼処の人って怖くって! まるで竜の欠伸みたいにわたしのことを適当にあしらうのだもの!」
どんなあしらい方なのだろう。セララは「そうなんだー?」と首を傾いでから行ってきますと手を振った。
ルージュが無理矢理開いた道にはおっかなびっくりモンスターが現われる。其処を避けるように、緑を基調にした迷彩服姿で透視と、そして卓越した聴力を駆使してセララは進むと決めていた。
「装備チェック、ヨシ! これできっと森の魔物もばっちりなのだ。効果があったら後で闇市商人さんの所に売りに行こーっと」
セララが琉珂が普通に指し示した出口へ向けて進軍する中、スイッチは彼女は教えてくれるが『其処に危険があるとは告げていない』と気付く。
「やっぱり新エリアは自分の足で探索するのが一番だよね。
そして何より俺が最初にやるべきことは……飛ぶことかな? 森の木々の上に出て何が起こるのか、ワイバーンなんかは少な目と聞くけど。
何も障害が無いとも思えないし……何が見えるのか、森の切れ目はどこか辺りは一度確認しておきたいかな」
スイッチは天へ向けて一気に加速する。上空に上がれば翼を有する飛竜などが此方を伺っているようであった。森の木々の上に昇る最中には樹上に棲まうモンスター達の姿も見える。
「ッ――わ」
足をぱしりと掴んだのは長い舌だ。カメレオンの様なモンスターはエサがやって来たというようにスイッチに狙いを定めていた。
(成程……上からの奇襲が少ないのはこうした存在が居るからか)
スイッチは死に戻りがしやすくなって良かったと小さく呟く。
「そうか。やっぱりかぁ……。空の上からの急襲は流石にわかりやすそうだけど擬態だとかの能力もった連中が普通に息をひそめていそうだよね……」
それはΛの予想通りである。スイッチの飛行によって得られた情報を駆使してマッピングする。琉珂の情報を元にしても道中のモンスターは強い。
「亜竜姫からの話はなかなか興味深い話だったな。さすがにここまで大人数で押しかけて騒いでりゃ、竜域の奴らに気付かれてないわけは無いか」
ダブル・ノットは小さくそう呟いた。さて、自身らが目指すのは森の出入り口であり、琉珂のオトモダチである『微睡竜』の元だ。
「最近混沌に来たから今までに出現した竜種に関してあまり詳しくはねーから比較対象が分からんが、少なくともここまで生きて到達できる奴に対するテストなら、相当な難関なんだろうな」
「まあ……一筋縄ではいかないんだろうね」
けれど、琉珂がある程度の道を示してくれてるならば索敵に大きく時間を割かなくとも良さそうだ。ダブル・ノットは対・毒にも適したパッチワークで味方達を強化する魔法陣を展開する。
Λはアクティブソナーを駆使し、森の中に『無理矢理切り拓かれた道』を選ぶように進んだ。
「さて、と。此の儘進めば微睡竜か? 安全とはいかないだろうが――」
「うん、敵を引き付けて竜まで仲間を届ければコッチのものだよ」
ダブル・ノットとΛは頷き合った。モンスターの鳴き声が木霊する森はどうにも一筋縄では攻略できそうには無いか。
成否
成功
状態異常
第3章 第4節
「スティアスペシャルは人類には早すぎたよマジ。……いつかハイドラもだけど竜も活造りにしそうだよねスティるん」
肩を竦めるエイル・サカヅキにスティアは「そ、そんなこと、ナイヨー」と視線を逸らす。ぺちんされてしまったことは悔しいが次こそはスティアスペシャル大成功を目指すのだ。
「スティアスペシャルは回避出来てよかったわ。アレはその、仕方なかったのよシラスさん。
それよりも新しい場所に進めるようになったのだもの、探索を続けましょう」
吹雪の励ましにシラスが妙な表情を浮かべるが――それよりも、アレクシアが「森だよ!」と意気込んだことに意識を取られる。
「森! 遂に! ……と、言ってもまだ最奥というわけでもないんだよね?
『微睡竜』も気になるけれど……今は琉珂君と少しお話がしてみたいな! 観測所の人たちへのお土産話にもなるでしょ!」
アレクシアが興味を持ったのはフラグメントの近くで道案内をしている亜竜種の琉珂だ。シラスからすれば『亜竜』と言えばワイバーン。自身らの知る亜竜と亜竜種は違うのだとまじまじと彼女を見詰め――
「……女のコをまじまじ見ちゃだめよ?」
注意された。僅かに仰け反ったシラスを悪戯っ子のように琉珂がくすくすと笑う。まるで人間、と思ったがこれは人間そのものだ。
「領域に招きたいだなんて光栄だね、でもどうしてだい? 竜たちから見れば人間なんて取るに足らない相手だと思ってたよ」
「わたしも人間という分類よ? 獣種と獣が違うように。亜竜種と亜竜も違うんだから」
唇を尖らせた琉珂にシラスは「成程?」と首を捻った。吹雪も観測所で彼女の事を聞いたが、何ともイメージが違うと呟いた。
「こんな場所に人が住んでいるだなんて信じられなかったけれど、この様子を見ると本当みたいね。
……ところで、微睡竜さんのことをオトモダチと言っていたけれど、倒してしまっても問題ないのかしら」
「いいわよ?」
「トモダチ、だよね? えーと……琉珂君たち……たぶん、亜竜種って何人もいるよね?
その亜竜種は、竜種とはどういう関係なんだろう?
噂では亜竜種は竜種の奉仕種族だって聞いてきたけれど……ここにいる『微睡竜』さんは『オトモダチ』なんだよね? なんとなく、聞いてきたイメージと少し違うなって思って!」
吹雪の言葉の続きを紡いだアレクシア。エイルは仲間達が真面目な話をしている間は黙ってその様子を眺めていた。
「ライノファイザの扱いが随分と軽いんだけどあれはオトモダチと違うわけ?
亜竜種から見た竜種ってどういう存在なんだろう。奉仕種族だと聞いてたけど、違う?」
「竜は孤高。けど、亜竜種(にんげん)に好意的な存在も多いの。『微睡竜』オルドネウムだってその一匹。
ライノファイザはわたし達に好意的では無かったから、好きではないの。オルドネウムはわたしたちには好意的だけどオジサマがそうなさいというなら仕方ないわ?」
竜と亜竜と亜竜種は時には共存し、時には奪い合って生きている。生命の循環に、そうしなくては生き残れないと知っているとでも云うように彼女は微笑んだ。
「わたしたちだって、竜から見ればちっぽけ。アナタの言うとおり、沢山の亜竜種は領域(くに)で肩を寄せ合って生きているのよ」
へえ、とシラスは呟いた。混沌世界にだって彼女の言葉の端くらいは通じているはずだ。この全てが『正しい知識』でないとしても――そう思えばネクストは凄い。ちょっとズルいと思うほどに『亜竜種』という新たな人種との出会いを良き物にしているのだ。
「あ、そーだ。リュカちぇるとかオジサマ? とかってさー、好きな食べ物とかなんかないの?
いやほら、こう見えて常識的なギャルだし? 手土産的なサムシングは気にするわけよ……ま、それがあの龍を倒すってなら?
アタシらも頑張るわけ! リュカちぇるん自分の身は自分で守ってね! よろ!」
にい、と微笑んだエイルに「あとで抜け道を教えてあげるから他の国のごはんとか、持ってきて欲しいわ!」と琉珂は微笑んだ。
「おっけー! 琉珂さん達が普段食べている料理をスティアスペシャルで作って親睦を深めなきゃ!」
「それは……」
「ちょっと……」
吹雪とエイルが首を振ればスティアは「どうしてー! なんでー!」と叫ぶことになるのだった。
さて、これ以上のお話は『彼女の領域(クニ)』で。また沢山話そうねとアレクシアは手を振って『微睡竜』オルドネウムを探しに進むのであった。
成否
成功
第3章 第5節
「ハァ〜?? 微睡だかマグロ丼だかしらねえが、ヤダねェ、マジ本当にドラゴンとやりあうとか勘弁してくれ。マジ本当にマジでマジでマジで」
ぶんぶんと首を振るグドルフは雑魚狩りに徹すると決めていた。彼の傍らで血の気が引いたような表情をしていたトリス・ラクトアイスは「ねえ」と蚊の鳴くような声で呟く。
「……これもしかして、ここからが本番とか本当の地獄とかそういう意味のアレだったりする?」
「恐らくは」
にっこりと――何処までも楽しそうに、寧ろこれを待ち望んでいたかのように――微笑んだアカネは「さて次は微睡竜……お? 本物の竜ですか♪」と好奇にその瞳を輝かせた。「ROOなので厳密には本物じゃないですが……それでも竜の死体を観測所に持ち帰ればローリンさんも喜びますし私も非常に気になる処ですね♪」というのは彼女の『個人的な欲求』だ。
「そのテスト、受けて立とうじゃないか! いざゆかん! ピュニシオンの森へ!」
びしりと指さした天狐は『微睡竜』オルドネウムと握手(意味深)しに森へと突撃した。勿論、琉珂が「アッチ」と指さした方向で或る。
絶対幸運領域で、天運招来、福よ来い! とアピールを続ける天狐の傍らでエイラは「ん~」と首を捻った。
「道中はぁ探索に便利なスキル持っててかつぅ幸運引き寄せるかもなぁ天狐を優先的に守りながら進むねぇ」
「うむ!」
こくりと頷いた天狐にエイラは「エイラぁ光れるけどぉ明らかに敵引き寄せちゃいそうだよねぇ。でもぉそれもまたぁ使いよう~」といざなれば光って自身が囮になると決めていた。的の強弱情報や隠れ方も知る事ができれば後続の役にも立つ。
「まあいいけど。未知の展開ドンと来いという感じですよ私は。目的としてはまず微睡竜がどこにいるかって話なんだけど……。
亜竜姫が言う方角を目指しつつ、それを調べたり周辺探索の為にまず突撃、って感じかしら? まずは動いてみるのもこういう状況だと有効かも」
彼女を信じるかどうかを選ぶのも必要だけれど、と付け足したトリスの前をグドルフが「雑魚なら任せろよ!」と歯を見せて笑う。
「言っとくがおれさまはなあ、弱ェヤツをぶちのめすのが好きなんじゃねえ。ラクに勝つのが好きなんだよ!
ま、敵数が減って本命のドラゴンに挑むやつの消耗を少しでも減らせりゃラッキーってやつだ!」
ラクか、と呟く君塚ゲンムは前線を進むグドルフと四人娘の後ろを木々の高い場所から眺めて居た。
「リヴァイアサンよりはずぅっと弱い、って……いやいや、アレはそもそも比較に出したらいけない奴だろう。
ライノファイザとやらは詳しくは知らないが、どうせ強いんだろ? だがまぁ……意地ぐらいは見せてくるか」
と、言えども木の上にはエイラがぴかぴかと輝いて『囮』になって引き寄せるモンスター達の姿が多く見える。虫などが多いか。
「微睡竜に進むまでも少し面倒そうだが……」
突撃! 四人娘はと言えば、エイラが囮となり、アカネが引き寄せる。その支援役を行う回復手のトリスと、せつなさみだれうちじゃー! と叫ぶ天狐のバランスの良い構成で何とか進行出来ているようだ。
「おらあ、くたばりやがれ!」
引き寄せて、ぶん殴るグドルフは奇妙な感覚を覚えた。アクティブスキルを使い分け、的を率い寄せ殴りつける。雑魚ならばHPが減少しても楽々倒せるはず――であったのだが。
エイラの光に惹き付けられたように飛び込んできた巨大な蜻蛉を掴んだグドルフは「てか雑魚どもとかイキったけど、こいつら雑魚の癖に強くね?」と呟く。その首をもぎ、次だと見上げればどれを見てもビッグサイズの翼を有する虫やカメレオンなどが攻めてくる。
「え? マジ? ――あ、これ死」
「尊い死じゃった!」
「――じゃなくて!」
天狐はリヤカーうどん屋台『麺狐亭』を引き回しながら可能な限り敵を避ける。身を隠したトリスは「結構耐えれるみたいだけど……」と呟いた。
「ねぇねぇ」
「……どうかしました?」
「あのねぇエイラぁあっちが気になるな~。あのぉ虫たちの数が減ってるあっち側ぁ」
ほらと差したエイラにアカネは「正解です!」と立ち上がる。何かの巨大な『尾』のようなものが覗いている。色味は薄桃色に近いか。
「エイラさんやりましたね♪」
「やったぁ」
「亜竜姫を信じておいて正解じゃったな。して、どうする?」
こそりと問い掛けた天狐にトリスは「取り敢えずあの尾へ到達するために虫を退けるところから! 突撃!」
びしりと指さしたマイナーアイドルの声を聞いていたゲンムは「ならば先に」と『微睡竜』へ向けて進軍する。
木々の影から狙えばゆっくりとその巨体が持ち上がる。
『――……、』
何かを口にする訳でもなく眠たげなオルドネウムは欠伸を噛み殺してから勢いよくその爪でゲンムをひっかいた。
一撃、だが、浅かったか。何とか耐えることが出来たと体勢を整えんとしたゲンムに向けて――もう一撃が無情にも降注いだのだった。
成否
成功
状態異常
第3章 第6節
「『微睡竜』かあ……比較対象がおかしい。リヴァイアサン達よりずっと弱いって言われても全然安心できないよね?」
グレイガーデンの呟きに崎守ナイトはからからと笑う。彼の豪胆な笑い声は何とも心の不安を濯ぐようである。
「なにビビってんだよグレイ!ビッグCHANCE到来じゃねーの! なんたって次倒した後のご褒美は亜竜姫だぜ?
仕事(Business)の商談ができそうな相手と竜域で会えるなんて、俺達は幸運(lucky)だ!」
「……社長も現実より社長だろうし」
ぽそ、と呟いたがそれは聞こえていないだろうか。それよりも、だ。一行の中では九重ツルギの様子が僅かばかり違っていた。此れより相対すると言う竜の『比較対象』として引き合いの名前が出されたのだ。
「ライノファイザですか。私的にとても興味のある竜種です。だってあの赤犬が戦った竜なのでしょう?
仲間がいたから成果は出ましたが、彼と相対した時、俺はひたすらに無力でした。まるで生贄の順番を待つ子羊か、目の塞がれた犬の様に刻まれる順番を待つだけだった。……ROOの彼と再戦し、次は勝つ! 此度の試練はその踏み台に致しましょう!」
「ナイトのテンションは相変わらずだが、お父様の様子が少し怖いな。イズルがいる限り無茶な事はしないと思うが……」
溜息を吐いたスキャット・セプテット。彼女はツルギの中で燻った闘志に僅かな危機感を感じていたのだろう。
「……しまった。家族以外の前ではなるべくお父様呼びは避けていたのに!」
ああ、もうと首を振った彼女に小さく微笑んだのは名を呼ばれたイズルである。「ライノファイザ……聞いた名だね」と呟けばツルギが直ぐさまに「イズル、行きましょ――」と口を開いた。
「ううん。気にはなるけれど、まずはずっとお預けだった植物採取からかな。
森がある、木々や下生え、灌木を隠れ家とする草食動物と、それを捕食する小~中型の肉食生物がいるだろう」
「……その前に、イズルがやりたかった植物採取だな。いいだろ?」
ナイトにもそう言われてしまえばツルギは仕方が無いかと肩を竦めるほかにない。イズルはツルギの頬をつん、と突いてから唇に笑みを乗せた。
「ツルギさんの熱意は、それはそれで、知識としては理解するけれど……ふふ、やっぱりキミは裏家業向きではないな。
追いつき、乗り越えようとする、それは戦士や闘士…真正面から相対し、打ち合う者の考え方だよ」
「……それでは標的が見つかったという情報もありますが、有用な情報を探すために進みましょう」
植物を採取して、それが今後の戦いに有用になる様にと考えるイズルの意思を尊重するツルギへとグレイガーデンは「わかった」と頷いた。
「ヒトを見慣れていなければ、僕らが安全な存在か敵対存在か判断できず、様子見ると思うんだ。
いきなり襲い掛かってくる中腹の生物の方が珍しい反応だと思うんだよね……野生動物と考えたら、だけどさ」
「まあ、どちらかと言えば『コイツらは弱者だ』という認識をあの岩山では持っている存在が多かったという事だろう。
森の中ではイズルが言うとおり、草食動物やそれを捕食する者が居る筈だ。巣を荒らされたと認識するものが襲い掛かってくるだろうが――」
それさえ避けてしまえば容易に進めると。スキャットが告げればナイトは適当に「草だ! そしてもひとつ草!」と適当にぽいぽいと投げ続ける。
「毒草かな? ああ、これは薬草にも為りそう。へえ……色々あるな」
植物を採取するイズルはツルギがそわそわと身を揺らしたことに気付く。『微睡竜』と接敵した仲間がサクラメントへと死に戻ったという情報に一行はデータを取り、草食のモンスターの観察を終えてから向かうと決定したのだった。
……グレイガーデンの黄昏の傍観者を狙うように飛び出してきたオオムカデのことは、一先ず知らない振りをして。
成否
成功
第3章 第7節
「うーん、テストかぁ、ボクそれ嫌いなんだよねぇ……何処の世界でもその名前のものは良くないものなのさぁ、よよよ〜。
亜竜姫ちゃん、なかなか厄介な子みたいだにゃぁ……」
そう呟くみゃーこにすあまは「ん~」と首を傾げる。微睡み竜の元へと向かう為に草や木の枝をラダにも沢山付けて『馴染む』事を選ぶすあまは「テストかぁ」と呟く。
「ここに来るまでにたくさんデスったもんね。これから仲良くなるにしても、わたし達だけでもちゃんと遊びに来れるよって示さないとだね」
「そんなものかにゃぁ……」
「そんなものかも。けど、テストの内容がとーっても危険だよね!」
みゃーこはうんうんと頷いた。真読・流雨に言わせれば亜竜でさえも特異運命座標にとっては懸命に闘わねばならない存在であった。其れを思い返して『微睡竜』とはどの様な存在だろうとぢごくぱんだは考察しやる。
「ならば、本物の竜種ともなれば、どうなのだろうな。リアルでなら戦った事もあるが。
あの時は蹴り飛ばされたのだ。スキルをミスして。今となってはいい思い出だ。さて、情報が少ない。
なるべく粘って情報をひきだしつつ、ダメージの蓄積を狙っていこう。しかし『オトモダチ』か。……少なくとも同格の存在という意味なのだろうが」
琉珂に言わせれば『仲良くしてくれる竜種』という事なのだろうが。そんなオトモダチを倒してくれとは何とも――何とも心躍るでは無いか。
「俺が願う竜に近しい存在と接触できるとはな。これが混沌であればどれほど……いや、混沌であれば何度ひき肉になってる事やら。
名もなき幻影亡者のこの身が、竜にどこまで届くか……そして、亜竜姫のお眼鏡にかなうかどうか。
覇竜の導きの元に――もっとも、現実から持って来れてはいないがな」
CyberGhostは心を躍らせた。『微睡竜』の一は分かっている。猫のスキルを駆使して進むみゃーこは森は序の口だけど、抜けるためには出会わなくっちゃならないもんねと肩を竦める。尾を揺らすのはみゃーこだけではない。すあまも同じか。
「ねえねえ、あの大きいのが竜種?」
「まあ! うふふ、ふふ……お迎えがいらっしゃったと聞いて、当然、来ると思ってたわ『テスト』!
それに見て欲しいの。あの大きさ! 沢山のモンスターも居るけれど、竜種ならこんな時、きっと無慈悲なブレスで森ごと敵を焼き尽くすのでしょうね。私にはそこまでは出来ないけれど……似た事は出来るって示してみせるわ! さっき、燃やしても良いと言って居たものね!」
竜種には何を言っても通じないからこそ特異運命座標の破壊活動でも琉珂は許容しているのだろう。イルシアは心躍らせ、『可愛いエルシアちゃん』と共に『微睡竜』への道へと全力の焔を放つ。
「可愛いエルシアちゃんをまた死なせてしまうのは心苦しいけれど……ここは我が身可愛さよりも力を見せつける事を優先しましょう、どうせ復活してみせるし」
――それが母の心である事が一番怖い。
イルシアが道中のファイアストームで竜種のように無慈悲なブレスを放っているならば、すあまや流雨はその間に竜を目指す。
薄桃の肢体を持った透き通った体の美しき竜。微睡竜の栗色の瞳が苛立ったようにイレギュラーズを見下ろしている。
『我は眠って居ったのだ――』
起されたと憤慨するそれに流雨は「友人とやらに倒してくるように頼まれたのだ。そう易々と倒されてはくれないだろうが」と問い掛ける。
『……ああ、ベルゼーの差し金か。どうせ、リュカが頼んだのだろう?』
ゆっくりと起き上がったオルドネウムにみゃーこは「ベルゼー……?」と呟いた。CyberGhostもその名は聞き覚えがあるような、無いようなと首を捻る。
『我が名は微睡竜、永劫の眠りを欲するオルドネウムである。怠惰に時間を過ごしているだけでも楽しかったが……
無礼にも我が眠りを覚ます小さき子等が我を害するならば起き上がらなくては為らぬではないか!』
身を起すオルドネウムにみゃーこは「起きなくて良いです」と小さく呟いた。呟くしか無かったのだった――
成否
成功
状態異常
第3章 第8節
「焼き肉~焼き肉~嬉しいな~♪ みんなで焼き肉~楽しいな~♪」
心躍らせハイドラ肉の『毒抜き』を行い、早速の焼き肉パーティーの開始だとじぇい君は塩ダレを手に笑みを零す。
「んー、いい運動もしたし、お腹もペコペコ……」
お腹をさすり、索敵を行っていたじぇい君の傍らでハイドラの実食だと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はサクラメントの傍らに立っていた琉珂へと向き直る。
『一緒 食べる?』
意思疎通を試し見た非戦スキルに琉珂はぎょっとしたような顔を見せた。だが、直ぐに「いいの?」と気軽に笑みを零してくれる。
「それってさっきまでみんなが遊んでたハイドラ?」
「うん! あ、そうだ。亜竜姫ちゃん。僕じぇい君よろしくね。
ねえ、一緒に食べようよ。お肉はみんなで食べた方が美味しいんだ」
にんまり微笑むじぇい君に続いて、ザミエラは柔らかに微笑む。大人びた笑みを浮かべた彼女はハイドラの肉の様子を確認しながら「えーと」と首を捻った。
「珱・琉珂……おっけーリュカ! 私はザミエラ、よろしくね♪
テストの方は、まずはちょっと様子見かな、急いては事を仕損じるって言うしね。だから、よかったら先にあなたのことを知りたいな。
人の形をした竜なんて純種では聞いたことないもの!」
「ええ、わたし、純種よ? 亜竜種っていう、フツーの純種で『人の形をした竜』じゃないのよ!」
「あら!」
ザミエラはぱちりと瞬いた。琉珂曰く、自身は竜種とは全く別なのだという。旅人の竜人達がドラゴンではないのと同じであろうか。
「もっと、ドラゴンに寄った外見の仲間もいるけれど、わたしは皆に近しいタイプなのよ? だから、ライノファイザ達とは全く違うんだからね」
くすくすと笑う琉珂のその言葉にヴァリフィルドはふむ、と呟いた。
「ライノファイザとやらは、先日幻影とやり合ったのだが……あれより強いとなると、どう考えても普通ではないであろうな」
「ええ。だって、幻影だもの、それ」
『と 言うと?』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はから揚げ風に調理しながら琉珂を見遣った。「だって、それ、生きてない者。なんだって模倣より本物が強いでしょ」とさも当然の様に言う彼女はハイドラの肉をまじまじと見つめている。
「ふむ。出来ればそのオトモダチの微睡竜とやらの、弱点でも教えてほしいところではあるな。
少しでも情報が欲しい故、琉珂側に何か望みなどはないか」
「んー、あんまり。だって、『テスト』をこなして欲しいっていうのがわたしの望みだもの。
それにわたしに頼り切っちゃだめだと思う。だって、それじゃオジサマは許してくれないわ?」
ヴァリフィルドは「おじさま」と呟いた。ザミエラがお刺身もありだし、ステーキやスープもとレシピを考案している傍らでジェイ君が焼き肉を続けている。
「まあ、兎も角ご飯にしましょ!」
『美食屋 美味し物 探し 来た。オトモダチ 食べる ダメ?』
「ねえ、えーと、なんて呼べばいいかな? ほにゃほにゃって聞こえるからホニャさんでいいかしら。
ホニャさん、あのね。問題ないわ。だって、ハイドラも美味しかったもの! あと、森の中の生き物は外よりおいしいと思うわ。臭みもないし……」
腹いっぱい食べれると思うと微笑んだ琉珂にじぇい君は「本当に!?」と瞳を煌めかせたのだった。
成否
成功
第3章 第9節
「竜種の百合……?! ……じゃないわね……?!」
琉珂を見遣ってから突然そんな事を言ったファントム・クォーツに琉珂は首を傾ぐ。
「ワタシは何を言ってるのかしら……興味はあるわ。そうね。琉珂さんワタシ達とお友達になってくれるかしら?」
微笑んだファントムに琉珂は「よろこんで」と言い掛けた口をぎゅうと引き結んでむうと唇を尖らせる。
「だめなの」
「ダメなんですか!?」
衝撃を受けたフィーネは可愛らしいと聞いていた彼女と仲良くなりたいと願っていた。何を話せばよいかと考えていたアンジェラにとっても琉珂の反応はどう言葉にするべきかさえも分からない。武装を一旦解除し、交流を提案した相手に出鼻をくじかれた状態なのだ。
「あ、違うわよ。あなたたちと仲良くなりたくない訳じゃないわ。けど、わたしにもその、立場ってものがあってーえーとね、とにかく、オジサマが赦してくれるためにテストをクリアして貰わなくっちゃいけなくって、うーん」
何と言葉にするべきなのかを迷っている彼女にファントムは「テストをクリアすれば仲良くなれるのかしら?」と問い返した。
「ええ、そう! そうなの。一先ずはお話しよね? どうぞどうぞ」
ぽんぽん、と地面を叩いて座るように促した琉珂の傍らにファントムは腰かけた。乙女力で清潔なフィーネはコミュ力満点に「自己紹介ですよね」と笑みを零す。
「私はフィーネです! 薬草の研究などをしていたりします!」
よろしくね、と微笑んだ彼女に続いてるかの趣味や好きな事を教えて欲しいとファントムは声を掛けた。彼女の領域(くに)がどのような所なのかも気になる。琉珂はにこにこと微笑みながらドラゴンの鼾やワイバーンの叫び声等という良く分からないドラゴンジョークを交えながら答えてくれる。
「よくある話ですが恋バナなどはどうでしょうか。当機構には無縁ですが、恋愛事に対して興味などはないでしょうか?
生殖の事も大事ですが、タイプな方や好みの性格等々を語ることが出来れば。ちなみに当機構は屈強な方が好みです。主として仰げますし」
そう告げるアンジェラに続き、ファントムも「好きな人の行方を捜している」と何となくぼやかした言い方で彼女に告げた。
「わたし? んー、そうね、恋だってしてみたいけれど、わたしはやっぱりわたしより強い人が好きかも。
だって、領域に戻ったら会いに来てくれないなんて寂しいじゃない?」
「ふふ、確かにそうですね。女はここから出ることはできるのでしょうか? よかったらお買い物とか一緒に行きたいです!」
可愛い洋服を選んだり、おいしいものを食べたり。そんな楽しいことを夢見たフィーネに「いつかね」と琉珂は微笑むのだった。
そんな彼女をちら、と見つめてから沙月はワイバーンに乗れる日は遠そうだとオルドネウムの場所へと向かう事に決めていた。
「へぇ、面白いじゃないか。……ところで、あの姫とやら、どこかで……まぁいいや」
悩まし気に首を捻ったリリィの疑問も晴れない儘だが、沙月に対して好意的だった事もある今回は味方として認識できるだろう。
「さ、オルドネウムか」
道筋は既に見えていた。沙月は強敵であるならば自身の得意とする距離での立ち回りを心掛ける。瞬時に間合いを詰めてオルドネウムの元へと飛び込めば薄桃色の尾をばしりと動かした竜が気怠げに顔を上げる。
『――蹴散らせども増えるのは何なのだ。折角の微睡に……』
呟くオルドネウムは怠惰である故に翼を広げる事はない。その巨躯を折り曲げて吐息をふんと吐き出すだけだ。
だが、地を打ち付ける尾が二度、鋭い勢いで動いた事を沙月は見逃さない。
(成程、連続攻撃が得意、と。まあ、此方も手数での勝負です。私の全力をお見せしましょう)
優れた平衡感覚で舞うように動いた沙月は一瞬の隙をついて攻撃を叩きつける。その様子を確認していたリリィはファミリアーでの偵察を欠かさない。
「――次へとつなぐ。ボクが主にならなくても、誰かの隙を作ればいい。それがボクの……役目さ!」
所詮は竜は一匹。だが、此方は複数人。リリィが放ったアクティブスキルの波動に合わせ、沙月が距離を詰める。
生き残れるなどとは思っていない。だが、一撃を投じることは悪くはない。尾を受け止め、そしてもう一度と距離を詰めた沙月は気付く。
息が詰まるような懊悩。そして―― 己の不吉を笑うように塔のカードが沙月を笑って見下ろしていた。
それでも、だ。リリィが喰い付く攻撃を。オルドネウムはやれやれと溜息をつくように凍てつく氷の吐息を吐き出したのだった。
成否
成功
状態異常
第3章 第10節
「このイベントもそろそろ最終局面といったところだね……とはいえ……。
あれか~やっとたどり着いたと思ったらまた難易度が跳ね上がるとか……仕方がない気を取り直してボクはボクの仕事を全うしよう」
沙月とリリィに対して勢いよく氷の息吹を吐き出していたオルドネイムをその双眸に映してからΛは落胆した様に肩を落とした。
一度、手で仲間を制したルージュは「オルドネウム!」とその名を呼ぶ。薄桃色の瞼の下から覗いた紅色の瞳は眠たげな気配を未だに宿していた。
「いや、真面目な話。ここを通してくれるのなら、ずっと眠ってて貰って良いんだぜ?」
『ほう?』
「無理だろうなぁ、とは思うけれどさ。平和とは対話から産まれるとか誰かが言ってた気がするし、二度と手を出さないっていう約束はできる。
なんだったら子守唄を歌っても良い。どーだ?
せめてどうしたら通って良いっていう条件を決めてくんねーかな?
実際に勝てるかどうかは別として、おれ達だって、琉珂ねーのオトモダチをを殺したいわけじゃねーし」
当の琉珂は「食べてもいいわ!」なんてことを言っていたが彼女がオトモダチと呼んだのならば殺したくはない。
オルドネウムや琉珂はリスポーンが出来ない。それ故に、ルージュは慎重に相手したかったのだろう。
『……どうぞと通してやりたいが王の怒りには触れたくはないのでな。その望みは堪えられん。
だが、そうだ。ふむ、この眠り妨げた分の怒りさえ冷ますほどの実力者であればこの道を通す事も我の食物を分けてやることも吝かではない』
「――つまりは、テストはテストとして受けて行けって事かな?」
すあまは綺麗な竜さんとオルドネウムに微笑みかけた。寝てばかりのオルドネウムは眠りを妨げられた事を怒っているらしい。
その怒りを鎮め、彼を圧倒する実力を見せれば認めてくれるか。スイッチは「それなら寝ててくれてよかったのに」と呟いた。
『王が赦さぬ』
「うん。王が誰かは分からないけど、なんて冗談冗談。さて、竜の試練。張り切っていこうか」
戦うしかないのならば。スイッチはスコープを覗き込む。心を躍らせていた三月うさぎてゃんは「貴方が琉珂さんのお友達なのよね?」と微笑んだ。
「みんなの、そしてオルドネウムさんのアイドル、三月うさぎてゃんです! ――覚えてね!」
勢いよく新曲のイントロを流して堂々と歌うアイドル三月うさぎてゃん。その横からラダと共に顔を見せたすあまは「オルドネウム!」と呼んだ。
「倒すの頼んできたのは琉珂で合ってるけど、ベルゼーって奴もいるんだよね。
わたし達ここのこと何も知らないんだー。自分が倒されるような心当たり、何かあったりする?」
『寝てたからだ』
「どういうことかなあ」
『我が寝てばかりいたから王が痛い目にあわそうとしたのだろう。全く、竜教育に厚い男だ』
つまり、寝坊助すぎて怒られているという事か、そんな『竜たちの都合』に巻き込まれるなど堪ったものではないとΛは溜息をついた。
空へと飛びあがり死角を突くように魔導砲を放つ。至近距離の仲間を巻き込まない様に留意する必要はあるが距離を取れている分、安全だ。
(竜の感覚器官がどういうものかはわからないが目、耳、鼻などの器官を狙うか――!)
Λは漆黒の走行に真紅の鬣を持つ麒麟を駆るように走る。同様の位置を狙ったのはスイッチだ。勢いよく飛びおkんで、ヒットアンドウェイを行うスイッチを追い縋る凍てつく吐息。
鮮やかに全面を埋め尽くす其れは遠距離範囲までは届くか。起き上がりながらも体をその位置から動かさないのは寝床を荒らされたくないという意味合いか。
「――ここまで届くか!」
あまり防御に自身がないスイッチにとって、爪が当たるだけでも致命傷だ。出来れば近接対応はしたくないが――さて。
「撃破しろってことは、必ずしも殺せってことではないはず。
というか永遠の眠りにつきたいのにつけてないならそういうことでしょう? あなたの起きてる理由になりたいな! なんてね」
ウインク一つ。琉珂に歌を捧げて彼女の『オジサマ』に認めてもらうために三月うさぎてゃんは距離を取って歌を捧げ続けた。吐息がその躰を掠め、凍傷が腕にひりついた痛みを誘う。
「うーん、強いな」
「そうだね。でも、竜って案外気安いんだ! わたし達はまだここの事を全然知らない。言葉を交わせる相手はまだ2人? 2竜? 目なんだから!」
ルージュとすあまは真っ直ぐに飛び込んだ。デスカウントを顧みている暇はない。今は兎に角、この竜に一打でも多く打ち込み情報を引き出す所からだ!
成否
成功
状態異常
第3章 第11節
「なんて綺麗な竜なんだ! 戦う前に少しだけでもカンバスに描かせて貰えないだろうか。アタリ線だけでもいいから!」
そう叫んだスキャット・セプテットは「ああー!」とがくりと肩を落とした。前を走るのは九重ツルギと崎守ナイトの二人だ。スキャットに言わせれば『血の気の多い衆』である。
「やはりイズルは素晴らしい。俺にない視点を持ち、俺の内面を引き出してくれる。戦士と言われれば、確かにしっくりきますね。
つい勝敗に固執してしまう。だからこそ俺は、悔しさをバネに先へ進む事ができます……貴方と一緒に」
イズルを褒め称えたツルギにイズル自身は何とも言えない表情を見せていた。目の前には竜種との攻防。その地へと一直線のツルギ、導き出されるのは簡単な結論だ。
「戦闘となるとツルギさんのデスカウントがまた増えてしまいそうだね……あまり『死』には慣れないようにね」
草食動物とは遭遇出来なかったが、それも何処かには居るだろう。先ほど出会った小型生物を捕食する大型の虫。ならば、その幼虫は別の生物の食糧で、奥地にはまた別の生物相が広がっているのだろう。入り口に近い方が穏やかである事から、琉珂が『行き先』をさっさと示したのは無為な死を許容しなかったからだろうか。
「さて、あれが微睡竜か。眠る時間が長いという意味なら、それは身体の大きさや性能とエネルギー効率が釣り合っていないからかもしれない。lazyではなく臥竜というところかな」
イズルの言葉にスキャットは小さく呟いた。「まあ、奴らの世界ではlazy(怠惰)なのだろう」と。
「ぐっもーにん竜域の自宅警備員! アンタ、怠惰してるからテストの標的とかにされるんだよ。
無礼と俺達を怒る前に、自分を顧みたらどうだ。働かざる者食うべからず、眠りについてもまた然り……じゃねーの!
因みに学校では優等生キャラなので、テストと言われたら真面目にやるぜ、俺(ORE)!」
まさしくオルトネウムが標的にされたきっかけを指摘するナイトの様子をグレイガーデンは「社長が優等生キャラとか想像もつかない」とぼそりと呟いた。グレイガーデンが派遣していた黄昏の傍観者が犠牲になってしまったが、偵察に出さない訳には行かないからと応援し続ける。
「微睡竜かあ、怠惰の魔種なんかとは関係ないんだよね? 竜ってだけでもうだいぶやばそうな気がしてしまうな……」
「怠惰の魔種がR.O.Oに存在するかはわからないから、どうにも。まずは様子見だね」
イズルに頷いたグレイガーデンはハイドラは鱗で苛むものを防いでいたがこの竜はどうかとその双眸に映す。
「起こされて不機嫌なのだろう? すぐにまた眠れるようにしてやるさ……負けてふて寝する準備をしておくがいい!」
堂々とそう言ったスキャット。透き通ったオルトネウムの体が淡く光れば――その刹那に、氷の息吹が放たれる。
その光が『氷の息吹』否、竜の権能を一つ見せつけていることに気付きスキャットは「気を付けろ!」と叫んだ。
「OK! 舞踏の陽気なSoundで微睡竜のHPと眠気、まとめてふっ飛ばしてやろうじゃねーの!」
リズミカルに、そしてオルトネウムに言わせれば『やかましい』勢いでないとは攻撃を重ね続ける。
「微睡んでいては、俺の技を躱せませんよ! 貴方に恨みはありませんが、倒さねばならぬ理由があります。お覚悟を!」
竜は寝床から動かないが尾と吐息で応じ続ける。だが、それも長くはないか。その姿勢を低くしたかと思えば、喰い付くような勢いで腕が前へと伸ばされた。
ツルギは蹴りつけられその体を木へと打ち付ける。サポートを行うナイトが直ぐ様に前線へと飛びついたが、さて。
「――逃げろ!」
スキャットが叫んだその眼前には凍てつく氷の吐息が広範囲に広がる瞬間であった。焔の代わりに吐き出された絶対零度がイレギュラーズを包み込む――!
成否
成功
状態異常
第3章 第12節
「『微睡竜』オルドネウム……名前からして微睡んでる相手を、叩き起こしてぶっ飛ばすとか何だかスッゴイ骨が折れそうな感じだね。
いや、うん。相手が竜種なら骨が折れるどころか消し飛びそうな気がするけど……まっ、それもR.O.Oならではだよね」
そう笑った現場・ネイコの眼前で文字通り『消し飛んでいる』仲間がいた。
錆び付いたかのように首を『ぎぎぎ』と動かしたネイコにリュカ・ファブニルは大きく頷いた。
「聞いてただろ? ニセモンでもあんな化け物だったライノファルザより強えたぁな! いいぜ、それでこそ竜ってもんだ!
ここは混沌じゃあねえが……それでも昂るじゃねえか……! ガキの頃からの夢……! 竜に認められる! 上等だ! やってやろうじゃねえか!」
やる気に満ちたリュカにタイムは「え!?」と何度もオルドネウムとリュカを見比べる。
「あのね、わたしって混沌に呼ばれたのがちょっと遅かったからリヴァイアサンの強さは話に聞いただけなのよね。
竜と戦うのはちょーっと怖いけどここが死んでも死なない場所で心底良かった!」
「いや、逆だろ。『何度も死ねる』からこんなクエストが……意地悪だよな、R.O.O」
ぼそりと呟くトルテにタイムは「ですよねー!?」と肩を竦める。ゲームの中でのテストの相手でもなるべく対話できればと考えていたタイムは「取り合えず認めて貰わないとだめなのよね。死んで……」とぽそりと呟いた。
「でも名前だけ聞くと可愛い感じだったのです。微睡竜……」
「そうだな。名前の通り寝ててくれてりゃな……」
トルテの呟きにミルフィーユははっと思い出したように「寝起きの動物って、危なそうなのですよ」とそう言った。得た報酬での自己強化を行ってきたが、死に戻りも十分に覚悟しなくてはならないかとトルテは溜息をついてから――「珍しくまともなこと言いだしたな。まぁ危なそうなのには違いない。から、くれぐれも気を付けてな?」とそう言った。
「珍しく……? うん、気を付けて殴っていくのです!」
どういう意味かと考えたが、それはともかく彼を心配させない事が重要だ。自信満々なミルフィーユのやる気にトルテは気づかないもんだなと溜息をついたのだった。
「相変わらずの様子ですが、さて、先の現状を見る限りでは名前からは大人しそうな雰囲気を感じますが……
竜種ということですし、一筋縄ではいかなそうですね。十分に注意していきましょう。幸いにしてデコイさんが居ますし」
そう告げたリュティスにルフラン・アントルメはこくこくと大きく頷いて尾を揺らした。
「ぬあー! 竜! お、おおおはようございます! うわー! ご機嫌斜め! うわー! お、お腹いっぱいになれば機嫌よくなる?
これ朝ごはんのひめにゃこさんです! 美味しいと思うよ!? 違う!? だめ!? だめか!」
大慌てのルフランにリュティスは「良いですね。食べようとしている所を狙ってタコ殴りに致しましょう」と頷いた。
「やめときましょうよ、寝起きにひめ食べたら絶対胃もたれしますから! ほら、普通に戦いましょう!
ふっふーん、うたた寝竜とか弱そうですね!! 寝ぼけてる間に皆さんでボコって倒しちゃいましょう! って起きてますね!? んもー!
そしてかつて無いくらいリュカ先輩がテンション上がってます……はー、よく解らないですね、男の子は」
やれやれと肩を竦めるひめにゃこに「逃げ足だけははやいではないですか」と冷徹にリュティスはそう言った。
リュカのやる気にルフランも感化されたように「頑張る!」と大きく頷く。
「ねこです。よろしくおねがいします。『微睡竜』オルドネウム。微睡んだ竜。強敵な気配ですね。
眠りの内にいる間は何とかやり過ごすことも可能でしょうが、起きてしまった以上はやりあうしかないのです。
幸いここはR.O.Oの中なのですから、いつか来るかもしれないその日の為に、予行練習の気持ちで竜という生き物の格を再認識するとしましょう」
「そうだね。予行演習。必要だ。オルドネウム……ライノファルザ以上の竜、か。厳しい戦いになりそうだけど、頑張ろう!」
マークはねこ神さまに頷き返してから自身は前線で惹き付ける役を担うと四聖刀『陣』を構える。
待つのは黒狼隊を率いるベネディクト・ファブニルの鬨である。
「死に戻りが出来る今なら、戦いを重ねて情報を収集する事も決して難しくは無い。行くぞ、目指すはオルドネウム撃破だ!」
竜種。ベネディクトの中でその存在は海洋王国でのあの一件が真新しい記憶として存在して居た。そう簡単に倒せる相手ではないが、R.O.Oでならば、と考えずには居られない。
頷きマークが前線へと飛び込む。続いて、ネイコは「最後には皆で勝利を掴んでみせるよっ!」とするりと走り行く。
マークの騎士の誓いはオルトネウムを引き寄せる。姿を隠すように動いていたねこ神さまは『体の輝きが予兆』であるとまじまじと見詰め、観察を怠らない。
「いくら強力な個体でも完璧な生き物は存在しない。協力して倒してみせますよ」
そうだ。完璧な相手など居ない。神様はそれを認識するようにごくりと息を飲んだ。ライノファイザよりも強い龍。尋常での勝利は不可能で、どれが本物に近いかは分からないが良い経験として戦い続けるしかない。
「いよいよ神の無力さを痛感し始めている」
遊戯に罰則を支払う事態など陥りたくはない。どうせなら能力資産は使い切りたい。ねこ神様の『助言』を聞き最良を放てるように神様は閃光乙女を振り上げる。
「亜竜姫との逢瀬がなければ 斯様な事は避けたい程だ」
「ええ。気になることは山のように。つまり……覇竜の深部とは、彼ら亜竜人達の住まう領域……でしょうか。
尤も、ただそれだけという感じもしませんけれど。『微睡竜』に『ライノファイザ』……紛れもない竜種。
そして『微睡竜』を『オトモダチ』と呼称する彼女の様子はその証拠と言える。亜竜人なる種族の何たるか、余程の事なようですね」
シャスティアにとっては琉珂に問うてみたい事は山ほど在った。殺しきれる事までは望まれていないが音を上げさせる事は『人海戦術の持久戦』で何とかなる。故に、テストかとシャスティアは悩ましげに目を細めた。
「微睡竜オルドネウム。お休みの所申し訳ありませんけれど、私共は皆この先に用が在りますれば――暫し、お騒がせ致します故」
『構わぬ。我も苛立っておる! さあ、暫し微睡もうぞ!』
シャスティアの言葉に応えた桃色の龍は漸く立ち上がりマークへとその爪を叩き付ける。避けるわけには行かない。耐え忍ぶだけだ。
受け止めるマークの傍らに飛び込んだのはタイム。リュカが前線より叩き込んで攻撃にあわせて『すごいぱんち』を放てばその鱗の固さに腕がびりびりと痺れる。
「固ぁっ――けど、よし! 上手く動けるようになってきた!」
「まるで、R.O.Oに慣れろと謂わんばかりの鍛錬みたいだよね」
呟いたルフランに「それでも構いやしねぇ!」と自慢の拳を突き立てた。簡単には済まないだろうが、積み重ねてぶっ飛ばす。
「俺の名前はリュカ・ファブニルだ! 覚えときやがれオルドネウム! これだから竜ってやつはとんでもねえ! 最高だぜ!」
にぃと唇を吊り上げる。さすがは龍だ。爪を立てども鱗にはまだ響かない。リュカと、そしてベネディクトの攻撃が重なった。
『ふむ、稚児の手だ』
「成程。だが、稚児の力は時には驚くほどになると言うだろう?」
小さく笑ったベネディクト。ねこ神さまは二人の攻撃に対してオルドネウムがどの様な反応をするのかをまじまじと眺めて居た。
(……成程。オルドネウムは凍て付く吐息を吐く桃色の竜。物理攻撃よりも氷等の魔術の使用が得意ですか。
体が透き通っている分、そうした魔術を使うときは『魔力』がその身の内で輝いている――と)
まじまじと見遣るねこ神さまの伝達にひめにゃこは「顔面ってどうですか!?」と叫んだ。ニャウニウムがその顔面を狙う。
「それで、この竜の逆鱗って何処ですかね!? ほーら、目を覚ますド派手な一撃です!
チンタラやって時間稼ぎされてもうざいんで早く全力出してください!」
『ふむ』
「あ、うそ、嘘ですよ!? ひめにはしなくてい――!」
光輝く透明な体。一枚だけ逆さに生えているという鱗を剥ぎ、その下に攻撃を叩き付け続ければ『ぎゃふん』と言わせられるはずだと叫んだひめにゃこの前にするりと飛び込んだ神様は「一度くらいは欺ければ良いが!」と目映い光を放った。
神様のその目映さに包み込まれたオルドネウムが苛立ったように他方へとその氷を放つ。標的がずれたか。だが、その隙を付くようにリュティスは素早い動作で射撃を行う。
オルドネウムの爪先がマークを捉え引き裂いた。その勢いの儘、その体が翻る。「避けて!」と、ねこ神さまが叫んだ声に神様がタイムの前へと飛び込んだ。
「きゃっ――!?」
一度目の尾を受け止める。だが、再度叩き付けられた尾にタイムは眼前にエラーメッセージが表示されたことに気付く。
尾が勢いよく振り回される。ミルフィーユが「あっ」と呟いたその声に「ミルフィーユ!」とトルテが手を伸ばした。だが、間に合わないか。
「一筋縄ではいきませんね。ですが、その『蹴り』はリヴァイアサンよりは軽そうです」
構えるシャスティアに頷いたのはネイコ。前線へと飛び出した少女の長い髪が揺らぐ。前方注意、勢いよく武器を振り上げた少女を薄桃色の瞼に覆い隠されていた眸がぎょろりと見遣った。巨大な竜だ。其れを相手にするだけでも、高揚する気持ちを抑えることは出来ない。
「何度だって、叩き付けてあげる! 私達は『君』を越えるんだから――!」
成否
成功
状態異常
第3章 第13節
「微睡竜……名前からしておねぼうさんなのかな?」
首を傾いで、唇に指先を当てて悩ましげなアレクシアに吹雪はそうねと微笑んだ。
「微睡竜なんて名前に入るくらいだもの、きっと眠るのが大好きなのね
確かに少し可哀そうではあるけれど、そんなことを気にしている余裕もなさそうね……」
「確かに! 微睡竜って寝るのが大好きな感じする! 起きたばっかりは機嫌が悪いかもしれないし、気をつけないよね。今度はぺちんと潰されないように頑張るよ!」
ハイドラの時に『ぺちん』とやられてしまった事を思い出したスティアは「それに今回は力試しだし、スティアスペシャルを使う訳にもいかないから安全に違いない!」と告げた。――スティアスペシャルが無いだけで安心したシラスは厳かに頷いている。
「起こされて不機嫌……あーわかるわかる、飲みすぎた翌朝とか昼過ぎまで寝てたいし起こされたらもう……げふん!
ま、ドンマイってことで! リュカるんのお家におもたせ持ってホムパするって約束したからさー、ちょっち退いてくんないかな!?」
それでどいてはくれないかとからからと笑ったエイル・サカヅキは「いく?」と迎撃体勢を取り問い掛けた。
「ああ。それにしても、竜にはみんな二つ名があるのかな?
ん、待てよ? ……獣と獣種が違うように亜竜と亜竜種が違うならさ。
それは竜と竜種も違うってこと? いや、まさかね。そんな凄い奴らがいるなら僻地に閉じこもってたり……しないよな、多分」
何にせよ、それは琉珂の領域(クニ)に入れば分かることだ。今回はオイタをして眠りすぎの怠惰な竜(オトモダチ)を何とかする事に集中しなくては為らないか。
「悪いね、どうにも戦わないと話が進まないみたいでさ。
言っておくが俺達はしつけえぞ? 昼寝を続けたいなら早めに降参するんだな」
『我も根に持つ方だ』
「ふうん、結構ジョーク言えるじゃん。――行くぜ!」
実際に死に戻りをしなくてはならないか。シラスの言葉に合わせ、最初から突撃あるのみだとスティアが『スティア・スペシャル・アタック』で切り込んでゆく。続き、吹雪の銀世界の冷気がオルドネウムを包み込む。
『心地よいな』
「……氷の息を吐くって聞いたけれど、氷属性ってことかしら。奇遇ね、お揃いだわ」
桃色の体を観察し続けるエイルがアクティブスキルで迎撃を行う体勢を整えながらM(マジで)K(キレる)5(5秒前)の攻撃を放つ。
必殺回し蹴りで鋼鉄スカートがひらりと揺れた。エグいのを再度お見舞いだと跳ね上がる。その位置へ尾が叩き付けられたことに気付き、尾の先を狙うアレクシアの天穿ち矢が突き刺さった。
「これはどう!?」
尾は二度叩き付けられることが多い。そうした攻撃に長けているか。仲間達の迎撃戦を見る限り至近に寄れば爪と尾が、遠距離ならば広範囲に小売りの吐息が飛び込むか。だが一度だけならば絶えきれる。
問題はこの強靱な鱗だが――『一部を狙い続ける』事で脆い鱗を落せば直接肉を立てるのはあの滅海竜と同じか。届けた攻撃分、僅かでもそれが蓄積すれば彼方が降参する可能性もある。
「シラスくん! 鱗が少ない場所あるかな!?」
「アレクシア、アイツは立たないだろ? ……腹だよ。腹の辺りは鱗が薄いんだ。つまり、そこを狙えれば――!」
スティアはシラス言葉に頷いた。無言でも連携は成り立つ。吹雪の凍て付く気配がスティアを隠すように押し込んだ。エイルは「オルっち、アタシのハウジング中の拠点の壁に竜の鱗飾りたいんだよね!めちゃ映え鱗、ちょーだい!」と『とりま』殴りつけ――
「ここだよ!」
懐まで飛び込んだスティアに気付いたオルドネウムが立ち上がる。腹が見えたとアレクシアが打ち込んだ矢にその竜は苛立ったように絶対零度を吐き出したのだった。
成否
成功
状態異常
第3章 第14節
「なるほど。絶望の青の先にカムイグラがあったように、竜域の先にも領域(クニ)があるということか。
それは楽しみだ。ぜひ訪れてみたい。……それにはテストをクリアしないとだな?」
アズハに頷いたアカネは「私はテストって得意なんですよ♪」と微笑んだ――運動以外は、という言葉だけこっそりとオブラートで包んで隠して。
「い、いや。ここはROOですし私はタンクで天使です♪運動もとい戦闘もばっちりです♪」
「うむうむ! よーし! 引き続き睡竜を攻めて行くぞい! 倒せぬとも鱗の1つでも削ぎ落として持ち帰らねばな!
腹が痛いそうじゃ! ならば、ちくちく腹を狙ってやるのもよかろうに! 嬢ちゃんの『おともだち』であれど、闘うしか無ければ仕方在るまいな!」
笑った天狐にアカネは「テストと謂うからには回答があるはずですしね?」と首を傾ぐ。
「ふーーーぬぬぬ、しかしなんでまた友達をけしかけるのじゃろうな? それとも倒されない自信があるのかのう?
なんであれ今は言われた通り力を示すよう動くしかあるまいて。運良く新たな道が見つかるやもしれんからな!」
『我に対する罰でもあろうよ。微睡んでばかりで門番にすら為らぬとベルゼーの怒りに触れたか。
まあ、よい、何となく我を降参させる程度まで努力をするが良い。先程の腹は……腹は……痛いではないか!』
忘れてたんですか、とアカネは問うた。お手柔らかにと肩を竦めたアズハは腹回りは確かに鱗が少ないために狙いやすいのだろうと認識する。
余り立ち上がらず自身の寝床に腰掛けてばかり居たのは腹を護る為の行いでもあったのだろう。
(けど、虫にちくりと刺された程度の痛みでしかないか……いや、それでも、少しでも通るならそこにけるしかないか!)
アズハが踏み込むのと同じく、壱狐は微笑んだ。眠ったままで済む訳もなく、竜の個体差なんて比較するだけ無駄ではある。
「腕の研鑽にここまで濃い死の気配はそうありません、一手に賭けましょうか。
――おはようございます! ちょっと威力の高い目覚ましで申し訳ないですが、続かせてもらいます!」
匠の智慧は周囲の自然物質のデータを得られる。寝床の周辺に存在する硬質の葉は『木材』というよりも鉄にも思える。
鉄錆草と呼ばれたそれは安易には斬り伏せられないか。だが、それを倒せば微睡竜とて苦戦するはずだ。
「あれは仲良くなれたのか? まあ、いわれた通りテストとやらをクリアすれば良いんだな」
うーんと悩ましげにロードは呟く。一応、命彩で亜竜姫を確認したが白く色彩を纏って居たために彼女がNPCである事は確かなようだ。
そのデータがネクストに存在することにも驚くが、其れだけでは為らないか。微睡竜との戦闘を効率的にするために周辺の敵を探し、その寝床に近付かんとする亜竜や虫を退けるために影でロードは戦い続ける。
「邪魔する奴はとっとと帰りやがれ。俺より強いやつらが多いから生かすのは当然。効率が良い。だからデスカウントを気にせずやろう」
「……何か来たら、伝達するよ」
アズハの言葉にロードは頷いた。アカネと天狐が一歩踏み出し――最初に飛び込んだのは壱狐。
「――行きます!」
陰陽五行の太刀で寝床諸共巻き込めば『ああああああ』と情けも無い竜の叫声が上がる。
『我が寝床に何をするか!』
「ええ、スッゴイ怒ってますけど……」
「あやつ煽り体勢引く過ぎんかの?」
げんなりと肩を竦めて天狐とアカネ。だが、それに気をとられて立ち上がったオルドネウムの腹へと滑り込んだ天狐は鱗の一つくらい頂戴したいと攻め立てる。
彼女の動きに合わせ、fullmark(IDEAScript+)でヘンテコなバグを期待したアカネの姿がブレた。
気を引き寄せて、点灯を狙うべく暴風を放つ。体当たりの勢いに一度、竜の爪がアカネを裂いた。だが、そのまま、押し込まんと狙いを定め続ける。
今まで閉じられた桃色の翼が広げられたかと思えば、それはお返しと言わんばかりの旋風をアカネ目掛けて放ったのだった。
成否
成功
状態異常
第3章 第15節
「なんぞ、この竜種。あおり耐性低そうだな」
真読・流雨の言葉に沙月は厳かに頷いた。とても煽り耐性が低く、会話も順当に行ってくれる存在だ。
「なるほど、ワイバーンが子供に見えます、ね。……とはいえ、かの海竜程ではないでしょう」
煽り耐性は兎も角、先程までのハイドラよりも強敵である事は確かだとハルツフィーネはクマさんに「お願いします」と囁いた。
セイクリッド・クマさん・フォームで神々しい輝きを身に纏ったクマさんをルピナスハンドベルでりいんと音を鳴らし元気づける。
「……わからないとかあるかもしれませんが、めげずにいきます。頑張りましょうね」
寝床が傷付けられたと憤慨するオルドネウムに目掛け、クマさんが前進していく。魔法の爪が伸びて、クマさんのツメが竜を傷付けた。
鱗がかつん、と音を立てる。だが、少しは効果はあるか。苛む気配を得るまで少し時間は掛るだろうが隙を付けば――そう確信させる。
「流石に竜の名前を冠するだけあって一筋縄ではいきませんね。ですが、あまり動きたくはない様子でもありましたね。
そこに付け入る隙があるもかもしれません。もう一度チャレンジしてみましょう」
沙月が姿勢を屈めた後方で、にゃんと猫が鳴いた。ナハトスター・ウィッシュ・ねこは巨大な竜を見上げてまじまじと見遣る。
「微睡竜、オルドネウム……勝たなきゃ、なんだよね。ボクも混ぜてー☆」
腹を狙えば良いとは聞いたが腹へと近付くのは難しい。癒しのもふもふ☆猫フィールド! で猫に癒して貰えば、幾許は情報が得られるかも知れない。
(えーと……亜竜種の琉珂さんが居たら、回復に巻き込むのは問題ない、かな……?)
範囲回復にオルドネウムを巻き込まないようにと留意するナハトスターに「応援ありがとう!」と三月うさぎてゃんはにんまりと微笑んだ。
「うんうんなるほど! オルドネウムさんは氷なんだねぇ……うん、ならば溶かしてしまおうねぇ!
なら、君にぴったりな曲があるんだ! 聞いて――『My,Dear,ボルケーノ!』
この歌は火山の歌、英雄を称える歌、そして、その英雄を伝える、忘れないための歌。
溶けて消えてしまっても、殺されて眠りについてしまっても、私だけは覚えてるよ」
伸びやかに歌声が響き上がる。三月うさぎてゃんは偶像。竜だって誰だって、この歌を聴いた相手は『ファンのアリス』として笑顔を捧げる。
彼がファンになってくれるために、死なないようにと気を配って。偶像が死んでしまったら『三月うさぎてゃんロス』がやってくる。
ナハトスターの支えもあって生き残る手があるか。前線へと飛び込んだ沙月は翼があるならば飛び乗ってやろうと翼を掴んだ。
先程旋風を生み出したのは可動出来たからだ。その可動域を狭めてやれば良い。翼の付け根へと攻撃を叩き付ければ振り落とす為にオルドネウムが身震いを始める。その桃色の皮膚は冷たい。身の内の魔力が滾る度に冷たくなって行く。
「森だ!!ㅤ勝った!ㅤもう何も怖くない!!
森林の私は通常のきうりの数倍きうりだからね!ㅤここをフィールドセルの楽園にできるか偵察しよう!
……よし、無理だ!ㅤ強そうなのしかいない!ㅤ食物連鎖の最下層になる未来しか見えない!!」
だからこそ、きうりんは「何はともあれ竜をどうにかしないとどうにもならないよね!ㅤ突撃だよ!!」と叫んだ。勢いよくフィールドセルの楽園を得る為に、サラダ敵性を持ったきうりは走り行く。
「微睡竜くんおはよー!!ㅤ朝ごはんの時間だよ!!」
沙月を振り下ろすために周辺へと氷の息吹を放とうとしたオルドネウムの口内へときうりんが勢いよく飛び込んだ。
「え」
流雨はぱちりと瞬く。
『む』
それはオルドネウムも同じだ。口の中できうりんがバタバタしている。躍り食い状態か。
「美味しいんだからなるべく味わって食べてね!!」
「なんぞ、あの竜の口の中から声が聞こえるが……まあ、いいか。
実際問題、此方にけしかけられた経緯を考えれば『試金石程度』なのだろうが。それを言うとキレそうだよな。相手の『手頃』の程度も解らぬのもあるが。
――だが、まぁ。こういう状況は嫌いじゃない。やーい。ばーかばーか。お残しは禁止だぞ。ばーかばーか」
手頃にノリで何とか煽り続ける流雨に背には沙月が口の中にはきうりんがでてんやわんやの竜はばたばたと動き出す。
「腹の近くに逆鱗があるのが見えました。そろそろ寝起きの体操は終わりましたか?」
第二形態とか本気モードとかあると面倒なんですけれど、と肩を竦めたハルツフィーネの前で『ごくん』としたオルドネウムは氷の息吹を吐き出した。
『我、怒った!!!!』
――流雨は可愛い竜だな、とぼんやりと考えながら爪でばしりと叩いてくるオルドネウムに笹をぷすりと突き刺したのだった。
成否
成功
状態異常
第3章 第16節
「みんな大丈夫? リアルの方で『リスポンすれば済むし』とか思ってしまわない?」
こんなにも『死に戻る』ならば現実と混同して――なんて『ゲーム病』になって仕舞いそうだとグレイガーデンは仲間達を見ました。
イズルは肩を竦めて「そうならないように願いたい」と囁き九重ツルギは「大丈夫ですよ」と冷静に言葉を返す。イズルが見遣ったツルギは常たる紳士的な冷静さは形を潜めて戦士の闘志に塗れている。
「ツルギさんのその『熱さ』は、ヒトとして好ましいね」
「俺がアツい? なるべくクールな仮面を普段から被っているつもりですが……イズルといる時は安心して、本心で敵と向き合えるのかもしれません。
――つまり貴方のおかげで、俺は幾らでも強くなれる!」
『熱い』のは闘志か、気持ちの持ち方か。それとも。無粋なことは口にせずスキャット・セプテットは「リスポンすれば済むし、とはなりはしないが」と前置きを。
「――仲間の奮闘で弱点がついに判明したか。後は効率的にそれを責めるにはどうするか。
……このパーティにおいては、私が囮になるのが適任だろう。まだ死になれた訳ではないが、やるしかない。次へ進むために!」
そうだろ、と振り向いたスキャットにグレイガーデンは冷気を遮るスキルを付与する。
「試したいことが2つあるんだけど、今付与した技でこれであの吐息……息吹? あれを防げないか、威力を抑えられないかってこと。
それから、あいつが口を開けたら植物採集した時に積んできた草を放り込んでやろうかなってね。どうだろうか」
「こんな時に草が食べたいなんて、グレイは食いしん坊だな!」
「あいつ! 微睡竜だってば! 僕じゃないから!」
まるで猫が毛を逆立てるように否定するグレイガーデンに崎守ナイトはけらけらと笑う。「なに、微睡竜に食わせる?そいつは面白そうだ。試してみる価値あるなぁ!」と地を蹴った。同様に、スキャットは空へと飛び上がる。
「微睡竜、お前の弱点見切った。私達の勝ちだ!」
『何だと――?』
首をぐんと上げたオルドネウムのその様子にロードは僅かな失望を覚えていた。激怒していたオルドネウムの様子が予想している竜種と大きく違ったからだ。
「……凛々しいイメージだったが結構子どもっぽい? 見た目はともかく中身が残念な奴なんだな。もっとかっこいいと思ってたのに。ちぇ。いや、戦えばかっこいい所が見れるかもしれない。よし戦るぞ微睡竜!」
『当たり前であろう。我は龍の中でも子供であるぞ』
「こども――? ははーん、だから『オトモダチ』か! それに、倒せとは言われたけど殺せとは言われてないもんね。よーしテストやっちゃおう!」
すあまはぴょんと飛び出した。お腹の下の装甲が柔く狙いやすいことを此方が把握したことをオルドネウムも理解しているだろう。
狩猟本能を研ぎ澄ませ、チャンスを伺うすあまの傍らで冷気遮る加護を受けたルージュが魅剣デフォーミティをすらりと引き抜いた。
「良いぜオルドネウム。とりあえず、逆鱗の一枚くらいは覚悟してくれよな!!」
腹の近くに存在する逆鱗を剥がしてやればいい。其れだけで足りないなら降参だとオルドネウムが騒ぎ出すくらいのダメージを与えれば良い。
ルージュは怒り、そして気易くも感じられた竜が『案外楽しい存在』なのだと認識して居た。戦いが終わればルージュの『にーちゃん』になって貰えば良い。
「それにしてもお強いですね。竜種の中ではどのくらいの強さなのでしょうか?
もちろんざっくりとこのくらいとかで構いません。参考までに知りたいなと思っただけですので気が向けば教えて頂きたいなと思います」
『知らぬ。我は奴らの集落近くから動くことはない。琉珂の方が詳しいだろう』
倒されてはしまったが話をしてみるのも一興だと会話を交えながら月は距離を詰める。腹を狙うが為に体の下に身を潜り込ませたいが――さて、それを『試す』為に天蓋へと大きく飛び出したのがスキャットであったか。
「おっふ、難易度がどんどん跳ね上がっているんだけど~。むぅ……OK了解した……。
Λちゃんの全力全開見せてあげるよ……ピンチはチャンスに逆境は乗り越えてこそイレギュラーズ……お、割と名言っぽい? どんどんいくよ~」
さあ、やってやろうと空へと昇ったのはΛとて同じであった。スキャットとΛが『気を引け』ば腹ががら空きになる筈だ。
オルドネウムのキルゾーンの範囲を加味して出来る限り離れるΛだが今度は茂る木々や天より聞こえる獣の声が邪魔ではあるか。
「ふむ……あまり離れすぎるのも出来ない。けど~機動力の赴くままに蝶のように舞い蜂のように刺す刺す刺す。
上に気を取られて腹部に隙ができたら儲けもの其方は他の面子に期待しておこう」
「ああ。其れには同意だ。行け、ナイト! 代表取締役社長としての意地を見せろ!」
「此処で聞く言葉とはΛちゃんも思わなかったな~」
スキャットに応えるようにナイトは大きくを振り上げた。オルドネウムの体が光る。冷気を伴う吐息(ブレス)でイレギュラーズを一蹴しようとしたのか。
「行くぜぇツルギ!」
「畏まりました、ナイトさん!」
グレイガーデンが草を、そしてイズルはポーションを投擲する。突然、口腔内にものを叩き込まれたオルドネウムが驚愕したように首をぐりんと頭を向ける。口をばかりと開いて困惑したように顎を強制的に閉じたオルドネウムは我慢ならんと上空を飛ぶΛとスキャットへと冷気の吐息を吐き出した。
「なッ――!」
Λはそれでも一瞬で命を失うほどではないと感じる。確かに身を蝕んだブレスは焦がすように身を焼いているがグレイガーデンの補佐のお陰か。
「――腹が空いたぞ!」
ロードは叫ぶ。寝床ごと吹っ飛ばすことを許せと至近まで距離を詰めたロードがオルドネウムを『吹き飛ばそう』と狙う。だが、それも甘いか。
「その鱗頂戴!」
すあまは叫んだ。剥がせる鱗は剥がしてお土産にしてしまいたい。薄桃色の美しい鱗は加工すればアクセサリーにでも鳴るだろうか。
腹の下を摺り抜けるように通って、尾の付け根を狙う。勢い良く爪を突き足ればオルドネウムはちくりと突き刺さったその痛みにばたばたと脚を揺らした。
「おいおい、寝床は後で直してやるから、今はさっさと終わらせようぜ!!」
『約束であるぞ!』
爪先がルージュを襲う。約束だって、と腹の下に潜り込めば巨体であるオルドネウムは地より勢いよく飛び上がる。沙月が顔を上げればずしんと音を立て着地したオルドネウムが周辺のイレギュラーズを『ぷちり』としてしまおうと考えたことが見て取れた。
「とても古典的な戦法ですが、随分と混乱しているのでは? 二度あることは三度あるとなるのか、三度目の正直ということで倒せるのか。
全ては私達の頑張り次第という所でしょうか――参ります」
体の下に潜り込み、腹を狙うイレギュラーズを潰してしまえば良いと考えたであろうオルドネウムへと流れるような仕草で攻撃を叩き込む沙月に続きルージュが焔の気配を纏わせた一撃を放つ。
『熱いではないか!』
「はは、悪ィ! けどよ、オルドネウム。火傷したくないなら降参したって良いんだぜ?」
にぃ、と笑ったルージュにオルドネウムは『まだまだ暴れたりんではないか! 起こされた分の恨みだ!』と尾を勢いよく振るったのだった。
「――お前最高だな!」
眩い光となる。それはロードが『自爆』した勢いによる力強い一撃だ。
その激しさにオルドネウムが途惑ったように地団駄踏んだその脚に蹴り飛ばされ「ぐわー!」とすあまは叫んだ。
成否
成功
状態異常
第3章 第17節
オルドネウムが上空に向けて放った吐息が氷の結晶を伴って地へと降注ぐ。
「クッソ、寒い!」
シラスがそう呻いたのはまるで冬が訪れたような雪景色が広がったからだ。口を閉じたことで凍て付く吐息が爆発したように放たれた。まるで、此処だけ真冬のようにも感じられる。
「寒い、けど……琉珂君が『オトモダチ』と言っていた通り、確かに強い敵意は感じたりはしないよね。余計に倒し辛い気もするけれど、そうは言ってらんないね!」
懐を狙おうと仲間達を振り向いたアレクシアに吹雪はふと、小さく呟いた。寒々しいと身を縮めたシラスとは対照的に吹雪は元気そうである。
「ここまで見ている感じだと、あまり頭はよくないみたいね。確かに強いようだけれど、付け入る隙はあるかしら?」
「たしかにー」
「確かにー!」
大きく頷いたのはエイル・サカヅキとスティアであった。
「それに話しかけたら返事もしてくれるみたいだし、良い竜さんだよね。おサボりさんみたいだけど!」
「意外と煽ればストレートに乗ってくれるピュアピュアじゃん! ――てゆかオシャレは気合っていってもこの服さっむ!」
そう。案外返事もしてくれるし煽ればストレートに返ってくる。ある意味、話の通じる相手であるだけで好印象なのである。
固い竜の鱗を馬鹿正直に狙って入られない。といえど先程のように腹を無理矢理狙えば、いきなり跳ね上がって全身で押しつぶそうとしてくるだろう。
「腹を狙いながら腹以外の部分も薄くしてやれば良い。そうだろ?」
シラスの作戦は真横や正面の胸、仲間が狙いやすい部分へと攻撃を集中させて鱗を脆くすることだった。
「吹雪、いいか?」
「ええ。私の攻撃は通りがよくなさそうなのよね――となると、ここでは囮役に回ろうかしら。作戦には乗ってあげるわ」
シラスは大きく頷いた。吹雪が囮として距離詰め狙う。シラスが熱して吹雪が冷やす。鉄でも岩でも熱してから急に冷えると罅割れる。竜の鱗に思惑通りとは行かないが繰り返せば好きを作れるはずである。
「ねえ、オルドネウム。ライノファイザより強いと聞いていたけれど、とてもそうは見えないわね、まだおねむなのかしら?」
『なんだと? 起きておるでは無いか!』
首を上げた。シラスが一気に胸へと焔を放つ。ついで、吹雪の凍て付く冷気が叩き付けられた。熱いと苛立ったオルドネウムの意識は吹雪に向いて居る。ならば、とエイルは脚を狙って飛び込んだ。
しつこく攻めれば良い。三人がそうしているならば、アレクシアとスティアは直ぐにその身の内へと潜り込む。先程まですあまが傷付けた腹へと叩き込む。
一度は耐えれる事をアレクシアは知っている。裏を返せば二度、それは厳しいのだ。ならば、全力で此処に叩き込めば良い。
シラスと吹雪による攻撃を避けるようにオルドネウムが勢いよく体を動かした。身を捻り上げて尾が二人を狙う。
待っていましたとエイルが脚へと一撃投じ――
「行ったれスティるん、冷やしドラゴンのスティアスペシャルかき氷!」
「えぇ!? 冷やしスペシャル!? 『スティア・スペシャル・ドラゴン味始めました!・アタックー!』」
アレクシアは「……ところで冷やしドラゴンって何? 食べるの……?」と茫然と呟いた。狙うはシラスと吹雪が命がけで『砕いた』胸の鱗である。
その場所に『スティア・スペシャル・ドラゴン味始めました!・アタック』で更なる罅を、そしてアレクシアの全力を。
「オルドネウムぅ、鱗に罅が入ったねぇ~~。
そこに攻撃すればいいんだねぇ~? エイラぁ、がんばるよぉ。リヴァイアサンにさえぇ通用したぁMアタぁ効くのではぁ?」
首をコテリと傾げたエイラの金色の眼が魔力を帯びる。削りきるように、少しずつでもオルドネウムの吐息を息切れさせれば良い。
「『亜竜姫』……琉珂くんで良いんだっケ? トモダチらしいけれド……倒す事を推奨されてるような感じだシ……頑張ろうかナ!
僕自身は折角なら君らと仲良くしたいのは有ル。この世界の深淵、知ってるかもだシ。
まずはテストをしっかりこなしたいネ! ……リヴァイアサン以来かモ、竜種見るノ」
珍しいモノを見ているのだとエイラの後ろから『全ブッパ』で攻撃を放ったアイは幸運さえもその場に萎え打つように飛び込んだ。
「君の何もかもを丸裸にしてあげよウ!」
オルドネウムはまだ幼い。とはいえ、途方もない時を生きている。幼竜と言えども侮れぬ存在だろう。
アイの投影術式が剣を作り上げ、エイラの眸がオルドネウムを見据え続ける。オルドネウムは『痛いではないか!』と駄々をこねるように叫んだ。
「これは……煽り耐性はクマさんの方が上ですね。空の覇者、恐れるに足らずです」
「あららー……怒らせちゃった感じ?うさてゃんは仲良くしたいし、ファンになって欲しいしー……って押しつけは良くないかな?」
三月うさぎてゃんとハルツフィーネが顔を見合わせる。
ルピナスハンドベルの音色を響かせて、セイクリッドモードクマさんをオルドネウムの元へと『飛び立たせた』ハルツフィーネは凍て付く気配など気には止めないと、狙い定める。
「クマさんは聡明なのでわかりました。あなたがテストに抜擢されたのは……強すぎなくて丁度良いからですね?
最初は何の嫌がらせかと思いましたが、あなたなら納得です。ナイスバランス」
『どういう意味なのだ!』
「そう言う意味だろう。オルドネウム。略しておねむか。予想していたとおりにこれまでの言動や情報から判断するに、単純に幼い竜なのか。
精神的にも肉体的にも子供のような未熟な印象を受ける。可愛らしいというか何というか。だからこそ、我々が『殺すまで行かない』と判断したか。
君をテスト要員にした『オジサマ』とやらの手腕には驚かされるな。成程、此方の良心も痛む」
まるで幼児を虐めているような実感を伴うのだ。例えば、リヴァイアサンを倒すことに感じなかった心の惑い。黄龍などから感じたプレッシャーはオルドネウム、略して『おねむ』からは感じられない。琉珂の友人であるという前情報だけでも、彼が敵勢対象たり得ないイレギュラーズなのだ。
「ふむ。まぁ肉体に関しては未熟とはいえ竜種。何れにせよ、そちらはまともにやっていては話にならんのだが。
怪談とか話したらビビッて隙とかできんもんか。寝ている子の鱗を只管剥がして回る妖怪鱗剥ぎとか。……いや、そんな妖怪は実際いないのだが」
居れば面白いだろう、と真読・流雨は観測隊一行が『傷付け』た鱗に目掛けて竹槍をぷすりと差した。腹は相も変わらず狙いづらい。右前足の内側、腹に近い位置に逆鱗があると告げるアイに「そんな場所にぃ~?」とエイラが首を傾ぐ。
「成程、確かに狙いづらい。だが、ここはどうだ?」
狙いやすいのは傷付いた鱗だ。その位置ですね、と頷くハルツフィーネがクマさんの魔法の爪で引っ掻いた。
『痛いではないか!』
「偉大な微睡竜さん。ブレスをご自分の頭に吐いて、頭を冷ましては如何でしょうか? きっと目覚めも爽快ですね」
『な――! そんなことをすれば顔が冷たくなってしまうだろう!』
受け答えが子供染みている。そう感じながらも三月うさぎてゃんはファンに『ロス』を感じさせないように唇を尖らせた。
3rdシングルまで聞かせたならば2ndシングルを聞かせないのもファンサに欠ける。
「『No'where』、それはどこにもないワインを勧める歌。あるものは当たり前、でもそこにないのにあるように振る舞われると気にならない? ――さあ、うさてゃんの歌声を聞いて!」
にんまりと微笑んで。三月うさぎてゃんの歌声に合わせてエイラはふんわりと浮上がりながら『24の眸』で真っ直ぐに龍を見て居た。
流雨は地を蹴り、オルドネウムの傷付く鱗を一部剥がした。だが、それまでか。『何度でもやり直せる』ならばそうすればいい。
続きはWebで――なんて寂しいことにはならないのだ。
さあ、見て、感じて、聞いていて。うさてゃんはあなたの為に、死なないんだから!
「んーオルドネウムさんも怒ったら疲れるし、眠くなるよね? いつも眠ってるなら尚更。
そんなに都合よくは行かないだろうけど、どうせ倒しきることが無理そうなら、子守唄を歌ってあげる。私は貴方ともっとお話したいからね!」
成否
成功
状態異常
第3章 第18節
「そりゃあ一筋縄じゃあいかねえよなぁ! んなこたぁ最初っからわかってんだよ!
だから夢に見た! だから憧れた! ガキの頃から覇竜領域を眺めてずっと思ってた!」
リュカ・ファブニルは叫んだ。まるで少年のように、幼い子供のように、憧憬を目にし、耳にし、そしてその攻撃を受けて。
――あそこにいる竜達と戦いてえ! 戦って、勝って、認められて、ダチになってやるってな!
この場所が仮想空間であろうとも。手を伸ばせば届くならば。死んで、戻るチャンスがあるならば。青年は止ることはない。
「そのチャンスが今なんだ! 手がちぎれようが足がちぎれようが止まれるかよ!」
だから行かせてくれと叫んだリュカにベネディクトは「分かっているさ、兄弟」と揶揄った。
「どれだけ強力と言ってもこれだけ果断に攻めれば幾らかの綻びも見えて来るというもの。此処は俺達も攻め手に出て良い場面だろう、行くぞ!」
ベネディクト・ファブニルは勝機が目の前に存在して居るのだとそう言った。彼に従う白銀の騎士ストームナイトは剣を掲げ、堂々と宣言する。
「竜に挑むは騎士の誉れ! 偉大なる竜よ! 一戦交える前に名を名乗ろう!
我が名は白銀の騎士ストームナイト! 難地、難敵を乗り越え、未踏の地に至らんとする者!」
カッコイイとその口上に手を叩いて喜んだタイムはルフラン・アントルメが聞いて聞いてとぴょこぴょこと跳ねてアピールするその小さな体を抱き上げる。
「うう……何回死んじゃったんだろ」
「あたしも、そろそろ死んで戻ってのマラソンで本体のあたしがお腹空いたー!
けどね今が凄いチャンスなんだよ! 他人のクエストログでチェックしたんだけど、お腹の逆鱗。えーと、右足の付け根でお腹側? が狙いだって」
「なんて?」
「右足の付け根でお腹側に存在する逆さについている鱗」
「お腹が弱点なのね!」
こくこくと頷いたルフランにタイムは「分かった!」とにんまりと微笑んだ。ログと言えば、とリュティスもクエストデータを眺めながら仲間達へと振り返る。
「どうやら、胸当たりの鱗を一枚傷付ける事出来たそうです。攻撃を受けやすい部分だったからでしょう。剥がれ落ちるまでは言っていないようですが底も十分狙い目ですね」
「おおー! 弱点? が判明したなら、積極的に狙っていくのですよ!」
眸をきらりと輝かせるミルフィーユへとトルテは「ミルフィーユ」とその名を呼んで肩を掴んだ。
「やる気漲らせてるのはいいが、手負いの敵は強力になるからな。十分気をつけてな?」
「はーい、今度は死なないよう、注意していくのですよ! 前回は、気が付いたら死んでたのです……ビックリなのです。
毎回死なないように……うーん……努力するのです!」
気付いたら死んでいるのがR.O.Oなのである。ミルフィーユが何度も死ぬ姿を見たくはないトルテは回復の杖でも無理矢理握らせたいと溜息を吐くわけだが、当のミルフィーユは「努力するのです!」とサイド力強く言うだけだ。
「テッテテーひめにゃこ復活! 同じ技は2度喰らいません! 弱点も発見したっぽいですし! やっぱ逆鱗あったんですね! ひめに狙われて内心めっちゃ慌てちゃってたんでしょう!?」
『なんと?』
「いやいや、ひめとトークするときじゃないですよ!? でも、大丈夫、安心してください! ひめが優しく逆鱗引っ剥がしてあげます♪
だから大人しくひめのレアファッションアイテムになってください☆」
オルドネウムの前でにんまりと微笑んだひめにゃこは颯爽と指さした。オルドネウムが動く気配を感じ神様は前線で構える。
「相応に奮闘せしめたが、どうにも厳しい遊戯だな。
死亡転送有気の調整という訳でも無かろうが、いよいよもって均衡が劣悪だ。既に遊戯の範疇を超越して感じるな」
呟いた神様に現場・ネイコは小さく頷いた。「流石は二つ名持ちの竜種って奴なのかな」と言葉にすればオルドネウムも胸を張っている。
「ひめにゃこ様に似ていますね」
「あのピンクな所ですか?」
「いえ……あ、これ以上は控えます」
「なにをう!?」
リュティスに頬を膨らませるひめにゃこ。その様子だけを見ていれば和やかなのではあるが――
「皆でこれだけ戦ってまだまだ倒れる気配がないなんて……。
ホントに生物として反則も良いところだね。でも、だからこそ越える価値があるってモノだよねっ!」
「ソレはソレとて手柄を得て良い頃合い。我等が狼牙突き立て目標一つもを頂こう」
仲間と力を合わせて倒すべき存在が目の前には存在するのだ。ネイコが地を蹴り、神様も味方の助けになる様に攻撃を放つ。
「強敵強敵、そして竜との連戦。まるでボスラッシュというやつだね」
心さえ折れなければ何度だって戦える。マークは腹の逆鱗を狙うために『傷付いた鱗』を狙う振りをしてオルドネウムを惹き付ける。
幾度か攻撃を重ねれば意識を奪う事ができる。リュティスは「オルドネウム」とその名を呼んだ。
「そういえば先程あそこにいるピンク髪の子がうざいだの言っておりましたよ。
少し調子に乗ってるように見えますし、懲らしめてあげた方が良いのではないでしょうか?」
そう告げた後、リュティスの気配が失せる。相変わらず『デコイ』となったひめにゃこは「メイドー!?」と叫んだ。
だが、直ぐにマークがその意識を惹き付ける。ベネディクトは自身の弱点で或る逆鱗を護る為に胸当たりの鱗を差し出したのだろうとオルドネウムを睨め付けた。ならば、その当たりを狙えども大打撃を与える事はできないか。
マークが惹き付けている間に、一カ所。その胸の位置の他に注意を引く場所を作れば良い。それはタイムにも言葉泣くとも伝わった。
あちこちから揺さぶれば隙が出来る。そして、逆鱗を傷付ければ良いのだ。タイムの『すごいぱんち』が叩き付けられる。
「ところで、ボクシングでは腹に攻撃を集中し、相手の意識や防御が腹部に下がったところを頭部にドカン! という戦術がある。
つまり、だ……頭がお留守になっているであろうところを、セレスティアルランスで下からかち上げる!
必殺! セレスティアル・アッパー!! 脳みそ揺らしておねんねしやがれ! いや眠るがいい!」
白銀の騎士ストームナイトは狙い定め、顎下から『スパー』として『ドーン』した。詰るところ、光の剣閃による攻撃にオルドネウムの頭は勢いよく持ち上げられたこととなる。意識が逸れる。ならばとひめにゃこはその背中へと飛び乗った。
「オラオラ! どうです自分の背中には攻撃できまい! 振り落とそうとしたって必死にしがみついてやります!
さぁ、転がってひめを押しつぶせばお腹を晒す事になりますよ! それともひめの乗り物になっちゃいますか!?」
ひめにゃこが背に飛び乗りその動きを阻害し続けて居る様子を眺めてねこ神さまの城ねこさんが鋭い視線を放った。
「ねこです。よろしくおねがいします。
弱点とされる逆鱗の位置は腹部……なるほど、飛翔すること無き怠惰な竜であれば腹部の守りは盤石ということですか。
そのような思惑、ひっくり返してしまいましょう。隙がないなら作ってしまえばいいのです。それが、今ですから」
皆の力を合わせればやってやれないこともあるのだとねこ神さまの白ねこさんが『ニャアン』と長い声を上げた。
決定的な隙はまだだ。だが、これだけの混乱が生まれているのだから、ここぞというチャンスは見極められる。
「わたしは平気! 今のうちにやって!
ッこれがわたしの全力! や―――っ!!」」
タイムが叩き付けた攻撃が背にひめにゃこを背負っていたオルドネウムを困惑させた。全力の一撃を受け止めたオルドネウムの体が揺らぐ。右側に倒れ伏せそうになったその身を敢て逆方向より攻撃したのはベネディクトであった。
「一瞬でも良い、僅かでも相手の攻撃を止める事が出来れば十分だ……! ――我が刃、届かぬとも役目は十分に果たした!」
ならば、トルテはアクティブスキルを脚の付け根へ放った。先ずは一撃。至近距離である。
「行きます!」と叫んだミルフィーユは敢て飛び込んだ。皆が攻撃を出来るようにと二人共に連携するが――
「危ないです」
冷静なねこ神さまの声が聞こえトルテは咄嗟にミルフィーユの体を押し退ける。
「わっ!?」
突如の衝撃に目を見開いたミルフィーユの腕を掴んだのは神様。「危険」と厳かな声でそう告げたゴッドは鋭い爪がトルテを貫いた刹那に輝き、苛烈なる熱を放った。
絶え間ない攻撃。それが隙を作り出していることにネイコは「今!」と叫んだ。
「みんな! いっくよー! 伊達に死に戻ってきたわけじゃない、こっちだって学習してるんだもん!」
ルフランはマークへと苛む氷の災いを払いのけるスキルを付与し、ネイコへとアン、ドゥ、トロワ! と元気を授ける。
「頑張ってね!」
「うん、私は『ヒロイン』なんだから――これがホントの全力全開! 喰らえッ! プリンセスストライクっ!」
マークが惹き付けている。ベネディクトが作った隙に。ネイコが叩き付けた全力が逆鱗を傷付ける。
「成程。今ですか。
――恨みがある訳ではありませんが、御主人様の邪魔をするものは竜種であろうと排除してみせましょう」
するりと躍る様に飛び出して、リュティスが死を刻み込む。ならばと伸びた猫の牙に、猫の爪に。ねこ神さまの傍を飛び出してリュカは拳を振り上げる。
猛く燃える。これが夢であるように。
「例えテメェがどんな強力な吹雪を叩きつけても! 俺のこの情熱は! 炎だけは掻き消せやしねぇ!」
これが意地だった。男の。『竜』に憧れ、竜を模した、男の憧憬が意地となって逆鱗へと叩き付けられる。
「――ぶっ飛びやがれえええ!!」
オルドネウムの身が跳ね上がる。逆さに生えた鱗が弾けるように落され、巨躯が地へと叩き付けられる。
『よくも!』
「はっ、似合ってるぜ、オルドネウム! 逆鱗(じゃくてん)を晒してんだ。――今からは『パワー勝負』で我慢比べだ!」
成否
成功
状態異常
第3章 第19節
纏う鱗が毀れ落ちていく。ならば、此処からが勝負だ。セララは聖剣チョコソードを構えて地を蹴った。
その場所を狙えば良い。ここからが根比べ――ならば、数で勝利するために、重ねる攻撃は無言に存在して居る。
「お昼寝してる所、起こしちゃってごめんね。
でも、ボク達もどうしても先へ進まなきゃ行けないから……悪いとは思うけど勝たせて貰うよ!」
これまでの冒険を思い出しハイドラの毒を剣へと塗りつけた。その様子を眺めていた指差・ヨシカは「痛そうね」と囁いて。
「竜なんて言うからちょっとビビって後ろの方で見てたんだけど……なんか憎めない竜ね。
だからと言って油断する心算はないけれど。ううん、上手くやればマウントモンスターとかになって乗せてくれないかしら?
……ま、何もしてないうちからそんな皮算用してもね。結局まずは拳同士のぶつかり合い……ってね!」
屹度、仲良くなれば乗せてくれるタイプの竜だと認識しながらもヨシカは至近距離まで近寄った。苛立ったように体を持ち上げて氷の吐息を吐き出そうとするオルドネウムの背にしがみ付いて離れない。
「そんなに眠りたいならね……背中を優しく叩いてあげるわ!」
勢いよく叩き付けたのはプリンセスパイルハンマー。一帯を吹き飛ばすように、背から衝撃を与えくじかせるように狙う。
「こんにちは。僕は美食屋のじぇい君です。琉珂ちゃんの紹介できました。僕達で貴方を倒して、美味しいものをいっぱいいただくね」
くれるって言っていたからとぺろりと舌を覗かせたじぇい君はライノファイザ(偽)とはやり合った事を思い出す。其れと比べれば確かに此方は死屍累々。其れでも、何度だってやり直せるこの世界なら勝機が存在して居るのだ。
「さあ、いこう! 『あの時』の絶望的な状況下に比べれば、こんなのはへっちゃらさ!」
『竜 ステーキ OK。でも ご飯 分け 貰う 魅力。どちでも 頑張ろ』
ほにょほにょと言葉を重ねた縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の前をじぇい君が走り往く。桃色の体が光輝いた。その鮮やかさを真っ向から受け止めるわけには行かない。
「逃げるよ!」
『分かっ た』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が頷き『繧「ク$ィブ◆キル1』を投じて距離をとる。意識を奪う様に前線で立ち回るじぇい君の前を走り抜けて行くのは――きうりんだ。
「まさか!」
ザミエラがぎょっとしたように彼女を眺める。先程、口にポーションと草を『ぶち込まれた』際にオルドネウムは混乱していた。
それと同じ事が起こるとでも言うのだろうか、再生し翡翠の恵みで生命力には溢れている。
「食べてくれた!ㅤってことはもうマブダチだね!ㅤまた微睡竜くんに突撃しよう! 初志貫徹!ㅤ私はもっかい食べられるよ!
――お久!ㅤそろそろおやつの時間だよ!! 美味しく食べてね!」
口の中に飛び込めば桃色の体の魔力が暴発するように堪っていく。ばたばたと動くきうりんの姿を眺めるじぇい君は「美味しいのかなあ」と小さく呟いた。
「さあね!? さっき何ともなかったから油断したでしょ!ㅤ今の私は毒入りきうりだよ!!」
お腹を進むぞと腹の中からの攻撃を狙うきうりんの様子を眺めていた。
「こ、こほん。さて、リュカの期待に応えるためにも、そして美味しいご飯のためにも、頑張りましょうか!
さあ、覚悟しなさい微睡竜オルドネウム! 付け合わせの野菜のリクエストなら聞いてあげる!」
『きゅうり』
「今食べてるものね……」
ザミエラは縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の呟きに小さく笑う。口の中で、そして喉奥で一撃を食らわせて『ごちそうさま』されたきうりん。そしてまたも天に向けて爆発的に放たれた吐息。だが、蓄積したダメージで此れが狙い目だというように美食屋メンバーが攻撃を重ね続ける。
セララはひらりと氷のブレスを躱してから上空より叩き付ける――「全力全壊! ギガセララブレイク!」
激しい音を立て、一度身が崩れる。だが、オルドネウムはまだまだだと言うように立ち上がり尾を勢いよく揺らしたのだった。
リュカの言うとおりここからが根比べ。ここからが『我慢大会』なのである。猛毒に蝕まれたオルドネウムが降参するまで。手を止めてはならないのだ。
――一方でファン・ドルドは「これまでは威力偵察でしたし、ちょっと趣向を変えてみましょうか」と別方面へと向かっていた。
オルドネウムはイレギュラーズが交戦中。ならば彼等に任せて別ルートで探ることが出来るのでは無いか。
迂回し、琉珂が先を案内する前に先取りするのも、偵察調査には必要だとそろそろと進んで行く。
「さて、鬼が出るか、竜が出るか」
「可愛いお嬢さん(ヒロイン)なんかはどうかしら?」
声がする。ファン・ドルドは驚いた様に顔を上げた。
バグだらけの体。無数のモザイクに包まれて、今にもエラーメッセージが吐き出されるかのように思わせる少女がそこには立っている。
「貴女は――」
エプロンドレスに色彩が抜け落ちた少女は「とっておきのワンダーランドだと、思わない?」とけらけらと笑って、ファン・ドルドの意識を刈り取った。
「今、ここで出会ったら困ってしまうの! だって、『不思議の国のお嬢さん』は此処には呼ばれていないはずだもの! ねえ、『お母様』!」
成否
成功
状態異常
第3章 第20節
システム:Error code――プレイヤーが『データ外』と接触しました。
R.O.Oは何時だって平穏だ。『システム管理者(かみさま)』はご機嫌模様でゲームを管理し続けて。
現実へと滲めど、この箱庭は何の変化も感じさせずに日常を謳歌する。
「なるほどなるほど、微睡竜のルートから外れると、『彼女』と遭遇するのですか。
……前回はご挨拶が出来ませんでしたからね。ご機嫌麗しゅう、ミズ・アリス?」
そう声を掛けたのはファン・ドルドであった。整ったかんばせに笑みを浮かべたファン・ドルドの後方から駆け寄ってきたのは濃紺の髪の少女である。
クエストデータ・ログを読み漁りファン・ドルドが接触した存在が異質である事に気付いたのだろう。
「お主はいつか相対した未召喚者! 共存するつもりはないぞ、ジェーン・ドゥ! 此度のお主は侵略者か? それとも迷い子か?
ここに現れたのは妾らを認識したお主との縁じゃろう。オルドネウムとやらが降参するまでじゃが……この妾が話相手となるのじゃ」
玲の指さした先には『ジェーン・ドゥ』と、嘗て観測されたある本の登場人物であった『異世界の少女』が立っている。
「ねえ、ピエロ。こう言う時って私はどういう顔をするべきか分からないのだけれど」
「ん~~~~ッ、良いですねェ。流石は主人公(アリス)!
何時だって堂々と笑っていれば良いじゃぁなァ~~~~~いですか! それが貴女の仕事でしょ?」
「あら、そういう言葉(くどきもんく)は彼女に言って差し上げなさいな。
ねえ、桃色のお姫様(プリンセス・ローズ)? 貴女には微笑んで居て欲しいそうよ?」
「……興味がありませんわよ。そのピエロには」
竜の領域――ネクストでの危険地帯。前人未踏の『未知』に存在するとは思えない茶番劇。
軽口を繰り返すは三者三様。
色付くのは水色のリボンだけ。ジェーン・ドゥの視線を受けて大笑いを見せたのは彼女とは対照的にカラフルな装いの『ピエロ』と呼ばれた男であった。
陽気な口調で口角を上げ笑った男の一瞥にそっぽを向いた美しい桃色の娘は宝石が如き輝きを纏うている。
「なんぞ……ジェーン・ドゥは友人が多いようなのじゃが?
友達は多い方が良い。うむ、それはその通り! なら友達になってやろうかの?」
「いや、なれないだろう」
肩を竦めたロードは亜竜姫との会話に虫潰し、微睡竜との交戦を経て、他にもイベントの取り溢しがないかと散策していたそうだ。
折角ならば死ぬまで散策するかと考えていたがこの異様な集団に出会ってしまったのだ。
「そもそも、だ。この女は何なんだ? 『赤い』」
ロードの呟きに玲は「見てはいけないと判断するべきかのう」と首を捻った。
「さあ、何でしょうね。通常のNPCではないのでしょう。貴女方は『管理側』ですか?」
「ですって。ピエロ。御免なさいね。私はこう言う時どういう風に答えるべきかが分からないの。お答え頂ける?」
「はは~~~~! ジェーン・ドゥ! それは責任の放棄と言うのではァッ!?
いいえ、いいですよ! 構いませんとも! ええ、ええ、こ~~~~んなに面白い機会はありませんとも!
お聞かせしましょう、御友人!
何と、西で皆さんとダンスをしようと此方のお嬢さんが準備をして居たのですよ! そして北ではァ?」
「素敵な歪んだ願い(Dark†Wish)に満ちあふれた世界を作りだけですわ。いけませんの?」
「いけなくはないでしょ。いいじゃない。ピエロはなにするの?」
「やぁねぇ! ジェーン・ドゥったら! えっちぃ~。あ、ダメダメ、怒らないでプリンセス!」
全く持って会話にならない。
好き勝手に会話を繰り返す三名を一先ずは此処で惹き付け『微睡竜』との戦闘への横槍を防ぐべきだろうか。
そもそも、彼女たちは此処で『密談』でもして居たと――?
「楽しそうじゃねぇか」
何者かの接近に気づきファン・ドルドが顔を上げる。
見遣れば翡翠の色彩を身に纏った新たなアバターだ。プレイヤーである事は見て取れるが誰であるかまでは認識できない。
「旦那(グシオン)に聞いて、お嬢(ボティス)に頼めば『面白れェ事』に参加することは叶ったがよ。
イレギュラーに重ねてのイレギュラーってのは俺様も予測はしてなかったぜ?
人生ってのは面白い事ばっかりだとは聞くけどよ。
……成程、仮想世界には理不尽ってのが付き物ってことか」
――さあ、俺様の好きにしな!
その言葉に、聞き覚えがある者も居た。嘗ての鉄帝国での戦闘に突如として乱入した自称・旅人の男。
彼の青年が口にした決め台詞。
「キール・エイラット……?」
ファン・ドルドの呟きに『謎のアバター』は応えぬまま楽しげに笑い声を上げた。
「俺様も混ぜろよ、管理者(かみさまもどき)。
ここは竜域、一番危なくて面白いところだろ。オマエ達の為、俺様の為、先に進む為の手助けってのも一興だ。
さて、オマエ等は俺様に何を教えてくれるんだ? 『世界の在り方』か?」
「いやね、お兄様? わたし達は石橋はハンマーで破壊して渡らない。……つまり尻尾を巻いて逃げさせて頂くわ!
わたしのお土産は置いていってあげる。せいぜい、オトモダチをおうちへ送り届けてさしあげて?」
ジェーン・ドゥがスカートを持ち上げれば、ずるりと飛び出したのは色彩の抜け落ちたワイバーン。
さて、『謎のアバター』に任せておいてもこの場は退けられるだろうが。
……共闘するのも一興か。
JOKERと成り得る『謎のアバター』の言うとおり、先に進めば彼の事を知れるだろう。
今はワイバーンを倒すだけで良い。そう顔を上げた玲の視界の先に『先程の可笑しな三人』は存在して居なかった。
成否
成功
第3章 第21節
「この場面でイレギュラー発生? ……戦力を分散させるのはまずいけど……仕方がない死に戻りの最中だし向こうに加勢するか」
そう呟いたΛが向かったのは『モノクロのワイバーン』の発生現場であった。自称・旅人の男――彼はどうにも名乗らないが、そのセリフからキール・エイラットであろうと推測されている――との共闘も行わねばならないだろう。
「成程ね」
男はからりと笑う。ロードは「情報量が多い!」と叫んだ。気付けば知らない四人が現われて賑やかに。追い打ちのようにワイバーンが現われた。
「急に出てきたやつにここを任せるのは癪だからな。所でお前何色?」
謎の男に問い掛ける迄も無い。彼は普通のアバターだ。それもプレイヤーなのだろうがどうにも正常導線からのログインでは無い事は推測される。
「ねーねーこっちにローレットじゃない人出たってほんと? パートさん? バイトさん? 派遣さん? ……不審者さんだ」
驚愕したようなすあまは「敵かなー? 味方かなー?」と首を捻った。取り敢えず白黒のワイバーンだけは倒しておくかと地を蹴った。
「不審者さんが味方なら、翼とかね、狙ってくれるとうれしいなー。何か強そうだし! ところで白黒なワイバーンて初めて見た!」
「ああ、良いぜ。俺様がオマエの指示を聞くなんてレア・ケースだ! 思い出に刻みな!」
軽口を交えた彼に「うんうん、『ランタンくん』!」とすあまは微笑んだ。
ランタンくんと、そう呼んだのはそのアバターがそうとしか思えなかったからだ。Λはすあま、ロード、そして『謎のアバター』との共闘でワイバーンを惹き付ける。
「向こうの状況をかき回すことになっても困るからね……ボクもこちらに介入させてもらうよ!」
「むこう……あっ、ねーねーそこの人、あっちでもっと大きな竜とも戦ってるよ。
こっち終わらせて遊びに行かない? 早く行かないときっともうすぐ終わっちゃうよ!」
微笑んだすあまに「悪くはねぇな!」と謎のアバターは微笑んだ。さて、ここからワイバーン戦は苛烈を極めるが勝利を収める。
――そして、ロードは死に戻ってから佐伯操に確認したが『ジェーン・ドゥ』は現時点ではイレギュラー的なバグである判断するしかないと伝えられた。
「……アバターとはいえ自分を食べさせるとは、豪気ですね。
我慢大会であれば、私達ほどしつこい相手もそういないでしょう。オルドネウムさんには少々同情します」
ハルツフィーネがまじまじと見て居たのは『動き回るきゅうり』の豪快なるアタックであった。
お馴染みのようにセイクリッドなくまさんを放ったのはオルドネウムだる。竜種相手には分が悪い。それでも、一撃一撃に確かな感覚を掴んだ来た頃にオルドネウムは言った。
『女!』
「呼び掛けが山賊みたいですが」
『我は名を知らぬからな! クマの女! クマはかわいいではないか!』
――褒められた、とハルツフィーネはぱちりと瞬いた。
「真剣勝負ではありますがテスト、でしょう。今回は早く降参した方が、お互いにとって利があると思いますが……早く解毒して欲しいです。
あ、いえ、まさか『解毒して貰うため』にクマさんを褒めましたか?」
『……』
――オルドネウムは応えない。どうやらそろそろ戦闘にも飽きが来ているのだろう。
ハルツフィーネの傍らから縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧がホニャホニャと呟いた。
「味方のねぇホニャホニャさんはぁできるだけ長くぅ、微睡竜を味わっていたいようだからぁ。
エイラもねぇ頑張ってぇホニャホニャさん守ってぇ長期戦、するよー? 出血ぅ長引かせるねぇ。基本的にはぁホニャホニャさんを庇うぅ~」
『あり がと』
エイラは「いいえぇ~」と微笑んだ。意思疎通を行う非戦スキル越しに縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧がオルドネウムを狙い続ける。
「そういえばぁ、ホニャホニャさんがぁ、美味しいものはなにかって聞いてたんだぁ。何があるのぉ」
『我のおやつだと琉珂が作った覇竜寝蚯蚓のスープだ』
「……ホニャホニャさん食べるぅ?」
食べるのだと頷いた縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧にそっかぁとエイラは微笑んだ。オルドネウムとの『我慢比べ』で少しでも長引かせれば良い。
ホニャホニャさんと呼んだ縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が生き残れるだけの『力』を与えてやれば良い。
「それじゃあ、がんばろうねぇ」
「クマさんも、いってらっしゃい――!」
オルドネウムへと一斉に飛びかかる攻撃を冷気が退ける。だが、それに続くのは無数のイレギュラーズであった。
成否
成功
状態異常
第3章 第22節
「うん? なんだか道を回り込んでいった人がいるみたいだけど……まぁ、いいか。
とにかく動きを止めて他の皆が削ったり根負けさせるのを支援するよ!」
スイッチがターゲットスコープを覗き込む。鱗が剥がれ落ち、根比べのフェーズへと移行したオルドネウムは憤るように凍て付く冷気で周囲を冷やし続けた。
「ふむ……どうやらまだ暴れたりない様子。であれば、それに付き合うのも一興という所でしょうか。
……自身の修練にもなりますし、さらなる高みを目指すと致しましょう」
沙月は静かに囁いた。距離を詰める沙月の一歩、それに併せるように飛び込んだのはイルミナだ。森は自身と相性が悪いのだとイルミナは認識して居る。
流石に木々を切り倒せばその物音でモンスターが襲来する可能性さえある。だが、声だくらいなら問題ない。竜退治だって良い土産話になる筈だ。
小細工はなし。全力で叩き付ける一撃にオルドネウムが驚愕したように身を捻った。
ならば、とその隙を付いた沙月は「疲れてきましたか? 手よりも口が良く回っていますが」と淡々と告げる。
『疲れては居らぬ!』
「本当かな?」
囁くスイッチは積み重ねるように。オルドネウムを狙い穿つ。胸の肉へと叩き込んだブーストダッシュ。推進力が勢い付けてオルドネウムの好きを皿に作り出す。
「諦める訳には参りません。必ずや認めさせてみせましょう。琉珂さんからのテストを投げ出す訳にはいきませんからね」
「ああ、そうだね。少しずつの積み重ねで敵の心を折るのも倒すのと同義だろうしね。
もう嫌だ! って言わせるまでは俺達は何度だって諦めないよ。さぁ、どんどん遊ぼうか。オルドネウム!」
スイッチと沙月は頷き合った。イルミナの小細工なしの一撃を受け止めるオルドネウムが立ち上がる。腹を護っていては行動にも影響が出たのだろう。
「もう! 流石にボスクラスは固いし強い……!
……ちょっと見えてきた、こいつ戦い終わったら疲れて眠いとか言い出すんでしょ。
起き抜けでこの動きかあ……あんまり長引かせすぎるとウォーミングアップが済んでほんきもーどとか言い出さないよね?」
グレイガーデンのその言葉に沙月とスイッチが鋭い視線をオルドネウムに投げかける。
『我は何時だって本気だ!』
「ちょっと見えたぞ。アイツは阿呆だ」
淡々と告げたスキャット・セプテットの言葉にふ、と笑ったのは崎守ナイト。彼自身はオルドネウムの事は嫌いでは無かった。
「ッチ! 流石にしぶといじゃねーの、微睡竜!
自宅警備員のわりに根性あるところは気に入ったぜ。子供だっていう事にはちょっと驚いたが、狼狽えてる暇はねぇ。
お前が泣くまで! 俺は! 殴るのをやめないっ!!」
――嫌いではないが、殴らないと入っていない。
これは泥仕合だ。スキャットひゃすっとメガホンを構えて良く在るセリフを口にした。
「大人しく投降しなさーい。故郷でご両親が泣いてるぞー」
『泣いてなどおらんわ!』
「真面目に返すのはかわいげがあるんだけどな……。
いや、分かっているのか微睡竜! 私達は何度でも奮い立つ。削られるだけのお前に勝ち目はないんだぞ!」
スキャットは果たして此のデスカウントが自身らにどの様な影響を及ぼすのかと不安にならないワケではないと囁いた。
ナイトは尻尾の動きに注意する。二度続けて振るわれる尾の動きは腹を庇うこと無く立ち上がったことで俊敏になっている。
だが、それは裏を返せば攻撃が積み重なった事による事であるとイズルは認識して居た。とどのつまり、この状態で『心を折れば』勝利なのだ。
「幼竜でありながら長く生きている……成程、所謂『合法ロリババア』というやつか。いや、性別は知らないのだけれど」
真顔でそう告げるイズルは九重ツルギを心配為ていた。彼の信頼は嬉しい。それでも、竜を前に支えきることは難しい。
「ボロボロになろうと、まだ戦い足りないとは。その粋や良し!
俺も武人です。強敵と戦う時間は至高にして泡沫。一秒でも長く戦い続けていたい……貴方もそう思っているなら、光栄です。
傷つくほど俺達は強くなる新たな一歩を踏み出せる! 行きますよ皆さん。全力で!」
彼がそうやって全力で走っていくならば。自分は支え続けたい。グレイガーデンの凍て付く冷気を遮る力だけではまだ足りない。
彼等が膝を突くその時を、出来るだけ永見がせる旅に自身は此処に居るのだから。
「社長! 尻尾が来る!」
グレイガーデンに「OK!」と叫んだナイトが尾を避ける。一寸の隙、尾を振るったことで首の向きが尾へと向いたのは確かだ。
その隙を見逃さぬようにその身をするりと滑り込ませたツルギが「ここです!」と叫ぶ。
ツルギは至近距離へと飛び込んだ。肉を断つ。オルドネウムに消えぬ傷を刻みつけるが如く。獰猛な獣のように飛び込んで。
――さぁ、貴方の本性(なかみ)、ブチまけて戴きますよ!!
成否
成功
状態異常
第3章 第23節
「残念、冷やしドラゴン始められなかったかー。まだまだ料理の道は遠いねスティるん、うんうん」
「冷やしドラゴンって一体!?」
エイル・サカヅキの言葉に『ががーん』としたスティア。料理の道って険しいねと息を飲んだ彼女に「料理の道……?」と首を捻ったのはアレクシアだ。
「それって、食べられるのかしら、ドラゴンって……」
「料理だしね……?」
不思議そうな顔をした吹雪にアレクシアも頭を悩ませる――が、「待ってよ、オトモダチを料理にしちゃ駄目だろ」と叫んだのはシラスであった。
タフな相手であるのは確かだ。それでも、立ち上がり、傷を浴びて息切れしているのは確かだ。
余裕綽々に微睡みの縁に有り、此方に見向きもしなかったときとは大きく違う。ゾンビアタックをし続けて『眠りを妨げた』事でオルドネウムに変化をもたらしたのは確かであろうとCyberGhostは感じていた。
オルドネウムは起き上がり、暴れ始めている。それでも目が覚めて対話を繰り返してくるその様子を眺めるだけで眠ることを諦めた事が見て取れた。つまり――彼がもう一度寝るためには『妨害』を退けるか降参しなくてはならないと認識させられたのだ。
「さて、バッドステータスは長期戦に向いたものだが、俺が死んだ後もステータスは継続しているのかね。
継続しているならDoTダメージが入り続けるからいいんだが、もし死んだら解消なんて使用だったら面倒だな」
「大丈夫、聞いてるわ! だって、うさてゃん達の事を直ぐに忘れちゃうなんて寂しいでしょ?
アイドルは皆の心に何時までも残り続けるの。もちろん、その心に刻みつけた思い出(DoT)も!」
三月うさぎてゃんの微笑みにCyberGhostは違いないと呟いた。
「どうせなら、もう一度眠らせられるようなスキルをプログラミングしてくるんだったか」
「うさてゃんもあなたの為のオリジナルソングを用意してこれば良かったわ?」
くすくすと笑った三月うさぎてゃん。大切なのは我慢比べ、根比べ、そして最期まで気を抜かずにやりきることだと知っている。
暑くても寒くても、2-3時間以上もライブをしてアンコールにも応える。ファンサもバッチリ。それがアイドルなのだから。
動けなくても、声が枯れたって。その想いを伝えるべく、三月うさぎてゃんの声は伸び上がる。
『ねぇ、ファン(アリス)たち! 勿論オルドネウムさんも!
今まで以上に魅せてあげるから目、話しちゃダメだよ! 死んでもダメ、最後まで私に魅せられて』
アイドルに手を振ったエイルは「やばたにえん! アイドルに応援されてんじゃん?」と微笑んだ。
「とりま、そろそろリュカるんもさ、待ちくたびれちゃうじゃん? ダチを待ち呆けさせる訳にはいかないっつーこと!
オジサマとやらが歓迎パーティーの準備してくれてるかもだしね、ゴン攻めからで飛ばしてこ!」
「確かに暇しちゃってるかも? なら探り合いは終わりってことで一気に勝負を決めないとね!」
エイルのその言葉に頷いたのはスティア。アレクシアは「ケリをつけよう!」と頷き、吹雪の銀世界が周囲に広がった。
「お揃いね、あなたの氷と私の氷。何方が強いかしら?」
微笑んだ吹雪の氷槍が真っ直ぐに突き刺さる。オルドネウムが視線を上げて攻撃を仕掛けようとした刹那、
「オルドネウム、知ってるか? 帽子の中に入ってる動物はなーんだ?」
シラスは突如として謎かけをした。
子供であるという竜のその好奇心を探ったのだ。子供向けのなぞなぞに乗ってくる可能性だってある。竜はそうしたものが好きである可能性さえも。
『―――』
「やるじゃん!」
エイルにスティアは声なく頷き、懐へと飛び込んだ。
「答えは牛だ! じゃあ、パンはパンでも食べられないパンは?」
『――――待て!』
オルドネウムの声にぴたりとアレクシアが止る。懐に飛び込んだが突如として姿勢を変えたオルドネウムを警戒してのことだ。
『どうして牛なのだ!』
成程、それに気を取られているならば。シラスが「どうしてだと思う?」と問い掛け意識を向けさせている内に。
アレクシアが一撃を放つ。桃色の光に食い込んだ穿つ一撃。
「チクっとするよ!」
『むん!』
ぶん、と尾が振り回される。その尾を避けるべく、スティアが後方へと下がり、三月うさぎてゃんの歌声が響き渡った。
その音色に導かれるように吹雪がもう一度と槍を振りかざした。エイルはエグい一撃をとりまブチこんで笑みを溢す。
オルドネウムの逆鱗の位置へと滑り込んだアレクシアが「スティアくん!」と叫んだその声に、スティアは「喰らえー!」と声を荒げた。
「必殺の月下氷刃! 私達の絆の一撃だー! 余力は残さず、この一撃に全ての力を乗せるんだ!」
「――喰らえ我等友情永遠不滅マジ卍アターック!」
オルドネムがずん、と音を立てる。
『まだだ! 負けてないぞ!』
ああ、負けず嫌いは――何とも面倒くさい!
成否
成功
第3章 第24節
『負けてない――!』
その声にルフラン・アントルメはパワー勝負で我慢比べ。成程、この幼竜を『ギャフン』とさせるには後少しだと認識する。
「みんなすごい。いい感じに戦えてる! きっとあとひと踏ん張りよ! そろそろ参ったって言ってくれたら嬉しいなぁ……!」
タイムにルフランはこくりと頷いた。『天下の黒狼隊』はこんな事では挫けない。
「れならあたし達だって負けないよ、だってこちとら天下の黒狼隊じゃー!
かみさまとかねこ神さまとかあの伝説の(?)ストームナイトさんもついてるし、団結力と根性は人一倍!」
伝説の(?)と称された白銀の騎士ストームナイトの唇に笑みが乗せられる。タフにはタフだがリヴァイアサンよりはマシである。それでも竜は竜。――それで諦められるほどイレギュラーズは弱くはない。すでに竜を乗り越えてきたのだから!
「強き竜、微睡竜オルドネウムよ! 貴殿の力に敬意を表す! その上で、我々は貴殿を越え、先に進ませていただく!
我らの力、覚悟、どうかその身、その心にて理解されたく!! ゆくぞ皆! 黒狼の牙、今こそ竜の首を食いちぎらん!」
先頭で剣をぴかりと輝かせたストームナイトに「わー」とルフランとタイムが囃し立てる。
その傍らで先程までは厳かな輝きを帯びていた神様がぎゃあと叫んだ。
「えっ嘘まだ存命ですかァ――ッ! しつけぇ~! 神様とか神通力及ばなさすぎてもうヤメヤメ。
ゲームって言うから気楽にやってたけど、そうだコレでっかく言って依頼だわ。うおークソゲーやってらんねー!」
先程までの神様の姿をかなぐり捨てて神様は真モードへと到った。詰まりは殻なんて捨てて掛って来いよモードである。
神様がクソゲーと叫ぶ傍らで表情を変えないねこ神さまはスンッとした表情で首を傾いで。
「ねこです。よろしくおねがいします。いよいよ正念場でしょうか?
弱点の逆鱗を抉られた後も相当動いてます。途方もないスタミナですね。
生物として別格とされている理由もわかりますね。しかしながら、傷つき、その影響を少なからず受けるのであれば……!」
そしてあの負け惜しみのような一言に確かな希望を見出した。ベネディクト・ファブニルはマークを振り返る。
「竜が相手とて、臆してはいられん。全員、続け! 俺達の力を今一度竜に教えてやろう!」
「そうだね。効いている筈……なら、これまでとやることは同じ。どこまでも愚直に、黒狼隊の意地を通す!」
マークとベネディクトのもとへとオルドネウムの牙が迫る。相手も形振り構ってはいないという事か。
『負けてはおらぬ――!』
ぐぱりと口を開いて迫りくる竜への逆鱗はがら空きだ。それだけ危機に迫ったか。
ならば、とベネディクトはマークを振り返る。
相手は竜だ。獣ではない。だからこそ、ベネディクトに狙いを定めて迫り来ているのならば――作戦は簡単だ。
「僕だ!」
マークは飛び込んだ。
「10秒、20秒……もう少し稼げるかな。今は僕が、黒狼隊の盾になる!」
ぐう、と腕を力を込めたマルクの背後から黒ねこさんが飛び付いた。
「オルドネウムさん、気付いていますか?
貴方が奮戦し、ねこたちの体を打ち砕き、踏み潰し、噛み砕き、凍え砕いたとしても、ねこ達は復活を果たし戦線に復帰します。
この戦いは、オルドネウムさんが倒れるまで続きます。
そして、ねこ達は決して諦めません。どうです? そろそろ矛を収めてみませんか?」
『これで諦めては竜が廃るではないか――!』
「それは確かに」
ねこ神さまが首を傾げる。トルテは「危険だぞ、ミルフィーユ」と名を呼んだ。
「無茶するなよ? 目の前でミルフィーユが傷つくのは、できれば見たくないからな」
「ん…トルテさんも、うちを助けるために無茶するのは良くないのです」
頬を膨らませるミルフィーユにとって自身を庇ってデスカウントを増やしたトルテは『何てことをしたのだ』と非難がましく見遣る対象である。
拗ねきったミルフィーユにトルテは肩を竦めた。目の前で死んで欲しくない、なんて真っ正面から言っても伝わらない。
「大人しく庇われておけばいいんだよ。実際に死ぬわけじゃねーし」
「庇ったくれたのは嬉しいのです……けど、うちもトルテさんが傷つくのはあまり見たくないのです」
『フグ』みたいな頬をぷしゅーと掴んで空気を抜いたトルテにミルフィーユは「ぴえー」と呟いた。
「じゃあ目でも閉じてればいいさ。そろそろいくぞ」
「あー! うちも向かうのですー!」
だからこそ、二人の目標は死なないことだった。大詰め。マークが耐える間にベネディクトが攻撃を重ねる。その戦線へと参加する。
「無茶をするなよ」
「わかってるのです!」
トルテとミルフィーユは互いが互いを思いやる。
そんな二人よりも尚も前に、勢いよく飛び込んだのはリュティス。
「そろそろ疲れてきてもいい頃合いですが……誰かさんのように元気は有り余っているのでしょうか?
とはいえ、強さは段違いですね。比較するのは失礼というもの。油断無きように努めてまいりましょう」
リュティスの言葉に「誰のことですかー!?」とひめにゃこがぐるんと顔を向けた、だが、リュティスはしれっとした態度である。
「ふふ、仲良きことは良いことですが――」
「ひめ達の事いいました? ですがさすがに色々解ってきましたよ! 結構コイツ習性がよく知る誰かに似てる気がします!」
びしっと指さしたひめにゃこ曰く『もっとよく知る誰か』に似ているのだ。現場・ネイコは良いのか悪いのかと肩を竦める。
「弱点狙ってドンドン攻撃してたのに倒れないとかホントに凄い体力だねっ!?
気持ち的には3度目の正直って言いたいところだけど、貴方が参ったって言うまで絶対にあきらめないんだからっ!」
三度目。だからこそ、これを三度目の正直にしたい。
「……ダメージは目に見えてきちんと積み重なっている。
リヴァイアサンはまるでそんな感じもしなかったものですが、あれと比べれば竜種といえども『生物である』と視て解るだけで安心を覚えるものですね
もう一息かは兎も角……今はただ、畳みかけるのみです。まだまだ。――道を開けていただけるまでは、終わりませんよ」
シャスティアは果たして何処まで続くのか。竜種とはどこまで耐えきれる者なのかと知的好奇心を満たすように其れを相手にしていた。
ああ、だが、この竜は幼体であるだけあって『そろそろ』倒しきれる可能性までもある。
「竜からすれば所詮は小さき者でしょうが――甘く見ない事です」
精神的に、追い詰められている。何度だって繰り返される攻撃に耐えきれないのかも知れない。
彼等は永きを生きる。だが、オルドネウムはリヴァイアサンの寸分さえ生きていないのだろう。
「閃光なんて一瞬すぎて 来るって分かってると 実際光らなくても牽制になるっしょ?」
オルドネウムの尾が二度叩き付けられる。シャスティアを庇う神様は「コレばっかりはどうしてもね うん」とその身を投じた。
見過ごせないからこそ、其れを受け止める。目映い光は牽制の如く、眼前で放てば神様は其れを耐えきるように身を固くする。
「閃光なんて一瞬すぎて 来るって分かってると 実際光らなくても牽制になるっしょ?」
ぐん、とその傍らから飛び出したタイムは後は力と力のぶつかり合い。竜からの攻撃に耐えて一撃でも永くと乞うた。
「回復はお願いね! ルフランさん!」
「おっけータイムさん、その代わりすごいぱんちよろしくね!」
目の前をちょこちょこと八の字に動き回るルフランはタイムを支援し続ける。
オルドネウムがぎゅうと目を瞑った瞬間に、その横面に向かって拳を叩き付けた。
「そろそろ微睡竜さん、疲れてきません? ひめ達、ここ通れる様になるまで諦めるつもりはないので!
貴方の強さは十分解りましたし、そろそろ止めるのも無駄って気づいてください!」
ひめにゃこに「いいこという!」とネイコは微笑んだ。
「皆の想いを一つに束ね、黒き狼の勝利の牙を突き立てる! ――勝つのは、私達だっ!」
重なる攻撃に、ストームナイトは真っ直ぐに剣を振りかざす。
「そして必殺・ゴッドストームラッシュ! ――我が剣技のすべてを今ここに!」
その全てを叩き付ける。その全てを重ねるように。
ストームナイトに頷いたルフランは皆の全開を届けるために回復を送り「行って!」と叫んだ。
ネイコのプリンセスストライクが光と共にオルドネウムの声さえも遮った。倒れた竜種にむけて、ねこ神さまとミルフィーユが攻撃を重ねる。
危機を察知し、声掛けたシャスティアにトルテが一度後退する。支えるマークが膝を突く。
「――OK! このままやって! リュカさん!」
タイムの声に応えたのはリュカ。
「よぉ、オルドネウム。1つ聞きてえ事があるんだがよ。この戦いに勝ったら、俺はアンタのダチになる資格はあるか?」
リュカ・ファブニルの問い掛けにオルドネウムはふんと笑った。
『可笑しな事を聞く』
「……どういう意味だ?」
リュカはオルドネウムをまじまじと見遣った。まだ負けてはいないと叫んだ幼竜。拗ねたようなその竜は『もはや友人ではないのか』と首を傾ぐ。
ああ、その言葉を待っていた。死に戻ってトライするなんてズルであろうに、それでもこの竜はそれでいいというのか。
「今はまだ無理だが……また会いに行くぜ。今度はルカ・ガンビーノでな! 混沌で眠るアンタのダチになるために!」
その為だ。
右手がブチ折れたから如何したって言うんだ。左足が吹き飛んだからって何だ。
そんなこと、やり直しが聞くならばなんだって良いだろう。
リュカは飛び込んだ――
「コイツが! 今の俺の! 最強の拳だぁぁああああ!!」
――オルドネウムの横面を一気に殴りつけて!
成否
成功
状態異常
第3章 第25節
「さて。おねむとの戦いもいよいよ佳境か。
我慢比べという事ならば、座標の方が圧倒的に有利にはなるだろうが。それではあまりに面白みがない。
何より今となっては子供相手にイカサマしているようで心が痛む」
そう肩を竦めた真読・流雨にアカネは小さく笑った。根比べでこちらだけコンテニューというのは『ズル』かもしれなかった。
それでも相手が竜であるならば、ズル位は赦してくれるはずなのだ。
「さて! とはいえ遣ることは変わりなく! ……と言いますか、もしもし? もう『降参』ですか?」
『ぐぬぬ……』
何とも可愛らしい竜であるとアカネは小さく笑った。皆の攻撃を十全に届けるために今まで立ち回ってきた。
それはハンデ戦のようだと感じていた流雨も同じだ。
「もう眠り給え。良い子はおやすみの時間だ。なに、君の保護者やオトモダチには僕から旨く言っておくさ」
『ぐぬ……』
呻いたオルドネウムにルージュはにんまりと微笑んだ。「じゃあ、オルドネウム。これが最後の我慢比べだぜ!!」と宣言し愛の力で動きが鈍くなったオルドネウムの顎をかち上げる。
「いっくぜーーー! これでお、わ、り、だ!」
叩き付ければオルドネウムの躯がぐらぐらと揺れた。其の儘、その躯が倒れ伏せてゆく。
アカネは「あら、降参ですか?」とオルドネウムに視線を合わせて問い掛けた。
『……降参だ。煮るなり焼くなりなんなりするがいい。
テストだと言われてきただけならば我の鱗を持って琉珂の所に行けば良いだろう。それでクリアだと見做されるだろうよ』
ぶつくさと呟いたオルドネウムに流雨は「持って行っても構わないのか。薄桃の綺麗な鱗だな」と声を掛ける。
拗ね返ったオルドネウム。
最初は殺すつもりで挑んだがその様子を眺めていれば殺す事を厭うたイレギュラーズ達。
幼竜とはこれからも交流は出来そうだとルージュは花咲くように微笑んでその薄桃色の体を撫でた。
毒が巡り、疵だらけとなったオルドネウムの治療は勝利を宣言して鱗を頂いた後にしっかりと行ってやろう。
「これで苦しいのは治るはずだぜ、怪我は少しまってくれよな。……んじゃ今からオルドネウムの事は『オルにー』って呼ぶなー」
『……丁重に治療して遣ってくれ』
そんな物言いのオルドネウムに「おねむを丁重に扱ってきたが。これ以上か」と流雨は眠たげなオルドネウムの頭を撫でたのだった。
成否
成功
GMコメント
●目的
『竜の領域』クエストクリア
・『竜の領域』クエストクリア場所までの到達
・『竜の領域』にて『****』『***』との謁見を行う事
フォルデルマン二世からの紹介状(クエスト)で訪れることが可能となった領域です。
現実世界では踏み入れていない『覇竜領域デザストル』をネクスト風に変化させた領域である事が推定されます。
伝承王国としての政治的な意味合いは絡みません。あくまでも『冒険』エリアが拡張されたと捉えて下さい。
●当シナリオは
『サクラメントでのリスポーン前提』のラリーシナリオとなります。
ネクスト2.0パッチを受けて冠題にもされたパッチメインストーリー『竜の領域』の踏破を目指します。
皆さんは当ラリーの終了まで何度でも参加する事が可能です。本ラリーに限っては『危険領域』である事からある程度のリスポーン・リトライを推奨します。
・ある一定数の情報、もしくは『各エリア』クリアフラグ達成で章が変更されます。
・クエストクリアまで、のんびりと進行してゆきますので当たって砕けろの精神で様々な行動を行ってみて下さい。
・前述通り『簡単に死にます』。竜種だけではなく亜竜、モンスターも他域の数倍強敵です。心して挑んで下さい。
・参加時の注意事項
『同行者』が居る場合は【チーム名(チーム人数)】or【キャラ(ID)】をプレイング冒頭にご記載下さい。
ソロ参加の場合は指定はなくて大丈夫です。同行者の指定記載がなされない場合は単独参加であると判断されます。
※チーム人数については迷子対策です。必ずチーム人数確定後にご参加下さい。
※ラリー相談掲示板も適宜ご利用下さい。
※やむを得ずプレイングが失効してしまった場合は再度のプレイングを歓迎しております。
●情報精度
このシナリオの情報精度は『未定義』です。
覇竜観測所より随時送信される《行動予測》《観測情報》は皆さんに随時(章変更ごとに冒頭に)『ある程度の予測』を与え行動の指針を齎します。
ですが、彼女たちは観測しているだけです。無いよりマシと捉えて下さい。
●重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
当シナリオに置いては『リスポーンを前提に探索を行う』事を念頭に置いて下さい。
●フィールド『竜の領域』
現実世界では覇竜領域デザストルに該当する区域です。混沌大陸南方の山脈に拠点を置く竜種の領域です。
情報は少なく、観測情報は余り多くありません。幾つか覇竜観測所による観測地域があります。
・ヴァンジャンス岩山
入り口に当たる険しい岩山ですです。岩肌を曝け出した険しい山が続いています。
草木は茂らず、ラサの砂漠地帯よりも荒廃とした雰囲気が感じられます。
亜竜種やモンスターが多く存在します。竜種で無いからと甘く見てはいけません。モンスターそのものも脅威です。
詳細不明。
・デポトワール渓谷
モンスターの死骸が落ちている渓谷です。ミロン曰く此の地は観測上、凶暴なモンスターが多いとされています。
詳細不明。
・ピュニシオンの森
ヴァンジャンス及びデポとワールを抜けた先に存在して居ると思われる森です。モンスターの根城となっており上空より偵察可能な岩山よりも危険な領域となります。
全方位に注意して下さい。この地点に到着した時点で『拠点用サクラメント』が設置されます。
詳細不明。
・???
詳細不明。
ピュニシオンの森の奥地に存在するエリアです。現在はマップにも開示されていません――
●覇竜観測所
覇竜及び竜種を研究するために覇竜領域付近に建てられた研究所です。大陸各国の連名で設立され、多額の補助金が出ています。
立場は中立であり、竜種を観測(めったに姿を見せない)するという職務上、閑職気味の場所であると認識されています。
所長ティーナ・エルヴァスティンを中心に、竜種に関しての観測を行っています。
所員『アウラ・グレーシス』による行動予測と『ミロン・メレフ』の観測情報が都度皆さんのマップに表示されます。
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