シナリオ詳細
<Rw Nw Prt M Hrw>Carpe diem
オープニング
●
かつてこの地は神秘に溢れていたのかもしれない。
輝くクリスタル。広大なる空間……
煌めく光景はまるで黄金郷の様で――だからこそこの地は幾度か『悪意』に狙われた。
盗賊。奴隷商。或いは魔物。
いずれにとっても魅力的な地であった。
クリスタルの輝きは人の目を眩ませ、込められし神秘は魔物達にとって極上の餌の様……
しかしそのほとんどは大精霊ファルベリヒトによって打ち倒された。
守り神としても崇められるかの大精霊の力は群を抜いており、悪意を退け続けたのだ。
盗賊であろうと魔物であろうと。
『コ……ガガ、ガァ……』
――その終焉に至る日が訪れるまでは。
あの日。『恐ろしい伝承の魔物』だけは別だった。
ファルベリヒトと壮絶な争いを繰り広げ……やがて光彩の力は粉々に。
砕け、それが色宝として各地に残る事になる。
大精霊を失った民はやがてイヴの様に守護者として残る者と、パサジール・ルメスとして外へと旅に出る者に別れた訳だが……しかし誰も忘れなかった。
あの日の恐ろしい光景を。伝承の魔物の――力を。
『ギィィィィィ、ガ、ガガ、ゴ……!!』
蘇る。
ホルスの子供達――『博士』が作りし錬金術の作品の一角として、今。
色宝による補佐もあってかつての姿を取り戻さんとしている一個体が其処にあった。
悪意が纏まっていく。その身に、その入れ物に。
かつてこの地を滅ぼしかけた……伝承たる魔物の概念。
天に吼えるは生への歓喜か、それとも意味無き獣の遠吠えか。
――いずれにせよソレは動き出した。身体の各所が蕩けながらも、強引に。
その姿……なんと形容したものだろうか。まるで巨人の様に見えなくもないが……溶けている様子もそうなのだろうか。それも含めこれが奴の本来の姿なのか、或いは色宝が足りず半端に顕現してしまったが故か……それは分からない。
確実なのは奴の出現に伴って、周辺の魔物達も追随する様に動き始めた事だ。
まるで――地上を目指すかのように。
あぁ、あぁ。このような狭苦しい所など御免だとばかりに。
かつて己を封じ込めた全てを――恨むかのように。
「なんじゃありゃあ……なんでこっち向かってくるんだ、馬鹿じゃねぇの……」
その様を眺めているのはエドガーバッハ・イクスィス。
レアンカルナシオンなる組織に属する人物である。
蒼き髪を靡かせる彼女……いや厳密には『彼』はげんなりしていた。彼らはここにホルスの子供達の奪取――或いはそれらを作り出した『博士』の技術か、身柄そのものを拘束するつもりでここにやってきたのだ。
が、その心算でやってきてみれば前には大量の敵。
目標たるホルスの子供達は多くいるのだが……それだけではない。見えるだけでも錬金術によって作り出された使い魔――あるいは魔物と言うに近い者達も大量にいる。あれはなんだ? ラミアに蠍にコカトリスに……おぉ巨大なバジリスクみたいなのもいるぞ。
「やっぱ帰るか。あんな数を相手にするのだるくてだるくて仕方ねーんだけど」
「言い出しっぺはお前だろうが」
「うひゃー沢山来たね。凄いねアレは」
近くにいるのはカーバックと槍を携えしアルハンドラ。
双方とも同じくレアンカルナシオンの一員だ。カーバックに関しては大鴉盗賊団の一員として活動していた者でもあるのだが……その実態は此方の方が『真』であり。
「あの一番デカいのがまずいな。あれは恐らく……伝承の魔物だ」
「んぁ? なんだそれ」
「かつてファルベリヒトと争った魔物だ。かつて栄えたこの地が遺跡として滅びる事になった原因でもある……別に私もハッキリと姿を知っている訳ではないが、恐らくソレを再現した個体だろう。あれもホルスの子供達だろうな」
言うはカーバック。遠目に見える存在に吐息を一つ吐きながら――
顔に浮かばせるのはなんとも哀愁。
あれはファルベリヒトが眠りに付く原因となった存在――だ。多分だが。
それにまさか会う事になるとは……なんとも……
「さて、どうしたものかな。ここを突破せねば『博士』所ではないぞ」
「エドガーのバッカ君の力でピューンって飛べないの?」
「知らねー所に『跳ぶ』のは難易度が高すぎるんだよ」
雑談の様に話している。
……此処にいるのは彼ら三人。力量の程は知れないが、あの数全て相手取れるとは思えない。
だというのに緊張感もなく話している――その理由は。
「まぁ、いい。こんな事もあろうかと手は打っておいた」
カーバックにある。
「以前の折に『頼れ』と言われたのでな、そうさせてもらっている。
――ここの位置をイレギュラーズ達に示しておいた」
「はっ?」
「奴らにとっても最深部へと至る道の情報は欲しい所だろう。どうせラサ商会からの依頼で、大きな戦力が動いているだろうしな。奴らが動いている最中に……我々も動くとしよう」
見据える後ろ。そこには、前面に見えるホルスの子供達の軍団とは異なる影が。
人だ。それはローレットのイレギュラーズ達。
『博士』の目的を阻まんと進んできた――英雄達である。
●
「さぁ皆さん! ついに来ましたよ、ファルベライズ遺跡中枢部です!!」
元気よく言うはリリファ・ローレンツ(p3p000042)だ。
先日、ファルベライズ遺跡の最深部へと辿り着いたイレギュラーズ達が奥より出でたファルベリヒト――実態は『博士』だが――の姿を目撃した。同時に禍々しい気配と共にホルスの子供達や錬金モンスター達に動きがある事も……
色宝を悪用し、研究を重ねていた『博士』はホルスの子供達を用いて死者蘇生まがいの成果を今や地上に引きずり出さんとしている。これらの動きを許す訳にはいかないと――ラサ商会より依頼を受けたローレットは大規模に行動を開始。
最深部への道。『博士』を討伐すべく突き進んでいたのだ。
しかし――その途上で見えたのは――巨大な人型の『ホルスの子供』――
「ぎゃあああ、な、なんですかねアレ!! 月原さーん!!」
「めっちゃでけぇな(リリファと違って)……おいおいあんなのが地上に出たらやばいぞ」
言うはリリファの横に立っている月原・亮(p3n000006)である。
ここから見ても禍々しい気配の伝わる奴だと……されど退く訳にもいかない。リリファの前に一歩立って。
「ううっ! 情報によるとこの先に最深部へ繋がる道があるみたいなんですよ! でもって今更ここを引き返す事なんて出来はしませんし……奴らを放ってもおけません。ここで迎え撃つしかないですね……!」
「――やれやれ。カーバックの野郎、さてはこういう事態を想定していやがったな?」
武者震いに震えるリリファ。その横で独り言ちるのはルカ・ガンビーノだ。
ファルベライズ遺跡における探索の中で何度か邂逅したカーバック。奴に対してルカは言っていた――『ローレットを頼ったらどうだ?』と。その言葉を真実頼りにしたかは知らないが……彼宛てにファルベライズ遺跡の道の情報が届いたのは、先日の事だった。
しかしこれは何とも大物を当てに来たものである。
かつて大精霊と相打った魔物。
それの討伐を任せるとばかりに。
「まぁいいさ。やるだけやってやろうじゃねぇか……!」
どうせ近くにいるのだろう? とルカは思考する。
カーバック達は味方ではない。レアンカルナシオンという組織は旅人を狙ってくる団体であり……危険な面がある。以前邂逅した時は争いこそしなかったし、幹部以上は『旅人を狙っているのは建前』という意味深な発言もあったが……いずれにせよ油断は出来ない。
ホルスの子供達は倒す。カーバック達がいるなら臨機応変な動きが必要か。奴らが敵対してくるか、それとも……
迫る敵の軍勢。
今、戦いが始まろうとしていた――
- <Rw Nw Prt M Hrw>Carpe diem完了
- GM名茶零四
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年02月24日 22時10分
- 参加人数100/100人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 100 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(100人)
リプレイ
●
――光あれと、かつての世では願われた。
大精霊ファルベリヒトの威光に従い。かの者が齎す光を称えて。
だが今やその光で満ちていた地は、醜悪なる魔物が跋扈する世界。
「すごい光景でございます……
ですがまだ連中は地上には出ておらず、今ならば大きな被害は止められる筈」
眼前。憂が眺める先に広がっているのは敵の波だ。
博士なる者によって作られた錬金術の産物たちが押し寄せてくる――
一体どれ程の数がいるというのか。されど退くわけにはいかない。
「参るのであります……! いざやこの戦いの果てに終わりがあると願って!」
名乗り上げる様に彼は往く。
自らが最前線にて立ち回る事で味方への害を減らすのだ――魔物の拳を躱し、凌いで。
皆が少しでも長く戦えるようにと。
「さぁさぁ当たるも八卦当たらぬも八卦! しかして当てていくのがこの鹿ノ子ッスよ!
恐れぬのならば――前に出てきてみろッス!!」
直後。憂の引き付けた魔物達へと斬りかかるのは鹿ノ子だ。
彼女もまた舞う様に。敵らの視線を釘づける様に――往く。
されど見惚れれば次なる瞬間には斬たる一撃。開いた傷口があらば、そこより侵食する狂気が――跳ね廻る兎の如く。
月に魅入られ命散らす。二度目はより深く。三度目は更に深く!
深淵に至る程に、より激しき狂気を――魂に刻み込んでやるのだ。
「オォ……何と言う恐ろしき魔物達。博士により生み出されし、本来あり得べからざる命共……! 絶対に、この、遺跡の外に出す訳にはいきません……! 穴倉にて終焉を迎えるのですッ!」
「ハッ! 要はこの化け物ども、片っ端からぶっ潰しゃいいんだよな。
いいねぇ……分かりやすくていい! ごちゃごちゃした事は、他の時に考えりゃいいのさ!」
当然その動きを支援する者らも続く。己が身の再生を重点させつつビジュは並み居る魔物を押し止め、トキノエはその後ろから全霊たる一撃を。
幸いにして敵の『向こう側』に味方はいない。敵・敵・敵……敵だらけだ。
故に全力を。無限に湧こうと片っ端から潰してくれよう!
同時にビジュの叫びが天を突く。己が身は化物に近い形なれど――それでも。
この汚れた手でも救えるものがあるのなら盾と成り続けるのだ。
硬き意志。尊き決意が彼に力を。傷を負おうと敗れぬ力を!
「わわっ、凄い数だなぁ……皆の力に成れるように後ろから頑張るね。べ、別に直接戦うのが嫌って訳じゃないんだからね。その気になればこんな数なんてすぐに倒せるんだからね……! ほ、本当ダヨ」
「ほんに敵もぎょうさんおるみたいやねぇ。ま、やれることを手伝わせてもらうわぁ」
そんな彼らを援護する様に。クリスハイトと胡蝶は治癒の術を奮戦する者らへと。
戦況を視つつ適時動くのだ。敵の数が優勢であれば、崩れた所から呑まれるやもしれぬ。
――故に多くの者らを癒す。
そんな彼女らだからこそ敵に狙われる事もあれど、それでも力の限り。
「なんだか精霊さんたち、ざわざわだね。でも大丈夫!
みんなで元気になろうね!! 応援してるよ!」
そしてマナもまた周囲の者らの支援を。
優れた魔力の循環能力があれば幾度となく治癒を紡ぐことが可能だ――負を齎されれば打ち消し、活力が弱っている者があれば鼓舞を。己が元気を分け与えるが如く……声を張って。
「ま~た大変なご依頼っすねぇ~なんすかこの砂漠の奥から出てくる連中は!」
ボーナス弾んでくださいっすよ! と述べながら敵を打ちのめすのは千種だ。
奴らに肉薄するが如く近寄り、一撃。敵の塊を見据えればそこに跳び込んで全てを穿ちて。
「どこ見てるんすかぁ! 余所にはいかせないっすよ!!」
仲間を巻き込まないように気を付けつつ、千種は薙いでいく。
周囲に注意を向けながら。あまりに深追いし、孤立する事はないように――しながら。
「錬金術……か。懐かしい響きである。まさかこのような砂漠の地で再び耳にしようとは」
続くはダーク=アイの声。ああ――錬金術。
かつてはアイも『そう』だった。錬金術の秘儀を追い求め、そして奪われた――存在。
理想に焼かれたイカロスの如く。……何、何。今更か。
「今はその者の『成果物』を撃滅せしめるのが先であるな」
どうせ。
禁忌に手を染めた者は、いずれ然るべき報いを受けるのだ。
通った者は確信している。故に今は――奴らを殲滅せんと、その眼から魔砲の一閃。
お前達に罪はないが。しかし滅びよ。
「よくこれだけの数を作ったのよ……暇人なのかしら『博士』って」
更にリーゼロッテの雷撃もまた一つ。それは地を舐める蛇の如く。
錬金モンスターの数々……見据えれば出てくる吐息は呆れか感心か……いずれにしても死者やら魔物の姿やら――
「悪趣味すぎてぜーっったいに話が合う気がしないのよ!! さぁ行くわよ皆!! というか行って! 休んでる暇はないのよ! 頑張って! わたしの代わりに!! せいや――!!」
だから打ち倒そう。博士の陰謀を。
雷撃を放ち、癒しの手が足りねば周囲を囃し立て治癒を放ちて。
「TKRy・Ry……! こんな程度で錬金術とは片腹痛い! 我が完全なる科学の前ではそのような不完全な存在は無力なのだ!! 身の程を知るがいい、無為なる錬金術よ!!」
「錬金術も科学も盲目白痴たる私にはよく分かりませんが、ただ一つ言えることは……眼前の貴方達は我々には勝てない……z……破滅の為だけに生み出された道具に成せることは……zz……なく、ただそれだけです……zz……z……」
寝るなー! アザード――!! 萌乃とAzathdoは眼前より迫る錬金モンスター共を屠るのに勤しんでいた。Azathdoが盾となり萌乃が撃の連打を。込められた力で敵の数を削らんとして。
「かっかっか。なにやら大変そうじゃからと来てみれば……有象無象のあられ共が」
雑魚ばかりがよく集ったモノだと瑞鬼は見据える。
寄るは魔物。瑞鬼らを押しつぶさんと――しかし。
「こういうのも神使の仕事ということかの……遠い地でも変わらぬ事よ」
幽世の朱き姿の鳥の翼が遍く総てを燃やし尽くすのだ。
薙ぎ払う。近付く者を、塵芥が如く。貫き凍てつかせ鬼神の武勇足れば。
――偶にはこういうのもいいのう。
「流石にこれだけの数を相手にしようと前に立つだけでも、溜息が出るねえ……
まぁかといって臆す訳にも退く訳にもいかないし――何より」
錆び落としには丁度良さそうだと、紡ぐのは千歳だ。
殺意を刃に。穿つ一閃は遠当ての秘儀にして、刀の概念を超える斬撃が一つ。
櫻火真陰流、外伝――軌閃花霞。
「どれだけ出てこようと、身体が動く限り斬って捨てるだけ。うん、シンプルに考えよう」
幾千、幾万の敵が仮にいるのだとしても。
幾千幾万と斬り捨てれば『同じ』話だと、彼は構える。
さぁ始めよう。俺達が倒れるのが先か、君達が居なくなるのが先かの勝負を――!
「これが作られた者達、ですか。
……そういう意味ではきっと私も同じなのでしょうね」
同時。打ち倒す錬金術の魔物達に目を向けるのは雨紅である。
秘宝種たる雨紅にとっては少し、気になる気持ちもある。
――だがきっと違うのだ。己らの様に『個』を得る事は難しく、そして害意をもっているなら。
「申し訳ないですが、止めねばなりません――御覚悟を」
魔物達の間を縫う様に至近へと。放たれる拳を躱して――逆に一撃。
囮や盾も兼ねた存在として敵を打ち祓っていく。せめて自らの手で、と。
「まだこんなに……でも、こんなのに、世界を渡したくない……
倒す、倒さなきゃ……だから、わたしはここにいるの……」
呟く様に。前線から一歩後ろに、中衛として立つはアクアだ。
一歩だって退かない、体が後ろに下がる事を許さない。
数多き群れを片っ端から潰していく。どれ、などと狙いはしない。全てだから。
殺せ。消せ。潰せって――頭の中でずっと叫んでる。
「こんな……こんな程度で終わらせたりなんかしないよ……」
胸に抱く感情が燃え盛っていく。
傷が増える度に自覚する。傷が深くなるほどに強固となるのだ。
――もう今更、止まれないのだから。
「くっ――皆さん、どうかご無理なさらず! 傷ついた方は一旦後ろへ……!」
「あらあら。なんとも威勢の宜しい群れが多いですこと……!」
直後。ディアナの治癒が傷付く者らを癒し、碧紗の動きが飛躍により鮮烈さを増して。
往く――連続させる行動は彼女を昇華させ魔物を屠るのだ。
が、敵の数もさるものである。ディアナ自身に重なる攻撃が治癒を阻害し、皆の傷を増やして。
『ふむ。しかし敗れてやる訳にもいかんのでな』
動くのはNilだ。治癒の手と攻撃の為の行動を繰り返し、敵の波を捌かんとして。
「敵が無数ということは、獲り放題というわけじゃな! ガハハ、お誂え向きの戦場よ!」
そしてその動きをゲンリーが補佐する。押さんとした錬金魔物の群れへ、一閃。
これだけの数がいるのであれば振り回しているだけでも敵に当たる。おお、右にも左にも戦場の武勲となる首がいくつもそれそれ。
「もとより捨て駒は覚悟なれど、ただでは儂は倒れぬよ。
――さぁ来るがいい尖兵共! 意志無き芥共に儂が超えられるか!!」
防御を顧みずに奮戦するゲンリー。彼の振るう全てがドワーフたる魂を表しているのだ。
倒れるまでに一体でも多くの敵を。それこそが――流儀であるとばかりに。
『宝に集る悪を散らす愛と正義の焦光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
直後、盛大に名乗りながら魔砲をぶちこんだのは――やっぱり愛だ!
「……さて。愛無き悪に生み出された魔物も所詮愛無き悪。いくら数がいたところで、真なる愛を持つ私達に敵うものではないと示してあげましょう。愛を知らぬ者は、愛を知る者に敗れるのです」
直後、真顔。
お勤め果たしたとばかりに錬金魔物達を吹き飛ばしていく。他の戦場に影響を及ぼすような事があらば厄介だ……ここで抑え、可能であれば殲滅しておく。魔砲の一閃、二閃、三閃ッ――!
吹き飛ぶ魔物達。多くの攻撃が彼らを襲い、その仮初の命を無へと帰して。
されど凡愚だらけな訳でもない。後方より飛来するは、それまでよりも巨大なる者で。
「あれが噂のバジリスク、ですか。こんなにわんさか湧く上で、あんなモノもいるとは……」
思わず吐息を漏らすのはチェレンチィだ。とはいえ、今回の仕事はアレも含めて片付ける事であれば、死なない程度に頑張りましょうと。
往く。バジリスクは情報通りであれば中々厄介な負の要素を持っているという。
――ならば速やかに封じよう。攻撃の後に即離脱。息の根を止めんと首を狙い。
「やれやれ……この世界に来てまだ少ししか経っていないのだが、こんな戦いに巻き込まれるとは。余程の人手不足か、それとも総員を繰り出さねば勝てぬ戰なのか」
「もー削っても削っても凄い数ねー本当に、これが表に出ちゃったら大事ねー
――ええ、勿論、ここで皆解体してあげるわよー」
更に続いて現れたマンティコアにはタイガと蘇芳が向かう。
タイガの元居た世界では元々配下に置いていた存在だ。ならばマンティコアなど容易く……いや無理だなこれ! 即座に判断したタイガは距離を取り後衛に徹して。その撃の狭間を縫う様に――蘇芳は己が全速を奴へとぶつける。
急所を狙う様に。こんな存在を放置しておくわけにはいかないのだ。
それに、どこぞにいるであろう『ホルスの子供達』も見逃せないから。
「やれやれ倒すべき奴が多い……ってな。だが、上等だ」
どいつもこいつも殴り倒してやるよ――
振るう拳。それは義弘の剛撃である。マンティコア? ホルスの子供達?
関係ない。やるべき事はとにかく、敵を倒す事であるのならば。
眼前に立ちはだかる全てが敵なだけなのだから。
味方を。仲間を生かす為に彼は往く。体力が底をつくまで腕を振り続けるのだ。
「ほらほら、あたしおいしいよ、人とうさぎが合わさったような味がするよ、たぶん。たぶんおいしいよ、たぶん」
更にマンティコアを惑わす様に――コゼットが跳躍する。
味わってごらんとばかりに。跳びまわり、跳ねまわり。駆ける音はあちらこちらへと。
周囲の敵を挑発するように己に集中させて敵の動きを乱しながら。
「ひーふーみ……十体程おるっぽいの。うむうむあの魔獣共を止めねばならぬという事であろう――では往くぞ! 放置しておけばリリファと月原を吸収し、究極形態であるマン月リリコアとなるじゃろう――麻呂の目は誤魔化せんぞ!」
「夢心地さん、夢心地さん!? どうしましたそんな事ある訳ないでしょ!!」
リリファの抗議は刀抜く夢心地へと。彼の叡智はこの先にあるであろう展開を見抜いていたのだ――案ずるなとリリファへ適当な言葉を述べながら、しかし魔獣共を倒すのは確かに重要である。
奴らは他より随分強いようだ。奴らが強襲して来れば陣が乱れる事もあろう。
「とにかく月リリが喰われたら終わりじゃ、ゲームオーバーじゃ! 口をかぱっと開けたら呑み込まれる前に――突くのみよッ!!」
一瞬の隙。見据えた夢心地は剛閃一撃。
マンティコアの急所へと叩き込んで、流れをこちらに引きよせんとす。
「っしゃおらー! なんかわかんねーけど、ぐわーって来る化けもんをおらーって殴ればいいんだな!? おら! そこの奴らいちゃついてんじゃねーぞ! そーいうのは自分らの部屋でやれ!」
同時。ぺたんな共通点を持つ琥太郎は月原の袖を掴んでいるリリファにツッコミを入れながらも、ルルゥとファルムと共に戦線を支えるべく往くのだ。ムキャア? 落ち着けリリファ、今地の文を察知してる場合じゃない。
「ふたりも、是非是非。一緒に、行こう?」
ルルゥが月原とリリファも誘ってゆく。この場に居る者は皆――胸に希望を抱いている。
たぶん、あのおねえさんもとリリファを見ながら。
……正直ちょっと怖いけれど、ホルスの子供達の所へと向かおう。
「ファルムはどこか、子供たちに似ている気がする」
リリファがぷっぷくぷーと熱狂鳴らし、ルルゥが静寂たるバラードを奏で。
琥太郎は雄叫びと共に――錬金の魔物達の懐へと跳び込んで往く。
渦中でファルムが思うのは、あの歪な者達だ。ホルスの子供達――どこか似ていて、けれど。
「けれど、同じにしてほしくないとも、思う。だって――違う、から」
醜い者よ。過去を手繰り寄せ現在にしがみ付く醜い者よ。
――おまえは、愛される人形ではない。
だからファルムは恐れない。自己再生の秘儀と共に琥太郎と共に前を担うのだ。
撃を躱し、盾と成りて。己が矜持と共に――この戦いに挑む為に。
「ビアンキーニ店長。どうもまだまだ敵が尽きないみたいだよ」
「全く。これだけ作り出した『博士』の勤勉さには呆れるばかりだな――と」
更に別の地点では扇とモカもまた、連携して戦いに挑んでいた。
味方の多い場所に布陣しているがそれでも魔物達の数は中々のものだ。油断すれば間を縫ってやってきた者達に分断されそうになる――だからこそモカは味方を巻き込まないように注意しつつ、彼らを一斉に薙ぐのだ。
スズメバチの群れの如くが一閃を。同行する扇との距離を意識しながら。
「バジリスク達も来るなら狙いたい所だけどね……さて、どうなるか」
扇自身も無茶をして前に出る事はせず、討ち漏らしを狙い穿つなど遊撃を。
倒されず、そして相手を倒してゆく。
指で弄ぶナイフの刃を煌めかせながら――彼女達は立ち回って。
「ホルスの子供達、ね……過去の人間を形どるなんて、呼びたい相手がいる人は多そうっすけど、こんな形じゃあな」
決して望む様な形でないだろうと――慧は確信している。
人形遊びだ。醜悪な、人の心を逆撫でするモノ。
「――進ませねぇっすよ。お前らはこの穴倉の中に戻るんっす」
故に彼は立ちはだかる。敵の前に。
盾役として強固たる加護を身に宿しながら――敵の注意を引きつけるのだ。
「人の願いを映し、人の想いに応え。
人が望む姿を纏いて、人の前に立つもの」
同時。まるで夢物語の様だと、しかし。
「……此れは、屹度。日の目を浴びるべきものでは、ないのです。どこまでも闇の中に、あるべきもの。壊されるべき、定めの――もの」
アッシュは言う。ホルスの子供達を許してはいけないと。
……故に奴らの殲滅を優先する。中衛程度の位置から放つ雷撃が正確に奴らを討つのだ。
どうかおやすみなさい。此の、深い地の底で。
誰にも持って行かせない。そう『誰』にも、だ。だから念入りに粉砕を試みて。
「ここで勝ちさえすれば全て良し――という訳ではない。
可能な限り事後の悪化もまた防ぐべきだ」
それはシャスラも同様に行っていた。この場にいる『第三勢力』と敵対しないのであればそれに越したことはないが……もしも彼らの強化につながれば意味がない。
故にホルスの子供達は破壊する。錬金モンスター達を引きよせ、仲間の攻撃が通るようにし。
「リリファ・ローレンツ並びに月原・亮――そこは敵の集中が見込まれる。こちらへ」
「おっと、悪いな! 教えてくれると助かるぜ……中々見えないからな!」
更にリリファと亮に警告を。亮は刃を振るいつつ、そしてシャスラの言に従って立ち位置を調整するのだ。そして、動きに追随するかのようにンクルスが動く。
上空からファミリアーによる戦場の確認。そうして行う統率の声で崩壊を防ぎ。
「――皆に創造神様の加護がありますように!」
紡ぐのだ。周囲の仲間達に活力を与えるような声を、そして力を与える。
――己もまた数多の負を弾く加護を身に纏えば万全だ。
皆で勝とう、この戦いを。創造神の加護ぞある!
「ああ――はっきりと分かる。これは外に出しちゃいけないモノなんだ」
そして静音もホルスの子供達へ対処を。魔力を収束させ、撃ち砕いて。
思うのは万が一『外』に出たらという事だ。
身体を変質させるようなモノが多くの者の目に触れれば……
「どんな事になるか分からない――大したことは出来ないかもしれない、それでも黙ってみている訳にはいかないからね」
故に彼女は闘う。己が全力を賭して、彼らをここに閉じ込める為に。
「遺跡というものには浪漫がありますが……それが恐ろしいものに『蓋』をしていたのならば。地上に害を齎すのなら――止めなければいけません」
魔力の一閃。放つは初季だ。
見えぬ刃の意志にて敵を切り刻んで往く――露払いはお任せを、とばかりに。
同時。視線を横に向ければ……気になる『勢力』はいるのだが。
しかし今そちらに構っている場合ではない。
「いずれはいずれにて。今はこの一戦に――集中を」
「たく、こんな派手な戦があると聞いちゃ――座してみてる訳にはいかなさいさ。
例えクソ暑い砂漠のど真ん中って言ってもねッ!」
直後、リズリーがマンティコアらを狙う様に飛び込んだ。
限りなく本物に近い偽物――紛いモンだろうと強さは謙遜ないんだろ?
「なら、打ち倒す獲物として不足はないさ」
担ぐ宝剣。掲げた剣筋に迷いはない。
引き付けてタイマンの殴り合いだ。ドデカい一撃に――耐えられるか?
「今日のお客さんも話が通じる相手ではないようですね……ならいつも通りギャンブルで勝負しましょうか。ええ勿論ベットはあたしの命! 頂くモノは表が出れば確かに頂戴致しますよ!!」
次いで綾花がレイズするように。生死を掛けた大博打の場へと魂を委ねた。
ああ――たまらぬ感覚だ。背筋をなぞる様な感覚が心地よく、故に彼女は全霊を注ぐ。
歪みの力で敵の存在を蝕む様に。魔獣を滅ぼすか、こちらが敗れるか。
「ゲーム終了までは逃げませんし諦めませんよ! いちスタッフとして、当然の事です!」
さぁコインは振られたのだ。
表か裏か、勝利か敗北か。命を賭けたゲームを行おうじゃないか!
「押忍! あたしっす☆ 今日はファ……えーとファなんとか遺跡ってトコに来てるっすよ! 宝石があちこちにあるとってもきれいな所で観光と洒落込みたいトコっすけど、なんか大事件が起きてるらしいんで手伝いするっす!」
お気楽な様子でカメラ目線。フェアリの収束させた魔力が戦場に瞬けば。
全てを貫く魔砲の一撃が穿ち放たれた。
「よくわかんねっすけどあの怪物みてーな見た目のが敵っすよね? 当てやすそうっすよね。ボーナスステージって所っすかね? っしゃー、やっちまえー! おりゃー!」
ぼっこぼこにしてやるっすよ――! 元気よく彼女は魔力を振るう。
彼女なりに事態の解決を――目指しながら。
「へぇ、あのデカブツ……随分とめんどくせーヤツが後ろにいるじゃねぇか。
丁度いい。新しい技、テメェ等で試させて貰うぜ!」
そして升麻もまた見据えるのはバジリスクだ。
華麗なる金糸雀の色が剣に宿りて渦を巻く。それはまるで――儚き鳥の美しさの様に。
刹那の瞬き。それでも確かに美しさはそこに在ったのだと刮目せよ。
「おらおらどきやがれ! それとも穴を開けられてぇか――ッ!」
猛撃。攻め立て、往く。
蒲の色彩を跡に残しながら。升麻の魂は戦場に残る色を帯びるのだ。
「なんでも商隊をいくつも襲っていた存在らしいね。なら……相手も多数との集団戦闘には慣れていそうだ。うん、でもそうだと分かっていればやりようはあるものだよ」
同時。文が放つは後方より。狙うマンティコアに当てる目的は――弱体化だ。
負の要素を撒いて攻略しやすくしよう。バジリスクとの連携が行われる前に、遠くから敵のペースを崩す事が肝要であると彼は判断したのだ。後は……余計な『第三勢力』の存在が気になる所ではあるが。
「……ま、旅人の僕が言ったら逆効果だろうしね」
故に任す。イレギュラーズ達とは異なる所で奮戦している――存在を。
「アルハンドラァ! 手貸しやがれ!
混戦してる時に横槍するとかつまんねェことすんなよ!
雑魚なんざ倒しちまって、その後俺達と邪魔が入んねぇとこで戦うほうが燃えるだろ?!」
故にアランは囃し立てる。
イレギュラーズ達とは異なる思惑を持って此処にいる存在……アルハンドラを。
「あっはっは! そうだねそうだね、今こんな所で争ってる暇は確かにないねぇ!」
「伝承に名高いアルハンドラ……真偽はさておき、手合わせしたいものではありますが。
されどここで敵を増やすのは得策であるとは思えませんね」
であればこそ、メルランヌもアルハンドラへ視線を向け。
しかし、すぐさま対応はホルスの子供達へ。アルハンドラ達の考えや、そもそも彼女らの正体――気になる所ではあるが、今やれる事としては『持って帰らせない』事であれば。
「どちらが多く敵を倒せるかしら――まさか、武勇に優れる者が遅れるとは思いませんが」
煽って共闘を促しつつ、何でも使って注意を逸らそう。
オランはマンティコアらを引き付ける為に名乗りを挙げながら前線へ。
メルランヌはバジリスクの目を穿つように――拳を射出しながら。
『あー!アイツ山狩の時のアルハンなんとかって奴だ!!』
「言ってやりたいことが山のようにあったのだが……こんな状況では話も出来ないだろう。残念だよ」
渋々。Tricky・Starsは中衛の位置から癒しの術を紡ぎあげる。
アルハなんとか……! 以前は襲ってきたくせに、ここでは味方なのか?
彼女らの立ち位置を把握しかねる、が。彼は彼で今現在の情勢――魔物の波をなんとか凌ぐ方が優先であると分かっている。一言言ってやるのは今度にしてやろうと思考して。
「アルハンドラ様。無駄な戦は不要だとは、思いませんか」
更にコルクも紡ぐ。アルハンドラへ、交渉する様に。
如何に強かろうと一人では限界がある筈だ。それに。
「貴女は貴女では『ない』、なんて仰いませんよね?」
意志があるならば。ホルスの子供達とは違うのならば。
人として戦おうと――己が交渉術を駆使して言葉を紡ぎ続けるのだ。
せめて物言わぬ魔物どもを殲滅できるまで。
同時。その様子を影から見据えているのは響子だ――近付いてきた魔物を吹き飛ばし、追撃の一手を加えつつ。アルハンドラが『どこぞ』へ交信していないかハッキング。
「動向は気になりますからね……敵対しないのなら良し、ですが」
しかし信用しすぎてもいけないのだと彼女は警戒するのだ。
他に仲間が絶対いないとは言い切れないと、状況を分析し味方の支援も行いながら。
「まあ、ご縁があるわけでも無いけど、アルハンドラさん? は……よろしく」
直後。綴の支援はアルハンドラも含めて満たすものだ。
少なくとも『今回は味方』と言えるのであればサポートに含めるもやぶさかではない。
会話が通じるだけマシな存在であろう。何もかもを倒さんとする魔物よりは。
「兎に角生きて皆で返ろうね! うん!」
推し(仲間)が傷つくのも結構いやですし。
其れを指くわえてみてるのも嫌なのだから!
周囲を満たす熱狂が力となる。分析の声が動きを万全へと齎して。
「ふむ……アルハンドラ・クリブルス様。
些か気になる所ではありますが、実際こちらと敵対する気配はない様子。
ならば倒すべき存在とはいうのは此方が先でしょうね」
そしてノワールもまた、レアンカルナシオンの存在は気になれどモンスターを優先する。
マンティコアにバジリスク……強大なる存在はまだそこに在るのだ。
故に倒そう。その速度を奪い倒す、黒きキューブを顕現させながら。
「いつぞやは世話になったな……今度は何を企んでいる?」
同時。魔物を屠りつつアルハンドラの近くへと至るのはフローリカだ。
彼女は幾度かアルハンドラと出会っていた事がある――いつ会っても、碌な存在ではなかったが。
「……妙な真似はしてくれるなよ。
私は戦い自体はそんなに好きじゃないんだ、お前と違ってな」
「ええ、そうなの!? おかしいなぁ、君は私と同じ――死線の中に常に身を置いてる様な匂いがするんだけど」
「……一緒にするな」
傭兵として歩んだ道を同じにされても、フローリカは眉を顰めるだけである。
まぁ、いい。今回は積極的に敵対しないというのであれば放っておくだけだ。
ただしホルスの子供達を易々と渡す気もない――砕かせてはもらうとするが。
「例えこの身が一瞬の煌めきなれど」
同時。皆の先駆けと成りましょう――紡ぎながら往くはクリストフだ。
彼の身はそう硬くはない。一度傷を負えば力を失う身でもある。
だが『そう』ではない時というのは必ず存在するのだ。
「聖域にて神の威光を知りなさい。ああ――我が神の加護があらんことを」
故にクリストフは展開する。己が聖域、安息を得る地を。
敵の動きを鈍らせ次なる一手に繋げる秘儀。錬金の産物も、ホルスの子供達も。
等しく渦の中にあれば――滅びを齎す一助と成さん。
彼の献身をもってして魔物の流れに大きな乱れが生まれつつあった。
元よりイレギュラーズ達の奮戦によって奴らの流れは押し込められていたが、その流れが強くなり始めている。好機と見るや否や攻勢を仕掛ければ、マンティコアやバジリスク達の巨体も遂に倒れ始めて。
「チャンス、って所かな……? 隙が見え始めて来たよ」
「執行します。この機会を逃す理由はないでしょう」
故に奏多は混乱の中で生まれる敵の死角を利用して一撃を。
更にクルバスの射撃が続いて援護する。どれ一つとして生かして帰すまいと。
「……かつての人類を蘇生できるとしたら、私は望むのでしょうか?」
そしてイースリーは思考する。混乱の中、姿を見つけたホルスの子供達。
――答えはNOです。
「機械も人も命は時に欠け、補い、しかしいずれ消え二度と戻らない。
――私達は同じ儚さを抱えた命なのです」
蘇るとは、取り返せるとは。それは価値がないも同じ事だ。
私は――私を生命と認めてくれた人類の為に。
「私は死者蘇生を否定します」
だから戦おう。名乗り上げる様に敵の中へと注意を引き付け。
集まった者達を一掃してもらうのだ。
人類の為に。皆の為に――この戦いには勝利しよう。
「――ファルベライズの騒動もそろそろ終わりだな。ここも勝利すればやがて……だが」
その前にと十七号は問う。
「助太刀は要るか?」
「んっ、おぉ? 大丈夫っちゃ大丈夫だし、来るなら歓迎って所かな!」
「そうか」
ならばと彼女は加勢する。アルハンドラの背側に立つように。
……加勢の理由は個人的なものだ。それこそ、己だけの理由。
『死んだ恩人に似ているから――』などと。
「或いは。私にもほんの少し似ているから……」
「へぇえ~偶然もあるもんだね。ま、世の中似た顔が三人はいるって言うからね!」
「ああ――そうだな」
この場きりの邂逅でも、今後の縁があったとしても。
ただ――己のやりたいようにしたかった。この場に居たいと望んだのだから。
十七号は振るう。己が刃を、己の心の赴くままに……
「はじめまして。ワタクシ、イーゼラー教団宣教師・アンゼリカと申します。
大変よき魂をお持ちのようですので、是非にお話を、と思いまして」
同時。アルハンドラへとにこやかなる言の葉を紡ぐのはアンゼリカだ。
お名前は……そう、たしかアルハンドラ様。
「その名はかつての槍の名手、でございましたね。貴方様がどういう敬意でその名をお持ちなのかは問いません――肝心なのは、貴方様がその名に相応しき剛槍の使い手であると言うこと」
その御魂、イーゼラー様の為にお使いになるつもりはございません?
要は勧誘である。優れた魂であるならそれこそ――イーゼラー様の為にと。
「えぇ~勧誘~~? あ、すみませんそういうのはちょっと間に合ってて……」
「ふふふ、左様ですか――ええ――左様ですか」
もし駄目なら。
うふふとにこやかなる様子のまま紡ぐ――撃を一つプレゼント。
わああ! と叫ぶ声が聞こえたと同時。さて情勢は混迷を極めそうであった……
●
押し寄せる魔物を捌き続ける戦場で優勢たる動きが見え始めた頃。
一方で奥の方――『伝承の魔物』たる存在が位置しているここでは、一つの『光』が走った。
それは破壊の一筋。伝承が放つ滅殺の業火。
全てを薙ぎ払わんとする一撃が――炸裂していた。
「なんやあの化け物……ホルスの子供達って人間以外も再現出来るんか?
そういやネフェルストでは竜も出たとかなんか言うてたな……
あんなん地上に出す訳にはいかへんで!」
巨大なる爆風。伏せて躱したつつじが言うは、伝承への脅威そのものだった。
さて一刻も早く倒さねば危なそうだが――しかし近寄る為にもまずは取り巻き共をぶちのめすとしよう。未だ形を持たぬホルスの子供達を排除し、道を切り拓くのだ――レアンカルナシオン共も気にはなるが、それは追々。
「あらあらまぁまぁ♪ 酷い匂いですね♪
なんていう悪臭でしょうか――♪ まぁそれは置いておいて!」
同時。放たれる閃光を掻い潜りつつ鼻歌混じりに往くは斬華だ。
遠くからでも見据える事が出来る大物♪ でーもーその前にやっぱり取り巻きの、首♪
「首ですよ! 首! あっちをみてもこっちを見てもくーびーだらけ♪
首がない? ノンノン♪ お姉さんのギフトでどこでも首に出来ますから♪」
だから安心して狩られて下さいね、と。
素敵な笑顔を携えつつ斬華は狩るのだ。ひとーつ♪ ふたーつ♪ 数えなーがら♪
「命を吹き込まれた土人形……何の姿も持たぬ仮初のもの」
そんな斬華とは対照的に、ラニットはホルスの子供達に思考を寄せていた。
この子供達に命を与える事は出来ない。
「ならば、すべて水に流そう」
私の雨を、この砂漠に。
――術を収束させ彼らに穿つ。救えぬならば最善の終わりをと齎すのだ。
子供達よ、今一度眠るがよい。
君達は大地に帰り、そして雨と太陽とでいつかまた新たな命となる。
私はその為に――恵みの雨を降らせよう。
「大精霊がいた場所……銀の森みたいなもんか?
そこで悪いことが起きてんならおれっちたちで正さないとな!」
「わしらのラサに悪さしようとしとるんはだぁれじゃ!! わしの目の黒い内はラサに上がらせんぞい!! くぉら!!!!! 元凶はどこじゃ、出てこんかい――!!!!!」
リックは位置取りを調整しつつ、多くの仲間に力を齎して。
その援護を受けつつ――チコ・ケンコーランドは駆け抜ける。
全力全霊をもって伝承の魔物の懐へと。汚させん、汚させんぞこんな奴にラサの大地を!
BBAキックで邪魔する者らを捻じ伏せ一直線。伝承かなにか知らぬが、ちぇすととおお!
「ホルスの子供達……? 何だかわかってないけどあじえるには死者を冒涜する事は許せないのです! ぜったいぜったい、ここから先にはいかせられないのです!!」
同時。チヨにも負けぬ活力で、我に続けとばかりに奮戦するはあじえるだ。
ホルスの子供達へと一撃紡いでやる。死者がどうのこうのと、難しい事は分からないが。
ただ本能で分かるのだ。これらを生かしておいては――いけないと。
「ンフフ……死者の復活ですか、懐かしい響きですね。小生も以前は少々嗜んでおりましたよ……まあ、犠牲の方が遥かに膨大でしたけどね」
華魂の言はやはりホルスの子供達に向いたものだ。死者を現世に……という技術や思考、ああ理解は出来る、が。
「この連中はお粗末でございます、美しくない。土に還って糧となりなさい」
収束させた魔力で撃ち砕いてやる。子供達が齎す死者への念?
くだらない。私の妻は”此処”にいるのだ――あなた方ではないのだと。
「全く……大変な事になっている、とだけは分かる。放置してはおけないな」
「あーもー、早く帰ってお茶したーい。美味しいワッフル食べたーい。
こんな所じゃティータイムも出来ないですよ」
更に吐息を零しながらもイズマと美凪対応するものだ。
魔物やら博士、それを狙うレアンカルナシオン――ああ色々事情はありそうだが関係ない。とにかく敵を撃破してしまえばいいのだろうと、イズマは接近してくる個体へ剣魔一閃。伝承への道を切り拓かんとし『無力なか弱い美少女』と称する美凪は陣の中心にて指揮の一手を。味方の動きをよくし、怖い人達の相手をお任せするのだ。
幸いにしてこの付近はマンティコアらが出ている場所程敵の数は多くない。
近寄ることが出来れば――きっと勝機は十分にある筈だ。
「はてさてやぁやぁ! これが此度の奇怪なる事態の要素が一つであるか!」
同時。声は檻のものだ。
ホルスの子供達――に加えて悪臭放つ伝承の魔物とやら。鼻の曲がる様な臭いは実に宜しくない。
「身が腐っておるのか? これもまた小生の慈愛であるがゆえに、苦しまず逝くことこそが幸福であると知るが良い。終わりこそが至上である事もあるのだ」
我が神も、慈悲を汝らに与えてくれるだろう。
ヒトを巻き込まぬ地点へと攻撃投擲。邪魔を排しながら伝承の魔物にも攻勢を仕掛け。
「『恐ろしい伝承の魔物』、ね。でもそんな姿じゃ、知らない人には伝わらないでしょうね――せいぜい腐り具合が恐ろしい程度かしら」
むしろこの分だと悪魔たる自らが次の『恐ろしい魔物』になってしまうかもしれないと、微笑みながら紡ぐのは02だ。さりとて醜悪な伝承を破壊するのも己の役目、と。
「さぁ行きましょうか――悪魔的? ああ、それは誉め言葉ね」
優れし防御で敵の攻撃を弾き、あらゆる負の要素を無効化して。
彼女は前に出る。砕けば砕く程に己が身の傷を、治癒しながら。
「倒れさせません。皆に支えて頂いたボクが、今度は支えてみせます……!」
「敵は強大……なれど、まだ対応出来るならばしっかりと皆様のお力添えになるよう尽力します」
次いでノルンとテルルが前往く者らの援護となる様に治癒の意志を。
支えるのだ、皆を。共に来た者達を。
不死の伝承を持つ扇をノルンは構え――誰も倒れぬ様にと奮戦し。テルルもまた、傷の治癒を、或いは負の要素を払う光を齎して支援とする。
戦いは佳境……だからこそ踏み止まる事こそが重要なのだ。
「ホルスの子供達は任せて、先輩方はアレを倒しに行って下さい!」
そして壁たるホルスの子供を打ち倒し、朝顔が道を切り拓く。
噂に聞いていた色宝を巡る動乱――この場を制する為には、一際巨大なあの魔物を倒す必要があるのならば、その一助となる様に行動するだけだと。先輩方の道を決して邪魔などさせまいと、彼女は闘う。
例えホルスの子供達がまやかして来ようとも。
「……ごめんね。私には死んだ大切な人はまだ居ないんだ。だから……
貴方達に呼んであげられる名前もないから……何者にもなれずにどうか逝って!」
惑わされない。己が全霊を賭して――捻じ伏せる。
「溶けている体……不完全である故か、分かりませんが。しかし穿てば同じ事です」
言うは鶫だ。悪臭のソレも、遠方であれば効果はない。
故に――此処より放つは足元へ。
曲りなりにもヒトガタであれば足腰を潰せば方向転換もままならなくなるのは必然だ。彼女が放つ一閃が過たず狙いの先へと。更にグズグズに溶けている地点へと叩き込めば、更に抉る様に。
「或いは核の様なものでもあれば、そこを狙ってもいいのですが」
色宝で動いているのであればソレだろうかと。思考してまた一撃彼女は放った。
「と、突然異世界に召喚されてきたと思ったらでかい決戦に巻き込まれてるんだけどなにこれ!? どゆこと!? え、とにかくあれをぶちのめせって? いいから戦えって? あっ、はーい!」
マキシマイザー=田中=シリウスは放り込まれた戦場に驚愕しながらも、しかし動き続ける。混沌世界? 特異運命座標? 色宝――? ええい、どれもこれもまだあまり実感がないというのに!
「星よりも清かな歌声を――さぁ聴け!」
それでも己にやれる事をやるのみだと、彼は治癒の術を振るい続ける。
呪文の詠唱は歌うように。戦場のどこまでも響き渡る様に。
「ぴゃー! 毎度毎度申し上げますがっ! この手の記憶喪失に厳しいタイプの手合いはヨハナの得意分野ですよっ! なんですかね記憶を参照するって謎システムどうやってるんですかねうぉーっ! 未来人のつよつよメンタルみせてさしあげましょーっ!」
更にヨハナはまるで言い聞かせるように戦場にて唸り続ける。
ホルスの子供達――ええい記憶喪失者にとってどう表現すればいいのだこれ! 出てくる名前? そもそも喪失してるんですよ、ええ! ともあれその感情エネルギーを変換し彼女は放つ。
ホルスの子供達を砕く様に。
その欠片にどこか――戦場で死んでしまった友達の面影を感じながら。
口元を動かしたかもしれないが……それはまた別の話。
「この数の魔物を復活させ使役し兵とする……成程、『博士』なる者はかように大きな力を有する存在ということですか。ここを捨て置けば、この地の未来にとって大きな憂いとなりましょう」
「ううん、全く困ったものですよ……! でもでも、アウローラちゃんが止めてみせます!」
ホルスの子供達を纏めて雪音は捉え、アウローラはその後ろから魔力を収束。
放ちて倒す。例えどれだけ苦しい戦場だろうと――アウローラは笑顔を忘れない。
そのような存在であるからでもあるが、しかし。
彼女自身――きっと忘れたくなどないから。
「あれが伝承の魔物……けれど大仰な名前の割に、こう、酷いあり様ね……」
「正直な所、近寄りたくはないですね。なんとも……」
そして遂に開かれた伝承の魔物までの確かな道。その奥にいるヤツを眺めながら――エンヴィとクラリーチェは共に顔を顰めていた。辛うじて確かに人型の姿がある様だが……各所が溶けてる様子は余りに醜く、見ているだけでも心の奥底に嫌悪感が湧いて出る。
「そうね……出来る限り、早目に終わらせてしまいましょう?」
「ええ。早急にアレを片付けて――レアンカルナシオンの面々とお話ししたいですし」
互いに同意しつつ、クラリーチェが見据えるのは別の箇所で戦う様子を見せているレアンカルナシオンの者達だ。こちらに積極的に攻撃を仕掛けてくる様子は依然ないが――気を抜く事は出来ない。
故にまずは邪魔を片付けよう。
エンヴィは怨霊の力を顕現させ、クラリーチェは神秘への親和性を高めながら治癒の手を。
押し込む。悪臭届かぬ地点から、奴に蓋をするかの如く。
「レアンカルナシオン……耳には挟んでいましたが、まさか本当に存在するとは。
戦いが終わった後にまだ留まっていれば、じっくりとお話させていただきたい所です」
次いでフォークロワもまた伝承の魔物へと往く。
エドガーバッハらは気になる所ではあるが、しかし今はこっちが先だ。
黒き雫、絶望の序章を形とし。万物を蝕む幕を挙げよう――
過去より蘇った演者など誰にも必要とされていないのだ。
終幕である。カーテンコールは必要すらない!
「大人しく後方支援だけしてるつもりだったのに、なんで前線に駆り出されてるんだろうねぇ……! あああギャーっ!? 本当に怪我人だらけじゃあないか!? くそ、なんだこの状況は!! ああ、もう仕方ない!! 怪我人は片端から最低限回復してやる! だから僕を全力で守れよ! いいな!!」
同時。ベルナデッタ目に付く味方を片っ端から癒しながら戦線の維持に努めていた。
それが結局――己が身を護る事にも繋がって。
「うーむ、なんだか不気味な相手じゃのう……あんな輩が昔は普通におったのか? まぁこういう手合いは纏めて焼くのが一番じゃな! 後腐れもないし、焼いて悲しむような奴もおらんじゃろう!」
「結局、名前も知らないものはちゃんと帰ってこれない、という事かもしれません。はるか太古。ファルベリヒトと相打ちになった存在など忌み嫌われていたでしょうし、ね」
さぁゆくぞ皆、奴らを塵へと還すのじゃ! とアカツキが意気揚々と焼きに行けば、瑠璃は目標たる『伝承の魔物』を冷静に見据える――体の各所が不安定な有り様。とても正常には思えない。
伝承の魔物などという一般名称で、当時のそれをどれだけ表現できたものか。
「……まぁ、名前もなかった下忍風情の、安い感傷ですが」
頭を振り、彼女は思考を目前へと。
仲間に群がる者らがいれば叩いてゆこう。彼女の瞳が敵を射抜き、アカツキはその間を縫って破壊の魔術を紡ぎあげる。熱を伴う波が、打ち出された光球が――数多の敵を焼き尽くすのだ。
「ホルスの子供達、か。有効活用出来るのなら一定の戦力にはなりそうではあるが、統率して扱うのは些か骨が折れそうだな……やはり魔物か、或いは制御できない危険物と見るべきだろうか」
同時。アレフは思考を重ねる。
ホルスの子供達の仕組み……どうなっているのか気にならないと言えば嘘になるのだが、今回はそれを調査しに来た訳でもない。特異運命座標の一人として――同胞に力を貸そう。
聖なる輝きで敵のみを撃ち砕いていく。敵が集まっている所を狙い、穿てば。
「ちくわ大明神の名の下に。この決戦、弊板も及ばずながら力になろうである!」
チクワの力も加わる者だ。幸いにして敵は多数――ターゲットには困らないと。
味方を巻き込まないようにしながら魔力を放つ。
穿つ一閃が戦場を貫き、ちくわ大明神の威光を示すのである。ちくわ大明神。
「ははは、なんともはや、これは的の大きい獲物だ!」
直後、戦場を駆け抜けるのは頼々であった。
ああ外しようがあるまいあんなもの。安心して当てる事が出来よう! まぁ……取り巻きの者共は……
「……ああ、ダメだな。これはワレが相手をするべきではない」
胸の奥に煮えくり返る何かがあった。
憎さ余って憎さ百倍――うっかり怒りで名前を呼んでしまえばとんでもない事になろう。
だから無視する。見据えるのはただ一点、伝承の者のみ!
「いつだって物事を解決するのは力である!
受けよかつて存在した者の紛い物よ! 我が空想の刃の錆となるがよい……!」
往く。
死ぬまで斬る。死ぬまで殴る。死ぬまで殺す。
力の限り打倒し続けよう。己が気力が続く限り、己が体力が続く限り!
「――もしかしたら、貴方達にこそ応えるべき義があるのかも知れません。
掛けるべき情けがあるのかも知れません。ですが……」
あの人は、私の願いを叶えようとしてくれたのです。
祈り捧げる司祭の名は、ヴァレーリヤ。想い抱くは司教の旅路。
「恩義に報い、彼の意志に寄り添うことが、主の御心にかなうものと私は信じます。
例え如何なる存在であろうとも……これより先の道が必要なのです!
さぁ――道をお開けなさい!」
一喝。今こそ往こう、迷い無き決意を抱いて。
進む道を切り拓くのだ。聖句を唱え、メイスを振り下ろすと同時に炎が濁流の如く敵を呑み込めば、通った後に邪魔は残らぬ!
「……勇壮なる戦士達と挑む怪物退治か。ふふ、まるでおとぎ話だね。
戦い甲斐があって何よりな事だ」
同時。ウィリアムが開けた道筋に雷で構成された一筋の槍を放つ。
不完全とは言え伝承に語り継がれる魔物が相手ならば。
「油断せずに頑張るとしようか。お客さんもいるみたいだしね」
視線を横に。レアンカルナシオンの面々の様子を――探る。
「……またお二人ですか。お元気そうで何よりですが、再び此処でとはお忘れ物でも?」
「ん"あ”あ”? なんだこの前のメイドかよ! こっちは忙しいんだよ――!!」
暴れているエドガーバッハへと言葉を紡ぐのはリュティスだ。
当然魔物達にとってはレアンカルナシオンもイレギュラーズも等しく敵であれば、彼らの方にも同等に攻勢の圧が掛かるのは当然である――リュティスは聖なる光にて『敵』のみを焼きつつ。
「またホルスの子供達をご所望ですか? 以前の物をどうしたか教えて頂ければ邪魔しないように致しましょう……如何でしょうか?」
「あんなもん解体したわボケ――!! 成果が無かったからここに来てんだ――!!」
「まぁそれはそれは――ご愁傷さまです」
口の悪いエドガーバッハの言をリュティスは容易く流しつつ、放っておいても問題なさそうだと判断する。幸か不幸か……エドガーバッハは力の加減が出来ていないのか、並み居る子供達をぶっ壊しまくっている様だし。
――それよりもご主人様の方だ。
「リュティス、行くぞ。ルカが前へと向かうようだ……その背を守り抜く」
振り向けばベネディクトの視線は真っすぐに伝承の魔物へと。
色宝の力を以てしても再現しきれなかった者は、このような形になる事が多いのだろうか。だが……どのような理由であったとしても油断はすまい。
かつてファルベリヒトがコレを止めたのなら。
「嗚呼、相手が再現の怪物だと言うのなら。
今一度再演しましょう。此処にかつての伝承を……
生憎と、相打ちでは済まさないけどっ!」
「いやねぇ、素面じゃなかったらこんな気持ち悪いの相手にしたら大変だったわぁ……でも今日は、輝く殿方達を支える『イイ女』としてここに来たの。分かる? 女が強く決めた事はね、ちょっとやそっとじゃ折れる事はないのよ」
同時にハンスとアーリアも動く。これは再演にして終焉の物語だ。
二度同じ展開はない。相打つ事も、敗れる事もない――ただ確実なる滅びを!
連鎖的に紡がれる行動は正しく一斉。ハンスが魔物の、蕩けた部分へと抉り込むように一撃を放てば、リュティスより支援を受け取ったアーリアが――重ねて削る。
それは甘く蕩ける蜜の罠。蜂蜜酒の如く舌で転がり、そして溶けていく。
「伝承の魔物にも臆さず向かっていく英雄達……
その背中をあたしの旋律で支える。これがきっと、英雄幻想の本質よ」
更にリアの奏でる音色も後押しするものだ。
皆の傷を癒す天使の旋律。神託の少女を象徴した調べが奏でられれば力となりて。
(――エドガーバッハ達は放っておくのが吉、かしらね)
同時に思考するのはレアンカルナシオンの面々だ。
難しい話も仲間に任せよう。ただ一つだけ……決めている事はある。
もしも今後敵対するならその時は容赦しない。
覚えた音色で――追い詰めてやる。
「あの顔は……やはり、あの時の護衛がそうなのですね……」
リースリットもまたエドガーバッハの方へと視線を向けて思考を重ねていた。かつて、パーティ会場に訪れた一人……間違いない。あの顔は、あの時いた者だ。 直接は関係ないでしょうにレアンカルナシオンが此処に何度も姿を見せるのは、余程……
「……全員ではないにしろ、執着があるのですね」
利用するのはお互い様。今この場で敵対する理由は無し。
それに――それはそれとして気になる事はあるのだ。
歴史に名を残している者の戦い方。偉人武人の力には興味がある。
「いつぞやのパーティのお礼分位は見させてくださいね、大魔術師エドガーバッハ」
随分と乱暴に魔力を放ち続けているかの御仁を見据えながら。
リースリットもまた構える者だ。己が雷光の剣にて――迫りくる魔物に対し。
「おや先日ぶりですね。ホルスの子供達は回収したと思いましたが、まだご入り用の様子……もしよろしければ、あの大物を倒すのにお力をお貸しいただけませんか? お互い、この先に進むなら共闘した方が楽ですし」
「顔が怪しすぎて凄く話に乗りたくねぇ……が、別にこちとらテメェらと争う気はないんでな。ていうか話持ってくならそっちに持って行きな――お前ら呼んだのはそいつだからよ!」
ウィルドの提案に対し、エドガーバッハが親指で指し示すのはカーバックだ。
元々奴が呼んだのが始まりである。ルカを通じ、此処に呼んで――だから。
「決めてこい、ルカ。カーバック、何れ戦う身かも知れんが──今は託すぞ」
一切の邪魔はさせんと、ベネディクトは跳び込んで周囲の敵の注意を引くのだ。
全てはルカ達を往かせる為に。
「人を手伝いに呼んで見物はねえだろ? 手伝えよお二人さん!」
「呼ばれてるぞ行ってこいよバカ」
「バカにバカと言われる程屈辱的な事はないな」
ア”ァ”!? エドガーバッハがカーバックへとチンピラの様な声を挙げるが、無視。
それよりも、だ。
「貴様も奇妙な奴だ。全て放っておけばいい事だろうに」
「いいから合わせろよ。大一番の舞台で――できねぇとは言わせねぇぞ?」
「やれやれ。よもや奴に直接挑む事に成ろうとは……」
カーバックはルカに言う。まさかそんなつもりはなかったのだ、が。
しかし『殴れる機会』が出来たのならば。こうまでお膳立てされたのならば。
一度ぐらいはやっておかねば己の名に関わるやもしれぬと。
「――お前とは幾度と衝突し、狙いを防がれた。あげくこれとは疫病神だ」
「そうか? 案外そうでも――ないんじゃねぇか?」
往く。伝承の魔物はこれまでの攻撃で随分と傷付いている。
より深い一撃を叩き込むことが出来れば――或いは。
しかし奴も彼らの攻勢を、ただ黙して見ているだけではない。
口に収束させているは極大の魔力。放てば焼き尽くす、閃光の一撃。
向かってくる者全てを捉えるかのように――すれば――
「そうはさせないでしゅ! イミナは――負けないです!!」
その射線上に立ったのは、イミナだ。
光線から皆を庇うのだ――決死の盾と成り得る彼女は放たれた灼熱に身を焼かれ、しかし。
「かみさま、こんなの……こんなのへっちゃらです……
イミナ頑張るから……だから、どうか皆を守ってください……!」
彼女の意思は焼かれない。
例え倒れても終わらぬ意思があれば立てるのだ。もう一度、もう一度だけと願い――
「伝承の魔物、のようなあなた。こっちへいらっしゃいな。そんなにグズグズ、くずれかけでは、痛くて大変なのではない? ――早く楽にして差し上げましょう」
ねぇ、クララ? と紡ぐポシェティケトの一撃も繋がるものだ。
砂の国の大妖精は、大いなる熱砂の悪意の遠い親戚なのかもしれない。
そうであっても、違っても。
妖精が大変なのは――嫌ですもの。
「ワタシたちも力に、なりますわ」
閉じ込めて惑わす為の異界を作れば招き入れる。伝承の魔物を、困惑させるように。
その一瞬の隙だけでも出来れば十分だった。
ルカが踏み込む。黒き刃を構え、仲間たちの構成によって多くの傷がついた魔物よ。
心の臓の所に――剥き出しの色宝があるぞ!
「終わりだッ――! 俺達の……ッ、勝ちだ!」
刃、一閃。
剛閃とも言うべきソレが叩き込まれれば――色宝に亀裂が走る。
徐々に、しかし一気に速度を増して。
砕け散る様に欠片となれば……ただでさえ溶けていた体を維持する事も出来なくなり。
「ああ……ホルスの子供達も、これは……」
そして連動したのか――? 或いは『博士』の方の戦域で何かあったのか――?
ホルスの子供達の様子がおかしい。活発的だった動きは鈍り、まるで停止する様に。
エルシアは駆けよる。せめて、せめて最期に。彼らが存在意義を真っ当出来るようにと。
「お母様――」
愛ゆえに私から人生を奪い、愛ゆえに私を大罪へと誘った女性。
その愛は重かれど、私はそれを乗り越え、討ちました。
――けれども私は、母を憎んではおりません。
「同時に、貴方達も……」
生まれたばかりで罪の無いホルスの子供達も、憎んではおりません。
……微かに形を作らんとするホルスの子供。せめて役割の中で――朽ちさせてやるとしよう。
母の姿を取った彼らを包み込みましょう……私が、彼らに愛を注ぎながら滅ぼせるように。
「ぎゃああああなんじゃこりゃああああ、マジかよ停止していくじゃねーかぁあああ!!」
「これは――さて。無駄骨でなければ良いがな」
さすればその様子を見ていたレアンカルナシオンの二人――いや正確にはエドガーバッハだけが絶叫する。これは、どういう事だ? 色宝の効果が鈍っているのか? いや、いやいずれにせよまずい。このままでは三つ巴だったからこそ成立した不可侵の様なモノは崩れ去る。
――まだ錬金モンスターは残っているごたごたの内にこの場を離れるべきかと。
アルハンドラと合流するために踵を返そうとして、瞬間。
「ふ、ふぅ。え? エドガーバッハ? 本物? あ、あののの、サイン貰える?」
「あっ? サイン!? へへっ、なんだよ。しょーがねぇなぁあああ」
帰還せんとするエドガーバッハ、の前にベルナデッタが色紙を出して。そしたらエドガーバッハはなんだかまんざらじゃない様子で一筆書き。何してるねん。
「待て――エドガーバッハ・イクスィス」
と、その時。語り掛けるのはマッダラーである。
泥人形の思考実験。故人の記憶を持っただけの別人。
――同位体であるが同一体ではないということか。君自身の考えでいまこの戦場に立っているのか、それとも故人の考えに引っ張られているのか。或いはそのように行動しているだけで、実際は何者かのプログラムによるものなのか……
答えがどうであれ、強敵と戦う際には味方の盾としてマッダラーは働いていた。
その間にも常に思考を働かせ続けていて……
「俺は、泥人形だ……馬鹿の一つ覚えみたいに自分の在り方問い続けている、ただの泥人形。君たちとも違う出会い方をしていたら、もっと別の詩を残せただろうに……」
「あぁ? なーにいってんだ。人間、魂だけが重要なんだよ。これから何が起こるか分かったもんじゃねーんだから、まだ『こう』だと結論付けるには早すぎると思うぜ? ってオメーは人間じゃねーんだろうけどな!」
エドガーバッハはマッダラーに指を差して言を放ち。
囲まれる前にと――その場から駆け抜けた。
彼らの背を眺める様にしているのは、ハンスだ。
「……気に食わないなぁ」
誰の耳にも届かぬ程に小さく、呟いて。
今回は邪魔しません。其れよりも重要な事があったから。
だけど――貴方達は、なんなんだ?
「――今日という日の花を摘め」
貴方達には屹度、最も不似合いな言葉だと思いませんか。
それはメメンモトリと同種の言葉。『今という時を大切に使え・楽しめ』
再び現世に蘇った――貴方達は――
……残存の魔物が押し寄せてくる。
最早統制も無いように見えるが、後はこれらの殲滅も必要かと。
「やれやれ……レアンカルナシオン、か。
今後遭遇するかもしれねーが、そん時はそん時だな」
故にハルラはもうひと踏ん張りと拳を構えるのだ。
気にならないと言えば嘘になるが、味方に危害を加えないのであれば少なくともこの場ではどうでもよい。それよりも伝承の魔物を倒して、ようやくあと一息なのだから。
ああ。新鮮な地上の空気を――早く吸いたいものである。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
伝承の魔物は打ち倒され、この周辺は制圧されました。
ファルベライズを巡る結末ははたして――
ありがとうございました!
GMコメント
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<Rw Nw Prt M Hrw>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●依頼達成条件
1:『伝承の魔物(ホルスの子供達)』の撃破。
2:その他、可能な限り多くの敵を撃破する事。
●戦場全域情報
ファルベライズ遺跡中枢部付近です。
周囲を輝くクリスタルが埋め尽くしており不思議な光源が存在している為、視界に問題は在りません。
奥の方から地上へ這いずり出ようとホルスの子供達や『博士』配下のモンスター達が出現しています。奴らを打ち倒しましょう!
●ご注意
グループで参加される場合は【グループタグ】を、お仲間で参加の場合はIDをご記載ください。
また、どの戦場に行くかの指定を冒頭にお願いします。
==例==
【A】
リリファ・ローレンツ (p3n000042)
ムキャア!
======
●戦場【A】
・ホルスの子供達『伝承の魔物?』
かつてこの地を襲い、ファルベリヒトと相打ちになった伝承の魔物――?
と、考察されていますが実際のところ不明です。なんとなく巨大な人型の様な姿を持っているように見えますが、体の各所がグズグズに溶けており不完全な復活であるように見えます。恐らく色宝の補佐があっても再現されなかったのでしょう。
しかしながらそれなりに強力な力を宿しているのは確かです。
口元から吐いてくる光閃の一撃は多くを薙ぎ散らします。
近くへと至れば悪臭が皆さんの身を徐々に蝕み、更になんらかのBSをランダムに一つ付与する事があります。
・ホルスの子供達×複数
まだなんの姿も持っていない『ホルスの子供達』です。
ぼんやりとした人型の姿を持っています。後述する戦場【B】の錬金モンスター達よりは数が少ないように見受けられます。
が、少なくとも両手で数えられる程度ではない量は存在するようです。
名前を呼んだ場合、その人物の姿を司り言葉も発する能力を持ちます。その場合でも戦闘能力に大きな変化はなく、人を超えた膂力、或いは神秘の術を行使してくる事でしょう。
・『エドガーバッハ・イクスィス』
かつて海洋王国に存在した魔術師と同じ名前を持つ者ですが――?
レアンカルナシオンという組織に属する人物で『ホルスの子供達』を入手するためにここへと訪れたようです。【A】の戦場でホルスの子供達を確保するために戦う為、イレギュラーズ達の邪魔をするつもりはありませんが――かといって味方とも言えない立場の者です。
戦闘スタイルは不明ですが、魔術師の類だと思われます。
・『カーバック・ファルベ・ルメス』
大鴉盗賊団の一員としても動いていた人物です。しかし彼の本当の所属はレアンカルナシオンという一団であり、前回の依頼(<アアルの野>死者の名)以降、明確に離脱して動き始めました。
その名や節々の言が示す通り、パサジール・ルメスとも関わりのある人物の様です。ファルベリヒトの存在を知っていたり伝承の魔物に対する知識があったりと……
刀の様なモノを所持しており、特に刺突の技に優れています。
●戦場【B】
・ホルスの子供達(モンスタータイプ)×10
少し巨大なタイプの個体達です。
バジリスクが五体。マンティコアが五体の編成です。彼らは錬金モンスターではなくホルスの子供達からの派生であり、以前ラサに出現して各地の商隊を何度となく襲い、恐れられた集団の様でした。
バジリスクはどちらかというと後衛タイプであり【石化】などのBSを付与してくることがあります。マンティコアは明確な前衛タイプであり強靭な肉体と速度で敵を翻弄してきます。
また、マンティコアはマンイーターの属性を持ち『人型』の姿を持っているキャラクターを優先的に狙い、若干ダメージを増幅させる傾向があるようです。(『人型』の明確な定義は不明ですが、例えば旅人などは千差万別な姿を持っている事がある為、除外される可能性もある人もいるでしょう)
・錬金モンスター×無数
ラミアや蠍、大蛇などの姿を持っている無数の錬金モンスター達です。
『博士』によって生み出された個体達の様で、かなりの数が存在しています。
撃滅しましょう。
・『アルハンドラ・クリブルス』
その名はかつて高名な槍の使い手の人物でした。
レアンカルナシオンという組織の一員であり、面白がってエドガーバッハ達についてきたようです。戦闘狂な面があり槍を振るって目前の敵を潰さんとしています。
イレギュラーズ達とは今回はあまり積極的に敵対する様子はなさそうですが……?
・『リリファ・ローレンツ』(p3n000042)
味方NPC。周囲の支援を行います!
前衛型のアタッカーです。また赤の熱狂などレンジ2付与スキルも持っています。
・『月原・亮』 (p3n000006)
刀が武器の前衛タイプです。
リリファと一緒に戦場【B】にいます。お前ら……
●レアンカルナシオン
『旅人』を不浄な存在であるとして付け狙っている組織です。
彼らは以前にも(シナリオ『<マナガルム戦記>Benedictio dies』『信仰者達の山狩り』)などで登場しています、が。特に読んでおく必要はありません。『旅人を執拗に狙う組織』という認識でOKです。
彼らの組織にはなぜか『既に故人』である名前の者達がいます……
『博士』とは関わりがないので、彼らは第三勢力的存在です。
彼らがホルスの子供達を集めるとどうなるのか不明な所があります(本戦場では特に何も起こりません)ので、可能であれば撃退するのが良い――と思われますが、敵対すると明確な敵が増えるのは確実でしょう。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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