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シナリオ詳細

<マジ卍体育祭2020>秋冷の空、マジ卍の秋

完了

参加者 : 52 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 そこはまるで――《東京》であった。

 再現性東京――それは練達に存在する『適応できなかった者』の過ごす場所だ。
 考えても見て欲しい。何の因果か、神の悪戯か。特異運命座標として突然、ファンタジー世界に召喚された者達が居たのだ。スマートフォンに表示された時刻を確認し、タップで目覚ましを止める。テレビから流れるコメンテーターの声を聞きながらぼんやりと食パンを齧って毎日のルーティンを熟すのだ。自動車の走る音を聞きながら、定期券を改札に翳してスマートフォンを操作しながらエスカレーターを昇る。電子音で到着のベルを鳴らした電車に乗り込んで流れる車窓を眺めるだけの毎日。味気ない毎日。それでも、尊かった日常。
 突如として、英雄の如くその名を呼ばれ戦うために武器を取らされた者達。彼らは元の世界に戻りたいと懇願した。
 それ故に、地球と呼ばれる、それも日本と呼ばれる場所より訪れた者達は練達の中に一つの区画を作った。
 再現性東京<アデプト・トーキョー>はその中に様々な街を内包する。世紀末の予言が聞こえる1999街を始めとした時代考証もおざなりな、日本人――それに興味を持った者―――が作った自分たちの故郷。

 ――ならば『故郷を再現するため』『日常を謳歌するため』に『学生として』欠かせないイベントが存在した。
 それこそが、学園祭である。
 希望ヶ浜学園では例年9月に文化祭を10月に体育祭を行っていた。その二つのイベントは開催時期が近い物の別物として認識されていたのだ。

「折角特異運命座標が特待生としてやって来たのだから、お祭りももっと盛り上げるべきでは?」

 そうして、行われたのは二つのイベントを合わせたイベントの名前募集である。
 紅爆祭、軌跡祭 『Road to glory』、光明祭、みんな大好きフェス!、爆肉舞闘祭、タイガーVDM祭り、銀杏祭、暁光祭、希掲祭……様々な『提案』を経て――決定したのは当初、実行委員が全力で反対したその名前!

 そう! マジ卍祭りである!


 マジ卍祭り――体育祭は、本来ならば10/24に行われるはずだった。
 然し、突如として襲来したマジ卍台風でやばたにえんでぴえんでぱおんな結果となった為に、希望ヶ浜学園に所属したイレギュラーズ――否、特待生達は台風を撃退し、鮮やかに晴れた体育祭を手に入れたのである!

「さぁて、やってきました体育祭!」
 にゃんと嬉しい事だろうかと希望ヶ浜学園のジャージに身を包んで潜入中の綾敷・なじみ。眸をきらりと輝かせた彼女はアウトドア派らしい。
「まあ、学園行事は大事ですからね」
 そう頷いたのは音呂木・ひよのであった。台風襲来の際には低気圧に世界が滅びるのではないかという魔王の形相を浮かべていたが今日は涼やかにもジャージ姿である。
「さて、特待生さん。これが競技一覧です」
 ひよのが差し出したのは様々な競技が一覧となっているプリントであった。
 ハートを投げ入れる玉入れ、アニマル大玉転がし、チーム対抗障害駅伝に、騎馬戦……。
 勿論、お弁当はお忘れ無く。最期はフォークダンスで締めましょう、と。簡単なピックアップである。
 他には部活動対抗リレーに、普通の障害物競走、借り物競走に、水鉄砲バトル等など……。様々な競技がある。
「水鉄砲バトルとか面白いですよ。武器はバズーカやハンドガン……水風船など。水鉄砲ならOKなのですよ。ゼッケンを付けて濡れれば失格、と言ったものですね。
 ああ、それに借り物競走も楽しいですよ。世界に絶望した乙女の涙を借りてこいとか、三年四組の田辺先生がふざけて行ってましたっけ……」
「どんな借り物なんだい……」
 なじみがぱちりと瞬くが個性的で何でもオッケーなのが希望ヶ浜なのかもしれない。
 ひよのは毎年、体育祭は個性のぶつけ合いなのだと楽しげに微笑んだ。
「実は体育祭は何でも御座れなのでコスプレして競技参加をする人も居るのですよ。
 なので、なじみも今日は帽子に気を配らなくてもばっちり『なじんでる』のです。
 ローレットの方の中には外見的に再現性東京には馴染めないなあという方も居ると思いますが、マジ卍な体育祭なら大丈夫ですよ」
「うんうん! 皆で楽しい体育祭にしようよ!
 あ、知ってる? 希望ヶ浜ってグラウンドが幾つもあるから『フリータイム』みたいなのがあって申請すれば正式な競技に出来るんだって! お弁当早食いグランプリとかできないかな?」
「……なじみに付き合ってくれる人が居ると良いですね?」
 あうーん、となじみは小さく唸った。何処ぞの美少女ゲームの攻略対象のような声である。

「特待生さんは今日は何しますか? 水鉄砲バトルに出ますか? 借り物競走?
 部活動対抗リレーも良いですし……ああ、そういえば、屋台も出てるんですよ。地域の方も観戦に来たりしますから。

 廻は毎年、屋台で飲めるカクテルを楽しみにしてるそうです。今年は教員も増えたのでアルコールの取り扱いも多くなったのだとか。
 良ければ、色々な所を見て回り体育祭を盛り上げてくださいね?

 ああ……私は、特待生さんが誘ってくださるならご一緒します。
 其れと最後に……夜妖には気をつけて。何処にだって、居ますから」

GMコメント

 夏あかねです。特別出演の田辺先生はありがとうございます。
 所謂『何でも出来る』枠です。何でも楽しんで下さいませ。

※ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
※行動は冒頭に【1】【2】【3】【4】でお知らせください。

●マジ卍祭り
 ネーミングは特異運命座標による大喜利――いえ、公募で決定されました。体育祭です。
 幼稚舎から大学まである希望ヶ浜学園の一大イベントです。とても広く様々な催しが行われるために地域や近隣の方々も遊びに来るテーマパーク状態となっています。
 グラウンドも数が多いのでフリータイムは生徒が主催で競技が行えるらしいです。
 水鉄砲バトルや借り物競走に出場も出来ますし、テントの下でゆるキャンごっこもできますし、屋台を巡ることもオッケーです。
 酒類をバッチリ楽しみ後夜祭まで遊び倒しましょう! 台風も居なくなったので!

【1】水鉄砲バトル
 ゼッケンは【赤】と【青】をご指定下さい。水鉄砲(バズーカ矢ハンドガン)や水風船を投げ合って、ゼッケンが濡れると退場。最後までグラウンドに立っていた人が勝利の競技です。グラウンドには障害物が置かれており、右は赤、左は青、中央は共有スペースに分かれています。相手側の陣地に踏み入れることは出来ません。共有スペースは自由自在に走り回れます。
 水分補給用のバケツは周囲の至る所に設置されており、係がタイミングを見計らって継ぎ足します。バケツの持ち運びは不可です。

【2】借り物競走
 借りられる側でも借りる側でもオッケー。『世界に絶望した少女の涙』とか『怪しい女の子』とか何だかへんてこりんな借り物ばっかりです。
 大喜利大会かもしれません。どうしてか一番面白い札を入れた人を表彰する謎のイベントが起りやすいそうです。

【3】テントで休憩・屋台巡り
 日中を凌ぐテントで休憩したり、教室で休憩したり、ストリート沿いに設置された屋台を楽しめます。
 勿論お弁当を持ち込み可ですが、屋台でのお買い物も祭りならでは! からあげ、たこやきetc…
 因みに、教員や大学生向けにカクテルやお酒を出してくれる屋台も存在するらしいです。やったー!
 未成年は飲酒不可。「こんなお酒ないかなー?」とか云う出してくれたりするそうですよ。

【4】後夜祭
 フォークダンスが行われるグラウンドを眺めながら屋台で購入した飲食物をのんびりと、どうでしょう。
 お酒を飲むのは夜も有りですよね!キャンプファイヤーの火が眩しいのです。
 毎年先生方が大量に購入してくる季節外れの手持ち花火も楽しめるらしいですよ。
 教室も開放されているのでのんびりとしたい方は教室もどうぞ。

●NPC
 希望ヶ浜『味方関係者』や希望ヶ浜系NPCで担当が付いていないNPC
 ・音呂木・ひよの(希望ヶ浜学園高校)
 ・綾敷・なじみ(外部生)
 ・無名偲・無意式(希望ヶ浜学園校長)
 につきましてはお気軽にお声かけ下さいませ。

 その他、クリエイター所有のNPCは登場可能な場合もありますので、お気軽にお声かけください。
 無制限イベントシナリオですので、NPCが一般参加で遊びに来る場合もございます。

 夏あかね所有のNPC(月原・亮やフランツェル・ロア・ヘクセンハウス、リヴィエール・ルメス、紅宵・満月)もお気軽にお声かけ頂ければ!

(各国有力のNPC(※王や指導者)や希望ヶ浜にはいないだろうNPCについては申し訳ないです!
 また、ご希望に添えない場合もありますのでご了承頂けますと幸いです……)

 それでは、楽しんで!
 宜しくお願いします!

  • <マジ卍体育祭2020>秋冷の空、マジ卍の秋完了
  • GM名夏あかね
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年11月24日 22時10分
  • 参加人数52/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 52 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(52人)

羽田羅 勘蔵(p3n000126)
真昼のランタン
ストレリチア(p3n000129)
花の妖精
普久原・ほむら(p3n000159)
燈堂 廻(p3n000160)
掃除屋
黄泉崎・ミコト(p3n000170)
ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
武器商人(p3p001107)
闇之雲
古木・文(p3p001262)
文具屋
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
ナハトラーベ(p3p001615)
黒翼演舞
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
剣崎・結依(p3p005061)
探し求める
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
一条 夢心地(p3p008344)
殿
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
ドミニクス・マルタン(p3p008632)
特異運命座標
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ルツ=ローゼンフェルド(p3p008707)
復讐の焔緋
ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)
無銘クズ
相川 操(p3p008880)
助っ人部員
金枝 繁茂(p3p008917)
善悪の彼岸
越智内 定(p3p009033)
約束
アンジェリカ(p3p009116)
緋い月の
溝隠 瑠璃(p3p009137)
ラド・バウD級闘士
伽藍ノ 虚(p3p009208)
     
ゲンゾウ(p3p009219)
特異運命座標
冰宮 椿(p3p009245)
冴た氷剣

リプレイ


「体育祭! すなわち運動会!」
 水鉄砲勝負を楽しめるとは思って居なかったと風牙はわくわくとしていた。学校の中でこうして遊べるのは悪いことしている気分にもなるのだ。
「台風コロッケを無事撃退して(絵面はおかしかったけど)台風もどこか行ったし、
 せっかくだから無事に開催されたマジ……卍……? 体育祭にきたよ。
 へぇ、日本? の学校ってこういう行事をするの? なにかの戦闘訓練?」
 首を傾いだルツ。常に敵から狙われてることを忘れるなと言うことだと認識したが何一つ分かっていない。
 魔砲の狙いを定めるのが苦手だと言うことを考えれば水鉄砲バトルで命中精度を上げられるはずとハンドガンを手に走り出す。
「魔法ガンナー、セララ参上! ふっふー。ボクはこの水鉄砲で天下を取るよ!」
 ルツの背後から飛び出してセララ。行くぞとびしりと指させば障害物の傍から飛び出し攻撃を重ね続ける。
 魔法騎士セララは二段構えで攻撃の手を緩めることはない。
「そこだー! セララショット!」
 水鉄砲を避けながらベネディクトは「田辺先生!」と呼んだ。どうしてか呼ばれた田辺先生は「ええ!?」と驚いたように見遣る。
「さて、皆準備は良いか? ルールの確認も忘れるなよ、勝っても負けても、この後は暖かい物でも皆に奢ろう」
「ふむ。何方にせよべーくんが暖かい物をくれるとなれば、戦ってみるのも悪くはない。覚悟するといいぞ!」
 ベネディクトに向けて水風船を握りアピールするアカツキ。その傍らでハンドガンを手にリンディスは構えを取る。
「ゲームとはいえ戦いは戦い、勝ちを狙いに行きますよ!」
「ルールですか。とりあえず誰かを盾にしつつ、相手を撃てば良いというのは理解しました」
 リュティスの恐ろしいルールの理解に対してリンディスが「勝てば官軍ですね」と頷いた。目の前のアカツキがやばい奴等を相手にしたと云うように仲間となるセララとルツを振り仰ぐ。
「水鉄砲ばとる。なるほどなるほど」
 射撃には慣れないとリースリットは悩ましげ。個人行動は厳禁だと呟く彼女に「共にアカツキさんを討ち取りましょう」とリンディスが告げる。
「何故!?」
「……ええ。こう……害物を盾にして射線を切りつつ移動しての撃ち合い……。
 隙を突いての射撃、移動、回避、補給……そう考えると随分戦術的でなかなか馬鹿にできない感じがしますね」
 中々訓練にもなりそうな、とリースリットは呟いた。ここで戦略的にアカツキを討ち取らんとするチームが恐ろしくもある。
「的を狙うのは苦手だからな。でかいバズーカタイプの水鉄砲にするか。
 水量も多いだろうし、外しても狙える回数が多いはず……うん。アンナはどのタイプにするんだ?」
 結依の疑問にアンナは「水鉄砲で行くわ」と頷いた。大きな武器は苦手、そして、取り回しの良さを重視したという。結依のバズーカで大きく回避した敵を一気に撃てば良い。敵対するは黒狼隊の面々だろうか。
 軽く握った拳をアンナへぐっと差し出した結依は「最後までのこれるように、頑張ろうな」と頷いた。
「ええ、やるからには勝ちたいわね」
 こつん、と拳を合わせる。やる気は十分なのだ。
「そろそろ水鉄砲での打ち合いは寒いような気がするけど……ええい、今更そんなこと言っても仕方ないか!」
 微笑んだマルク。共に戦うのも狙うのも黒狼隊。竹筒に穴を開けたタイプの水鉄砲を手に、マルクは「これは良い戦略だよ」と頷いた。
「このタイプは一発しか撃てないけれど、一度に発射できる水量は普通の水鉄砲の比じゃないからね」
「成程、それは一見すれば弱く、少年少女に握らせれば『玩具』と思わせる。だが、その意力は時に人を殺めることも――」
 そうして、人を殺めたときの少年の愕然とした表情を見てみたい。そんな田辺先生に「アイツを倒さなくては」とマルクの心は訴えかけた。
「っと、危ないぜ」
「ありがとう、助かったわ」
 此の儘行きましょうと囁くアンナに結依は大きく頷いた。勝利をしたならば彼女の勝利を称え、胴上げをして見せよう。
「これがアカツキ奥義、ボムラッシュじゃ! わははは!!」
 縦横無尽に水風船を投げ続けるアカツキ。自前の焔で乾かして乾燥機にだってなってみせると防御を捨てて水風船を投げ続ける。
「へぶっ!?」
 ――完璧な理論が簡単に破られた瞬間であった。
 防衛に付いていたリンディスが球を誘発し続ける。その背後から顔を出した田辺先生を見遣り、援護射撃を繰り返す。
「ご主人様、このリュティスに援護をお任せ下さい」
 水風船は油断している相手へ――故に、避けたからには勝利だと囮のリンディスを攻撃するアカツキは見事にリュティスに討ち取られたのである。
「オラオラオラ! ちんたらしてたらあっという間にゲームオーバーだぜ? はいそこ田辺先生、心臓もらったー!」
 田辺先生を狙う風牙。その水鉄砲が田辺先生を襲うがリュティスは「ご主人様の為」と水鉄砲を投げ入れる。
「なッ――!?」
 ライフル銃で先手必勝と言わんばかりに水をばらまいて戦場を翔る風牙の前へと飛び出したリンディスは「補給地点は抑えています!」と笑みを零した。
「ッくそ!」
 風牙が身を反転させたその前に、乾燥機状態のアカツキが「風ちゃんもこっちへ来ると良いのじゃ」と悪魔の囁きを呟いていた。
「流石に全員動きが良いな、だが……勝ちは譲らん! 田辺先生、行きますよ!」
「あの少女の苦しむ顔を見ましょう」
 田辺先生のその言葉に小さく笑ったベネディクト。ハンドガンで田辺先生への道を切り開く、その目の前には――
「くっ、どうしてこんな事にしにゃは美少女なのに……」
 その時しにゃこは苦しんでいた。こう言う時美少女は水鉄砲バトルでセクシーでラッキースケベな事に巻き込まれるはずが、そんなことにもならずギャグキャラのように窮地に立たされているのだ。
「衝撃で水風船全部割れたんですけど!! しかも敵中ど真ん中なんですけど!!
 うおおお! 撃たれてたまるかー! 後ろに向かって突撃ー! あっ、ちょっ、寒い――! やだぁっ、もうおうちかえるううう!」


「さてさて、休憩時間だけどあたしにとってはここも売り込みのチャンス!
 助っ人としての競技出場を引き受けて、もっとみんなにあたしの実力を知ってもらおう!」
 此処までの競技でケガをした人が居れば交代しようと操は最大限多くの競技に出るために自分を売り込み続ける。
 先程の水鉄砲バトルでは輝かしい戦果を残した操は現在引っ張りだこだ。
 借り物競走に出て欲しいと懇願される操の隣では『飲んだくれ』と書かれた借り物を手に走り回るジョーイの姿。
「Oh……探すのは簡単そうでありますが何だか猛烈に嫌な予感がしますぞ……
 ちょっとそこのお酒をたしなんでるダンディなおじさまー! そう、そこのあなた! 校長! あなたでございます!
 吾輩と同行していただけませんかね? なに、ちょっとゴールするまで来てくれればいいだけであります!」
「何? 俺は高いぜ?」
「いいんです! じつはー、借り物がお酒をたしなむダンディイケメンでありましてー、あてはまるのが校長しかみあたらなかったわけでー」
 他の飲んだくれは命の危険が付き纏う。少しだけだと呟く無意式を連れてジョーイは全力で走り出す。
「借り物競争、ですか……よくわかりませんねぇ、なんでしょうかさっきの『頭の中身と見た目のギャップでグッピーが死にそうな人』って。大喜利か何かなんでしょうか。っていうかそれ、どうやって判定してるんです……?」
 たこ焼きを抓みながら悩ましげなベーク。彼の視線の先には悩ましげに借り物を眺めるフランが立っていた。
「もし『口にふえるわかめ詰め込みたい人』ってお題なら月原先輩があっちにいたし安心だね!
 えーとあたしの札は『よだれが止まらない何個でもイケる大好物』かぁ。んーと購買部のプリンか揚げパンか……あ!!」
 亮がここに居たら「どうして!?」と叫んだことだろうが――フランはその時気付いた。目の前にベークが立っていたからだ。
「どうしたんです? 『先輩呼びされる後輩』でも引いたんです?」
「ぜーはー、あのねベーク先輩、あたしお題見て色々考えたんだけど、やっぱり先輩しかいないって……一緒に来てください!」
 走って赤い顔、ぜいぜいと肩で息をして上目遣い。周囲が恋の気配だとヒュウヒュウと囃し立てる――が実際は食欲だ!
「いえまぁ、構いませんが、まって、走れますからあだだだだだ……って好物って……食べる気満々じゃないですか……」
 蔦で引き摺るように走るフランのお題を見て呟くベークに周囲がどやどやと沸いた。今日は人間の姿――って、食べるってそう言う意味じゃないですからね!
「ん? 男子生徒が来たな……」
 やっと仕事も競技も一段落して休憩中のブレンダ先生の元へと走ってくるのは男子生徒である。緊張したように一緒に来て欲しいと声を掛けられれば拒否をする教師はいないだろう。
「しかしなぜ私なんだ? 『お世話になっている人』?君の授業を受け持ったことはない気がするが……?
 まぁいいか。行こうなぜ札と私を見て納得した顔をするのだ」
 借り物競走は借り物に為る事もあるのだと妙な納得を感じていれば、次は女子が走り寄ってくる。
「『腹筋割れてそうな人』? 確かに私は割れてはいるがもっと適任者がいるのではないか? まぁいいか。行こう」
 有難うございます、とブレンダの手を掴み走る女子は必死の形相だ。腹筋が割れているかの確認をさせて欲しいと係が言えば、ブレンダは迷うことなくジャージを捲り上げた。
 きゃあああ、と黄色い感性が響き渡る。大騒ぎになる周囲に囲まれながらも休憩にならなかったとブレンダは忙しさに息を吐いた。
「しんどい……」
 走る前からしんどかった。こんなイベントはリア充とコミュ強者の専権事項であって、自身はそこには含まれないだろうと溜息を吐いた――時にピストルの音が鳴る。
「ほら! もう出遅れた! パンッってさぁ!? びくってなったよ!
 いやでも僕もこの世界に来て足も速くなったからそこそこ……!?」
 そう呟いてから、自分でさえ早いのだから皆早くなってるよな、と慌てて手にした借り物は――『友達』
 友達、と混乱したように呟いた。友達って借りられないだろともごもごと呟くが慌てて立ち上がり「なじみさん御免だけど、手伝って貰える?」と手を伸ばす。
「おお! いいよいいよ、で、なじみさんはどんな借り物なんだい?」
 にまりと怪しく笑ったなじみに秘密だと叫んだ定は彼女の手を引いて走り出した。
「ああ? 運動会だぁ? おいおい勘弁してくれよ、ガキじゃねぇんだからよぉ
 だが酒があるってのはいいじゃねぇか! ゲヘヘ……んじゃまぁいくつかかっぱらって、ねぐらに帰って飲むとしますかねぇ!」
 にいと笑みを零したゲンゾウ。高い酒を探すように鑑定眼を駆使して酒を選び続け――一番の瓶を握りしめる。
 あとは、逃走するだけだ。情報網を駆使して土地勘はしっかり存在して居る。
 同じように酒を楽しんで居たのは椿である。こうして行われる催しを眺めて居るだけでも楽しいと盃を傾けるが――
「さて、次は借り物競争……なるほど、札を取り、その指定したものを持ったままゴールまで行くのですね」
 ルールに納得していたのも束の間だ。祭りと言えば参加せずには居られない皆大好きキュートな汰磨羈先生が走ってくる。
「……って、なんですかなんですかっ! 何故わたしをっ!?」
「『胸が大きくて翼のある銀髪娘』!! やけに具体的且つ内容は間違いなく役得級。そして、実在していた!
 失礼する、そこな美人のお嬢さん。御主のその身、お借りする!」
「あっ、ちょっとまって、ひゃああああああああ!!!? お、降ろしてくださいぃっ……!」
 有無も言わせず突如としてお姫様抱っこ。椿を抱えて走る汰磨羈は「酒の邪魔をして悪い!」と声を掛ける。
「も、もう混乱で頭の中満ちていましたがっ……でも、少し楽しかったかもしれないです!
 袖振り合うもなんとやら、貴女のお名前、お聞かせ頂けませんか!?」
「ああ。いいぞ。折角だから、御主の名前も教えてくれ。それと、私も酒に付き合って構わぬかな?」
 勿論、と笑みを零す。借り物競走から友情が育まれ、微笑ましい光景となったが、それはそちらサイドだけ。
 同じように借り物として借りられていくゲンゾウは無数の生徒から『酒飲み』の選択で引っ張られ、悲痛な声を上げながら引っ張られていったのだった。
「あっ? 何だと? 借り物――って其れはグラウンドの競技だろ! 俺ぁは酒を飲むんだ、おい、待て止めろ――!」


「これだけ屋台が出ていると壮観だな。この街に限らず、この世界の住人の祭りにかける情熱は頭が下がるばかりだが」
 そう呟いて周囲を見回した愛無。祭りと言えばたこ焼きだろうかと悩ましげに呟くが――「しかし、あれはやたらと熱いからな。食べ歩きには至極、向かない気がする」と小さくぼやいた。
「お祭りのたこ焼きって、いいですよね。味より雰囲気重視っぽい所ありますけど、それはそれでオツというか。
 唐揚げとかたこ焼きとか、お酒飲みたくなっちゃいますよねー。さすがに制服だとヤバいですかね……」
 年齢が20を越えていても制服が邪魔しそうだと呟く廻に「ふーふー」してたこ焼きを渡す愛無。『ふーふー』というのをしてみたかったのだという。
「熱っ」
 慌てる廻は「でもこう言う時は冷たいお酒でキュウッと冷やせばいいんですよ!」と笑み零す。
「お酒かぁ。わたしお酒はダメなんだけど、折角だからノンアルのカクテルを一つ。サッパリする味のやつが良いねぇ」
 シルキィがどれが美味しそうだと思うかと問い掛ければドゥーは悩ましげに「カラフルなジュースもあるね」と首を傾いだ。
「それならこれとか美味しそうだと思いますよ! あ、僕はジュースじゃないですよ!」
 飲み過ぎないようにね、とドゥーが微笑めば廻は頷いた。シルキィとドゥーの分の注文も任せろと張り切る様子を眺めながら大きいカップの唐揚げを齧る。
 お祭りの醍醐味だと小さくドゥーは呟いた。こうして食べるのは食卓や街で食べるのとひと味違う。折角だからとaPhoneで撮影すれば楽しげに微笑むシルキィと廻、たこ焼きを冷ます愛無が映り込んだ。
「えっへへ、シルキィ先生、お誘いありがとうございます。めっちゃ助かりました、ほんと」
 美少女らしからぬ笑みを零したほむら。中身の普久原 靖さん(30代・会社員)がちらりと覗いたが自身を呼ぶ声へとびくりと肩を揺らす。
 女の子達の輪の中で廻は「あれ、美味しそうですね」と普通にして居るが――ほむらからすれば『え、そんな陰キャには厳しいっすよ』という気持ちである。
 ちら、と彼女を見遣ったのはワルツ。依頼で世話になった事もあり、挨拶をと考えれども少し照れてしまう。封印したシュトッカーの代りにフランクフルトを齧りながらちら、ちらと見詰めるワルツとほむらの視線がぱちり、と合った。
「あ、えっと。ワルツさん、つい先日はどうも。あ、の……大変でしたね。またよろしくお願いします」
「あっ……あの、あの時はありがと」
 照れを滲ませて笑みを浮かべれば、赤面したほむらが「あ、はい、あの、えっと」としどろもどろで繰り返す。どうしたことかお見合いのノリで照れ合うワルツとほむらを見てシルキィは首を傾いだ。
「あ、あー………いや私、身体は女ですが魂はおっさんなので」
「私も、なんか、ほら、……あー、ね? まだ初めましてだし……」
 緊張の二人の背後からがばりと顔を出した廻(酔っている)は「おいひいんれすよ、おしゃけにあいますしぃー」とずいずいとゲソを勧めてくる。
「たこ焼きー焼きそばー……ふふふ色々買っちゃった!」
 このジャージだとお酒はダメかなと慌てるヨゾラに「だいじょうぶれすよぉ」とぐいぐいと廻が絡む。
「一応僕は飲めるんだけど、学校的にダメなら、今日はノンアルコールかソフトドリンクだけにしとくね。
 そうだ、手持ち花火ってのがあるんだよね? いいねぇ僕もやるー! あ、酔っ払いはダメだよ?」
 にこりと笑ったヨゾラに「花火は素面組でやろうかぁ」と養護教諭の優しい声がする。
「楽しいねぇ、お祭り。また参加してみたいなぁ。猫もいたらいいのに」
 次は猫を連れてこよう。そう決意するヨゾラの傍で、まだまだ飲み会が続いていく。
「飲み過ぎはダメだよぉ」と微笑む養護教諭の声を聞きながら愛無に凭れて廻はうとうとと夢の中――

「それに今日はマジ卍祭りだからね。普段より賑やかだし、学園でも見られない珍しい競技や屋台が沢山出ているんだ」
 色々面白いものがあるのだと微笑んだのは文。賑やかだねと周囲をキョロキョロと見回したイーハトーヴは不思議そうに瞬いた。
「今日はとっても特別なんだね! マジ卍だね!」
 意味は分からないけれど、とカクテルを注文しようと二人で脚を勧める。マジ卍に美味しいとはしゃぐイーハトーヴに文は「日が高い内から飲む酒は美味しいね」と頷いた。
「ふふふ、マジ卍においしいねぇ! 他にもおいしいものいーっぱいありそうだけど、どこを覗けばいいのか……うーん……」
「あ、ひよのさん? 丁度よかった! 彼女にオススメが無いか聞いてみよう」
 ひよのを見つけて文は「お疲れ様」と笑み零す。イーハトーヴは噂はかねがねとひよのにぺこりと頭を下げた。
「ひよのさん、お疲れさま。今日は無事に晴れてよかったね。
 いま友人を案内しているんだけど、何か美味しいものや可愛いものを売っている屋台を知らないかな?」
「可愛いものなら、手芸部がコレに乗じて屋台を出しているらしいですよ」
「手芸! ひよの嬢、ありがとう! 文、早速行ってみようよ! ひよの嬢も、よければご一緒しませんか?」
 イーハトーヴのお誘いに「ええ、喜んで」とひよのは笑みを浮かべた。 

 楽しげに屋台を回る三人を見ながらテントで酒を呷るのはドミニクス。
「他人の頑張りを横目に飲むと酒は尚更美味く感じるな」
「……かぁっ! やっぱり昼間から飲む酒は美味いねぇ。あんたもそう思うだろ!
 っと、そろそろ次の競技が始まるみてぇだな。んー徒競走か。この炎天下で走り回れるってのは若さかねぇ。
 ……いや俺もまだ若いがよ。あ、第一走者は6番が1位にイカゲソ賭けるぜ。ドミニクさんはどいつに何を賭けるよ」
 ニコラスが紙コップの中に注がれた生ビールをおかわりしながら揶揄うように言えば、ドミニクスはうん、とグラウンドへと視線を遣った。
「そうだな、俺は2番が1位にチーズを賭けよう。
 しかし、やっぱいいもんだなこういうのはよ。ガキがガキらしく出来るってのはいいことだ」
「かはは!! ガキがそうあれるのもだがそいつらを見守れるってのも得難いものじゃねぇか。
 そら酒だ酒。今この時間を楽しもうじゃねぇか。なぁ?」
 賭けの勝者へとイカゲソを投げ寄越しにやりとニコラスは笑う。こうしてのんびり酒を楽しむのもたまには良い。

「千客万来の大歓迎なの! ガン飲みブチかましていくの!
 校長の高そうな酒ぱちってエターナル飲酒ブリザードしてやるの!」
 開口一番、ゆるふわかわいい系『花』の妖精出会ったはずのストレリチアさんは盃を掲げて音頭を取った。
 つまみもじゃんじゃん持ってこいと命じれば王(と書いて校長と読む)の宝物庫も開くというものだ。
「中国の仙人、日本の妖怪、北欧の神話。酒に酔うことで神に通じるという伝承は数多い。
 酔いの神秘を説明付けるためとも言われるが、なにより酔うことで人生の苦労を洗い流せると人類は考えていたんだろうな」
 貯蔵していた酒を飲めと無意式は大盤振る舞いだ。スコッチだろうが何だって存在する。そもそも、ここは『本当の』東京ではないが信じる者達には東京に感じるのだ。嘘と偽りに濡れた者でも信ずる者は救われる――そう! 信仰でも!
「校長先生、お疲れ様です! 疲れて無くてもお疲れ様です! あ、乾杯いかがですか!?」
 校長オススメ柑橘ジュースのノンアルコールカクテルを飲みながら茄子子はにんまり笑顔。
「ああ。乾杯か。そりゃあ良い。其れには気分を高揚させる作用があるからな」
「そうですか!」
 其れは兎も角顔が好きだった――
「校長先生奇遇ですね! 会長も嘘が好きなんですよ!(嘘)
 本物に近づけようと極限まで努力した偽物は、本物であるそれよりも思いがこもっているはずなんです!(適当)」
 嘘と適当織り交ぜた茄子子にも無意式は「成程」とやけに真面目返答してくれる。そこが推せるそうなのだ。
「無名偲ちゃんは校長でお仕事が大変そうだからハンモがいっぱい癒してあげるよ!
 ちゃんとaPhoneで接待の仕方を調べてきたからダイジョウV」
 繁茂はにんまり笑顔。「まずはふとももをギュッってくっつけて、おなかの下にできたくぼみにお酒を流すよ!」と告げた後、首を傾げ「大人の男性はこういうのが好きなんだって、ほんとなの?」と問い掛ける。
「それは教育者の前ですると恐ろしい事になる奴だ。知っているか、この世界はそういったことには厳しいんだ」
 無意式が首を振れば繁茂は成程、と呟いた。ならば、金比羅船々で遊びたいとお座敷遊びをご提案。
 それ位ならばと肯く校長先生は今日も気怠げなのである。
「午前中頑張って応援しまくったもの、午後は私も競技参加よぉー!
 レバースポーツ、これは大人の競技……頑張る生徒達に負けてられないわぁ!」
 aPhone10で検索したPber eatsでつまみと酒を注文し続けるアーリア先生。その領収書は全て無意式校長宛である。
 屋台のチープな味に紙コップの生ビール。人のお金の出前と秘蔵の酒で心も躍るという者だ。
「しかし様々なお酒を味わう、これは肝臓界の十種競技みたいなものよねぇ、えぇ」
「何やらいい酒が飲めるイベントがあると聞きまして。
 中高の行事で酒が飲めるのは如何かとも思いますが、置いておきましょう」
 そう言ったのは勘蔵。希望ヶ浜学園は幼稚園から大学まで存在する為に何も問題ないのだ。そう、未成年じゃなければ!
 勘蔵の肝臓が危険域に達さぬように。レアっぽい酒と肴を適度に楽しみちびちびと。
 こう言う時に食べるチープな食事のおいしさって何でだろうとしみじみと呟く中年なのだった。
「よう、ストレリチア殿。例のブツ、持ってきたぜ……ほら」
 どん、と置いたのは大迷宮。代金は校長にツケてレバースポーツに洒落込もうと幻介が小さく笑う。
 好きなだけ飲めと言われましたしね、と頷いたのはアンジェリカ。飲むならつまみが必要だと屋台で買ってきたものをレジャーシートに並べてスポーツ観戦を続けていく。
「あ、このお酒美味しい……。どうぞどうぞ、空いてますよ」
「おっと、有難う」
 アンジェリカはお酌をしながら幻介が持ってきた酒にテンションをアップさせるストレリチアを眺め続ける。
「と、校長といやあ……溜め込んでる酒を開放してくれるそうじゃねえの。
 いやー、流石は校長様々……俺ァ、アンタについてくぜ!
『タダで』こんないい酒を呑ましてくれるんなら、俺ってば何でも言う事を聞いちゃうね!」
「何でも……」
 アンジェリカは呟いた。この『なんでも』がアダになるとは幻介も思っては居まい――
「学祭で買ってきたたこ焼き呑みって結構アガるの。おでんもほしいの。
 近所の飲み屋の出前してやるの! 全部校長につけとくの!
 校長って人がどんな人かは知らないけど、偉いっぽいからいいの。細かいこと気にしたら妖精なんてやってらんないの! 呑みまくるの!」
「ええ! さぁてストレリチアちゃん、今日が天下分け目の合戦よぉー!
 私には肝臓のパンドラがある! 貴女には幻介くんのパンドラがある! いざ、勝負よぉー!」
 ――え、と言うのも遅い。幻介はストレリチアの『デッキ』に組み込まれていざ、レバーデュエルスタートである。

「ああ、もう!」
 アンジェリカがそう言ったのは虹の架け橋を鮮やかに彩ったストレリチアが撃墜されたからであった。
「……レインう゛ぉRe:v」
 その様子に小さく笑った勘蔵の視線は明後日へと向いていた。
「あー、若いっていいなぁ。みんな青春してるなー。中年のおっさんには眩しいわー。
 過ぎ去った学生時代に戻りたくなってきました」


 教室のベランダから見下ろせば、キャンプファイヤーの焔が揺らいでいるのが見える。
 外で過ごすのも良かったが、一応は『先生』と『生徒』だ。武器商人はヨタカを覗き込み小さく笑う。
「大っぴらにくっついていても目立つし……それに『アストラルノヴァ先生』は人気だしね?」
 愛しい番のその言葉に、ヨタカは揶揄うように微笑んで武器商人の頬を撫でた。初めての体育祭はとても楽しかったと笑う彼に争いを好まない優しい彼が平和な催しを心から楽しんだ事が武器商人は喜ばしい。
「祭もフィナーレ……外では生徒や他の先生たちがワイワイ楽しくフォークダンスをしたりお酒を飲んで楽しんでいる……。ふふ、楽しかったね……」
「そうだね、アストラルノヴァ先生。とても楽しかった」
 笑顔が溢れる風景は夢を見る景色。平和で、楽しくて、みんなが笑っていて――一時でもこうして笑みが溢れる場所にいられる祭りは楽しくて。
「紫月……良ければ俺と……」
 そう声を掛ければ、武器商人は教室の中へと彼を誘った。おいで、と呼び掛け一緒に踊ろうと。ドレスじゃなくてジャージだけれど――それでも、小さなダンスホールのようにこの場所は美しい。

 ノンアルコールカクテルと複数のおやつとおつまみ。空き教室で下を見下ろすウェールはちらりと背後を見遣る。
 同じ犬を思わせる獣人であるモーントはどうしても息子を思い出す。何も不安がなければいいがと伺えば楽しそうにミルクセーキを飲む彼が微笑んだ。
「見てみて。オイラこんなの持ってきたんだ。『ファミレスという施設のメニューを再現したドリンクバー適当混ぜ風ドリンク』ってやつ」
 どうかな、とアクセルがぱちりと瞬けば颯弥はどうだろうかと少し悩ましげ。そんな様子を眺めれてウェールは「面白いな」と微笑んだ。
「モーント。学校生活は順調か? お小遣いの為だからって掃除屋とかの危険なバイトはするなよー。
 ……お前の昔は知らないけど、俺はお前の先輩で、先輩は後輩を助けるもんだから頼れよー」
「あ、ウェールさんが絡んでる」
 からからと笑ったアクセルに「無理はしない」とモーントは大きく頷いた。そうやって笑って入るのを見るだけで心はほうと暖かさに包まれるのだ。

「熱気に包まれた昼間と違い、涼しい夜風とキャンプファイヤー……。
 とても、好い雰囲気だ……そう思いませんか? クレマァダさん」
 そう、囁くフェルディンにクレマァダは頷いた。化け物が出た、幽霊だと振り回されることは多けれど、この東京が楽しいことをクレマァダは気付いている。
 ――この街は、例え薄氷の上とはいえとても平和で、平らかで。
 ああ、だから我も、己が何者であるかなど、忘れてしまいそうになる。
 少しだけ妬ましくて、呆れるほどに尊い場所。そんな場所で、そうとフェルディンは頭を垂れた。まるで騎士が姫君にするように。優しくも恭しく。
「宜しければ私と一曲、ご一緒して頂けませんか?
 今宵この時は、立場や使命、そのほか一切を忘れて愉しみましょう。飾る必要も無いし、隠す必要も無い」
「はい。……喜んでお受けします、フェルディン卿」
 この時だけは只のクレマァダとフェルディンで入れるから。手を取って、足を踏んで躓き、小さく笑う。
 慣れないダンスに小さく笑う。少しずつ合う呼吸に。どうしてか感じるくすぐったさが心地よくて。

「――」
 もぐもぐと静謐溢れる秋の夜にナハトラーベは只管に食べ続けていた。冷めやらぬ熱気に和らげられ、揺らぐ灯りは遠くに踊り子を映す。妖精郷のようだと感じる者の傍らに仏頂面で焼き鳥を齧る者が居なければ――だ。
 昼からずっと食べ続け得ていた。ナハトラーベにとってはこのイベントは食事で或る。
 その内、飛び立って行くであろう彼女は旋回宙返りの曲芸飛行を行ったと思えばまたも食事に戻っていく。それはナハトラーベにとっての腹ごなしであるが――見るものが見れば踊りであるのかもしれない。
 虚はひよのの傍でぼんやりと過ごしている。『この世の全ての悪』と定義するギフトが彼へと与える影響は大きなものなのだろう。ひよのは特待生ではないが、それなりの能力を備え持っている――故に、そうした事象に影響は受けないのだろう。
「……自由に過ごしてくださいね」
「……ええ。楽しんで下さいね。何かあれば声を掛けて頂ければ」
 頷く虚は歩いて行くひよのの背をぼんやりと眺める。
「ひよの先輩! めっちゃ走った! 付かれた! 秒ぺで座りたい。マジツラペ……せんぱーい! 癒してーっ! いーやーしーてーっ!」
 ぐいぐいと手を引く秋奈に「座るんじゃないですか?」とひよのは小さく笑う。花火をしたいと手持ち花火をぐるぐると揺らがせて。
「まだまだ付き合って貰いますからね!」
 こうして共に楽しめば疲れだって吹っ飛ぶのだと胸を張る。花火の明りに照らされたらひよのの笑顔はとても美しく見えた。
「あ、ひよのさん! 後夜祭の時間だよ」
 手を振ってにんまりと微笑んだ花丸へお待たせしましたか? とひよのは静かに問い掛けた。
「これも皆やひよのさんが頑張って台風を退けてくれたから、今日の日を迎えられたんだよね?
 だから、改めてありがとね、ひよのさんっ!
 本当は花丸ちゃんも依頼に協力出来たら良かったんだけど……こればっかりは、ねー?」
「ええ。私も……まあ、低気圧(あいつ)には苦戦しましたから」
 般若の如き顔をしたひよのに花丸は小さく笑う。
「ひよのさんひよのさんっ!
 花丸ちゃん達も体育祭の最後のシメ、フォークダンスを一緒に踊ろうよっ!
 見てたら段々体を動かしたくなってきちゃってさ、えへへ」
 手を差し伸べて、「踊って頂けますか?」と揶揄えば「喜んで」と手が重なった。
 こうして友達と二人で一緒。其れだけで幸せだとぎこちないダンスを踊ろう。今日の『楽しい』がもっと続くように――

 わなわなと夢心地は震えていた。
「マジ卍後夜祭がこんな普通に、平凡に、終わって良いわけがないのじゃ……。
 最低でも校舎爆発イベント……できれば学園がロボットに変形して飛行……。
 そーれくらいのことが無ければ、マジ卍祭りの終焉に相応しくないのじゃ。
 ぬおー、この由々しき事態に麿ができることと言えば……! そう……!!」


 \マ ジ 卍 D A N C E/

 突然夢心地は無意式の手を取り、キャンプファイヤーの前へと滑り込む。
 ばちばちと弾ける火の粉の中で「何をするんだ」と問うた無意式に真面目な声でこう言った。
「もはやフォークってる場合じゃない。事態は急を要するのだ」

 故に――!

  ̄|_|○ <これにてマジ卍祭り2020 終了じゃ~
 ○| ̄|_ <また来年もよろしくたのむ。

 マジ卍祭り2020・完!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

咲々宮 幻介(p3p001387)[重傷]
刀身不屈

あとがき

楽しんで頂けたなら幸いです!
肝臓は大事にしてね!!

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