シナリオ詳細
    <Phantom Night2020>パープルキャンディの魔法
  
オープニング
●
 パープルの空色にオレンジのランタンが灯る。
 カボチャの中に入れられたロウソクの明かりは眩しいばかり。
 けれど、楽しいファントムナイトも今夜の十二時に終わってしまう。
 魔法が解けてしまう最後の夜に、もう一度だけ――Trick or Treat!
「とりっくおあとりーと!」
 夜の希望ヶ浜に悪戯な声が響き渡る。
 振り返れば、獏のぬいぐるみから顔を覗かせる『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)が居た。
 ふわふわのしっぽにウサ耳のミニシルクハット。
 赤いチェックのベストからは大きな時計が揺れている。
「ふふ、ファントムナイトも今夜で最後ですね」
 ポケットからお菓子を取り出した廻はイレギュラーズの手にそれを乗せた。
 パープルの包みに入ったキャンディが数個、手の中に転がる。
 視線を上げれば廻の後ろを翼の生えたスカイウェザーが通り過ぎていった。
 目を瞬く。普段であれば有り得ない光景だろう。
「驚きました? ファントムナイトの数日は飛行種も翼を隠さなくて大丈夫なんです」
 再現性東京の一区画、希望ヶ浜の住民はこの世界を受入れる事が出来なかった人達の集まりだ。
 現代日本を模して作られたこの街に引きこもって、世界の在り方を否定し生活している。
 希望ヶ浜に住む人達が見るテレビの天気図は日本の形をしている程だ。
 けれど、ファントムナイトの魔法が掛かる数日だけは『仮装や大道芸』ということで、翼や魔法を受入れる事が出来るというのだ。
「だから、僕もこうして仮装をしてるんです」
 ふわりと微笑む廻は何処か嬉しそうだった。
 希望ヶ浜の住人が現実を許容出来る数少ない日なのだ。
 怪異の秘匿をしなくていいというのは、この街を裏から支えている廻にとって安息の日なのだろう。
「希望ヶ浜でも色々な所でファントムナイトのお祭りが開催されます」
 商店街や公園、ショッピングモールなど様々な催しが行われるらしい。
 中でも希望ヶ浜センタービル前のファントムナイトフェスは規模が大きく、練達の他地区からも人が来る程なのだ。
「僕もセンタービルのファントムナイトフェスに今から行くんです」
 パープルとオレンジのガーランドが飾られ、カボチャのランタンが揺れる夜の街。
 並ぶ料理はパンプキンパイにキャンディ。チョコレート菓子。
 ビールにワイン、果実酒やキャロットジュースもあるだろう。
 夜は冷える。温かなパンプキンスープが美味しいかもしれない。
 他にも、センタービルの展望台から見る夜景はとても綺麗なのだという。
「よかったら一緒に行きませんか?」
 廻はに和やかに笑ってイレギュラーズに手を差し出した。
 魔法が解けてしまう最後の夜に、もう一度だけ――Trick or Treat!

- <Phantom Night2020>パープルキャンディの魔法完了
- GM名もみじ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2020年11月22日 22時15分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
 肌寒い風が頬を撫でていく。浚われた薄紫の髪が揺れていた。
 ディアンドルの黒いスカートを靡かせシキは、普段とは打って変わって妖艶な女性の姿をしているウォリアに手を上げた。
「やぁ、ウォリア。食事かい? ふふ、実は私もなんだ。今日は外で食事をしたい気分でさ」
「うむ……普段の姿では、「食べる」行為が出来ないからな」
 ウォリアと食事が出来る機会は貴重だと藍玉の瞳を細めるシキ。
 シキが選ぶのはカニクリームコロッケと。
「お肉食べたい。お肉! ウォリアは何を食べるの? もし気に入ったものがあれば奢らせておくれよ?」
「では同じものを。あとはこのパンプキンパイというのを……」
 ウォリアとシキは一緒に食べ物を分け合う。
「これが『味』か……これは……」
 甘い。塩辛い。温かい。ウォリアにとってどれも感じたことの無いもの。
 その姿が可愛くてシキは顔を綻ばせた。
 楽しいという感情がウォリアを包み込む。それはシキと共に居る間の魔法なのだろう。
「ん……ここ、来るの。初めて」
 チックは白いおばけの仮装をしてお店の中へ。沢山のメニューが並んだ店内に目を瞬かせるチック。
「寒い日には……温かいものが、一番……パンプキンスープ。おれにも……一つ、ください」
 火傷しないように少し冷ましてから一口食む。
 蕩ける甘さが舌を擽り落ちて行った。
「ほかほか。安心、する」
 友達に作ってあげれば喜ぶだろうか。
 今度本屋でレシピを探してみようと、もう一口スープを掬った。
「楽しい楽しいファントムナイト、今のわたしは家政婦蚕!」
 シルキィは愛らしい格好で最後の夜を楽しんでいた。メニューから選ぶのはパンプキンパイとクラムチャウダーお水とホットワイン。
「パイは切り分けて貰えると助かるよぉ」
 向かう先は廻の所。ベンチに座っている廻に向けてシルキィは声を掛ける。
「ホットワインのお代わりはいかがですか、ご主人様? ……なんてねぇ」
「ご、ご主人様って」
 いつかのカフェを思い出すとシルキィは笑った。
「このワインはファントムナイトに託けた、頑張るキミへのせめてものお礼」
「ありがとうございます。嬉しいです」
 満面の笑みをシルキィへと返す廻。
 二人でパイを分け合って。温かいワインで寒さも吹き飛ぶよう。
「酔いが回りすぎないよう、時々お水も飲んであげてねぇ~」
「ふふふ。楽しいです。ありがとうございます。シルキィさん」
「どういたしましてぇ~」
 寒空にほわほわとあたたかな空気が流れていた。
 レオパルの衣装を身に纏ったリゲルが猫の姿のポテにゃんを連れている。
 尊敬する人と同じ衣装を身に纏うのは気が引き締まる思いだろう。
 けれど、それ以上にリゲルは籠を両手一杯に抱えるポテトが愛らしくてたまらない。
 ぽてぽてと一生懸命歩く猫の姿に胸が締め付けられた。
「……リゲル、籠持って……」
「ああ勿論! 籠くらいお安い御用さ!」
 片手で籠を掴み、もう片方の手でポテトを抱き上げる。
 しゅんとしたポテトの表情もまた庇護欲にかられるものだ。
「そうだ。Trick or Treat! この姿なら言っても良いだろう?」
「ふふ。今日のためにパンプキンクッキーを練習し作ってみたんだ」
 ポテトの籠にどっさりクッキーを入れるリゲル。その中から一つ取り出してポテトの口にほおりこむ。
「じゃあこっちからも。ポテト、Trick or Treat?」
 リゲルの言葉にポテトは用意していたお菓子を忘れた事に気付く。
「お菓子ないから、悪戯っ」
 背伸びしてちゅっと唇を重ねるポテトにリゲルは満面の笑みを返した。
 ベンチに座ってキョロキョロと辺りを見回すワータイガーマリア。
 その背後にそろりと近づくのはワーウルフヴァレーリヤ。
「がおー! お菓子を差し出さなければ、食べてしまいますわよ!」
「わぁ!?」
 飛び上がったマリアは振り返り、其処に待ち人が居た事に安堵した。
「なんて、驚きまして? ごめんなさい。こんな機会めったにないから」
「も、もぅ……驚いたじゃないか。こんなに可愛らしいワーウルフじゃ不意でなければ怖くないしー!
 このっ……このっ♪」
 むにむにと愛おしさを込めてヴァレーリヤの頬を挟み込むマリア。
「今日は、フルーツケーキ、焼いてきましたの。貴女のために。受け取って下さるかしら?」
「君の手作りケーキ! 美味しそうだね! 勿論いただく! 私の為にってところが一番嬉しい!」
 マリアは口元に運ばれたケーキをパクリと頬張る。
「私からも! お返しにどうぞ♪」
 口元に添えられたマカロンを食んで。幸せそうに微笑むヴァレーリヤ。
 お菓子を受け取ってしまったならば。
「貴女にイタズラできなくなってしまうのがちょっぴり残念ですわね?」
「君ならいつでもイタズラできるじゃないか♪」
 むにむにと頬を撫でて。笑顔溢れるハロウィンの夜。
●
 グレイルは久しぶりのお祭りに心躍らせていた。
 せっかくだからと此処でしか買えないものを探してセンタービルへと向かう。
 魔法の言葉とお菓子は忘れずに籠に仕舞い。
「……トリックオアトリート……だね」
「はい! お菓子をどうぞ!」
 廻はグレイルの手にお菓子を置いた。
「……あ……僕の爪には気を付けて……怪我しちゃったらいけないから」
「綺麗にされてるんですね」
 黒く艶やかな爪をじっと見つめる廻。その目の前にグレイルからのお菓子が揺れる。
「……僕からも」
 グレイルに手を振って廻は屋台を回る。
 視線を上げるとジルーシャがお菓子を子供達に配っていた。
 ハロウィンの醍醐味はやっぱり魔法の言葉だろう。ジルーシャも子供の頃楽しみにしていたのだ。
「さ、呪文をどうぞ♪ ちゃんと言えるかしら?」
「「トリック・オア・トリート!」」
 子供に混ざって廻もジルーシャの前に出てきた。
「あらあら。アンタも? 仕方ないわね」
 ジルーシャは廻の手にキャンディを乗せる。その背に精霊の気配を感じ飛び上がったジルーシャ。
「キャーッ!」
 しかし、其処に居たのは悪戯好きの精霊達。
「あぁびっくりした……ってアラ、アンタたちも欲しいの?」
 精霊達にお菓子を配りながらジルーシャは楽しげに微笑んだ。
 冷えてきた身体を温めるのはホットワインだろうかと屍乙女の姿で店を回るアーリア。
「……あら、あそこにいるのはかわいらしい廻くん!」
 そっと後ろから近づいて、冷たくなった指を頬に当てる。
「わ!?」
 その場で飛び上がった廻にアーリアはにんまりと笑った。
「ふふ、びっくりした?」
「アーリアさん! びっくりしちゃいました」
 廻は傍らのぬいぐるみの手でアーリアの指をむにむにと掴む。
 先日、燈堂家で晩酌した時も周りをうろうろしていたマレーバクのぬいぐるみだ。
 指先の感触はふわふわしていて触り心地が良い。
「……飲みすぎちゃだめよぉ?」
「まだ、大丈夫ですっ!」
 アーリアの言葉に赤くなってきた顔で胸を張る廻。
 されど、ホットワインとおつまみは溜らない美味しさなのだ。
 温かくなったら、センタービルの展望台へと向かおうか。
「廻くんが支えているこの街の楽しいお祭の日を、上から見てみたいもの!」
 広がる夜景はきっと美しいに違いないのだから。
「とりっくおあとりーと、です……!」
 剣を縦に構えたメイメイがぴょこりと首を傾げる。
「それ言われたらお菓子をどうぞ、やね。勇敢な騎士様、ささ…これをお受け取り下さいな」
 蜻蛉は可愛いもこもこの羊のお顔のクッキーをメイメイの掌に乗せた。
「では私からのトリートは黒猫のチョコクッキーを」
 羊と黒猫。お互いに考えている事は同じで。
「……んふふ、おおきに」
「ふふ」
 蜻蛉とメイメイは愛らしく笑い合う。
 騎士らしく雪女をエスコートしてベンチに座るメイメイ。
「そや、せっかくやから記念にお写真撮らん?」
「記念の写真です、か? はい、喜んで……!」
 得意げにaPhoneを取り出した蜻蛉。しかし、使い方をいまいち理解していない!
 メイメイに操作を教えて貰いながら四苦八苦。
 ハロウィンの装飾を背景に二人で自撮りをするのだ。
「お顔近づけてもええやろか? ふふっ」
「3、2、1……! えへへ。希望ヶ浜の子たちがやっていて、ちょっと憧れていたんです、よ。
 映え、というそうです」
「映え……ふぅん」
 ハロウィンの楽しい一夜。初めて味わう感覚に心が躍るようで――
「何だか吾輩単なるコスチュームチェンジっぽい感じに変身したでありますが、せっかくのハロウィンですゆえ、はっちゃけるしかありませんな!」
 ジョーイはとっておきのトリックで恋人未満のカップルたちの為に一肌脱ぐ心算だ。
「うなれ! 吾輩のいまじねーしょん!」
 ゾンビっぽい幻影を演出してヒロイックな展開を作り出す。
「幸せな2人はゴールイン! してもらいますぞ! ぬふふ!」
 ジョーイは幸せそうなカップルの背後に突撃していった。
「鬼灯くん! お化けさんがいっぱいいるのだわ!」
「そうだね、章殿。魔法が溶ける時間もあと少し。それまで目一杯楽しもうじゃないか」
 腕の中の姫はお化けになっても天使だと鬼灯は頷く。
「鬼灯くん! 私呪文を覚えてきたのよ! 睦月さんに教えてもらったの!」
「ほう、睦月に? どんな呪文だ?」
「とりっくおあとりーと! お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうのだわ!」
 天使の可愛さダイレクトアタック。
 なんとうっかりお菓子を切らせてしまった鬼灯。
「じゃあ悪戯ね!」
 鬼灯の頬を掴んで額を摺り合わせる章姫に目を奪われる。
 余りの可愛さに天に召される所だったと鬼灯は語った。
「可愛らしい兎さんを追いかけてきたら、不思議の国に飛び込んだというわけかな」
 とてもよく似合っていると愛無はベンチに腰掛けた。
「あまね君も実に可愛らしい。今日のような別な日にも、君とあえて嬉しく思うよ」
 出来る事なら毎日でも構わない。そうすれば毎日が特別だと愛無が紡げば廻の頬が赤く染まる。
「あ、愛無さん……っ、照れます、から」
 しどろもどろに手を振る廻は恥ずかしさのあまり傍らのあまねを愛無の顔に押しつけた。
 照れてはいるが拒絶ではないのだろう。
 手にしたサンドイッチと廻のパンプキンパイを半分ずつ分け合えば楽しい時間が過ぎて行く。
「……時に寒くないかね。身体は労わらねば。僕の上着を羽織るかね?」
「えっ」
「少々気恥ずかしいが『上着を貸す』というのに憧れてね。今日は、本物を羽織ってきた。サイズもあわせてきたゆえに。問題ないはずだ」
 愛無はあたたかな上着を廻に被せる。照れた様にはにかむ廻は自分が着けているモコモコのファーが付いたチョーカーを解いて愛無の首に巻いた。
「愛無さんもあたたかくしてくださいね」
 ゆるりと灯るは不可解な情動。愛無は心の奥底が何だかむず痒くなったのだ。
 街の明かりを眺めながらイーハトーヴと舞は物思いに耽る。
「あなたの本来の肌色はまるでレテの川淵に近い病人の様だから、あなたは気にしているのかしら?」
「そうだね、少しは気にしてる、かな」
 ベンチに座った赤ずきんへ狼が答えた。
「大丈夫よ。あなたはまだ温かい。当たり前だけどね。その狼の姿はもふもふで温かそうね。私の体温は、もう冷たいの」
 そろり舞の冷たい指先がイーハトーヴに触れる。
「……ひゃあっ!?」
「なんてね、これが私のイタズラ」
「び、びっくりしたぁ…!」
 イーハトーヴはプルプルと身体を震わせて暖を取った。
「はい、飴ちゃんをあげるわ」
「あれ? 飴もくれるの? ふふ。悪戯もお菓子もって、何だか贅沢だなぁ」
 イーハトーヴの言葉に小首を傾げる舞。
「ええとイタズラをしてからお菓子をあげるのよね? 違うの? ……騙されたわ」
 イーハトーヴのトリックオアトリートに困った様に舞は焦る。
「え、困ったわ。もうお菓子はないの。うう、優しくしてね?」
「もふもふ攻撃っ!」
「きゃっ」
 じゃれ合い転げる二人の微笑ましい姿が夜の明かりに照らされていた。
●
 夜妖退治の帰り黒猫ワンピースのひばりと、魔女の衣装を身に纏ったイルミナはセンタービルのハロウィンイベントに来ていた。
 最初に目指すは展望台。競争しながら駆けて行き、エレベーターを降りると其処には幾千の明かりが灯された夜景があった。
「わぁ! イルミナさん、すっごい綺麗ですよ! キラキラしてパーッとして!」
「そうッスね、とってもきれいッス!」
 夜景に目を輝かせるひばりの横顔を見つめて、イルミナは言葉を紡ぐ。
「……そうだひばりさん、もし良ければ、なんスけど。イルミナの事はイルミナ、と呼び捨てにしていただければ」
「それでしたら、わっちのことも『ひばり』って呼んでほしいです!
 イルミナさっ……、イルミナ! お願いしますよ!」
 小さい頃には何の抵抗も無く出来ていたのに、少しだけ大人になった少女達は頬を染めて笑う。
「イルミナも呼び捨て、ッスか……? ん、んん……わかりました!
 では……改めてよろしくッスよ、ひばり!」
 お互いの瞳に夜景が煌めいて。掛け替えの無い友達とのはじまりの一頁。
 人混みの中シラスとアレクシアはショッピングに来ていた。
 賑やかで煩雑な町並みにも慣れて。楽しいと感じる様になってきたシラス。
 アレクシアがあの自凝島から戻って来て以来、シラスは彼女と一緒に居る事が嬉しくて浮かれていた。
 大切な人が居なくなってしまう絶望はシラスの心に楔を打ち込んだのだろう。
 だからこそ、平穏な日常が楽しく思える。
「次はこっち!」
 aPhoneのアクセサリを手にどれがいいかと迷う二人。
 アレクシアはシラスの横顔を見ながら「これにしよう!」と手に取った。
 王冠を被ったカボチャのストラップ。
「かわいいし、ちょっとシラス君っぽいでしょう?」
「じゃあアレクシアにはaPhoneカバーだな。今のまま落っことしたら割れてしまいそうだから。黒猫を模したケース、耳付きだよ! はい、キュートでしょ!」
 アクセサリを早速着けて、記念撮影。
 二人が入るようにカメラを自分に向けるアレクシア。
「へへ、シラス君がこういう格好してるのも珍しいからね! 記念記念! このために使い方覚えてきたんだからさ! ね!」
 フラッシュが光って思い出の栞が一つ刻まれる。
「はい。廻殿。これどうぞ」
 アーマデルは廻に人魂型パチパチコットンキャンディを押しつけた。
「わぁ、可愛い。ありがとうございます! あ、展望台に行くんですか? 僕も一緒に行きます!」
 廻とアーマデルはエレベーターに乗って展望台に上る。
 色取り取りの光。生活の証。
「こんな狭い範囲に、こんなに沢山の光がひしめいているのは何だか不思議な感じがする」
 異世界からやってきたアーマデルにとって希望ヶ浜は不思議な箱庭に見えるだろう。
「これを『当たり前』だと思うようになったら、ここに『馴染んだ』ことになるんだろうか」
 けれど、故郷を忘れる事は出来ないし、自分の大部分が其処に根付いているのだとアーマデルは語る。
「忘れなくても良いんですよ」
 この街に来る前の記憶が無い廻は辿る事の出来ないものだ。
「ちょっとずつ『楽しんで』行けば良いんです。あ、これパチパチするやつだ」
「……これなんだろう、よくわからない味がするな」
 人魂型パチパチコットンキャンディを舐めながら、二人は微笑みあう。
 二人の視線の先にシティガールメイ=ルゥが居た。
「今年の仮装はタワー。則ちメイ自身が都会になっているのですよ!」
「おお」
 お腹の部分にシティガールと書かれた着ぐるみを着てメイは廻達の前に移動してくる。
 着ぐるみは手足が出るようになっている優れものであった。
「さて、メイがここ展望台にやってきた理由はただ一つ。センタービルの展望台にメイタワー。
 タワー・イン・タワーでもはや無敵と言っても過言ではないのですよ!!!」
 ドヤァンと背景にオレンジと黄緑の背景を背負ったメイ。
「フフフ……これほど都会なメイに、皆さんもきっと目が離せないはずなのですよ」
 とりあえず、記念撮影は皆で一緒にパシャリと。
「人間のソアも、新鮮で可愛いね」
「いつもと逆でちょっと楽しい」
 手を繋いで夜景を眺めているのはソアとエストだ。
 ソアは指の絡む不思議な感触を楽しんでいる。指先から伝わる熱にエストの鼓動が揺れた。
 視線を上げれば近くにお互いの顔が見える。
「ねえ、お菓子。それともボクの悪戯が欲しい?」
「ふふ。悪戯、って言ってみたいけど、ちゃんと。お菓子は持ってきたよ」
 口元に差し出されたチョコをぱくりと食べれば舌の上に甘さが広がった。
 エストは自分の手からチョコを食べるソアに悪戯心が湧いてくる。
 そして、ソアの白くて柔らかい頬に唇を押しつけた。
 目を丸くして固まるソアに「いつかの、お返し。びっくりした?」なんて紡いで。
 けれど其れだけじゃ足りない。
「ソアを独り占めしたいな、って思ったらつい」
「いいよ、全部食べてね」
 唇に挟んだチョコをエストの口元へ近づける。
 瞼を落としたソアの唇に。甘くてあたたかな感触が重なり――
「ファントムナイトも、今日で終わりか」
「長いようで短かったですね。お祭り騒ぎで賑やかだったのが、終わると少し寂しく感じそうです」
 センタービルの展望台ではベネディクトとリュティスの二人が煌めく夜景を眺めていた。
「俺の世界ではこの様な祭りは無かったが……皆の姿を見るのは楽しかったな。リュティスはなりたい姿などは無かったのか?」
「特には思いつきませんね。ご希望がございましたら善処は致しますが……約束は致しかねます」
 メイドという役目を休み訳には行かないのだとリュティスは紡ぐ。
「眺めは確かに壮観ですね。遠くまで見渡せますし、灯りがとても綺麗で幻想的な景色に思えます」
「確かにこの景色はこの場所からでしか見る事は出来ないだろうな」
 されど、肌寒さはベネディクトの肩を掠めて行き。
「少し冷えて来たな、そろそろ戻ろうか」
 紡がれた言葉と共にリュティスの肩にマントが掛けられた。
 ベネディクトへと抗議の視線を送るも強引に羽織らせられ眉を寄せるリュティス。
「……また来年も、同じ時を俺と過ごしてくれるか? リュティス」
「いつも申し上げておりますが、私は常にご主人と共にあります」
 心配しなくてもずっと傍に付き従い、同じ時を過ごす。それは揺るがないのだとリュティスは告げる。
「そうだったな」
「はい」
 リュティスの言葉に微笑みを浮かべたベネディクトは、輝く夜景を背に歩き出した。
 束の間の魔法。豊かな青い翼と『王』に相応わしい立派なジュエルクラウンを讃え未散はヴィクトールと共に夜の街に歩み出す。
「さあ、お嬢さん、お手をどうぞ」
 普段しているはずのエスコートは未散に役目を譲って。
「……お嬢さん、なんてボクが言われるのはとても恥ずかしいですが」
 黄金に輝く翼をはためかせ。『彼女』は大人しく未散の隣に寄り添った。
「重たい荷物だって何のその!」
 色とりどりのフレーバーティの缶を手に未散は目を輝かせる。
 秋の甘い香りを漂わせた桂花茶。ローズマリーにほっくり秋味のルイボス。甘く優しい蜂蜜檸檬。
「冬籠りがの支度は万全ですね?」
 夜空の星は薄いけれど、夜景の星が二人を照らす。
 手を伸ばせば届くだろうか。
 tick-tack。
 tick。
 時計の針は頂点で重なる。
 ――嗚呼。
 魔法が解ければ何時もの二人。
「さあ、お嬢さん、お手をどうぞ」
 名残惜しさに心惹かれ。温かな掌に指を重ね。
 帰り道に変わらぬ夜景を眺めながら、歩いて行く――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 魔法の夜を楽しんで頂ければ幸いです。































GMコメント
もみじです。ファントムナイト最終日。
魔法が解ける前に楽しみましょう。
●目的
ファントムナイト最後の夜を楽しむ
●ロケーション
ファントムナイトの夜。最終日。
希望ヶ浜センタービル前の広場。
オレンジとパープルのガーランドとパンプキンのランタンが揺れています。
少し肌寒いです。暖かくしていきましょう。
●出来る事
適当に英字を振っておきました。字数節約にご活用下さい。
【A】出店でお食事
エールにカクテル、フレッシュなジュースに美味しいお肉。サラダやデザートもあります。
キャンディやチョコレート、カラフルなグミやケーキなど。
ワイルドなステーキやフライドポテトなど、お酒のおつまみにピッタリのラインナップです。
温かなパンプキンスープ、パンプキンパイ、
サンマとキノコのソテー、牡蠣とほうれん草のグラタンポットパイ、
エリンギのアンチョビバター焼き、ぎっしりカニクリームコロッケ、
ぎっしりホタテクリームコロッケ、ジューシーポークの収穫祭ロースト、
チキンとキノコのフリカッセ、具だくさんクラムチャウダー、
バタールのガーリックトースト、ミッシュブロートの生ハムオープンサンド、
クリームチーズとスモークドサーモンのプンパニッケル添えなど。
未成年にはジュースが提供されます。
【B】トリックオアトリート
広場にはベンチがあります。
友達や恋人に魔法の言葉を伝えてみるのもいいでしょう。
お菓子をあげて一緒にたべたり、いたずらしてみたり。
【C】
その他
お買い物をしたり、センタービルの展望台に上って夜景をみたり。
出来そうな事が出来ます。
●プレイング書式例
強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。
一行目:出来る事から【A】~【C】を記載。
二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
三行目から:自由
例:
【A】
【パンプキン】
ちょっと肌寒くなってきましたね。
こんな時は温かなパンプキンスープと、ホットワインが身体に染みます。
●NPC
○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
希望ヶ浜学園大学に通う穏やかな性格の青年。
裏の顔はイレギュラーズが戦った痕跡を綺麗さっぱり掃除してくれる『掃除屋』。
今回はもこもこウサギのハロウィン衣装で【A】に居ます。
温かなパンプキンスープと、ホットワインを飲んでいます。
●諸注意
描写量は控えます。
行動は絞ったほうが扱いはよくなるかと思います。
未成年の飲酒喫煙は出来ません。
Tweet