シナリオ詳細
<神逐>四神結界緊急防衛作戦
オープニング
●空に踊れ、赤極光
空は闇と穢れに覆われ、オーロラのように呪力の波が踊っている。
人々は世の終わりがきたと恐れ、何が起きているのかも分からず家にこもり子供を抱きかかえて震えるばかりである。
だがあなたはこの空がなんなのか、ここ豊穣郷カムイグラで何が起きているのかを知っているはずだ。
強大な魔種である巫女姫が作り上げた大呪と都にいつまでも絡み続けた差別と報復の連鎖。たまりに溜まった穢れは豊穣郷の守り神のあり方すら歪め、凶神へと変えてしまったのだ。
やがてこの街は穢れの力によって焦土と化し、魔種たちの遊園地と成り果てるだろう。
あるいは、あなたがなにもしなければ。
豊穣郷カムイグラ高天京郊外。空に浮かぶ禍々しい月を見上げ、武装した役人は顔をしかめた。
都を滅ぼし新たなる支配権を得ようとする天香派と、長き眠りから目覚めた霞帝と共に立ち向かわんとする帝派。カムイグラの中枢である省はこの二つに分かれ指示系統は混乱。秋の頼りの如く交わされる暗殺の連続で配置換えや代理配置は頻発しこの日に至ってはもう幾度目かの配置換えの末代理の代理の代理として彼は郊外東部の警備主任についていた。
だがそれで充分だ。あの恐ろしい黄泉津瑞神は京の中枢へ陣取り、巫女姫をはじめとする天香派の最重要戦力はほぼすべて中枢に集められていると言っていい。
それゆえ郊外の危険はほとんどなく、こんな場所に兵をさくくらいなら御所へ全員向かわせた方がよいと前任の前任が中央への緊急招集を受けつつ言っていたものだ。
国が滅ぶかどうかの瀬戸際をこんな退屈な仕事で過ごさねばならないのかとあくびをかみ殺した、その時。
ゴゴゴ、という地鳴りのような音がした。
大雨の日に東側の森が土砂崩れを起こしたときと似たような音だ。
不思議に思って目をこらすと。
闇の中にそれは確かにあった。
こちらへ押し寄せる淀んだ土のような色の波。
しかし波にして不規則で、土にしては青黒く、そして自然物にしてはあまりに悪意に満ちていた。
そう。彼らすべての、ギラギラとした獣めいた目の光。
はたと気づき、近くで居眠りから目覚めたばかりの同僚に怒鳴りつける。
「敵襲――!」
伝令のために飛ばした鳥だけを残して、彼らは悪意の波へと飲まれていく。
小柄な小鬼(ゴブリン)が一匹二匹と次々に飛びかかり重みに耐えきれなくなった彼が引き倒され、顔面のみならず全身を殴られ刺されていく、そんな波に。
小鬼の群れがひとしきりすべてを破壊し拭い去っていった後。
息絶えた兵士の頭を掴み上げ、小鬼の長は仮面の裏でぐぶぐぶと唸った。
「オレハ……『餓鬼道』我流魔……クウ、ミンナ、クウ。国、クラウ……!」
壊滅したのは東側だけではない。
西側の第一防衛ラインも大勢の人間達によって虐殺され火を放たれ、最後のうめきもあがる黒煙の中に消えた。
がくりと息絶えた兵士を、灰色の桜模様が描かれた衣を纏った、農民らしき男が持ち上げる。鎧も併せれば結構な重量になるはずだが、男は軽々とそれを放り投げて木の枝へとひっかけていった。
木は兵士の死体で飾り付けられ、彼らへの憎しみや挑発の意図がありありととれた。
「おのれ、我らを愚弄するのもいい加減にしろ!」
死んだふりでやりすごそうとしていた兵士が刀をとって立ち上がり桜模様の男のひとりを後ろから斬り付けた。
よろめく相手に刀を何度も突き刺し、押し倒す。
「どうだ! なにが狙いかしらないが、貧民風情が――!」
目を血走らせた兵士――の顎や腕に、男はものすごい力で組み付いた。
引き剥がそうとしてもびくともしない。どころか男は閉じていた口をあんぐりとあけ、中からドクドクと脈打つ心臓のような物体を吐き出した。途端に赤く発光。次の瞬間には兵士を吹き飛ばすほどの爆発となった。
「無様な死だ。何が狙いか、か……そんなものは明白であろう」
生き残りがいないことを灰桜衣たちに確認させると、一人の鬼人種が長い舌を垂らして笑った。
「これこそ民の恨みと憎しみ。表面上は美しく着飾った都がはらった犠牲のツケである。つまりは、当然の報いである」
聞け! と鬼人種の男は手にした刃物を空に掲げた。
灰桜衣たちが一斉に傾注姿勢をとる。
「今日この場所で、諸君等を踏みつけにし贅沢にのさばっていた悪逆非道の政府は転覆する。
未来永劫この土地には自由と幸福がもたらされ、諸君等の子も孫も虐げられることはない。
たとえこの場で死に散らそうとも、私たちの魂はひとつであり永遠に受け継がれる。
――つまり、諸君等は永遠である」
ドッと沸き立つ民衆。
肉腫の寄生によって肉体を強制的に強化された彼らは雄叫びをあげ、さらなる犠牲をもとめて都へと歩き出した。
「私の名は『畜生道』泰山……待っていろ。必ず不死のいただきへと上り詰めてみせようぞ」
一方で都南側もまた新たな地獄ができあがっていた。
植物と肉が組み合わさった異形の翼をはやした少女が、濁った目で笑いながら空を飛んでいる。
悲鳴をあげて鉄砲を撃ち続けた兵士めがけ、少女たちがケタケタと笑いながら呪詛の弾を撃ち込んでいった。
兵士たちは次々に下顎からうえを爆散させて膝を突き、骸を綺麗に整列させる。
その上を、禍々しい羽衣を纏った六本腕の美女に抱えられながら飛んでいく者がいる。
派手なみなりの若い男商人……否。
「『衆合地獄』華盆屋 善衛門、見参……っと。いやあ、あっけないもんだ。これが天下御免のカムイグラか? まるで虫でも潰して歩いている気分だ」
やれやれと苦笑し、美女の頬をなでる善衛門。両目が虫の複眼になった美女はウフフと美しい声で笑った。
彼女だけではない。周囲を舞い踊るように飛ぶ女達はみな、善衛門の『作品』であった。
彼は肉腫の寄生と様々な禁呪によって人間達を肉体をいじくり回し、美しくも醜い作品としたのである。
もはやここにあるのは悲しき怪物の群れでしかない。
美しい歌と笑い声をあげる、怪物の群れだ。
「しっかし……巫女姫さんも酷いことをする。アッシのお気に入りの『スズメちゃん』を島に流しちまうんだもんなあ。生きて戻ってきたからいいものの。もしあの可憐な肉体が失われたらどうする。あの羽を、あの髪、あの細腕を……くふ、んっふふふ」
下卑た笑みを浮かべ、善衛門は前方を指さした。
「さあて、スズメちゃんを探しに行こうか。他にもいい素材が見つかればいいな。アッシだけの極楽浄土をこの地獄に作るのだ。んっふふふふふふ……」
「我流魔、泰山、華盆屋。いずれも第一防衛ラインを突破したようでございます……豪徳寺様」
慇懃な執事が胸に手を当てて頭を垂れる。
「結構。ああ、全く……ざまあみろだ」
若い鬼の青年だった。
光のない目をしたただの青年だった。
彼のまとう邪気が、強力な魔種のそれであることを除けば。
「名乗ってはおこう。『大叫喚地獄』豪徳寺 英雄……我ら『羅刹十鬼衆』」
執事の差し出した湯飲みを手に取り、茶を飲み干す。放り捨てると、兵士の死体にあたって割れた。
執事に抱えられるようにして寄りかかり、執事は大蜘蛛の下半身をガチャガチャと動かして歩き始める。
その周囲には巨大なガイコツ、燃える車輪、額に目の突いた巨大な生首、首のない武者、舌を出した般若提灯、その他諸々妖怪変化の群れが死体を踏み潰すなり食らうなりして進んでいく。
未だ遠くに見える都の灯りに目を細め、英雄は長く深くけだるげにため息をついた。
「帝が今更目を覚ましたからなんだっていうんだ? 誰も彼も明日がいい日になると本気で信じて生きていやがるらしいな。あんな身勝手な政治。あんないい加減な政治。あんあ独りよがりな政治。そのせいで一体どれだけの血が流れたと思っているんだか」
英雄は口の端だけで渇いた笑いを浮かべる。
「まあ、それも今日まで、だ。百鬼夜行、聞け」
錫杖を振り上げ、英雄はよく通る綺麗な声で述べた。
「四神結界を打ち破る。奴らの最後の切り札とやらを紙くずに変えてやろう。きっと、泣いてわめいて悔しがるな……ああ、ああ、本当に」
笑みをより深くして、英雄は首を傾けた。
「ざまあみろだ」
●緊急連絡! 緊急連絡! ただちに高天京四方結界門の防衛にあたれ! 繰り返す――
四神結界。それは都を滅ぼさんとするけがれを封じ込めるための切り札である。
ローレット・イレギュラーズが豊穣郷に古くよりすまう四大精霊に会い、認められたことで得た力だ。
「だがそれが今、兵達の虚を突く形で『羅刹十鬼衆』による大襲撃を受けました。
彼らは11人からなる悪逆非道の国崩し魔種集団であり、そのたった四人しか決起していないにも関わらず多大な損害が発生しています。
これを放置すれば、黄泉津瑞神への対抗手段が破壊されるのみならず都は外から食い破られていくに違いありません」
各所を駆け回り、直行可能なローレット・イレギュラーズに依頼をして回っているという伝令人がそう語った。
「一人でも多くの力が必要です!
第一防衛ラインを守っていた兵士たちは全滅しました。
至急、至急! 結界の防衛に当たってください!」
こうして、緊急の依頼を受けたあなたは――!
- <神逐>四神結界緊急防衛作戦完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年11月19日 22時30分
- 参加人数214/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 214 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(214人)
リプレイ
●青龍門防衛部隊VS我流魔小鬼津波
浅黒い海が迫るようにすら、見えた。
木や石でできた粗末な武具を備えた子鬼(ゴブリン)の大群が、第一防衛ラインで虐殺したであろう兵士達の首や腕を木槍の先端に掲げて旗のように振っている。
その行進が、まるで子供の遊びのようだった。
かれらが結界を破壊し都へ這い入れば、いかなる悲劇が巻き起ころうものか――。
「そんなことには、させませんわ!」
地面にさした鍬を抜き、白銀の剣へと変えるガーベラ・キルロード。
棍棒を振り上げて突撃してくるゴブリンたちをすり抜けると、一瞬にして周囲のゴブリンたちが崩れ落ちた。
「我々キルロード家とキルナイト家、キルハート家も此度の防衛作戦に参戦致しますわ
ええ、無辜の民を守るのは貴族の務めなれば…例え相手が醜悪なゴブリンの群れだろうとも……いえだからこそ私達が前に出なければなりませんわ!
さあ、行きますわよ、私の可愛い妹達!
ここから先は何人たり通しませんわよ!」
「いいですとも!」
彼女に続く形で飛び出したルビア・キルハートとルリム・スカリー・キルナイト。幻想貴族界に名をとどろかす『キル三家』の筆頭令嬢たちである。
「まあまあまあ! こんなにも大量のゴブリンさんを見るのは初めてですわ!
私、不謹慎とはわかっていますが逆にワクワクしてしまいますわ♪
ええ! こんな時こそアイドルの出番ですわ!」
「オーホッホッホ!私姫騎士たるルリム・スカリー・キルナイトは逃げも隠れもしませんわ!!ぶっ飛ばしてやりますわ!」
ルリムが愛剣ジャスティスソードから禍々しい邪気を放ちながらヘイトを稼ぎ、後ろでルビアがポンポンを振って応援するという貴族令嬢の概念を打ち破る戦法であった。
「はいはいはい! お姉様達のカッコいい所見たいですわ! フレ―フレー! お姉様! 頑張れ☆頑張れ☆ですわ!」
そんな彼女たちをサポートする格好でついてきたサルビア・キルロード、ナデシコ・キルロード、アネモネ・キルロード。
「群の敵に対してひるまず臆せずにただ盾として守り通す……嗚呼! これも愛のなせる業ですわね!
ルリム、我が従妹。ええ、私は貴女のその『愛』を尊敬致します」
「うわぁ、こんなに沢山のゴブリンなんて初めて見たよ……。
というか、ルリムちゃん! どうしてこんなひどい事が出来るんだよ!」
『泣かないで、マイフレンド。ここまで頑張った彼女の為にも私達がするべき事をしましょう』
「うん……そうだね。ルリムちゃんの為にも俺頑張るよ! やっちゃえ、シレネ!」
『イエス、マイフレンド。シレネ・アルメリア、殲滅モードに移行します。ゴミが消え去りなさい』
サルビアの魔法とナデシコの戦闘人形シレネが繰り出す破壊のルーンマジック。
そこへ
「流石魔種が作り出したと言うべきか……軽いモンスターパレードだな!
まあ、キルロード家としては望む所だな! ガーベラ姉様!」
血のように真っ赤な魔槍『紅花翁』を振り回しながらアネモネが突撃していく。
数が力というのなら、結束はさらなる力である。
波のように押し寄せるゴブリンたちを、一族経営(?)ならではの連携で押し返し始める。
「こんな隠し玉までいたなんて……それにしても、このゴブリンってオイラの故郷にいたやつとは雰囲気が違うな」
続けとばかりに横へ大きく広がり、ゴブリンの引きつけを始めるチャロロ・コレシピ・アシタたち。
群がるゴブリンに対し、炎を噴射した剣による回転斬りで散らしていく。
「うむむ。思う所もあるが……今は儂もいれぎゅらあずの一員よ。
氏族は違うとはいえ同じ小鬼の誼よ。いざ、尋常に参ろうぞ!」
一方で黒野 鶫はゴブリンたちがゼノボルタの因子を僅かながら引き継いでいることに気づいていた。十文字やりを振り回して牽制しながら、群がるゴブリンを引きつける。
「神使とは言え儂一人倒せぬザマでこの戦、勝てると思うてか! 命を惜しむ頭があれば投降するが良いぞ!」
「皆が繋いだ意志を、蹂躙させるわけにはいかない……っ」
シャスラもそれに続いて槍を握り、両端をヒートさせると豪快な回転斬りを繰り出しながらゴブリンたちを自分へと引きつけた。
彼らによる連携された誘引作戦は見事にゴブリンを足止めし、集中攻撃のチャンスを生み出していく。
「はい光の翼でばさぁっと。次は可愛い猫にでも生まれ変わってきなよー!」
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペンは腕にちらりと見えるタトゥーめいた魔術紋を微発光させ、光の翼でゴブリンたちだけをなぎ払っていく。
「ゴブリンですか、カムイグラにもいたんですね。
様子が変ですが、行動はいつもと変わらない? であれば撃滅ただそれだけです」
「いくらでも撃ち放題の慈術でなるべく処理したいところだけど、対一般人用の技だから魔物には威力不足かもね」
そこへロウラン・アトゥイ・イコロとメリー・フローラ・アベルも登場。
ロウランは胸の宝石を美しく発光させると輝く風を作り出し、メリーの投げ込んだ識別性フラッシュグレネードと併せてゴブリンたちだけを吹き払っていく。
それでも完璧な削除には至らないが、それこそ今が数の力が物を言うタイミングである。
フリージア、日月 火輪、ユスラが一斉に攻撃。
「相方は今はいないけど、経験を積んで強くなっておかなきゃ!」
「門番だけでは荷が重かったようね。今度からは陣を敷いて置かないと」
「バッサバッサと敵をなぎ倒せれば気持ちよさそうですね! 私の体力…持つかな……?」
魔術の爆発とスパーク、そして稲妻を纏った抜刀術によって残存ゴブリンを殲滅。
逃げだそうとした個体を見つけるとノルン・アレストと朱雀・アスターがフォローに入った。
「大丈夫、すぐに動けるようにします。最後まで頑張りましょう!」
「助かる。実戦経験が少ないのが心苦しいが……」
ノルンの治癒によって無傷で復帰したアスターが毒霧忍術を展開。慌てたゴブリンを逆手持ちした艶消短剣による連続斬りで的確にトドメを指していく。
「少しでも、皆の力になれたら」
ゴブリンを波と表現したように、一箇所のみで食い止めただけでは都への侵入を阻止することはできない。
しかし第一防衛ラインは容易に崩壊し、第二防衛ラインも決定的な人員不足。都への被害は防げえぬと豊穣の兵士達が青ざめた、そのさなか――。
「お前らの相手はこの俺だ。生半可な攻撃じゃ倒れてやらねえぞ」
黒傘をさした黒須 桜花がバリケードを飛び越えるようにして堂々と登場。
猛烈な勢いで迫り来るゴブリンへ傘をかざし、早速防御姿勢に入った。
防衛に加わったのは彼女だけではない。
「その、あんまり荒事は、得意じゃあないんですがね……」
やれやれといった様子で白いコートをはためかせ、凪 翔一郎がバリケードを飛び越える。
「対多誘導プロトコル。適用開始」
兵士達からすればあまりに華奢な彼らだが、しかし頑丈さはかなりのものだ。
ゴブリンが助走をつけてとびかかり、顔面めがけて棍棒を繰り出してくるも、それを素手でキャッチ。勢いのまま投げ返し、後続のゴブリンもろとも転倒させた。
「あ、あんた大丈夫か!」
「ご安心ください。僕らはそれなりに頑丈なので!」
「それより、バリケードの強化を。ゴブリンは私たちが引き受けましょう」
イースリー・ノースもまたバリケードをよじのぼって乗り越え、仲間達と共にゴブリンの引きつけを開始する。
ゴブリンが奇声をあげてイースリーの腹に石のナイフを突き立てるが、対するイースリーはその腕を掴んで自らに治癒魔術を行使。
「どれだけ殴られようと私は決して屈しません。
この地に呪詛が渦巻くなら、その怒りも憎しみも私が受けましょう。
……だからどうか全てが終わったその時は//人類が互いに向けた憎しみが少しでも薄れていますように」
守りとはただ頑丈であることのみを指さない。彼彼女らのように断固として立ち塞がること、そして背後で仲間を働かせることもまた、守るということなのだ。
「或る意味、壮観ではありますが……呆けている暇はなさそうです、ね」
バリケードの強化に急ぐ兵士達をわって、アッシュ・ウィンター・チャイルドが青い目に血のような赤い光を宿した。
「わたしも戦列に加わり仲間を助けましょう。圧倒的物量。然し、其ればかりが頼りであるなら。狙い撃つ必要も無く、楽なものです」
味方が引きつけてくれているならなおのこと。赤い稲妻が走り、ゴブリンたちを焼き始める。
そこへ加わるトニトルス。はばたきによる軽いホバリングでバランスをとると、内部蓄積したエネルギーをサンダーブレスとして放出。
「この世界に来てから雷の力は失われた。しかし世界にある技術を学び、会得し、確かに、雷光はこの身に再び宿った。
ならば。『世界を救う筈だった』私がするべき事は――この世界を救う事!
それこそが使命であると定義しよう!」
「数は驚異だがそこに信念が無いのであれば、より強く高き可能性の壁は越えられまい//この壁は揺るぎないぞ、小鬼共」
アルトゥライネルがバリケード越しに炎の魔術を行使。
燃え上がったゴブリンたちは次々と倒れ、第二防衛ラインのバリケードは無傷のまま守られたのだった。
「さあ、この焔の舞で彩ろう。血に塗れたお前達の旅路の終わりを」
青龍結界防衛部隊の兵士たちすべてが、イレギュラーズの出現から即時に守られたわけではない。
中にはイレギュラーズが訪れるには遠すぎるためにゴブリンとの交戦状態に入ってしまったエリアもあった。
押し倒され顔面に棍棒を叩きつけられる兵士。
第二撃が下ろされようとしたその時、カスミ・スリーシックスが棍棒を掴んで強引にゴブリンを振り払った。
「四季が美しい豊穣とその地で暮らす人々を襲うことは許せません! 微力ながら手を貸しましょう」
「遅くなったけど、ここからは絶対に抜かせないよ!」
「食い止めるべく、肉壁と、なります」
鬼ヶ城 金剛とヴァイス・ヴァイスも現れ、ゴブリンたちを挑発するように立ちはだかった。
カスミの影がゆらりと動き、優しげに寄り添っている。それを見て、カスミは微笑んで頷いた。
「はい、大丈夫です! だって私の影として貴方が傍にいてくれますから!」
(こんな時に、いやこんな時だからこそ襲ってくるなんて……これが神使の人たちが言う魔種なんだね……。
僕はこれまで魔種と戦い続けてきた神使の人達ほどの力はないけれど、それでもそんな連中にこの豊穣を台無しにされたくなんてない!)
一方で金剛は守りを固めてゴブリンの密集に耐え始める。
それを一部剥ぎ取って軽減する形で、ヴァイスが罪のオーラを散布させ始めた。
ヴァイスの誘いはゴブリンのような単純かつ暴力的な連中には効果的だったようで、次々と飛びかかり群がっていく。
「痛くて、苦しくて……これが……罪深き私への、懲罰……」
理由も起源もわからない。しかし強く残る懲罰人形としての意識と、うちに込められた罪深い魂の自覚。それが、ヴァイスを前に進ませる。
こうして引きつけるチームが現れる一方、群がるゴブリンを打ち払う担当チームも存在する。
「負の感情が伝播していくのは悲しいことなのだよ。壊滅した部隊の人達はきっととても怖かったに違いないのだ。
所縁がなかろうと関係ない。彼らの分まで守り切るのだよ!」
ステッキをくるくると回したウサギのぬいぐるみことラパン=ラ=ピット。ステッキの先端をライフルのように構えると、シャボンの泡を放出させた。
「こちらは…えぇ、多くを薙ぎ払えばいい方角と聞いたのでやってきました。とりあえず景気付けに一発樹里の魔法ですね?」
そこへ江野 樹里が参戦。魔法の杖から折りたたみレバーを展開してライフルとして構えると、ローレット界隈ではもはやおなじみの必殺技『樹里の魔法』を解き放った。時期的にクリピンを求める無辜なる魂の叫びがゴブリンたちを包み込み、くわえてラパンの放ったしゃぼんが次々と爆発してゴブリンたちを吹き飛ばしていく。
そこへくるくると回転しながら雪ダルマが登場。
纏った雪をパンッとパージすると、祈る姿勢のコユキア ボタンが現れた。
「命の終わりを見届けるのが役目だったので、自ら眠りを与えるのは本意ではないのですが…。
悲しい結末はなによりも望みません。どうか穢れが晴れ、また美しい空が見られますよう」
祈る心が雪を降らせ、たちまち積もる雪が倒れたゴブリンたちを永遠の眠りへと誘っていく。
こうしてゴブリンの集団を殲滅しきると、ユユキアは再び雪ダルマに包まれ、その上にラパンが飛び乗ってシルクハットを被り直す。
「さあ、戦闘を続けましょう」
樹里は明日を指し示すかのように杖を突き出すと、さらなるゴブリンのウェーブへと身構えた。
第二防衛ラインへ浸透したゴブリンの撃退に成功したイレギュラーズたちは、それによって選択を迫られていた。
このまま第二防衛ラインを守り続けるか、それとも第一防衛ラインや郊外地域へ前進するか。
守りを固めれば都の民や財産をより強固に守ることができる。一方前進すれば第一防衛ラインでかろうじて生き延びた兵士や、郊外でゴブリン被害にあいつつもまだ生きている民を守ることができる。問題は『まだ生きているかどうか』で、場合によっては空振りにすらなるのだが……。
「私は豊穣の思い出はない。今初めてこの地を踏んだくらいだ。
でも『お姫様』が助けてと手を伸ばしたなら、そこがどんなに危険な場所でも手を伸ばして掬いあげるのが王子様ってモノだろ?」
そんなとき、彼らの答えは決まっていた。
ラクロス・サン・アントワーヌは借りた馬にまたがり第一防衛ラインへと前進。それを迎え撃つゴブリンたちをみとめると、『ここは任せてもらおう』といって華麗に馬から飛び降りた。
「私の名前はラクロス・サン・アントワーヌ! さぁ、凄絶なる死と踊れ!」
(動乱の渦中にいる人たちが憂いなく力を振るえるように、此処は守り通してみせる)
そこへ加わる白鷺 奏。『ヴァリアントレイジ』という精神威圧によって集められたゴブリンたちにガンブレードによる反撃を浴びせ、空になったソイルを排出。ベルトから治癒魔法と賦活魔法がブレンドされたソイルを取り出し中折れ式のボディに装填。トリガーをひきながらゴブリンへと叩きつけた。
「おお、何と言うおぞましき軍勢……。私達は、決して屈することはありません。
この場で悪意を押し返し、必ずや勝利を掴むでしょう。私は人々の希望を信じたい!」
それでも群がり続けるゴブリン。道を開くのはビジュたちの役目だ。
奇怪な肉体に無限の優しさを詰め込み、ゴブリンたちが次々と槍を突き刺すなか浮き出た眼球で彼らをにらみ続ける。
「私は痛みも感じぬ汚泥風情。どうぞ私を盾に。
そして希望が、この国に光をもたらさん事を!」
ビジュたちの切り開いた道は、彼らの言うとおり希望へと通じていた。
第一防衛ラインに彫られた塹壕。板や土嚢といったあれこれを積み上げて二人ほどの兵士が息を潜めて隠れていた。
とはいえあたりはバラバラに分解された死体だらけ。見つかるのも時間の問題だ。うっかりガタンと音をたて、ゴブリンたちが彼らの存在に気づき目を見開いた――その途端。
「毒蜂――」
暴風のごとく飛来したモカ・ビアンキーニが跳び蹴りの姿勢をとったやいなや、猛烈な蹴りがゴブリンの集団を横薙ぎにしていった。
「乱舞脚」
強引な着地とスライディングを見せるモカ。
それに続き、相川 操と咲野 蓮華がそれぞれのファイティングポーズをとって隠れ場所の周りへと陣取った。
「これはスポーツじゃないけど、助っ人が必要ならあたしにお任せってね!」
「多数相手になるのは大変アルが……でも新しく覚えた技の試しがいがありそうアルな!」
操は次々と飛びかかるゴブリンに対して連続バク転ですり抜けると集団の中央で踊るようにスピンキックを繰り出した。
一方の蓮華は襲いかかるゴブリンの攻撃を紙一重で回避すると闘気を纏わせた掌底打を打ち込み、ゴブリンを内側から爆散させる。
すると、隠場所の内側から兵士の声がした。
「おい、あんた、なんで来た! 殺されるぞ!」
「そうはならないアル」
「全てを喰らおうとする小鬼の群れか。
小鬼自体に興味があるわけじゃないが、放って置いたら報われぬ死霊が増えるからな。此処で止めよう」
スコップを肩に担いだグリム・クロウ・ルインズがゆらりと現れ、ゴブリン集団にくいくいと挑発的に手招きをする。
武器をしっかりと握り直すゴブリン。
グリムは『いつでもこい』とばかりに唇の片端だけで笑ってみせる。
――と、そこへ。
「さあ僕を殴れよ!! 殴りたいんだろう知ってるぞ!!!! 僕を殴っていじめたいんだろうこのクソチビ共ォ!!!!」
ヌトが謎のヘッドスライディングで割り込んできた。
一瞬止まる空気。
これ幸いとタコ殴りにし始めるゴブリン。
「おいやめろ! 誰がこんな薄い本にしろって言ったんだ! お前か!?!? お前か!?!?
僕かな!?!?!?!?!?! 違う違うちがーーーーーーーーーーーウ僕の目的はそうッ!JU・N・KYO・U☆」
ヘイカモン! と叫んだ途端兵士の鎧や武器を装備した骸骨たちが地面から出現。
グリムがこれはまさかと思った途端、彼らはサンバのリズムで踊り始めた。
「埋めるべき死体を増やすな」
ごいんと骸骨を殴って地面にもっかい埋め始めるグリム。
一連の様子にぽかーんとあっけにとられていたゴブリンたちへすかさず『ゾイベルン』するナハトラーベ。
口に唐揚げ腕には唐揚げ紙袋。
「―――」
この子何しに来たんだろうと隠れてた兵士までもが思い始めた所に追い混乱。ビーナス・プロテウスが猛烈な勢いで突っ込んできて触手で暴れ始めたのである。
「わぁ!こんなに大量のゴブリンさん達が発生するなんて元居た世界でも滅多になかったよ!
すごいすごい!こんなに群がってたらとても迷惑だよね?この子達を排除したら褒めてもらえるかな?愛して貰えるかな?
よーし、やっちゃうぞー! じゃあ、いくよー!がおー! 怪獣だぞー♪」
そうこうしている間に木南・憂は兵士を引っ張り出し、仲間達が確保したルートをたどって逃げるように言った。
そんな彼を取り囲むゴブリンたち。
憂の耳にだけ、遠い鈴の音がりん――と聞こえた。
「四神結界が壊れてしまえば俺の故郷は……。絶対に守り切るのであります」
一度瞑った目を見開き、憂は群がるゴブリンたちを掴んで右へ左へとパワフルに放り投げていく。
「つづりたちは神のもふもふを知っていたのかしら……? いえ、神というからには知らないのが普通かしらね……」
そこへふらりと現れたのがリカナ=ブラッドヴァイン。
憂に一旦伏せるようにジェスチャーすると、彼の上を飛び越えて豪快なドリルスマッシュを繰り出した。
ゴブリンたちがまとめて吹き飛び、飛んでいったところへ手榴弾を放り投げる。
爆発四散するゴブリンたち。
そしてイレギュラーズたちは更に、郊外にあるという集落へと軍を進めるのであった。
「神威神楽の地、私の故郷含め大呪に踏み倒されるのを黙っていられないわ」
足運びと畳んだ扇子によって特殊な陣を描く桜衣・巴依の陣術。
取り囲もうと迫るゴブリンたちを不可視の衝撃によって吹き飛ばすと、民家の壁へと叩きつけた。
さらなる陣術によって壁ごと破壊し屋内へ突入。
屋内で死体を弄んでいた大型ゴブリンがくるりとこちらへと振り向くが……。
あ~さっきから飲んじゃってるからいい感じに回ってきてるわよ~。
緊張してる? 飲むう?」
酒の入ったひょうたんをぶらさげ、シャッファが大型ゴブリンへとからみはじめた。
牙を剥きだしにし、木の椅子やテーブルを粉砕しながら大太刀を振り込むゴブリン。
人間を容易に真っ二つにできる威力があった……が、シャッファは柔軟にのけぞることでそれを回避。直立姿勢に戻ってから片眉を上げてみせると、酒を口に含んでからジッポライターを着火。大型ゴブリンへ火を噴き浴びせ、屋内へ駆け込んできた他のゴブリンたちもろとも焼き払った。
「あんたらはエロ同人みたいな真似する方のゴブさんかしら? ふふ、残念だけど金払わない奴に押し倒されるのは御免でね」
そしてクローゼットへ振り返り、くいくいと指で手招きをした。
ひとりの少年がおそるおそる顔を出し、そんな彼をみてリサ・ディーラングが目をぱちくりとさせた。
「無理してでもここまできたかいがあったっすね! よっし、ここからは私たちが安全な場所までエスコートするっす! ひとまずは――」
背負っていたバックパックからのびた紐をひっぱると、蒸気が無数の穴から吹き出して変形。肩に担ぐタイプの大砲に代わると、砲丸投げに用いるような鉄球を連続で前方に発射。
その威力だけで駆けつけたゴブリンたちを吹き払った。
『大丈夫っすよ』と少年に笑いかけてから、ゴブリンの群れへと走り出す。
(これくらい出来ずして何が職人だ。やってみせろ私――!)
ゴブリンに占拠された郊外集落を、阿瀬比 彗星と阿瀬比 瑠璃が駆け抜けていく。
「ごめん、僕の我儘で瑠璃を危険に晒すかもしれない。
でも、僕は豊穣が無くなるなんて嫌だ。例え…この場所が、僕達を…僕らの”愛してる”を許さなかったとしても。僕は此処で生まれ育ち、瑠璃と出会えたんだから」
「本当、彗星は真面目ねぇ。この国は私達と私達の”愛してる”を許さなかったのに。
でもまぁ、姉と兄も何処かで頑張ってるんでしょう。少しぐらいの危険は、ねぇ?」
二人で引きつけた敵を分け合い、一糸乱れぬコンビネーションアタックによって群がるゴブリンを蹴り飛ばしてく。
「その代わりに、絶対に瑠璃を守る。だって、僕にとって1番大事な人だから」
「あら? 私、守られるだけのつもり無いわよ?だって、貴方は私にとっても1番大事な人だもの」
そうしてゴブリンの密集エリアが生まれたことで、杠・修也の魔砲が突き抜けていった。
複雑な回路基板のごとき魔術式のラインが光となって走り、タクティカルグローブを握り込む。
「我流魔小鬼津波……なんつーか、故郷の暴走族とか思い出すな。数の暴力で攻めてくるらしいし」
怪我を負った彼の傷口に手を触れ、ソニア・ウェスタが治癒の魔法を込めていく。
「これがカムイグラ最後の戦い……になればいいのですが。
最後でなく最期にしないよう、私も私のできることを……」
馬小屋を迂回し背後をとったゴブリンたち。ソニアは素早く振り返ると、フリージングエッジの魔術によって氷の刃を大量放出。
修也はフィンガースナップによって魔法の炎を生み出し、反対側へ炎の波を発射した。
屋根の上から飛び降りてくるヒィロ=エヒト。
「劣勢の相手を嬲るのって気分がハイになるよねー。
ボクも楽なお仕事大好きだから、キミ達ゴブリンが調子に乗っちゃう気持ちわかるわかるよー。
……だから、さ
お強いボク達が、圧倒的弱者のキミ達ゴブリンを大喜びで皆殺しにしちゃう気持ちも、キミ達ならわかってくれるよね」
ね? とウィンクするヒィロ。ばらまいた闘志に焼かれたゴブリンたちが必死になってヒィロに飛びかかるがそれが罠だと気づいたのは美咲・マクスウェルが追って着地し、片目をギラリと光らせた時だった。
瞬きと共に雷の龍が生まれゴブリンたちを食いちぎりながら駆け巡る。
「無限湧きってわけじゃないんでしょ? なら、対応の戦力は十分かな」
かざした手を、ヒィロがぱちんとハイタッチした。
その一方、シエラ・クリスフォード率いるチームが集落から撤退しようとしているゴブリン立ちを掃討していた。
「久しぶりの人に新しいメンバーまで今回は宜しくね。
私が居ないと何にも出来ないのは分かってるわ! さぁ、みんな付いてきて!
……え! リーダーは私じゃないの!?」
「私がこの隊のリーダーを勤めさせて頂きます!」
キルザライトでゴブリンを焼き払っていたリナ・ヘルキャットの前にずいっと出て、ランティリットの軌道によって無数の斬糸を解き放つシエラ。
「どうも…もう一人のシエラです…この度末席に配属されました…宜しくお願いします…」
「大丈夫だ。一人一人が弱くても全員で放てば下手な砲撃でも当たるだろう」
次々と倒したゴブリンたちの。その中でもひときわ頑強なゴブリンが棍棒を振り回して襲いかかるが、シエラ・バレスティの狼牙月光斬とシェリル・クリスフォードのエメスドライブが交差。ゴブリンの両腕を切り裂いて吹き飛ばし、再び集まってきたゴブリンたちめがけてプラウラ・ブラウニーのヴェノムクラウドが浴びせられる。
「うっかり自殺しそうになったけれど何とか元気なプラウラです。宜しくお願いしますね! 微力ながらお手伝いさせて頂きます」
「お仕事をしにきたです。内面事情などは承らないのです。さぁ、やろうども、馬車馬の如く砲撃するのです」
毒で倒れたゴブリンたちを民家の屋根から見下ろし、遠くへ逃げたゴブリンの頭をハイロングピアサーで打ち抜いていくイヴ・ヴァレンタイン。
「そんな装備で大丈夫か? わしも人の事は言えぬが」
彼女たちの猛攻に絶え絶えとなっていたゴブリンにトドメのディスペアー・ブルーを打ち込む綺羅々 殺。
気づけば集落を占拠していたゴブリンたちは一匹残らず骸となりはて、荒れた民家と汚れた土の道、そして生ぬるい風だけが残った。
●小鬼の王(ゴブリンキング)、我流魔
我流魔は当たり前の鬼であった。
当たり前に田舎に生まれ。
当たり前に都会に憧れ。
当たり前に夢を見て。
当たり前に現実にぶつかり。
当たり前に差別され。
当たり前に虐げられ。
当たり前に飢えた。
鬼人種を下に、八百万を上にという見方をごく当たり前に受け入れていた旧カムイグラ民にとって全種平等という思想はかたちだけは受け入れられても気持ちまでついていけるものではなかった。変革の中で生まれた不満は水が流るるが如く『より弱い方』へと下っていく。
田舎に生まれ平等を押しつけられ、無学にも関わらず都会へ放り出された我流魔がその受け口になったのは、必然であったのかもしれない。
当たり前に貧しく、当たり前に飢えた。
そうして死に、時代の犠牲となった……筈だった。
「ウウ……ヨク、食ッタ」
馬の頭部を掴み、掲げる、切断された首から流れ出た血をがぶがぶと飲むと、我流魔はそれを放り投げた。
骨と血だけになった馬の残骸が、その他鶏や豚や人間や犬や貓のそれと混ざって積み上がる。
我流魔にとって、動物は平等だった。
平等に餌であり、平等に飢えを満たす肉であった。
男は食料にし、女は繁殖の道具にし、我流魔は自らを満たし、そして増やした。
いくら増やしても頭の弱い子鬼(ゴブリン)しか生まれなかったが、それでよかった。
ゴブリンは思想もなく宗教も無く矜恃や自尊心もなく、ただ本能のままに襲いかかりそして死ぬ。人間よりも数が多く、そして平気で死ねる兵士達。それはこの国に生まれる新しい脅威の形だったのだ。
「ほー、これがゴブリンってやつですかぁ。はえーしゅっごい。おっと、お遊び感覚は此処までですね。……それじゃあ、少しでも力になれるよう。今生きる生命を護る為に、この身を遣うとしましょうか」
刀を振り払い、ゴブリンの首を三つまとめてはねる松瀬 柚子。
こきりと首をならし、周囲の風景を観察してみる。
カムイグラの中でも一般的な集落だが、まるで人の気配がなかった。
たった一夜……否、数十分の間にこの集落はゴブリンによって食い尽くされたのだ。
なんの計画性も、なんの展望もなく、まして生きるためですらなく、神が作った意地悪のように人間の文明を崩壊させる癌。
「いや、英雄様達の話は聞いてたけども私にはまだ早いのでは!?
なんて、泣き言は言ってられないよね! なんだかんだで戦える力も持っちゃったし」 一方ではリズ・リィリーが宝石ナイフに込めた魔力をなぎ払うように解き放ち、迫るゴブリンの群れへとぶつけていく。
一斉に転倒し舌を出して動かなくなる子鬼の群れを飛び越え、金枝 繁茂と共に走って行く。
「はぇ~すっごい大量の小鬼、ま、ハンモ的にはなんとかなるって感じかな? うんうん!」
繁茂は丸太のような腕で地面を殴りつけると、突如として咲き乱れた花々がゴブリンたちを埋め尽くしていく。
多少ゴブリンが数を揃えた程度では彼らにはかなわない。
そもそもが手薄な警備の隙を突いての物量作戦。ローレット側が突如として50人超の戦力をこの『我流魔小鬼津波』へぶつけた以上、作戦は既に崩壊したようなものなのだ。
「わあ……えっと、ゴブリンというのだっけ。すごい数だねえ。少しカムイグラに来れてない間にこんな事態になってしまったなんてねえ……」
鳶島 津々流は花畑に桜の幻影を作り出すと、吹き抜ける花吹雪でゴブリンたちをたちまちのうちに切り裂いていく。
と、そこへ。
「オマエ……」
仮面をつけた大柄なゴブリンがのそりと民家の陰から現れた。
その巨体に一瞬ぎょっとするが、ライセルとセレネがそれぞれの剣を構えて立ちはだかる。
「さあ、来い! お前達が何人来ようと俺は倒れないぞ!」
「数には数、一人じゃありません。
ここで暮らす人たちが安心して、穏やかな日々を過ごせるように。この小さな手でも、役に立つなら…!」
引き連れたゴブリンたちが一斉に襲いかかるが、ライセルは紅蓮の剣『Dáinsleif』で次々と斬り殺し、そのたびに血を吸い上げては自らの傷を強制修復していく。
「さあ、ここからが本番だ。どっちが倒れるか勝負だ」
一方でセレネもナイフでもってゴブリンたちの首や手首を次々と切り裂き、攻撃をかわして駆け回る。
ここではないどこかで命を賭けて戦う友を心に抱き、それを折れない芯として戦い続けているのだ。
ゴブリンたちはまるで歯が立たなかったが……。
「オマエ、クウ」
巨大なゴブリンは人間一人分はあろうかという金棒を振り上げると、周囲の風景もろとも粉砕してしまった。
民家、死体、地面、空気、その他諸々が一切合切破壊され、まるで巨大な神の手が拭い去ったかの如く払われていく。
「アレ……オレノ、メシ、ドコダ?」
自分で壊し尽くしてしまったにも関わらず、首をかしげるゴブリン。
そんな彼の背後に――鬼城・桜華は突如として現れた。
「我流魔! 報いを受けなさい!」
踏み込んだ足から蒸気が噴き出し、握り込んだ左腕からも蒸気を噴き、猛烈な回転をかけた桜華は特殊合金の刀を返し、巨大ゴブリン『我流魔』へと斬りかかる。
反射的に繰り出した我流魔の棍棒を、桜華の剣は強引に削りとり、ズパンと切断してしまった。
「貴方がどうして魔種に堕ちたか…その理由も経緯もあたしは詳しくは知らない。
だけど貴方がしてきた事は無辜の民達にとって到底許せない事だから……あたしは貴方の倒すわ、絶対に!」
回転にブレーキをかけ、変幻自在の連続斬撃を打ち込む桜華。
対する我流魔はそれをすべて腕によって受けていた。
すさまじい勢いで攻撃が入った……筈だが、我流魔の皮膚にわずかのかすり傷を数本のこしたのみ。
さらには我流魔の繰り出した拳の威力たるや、桜華を容易に吹き飛ばし民家二件を貫いて馬小屋へ転がすほどである。
あまりの敵の強さに桜華はグッと奥歯をかんだ。
「オマエ……」
桜華の顔面へと伸びる手。
しかしその時、ぴしりと仮面にかかる紐が切れた。落ちそうになる仮面を反射的に抑え、飛び退く我流魔。
「オマエ……イツカ、クウ……」
覚えたぞ。とでも言うように、我流魔は桜華の顔を指さしてからきびすを返したのだった。
大地を殴る我流魔。吹き上がる土砂と暴風に目を覆ったその跡には、もう我流魔の姿はなかった……。
青龍結界の破壊をもくろんだ『我流魔小鬼津波』。
都が地獄と化すかもしれなかったその危機は、兵たちに代わって現れたローレット・イレギュラーズの猛攻によって防がれた。
それどころか、一時はすりつぶされた第一防衛ラインの復旧と占領された郊外集落の奪還という快挙をそえて、防衛を成功させたのだった。
●朱雀門防衛部隊VS華盆屋天女廓舞
大地を駆けるチェレンチィ。
横転した馬車へ飛び乗り、更には民家の屋根へと飛び乗り、スピードを乗せて瓦屋根を走りながら翼を広げ、風をとらえて上空へと舞い上がる。
赤黒い空を羽ばたいて迫る、いびつな天女たち。
『華盆屋天女廓舞』は魔種華盆屋 善衛門が購入しいじくり回した『美術品』の軍団であるという。そういう意味であれらは兵器でも兵士でもないのだろうが、肉腫と魔種の力があわさったあれらの呪力は侮れるようなものではない。
「まぁ確かに見た目は美しいかもしれませんが、ボクの目には醜い怪物にしか見えませんねぇ。ああいうのが趣味というか、作り替えるとか、そういうことを好む輩は案外世界中にいるのかもしれないですねぇ……」
腕を六本に増やし足をなくした天女がチェレンチィに襲いかかるが、それよりも早く彼女のナイフが天女の腕を斬った。
その後方からオデットによる連続魔術弾が撃ち込まれ、パパパッと小さな花火めいた爆発が連続する。
思わず目を覆った天女めがけ、オデットは至近距離まで詰め寄って魔力の籠もった拳で顔面を潰した。
「せめてこの行為が、きみたちの願うところと同じでありますように」
歪んだまま笑う天女達の風景に、ぞわぞわと怒りと嫌悪が湧き上がる。
思い出せない傷の名前。見えない屈辱の疵痕。
「――お前は絶対に許さない」
その憎しみは、華盆屋へと向けられた。
「あんまり気にしてなかったけどこっちの対応は私みたいに飛べるのは有効みたいね?
まぁ出来ることは限られてるけど色々対応しましょっか」
そんな仲間達を助けるべく、タルト・ティラミーも空へふわりと飛び上がった。
鯛焼き用のパイやチョコスティック的なやつをものすごい勢いで投げつけまくる。
「こんなところじゃ死にたくないわ。適度に働いて適度に帰るわよ!」
「ふふふ、飛行する敵ならば同じく飛行する味方が当たればいいのですよ」
「あらあら。神様より与えられたもうた形を好き様にだなんて、よくないですよぉ」
そこへフォルテシア=カティリス=レスティーユとシャンテ・シュット・プリエールが参戦。
反撃のために呪力の弾丸を乱射してきた天女に対してシャンテがカウンターヒールをかけると、フォルテシアが指鉄砲からナイトメアバレットを連射。
直撃した天女は飛行能力を損ない瓦屋根の街へと墜落していった。
「華盆屋さん……といいましたね。神はその罪、救ってくださいます。さぁ、悔い改めましょぉ」
シャンテはこちらを見つめる遠い華盆屋へ手を伸ばし、優しく微笑むのだった。
朱雀門を狙う華盆屋の軍勢は、カムイグラの都『高天京』の南より攻め入り、今まさに郊外の街上空を飛行していた。
民間人に興味は無いとばかりにまっすぐ進む軍勢にしかし、びしりと弾丸がめり込んだ。
「わおーん! なんだか賑やかな場所に迷い込んでみたら、すごく物騒なことになってるみたいだね!」
背負っていたケースからライフルを取り出し、身を潜めていた民家の二階から狙撃するリコリス・ウォルハント・ローア。
こちらを発見した天女が呪力弾を乱射してくるも、屋内へとひっこみそれをやり過ごした。
かわりに窓から身を乗り出すリーディア・ノイ・ヴォルク。
(こんな俺でも役に立つならば。誰かを守るための力にでもなれるのであれば。俺は尽力を惜しまない)
「――氷の狼の遠吠えを聴くがいい」
突き出したライフル。そのターゲットサイトが天女の頭部にピッタリと狙いをつける。
「――堕ちろ」
引き金を引いたその瞬間、天女の額に氷の花が咲いた。
ガッと悲鳴ともとれぬ声をあげて墜落を始める天女。
「あっは、羽虫がい〜〜っぱい飛んでるね?? 作品だかなんだか知んないけどセンス悪くて嫌〜になっちゃうな。可愛くないねソレ」
ウロ ウロは素早く後退し、額にあげていたゴーグルを装着。大きく目を見開き落下中の天女へライフルを構えた。自らの二ノ腕を台代わりに、側面から鋭くにらむようにしたウロの射撃が見事に天女の心臓部を貫いて空の向こうへ抜けていく。
「天女と言うには歪だし〜?? 地べた這ってる方がお誂え向きだよ」
空を飛ぶ敵に対してこうした連携狙撃は効果が絶大であった。
飛行中の隙(ペナルティ)を突くのに適しているし、集中させれば隙を更に広げることができる。
「あらあら、こんなに敵が沢山。つまり暴れても暴れても、敵が出てくるという事ね? 良いことじゃない」
辰巳・紫苑とリンドウは薬屋の屋根によじ登ると、こちらを見つけて呪術弾の空襲を仕掛けてくる天女へと構えた。
「いいえ、否定はしません。私はマスターの望みを叶えるだけですから。さぁ、マスター。改めて私に命令して下さい」
飛来する呪術弾を自らの身体で防ぎ、前へ出るリンドウ。
「いつもお腹が空いていたのよ? だから…少しぐらい、私の暴食を満たして頂戴な?」
「イエス、マスター。人形は命令を受け付けました」
反撃として繰り出されるリンドウの射撃。
正面から銃撃を受けた天女は飛行能力を失って瓦屋根へと転落。足の代わりについた美しく白い四本腕で立ち上がると、その中央へ紫苑の魔術が打ち込まれた。
その部分だけがボッと音を立てて消失し、かわりに紫苑が舌なめずりをした。
一方で、溝隠 琥珀が路上へと飛び出し上空へ向けて射撃を開始。
「こんな事なら姉さんの方に行けばよかったよ…。けどまあ…趣味悪いあのお兄さんの邪魔を少しでも出来るならそれはそれでいいかな?
麗しき女性を歪めて醜悪にして…愉悦浸ってる下種は一片死んだ方がいいと思うよ、お兄さん?」
「ふむ…まさか天義よりも遠きこのような地においても異形や異端者がこの様に大挙しようとは…異端審問官としては上の見せ所であるが喜んでいいのやら悪いのやら」
それに伴ってカンナ・チューベローズもまた手にしたショットガンで上空の天女に狙いをつけた。
「異形及び異端者を神の名の下に殲滅する……それこそが、私の仕事」
彼女たちの射撃が天女に直撃し、早くも墜落を始める天女。
しかし反撃にと呪術弾を乱射し路上を弾けさせた。
「この様な無辜の民を何とも思わない所業…例え天が許そうとも私が許せそうにありません。
我が力を持って守り抜いてみましょう…例えこの力が禍福を齎すものであろうと…。
我が身は是即ち禍津日。肉の一片ですら須らく呪われし物なり」
禍津日 那美はあえて前へ出ると、呪術の弾を自らの身体で受け止めた。
そして湧き上がる瘴気を力に変え、引きつけた天女にそのすべてを叩きつけた。
「…助けてあげる事が出来なくてごめんなさい。
…その代わりあの魔種は絶対滅ぼすから」
完全に墜落し動かなくなる天女。その左右を駆け抜け、雷電と戌井 月美は空へと飛び上がった。
地上の部隊を壊滅させるべく天女達が呪力による絨毯爆撃を始めたからだ。
「那美さん…那美さんがここまで義憤を憤っているなら…俺もやれることをやろう。例えこの身が崩れようとも…俺の信念は……」
「何だか大変なことになっちゃってるけどともかくこのいっぱい飛んでる人達を倒していけばいいんだね! よしやるよー!僕だってやる時はやるんだよ!」
雷電はすさまじい速度で上昇すると、距離を詰められたことに驚いた天女めがけて刀を抜いた。
グリーンの雷を纏った彼の斬撃が天女の翼を一息に切断。
ガクンとバランスを崩した所に、空にパネルを無数に作って駆け上がった月美のムーンサルトキックがさく裂した。
蹴落とした直後、銃を取り出し周囲へと乱射。
戦闘能力の低い天女達を次々と撃墜していく。
「空を覆うこの歪み…嗚呼、とても…醜い。全て…潰してしまわねば、なりませんね…」
炎の剣をとったユーディット・ランデルが、高台へとあがって剣を構えた。
空中で戦闘する仲間達へ合図を送り、彼らが急降下によって離脱した瞬間を狙って空を斬るような斬撃を放った。
炎がX字に空を斬り、天女達がたちまちのうちに呪力の黒い炎で燃え上がる。
「普段は射撃戦はせんのでなぁ…エイムが死んでても文句は受け付けんぞ?」
その横で構えていたアレイドスピーアが口をぱっくりと開き、内蔵された光線銃でもって空を滅茶苦茶に打ち始めた。
彼らの射撃によって多くの天女が墜落。
それでも攻撃を完遂しようと大地を張って突き進んでくる。
「さぁ、これでやりやすくなった。最後の詰めといこうではないか」
「天女部隊……審査するまでもないのです。そんな作品、書類選考の時点で……落とさせてもらうのです」
「ゲッヘヘヘ…こんないい剣と銃もらえて、しかも自由に使っていいってよぉ…ローレット様様だぜぇ!
しっかし誰に使うか…お?あの空中に浮いてる野郎…あんなに女を侍らせやがってよぉ…ありゃあムカつくぜ」
ココア・テッジとゲンゾウが屋根の上から、這いずる天女たちへと集中射撃。
何段階かのデスダンスを踊った末、天女たちはもとの形が分からないほどバラバラに砕けていった。
朱雀門防衛部隊に配属されたローレット・イレギュラーズの数はおよそ38名。
急な知らせであったにも関わらず中隊規模の戦力が集まったことは、敵である華盆屋から見ても予想をはるかに超えることであった。
「ンッンンー……せめてこの半分くらいかと想ってたんだけどねえ。隊員の中にもいい『素材』がちらほらいるし……もったいないことしたかなあ。こんなことなら朱雀門を他の連中に任せて、前みたいにこっそり攫っておけばよかったなあ」
天女に抱かれる形で空から様子を眺めていた華盆屋。
朱雀門にたいした防衛力もないだろうと投げ槍気味に配置した『華盆屋天女廓舞』の前線部隊はことごとく破壊されていた。
「これ以上作品が破壊されるのも癪だなあ。可愛い『スズメちゃん』が手に入らないのは残念だけど、帰っちゃおうかな。ねえ?」
顔が三つずつついた二人の天女へ交互に振り返り『ね?』と首をかしげる華盆屋。天女たちはそれぞれの顔から『フフフ』と録音再生したような全く同じ声で笑って返した。
「てわけだから、撤収撤収」
手を頭上でくるくる回して撤収の合図を出すと、侵攻していた天女たちがくるりとターンして来た空を戻り始めた。
だが、しかし。
「みすみす逃がすわけがないだろう?」
民家の影に隠れて気配を消していた雑賀 才蔵が突如現れ、華盆屋を抱える天女をピンポイントで打ち抜いた。
「おっと――!?」
傾いた天女につかまり、撃ってきた方向へ振り返る華盆屋。
才蔵はスナイパーの鉄則を守るかのように射撃地点から素早く駆けだし離脱。それを追うように何発もの強力な呪術弾が撃ち込まれ舗装された道や民家を爆破した。
(ゴローである)
(援護する)
そこへ現れたゴローがスナイパーズ・ワンを用いて天女へ反撃。
と同時に、撤退コースを遮るように民家の屋根へと登ったアニーヤ・マルコフスカヤが被っていたシートを放り投げ、あらわにした機関銃で天女を打ち始めた。
「ここを通りたいのであれば、まずは私が血の通行料を頂戴いたしますよ」
アニーヤが形成したのはいわゆる防空陣地。
高所に集まり高火力な射撃によって天女たちを撃墜、高度が大きく下がった所を民家やバリケードの間にて射撃を免れていた歩兵たちがさらなる集中射撃でトドメをさしていくというものだ。
街の立地を利用することで手早く作れ、そして仲間の個性を活かすのに丁度良い。
「なんだってこんなことに……いや、ぼやいてる場合じゃねぇな。生き残ることを考えねぇと」
赤羽 旭日はこうして組まれた高所から対神ライフルを構え、排除しようと迫る天女めがけてぶっ放した。
魔術製の爆発が空を覆い、天女が悲鳴を上げて墜落していく。
「おら、今だ! 集中砲火ァ!」
「ひえぇ、グロいぃ……でも、頑張らなきゃ……っ。ここが抜かれたら大変な事になりますから――」
「魔種のどこが嫌いかっつーと、人の営みを世界崩壊の種に使うって所っす。なんといやらしい。滅びを裂けるため、この襲撃は止めて見せるっすよ!」
号令を受けた観月 四音と桐野 浩美がそれぞれ魔法を展開。
四音はこの世界に来て勉強した魔法を必死にくみあげ、杖の先端から放り投げるようなモーションつきで天女へと放った。
一方で浩美もまた自らに込められた呪いを力に変え、墜落してきた天女へとたたき込む。
「復讐を余所者に邪魔されたくなかったら、魔種の言葉に耳を貸さねぇ事っすね……」
この戦法はかなりうまく行ったようだ。
クシュリオーネ・メーベルナッハは空に向けた指をスッと払うことで天女たちをまとめて切り裂き始めた。
「まずは、小物を優先的に」
「さあ、降りておいで。辛かったろう? 解放してあげようねえ」
そうやって墜落しはじめた比較的弱い天女たちへ、晏雷はディスペアー・ブルーの魔術をたたき込んでいった。
「ふ~~ん、豊穣だったかしら、カムイなんとか。いつもの事だけど、私が呼ばれる頃には大変な事になってるのよねぇ。久しぶりに戦うけど上手くやれるかしら」
それに重ねる形でカロン=エスキベルが猫の姿から魔女の姿へと変身。ため込んだ魔力を強引に叩きつけるかのように放つ。
「それじゃ、まぁ鴨撃ちと行きましょうねぇ! お給料はたぁっぷり出すのよ!?」
天女は次々と撃墜され、いびつにいじくり回された死体となり果てていったが、すべての天女がそう容易に落とされたわけではない。
華盆屋のすぐそばにはべっていた天女たちは『フフフ』と笑いながらクシュリオーネたちを見下ろし、そして世にも美しく笑った。
ゾッと背筋に走る悪寒。その感覚から逆らうこと無く咄嗟に回避行動をとったクシュリオーネたちだが、それよりも大きな規模で周囲の民家や地面が爆発しはじけ飛んでいった。
爆発に巻き込まれた仲間達を回収し、晏雷たちが素早く撤退していく。
それを援護する形でルーナ・パプーシャ・リベルターテとルツ=ローゼンフェルドが割り込んだ。
「今回も大変な戦場になったのね。気を引き締めてかかりましょう。
私はあの空の……悪趣味な鳥を射落としていきましょうか」
「美術蒐集家かなんだか知らないけど、なんて趣味の悪い。
…飛んでる羽虫がうっとおしいなあ、全部全部ぶち抜いてあげる」
ルーナはコアをキラリと光らせると、袖の間から露出させた両手よりピンク色の破壊光線を発射した。
側近天女の一人がそばを離れ、蛇のように長くのびた胴体から何十本とある腕を一斉に広げて翼のように仰いだ。
まるで肌色のムカデである。そんな怪物にルーナの砲撃は直撃。しかし強引に距離を詰めようと迫ってくる。
そこでルツはポールをライフルのようにして魔術砲撃を開始。二人の魔力を二重螺旋のように組み合わせ、天女へと浴びせかけた。
競り合いに買ったのはルツたちの方だ。
天女は押しのけられ、地面へと叩きつけられる。
「ここは仮にもわたし達の縄張り。無暗に侵すつもりなら、降りかかる火の粉は掃わせて貰うからね。
結界は壊させないし、奪わせないし、貴方達の悪巧みは挫くから。そう、これは、その為の一矢!」
そこへ駆けつけたクルル・クラッセン。ファルカウの声だから作られたという神秘の弓へ矢をつがえた。
そこへ更に加わった閠が強力な魔力を込めた矢を構える。
「……何故、そのままを愛する、ことが出来ないのでしょう、ね
貴方の目で見た、美醜が、そんなに大事、ですか?」
天女が『フフフ』と鳴いて顔を上げる。
が、それ以上のことは許さなかった。
閠たちの一斉放火が天女を滅茶苦茶に破壊していく。
「憐むのも、ボクの身勝手、ですよね…」
ここへきて、華盆屋は完全に撤退の姿勢をとっていた。
「初陣がコレってのはちょっと悪趣味じゃないっすか?
あーあ、『綺麗なまんま』で出逢いたかったっすわぁ…絶対美人さんだったのに」
アウレウスたちはそれを追うための舞台へと組み込まれ、借りた馬の背にのって弓を構えていた。
スキットルの蓋を開き、中身をあおって懐におさめる。するとアウレウスは鋭い狩人の目となった。
「さて。無駄撃ちする余裕はないんで、お行儀よく並んでてくださいよっと」
逃げる天女の腹に鋭く刺さる鉄の矢。
「おなごの玉肌にあないに手ぇ加えはって、えらい……気に入らへんなぁ。
何でもかんでも一緒くたにしはったらええなんて、舐め腐っとりますな。
自然美の何たるかもわからん鬼畜生には、地獄がお似合いとちゃいますの?」
がくんと高度をさげた天女めがけ、久世・清音は深緑で育った霊力を弓につがえて発射。
木の矢はまるで意思があるかのように飛び、天女の肉体に突き刺さりその力を強引に奪い取った。
「こない生き地獄、終わらせるんが情けやね。
極楽浄土の旅路やさかい。ようよう眠ったってな」
墜落した巨大な天女。
遠目には分からなかったが、全長が3mを超える巨体には布の一枚も纏わず、しかし裸体のどこにも人間らしい凹凸がなかった。人間の肉で作られた人形にしか、それは見えない。
オニキス・ハートはマジカル☆アハトアハトの発射態勢にはいり、その巨体に狙いをつけていた。
「おやおや、やられちゃったなあ。んっふふふ……」
巨体より這い出てきた男。華盆屋 善衛門。
オニキスは無言で8.8cmマジカル弾頭を打ち込んだ。
直撃――したはずだが、善衛門はかざしたそろばんでそれを受け止め、するりと受け流して後方の民家へと飛ばしてしまった。
「危ないなあ。死んだらどうする?」
「どうするじゃない。殲滅する」
もう一発の弾頭が発射――されたが、善衛門は今度はオニキスの懐へと潜り込んでいた。
空振りした弾が巨大な天女を破壊する一方、善衛門の手がオニキスの顎を掴む。
「んっふふ、いい素材だ。アッシの手で美しく生まれ変わってみ――」
言い終わることはなかった。
上空からの急降下によって現れたティスル ティルが、生み出した光の剣すべてを善衛門へたたき込んだからである。
剣はすべて地面に突き刺さり。かき消えるかのように素早く飛び退いていた善衛門は『あぶないあぶない』といって民家の屋根に立っていた。
「この変態。私はここだよ! そんなに私が欲しいなら、アンタが自分で捕まえに来なさい!」
「おや」
そこでやっと、ティスルのことに気づいたようだ。
善衛門はとろんと溶けるかのように破顔し、上唇と下唇を自らの舌でゆっくりと舐めた。
「アッシの可愛いスズメちゃん。探したぞ」
「私はアンタのモノじゃない!」
「ティスルさん……」
駆けつけたアイシャがティスルを守るように立ち、手をかざした。
善衛門の目を、アイシャは理解している。
欲望のままに女を蹂躙する目。彼の目の奥で、ティスルが取り押さえられ歪められ鳥籠で飼われるさまが描かれているのが、本能でわかった。
「悍しくて汚らわしくて……私の大嫌いな目!
ティスルさんに触らないで!
あなたには絶対に渡さない!!」
アイシャの放った光の白刃が、善衛門の立っていた屋根を削り落とす。
咄嗟に飛び上がった善衛門は高速で飛んできた天女に抱えられ、空へと舞い上がった。
「こりゃあ大損を抱えたなあ。作品をだいぶ壊しちゃったし、スズメちゃんも手に入らなかった。残念だ……」
眉尻をさげ、首を振る善衛門。
しかし、すぐにその顔は歪んだ笑みに変わった。
「けど、収穫もあった。こんなに『いい素材』が沢山集まってるんだなあ、ローレットには」
『必ず手に入れるからね』とつぶやいて、善衛門は手を振った。
朱雀門を襲撃していた『華盆屋天女廓舞』はローレット・イレギュラーズの防空戦力によって打ち払われ、大量に投入されたであろう作品『天女』たちも破壊した。
だがその根源である華盆屋 善衛門は新たな目標を得て、新たに作品を作り始めるだろう。
未来の豊穣郷を脅かす新たな悪。
だがそれを打ち破れるだけの力が、ここにはあった。
●白虎門防衛部隊VS泰山灰桜特攻隊
灰色の桜模様がはためいて、そろいの衣を纏った老若男女が武器らしい武器も持たずに走って行く。
常人からは想像も出来ないような破壊をうけた兵士の骸が点々と転がり、折れた槍や砕けた刀が散っている。
あちこちでおきた爆発ゆえか炎は黒く燃え上がり、凶月の出る空をより一層黒く隠していた。
「あれが白虎門だ、見ろ! あれを壊せば我々の勝利ぞ!」
腕まくりをした大男が吼える。
制止しようと立ち塞がった兵士の顔面を掴み放り投げると、後ろを走っていた老人が手刀で兵士の胸を貫いてしまった。
「見ろ、あれだけ威張り散らした兵士共がこの有様よ。ホホ――!」
老人が目から金色の光をぶわりと燃やして笑――おうとした、その時。
青い閃光が老人の首を跳び蹴りによって刈り取った。
「色々な思惑が複雑に絡まりあってしまったこの豊穣……この戦いが光明となることを祈るばかりッス」
目を細め、哀れむ瞳で老人を振り返る。
咄嗟に爆発した老人だが、イルミナ・ガードルーンは既に爆発の及ばない範囲へと距離を取った後だった。
「……さ、ひばりさんフランさん! 頑張っていくッスよー! えいえいおー!」
「僕だって過去の知識だけを学んでいるだけではありませんよ。未来のために戦う事が大事だと、昔あの方に教わりましたからね。回復は僕に任せてください」
追いかけるかたちで現れたフランシス=フォーチュンと小烏 ひばり。
二人は頷きあうと、身構えた泰山灰桜特攻隊へとそれぞれの武器を構え返す。
「そこを退けぃ。この国はもはや終わりぞ」
「この豊穣という国に笑顔を届けます! あなた方が子孫の幸せを願って戦うように、わっちも今の皆さまのために戦います! だから引くことは出来ません!」
ならば死ねとばかりに掴みかかる特攻隊。
ひばりは持ち前の頑丈さで大男のパンチを受け止めると、フランシスの送り込む治癒の力をかりてパワフルに押し返した。
よろめく大男――の首筋をピッと細い線が走った。
「こっちもギリギリなんだ、お前らと一緒に死んでやるヒマはねえ」
かすり傷。僅かに血が出る程度のものだったが、突如ぼこぼこと血管が青くわきたち、大男は首を押さえた。
「なにをしやがった!?」
「さあてな」
トキノエは長く鋭く伸びた薬指の爪でくいくいと多招きをした。それきりだ。相手は血を吹いて崩れ落ち、黒い血だまりに顔を埋める。
「民も国も喰らうつもりとな!? 許すわけなかろう」
鋭く走る矢。
黄野の『黒漆塗白花蒔絵重藤弓』から放った矢である。弓に描かれた蒔絵が美しく炎にゆらめき、手を縫い付けるかのように首へ矢の刺さった男は起き上がる力を失った。
近づいて手をあて、死んだことを確認すると、黄野はトキノエへと振り返った。
「泰山とやら、食うに困った民を煽りて兵に仕立てたか。しかも終いに自爆などと……。
いかに訳があったとて許せぬ!なあ、トキノエどの!」
「いくらでも恨めよ、それで気が晴れるならな!」
「イレギュラーズの1人として、やってきたのは良いですが…大分ひどいですね!?
特に狂信的になって狂戦士になってる所が! どうせ狂信するなら、ゲブラーさん応援しましょうよ!」
狂ったように掴みかかる女を手刀によって斬り付けていくミズキ・フリージア。
トドメの寸前で爆発してしまったが、それでも問題は無い。
「ミズキ義姉さん、さらっとゲブラーさんを薦めないで下さい…っ!」
ぱたぱたと駆けつけたアヤメ・フリージアがミズキの火傷をすぐに治療してくれたからである。
そして、焼けた衣しか残らなくなった女の残骸を見下ろして首を振った。
「こんな馬鹿げた事、あって良いはずがないです…っ!
人を物みたいに、命を容易く消費しようとするなんて…!
正気に戻ったら、この人達だって望んでないはずなのに…!!」
「戦術としては間違ってはいないのであろうが気に食わんな……」
そこへゆらりと現れるオライオン。
マスクとフードの間からちらりと目を光らせ、腰に下げていたロザリオをてにとった。
「死なば諸共!」
「支援は任されてやる、後顧の憂い無く斬ってこい、サムライ」
かざした手から発した光が駆け寄ってくる青年の目を一瞬くらませ、刹那抜刀と友に駆け抜けた黛・帯刀の斬撃が青年の首を見事に落とした。
「知るかよ゛、てめぇらだけで死ね」
(テメェが苦しいから、みんなまとめて死にましょうってか?)
舌打ちする帯刀。
オライオンはフードを下げてつぶやいた。
「さぁ、懺悔の時間だ。
求めるのは。
――生か、死か。
――復讐か、誇りか。
最早祈る事さえ出来なくなったその身でお前達は何を得た。
鬼に売り渡したその魂、あの世があるとするならば悔いて絶望するんだな。
永遠なぞ、ありはしないのだ」
第一防衛ラインを易々と突破した泰山率いる『泰山灰桜特攻隊』はそのまま結界を維持するための社『白虎門』へと迫っていた。
他の部隊と異なり泰山灰桜特攻隊の目的は白虎門の破壊それのみ。
そのためには我が身を爆ぜることも厭わないという非常に厄介な狂信者たちだった。
さらには彼らが肉腫の寄生によって怪力を得ているというのも問題だ。
「覚悟キマってる人間ってある意味魔物より厄介デスね……。痛みや恐怖で止まらない。ゾンビゲーのFPSかっての」
明星・砂織の分析はノリとはいえ的を射たものだ。人口学において『かえりみない若者』の数それ自体が戦争における脅威になるとされ、地球世界はそれで国が滅んだり内紛で傾いたりすることもザラである。ここ豊穣郷でも鬼人種が教育を施されないまま地位が向上した結果暴動がおきたというのも、遠からぬ話だろう。
「『絡め取れ! 魔法カード、ローズ・バインド発動!』」
砂織は腕のデッキホルダーから魔法カードを抜いて裏返すと、カードの効果が連続発動。大地から魔法のツタが現れ青年たちへと絡みついていく。
「So desparate. 自爆し臓物まで曝け出す意気やよし。しかし――!」
そこへ現れたミスキー・C・ティナインがグラビアポーズをとると、激しい後光によって青年達が吹き飛んでいった。
「神の造りしグラビアンには強さ、美しさ共に敵いませんわ。私の美しさを冥土の土産に出来る幸運に、感謝するのですわね」
倒しきれなかった青年の爆発に巻き込まれはしたものの、駆けつけたサクラ・アースクレイドルと回言 世界が彼女たちの傷を素早く回復していく。
「噂には聞いていましたが豊穣ではこのような事が……。平和的には、当然無理ですよね。
少し気は進みませんがワタシも微力ながら助けになるのです」
「そこまで深くは豊穣の敵に関わって来なかったがまあ良くあることだ。貧乏籤の名前は伊達じゃないぜ! 自爆特攻隊なんのその! 圧倒的戦力ですりつぶしてやろう」
これでよし、とミスキーたちの背をポンと叩いてやる世界。
サクラはぎゅっと胸の前で手を組んで、自分自身の勇気をふるいたたせた。
「を賭けるのはとても怖いですが……皆さんもそれは同じであれば、ワタシ一人が怯える理由はないのです」
社へ迫る戦力は徐々にその苛烈さを増していた。
というのも、泰山がそうなるように戦力の比重を操作していたからである。
序盤は戦闘経験のろくにない連中に自爆特攻を仕掛けさせ、前線の兵が壊滅した段階で武装した兵を送り込む。彼らもまた自爆特攻が可能な上、白虎門の位置も分かっている段階なのでより強力に防衛ラインを掘削できるというプランだ。
第一防衛ラインの兵士たちから奪ったであろう槍を構え、血塗れの衣を纏った特攻隊が突っ込んでくる。
「うわ、なんかボカンボカンいってますよ? どうかしちゃったんでしょうか!
飛び散って汚いですし、お掃除しちゃいましょう! というか――もうこうなったら食べちゃいます!」
肉体を大きく変化させたライム マスカットが、自分を貫く槍とその腕、さらには相手の肉体を取り込み始めた。
「肉腫、貴様共が肉腫か。待ち焦がれたぞ、胸躍らせるぞ。貴様の味、臭い、噛みごたえ。考えるだけで涎が止まらず。空腹だ。あぁ空腹だ。その狂人諸共喰い千切らせろ」
その考え方はショゴス・カレン・グラトニーも同じ。
自らのダメージをも省みず、変形した肉体で特攻隊を寄生肉腫ごと食らっていく。
かえりみない人間はよりかえりみない人間に負けるものだ。
(あの結界は無辜の民達を守る為の最後の切り札なのです……ここは死守、絶対死守です!
そうでなくとも、自分の命を捨ててる様な人達――許せません、いかせられません)
アザー・T・S・ドリフトが頭頂部のあのなんかぴかーってするやつを輝かせながら、スライムボディをぷるぷるさせた。
(生きて明日を見るつもりもない人の為に、此処の人々を害させはしませんよっ!)
この不定形トリオが互いを治癒したり敵を食ったりしてる間、蟻巣虻 舞妃蓮は手から放つ謎の光で繰り出される槍を弾き、更に謎の光を強めて相手を殴り飛ばしていく。
「……久々の大規模戦場だな? たまにはしっかり働こうか」
そんな彼女に弱った青年が飛びかかり、突如として爆発。
激しい熱と光が広がり、黒煙があがったが……。
「自動回復は主人公たるアリスの嗜み」
ケホッと煙を小さく吐いて、舞妃蓮は髪をはらった。
そこへぱたぱたと駆け寄ってくるテルル・ウェイレット。
持参した水筒から治癒魔法を込めたお茶をいれると、舞妃蓮や仲間達へと配っていく。
「例え微力ながらではありますが、皆様の支援の一手となれるならば……」
ついでにタオルなんかも配ってから、ふうと額の汗を拭う。
この戦場は、人が死にすぎる。
だからこそ、自分たちの日常が負けてはならないのだ。
「自爆攻撃の弱点は不意の攻撃を受けた際の誘爆だ。自分達の陣のど真ん中で爆発すれば、まさしく『自爆』……」
高台から対戦車ライフルで狙いをつけるコルウィン・ロンミィ。
むき出しの刀を振りかざして走る特攻隊めがけて乱射すると、激しい爆発によって特攻隊がはじけ飛んでいく。
着目すべきはそれがこちらの攻撃による爆発でしかないという所だった。
「これだけの衝撃を与えても爆発しない? なるほど……」
当初可燃性の高い物質を体内に保有しているのではとにらんでいたが、どうやらあの自爆は呪術の類いによるものであるらしい。自らの肉体を対価にして行う抹殺なのだ。
ハリエットはその情報を受けて高台から跳躍。低空飛行ラインを保つと、上空から特攻隊めがけて攻撃をしかけた。
「グリム、準備はいいかしら?」
「おう、後ろは見てるぞ」
「レディを狙う不躾なお方には、ピューっとご退場願いましょう」
弓を構え、次々に打ち始めるハリエット。
「結界、守。不通」
シャノ・アラ・シタシディはそうして矢が打ち込まれた対象をピンポイントで狙い、ピューピルシールの術を打ち込んでいった。
倒し損ねた男が飛び退こうとするシャノの足を掴み、爆発。
「戦法、非道。早、終」
一度地上へと着陸したシャノたちは、頬に突いた泥を拭った。
「いくら耳に心地良い言葉並び立てたところで自爆特攻させてる時点で本末転倒なんだよなぁ!」
彼らに、もといそれを扇動した人間へ怒りをあらわにするヨシト・エイツ。
サングラス越しに空をにらみつけると、前線に出ずに後ろからこちらの様子を探っているであろう泰山への怒りを更にわき上がらせた。
「ほうほう! これがこの世界の異物、魔種と呼ばれる者か。
うむうむ、真なる邪悪とは奴等の様な事を言うのだろう…永遠の名を騙るとは愚かなり。…とはいえ、今の我は弱体化もいい所の矮小の身。故に出来る事は仲間を癒す事だけよ。人の子よ、我の代わりにあの愚者共を根絶やしにしておくれ」
ルーナ・サリエルがヨシトと共に爆発のダメージを受けた仲間達の治療を始めた。
ロザリオを手に首を振るカルロス・ナイトレイ。
「おお…何と悍ましい…。主よ、何故このような悲しき者達に救いを与えてあげぬのですか。
これでは…体の良い人間爆弾の様なもの! そのような救いのない末路を何故貴方は与えるのですか…泰山…まさしく畜生が如き所業に私は……怒りを禁じ得ません」
泰山にとってローレットの勢力は予想を超えていた。
手薄になった防衛ラインに追加配備されるだろうという予測まではしたものの、自軍が担当すべき数が40を超える頭数を揃えてくるとまでは予想できなかったのである。
「ボク達の白き牙を振るいましょう――!!」
美しく輝くラピスラズリの宝石剣。アイラ・ディアグレイスは組み付こうとする何人もの特攻隊を横一文字斬りによって瞬間凍結させると、砕けて散った敵を尻目に毛蹴出した。
防衛に成功した第二防衛ラインおよび白虎門の社より更に先進し、特別に組織された14名からなる『白牙部隊』が『泰山灰桜特攻隊』の第二攻撃部隊を食い破り、泰山に対する反撃の突破口を開こうとしていたのである。
「負けと分かれば自爆して果てるのかね…勇ましいのう…。じゃが、ワシらがそれを無駄死に変えてやるワイ!」
「敵が辿り付く前に殺しちまえば『防衛』になるだろ。俺、頭いい!」
無骨な剣を抜いて走るウェード=ランドマスターと刀を握って突っ走るオラン・ジェット。
彼らはアイラの撃ち漏らした敵を的確に引きつけ切り倒すと、後に続く仲間の道を切り開いていった。
「どうした、どうしたァ! そんなモンじゃねえだろ! かかってこいやァ!」
くいくいと手招きするオラン。
特攻隊第三部隊による弓の集中攻撃が行われたが、対抗するように治癒の魔法を展開し始めるニル。
「初めての戦場。目を背けたくなるような光景。でも……。
ニルは、ニルにできることを精一杯……」
「ケガしても治せるけど、ちょっとでも無事でいてほしいから」
それに加わる形でシェリオ・アデラは優しく微笑み、オランたちの傷を集中ヒールによって補っていく。
「怖くないわけじゃ無いけど、生きてる皆を守らなきゃ……!」
そんなシェリオたちを排除しようと矢がはしるが、オウェードはそれを剣で切り落として防御。
「牙は盾たる僕が守る。みんな頑張ろう」
ラピス・ディアグレイスはそんな仲間達を集めて神子饗宴をはじめとする強化能力で包み込んでいった。
彼の放つ青く澄んだ光が仲間達を、そしてアイラの身体を包んでいく。
「さあ」
行くんだ。どう言って指を指す先には、泰山とそれを固める親衛隊の姿があった。
「初陣、緊張するけど……即売会並みの混みっぷりを知っているだろ、俺……!
歴戦のオタクとして頑張るしかないんだ!いけ、俺の翼!」
突撃する仲間達を支援するために走る恵垣・綴。彼を囲む形で強化効果を得たメルランヌ・ヴィーライたちが迎え撃つ親衛隊へと構えた。
ボディースーツ姿のメルランヌは急速に走る速度を上げ、跳び蹴りを繰り出してきた相手の懐へ潜り込んで顔面を鷲掴みにした。
「人を惑わし死に向かわせるなど許されない。とはいえ、このような局面で皆を救うことは難しい。せめてこの手で楽にさせるのが……できることね」
ぐるんと相手を反転させ地面にたたき落とす。
「ハル、アシスト頼むで。…ここは絶対通さへんからっ!!」
「オーケー真那、任せとけ。いつも通りいくぞっ!!」
そこへ突入をかける月待 真那と真道 陽往のコンビ。
組み立て式マシンガンの三脚を素早くたてると、真那は銃にオプションされたサブウェポンからなにからすべて展開して一斉発射。
鋼の鎧に包まれた巨漢がそれをうけて大きくのけぞった所に、二丁拳銃を交差させて跳躍した陽往。飛来する矢を銃で弾く形で防御しながら巨漢の頭へと飛び乗った。
「自爆する暇なんて与えねぇ…っ!!」
頭に押しつけた二丁拳銃を零距離で撃ちまくり、かぶとを貫通して相手を即しさせる。
「てんやわんやな海を超えたら、その先もてんやわんや、ぼくびっくり。
でも、とにかくがんばる。アイラたいちょー、ぼくがついてるから」
ルルゥ・ブルーと松元 聖霊が駆けつけ、仲間達へのヒールを開始。
「俺の目の前で誰も死なせねぇよ。患者が痛いと言ったら治療する。それが医者ってもんだろうが!」
「久々におにく食べに行きますよ。問題としてはおにくが自爆する事ですね! さあ調理開始ですおにくが狂っちゃいけないし喋るのはダメなのです」
聖霊たちの手早い治療を受けて復帰した襞々 もつたちが泰山の親衛隊めがけてベヱコン『法』をもって襲いかかる。
「イレギュラーズの皆が頑張って張った結界なんだ! 絶対に守るよ! それに、新しく思い付いたものの実地試験も出来て一石二鳥だ!」
フィーア=U=ツヴァンツィヒはもつの弱らせた敵めがけて急速に引き上げた力でもって殴りつける。
「この一撃は人類の叡智の力だー!」
武者鎧の男が仰向けに倒れ、大きな音を立てて爆発する。
この戦いにおいて集中攻撃は非常に有効だ。こうしてチームを結成し、連携して動くだけでも大きな効果を発揮できる。
アイラは親衛隊たちへ向けて剣を突きつけ、『追い詰めましたよ』と目で示した。
戦力把握と第一防衛ラインの突破を目的とした泰山灰桜特攻隊第一攻撃部隊。
残存戦力の破壊と白虎門の破壊を目的とした第二攻撃部隊。
彼らは総じて使い捨ての兵士に過ぎないが、泰山の護衛ともしもの時の撤退を助ける第三部隊通称『親衛隊』はやや毛色が違った。
泰山へ特に強く心酔した人間達に高価な装備を与えて配置した連中である。
彼らは本来使うはずの無かった戦力だが、ことこうなっては仕方ない。
「あらあら、愛を広める為に豊穣へ来たというのに恐ろしいわね。
それに愛を知らない、可愛そうな者がこんなに…。狂戦士なんて恐ろしい事を…こんな事をした人も愛を知らない故にこんな事をしてしまったのですね…」
ナズナサスは拳法の構えをとった男に対してゆっくりと近づき、相手の繰り出す拳に対応してカウンターパンチを繰り出した。
真正面から拳が激闘し、衝撃が波紋のように広がっていく。
「爆とか何それキモチワル……未来永劫の自由と幸福? 永遠の魂? 不死?
そんなもののために死ぬ方が不自由で不幸じゃないかなぁ。バカだよねぇ」
そこへラズワルドが素早く忍び寄り、男の首へナイフを立てた。
血を吹き自爆しようと試みた男だが、ラズワルドはそれよりも早く蹴りを繰り出しつつ離脱。
爆発から離れ、バク転を介して着地した。
「言ったでしょ、死んで何かを成すみたいなのキライだからさぁ。
生きる気がないならひとりで死んでよねぇ。
心中相手だったら、無差別じゃなくてちゃんと選べば?」
「商売の時間! って感じではないですねえ……残念ながら。
でもでも、カムイグラが潰されたりしたら私たちの活躍する場所が減ってしまいますからね!
損得でも、私の気持ち的に考えてもこの戦、お手伝いしない選択肢はありませんとも!」
そこへアレクサンドラ・スターレットが猛烈な勢いで突撃。
咄嗟に防御の姿勢をとった親衛隊の兵士にショルダータックルを浴びせると、その勢いだけで相手を吹き飛ばしてしまった。
「お望みとあらばどこまでも! が私のモットーですので! 敵にはきつーい一撃を!」
ビッと指を突きつけるアレクサンドラ。
「私は兵站役。お互いお仕事だしまあ、上手くやってくれるよね。
……と信用してるんで不安はあんまりないかな。一連託生、やることやるかな」
そうしてガンガン攻めていく仲間達のうしろから適切に治癒魔法をかけていくロゼット=テイ。
彼女たちの様子に、泰山はやれやれと首を振った。
「少なくとも戦力を大きく削るくらいはできると思ったが……所詮は爆弾を抱えた弱者にすぎん、か。テロには向いても戦争には向かんな」
だから嫌だと言ったんだ、と泰山は背を向ける。
「逃げるのですか」
彼岸 月白が駆けつけ、腰の刀を逆手に抜いて両腕を交差させるように拳銃を構えた。
「一度は別れを告げた故郷とはいえ、このような蹂躙を許せるはずもありません。
祖国のため、そこに住まう人々のため……ここで打ち倒します」
ここまで倒れそうになった仲間や瀕死の兵士たちを治癒してまわってきた月白。兵部省あがりとはいえ実戦のブランクから戦闘能力に不安こそあったが、しかし無力では決してない。
「それは、私に言っているのか……?」
ゆっくりと振り返る泰山。駆けつけた白馬に飛び乗ろうとしていたその足を止めた。
同じく馬にのった親衛隊が駆けつけ、手を伸ばす。
「泰山様、お早く。この戦場にもはや得はありませぬ」
「だろうな。『例の娘』もみつからなんだ……」
と、そこへ。
「白虎門をあんたが攻めるなんて、うちへの当てつけやろか?」
と、声がした。
馬に乗る足を今度こそ止め、そして鉈へと手をかけた。
「『お嬢様』……」
「なぁ泰山」
黒いトンファー状の武器を構える白亜。
「あんた、覚悟できてるんやろなぁ? あんたを復讐せんとうちは気がすまんわ。
あんたの事で悲しむ人なんて頭弄って洗脳した人くらいやろ。空っぽなんや、あんた、ただ生きてるだけの空っぽの鬼やっ」
駆けだした白亜の打撃が泰山の顔面を襲うが、泰山はそれを鉈の刀身で防御。
ギラリと笑って白亜を押しのけ、強烈な蹴りでもって吹き飛ばす。
それを月白はそれをキャッチ。牽制射撃をあびせながら白亜を抱えて飛び退いた。
それまでいた地面に無数の銃弾が浴びせられ地面が大きくえぐれていく。
泰山が振り返ると、鉄砲を構えた騎兵隊が迫っていた。
「急を受け参上仕りました。泰山様。こちらへ」
馬から見下ろす鎧武者の集団は、とてもではないが現存の戦力でおしかえせるような連中には見えない。
白亜はギリッと歯を食いしばり、泰山へ襲いかかりたい心とそれを抑える理性を己の中でぶつけ合っていた。
一方の泰山は白馬へと飛び乗り、馬を返す。
「ここは引いてやる。だがまた逢おう。嫌が応にも、そうなるだろうがな」
白虎門の破壊をもくろみ都の不意を突いた泰山灰桜特攻隊。
初動において多くの死者が出たものの、ローレットはそれ以上味方に犠牲者を出すことなく防衛に成功した。
だが泰山の狙いがこれで終わったと考えるには彼の引き際が良すぎる。
この先動乱するカムイグラに、彼の脅威が迫らぬとはとても思えなかった。
●玄武門防衛部隊VS豪徳寺百鬼夜行
都郊外の村を、形容しがたい妖怪のパレードが進む。
ちんどんと鈴や太鼓を鳴らしながら、頭が琵琶になった法師や擬人化されたしゃもじたちが歩き、彼らの掲げた槍の先端には兵士の首が飾られていた。
彼らは豪徳寺英雄のもつ力によって操られ、本来の性質を大きく歪めて破壊と殺戮のみに特化した百鬼夜行である。
「オーホッホッホ!さあ今回も来ましたわ! 【特攻野郎・戦】チーム! 今回も私がリーダーと言う事ですので今回は場所の雰囲気重視で『戦』にしましたわ!」
そんな妖怪立ちの最前線に立つリアナ・シンクライ。腕のドリルを回転させると、引き連れた大勢の仲間達へ突撃の号令をかけた。
「さあ、個人的にお金も払ったのだから皆様、キリキリ働いてくださいな!」
「気のせいかな…また頭の痛いGAに巻き込まれた気がするし、姪っ子にも見捨てられた気がする……何だよ! 私はボッチじゃないやい! くそ、変身だ!」
早速変身した飛騨・沙織は必殺のスノードロップエクストラアタックを繰り出した。具体的には魔法の鎌でしゃもじ法師の柄の部分をぶった切る技である。
「愛と正義の魔法少女スノードロップ!セカンドシーズンで装い新たにちょっぴり過激に華麗に可憐に参上! 悪い子はお仕置きだぞ♪」
「ハッハッハッ!いやはや賑やかなGAで結構! 俺とてこれくらい賑やかな方が楽しめるというもの。
うむ、敵は妖怪! これはこれは多種多様の異形が相手とは僥倖! 未知の敵との死闘…昂るわ! さあ、俺を楽しませくれ!」
続く小刀祢・剣斗は軍刀を抜き、化け提灯を真っ二つに切り裂いた。
「フハハハ!俺こそが小刀祢・剣斗…貴様等を斬るモノだ!」
「嘘でしょ…今回はお嬢達のお世話しなくてもいいやと思ったらなんかお嬢達が偶に参加してる頭のおかしい奴等のチームにぶん投げられたんですけど! ロべリア! どうせテメェの差し金だろ! 畜生! 生きて帰ったら絶対こんな仕事辞めてやる! まあ無理だろうけどね、ガッデム!」
その横ではマナ・板野・ナイチチガールが発狂した小豆洗の頭部をまな板でぶったたき、ロべリア・ハンニバルがその様子を横目に発狂豆腐小僧へ拳銃を乱射していた。
「あたしだって巻き込まれた口ですぅぅぅ!!! というか、あのドリル娘無理やり連れてこられそうにされたから道連れにしただけですぅぅぅ!!!」
先ほどから、一見無害そうな妖怪が呪力を込めた小豆や豆腐を投げつけることで壁や地面をぐずぐずに溶かしたり燃え上がらせたりと凶悪な攻撃力を有するのが目立った。
彼らがただの妖怪でないということだろう。
「結界が壊れるとかどうでもいいです! こんな金にならなそうな所から一刻も早く逃げねば! その為にも…邪魔だ、テメェ等!」
豆腐小僧の頭を銃弾でぶち抜くロベリア。
「というかあんな化物相手によくやるよ、全く。俺みたいな一般ピーポーにはこんな化物退治荷が重いっていうの。
まあ、程々に動いてさっさとトンずらするのに任せますかね。じゃあ、まあ…俺の信仰する神様にでも祈りましょうか」
バスト・ハボリムは両手をポケットに突っ込んだまま歩くと、巧みなハイキックで灯籠頭の集団を蹴り倒していく。
「アハハ…まあ、仕方ないですね。こういう時位しか大量にキャラ投入できないですし、ぶっちゃけ経験値的にも美味しいですしね//僕も回復要員としてここに居られるだけまだマシと思っておきますよ。
…まあ、他でも出番欲しいですけど…ね。…と言うかこの集団…僕が居なければすぐに壊滅するぐらいに特攻野郎ですよね?」
ひたすら突っ込んでいく仲間達を後ろからヒールで支援していく衝羽根・朝姫。
彼女のいうように、いつでもいつでも前向き振り向かない省みないが基本姿勢の特攻野郎たち。
「OK。久々に脳筋共の集いに参加してしまったのは理解出来たっス。
……けど何でこんな修羅場に参加してるの! 生きるか死ぬかの瀬戸際じゃん! もうやだ、ローレット! 死ぬ! 死んでしまう! ヒィ―!!! 妖怪とか絶対天義案件な怪異共じゃないっスか! …クッ!だけどボクはアイドル! この程度の死地がナンボのもんじゃー!」
そして大体いつものメンバーがいつものように突っ込んでいくので、役割分担が自然となされるのだった。
ミリヤム・ドリーミングの役割はうっかり敵中でドヤ顔ヘイトバーゲンセールして泣きながらダッシュで敵を引き連れることである。
「魔法少女『プリティ★シシリー』…参上! ふふふ、どうですか斬月様! 今の私、超カッコ良くないですか!」
「ああ、そうだね。頼りにしてるよシシリー。
それにしても初めから重大な任務だね。でも俺も小悪党ではあるがイレギュラーズの一員だ。例え弱くとも出来る限りのことはするつもりだよ」
「はい、ではでは残月様、共同作業と行きましょう! ヒャッハー!汚物は即射殺だー!」
「HAHAHA! いやはや普段お世話になってる斬月様の初陣のお供としてこの様な賑やかな戦場とは光栄の極み!感謝感激雨霰ですねぇ!」
一斉に展開するシシリー、クラウ、そして残月。
シシリーはマジカルアローに魔法の矢をつがえると、頭部をぱかっと開いて大量の餓鬼を放出する巨人めがけて討ちまくった。
クラウは奇術師のように大量の糸を民家から民家へ張り巡らせると餓鬼の群れを破壊し、開かれた道を残月が駆け抜け鎖を巻き付けた腕で巨人を殴り倒していく。
「アハハ!また特攻野郎シリーズだよ。いくらここの募集用員が個性重視でも脳筋連中をこんな投入されてもしょうもない様ね、敵さんも困惑するだろうし…まあ、今回も沙織伯母さんと一緒に暴れるかな。
というわけで宜しくね『ウサウサ三銃士』!」
ぐるぐると肩を回して準備運動を終える飛騨・沙愛那。
「さあ、『首断』! どんどん首を狩ろうね! ヒャッハー!「首狩り白兎」のお通りだ!」
『ウサウサ三銃士』とひとくくりにされた兎崎 鈴と溝隠 瑠璃は一度肩をすくめた。
彼ら二人の共通点はと言えば、暗殺集団『溝隠衆』に属しているということだが。
「どうしてイレギュラーズになって初依頼が遠い地の決戦なんですか、お嬢。もう自分逃げていいっスか?」
「だめだゾ?」
ある意味必殺技となりつつある『複合毒「シグルイ」』を人面虎へとぶん投げると、『行け』と合図を出した。
沙愛那と鈴のダブルラビットキックが炸裂し、人面虎が吹き飛んでいく。
「もう嫌だ、この主人……!」
「遠く離れた豊穣の地、だがその民に危機が訪れているというなら僕も微力ながら力になるゾ! やっふぅー!」
「やっふぅー!」
「もう嫌だこのウサギ……!」
『豪徳寺百鬼夜行』は凶暴化した妖怪の群れである。
一見、四つの襲撃部隊の中で最も扱いづらく統率のとれない集団であるように見えるが、これを巧みに利用するのが豪徳寺英雄という天才軍師の才能であった。
更に元をたどるなら、目の前のものを喰らい尽くすことで頭がいっぱいになりがちなガルマや自分のコレクションとアートが価値の中心にあるカボンヤ、カリスマを己の不死性を高める目的のためだけに費やす泰山といった極めてアクの強い連中を連携させ、彼らのもつ『軍隊』をこの作戦に動員させた手腕はある意味最も危険であると言えた。
「HAHAHA! ヤバいよ、これ! まさか日本風の土地に日本風の怪談に出てきそうな妖怪たちで百鬼夜行って! ボクすっごいワクワクするんだけど! 妖怪大戦争でもしちゃう!?
ボーンもシオンも見てみて!これがボクの生まれ故郷に妖怪ってアンデッドみたいなものだよ!」
突如首のない馬『セキト』で荒れ狂う人面牛妖怪を跳ね飛ばしたところで、ヒナゲシ・リッチモンドが迫る妖怪の群れを剣で指し示した。
「カッカッカッ! まさかこんな遠い血で俺達に似たような敵さん達と闘う事になるとは面白れぇじゃねェの! こいつら…ええっと妖怪って言ったっけ? ヒナゲシ。まあ多種多様な奴等が居て面白れぇこった!
じゃあ、久々に家族団欒と行こうか! テメェ等が何考えてこんな事仕出かしてるのかは知らねェけどよォ…人様を不幸にしようという連中にはお仕置きが必要だな!」
ボーン・リッチモンドは彼女の前に立つと、『目覚めろ』のコールと共にスケルトンアンデッドを複数召喚。迫る髑髏妖怪たちへとけしかけた。
「またこの馬鹿親達は! 一応は危機的状況に楽しんでどうするの!
…大体姿形は私達が知るのとは別だろうが結局はアンデッドと同じ分類なら私達とそう変わらないでしょうに。けど誰かを不幸にしようとする為に動く不届き者達なら…私も容赦はしないわよ。馬鹿親達の尻拭い感は果てしないけど!」
やれやれと行った様子で後方から魔術を放ち適切にトドメを刺していくシオン。
そして倒した髑髏たちを成仏させるために祈った。
こうしてみて分かったことだが、どうやら彼らの魂は何者かに縛られているらしい。
それ故か、倒されたことによって解放された魂がシオンへ礼を言って消えていった。
「これは……」
だが深く考えている余裕はなさそうだ。へらへらと笑う巨大な生首が飛び跳ね、粗末な小屋を踏み潰しながらこちらへと迫ってくる。
「ライさま。存分に暴れられるよう、サポートを務めさせていただきます」
「助かる。ここは己の実力を過信せずに相手を見定めるのが重要か。一先ず速度で攻められそうな相手から各個撃破を試みるかね」
それを迎え撃つシャロ=シェロムニとラインナハト・アスル。
直撃を避けて攻撃を受け流すラインナハトに、シャロがすかさずカウンターヒール。更に魔術を打ち込み相手の動きを弱めたところでラインナハトによるナイフが深く相手を切り裂いていく。
「滾るのは狩人の生業故か。出来る事を出来るだけ。屠れる相手を確実に沈めるだけだ」
「お見事ですライさま! 今日もおいしいおやつを仕込んでありますからね!」
玄武門。四神結界のひとつとして機能している社は都北部にひっそりと佇んでいた。
住民達にとってそれはごく普通の社にすぎないが、いまや妖怪たちにとっての最重要攻略点である。
急な強襲をうけ、とるものもとりあえず避難し走って行く住民達を背に、白ノ雪 此花は刀を抜いた。
「故郷の事でもありますし、微力を尽くしましょう。あまり差別等感じなかったので、実感は無いのですが…やはりうちの主は最高の方でしたね。それにひきかえ都は恐ろしい所です」
住民避難をある程度助けてから合流するカティア・ルーデ・サスティン、ザハール・ウィッカ・イグニスフィア、セレステ・グラス・オルテンシア。『草カフェバー『ダンデリオン』』チームである。ひとりは神様退治に出かけて不在につき、今回は残る四人での出陣となった。
「悪いのをぶん殴る、そういうのがシンプルで一番いいよな!
あ、尖った…個性がいるんだっけ…? 確かに尖った切っ先とかめちゃ痛いよな、あと小指の先をタンスにぶつけるの超痛いよな」
「『尖った個性』って、こういう事じゃないと思うよ?」
「個性ならだいぶ負けてませんよ皆さん、大丈夫です。私は…ちょっと自信ないですけどねえ…普通すぎて…なんですかその顔は」
「まあ、来ちゃったものは仕方がないから、皆頑張っ――」
「指示ヨロ! 決まるまでスクワットして待ってるぜ!」
「無駄な体力使わないでザハール!」
「政治的な事とか、個人的な因縁とか、こんがらがった糸を地道に解いていくような戦いはいろんなものをすり減らしてしまいます。私はこういうシンプルなのでいいんですよ…末端ですからね」
「人類の話聞いてセレステ!」
「カティア様、保母さんみたいですね」
「他人事みたいな顔して距離取らないで此花!」
カティアは全方位にツッコミを入れてからバッと治癒支援のフォーメーションを組んだ。
よっしゃあと言って飛び出すザハールのパンチと此花の斬撃で妖怪への道を切り開き、群れたところでセレステの範囲魔法が爆発する。
なんだかんだで息ピッタリの四人であった。
こうして社へ迫る妖怪立ちを迎え撃つローレット・イレギュラーズたち。
だが戦うのはなにもローレット・イレギュラーズだけではない。街を警備するためにかろうじて残っていた兵士達があちこちからピックアップされ、ユリウス=フォン=モルゲンレーテのもとへと集合している。
「この異国の地の苦境、ただ見ているだけなど出来るはずもない。
未だ未熟極まりないこの身ではあるが、僅かでも力になりたく馳せ参じた。
勝利のために……カムイグラの精兵よ、少しだけでいい。私に力を貸してはくれないか」
よく響く声で演説をぶつユリウス。その声と言葉に心を打たれた兵士たちに、御堂・D・豪斗がさらなる演説もとい発光をあびせかける。
「ゴッドの前に存在したものはあった。それこそがダークネス!
だがファーストはシャインであったと人の子はいう。今ここにゴッド・クリエイションの一端を見せよう!
諸君! ゴッドである! ダークネスもダーティもゴッドが照らそう! 例えこのワールドのルールに従おうと、ゴッドは変わらぬ! ゴッドウィズユー!ゴッドは常に諸君とともにある! ゴッド・マジェスティとともに進むがよい!
ヒーローのストーリーのオープニングを奏でよ! ゴッドのシャインにホールドされてダークネスを切り裂け! ダーティなバッドでストップするなど諸君には有り得ぬ! 故に、ドントストップ! 諸君のエンディングはまだまだファーアウェイ!
――ネバーエンディング!」
いちミリも何言ってるかわかんなかったがゴッドの堂々とした演説でなぜだかやる気が湧いてきた兵士達。
「っていうか、あの妖怪達個性バラバラって事は統率はそこまで取れてないって事でよろし? そこを付け入るとしますか」
集団戦闘において『統率を取る』ことの重要性は地球の歴史をひもとくまでもなく明らかである。
相手はひとりの天才が大量の怪物を統率するという離れ業をやっているが、こちらは並列処理によって無数のチームを個別に統率し対応することができた。
星影 昼顔はフィナ=フォルトゥナと共に高台から妖怪たちを観察。個別に弱点や特徴を見極めると、兵士達へと指示を飛ばした。
「明日はいい日じゃない、ですか? いえいえ、明日はいい日ですよ!
くよくよせずに行きましょう! それに明日がダメなら来年でも! とくに、皆さんなら新春かくし芸大会とかでも十分通用すると思います! だから泣きわめくほどお腹抱えていっぱい笑いましょう! 来年ずっとハッピー間違いなしです!」
そこへフィナがなぞのポジティブをぶちかますことで謎に妖怪たちを牽制し、ポシェティケト・フルートゥフルが設営したヒーラーテントを防衛させた。
「百鬼夜行の悪いおばけには負けられないよね。ワタシ達は守るための戦いを。
頑張りましょうね、クララ」
ポシェティケトがたてたヒーラーテントには負傷した兵士たちが次々運び込まれ、それを伯がパンダ耳をぴこぴこさせながら一生懸命に治療していく。
「こっちの世界の妖怪はカッコいいなぁ」
なんて思いながら、テントの外をのぞき見た。
丁度アルヤン 不連続面が手足の生えた箪笥の妖怪と熾烈な戦いを繰り広げている最中のようだ。
「家電だって戦えるんっすよー。家電は妖怪じゃなくて普通の家電っすよー。これちゃんと言っとかないと人間の攻撃がこっちにも来そうっすよねー」
百鬼夜行と戦うというから若干忘れがちだが、ことローレット・イレギュラーズとて人外魔境を孕んでいる。
残像を残しながら超高速で左右に移動し続ける扇風機が箪笥の繰り出す爪の弾丸を回避するさまなどローレットではある意味おなじみの光景だった。
「海、神様、鬼、全部絵本で見たことがある。
けれど、ファルムにはよくわからない。……ただ、力が必要なことだけはわかる。なら、ファルムは戦う。……きっと主も、そう命じてくれるから」
自らの役目を定め華麗にヒンナガミという妖怪の作り出す数十本ある『人形の腕』を振り払い、『ソーンバインド』の魔術でもって縛り上げていく。
「痛い、は気持ちいい。ファルムはそれを、知っている」
こうした個性と個性のぶつかり合いはあちこちで勃発していた。
「良いも悪いも常に曖昧。だが僕には僕なりの法則(ルール)がある、それを通させてもらおう」
アイザックはプリズムキューブ体の頭部をくるくると三次元回転させながら、プリズムで作り出した槍で封(ほう)という巨大な肉塊めいた妖怪の胴体を貫いた。
一方で妖怪は自らの肉を引きちぎって硬化させると、アイザックの胸へとナイフのように突き立てる。
吹き出る黒い血と、虹色の血。
「そんな力では、僕(としでんせつ)は消えないよ」
傾いたまま姿勢を維持するアイザックと、同じように肉を変形させて戦闘を継続する妖怪。
「国の危機とあれば降り立たぬ訳にもいかぬ」
その真横を飛び越え、ダーク=アイがカッと見開いた目から太い暗黒の光線を発射。
提灯がばっくりと開いたお岩提灯がそれに対抗して炎を吐き出し、両者中央で交差し双方へ直撃。
「愚かな者よ。そうやって人々を苦しめてきたのだろう。なれば同じ苦しみを味わうがよい。悔い改めよ。これもまた救いである」
ダーク=アイは燃え上がったが、炎のダメージをまるで受けていなかった。
「恐れよ、私の『黒の矜持』は伊達ではない」
そのまた横では皇 刺幻は女性体へと変身すると、首が二つある妖怪めがけて剣による刺突を繰り出していた。
一方の頭は敵意をむき出しにするが、もう一方の頭は刺幻に見とれてぽかんとしているようだ。
「せめて私の美貌を妖の目に刻みに行ってあげようか。元を辿れば無垢なる魂。死ぬ時にくらい、多少の思い出をくれてやってもいいかもしれんな」
そんな彼らの真上を得意の海星綱でバンジー移動していく糸巻 パティリア。
次々に糸を放って家々の間を立体的に飛んでいく鬼蜘蛛を追尾すると、その後方からライフルを連射した。
「ニンジャ故に常道ではござらぬが、外道はお互い様故文句は聞き入れぬでござるよ?」
機動力に特化した妖怪が機動力で追いつかれれば、それはもはや落ちるほかない。
「百鬼夜行か……これは凄いね。まさに妖怪のオンパレードだ。いろんな敵がいて、いろんな戦い方をしてくる。これは負けてらんないかなぁ」
墜落する鬼蜘蛛をよそに、生方・創は黒狐の姿で駆けだした。
狐火を纏った化け狐が対抗して飛びかかり、両者はすさまじいスピードで交差し続けながら互いを爪によって切り裂いていく。
「いやぁ僕も妖怪みたいなもんではあるけどさ、君たちとは一緒にされたくないよね! ――そりゃ!」
一瞬の隙を突いて相手の急所を切り裂くと、創は四肢でブレーキをかけた。
「可愛いからって甘く見ない方がいいってことさ!」
白虎門周辺の住宅地は、素早くそして大量に配置されたローレット・イレギュラーズたちの活躍によって守られた。
しかしそれで終わりにしないのが豪徳寺英雄という軍師である。
戦力が白虎門前に集中したのを逆手に取り、左右に軍を分け民間人の避難所を襲う作戦へと切り替え始めた。
そちらに兵をさかれれば白虎門の守りも薄くなる。そこへ温存した戦力をぶつけられては厄介だ。
だが、ローレット・イレギュラーズはそれにも対応していた。
「燕姫――全力で参ります」
りん、という鈴の音と共に骸骨足軽の首が切り落とされた。
級都 燕姫は既に抜刀し、さらなる骸骨足軽の首を素早く切り落としていく。
「悪しき物の怪と交わす言葉はありません。せめてどうか安らかに」
それを合図にしたかのように、商店街の細道を抜けて現れた氷瀬・S・颯太が独特な二刀の構えから夜叉の腕と首を同時に切り落とす。
「只の『忍者』と思うなよ……?」
刀の持ち手を逆に返すと更に加速。首を再生させた夜叉を再生速度が間に合わない勢いで切り刻んでいった。
「ふふ、楽しくなりそうです。まぁ、私が殺したいのはあそこの鬼なのですが…まぁ手が届かないなら意味がない…まずは道を開きましょうか」
黒色刀身の脇差しをぬらりと構える玄緯・玄丁。
彼をすりぬけていこうとした首塚刀の妖怪へ先回りし、防御姿勢をとるよりも早く振り抜いた。
「僕、嫌いなんですよ同族が」
ごとんと首が落ち、玄丁は遠くへと視線を移す。
巨大な鬼蜘蛛の上からこちらを観察する豪徳寺英雄。
「望んで来た戦場とは言え、国の一大事に関わる事になるとはな。
だがそれもまた、巡り合わせというものだ。私がイレギュラーズとなったように。勿論、全てを運命とひとくくりにしてはいけないが。
それでも、選ばれたからには。そして選んだからには。ーーやるべき事が、ある!
さあ大地を駆けて進め、過ぎ去った雷鳴のように!」
ラーディス=シュハは瓦屋根の上を走り抜け路上へと飛び出すと、飛行して通過しようとした木綿の妖怪を斬り捨てた。
着地し、集まった骸骨足軽たちへと手招きする。
「さあ来るがいい。このシュハのラーディスが打ち倒してくれる!」
シュハの一族に伝わる鋭い獣のような構えでレイピアを突きつける。
骸骨足軽たちは槍をもって彼を取り囲もうとするが、そこへ家々の隙間からぬるりと細長い妖怪が姿を現した。
目立つ集団で襲わせて隠密製の高い妖怪で奇襲するという作戦――だったが。
「多種多様な敵の個性とあらば、多様な技を用意して挑むが魔女の知恵! ……とお姉ちゃんやママ達が言ってました!」
巨大なミートハンマーをかついだアウロラ・マギノが隙間から飛び出た妖怪を出現直後に叩き潰した。
画一的な兵士達になら通用した奇襲だが、思い思いに工夫するローレット・イレギュラーズの対策にはカウンターされてしまうのだ。
「玄武か、奇遇だね。俺が左手に嵌めてるのもおんなじ名前の盾なんだよ」
かつて絶望の青を超える戦いの中で手に入れた怪物の甲羅。それを加工した手甲を変形させ、霧裂 魁真は影から飛び出してきた顔のない僧侶妖怪を斬り殺した。
「俺死にたくないからさ……お前が死ね」
しゅるんと蛇腹剣のように伸びた『裏玄武』で妖怪を影ごと切り裂く魁真。
そこから次々と仲間が駆けつけ、激しい攻勢が始まった。
はじめは骸骨足軽たちの影にかわいらしいまち針が無数に突き刺さって動きを封じ、更に素早く張り巡らされた色とりどりの糸が絡みつき、トドメとばかりに美しい刺繍のかけられた布が骸骨足軽たちを締め上げていく。
「ふふ、なかなか嫌な戦い方でしょ? さてお次のアタシのお相手は? 切り刻んでばらばらにしてあげる」
夕凪 恭介がパチンと指をならすと骸骨足軽たちはバラバラにされて落ちていく。
その戦力を補うために巨大なキノコがその場からはえて顔や腕を形成したが、飲食店の扉をガラッと開けて登場した嶺渡・蘇芳が借りてきた包丁でスパスパとキノコ妖怪を切り裂いてついでに大鍋で煮込み始めた。
その手際ハヤテの如く。酒場で鍛えたフットワークの成せる技である。
「念場ねー。さぁ、やれることを頑張るわよー。皆で笑って、美味しいご飯を食べるためにねー♪」
「んー、もしかして、召喚されて間もないってのに結構な戦場に来ちゃったんじゃね?
まだもとの世界の時ほど体が動かねんだよなあ。技もそんなに覚えてねえし」
そんな戦場に、瓦屋根の上に腰掛ける形で現れた秘色 彼方。
呪言を封じるために装着していた口部拘束具をパチンと外し、『いこっか。籠女』と唱えた。
彼に付き従う式神がふわりと空中に生まれ、呪力に満ちた剣を握り込む。
彼方は屋根からぴょんと飛び降りると、自らの呪力を直接叩きつける形で籠女の剣を振り下ろさせた。
まるまるとした妖怪が、真っ二つに切り裂かれていく。
骸骨足軽を中心とした物量&奇襲作戦が行われる一方、反対側では巨大な入道が召喚され民家を破壊しながら無理矢理避難区域へと侵攻していた。
「住んでる人間に、罪はねえ」
亘理 義弘は風吹く屋根にて立ち上がると、上着を豪快に脱ぎ捨て半裸となった。
背に熱く彩る桜吹雪の刺青が、燃える都にてらてらと揺れるようだった。
「あの手この手で来るってんならそれでもいい。ここにいる仲間全員でぶち抜き、薙ぎ倒してやるよ」
走り出す義弘と共に、矢都花 リリーとヴィウィが動き出した。
「はあ…。国がどうとか何か色々言ってるけどさぁ……。
バイク乗ってたり変な服着てたり、要するにウェーイ↑↑してる陽キャってだけだよねぇ…それか珍走団…?
まあどっちにしても陽キャはギルティ…」
リリーは屋根の上から次々とバールを投擲、一方のヴィウィは鎖で肩から斜めがけにしていた斧をぐるりと回して装備。
「なんか、あーしの生まれ故郷の鉄帝や職場のラサと比べたらずいぶん面白い国やね。まあ、今なんか鉄火場見たいやし、なんかでっかい犬いるし、もやってるし?
ま、ここでも荒事があってお給金が出るんやったら、あーしにとっても上得意やね。っつーわけで、白斧のヴィウィ、突貫すんよ!」
バールのダメージを払おうと突進してきた入道へ真正面から斧を叩きつけた。
「凡骨にして凡庸、未熟にあれど御味方の為、己の為、『為すべきを為す』。タイ捨流、浜地庸介――参る!」
そこへ浜地・庸介が登場。
仲間から教わった裏道を駆け抜けて入道の後方へと回り込むと、膝裏を的確に狙ってそばに転がっていた丸太を叩きつけた。
巨人を倒す時は足から。そして足を崩したならやるべきことは――。
「御味方様! 今こそ勝機!」
「応!」
義弘は豪快に飛び上がり、気合いを込めた拳を入道の顔面へとたたき込んだ。
ばきごきりという顔面の骨がへし折れる音。歪む顔。そして仰向けに転倒していく入道。
義弘の背に、ぼうと刺青が燃えあがるようだった。
こうして両サイドからの進撃を抑え続けるイレギュラーズ。
やや手薄になった玄武門正面めがけ、巨大な鬼蜘蛛と巨大髑髏のがしゃどくろが迫っていた。
鬼蜘蛛の背には豪徳寺 英雄が立ち、こちらを見下ろしている。
「悪しきモノには制裁を、正しきモノには救済を。当然のことでございましょう?
穢れた焦土など一刻も早く浄化いたしませんと。前線で戦う全ての善きモノの為に捧げます」
アポフィライト・Az*h**はひび割れた足で迫る妖怪の群れを次々に蹴り倒し、仲間の進む道を開いていく。
歩く箪笥や灯籠や化粧鏡たちが砕けていくのを見て、目を細めてつぶやいた。
「ええ…イヤですもの。コワレルのはもう二度と。絶対にイヤ」
「いいや、壊すんだ。この国を、腐った政治も、その甘い汁を吸う豪族たちも、それに虐げられた貧民たちですら、なにもかもをリセットする」
豪徳寺英雄は錫杖をしゃらんと鳴らして妖怪たちに指事を出した。
がしゃどくろが前へと進み出て手を伸ばす。
「あァそうさな…信じて待つのも手を取り合うのも面倒臭ェ。
何も彼にも許せねェ、纏めてブッ壊しちまえって時もあるわな。
でもそりゃあよ、まだ信じて手を伸ばして真面目に生きてるヤツに対して随分と身勝手な結論だと思わねェか……思えねェんだろうなァ!」
日向寺 三毒迫る妖怪たちを次々となぎ倒しながら、続く仲間へと『前へ進め』のジェスチャーを出した。
「行け。オレなんかじゃなくていい…声の届く誰かが止められりゃあいいんだ」
応えるように、天雷 紅璃とLuxuria ちゃん、そして02が動き出した。
「どんなゲームでも、それこそリアルという人生ゲームでも今日より良い明日を信じられない英雄(プレイヤー)にサイコロは微笑んでくれないんだよね!」
仲間達を鼓舞すると、紅璃はチラリとスマホを見てアンカー指定の文言を読んだ。
なるなる、とつぶやいてから横転した馬車を踏み台にして跳躍。
民家の屋根から屋根へ飛び移ると彼女を掴もうと手を伸ばすがしゃどくろをギリギリで回避。腕を駆け上がっていく。
その一方で足下へ接近したLuxuriaが最近開発したらしいおっぱいビンタ・TSで強引にぶつかっていく。
やや体勢を崩し、バランスを取ろうとしたがしゃどくろの顔面を紅璃の蹴りが、そして02が突如としてぶん投げた木の剣が直撃した。
「あら、私はいい名前だと思うわ。
だって悪魔に殺される名前としては、これ以上は無いですものね。
お望み通り、本物の地獄へ送ってあげましょう、"英雄様”?」
こちらを観察している豪徳寺英雄をぴったりと見据え、がしゃどくろの首を更に投げた剣でもってへし折っていく。
砕けて落ちる巨大な骸骨。
それを見下ろして、豪徳寺英雄はひどくため息をついた。
彼を乗せて歩いていた鬼蜘蛛。もといその頂点に附随している執事風の上半身が振り返る。
「『蟲』から連絡が。ガルマ殿とカボンヤ殿が撤退したそうでございます」
「そうか、失敗したか。ローレットの展開能力は予想以上だったものな。泰山は? あの女に執着して残ったか?」
「いいえ、部下に回収されたとのことで」
「ふん。まあ、そんなところだろうな……」
下らない。とでも言いたげに首をかしげる英雄。
「いかがなさいますか」
「強襲した側が戦力を損なったらやるべきことは一つだ。捨駒部隊を投入して遅滞戦闘。主力部隊は引き上げる。『次』を狙うさ」
ここが、英雄たちの狡猾なところだった。
兵の手薄を狙って襲撃をかけるのは、裏を返せばカムイグラの戦力を侮っていなかったということ。
彼にとって『最も憎むべき対象』である巫女姫たちと内通するかたちで強襲作戦に出たのも、そうすべき必然性あってのことである。
然るに、投入された膨大なローレット戦力を侮って対象自ら飛び込むという愚を侵しはしないのだった。
鬼蜘蛛が小骨のようなものを大量に地面にまくと、そこから無数の日照河童という妖怪が生まれ即時に発狂。避難区域めがけて走り出す。
が、それを巨大な骨の手が突如としてなぎ払った。
「らせつ、じゅっきしゅう。いちがいた、とこ。
……。にいたち。まける。いちの、とき。おなじ。もう、させない。にどめ。おなじ。させない。
いちと、にい。おなじ。それとも。ちがう? 不明。わから、ない。けど。にい。ひと、まもる。そのための、もの。いま。それだけ。じゅうぶん。 だから。たたかう。かつ。まけ、ない」
「これだけの兵力を動かせるとは、敵も大したものだね。
だが、好きにはさせないさ。個人的にこの国にはまだまだ調査したい事が沢山あるのだからね」
身構えた二と共に、黎明院・ゼフィラは義手にエネルギーを溜めて日照河童たちを次々と殴り倒していく。
敵の首魁である英雄を乗せた鬼蜘蛛は既にターンし、撤退を始めているところだった。
が、それを容易く逃がすローレット・イレギュラーズではない。
「珠緒、ここで!」
赤く輝く光の翼を広げた藤野 蛍が、両手で掴んで保持していた桜咲 珠緒を透過。
「おそらくあれが最も強力な固体のはず。ここで潰そう!」
「理想も力もあったのでしょうに……引き返せぬこの相対、残念です」
珠緒は開いていたウィンドウをすべて閉じると土蜘蛛の背へと着地。
執事は両手から大量の糸を放ってとらえようとするも、間に割り込んできた蛍が両手に持った教科書をそれぞれ特殊展開。フォースフィールドを形成して糸を阻んでいく。
その後ろから珠緒は血色のナイフを次々に作り出しては投擲。
執事の身体に突き刺さり、鬼蜘蛛は大きく傾いて町中で転倒した。
派手な音を立てて民家を押しつぶした鬼蜘蛛。その背に乗っていた英雄は路上に投げ出された。
よろよろと立ち上がる。
「全く……黙って逃がせばいいものを」
乱れた髪を手ぐしで直すと、あがった砂煙の中から矢萩 美咲とタマモが現れた。
般若面を装着し、刀を抜く美咲
「酒飲み仲間の息子が魔種だなんてなァ……。けどよォ、こういう物は直接問いただすのが一番だってのは世の常さね」
秀夫はそれを阻むように何かの骨を放り出し、空飛ぶ蛇……もとい女の頭がついた大蛇たちを召喚。
「アタイは矢萩美咲! そんじょそこらの妖怪程度屁でもないさね!」
大蛇たちは美咲へ群がり、彼女が大きく飛び退いた瞬間を狙ってタマモが一輪の花を投げた。
(魔種の影響力は恐ろしいものだ……もしかして葛葉も魔種に堕ちてたら……なんて考えたらとても恐ろしい。
美鬼帝殿の心情を想像するだけで心が痛む……少しでも彼らの手助けをするべきじゃな)
投げた花は大量の彼岸花へと変わり、大蛇たちを半数ほど飲み込んでいった。
「英雄殿、貴様等の目的は何じゃ。国を潰した後にナニを為そうというのか。
魔種となりてお主は何を為そうとするのだ」
「潰した後だって?」
ハッ、と吐き捨てるように笑うと、英雄は頭を傾けた。
「そういうのはな、『夢』っていうんだ。手段の先に目的があって、目的の先に夢がある。なあ、あんた、俺に夢なんてあると思うか」
「…………」
そこへ駆けつけた糸杉・秋葉は、神刀『火之迦具土』を抜いて大蛇たちを一斉に斬り捨ててから英雄へと振り返った。
燃え上がり人間のように悲鳴をあげながらのたうつ蛇たち。
そのむこうで力なく笑う英雄の目は、世界と心中しようとする者の目だった。
(私はやっぱり巫女勇者として英雄さんを倒さないと…けど絶対に豪徳寺親子の傷になるわよね…嗚呼! もう考えてても仕方ない!)
秋葉は首を振り、英雄へと『天魔反戈』を突きつけた。
「豪徳寺英雄! そんなことをしたって何にもならないわよ!」
「ならない? どうして? 腐った政治家も傲慢に庇護だけ欲しがる民も、差別も貧困も、全部元から断てる。『巫女姫を倒したくらい』ではそれらは解決しないんじゃあ無いのか?」
「そういうのは時間をかけて……ああもう、これだから魔種は!」
「合理的な説得をしても無駄ですわ」
妙香良 比丘尼が錫杖をしゃらんと鳴らして現れた。
英雄がぽつりと『瀬織津の……』とつぶやいたが、それきりである。
妙香良は片手で祈る姿勢をとり、英雄へ聖なる光の槍を次々と発射した。
その悉くをただ錫杖をしゃらんと鳴らすだけで弾き落とす英雄。
「何かの理由や何かの不幸があったのでしょう。でしょうが……魔種へと堕ちれば人はその目的が『歪む』もの。
姉を愛する妹が、姉を手に入れるために世界を滅ぼすようになったように。
姉を病から救おうとした弟が、手段に執着し姉を忘れてしまったように。
その英雄様もまた、歪んだのでしょう」
「小兄!」
「英雄!」
そこへ、豪徳寺・芹奈と豪徳寺・美鬼帝が仲間の助けを借りて駆けつけた。
周りでは未だに激戦が繰り広げられ、追ってきた別の妖怪たちに比丘尼や秋葉たちまでも対応に追われることになった。
英雄を挟み込む形で身構える芹奈たち。
二人の姿を見て、英雄はうんざりした子供のようにため息をついた。
「貴方は自分が何をやってるのか、わかってるのか?
豪徳寺の名を、この地に住む者達を、何よりあなたが敬愛していた霞帝を裏切り穢す行為だぞ!
しかもよりにもよって……母上と大兄の仇である巫女姫一派と協力関係だと! 貴方が一番恨み忌み嫌っていた者達と手を組んだというのか!」
「その通りだと言ったら?」
「ふざけるな! 拙は、絶対に許さんぞ!
小兄……いや英雄、貴様は拙が討つ! 豪徳寺の名にかけて!」
抜刀し斬りかかる芹奈。
しかし英雄が再び錫杖を鳴らした途端、周囲に生まれた不可視の壁が刀を阻んだ。
「英雄! どうしてこんな暴挙に出た。本当の事を喋らねば、斬るぞ!」
「本当のこと、だって?」
「英雄! どうして貴方が暴挙を起したのかはママはちゃんとは分ってないわ。貴方が心優しい子だって知ってるから!」
反対側から殴りかかる美鬼帝。
拳に宿った雷の力が暴れ回るが、しかし英雄の生み出した壁を抜くことはできない。
「こんなことはやめなさい! やめないなら……!」
「うるさいんだよ」
閉じていた扇を開き、彼女たちへと仰ぐように振り回した。
暴風がまるで馬車にはねられたかのような衝撃となって二人を吹き飛ばし、民家の壁や瓦礫に激突させた。
「人様に迷惑かけて、取り返しのつかない事して……この大馬鹿者! なんでこんなことを――」
「だから」
イライラした子供のように頭を掴み、英雄はダンと足を強く踏みならした。
うつむいた顔があがり、美鬼帝を見る。
「『どうしてか』なんて……俺にはもう分からない」
英雄の片目から涙が流れたように、見えた。
しかしそれも一瞬のこと。
空から急降下してきた巨大な人面鳥につかまれ、急速に離脱していった。
夜の月に紛れ、たちまちに遠ざかる影。
美鬼帝たちはそれを見上げ、思わずに手を伸ばした。
伸ばすことしか、いまはできなかった。
かくして玄武門は守られた。
維持された結界は正常にはたらき、神を閉じ込める力として機能するだろう。
怪物たちが都に浸透し虐殺がおきることも、もはやない。
この都は、カムイグラの平和は、守られたのだ。
だがすべての問題が解決したとは、まだ言えない。
国崩しを目的とする『羅刹十鬼衆』の存在が明らかとなり、彼らが帝覚醒後のカムイグラを狙うことは明らかだ。
明けない夜がないように、沈まぬ太陽もまたない。未だ戦いは、続くのだろう。
だが今は。
今だけは。
勝利と安寧に武器をおろし、息をつくことにしよう。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――四神結界の防衛に成功しました!
――高天京の平和を守ることが出来ました!
――新たな脅威、『羅刹十鬼衆』を発見しました……
GMコメント
今やカムイグラを焦土と化そうとしている穢大呪。
それを封じ込めることができる四神結界が天香派巫女姫派役人たちと結託した魔種結社『羅刹十鬼衆』の軍団によって襲撃を受けています。
結界を破られれば逆転の手立てがなくなってしまうでしょう。
カムイグラの戦士達と共に、この窮地を覆すのです。
■これまでのあらすじ
カムイグラの守り神であった黄泉津瑞神が穢れによって歪み凶神となってしましまた。
これを鎮めるためカムイグラの戦力は御所へ集中。帝復活によって七扇内の帝派閥が結集していますが天香派閥の多くがこれに敵対。混乱と狂気が蔓延る中、一発逆転のためローレットの大戦力が投入されいました。
当初巫女姫をはじめとする魔種などの重要戦力のすべては御所に集中しており四神結界の警備はほどほどにカムイグラ帝派閥も戦力を御所に集中させていました。
しかしその虚を突く形で、これまで潜伏していた魔種の大勢力『羅刹十鬼衆』が軍団を率いて登場。
手薄な四神結界を破壊、ないしは奪取しカムイグラを滅ぼす作戦を開始しました。
いまや頼れるのはローレット・イレギュラーズたちのみ。
四神結界を守りきり、この国の希望をも守るのだ。
敵は四神結界をそれぞれ東西南北それぞれから同時に襲撃しているため、こちらも四方に分かれて防衛部隊を展開する必要があります。それぞれは距離があるためどれか一つにしか参加することはできません。
結界はカムイグラ全体を包んでおり、その四方から攻め込む敵を郊外にて迎え撃つ形になるでしょう。
四方には四神それぞれの属性門とその最終防衛ラインがあり、そのどれか一つでも突破されると結界が破壊されてしまいます。
それぞれを襲撃している軍の概略は以下の通りです。
・東(青龍):我流魔小鬼津波:和製ゴブリン集団。数の多さが脅威。対多戦闘に備えよ。
・西(白虎):泰山灰桜特攻隊:自爆特攻集団。強攻撃と回復の両立が必須。
・南(朱雀):華盆屋天女廓舞:空飛ぶ肉腫憑きの軍勢。飛行戦闘が射撃で対抗すべし。
・北(玄武):豪徳寺百鬼夜行:多種多様な妖怪の大部隊。個性には個性をぶつけんだよ!
各方面に分割してローレットの戦力を投入してください。
想定されている必要戦力は全域合計で『最低50人以上』とされています。
カムイグラの兵士も多少はいるので人数をピッタリ四等分しなければならないわけではありませんが、ある程度はバランスがとれていたほうがよいでしょう。
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
・三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていない場合はお友達とはぐれたり、やろうとしたことをやり損ねたりすることがあります。くれぐれもご注意ください。
■■■パートタグ■■■
以下のいずれかのパートタグを【】ごとコピペし、プレイング冒頭一行目に記載してください。
【青龍】
青龍門防衛部隊は我流魔率いる『我流魔小鬼津波(ガルマゴブリンタイダル)』を迎撃する部隊です。
我流魔は鬼人種系暴食魔種で、これまでいくつもの村々を飲み込み圧倒的な繁殖力によって自らの眷属を大量生産しました。
小鬼(ゴブリン)の標準戦闘力はかなり低いですが圧倒的な物量によって押し流す戦法によってこれまで八つの部隊が壊滅したといわれています。
首領の我流魔は最も安全な後方に陣取り、大量の小鬼をけしかけて門を破壊するつもりのようです。
敵は前述した通り小鬼の群れです。ごくまれに強力な固体も存在しますがこれは特に計算に入れなくてもよいでしょう。
棍棒やナイフなど安価で粗末な武器で個人に群がる戦法を得意とします。
この防衛部隊では対多戦闘が基本となるため範囲攻撃を連発できる方、名乗り口上などで引きつけ防御や回避などで密集連打に耐えられる方などが活躍しやすいでしょう。
【白虎】
白虎門防衛部隊は泰山率いる『泰山灰桜特攻隊』を迎撃する部隊です。
泰山は話術や洗脳術に長けたカリスマで、カムイグラの貧困層や地方小部族を次々に併合しカルト宗教めいた集団を作り上げました。
彼らは自らに進んで自爆能力をもった肉腫を寄生させ、その狂気的な特攻によってすべてをなぎ払うつもりでいるようです。
敵は武装した人間たちですが肉腫によって身体能力が強化され、かつ恐怖心や倫理観といった様々なものが取り払われバーサーカー化しています。
体力が少なくなると味方にはりついて自爆するなどの強硬手段に出るため、高い攻撃力で一気に倒せる方や、自爆に巻き込まれた味方を治癒して致命傷を防げるヒーラーが活躍しやすいでしょう。
【朱雀】
朱雀門防衛部隊は華盆屋 善衛門率いる『華盆屋天女廓舞』を迎撃する部隊です。
華盆屋 善衛門は精霊種系色欲魔種であり、美術蒐集家である一方攫ったり買ったりした人間を美女に作り替えたり原型を破壊したような『美術品』に仕立てるなど狂気的な作品を無数に保有しています。
それらは肉腫と魔種としての狂気によって実現されており、『天女隊』と称する異形の翼を生やされた美女や汚れの羽衣で空を舞う女などを今回の作戦に投入しています。
彼らは強い呪力を帯びており、高高度での射撃戦闘を得意とします。
先述したように敵は高高度を飛行して突破をはかろうとするため、こちらも飛行戦闘が得意もしくは可能な方や、レンジ4射撃等によって打ち落とせる方が活躍しやすいでしょう。
飛行戦闘をする際は必ず飛行・飛翔(とその上位スキル)を活性化し、飛行戦闘ペナルティに注意してください。
【玄武】
玄武門防衛部隊は豪徳寺 英雄率いる『豪徳寺百鬼夜行』を迎撃する部隊です。
豪徳寺 英雄は鬼人種系魔種であり、巧妙な策略によって我流魔や華盆屋たちをこの作戦に動員しました。巫女姫たちとの結託や結界への奇襲も彼の策によるものです。
彼は悪しき妖怪や怨霊を従える力を持ち、様々な妖怪を集めて軍団としました。
豪徳寺百鬼夜行は大小様々な妖怪群によって構成される部隊です。能力や個性もバラバラで、極端な個性を持った者が多いようです。
ですのでこちらもこちらで極端な個性をもったメンバーを大量に集めることで『相性のいい敵』にぶつかっていくカウンター戦術が有効です。
自分の個性をぶつける尖ったやり方で戦っていきましょう。
■■■グループタグ■■■
(※ 膨大なプレイングを【】タグで一旦自動整理していますので、今回同行者の名前とIDだけを指定していた場合、かえってはぐれやすくなります。できるだけグループタグをご利用ください)
一緒に行動するPCがひとりでもいる場合は【仲良しちーむ】といった具合に二行目にグループタグをつけて共有してください。
この際他のタグと被らないように、相談掲示板で「【○○】というグループで行動します」とコールしておくとよいでしょう。
また特定の作戦を連携して行うためのグループタグとしても機能できます。
うっかり被った場合は……恐らく判定時に気づくとは思うのですが、できるだけ被らないようにしてください。
また、グループタグを複数またぐ形での描写は難しいので、どこか一つだけにしましょう。
●決戦シナリオの注意
当シナリオは『決戦シナリオ』です。
<神逐>の決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どれか一つの参加となりますのでご注意下さい。
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