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シナリオ詳細

<Scheinen Nacht2019>小さな温もりは雪の中

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●星降る夜
 今年もこの日がやってきた。

 祝福の星が溢れんばかりに零れ落ち。
 夜空を仰いで人々は願いを込める。

 本日ばかりは、戦いの起こらない優しい夜。

 だからほら、口を揃えて言おうじゃないか。
 輝かんばかりの──。


●メリークリスマス!

「「「輝かんばかりの、この夜に!」」」

 イレギュラーズへ声を揃えた『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)とブラウ(p3n000090)、そして『Blue Rose』シャルル(p3n000032)。3人は次の瞬間これまた綺麗にくしゃみを揃えた。
「流石に冷えるな」
「うぅ、誰ですか外で集合って言ったの!」
「ブラウだよ。ほら、皆寒いんだから早く早く」
 シャルルに急かされ──ついでに抱きかかえられ、ブラウはいくらか高くなった目線でイレギュラーズを見た。
「皆さんをお呼びしたのはですね、このイグルーに入って頂こうと思ったからなんです」
 この、とそれを指し示したのはシャルルだ。崩れないバベルにかけるなら『かまくら』である。
「この地方ではイグルーに入り、シャイネンナハトの流れ星を眺めるそうだ。温かいものを持ち寄ることもあるらしい」
「僕は一足先にシャルルさんと入ってみました! お餅美味しかったです!」
「……詰まらせかけてたけどね」
 ブラウの言葉にシャルルが肩を竦めた。慌てて食べてしまったのか、それとも常の不幸体質ゆえか。
 今宵は争いのない、優しさに包まれる夜だ。この場において戦闘はもちろんご法度。仲の良い者同士でイグルーに入り、そのひと時を過ごすこととなるだろう。
「皆さん、予めお伝えしたように毛布や温かい飲み物の準備はされていますか?」
 そう、イレギュラーズは呼ばれる際に防寒対策を、と伝えられていた。用意周到にしてきた者もいれば、すっかりうっかり忘れちゃった、という者もいるだろう。そんなうっかりさんには、ブラウが用意した毛布などの貸し出しがある。
「大体は2人から……頑張っても3人かな、入れるの」
 シャルルが辺りを見渡し、同じように視線を向けたフレイムタンが「だろうな」と頷く。
「あちらに用意されているイグルーなら、大人数でも入れそうだが」
「ですねー。フレイムタンさんが5人くらいいたら流石に手狭ですが、入れないことはないですよ」
 彼が示したのはひときわ大きなイグルー。ブラウの補足説明が入って、さてと3人はイレギュラーズの方を向いた。
「そろそろ流れ星の時間ですね! あとは皆さん、それぞれでお過ごし下さい」
「僕らもお誘いがあればお邪魔するつもり。なかったら……あ、フレイムタンも餅焼いて食べる?」
「ああ、それは良いな」
 食べたことがないのだ、と言うフレイムタン。そういえば、彼が精霊種としてこの夜を過ごすのは初めてであったか。

 ──彼にも、そして皆にも。等しく祝福の星は降り始める。

GMコメント

●すること
 イグルーに入る


●イグルー
 崩れないバベルにかけて『かまくら』です。シンプルなあの、雪のかまくら。出入り口の穴から流れ星が見えます。
 七輪で餅を焼ける他、飲み物、防寒具を持って入れます。遊び道具持って入って流れ星気にせず遊ぶのもOKです。
 通常サイズなら3名、大きなサイズなら5名まで入れるとします。


●NPC
 私の所有するNPCは、プレイングでご希望があれば登場致します。
 ブラウより毛布の貸し出し、及びホットココアの配布が可能です。


●注意事項
 本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
 アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
 同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。


●ご挨拶
 愁と申します。
 年の瀬も近いので、シナリオトップでNPC3名に勢揃いしてもらいました。
 流石にこのイベシナで年内ラストだと思うので、先にご挨拶を。今年もたくさんのシナリオにご参加頂きありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願い致します。
 それではご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • <Scheinen Nacht2019>小さな温もりは雪の中完了
  • GM名
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年01月12日 22時11分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
クロバ・フユツキ(p3p000145)
傲慢なる黒
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
セティア・レイス(p3p002263)
妖精騎士
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
蒼剣の秘書
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
彼岸会 空観(p3p007169)
ペルレ=ガリュー(p3p007180)
旋律を集めて
レイリー=シュタイン(p3p007270)
騎兵隊一番槍
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
陰陽丸(p3p007356)
じゃいあんとねこ
ソフィア・L・ラプソディー(p3p007795)
ぽんこつ強気ロリ

サポートNPC一覧(1人)

ブラウ(p3n000090)

リプレイ

●シャイネンナハト
 夜の帳が落ちていく。
 星が瞬き煌めいて──やがて溢れるように、流れ出すのだ。

 今宵はシャイネンナハト。イグルーの中から見る切り取った夜空へ、願いを込めて。


●輝かんばかりの、この夜に!
「すみませーん! 毛布貸してください! あとココアもいただきたいデス!」
 貸し出しイグルーへ向かうリュカシスに、自分の体を抱きしめていたイーハトーヴが苦笑いを向けた。
(何だか、リュカシスの方がお兄さんみたいだ)
 ここまで寒いのは想定外だったけれど、彼が実に頼もしい。リュカシスに手渡された毛布を被ってイーハトーヴは少し肩の力を抜いた。
「ブラウさんも一緒にイグルー入りませんか? スモアつくるよ!」
「すもあ、ですか?」
「そう、それ俺も知らないんだ」
 なんだろうね、と顔を見合わせる1匹と1人。リュカシスがふふふと笑みを零す。
「あったかくて美味しいんデス! あっブラウさんは焼きません!」
「焼かれたら困ります!?」
 ぴぃっと飛び跳ねるブラウ。くすりと笑ったイーハトーヴは抱き上げて良い? と聞いてひよこを腕の中へ収めた。
「これをこうして……はいどうぞ!」
 イグルーへ入ったリュカシスは手際よくスモアを作り、ココアと一緒に差し出す。
「あっつあつですね、はふ」
「ん、これは……美味しい」
「そうでしょうそうでしょう!」
 一時賑わうイグルー内。楽しい時間はあっという間に過ぎて、もうそろそろ星が流れ出す時間だ。
 早口の練習をするリュカシスにイーハトーヴが感嘆して、まだ星の流れぬ空を見上げる。幸いなことに、思いつくような願い事はない。
「僕は……食べられたくないですね!」
 それは切実だ、と笑っていればどうしたことか、2人とも眠気がやってきて。
「イーさんボクの分までお願いします……」
「わかった、練習しておくね。
 無敵リュカシスが1人、無敵リュカシスが2人……ふわぁ」
 いつの間にやら夢の中。ブラウは彼らを起こさぬよう、そっと毛布をかけた。


 とあるイグルーの前に、1つの看板が差さっていた。毛布とココアを手にウロウロしていたクリスティアンが思わず足を止める。
「【ぜんざいあります】? 入ってみようか」
 こんばんは、とイグルーの中を覗き込んでみると──暖房機器でも持ち込んだかと思うほどに暖かい。
「よぉ、オメェさんか!」
「まさか……ゴリョウくんかい!?」
 鍋と七輪を前に、スマートな体型となったゴリョウが軽く手をあげる。普段のぽよんとした姿は一体どこへ。
「くははっ、ギフトを使えばこの通りよ! 熱も起こるからイグルーの中がポッカポカだぜ!」
「すごいねゴリョウくん! あ、お邪魔してもいいかい?」
 いそいそ入って物珍しげにぜんざいを眺めるクリスティアン。曰く、ぜんざいを違う読み方にすると「よきかな」となるので縁起も良いらしい。これは混沌米を使用したゴリョウ特製ぜんざいなのだとか。
「この中に餅を浮かべるのか……あ、ココアにお餅を入れても美味しいかな?」
「試してみればいいんじゃねぇか? ほら、ここに七輪もある」
 物は試しだね、と餅を焼き始めるクリスティアン。ゴリョウもカロリーを取らねばとぜんざいを器に盛る。あとでクリスティアンにぜんざいも進めてみよう、と思いながら。


「雪の塊の中で火をおこして、つぶれないって不思議だよね」
「存外断熱性が高いらしい。溶けて潰れる、と言う事は無さそうだ」
 焼き林檎を仕込んだグレイシアは、ルアナとともにマシュマロを火で炙る。ふわりと良い香りがイグルーの中を満たした。
 そろそろかな? とマシュマロを食べたルアナは目をまん丸に。それを見たグレイシアは焼きマシュマロの浮かんだココアを手渡す。
 熱いところへ熱い飲み物を渡してしまったが、イグルーの中といっても寒い。体の中から温めるには飲み物が良いだろう。
「マシュマロ入りここあ!!! っと。わたしばっかりじゃなくて、おじさまも食べてね?」
「ああ、そうしよう」
 食べて飲んで、聞こえるのは2人分の呼吸と炭の爆ぜる音。意外にもイグルーの中は静かで、「おじさま」と呼ぶ声もはっきりと届く。
「これ、シャイネンナハトのプレゼントなの」
 グレイシアが袋を開けると、青い石のカフリンクスが出てくる。魔除けの石なのだと言うルアナは、グレイシアの正体をまだ知らない。
「プレゼントか。それなら、吾輩からも」
 グレイシアが袋を渡すと、ルアナはぱぁっと目を輝かせた。袋の中身──星飾りのついた手袋は、お気に召すだろうか?


 ペルレは温かい飲み物を手に目を閉じる。どこかから聞こえる喋り声は、驚くほどに小さくて。
(雪が音を吸収してしまうからですね)
 カップに口をつけると、舌へ残るのはシロップの甘さ。代わりに食べるのは甘くないスティックパイ。贅沢なひと時だ。
 食べ終わったペルレは小さな声で歌を口ずさむ。いつもならどこまでだって届きそうなのに今宵ばかりはくぐもった響きだ。
 視線を上げれば、いくつもの流星が空を駆けていて。
「……希望って、心に目があったら、こんな風に見えてるのかもしれないですね~」
 そんな言葉も、雪に染み込んでいく。


「雪でできてるわりにあったかいんですねぇ」
「思ったより寒くありませんよね」
 ベークとブラウは並んでイグルーの中から流れ星を見上げる。たまにはこうして話すのも悪くない。
「ベークさんはお餅を食べたことが?」
「うーん、何回か食べたことあるようなないような。あ、醤油とかあります?」
 ありますよ、といそいそ取り出すブラウ。食材適正持ち同士だと言うのに、お互い何と平和なことか──いや、今宵は平和が約束されているのだが。
 パリパリとした海苔の食感と伸びる餅を楽しみながら、2人は流れ星を見上げる。

「……来年は平穏だといいですねぇ」
「そうですね……お互いに。本当に」

 どこか遠い目で見上げていた流れ星が、きらりと光った。


「あの流れ星に名前って、あるのかしら」
 空を見上げるイーリンに、どうだろうなとレイリーは苦笑を漏らす。
「この時間、この空を見上げた者しか知らない星だからなぁ」
 煌めき駆け抜けていく様は、まるで人の一生のようだ。光らぬ長い間のことは目に留まることなく、そのまま消えていった者もいる。
 殺した者、守れず死なせた者。全員の名前を知っているわけではなく、それが当たり前だった。
(それに泣くほど自惚れても、想わないほど非道でもない)
 とりとめもなくそんな思いを巡らせるイーリン。その隣でレイリーは小さく眉を寄せていた。
(悔しい)
 この手から命を零れ落としてしまった。力不足が目の前に突き付けられたようだった。だから、もっと力が欲しい。
「司書殿が名付けてみたらどうだい?」
「え?」
「星。そうすれば、手の届く範囲になった気がする……しないかな?」
 どう? と向けられた視線と交錯させ、再び空を見るイーリン。確かに、アリかもしれない。
「じゃあ後で名前をつけましょう。……それにしても寒いわ!」
「なら酒でも飲もうか」
 イカの干物をつまみに酒で乾杯して、一気にあおる。
「──辛い!」
「でも、良い濃さだろ?」
「ふふ、そうね。こういう時くらいはいっか」
 くすくすと笑う2人。きっと次の年も、濃い1年が待っている。


「フレイムタンくん、こっちこっち!」
 手招きされたフレイムタンは焔とともにイグルーへ入る。雪に囲まれているというのに、不思議と暖かい。
「餅は食べたことが?」
「うん! 元の世界にもお餅はあったし」
 焼いてあげる、と焔は手慣れた様子で醤油をつけ、焼いて海苔に包む。
「焼きたてだからね。火傷に気をつけて……あ、そういえばさ、」
 餅を渡しながら、ふと思い出したように流れ星に込める願いを問われ、フレイムタンは目を瞬かせた。その様子に焔は首を傾げる。
「もしかしてこっちにはないのかな、流れ星が消えちゃう前に3回お願い事をすると叶うっていうの」
「ふむ? なら、何か願ってみるか」
 イグルーの中から空を見上げ、焔は光る星に願いを込めた。
 ──来年も一緒に流れ星が見れますように。


 甘いココアが体と心を内側から温める。お餅まだかな? とヒィロが問えば美咲が箸を取り、くるりとひっくり返した。
「焼けたら、合わせるのはココアでなくてこっちね」
「うん、出汁の方だよね!」
 程よい濃さに調節された出汁へ餅を入れ、器によそって食べる。喋らなければとても静かで、星の瞬く音さえも聞こえてきそうだった。
「ボク、1人で寂しいの嫌だから、賑やかなのが好きなんだけど……今日はね、この静けさがなんだか心地いいや」
 2人だからかな? と問いかけるヒィロに美咲は薄く笑みを浮かべた。
「寂しさがなければ、賑やかでなくてもいい。色々な楽しみ方、もっと見つけていきましょ」
 こうした穏やかな過ごし方も良い。まだまだ知らない過ごし方はあるはずだ。
 頷いたヒィロは空を見上げ、「願い事決めた?」と美咲へ視線を戻す。
「ボクはねー、次のお誕生日も美咲さんとお祝いできますよーに! だよ!」
 あんなに楽しい誕生日会は初めてだった、とにこにこ笑顔のヒィロ。美咲はヒィロから空へ目線を移し、おもむろに口を開く。
「私は……ヒィロに祝福がありますように、かな」
 自分の前を走って、手を引くヒィロが無事で幸せなら──自分が幸せでないわけがないのだから。
「あ、今流れた」
「えっほんと!?」
「本当よ。さ、願いましょうか」
 ──輝かんばかりのこの夜に、願いよ届け。


 海苔を巻いた餅を食べ、ほうと息をつくと白くなる。無量はこの季節が好きだった。
 感覚を研ぎ澄まされるような寒さと、雪によるあたりの静けさ。小さく聞こえる声という音もまた良い。イグルーの中で七輪から流れるものは温かく、
(──しかし、嗚呼)
 この純白に紅を差せば、きっと艶やかなことだろう。そう思ってしまう。
(やはり、刀を置いてきて正解でした)
 今宵に紅はいらない。この静寂を破るのは野暮というものだ。無量は静かに目を閉じ、無音に近いあたりの音へ耳を澄ませた。


 イグルーは大小様々だが、どれもリリー1人には大きすぎる。誰かいないかと辺りを見回した彼女は、大きなにゃんこに目を瞬かせた。
「……ん、あれは……陰陽丸さん?」
「にゃーぅ(わぁい、リリーさんお久しぶりですー)」
 リリーの元へやってきたにゃんこ、もとい陰陽丸。夏に遊んで以来だが、こちらも1匹では寂しくなってしまった同士である。丁度良い穴と広さはゴロゴロまったりするのに快適だが、それでは孤独感とは埋められないものだ。
「それならせっかくだしいっしょにはいろっか」
 1人と1匹で入れば、いくらかは丁度よくなるというもの。嬉しそうに陰陽丸が舐めるとリリーはくすくすと笑って、お返しにたくさんモフモフ。喉を鳴らす陰陽丸はご機嫌だ。
「……って、もふもふしてたりしてたら、ちょっとねむくなっちゃった……」
 ふわぁ、と欠伸をするリリー。そこへ陰陽丸のモフモフスリスリが加われば──いざ、夢の世界へ。


 七輪の上で、餅がぷくりと膨らみ始める。
「……まぁるく膨れて少し赤いんが、メイメイちゃんのほっぺたみたいやわ」
 蜻蛉の言葉にメイメイがえっと目を丸くして頬を押さえる。
「わたし、そんなにぷっくりしてます、か……?」
 頬を触ると確かに何だかぷくぷくしてる気がする。いやいやこの餅ほどでは。でもシャイネンナハトの料理はどれも美味しかった。
「ほら、そのお顔が……そっちのお餅も食べてしもてもええの?」
「だ、だめです……!」
 慌てるメイメイに小さく笑う蜻蛉。冗談だと気づいて真っ赤になれば、優しい視線が降ってくる。
「ほな、いただこか?」
 気づけば餅もすっかり膨れている。蜻蛉は砂糖で、メイメイは醤油を垂らして。
 ふいにイグルーの外を見上げれば、きらきらと星が零れ落ちていた。
「あ、流れ星、ですよ……!」
「あら、ほんま……お願い事せんとね?」
 束の間、餅から離れて空をじっと見つめる。

(来年も、この子が無事に健やかに過ごせますように)
(蜻蛉さまと来年も楽しい思い出を重ねていけますように)

 互いに互いを想って、終われば餅をまたぱくりと。メイメイの横顔を見て、蜻蛉はふっと満足そうに微笑んだ。


「はい、どうぞ」
「いただきます」
 蛍の焼いた餅を受け取り、珠緒はひと口かじってみる。美味しい。けれど美味しいは理論や技術だけで成り立つものでもないと知っている。
「素朴な味なのに、なんでこんなに美味しいのかな」
 はふはふと熱を逃がしながら食べる蛍は首を傾げ、「2人で味わうからかしら」と呟いた。
「幸せな気持ちが、より良く感じさせてくれる、でよいかと」
 蛍の言葉に珠緒は頷く。美味しいと、良いと感じさせてくれるのは心だ。幸せな気持ちが強くそう思わせてくれるのだろう。
 餅を食べ終わり、蛍は珠緒に手招きする。
「ね、こっちで並んで座って、外を眺めましょうよ」
「はい。純粋に見る事そのものを楽しむのも良いですが、蛍さんに倣って願いを捧げるのも良いですね」
 珠緒が願うなら、やはり蛍とのことで。2人の幸せを、より広げる来年にできるようにと。笑顔でいることも大切だが、世界に2人しかいなくなってしまったら訪れる場所がなくなってしまうから。
(ボクは……今年よりもっと楽しくて幸せな来年になりますように、かな)
 自分で考えていても難しい願い事だと思う。だって今年よりも、なんて望み過ぎじゃないだろうか。
(でも、珠緒さんとなら、きっと……)

「「あ」」

 流れ星の姿を見て2人は同時に声を上げる。その星は長く尾を引いて、空を駆けて行った。


「フフ。せっかくだから、とっておきを持って来たのよ──じゃじゃーん♪」
 ジルーシャの取り出したマシュマロにブラウは目をキラキラ。可愛い、と微笑みながらジルーシャはそれを串に刺した。
「そのままでも、ホットココアに浮かべても良いのよ」
「浮かべちゃうんですか? どうなるんだろう……」
 興味津々なひよこに、ジルーシャは焼いたマシュマロをココアへ載せてやる。浮かび、少しずつ溶けていく様をじっと見つめるブラウに対して湧き上がるのは──母性、いや父性か。
「ね、ちょっとだけ抱っこさせてもらってもいいかしら?」
 ひょいと抱き上げればふわふわで、ジルーシャは思わず顔を埋める。そんなに良いものなんです? とブラウは怪訝そうだけれど。
「はー……癒されるわー……♪」
 良いものなんです。


「……華蓮お義母様、僕、実は料理したことなくて、教えて頂けないですか」
 毛布とホットココアを持ってきた幻が真剣な表情で華蓮へ告げる。食材を置いた華蓮はふふんと自信満々の笑み。
「ふふ、もちろんお義母さんに任せなさいなのだわっ!」
 義理の娘に良い所を見せたい、と手取り足取り教える華蓮。彼女と作る料理は何だか胸の奥が温かくなるようで。
(この感じが親子というものなのでしょうか)
 もしくは華蓮の人徳か。視線を向けると彼女はにっこり笑った。
「こういう時は、少しくらい上手くいかなくてもそれも楽しい物なのだわよ」
 そうしてできた鍋を2人でつつく。少しばかり不揃いな具も、共に作ったのだと思えば体だけでなく心も温かい。
「幻さん、忙しくてもお野菜はちゃんと普段から食べるのだわよっ!」
 お鍋は野菜を沢山取れるから、とよそってくれる華蓮。体験したことがないはずの、けれど懐かしいような感覚に幻は目を瞬かせて──ふっと笑みを浮かべた。


(我ながら星に願いを……なんてキャラではないでしょうけど)
 こういったものに浸りたい時だってあるのだ、と自らへ言い聞かせるErstine。星に願うはたった1つだけ。
(強くなりたいの。あの方の隣に立てるくらい……強く)
 この想いが尊敬という言葉に収まりきらないことくらい、Erstineには分かっている。伊達に長く生きていない。それでも強がってしまうのは──今は全く相手にされないだろうから。
 不意に視界の端で星が煌めく。それは驚くほどに速いけれど、それでも願いがある限り諦められない。


 亀みたい、とセティアはイグルーを見て首を傾げる。ソフィアとお揃いにしたツインテがふわりと揺れた。
 2人でイグルーに入り、持ってきたものを広げる。一緒に毛布入ろ、と2人は同じ毛布の中で身を寄せ合った。
「ふふ、一緒の方があったかい」
 ぎゅっとくっついてきた少女をちらりと見れば、ずっと見ていた瞳とかち合う。セティアは頬を染めて照れ笑い。つられてソフィアも笑みを浮かべる。
(照れてるのもかわいいわ)
 セティアの用意した紅茶やココアを飲んで流れ星を待つ2人。ふいに空を走った光にソフィアが顔を上げる。
(これからもせてぃあと一緒に──)
「そふぃーとずっと一緒にいたい。……あ」
 目を丸くした2人が顔を見合わせて、セティアが頬を染めた。視線をうろうろとさせて俯いて、やがてこてんとソフィアの肩に頭を傾ける。
「あのね、そふぃー……だいすき」
 その可愛らしい様子に、思わず笑み零れて。ソフィアは重ねるように頭を傾け、握られた手を握り返した。
「……ソフィーもだいすき」


「ふふ、1度こういうの入ってみたかったのよぉ」
 うきうきとイグルーに入ったアーリア、もこもこのコートを着て毛布をもって、ココアと飲み物も準備万端。そして横を振り向いて──。
(な、なんだかみでぃーくんがご機嫌斜めというか、すごい顔に?)
 アーリアと同じようなことをしているのだが、彼女とは真逆に憮然とした表情である。それもこれも──寒いのが苦手なのだ。一種の試練にも似ているかもしれない。
(無理させちゃったかしらぁ……)
 一瞬しゅんとしたアーリア、けれどすぐに行動を起こす。
「……アーリアさん?」
「ごめんねみでぃーくん、これなら少しは寒くないかしらぁ」
 ぎゅっと後ろから抱き着かれ、温もりが伝わる。かと思えば頬にぴとりとココアのカップをくっつけられ、体をさすって温められ。
 甲斐甲斐しい彼女に申し訳ないような、けれど何だか嬉しいような気もして。寒いけれど不思議と温かかった。
(折角2人で流れ星を見られるのだから、これはこれで満足なのです)
「みでぃーくん」
 2人で一緒にいれば、ほら。
「大好きよ」
 ──幸せポイントがまた増える。


 どれだけ冬が寒くとも、恋人の隣は暖かい。何より大好きな人と共にいられるこの瞬間は、まるで宝物を抱いているかのように嬉しくて。
「……ふふ」
「シフォリィ?」
 笑みを零した彼女にクロバが顔を向ける──が、目が合ったとたんにぱっと視線を逸らしてしまった。勿体ない、なんて咄嗟に思ってしまう。
(心臓が飛び出そうだ……)
 平静を装えているだろうか。正面から見るのも大変で、けれど先ほどの微笑みが脳裏に焼き付いて、どうしようもなく愛しい想いが止まらない。
(恋人、とは……慣れない言葉だな)
「──って、君なにやってるの!?」
 いそいそクロバに毛布をかぶせ、同じ毛布へ入ってくるシフォリィ。悪戯成功、と言わんばかりに笑って。
「これで温かさも一緒ですね?」
「……っ、まったく」
 息を詰めたクロバが小さくため息1つ。かと思いきやぐっと抱き寄せられる。
「こっちの方が温かいだろ」
「……はい」
 服越しに感じる彼の体温。今までなら詰められなかった距離。それが心も体も、今となってはぎゅっと縮まった。
(もう大好きだから、遠慮なんてしません)
 名を呼ばれて顔を上げる。彼の端正な顔が近づいて──唇の熱も、一緒に。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。今回はブラウが人気者であっち行ったりこっち行ったりしています。
 またのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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