シナリオ詳細
<夏祭り2019>海の藻屑となる前に!
オープニング
●夏だ!
光り輝く空!
どこまでも続く青い海!
牙を剥き出しこちらを伺う魚達!!
段々と真っ二つに折れそうになっている船!!
そうなんと今、この船は!!
「この船は――沈没中だ!!」
「なんでですかこらあああああ!?」
海洋の領域。そこでギルオス・ホリス(p3n000016)とリリファ・ローレンツ(p3n000042)は大型の客船に乗っていた。何のためかと言われれば愚問で、ネオ・フロンティアが夏に主催する一大イベント――サマーフェスティバルの地へ向かう為である。
故に海洋首都リッツパーク行きの船に乗ってゆったりと……していたら。
「はっはっは。いや僕も知らなかったんだけどね、どうやら僕達が乗った船自体『こういう催し』らしいんだよ。一言でいうと――うんそうだね『沈没船からの脱出体験イベント!』って感じなのかな?」
「その為に船一隻沈めるんですか? 嘘ですよね?」
嘘じゃないんだよねこれが、とギルオスは言葉を紡ぐ。
元々この船自体老朽化が激しい船だったそうで、近い内に処分を検討しなければならなかったそうだ。しかしサマーフェスティバルが近い時期、なんとかそこまでは旅客用の船なり催しなどで使えないかと会議が行われた結果――
――せや、サマフェスで沈没体験催しすればええんや!!
「ていう鶴の一声があったらしい」
「鶴ではなく馬鹿の一声では!?」
「いやぁでも反対意見が無い所か周りも『それだ!!』の声しかなかったらしいよ。ただホント国外への告知をうっかりしてたらしくて……僕達みたいな、事情をさっきまで知らない人達も結構いるそうなんだけど」
見れば喜々として海に飛び込む体験をする者。ホントに沈むのだと思って絶望の顔をしている者。『俺……海洋に着いたら結婚するんだ……』と死亡フラグ立てごっこしている者。エトセトラエトセトラ……成程知っている者もいれば知らない者も本当に多様にいる様だ。
「まぁぶっちゃけ海岸には割と近いし、救助船もすぐ近くに配置されてるみたいだから死人が出るような状況にはならないでしょ。水着着用済みの人も多いし、飛び込むに丁度いいんじゃない?」
「うう……折角新調した水着が……お披露目が……お披露目がまさかこんな……」
ギルオスはかなり楽観視しているが、リリファは絶望顔だ。
いや無論サマフェスの為にここに来たのであるから海に入るのはいいが、まさかこんな形であろうとは思わなかったぞ……! あれ? ていうか下になんかサメいないサメ? 何あれ気のせい?
「あぁあれは一見すると普通なサメに見えるけれど、実際はものすごく人懐っこい『アエキサメ』っていう種類らしいよ。なんか犬みたいにすり寄ってくる上に危険は無いんだって。頼めば岸まで送ってくれるとか……」
「ホントですか? ホントですか? そう言いながら普通のサメとか混じってたりとか……」
「大丈夫大丈夫――そもそも君は食われる肉が少ないから興味持たれないでしょ。HAHAHA!」
お前今どういう意味でそれを言った?
逃げるギルオス。ブン殴ろうと追いかけるリリファ――ああ全く。
海洋の日差しの下。誰も彼もはしゃぐ者達ばかりである。
- <夏祭り2019>海の藻屑となる前に!完了
- GM名茶零四
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年08月03日 23時55分
- 参加人数50/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(50人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●さぁ飛び込め!
「いやいやいやいやなんですの? 沈没? 船が? どうして? 何者かの策謀ですか!!? どどどどどどうしましょう!! 私、全く泳げないのだけれど!!」
「あああそんな馬鹿ナァ……こんな大きな船が沈むとは……お、落ち着いてクダサイ、ヴァリューシャサン! 救命ボート、救命ボートがあるみたいデスヨ!」
しかし泳げない面子にとっては迂闊に飛び込む訳にはいかないと、慌てるヴァレーリヤ。放心気味だったが思わず宥めるリュカシス。全く、泳げない人の事も考えて沈めておくれ!
「うーむ。まさか先程のでかいアレを引き抜いたらよもやこんな事態になるとはなぁ……半分ぐらい直感しておったのだが、やはりアレは引き抜いてはいかんものだったか! ガハハ!」
とか考えていたらシビュレが何やらとんでもない事を呟いている。『引き抜くなよ、絶対抜くなよ!』という注意札が偶々見えなかったのだろう。予定より早く沈み始めたのはこの為か……!
だがまだだ、まだパニックになるには早い。救命ボートがあるのだから……!
「……あらーまぁ船ですから沈みますわよねー。でもこんな事もあろうかと、救助ボートまでの経路はばっちり抑えてあるのですわ――でもなんだかボートの数が明らかに少ない気がしますねー?」
と、避難所まで先導したユゥリアリアだったが、即座に気付く。乗れない。これ絶対数が少ない!
そんな馬鹿なこんな事があっていいのか。いや待てよ? ふと思ったのだが。
「――これはボートが少な過ぎるのではなく、助かろうとする欲深い人間が多過ぎるのではなくて?」
発想の逆転とばかりにヴァレーリヤの瞳は手に持つメイスと共に濁っていた。や、止めるんだヴァレーリヤ! それだけはいけない……ああ! ボートに群がる人たちを襲い始めた――!!
「ヴァリューシャさん!? さっきまであんなにみんなで助かろうって勇気づけてくれていたのに……ハッ!? まさか、これは狂気の呼び声に……!? 近くに魔種が!!?」
「あはははーもう色々末期ですねー折角ですしこのままお舟の上で、一曲演りながら沈んでみません? ロマンですわよー救命胴衣はあるみたいですしー」
「やれやれ。まぁこの醜い争い、ここで終わらせるしかあるまい……」
こんな悲しい戦いがあって良いのだろうか。混迷する状況の中、シャルレイスとシビュレ、そしてリュカシスは(ある意味)反転しつつある闇のヴァレーリヤを止めるべく立ち向かうのであった……! 人魚形態になれるユゥリアリアは精神的に大分余裕だが、とはいえ。
「アイテテテ!! 暴れると浸水が早まるのでは! エッ、なんですかこれ呼び声!? 魔種案件!? ここが戦さ場ですか――!!? サメサ――ン! サメサンーヘルプデス!!」
このカオスな状況――頼むー! 誰かなんとかしてくれ――!! サメサーン!!
しかしこんなカオスな事態だからこそ活動する者もいる。例えば。
「くっくっく……初めまして、ギルオス・ホリス。鈴鹿はぱんつのコレクターにしてソムリエ、そしてハンターなの。君は数多くのイレギュラーズに様々なパンツを貢がせてると聞いてるの」
「人違いです」
無駄なの、と無視をしようとしたギルオスの正面に回り込む鈴鹿。怖い。
「ふふふ最近だとレリック相当の自身のパンツを贈られたそうね……どういう脅しをしたのか」
「人聞きの悪い事を言わないでくれ! あれはマジで僕もビビってるんだから!」
「PH協会はその有り様を大変評価してる……闇市のぱんつ排出率の革命の為の同志として、いい返事を期待してるの!」
なんちゅう組織がこの世にあるんだ! って待って。何このぱんつ、やめて!
なんでパンツ渡したの!! やめて返させて――!!
「オーッホッホッホッ――って、ええええええ!? なんで沈没してますのこの船――!!?」
「大丈夫だよ我が娘! 守ってあげるから! 絶対に、離れちゃ駄目だよ!!」
お母様――!! と声を張り上げるタント。そんな彼女に寄り添う天十里。あ、念のために申し上げますと二人は実の親子でも無ければタントは性別不詳で『娘』か不明だし、天十里に至っては母じゃなくて――
「大丈夫大丈夫、こうやって手をしっかり握っていれば……ごめんやっぱり無理かもー!!」
「お母様! 諦めるが早いですわお母様――!! あ、ぴゃッ――!! 落ちるぅぅうう――!!」
と、船のバランスが大きく揺らいだ瞬間、斜める床。滑り落ちる二人。さぁ大海原にご案内~!
「……待て待て。もしかして、この船沈んどらんか?」
「え? まさかー! こんな大きなお船がそう簡単に沈む筈がな……」
突如、急激に傾く船体。顔を見合わせる華鈴と結乃――あ、駄目だこれ本当に沈んでる!
「えええなんで!? だって爆発とか沈む前兆何もな……て、ていうかボクたち簡易飛行持ってないよ! 水中呼吸もできないよ!? まさかの水死!?」
「何、こういう船なら救助艇が大量に、最低でも人数分……え、無い? なんで無いのじゃ?」
なんか張り紙がしてあった。なんで? なんで? 本当に意味が分からない。海の方を見てみるとなんかサメも大量に集まってきているのだが。え、これ本当にやばくない?
「……おおおおねぇちゃんだけはちゃんと岸まで送り届けるから! いいいいい行こう、ね!」
「落ち着け、大丈夫じゃいざとなったら結乃だけでも……ってなんか沈むの早くなったのじゃ――!?」
互いが互いを庇いあう……うーん美しい関係ですね。とりあえずは甲板へ急ごう!
「いやちょっと、船沈んでるとか……そんなの聞いてないんだけど!?」
叫ぶ綾花。傾く船の柱にしがみ付きつつ、目指すは甲板だ。
老朽化が見えた時点で嫌な予感はしていたが……まさか本当に沈むとは。とにかく沈んでしまうなど冗談ではない。甲板で救助を待つとしよう――とか思ってたらサメが見える!
「く、くぅ……こ、こうなったらせめてコイントスを、あ、あれ上手く弾けな……!」
やだ出てよ、表……表表、表ぇ……! そう思う度に震えが強く。
「あ、波が――がぼ、がぼぼぼぼぼ――!」
瞬間。コイン諸共呑まれてしまって。
「…………な、なんかこの船。沈んで……る?」
「ああ。つまりこりゃああれだな――リアル脱出ゲームってヤツだな」
衣とアランは下層の部屋にいた。特に浸水早い箇所であり、既に膝まで海になっている。だから。
「てな訳で行くぞうぉぉおおらああああ!! こういうのは進めりゃいいんだろぉ!」
アランは決意した。必ずや全ての扉を破壊せねばならぬと心に刻んだ。全てを破壊すると!
「んっ!! あ、ゆ、ゆーしゃ! 鉄砲水が――がぼっ! むぐぐぐぐ、げ、ほっ!」
「おおぃ! 待て、背中を掴むな動けながばばばぼぼっぼあぼ……」
アランを真似して共に破壊行動に勤しむ衣だったが……どうやら破壊したが故にこそ水没の速度が速まったようだ。一気に流れ込んできた勢いに驚いて服を掴んで仲良く流される。ああ、サメさん救出よろしくお願いします!
「ソフィラ! この船沈んでおるらしいぞ! 早く脱出を……なぜ楽しそうなのじゃ!」
「えっ、楽しそう……? 知らないわ。でもそうね、こんな事って中々ないと思うから」
焦るフィーネに対し、ソフィラは微笑みを携えていた。別に意識して楽しんでいる訳ではないが――突発的な事態にどうやら心が独りでに躍っているらしい。ええい、もう少し焦らぬか! とばかりにフィーネは彼女の手を引いて。
「ボート――では無理そうね。ならここから飛び降りるのかしら? ふふ。メリポチャレンジみたいね!」
「メリポチャレンジ? なんだそれは? 傘がない? ……よくわからぬが待てソフィラよ。このまま飛び込んでは髪が傷んでしま、待てと言ったろうが――!!」
一切聞かぬ。慌てる『かみさま』の手を引いて――イッツァ・メリポチャレンジ!
「ほほーこれが水没中の船かー……こういうのが後年、いわゆる魚の住処になったりして物語で語られるようなロケーションになるんだな! いやーなんというかこう歴史に立ち会っている気分になるな!」
初めて来た海の凄まじさにリックは歓喜している。
しかし鮫型の彼ではあるが、実は彼、海種と言う訳ではなく精霊種であるので。
「ん? なんだここの壁が割れ――あっ」
激しい水流に抗う力は無いのである。ああ、鮫さん助けてあげて!
「救助の準備が万全なのは確認していますが、知らない人はパニックになる催しでは……?」
フロウは思う。どう考えてもこの企画欠陥だと。まぁ幸いにして己は海種だ。溺れる心配がないのであれば、ギリギリまで愛用の釣り竿で釣りを楽しむとしよう。
「せっかく遊ぼうって思ってたのに沈没するんだって。大変だよね~、サクラちゃん」
「そうだね――いやなんで落ち着いてるのスティアちゃん! 船が沈むんだよ!? しかも現在進行形で!」
私、海で泳いだ事ないんだけど! と慌てふためくはサクラである。やけに落ち着いてむしろ楽しんでいる様子のスティアに、早く脱出するよと手を引くが。
「サメ……ほら、いるんだけど。すっっっごく覚えがあるんだけど……またいつもみたいに召喚したんじゃないの? なんだったら沈没自体呼んだサメの仕業じゃ?」
「いやいや疑い過ぎだよ! 言っとくけど私は何もしてないからね!」
サメちゃんおいで、私達を助けて~と声を掛ければ近くまで寄り添ってくるサメ達。なんだいつもと違って可愛い無害なサメ達ではないか。これもスティアのサメに対するカリスマ故か!
「はーい、お祈りはすんだから覚悟を決めていくしかないよね。それじゃあレッツダイブ!」
「やだぁ! 怖い! 待って、もう少し心を決めさせ――ひゃあああ!」
飛び込む二人。笑顔のスティアに半ば涙目サクラ。
――うっうっ、天国のお父様……サクラは今からそちらに参ります……
希望は捨てちゃ駄目よ――なんか下に種類の異なる狂暴そうなサメの影があるけれど――!
しかし沈む船。段々と皆に情報は伝わるものであるが、多少猶予があるのなら。
「この船、沈没するんだって……! ギリギリまで遊んで、だっしゅつ競争しようよシオン」
「んー……いいよー……あ、じゃあどうしようか。レストランのクッキー、食べるー……?」
と、言いながら了承を得るより先にシオンはコゼットの口へとクッキーを突っ込む。噛み砕く甘味。お腹一杯になるまで楽しめば、続いてはビリヤードだ。傾きつつある遊技場で放った9ボールは壁を突き破って。
「……!! 水がっ……危ないよコゼット……!!」
同時。ついに壁を突き破って水が噴出。シオンはコゼットを抱えて跳び、外を目指せば。
「あッ、あぶない……! シオン!」
降ってきた瓦礫を蹴飛ばす。互いに連携、甲板目指して駆け抜け最後には海へとダイブ。
されば脱出成功のハイタッチ、だ――おや『競争』はどこへ行ったか。
船の先頭。最も眺めの良いその地にてセレネの身体を支えるはヒィロである。
背後より抱きしめる様に。某映画の様なワンシーンを繰り広げ――るのだが。
「ちょ、ちょっとシエラちゃん恥ずかしいです! やめませんか? それになんだかさっきから船が傾いてきている気がしますし……」
「あは。何を言ってるのセレネ~この船は神様にだって沈められない船だよ♪ それにこういう大きな船に来た以上これをするのは義務だからね義務」
流石に恥ずかしいものであるとセレネは言う。しかし傾いているのは気のせいではない。
「――そんなバナナ!? ぉぉぉ……いや、でもそうだ! 沈没が確定しているのなら船を作ればいいんだよ! 沈没船から生まれた沈没丸――てね!!」
何言ってんですかシエラさん!? ああ! 板を剥がして、テーブルクロスで帆を!?
「シエラちゃん――」
そうですセレネさん! 何とか言ってやってください!
「……流星一条! にしましょう! 沈没丸じゃ縁起が悪いです、多分また沈みます!」
「あ、それもそうだねそっちにしようかイエア――!!」
いやその名前もどうかと思うんですけれど!!?
「まさか船が沈没するなんて……映画みたいだね、ポー!」
「そ、そうだけれどもどうしよう……ど、どういう風に行動すれば……」
ルチアーノとノースポールは共に船に乗船していた。
勿論、まさかこんな展開があるとは思ってもいなかったが……
「ポー大丈夫? 怖くないからね。何かあったら、僕が守るから!」
少し不安げに周囲を見回すノースポールを、ルチアーノは抱える。
所謂お姫様抱っこだ。折角の可愛いワンピース――海水に濡らすには惜しく。
「あ、ありがとうルーク……! あっ――レストランがある、ね」
抱えられ、彼の匂いと温もりで落ち着きを取り戻してきたノースポール。さすれば周囲の光景を目に捉えられる余裕も少しばかり出てくるものだ。豪華そうなレストラン――ああ、こんな所があるのなら、沈む前に食事をしてみたかったものだが。
「ふふっそうだ。無事に脱出出来たら最高のディナーを楽しみに行こうよ。花も沢山あるお店なんだ」
「えっ、お花が一杯のレストラン? 素敵! えへへ、楽しみだな~♪」
約束一つ。さすれば互いの顔に笑顔が満ちる。
さぁ、最高の花束をこの腕の中に――レストランへと向かうとしようか。
「ほう、これは深緑で作られたワインですか。それにこちらは海洋の船乗りが好むと言われるラムに、ラサの強者が飲み比べるというテキーラ……鉄帝で徹底的に蒸留して作るウォッカ。各国の名酒が揃い踏みです、良い品揃えですね」
お客様、失礼ながらまだ避難されなくて宜しいので――? とレストランの奥にあるバーの者が問うは、寛治だ。
彼に焦りは見られない。なぜならば事前に横目でチェックしていた救命ボートの数が足りない事は既に思考内。ならば女性・子供の類が優先され、どれにも該当しない己は譲る立場であるから。
「とまあ、こんな感じで一つ。
どうせ最後は鮫になんとかしてもらえますし、ギルオスさんも如何です?」
「保険があるとはいえホント余裕だよね……」
まぁ救助体制は万全だ。寛治の言う様に少しはゆっくりしてもバチは当たらないだろうとギルオスも席について。
「えええなんでこの船沈んでるの!? おかしくない!? まだ食べ切れてない物沢山あるんだけど!」
同時、レストラン側。バイキング無料! その言葉に釣られたファレルはものの見事準備など出来ていなかった。おのれ船会社め、謀ったな!! ともあれ今は脱出せねばならない。口に物を入れたまま、リスの様に頬袋をして脱出口を探していく――
「ああ、全く。一度やってみたかったのよねぇ、船が崩壊するところをじっくり観察するの」
亀裂が広がっている船内。その様子を見据えているのはイーリンだ。そんな彼女に対して。
「センパイも物好きだねー……船には遊ぶトコ一杯あるのにサ、亀裂の方が楽しいの?」
「ええ勿論。ほらみて、これ浸水箇所は一箇所だけど、内部の亀裂は既に上のフロアまで及んでるのよ。これはつまり浸水以上に船の脆さ・老朽化の方が深刻と言う事で臨界点を超えると一気に……」
ミルヴィは呆れ顔をしつつも彼女に付き合っている。脱出の事なぞなんのその。
ああ、この人はこーゆー人だって分かってる。興味を抱けばそれこそ第一、だが。
「ねぇミルヴィ――ありがとう」
イーリンは言うのだ。これは、二人で中を歩きたいが故、趣味と実益を兼ねた事だったと。
「ン? 別にいーよ、好きでアンタに懐いてんだから――と、センパイ危ない!」
瞬間。こちらを振り向いたイーリンを襲うかのように壁の亀裂が広がり水が噴き出る。
ああここももうじき駄目かと思考すれば、手を引きダッシュだ。ドタバタした脱出劇を――今少し。
海の幸を味わいながら海の都へと優雅に――とワクワクだった筈の旅は。
「むしろこっちが海の魚の餌になりそうな展開だったよ!
うう、美咲お姉さんと楽しくサマフェスへ辿り着くはずだったのに……」
打ち砕かれたのだとヒィロは嘆く。どうしてこうなったのホントに。
しかしなんとか救助ボートの確保は出来た、これでひとまずは……
「――というよりも正に今も成りそうな流れよねこれ。一難去ってまた一難、かしら」
と、安心していたら周囲に鮫の姿があるのを美咲は捉えた。しかも相当な数が、だ。
「くっこれは逃げきれないね……なら! 不沈、不落、即ち無敵! 全展開不落式ヒィロが相手だよ! 覚悟しろ鮫め――とう! て、がぼっ!? がーぼーがぼぼぼぼ!?」
「あっ、ヒィロさん!? もしかして泳げな……」
果敢に鮫へ挑むヒィロだが、順調に沈んでしまい――鮫に助けられるまで、あと十秒。
「ははは――車や電車の事故は散々体験してきましたけれどぉ、流石に船は初めてデスねぇ」
美弥妃は今回も不運に巻き込まれていた。しかし悲壮はない。折角ならば楽しもうと。
傾いていく船に、逆にどこまで落ちずにいられるか――ゲームだ!
「こう、壁利用したりとかぁ、柱に捕まったりとか、柵を使ったりとかぁ……あ、最終的には先端部分まで維持してそこからゆっくり沈んでいくのが理想デスねぇ!」
微笑み携えながら、不安定になりつつある足場に注意し彼女は移動を続ける。
さぁどこまで保てるかと思考しながら。
船が沈みゆく中――どこからか犬の鳴き声が聞こえていた。
「きゃん! きゃんきゃん!!」
「わん! わんわわん! うーわん!」
米造と篤である。威嚇し合って遊んでいる訳ではない。常人には分からないかもしれないが、この星の存亡をかけた戦いが繰り広げられているのである。わんこぱんちの応酬は空を砕かず地を割らぬ勢いで。そしてついに篤が必殺の突進攻撃を繰り出せば。
「――あっ!」
瞬間。米造が躱し、直撃したのは共に来ていたノリアだ。えへへどーだ参ったかー! とばかりに篤はじゃれて、あっちゃんと勝負してるんだよ! と米蔵は尻尾を振りながら駆け寄って。
しかし。
「いけませんの……これでは、このパニックでは全員助けられませんの……!」
ノリアの目からは涙が。海種として全力を尽くしているのだが、手が足りないのだ。この状況下で二匹の相手をしている場合ではない――もしかして僕達じゃま? と顔を見合わせる二匹。そして。
「えっ……ぐすっ、手伝ってくれる、ですの?」
一時休戦した二匹がノリアと共に救助作業に取り掛かる……! 一人で無理でも、一人+二匹ならばパワーは多分2.78倍! どういう計算かは謎だぞ。そうだ、あそこのおっきいさかなにも手伝ってもらおうか――
「わ、わ――! た、食べないでくださいですの!」
連れてきた鮫。思わず捕食対象になるのかと――ノリアは怯えて。
「わー沈んでる沈んでる。これもうすぐ真ん中からバキッていくやつで……
って、話ホントなのギルオスさん、海洋って変なところでゆるいよね!?」
「まぁお国柄な所はあるよね――あ、うわああああ……」
傾いた船。その衝撃で船の奥の方へと滑っていくギルオスをティスルは見ながら、ひええと思っていた。まさかこんな大きな船が沈むとは全く想定しておらず。
「で、でももう仕方ないよね……はーい救命ボートはこっちですよー! なんか数少ないけど……まあ大丈夫、でしょう? たぶん!」
飛行しながら避難誘導。運搬性能を用いながらどんどんボートに乗せて――あれ? ボート少ないなぁこれ。ま、いっか!
「船からの脱出イベント、とは聞いていたが沈むとは聞いてねーぞ?」
「でも、そういうイベントって聞くと、沈没体験も楽しそうだよね! 滅多にないよ……!」
嘘だろなんだこの企画? と首を傾げるは誠吾だ。一方で共に来ていたエストレーリャは楽しそうなので、まぁいいかと思わないでもないが。
「しかしまさかこんな大きな船だったとはなぁ……俺の元居た世界は、国の周りを海が囲んでいたんだ。住んでいた町も海が近くてな、だがこの規模の船は滅多になかったぜ」
「そうなんだ……! じゃあ次は、行く事があったなら僕が深緑を案内するね」
砂漠が近く、森に見たされた国を――と言いながら手を繋いで脱出口を探しに行く。
海に飛び込むべきだろうか。まぁ死にはしないだろうと思考しながら。
「うーんむにゃむにゃ……なんだか……船が、傾いてるような……気のせいじゃ、ない!?」
部屋で跳び起きたのはエルだ。睡魔に負けてもうひと眠りしたかったが、流石に危機感が警報を鳴らしまくっていた。よしんば泳げるなら良かったのだが、生憎と彼女は泳げなくて。
「ええええ体験ツアー? 知らないよ! ええと救命ボートどこ、うわ多ッ!」
見えたボート。殺到する乗客。下はサメの群れ。
乗っている人たちを物理的に減らすしかないだろうかと思考しながら、脱出の方法を模索する――
「沈没船か……船と言えば、そう。昨年を思い出すようだね……
昨年も僕はここに断っていたような気がする……」
立つは船首。海の風を感じながらクリスティアンは過去に想いを馳せるのだ。やはりこういう大型船ともなれば立つべきはここしかあるまい……と、浸っていたは良いがどうやらそろそろ船が限界の様で。
「フッ、ならば今こそ飛び立とうか。ボートも満員なれば――トウッ!」
華麗なフォーム。煌めく海に今こそダイブだ! 落ちる時すら彼は優雅に。
あ、お前人生楽しそうだなで賞おめでとう!
大型客船と言えば楽しみ方がある。
それは例えば水着を、サングラスを付けて、トロピカルなジュースを楽しむこと――
「なのになんで――!! なんで今沈んであるの――! 『せれぶ』はどこに――!!」
「あわわわ、ど、どうしよう沈んじゃう! フランちゃん、泳げる!?」
浅瀬でぱしゃぱしゃするのが泳げる判定なら泳げます、と言うはフランである。先輩の焔と合流出来たは良かったが、互いに泳げない同士。あ、だめだこれ纏めて海のもずく、じゃない藻屑になってしまう!
「わぁん、私もだめだ浅瀬三メートルが限界!
どどどどうしよう!? 必要なのは浮き輪? 救助ボート? ど、どこにあるの?」
「ううう全部群がられてる……こんな時、こんな時サッとヒーローが現れたら……!」
――と、その時だ。
「いえーい! 呼んだか!? もう大丈夫だぜ――オイラが来た!」
ワモンである! 客船のプールの水辺を跳ねながら急速に二人に接近し――着地。
「……ってフランじゃねーか! どうしたんだ、おっ、そっちのねーちゃんは焔って言うのかよろしくな! なぁにぃ泳げねぇ? 成程任せな! 今日のオイラは浮き輪があるぜ!」
おお――! と歓喜の声を挙げる二人。泳げない者にとって浮き輪がどれだけ救世主な事か……流石だぜワモン! 海のヒーローは君だ! これだからアシカはやってくれる!!
「誰だ今の声は! オイラはアシカじゃねぇえええ!!」
「あ。そういえばリリファちゃん大丈夫だったか? ほらボク達と一緒で浮かびにくそうな体形だし」
「あっそういえばリリファ先輩……ま、まぁ見つけたら助けてあげよ」
そんな浮かぶ要素が同様になりリリファだが彼女は――
「やれやれ、船に使われている金属が随分劣化していると思えば……不安が的中したか」
船内。サイズだ。事情は知らなかったようだが、流石は鎌の精霊である。敏感に感じ取っていたようだ。落ちてしまったら終わりだが、生憎飛行能力を持つ彼ならば難を逃れるは容易い。ついでに一人ぐらいならば助けられるか――と見渡せば。
「あ、サイズさん! サイズさんじゃないですか来てたんですね!」
「おっと、リリファさんか……その絶望顔、もしかしてハンマーなのかな? なら陸まで運ぼうか」
え、いいんですか! と顔を輝かせるはリリファだ。ホントにハンマーなのか、ならば任せろ。
「人一人くらい、安全に陸まで運搬できるさ――!」
幸いちっこいし。運ぶに問題なしと、飛び立って。
しかし――再度誰かを助けに戻れる程悠長な時がいつまでもある訳ではない。
ついに船体が限界を迎える時が来たのだ。各所から生じる悲鳴のような金属音が終幕を示して。
「駄目だリゲル、ここはもう――!!」
必死に防水扉を閉めるポテトだが、浸水が早い。上回る水圧にとうとう扉が閉められなくなり。
「くっ逃げようポテト! ここに留まったらもう、飲み込まれるだけだ!」
閉めるのは断念し、リゲルは共に上層を目指す。最下層で遊んでいたのが災いとなった、脱出に手間取ってしまったのだ。流されてくる障害物をどけ、足の鈍る水の中を強引に進む。
離さない手。突き進んだその先で、甲板へとなんとか降り立てば。
「うわ! くッ――大分傾いてきた、な!」
もはや傾きが90度に達しようというか。多くの者が海へと落とされていく。
だが準備できぬ形で落ちては負傷しかねない。故にリゲルは落とされる前に辛うじて柱を指先で掴み。
「ポテト! 大丈夫だ、最後まで一緒だからな!!」
「ああ――リゲルが一緒なら大丈夫だ!」
片腕でポテトを抱きしめ、ポテトもまたリゲルの身と共に在る。
「不味い……水の勢いが凄い! 駄目だ、もうこっちのルートには戻れない……!」
言うはシラスだ。彼は沈没などというトチ狂った予定は知らず、乗客の避難を全力で行っていた。その甲斐もあってか、もう取り残された乗客はいないだろうが――
「ここが駄目だと甲板までの道は塞がってるし……残された手は一つ、だね」
後はアレクシアと共にどう脱出するか、だ。刻一刻と迫る海水。迷っている暇はなく。
往くは既に浸水した場所――そう。潜って抜け道を探すのみ、だ。
行くしかない。言葉ではなく目で示すは互いの決意、『往ける』という信頼。逸れぬ様に手を掴んで駆ける水中。泳ぎが得意でないアレクシアの口から零れる空気――肺への水。それでも寸でで海面を捉えて。
「――アレクシア、大丈夫?」
「げ、ほ! う、ん大丈夫――」
酸素を吸った。思わずせき込むアレクシア、だが。それは転じて無事の証――瞬間。ぐったりと、抜けていた身を抱きしめられていた事に気付く。同時にシラスも、意図せずして彼女を腕の中に収めていたことも。
喜怒哀楽――いや喜楽、とでも言おうか。様々な感情と言葉が混ざり合ってそれでも、ああ。
共なる無事が確かにその手にあったのだ。
そして、ついに船首の先すら見えなくなり完全に沈む船。
救助船が近付いてきて、皆の救助を始めれば。
「やーれやれ。知らなかった奴結構多かったみたいだな? これも船に縁がないからねぇ……」
悠然としているのはカイトだ。海洋出身であるが故に情報は知っており、そうでなくとも船の所々が何やら怪しい感が満載だった。船乗りの勘が働いていて。
「まぁこれでも嵐の中やら海の中に投げ飛ばされたあの時と比べたら平和だよな……
と、アエキの奴らもいるのか懐かしいな――さ。俺も救出を手伝うかね」
眼下のサメ達に手を振りながら、スピーディーな救出劇で惚れるなよ――? と笑みを一つ。
突発的なイベントではあったものの、さぁそれでは皆様――
どうぞようこそ、海洋へ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした!!
結構泳げない方も多く。よくよく考えると幾ら救助船あると言っても
泳げない人にとっては地獄ですなこれ……!
でも皆さん無事なので許してください(by企画した海洋会社)
では、ご参加どうも有難うございました!
GMコメント
茶零四です。
どうしても船を沈没させたかったのです……
以下詳細です!!
●目的
沈没船から脱出しよう!!
沈没船という状況を楽しむ、でもOK!!
●ロケーション
場所は大型客船(順調に沈没中)です。
客船が沈没する予定だった、というのを知っていたか知っていないか(巻き込まれたか)は自由で大丈夫です。ちなみに混乱を巻き起こす為に客船運営側は救助ボートを意図的に滅茶苦茶少なくしています。時々穴が開いてる救助ボートもあります。
また、大型客船としてありそうな施設はあるものとします。
(室内遊技場・レストラン・バー等。全部沈みますが)
シナリオ開始段階では少しずつ浸水してゆるやかに沈んでいるだけです。
途中から大きく船が歪んで急速に浸水の速度が速まります。
脱出に手間取っていると巻き込まれてしまうのです……
なお周囲には万一の救助船やらが待機していますので命の危険はありません。
後述するサメも助けてくれるよ!!
●サメ
アエキサメ(AEKI・SAME)という種族。
外見は普通にサメだが物凄く人懐っこい魚で、人を襲う事は無い。
というか主食は海に沈んだ木材や無機物らしい。船はよ沈んで。
周辺の住民とは長らく友好的なパートナーで、人の危機には敏感に反応。
●NPC
ギルオス・ホリス(p3n000016)
リリファ・ローレンツ(p3n000042)
海洋への船に乗ってたら沈没し始めて慌ててる人達。
呼ぶと出てくると思います。
●その他
もし【同行者(ID+お名前)】もしくは【グループ】がありましたら
プレイング一行目に記して頂けますと幸いです。
それ以降はご自由にどうぞ!
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