PandoraPartyProject

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『アラクラン』の女

 新皇帝派――帝国軍人特務派『アラクラン』
 それは『ゼシュテルなる侵略軍事大国に平等と正義を質す』事を基礎理念に掲げるクラースナヤ・ズヴェズダーの一部たる革命派に汲みする者達の名称である。
「ギュルヴィ」
 組織の代表格であるペストマスクの男に声を掛けたのは雷神の末裔を象徴する金色と、其れが転じた錆銀の瞳の女であった。
 元は燃えるような赤毛を有していた彼女の髪からは色彩は抜け落ちて行き、青き雷霆の気配さえ遠い。
 女が立っていたのは観光名所である歯車大聖堂を見下ろすことの出来る頂きであった。
 最も、その場所を指定したのはペストマスクの男――ギュルヴィの側なのだが。
「ああ……漸く来てくれましたか。
 帝都は如何です? アラクランの軍人達も貴女に傅き手脚になると誓ってくれたでしょう」
「酷い血潮の匂いです。誰ぞの一声だけで国が此程までに傾くとは――」
 女は酷く苛立ったように首を振った。皇帝の座がバルナバスに明け渡され発された勅命により、国内は混迷を極め、阿鼻叫喚と称するしかない有様となっている。
 民を護らんと立ち上がる正義感気触れ。国家こそ支えねばならぬと政に口を出す政治家気取り。
 そして――『国家を正すべし』と理念を掲げた者の穏健に事を進めんとする日和見の者達。
「……其れでも良い機会でしょう。クラースナヤ・ズヴェズターの理念にはわたくしも同意致します。
 ですが、のんびりと事を構えている暇はない。
 悠長に日和見を続ければ餓えと寒さがやってきてしまうではありませんか」
「だからこそ、アラクランを利用して欲しいのですよ」
 ギュルヴィに女は眉を吊り上げた。帝都を牛耳る軍人は女にとっての敵だった。
 ……少し前までは『目の前の男も敵』ではあった。しかし、一度の敗北で女はギュルヴィに囚われて以降は彼と行動を共にしている。
 ギュルヴィが女に用意したのは彼女の思想を現実の物とする為の道具だ。
 ノーザンキングスの三分族の内、雷神の末裔を称する『ハイエスタ』の女の抱いた高潔なる思想。

 ――幼子が餓え苦しむことの無き未来を。武力に怖じ気づく事の無いヴィーザルの平穏を。
   混迷する帝都を牛耳り、政の中枢を得ることで統率した和平を得た得なくては未来はない。

 女はハイエスタの村の指導者であった。
 その地を蹂躙したのは目の前のペストマスクの男だ。だが、彼を恨むばかりでは何も始まらない。
 力が無くては何も得られやしない。護る為にも力が必要だ。己には民を護るだけの力が無かったのだ。
 故に、女は酷く己に憤った。
 幼子を守る事の出来ない己に。抵抗する事さえ出来ずなすがままであった己に。
 思い浮かべるだけで女の苛立ちは天を唸らせ、雷の気配を呼ぶ。魔杖の先の神鳴は女の指先を通り抜け地を叩いた。
「そやつらは『新皇帝派』なのでしょう? ただの略奪と暴虐に塗れた者共ではありませんか」
「派閥こそはそう名乗るでしょう。ですが、本質は革命派――いいえ、『急進派』の手脚でしか有りません。
 彼等を駒とする為には手っ取り早いマスコットが必要なのですよ。
 皇帝だろうが魔種だろうが『冠位』であろうが使える者は使わねばなりません。
 彼の力に魅せられた者共を我らは統率し、手脚とし、この国を蹂躙し手中に収める迄、只管に遣い続け、そうして捨てるのです」
「……捨てる?」
「ええ。貴女が求める未来に必要ではない者共は塵芥と同じ。
 貴女が守りたいと願った幼子に、力無き民に、彼等は刃を向けるでしょう。ただし、それはその時ばかり。
 我らが国を治めた後に、処刑してしまえば良いのです。
 どうせ、皇帝の座に座ったあの男は細かい事等興味も抱くことはないでしょう」
「宰相として国を牛耳るかのような言い草ですね」
「ええ――『私は王の頭脳として生きていく為』に此処に居るのです。
 あの方の名をこの国に刻み付ける為。
 民を犠牲にするのは心苦しいですが一時のみです……今は耐えようではありませんか!」
 女は芝居がかったギュルヴィの言葉に鼻をふん、と鳴らした。
 革命派に言葉巧みに取り入った彼は幹部の一角、参謀としてその顔を利かせているらしい。
(……あの者達もこの様な男に取り入られるとは情けもない。
 喉元に迫った刃の気配にも気付かぬままか。それとも我々に気付き刃を向け直接対決を望むか……。
 何れにせよ、わたくしは事を見守っている場合ではないのは確か。冬が来て仕舞う前に――)
 男は矢面に立つことを拒む。何であれど、手脚となる人間を用意してステージの上で踊るのを特等席で眺めるのが好きなのだ。
 此度の手脚は己であることを女はよくよく理解していた。あの日――ウォンブラングで己を捕えた男は言っていた。

 ――弱者は、敗者は、何も得ることは出来ない。
   苦しいでしょう。悔しいでしょう? さあ、次は、貴女の舞台だ――!

 男が求めるならば存分に踊ってやろう。求める未来がすれ違えども『過程』が一緒なのだ。
 利用し合うだけ利用し合い、潰れるときは何方が先であるかの根競べでしかない。
 それは各地に散らばる派閥とて同じではないか。
 何かを求める為に思想の違う者を蹴散らし、殺めるばかり。
 暴力に訴え掛けると言うならば正義など掲げる事など出来るものか。
 観客面してステージを眺めているだけの者に求める未来を得る資格さえないのだから。

「さあ、行ってきなさい。『ドルイド』ブリギット・トール・ウォンブラング!
 弱者を虐げ、敗者を殺す。平等など存在せぬこの場所に貴女が法を作るのです。
 飢えと悴む寒さばかりのヴィーザルを見捨てた帝都を牛耳り、素晴らしき未来を得るが為に!」

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