PandoraPartyProject

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頂きの景色

「騒がしいもんだぜ全くよ」
 鉄帝各地で始まっている阿鼻叫喚の渦――ソレを高みから見下ろす男がいた。
 彼がいるは、ゲーニスベルグ山脈。
 鉄帝の中でも北部に位置し『秘境』ともされる地であり、只人なぞ近付く事すら出来ぬ場所だ――山の頂に登らんとすれば極寒の吹雪が待ち構え、そうでなくともこの地で平然と生きる魔物の類が次々と襲い掛かってくる事もある。まぁ。だからこそ一部の修練者はこの山にあえて入る者もいるのだが……
 ともあれ彼はその山より見下ろしていた。
 何を? ――この国そのものを、であろうか。

 ごちゃごちゃと喧しい(かまびすしい)程に右往左往している――この国を。

「おとっつぁん。まーたイライラしてるの? 歳? 歳の所為? 牛乳飲む? 飲むか?」
「アウレオナ……お前マジ、最近言動生意気じゃねーか?
 大概にしとけよ――でないとガチ泣きするぞ。ジジィのガチ泣き見せてやるぞ」
「メンタルざぁこすぎるよ……それより降りるんじゃないの?
 ギュルヴィとかはもうなんか動いてるんでしょ? 行かないの?」
 と。彼の背後から言を紡いだのは……年若い女性であった。
 アウレオナ、と呼ばれた彼女が紡いだ『ギュルヴィ』と言う名は、現在鉄帝で別たれている勢力の中の一つに席を置く人物の事である――が。
「あん? なんだお前あの野郎の所にでも行きてぇのか?
 止めとけ止めとけ! あの男は止めとけマジで!
 顔がいい男は絶対何か裏がある――絶対だ」
「そんな力説されても」
「第一あの男は……なんだったか。『ドルイド』の嬢ちゃんを引き連れまわして何かしてるだろ。
 今革命派だったかどっかに根を張ってる最中じゃねーか?
 行っても会えねぇだろうよ。なにかに理由を付けて姿晦ますに決まってやがる!」
「いや拙は名前を出しただけなんだけど……だめだ、このおとっつぁん話聞いてくれない」
 彼は首を大きく振ってギュルヴィを否定する。アレはヤベー奴だと。
 ……まぁ実際、彼は革命派に取り入り、その参謀が一人として活動しているが――どうにも真っ当な人物とは思い難い気配もどこからか零れていた。その理由は、もしかすれば一部のイレギュラーズ達であれば心当たりもあるかもしれない――
 しかしギュルヴィの事を語る『彼』はイレギュラーズではないというのに、ギュルヴィの事を既に『裏』まで知っていそうな雰囲気がある。それは彼となんらか繋がりがあるからなのか……さて。言葉の節々だけでは正確な所までは分からない、が。
「まぁとにかく拙はそろそろ降りるよ。麓の街とかに行ってみたいし。
 美味しいパンケーキ? っていうのも食べてみたいし」
「んーどうしても降りたいならそれでもいいけどよ。気を付けろよ、お前ならそうそう危険な事はないだろうが――ノーザンキングスの連中も動いてやがるみてぇだからな。あいつら血の気多すぎてドン引くんだよな……」
「…………ノーザンキングスってなんだっけ?」
「お前山暮らしが長いからって田舎者すぎるぞ。まぁこの山降りて『領土拡大!』とかのたまってる連中がいたらそうだと思っとけ――先行して街荒らしてる連中がいるかもしれねぇし、もしかしたら小競り合いぐらいなら既に起こってるかもしれねぇからな」
「ふーん。で、おとっつぁんは結局まだ行かないの?」
「今はバルナバスの野郎に呼応した有象無象共が湧いて出てくるだろ。
 ある程度『淘汰』されたら俺も行くさ。
 会いてぇヤツもいるしな……ま、今の所はまだちと肩慣らししておくぜ」
 アウレオナの方は細かい事情には頓着せぬ様に言葉を並べるものだ。
 ――ノーザンキングス。
 北東部の連合王国たる彼らは、帝都の政変に対して行動を表面化させていた。
 鉄帝が一枚岩でなくなったのだ。ならば小賢しくも抗っていた偏屈狼(ローゼンイスタフ)の防衛線を食い破らんとする動きを見せるのは当然であり、であれば周辺領域ではノーザンキングスの進行が近いとざわめき混乱が生じるも当然。
 混乱と進撃。ノーザンキングスの本隊が降りてくるのはまだ先かもしれぬが。
 その衝突はきっと遠くないだろうと――彼は口ずさみ。
「あぁだが、年甲斐もなく胸が躍るぜ」
 更に、彼は立て続けるものだ。
「武だ。武の時代だ。いや『暴』の時代か?
 どいつもこいつもステージに『登らされる』時代がやってきたのさ。
 ――もう誰も『観客』なんかじゃいられねぇんだよ。
 他人が血と汗を流して、それを酒の肴に……なんてのは終わりだ」
 己が想いを。
 己が蓄積してきた思念を。
 あぁ――
「さぁ楽しもうぜ我らが祖国よ! これこそがこの国の――夜明けだ!!」
「おとっつぁん。独り言うるさい!」
「ごめん」
 腕を大きく広げ、高らかに。
 狂乱の果てにこそ――己が望む世界があるのだというかのように。
 かつて。大闘技場ラド・バウで『常勝英傑』とまで謳われた闘士であった彼は――

 新皇帝の指した道筋を祝福していた。

 ※『新皇帝』バルナバス・スティージレッドの『勅令』にゼシュテルが揺れています!
 ※ゼシュテル各地の軍閥や勢力からローレットに依頼が届き始めています!

 ※シレンツィオにて、大規模作戦が発令されています!

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