PandoraPartyProject

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呪祝の『新生』

 事の是非や善悪等、立ち位置を変えれば全く見方が変わるものである。
 少なくとも神の視点ならぬ人の視点、その営みにおいては絶対不変の価値観等有り得ない。
 どれだけ求めた所で、それは太陽目掛けて飛ぶ蠟の羽のようなものなのだ。
 熱に浮かされ、溶かされて――やがては墜落する傲慢ばかりに違いない。
「良いではないか! 実に良いぞ、新皇帝!
 この鉄帝に弱者等不要。元より強き者だけがこの国を守り、祖国を強大へと変えていけるのだ!」
 声を張ったバトゥ・ザッハザークの声は極めて上機嫌そのものである。
『黒狻猊』の異名で呼ばれるこの男は鉄帝国軍部きっての『原理主義者』だ。良識的な上層の多くが頭痛の種にしながらも、下士官、兵から一定の支持を集める彼は『弱腰極まる』指導層に正面から対立する異分子であった。彼に言わせれば『本来、ゼシュテルに居るべきではない弱者』に多くの国富や国力が『浪費』されるのは憤懣やるかたない不快でしか無かったのだ。長らく幻想如きとの戦争に決着がつかなかった理由はそこにあるとさえ考えていた。
「因果は巡るものだな」
 シグフェズル・フロールリジはせせら笑うようにそう言った。
「帝国と袂を分かつ――こんなにも分かり易い状況になろうとは」
 娘が自身の顔を見たならばどれだけ口角泡を飛ばし、罵り文句を叩き付ける事だろうと彼は思った。
 あの貧弱な娘は未だに出来もしない綺麗事を信じているのだろうか?
(皇帝を信じ、裏切られ。己が非力に、非才を理解しながらも、実に――滑稽だな?)
 先代のフロールリジ当主たる彼は鉄帝国において唾棄すべき裏切り者に違いなかった。
 かつてゼシュテルを見限ったその動機が最前線で荒廃の限りを尽くす自領の安寧を得ようであった事は言い訳にもならない。戦争を愛しながら、弱者に寄り添わなければならないと強迫観念に似た使命感に生きた彼には常に憤怒ばかりが存在していたのである。
「誰にも望みと願いがあるのなら――叶える術があるのなら、人はそれに縋るのでしょうね。
 たとえ人ならざる零落を果たしたとしても、何処までも踊り、何処までも求むる。
 舞台で咲き誇り続けられる『薔薇』でいられるとするのなら、多少の不作法を一体誰が咎められまして?」
 劇作を諳んじるように、芝居がかったメリナ・バルカロッタの美貌は今は見る影もない。
 より厳密に言うのなら『非常に美しいままなのだが、それは彼女の望んだ姿ではない』。
 鉄帝の演劇界では非常に高名な演技派女優で、数年前にアケ・ロイロの誘いで劇団『黒染めの赤』に籍を置いた彼女は公的に失踪中だ。
 その理由等、一目見れば直ぐに分かる。彼女の顔は永遠に咲き誇る薔薇そのものになっている。
「何だ、美人さんよ。この期に及んで望みは『劇団に戻りたい』なのかい」
 やや軽薄な調子でからかうように言ったのはヴェルンヘル=クンツだ。
「人の望みなんてそれぞれではございませんこと?」
 険のある調子のアリスティア・シェフィールドの言葉には何処までも冷たい色合いを帯びていた。
「愛より情より大切な事が果たして一体幾つあるでしょうか?
 かつて私からジェイドを奪ったこの国が、一体どうして永らえる権利があるでしょう」
『アリスティアは、その為に幻想からこの世で一番憎いこの国へやって来たのだ』。
 ヴェルンヘルは「いいや。全くその通り」と首を振った。
 咥え煙草から紫煙を燻らせた彼は、
「案外、ここも呉越同舟かもな。実に感情的で、実に正しい。
 だが、むしろ、いいんじゃねえか。そういうの。魔種だなんだって言ってもよ。
『元が人間風情なら、それ位の方がぐっと来る』。
 復帰大いに結構だ。イカレた皇帝の下で新しいゼシュテルを作って、もう一度舞台で踊ってくれ。
 開演には花束でも持って遊びに行ってやるから、よ!」
 ……結論から言えば、ここまでの五人の内、バトゥを除く四人が反転を遂げた人間である。
「フン。戯言は兎も角だ。バイル一党はサングロウブルクに脱出したのだろう?
 南は――集結地点はさしずめバーデンドルフ・ラインか。
 あちらはザーバが取りまとめるだろうし、特務派連中は反骨の塊で従うまい。
 何れにせよ『皇帝勅令』に弓引く連中には事欠かないと言う訳だ。
『ならば、俺の望みの為にも、お前達の望みの為にもまずはこの戦争に勝たねばなるまいな?』」
 しかし、バトゥなる男はそれを理解しながら一切それに頓着していない。
 何故ならば魔種は強く、切り捨てるべき荷物は弱いからだ。
 バトゥなる人物は帝国軍部の将官でありながら、それ位に『徹底』しているのだ。
 その発端が見失った大義であろうと、今も瑞々しく残る情熱だろうと、永遠に失われた恋の残滓であろうと変わらなく。新皇帝派なる勢力は一人一人が異常な位の個人主義者であり、己の為に世界を侵せるエゴイストである事は間違いない。
 そして、『異常』なのはもう一人――
「着地点は全く読めないが、この状況は確かに幾分面白い。
 いや、ぼくは面白いからこうして来た訳だから、逆説的にそうでなくては話が違うのであろうが」
 嘯いた学ラン姿の青年――アレイスター・クロユリーは『何故、ここに居るのか知れない一人』である。
 旅人であり、幻想近辺でパトロンを誑かしていた彼が帝都を訪れたのは混乱の後だった。
 恐ろしい短期間で、新皇帝派の幹部格に収まった彼はまるで底知れない笑みを涼やかな美貌に添えていた。
 生臭く怖気を催す独特な体臭を香で誤魔化している。
「『汝の欲するところを行え』。素晴らしい言葉であろ?
 ……それが生命希求の原理なれば、ここは実に純粋な願いの淵に違いなかろうなあ」
 人目を引く麗しい容貌と身命汚すその生臭さの落差はこの上ない不吉にさえ満ちていた――

 ※『新皇帝』バルナバス・スティージレッドの『勅令』にゼシュテルが揺れています!
 ゼシュテル各地の軍閥や勢力からローレットに依頼が届き始めています!

 ※アーカーシュでの戦いが終わりました。ローレットは『ラトラナジュの火』を撃つための設備を手に入れました。
 ※鋼の咆哮(Stahl Gebrull)作戦が成功しました。イレギュラーズの勝利です!
 ※アーカーシュの高度が回復しました!

これまでの 覇竜編シレンツィオ編鉄帝編

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