PandoraPartyProject
ゲイム・チェンジャー
「要するに、手段何てどうでもいいと思うんだよ、ボクは」
状況に比して異様に軽い調子で言ったイスカ・シヴァトリシューラの顔には好奇心と愉悦が浮いていた。
「ゼシュテルのルールは簡単で、その価値観はてこでも動かないものだ。
余程のパラダイムシフトでも期待出来れば別だが、そんなもの実に動意薄と言わざるを得ない。
これまでも、これからも――『頭を使ってどうこうしよう』なんて考える連中は閑職で、この国は常に非効率に回り続ける――」
咥えたキャンディーもそのままに彼女は「違うかい?」と皮肉に笑った。
スチールグラードから駆け巡った衝撃は各地に甚大な影響を齎している。
『勅令』はまともな人間からすれば有り得ないものだったが、或る種鉄帝国らしく。同時にまともではない人間――例えば現状への過剰な不満分子やら賊徒やら収監されていた犯罪者等――からすれば歓迎してもおかしくないものだった事は確かだろう。バルナバスの狙いは知れないが、少なくともそれは『平和』という盤面を引っ繰り返す酷い癇癪のようなものだった。
それなりのバランスで成り立っていた鉄帝国は少なくとも今は無い。酷いバランスの上に新たな秩序が立脚するかどうかさえまだ読めない状態だ。
「違わねぇな。全くその通りだ。頭の使い先もあるか知れねぇクソったれた現状だがな」
鼻を鳴らした九頭竜友哉は吐き捨てるようにそう言った。
「だが、同時に好機でもある。
『鉄帝国の主義に無関係に、この局面で勝てば非主流派さえ無視出来ない存在になれる』からな。
……まさにゲームチェンジだ。ルールが変わったなら特務派(ひんじゃく)の手札でも十分愉しめる」
ディートハルト・シズリーが『邪悪』であるかと言えばそれは微妙だ。裏社会で生きる彼の場合はどちらかと言えば優先順位の問題だ。生来からの気質でやや酷薄であり、情が薄くもあるのは確かだが、彼の行動の多くは積極的な他害の為では無い。『彼は大好きな戦争を出来れば自分のやり方で愉しみたいだけなのだ。それに比べれば肉親も倫理もどうでも良いだけ』。
「まぁ、こういうシチュエーションが我々に適しているのは間違いないでしょうね。
他所が幾ばくか取り難い方法を我々は実に簡便に実行出来る。正々堂々を素晴らしい価値観と考える者は少ないでしょうからね」
「クククッ……!」
『過程』を極端に気にしないヴィトルト・コメダの言葉にクロム・スタークスが含み笑いを零していた。
相手の弱点を執拗に調べ上げ、作戦をもって敵を翻弄するのを是とするヴィトルトと貧弱な己の肉体に見切りをつけ、『強者』のパーツを集める事で『最強』を作る――鉄帝国らしからぬ、そして鉄帝国で無かったとしても恐らく精々が練達位しか受け入れる事の無い狂気的科学者・クロムは実に好相性だった。
秘密結社『冥府(タルタロス)』なる集団に属し、実に賢し気に楽し気に『混沌』にちょっかいを出したがる旅人であるイスカ。そして、九頭竜商会――九頭竜組、つまりアンダーグラウンドでの活動を是とするマフィアの頭目格である友哉。何れも筋金入りに捻じ曲がった連中であり、どちらも真っ当な国の勢力や機関に居場所が無いタイプなのは言うまでもない。
「しかし、特務派は割れているようでもある」
「アーカーシュか」
ディートハルトの言葉にイスカが応じた。
先の浮遊島決戦では彼等も属する非主流派における一部勢力が、かのローレットと友誼を深めたらしい。
そして、彼等は現在鉄帝内で一つの勢力を構えた『非主流派』の中の『穏健派』だ。
ローレットは清濁を併せ呑む相手ではあるが、付き合い方が難しいのが残る『強硬派』の方である。
「中々因縁深い状況ではある」
個人主義者の多い派閥ではあるが、ディートハルトとて、かつてのショッケン・ハイドリヒの闘争には敬意と哀悼を感じたものである。
『友情等間違っても無いが、彼の闘争は、彼の戦争は実に美しかった』。
それだけでその価値は十分だったのである。
「……ま、正義だ悪だの問題じゃねぇ。重要なのはどう噛んで、何を得るの方だからな」
友哉はシニカルに笑ったが、それは半ば自嘲的でさえあった。
肉親だろうと蹴落とす血塗れの人生を歩んでおいてなんだと思っても。
少なくとも友人と特に幼馴染――友哉にとっては守らねばならないものはある。
ならば傍らの『友軍』がどれ程に信頼出来ぬ連中であったとしても、利用する価値はある。
お互いに利用し、故あれば裏切り、この局面を泳ぎ切る――泥臭い戦いはまさに彼の得手なのだから。
「既に各勢力はやる気十分のようで。まず当面はそれぞれが『足場』を固める動きになるでしょうね。
民心の獲得なり、当面なりの安全なり、兵の終結なり……
眩暈がする程、忙しい。軍閥同士で『戦争』をするなら必要なものばかりです。
おっと、Dr.に言わせれば『技術』が最も大切でしょうかね!」
「『パーツ』にせよ、『古代兵器』にせよ、直接武力に優れぬ我々にとっては最重要だ。
とっとと用意しろ、後は私が何とでもしてみせる!」
力強く応えたクロムにヴィトルトが笑みを見せた。
「どうも、足りない手は『傭兵(ローレット)』に求めているようですね。
では、我々もそういう算段で参りましょう」
特務派の一部がローレットと繋がりがあるのは好都合だ。この一派の動き方がローレットの趣味に合うかは知れないが、少なくとも他の勢力と同様に彼等を傭兵に使う必要はある。
王道を取り戻さんとする帝政派。
この機会に全てを変えんとする革命派。
独立独歩の矜持を貫くラド・バウ有志。
背負い、立たざるを得なくなった南部戦線。
辺境で不穏な気配を発するノーザンキングス。
この、帝国内力学のゲームチェンジに期待するトリックスター、特務派。
幾つもの思惑と運命に引かれ、遂にローレットが未曽有の混乱に足を踏み込もうとしている。
まだその目的さえ分からぬ、新皇帝が高笑うこのゼシュテルに!
※『新皇帝』バルナバス・スティージレッドの『勅令』にゼシュテルが揺れています!
※ゼシュテル各地の軍閥や勢力からローレットに依頼が届き始めています!
※アーカーシュでの戦いが終わりました。ローレットは『ラトラナジュの火』を撃つための設備を手に入れました。
※鋼の咆哮(Stahl Gebrull)作戦が成功しました。イレギュラーズの勝利です!
※アーカーシュの高度が回復しました!
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