PandoraPartyProject

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少なくとも現状では毎週開催続行します!

「ちょっと~! 町中、もう大騒ぎじゃない!
 あっちこっちでもう蜂の巣を突いたみたいになってるわよ!
 監獄に居た連中も全部無罪放免だってさ!」
 やや甲高く「いやあね!」と声を上げたビッツ・ビネガーに対照的に静かなガイウス・ガジェルドは「ああ」と応じるのみ。
 ゼシュテル鉄帝国、帝都スチールグラード郊外、ラド・バウ大闘技場――『灰色の雷鳴』は普段何ら政治性を持たない、まさに人々の娯楽の中心である闘士達にも少なからぬ驚きを与えていた。
「……ウホ……ウホホ!」
「あー、分かる。分かる。コンバルク君もそう思ってたか」
 A級闘士でも別格のエース級と呼ばれるコンバルク・コングの声に同じくアイドル闘士として名高いパルス・パッションが頷いた。
「ボク達も闘士だからねぇ。こうなれば『どうせなら陛下に挑んでおけば良かった』とは思うよね。
 多分すっごい映えるし。#戦ってみた #パッション・ライブ! みたいな……
 終わったら二人で写真撮ってピースしてノーサイドで……勿論、勝ちに行くけどね!」
 可憐な外見に反してかなり鉄帝国的な台詞ではあるが、力こそ全てを標榜するこの国において闘士という職を選び、更にその超上澄みとして君臨する面々は筋金入りだ。
「いやあよ。いい男を鑑賞するのは良いけど、あのいい男は冗談通じなさそうなんだから!」
「政治が絡まなければな。やってみたい相手ではあった」
 ビッツは嘯き、ガイウスは苦笑したが饒舌寡黙、性格の差こそあれも多かれ少なかれ似たような感想を抱いていたのは間違いない。
「『陛下』への次の挑戦機会は置いといても……でも、問題はこの後よね」
 ラド・バウを拠点に次善を話し合う面々が、生じている状況より圧倒的に呑気なのは『この場所をまともに攻め落とせる個人等居ないから』だ。
 鉄帝国で最強論議が挙がる度、必ず名前が出る『スーパーチャンプ』は言うに及ばす。
『S級の最も華麗にして残忍なる門番』一人を取っても、まともに相手にすれば並の人間なら命が幾つあっても足りなかろう。
「少なくとも、帝都全体では治安が著しく低下しているみたいだし、争いや略奪も頻発してる。
『ここ』が安全なのは私達が居るからだけど、ラド・バウは政治とは一線を画している人が多いよね」
 イルリル・イーラントの言は確かなものだった。
 闘士達とて、国が乱れて欲しいとは思っていないのだが、彼等は気候風土的に政治をかなり嫌っている。
 ノブレス・オブリージュを有しない力は、或る種の矜持のようなものだった。
「難しい判断だな。俺は舵を取る心算は無い。細かい事はビッツが決めればいいだろうが」
「ちょっと。チャンピオンでしょーが!」
「確かに『強い』からチャンプだ。だが、それは俺の判断の正しさを担保しない。
 この国に――この大闘技場に籠る俺より、見聞の広いお前の方が適任だろう?
 だが、どうしても俺の意見を求めるなら、それは一つだ」
「……分かってるわよ。『ラド・バウとはそもそも何か』についてでしょ?」
 スチールグラードの混乱を収める為に積極的に武力を行使すれば、今後のラド・バウは政治的属性を有する何かと見做されるだろう。
 そういったしがらみを嫌い、誰に迷惑をかける事なく――否、己の栄光や誇りと多勢の熱狂の為に純粋な武技を競うのが大闘技場なれば、ガイウスの言葉の意味は簡単だった。

 ――ラド・バウに政治だけは持ち込んでくれるなよ――

「意見を求めるなら」と念を押したガイウスではあるが、ビッツが似たような事を考えている信頼はある。
 つまる所、彼は彼で向いている人間に押し付ける事が中々上手い。
「でも、ファンの皆が大変なのは困るよ。ファンじゃなくても――放っておいたら何が起きるか分からない」
 可愛らしく眉根を顰めたパルスはその活動柄、どちらかと言えば不干渉主義には反対なようだった。
 ラド・バウが何れかの勢力に肩入れする軍閥扱いされる事は憤懣やるかたないが、見捨てたくも無い……といった所か。
「……それよね。寝覚めが悪いったら無いし」
「ウホ!」
『どちらの話も分かる』ビッツにコンバルクが頷いた。
 一見すると会話が成り立っているかは不明だが、ここの連中は何事も無いかのように完全に疎通している。
 閑話休題、政治的な干渉はしたくないが、ラド・バウの正しい開催の為にも被害は減らしたい。
 武力を持つが、彼等一流の主義を両立するのは簡単ではない。ラド・バウ勢は難しい判断を迫られていた。
「……良し」
 暫く唸っていたビッツが周りの期待に応えるように声を上げた。
「他の闘士連中も概ね『任せる』ばっかりなんでしょ?
 ええ、ええ。いいわよ。じゃあ任されてやるから文句言わないで頂戴ね!」
 ビッツの言葉に面々は小さく頷いた。
 決めなければいけないのは確かだし、誰かが仕切らなければ進まない。
 人選としては実力、性格共にビッツはやはり妥当な所だろう。
「アタシ達はゼシュテルの動乱には原則積極関与しない。
 少なくとも組織としてのラド・バウはバルナバちゃんにも帝政派他、各勢力とも距離を置く。
 勿論、生きてるなら元陛下も含めてね。知らないけど」
「……」
 微妙な顔をしたパルスに「早合点しないこと」とビッツ。
「でも、ラド・バウはラド・バウだけで当面独立の構えを取る。
 この大闘技場と周囲一定の範囲はアタシ達のシマ。余計な事考える連中は実力でお引き取り願いましょ」
「……じゃあ、余計な事考えてない人達は?」
「そんなもん、保護すりゃあいいじゃない。
 いいこと? アタシ達の目的は『ラド・バウがラド・バウらしくあり続ける事』でしょ?
『それならそうすりゃあいいだけよ』」
 イルリルに応じたビッツの落とし所は或る種の詭弁だが、玉虫色が必要な事も時にはあるものだ。
 これでも納得しない一部の闘士は『好きにする』だろうが、それは元より問題ないのだ。
 あくまで闘士の主流派はラド・バウが来週も開催される事を期待している。
 国中がバカ騒ぎをしようともラド・バウはラド・バウで在り続けれられれば良い。『観客』だろうと『ファン』だろうと『一時の避難者』だろうとラド・バウが期待する『客』である以上は受け入れれば良い――
「気に入らない誰かが居るならね。
 新皇帝の御墨付きなんだから、アタシ等を実力でねじ伏せりゃあいいのよ。
 そんな事、出来る奴が居るかは知らないけどね!」
 好きにするから止めたいなら腕づくでこい、というのは鉄帝国旧来的にも新皇帝的にも流儀として実に正しかろう。
「それにほら」
「……?」
「最悪、外の連中に頼んで何かするのは無理ではないと思うし……ローレットとか」
焔ちゃんにお願いすればいいんだ!」
「……言っとくけど、反則みたいなもんよ。分かってる? パルス」
 コクコクと頷いたパルスにビッツは小さく肩を竦めた。
 ビッツはその態度よりは人が良い所もあるのだ。まぁ、必ずしも褒められた人間ではないのだが――
「……フッ」
「何よ。不満?」
 珍しく軽い笑みを浮かべたガイウスにジト目をしたビッツが不満気な顔をした。
「いいや。やはり、お前が適任だったと思ってな」
「……言っとくけど」
 複雑な顔をしたビッツはそれを誤魔化すかのようにガイウスに釘を刺す。
「ホントに軍隊とか新皇帝とか攻めてきたら何とかするの主にアンタだからね?
 約束しなさいよ。アタシはそういうのマジでノーサンキューなんだからね!」

 ※『新皇帝』バルナバス・スティージレッドの『勅令』にゼシュテルが揺れています!
 ※アーカーシュでの戦いが終わりました。ローレットは『ラトラナジュの火』を撃つための設備を手に入れました。
 ※鋼の咆哮(Stahl Gebrull)作戦が成功しました。イレギュラーズの勝利です!
 ※アーカーシュの高度が回復しました!

これまでの 覇竜編シレンツィオ編鉄帝編

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