PandoraPartyProject

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セピア色のクレイドル

 夢を見たのだ。
 村娘の夢だ。
 自分が『帝国』にうまれたごく普通の村娘で、ごく普通の暮らしをするのだ。
 朝は水くみを、昼は山羊の世話をしながら布を編んで、夜になれば暖炉を家族と囲むのだ。
「ねえおかーたん、帝都行ってみたい。ね、行こう?」
 小脇に絵本を抱えて、妹のセレンディが母の服の裾を引っ張っている。
 未だにお母さんの発音がうまくできなくて『おかーたん』になる癖を、母は笑う。
「だぁめ、『おかーたん』は畑のお仕事があるんだから」
「えー。いきたいー」
 肩を左右に振りながらいやいやをするセレンディを、私はのんびりと床に座って眺めていた。
「帝都はねー、お姫様がいるんだよ。■■■■天空城でパーティーするの」
「あなた、見たことないじゃない」
 私が言ってやると、セレンディはぷくっと頬を膨らませた。
「ラトねーちゃんだって見たことないじゃないー」
 抗議の声を無視して、ころんと横になる。
 暖炉のぱちぱちという音と、家族の後ろにかかる影。
 それを眺めていると少しずつ気分がうとうととしてくるのだ。
 こちらへ振り返ったお父さんが、私に布をかけてくれる。
「■■■■■■――」
 名を呼ばれた、その声が、ひどくひどく懐かしい。
 薄目をあけると、お父さんの顔には影がかかっていた。
 でもわかる。りりしい、そして深い髭をたくわえた顔と優しげな表情。
 ちょっぴり傲慢で、不器用なくらいまっすぐで、けれど人を愛することを諦められなかったひと。
 けれど一度瞬きをすると、お父さんは別の姿になっていた。髑髏の顔と牛のような角。けれど眼窩の光は優しく揺れていて、私の頭をごつごつした手でゆっくりと撫でてくれる。
 ちょっぴり傲慢で、不器用なくらいまっすぐで、けれど魔物を愛することを諦められなかったひと。
 そしてもう一度瞬きをしたら、お父さんはまた別の姿に変わっていた。分厚い眼鏡とでこぼこした顎。ちょっぴり傲慢で、不器用なくらいまっすぐで、けれど人を愛することを諦められなかったひと。
 すっかり落ち着いた私の頭をお父さんは撫でて……そして。

 ――そして、目が覚めた。

「王様ぁ?」
 最初に呟いた言葉が、何故自分の口から出たのかわからない。夢を見ていた気がするけれど、どんな夢だったのか。
 ふああをあくびをして、『紅冠』のラトラナジュは背伸びをした。
 広がる花畑と、静かにそよぐ風。
「ここわぁ……」
「アースマーン、と今は呼ばれていますよ」
 後ろから声をかけられて、振り返る。そこにはアイル=リーシュが立っていた。
「どうやら、この島は落ちずに済んだようですね」
 アイルと名乗る精霊種(私の知らないうちに新しい種族が生まれたらしい)は花畑に腰を下ろし、私にこれまでのことを教えてくれた。
 このアーカーシュという島がはるか古代からあったこと。
 『神の矢』であるラトラナジュ『神の盾』であるセレンディのふたつの神霊を主力とした空中要塞であったこと。
 どちらの機能も十全に使われないまま放置され、当時魔王エゼルドギアと勇者アイオンの戦いの舞台となり損ねてしまったということ。
 そしてその時代からずっとずっと後の、現代。封印から目覚めた神翼獣ハイペリオンの導きによってローレット・イレギュラーズという冒険者ギルドがこの島の最深部まで手を伸ばしたこと。
 ある頑張り屋さんが魔種へと反転してしまったことで、ついに『ラトラナジュの火』という神霊の名を冠する兵器が使われてしまったこと。
 それによってノイスハウゼンという町が半壊してしまったこと。
 次なる標的を帝国へとさだめ進む彼らを止めるべく、ローレットと鉄帝国軍、そしてこの島の精霊達や正気を取り戻したゴーレムたちが力を合わせたのだということ。
「ラトラナジュ。あなたは、戦いのことや、古代のことを覚えていますか?」
「うーん……」
 ラトラナジュは目を瞑り、下唇に人差し指をあてて記憶を探ってみた。
 どれもぼんやりとして、まるで深い海の底に沈んでしまったみたいだ。
 唯一、自らが『王命』をうけてラトラナジュの火を発砲したつい最近の記憶だけが、はっきりと残っている。
 無理もないだろう。勇者と魔王が戦った古代。その更に昔となれば古代の古代だ。それくらい昔のことを覚えているなんて……と。
「ぜぇんぜん、ですねぇ~。あ、セレンディは大丈夫でしたかぁ?」
「ラトラナジュ!」
 離れた空からふわふわと飛んできた『黒冠』のセレンディが、こちらに手を振っている。
 その後ろからは、ユーフォニー(p3p010323)と沢山のドラネコたちが一緒にやってきていた。
「目が覚めたんですね。えっと、再起動(?)したのでしたっけ……」
 ラトラナジュとセレンディは神霊としての構成上、死という概念がない。例え倒されたとしても要素を再構築・再起動するのだ。前例でいえば豊穣郷の瑞神。最近では深緑にいた夜の王などもそうだ。性格が大きく変わったり、記憶の連続性が全くなかったりするケースもあるというが、どうやらラトラナジュは直近の記憶を保持したまま、性格もぼんやりとしたペースもそのままであるらしい。
「さすがは神霊……か」
 ルクト・ナード(p3p007354)が短くだけ呟いた。
 見れば、何人ものローレット・イレギュラーズたちが集まってきている。
 なかにはゴーレムと楽しそうに遊んでいる者もいた。
 ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)など、再建造したヒンメルゴーレムをを後ろにつれ、なんだか満足げに仲間達の様子を眺めている。
「大本のシステムが再起動されたからかしら。精霊たちによるエラーも大方復旧されたみたいね。まだちょっとエラーが残ってるみたいだけど」
 ジュリエットはこのアーカーシュを、大量の精霊を核とした巨大なゴーレムであると定義して考えていた。
 アーカーシュ到着時に観測されていた各種エレメンタル(精霊)の凶暴化や古代獣の跋扈は、いわば機能不全に陥ったアーカーシュが全体に向けてエラーアラートを出し続け、それによって攻撃的因子に染まってしまった精霊たちの暴走なのだと考えられている。実際、ラトラナジュはそのようにして暴走し、ローレットに倒されることで正気に戻ることができたのだから。
 ルクトが腕組みをしたまま話を切り出した。
「思い返してみれば、ローレットや鉄帝国が得たものは大きいな。
 ローレットは魔王城を。帝国は肥沃で凍らない土地を手に入れたわけだ」
「ギルドの拠点に魔王城は、ある意味過剰戦力だけれどねぇ」
 武器商人(p3p001107)がヒヒヒと笑っている。魔王城内にサヨイーツなる物資配達チームを作ったことで、帝国軍にその名が(親しみやすい形で)ポピュラーになりつつあるらしい。逆に言えばそうした存在が魔王城なる戦力(?)をローレットが有しても問題無いという感情をもたらしているようだが。
「城では、祝勝会が始まるからねえ。我(アタシ)たちは今からが忙しいよ」
「そもそもあのスペースはパーティーや休憩を目的に改築したんだ。本来の用途でしっかり使わないとな」
 フーガ・リリオ(p3p010595)が「早く来いよ」といいながら仲間達と共にワイバーン便に乗り込んでいく。彼らの作った部屋は瀕死の重傷を負った帝国軍兵士たちの命をとりとめ、今では彼らがくつろぐ場所として開かれている。もうじき勝利を祝したパーティー会場にかわるだろう。
「ひゃっほー! パーティーっす! セレンディさんもいきましょいきましょ!」
 ゴーレムたちとるんるんで遊んでいた暁 無黒(p3p009772)がぴょんぴょん跳ねながらワイバーン便へ飛び乗っていく。
 力の限りご馳走が振る舞われるらしく、必死にセレンディを守って戦った甲斐があった、というものだ。

 アイルに手を振られ、セレンディやラトラナジュたちがパーティー会場へと向かう。
 天之空・ミーナ(p3p005003)グリーフ・ロス(p3p008615)はあとに残り、アイルたちへと振り返る。
 『紅矢の守護者』と呼ばれるに至った二人が残ったことで、どうやらアイルたちは意図を察したらしい。
 ちらりと視線を向けられ、それまでお昼寝をしていたハイペリオン(p3n000211)がぱちりと目を開け、起き上がる。
「ラトラナジュの火の予備弾――『紅冠の矢』の事ですね?」
「話が早くて助かる。アレは撃てるのか?」
「……」
 グリーフがハッとした様子でミーナを見るが、視線を返され同意したように頷く。
「ペリカさんはわからないと言っていました。けれど軍がああして動いた以上、最大威力の『ラトラナジュの火』を、あれを使えば発射できるとみて間違いないのではないでしょうか」
 そう。彼女たちはジーク・エーデルガルト遺跡を探索する際に『紅冠の矢』というアイテムを発見し、それを二つも手にしたままパトリックの手から守ることに成功していた。
 ハイペリオンはすこしだけ悲しい顔をして、うつむく。
「結論から言えば……イエスです。
 私達は――いいえ、貴方がたローレットは、古代の超兵器とそれを撃つための鍵と弾を手に入れたのです。
 『ラトラナジュ』と『紅冠の矢』。そしてアーカーシュの兵器『ラン・カドゥール』を使えばそれが可能となるのです。
 けれど忘れないでください。武器は使う人の手によって如何様にも意味が変わるものです。
 それに、やっと自由になれたラトラナジュをまた戦いに引き戻すこともないでしょう。
 今は未だ、あの子には伏せておいてあげてください……」
 ハイペリオンのそばでいっしょにお昼寝をしていたジェック・アーロン(p3p004755)がいつの間にか目を覚まし、ぽつりと呟く。
「もう、戦いは終わったんだ。これからは、楽しいことをしなきゃね」
 彼女のそばには、脱いだガスマスクとライフルが置かれている。
 花がゆれ、風が草原を撫でていった。

※アーカーシュでの戦いが終わりました。ローレットは『ラトラナジュの火』を撃つための設備を手に入れました。

 ※鋼の咆哮(Stahl Gebrull)作戦が成功しました。イレギュラーズの勝利です!
 ※アーカーシュの高度が回復しました!

これまでの覇竜編深緑編シレンツィオ編

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