PandoraPartyProject

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二つの奈落

「それでおめおめと連中を逃したと?」
 ねちりとした湿度を隠さず、ヨアヒム・フォン・アーベントロートは帰還したヨル・ケイオスを詰問した。
 この程発動した『作戦』に対しての不手際に対しての言及である。
 酷薄で意地の悪い彼は捕まえた虫の手足をもぐように同じく性悪のヨルを問い詰めている。
「はい」
 一方で当のヨルの方はサッパリしたものだった。
「状況上、侯のオーダーの全てを叶える方法が全く思いつきませんでしたから。
 最悪を避け、最善を得るのもプロとして正しい在り方かと存じますよ」
 言外に「それが分からない侯ではないでしょう?」と言わんばかりの不遜がある。
 ヨアヒムが最も嫌ったであろう結末は面白くもなんともない幕切れ、即ちリーゼロッテの自爆である。
 彼が愛娘を追い詰めているのは曰く『愛情』が故であり、『可愛がっている』自認があるようだ。
 Dead or Aliveの手配をかけておいて――とは一般的な人間の感想だろう。
(変な所を信頼なさってますからねぇ、この方は)
 ヨルが思うに真相はこうだ。

 ――馬鹿めが。生死不問等と。
   不出来とはいえ、我がアーベントロートの係累を凡百如きが仕留められるものかよ。

 つまる所、この傲慢な侯爵はそう確信しているに過ぎない。
 それが完全な事実であるかどうかは別にして、彼の中では『そう』なのだ。
 この男の思考を正しく推し量ろうとするならば、そういった類の予測が山と必要なのは知れていた。
「それともお嬢様もろとも全員を始末した方がお好みでしたかね?」
 一歩も退かないヨルの物言いにヨアヒムは退屈そうに鼻を鳴らした。
「これだもの。侯、私を虐めたかっただけですよね」
「性悪めの殊勝な様等、そう見られるものではないのでなあ」
 互いに悪びれず、そんなやり取りをする。
 ヨアヒムは元より合理的にリーゼロッテを追い詰める理由はないのだ。
 なれば、彼の狙いはもっと非合理的で感情的なもの。
 要するに彼はリーゼロッテを中心にした舞台を最高に盛り上げる事に力を入れている。
 己の関与しない所で彼女に死なれるのは真っ平だろうし、イレギュラーズ等は恐らく『どうでも良い』。
 むしろ罠と知って飛び込んできたような連中なら、最終幕のキャストに相応しいとでも思っている――
(……って所でしょうよ。侯の事だから)
 ――と、ヨルは考えていた。
(それに私にも事情はあるんですよねぇ)
 実を言えば身内や係累を嗜虐したいという感情をヨルは完全に理解している。
 ヨアヒムの行為の源泉が好意であるとは言い切れないが、大好きだから傷付けたい、少なくともヨルの方はリーゼロッテやに対しての嘘偽り無い本音である。
 お嬢様と妹がターゲットとして被ったのを知った時等、出来すぎた偶然に神に祈った位だ。
(そこまで、揃えておいて、ねぇ?)
 折角ならばたっぷり演出して煮詰めて盛り上げなければ嘘だし、今回手折るのは『無い』。
 どうせ似たような事を考えている癖に、侯は本当に面倒くさい、とヨルは肩を竦めていた。
「それで、次はどうなさるので?」
「少し焦らしてやる、のはさて置いて……
 久方振りに手元に戻った娘である。積もる話でもしながら、大幕を準備する事としよう」
 ヨアヒムの言葉に「はい」と頷いたヨルは言葉を付け足した。
「ねぇ、侯」
「何だね?」
「何度考えても――私、侯の娘にだけは産まれたくないですね」
 ヨアヒムはこの一言に今日一番の笑顔を見せた。

アーベントロートでの政変に動きがあった模様です!
※『遠野儀寺』でクエストが発生しました。
 →乙姫の加護を得るため、儀式に挑みましょう!

これまでの覇竜編深緑編シレンツィオ編

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