PandoraPartyProject

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フリーパレットと子守歌

 歌が聞こえたのです
 やさしくて、やさしくて
 ぼくたちはまだ、ここにいていいって、教えてくれたのです
 けれど
 ここは、ぼくたちのいるべき場所ではないのです
 行くべき場所が
 行きたい場所が
 夢にみた場所が
 あるのです


 海洋王国からはるか東、豊穣郷との間に位置するフェデリア島。
 シレンツィオ・リゾートと総称されるこのエリアのおよそ北東部に、謎の幽霊船が現れた。
 大型の深怪魔に護られるようにして数隻で航行し続けるそれらの船には、これもまた人型の深怪魔が兵士のように乗り組んでいる。
 これだけならば、想定範囲外に深怪魔が現れたというだけで話はつくのだが。
 船からは、優しい子守歌が聞こえ続けていたのである。
 その歌の正体とは――。

「誰かいるのか!」
 調査すべく深怪魔たちを倒し、歌の発生源である船室の扉を蹴破るように開くジョージ・キングマン (p3p007332)
 解放された扉ごしに見えるのは、一人の美女。
 長い黒髪と黒いドレスは熱帯魚を思わせ、下半身は人魚の形態をとっていた。黒いひれがぱたりと濡れた床を叩き、美女はこちらを振り返る。
ノワール・ニュイ――! なぜここにいる!」
 驚きに声をあげるジョージに、そばにいたアンジュ・サルディーネ (p3p006960)がひょこっと顔をのぞかせる。
「知ってるひと?」
「あ、ああ……俺の社員だ。腕の良い情報屋兼商人として雇っていたんだが……このところ行方が分からなくなっていた。まさか……」
「こんな場所にいるなんて思わなかった?」
 ニュイは微笑み、長いかみを指ではらう。爪には星空のようなネイルアートが施され、手をかざす様は星が瞬くようだった。
 ほう、とため息をついて肩を落とす。怪物だらけの船に鍵のついた扉。閉じ込められていたとは思えないほどの落ち着きようである。
「そうね。私も、こんな場所に呼ばれるなんて思わなかったわ」
「呼ばれるだと? 一体誰に――」
 言葉を続けようとしたジョージは、口を開いたまま固まった。

「ぼくたちだよ」

 色鮮やかな泡があった。
 子供がきままに絵の具を混ぜ合わせたような、かき氷にすきなだけシロップをかけてしまったような。
 いくつもの『色』が混ざり合って拒み合って、『それ』はできていた。
 それを、なんと呼ぶべきなのだろうか。
 子供の、大人の、女の子の、老婆の、お兄さんの、お姉さんの、あるいは軍人の、ありとあらゆる声が混ざったような声で、『それ』は言った。
「たすけてくれて、ありがとう。皆は、ぼくたちを、連れて行ってくれる?」

フリーパレットと誰何の声

 所変わってダカヌ海域、海底遺跡。
 シレンツィオ代表執政官キャピテーヌ・P・ピラータはローレット・イレギュラーズたちと共に深怪魔を倒し、これらが食べてしまったという竜宮幣や遺跡に散らばっているらしい竜宮幣を拾い集めるという依頼をこなしていた。
 顔ぶれの充実もあって順調に仕事が進み、目的の竜宮幣も獲得できたことで帰路につこうとした、その時のこと。
 キャピテーヌは誰かの声を聞いたのだった。
 思わず振り返る彼女の目には、カラフルな色があった。

「こんにちは」
 子供の、大人の、女の子の、老婆の、お兄さんの、お姉さんの、軍人の、ありとあらゆる声が混ざったような声で、『それ』は言うと、光を集合させていく。
 やがて人のような、かろうじて人と呼べるような形をとると、子供のらくがきのような顔を作って首をかしげた。
「あなたは。だあれ? あなたは――『キャピテーヌ』」
 複合したいくつもの声の中から、たった一つだけがその言葉を……キャピテーヌの名前を述べた。
 突然のことに天之空・ミーナ(p3p005003)イリス・アトラクトス(p3p000883)が身構える。
「何故そいつが名前を知ってる!? 私らの会話を聞かれてたのか!?」
「わからない。けど、この子……」
 困惑するイリスたちとはかわって、キャピテーヌの表情は驚愕のそれであり……あるいは。
「――パパ?」

 キャピテーヌの目尻からじわりと涙があふれ、それは海中のなかへととけてゆく。
 それがわかるのだろうか。カラフルな『それ』はそっと手を伸ばしてキャピテーヌの目尻を拭った。
「ぼくたちを、しっているの? ぼくたちは、だあれ?」

フリーパレットと魂の行方

 シレンツィオ開拓予定エリア。高層ホテルが並び街としても発展したフェデリア島にも、未開拓の地域はいくつもある。
 そんななかの一つに海賊が棲み着いたことから、その討伐依頼を受けたローレットのキドー(p3p000244)たち。
 彼らは順調に洞窟を攻略し、貧しい洞窟暮らしをする海賊たちの生活の痕跡を目にしていた。
「海賊海乱鬼衆(かいらぎしゅう)っつーのか? 確か豊穣から出た海賊だったよな」
 テキパキと海賊を倒しながら洞窟を進むキドーの横には、裂(p3p009967)が刀をさげてあるいている。
「殆どは豊穣出身の漁師みてえだな。他の案件でもそうだったが……深怪魔のせいで漁ができずに失業しちまった連中が山ほど出てる。大体はシレンツィオの外で活動してるはずなんだが……誰かが手引きしたのかねえ」
 どこにでもこういうやつはいるもんだぜ、と裂は二つの意味で言った。
 職を失い犯罪に手を染める者。そうした者を利用して動かす者。海乱鬼衆は前者であり、この洞窟に棲み着くように促したのはおそらく後者だ。
「ここの開拓事業は……たしか」
「ええ。無番街の仮設労働組合を経由したものでしょう」
 ヌッと二人の間から顔を出したのはバルガル・ミフィスト(p3p007978)だった。
 ウワッと声をだして左右に飛び退く二人。
「急に出てくるんじゃねえ!」
「あと耳元で囁くんじゃねえ!」
 ひっぱたこうと腕をふるが、バルガルは柔軟にも身体をのけぞらせてそれを回避する。
 体中を黒く塗りたくり葉っぱや枝をくっつけて森林明細を施している彼を、できれば触りたくなかったので二人はそれ以上腕をふらない。

 暫くすると、彼らは洞窟の奥へとたどり着いた。
 この集団の頭目らしき者をかろうじて生かしたままとらえ、残るは噂のお宝を確かめるだけという所まできたのだが……。
「宝箱だな」
「宝箱ですねえ」
 キドーとバルガルが見つめているのはいかにもな宝箱であった。飾りのついた、丈夫のまあるい赤い箱。鍵は容易くこじ開けることができ、開いて見ると……。
「あ、どもっす」
 身体を丸くしたバニーさんが入っていた。
 確かにバニーさんなのはバニーさんなのだが……噂に聞くマール・ディーネーとはだいぶイメージの違う女である。
 耳(?)にはピアスをはめ、開いた口からは舌にもピアスが施されているのがわかる。
「いやあ、マジでぶち込まれたまんまだったらどうしようかと思ったっすよ」
 箱から起き上がり、うーんと背伸びをしてからあくびをするバニー。
「あ、自分クリメニアって言います。竜宮城って知ってます? そこから来たんすけど、なんかバチバチに捕まっちゃって」
 キドーとバルガルは顔を見合わせ、もう一度バニー……クリメニアの顔を見る。
「欲しいのはコレっすよね」
 クリメニアが箱の底からとりだしたのはカジノチップのような物体。竜宮幣である。
「玉匣が壊れちゃって、マールちゃん……あー女王の妹ちゃんなんすけど、その子が『なんとかする!』つって一人で行っちゃったから、あーしがコレヤベーなって思ってついて行こうとしたんすけど。マジだめっすね、あーしら竜宮城の外の事よくしらなかったから秒で迷ったっすわー」
 けらけらと笑うクリメニア。
 このまま箱をソッと閉じてしまってもいいが、聞かねばならないことがある。
「あんた、なんで閉じ込められてたんだ?」
「ですね。捕らえるなら拘束しておくだけでも良かったはずです」
「そりゃあ……」
 クリメニアが振り返ると、そこには色鮮やかな泡があった。
 子供がきままに絵の具を混ぜ合わせたような、かき氷にすきなだけシロップをかけてしまったような。
 いくつもの『色』が混ざり合って拒み合って、『それ』はできていた。
 それを、なんと呼ぶべきなのだろうか。
「この子とあーしが喋れるからじゃないっすかね」
 子供の、大人の、女の子の、老婆の、お兄さんの、お姉さんの、軍人の、ありとあらゆる声が混ざったような声で、『それ』は言った。
「ぼくたちが、見えるの? ぼくたちは、なぜここにいるの?」

――――――ToBeContinued

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