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シナリオ詳細

<潮騒のヴェンタータ>竜宮への光る路

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●竜宮への帰還……の前に
「こ、困ったー! 竜宮城に帰れないかも!」
 わぁ、と少女が、頭を抱えたのは、フェデリアの総督府に存在する会議室の一室だ。
 少女=マール・ディーネーは、竜宮城より来たという海種の少女だ。竜宮城は、昨今シレンツィオ・リゾート、特に『ダガヌ海域』にて跳梁跋扈する怪物、『深怪魔』を封じていた一族の住む、海底の都だという。
 マール・ディーネーが訪れたのは、我々シレンツィオ・リゾートの人々、そしてイレギュラーズ達が、その深怪魔の対処に追われていた、そんな時だ。マールは竜宮に伝わる神器、『玉匣(たまくしげ)』の修復のため、その力の欠片である『竜宮幣(ドラグチップ)』の回収と収拾を、イレギュラーズ達にお願いしたのである。
 かくして、目下の問題を解決するため、サマーフェスティバルに乗じた作戦(お祭り騒ぎ)が始まる中、マールは協力を取り付けたことの報告に、竜宮への帰還を決意。フェデリア総督府はその護衛として、あなた達イレギュラーズを招聘したわけだが――。
「ちょっとまて、嬢ちゃん。帰れねぇってのは、どういうことだ?」
 イレギュラーズである裂(p3p009967)がそういうのへ、うう、とマールが泣きそうな顔をする。
「えっと、今、竜宮城って深怪魔に攻撃されてるの。だから、隠れるために、メーア……乙姫が、結界をはったんだけど……」
「なるほど。同時に、お前からも隠れちまってる、って事なのか」
 ふぅむ、と裂は唸る。
「そうなの! こういう時のために、目印になる宝玉とか持ってくんだけど……急いでたから、忘れちゃって……」
 ぴえーん、と声をあげるマールに、仲間のイレギュラーズも困ったような顔を見せた。
「何か手はないのか? 竜宮城の大体の位置は分かるんだろう?」
「うん、そうなんだけど……周りには深怪魔が沢山いるから、やっぱり長い時間探すのは難しいと思う。
 うう、どうしよう……」
 参ったな、とイレギュラーズ達が嘆息する。如何に竜宮幣を集めたとしても、竜宮に到達できなければ意味はない。取りうる可能性としては、2パターン。どうにかして、竜宮につながる路を見つけ出すか、大規模な人員を投入し、深怪魔を蹴散らしながら、しらみつぶしに竜宮を探すか、だが――後者はどうにも、現実的ではあるまい。
「うーん……ああ、竜宮城ってのは、豊穣でも伝説っていうか、おとぎ話になるくらいのものだったろう?
 俺も話には聞いたことがあるもんだ」
 裂の言葉に、マールは頷いた。
「そうだね、海でおぼれたりしてたどり着いた人を、保護して送り返したりしたことも、あるから。そういうふうに、知られてる可能性、あるよ」
「じゃあ、その、帰ってきた奴が、竜宮とつながりのある……お宝、みたいな奴か? それを持って帰ってて、どっかに残されてたり……ってのはあるんじゃないのか?」
 裂の言葉に、マールが目を丸くした。そのあと、わぁ、と笑顔の花を咲かせて、
「それだー! 裂さんありがと! 天才!」
 思いっきり抱き着いて見せる。裂は、
「わかったわかった、抱き着くな! で、それをどうやって探す?」
 と、マールを引きはがしながら言うのへ、マールは、うん、と頷いた。
「力の痕跡を探せるよ! 竜宮幣の大体の場所が分かるのとおんなじりくつ!
 えーと、多分、あるとしたら豊穣の、海沿いの村の方だから……」
「成程、まずは豊穣の方に向かってみるか!」
 裂の言葉に、皆は頷いた――。

●その男、漁牙(いさりが)
「んーとね、この先の村に反応があるみたい」
 マールと裂を始めとしたイレギュラーズ一行は、海岸沿いの道を行く。古い漁村の多く続く地域に、到着したイレギュラーズは、マールのサーチ能力を頼りに、早速『竜宮の遺産』を探し始めた。と言っても、すんなり方向は定まり、あっさりと『目的地』には到着できたようだ。
「漁火村か」
 裂が険しい顔をする。
「気をつけろ。ここの連中は、漁師だったが――今は、海賊になってるはずだ」
 そういう。漁火村の漁師たちはは、かつてはダガヌあたりまで船を進める地元の漁師であったが、今は『海乱鬼衆・漁火水軍』として、海賊行為を行っていると聞いていた。
「え、海賊なの? もしかして、やばたん?」
 マールが目を丸くするのへ、
「おう、やばたん、って奴だぜ?」
 そう、男の声が響いた。現れたのは、老齢の男である。恐らく、歳は50代後半か。だが筋骨隆々のたくましい体は、歳を重ねてなお海と戦う男のそれであった。
「え、おじさん、海賊の人?」
 マールがびっくりした目で見るので、男は笑った。
「おうよ! 漁火水軍の頭領、漁牙(いさりが)たぁオレのことよ!
 まぁ、そう警戒すんな。海賊は陸じゃぁ何もしねぇよ。
 それより、救国の神使様方が、こんな村に何の用だ?」
 此方を品定めするように、漁牙はこちらを見る。マールは物おじしない様子で事情を告げた。深怪魔を封じたい事。竜宮に帰りたい事。その為に、力を貸してほしい事――。
「そう、おじさん、『べっ甲の宝玉』持ってるよね! あたしのセンサーにめっちゃ反応してるの!
 べっ甲の宝玉って、外にいる人が、もう一度竜宮に来る時の目印なんだ!」
 マールがそういうのへ、漁牙は頷く。
「おう、確かご先祖様が遺したって奴か。確かに肌身離さず持ってる。
 コイツがあれば、お嬢ちゃんが竜宮に帰れるのか。そんで、シレンツィオ・リゾートの連中が大助かりってわけだ!」
 ガハハ、と漁牙は笑った。その豪快な笑顔が、剣呑なそれへと変わるのに、僅かな時も必要としなかった。
「お断りだ。なんでオレたちが、シレンツィオ・リゾートの連中のために働かにゃならん?」
「えっ」
 マールが目を丸くする。
「だ、だめなの?」
 びっくりした様子で言うマールに、漁牙は頷いた。
「そもそもオレ達が海賊に堕ちたのも、シレンツィオ・リゾートに群がる豪商どもが、テメェの息のかかった大型漁船で漁場を荒らしたってのがある。もちろん、深怪魔も問題だが、それ以前から、シレンツィオ・リゾートの連中には食い扶持を減らされてるんだ」
「だが、それは――」
 裂が声をあげようとして、押し黙った。裂もまた、豊穣の漁村の出だ。シレンツィオ・リゾートの大量消費に、地元の漁師が圧されていることを、確かに理解していた。シレンツィオ・リゾートは、まぶしい光の下に誕生した都市である。だが、その光の何処かには、影が間違いなく存在するのだ。それは無番街という形でフェデリアにも存在したが、豊穣にも、確かな悪影響を及ぼしている。
「うー、うー……」
 マールが困ったように声をあげて、首をかしげた。それからしょぼん、と肩を落とすと。
「うん、そう、だよね。おじさん達も困ってるもんね……じゃあ、しょうがないのかな」
「はぁ?」
 と、漁牙が声をあげる。
「……諦めんのか?」
「だって、おじさん達のいう事もわかるよ。あたしだって、ムカつくやつの手伝いなんかしてやるもんかー、って思う事、あるもん。
 他のところ、探してみるよ。ありがとね、おじさん!」
 ニコッと笑うマールに、イレギュラーズの一人もケタケタと笑った。
「そうだな、そういう時もある」
「竜宮伝説ってのは、他にもあるはずだ。他の漁村を探すか」
 裂がそういうのへ、漁牙は頭をかいた。
「おいおいおいおい、それじゃあオレが心の狭いジジイみてぇじゃねぇか」
 はぁ、と漁牙が嘆息する。
「もっとこう……食いつくだろうよ。
 いいか? オレにだって建前ってのがある! 実際にシレンツィオのせいで廃業寸前の漁師(なかま)達の顔を立てて、声をあげる必要もあるし――何より協力するならば、こっちも意思を統一する必要があんだろうが!」
「じゃあ」
 マールが顔を輝かせた。
「手伝ってくれるの!?」
「まぁ、まて。さっきも言ったように、建前ってのがある」
 ふむ、と漁牙が唸った。
「オヌシら、オレたちと喧嘩しろ」
「戦え、という事か?」
 裂の言葉に、漁牙は頷く。
「応。それが建前って奴だ。つまり、オレ達が負けたら、何でもいう事を聞いてやるよ、ってな。
 オレの仲間なら、お嬢ちゃんにも喜んで協力するだろうがな。それでも、シレンツィオの連中の利益になるって、心にしこりが残るのは間違いない。それに、オレ達は一応『海乱鬼衆』の一員だ。他の海賊共に舐められたらしょうがねぇ。
 そしたら、言い訳できるだろ。『力づくでいう事を聞かされたからしょうがない。何せ相手は天下の神使様方だしな』ってな」
「へー、何か大変なんだね、海賊って」
 マールが言うのへ、裂が頷いた。
「ま、それでいいなら話がはやい。いいぞ、爺。年寄りの冷や水と行かないようにな?」
「よく言う!
 オレ達も、やる以上は全力だ。泣いて逃げかえるんじゃねぇぞ?」
 漁牙が笑ってそう返した。

 かくして、竜宮への光る路を求めて、海賊たちとの喧嘩が始まる――!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 竜宮城へ向かうため、まずは道しるべとなる『べっ甲の宝玉』を手に入れる必要があります。
 それを持って居た海賊、漁牙は、喧嘩をしよう、と言い出しますが――。

●成功条件
 すべての敵の無力化

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 竜宮城への帰還。その為には、道しるべとなるアイテムが必要でした。
 マールは慌てて飛び出してきたため、その道しるべとなるアイテムを紛失してしまっています。このままでは、竜宮に帰れない……という所で、イレギュラーズ達から出た提案は、『竜宮城は伝説に残る都市だ。もしかしたら、伝承の残る地に、遺物として残っているかもしれない』というものでした。
 マールの力で、力の残り香を探し出した一行は、豊穣の漁村、『漁火村』へとたどり着きます。そこは『海乱鬼衆・漁火水軍』が本拠地としている村であり、頭領の漁牙(いさりが)は、協力する条件として、自分たち漁火水軍と喧嘩をして勝つことを提案します。
 となれば、話は早いです。彼らと喧嘩して勝ち上がり、協力をとりつけましょう!
 作戦決行タイミングは日中。作戦エリアは、漁村の砂浜になります。さらさらとした砂は少し歩きづらいかもしれません。もちろん、海賊たる敵は、そんなものをものともせずに襲ってくるでしょう。

●エネミーデータ
 漁火水軍の頭領、漁牙 ×1
  海賊、漁火水軍の海賊頭です。豪快な人物で、海賊でありながら外道というわけではない、人の好い男ではあります。
  手にした長物は、刺突、打撃、斬撃をこなせるマルチなウエポン。『出血』系列や『足止』系列のBSを付与し、此方の動きを鈍らせます。
  パワーファイターであり、強烈な一撃を与えてきます。半面素早さ、特にEXAの面では低めです。動き出される前に完封してやるのがいいかもしれません。

 漁火水軍・海賊衆 ×30
  漁火水軍の海賊たちの中でも、特に戦闘に秀でているメンバーです。元々は漁師ですが、長い海賊家業で戦闘能力はそこそこ向上し、そして漁師であったが故の強い肉体を持ちます。
  モリのような長物や、大太刀のような近接装備を使用し、主に接近戦を仕掛けてくるでしょう。ひとりひとりは、勿論イレギュラーズ達には及びませんが、数は多いため、集中砲火を受けると辛いです。
  タンク役がうまく引き付けるか、或いは被弾覚悟で範囲攻撃で一気に仕留めるか……と言った所でしょうか。

●特殊ルール
 このシナリオでは、敵味方共に、戦闘不能時の『死亡判定』が発生しません。お互い、適切に手加減をしている、という形になります。

●味方NPC
 マール・ディーネー
  竜宮城から来た少女。戦闘能力はほとんどありませんが、回復と防御の魔術を使用できます。
  ちょっとしたバフと、ちょっとした回復援護くらいならできます。
  敵も積極的には狙ってきませんが、攻撃に巻き込まれることはあるので、後ろに下がらせるか、守ってあげるとよいでしょう。

●特殊ルール『竜宮の波紋』
 この海域では乙姫メーア・ディーネ―による竜宮の加護をうけ、水着姿のPCは戦闘力を向上させることができます。
 また防具に何をつけていても、イラストかプレイングで指定されていれば水着姿であると判定するものとします。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 このアイテムは使用することで『海洋・鉄帝・ラサ・豊穣』のうちいずれかに投票でき、その後も手元にアイテムが残ります。
 投票結果が集計された後は当シリーズ内で使える携行品アイテムとの引換券となります。
 ※期限内に投票されなかった場合でも同じくアイテム引換券となります

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <潮騒のヴェンタータ>竜宮への光る路完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月06日 22時12分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
セララ(p3p000273)
魔法騎士
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
裂(p3p009967)
大海を知るもの
ジン(p3p010382)
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ

●漁火村の大喧嘩
 さて、豊穣、漁火村――。
 漁火海軍と名乗る海賊たちの本拠地である。
 イレギュラーズ達が訪れたのは、此処に竜宮城への道しるべとなる『べっ甲の宝玉』を求めてのこと。
 べっ甲の宝玉は、漁火海軍の頭領である漁牙(いさりが)が持っていた宝だったが、様々な建前としがらみから、漁牙はイレギュラーズ達の協力要請を一度は拒否する。
 が。それも建前。いう事をきかせたかったら、オレたちと喧嘩をして勝て――と、漁牙は豪快に笑ったのである。
「ったく、海賊のくせに言うことがまどろっこしいんだよ。あの爺、相当な苦労人だな」
 『大海を知るもの』裂(p3p009967)が頭をかきつつ、そう言った。イレギュラーズたちは、漁牙から「作戦会議や準備もいるだろう」と、あばら家の一室を借り受けての準備中だ。
「で、なんだ。水着に近いと、乙姫の加護が受けられるって?」
 裂がそういうのへ、マールは頷いた。
「うん。豊穣まではほんとは届かないんだけど、今はあたしが中継基地になって、メーアの力を届けられるからね!」
 にっこりと笑うマールに、ほう、と『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は頷いた。
「では、私はこの水着を」
 そういう寛治の水着は、水着、水着……。
「うう、どうしてだろう、よくわからない……メガネしか印象に残らない……」
 くらくらとした様子のマールに、寛治は「ふふ」と笑ってみせた。
「おやおや、しっかりと着ていますよ――」
「あまりいじめてやるな」
 『黒き葬牙』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が苦笑する。
「しかし、軽装で戦うのも慣れないものがいるかもしれないな」
「うん。だから、えーと。おまけみたいなものだと思って! あたしが出来る、一生懸命の応援、ってやつ!」
「おいおい、マールさんの応援なら、しっかり受けてやりたいもんだな?」
 『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)が笑う。
「しかし、忘れ物はダメだぜ? 今回は何とかなりそうだけど。
 マールさんはあれだな。慌てん坊のウサギさんってぇとこかねぇ。逸る気持ちはよーくわかるけどよ」
「そうね。この間も、子犬に竜宮幣取られて困ってたじゃない。
 結構抜けてるって言うかなんていうか……」
 ふぅ、と嘆息する『煉獄の剣』朱華(p3p010458)に、マールが恥ずかしがるように声をあげた。
「あ、あれは! うん! 子犬と遊んでただけだし!」
「それにしては、すっごく困ってたじゃない」
 ふふ、と笑う朱華に、マールがわたわたとしてみせた。
「そうだけど! そうじゃないのー!」
「まぁ、それ位にしておこう」
 そう言って苦笑するのは、『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。
「さて、マール。これからは戦いになる。向こうは此方の命まではとらないだろうが、怪我は避けられないだろう」
 ラダがそういうのへ、マールはこくこくと頷く。
「だから、戦闘中は私の後ろに隠れていてほしい。必ず守る。約束するよ」
「うん……でも、ラダさんは大丈夫? あの、あたし、結構足速いから、逃げ回れたりもするかも!」
 心配げにマールが尋ねる。それは虚勢だろうか。ラダは頷くと、
「いや、下手に動かれる方が危ないからね。それに、護衛はよくやっているから、そんなに心配しないでくれ。君は、私を信用できないか?」
「う、ううん!? そうじゃないよ!」
 ぷるぷると首を振るマールに、ラダが笑いかける。
「なら、信じて欲しい。戦いに関しては、私達に一日の長がある。あまり誇らしいものではないが、こう見えてもプロだからね」
「ま、そういう事だ」
 頭をかきつつ、『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が告げる。
「ラダも言っていた通り、血なまぐさい事にはならない。だからまぁ、少しばかり騒がしいが、おとなしくしていてくれ。
 もちろん、応援したいって言うなら、止めはしないけどな」
「うん! あたしも頑張るね!」
 よーし、と声をあげて、ぐっと拳を握るマールに、アルヴァは苦笑する。
「……ほんと、おとなしくはしといてくれよ? なんか危なっかしいからなぁ、アンタ」
「ふふふ、確かにそうだね」
 楽しげに笑う『魔法騎士』セララ(p3p000273)に、マールはむむ、と唸った。
「話が戻りそう……」
「あはは、じゃあこの辺でやめておこっか。
 あ、でもマール、キミに相談があるんだよね」
 と、セララが言った。マールが頷くと、セララが続ける。
「勝負に勝ったとして……もちろん絶対勝つんだけど、その後。
 漁牙おじさんにとって、宝玉はお家の宝物なんだよね?
 それをただ貰うとか借りるだけっていうのも、良くないんじゃないかな、って」
「むむ……確かに」
「だから、助けてもらったお礼とか、した方がいいと思うんだ!
 今は無理でも、竜宮城に帰れたら、何か……そうだね、漁の成果が良くなる魔法のアーティファクトみたいなの、貸してあげられないかなぁ」
「漁の成果?」
 マールが首をかしげる。
「うん! 此処の漁師さん達は、漁獲量が減ったせいで、漁師を続けられなくなっちゃったんだよね。だから、それを補って上げられれば、海賊なんてやめて、また漁師に戻れるんじゃないかなぁ」
 セララの言葉に、マールが、あ、と声をあげる。
「そっか……! 確かにそうだね! セララさん、かしこい!」
 マールの顔に満面の笑顔が咲いた。
「じゃあ、竜宮に戻ったら皆に相談してみるね。乙姫の加護があれば、何とかなるかも!」
「なるほど。そうすれば、もう海賊のメンツだの建前だのを気にする必要もなくなるな」
 そう言ったのは、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)だ。
「難儀な連中だが……もっとも、人間生きていれば手を貸すのに理由や言い訳が必要だという事は往々にしてあるから、気持ちはわかるが。
 今回は殺しあいをしなくて済むし、後の解決策もあるって言うなら、これほど気が楽なことも無い」
「そうだな。実に気持ちの良い御仁だ。このまま海賊を続けさせてしまうのも忍びない」
 そう言って頷くのは、ジン(p3p010382)だ。
「シレンツィオでは、海乱鬼衆は悪辣なもの達で、実際悪党も居るのだろうが……漁牙さんはそうではないのだろうな。そう言った悪漢と付き合い続けるのも、彼らには不利益となるだろうから」
「とはいえ、シレンツィオが栄えたが故に、さした影か……」
 ラダがふむ、と唸る。
「此処だけに悪影響があるとも思えないな。根本的な解決をしたい所だが……」
「それは、今考えるべきことではありませんね」
 寛治が言う。
「もちろん、ゆくゆくは考える必要があるでしょう。ですが、今は目の前の戦いに注力したい所です」
「それはもちろんだ」
 裂が頷いた。
「ま、今はとにかく、喧嘩の時間ってな。
 あの爺に、一つぶち込んでやるとするか」
 その言葉に、仲間達は頷いた。すっかりと準備を整えたイレギュラーズ達が、あばら家を後にする。砂浜に近い所にぽつぽつとたてられた建物が、村の些かのさびれ具合を感じさせる。ざ、ざ、と脚を捉えようとする砂は、まるで村の主に協力するかのようでもある。
 あちこちから感じる視線は、村の女子供たちのものだろう。もちろん、敵意はない。
「まぁた、男衆は馬鹿な事して。素直に手を貸してやりゃあいいのにね」
 気の強そうな女が、笑いながらそう言った。
「遠慮はいらんよ、神使さまがた! 一つ拳固をくれてやんな!」
 わぁわぁと、村人たちが声をあげる。
「……敵視されるのも嫌だが、妙に応援されるのも、変な気分だな」
 世界がいうのへ、ニコラスが苦笑した。
「確かに」
 しばし進むと、30人ほどの屈強な男たちが砂浜で待ち構えている。手には大太刀やモリのようなもの、薙刀のようなものを持っている。漁火海軍の海賊たちだ。
「一応刃はつぶれてる奴だ。練習用だよ」
 海賊の一人がそういうのへ、ベネディクトが頭を下げた。
「お心遣い、感謝する。此方も、刃をたてぬことを誓おう。
 良い鍛え方をしているな。見れば解る──俺はベネディクトだ。海乱鬼衆の、宜しく頼む」
「異国のお侍さんか。礼儀正しいねぇ。こっちも背筋がピンとしちまぁ」
 好い笑顔で、海賊が言う。やはり、明確な敵意や悪意はないものだ。とは言え、シレンツィオに対する複雑な負の感情を持ち合わせていないわけではないだろう。それを感じさせないのであったから、なるほど、いい男達である。
「おう、来たな!」
 そんな海賊衆の中から、ひときわガタイのよい男が現れた。老境に差し掛かれど、鍛えぬかれた身体は若者には劣るまい。漁火海軍が頭領、漁牙である。
「きたぜ、爺」
 裂がいうのへ、漁牙は笑った。
「おう。そう言えばオヌシ、深覗の所の奴じゃあないか?
 縁があるわけでもないが、近海の漁家の名前くらいは知ってるぞ」
 確かに、裂は豊穣の漁村の出である。む、と裂は眉をひそめた。
「ああ、ま、そうだ。別に隠してるわけでもないしな」
 カカカ、と漁牙が笑う。
「なるほどな! 同業が神使様たぁ、妙な縁だな。
 とは言え、手加減はせんぞ? 手抜きなんぞはどうせ見破られる。
 こちらにも、建前があるからな」
 漁牙が、周囲の海賊たちに目配せをする。すると、海賊たちが各々武器を構えた。我流のようだが、中々堂に入った動きである。それなりに――いや、厳しい海で生きてきた男たちに対して、それなりに、とは失礼か。本職ではなくとも、戦闘面では充分と言った所。
「ようは勝ちゃあいいんだろ?
 端からシバき倒してやるから地面を舐めたいやつからかかってきなぁ!!!」
 にぃ、と裂がわらう。
「よーし! イレギュラーズはめちゃめちゃ強くて勝ち目が無いって事を、皆に分かって貰わないとね!」
 セララがくるり、と大剣を回してから構える。
「魔法騎士セララ! そして神使一行のちから、見せてあげる!」
 その言葉を合図にしたように、海賊たちもまた負けじと時の声をあげた。果たしてその怒号の中、大喧嘩の幕はあがった!

●パイレーツ・オブ・カムイグラ
「わわ、すごい迫力だ! みんな、気をつけてね!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねるマールを背に、ラダが頷く。
「ああ。約束通り、私達を信じて動かないでくれ」
「いやはや何とも、実に分かりやすい"交渉”ですね。
 裏を気にしなくて良い仕事ですから、のびのびとやらせていただきましょう」
 寛治がそのメガネをきらりと光らせる。海千山千の手管は、今回は必要なさそうだ。必要なのはむしろ、相手に対する力と心意気を見せる所だろう。
「では、ついてきてくださいね、皆様。
 先手を取りましょう」
 寛治の言葉に、仲間達は動き出す! 寛治の瞳が突撃の色を見出す。素早く。しかし無防備に。棒立ちのそれは、敢えて己の隙をさらけ出し、攻撃をさそうという対応の型である。
「兄ちゃんよ、そんな様子じゃやられちまうぜ!」
 海賊たちは、果たしてその誘いに乗った。突き崩すなら、寛治からだ、と『思わされた』のだ。一流のゲームメイカーは敵の思考すら己の動きで操る。つまりこれは、そういう事である。
「とは言え。怒涛とはこのことですか。確かに受けきるには難しい――」
 無論、自分一人で受けきれるなどとは寛治も思ってはいない。こちらには十の勇士がいるのだ。手を借りない理由などはない。
「うおらああ!」
 海賊が雄叫びと共に、大刀を振り下ろす! 刃はつぶれたとはいえ、鈍器に違いはない。直撃すれば、相応の打撃は受けるだろう――だが、その前に立ちはだかったのは、世界である。
「悪いな」
 茨の紋様が、その魔眼にうかぶ。世界はマナを操作、己の腕に瞬間的に風の魔力を増幅させ、さながら風のシールドを展開し、その大刀を受け止める! ずどん、と響く音は、海賊の膂力を現している。押されつつも、世界はしかし、その一撃を受け止めて見せた!
「なんだと!?」
 驚愕する海賊を、ニコラスの大剣、その腹が殴りつけた! どむ、と鈍い音を立てて体にめり込んだ大剣が、海賊の意識を奪い取る。
「おっと、アンタら視界が狭まってるんじゃないのか!?」
 ニコラスが挑発するようにそういう。実際、寛治のヘイトコントロールと世界の盾によって、海賊たちの攻撃は大きく誘導されている。その誘導から外れたものを主として叩いていけば、そう遠くないうちに数的優位は大きく減じられるはずだ。
「その分、二人には負担のかかる戦法だが……」
「問題ありませんよ。ええ、こう言ったネゴシエーションにも慣れておりますので」
「だ、そうだ。けど、痛いのは痛いんで、速めに解決頼む!」
 寛治、世界が仲間達へと告げる。ベネディクトは頷くと、その槍を高らかに構え、跳躍!
「集中的に狙われてはこちらもひとたまりもないだろうが、そうさせない様に動く事は出来ない訳ではない……!」
 言葉と共に、その槍を力強く振り下ろす! 放たれた槍はさながら神の雷霆のごとく大地にを震わせ、付近に強烈な衝撃を叩きつけた! 衝撃に、海賊たちが吹き飛ばされる!
「な、なんつうパワーだ!」
 海賊たちに驚愕の声が上がる中、
「喧嘩よ、喧嘩っ!
 さぁ、派手に行くわよっ!」
 言葉通りに炎の剣をド派手に掲げ、朱華が炎を振るった。強烈な炎はさながら火炎竜が首を振り払うがごとく、奔流を巻き起こし、炎撃が海賊の意識を身体ごと吹き飛ばした!
「おいおい、うちのカカアよりおっかねぇや!」
 海賊が肝を冷やした様子で叫ぶ。
「なんか、褒められてる感じがしないっ!」
 むっとしつつ、朱華が再度の斬撃。振るわれるは再びの炎。横なぎの一閃が、海賊を切り吹き飛ばす!
「おいおい、一応こっちから喧嘩しかけたんだぜ?」
 漁牙が叫んだ。
「もうちっと気張ろうぜ! これじゃあオレたちカッコ悪いだけじゃねぇか!」
 囃し立てるような言葉に、海賊たちが応、と叫ぶ。
「けどよぉ、やっぱりとんでもねぇゼ! あっちの銃使いも――」
 そう声をあげた刹那、ラダの放った狙撃弾が、海賊の持っていた薙刀を撃ち抜いた。手の中真ん中から砕けた薙刀が、空しく地に落下する。
「見ての通りだ!」
「かーっ、もうちっと気合みせろよ! 海の男だろうが!」
「ふ、なら言い返しをさせてもらいたいな」
 ラダが笑う。
「こっちは砂漠の人間だ。砂嵐は、荒波に負けずとも劣らないよ」
「はは、こいつは一本取られたぜ、頭領!」
 笑いながら、一人の海賊が、ラダへと接近する。
「ラダさん! 来たよ! 気をつけて!」
 マールが言うのへ、ラダは頷く。
「ああ、耳をふさいでおくれ。ウサギの方じゃなく、自分の耳だぞ!」
 ラダは素早く銃弾を入れ替えると、駆け寄る海賊の足元に向ってトリガを引いた。放たれた銃弾は着弾と同時に破裂し、強烈な音を響かせる! 音響を打撃とした音響弾だ!
「ぐえ、何だこの音!?」
「うう、耳がキーンってなるね!」
 きゃー、と耳と目をふさぐマール。ラダが目くばせすると、ジンが頷き、飛び出した。
「一刀のもとに、落とさせてもらう!」
 ジンの言葉と共に、その青龍刀の背を振り下ろす。さながら瀑布が落ちるがごとく! 邪悪を打ち払う破邪の瀑布は、この時ラダに迫ろうとしていた海賊の身体を打ち、そのまま意識を狩りとった。
「何人たりとも、彼女らには近づけないものと思え」
「やるな! おい、あんまりメガネの兄ちゃんに固執すんな――」
 叫ぶ漁牙。その足下に銃弾が突き刺さる。
「よぉ、オッサン。漁師が海賊って、ミイラ取りが怪物になってんじゃん」
 笑うようにそういう、アルヴァ。(ま、俺も騎士から義賊だ。人の事は言えねぇけどさ)と胸中でぼやきつつ、狙撃銃のトリガをひく。放たれる銃弾を、漁牙は手にした武器ではじき返す。
「あー、あれだろ? 深淵を覗くとき、深淵を覗いてるんだみてーなな! 昔流れてきた本で読んだぜ! わけがわからんかったけどな!」
 ぴゅい、と漁牙が指笛を鳴らす。突撃・指令。海賊たちが群れなして、アルヴァを狙う。アルヴァは牽制射撃を放ちつつ、低空を飛行して移動。
「それじゃ覗いてるだけじゃねぇか!
 アンタらさ、海賊やってんの勿体なくね?
 つか、女の子にお願いされて建前とか言っちゃぁ向いてねーじゃん、海賊!」
 応射するアルヴァの銃弾が、海賊たちを撃ち抜く。スタン弾のそれが腹にめり込み、海賊たちが気絶した。
「ヘビー級のボクサーに殴られるよりはマシなはずだが、痛かったら謝るよ!」
「じゃあ、うちのヨメの張り手の方が痛ぇわ!」
 海賊が応答しつつ、手にした小刀を投げつける。アルヴァは跳躍。一方、入れ替わる様に裂が突撃。大業物の太刀、その巨大な刃の背で海賊を殴りつける!
「ま、建前とは言え、喧嘩を仕掛けてきたんだろ?
 殴れば殴り返されるのは当たり前ってな! それくらいの覚悟はあるんだろう!?」
 裂の振るう斬刀の背が、海賊を殴り飛ばした。意識を失った海賊を積み上げるように殴り飛ばしつつ、
「さっきは建前って言ってたけどなぁ、手を抜いた喧嘩なんざ面白くもなんともねぇ!
 ここは派手にブチかまそうじゃねぇか! 漁牙の爺さんよぉ!!!」
「おう! だが、もう一人いるな!?」
 迫る裂を警戒しつつ、漁牙はその武器を振るいあげた。同時、上空から叩きつけるセララの刃が、漁牙の武器と激しい衝突音を鳴り響かせる!
「水着騎士セララ、マリンフォームで参上!」
「漁火海軍、漁牙だ!」
 ぶおん、と振るった武器が、セララを吹き飛ばす。セララが空中でくるりと回転、裂に向かって飛ぶ。意図を察した裂が、斬刀の背を振るった。同時、セララは斬刀の背に着地、裂の斬撃の勢いを乗せて、さらに勢い良く跳躍!
「行きな、セララ!」
「合体攻撃だーっ!」
 セララが弾丸の如き勢いで跳躍! 振り抜く刃を、漁牙は何とか受け止め――しかし衝撃が、身体を駆け抜ける。
「ははっ! やるなぁ! 孫に欲しいくらいだ!」
「のんびり釣りでスローライフ? うーん、気になるけど、やめておくね!」
 セララが刃を振り下ろすのを、漁牙は武器で振り払う。入れ替わりに飛び込んで来た裂の攻撃。
「若い奴は漁業なんて興味ねぇよなぁ……」
 何処かしみじみという裂。が、振り下ろした斬撃は苛烈。ぬぅ、と呻きつつ、漁牙がそれを受け止めた。
「あー、まぁなぁ。ほしいよなぁ、若いの」
 にやり、と笑い漁牙が、気合の声と共に、裂とセララを振り払う。距離をとり、仕切り直した三人。にらみ合う目が、どこか楽しげに交差していた。

●パイレーツ・ショウダウン
 イレギュラーズと海賊達の「喧嘩」は続いた。気づけば村の男達や女子供まで見物に訪れ、やれ「どっちが勝て」だの、「うちの亭主にガツンとやってやれ」だの、好き放題の歓声を上げている。気づいたら、マールも大声で、「がんばれー!」等と叫びながら、支援術式を空へと解き放っていた。潮騒のかおりは、マールの支援術式だ。大いなる海を思わせる、優しい水滴の支援を受けながら、イレギュラーズ達は海賊たちの殆どを平らげていた。
「やれやれ、とは言え、そろそろ限界でしょうか?」
 寛治がいう。寛治そのものはまだまだ好調であったが、流石に庇い続けた世界、そしてジンの疲労は大きい。
「……ぜぇ、はぁ。誰だ気が楽だなんてほざいた奴。普通に死ぬ……」
 少し前の自分を呪いながら、世界が言う。
「まだ倒れるほどではないが……確かに、少々傷は深いか」
 ジンも頷く。もちろん、傷ついているのは二人だけではない。多くの敵を相手取っていたベネディクトや朱華、漁牙を抑えていた裂やセララなど、目に見えて消耗が大きいものも確かに居た。
「けど、向こうもいっぱいいっぱいのはずだ」
 ニコラスが言う。果たしてその通りだろう。海賊たちはその多くが既に白旗をあげて見物に回っていたし、
「ほらほら、さっきまでの勢いはどうしたの!?」
 朱華の言葉通り、攻撃の勢いも、敵の損傷が増えるにつれて落ちているのは事実だ。
 朱華の炎の斬撃は未だ衰えず、苛烈に海賊を吹っ飛ばした。
「まてまて、俺は降参! すげぇ嬢ちゃんだなぁ」
 両手をあげて退散する海賊を、ふん、と鼻を鳴らして見送る朱華。
「となれば、残りは容易く掃討できるだろう」
 ラダが言う。その後ろでは、マールが目を丸くしていた。
「すごい、本当にみんな、やっつけちゃった……」
「まだ、漁牙が残っているけどな」
 アルヴァが言う。
「むしろあっちが本番か……ラダ、残りのメンバーで海賊たちの相当を頼む。
 ベネディクト、漁牙を落とすぞ、付き合ってくれ」
「ああ、了解した」
 アルヴァの言葉に、ベネディクトが頷く。ラダも静かに頷いて見せた。
「世界、ジン、無理はするなよ。寛治もな」
「ええ、もちろんです」
「こっちが死ぬ前に、終わらせてくれよ」
 寛治がメガネを輝かせ、世界がひらひらと手を振り、ジンは静かに頷く。アルヴァとベネディクトは頷くと、喧嘩の終わりに向けて走り出す。
 漁牙とセララ、裂の戦いは続いている。一進一退の状況。此処に増援が入り込めば、戦局は大きく傾く!
「援護する! ベネディクト、裂、セララ! 一気に片をつけろ!」
「おっけー!」
 セララが頷く。漁牙は笑ってみせた。
「おう、まさか仲間達が全員やられちまうとはな……!」
「嘆くことはない。彼らは間違いなく強かった。
 マールには悪いが、途中から趣旨を失念していたよ」
 ふ、とベネディクトが笑う。
「我が領の兵達とも何時か調練を共にして欲しいくらいだ」
「ありがたい言葉だな! けど、騎士様の兵士と、俺ら海賊じゃあ、やり方が違いそうだけどな!」
 豪快に笑う漁牙、その武器を激しく振るうと、真空刃が生み出され、飛ぶ斬撃としてイレギュラーズ達を狙う。裂は斬刀でそれを弾き飛ばすと、
「行くぜ、爺!」
 雄叫びと共に駆けだす。アルヴァが狙撃銃を構え、発砲! 放たれるスタン弾を、漁牙は手にした武器で打ち落とす――が、そこにスキが生まれる。裂が接近し、斬刀を振り下ろす! ちっ、と舌打ち一つ、漁牙は振るったばかりの武器を、無理ある体制のまま振り上げた。裂の斬刀を受け止め、打ち上げるように振り払う、漁牙! だが、そこに上空からセララのセララ・アタックがせまる!
「ひっさーっ! ギガ・セララ・ブレイクだーっ!」
 その一撃は、言葉通りに間違いなく必殺の一撃! 振り下ろされるわずかな時間で、漁牙の脳裏に浮かんだのは二つの選択肢。武器を用いて、受け止める。武器を捨てて、跳躍して退避を狙う。
 前者は論外。既に振り上げた状態の武器を、これ以上動かすことはできないし、この状態で以って受け止めるなどは漁牙の膂力を以てしても困難。
 狙うなら後者。振り上げた状態で、力のベクトルは上方へと向かっている。なれば、この勢いに乗ったまま、跳躍して回避すべし!
「く、おっ!」
 叫びと共に、漁牙は跳んだ。すれ違うセララの雷撃が、漁牙の身体を走り、激痛をもたらす。が、止めには届かない。直撃ではない――立て直せる、態勢を。漁牙が、着地する。ずざ、と砂浜を滑る。
 飛び出す! 落とした武器を拾い、反撃に転ずる! ――だが、それを制したのは、一筋の槍の穂先。
 ベネディクトのそれが、漁牙の首筋に、突きつけられていた。
「チェックメイト。いや、王手、という方が通りがいいか」
 ベネディクトがそういうのへ、漁牙は両手をあげた。
「参った! ここまでだ!」
 そう言った刹那――あたりから、歓声が響いた。
「おいおい、やっちまったぞ! 流石神使様がただな!」
「あの騎士様、いいねぇ! 私ももうちょっと若かったら逃がさないんだけどねぇ」
「メガネの人も、それを守っていた二人もいいじゃない! 声かけてみようかしら」
「それだったら、銃使ってた奴らも大したもんだぜ! あの集中力は漁師に向いてるねぇ!」
 やんやと響く感性に、ニコラスは苦笑する。
「なんだか、ノリのいい連中だなぁ」
「おう、なんてったって、オレたちの村の仲間だからな。海の男も女も、ノリがよくなきゃ波に乗れねぇのさ」
 ガハハ、と漁牙が笑う。やはり、海賊を名乗っていても――どこまでも、彼らは漁師であって、海に生きる者たちのなのだろう。それがどうにか、心地よい。
「うー、すごい! みんなすごいよー!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねるマールが、感極まった様子で、イレギュラーズ達に次々と抱き着いていく。
「えへへ、感動しちゃった。皆なら、きっと竜宮も助けられるよね……!」
「もちろんですとも。お任せあれ、と言わせていただきましょう」
 寛治が微笑って見せた。
「それより、怪我した奴は出てきてくれ。治療をするよ」
 世界がそういうのへ、多少のけがをしていただろう海賊たちが手をあげる。
「そういえば、アンタら、負けたら何でもする、って言ったよな」
 アルヴァがそういう。
「じゃ、海賊廃業してくれ。そこのお嬢ちゃんは竜宮の偉い人でな。しばらくおつきの護衛役でもやっててくれよ。アンタらなら、深怪魔だって何とかなるだろ」
「あ、そうだね。地上のお金はないけど、竜宮迄帰ったら、あたしが出せる範囲でお返しするから!」
 マールが言うのへ、漁牙がふむ、と唸った。
「ま、そう言っちまったのはオレだからなぁ。いいぜ、しばらく嬢ちゃんたちに従うとするか」
 ガハハ、と笑う漁牙。
「どうだい、今回の喧嘩は楽しかったかい?」
 ニコラスがマールに尋ねるのへ、マールはこくこくと頷いた。
「うん! 皆カッコよかったよ! ニコラスさんも、海賊さん達をたくさんやっつけて……えへへ、頼りになるなぁっておもった!」
 満開の花のような笑顔を受けるマールに、ニコラスも悪い気はしないだろう。
「そうそう、漁獲量の話だ」
 ラダが声をあげる。
「一応、調査してもらえるように、シレンツィオの総督府に声をかけた方がいいのかもしれないな。向こうとて、他の漁師達をいっそうしようとは思わないだろう」
「そうだね。漁火村の人達は、竜宮の加護で何とかできたとしても、他にそういう漁師さん達がいたら大変だからね」
 セララが頷く。シレンツィオの急拡大の影には、何らかのひずみも存在するのだろう。
「この後は共に飯でもどうだ? 酒でも良い、時間が許されぬなら仕方ないが──」
 ベネディクトが言うのへ、マールが頷いた。
「ごはん? あたしもおなかすいた! いったん戻って、集まった竜宮幣を確認する時間も必要だし、ここで一日休んでいっても大丈夫だと思うよ!」
「おお、オヌシらと酒が酌み交わせるなら、オレたちもありがたい申し出よ!
 シレンツィオのような豪勢な飯は出んが、秘蔵の酒と魚を用意しようか!」
「わだかまりをなくすためにも、お互いの状況を話し合う場は必要だろうな」
 ジンが真面目そうに言う。
「ふふ、いいんじゃない? 豊穣の料理って言うのにも、興味あるわ!」
 朱華が笑う。
「じゃあ、親交を深めるために、一杯と行くか」
 裂が笑うのへ、海賊たち、そして村の人々も、歓声をあげて返した。

 その日は、夜が更けるまで、賑やかな酒宴が続いたという。

成否

成功

MVP

回言 世界(p3p007315)
狂言回し

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、竜宮への道しるべを獲得。
 近いうちに、竜宮に向かう事となるでしょう……!

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