PandoraPartyProject

ギルドスレッド

廃墟

【RP】贄神の果物狩り初体験

 農園の一角。
 目の前には、それはもう元気よく走り抜けて行く果物の群れ。
 ……そう、走り抜けて行く、果物の、群れ。

「……?……動いた」

 果物って、動くものだっただろうか。もしかして、自分が知らないだけで動くのが当たり前なのだろうか。
 目の前の状況をまじまじと見つめる、左右異色の瞳。
 これがこの世界では普通なのかもしれない。なるほど、異なる世界というものは驚きに満ちている。
 しゃがみこんで長々と観察していたせいで、3度目までは通過を見逃した。あんまり見事な走りで、つい。

 そうして、4度目。

 目の前を横切った果物をわしっと無造作に掴んで、手にしていた籠に入れる。
 籠の中から出ようとする活きの良いそれを片手で押さえつつ、ことりと小首を傾げる。

「……どうやって食べよう」

 今度はそれが大きな問題だった。


・【爽秋の一時】みんなで楽しく? 果物狩り
 https://rev1.reversion.jp/spevent/result/18/25
 これをもとにしています
・入室可能数:1名
・どなたでも歓迎
・上記イベシナに参加した方でも、していない方でも歓迎
・その他、臨機応変

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「~♪ なんだかとってもいい香り、です?」

 文字通り弾むみたいに。
 鼻歌交じりに。
 お散歩気分の子兎は、鼻をひくひくと動かしてパッと顔を輝かせる。
 甘い果物の香り。大好きな香り。
 その方向へふと、目を遣れば。

「ふええ…、えっと…」
 走っていく果物の姿。くしくし、軽く目をこすって。
 もう一度よくよく見てみたけれど、やっぱり走っている。
 それを籠に入れている人影にも、気がついて。
 ふむぅ、と小さく吐息を漏らしてから、疑問を口にしてみる。

「あのあの、それって食べられるんですか?」
 掌を確かに押し返してくる感触。
 掌の下、籠の中には、さっき捕まえた果物しかない訳で。
 ……やっぱり、何かおかしくないだろうか、この果物。もう、扱いがもぎ取るとか採集するじゃなく、捕まえた、なのだが。
 次の果物に手を伸ばすべきだろうか。一応これ、食料調達のつもりだったのだけれど、どうにも戸惑いが大きい。

 悩むこと、しばらく。

 不意に幼げな声をかけられると振り返り──その先に誰もいなかったことに、あれ、と瞳を瞬いて、その視線がずっと下を向く。
 ……なんだろう、これ。
 ふわふわした白い、リボンのたくさんついた服の、うさぎ、だろうか。
 思わずまじまじと見つめてしまってから、やや遅れて、問われたことを思い出したように。

「……一応、この農園の物に毒はない、って聞いた」

 そういう意味では食べられるらしい。
 なんとも曖昧な返答をしつつ、また走って来た果物をわしっと掴んだ。
「どくはない……」

 言葉を繰り返して、
 お兄さんの顔をまじまじと見上げて、手元の果物をじっと見て。
 ジタバタしている「ソレ」にちょっと顔をしかめた。

「皮むかないと食べられないですよね…皮、むくんです?」

 いい匂いはしてるけど、と言い添えて、うむぅと考え込んだ。
 刃物を入れるのにはちょっと躊躇いが生まれる見た目ではある。
 もう一度彼の表情を伺おうとして、見上げて、あっと気付く。
 きれい。
 宝石がおひさまの光を浴びて、光ってる。
 不思議な雰囲気のお兄さんに思わず見とれてしまいそう。
「……皮」

 思わず、言葉を繰り返した。
 これの、皮を、むく。
 捕まえた果物はじたばたと激しく動いていて、正直に言って、不気味だ。
 これの、皮を、むく、と思わずまた脳内だけでリフレイン。
 なんというか、これ、生物の生皮をはぐような忌避感がないでもない。
 とりあえず、籠の中にそれも放り込む。二匹目。……違った、二個目。
 微妙な気持ちになっていたせいで、相手が自分を見る視線には気がつかないまま。

「……むいてみる?」

 ごそごそと入り口でもらった採取用のナイフを取り出して、あいかわらずの平淡で聞こえづらい小さな声で言いながら、ことりと首をかしげた。
「はっ」

 首を傾げる動作と問い掛けに、我に返って瞳を瞬く。
 ナイフを、動いている籠の中身を、走っている果物たちを、
 順繰りに確かめてから、ぶんぶんと千切れんばかりに首を横に振った。
 耳がパタパタと大げさに揺れる。

「むむ、無理です! 無理です!」

 二回言った。大事なことなので。
 だけどまた、うーん、と唸りながら考え込んで。

「あうぅ…、でもでも、
 お魚だって食べる前には切るワケですし…。やったことないですけど。
 果物だって、果物だって……」

 何かとせめぎ合っているらしい。
 ぶんぶんと振られる頭に合わせて、広がった長い垂れ耳がぶんぶん揺れる。
 なんか、ちょっと面白い。
 ブルーブラッドを動物扱いするのは失礼きわまりないとわかっているが、動物は好きだ。もふもふ、ふわふわして、柔らかくてあたたかい。
 あの耳も柔らかそうだな、なんて益体もないことを考えつつ、ナイフと籠の中で暴れる果物を見比べて。

「……皮むいたりヘタ取ったりしたら絶め、……違った。あー……えぇと、大人しく……?なったりしないかなって」

 絶命。
 思わず、物騒な、と言うか、生物相手の概念を持ち出しかけた。
 おまけに、何と言って良いものか迷いに迷って、とても言葉が濁った。
「た、確かに…ちょっと大人しくなってくれたら、大丈夫かもです!
 皮をむくのはドキドキするので、まずヘタから……」

 考え付かなかった、と尊敬の眼差し。きらきら瞳を輝かせ、
 見られている気がしたのでふわりと微笑んで見せた。
 大人しくなるかもと思ったら、ちょっと勇気が沸いたので大胆になっていたりする。
 籠の中、じたばたしている果物としばしのにらめっこの後…。

「えいっ」

 ヘタをむしった。それはもう、一思いに。
 なんか大人しくなったような気が、する。

「…い、痛かったのかな…?」
 本当に大人しくなるかは不明だが、なってくれないとちょっと困る。
 この農園にはどうやらおかしな木々が多いようで、触手のようにうごめく蔓も見たし、食べた人物が酔っ払いのようにふらふらし始めた果物も見た。本当になに作ってるんだ、ここ。
 笑った子うさぎはなんだかちょっとかわいらしい。幼い女の子だろう、おそらく。幼さと、ふわふわと。
 無表情は変わらなかったけれど、ほんの少し、雰囲気が和らぐように空気が緩む。

「あ」

 本当にむしった、この子供。
 躊躇がないってすごい。
 結果的に自分でやらずに見ず知らずの子供に仮説を試させたことになったが、ヘタをむしられた果物はごろんと籠の底に転がって動かなくなった。
 その周囲をもう一匹の果物がおろおろわたわたとせわしなく動き回っていた。が、それでもヘタなしになった果物は動かない。

「……本当に止まった、みたいだな。すごい」

 感情の薄い感嘆の声だが、本当にそう思っている。
 すごい、と褒められてちょっとえっへん。

「動かなくなって良かったです。
 お兄さまのおっしゃった通りでした!」

 きらきら。
 瞳をいっぱい輝かせて、こくこく大きく頷いて。
 なんだか無駄に自信を持ってしまった子兎は切り替え早く、ちょっとるんるん。
 だって美味しい果物は大好きだから。

「動かなければむくのもワケないです、たぶん!」
 おにいさま。
 聞き慣れない、と言うより初めて呼ばれたそれに、無表情は変わらないものの、何度か瞳を瞬いた。
 そういえば名乗ってない。というか、この子誰だ。
 ものすごく今更なことに思い至って、少し考えるようにしてから。

「オズウェル。自分は、オズウェル・ル・ルー」

 聞き慣れない呼び方をするのは、己の名を知らぬせいだろうと。
 ついでに、やけに自信たっぷりになった子うさぎを真似るように、自分でももう一匹からヘタをむしってみた。
 ……やっぱり動かなくなるらしい。

「……むくか」

 まだふたつしか収穫していないけれど、それはまたあとで続きを採ればいい。
 とりあえず、今はこのうきうきした様子の子うさぎにカットフルーツを。
 ぱちぱち瞳を瞬いて、それから「あっ」と小さく声をあげた。
 名前。そういえば、そうだ。
 全然自己紹介していないもの。
 淑女候補生としては、はしたないことをしてしまった。
 居住まいを正して、ふわ、と笑む。

「オズウェル、兄さま。落ち着いた響きの素敵なお名前です」

 それから、軽くスカートの端を持ち上げて、照れたように軽くはにかんで。

「わたし、ラヴといいます。雪ノ森ラヴィアンローズですっ」

 仲良くしてください、とぺこり頭を下げて、彼の手元を覗き込んだ。
 うん、やっぱり果物動かなくなった。大丈夫。
 そわそわするのもはしたないかもしれないけれど、何だか期待してしまう。
 だってとってもいい香りだもの。
 随分と、礼儀正しい挨拶が返ってきたものだ。
 でも、どうやら聞き慣れない呼び方は変わりそうにない。この子うさぎからの呼ばれ方の標準装備だと思った方がよさそうだ。
 一度割り切ればすぐに意識を切り替えて、下げられた頭を視線だけで見やった。
 なかよく。
 それは、自分にとってよくわからないことだったけれど。とりあえず、今のところ、相手に悪感情はない。
 ラヴィアンローズ、とあいかわらずの聞き取りづらい小さな声で、相手の名前を覚えるように繰り返した。

「……この世界の果物はよく知らないんだけれど」

 動かなければ、みずみずしい普通の果物に見える。動かなければ。
 なんの果物でどんな味かもわからないから保証はできない
 とりあえず、とナイフで皮をむき始めてみることにした。
 ふわりと香った匂いは甘酸っぱくておいしそうに思える。指先をあふれた果汁が濡らした。
「……たぶん、オレンジの種類? でしょうか?」

 首を傾げた。
 甘酸っぱい香りも、色も、ヘタも、たぶんそんな感じな気がする。
 でも動く果物なんて初めて見たもの。自信は、ない。

 ちらと向けられた視線に、
 何か失礼なことを言ったかしら、と一瞬不安になる。
 でも。
 名前、覚えようとしてくれている。
 微かに動く唇に、何だか嬉しくなる。
 だからにっこり笑顔を返した。
 笑顔は仲良しの魔法って、ママも言ってたもの。

「オズウェル兄様は旅人さんなのですね。
 どんなところからいらしたのですか?」

 この世界、と言うということは。
 彼のいた世界はどんなだったのだろうと瞳が輝く。
 だって自分はこの混沌の、
 王都からすらもほとんど出たことが無いから。
「……オレンジ……?」

 思わず胡乱げな声がこぼれた。
 だって思いっきり走っていた。
 が、甘酸っぱい香りは確かに柑橘類のように思える。

「この世界の果物はみんな走るのかと思った、けれど。そういうわけじゃなさそうだな」

 寝床にしている廃墟の近くの森に実っていた木の実は走らなかったが、あんまり当たり前に元気よく走り回っているものだから、この世界ではこれが普通のなのかとちょっと誤解しかけた。
 笑顔を向けてくれる少女に対し、申し訳ないほどの無表情は変わらないまま。それでも、纏う空気はただ静かで穏やかだ。
 もとの世界についてを尋ねられると、一瞬だけ複雑な間を空けた。

「…………自分は、あまり、外のことは知らないけれど。魔導の発達した、この世界にも似通った世界、だと、思う」

 神殿の外を知らない自分には、答えようがなくて。
 けれど、瞳を輝かせる少女が失望しないように、少しだけ曖昧ながらに言葉を選んだ。
「……走ってるなんてわたしも初めて見ました。
 あうあう、わたしが知らないだけかも、ですけど」

 この世界の果物は走るもの…??
 自分も生まれて初めて見たから、そう言われたらちょっと、やっぱり、自信がない。
 でも、たぶん、オレンジ。きっと。

「とってもいい匂いですけど、美味しいんでしょうか?」

 そわそわしながら、首を傾げて見せた。

 違う世界。そっと目を細めて、その静かな声を聴いて。

「似た世界ならちょっと安心、ですね……!
 でも、帰りたくないですか?」

 急に慣れない場所に来てしまうんだもの、困ることは少ない方がいい。
 お家に帰れなくなってしまうなんて大変なこと、想像もできないけれど。
「……まあ、毒はないと言っていたから。それを信じるしかない、と、思う」

 お互いに走る果物は初見なら、農園の持ち主の言葉を信じるしかないだろう。
 流石に、子供に毒味をさせるというのもちょっとどうかと思う。
 少しだけ微妙な間をあけて。
 ぽい、とひとかけらを口に放り込んだ。

「……あ。普通に甘い」

 咀嚼すれば、口内にあふれる甘酸っぱい果汁。
 変な刺激もないし、しっかり味わってみたけれど目眩がすることも舌先が痺れることもなさそうだ。
 ほら、と相手の方に果物を差し出しながら。

「自分は、丁度よかった。もとの世界に未練もとくには」

 至極あっさりと。
 そうだ。自分はもとの世界が嫌いだ。大っ嫌い。あの世界が滅びたって顔色ひとつ変えないだろう。ざまあみろ。そう言える。
 が、それは目の前の相手に知らせることでもなし。ただどこまでもあっさりと、さっぱりした歯切れのいい言葉が、かけらの未練もないことを伝えるだろう。
 毒、と言われたから一瞬止めようかと迷ったけれど、間に合わず。
 咀嚼するその横顔をどきどきと見詰めてしまったけれど、あまい、と聞こえたからホッとした。

「ありがとうございます!」
 差し出された果物の一房をもぐり、と口に入れる。
 もぐもぐ、爽やか。
「えへへ、おいしーです」
 うん、やっぱりオレンジ!

「……そう、なんですか?」
 あんまりきっぱりすっぱりと言い切られたから、何だか拍子抜けしてしまってそうとしか返せなかった。
 パパにもママにも会えないなんて心配で、自分ならとても不安だけれど。
 じぃ、と顔を覗き込む。
 でも彼は困っている風ではなかったから、きっといいことなのだ。

 なら。
 この世界ではせめて困らずに過ごしてほしい。

「あ。思わず食べちゃいましたけど、オズウェル兄様、果物集めていらしたんです?」
 ことりと首を傾げて訊ねる。
 剥いてしまったから、これは食べきってしまおう。
 相手も取りやすい位置に暫定オレンジを差し出したまま、もう一房、ひょいと摘んで口に入れた。
 もぐもぐ。
 おいしい。
 そっと瞳が細められた。

「もとの世界は、知ってる人、いないから。……ここは、気楽でいい」

 詳しくは言わないけれど、これで天涯孤独かなにかだと思ってくれれば、それでいい。
 もとの世界の話もどちらかといえば言いたくない方だし、子供に聞かせる話でもない。
 だから、付け足したのは、この世界にいい印象を持っているという意味の言葉。この世界は、自分にとって天国のようだ。

「……食料調達?」

 同じようにことんと首を傾げて、端的な言葉を。
 連れて来られはしたが、金銭的補助や衣食住の保証はない。
 仕事がないから、金もない。金がなければ食料は買えないし飢える。
 だったら現地調達、というのが現状だ。
「えへへ、わたしももうひとつ、です」

 もぐもぐ甘酸っぱい実に幸せを感じつつ、
 にっこり笑顔を返す。
 この世界を好きになってくれたなら、
 この世界が楽しいって思ってくれたなら、
 とっても嬉しいもの。

「ごはん、それは大変です」

 思わずぐぐ、と拳を握り締めた。
 お腹が減っては戦は出来ぬって言うらしい。
 …戦はよくわからないけれど。

「お手伝いします、いっぱいつかまえましょうっ」

 この世界を、もっともっと好きになってくれたら嬉しいから。
 とてもよく笑う子供だ。
 動物に近い姿をしたブルーブラッドの年齢はわかりづらいけれど、雰囲気的に、おそらくきっと子供であっているはずだ。多分。

「ん。……ここでは、手伝いさえすればどれだけ採ってもいいらしい、から」

 食料集めというものは、とても重要な急務だ。
 とくに、もうすぐ冬が来る。
 今のところ、まだ採取に大部分を頼っている食生活は、冬になるととても危機的状況になるであろうことは、想像に難くない。
 だから、という訳ではないし、保存できる訳でもないのだけれど、採取はできる時にしておきたい。
 手伝ってくれるなら、自分も体力がある方ではないから助かる。

「……追いかけるか」

 足元をぴゃっと、なかなかの速度でまた果物らしきものが駆け抜けて行った。

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