シナリオ詳細
<無意式怪談>さいごの契約
オープニング
●ゴースト・プロトコル
「パズルのピースが組み合っていく。俺たちの追っていた……解決してきた事件は、『殺せない悪魔』を殺すために必要なピースだったってわけか」
「ああ、どの事件が欠けても、このミッションは達成しえなかっただろう」
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)とシューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)が卯没瀬地区の大通りを走り抜けていく。
並走する無数の首なしライダーや、行く手を阻み道路に飛び出す恐怖の大王たち。
バイクや騎乗動物に跨がった彼らは、それらを排除し突き進む。
ウィング式のコンテナトラックを運転するウルリカ(p3p007777)が、ウィングの開閉スイッチを操作。開いていくコンテナからは、鵜来巣 冥夜(p3p008218)やセス・サーム(p3p010326)たちが姿を現す。
「再現性東京を混乱に導こうとした『名も無き悪魔』――いや、『メフィストフェレス』!」
「もうあなたの時代は終わったのです。あなたの定義した希望ヶ浜は、過去のものとなりました」
更にレーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)、フリークライ(p3p008595)、リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)たちも解放されたコンテナから立ち上がり、暴風の中戦闘を開始する。
シルフィナ(p3p007508)の手にあるのは、保護ケースに守られたスピリットフラワーだ。
内包されている情報は、悪魔を殺すためのプロトコル。
「幽霊たちも、メフィストフェレスに操られて暴れていたっきゅ?」
「魂ヲ束縛 花タチヲ蹂躙 ドチラモ 許セナイ」
「けどこのお花を届ければ、その元凶と戦えるんだよね」
「その通りです。この戦いに終幕を……」
●中枢神経塔
「本当にいいんだね?」
ロト(p3p008480)が尋ねると、眼鏡ちゃんもとい『メシア』は力強く頷いた。
「私達はずっと、生まれた意味が分かりませんでした。記憶も無くこの廃都に放り出され、消えたくない一心でただ漫然と生きていた……それは決して、生きているとは言えません。先生、あなたが見てくれた『傷』と向き合うことこそ……人生って言えるんじゃないでしょうか」
「夜妖の人生、か。不思議な感じだが、俺もそう思う。向き合う覚悟ができたなら、付き合うぜ?」
カイト(p3p007128)の言葉に、黎明院・ゼフィラ(p3p002101)とライ・ガネット(p3p008854)も頷いた。
「ミッションを纏めよう。他の仲間たちが悪魔を殺すためのピースを集めここへ集合している……」
「俺たちは『メシア』ちゃんが敵に殺されないように、この塔の中で守りを固めればいいわけだな」
「固めるっていうか……もう襲ってきてるし、ある程度は屋内で戦わないと、だけど」
星影 昼顔(p3p009259)が言うように、バリケードは既にいくつか破壊されている。段階的に設置したおかげでまだ保っているが、『攻め込まれた籠城戦』になるのは確実だろう。
星影 昼顔とリュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が、それぞれ紅紫 十三番と紅紫 十四番へと向き直った。
「これからも、覚えておくことはできるかな」
リュカシスの問いかけに、十三番は肩をすくめる。
「ここで死んだら無理じゃない? もし生き残れたら……覚えておくくらいなら、なんとかしてあげる。言いたいことがあるなら、今のうちに言っておくことね」
一方で昼顔は車椅子に座った十四番と膝の上の猫を見つめている。猫が口を開いた。
「メフィストフェレスは、確かにかつての希望ヶ浜を守るためには必要な力だった。お前たちが希望ヶ浜の特待生となるまえまではな」
「けれど、今は必要の無い存在。自らが必要とされ、畏怖され、怪異というネットワークを循環する存在であれたのは過去の話。メフィストフェレスはその状態に戻したいと考えているのでしょうね。つまりは、あなたがたの排除に繋がるのだけれど」
「そうさせるわけにはいかない」
古木・文(p3p001262)とヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が顔を見合わせ、頷き合う。
「なにせこれは、校長との『契約』だからね」
「その対価は、悪魔殺し……と。骨の折れる仕事ね」
●儀式魔術Ω
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)、ジェイク・夜乃(p3p001103)、結月 沙耶(p3p009126)は独自に動いた結果、儀式魔術のマニュアルを手に入れていた。
これがあれば、悪魔殺しを効率化することができるだろう。
「で、それを夜妖遣いどもが許すはずがない、と」
「自分達の利益の大元が失われることになるっすからね」
「だが残念だったな。押し通らせて貰う!」
三人は、追跡し攻撃してくる夜妖遣いたちとの戦闘へともつれ込んでいく。
まず必要となるのは、卯没瀬地区へ向かうルートの発見なのだが……。
●the body
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)がスマホを翳してみせる。
「見つけたルートを近場の仲間に知らせようと思う。ウルズたちが近かったよね」
「その通りだ、しきねぇ♡」
アルハ・オーグ・アルハット(p3p010355)が頷きを返すと、既に戦闘態勢を整えているレイリー=シュタイン(p3p007270)と仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が少しばかり難しい顔をした。
「能面連中との戦いに巻き込むことにならないか?」
「既にあちこち敵だらけなんだから、今更でしょ。纏めてなぎ払っちゃいましょ」
ウルズたちにこのルートを伝えれば、彼女たちの手に入れた『マニュアル』を皆の元へ届けるスピードがぐんとあがるはずだ。悪魔殺しの効率化という意味でこれほど素晴らしい支援はないだろう。
そこへ、卯没瀬のリーダーとおぼしき男が声をかけてきた。
「卯没瀬地区へ行くのですか? なら、我々も協力しましょう。おそらく、我々が飛ばされた理由もそこにあるのでしょうしね……」
●無名祭
「で? 俺たちは今度何をする? そろそろ纏まって動くか?」
「ここまでバラバラにやってきたしね。そろそろ、ゴウドウ作戦もいいんじゃない?」
冬越 弾正(p3p007105)やイグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。
そしてラダ・ジグリ(p3p000271)たちは次の行動を決めようとしていた。
「といっても、選択肢は二つだけだがな。『名も無き神』を守ってこの場所で籠城戦に加わるか、残して外へ出て他のチームの突入を支援するかだ」
「私は、どちらを選んで戴いてもかまいませんよ」
『名も無き神』は話にしれっと加わってきた。
「できれば、守ってほしいと思ってはいますけれど?」
なら一択ではないか。とは、ラダはあえて言わなかった。
●本当の世界
「真名、『メフィストフェレス』……ねえ。いかにも裏がある取引を死そうな名前じゃない」
夕凪 恭介(p3p000803)は苦笑して『嘘世界の鍵』を翳してみた。
『名も無き悪魔』を呼び出すために必要な鍵だ。これが届かなければ儀式魔術も話にならない。
「これを卯没瀬地区の中枢神経塔のチームまで届ければ良いわけですか。しかし……正規のルートを通っていては時間がかかりすぎますね。近道を知っているチームはいないでしょうか」
「シキちゃんやアルハちゃんたちのチームが近道を見つけたって聞いたわぁ。そっちを使うのはどうかしら」
厄介な戦闘に巻き込まれることになりそうだけれど……と付け加え、三人は苦笑し合うのだった。
●黄泉崎ミコト
「イクゾー!」
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が極めてシンプルに叫ぶ。
卯没瀬地区に散っていたいくつもの仲間たちのaPhonが突然鳴り、メッセージツールに中枢神経塔へ集まるよう表示されたのだ。
希望ヶ浜外で通信が繋がったことには正直驚きはあるが、繋がったのはそのメッセージのみ。ちょっとした奇跡でも起きたのだろうか。
武器商人(p3p001107)、ルアナ・テルフォード(p3p000291)、グレイシア=オルトバーン(p3p000111)もそのメッセージを受け、振り返る。
中枢神経塔なるものがどこにあるかは一目瞭然だ。
街のど真ん中に異常にねじれた塔が突如出現したのだから。
「夜妖遣いたちはいいのかな?」
「情報に寄れば、他のチームも追ってくれているらしい。こっちはこっちで対応しようじゃないか」
「『終末論の怪物』っていうんだ、あれ」
「とにかくヤバイものが次から次へって感じだね。世界が滅ぶのかと思っちゃったよ」
「実際、そういう空想から生まれた怪物だろうしね」
セララ(p3p000273)、トスト・クェント(p3p009132)、グレイル・テンペスタ(p3p001964)たちは戦いを続けながら塔を目指す。時折、発狂しつつも命の危険がある人を助けたりもしながらだ。
一方で、マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)、佐藤 美咲(p3p009818)の二人はフィールドエージェントと別れ塔を目指していた。
「この街、どう決着すると思いまス?」
「さあ。少なくとも悪魔は失うし、終末論も失う。世界が滅びなかった1999年8月を生きることになるんだろう。現実と向き合う時が来たって所か」
「世知辛いでスねえ。なんなら地球、そこで滅んでくれてても良かったのに。あ、アニメが放送しなくなるのは嫌だったかも」
「そんなもんだ、世界なんていうのは」
目指すは悪魔殺し。
無名偲無意識校長と新たな『契約』を交わしたイレギュラーズたちは、儀式魔術を成功させるため中枢神経塔へと集おうとしていた。
そう、これが物語の終わり。
怪談の終着点。
あなたのゴールは、この先にある。
- <無意式怪談>さいごの契約完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別長編
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月08日 22時05分
- 参加人数40/40人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 40 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(40人)
リプレイ
●『the body』
枕木の上を歩む。等間隔のそれを踏むきしりという感触と、並ぶ等間隔の灯火にできる影が、この長いトンネルのゆきさきを教えてくれる。
「まさか、独自に調べた地下鉄がこんな風に役立つなんてね」
「この線路の先に、決戦の場がある。中々に粋なラストじゃないか。
後は、派手で爽快なバトルシーンを乗り越え、グッドエンドを掴み取るだけ
続編は無しだ。ここで終わらせるぞ!」
「ええ!」
『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)と『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は意気揚々と進み、そして振り返った。
『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)を先頭に、隣の『名高きアルハットの裔』アルハ・オーグ・アルハット(p3p010355)とその後ろに続く卯没瀬自衛隊の面々。顔のない彼らも見慣れてみれば気の良い男達だ。
「この先に行けば、元の街に戻れるんだよね。君たちの為なら頑張っちゃうから、安心してついてきて!」
「いやまさか、本当に変える手立てが見つかるとは……あなた方には感謝しても仕切れません」
「あはは」
シキもそこは同意するところだ。校長の依頼を受け、夜妖を倒したあの日に聞いた雨音から、この物語は始まった。
(私の願い。
私の契約。
私が願った世界。
きっと全てが中枢神経塔にある……)
シキの『願い』が、校長の言う『契約』なのだとしたら。きっとこの先にあるのだろう。
この先の未来は、自分達の作る未来だ。
(光には闇がある。
表には裏がある。
子には母がある。
望みも同じ。わらわの望みの、対角にあるもの。
それを、きちんと想起せねばならぬ、な。
この街の人々に、また生まれよう、と告げるために、わらわは――)
それはアルハも同じことであった。
この街の人々に、また生まれよう、と告げるために。
街は廻り、巡り、続いていく。停滞し続ける街を望んだ悪魔を打ち破って。
「さて、早速のお出迎えだな?」
アルハが大鎌ルーパ・アルーパを構えると、シキもまたガンブレード・レインメーカーを鞘から抜いた。
汰磨羈も妖刀『愛染童子餓慈郎』を抜き、レイリーが腕のコンテナからヴァイスドラッヘンフリューゲルを出して突き出すように構える。
「ホッホッホ――」
暗闇の中にぼうっと浮かび上がるように出現したのは白鬚の翁面。
それに加え猿飛出や顰、獅子口、大癋見といった厳つい顔をした能面たちがぼうぼうと現れ、それにつられるかのように駅員の制服を着た男達が姿を見せる。
「おお! あれらを纏めてなぎ払っちゃって良いのだな? よ・い・の・だ・な♪♪♡♪♪♪♪♡♪♡♡♪♡♡♡♪」
テンションが上がりすぎて抑揚がおかしくなったアルハが鎌を振り上げ早速突進。
「ふふふ、賢き輝きのアルハットたるわらわは、このような格言を教わっておる。
すなわち――「賢者の考え、休むに似たり」だ!
そうと決め決まったのなら、迷いも惑いも不要であると知れプラカーシャヴァルタアアアアアアア!!!!」
「この先へ行かれては困――ぬうお!?」
驚いて飛び退く翁面。そこへシキの剣が豪快に滑り込み、汰磨羈の妖刀までもが襲いかかる。
切り裂かれた男はがくりと崩れ落ち、能面だけが外れて別の男の顔へと覆い被さる。
「話を聞かぬ奴め」
「さぁ、RTAの時間だ。グリッチ無しの実力勝負で最速を目指す!」
「じゃあ、決戦までの道のり作って差し上げましょ、行くよ! 汰磨羈」
レイリーの強烈なチャージアタックと汰磨羈の連係攻撃が交わる中、周囲の男達がナイフを抜いて飛びかかる。好きを突くような攻撃であったが――。
ひゅん――と間を通った何本もの糸が男達へと絡みつく。
「黄泉崎ミコト――黄泉崎ちゃん? 悪くない名前ね」
『お裁縫マジック』夕凪 恭介(p3p000803)は絡めた糸を引くような動作で小さく笑い、対して男達は急速に体勢を崩し纏めて転倒してしまった。
片手を懐の中の『嘘世界の鍵』を確かめるように胸へ当てると、恭介は体勢を崩した男達から目を背けたままパチンと指を鳴らした。
すると大地から巨大な拳がつき上がり、男達をトンネルの天井めがけて殴り飛ばす。
気を失った男達からは能面が剥がれるようにおち、それらは皆割れて砕けていった。
「これが悪魔の手先、ねえ。『能面』で人格を乗っ取るなんて悪趣味なやり方」
「それはそうと、校長の居ない期末と新年度は大変だったんだから! 文句の一つや二つ言いながらたっかいお酒を飲みたいところだけど、その為には彼を連れて帰らないと」
「それはそうね」
教員仲間の二人としては、今すぐにでも校長には帰ってきてほしいのだ。校長が仕事をしていたためしがないので、仮に帰ってきても仕事は楽にならないのだけれど。
それでもだ。
「「嘘に付き合ってあげる」のは嘘じゃないけど、それも今日で終わりよ、黄泉崎先生」
『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は手袋越しにフィンガースナップを鳴らすと、増援として現れた能面男たちへと目を向けた。
「嗚呼、お気の毒」
紅い唇から紡がれるアーリアの言葉がおまじないとなり、それを理解してしまった男達は咄嗟に胸を押さえてうずくまる。
なんとか攻撃を逃れた男が抜いた拳銃で発砲するも、アーリアはまるであたりまえのようにかざした手で銃弾を受け止めた。人差し指と親指で挟むように、優しく。
それをくりくりと指の上で弄ぶと、唖然とする男に『だぁめ』とだけ囁いた。
言葉をうけ、今度こそ崩れ落ちる男達。
「おい、助けに来たつもりなんだが……もう終わりか?」
『誰が為に』天之空・ミーナ(p3p005003)がトンネルの後方から小走りにやってくる。
彼女が連れてきたのは『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)、『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)の三人だ。
「どうやら、まだ終わってないらしいぞ」
「っすね。ほら」
ウルズたちが指をさすと、暗闇から次々と能面が現れる。駅員とは異なる一般人めいた服装をしているところからして、卯没瀬地区あたりから引っ張ってきた素体なのだろう。
ジェイクは銃のセーフティーを外すと、シニカルに笑った。
「せっかく忘れていたのに、昔の名前を思いださせやがって……。
いいだろう、だったらもう一度だけあの頃の俺に戻るまでだ。
この祭りの最後まで『『幻狼』灰色狼』でいてやる!」
ジェイクの銃撃によって次々と能面たちが倒されていく。支線から合流してきた能面男が不意打ちのように警棒で殴りかかろうとするが、ジェイクはそれを予め察していたかのよううに相手の額に銃口を突きつけ引き金をひいた。
「おうよ! 俺が幻狼の灰色狼だ! てめえ等そこをどきやがれ!」
怪しい新興宗教団体COREの内部を探っていた彼女たちは夜妖憑きを人工的に作り出そうとする計画を知り、その素体となっていた人々を解放。ついでに組織を滅茶苦茶に荒らしまくってきたのだが……その戦利品として『儀式魔術Ω』と呼ばれる儀式マニュアルを手に入れていた。
嘘世界の鍵が名も無き悪魔を呼び出すために必要なら、このマニュアルは名も無き悪魔を効率良く器に押し込めるために必要なアイテムだ。
「さて、苦労して手に入れたこの儀式魔術のマニュアル……ただの怪盗ならコレクションするだけだが、生憎怪盗リンネは使い時があるとするなら遠慮なく使うタイプなのでな?
惜しみなく行かせてもらおう!」
沙耶はマニュアルが記録されたUSBメモリをしっかりとしまい込んでおくと、リンネのサインが入ったカードナイフをホルダーから抜き取った。
それらを次々に投擲。警棒を片手に襲いかかろうと突っ込んでくる能面男達の面や腕に次々と突き刺さり、まるで銃撃でも仕掛けたかのように相手を転倒させていく。
そんな中を駆け抜けるウルズとミーナ
「あーあ、来ちゃった来ちゃったっすよぉあたしの出番が!
必要なんすよね……脚の速い後輩が。
みんながあたしに言うんすよ。
走れ、疾れ、奔れって。
あたしはいつだってそうっす、求められるがままに走る、それだけっす!」
ジグザグに紅い閃光が走り抜けたかと思ったら、一瞬遅れて男達の能面がパキンと斜めに割れて落ちていく。男達(女性も混じっていたらしい)は意識を失ってその場に崩れるが、その一人をキャッチしてウルズはブレーキをかけた。
「どうやら来た甲斐はあったらしいな」
ミーナはレイリーを守るように位置取りすると、ナイフや警棒を手に襲いかかる彼らを死神の大鎌で斬り伏せる。
「レイリー、慣れない事し始めたんだから、あんまり無理はするなよ?」
「分かってる、けど――」
「ああ。それはそれとして、信じてる!」
レイリーとミーナは顔を見合わせ、互いだけが分かる笑みを交わした。
「ここは任せて先へ急いで! 後から追いかけるから」
レイリーの叫びを受け、沙耶はウルズにUSBメモリをパス。それを受け取ったウルズはスニーカーを唸らせ走り出すのだった。
「託したからな、いけーっ!」
「はいっす!」
奪おうと手を伸ばす能面男をジャンプで飛び越え、壁を足場に走り出すウルズ。そのまま天井から一周して地面へコースをとると、更なる加速を自分にかけた。
(この儀式マニュアルを届けた先にどんな未来が待ち受けているかなんてわかんねえっす。
それでもあたしは今この瞬間を最高のコンディションで走るだけっす。責任なんて言葉であたしに重りが掛かることは無いっすからね!)
こうなったウルズを、もはや誰も止められやしないのだ。
●『ゴースト・プロトコル』
ハイウェイを疾走する、SH001シロガネソウル。アクセルをひねり、『先導者たらん』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は更なる加速をかけた。
側面につく形で並走してきたのは首なしライダーだ。
真っ赤なライダージャケットを羽織り改造バイクに乗ったその姿は、通常のものと一線を画している。
首なしライダーは腰の後ろから赤い大口径リボルバーピストルを抜くと、シューヴェルトめがけて発砲した。
それを飛来する弾丸を切り裂く形で防御するシューヴェルト。
「希望ヶ浜南のハイウェイを超えた先のことも分かった。そして、希望ヶ浜を平和へと導くための方法もようやくわかった。
ならば、あとはその方法、『名も無き悪魔』を撃破して、この地に少しでも平和をもたらそうじゃないか! さあ、最後の大仕事だ!」
反撃とばかりに繰り出す貴族騎士流秘奥義『鬼気壊灰』。呪詛と経験を積み重ねて生み出した『碧撃』を越えた技。一撃の威力は凄まじく、相手を瞬時に切り裂いてしまう。
そこへ追いついたのは『アラミサキ』荒御鋒・陵鳴(p3p010418)。
コンテナトラックのハンドルを握り、助手席には以前のように『星読み』セス・サーム(p3p010326)を乗せている。
「いくつもの星が集まり、凶星を打ち砕かんとしている……。こうして戦おうとしているのは、わたくしたちだけではないのですね」
「ああ、どのチームが欠けてもあの悪魔は殺せなかった。必ずや届けてみせようとも」
前を見れば、ハイウェイを封鎖するようにバリケードが築かれているよく見れば幽霊夜妖たちがせっせと組み立てたものであるようで、こちらを止めようと前に出てきている。
「無駄だ――!」
陵鳴は思い切りアクセルを踏むと、トラックそのものを強く発光させた。
それだけではない。助手席のセスもまた星読みの術を用いて砲撃を発車。
バリケードを幽霊夜妖たちもろとも吹き飛ばし、トラックはひた走る。
「しかし……希望ヶ浜の資料室から随分と話が大きくなったものです。わたくしは初め、希望ヶ浜にどんな希望を抱いていたか知っていますか?」
「オレとそう変わらないとおもったが?」
セスと陵鳴は顔を見合わせ、そして苦笑のような雰囲気を浮かべ合った。
「災厄を忘れない。忘却した責任は負うべきだ。……その考えは分かる。だがその結果導かれたのは『忘れないための花園』と『それを壊そうとする悪魔』だ。
人々が忘却しようとしたんじゃない。悪魔が記録を壊そうとしていた」
「ええ……希望ヶ浜を守るためという契約の内側で、自らの理想を街に押しつけようとしていた」
「そうはさせるか――とな!」
陵鳴はコンテナを開くためのスイッチを押し込んだ。
するとウィング型のコンテナが開かれ、『高速機動の戦乙女』ウルリカ(p3p007777)たちが姿を現す。
何故かと言えば、並走してくる数台の軽トラックに対応するためだ。
こんな戦闘まっただ中に割り込んでくる車両など、敵か味方のどちらかだ。そして味方でないなら――。
「高速道路のお話がよもや悪魔を倒すための儀式に繋がるとは予想外でした。手配したトラックにも意味があったというものです」
ウルリカが手をかざすと、コンパクとな掌底めいた動きでAAS・エアハンマーが作動。『絶撃』と呼ばれる技が繰り出される。直撃したのは軽トラックから起き上がる幽霊夜妖たちだ。
手をかざし呪詛の弾を放とうとしたところでウルリカの衝撃波によって吹き飛ばされ、地面をごろごろと転がりながら遠ざかっていく。
「さてさて、悪魔の仕業と知ってから日が浅かったので、検証には至りませんでしたが……悪魔は何を見て、我々がここにいると知っているのでしょう?」
彼女の疑問にはあえて答えず、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が別の車両へと対応を開始。
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。
我 死 護ル者。
我 心 護ル者。
我 魂 安寧 願ウ者。
束縛サレシ魂 解放スル。
紡ガレテキタ“希望” 届ケヨウ」
『オルド・クロニクル』を展開すると、幽霊夜妖たちが放つ呪詛の弾幕を自らの身体を盾にすることで防御し始める。
幽霊夜妖達の狙いは明らかだ。悪魔の真名が込められているデータ媒体、つまりはスピリットフラワーを奪うこと。もしくは破壊すること。
(スピリットフラワー 元気維持。火デモ戦イデモ散ラナイ。
ソレニ木 隠スナラ森ノ中。
花 隠スナラ 花ノ中。
フリックノ花々ノ中ニ隠セバスグニハ気ヅカレナイハズ。
花 無力 違ウ。
花 命。花モ戦ッテイル。
フリック 花 一心同体。
届ケヨウ コノ足デ。ドレダケ攻撃サレヨウトモ止マルコトナク癒ヤシ続ケテ)
「守るのは得意! さぁ、スピリットフラワーを届けて世界を守るよ!」
『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は勢いよくコンテナから飛び出すと、相手の軽トラックの荷台へと着地した。
突如接近してきたリュコスを迎撃すべく呪詛を浴びせかけるも、ダメージを大きく受けたリュコスの底力たるや凄まじく、腕をぶんと振り回すだけで幽霊夜妖たちを引きちぎってしまう。
「まだまだ! 何度も戦ってきたんだもん、遅れるはずがないんだよ」
リュコスはそう言いながら再びジャンプしトラックコンテナへと戻ると、すたんと片膝をついた状態で着地した。
「自身が必要とされるために周りを変える動機は分かる。
でも周りに迷惑かけるより自身を変えろっきゅ!
他者や幽霊さん達を利用するのは許せないっきゅ!」
交代するように身を乗り出したのは『希うアザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)だった。
「人じゃなければ人権無しとブラック労働は酷いっきゅ!
聖獣時代を思い出すっきゅ……幽霊さん達が安らかに眠れるようレーさん頑張るっきゅ!!」
レーゲンが幻影で作ったスピリットフラワーをこれみよがしに翳してみせると、軽トラックを運転していた首なしライダーが銃をとってこちらに向けてくる。
間に割り込むフリークライとリュコス。
そしてレーゲンはここぞとばかりに『双曲カノン』を発車した。
風の鐘と魔力で作り出した赤い焔と緑のカスタネット。打ち鳴らすその音は砲撃となり、相手の運転席をもろともを破壊する。
横転しクラッシュする軽トラックを置き去りにしたところで、合流道路からまた新たな首なしライダーのバイクが数台纏めて襲いかかってきた。
「メフィストフェレス…ようやく奴の横っツラをはっ倒せるチャンスが巡ってきたんだな。
必ずここで仕留める。無限ライダー2号として、初代の意思を注いで! ――変身!」
『カチコミリーダー』鵜来巣 冥夜(p3p008218)がコンテナに置いていたバイクに跨がると、特製のスーツを纏って道路へと滑り出る。
駆るバイクはMST101 ファブニール。その横へ、飛行していたティンダロスType.Sが着地し並走を始めた。乗っているのは勿論『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)だ。
「首なしライダー追ってたら悪魔と来たか……言わばデュラハンだもんな、逸話は違うが関連性はある意味納得出来る。
にしても悪魔か。邪神とは何度も殺り合ってるがどうなるか……山羊顔なら本気で殺さないとな」
嫌な邪神を思いだし、マカライトは苦笑する。
「それにしても、首なしライダーの増援が少ないようだが?」
「ああ、インターネットのミームを攪乱したのが効いているんだろう」
冥夜が焔を燃え上がらせ、追跡してくる首なしライダーへと発車する。
「アングラな連中にDOS攻撃を仕掛けさせた。奴らは所詮『噂話の怪物』に過ぎん。大元を発てば弱体化もする」
「情報の出所を探ってた甲斐があったな」
一方のマカライトは編み上げた鎖を何本も飛ばして首なしライダーに引っかけると、ヘイトを自分に集中させながらバチバチと黒い雷を相手に流した。
車体から転げ落ち、道路を転がりながら遥か後方へと遠ざかっていく首なしライダーたち。
マカライトはその様子を確認すると、よしと頷いて前方へと向き直った。
「追跡はまいた。あとは花を塔へ届けるだけだ。その後は――」
「例の悪魔とご対面、だな」
●『黄泉崎ミコト』
獣の咆哮が空を覆い、炎の槍が降りしきる。
『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)はそんな中を駆け抜けて、終末の騎士へと襲いかかった。
(…こんなに沢山怪物がいると…前に進めないな…)
ちらりと見れば、巨大なねじれた塔。
(…確か…あの塔にみんなが集まってるんだよね…?
…それなら…真っすぐ道を切り開くように倒していくのが…シンプルで早いかな…)
炎の槍に襲われそうになった親子を『獣式アセナ』の術式で助けると、建物の中へ入っているように呼びかけた。
自身の分身のような神狼が吹雪のあらしを生み出す中、グレイルは走り出す。
(…『名も無き悪魔』を倒したら…この怪物は消えるんだよね…?
…世界が終わらなくなったら…ここの人たちは何を思うのかな…外の世界の人になじめるといいんだけど…)
その一方、『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。
「イクゾー! うぇーい!
ぶっはっは!武器商人ちゃん武器商人ちゃん! 絶対お祭り会場だよねアレ! 行く? 行く???
くっ…私ちゃんの知らないところでオモロい事しやがって! 許せーん! 仲間にいれろー!
行くぞセララん! 競争だー!」
終末の騎士と剣を交え、幾度もの撃ち合いを経てから相手の剣ごと破壊する。切り裂いた騎士は霞のように消えていく。
空から未だに炎の槍が降り注ぐが、リフレクションビットがシールドを展開しそうした炎をはねのけた。
そんな中へ空から舞い降りてきたのは巨大な大量の翼に包まれた球体であった。それが美しく開くと、涙を流す顔がその両目を開く。滅びの瞳は波動となって街を破壊しにかかる――が、そこへ割り込んだのは『闇之雲』武器商人(p3p001107)であった。
「『名も無き悪魔』が力を使って『終末論の怪物』を生み出してるなら、倒せばその分力を削げるかもしれない。
どれもこれもかなり凶悪だが、ここに居るイレギュラーズで連携すれば倒すのに問題は無かろ」
武器商人の言うとおり、終末の獣たちは悪魔を通して街の幻想が作り出したもの。あくまで『常人の手に余る』にすぎない。
武器商人を消し飛ばすだけの威力こそあったものの、武器商人は名状しがたき何かを足元から湧き上がらせその肉体を瞬時に修復させてしまう。
「自ら滅ぶことで現実から目を逸らし続けることが出来た世界が、本当に滅ぶ時が来たってことだ。
案外、混沌の仕組みも似た様な感じだったりしてね? なぁんて。ヒヒヒヒヒ」
そして滅びの力というなら、こちらもだ。
星の如く世界を灼く蒼き槍の一射が終末の獣を貫き燃え上がる。
「戦闘ならボクの出番だよね。まっかせて!」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)が靴から魔法の翼を広げると、空を滑るように飛び上がる。
「世界の終わりを望んでる人間なんて、本当は少ないんだ。
だから終末論なんていらないよ。世界は続く。明日はやってくるんだ!」
第二の終末の波動が放たれようとしているが、セララの繰り出した聖剣ラグナロクは波動を真っ二つに切り裂きながら相手へと急接近。そのまま相手の身体をギガセララブレイクで切り裂いてしまう。
くるんとスピンをかけてから空中で停止すると。再び中枢神経塔を見上げる。
その道中には空から地下からどこかしらから終末を象徴するような怪物や軍勢が現れては行く手を阻む。なかなかに恐ろしい光景だが、世界の終わりめいた光景なら何度も見てきたセララである。そして、何度も『笑い飛ばしてきた』セララだ。
「さあ皆、いくよ!」
こんな終末、怖くない。
「じゃ、後は任せるね~」
田中 舞は卓越したメスガキ系スマイルでぱたぱた手を振ると『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)に後を託してさっさと安全地帯へと逃げ込んでしまった。頬紅と一緒に。
「あいつ……」
美咲は言葉に出来ない感情を吐き捨てそうになってから、まあいいかとトラックへと乗り込んだ。
助手席へとしずしずと乗り込む『威風戦柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)。
道路には小銃を構えた終末の軍隊が展開しつつあったが、構わずアクセルを踏み込む。
「『そんなもの』…そんなもの、ねぇ。ま、たしかにそうスね。
望んでなくても明日は来る。世界に存在する者はそれに向き合わなきゃいけない」
終末思想とはつまるところ『逃げ』だ。世界が自分を含めまるごと終わってくれれば今の苦しい環境も無くなるという想いからくる思想が殆どである。恵まれた人間はそれを使って人間を煽り利益を得て、恵まれない者はそれに縋って今をやり過ごす。
良い悪いではない。そういう生き方だ。そして召喚によって生き方ごと奪われた彼らが、この街に頼り切ったということだろう。
『名も無き悪魔』はそんな彼らとの契約として終末論の街を作り出し、そして『本当に滅ぼす』ということをくり返してみせた。まさに悪魔の契約である。
「中には命を落とした者もいただろうが、周りの人間の記憶ごとリセットしてしまえば問題はなし、と。ずさんだが悪魔らしいな」
兵隊たちをひたすらに撥ね飛ばしながら進むトラックの助手席。戦車が見えたあたりで窓から身を乗り出すと、魔導媒体から術式を起動させた。
私ノ舞・星天晴夜――誰かが残した灯火を、受け止め輝け此の光 遺した孔よ明日を写せ、覚悟を穿ち武器を折れ 月夜の鏡花、水面に咲く、私の花 星々の輝きに貴方の光を見せて。
清らかな声で紡がれた詩をcodeにして、展開した魔術が戦車の砲撃にカウンターヒールをぶつける。
「数ヶ月音信不通で休職してる校長が帰ってこないと新学期はおろか卒業式すらできないんだよ。だからここは押し通らせてもらう、そろそろ学生役はキツいんだ」
そのままとんでもないゴリ押しで戦車を『挽きつぶして』いくのである。
トラックが終末の軍隊を轢いていくという有様に唖然とするOL風の女性を見下ろし、マニエラは名刺をぽいっと投げてやった。
「どうしても終わりを望むのであれば私達を訪ねるといい」
「え? あ?」
「それだけの正気が残っていれば、だがね」
「校長の意図した目的は達成できているとはいえ…元々の依頼が、吾輩達の与り知らぬところで解決しているのは、何とも言い難い……」
脱いだ帽子を胸に当て、やれやれと肩を落とす『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)。が、ここまでくればあとは『問題の大元』を撃滅するだけだ。
『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)はそのあたりを割り切ったようで、自分の額にとんとんと指をあてる。
「おじさま、眉間の皺が濃くなってるよー。今回のお仕事が成功すれば全部おしまい!になるんだし、がんばっていこー!」
「確かに、気にしていても仕方ない。か」
帽子を被り直し、今度は肩をすくめる。表情はいつもの飄々としたおじさまのそれだ。
「校長に小言を言われるとおもうかね?」
「うーん……どうかな。『役に立てなかった』と思う?」
「思うに、校長の狙いは悪魔の真実に近づかせ倒させることだ。例のスピークイージーでうけた依頼がその過程に過ぎないとするなら、ここからでも充分にやり遂げられる、だろう」
それが希望ヶ浜の未来のために必要なのだ。それさえ分かっていれば、充分だろう。
「さ、行こう」
目の前にはアンゴルモアの大王を名乗る巨大な怪物が燃え上がる剣を振りかざし立っている。
悪趣味なことだと思いながら、グレイシアは手をかざした。というのも、周囲から大軍勢がワッと沸きだし襲いかかってきたからだ。
当然グレイシアはまるで動じない。翳した腕を振ると小さなナイフが無数に飛び、軍勢の兵達の額へ次々と突き刺さる。
「守ってる間におじさまが周囲を薙ぎ払ってくれれば何の問題もないよね!」
ルアナは大王めがけて走り、手にした大剣を握りしめ跳躍。
相手も炎の剣を繰り出すが、ルアナのパワーの前には小枝も同然だ。ルアナはその頑強さで相手の剣をへし折ると、そのまま相手の身体を剣でもってたたき切ってしまった。
●中枢神経塔
終末論がやってくる。ねじれた顔でやってくる。
怒号が響く塔の中。上階に住民たちを逃がしつつ、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は手持ちの携帯食料をメシアへと手渡した。
「キミ達は応援でもしていてくれ給えよ」
「ゼフィラさんは?」
「ふむ……」
ゼフィラは問われて、そして小さく笑った。
「転移前、君達に手を貸す理由を問われたが、真相を知った今は1つ理由が増えたね。
……幻とは言え、目の前に終わりが迫る世界にあって、未来を望んだ君たちの勇気に敬意を。
終末は、我々が終わらせるよ」
そう言って飛び出したゼフィラは、バリケードを早速破壊しにかかっているネジレモノたちへとハイペリオンオーバーライドを発動。太陽の精霊たちがネジレモノの群れへと襲いかかる。
「君たちが繰り返す終末に何を捨てたかは知らないし、それを償えとも言わないさ
ただ……未来を目指す者達の戦いに、何か感じ入るものがあれば、手を伸ばせ!」
バリケードとてその辺にあったものを組み合わせただけのシロモノだ。鉄パイプやスレッジハンマーで壊しにかかるネジレモノたちの前ではそう長くもたない。
「まったく、急な展開ねぇ。
起きてしまったものはしょうがないからできる限りはやるしかないのだけれど。
戦闘、あまり得意ではないのだけれど。ここは踏ん張りどころよね」
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は『薔薇に茨の棘遂げる』と呼ばれる暴風を生み出し、ついにバリケードの第一層を破壊したネジレモノへと叩きつける。
この塔ができあがってから、ヴァイスは塔全体から願いのようなものを受け取っていた。
永遠にくり返される終末論の世界を終わらせたいという願い。この世界に捕らわれいつまでも厭世観を抱き続ける人々を救いたいという願い。そしてそれを叶えることが出来るのは、他ならぬ自分たちだけなのだ。
「……校長先生は、今回は何を用意してくれるのかしら?そろそろご飯だけじゃ足りなくなってきたわよ?」
一方で、紅紫 十四番を上階へ逃がす『陽の宝物』星影 昼顔(p3p009259)。
保護結界で塔を守りながら仲間の治癒に専念しつつという、合間も合間であったが。
「お主はよいのか? メシアと共に上の階に逃げることもできるだろう」
結界の猫がそう言うが、昼顔は首を振った。当然ネジレモノたちが上階に流れ込むようなことがあれば、身体を張って彼女たちを守るつもりだ。だがそれまでは、皆一緒に戦いたい。
だからこそ、これが最後の会話になるかもしれないから……。
「まずは有難う、色々教えてくれて。
お陰で僕は出来る事を見つけれた。
でも自分達の事はあんまり話してくれなかったね。
君達の事も知りたかったのに」
昼顔の言葉に、十四番は黙っている。
「再会なんて難しいのかもしれないけど、生きているのなら0じゃないよね?」
「……仕方の無い人ですね」
十四番は厭世観たっぷりの口調で言うと、昼顔の額にトンと指を当てた。
それによって、昼顔の脳裏に彼女たちの思い出がしっかりと『刻み込まれた』のが分かった。
「これで忘れずにすみますよ。私達のことなんて、忘れた方がマシだと思いますけど」
「……ありがとう。『さようなら』じゃないよね」
昼顔の問いかけに、十四番は嫌味ったらしい口調で応えた。
「どうせまたいつか会うでしょう。死ぬわけではないのだから」
「えっと……」
『絆爆発』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が振り返ると、紅紫 十三番は腕組みをして首をかしげた。
「もう暫く一緒にいてほしいのでしょう? いいわよ、別に」
「ありがとう!」
言いつつ、リュカシスは唇をとがらせた。
「でもさ、やっぱり、もう会えないのは寂しいよ……」
いやだけど、分かってる。それが『契約』だから。一番最初に校長と交わした契約には、きっと彼女が含まれていたんだ。
「ボクはきみに会えて嬉しかったんだ。だから、忘れないようにしてくれてありがとう。きみもボクのこと、忘れないで」
そう言い切ると、リュカシスは突入してくるネジレモノたちめがけて突進。鉄鋼千軍万馬をゴウンと唸らせると相手のボディめがけて思い切り叩き込んだのだった。
「リュカシス君……」
そんな彼の様子を見て、『結切』古木・文(p3p001262)は小さく笑った。
そして、十三番へと視線を向ける。
「君がどういった存在であれ、会えて良かった。それからリュ君の友人になってくれて有難う。彼、ああ見えて寂しがりやだから、忘れない方法を君が提案してくれた時は嬉しかったよ」
「別に、大したことじゃないわ。そもそも……友人、なのかしらね」
「今更だよ」
あはは、と文は笑い十三番も苦笑した。
「じゃ、行ってくる!」
文もまた走り出す。鉄パイプを繰り出すネジレモノの攻撃を豪快に腕で受けると、塔の中で見つけた竹刀で殴りつける。魔術でコーティングした竹刀は直刀の如き堅さを持ち、ネジレモノを殴り飛ばした。
文はこの『中枢神経塔』という名前にひっかかりを覚えていた。
もしこの街が巨大な頭脳であるとして、くり返される終末論の夢のようなものだとして。
だとしたら、いまこの塔はむき出しの脳だ。巨大な頭蓋としての街と、脳としての塔。ならば……。
「悪魔はその内側にこそ現れる。『悪魔は外にあらざる也』だ」
塔の周りを飛ぶ鴉のファミリア『ヒメ』。
そこから見下ろす景色は壮絶で、街に住む全ての人々がネジレモノとなって塔へ殺到しているのがわかった。
そんな拡張視覚を通していた『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は、片目に手を当てつつ味方への治癒を広げていく。光の娘の声、闇の娘の声、稀久理比女の声という三つの神託の声を使い分けることでオールラウンドかつ強力な治癒能力を行使する華蓮。彼女の支える戦線を突破することは数頼りのネジレモノたちにはもはや不可能といって良いだろう。
「大丈夫なのだわ、焦らず戦えば必ず勝てるのだわよ!
うちの神様から、よろしくお伝えくださいと言付かっているのだわ」
と、そこで華蓮は『ヒメ』ごしにとんでもないものを発見する。
ネジレモノたちが数人がかりで大砲のようなものを担いで塔へ突っ込んでくるではないか。
「敵の攻撃が苛烈になるのだわ! 防御を!」
「任されよう」
そこで飛び出したのは『希望ヶ浜学園美術部顧問』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)だった。
「名も無き悪魔――妙な親近感を覚えた所以は『名前』と謂うワケか。『名前』には苦労していてな。少し愚痴を聴いてくれ――」
彼女(?)は少し前までオラボナという名前で呼ばれ、通称はレイドボス。ネジレモノが放った大砲の一撃をマトモに食らったにもかかわらず、ロジャーズはNyahahahahaと笑うばかりである。そう、HP総量に比べればこのなものはかすり傷なのだ。
「此処は通さぬ。私をロジャーズと知っての戯れか。Nyahahahaha!!!」
更にはロジャーズによって仕掛けられた無数の罠が発動し、ネジレモノたちの足がとられていく。
タワーディフェンスにおいてロジャーズほど頼りになる仲間もそういないだろう。
そこへ加わったのが『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)。
「いやぁ最後の最後、間に合ったね。アリーナ最前列のチケット拾っちゃった。
でもさ、会長がそんなとこで大人しくしてるわけないじゃんね!」
茄子子はハイネス・ハーモニクスを唱えロジャーズの回復に回ると、二人あわせて鉄壁の防御壁を作り上げていく。
「最後の舞台、ステージまで上がらせてもらうぜ! これまで頑張って来た人達? それはありがとう! でも知らない! 会長は自分勝手なんだよ!
儀式の効率がどうなっても会長がいる限り誰も欠けることなんてないから!」
ネジレモノたちがあらゆる手段を使ってこちらの防衛網を突破しようと攻撃をしかけてくるが、もうこうなっては開くものも開かない。エネルギー切れを待とうとしても、茄子子の能率はまさかの100。永遠に回復し続ける超人と化すのだ。
これに超HP防壁が加わればどうしようもないだろう。無視して突破しようにも、精鋭達がソレを片っ端からなぎ払うというのだから。
「名も無き悪魔を呼び出す儀式を成功させるためにはここが正念場だな。
希望ヶ浜の生徒達の為にも失敗する訳には行かない…全力を尽くすぞ」
教師陣のひとり、というか保健室の先生として働く『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)。
彼は味方の防御をなんとか迂回して突破してきたネジレモノ相手にチェインライトニングの魔術をぶっ放した。額の赤い宝石から放たれる電撃に、ネジレモノたちが次々と倒れていく。といっても、ライの主な役割は味方の治癒である。
「にしてもこっちの回復が厚いな……悪魔と戦う前に戦闘不能者が出ないのは助かるが、殲滅力がもうちょっとほしいぞ――って、カイト、右だ!」
超人的な聴覚でバリケードの破壊を察知したライが呼びかけると、『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が氷戒凍葬『黒顎逆雨』を発動。侵入してきたネジレモノを即座に撃退する。
「終末論は俺の世界でも『流行っていた』らしかったな。……陳腐になりすぎて捨てられたモンだけどさ。
この街は嘘に溺れた連中と、嘘から『先』に行こうとした彼女達の二種類で出来てる。
嘘でも信じて縋って、みっともなくなった成れ果てがあれらなのかもな。
――いい加減、『先』に進みな。
都合のいい嘘ばっかり呑み込むと、『嘘に呑まれる』ぞ」
と、そこでカイトはふと思い出した。
「そういや、『救世主(メシア)』様の望みをまだ聞いてなかったな。あとでしっかり聞いておくかね」
この呼び方、すっげぇ皮肉言ってるみたいで嫌だけどな? なんて言いながら。
「最終決戦の切り札が合体ワザなのは燃える展開だよね! カミ様もそういうロマンって分かるかな?」
窓ガラスをたたき割り次々に侵入を果たすネジレモノたち。
それでも階段と通路を守っている限りは上階へ侵入されることはない。
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は階段に陣取ってネジレモノを殴り飛ばしながら、後ろにかばう『名も無き神』に問いかけてみた。
「神はロマンから生まれるのですよ。勿論、わかりますとも」
穏やかにそう応える『名も無き神』。彼女は人々が危機に瀕したとき漠然と祈ったことで生まれた神だ。救いを求めた証明であり、しかし救いの決定打にはなり得ない。
決定打となりえるのはそう……イグナートたちだ。
「上だ。ネジレモノが飛行手段を執り始めた」
周囲のビルから飛び移ったりヘリからの降下を行ったりと様々な方法で上階への直接侵入を試み始めたネジレモノ。
『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は窓からその様子を確認すると、いくつかの仲間達を連れて上階へと移動した。
窓をかち割り侵入してくるネジレモノにすかさず狙撃。
そんなラダの後ろにぴったりとつく形で、『名も無き神』が後ろから様子を覗いていた。
「一番安全な所にいてくれ!」
「『ここ(あなたの後ろ)』がそうですけれど?」
「夜妖だ真性怪異だと何かと意味不明な存在だとばかり思っていたが
中々どうして、この『神』もいい性格をしている。
ま、その方が私としては面白いからいいんだけど」
ラダは小さく笑い、そして上階に設置したバリケードの反対側を指さした。
「敵はこちらで排除する! 全力で駆け込め!」
窓から侵入するネジレモノたちに対してLBL音響弾を発射。昼顔をはじめメシアたちを守るべく駆けつけた面々と入れ替わるように安全地帯へと住民やメシアたちが逃げ込んでいく。
「弾正、防御を固めろ! 暫く凌ぐぞ」
「忙しいな本当に。他のチームはまだか!?」
ネジレモノの一部が拳銃を持ち出し射撃をしかけてくるが、大して『残秋』冬越 弾正(p3p007105)は二重に結界をはることで防御。
彼の目の前で弾頭が停止し、ぽろぽろと地面に落ちていく。
「持久戦に俺が向くかは定かでないが、生き汚さだけはちょっと自信があるぞ」
ほらかかってこい、と手招きをしてみせる。
「俺達が倒れれば希望ヶ浜に明日は来ない。生徒たちの未来のためなら――!」
弾正は哭響悪鬼『古天明平蜘蛛』参式に紅いUSB端子を差し込むと、コードで繋がった筒状の物体からビートセイバーを展開した。
敵の集団へと突っ込み、豪快に斬り伏せる。
「ところで『神様』、ここまでやったんだ。悪魔を倒したあとは消えて無くなるなんて事は無いよな?」
「消えてほしくないんですか?」
「ばかいうな。そういう『契約』だったろう」
弾正たちは初めに願ったことがある。希望ヶ浜という街に抱いたそれは、校長との契約という形で……無名祭という形をもって果たされようとしている。
人々は自分達が危険にさらされた過去を忘れない。もしもの備えを蓄え、次こそは手を取り合えって生き延びる。
『名も無き神』へ無意識に祈ったことを、彼らが実現するのだ。
その主役が消えて貰ってはこまるのである。
「大丈夫、だと思いますよ? 願いから生まれたのです。無名祭が開かれればきっとまた形を取り戻すでしょう」
私達はそのくらいいい加減な存在なのですから。と、名も無き神はどこか垢抜けたように笑うのだった。
(初めに関わったのが俺たちだったせいで性格に影響が出てないか?)
などと思ったのは、弾正だけではないはずだ。
●メフィストフェレス
死屍累々のネジレモノ。終末論の怪物。首なしライダーに幽霊夜妖。そして砕けた能面たち。
そんな全てを乗り越えて……中枢神経塔最上階。
ここに、40名のイレギュラーズが集合していた。
「これが『スピリットフラワー』……メフィストフェレスの真名としての情報が格納された生体記録媒体です」
『星読み』セス・サーム(p3p010326)がそっと差し出したのはカプセル状の保護ケースに入った一輪の花であった。
「情報の出力方法は既に調べ終えております。住民達が明日へと続く道を歩めるように、どうかお役立てください」
ここまでの戦いの中で、セスは名も無き悪魔ことメフィストフェレスがもはや人間に有益であるどころか害悪となってしまっていることを悟っていた。
『人間に益をもたらす物』として、その魔術装置として、あるいは希望ヶ浜学園図書館司書として、この情報をこれまで守り抜いてきたのである。
「情報の使い方。儀式魔術Ωの手法はここにある。新興宗教団体COREが人工的に夜妖憑きを作ろうとしていた計画に利用されていたものだ……全てはこのためにあった、わけだ」
『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)がUSBメモリを取り出し、それを『残秋』冬越 弾正(p3p007105)は平蜘蛛へと差し込んだ。
「名も無き神よ、どうか力を貸してほしい。俺達の校長を、あの悪魔から取り戻すんだ!」
「ええ、それが『契約』ですものね」
読み取ったデータが展開されていく。花を手に取った『名も無き神』と、『メシア』がそっと手を繋ぐ。
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)はメシアへと頷いた。
「大丈夫。この儀式場はあなたたちを受け入れているわ。私にはわかる。あの再現性廃都だって、それをどこかで望んでいたはずよ」
世界の声を聞き続けたヴァイスである。もうすっかり愛着が湧いていた。悪魔の力を僅かにそぎ取って都市ごと異空間に切り離されたメシアたち。『終末ループの終わり』を望んだ人々のなれの果てが、その様子を遠巻きに見つめていた。
だが彼らに不安のイロハない。『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)にはそれがよくわかった。
「皆は下がっていてくれ、全てを終わらせた後に誰かが大怪我してたなんて、『保健室の先生』として恥ずかしいからな」
そこまでの様子を確認して、『威風戦柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)はこくんと頷いた。
「ここに全てが揃った。真名、器、神性、そしてそれらを融合させる手段。殺せないミームであった筈の悪魔に生命を与え、今こそ殺すことが可能になる。さあ、鍵を」
『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は頷き、預かっていた鍵を取り出した。
『嘘の鍵穴』が見える。悪魔が閉ざした最後の防壁だ。『お裁縫マジック』夕凪 恭介(p3p000803)が深く馴染んでいた少女、ゆらぎの部屋から繋がっていた嘘。強固な嘘は、しかし今この瞬間悪魔の不死性すら嘘にしてしまおうとしている。
「いらっしゃいな、悪魔さん――ううん、『メフィストフェレス』!」
鍵穴に差し込んで回す、その瞬間。
儀式場に漆黒の光が満ちた。
これまで積み上げてきた全てのものが集まり、交わり、そして形を成していく。
それは無名偲無意識校長の姿に似ていて、そして黒くて怖くて大きくて理不尽なもの――その名を、メフィストフェレス。
「く……」
顔に手を当て、メフィストフェレスは取り囲む皆をにらみ付けた。
「やめろ。これは希望ヶ浜を守るための力だ。失わせることはできない」
「いいえ、あなたはもう必要ない。学園にはわたくしたちがいるのです」
セスは両手を組み、発声装置から圧縮詠唱を行い『ファントムレイザー』の術式を発動させた。
別方向から沙耶がカードを繰り出し、何枚ものカードナイフがメフィストフェレスへと刺さり、魔法が直撃する。
「物語の結末を……ハッピーエンドで終わらせようじゃないか!」
よろめいたメフィストフェレスだが、すぐにこちらをにらみ付け魔術を発動させた。
「あれは校長殿の姿をしているが、中身がまるで伴わない。俺の様なカルト信者も学園の教師として受け入れてくださった御方だ。サボり癖は、たまに何とかせいと思わんでもないが…。それでも許されるところが校長殿の人の好さよ」
突如おきた爆発を、割り込んだ弾正がシールドを展開して防御する。が、多段におきた爆発はシールドを引き剥がし、弾正の身体を吹き飛ばす。壁に激突する彼の身体に、ライとマニエラが同時に回復を飛ばした。
「見た目は校長そっくりだが…あの人とは別の存在だっていうのは案外感じ取れるものだな」
「悪魔殺しだ。姿形を真似しようとも悪魔は悪魔。加減は無しだ。弾なら気にするな。無限の名は伊達じゃない」
「全く、卒業式も入学式も、校長先生が不在なんて前代未聞よ。
長ったらしくて、早く終わってほしくて、そんな校長先生の挨拶は「日常」なんだから。
さ、戻りましょ校長」
アーリアが手をかざし、淡い緑の衝撃波を放った。
反撃は成功。メフィストフェレスは消し飛んだ――かに、見えた。
「ここは! ――悪魔の生成した異空間か!」
気付けば『先導者たらん』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は無限のハイウェイを走っていた。
横を真っ黒なバイク(おそらくハーレーだ)に跨がる校長がこちらを見てにやりと笑った。
「あの街は安全だ。外に出れば生きて行けぬ者ばかり。それでも道を開こうと?」
「皆己の道を決めることが出来る。閉じ込めることは、守ることではない。メフィストフェレス、お前を倒して希望ヶ浜に平和をもたらす! ――貴族騎士流秘奥義『鬼気壊灰』!」
繰り出す斬撃に伴って、『アラミサキ』荒御鋒・陵鳴(p3p010418)がお札の大量に張られたバイクを唸らせ並走。握った荒御鉾・陵鳴に破邪の炎を燃え上がらせ、メフィストフェレスへ斬り付ける。
「皆さん、攻撃を集中させて下さい」
今度はウルリカがトラックを運転しハンドルを回して強引に車体をカーブさせる。道路に突然壁が出来たような状態を作ると、ウルリカは運転席から飛び出しAAS・エアハンマーを作動させた。
一方で後方から迫る『カチコミリーダー』鵜来巣 冥夜(p3p008218)と『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)。
「この世の悪は耐える事がない。だが正義も消えはしない。
兄上は俺に言った。無限の闘争であり、終わりないものだと。
上等だ。何度だって立ち上がって食らいついてやる!
兄上、ローレットの皆、この街で暮らす人達…背負う想いが俺を強くするんだッ!」
妨害しようと放った爆発をバイクとティンダロスの跳躍によって回避すると、二人は同時に魔術を発動させる。
「戯曲らしく邪魔してやるよ。神は神でも邪神が、だが」
片手でjuinアプリをスワイプ操作する冥夜。鎖を編み上げ巨大な獣の牙を生成するマカライト。
合わさった魔術は、トラックに激突したメフィストフェレスへと叩き込まれる。
「ネモフィラ 青 花言葉。――あなたを許す」
『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)たちもまた、異空間に分断されていた。
ネモフィラの花畑の中央に立つのはメフィストフェレスだ。
『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)がビッとチェーンハンマーを突きつける。
「今の君は『名のない恐ろしい悪魔』じゃないこれからぼくたちに倒される『メフィストフェレス』っていう敵だ!
おばけとか幽霊は…やっぱ得意じゃないけど、「世界を滅ぼす」敵なら怖さなんて飛んでいけだ!」
「もう戦わなくていいきゅ。『結界』を守らなくていいっきゅ。希望ヶ浜は、もう前に進んでいるっきゅ!」
メフィストフェレスが繰り出す大量の影の槍。しかしそれはフリークライが立ちはだかることで防がれた。彼の強固なボディを破壊するだけの威力こそあったが、その間にリュコスとレーゲンが攻撃を叩き込むほうが早かった。
魔力で作り出した力が、豪快なハンマーが、それぞれメフィストフェレスへと叩き込まれる。
卯没瀬の自衛隊駐屯地に『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)たちは立っていた。
メフィストフェレスがゆっくりと地面から浮きあがると、両手を翳し魔術を発動させる。
格納されていた戦車が動き出し、こちらに大砲を向けた。
「希望ヶ浜は元々嘘によって作られた街。国家も憲法も存在などしていない。騙されて生きることになんの矛盾がある」
「真実を知ろうとする人も現れた。卯没瀬のループを脱しようとした彼らのようにね」
『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が歩み出て、一緒に異空間に転移させられた自衛隊員たちが一斉に銃を構えた。
「一緒に戦います。微力ながら」
「ううん、心強いよ」
斉射! という声と共に放たれた射撃に泡さえ、シキはメフィストフェレスへと斬りかかる。
放たれた大砲は、盾を展開したレイリーが受け止める。
「私がいる限り、誰も倒させないんだから!」
そして飛びかかる『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)と『名高きアルハットの裔』アルハ・オーグ・アルハット(p3p010355)。
「ようこそ、『メフィストフェレス』。そしてサヨウナラだ!」
「――あの街ならぬという貴様に、わらわはさよならを告げよう。メフィストフェレスよ」
汰磨羈の繰り出す斬撃とアルハの斬撃が交差し、手をかざし結界を張ったメフィストフェレス。だが二人の斬撃は結界をものの見事に破壊してしまう。
『誰が為に』天之空・ミーナ(p3p005003)は跳躍し、大上段から希望の剣『誠』と死神の大鎌を同時にメフィストフェレスへと繰り出した。
「もうお前は死なない悪魔じゃあない。死ね、メフィストフェレス」
なんとか腕を翳して防御しようとするメフィストフェレスだが、地面すれすれを飛行し跳び蹴りを繰り出した『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)によってそれは失敗した。
「街の皆は走り続けてるんっすよ。もう、振り返る時間は終わった。それだけっす!」
「街を守った過去については、感謝するぜ。けどもう終わりにしようや。中々に面白い遊戯だった」
蹴り上げられたメフィストフェレス狙いを付け、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は最後の引き金を引くのだった。
「…投影魔術となんだか似ている気がするね…どういう儀式内容だったか…興味があるな……知りたいこと一杯だ…。
…校長は…自分の世界を守ろうと…していたのかな…。
………僕が昔逃げ出した…あの区画(L-0ve区画)の人達のように…」
気付けば『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)は卯没瀬地区のスクランブル交差点に立っていた。崩れたビル群の中にぽつんと、メフィストフェレスは悪魔の翼を広げて浮かんでいる。
やることは一つだ。『想・神狼憑撃』を発動させて神狼の一撃を再現するグレイル。
「ぶはははは! ウチらと戦争とはいい度胸じゃねーか! ぶっ潰してやんよ!」
『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が倒れた電柱を足場に駆け上がり、メフィストフェレスへと斬りかかる。
二人の攻撃はメフィストフェレスの結界に阻まれた――かに見えたが、より強く押し込むことで結界が崩壊。そこへ3m高度で空を飛ぶ『魔法騎士』セララ(p3p000273)のセララストラッシュが叩きつけられる。
「卯没瀬の街も、もう滅びることはないよ。みんな前を向いて進むときがきたんだ!」
「いいや。人は前になど進めない。同じところをぐるぐると廻り続けるだけだ。それを実現してやったにすぎない」
「確かにそうかもね。でも、しっかり螺旋を描いて登ってるんだよ、人は!」
メフィストフェレスの作り出した偽りの剣とセララの聖剣が幾度もぶつかり火花を散らす。
そこへ『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)が銃を構え、撃ちまくった。
「ま、この街の人が何を思って終末論を求めたかは知りませんが、終わってしまったのなら仕方ないでしょう。
どうにかクソみたいな日常を生きていくだけでス。人間、結局『そんなもん』なんでスよ」
流石にキツくなったのかメフィストフェレスが波動を放つが、割り込んだ『闇之雲』武器商人(p3p001107)がその一発を完全にうけきってみせる。
「せんせーに、名前を還すとしよう。受け皿はもうあるからねえ」
「そーゆーこった」
そこへ現れたのは名も無き式神。彼らに黄泉崎ミコトの名を教えた存在である。
彼は木刀に妖力を集め、メフィストフェレスへ強烈なスマッシュを叩き込んだ。
「俺の仕事もこれでしまいだ。契約ってのはいつかは終わるもんなんだぜ」
スマッシュをうけビルの壁に激突したメフィストフェレスが地面へと落ちると、『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)と『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が襲いかかる。
「守ってもらっていた存在を今度は取り除く。何だか悲しいなぁって……けど、やらなきゃ」
(脆く儚い偽りの平穏に暮らす姿は、やはり他人事には思えない。だが――)
「害がある以上、取り除かなくてはならんからな…出来る限り、素早く済ませるとしよう」
戦いの前に、二人はこんな話をしていた。
――「校長は、再現性東京を守ろうとして契約して、それがもういらなくなったってこと?」
――「要らない…というよりは、今後の存続の為に取り除かなくてはならない」
そういう意味で、メフィストフェレスは悲しき存在だ。不要となった契約だ。故にもがき、故に現状を覆そうとした。己の契約を続けるために。
その動きこそが、今の希望ヶ浜の害となってしまうのだ。
ルアナの剣とグレイシアの魔術があわさり、メフィストフェレスへと直撃する。
「どうやら、分断をくらったようだ」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は周囲を観察しそう悟った。合流したはずの面々の姿は消え、その代わりにメフィストフェレスの気配も若干だが薄くなっている。
「自らを分割してバラバラにした私達を倒すプランだったか?
その判断は、誤りだったようだな。私達はバラバラでも強いぞ」
ゼフィラは傷付いた仲間たちを治癒するために術を発動。ここぞとばかりに飛び込んだ『絆爆発』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)がガチャガチャと変形したジャイアントナックルでメフィストフェレスを殴りつける。
そう、彼らの戦いは自由な連携が売り。その日その日でマッチアップし自分の特技を叩きつける。そうしたスタイルで生きてきたリュカシスたちにチーム分断による隙は無いのだ。
「悪魔の時代はもう終わり!」
『結切』古木・文(p3p001262)はこくんと頷き、リュカシスをサポートするように『鬼哭啾々』の術式をペンでかき上げた。
「メフィストフェレスと名がつく悪魔の計画は失敗するよ。少なくとも僕が読んできた小説の中ではね。
だからメシアさん、君の願いを弄んだ相手に痛い目を見せてやろう。本当なら此処にいる夜妖たちも普通の暮らしをする、普通の人々だった。こんな苦しみを受けて良い人たちじゃなかった。君も含めて」
器となっているメシアに呼びかける文。すると、メフィストフェレスの動きがびしりとぎこちなく鈍った。明らかな抵抗が器側から成されているのだ。メシアもまた、共に戦っているのだろう。
「よせ、抵抗をするな。永遠に望んだ世界にいられる権利をなぜ拒む……!」
メフィストフェレスが全方位に破壊の波動を放射するが、『陽の宝物』星影 昼顔(p3p009259)と『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が治癒のカウンターを展開した。
「不必要とされるのは辛いと思う。けど、だからって好き勝手していい訳がない。全部、終わりにしよう」
「あがくことは悪いことじゃないのだわ。けれど、そのために人を傷つけた。だから戦うことになるのだわ」
華蓮は多様かつ強力な治癒能力を持っている。そんな華蓮をもってしても、メフィストフェレスの力は凄まじかった。
ダメージを抑えきることはできない。だが、できなくてもいい。仲間が戦うだけの時間が稼げた時点で、こちらの勝ちだ。
「メフィストフェレスの名前には諸説あるらしいけども。
――お前が敷いた『嘘』が破壊された時。お前も『嘘』の一部になるんだろうかね。
ま、近代の創案かもしれない悪魔ほど『虚構』に相応しい存在も居ないだろうが」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は氷戒凍葬『黒顎逆雨』を発動。抵抗するメシアに更なる呼びかけを行いながら、メフィストフェレスの器に激しい縛りを加えた。
「ぐう……!」
思わず膝を突いてしまうメフィストフェレス。
細く鋭くすることで衝撃波を飛ばすが、『希望ヶ浜学園美術部顧問』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)がそれを受け止めた。
「悪魔の証明を望むな、と。貴様等こそ悪魔の証明を望んでいるのだよ」
凄まじいダメージによって身体が一度崩壊したロジャーズだが、すぐに化物めいた姿へと変貌しメフィストフェレスへと立ち塞がる。
『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)はそんなロジャーズへ治癒の魔法を飛ばした。
「黄泉崎ミコト? 知るか! 誰だよそれ!
視線寄越せよ無名偲 無意式!
名前がどうとか知らないし!
会長の中ではずっと無名偲 無意式のままだからね! 会長は偽りに包まれた校長が好きなんだよ!!
絶対もっかい踊ってもらうから!!」
校長は会長の推しなんだよ。またステージで踊ってよ。ねぇ。
茄子子の心の呼びかけが通じたのだろうか。それまで放たれていた波動までもが弱まり、黒く淀んだ姿から校長の素顔が覗き始めた。
「――それもまた――俺の名、だ――呼びたければ、そう呼べばいい――」
そこへ、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)による強烈なパンチが叩き込まれる。
「今回の戦いって現代に始まった神話であり、オレたち無名祭メンバーは神官役だよね
無事に勝てたら今までの話は文章にまとめて語り継げるようにしたいな!
戦いに勝てば無名祭で伝えていく話を考える手間も省けて、街も守れてイッセキ二鳥ってことだよ!」
「なるほど、それはいい……これが終わったら、早速祭りを開こうか」
『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)が構えたライフルから銃弾が放たれ、空中に螺旋の空圧を残しながら穿つその弾頭がメフィストフェレスの胸へと正確に吸い込まれていく。
ただの一発では勿論ない。長年の勘と経験が蓄積した強烈な一発だ。メフィストフェレスは蓄積したダメージが爆発したかのようにその場から吹き飛び、部屋の壁へと叩きつけられた。
ゆっくりと歩み寄る『お裁縫マジック』夕凪 恭介(p3p000803)。
「名前を失ってまで、ずっと一人で頑張ってきたんでしょう? 貴方が報われないなんてそんな世界おかしいわ!」
「……よせ」
手をかざすメフィストフェレスの前に、立ち止まる。
「アタシはね、元の世界でもこの世界に来てからも、生きる目的がわからなかった。けど、貴方達と……特に『黄泉崎ちゃん』と他愛ない話して過ごすこの希望ヶ浜での生活が楽しかったのよ」
メフィストフェレスから破壊の波動が放たれるより、早く――恭介の魔法がメフィストフェレスの『偽りの生命』を吹き飛ばした。
まるで蝋燭の火を消すみたいに。
●さいごの契約
卯没瀬地区に静寂が訪れた。
終末は訪れず、人々は呆けた顔をしている。
それでも生きなければならない。そう気付くまで、きっと一日もかからないだろう。
そんな街に歩み出て、無名偲無意識校長――あらため、黄泉崎ミコト校長はポケットに手を突っ込んで背を丸めた。
「この場所は、あまり変わらないな。これから変わっていくのだろう。街は人の心を映すという。停滞した人々の心を街ごと壊し作り直すのが悪魔の契約だったとしたら、それを失った今は自分達で自分達を壊し作り直す日々が始まるということだ」
理屈っぽさも、いつも通り。
わかるようでわからないようなことを喋り、一人で納得してしまう。
集まったイレギュラーズたちに、校長は振り返った。
「改めて名乗ろう。黄泉崎ミコト――希望ヶ浜学園の校長だ。今度こそ、犬に噛まれただけでも死ぬぞ」
フッと校長が笑ったように見えた。辛気くさい顔のまま。
「悪魔との契約は、これで終わりだ。今度は……お前達と契約することにしよう。希望ヶ浜の未来を、共に作っていく契約をな」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
メフィストフェレスを倒し、全ての事件に終わりを告げました。
希望ヶ浜では予定通り無名祭が開催されるでしょう。
無名偲無意識校長は真名を取り戻し『黄泉崎ミコト』と名乗るようになりました。
GMコメント
●オーダー
儀式魔術を成功させ、顕現化した悪魔を殺しましょう。
シナリオは各PCが選択したパートでのミッションをこなす前半パートと、顕現した悪魔メフィストフェレスと戦う後半パートに別れます。
前半パートは今回のOPと全開のあとがき(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9016)をご参照ください。
●後半パート
皆が集合しきった段階で『名も無き悪魔』に真名と器を与え顕現させる儀式魔術Ωを行います。
この儀式の効率如何によって悪魔の強さは大きく変わるでしょう。効率良く行えれば、悪魔の力を抑えた状態で戦うことが可能です。
現れた悪魔は校長の姿をしていますが、その強さは未知ですが40人のイレギュラーズが協力して戦う必要があるほどのものです。
無事悪魔を倒すことができれば、校長は悪魔の契約から解放され、悪魔が希望ヶ浜へとちょっかいをかけることもなくなるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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