シナリオ詳細
<Phantom Night2022>ラド・バウファントムマッチ<総軍鏖殺>
オープニング
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――大闘技場ラド・バウ。
帝都に存在しながら『政治不干渉』を掲げることである種の立場を確立させた独立区域である。
鉄帝国の誇る闘士達の卓越した戦闘能力こそが特徴のこの派閥はあくまでも日常を廃らせず、日常を謳歌することが目的である。
「もうすぐファントムナイトだよね!
だからさ、それに合わせてラド・バウでお祭りっていうかイベントとか開けないかな?」
鉄道の確保や不凍港の調査。オースヴィーヴルを襲う者達やラド・バウへの強襲の日々。
国内全体が戦場と化している今、息抜きやガス抜きを行なうべきであると提案したのは『炎の御子』 炎堂 焔 (p3p004727)であった。
これからどうなるか分からない。幾人もが恐れる『真白の恐怖(ふゆ)』がやってくる前に――
「ラド・バウでならイベントの1つって形で実現できるんじゃないかなって
子供達にお菓子配ったり、普段とは違う姿の闘士の人達でエキシビジョンマッチとかやったり!」
「ああ、よさそうだな。その方が精神衛生上良いと思う。ラド・バウはそういう所だしな」
頷く『雨夜の映し身』 カイト (p3p007128)の傍らでベンチに腰掛けていた『青薔薇見習いの赫血』 ルトヴィリア・シュルフツ (p3p010843)はこくりと頷いた。
「イベントはいいと思いますよ。
人間の心はとても脆い。何か、少しぐらい安らげることを続ける事も、"憤怒"の抑制には大事でしょう。
特に、子供達も表立って楽しめるファントムナイトなら、なおさら」
「仮装マッチなんか、見るからに楽しそうじゃないか。
生産力も結構上がったから、菓子の用意も十分に出来そうだしな」
帳簿を確認しながら告げた『ラド・バウB級闘士』 仙狸厄狩 汰磨羈 (p3p002831)へ「……イベントいいね」と頷いたのは『玉響】』レイン・レイン (p3p010586)。
「……そうだな。いいね、大賛成だ。特に今は生産力にも余裕がある。
冬の訪れの前に、お楽しみの一つくらいあっても良いだろう」
『喰鋭の拳』 郷田 貴道 (p3p000401)は帳簿を上から下まで眺め頷いた。勿論、興行イベントを行なえばその収入で得るものもあるだろう。
手をぱん、と叩いてから眸をキラリと輝かせた『雨宿りの雨宮利香』 リカ・サキュバス (p3p001254)はにんまりと微笑んだ。
「やるべきだと思いますよ! ラドバウがラドバウらしくあることが大前提なのです、こんな時だからこそお祭りはパーっとやりましょう、ね!」
騒ぎを聞きつけて顔を出した『牛乳プリンは罪の味』 社家宮・望 (p3p010773)。プリンを無限に作ることの出来るギフトを有する望はパルスのライブの際に『パルスプリン』の作成を担っていた。
「無限に牛乳プリンが出せます。ある程度ではありますが、形とか大きさとか硬さとかも自由に出来るので、おばけとかジャックオーランタンとかのプリンを作って、街の皆様を元気に出来たらなって思います」
一同の方針は決定された。折角ならばファントムナイトに『イベント』を――!
●
――当日、『アイドル闘士』 パルス・パッション (p3n000070)は可愛らしい仮装に身を包んでイレギュラーズを待っていた。
「皆ー! こっちこっち。ふふー、折角だからイベント当日用のチラシも作ったんだ。ボクのお手製だよ!
スースラとシェラにも手伝って貰ったんだけどね。あ、フェールは『わかんない~』って逃げちゃって」
頬を膨らませるパルスの傍らでは備品をチェックしているラド・バウの元闘士にして整備担当者の『斬鉄』スースラ・スークラの姿が見える。
闘技場を可愛らしく飾り付けたのは避難民の子供達なのだという。共にそうした準備を手伝ったのはエリアス・ティーネ・マイセン。此方も元ラド・バウ闘士であり現在は外交官を務めている女性だ。
「娘が子供だった頃を思い出したわ。楽しいイベントになるといいわね」
「な、なると思います。エキシビションマッチもするんですよね……? か、飾り、壊さないでしょうか!?(緊張していますの意)」
不安げに身を縮める『黒き魔導』シェラ・シィラ。魔力の扱いが超絶下手クソなラド・バウファイターは不安げにエリアスの服をつんつんと摘まんだ。
「壊さないように頑張りましょうね。お菓子を配るだけじゃなくって、エキシビションマッチも楽しめるなら皆喜んでくれるはずよ」
「お菓子がほしいだわさ~」
戦うよりも菓子に目が行っているのであろう『不沈艦』フェール・フェルミネスはスースラへと手を差し伸べる。首を捻ったスースラがそっと彼女の手に掌を乗せ「違う!」と怒られている光景にエリアスとシェラが顔を見合わせた。
「あら、来てくれたのね。聞いたと思うけれどラド・バウはファントムナイトのイベントを行なうわ。
最近は少し焦臭いけど……まあ、息抜きも必要でしょう? 何か気になることがあればアタシも相談くらいは乗るしね」
ラド・バウのリーダーを担うことになった『Sクラスの番人』 ビッツ・ビネガー (p3n000095)は「ガイウスは留守よ」と唇を尖らせた。最強の男が留守にしている間、ビッツはラド・バウを統率しなくてはならないのだが――案外、その役目が向いていたことは幸いか。
「さ、冬が来る前の最後よ。思いっきり楽しみましょうね」
冬と敢て告げたビッツは苦々しい表情を浮かべて見せた。
- <Phantom Night2022>ラド・バウファントムマッチ<総軍鏖殺>完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年11月16日 22時05分
- 参加人数51/51人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 51 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(51人)
サポートNPC一覧(3人)
リプレイ
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ファントムナイトがやって来た――!
ラド・バウは『この様な時勢』であれども通常運営が成されていた。避難民達を受け入れその心を慰めるべくファントムナイトイベントが開催される。
鉄帝国派ではラド・バウ派として掲げた者達によるイベント開催に避難民達は心躍らせる。
「マイクてすてす。えー。
――ラド・バウならではの『祭り』、此処に普段は滅多に御目に掛かれないような奇跡のマッチングも爆誕するッ!!!
てめぇら、お菓子(おひねり)の準備はいいか!!! エキシビション・マッチ、開幕だァ!!!!!」
堂々と場を持ち上げるのはカイト。特別マッチを『外』から盛り上げる実況者の役を担う。
義弘はラドバウのエキシビションマッチに参加すると決めていた。特定の相手を選ぶつもりはないが、実力が拮抗している者が居れば最良だ。
「戦いは真剣に、全力で取り組むつもりだ。……もちろん殺し合いじゃあねえから、気を付けねぇとな」
「そうよ。死んでしまったら大変だもの!」
朗らかに笑ったビッツはイレギュラーズ達が集団のエキシビションマッチを開くと聞き華やかな衣装に身を纏っていた。
曰く――「アタシも美人に化けとかないとね」らしい。パルスに普段から化けてると言われていたのはご愛敬だ。
彼が戦闘のフィールドに出て来たのはしらすの『小細工』のお陰であった。観客達が「ビッツ! ビッツ!」と珍しく彼の名を叫んだのだ。
その戦闘スタイルから人気のない……とまでは言わずとも、それ程目立った戦闘を求められないビッツは驚いていたようだが。
「俺らと遊んでくれよ、ビッツ。ほら、客も闘れって言ってるぜ?」
「困っちゃうわね」
やれやれと肩を竦めたビッツにシラスがふ、と笑う。
「りかたん師匠♡認知してくださいまし〜♡」
「……あ! リカ様!! こんにちは~!! あなたの弟子のフロラ様と妙見子ちゃんですよぉ~!!
……え? 弟子を取ったつもりがない!? またまたぁ~!!
ご冗談を!! 認知するまでフロラ様の進撃と妙見子ちゃんの追撃は続きますからねぇ~!!」
ビッツ呼ぶ声に交じってリカは呼びかけに振り向いた――が、首を捻る。雷を纏った『本気モード』のリカはうっとりと微笑んだ。
「……何か後ろで呼ばれた様な……まあいいわ。ここはここらしく。始めましょうか、楽しい仮装大会を。
ま、私はなって欲しい姿になるのが生業の夢魔。魔法の代わりに擬態を解いてとっても大きなお胸で観客を魅了してアゲて。ね?」
普段の人間(白)姿は少しばかり窮屈で。全てを解き放ったリカがぺろりと舌を見せる。
「いひひ♪ やっぱこっちの躰は窮屈じゃないしキモちいわぁ……色気づいた牡はあとでたっぷり愛したゲル?
ビッツちゃん私も混ぜて頂戴? ええ、色仕掛け勝負よ? みんなを夢中にしてあげましょ♪」
「あら、いいじゃない。アタシの色香に惑わされるわよ!」
ブランデン=グラードの探索の際にも『色仕掛け』を仕掛けようと考えていた二人の意見が合致していた。
因みにリカを呼んでいたのは妙見子とフロラであった。二人揃って『お嬢様コンバイン・フロラ号』でラド・バウを蹂躙する目的なのだ。
フロラは納戸寝込みを襲っても、弟子として認めてくれないのだと憤慨していた。旅亭『雨宿り』の地下二階を増やしてフィットネスマシンを置いて住みよくしたのに――!
こうなれば捨て身で突っ込んで『たみこちゃま&フロラ様』で認知を目指して突撃なのだ――!
「一度、ビッツ・ビネガーという闘士の実力を知りたかった。
戦闘スタイルは私に近いらしいが……。いい機会だ。私自身の身体でS級闘士の戦闘力を確かめてみよう」
「アラ、傷付いちゃうわよ?」
くすくすと笑ったビッツにモカは頷いた。バニーガールの耳を揺らした彼女の傍らから顔を出したのは貴道。
「悪いが、タイマンじゃ相手出来ねえんでな。頭数揃えさせてもらったぜ?」
「怖いわね。イレギュラーズなんて成長株に絡まれるだなんて」
貴道はガイウスに『ボス』を押し付けられたビッツのガス抜きになればとも考えていた。たまにはハメを外して暴れ回って貰えば良いとさえ――だが、本音は腕試しもしてみたい。
「面白そうなことをするじゃないか。これでビッツの強さを内外にアピールするのは、治安維持のために悪いことじゃない。
……とはいえ負けるつもりでは行かないでありますよ!」
徹甲拳を構えるエッダに続き、革手袋を着用したモカの瞳が輝いた。
「アンタに接待は必要ないだろう?
以前ガイウスに喧嘩を売った時は体感も出来なかったが……今は違う。教えてもらうぜ、S級の実力ってヤツをな!」
拳を構えて見せた貴道に続き、汰磨羈が剣を引き抜き――
「B級がS級に挑む――複数人がかりとはいえ、普通なら無謀の一言で片づけられる所業だろう。
……だがしかし、私達(イレギュラーズ)は今まで、数多の戦場で、数多の強敵に対して可能性を示してきた。その私達の力を、今此処で観客達に見せるとしよう」
地を蹴る。
「さぁ、行くぞ。ビッツ・ビネガー! 盛大に楽しませてやるから、覚悟しろ!」
シラスや貴道を主軸にし、汰磨羈とモカは『ビッツの戦闘方法』にも似通った仕掛けを見せる。
庇うエッダと魅了の気配を纏わせるリカ。透視でビッツの仕込み暗器を探ったシラスへと「エッチな子犬ね!」とビッツがわざとらしく叫んだ。
「子犬じゃねえっつってんだろ!」
ビッツ自身は茶化して自身の実力を誤魔化しているようにも見えた。チャンスに叩きつけた一撃がそうさせていたのだろうか。
絶対に高みへと――シラスは我武者羅に手を伸ばす。
「折角のお祭り騒ぎだ。こういう盛り上げは必要だろう?」
唇を吊り上げて、豪快に『見せ付ける』汰磨羈は楽しげに笑い続けたのであった。
●
「お疲れですか」
問うた沙月にビッツは「やだ、お誘い?」と笑う。多人数戦を終えて休憩していたビッツに沙月は頷いた。
「S級の実力をこの身で確かめると致しましょう。絡め手が得意とのことですし、いい経験になりそうです」
「仕方が無いわね。でも、疲れてるから……大目に見て頂戴ね?」
「はい」
頷く沙月は身軽さを生かして連続攻撃を放つ。搦め手を得意とするビッツは沙月の動きを確認しながら、彼女を見詰めていた。
しぶとく食らい付くように至近距離まで迫る沙月にビッツは「ほんと、最近の若い子ってずるいわよね。子犬ちゃんもそう。いつまでもかわいくいてくれないんだから!」と叫んだのだった。
「公式戦で勝利を収めてこそいるけど、ゼラーさんは今でも俺の1番尊敬する、憧れの闘士!
悪評を物ともせず、黙して命の門番として戦場に在り続ける姿を、すごくカッコイイと思ってるんだ」
イーハトーヴの言葉に満更でもないとでも云う様にゼラー・ゼウスが胸を張る。
「ゼラーさん、サイン、貰えませんかっ!」と声を掛けたイーハトーヴの声は緊張で上擦った。どちらかと言えばイレギュラーズの方が格上なのだ。
「俺、まだまだ未熟だけど、C級でも頑張ってて、あと、あの、ゼラーさんのグッズ買いました! ファンです!
それで、その……小声でもう一つお願い事を。
……この国が平和になったら、酒場で仕立て屋さんとしてのお話を聞かせてもらえませんか、アルドーおじいちゃん」
ゼラーはくつくつと笑った。あの、千鳥足で絡んだあの時を思い出す。「任せておけ」とイーハトーヴを撫でた掌は大きくて温かかった。
「まさか闘技場の方に居られたとは……母様はラド・バウの闘士だったのですか?」
「ええ。実はね」
引退して長いけれど戸肩を竦めるエリアスにエルスは息を呑んだ。
「……それなら……どうか手合わせ願えませんか?
私はもっと強くなりたいのです…自分に自信を持つ為にも、あの国で生きていく為にも……」
「私が手合わせの相手? 急にどうしたの? この前までラサに引き篭っていたのに……ふふ、原因は彼、ね」
くすくすと笑ったエリアスにエルスは唇を尖らせた。『彼』が原因である事が母にお見通しで頬にも熱が上る。
「その、怒られてしまったのです……あの方に。怒ると言うかその、心配……で、しょう、かね?
ま、まだ自信が持てないから……っ。か、母様までからかわないで下さい!
と、とにかく……強くなりたいんです! 元闘士の母様のお力を……どうかお借りしたいです!」
「ええ。手加減はしないわよ?」
母は本気を出す。エルスは『母を相手にすれば無意識に手を抜いてしまう』だろうから。優しい娘の本気を引き出さねば――刃が鈍らないように。
「くっ……母様、つ、強い……! まだまだ鍛えなくては……」
エリアスは赤犬が心配するという不思議な状況を感じながらも穏やかに微笑んだ。
ねえ、エルス――もし、目の前に『リリスティーネ』がいたら、貴女の刃は曇らない?
「希紗良ちゃん、エキシビジョンマッチに参加して、キャンディの数で勝負してみるかい?」
「勝負でありますか? 勿論受けて立つであります! ……ところできゃんでぃとは何でありますか?」
首を傾げた希沙良にシガーは「飴だね」と頷いた。腕試しにも丁度良いがファントムナイト自体もあまり分かってないだろうとシガーは納得する。
「この時期にお菓子を配る風習がある地域もあるからねぇ」
「飴を配る習慣でありますか。なんと素敵な!キサ、甘い菓子大好きでありますがゆえ、此度の勝負で沢山貰うでありますよ!
らど・ばうの闘士の皆様との真剣勝負。もちろん全てに勝利し、アッシュ殿にキサの実力を示した上できゃんでぃぱーてぃーであります!」
ふんすとやる気を漲らせた希沙良にアッシュは唇を吊り上げた。久方振りの『魅せる』戦い。逆転劇も観客は喜ぶだろうか。
「更にやる気が出たようで何より……さて、それじゃあ挑戦しに行ってみようか」
鯉口を切ったアッシュは考える――後々、彼女に正しいファントムナイトについて紹介してやらねばならないか。
「貴方の特集を見て、自分も魔道合気を始めたっす。お手合わせ願いたいっす」
アルヤンが声を掛けたのはフェール・フェルミネス。目を丸くして「へえ」と間抜けな声を出した彼女は笑っている。
「アルヤン不連続面、推して参るっす」
「オーケー、やるだわさ~」
菓子を求めてやって来ただけではあったがそうも言われればフェールも応戦する。アルヤンと手結果はよくよく分かっていた。
盛り上がりを見せるエキシビションマッチを眺めながらも天使の翼を揺らしていたランドウェラは金平糖を一つ口に含んだ。
「お菓子はパーティー会場にちゃんとおいてきたから、よし。お遊びしよう!!
……単騎戦は合わないのに何で来たのだろうね?! まあ、いいや。やろうやろう」
逃げながらの戦闘でもラド・バウ闘士たちとのエキシビションは十分に楽しめる。
コンバルグとのマッチを熱望していた昴はドラミングを続け「ウホホホホホ――!」と叫ぶコンバルグと相対する。
「血沸き肉踊る。楽しい楽しい殴り合いといこうじゃないか――コング!」
プロレス染みたノーガードの殴り合いだ。コンバルグに及ぶ実力には未だ遠い。
だが、純粋な闘争を楽しむことは出来る筈なのだ。闘氣を練り上げ、いざ。
「魔力の制御が苦手って言うのは知ってる。だからこそよ。
これでも防御には自信があるから、きっと受け切ってみせる。時間内にわたしを倒せるかどうかのエキシビションマッチ。どう?」
「あ、あの、その……手加減、苦手です」
不安げなシェラにセレナは「ええ、大丈夫」と微笑んだ。妖狐の尾を揺らがせるセレナの前で緊張したようにシェラは「お願いします」と頷いた。
生半可な威力では無い事に気付いている。それでも受け止められるようにならなくては何も護れないから。
「――来て! 護る為に、わたしも強くならなきゃいけないから!」
魔導を手繰るように魔女は力を込める。その全てを捧げるように。
各派閥の様子を見て回ろうとマルクはアーカーシュ――『独立島アーカーシュ』の制服を着用していた。
「ラド・バウはライブにエキシビジョンマッチ。熱気ならここのお祭りが一番かもしれないな」
盛り上がる観客達に菓子を配りながら歩き回る。直接その目で他の派閥を見たいと考えていたのはアーカーシュがどう動くかの指針になるからだ。
微妙に足並みの揃わないところがあるが、それでも六派の協力は不可欠だ。ファントムナイトが過ぎ去った後に、新皇帝派を打倒する事を夢に見て。
●
「ふふ。子供達の飾り付け、よく出来ていますね。荒れた世情もありますからねえ、こういったガス抜きも必要でしょう」
大きく頷いたのはルトヴィリア。『いもに』なるものは勉強している味噌味や醤油味もしっかりと準備した。
シスター服姿のルトヴィリアの『芋煮』に誘われる子供達。お腹が膨れたから遊びたいとルトヴィリアの手を引く者も居る。
悪魔の姿に変身し、ファミリアーの鴉と共に子供達と闘技場を歩き回る。
「がおーぅ、わるいこたちよ、ようこそーぅ。ラド・バウの大闘技場じゃあ、今回最大級のイベントもやってるぞーぅ」
少しの気恥ずかしさも今日ばかりは秘密なのだ。
ちょこんと座っていたマイケルに三角帽子を被せ蝙蝠の羽根飾りを付けたトールは「マイケルくん」と呼びかけた。
「……ん、マイケル、喜んでる」
「わっ!?」
マイケルの傍に佇んでいたウォロクにトールはびくりと肩を揺らした。男性の姿になりたかったトールは現実逃避でマイケルと遊んでいたのだ。
「あ、あの、餌とかあげても?」
「……ん」
南瓜にふすふすと鼻先をひっつけるマイケルを抱き上げ、ブラッシングしてやる。その重みも心地良いのだ。
「ラド・バウのファントムナイトパーティー、楽しそう! 僕も色々楽しむよー!」
にんまりと微笑んだのはチェシャ猫を思わせる仮装に身を包んでいたヨゾラ。持ち込んだのは手作りクッキーやジュースだ。
パーティー会場のテーブルに置かれた菓子を眺める子供達は「猫さん、もらってもいい?」と瞳を輝かせている。
「うんうん。一緒に食べよう」
遠巻きにパルスのライブが始まるという声が掛かる。ラド・バウ誇るアイドル闘士のステージを菓子類を食べながら楽しめるのは贅沢だ。
可愛いと声を掛ければ子供達が「コール教えて上げる!」と張り切った。嬉しそうな子供達の笑顔を護る事も自身の責務だと胸に懐いて。
避難民の子供達と共に触れ合うためにゲオルグはにゃんたまとふわふわ羊のジークを召喚した。
「わあ、だっこしていい?」
「ああ、この円な瞳に魅惑のふわもこまんまるマシュマロボディ。
優しくそっと抱きしめれば、幸せな気持ちに満たされること間違いない」
そっと抱き上げてやってほしいと告げるゲオルグに子供達が喜び微笑んだ。
「私達は明日に向かって生きていかなければならないから。
より良い明日を掴む為には前へと進んでいくしかない。今日という日の想い出が、いつか明日へと向かう力になるといいな」
ゲオルグのそばをするりと抜けてやって来たのはアルミラージ。何をしましょうと周囲を見詰めていたフルールはぱちりと瞬いた。
「ラド・パウでお祭り、良いわね。こういう喧騒がラド・パウの魅力ですから。私達も、大いに楽しみましょう。
私は子供と遊びたいですね。この情勢で一番悲しい思いをしているのはきっと子供達ですもの。ね? アルミラージ」
子供達の元へと進む精霊達。フルールの契約する精霊達も共に遊びたいのだろう。
「大人も楽しいのが一番ですけど、遊び盛りの子供が抑圧されてるのは悲しいこと。たくさん遊んで、身体を作ったり、友達との絆を深めたり。
大人みたいにできないからこそ、とても大事なことなのよ。いってらっしゃい、キャスパリーグ。遊んで上げてね」
楽しげな子供達に微笑めば、其れだけでも喜ぶような声が上がった。
「ひわわ……な、なんでこんな淫魔みたいな姿になってるのよ……。
あたしがなりたいからこうなったって事なんだけど……うぅ……」
蒼い肌にをした殷魔の姿になっていることに驚いた奈々美。それでも此の魔法は当人の望むと通りになるらしい。
尾を揺らがせてから気を取り直す。格好に戸惑っていては本懐を遂げられないのだ。
「とりあえずお菓子を配っていかないとね……ハッピーファントムナイト……なんちゃって。
こ、子供たちというか周りの人の視線がなんかいつもと違うような……。
うぅ……は、恥ずかしすぎる……でもクセになっちゃうかも……なんて……ふひ……」
怪しく笑った奈々美の尾をぎゅっと掴んだ子供は無垢な表情で首を傾いでいた。
望はパルスのプリンを作った要領でジャック・オー・ランタンや蝙蝠を思わせるディテールのプリンを作り続ける。
美味しいプリンがあれば、子供達も大喜びだ。
「ま、まだまだいろいろわからないことも多いけど、みんなの笑顔のために、俺、頑張るね」
――ライブが始まった。レインは裏方役として水と塩分、エネルギーの補給のためのサンドイッチを用意する。
「直ぐ摘めるし……直ぐ飲み込めるって聞いたから……作ってみた……。
初めて作ったから……ちょっと自信ないけど……栄養と水分は取れると……思う……」
食糧を準備したならばお次は七色ミラーボールで照明係。星降る夜に激しさをお見舞いするように、曲調に合わせて色鮮やかに。
(此処に来て……色んな体験をして……。
ラド・バウに居る人や避難してきた人が、皆……悲しい顔や辛い顔してる事……多かったから……)
関わることで楽しい顔をする避難民達を見れば心がふんわりと和らいだ。
「いいっすか良い子の皆~!!!
ライブを盛り上げてれないと君のハートをKOしちゃうっすよ~!!! Fooooooooo!!!」
手をぶんぶんと振りながら踊る無黒の笑顔が輝いた。パルスが嬉しそうに笑ってから歌声が響き渡る。
(いつかこんな姿になる時が来るんじゃないかって思ってた。
パルスちゃんみたいに皆を笑顔に出来るような存在になりたいって思ったことはあるもん
でも、今年はライブのお手伝いをするからパルスちゃんに会うことになるのに! やっぱり、その、この恰好で本人に会うのはちょっと恥ずかしいなって……)
一瞥すれば、目の前にはお揃いの衣装のパルスが立っている。焔の緊張は最高潮レベルとなる。
「焔ちゃん、こっちこっち! 踊れるでしょ?」
「えっ、確かにパルスちゃんのお歌もダンスもちゃんと覚えてるし、お家でこっそり真似してみたこともあるけど!
パルスちゃんと一緒になんてボクの心臓がもたな……あっ、待って! そんな風に手を引っ張られたら、あっ、ああああああ!!!」
手を引いて走るパルスに「そんなことをされたら――!」と焔は叫ぶことしか出来なかった。
サクラが待っている。パルスとの試合は再現性東京で見たミュージカル仕立てだ。
「サクラちゃん、待たせたね!」
「さぁ、剣を抜けパルス! 姫の騎士にふさわしいのはどちらか勝負だ!」
お姫様――こと焔を背にしてパルスはにんまりと微笑んだ。歌って踊って、手数で戦うサクラをひらりひらりとパルスは躱す。
本気で無くても真に迫った演技を行なえば、手に汗握るステージとなる。
「ヴァイス☆ドラッヘ……じゃなくて、愛の小悪魔ヴァイス❤トイフェルヒェン、只今参上!」
何時もよりもあざとく愛らしく。悪魔の角にギザギザの翼、フリフリの可愛い衣装。全ては純白の小柄な少女が舞台へと飛び出した。
「レ……ヴァイスちゃん!」
レイリーの登場にパルスが手を振った。レイリーもパルスのファンの一人。一緒のステージで踊って歌って。
彼女が舞台で楽しそうに笑うから。レイリーだって楽しみたかった。甘いお菓子とウィンクと投げキッス。
レイリーが行なえばパルスも真似て、会場は大盛り上がりだ。
「ぱっるすちゃーーん! 今日はありがとー! トリックorトリート! みんなはどっちが好きかしら?
私もみんなも楽しまなきゃ損でしょ。だから、全員が楽しめるライブをやりたいわ!
今日はみんなを虜にする小悪魔よ! 甘い夢をみせてあーげる❤」
●
「どうだ琉珂。お前もアイドルやってみるか?」
「さっき、スティアさんに引っ張られていったけど踊れなかったもの」
そうかとルカがくつくつと喉を鳴らして笑う。拗ねる琉珂は「踊りのエスコートもしてくれるならもう一度頑張れるけど?」とルカを一瞥する。
「ああ、構わないぜ。エスコートが必要ってんなら一緒に舞台にあがってやるさ。
うまくやろうなんて考えず、演者も観客も一緒にバカみてえに盛り上がろうぜ。
あとで思い返せば忘れたくなるような醜態も、その時の楽しさには変えられねえ」
「脚を踏んでも許してくれる?」
「ああ、構わない。
行こうぜお姫様。なんせ今日はファントムナイトだ。なりたいものになろうってんなら、神様がお膳立てしてくれる日だぜ?」
揶揄い笑ったルカの手をぎゅっと握ってから琉珂は「それじゃ、一緒に来て!」と弾むような声音で言った。
「絶対に踏むから!」
――それは宣言することなのだろうか。
「アイドルライブ? 華やかでいいわね……セージはああいうタイプの娘とか格好が好みなの?」
魔女服を身に纏っていたディアナをまじまじと見詰めてからセージは「誰かさんのおかげで、今はロングスカートタイツの方が好みだな」と呟いた。
短いスカートが好きだが、と『魔女』に告げた騎士。
「ばか!」
差し出したお菓子を受け取ってからセージは唇を吊り上げた。
「ありがたくいただくが…悪戯はお預けってことか」
「……セージがしたいなら、受けて立つけど?」
ぶすったれた様子で、少し拗ねて見上げるディアナにセージが笑う。
「くく、好きな子には悪戯したくなるものだからな?」
「そういうとこ、ほんっとーーーーに狡いわよね?」
物陰で愛を囁くように――そっと引き寄せたまま背をなぞったセージの指先にぞわりと走った衝撃を堪えきれぬとディアナは叫んで。
「きゃーーーーーーーーー!?」
とんてんかん。そんなリズミカルな動きで整備を繰り返しているスースラを眺めていたのは弾正とアーマデル。
為せばなると堂々と宣言する彼を心配している弾正はまるで母のようである。
「多い……直すものが多い…ッ!
疲れたらとりあえず当分補給だ。――ッ、お、おお俺は犬ではない! 狼男だッ!」
ついつい餌付け禁止の看板にビクッと肩を揺らしたのは仕方が無い事である。
ゲーミングマグロの姿をしていたアーマデルは「専門的・技術的なことは出来ないが、雑用的なことなら任せてくれ」と気を配っていた。
カワイイネコチャンを捕まえるゲーミングマグロ。その様子を見詰めていたスースラは真顔であった。
「シタツンガの因子が疼く? だ、ダメだぞスースラ殿。
アーマデルは確かにじっと見れば見るほど油がのっていて、鮮度ばっちりで今にも咥えたくなるぐらい魅力的なゲーミングカジキマグロだが……。
骨(中身)まで全部俺の物だからな。だ、ダメだぞ。囓るだけではないぞ」
「為せばなる」
「なるのか?」
「アーマデル! ならないだろう?」
大騒ぎをしている三人。弾正を見詰めたアーマデルは可笑しそうに笑った。滅多にない機会を楽しんでいたはずが、会話が弾み楽しくもなってきたのであった。
「マリィ、あれ! あのお店、見て下さいまし! あんまり見たことない食べ物が並んでいましてよ! 誰かが持って来たのかしら」
目をキラキラとさせたヴァレーリヤにマリアは「わ! 本当だ!」と不思議そうに店頭を眺めていた。何処の国の料理だろうか。スパイスの香りが鼻先を擽る。
折角ならばと購入するマリアが「はい、ヴァリューシャ!」と満面の笑みで食べ物を手渡せば――
「ありがとう、大好きでしてよ! 折角の思い出ですもの。綺麗な景色を見ながら二人で食べましょう!」
喜びの儘にマリアへと飛び付いてぎゅうと抱き締めるヴァレーリヤにマリアは「危ないよ」と笑いながら抱き留めた。
大好きの言葉に応じ、二人で歩いている最中――じいと避難民の子供が此方を見ていることに気付く。
「……ねえマリィ。私の分、あげてしまってもよろしくて?
こんなことをしても、あの子達の問題は解決しないっていうのは分かっているのだけれど」
「勿論さ! 君らしくて素敵だと思う。
例えあの子達にとって、何に問題の解決にならなかったとしてもさ……君の心の温かさがあの子達の心に残るって思おうよ」
子供の腹を満たせども、解決せぬ問題である事は分かって居る。それでも。そうして分け与える彼女が好きなのだとマリアは微笑んだ。
「あ、琉珂ちゃん!」
手を振ったスティアは可愛らしいお姫様だった。折角ならば普段は出来ない事をとエプロンドレスの琉珂の手を引いて、ラッピングした菓子を配り歩く。
琉珂は嬉しそうにラド・バウを眺めた後、ステージを見上げて「パルスって凄いわね」と瞬いた。
「憧れる?」
「かも……なら! 皆を笑顔にするために頑張ろー! ……って琉珂ちゃんは歌と踊りはできるんだっけ?
困ったら気合と元気で乗り切れるような気がしないでもないけど! ということで強くあたって後は流れでいってみよー!」
「え、ええ!? お、踊れるかしらー!?」
手を引いたまま、スティアはライブへと飛び入り参加を決めた。ぎこちなさ過ぎる里長のダンスもご愛敬なのだ。
「はいどうぞ。まだまだ沢山あるよって、大丈夫よ」
微笑みスープを配るのは眼帯姿の赤ずきん。そばでお手伝いをする『ぺんぎんさん』はぴょんぴょんと跳ねている。
本当ならば彼女も子供としてパーティーに参加するのだろうが――今日という日はそのやる気にお願い事を。
「えとえと。スープなのです! あったまるです! はっ、蜻蛉ねーさま、もうお鍋が空っぽになりそうです!」
「もう少しスープを足して来よか? すごい勢いでなくなってしまうわ」
メイの仕草にクラリーチェを重ねて蜻蛉は思わず唇を噤んだ。あの娘も、こうやって炊き出しをしていた。
「メイちゃんのお姉さんも、教会でこやってお腹が空いた人にスープを配ってたんよ」
「クラリーチェねーさまが教会に来た人に何かしてたのは知ってたです!」
メイが「ぽかぽかします」と微笑んだ。あたたかさをとどけること。それが幸せだと蜻蛉も知っていた。
お腹が空けば悲しくなってしまうから。思わず彼女を思い出した蜻蛉の手をそっとメイは引っ張った。
「蜻蛉ねーさま。次のお鍋が空っぽになったら、メイたちもあったかいもの、食べるですよ」
「はい、二人でぽかぽかしましょ」
ころころと笑ったメイに蜻蛉は頷いた。暖かくて幸せになれるなら。ふたりだって。
●
「ゆえ、リュカ。ほらほら時間よ」
手を引っ張る鈴花に「待って待って」と走る琉珂。嬉しそうに追掛けるユウェルはえへんと胸を張った。
「今日のわたしははーとのじょーおーだから偉いのだ! むふー。
食いしん坊りんりんにちゃんとついていくよ。じょーおーだからね」
「ちがっ、――こ、これはこの姿になりきってるからで決してこっちの食べ物が楽しみすぎるわけじゃないんだからね!?」
「美味しいものは仕方ないわ、兎さん!」
不思議の国に迷い込んだようにハートの女王のユウェルが「いいよ!」と微笑めば、アリスの琉珂が揶揄い笑う。
頬を膨らませながら『食べ放題』を心待ちにしていた鈴花はこほんと一つ咳払い。
「とはいえもらってばかりじゃだめだもの、アタシもかぼちゃのパイとかクッキーを焼いてきたからお裾分けよ」
「食べほーだいだからいっぱい食べるぞー! じょーおーはくーふくなのだ!
あっ、りんりんもお菓子作ってる! 実はわたしも!
隠し味にオニキス(宝石)を入れたマフィン! 味見したけどおいしかったよ」
「私も、作ったわ!」
オニキス入りのマフィンと動き回る謎のクッキー。鈴花は今までにない以上に穏やかに微笑んだ。
「……リュカとゆえのお裾分けはやめましょうね」
「えー?」
「こっそりおいておきましょうよ」
「止めろってば!」
琉珂を羽交い締めにした鈴花に「助けてユウェルーー!」と琉珂はばたばたと手脚を動かしていたのだった。
揃いの黒兎は給仕に適した衣服であった。「偶にはこういう格好も悪くないね」と微笑むギルオスを見上げ、ハリエットは瞬いて。
「私ね、ちょっと嬉しいんだ」
兎の耳をぴこりと揺れ動かしてから礫を蹴り飛ばす。
「自分のことで精一杯だった私が、今こうやってお菓子を配れるようになった」
「ハリエットも人との関りが、きっと慣れてきたんだね。いい事さ」
共に買い物に赴いて、共に品を選んで、ラッピングも子供達が喜ぶようにとセレクトした。
「小さな子の喜ぶ顔が見れるのって、いいよね」
「……ああ、本当に笑顔とはいいものだ」
子供達にせがまれて菓子を渡したハリエットはつられて笑顔になった。その様子を見ればギルオスの口許にも自然に笑みが浮かぶ。
子供達も、ハリエットの笑顔もどちらも良いものだから。
「あ、そうだ。これはギルオスさんに。いつも付き合ってくれてありがとう」
「おっと。ありがとう――こう言っておくべきかな? トリック・オア・トリート! ってね」
揶揄い笑ったギルオスにハリエットは頷いた。『お菓子を貰っても』ギルオスはささやかな悪戯を。兎の耳を揺らして手渡されたのは小さなクッキー。
もう少し子供達に菓子を配ったら何処かで共に休憩しよう。
翼に悪魔の角、サキュバスを思わす衣装に身を纏っていた麗華は南瓜クッキーと南瓜スープを自作して子供達へと配布していた。
「ファントムナイトという事もあるけど何よりこんなご時世だからこそ祭りというものは必要不可欠」
頷きながら、子供達に視線を合わせて手渡す。お姉ちゃん有り難うと微笑む子供達の笑顔が眩い。
「皆いっぱいあるからどんどん食べてくれ」
敵陣真っ只中であるラド・バウだが、輝く子供達の笑顔は見ているだけで癒やされる。
(……フフ、可愛い美少女と美少年に囲まれて幸せ……ぐへへ)
――少しだけ、よこしまな気持ちが芽生えたのはその衣服によるご愛敬。
●
「これは大したことではないし、私が誰かも聞かないでほしいんだけど」
小脇に抱えた鉄仮面が喋っていることに気付いてビッツは「ねえ、『仮面ちゃん』?」と声を掛ける。
「え、ここが頭よ。テーブル置いて良い?
でね、悩みなんだけど……どうやったら、皆に好かれるようになるとおもう?」
「――アタシに聞くこと?」
テーブルに置かれた鉄仮面を見詰めたビッツに仮面ちゃんこと『イーリン』は頷いた。
「血迷ったとか言わないでよね。
……私は多くの人に支えられてるし、感謝もしてる。けど、それに応えられてるという実感がないの。
このままじゃ、皆にそのうち呆れられちゃうんじゃないかって。どうすれば、もっと皆にお返しできるかしら」
「馬鹿ね、仮面ちゃん。アンタは其の儘で良いのよ。我武者羅に走って行った後にお礼をちゃんと口にしなさいな」
嫌われ者のビッツ・ビネガーに聞く事ではないと揶揄うように鉄仮面の鼻先を突いて。
ビッツに洋服を勧めて貰った事があるとセチアは個人的にビッツを慕っているのだと声を掛けた。「嬉しいわね」とビッツは笑みを浮かべる。
差し入れを用意して「相談って必要?」と問い掛ける。
「必要ないけど何かあるなら聞くわ」
「んー、新しいビッツさんの衣装も素敵だし、私も新しい戦闘服欲しいな~と思ってたから一緒に考えてくれると嬉しいかしら!」
「そうね。セチアは赤が似合うものね。今のも素敵だと思うけれどもうちょっと女らしくフリルとかあってもいいんじゃない? 気分で着替えるのよ」
堂々と言ってのけるビッツに「成程!」とセチアは微笑んだ。
「私自身に悩みはないけど……ビッツさん自身が心配かしら? 苦々しい表情で"楽しみましょ"って言ってたから。
私はラドバウでビッツさんが1番が気になってる。だから貴女が楽しんでくれなきゃ嫌よ!」
「あら、ありがとね。アタシの化粧もヨレヨレだから疲れてるだけよ。元気が出たら何時も通りになるわ」
「あ、何かあればいつでも頼って頂戴ね! 囚人関係なら特によ! だって私、看守だもの!」
「それ!」
ビッツは指差した。「アイツらがくるとアタシのパックの時間もとれないもの! やんなっちゃう!」と唇を尖らせた彼にセチアはくすくすと笑って。
「どーも、佐藤美咲でス。いやね、私もファントムナイトの認識が無かったわけじゃないんスよ。
ただね『何かしらの姿にはなるだろう』と思ってたら、気づいたらファントムナイト当日になっていたんスよねー……」
「あら、忙しかったのね」
「そうそう!」
頷いた美咲はずずいとビッツこと『ビツ子姐さん』の前に乗り出した。
「で、そこでビツ子姐さんに相談なのが、ファントムナイトの心構えと……もし私の姿が変わるとしたらどんなのかってところでスかね。
元の世界では就職してからイベントといっても『あー……めっちゃ人増えて仕事も増えるんだろうなー』とか『今度の限定ガチャ何かな』ぐらいしか考えてませんでしたからねー……」
ビッツは美咲をまじまじと眺めてから「ファントムナイトは楽しんでも仕事してても問題ないわよ」と前置きをした。
「なりたい姿がないならオーソドックスなものも可愛いわよ。ま、アタシに仮装してもいいけど」
「いやあ」
「何よ。魔女とか似合うんじゃない? ヴァンパイアも可愛いわよ。こうやってアタシに相談に来てる時点でイベント楽しめてるわよ」
アドバイスをするビッツに「本当に相談乗ってくれるんスね」と美咲はぱちりと瞬いて。
イグナートはパーティーの給仕やパルスのライブの裂整理、エキシビジョンマッチの選手運搬などを担当していた。
ビッツは今のラド・バウを纏め上げている。リーダーの役割に疲労の色が見えるのも確かだ。
ヴォードリエ・ワインを手にしてイグナートはグラスを差し出した。
「今日はオツカレ様! 寝る前にイッパイどうだい? なかなかリーダー代行が板についてたね!」
「それって喜んで良いのかしらねえ」
「勿論。個人的には新皇帝はビッツでもアリかなって思ってるんだけれど、ビッツやる気ない?」
イグナートの言葉にぎょっとしたように目を丸くしたビッツは「いやよ」とグラスを揺らした。
「だよねー」と笑ったイグナートにビッツは「アタシ、上は向いてないのよ」と頬杖を付いたまま言った。
「それにヴェルスがひょっこり返ってきたらどうするの? アタシ、殴られちゃうじゃない」
揶揄うように笑った彼が皇帝の帰還を望んでいることをしり、イグナートは「そっかあ」と頷きを返したのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
ハッピーファントムナイト!
GMコメント
夏あかねです。ラド・バウ派からの提案イベシナですが他派閥の方もどうぞ、宜しければ。
●ハロウィンナイト
ファントムナイト(混沌世界のハロウィン)は10/31-11/3まで続く不思議なお祭りです。
フェアリーテイルと同じく住民達は11/4 0:00まで不思議な魔法に掛けられてその姿を『なりたいもの』に変貌させることが出来るのです!
勿論『魔法にかからない』者も居るでしょうが……よければ、魔法に掛けられてみませんか?
「私は誰よ」と言わなければ、ひょっとすれば気付かぬ者も無数居るかも?
SDイラストを参照することも可能です。
●行動
※一行目:行動は冒頭に【1】【2】【3】でお知らせください。
※二行目:お洋服指定があれば(SDイラスト指定でも可能)
※三行目:同行者(ID指定又はグループタグ)
例:
【1】
2022/SD
【リリファルゴン】
【1】ラド・バウでファントムナイトパーティー!
避難民の子供達が飾り付けた闘技場でファントムナイトのパーティーを行ないましょう。
闘士や避難民の子供達との交流、食事を楽しむこと等、パルスのライブに参加etc……。
料理や飲み物等の持ち込みは歓迎です。個人での持ち込みは生産力に直接関係はしませんが、有り難いお品になると思われます。
ラッピングされたお菓子を配り歩いたり、パルス・パッションによる『アイドルライブ』に参加してみるのも楽しいかもしれませんね。
ラド・バウの敷地内から出る事は出来ませんが、ラド・バウの置かれる情勢的に周辺警戒などを行う事も可能です。
【2】エキシビションマッチ!
ラド・バウの闘士の皆とエキシビション・マッチを行ないます。
報酬はキャンディが中心。「より素敵だった方」の籠にお菓子を投げ入れるお遊びマッチです。
お手合わせも可能ですし、本気で戦う事も可能。皆さんのお好みのバトルで魅せて下さいね。
※公式試合ではないのでこの戦闘でのランク変動はありません。
【3】その他
当てはまらないけど此れがやりたいという方へ……。
「ビツ子の部屋でもあるわ」とビッツさんが相談にも乗ってくれそうです。
ご希望にお応えできなかった場合は申し訳ありません。
●NPC
・『Sクラスの最も華麗で美しく残酷な番人』ビッツ・ビネガー
・『アイドル闘士』パルス・パッション
・元闘士『斬鉄』スースラ・スークラ(関係者)
・元闘士『外交官』エリアス・ティーネ・マイセン(関係者)
・『不沈艦』フェール・フェルミネス(関係者)
・『黒き魔導』シェラ・シィラ(関係者)
……このほかの闘士達もおります。ラド・バウコンテンツの闘士や関係者さんなど、お気軽にお声かけ下さい。
その他、月原・亮 (p3n000006)、フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)、珱・琉珂 (p3n000246)は何処へでもふらふらやってきますので良ければお声かけ下さい。
●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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