シナリオ詳細
<覇竜侵食>地下帝国に潜むは如何なるか
オープニング
●忍び寄る闇
亜竜集落イルナーク。
それは巨大なサンダードレイクの骨を目印に岩山をくり抜いて作った、堅固な亜竜集落だった。
幾つか存在する小集落の中では最大規模であり、フリアノン、ウェスタ、ペイトの3つの集落に迫る規模を誇っていた。
それを可能としたのは、イルナークの構造にあった。
イルナークの目印である巨大なサンダードレイクの骨は生きていた頃は天を駆け亜竜の頂点を争っていたとも伝えられる亜竜のものであり、物言わぬ骨となった今でもワイバーンや空飛ぶ亜竜たちを恐れさせ、近づけない。
アトラスやネオサイクロプス、ワーム……それこそ他のドレイクですらも、サンダードレイクの骨を恐れていた。
それに加え岩山をくり抜いた堅固な構造による防御力も合わされば、それこそフリアノンに迫るとまで言われた安全地帯だったのだ。
このままいけば、フリアノンと繋がる地下通路の開通まで話がいくかもしれない。そうまで言われていた。
だが、イルナークはある日突然滅びた。
『鉄心竜』黒鉄・奏音(p3n000248)、静李、棕梠。
亜竜種の少女3人による、なんてことはないイルナークへのおつかい。
それは、燃えるイルナークと……イルナーク内部を這いまわる「アダマンアント」によって崩された。
恐らくイルナークの住人は全滅。
詳しい調査をする時間も余裕もなかったが故に確定ではないが……可能性は限りなく低いだろう。
そして静李により、イルナークの地下階層にアダマンアントが開けたと思われる大きな穴がある事も知らされている。
地下を掘り進めればそういった地下生物が出てくることは珍しくもないが……アダマンアントが1つの集落を攻め滅ぼすような攻勢に出るのは非常に珍しい。
あるとすれば……アダマンアントを統率する女王種「アダマンアントクイーン」の登場。
それすら可能性に過ぎないが、とにかく尋常ではない事態が発生している。
この事実を憂慮すべき事態と判断した3つの里の里長達は、大規模な調査作戦の開始を宣言。
今回の件に関わった3人娘を代表として、イレギュラーズへの大規模な協力要請がなされたのだった。
●イルナークより地下帝国へ
「ボクたちに力を貸してほしいんだ」
奏音はそう言うと、1つの集落への地図を机の上に置く。
亜竜集落イルナーク。
そう呼ばれていた場所への地図であり、今回の事件の現場でもある。
「亜竜集落イルナーク……ボクの友達も暮らしていた集落だったんだ」
だが、イルナークはアダマンアントの襲撃で滅びた。
侵攻ルートは地中からイルナークの地下階層に穴を開けることによるものだ。
硬い岩盤に守られていても、アダマンアントの顎の前では粘土同然だったのだろう。
「……だが問題は、アダマンアントが積極的な攻勢に出た事だ」
静李はそう言うと、憂鬱そうに地図上のイルナークを指で叩く。
「従来であれば、アダマンアントは亜竜種を積極的に襲ったりはしない。縄張りを侵す者には反撃するが、集落を襲うような例は……一部の例外を除いては、ない」
その例外が統率者である「アダマンアントクイーン」の登場だ。
というのも、アダマンアントは食事を自分が掘った土から摂取できてしまう。
亜竜種を襲う理由は通常ないが……アダマンアントクイーンは別だ。
強力な「戦闘種」を生み出すアダマンアントクイーンはその性質故に栄養価の高い餌を必要とする。
だからこそアダマンアントクイーンが登場すると、アダマンアントも亜竜種や他の生き物を襲うようになる。
「つまり、そんな状況である……と判断されているわけだ」
「だからこそ、今回の件はイルナークの全滅だけでは終わらないの」
静李の言葉を引き継ぐのは3人娘の最後の1人、棕梠だ。
「アダマンアントクイーンがイルナークを襲った。なら、その後は? 今回のアダマンアントクイーンがそれで満足するのか、それとも勢力拡大をするタイプなのか……見極める必要があるの」
事実、アダマンアントクイーンは過去にも発生している。
その性質は様々で、小さな自分の縄張りを持ち続けているタイプもいれば、何処までも勢力を拡大していくタイプもいる。
どちらも危険であることに変わりはないが、前者であれば放置されてきた例はたくさんある。
イルナークほどの集落を襲った以上、里長達は今回のアダマンアントクイーンは後者であると判断している。
だからこそ、調査をしなければならない。
そして可能であればアダマンアントクイーンを倒さなければならない。
それさえ叶えば、アダマンアントの地下帝国は自然と無害に限りなく近いものに成り果てる。
「……勿論、今回はそこまで出来るとは考えてないよ。目的は正確な調査による影響度の測定だね」
そう、奏音の言う通り何も分からない状態でアダマンアントの地下帝国に踏み込むのは命を捨てるのと同義だ。
確認すべきは通常のアダマンアントと違う「戦闘種」の存在の確認。
それが確認できれば、撤退しても構わない。
まずは情報を持ち帰る事。それが大切なのだから。
- <覇竜侵食>地下帝国に潜むは如何なるか完了
- GM名天野ハザマ
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月10日 22時15分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
●集落調査
亜竜集落イルナーク。死してなお強大な威圧を放つサンダードレイクの骨と、頑強な岩盤に守られた集落。
亜竜種の数も三大集落に迫るほどに多かったこの場所が滅びてから、すでに数日が経過した。
死する亜竜に守られた集落はそれ自体が凄惨な死の香り立ち込める現場となり、生存者の可能性はすでに絶望的ですらあった。
そしてそれはイレギュラーズの面々にサンダードレイクの骨という「お守り」の効力に疑問を抱かせるにも至っていた。
だからこそ、『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)はサンダードレイクの骨に何かあった可能性を考えた。
サンダードレイクの骨に単純な威圧以外にも何かしらのお守りたらしめる儀式のようなものがあり、そこに異常がある可能性があるのでは……と、そう考えたのだ。
だからこそ、行人は3人娘にその辺りの知恵を借りるべく同行を頼みイルナークの上層部へと向かっていた。
そして『鉄心竜』黒鉄・奏音(p3n000248)、静李、棕梠。3人娘と共に、イルナークの天辺に登りサンダードレイクの骨を確認していたのだ。
「うーん、何処も変わってないよね」
「そもそも、コレをどうにか出来る存在がいるとすれば、サンダードレイクを恐れない何かだろうね」
「怪しいところはない、の」
3人娘の言葉に行人も頷く。祭壇のようなものもなく、本気でサンダードレイクの骨が死してなお放つ威圧がお守りじみた存在として活用されているようだった。
その効果は、この骨の周囲に精霊が恐れて近づかないことからも良く分かる。
それだけではない。濃い死の匂いが他の精霊をも更に遠ざけていた。
だがそれでも何とか疎通した精霊に教えてもらうが……「骨に異常はなく、生きている者は見かけない」という答えが返ってくる。
「場所もルールも違えども、俺はこの世ならぬ大いなる存在というものを希望ヶ浜で知っているからね。でも、そうか。これは本当に原始的な『お守り』なんだな。そういうモノじゃないが、確かに機能してる」
つまるところ、サンダードレイクの骨には一切問題がない。
死せる亜竜の骨の「力」は、未だ健在なのだ。
それはこの周辺にアダマンアントの這った跡がないことからも分かる。
イルナークを蹂躙したアダマンアントも、このサンダードレイクの骨そのものには近づかなかったのだ。
それは、生死不明である奏音の友人……サンゴの生存の可能性も示唆していた。
もし彼女が此処に登ってきていれば、アダマンアントは彼女を襲わなかっただろうから。
だが、今はそれはさておき……サンダードレイクの骨に異常がないという事実が大切だった。
『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は「イルナーク跡地」となってしまったその場所で、ぽつりと呟く。
「魔物達が恐れて近づかないというのに、蟻の魔物がピンポイントで襲撃してくるというのはおかしな話ね。そのクイーンが栄養価の高い餌を必要とするにしても、他の魔物の方が『食いでがある』のだから」
そう、イルナークはサンダードレイクの骨の放つ威圧によって守られていた。
だが、それでもアダマンアントたちは襲ってきた。それも徹底的に……だ。
サンダードレイクの骨に異常がないことは、降りて来た奏音からアルテミアも聞いた。
ならば、未だ「お守り」は健在。そこに異常はない。
死せるサンダードレイクの威圧を跳ねのけて、アダマンアント達は襲ってきたということになる。
それはこれまでのイルナークの状況を思えば、異常に近い何かであることは、どうやら確かであるようだ。
「……となれば、自然にそうなったというよりは、何者かの思惑による人為的に引き起こされた事と想定して調査した方が良さそうね」
事実そうであるかは分からない。だが……「襲う」という確かな意思が働いており、それを亜竜種たちがアダマンアントクイーンによるものと考えているのは確かだった。
「んー、まず調べるのは被害状況? どういう風に家が壊されてるとかそういうのは調べておくべき? わかんなーい! なんでもいいから情報を探そう!」
『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)はファミリアーを放ちながら、少しでも情報を集めることに専念していく。
たとえ何を調べていいか分からなくても、「だからこそ」見えるものはあるかもしれない。
聞き耳と透視、瞬間記憶。少しでも情報を集めれば、何かのヒントにはなるだろう。
(集落が滅びちゃうなんて。そんなこともあるんだ……しかもほかの集落も狙われるかもしれないなんて! アンぺロスに来られたら皆のおうちもわたしのおやつもなくなっちゃうかもかも! 気合を入れて調査して早くなんとかしないとね!)
そんなことを考えながらも、ユウェルは気合を入れていく。
自分の出身地もこうなるかもしれないと自分を追い込むことは、やる気にも繋がる。
生き残っている人がいれば助け、残された死体があれば埋葬してあげる。
その為にも、しっかりとした集落の調査は必要だ。
「なんでイルナークを狙ったのか、なにが目的だったのか……それがわかれば次に狙いそうな場所もわかりそうなんだけどなー。ただ近かったから?むむむ……むつかしいことを考えるのは他の人に任せてわたしはわたしのできることをするぞー! 動き回って色々調べていっぱいおぼえるのだー! わたしとおかーさん、みんなのおうちをこんな風には絶対したくないしね!」
そう、こんなことは二度と起こさせたくはない。それは此処に集まった面々に共通の想いだっただろう。
「……うわぁ、これは……ひどいねっ。これは……生き残りよりも、色々情報を集める事に集中しよっか。ひとまずライに地上は任せて、リリーは新しい相棒と……空から行きたかったけどちょっと地下だときついねっ。……みんなで、普通に地面探そっか。……十分なスペースがあれば飛んでも平気だと思うけど……」
「調査はやはり、一人より二人、です」
「生存している者はいないと思われておるようじゃが……それでも。否、だからこそ確認する必要があるじゃろう。得てしてこうした災厄の後に、奇跡的に一命を取りとめた者が出るものよ」
『自在の名手』リトル・リリー(p3p000955)はリトル・ライと周囲を確認するが、岩山を掘って作られたイルナークは、ある程度であれば内部を飛び回ることも可能だろう。
『殿』一条 夢心地(p3p008344)も亥勢海老のえーびー君にまたがり、集落を隅から隅まで見て回るべく行動を開始する。
「生存している者はいないと思われておるようじゃが……それでも。否、だからこそ確認する必要があるじゃろう。得てしてこうした災厄の後に、奇跡的に一命を取りとめた者が出るものよ」
夢心地は可能性は限りなく低いと分かっていながらも、人命を諦めない。
人助けセンサーを発動し、助けを呼ぶ者がいないか。
あるいは声すら出せぬ状態にあるが、救いを求めている者はいないかを注意深く探っていく。
「勿論探すべきは生き残りもだけど……ヒントだねっ。アダマンアント達の攻め方とか、痕跡とか……ファミリアーとかも総動員して……リリーやライの小ささを生かして隅々まで、だねっ」
周囲を見ると、アダマンアントがイルナーク内部の壁を這いまわったと思わしき跡がある。
垂直な壁をアリが這うような、ああいうことが出来るのだという証拠だろう。
動物は……居ないようだ。居てもこの状況ではとっくに逃げ去っている。
戻ってくるとして、また大分長い時がかかるだろう。
「あとは、奏音たち三人ともしっかり気づいたこと、分かったことを共有して、色々かみ合わせて、地下から戻ってきた人とも情報共有して……案外やる事多いねっ、頑張ろっと」
そう、やることは多い。この状態から何かを探そうというのであれば、尚更だ。
だからこそリリーは僅かな跡を見逃さないように調べるが……かなり激しい戦闘があったのは明らかなようだった。
そして今の段階で分かることが、1つ。
「アダマンアントの中には酸を使うのと、火を使うのがいる、ね」
過去のアダマンアントの情報から、酸を使う個体がいるのは分かっている。
だがリリーが調べる限り、アダマンアントの中に火を使う個体がいるのは間違いなさそうだ。
「……戦闘種、ってこと?」
だとすると、アダマンアントの巣穴に潜った面々もかなり厳しい戦闘になるかもしれない。
そして、リリー達とは別行動をしていたアルテミアは地下貯蔵庫へと向かう。
地下からアダマンアントが来た以上は一番被害が大きい場所ではあるだろうが、探せないほどではない。
むしろ、その荒れた場所にこそ何かのヒントがあるかもしれないと考えたのだ。
「蟻共を呼び込むとなると、それらの好物とする物、或いは他の『獲物』に目もくれず目指す目印……所謂フェロモンを含んだ物がこの場に有った可能性があるわ」
そういった物品の残骸や欠片でも見つかれば証拠になるだろうし、匂いなどのヒントもあるだろうと思ったのだ。
結果として分かったのは、食料の類は軒並み略奪されているという事。
そして武器や金属などは軒並み放置されている事。どうやら、かなりの「栄養」を求めて襲撃したのは確かなようだ。
「……なるほど、確かにソレも含めれば効率的ね」
亜竜種の集落には食料がため込んである。そういう知識があるのか匂いを感じたのか……どちらにせよ、そういうことであるらしい。
「要チェケラしてこその殿的存在じゃ。とはいえ……」
夢心地はあちこち調べていくが、生き残りはどうやら居ない。
酸で溶かされた跡、火で焼かれた跡……何かを引きずった跡……色々と痕跡はあるが、どれも「生存者無し」を裏付ける証拠ばかりであった。
「アダマンアントの再襲撃が無いとは言い切れない状況下、これだけの規模の捜索が次いつあるかは分からぬ。他の集落に関係者がいるやも知れぬしの。放置しておくのも忍びなし、遺品を回収していこうかの」
3人娘に任せれば、上手くやってくれるだろう。そんなことを考えて。
『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)もまた集落内の探索を……特に集落の人が殺されたであろう場所を中心に探っていた。
精霊疎通で周囲の精霊に状況を確認しようとしたが、此処には精霊はほとんど居ない。あまりにも濃い死の気配に嫌がってしまったのだろうか?
分かったのは「此処がアリに襲われた」という事実のみ。
散らばってる土や砂を調査してペイトの物と一致しないか確認してみたが……その予想は外れた。
どうやらペイト方面に居た群れとは別のモノである可能性は高くなった。
……それはそれで、恐ろしいのだが……。
「考えすぎかもしれねーが、大事になる前に見極めねーとな。ひとまず可能性は大分低くなった、か」
それは1つの「ラッキー」な出来事ではあるだろう。だがそれだけに恐ろしさも募る。
「ペイトでアダマンアントの調査をした時は、命からがら逃げながらの調査だったがよ。あんなのに襲われて最期を迎えるってのは想像も絶する不幸だぜ。奏音ちゃん達も友達を失って辛いだろうに……手がかり掴んで、少しでも安心させてやんなきゃな!」
それも、群れに襲われたのだ。その不幸っぷりはどれほどか。
いざ集落内で戦闘が発生すれば、ジュートも戦うつもりだが……流石にそこまでのことは起こらないと信じたいものではある。
(さぁ、不幸な俺は今日も強運を演じるぜ。皆の笑顔を守るために!)
「任せろラッキーガールズ。幸運という俺が来たぜ!」
そう叫びながら、ジュートはあくまで表面上はクールに捜索を続けて。
『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)も、ジュートとは別方面から捜索を開始していた。
「生き残りがいる可能性がゼロではないなら、たとえ絶望的でも探さない理由はないっス!」
そう意気込み探索を開始したが……探せば探す程分かるのは、絶望的な事実。
「集落が滅ぶところや自分や大切な誰かが食べられる状況を思い出すと辛いのは間違いないっス。そんなことを聞いてくるオレに色んな感情向かってくるのも当然っス。それでもオレ達はこの集落のこと、アダマンアントのことを知らなきゃならないっス。どこから現れて、どのくらいの数が現れて、どういう行動をしたのか教えて欲しいっす」
残っていた霊にライオリットは霊魂疎通を試みる。だが……やはり分かるのは絶望的なことだけだ。
地下区域の壁に穴が開き、アダマンアントの群れが攻めてきたこと。
一部通常の個体とは違う、火を吐く個体が出た事。これは恐らくナイトのことだろう。
集落は、ほぼ短時間で全滅したこと。そんな事実が分かった。
そして夢心地とアルテミアは、サンゴの家を探し始める。
誰かいないか、残されたものはないか。
他の家屋との差も調べ、夢心地は瓦礫の片づけもやっていく。
「崩れた瓦礫の先にヒントがあるなんてのは、よくあることじゃからな……む?」
夢心地の視線の先。そこには可愛らしい日記のようなものが落ちている。
「見てみましょうか。サンゴさんが直接的な犯人ではないと仮定するなら、『何かを知ってしまって巻き込まれた』可能性があるからね」
「うむ、そうじゃの」
そうして捲っていくと……書いてあるのは年頃の女性らしい、可愛らしい内容ばかり。
時折修行内容について書かれているのは、流石奏音の友達……といったところだろうか?
「……ビックリするほど何もないのう」
「そうね。逆に言えば……」
サンゴは、何も知らない。あるいは、直前まで何も知らなかった。
そんな可能性は、高まっただろう。
「なら、襲撃の日に居たかもしれないサンゴさんに……何があったのかしら?」
分からない。
何も分からない。だが……少なくともサンゴは日常を過ごしていた。
この日記がブラフである可能性まで考えればキリはないが、サンゴがこのイルナークに「何か」をした本人である可能性は……。
「いや、この日記。1か月前で止まっておるの」
「最後の日記は……めんどくさいって書いてあるわね」
「飽きっぽい子だったようじゃの」
それでも、サンゴという少女に対する理解度は高まっていた。
あとは、巣穴調査班はどんな結果を持って帰ってくるかだが……そこにサンゴはいるのかどうか。
今は、何も分からない。けれど、何事もないようにと誰もが祈っていた。
●巣穴調査
「故郷が焼かれても冷静に仕事を、か。その強さは称賛に値するわ。私ならきっと、いの一番に生存者を探しに行ってたから。それに報いましょう」
神がそれを望まれる、と。
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はそう告げる。
巣穴の中の探索は、何も分からない中での文字通りの手探りであり……だからこそイーリンは、自分達のチームは「全体で分断された人が出たらそれと合流して後方退避か前進をして、完全な孤立者が出るのを避ける潤滑油的なポジション」であると位置づけていた。
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)、そして『黒竜翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)と『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)をもチームに加えた。
アダマンアントナイトに一当てする、その目的が合致したからだ。
「よりにもよって、巨大蟻とは。昆虫系ではトップクラスで厄介な奴等だぞ。仇を討ちたいのは山々だが、ここは慎重にいかないとな……」
「色々と生態はキョウミ深いけれど、イチバン重要なのは勢力を広げるタイプかどうかだよね。次に弱点!」
「ええ。その上で、目指すはナイトよ。情報が足りないからこそ先んじて接触して情報を集めるわ」
汰磨羈とイグナートにイーリンも頷く。
視界と瞬間記憶、聞き耳に超聴力。様々な能力や感覚を駆使するレイヴンもまた、そのサポートを行っている。
刻一刻と複雑化していくであろうこの場所も、撤退までの間に役立てる情報の蓄積にはなる。
「アリの習性から考えて道筋にはフェロモンを残している可能性が高い、超嗅覚で探知できるかどうか」
「それが無くても生物である以上、掘り進め方や通路のパターンはあるはず」
レイヴンにイーリンはそう続ける。
汰磨羈も索敵を行い……特に物音や匂いの変化に注意し、アントの存在を感知したら即報告、警戒を心掛ける。
レイヴン同様に普通のアリと同様にフェロモンを用いている可能性を考慮し、その匂いの有無とアントの動向への影響を把握しようともしていた。
そうやって此処で得た情報と、仲間たちが持ち帰る情報。
それを統合すれば、見えてくるものがあるはずだ。
(蟻の巣状か、主要道路と副線があるのか、それとも幾何学か――道がわかれば要衝が見える、要衝があればそこに当然守りがあるはず、即ちナイト)
「アリにはドレイ狩りをするタイプも居るハズだから、イルナークの生き残りが巣に連れてこられていたりしないかも調べておきたいね。望み薄だとは思うのだけれど」
そんなイグナートの呟きに、3人は沈黙で応える。
確かに望みは薄い。だが、望みを捨てたくもない。そんな心の葛藤がそれを選ばせたのだ。
一方で『狐です』長月・イナリ(p3p008096)と『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)の即席コンビは調査と他チームとの情報共有ハブとしての役目を果たすべく動いていた。
「危険な巣穴への潜入ミッションか。難易度はかなり高そうね……」
「……覇竜という地のなんたるかを、改めて目の当たりにさせられた気分なのです」
ファミリアーにハイテレパスを利用した情報共有網、そして人形操作で小鳥の人形を使う事による警備警戒。
通常であればかなり頑健なイナリの用意した連絡網も、この敵の巣の中ではどんな形で断絶するか分かったものではない。
だが不要な戦闘は避け、相手に見つからないのを最優先するクーアの探索方針はイナリとも相性がよく、良いコンビとして機能していた。
(活動時間が長ければ長いほど、得られる情報も多くなるはず。可能ならアダマンアント本体を長時間観察できれば、アレの生態と危険性もより正確に測れるかもしれません)
加えて、情報共有ハブとして機能しているイナリの情報も合わせれば、その精度はかなり高くなるだろう。
他に知りたい情報としては今後巣穴をどの程度・どの方角に拡張しようとしているのか。
あと戦闘種の餌の必要量がどの程度か。
これらが分かれば、次の侵攻先にアタリを付けられるかもしれないと考えていた。
今のところ、かなり無軌道に掘られている印象があるのだが……フリアノン方面や、あるいはもっと別の方向にも伸びているような気がしていた。
この辺りは想像でしかない。そもそも、何処かの方向に掘り進めばウェスタにもペイトにも向く。
単純にフリアノン方向と考えるのは危険な考えでもあるようにクーアには思えていた。
「……待って。アリがこっちに来る。避けられそうにないわ」
イナリはそう言いつつも、それがかなり傷ついた個体であるという情報も加える。
なるほど、ならばやりようもある。戦いが避けられないなら、傷のついた個体くらいは逃がしてはならない。
「ひとは亜竜より矮小な存在なれど、決して亜竜に狩られるばかりの存在でないと思い知るのです!!」
戦闘が始まった中。『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)もまた、巣穴の捜索を続けていた。
(アリの襲撃により集落が一つ陥落した。弱肉強食は世の理といえど無視するわけにもいくまい。折角できた縁を絶やすのもつまらんしな。それに未知の存在というモノは心躍る。未知の存在は僕にとって未知の餌だ。さて何が起きるか。何が出るか)
暗視により愛無の視界は暗い中でも確保され、エコーロケーションやギフト「嗅覚器官」による索敵が周囲の状況を愛無に伝える。
そんな愛無が探そうとしているもの……いや、場所は貯蔵庫だった。
(回収した「食料」を放置するとは考えにくい。外敵等にわざわざ餌をくれてやる必要はないだろうからな。そして食料が必要になる者は女王や騎士の幼生など栄養価を必要とする一部の個体に限られそうだ)
其処を出入りするアリがいれば、その個体を追う事で要所に辿り着く可能性は高い。
そうしたアリを発見することが出来れば、核心に辿り着くことが出来るかもしれない。そう考えたのだが……。
(警備がキツい。この先に貯蔵庫に繋がる道がありそうだが……)
アダマンアントの数が酷く多い。大規模な襲撃の直後であるせいか、出入りが多すぎる。
どれかに絞るには、あまりにも賭けの要素が多すぎる。
(……だが、貯蔵庫への出入りが多い事。それ自体が示す事はある、か)
女王……アダマンアントクイーンの存在の示唆。あるいは戦闘種であるナイトの増強。
どちらの証拠としても、かなりの確度を示すものであるだろう。
その同時刻。『元ニートの合法のじゃロリ亜竜娘』小鈴(p3p010431)は闇の帳を展開しながら探索の真っ最中だった。
「いや、近隣の集落が滅びたとか言われたらビビるのじゃが!? さすがに悠長な事は言ってられんのじゃ……仕方が無い、妾も覚悟を決めるのじゃ」
そんな事を言っていた小鈴だが……「絶対にアリにバレないように」を目標に最奥を目指そうとしていた……のだが。
(ヒイイ、キツすぎる! 下手に進むと戻れんぞこれ!)
隠密性を高めるために1人で行動していたが、奥に進めば進むほど警戒網が分厚くなっていく。
先に進むほど狭くなって動けなくなっていくタイプの罠すら想起させる。
天井に張り付き周囲の模様ソックリの幻影を被せる隠れ身じみたこともやるが、アダマンアントが匂いを探すかのように触角を動かしている時には死すら覚悟した。
最終手段として魔眼も用意していたが……。
(……効くんじゃろか)
迷いのないその動きは、何かにすでにしっかりと統制されているようにすら感じる。
しかし同時に、統率個体の存在の裏付けでもあるように小鈴には感じられた。
(ふむん……状況からするとサンゴ殿は蟻の仲間としか思えんな。正確にはサンゴ殿の姿をした蟻の女王だった可能性もありえるのじゃ)
そんな能力をアダマンアントクイーンが持っていたという事例はない。
確か過去のアダマンアントクイーンは、姿もアリそのものだったはずだ。
だが……有り得ないは有り得ない。
(クイーンの知能の程度は分からぬが……人間程度の知能があることも考慮せねばの。今回は情報を持ち帰るために戦わずに帰還するのじゃが、蟻どもと戦争になった時にはその辺りの事も考慮せんと不味いのじゃ。ともかく最奥じゃの、どうせ偉い奴は一番奥に居ると決まっておるのじゃ)
様々な可能性を考慮しながら、小鈴は奥を目指していく。
(アリの増え方というのは地下で行われるから実態を探りづらい。アダマンアントの浸食を止める情報を得るには直接行くのが一番。蟻穴に入らずんば……ともいいますし。それに、奏音さんにも良いお話を持って帰って不安を減らしてあげたいですしね)
『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)もまた、ランタンを腰に着けて視界を確保しながら探索を行っていた。
ココロの着眼点は「酸」だった。
アダマンアントの持つ酸は攻撃だけではなく、穴掘りにも使われていると、そう予測したのだ。
(同様の酸が行き止まりに沢山かかっていたら、これはアリ達の住居が狭くなっている、つまり勢力拡大を行っている論拠の一つになるでしょう)
薬学知識を元に調べてみると、かなり強力な酸であることが分かる。非常に特徴的で、他の物と見間違う事はなさそうだ。
そしてアダマンアントが通常は顎で穴を掘っているなら、酸による拡張はそれ自体が勢力拡大の証拠であるということになる。
そういう観点で調べると……クイーンが現れたのは比較的最近ではないかという結論に至る。
「クイーンが居るとしたら、こういう場所の反対方向でしょうか」
アリの卵もあるはず。卵の保管場所は守られてるはずだけど、突破してみておきたい。
場所が広く卵が多ければクイーンが仲間を増やす意思が強いはずだと、そう感じたのだ。
その過程でサンゴも見つけられればいいのだが……と。そんなことを考えるココロの視界の隅を、何かが横切った気がした。
一瞬の、けれど確かなそれは。
「サンゴさん……?」
もうそこには誰も居ない。だが今のは確かに、亜竜種の姿だったような……?
追うかどうか考えて、ココロはふと振り返る。
「この拡大先……方角的にはフリアノン? いえ、でもまさか……」
一瞬、恐ろしい想像がよぎる。だが、それは想像に過ぎない。
だとしても、不安は拡大するばかりだった。
(ひとつの集落が滅びるだなんて恐ろしいですね……!ㅤ絶賛実家が封鎖されてるうちとしてはあまり他人事だと思えない!
これはなんとしてでも情報を持ち帰らねば!ㅤうちファイト!!)
『ワクワクハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)は1人で探索していたが……その目標は「いるかもしれないし、いないかもしれない」レベルでしか情報のない少女、サンゴだった。
(かのんさんの友達らしいですからね。友達の友達は友達ですよ!)
小鈴のように闇の帳を活用しながら、アダマンアントとの戦闘を全て避ける方向で動いていた。
道を避けながら、アダマンアントが通り抜けていくのを見るのはドキドキものではあったが……。
「道は全然わかんないので勘で進みますよ。直感と天啓の示すままに進んでいきます。うちの勘は当たるんです。この先にきっとサンゴさんはいますよ。うちにはわかります」
そんなことうぃ言いながら歩いていく、その先。
横の通路をフッと通り過ぎる「何か」の姿。
「今の……!?」
確かに亜竜種、だったような?
分からない。すぐにアダマンアントがヌッと現れたせいで、道を譲らざるを得なかった。
(無理はしないけど!ㅤ無茶はしますよ!ㅤだってイレギュラーズですから!! サンゴさん!ㅤうちが見つけてあげますからね!!ㅤ居なくても見つけますよ!!ㅤうちはしつこいので!ㅤねちねちハーモニアなので!!)
今のが「サンゴ」だったのかもしれない。
違っていても、何かのヒントにはなりそうだ。ウテナは確信を得るべく再び進撃を開始して。
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)もまた、ウテナとは違う場所を調査していた。
「そういえば依頼で何回か会ったことはあるけども、あのアリと戦うことになるのは今回が初めてだったのですよ」
アダマンアント。以前ルシアが会ったのはペイト付近だったが……あの個体とは、様々な面で違っている気がしていた。
(噂で聞いた嫌になるほど硬いらしい甲殻と、ルシアの魔砲。どっちが強いか勝負……はしてみたいけどもそれはもしもの時にでして。さすがにこういう時はちゃんと抑えて調査を優先するのです)
そんなルシアがやっていたのは、砂糖菓子をバラまいてアダマンアントの注意を引き動きを誘導することだった。
そして、巣穴には本来存在しないはずの「アダマンアントが持ち帰った品」が落ちていないかも確認していた。
目的から考えて食料になるもの以外は回収しないだろうし、それでも紛れている可能性は充分にあった。
「……これは何でして?」
見つけたのは、小さなコイン。恐らく覇竜コインと呼ばれるものだろうが……アダマンアントの略奪した物資の中に紛れていたのかもしれない。
綺麗な金色のコインには、雷を放つ亜竜の勇猛な姿が刻印されていた。
その頃、『竜剣』シラス(p3p004421)もまた単身で巣穴の中の探索を開始していた。
隠密行動に徹している理由は、とにかく戦いを避けるためだった。
人助けセンサーにすぐ反応して動く為にも、判断の早い単体行動は必須で……つまるいところ、シラスは生存者を諦めてはいなかった。
忍び足に気配遮断……そのエキスパートであるシラスは、戦闘により得られる情報を仲間に任せ、探索に全精力を傾けていた。
(地中の穴で生きるアダマンアントが視力に頼っているとは考えにくい。その代わりの感覚器が鋭く発達しているだろう、特にあの触覚……気配を殺し物音を立てない技が有効だと考えてる。そして俺はその手の技術のエキスパートだ)
幸いにも今のところ、アダマンアントとの戦闘は避けられている。
呼吸は限りなく浅く、膝のクッションを柔らかく振動を吸収して漏らさないように。
だが、人助けセンサーは今のところ反応してはいない。
もしかすると、生き残りなど居ないのかもしれないが……。
「……ん? これは……」
シラスは、隅に何かが落ちているのを発見する。
慎重にゆっくりと歩いていなければ気付かなかったかもしれない、その程度には小さなもの。
それは、どうやら鎖の切れたペンダントであるようだ。何処かで紛れて落ちたのだろうか。
人助けセンサーには……やはり反応はない。何処の誰のものかも今の状況では分からないが、一応回収してみる価値はありそうだった。
(これの持ち主は、今どうしているのだろう……)
もしかすると、生きているのかもしれないが……今回見つかるかどうかは、シラスには判断はつかない。
そして、今回最大勢力を誇る『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)率いる【黒狼】チームもまた巣穴の中を進んでいた。
ベネディクトをリーダーに『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)、『イケるか?イケるな!イクぞぉーッ!』コラバポス 夏子(p3p000808)、『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)、『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)、『お父様には内緒』ディアナ・クラッセン(p3p007179)、『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)、『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)、『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)、そして『炎の剣』朱華(p3p010458)と『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)も加えた戦力的にも最大規模のチームだ。
ベネディクトは、出発前に奏音達にかけた言葉を思い出す。
「そうならんように努力はするが、万が一の時は自分達を身を最優先にな」
実際、巣穴の中では何が起こるか分からない。此処に来るまでの間も戦闘を何度か避けたが……敵の口の中にいるも同然だ。
今後の事も考えれば、ナイトの1体でも倒しておきたいが状況が整わない限りは難しいだろう。
だが、その為に人事は尽くすつもりだった。
(依頼を引き受けた事もそうだが、俺達の隣人になれるかも知れなかった人達が多く犠牲になったんだ。何も思わない訳がないさ。あらゆる万難を排し、理不尽を捻じ伏せる──その為に俺は強くなったのだから)
とはいえ、だ。同時にこうも思う。
あのアダマンアントが状況次第では亜竜集落が滅ぶ程の事態を引き起こすとは、と。
さらに上位種も今回は存在する。一筋縄ではいかないだろう。
「今回の依頼は情報が少ない。この1回で全てを終わらせる事が出来れば良いが難しいだろう。僅かでも情報を持ち帰り、次に繋げるぞ」
ベネディクトの号令が響き、全員が頷く。
目標はクイーンの位置の特定、及びその旗下にあるアダマンナイトや戦闘種の情報収集。そして……サンゴを発見した場合は可能なら連れ帰ることだ。
複数に班を分ける以上、蟻の動きも状況次第で流動的になるはずであり、他の班が奥へと進めそうなら囮や、逆に他班が注意を引いている間に奥へと進むなどの連携も手段として活用できるはずだ。
まあ、他の班も同じことを考えている可能性はあるが……。
「集落を滅ぼすほどの危険生物、ほっとくわけにはいかねえよな……まあ、この地域、大体そういう生物ばっかだけど。けど、能動的に人を襲う奴は、危険度が段違いだ」
サイバーゴーグルを着けた風牙は常に気を張りながら、周囲を確認する。
情報収集をする仲間の護衛を自負するからには、一瞬たりとて気を抜くつもりはない。
(さて、クイーンは見つけられるかな……生き物を餌にしてるなら、血の跡なんかを辿っていけばクイーンに行きつくだろうか……)
あるいはそうしたモノを保管している貯蔵庫に辿り着くかもしれないが……どちらにせよ、感嘆にはいかないだろうと風牙は思う。
「集落を壊滅に追いやるほどの集団ですか。情報は命を左右すると言いますし、頑張らなければいきませんね」
「棕梠さんや奏音さん、フリアノンのお友達が力を貸して欲しいって言ってるんだ。だったら、力を貸すのは当然でしょ? それに、集落一つを滅ぼした彼らを無視何て出来ないしね。この調査、いつも通り花丸ちゃん達にマルっとお任せ……だよってね!」
「ああ、その通りだな」
「そうですね」
花丸にベネディクトとリュティスも頷いて。
そんな中、リュティスも花丸と協力して簡単なマッピングをしながら進んでいるが……そうでもしないと、すぐに迷ってしまいそうな構造だ。
ブランシュがメイスで壁に目印も刻んではいるが、そうした細工も後々大事になるだろう。
ルカが矢印を刻んでいるのも同じ理由で、逆に進めば帰れるようにという細工である。
それだけではない、朱華も撤退時の事も含めて目印になりそうなものがあったら印を刻んだり、分岐点に土や石を軽く盛っておいたり、もしくは物を落としておくという細工を施していた。
(今回だけなら、これだけやれば十分でしょ)
道1つの把握がチャンスを掴むからこそ、こういうことは後々活きてくるだろう。
奇襲や異変に気付きやすい様にハイセンスで周囲警戒する花丸は、感覚に引っ掛かったら直ぐに皆に報告するつもりでもいた。
「集落が一つ滅びるなんざそうそうあることじゃねえ。それだけの「何か」があったって事だ。アダマンアントってのも元々いたモンスターとなりゃあ……集落に何かがあったか、アリ共に何かがあったかのどっちかだ」
言いながらルカは、そう言うと僅かに溜息をつく。
「サンゴって嬢ちゃんの様子も気にかかる。ったく、嫌な予感がビンビンしやがるぜ」
(複雑な罠はねえだろうが、侵入者を察知する罠ぐらいはあるかも知れねえ)
「嫌な空気だ。油断するなよ」
「静かに歩いたってこんな巣穴じゃ丸見えみたいなモンだ。互いにね」
エコーロケーションを使いながら、夏子も周囲の警戒を怠らない。
泥の一握りですら大事な情報だ、何も見逃す気はない。
「にしても……覇竜でも虫の被害が起こることがあるですよ? うわあ。恐ろしいですよ。聞いてるだけでとんでもない物がいるんだなぁと思うですよ。でも、此処で引いたらイルナークが滅んだ仇が取れないですよ! 頑張ってアリ共の足の一つや二つ、もぎ取ってやるですよ!」
「亜竜集落イルナーク……朱華達の暮らしてたフリアノンや、二集落には及ばないけどそれでも堅固な集落だった筈よ? それが落とされたってなると放置できる訳ないじゃない」
ブランシュに続き、朱華もそう同意する。
(何れにせよ奏音達が言ってた通り調査は必要ね。けど、朱華一人でアダマンアントの巣を調査何て出来る筈もない。朱華もこの地で生きる者の一人として全力を尽くすわ。だから頼らせてもらうわよ、黒狼隊)
「そうですね。亜竜集落イルナークはほぼ全滅。集落を攻撃したのはアダマンアント……他の集落からもアダマンアントに関する依頼がありましたが、やはり、この山脈の地下にはアダマンアントの巣が広がっているのですね」
リースリットも言いながら、周囲を見回す。
この周囲にはアダマンアントの姿はないが……なんとも広大な巣だ。
この巣は『地下帝国』と称されたが、あながち間違ってはいないだろう。
何処まで行けば終わりがあるのか、全く分からない。
「問題はそれがいくつもの巣がある状態なのか、それとも一つの広大かつ巨大な巣なのか。どちらにしても非常に厄介ですけれど。もしも後者の場合、そこに潜んでいる個体数がどれほどの数になるのかあまり考えたくはないですね」
事実、幾つかの巣は存在しクイーンが存在する巣もあるらしい。
大体の場合は、狭い規模らしいのだが……。
「集落が滅びる…それはとても痛ましい事ね」
(勿論そうなる前に凡ゆる策を講じたのでしょうけれど……なんて、今考える事じゃないわね。アダマンアントたちの生態を調査して、これからに備えなきゃ)
サイバーゴーグルをつけたディアナも、そんな事を考える。
貴族令嬢としての振る舞いは忘れず、ファミリアーで鼠も先行させている。
時折仲間の姿も見えるが、皆苦労しているようだ。
そして、このチームに同行した咲良も事態の大きさを改めて自覚する。
(イルナークが壊滅していることがまずヤバいんだけど、巣穴……だっけ、ああいう場所からもっと危ないものが沢山出てきてるってことだよね)
巣穴がイルナークの地下に開いたものだけなどとは思えない。
他にも穴があると考えておかしくない。
「行方不明になってるサンゴちゃんの安否がとにかく心配。集落にはひとまずはいないっぽいし、もしかしたら巣穴の何処かに連れ去られちゃったのかな……?」
(だとしたら、なんでサンゴちゃんだけそうしたんだろうっていう疑問は残るんだけど……。兎にも角にも、今は調査が先決。あわよくばサンゴちゃんも、無事でいて……!)
イナリが主要なチームにつけたファミリアーを利用したハイテレパスの通信網。
それはイーリンのギフト「インスピレーション」の発動に必要な要件を満たす助けになっていた。
「分かったわ。ナイトの位置」
インスピレーションによりナイトの位置を理解したからこそ、イーリン達はその場へと急ぐ。
一番可能性の高い場所は貯蔵庫。
必要だからこそイルナークを襲い、それ故に食糧はアダマンアントにとって最重要な物資となっている。
だが、そこに無傷で辿り着くのは無理だ。
だからこそ、集めた情報から「普通のアダマンアントが少なく、かつアダマンナイトが配置されていそうな場所」を探そうとしていた。
そして……必要な情報は揃った。
その場へ赴き……そして、見た。通常のアダマンアントよりも、より攻撃的なその姿を。
イーリン達を見るなり、口の奥でチラリと見えた炎を。
「汰磨羈! 師匠同士の技術交換会と行きましょうか!」
「この場で技術交換の提案とは余裕だな、イーリン? だがまぁ、断る理由は無い!」
招幸楔と夜噛饕餮を発動させる汰磨羈に対し、イーリンはカリブルヌス・改を放つ。
「それじゃあ、どんなもんなのか調査しようか! 勝てる相手ならば勝つ!!」
イグナートもティタノマキアで強化してから突撃をしていき、レイヴンも"断頭台"-告死黒竜-を放つ。
だが、汰磨羈の花劉圏・斬撃烈破『舞刃白桜』をも受けて……なお、アダマンナイトは揺るがない。
ゴウ、と。放たれた強力な火炎放射に汰磨羈達は舌打ちをする。
「これがイルナークを焼いた炎ってわけね……!」
「想像以上に強い! だが倒せずとも、足の1、2本を落としておけば次に響くだろうさ!」
イーリン達がナイトと戦闘を始めたという情報は、各チームに迅速に伝達された。
そちらの方向に戦力がある程度移動することで、他の探索チームには僅かな余裕が出来た。
とはいえ、あまり悠長にしていられるほどでもないが……【黒狼】チームもまた、僅かにその恩恵を受けていた。
目標は2つ。アダマンアントクイーンの存在の確認。そして居るか居ないかも不明の少女、サンゴの確認だった。
元々今回は情報を持ち帰る事が目的なので、無理はせずに抑えめでいくつもりだったが……この千載一遇のチャンスは逃せない。
一気に奥へと進み、咲良のギフト【事件のニオイ】をも活用するが……それらしきものは検知できない。
ならばサンゴは少なくとも半径1km以内には居ないということなのだろうか?
花丸としてもサンゴや他の生存者を見つけ、保護する事が出来たのなら、無理せず巣穴から脱出する事を優先しようと考えていた。
保護が出来ずとも、状態だけは確認しておきたいとも考えていた。
(奏音さんが見たサンゴさんは何処かおかしかったって言うし……)
そしてそれはリュティスとて同じだ。
女王の情報を得るか、サンゴを見つけるまでは頑張りたいと思っている。
そのチャンスは間違いなく今であり、これを逃せばチャンスはほぼないだろう。
だからこそ、もしサンゴを発見したら多少無理をしてでも確保するくらいは狙おうと考えていた。
「サンゴちゃんはどこかな~、一緒に帰りますよ~。奏音ちゃんが待ってるし、さ」
夏子の最優先もサンゴの確保。
そして、それさえ出来れば、イルナークとアダマンアントを巡る状況は大きく変わる。
唯一の生存者となるサンゴから得る情報も大きく、一気に解決に向かう可能性すらあった。
「サンゴという少女の様子は気懸かりですね……そもそも、アダマンアントの動きからして常ならぬものの様子。客観的に視てその少女に起きた事柄が関係している可能性は否定できません」
「見つからなくても、そうね……ここに居た人に繋がるものが落ちていれば拾いましょ。生存者のものであれ、喪われた人のものであれ……ここに人がいたことの証だもの」
リースリットにディアナもそう頷いて。ルカも「最悪の可能性」を考える。
(サンゴを見つけた場合は出来るだけ確保してえが、クイーンに寄生されてる……なんて可能性も考えられる。襲われることも覚悟しないといけねえな)
だが、それでも放っておくという選択肢だけはルカにはなかった。
(もしサンゴが奏音のダチのまんまなら、そいつを見捨てていくなんざ出来る訳ねえ。多少のリスクがあっても連れ帰る! 待ってるやつがいるんだ……! 少しでも助けられる可能性があるなら俺はそれを捨てやしねえ!)
だからこそ、この最後のチャンスに居るのかどうかだけでも確認できればいいのだが……。
走ったその先。そこには戦闘種らしきアダマンアント……いや、アダマンアントナイト。
そしてその奥に、明らかに別種のアダマンアントがいる。
アレがアダマンアントクイーンなのだろうか?
アダマンアントを従えるその姿は、まさに女王の貫録といったところだが……。
その広い「部屋」の中に、サンゴは居ない。
「戻るぞ」
ベネディクトは仲間たちにそんな指令を出す。
クイーンの存在と位置は確認した。だが、これ以上此処に残っても追い詰められるだけだ。
情報を仲間に託し死ぬ……などということはしない。
だからこそ、ベネディクト達は即座に撤退を選択する。
アダマンナイトは……追ってこない。女王たるアダマンアントクイーンの護衛が最優先なのだろう。
そうして走って、走って。全員が、アダマンアントの巣から無事に脱出する。
だが、侵入者がいることはすでに知れているだろう。
合流したイーリン達も、かなり怪我をしている。やはり戦闘種は一筋縄ではいかなかったようだし、倒せてもいないようだ。
まあ、当然だろう。途中からアダマンアントも合流したであろうことも加味すれば、むしろ上々の成果と言っていい。
だが、それはそれで重要な情報だ。
「……よし、全員いるね」
静李が手早く数を数えると、奏音も頷く。
「よし、まずはイルナークを離れよう皆!」
アダマンアントがイルナークの中までまたやってこないという保証はどこにもない。
だからこそ行人や夢心地たち、集落調査班の誘導に従いながら全員がイルナークを出る。
得られた各種の情報はフリアノンに持ち帰られ、各種の検討も行われるだろう。
だが……アダマンアントの数を減らさなければ有効な手立てはないようにも感じられた。
それをどうするかは、これから考えなければいけないのだろうが……あの地下帝国からの生還は、まず何よりも喜ぶべきであると。
誰もが、そう感じていた。
そして同時に、サンゴという少女の安否も。いるような気配……というよりもそれらしき影はあったように感じられるが、確定情報はシラスの拾ったペンダント。
これがどうやらサンゴの持ち物であるらしいということくらいだ。
アダマンアントクイーンの姿も確認できたのも収穫だっただろう。
かなり強そうではあったが、人智を超える化け物というわけでもなさそうだ。
とはいえ、問題はやはり数。それが最大の問題であり、最大の脅威だろう。
多少の数で挑むだけではではイレギュラーズさえ飲み干しそうな、その圧倒的な数の差。
アリの性質を強く持つアダマンアントという生き物の脅威は……そこにこそ、あるのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
それなりの情報を持ち帰ることができたようです。
おめでとうございます!
GMコメント
覇竜の地下に蠢く「アダマンアント」の襲撃により亜竜集落イルナークが滅びました。
今回皆様が取れる行動は以下の中から選ぶことになります。
プレイングの最初にご記載ください。
【集落調査】(危険度:低)
亜竜集落イルナークの調査を行います。あまり人数は必要ないと思われます。
生き残りがいる確率はゼロに限りなく近いですが、何か当時の状況を知るヒントが残っている可能性もあります。
奏音がイルナーク襲撃時に見た少女「サンゴ」の家もこの集落にあったようです。
なお、3人娘は地上階層にある「広場」で皆さんの帰りを待っています。
【巣穴調査】(危険度:高)
イルナークの地下階層にアダマンアントが開けた穴を通り、巣穴に侵入します。
内部には無数のアダマンアントがいる為、極めて危険な状況です。
危険を感じた場合は即座に撤退しましょう。
●巣穴の内部にいる敵(調査時判明)
・アダマンアント(総数不明、大量)
嫌になる程硬い巨大アリ。攻撃方法は岩をも溶かす酸を弾丸のように飛ばす技と、強靭な顎による振り回し&叩きつけ攻撃です。イルナークの戦闘で傷ついたと思われる個体も混ざっている為、そういう個体に出会った時は撃破して調査を続けることも出来るでしょう。
ただし、戦闘により他のアダマンアントを呼び寄せる可能性もあります。充分に気をつけましょう。
・アダマンアントナイト(3体)
アダマンアントの戦闘種。攻撃方法は強力な火炎放射と強靭な顎による振り回し&叩きつけ攻撃です。
通常種よりも更に強力かつ凶悪です。
撃破出来れば大戦果ですが、場合によってはやり過ごす事も重要でしょう。
・アダマンアントクイーン(?体)
恐らく存在すると思われます。仮に発見したとして、此処で倒すのは無理でしょう。
・サンゴ(存在不確定)
奏音の友人の亜竜種の少女。もしかすると巣穴の中にいるかもしれません。
いないかもしれません。何も分かりません。
帰ってくるまでが依頼です。
無理をせず、しっかりと情報を持ち帰りましょう。
今回持ち帰った情報は次回に反映され、またプレイングによっては『覇竜侵食』で使用可能な特殊な権限を得る事も可能です。
※今回の予約は「かのんスタンプ」をお持ちの方の優先率に変動がございます※
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
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