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シナリオ詳細

<夏祭り2018>TropicalHeliotrope

完了

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 視線を上げれば水色の絵の具で塗ったような清々しい青空が広がる。
 水平線より下はパライバトルマリンを敷き詰めたようなブルーグリーンの色合い。
 途切れること無く続く、漣の旋律は、まるで心地よい子守唄の様。

 チャプン――

 纏めた髪から落ちる雫が水面を揺らす。
 ぬるめのお湯は体温より少しだけ低く、隣の高温に保たれた湯船と交互に入れば、いつまででも浸かることが出来る気がした。
 海からの風が頬を撫でて行く。此処は地上の楽園だろうか。
 指先を水面から出してお湯の感触を遊ぶ。
 波紋は広がり、光と影の織りなす模様をとろりとした瞳で見つめた。
 ゆらりゆらりと。水の流れに身体を預ける。

「あ、ラビさんここにいたの!」
「……!」
 夢見心地で揺蕩っていた『Vanity』ラビ(p3n000027)は突然の声にうさ耳を跳ね上げた。
「ひゃ!?」
 唐突に跳ね上がった長い耳に、声を掛けた『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)も驚いて。
 少女たちはお互いを見つめながら目を瞬かせる。
「あ、その……、びっくりした、です」
「アルエットもビヨーンってなってびっくりしたの!」
 羽を広げてアルエットがこくこくと頷いた。
「ふふ」
 小さな笑い声がラビの口から漏れる。それにつられて、アルエットもくすくすと笑い出す。

 湯船に小さな影が二つ並んでいた――


 じりじりと肌を焼く太陽が白い浜辺に降り注いでいた。
 ペールホワイトの砂粒は熱く足裏を焼くが。少し足を滑り込ませれば、途端にひんやりとした温度を心地よく楽しめる。
 海は透明度の高いブルーグリーン。漣は柔らかい。緩く引き。間を置いてゆっくりと返って来る。
 ひときわゆっくりと迫る清涼な青に、今、小さなカニの足がもつれた。

「よぉ、そこの派手な姉ちゃん!」
 威勢の良い声が砂浜に響く。
 水上バンガローで軽食を売る男の声だ。
 肌は赤く焼け、同じ色の髪を派手な模様の布でまとめている。
 おそらく四十路は越えているだろうが、隆々とした肉体には薄く無数の刀傷が見える。
 精悍な顔を飾るのは無精ひげと黒い眼帯だ。
 その手にはヘラ。今、彼は。ものすげえ一生懸命に焼きそばを捌いていた。

「よっ! 美人の姉ちゃん!」
 焼きそば屋のおっさん。二度目の呼びかけ。
 残念ながら返答はない。
 だが。策はあった。
「いよっ! そこの色彩コーディネートのセンスが最高の姉ちゃん!」
「……何かしら?」
 三度目の正直に美しい髪がふわりと広がり、女が振り返る。
 イレギュラーズなら知っている。派手な水着を纏った『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)だ。
「焼きそば食ってかねぇか!」
「あら……、美味しそうじゃない」
「姉ちゃん美人さんだから、おまけしといてやるよ!」
 赤髪の男は魔女に豪快な笑顔を向けた。
「嬉しいわね。『若くて』『色彩豊かで』史上最高に美しいだなんて。照れてしまうわ」
 焼きそばが手渡される。指に挟まれた小さな紙切れをプルーは誰にも気づかれることなく手の内に隠す。

 尤も。たとえ気づかれたとしても、赤の他人からは一夜の色恋沙汰しか連想はされまい。
 ただ実際の所として、そんな事象とは程遠いであろうことを知る者は、極めて限られているだろうけれど。
 さておき。

「提と……」
「あァ!? 何だってぇ?」
「いえ、おやっさん! キャベツ持ってきやした!」
「おう。そこに置いとけ」
 気性の激しい店長の手伝いは大変なのだろう。

 渡された紙切れを開いて目を細めるプルー。
 今夜は何処へ行く予定だっただろうかと思案して――

GMコメント

 夏の眩しい日差し、苛烈に茂る緑、黄色いひまわり、風鈴の音。
 そういった夏の風景が好きです。
 でも、暑いのは苦手です。
 もみじです。

●目的
 夏のひとときを過ごす

●ロケーション
 ネオフロンティアにあるリゾート島。
 美しい海と白い砂浜、水上バンガローなど。
 海の直ぐ側にある温泉も人気です。

●出来る事
 適当に英字を振っておきました。字数節約にご活用下さい。


【A】湯船
 海を見ながら温泉につかれます。
 男女混浴につき、必ず水着着用のこと。

【B】海
 白い砂浜、ブルーグリーンの煌めく海。
 日焼けで温まった身体を泳いで冷ましたり出来ます。
 砂浜ではパラソルやヤシの木の下でドリンクを楽しんだりできます。
 大人はカクテルなども。

【C】水上バンガロー
 漣を聞きながら静かな場所でゆっくりしたい時や、お腹がすいたときに。
 軽食やドリンクを楽しむことが出来ます。

【D】
 その他
 海水浴などにありそうなものがあります。

●プレイング書式例
 強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。

一行目:出来る事から【A】~【D】を記載。
二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
三行目から:自由

例:
【B】
【遠泳】
沖合の小さな島まで泳いで帰ってきます

●NPC
 絡まれた分程度しか描写されません。
 呼ばれれば何処にでも居ます。

・『Vanity』ラビ(p3n000027)
 ペールグリーンのふりふりした水着(ワンピース型)を着せられています。
 ぼーっと歩いていたり、木陰で座っていたりします。

・『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)
 元気です。ピンクの可愛い水着(セパレート型)を着ています。
 海ではしゃいでいたり、砂浜に小さいお城を作っていたりします。

●諸注意
 描写量は控えます。
 行動は絞ったほうが扱いはよくなるかと思います。

 未成年の飲酒喫煙は出来ません。

  • <夏祭り2018>TropicalHeliotrope完了
  • GM名もみじ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2018年08月01日 21時05分
  • 参加人数50/50人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 50 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(50人)

リオネル=シュトロゼック(p3p000019)
拳力者
エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ルアミィ・フアネーレ(p3p000321)
神秘を恋う波
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
銀城 黒羽(p3p000505)
沙由凪・アイナ(p3p000648)
灰簾
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
セティア・レイス(p3p002263)
妖精騎士
セレネ(p3p002267)
Blue Moon
メルト・ノーグマン(p3p002269)
山岳廃都の自由人
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
アグライア=O=フォーティス(p3p002314)
砂漠の光
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
秋空 輪廻(p3p004212)
かっこ(´・ω・`)いい
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
美音部 絵里(p3p004291)
たーのしー
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
星影 霧玄(p3p004883)
二重旋律
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
天音 白雉(p3p004954)
極楽を這う
アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)
煌きのハイドランジア
宮峰 死聖(p3p005112)
同人勇者
エリーナ(p3p005250)
フェアリィフレンド
リアム・マクスウェル(p3p005406)
エメラルドマジック
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
鴉羽・九鬼(p3p006158)
Life is fragile
ノエル(p3p006243)
昏き森の

サポートNPC一覧(2人)

アルエット(p3n000009)
籠の中の雲雀
ラビ(p3n000027)
Vanity

リプレイ


 さんさんと輝く太陽が、海と砂浜に煌きをふりまいている。

 眩しすぎる光から隠れるように――
 木陰でドリンクを飲んでいたウィリアムは見知ったピンク髪を見つけて声を掛けた。
「なあ、海は好きか?」
「海は……そう、ですね。元の世界を思い出し、ます」
 眠るように揺蕩い、ゆらゆらと情報を喰らうだけの存在だった過去。
 其処に良かったか悪かったかという感情は無く、ただそうであったという事実だけが存在する。
「ウィリアムさんは?」
「俺か? 俺は……」
 幻想に来るまで海を見たことがなく、泳いだのだって最近の事。
 けれど。
「海の中から見上げるのが好きかもな」
 水面を見上げれば太陽の瞬きがアクアマリンを散りばめた様に揺れて。
 抜けるような青空でも幾千の星が瞬く夜空でもない。
 特別な青が見られるから――
「私も、見たいです」
「じゃあ、行くか?」
 差し出された手に、そっと指を重ねて。

 白い砂浜、煌めく海。
 何度見ても飽きない風景に心を踊らせるノエルは、波打ち際でぼうっと座っていたラビを見つける。
「えっと、確かラビさん……で、合ってましたよね。もし良ければ一緒に遊びませんか?」
「はい」
 こくりと頷いたラビの手を引いて海へと入るノエル。
 いざ海での遊びとなるとどうすればいいかと悩んだ末に。
「あ、あの。さっき、教えて貰った、ですけど……」
 海の中のアクアマリン。ステンドグラスの様な煌めき。
 誰かに教えてあげたくて。ラビはノエルの手を掴んだ。
「じゃあ、そこに行ってみましょうか」
 ノエルの笑顔にラビは照れた様に頷いて。

 皆と一緒にラビと遊ぶ。そう思い立った絵里はそっとラビの背後に立った。
「ラビさん、貴女なら私の『お友達』を見えるんじゃないですか?」
「えっ……と」
「見えます? 見えます? 皆、見えないみたいなのですよね」
 首を横に振るラビに残念と言いつつ、手を繋いで波打ち際を歩き出す絵里。
 途中で水をぱしゃりと掛ければ、びっくりした顔のラビが居て。
 とりあえず、掛け返せば良いのかと掬って空に投げた。
 楽しい時間は過ぎ行き。
 ありがとうと振り向いた絵里の笑顔は純粋な笑顔で。
「いつかラビさんも私の『お友達』になってね?」
 されどその瞳には狂気の色が滲んでいた。

「こんにちはっ! 良ければ私もお城作りのお手伝いをさせて貰えないかな?」
 アリスと名乗った少女はアルエットの元へ駆け寄り、笑顔を零す。
「はい。アリスちゃんね。一緒に遊ぼ。あ、アルエットは……」
「うん、知ってるよ。ローレットで偶に見掛けてたから覚えてたんだー」
 砂を硬め盛って行き、少しずつ大きくしていく最中。
「よっ、アルエット。久しぶりだな。これは、何を作ってるところなんだ?」
「あ、勇司さん! これはね、お城なの」
「へぇ、城か……だったら俺も作るのを手伝っていいか?」
 勇司の男手があれば今までの物より大きな城が出来るだろう。
 アリスの可愛らしいアイディアがあれば素敵な城が出来るだろう。
 側を通りかかったラビもいつの間にか仲間に加わって。
「よーしっ! それじゃ、頑張って作るぞ。おーっ!」
「「「おー!」」」

 勇司はラビとアルエットに話しかける。
「あー、その……何だ。この前は結局怖い思いをさせちまって悪かったな」
 激しい戦いがあった。命を賭した死線があった。その中で約束をしたから。
「皆さんが居てくれたから、怖くなんて無かった、です」
「アルエットいっぱいいっぱいで、頑張ったって事しか覚えてないの」
 されど。仲間たちが力を合わせたからこそ無事に生きて帰って来れた。
「だから大丈夫、です」
「そっか。まっ、怖い思いをさせちまった分、今日はお前らを思いっきり笑顔にしてみせるってな」
 笑顔を零した勇司につられて二人も顔を綻ばせる。
 城の完成はもうすぐそこだ。

「マリーの水着、可愛いね!」
 セララ隣のマリーに笑顔を向けた。
「別に、可愛いとかそういうのは興味ないであります。ありますよ?」
 セララの腰に装着されている怪しい布を怪訝そうな顔で見るマリー。
「じゃーん、水鉄砲! いざ、勝負勝負ぅー!」
「水鉄砲? 高圧縮で殺傷能力が高い? え、違う? 欠陥品では?」
 実は砂に隠してあった水鉄砲バズーカを取り出すマリー。狙うはセララの頭。
「ていっ、やー! きゃーっ!? マリー、ちょ、顔ばっかり……わぷっ!」
「遊戯でも銃でワタシに勝負を挑むとはいい度胸であります」
 負けじと二丁目を取り出したセララ。
「ガンナーセララの本気なのだ!」
「甘いでありますな」
 煌めく太陽に少女達の笑い声と水飛沫が跳ねた。

「よっしゃ、ここでガッツリ設けて一気に闇市に突っ込んでやらぁ!」
 勢いよく焼きそばをヘラで返しているのは『太陽の勇者』アランだった。
 その隣で可憐な少女がソフトクリームを巻いている。
「はいどうぞ! 海で遊ぶ前にいっぱいいーっぱいエネルギー補給してね♪」
 パチリとウィンクをしたミルキィはアイスを買いに来た少年の心を鷲掴みにして行く。
 おすすめは、やはりかき氷サンデーだろう。
「あ、じゃあ。それをお願いします」
「はい! 甘いものが好きなんだね! サービスしちゃうよ☆」
 内緒ね。と囁くミルキィのお陰で海の家は繁盛していた。可愛いは正義!

「……っと、アイツは」
 フラフラとやってきたピンク頭を見かけて声を掛けるアラン。
「よう、久しぶりだな」
「あ、アランさん。あの時は、ありがとう、です」
 ぺこりとお辞儀をしたラビは当時のボロボロとは違い、可愛らしい水着を着ていた。否、着せられたが正しいのだが。
 さておき。先程からぐうぐうと鳴っているラビの腹に笑いを堪えながらアランは焼きそばを差し出す。
「食っていくかい?」
 特別サービス。子供には優しくあれと勇者は云った。

 リアはシオンと雪之丞を見つめていた。
 歩いていたら、いつもの様にぼうっとしているシオンを見かけて思わず声を掛けたのだ。
 けして、ぼっちなどと言うことはない。けして。
「リアとゆきのじょーと三人で海で遊ぶー……!」
「へー、雪之丞って言うんだ? 変わった名前ね」

 浅瀬で海に浸かりながら、シオンは水鉄砲を取り出す。
「せっかく、遊ぶのですから、ひと勝負しませんか? おやつを掛けて」
 少し恥ずかしがりながら雪之丞は提案する。肌を晒すのは得意ではないのだけれど、他の皆が同じ格好であれば少しは照れも軽減されるだろうか。
「って、水鉄砲ぅ? いいわ、遊んでらっしゃい? あんま遠くに行くんじゃないわよ……」
「隙きあり……!」
 シオンの先制攻撃がリアの顔面を直撃する。おやつが掛かっているのだ。最大出力以外に選択肢は無い。
「……ふっ……上等だおらぁ!」
 二人を海に鎮める勢いで追いかけ回すリア。
「おやつ……絶対負けられない……!!」
 空に飛び上がるシオンにズルいと容赦無く水鉄砲を打ち込む雪之丞。
「おやつを頂くのは、拙です」
「おらー! 覚悟しなさい! あんた達のおやつは全て頂いてあげるわ!」
 バシャバシャと水が跳ね。楽しげな声が上がり。
 ブルーグリーンの海におやつを掛けた戦いは続く――


 そんな海を見渡す砂浜で、やはりこの遊びは欠かせない。
 流水で良く冷えたスイカを手に取ると、水しぶきがきらきらと輝いた。

 さて。悠は【西瓜割り】のメンバーを見据える。
 ――需要には供給。
 お祭り価格であろうとも、そこに買い手が居るのならば取引は成立するのだ。
 この良い感じのスイカを高いと見るか安いと見るかは買う人次第。
 鯛焼きを食みながら【西瓜割り】のメンバーが近づいて来るのを見つめる悠。

 先陣を切るのは九鬼。目隠しをしてぐるぐる周り。
「い、意外とフラフラしますね……!」
 集まった仲間の所へ覚束ない足取りで近寄ってくる九鬼にシャルレィスは全力で声を張る。
「あ、違う! もっと右、右!! こっちにぶつかっちゃうよー!」
「わわ! こっちでしょうか?」
 転んでもめげない。声のする方へどんどん近寄っていく九鬼。
「この辺りな気がします……ちょあー!!!」
 迫る九鬼の刃をシャルレィスは両手で挟み込み。
「って、私は西瓜じゃな……し、真剣白刃取りー!?」
「中々の手応え……もしや、西瓜」
「違ーう!」

 焔は考えていた。ぐるぐるする頭で考えていた。
 これ、いつまで回れば良いのだろうかと。
「だ、大丈夫、ちゃんと歩けるもん! や、やれるよ!」
「真っ直ぐ行って、真っ直ぐ!」
 竜胆の掛け声が焔の脳内に響く。次々と出される指示に此処だとあたりを付けて。
「よし、西瓜さん覚悟! 一刀両断!」
 突き刺さる木刀。感触は重く、固く。目隠しを取って確認してみれば。
「あれっ!?」
 全く違う場所に木刀がめり込んでいるのだ。

「ふっふっふ」
 ついにこの時が来た。剣士たる者、このシャルレィス、西瓜の気配を感じ取る事など造作もない!
(……うん、見えないッ!)
 目隠しとはこうも頑丈な要塞として立ちはだかるのか。
 しかし、強い意志を胸に振り上げる木刀。
「せーの、てやーーーっ!!!!」
 青い空に風を切り裂く音が響く。

「私の心眼を見せる時が来たようね」
 それっぽく呟いた竜胆は皆に応援されながら木刀を手に歩みを進める。
「此処だ――!」
 勢い良く叩きつけられた刃は西瓜を真っ二つに転がした。

「最後の気迫すごかったですね……!」
 シャクシャクと西瓜を皆で頬張りながら思い出を反芻する。
「とっても楽しかったね!」
 広がるブルーグリーンの海に楽しげな笑い声が響いて――


 こちらで夏を楽しむのは【BV】の面々だ。

 この世界と、異世界と。けれど煌く太陽は同じであろうか。
(スクール水着で来たの、失敗だったかな)
 少し恥ずかしげに頬を染める蛍は、聞き覚えの有る声に振り向いた。
「イインチョー! ビーチバレーやろーぜー」
 リオネルが手を上げて向かってくる。
「ここで会ったが百年目、この太陽のように熱いKIAIアタックで更生させてあげるわ!」
 太陽に照らされて蛍のメガネがキラリと光った。

「確か……死聖……君? だったわね、魂が男性ならこう呼んだ方が良い、わよね?」
 どちらともつかない出で立ちの死聖に首を傾げる輪廻。
「やぁ、秋空さんに呼ばれて審判役を請け負った、宮峰死聖、だよ」
 こんなに美しい人と知り合えて幸運だと蛍を見つめ微笑む死聖。
 その隣には水着の上にパーカーを羽織ったリアムの姿があった。
「私は何故……」
「あぁ、リアムは適当に頑張ってね」
 死聖に誑かされて海に来てしまったのが運の尽きだったのだろうか。

 さて。クジの結果、輪廻とリアム、蛍とリオネルがタッグを組んでの試合となった。
「ってな・ん・であんたとなのよ!」
「……イインチョー、味方にアタックはなしな?」
 にやりと笑うリオネルに腹を立てつつも、やるからには全力を尽くすとペリドット・グリーンの決意は揺るがない。
 丁寧につなげた蛍のトスに、高く飛び上がったリオネルのスパイク。
 相手チームの陣地に鋭い勢いでボールが跳ねる。
「リオネルちゃんは激しいから、油断すると直ぐ持っていかれるわよ」
「……面白い」
 跳ねたボールを拾いながらリアムは焚き付けられた闘志を漲らせた。
「これは中々、楽しめそうだっ!」
 狙うはリオネルと蛍の間。どちらが取るか一瞬の迷いが生まれるその隙きを突いてリアムのオーラスパイクが風を切る。

 審判役の死聖はたゆんたゆんと揺れる美しい肢体をじっと見つめていた。
 胸は勿論、均整の取れた腰のラインや太ももだって素晴らしい。
「うんうん、美少女達が一生懸命動く姿はやはり良いね」
 死聖は思うのだった――夏は良いものだ、と。

「ふふ、冷たくて気持ちいいぞ! えへへ、アレクシアもおいでぇ!」
 ヨルムンガンドが掬った海水はアレクシアに降り注いだ。
「……でも私泳げないから、もちろん浮き輪は完備です!」
 浮き輪に捕まったアレクシアをヨルムンガンドがゆっくりと引っ張っていく。
「水の中を泳ぐ感覚って初めてだけど、凄い楽しいし気持ちいいね!」
「えへへ、のんびり水の上に浮くのも気持ちいいよぉ……!」
 ゆったりと揺蕩う波に身を委ねれば温かな日差しが肌を焦がした。
 竜は一人海で漂った記憶を思い出す。漣だけが聞こえる静かな海の景色。
 けれど、今は隣に小さな友人が共に居る。
 だから寂しくないと紡ぐ言葉にアレクシアも同じ思いで頷いて。
 彼女とて内側から窓の外を見る事が多かったから。
 焦がれた温もりが、声が、今此処にあるのだと噛みしめる。
 疲れたらヤシの実のジュースを飲んでみようか。
 夏の太陽はまだ沈みそうに無いのだから――

 海で泳ぎ疲れたルアナとセレネは波打ち際にころんと転がった。
「……ルアナさん、いい事を思いつきました。この辺りで……砂のお城を作りませんか?」
「砂のお城? いいよー! やるやるー!」
 泳いでる人の邪魔にならないように隅の方へ移動して。
 砂を固めては積み上げる二人。過ぎゆく時間は楽しいもので。
「立派な……そうですね、勇者さんが住んでいそうなお城、です」
「ゆーしゃは、まおーを倒すための存在なんだけど。この世界、まおーっているのかなぁ」
 倒すべき存在を打破し、平和を取り戻し、こうして穏やかに遊ぶための勇者に。
 成るのだろうか。なれるのだろうか。
 もし、成れるのならば。その時、友の側に居たいと思うのは傲慢であろうか。
 所々歪にも出来上がった城にセレネは勇気を出して言葉を吐く。
「ルアナちゃんて……呼んでもいいですか?」
 ラピスラズリとガーネットの瞳が見つめ合い。
「うん! ちゃん付けでも呼び捨てでもっ!」
 友達だもんと、溢れる笑顔にセレネの頬も綻んで――


 死神ですが、事件です。
「ぉおおおおおおおおおおおおおい!!!?」
 青い海、ブルーグリーンがどこまでも広がっている。
 広大な空に。響く、黒い死神の怒りと絶望の雄叫びが――
「テメェどうなるかわかってんだろうなぁ!!!??」

 時は数分前に遡る。ルーミニスは心底楽しげな表情でクロバの肩を掴まえた。
「え、泳げないの? いやー、これはアレね。友人として特訓つけないとダメね」
「いや。待て」
「大丈夫! 引っ張ってあげるから!」
 問答無用で青いイルカに乗せられたクロバは遠ざかる浜辺に為す術もなく、しっかりとボートのロープを掴んでいた。否、握りしめていた。

「アハハハハ!! 悔しかったら自力で戻って来なさいな!!」
 遠ざかって行くルーミニスの声に、途方に暮れるクロバは月の出ていない空を仰ぐ。
 振り向けば、段々と沖合に流されていくボート。
 段々とルーミニスは眉根を寄せ、「し、仕方ないわね!!」と引き返すのだった。

 突然の落下。
 何故か突き落とされるルーキス。笑い転げる恋人の声。
「あー、笑った……息抜きー」
「やれやれ」
 前髪を掻き上げながらオールド・クロックを頼んだルナール。
「ここ数日の海騒ぎで体力使い果たした気がする」
 本の虫であるルーキスの事を笑えないと肩をすくめるルナール。
 少し疲れた身体でお互いの肌の温もりを確かめるように寄り添う二人。
「お兄さんは楽しめてる?」
 届いたコルコバードを舌に転がして、ルナールの頬を撫でるルーキス。
 勿論と返す彼の耳朶に甘く「好きだよ」と囁やけば、同じ様に言葉が返る。
 お互いしか写さぬ双眸に、吐息が掛かるほど近く。お互いの体温が愛おしい。
 ルーキスの悪戯な笑みも全て。
「ま、最愛の恋人が――」
 夏の日差しが煌めいて。青い漣は二人の言葉を隠して攫っていくのだ。

「本気の砂遊び……」
 こくりと頷いたシラスは黙々と波打ち際に砂を積み上げていた。
 大人の背丈を超えるまで大きくしてから今度は削りに入る。
 本物の鮫は見たことが無いけれど、きっと悪くはないはずだ。
 人間を丸呑みに出来そうな大きな口。びっしりと生えた鋭い牙。
「よし!」
 中々の出来にシラスは拳を握る。
「久しぶりの海洋の海なのです!」
 ルアミィは大喜びで海へと突入した。
 身体を流れる海水は冷たくて気持ち良い。
 海の中から空を見上げれば太陽のカーテンに魚がキラキラと揺れる。
 束の間の休息に。懐かしい揺りかごに。目を細めるルアミィ。
 疲れて浜辺に上がった所で、シラスの作った砂の鮫に驚いて――

 青く広がる海を泳いでいたアイナは、その大きさに感嘆の声を上げる。
「……なんて凄い」
 コンクリートの狭い世界で生きてきた彼女にとって、海の広さは心踊るものがあるのだ。
 泳ぎ過ぎただろうか。
 海から上がって濡れた肢体をビーチチェアの上に乗せる。
 すらりと伸びる脚と瑞々しい肌。それに美しい胸は誰もを魅了する色香で。
(何で皆こっちを見てるんだろう)
 朱に染まる頬も芳しさに色を乗せる。
 漣を聞きながら目を細めるエンヴィの髪が風に揺れる。
 彼女の空と海に溶けるような透き通った青に目を奪われるのはクラリーチェだ。
「軽食とお飲物をお持ちしました。お腹を満たしながら暫く寛ぎましょうか」
「ありがとう、クラリーチェさん」
 泳ぎ疲れた身体を休めるのにはこの水上バンガローは丁度良かったのだろう。
 夜は海の漣を聞きながら眠ったのかとクラリーチェが問うて。
「流石にそこまで近くは無かったけれど……ちょっと歩けば海、という場所だったわ」
 思い出の中で青く広がる海はやっぱり身近なものだったと。

「宜しければ休憩した後、釣りに出かけてみませんか?」
 クラリーチェが笑顔で誘う。お互い初めての試みだけど、きっと楽しい思い出になる予感がするから。
 さあ、戦いの前の腹ごしらえを済ませよう。
 二人は手を合わせて微笑んだ。
「「いただきます」」

 大量のサンドイッチとトロピカルジュースがテーブルに並んでいる。
 初めて着た水着は大勢の人に見られているかと思うと恥ずかしくて。
 ジルは早々に水上バンガローへと引き上げて来ていた。
 騒がしいのが得意ではない白雉もまた、優雅に貴腐ワインを傾ける。
「あら。ジルさんは水着は初めてでいらっしゃいますか」
 開放的な服は初めてだから。
「割とドキドキだったっす。あ、天音さんは水着とか着慣れてるっすか?」
「着慣れて、はおりませんね。白雉、昔はどちらかと言えばスーツでいることが多かったですし」
 しかし、動きやすさは水着の方が良いだろうか。
 頬を染めるジルに白雉は小さく微笑み――

 見えてきた水上バンガローに感心したのはクロジンデだった。
 ローレットの元受付嬢であった彼女には海洋の建物は珍しいのかもしれない。
「風流ですし、何より気分的にも物理的にも涼し気なのですよ」
 パタパタと帽子で仰ぎながらヘイゼルは海洋の暑いと云う。
 彼女の故郷ではその湿度はサウナぐらいのものだったのだと。
「まー、暑さの絶対値的にはラサの砂漠からくらべりゃ」
 砂漠の熱射は動けるレベルではなかったとクロジンデが笑う。
「よお、嬢ちゃんたち焼きそば食ってくかい?」
「へー、焼きそばかー」
「まあおじ様、その焼きそばというものを二人分お願いするのです」
 二人で焼きそばを食めば、美味しさも増すだろう。
「この焼きそば用のソースって黒くて独特な感じ」
 旅人が持ち込んだものか、それとも海洋の特産なのか。疑問は浮かぶが。
 それよりも今は眼の前の焼きそばは美味しいという情報で十分だろう。

 メルトはエメラルドの海を見ながら上質な時間を過ごしていた。
 手にはトロピカルジュースゆったりと流れる波の音。
「……うん、なんかセレブな気分」
 彼女の視線は海からの階段を上がってきたアグライアを写す。
「はー……流石に泳ぎ疲れました」
 バンガローの中へと入れば、異国情緒溢れる内装に笑みも溢れた。
「この辺りの食べ物となると、やはり海産物が多いのでしょうか?」
 おまかせで出された料理を持ってアグライアは海が見える端の方へ腰を下ろす。
 網で焼いただけのイカや貝を頬張れば、程よい塩気とぎゅっと詰まった旨味に頷いた。
「ふむ、中々悪くない、ですね」
 手短に食事を済ませた後は、青い海を堪能するのだと思いを馳せる。

 霧玄が頬張るのはパンケーキ。
 キラキラと光る海を眺めながら思うのは、夜の神秘的な海でのライブ。
 イルカの演舞に夜空の月が反射して。
 そんな夢のような風景の中で響く自分たちの歌声はきっと忘れられない思い出となるのだろうと。
 空想は絶えず、いつの間にか無くなったパンケーキをおかわりしに席を立つのだった。
「ふふ……」
 妖精がお菓子に齧り付く姿をエリーナの瞳は優しく捉える。
 ゆっくりと寄せて返す漣は彼女の耳朶を擽って――


 この浜にはもう一つの魅力がある。それは――

 海の中にこぽこぽと沸く暖かな温泉であった。
 岩を配置する工夫によって海水とまじりあい、程よい温度に調節されている。

 みつきは湯船の縁に腰掛けて壮大な景色を見つめながら彩りを堪能していた。
「ぶひはダメ、あっち行ってて」
「ぶひぃ~」
 そのみつきの横をふわりと妖精が舞う。『パン帝』セティアだ。
「もう、まじ、むり、湯治しよ」
 海と一帯になった感覚になる温泉の中、ラビとアルエットに声を掛ける。
「はじめまして? わたし、聖剣騎士のセティア、よろしくね」
「えっと、ラビです。よろしく、です」
「アルエットはねー!」
 勢いよく立った拍子につるんと足を滑らせて、みつきとセティアにお湯をぶちまけるアルエット。
「ごめんなさいなの」
「はは、元気だなぁ」
 頭をわしわしと撫でるみつき。
 セティアは顔を拭って熱い湯からぬるめの湯へ。
 戦いの最中、つかの間の休息。
 思い出を頭の中で繰り返しながら、セティアはゆっくりと目を閉じた。

「ポテトも体を冷やしていないかい?」
 優しく手を差し出すリゲルに大丈夫だと微笑んで温泉へと足を着けたポテト。
 青く煌めく海と同化した様な。それでいて温かい湯は全身を包み込む。
「不思議な感覚だな」
「本当だな。温泉に入っているのか海に入っているのか」
 ゆったりとした時間の流れ。ポテトの髪が緩んで湯船に落ちた。
 リゲルはそのミルクティ色の一房を掬い上げる。
「結い直してアップにしてみようか」
「ゴムしかないけど、今日はどんな髪型にしてくれるんだ?」
 湯船の縁に座り直したポテトの優しい笑い声が湯に反射して。

「ロングヘア―はイメージをクルクル変えられるのが良い所だな」
「私はショートも好きだぞ?」
 上半身を反らし手を伸ばしてリゲルの髪に触れるポテト。
 太陽に煌めく銀の髪の間に優しげな青い瞳がこちらを見つめている。
「今度は夏に見合う髪飾りも探しに行ってみようか」
 彼の瞳の様な夜空に輝く、涼し気な『青』を探しに――
 穏やかな時間を惜しむように二人は手を繋ぎ再び湯船に戻るのだ。

 青と白のフレアビキニを身に纏いノースポールは恋人と湯船に浸かる。
「温泉に入れるだけでも豪華なのに、海の景色を楽しめるだなんて最高だね!」
「リゾートって、凄いね~……♪」
「日常とも戦場とも違う。絵本の中にいるような、素敵な景色だね。こんな体験初めてだよ!」
 ふわりふわりと湯の流れに揺蕩うルチアーノは楽しげな声でノースポールに振り向いた。
 火照った身体に赤い頬。とろりとした瞳はルチアーノを見つめていて。
「……大丈夫? もしかしてのぼせたの!?」
「えっ、いや、のぼせては……って、きゃあっ!?」
 任せておけと言わんばかりに軽々と姫を抱き上げて湯船を出ていく王子。
 羽のように軽い、華奢な身体。折れそうな程に細い肩。柔らかな肌。
 この手で守らねばと思いが溢れるほど、愛おしくて。
「涼しくて休めそうな場所を探すから、それまで楽にしててね?」
 瞳の中に自分が映り込む程近くで囁かれた言葉に、ノースポールの身体は更に火照り――

 ――

 ――――

 のたり、のたりと寄せ返す。それはそんな小さな浜辺の物語。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 ブルーグリーンに輝く海と太陽の下で、思い出に残る彩りを添えられていたら嬉しいです。
 もみじでした。

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