シナリオ詳細
<ヘネケトの祝福>遠き夜明けに
オープニング
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――ファルベリヒトは消滅した。色宝は効力を失い我楽多に、全ては終焉した。
そう告げたイヴは悲しげであった。
自身の親とも呼べる存在の消滅。元から狂ってしまった彼女を救う事が難しいことは彼女も承知していた筈だ。
ファルベリヒトは最期、正気に戻った。その際に彼女はイヴを只の人として――精霊種として生きていって欲しいと願ったのだろう。
ファルベライズの守護者としての力は失われ、ホルスの子供たちと同様の気配を持っていた彼女はイレギュラーズと何ら変わりない存在となった。世界が、そう認めたとでも言うように。
「つまりは、イヴに関してはこれからもアンタ達に面倒を見て欲しいって事だ。
悪い話じゃないだろ? ラサを拠点にした情報屋見習いが増えるんだ。懇意にしてやってくれよ」
ファレンとフィオナの庇護下で生活し、ディルク達の手伝いとしてイレギュラーズを支える役に。
イヴと呼ばれた少女はそうなることを願った。
母の苦しみを拭い去ってくれたイレギュラーズに。
母の悲しみを拭い去ってくれたイレギュラーズに。
恩返しをしたい。ァルベリヒト。光の精霊、地平線の貴女。復活を象徴する者――彼女を救ってくれた彼等に。
「よろしく」
ぎこちないけれど。上手に笑えていただろうか?
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「さー! 来た来た! もう腹ぺこっすよ! 大きな戦いが終わったですから、そしたら祝勝会ってのがお決まりっすよ?
全く……しんみり顔は今は忘れてパァーッっと騒ぎましょうよ。ついでに高い酒持って来……ヴァッ、ちょ、待っ――」
「フィオナ」
ファレン・アル・パレストに引き摺られていくフィオナ・イル・パレスト。今日も愉快な兄妹がムカ入れてくれたのはパレスト家が準備した祝勝会であった。
無数の肉を見て涎を垂らしたハウザー・ヤークにハンカチを手渡しているのはイルナス・フィンナだ。イヴの引率役として彼女の傍らに立っていたディルク・レイス・エッフェンベルグは「行ってこい」と少女に声掛ける。
「……あの、ファルベライズでは、有難う。
イレギュラーズ……神に選ばれし者達がファルベリヒト様を……『母様』を助けてくれたから……。
私は、皆と同じ存在になった。だから、此れからは人として生きていく。
その……どうか、よろしく。……私は『ヒト』としてのはじめてを、みんなと過ごしたい」
「堅苦しく言ってるが、イヴもアンタ達に感謝してるから祝勝会を楽しんでくれって話らしい。
まあ、アンタ達も戦い続きで疲れてるだろ。一時の安らぎだと思って食事や酒を楽しんでくれ」
笑みを見せたディルクにイヴは頷いた。長らく遺跡の内部に存在した彼女は食事に酒にと知らぬ事ばかりであろう。
イヴは「色々と、教えて欲しい」とイレギュラーズへとそう告げた。
テーブルに並んだ絢爛な食事はラサ特有の者も多いが、ファレンが様々な地域から訪れるイレギュラーズの為に、と神威神楽や深緑の料理なども料理人を呼び研究したらしい。
生憎、海向こうに関してはそれ程情報が得られなかったのか見よう見まねである。彼の国の貿易相手である海洋王国から伝わった情報もまだ少ないのだろう。
酒類は多く取り揃えられている。ディルク曰く『楽しんだ者勝ち』だ。ラサ傭兵商人連合とローレットの合同主催であるからか、其れなりに盛況な様子を見せている。
「これって全部食べても良いのですか!?」
瞳をきらりと輝かせたのはユリーカ・ユリカ。「勿論」と微笑むイルナスはイレギュラーズ達にも「楽しんでいって下さいね」と柔らかな声音で告げた。
「さあ、皆さん。お疲れ様でした。
残念ながら色宝は我楽多となりましたがブラックマーケットに流す物品が増えた位に考えましょう。
皆さんのことですから忙しいでしょうが……今は、楽しんでいって下さい」
ファレンの案内に、イヴが「行こう」と躊躇いながらそう言った。
光の精霊、狂ったいのち――地平線の向こうから見えた、新たな光は新しい命のようで。
遙かなる砂漠。その地平は何処までも続いているわけでは無かった。
永劫の命など、必要ないと心を砕いた者達が傷付いても尚、守ってくれたこの命は有限であると識っているから。
遠き夜明けに手が届いたならば。
イヴは、『光彩の精霊のかけら』だった土塊は。
ひとりの人間として、こう言うと決めていた。
「――ありがとう。ファルベリヒト様を救ってくれて」
- <ヘネケトの祝福>遠き夜明けに完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年03月14日 21時55分
- 参加人数41/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 41 人
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参加者一覧(41人)
リプレイ
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長きに渡る色宝の一件も無事に終焉を迎えた。
ラサを包み込んでいた不穏な雲は払われ美しい夜空を望む事ができる様になったその日、フィオナの――否、これは『ラサの誰も』の――発案で祝勝会が行われることとなった。
「わーい、戦勝祝いだ、戦勝祝い。こういうお祝い事は何度やってもいいものだねぇ。じゃ、気楽に楽しむとしようかな」
笑みを浮かべた創は祝勝会用に準備された料理に舌鼓を打つ。ウイスキーでスパイシーな味わいを流し込めば喉に残る感覚は心地よい。
「こういうスパイシーな焼き飯って何て言うんだったっけ……まぁいいや、美味しいもんね」
四つ足の獣の姿で料理を食べ、ウイスキーに合う物を探し求める。イレギュラーズは様々な地域からやってきた。故に、料理の彩りも華やかだ。
「皆お疲れさまー♪ さぁ、呑んで食べて楽しみましょー♪
それにしても、幅広いお料理のラインアップねー。流石はラサの大商人、凄いわー♪
……でも、そうねー。ちょっとキッチンお借りしちゃおうかしらー♪」
フライパンを手に蘇芳はキッチンへと向かった。カムイグラでの料理を作り、商人達にも憶えて貰えば料理の幅も広がるだろうか。
仕入れて置いたオオウナギ。醤油と味醂、砂糖に酒を交ぜて作ったタレで蒲焼きに。ご飯と合わせてひつまぶしにするのも良いし、卵で巻いてう巻きにするのも喜ばれるだろう。
「良ければ此れも」と進めてくる商人達に頷いて野菜は天ぷらに。茄子の揚げ浸しなど様々な料理を作り続ける。
「ドー達にとってイレギュラーズや傭兵さんは英雄なんだよー。ドーも頑張って、『こうぐう』?
よくわかんないけど、いっぱい頑張って、他の人達と一緒にもてなすんだよー!」
にんまりと微笑んだリトル。そんな彼女を見つけてオウェードはもじもじとしながら彼女を見遣った。
「りりり……リトル殿……ななな……何かワシに手伝えることは……あるのかね……」
街角でよく会う少女が重傷を負ったと言う話は聞いている。心配だと彼女を伺えば、微笑むリトルは楽しげだ。
「かんぱーい!」
「ガハハハ! 乾杯じゃよ!」
楽しそうな少女を見れば心配も和らいだ。誰もが笑みを浮かべる祝勝会――そんな楽しい時間がやってきたことに感謝しながら。
ブライアンは少し後ろめたいと囁いた。今回の騒動にはちょっぴり手を貸しただけだという彼に「気にせずに」とファレンが席を勧める。
タダ飯タダ酒、そして主催の許可! 此処まで来たならば鱈腹食べて、飲んで酔っ払って。負い目も料理を見れば何処か遠くへ。
「次何かあっても任せとけ! 俺は今回何も任されてないけどな! ハッハー!」
良いと共に豪語して――きっと、もうそれも憶えてないのだろうけれど。
「あ。見ろ、何処かで見覚えのある飲み物だ……あんたが作ったのじゃない緑汁系飲料の味が気になる」
そう行ったアーマデルにイシュミルは「どれ」と覗き込む。栄養を考慮すればあの味になると称される青汁。
「こういうところで販売されるものが、どれくらい味に比重を置いてるのか……。いいか、これは市場調査だ。
店に出したいならもう少し味も考慮しないと。闇スムージーとか狂気の産物だろう、誰だ考えたの……まさかあんたか」
アーマデルのじっとりとした視線を受けて「闇スムージー……心当たりはないな。でもその発想は面白いね」とイシュミルは微笑んだ。
「味が分らないわけじゃないんだよな? いや、飲むけどな……え、飲むだろう? 勿体ないし……問題なのは味だけだし……」
「……」
何だかんだで飲んでくれるのは反抗期か、それとも刷り込みか。さて置いて、青汁は身体に良いのは確かなのだ。
「まずは騎兵隊の代表として、今回の竜狩りの助力に感謝を――それと、赤犬隊に出た犠牲者に哀悼の意を表するわ」
イーリンはディルクへと頭を下げた。「構うか」と手をひらひらと振ったディルクは「嬢ちゃん達が悪い訳じゃねぇだろ」と返す。
「――で、ま。後はそうよね、流儀ってものがあるわ。今回の借りはまた返す。だから今は勝ったことと、あの世に先に逝った連中の旅路を彩るために、今日は祝うで正しいかしら」
「はっ、それが良いか。此れは『借り』だ」
「ええ。赤犬さんと一緒に戦えて嬉しかったわ。また何かあったら呼んで頂戴な。その時は、絶対に勝利を連れてくる」
ウィンク一つ。グラスを傾けたイーリンの決意を感じ取るようにディルクは可笑しそうな顔をして笑った。
「よぉディルク。良いかい?」
グラスを揺らがせたキドー。この所、ラサに愛着が湧いてきた彼にとってディルク達と懇意になる事は望むべく物だ。だが、それ以上に色宝の事が気にはなる。
「色宝が力を失ってガラクタになったのは知っている。もう殆ど価値もねェだろう。
そんで、集めた色宝の今後の扱いってのはどうなるんだ?まさか、もう管理する必要ねェからどっかやっちまうなんてことはしねェよな?」
「その件はファレン達が担当してるな。聞いてみるか? おい」
「おい、で呼ばないで下さい」
肩を竦めるファレンにディルクは顎で合図した。キドーは『アズライト』という娘のことを考えていた。美しい、色宝の精霊。
「色宝の取り扱いですか?」
「そうだ。遺跡の精霊にさ、色宝を託されたときに言われたんだよ『これを私だと思って、かわいがってあげてね』って。
……いーい女だったよ。いい女の頼みを無下にはできねェだろ?」
ファレンはキドーの言葉に何か思い悩むように僅かに眉を寄せ――「それを貴方が持っていて頂くことは?」と問い掛けた。
「今、色宝は遺跡から出土した物品でしかありません。イヴに鑑定させても嘗ての力はない、と。故に、市に流すことになるでしょう。
『アズライト』に関しても同じ扱いになる。ならば、キドー殿が持っていれば良い。そう思いますよ」
そうか、と小さく笑ったキドーはアズライトを思い浮かべる。彼女が『無事』で在る事を噛み締めるように酒を煽って。
「ファレン殿」
ラダの声掛けに「ラダ殿」とファレンは頷いた。手紙を交す仲であるラダにファレンは気安く手を振って見せる。
「ところで意外と妹の扱いが力業だったな……ああ、いや。この度はどうも、何とか騒動も落ち着く方向になったようで何よりだ。
私は前線にいたからネフェルスト側の状況には明るくないがこちらは今どんな様子で? 水晶竜にやられた所は復興が進んでいるだろうか」
「ああ、大丈夫です。この土地は砂漠に囲まれて厳しい場所ですが、だからこそ民の活気は十分だ。バザーも直ぐに復興され、傷など感じさせることはないでしょう」
ファレンのその言葉に安心したとラダは頷いた。砂漠の民は豪胆だ。ちょっとやそっとのことでは挫けないことを彼女は知っている。
「もう少ししたら私も幻想の方へ戻る予定だ。あちらは今、奴隷市だ何だと騒がしい。何か分かればお伝えしよう……ずっとはないんだろうが、暫くは平和になるといいな」
「……そうですね。ラダ殿、無理はなさりませぬように」
何時如何なる時もイレギュラーズにそう告げる彼に、ラダは「ああ」と小さく頷いた。
「ふふ、やっぱりラサは下を向いているより、上を向いて楽しく笑いながら飲み交わしてるのが一番!
フィオナちゃんやその辺で飲んでる皆さんと、楽しく飲んで! 食べて! にぎやかに過ごしましょ!」
かんぱーい! と楽しげに微笑んだアーリアが知らぬ所で、てこてこと動いていたのは茶色いとり。
彼はミケランジェロと言う。鳥だ。砦あるのは間違いないが、今はアーリアの領地の守人(鳥)である。
(我がミケランジェロランドの来園者を他国から呼べば、盛り上がるはず! そうですよね、領主さま!)
チキンで手が汚れた者達にミケランジェロランドのちらしをそっと手渡すミケランジェロを眺めながらエールやブランデー様々な酒を楽しむアーリアは「あらまぁ、全国展開に熱心なのねぇ。ふふ、えらいえらい。私も皆さんに美味しいチキンをおすすめしましょうかぁ」と微笑んで――
「領主どの! スパイスチキンをお持ちしました!」
「美味しいチキンって良いわよね」
「あ、アーリアさん」――フィオナの言葉にアーリアは気付かない。
「あーん」
がぶり。
「あの。かじらないでくださギエエエエエエ。領主どの、領主、りょ、領主さまあああ、お願いしますううううう」
――齧り付いたのは、ミケランジェロの頭であった。ちょっと、美味しかったのは多分気のせい……気のせい……?
●
「こうして正式な場でご挨拶をさせていただくのは初めてですね、フィオナ・イル・パレスと様。ファンドマネージャー、新田寛治と申します」
ファンドの依頼を受けてくれて有難うございますと頭を下げた寛治に「まあ、良いですよ。フィオナちゃん可愛いですからね」とフィオナは胸を張った。
「この度は宴を催して頂き、感謝を。よろしければ、ラサと貴女に乾杯しても?」
「勿論、乾杯してやりますよ」
微笑んだ彼女を見て寛治は何かを思い出す。昔何処かで逢ったことがあるような――それは遙か昔の事であるような。
ウォーカーである自分が彼女の『昔』なんて知っているわけがないのに。どうしてか身体が身構える。ジャーマンスープレックスホールドを。
――今の俺では肩を並べて戦うには力不足だが、同じ戦場に立てたことが誇らしい。英雄達をこんなにも間近に見ることが出来るのだから。
特異運命座標に選ばれて良かったと、アルトゥライネルが心を躍らせる。深緑を飛び出したただの幻想種の少年ではこうも行かなかった。
「食事は取れていますか」と心配そうに問い掛けたのは砂漠の幻想種であるイルナスであった。同じ幻想種、それでもラサで生きる一線で活躍する存在だ。緊張が僅かに滲むがアルトゥライネスは「有難う」と頷く。
「良ければ酌を」
「――ふふ、有難うございます。お願いしても?」
気安い彼女は「お疲れ様でした。今日はともに、戦果を讃えましょう」とアルトゥライネルへと微笑んだ。
「祝賀パーティーとはホントお金持ってますねえ。まぁ無料だと言うならば食べて行きましょう」
そう笑ったのはカイロ。ラサの出身である彼は無難にラサ料理を楽しみながら、肉を中心にワインを呷る。
腹八分目でデザートを選んで、食事を続けようとするカイロの傍らでは同じように肉を食べ続けるハウザーがどすりと腰を下ろしている。
「今の私は簡単には止まりませんよ。止まるのはお肉が尽きた時か、パーティーが終わる時です。
ただまぁ、今回はラサの肉料理だけにして置きましょう。ほら……度を越して食べ過ぎると顰蹙を買いそうですし?」
――外の国の料理でハズレだと思った場合は苦しいから、なんていう本音は隠して置いたのだ。
「さ! 気を取り直してパーティござる!
先の戦いで、獅子郎どのを斬り損ね……もとい、お会いしそびれたことは、この際さぱっと忘れ申そう!
忘れようためには肉ござる肉! 肉の質と量は、すなわち幸せござるからネ!」
至東は屋台を引いてきて料理人には引けを取らぬのだとメイド業&ローレットの活動で培った料理スキルを存分に活かし続ける。
そんな中でふと、白い鬣が見えた気がして至東は息を飲む。白の死に装束はっしゅ・ホワイトの見間違い。鬣だって豪奢な服飾だ。
(……何より、本当に死んでいると『拙者が信じている』からこそ、ホルスの子供達は、あのように立ち上がろうとしたので、あって……)
それは獅子郎なんかじゃないはずだった。諸国漫遊に流離う彼でも死の国からこんな場所――なんてのは『混沌世界』が赦さぬのだから。
「盆にはまだ早うござるよ、獅子郎どの――……未練、断ち切れぬなあ」
その呟きは、喧噪の波に呑まれ、誰にも聞こえることはない。
「イミナ、がんばってみんなを守りました!ㅤえへへ……。
パーティのお手伝いをしようと思ったけど、座ってていいって言われたからごはんをたべましゅ。
ふぁるぐめんと、はよく分からないけど、イミナにはかみさまがついてるから大丈夫なんです」
ちょこりと座ったイミナはおいしい、と笑みを零す。そんな傍らで自身も食事を食べても良いのだろうかとそわそわとした調子の詩音。
食べていって下さいと席を勧めるイルナスに小さく礼をして周囲をきょろりと見回した。
様々な国の料理がある。折角ならばラサの、そして、それから様々な料理を。人の波が去った頃を見計らって皿にのせて食べ続ける。
宴が続く最中は料理は供給され続け、座っているだけで微笑みが溢れる。此処は屹度、暖かい空間なのだろう。
「子守か、子守だなこれ?」
「祝賀パーティー…英気を養う…ヒトノ営みには大事なこと。僕もがんばった。だから美味シいご飯食べる。明日ノ為に」
頷いて食事をもっもっもと勢いよく平らげるのはアヴニール「早っ?! 料理が消えるの早っ! お前、ちゃんと噛んでるか?」と慌てたブラムにアヴニールは「体力づくりノ為に」と食事を勧め続けた。
「いや、味わって食べるのはな……意外と大事だぞ。食事は栄養さえ満たせばいいってもんじゃないからな。
……合成ウナギゼリーとかちょっと狂気入った産物だったしな。誰だよあれ考えたの」
元の世界で感じたそれをぼそりと呟けば首を傾げるアヴニール。
「ちゃんと食べて、ちゃんと寝て、楽シむときは楽シみ、悲シい時は泣き、怒るべき時には怒る、それがヒトノ生き方。
ヒトであるように、ヒトになるように、日々ノ生活に楽シみと、喜びと…ときには悲シみも添えて。生きる、ノです」
「そうだな。よし、これでも飲むか」
「飲む?」
「ああ、これはスープだからな、『飲む』のでいいんだよ。カレーとスープは飲み物だからさ」
まだまだ食事は続いていく。不思議そうな顔をしたアヴニールに「カレーあるかな」とブラムは周囲を見回した。
「ディルク様〜! ふふ、お疲れ様でした。
こんな事を言うのもアレですけれど……戦場であなたの戦う姿を間近で拝見出来て良かったです。戦いが終わった今だからこそ言いますけれど、ね?」
見上げ、上目遣いに囁いたエルスへとディルクは「敵はモンスターより俺か、嬢ちゃん」と揶揄いの声が降る。
「んもう……私はあなたに夢中で敵を前に刃を落とすお馬鹿な女ではないと言う事です。たまに言う素直な感想もそのまま受け取って下さいな?」
頬を膨らませたエルスは「ワインでもどうでしょうか」と声を掛け――「きょ、今日は大丈夫です! 倒れて寝たりなんて事しません!」と慌てたようにグラス二つを手にして彼を覗き込む。
その仕草だけで、ディルクはこの娘が酔っ払っていることを察していた。
――そして少しの時間を空けて、しな垂れ掛かりながらも未だにグラスを離さないエルスの頬に朱色が差してゆく。
「ディルク様、ディルク様? ふふふ……酔ってませんよぉ〜。
……あなたの事は別に心配してないですけど、でもあのドラゴンを前に『万が一』を考えない程強くもなくて、ですね? こうしてあなたとお酒を飲めるの、とても……嬉しいのです」
「『酒を飲むだけ』かい?」
その言葉に、エルスはぴたりと動きを止めた後に「悪い人」と唇に乗せた。分かっている癖に、そうやって揶揄って。
「そんなの、あなたが好きだから、ですけれど?」
そう唇に乗せたことは――屹度、彼女は憶えていない。ディルクがなんと答えたのかも、眠りに落ちた少女は何も知ることもなく。
「……日澄さんは、この前の戦いに参加したの……? ……僕はそっちにはいけなかったから、よければお話、聞かせてほしいな……♪」
夜影は柔らかなベットの上で横になりながら日澄をちらりと見遣った。
少し遡って人並みに疲労を感じていた夜影に「実は私も先程から頭痛が凄くって! ま、どうも貴女様とは難儀な『贈り物』を貰った同士、良縁奇縁もあるだろうさ!」と日澄は夜影を個室へと誘った。
同じベットの上で語り聞かせようと此度の冒険の話を紡ぐ。
「水晶偽竜とはいえ生物の血を受けて笑って居られるなんて人でなしの所業だろうよ。暫く話と頭痛の種には事欠かないわね。
ねえ……眠る前に貴女様の名前を教えて頂戴。どうせ、記憶以外は夢の世界に持っていけないからさ」
そう微笑んだ日澄が撫でる指先が心地よいと夜影は目を細めうとうとと物語を聞き続ける。
「……僕は、夜影。……日澄さんはどんな夢を見るんだろ……? えへへ、きっと見たいものが見られると思うよ」
シーツの上に広がる体温に、身を任せる夜影へ、日澄は目を伏せた。指先を絡め合って、今日は悪夢は遠ざかってと願うように。
「イヴ」と風牙はちょこりと座っていた少女に声を掛けた。精霊種の、小さな娘はファルベリヒトから別たれた子に当たるらしい。
――彼女はイレギュラーズに「母を救ってくれてありがとう」と言った。風牙が殺そうとした、ファルベリヒトを救ってくれた恩人だと。
(確かに、多くのイレギュラーズたちはそうかもしれない。だけど、オレにはその言葉を受ける資格はない。
彼女の母のことをまったく考慮してなかった。ただ殺すと。その内にあった『博士』を殺すと、その身に槍を、殺意を向けた)
それはイヴにとっては母の敵で合ったのではないか。風牙はぐ、と拳を握り込み決意を固めて声を掛けた。
「イヴ。すまなかった。オレは、君のお母さんを殺そうとした。お前の思いを、まったく考えなかった」
「―――」
驚いたように彼女の目が見開かれる。深い、ファルベリヒトと同じ色の瞳。瓜二つのその姿に風牙は唇を噛み締めた。
屹度彼女は赦す。内心にどのような想いがあるのかは分からないが、謝罪を受け取り「気にしないで」と言うだろう。それでも、自分は赦せなかった。
「……だから、誓わせてくれ。次にお前に、お前が大事に思うものに何かあったときは、必ず助けに行く。お前が救われるよう、最大の最大限、努力する。絶対だ」
「ありがとう。……手を伸ばしてくれて」
自己満足に、イヴはそう返してくれた。「知らない事ばかりだから、教えて欲しい」とどこか困ったように小さく笑って。
グリーフはあの決戦の日までイヴと深く面識があったわけではなかった。それでもファルベライズを討たねばならないと知ったとき、イヴという少女がファルベライズの崩壊を防ぐ鍵になるのではと思い、護っただけ。
それでも――思った。願ってしまった。『器として作られた存在』という彼女に対して、『彼女が彼女としてあること』を。
それがイヴにとって望んだことであったのか、グリーフは考える。ファルベリヒトと一つになり、還りたかった可能性だってある。
奪い取った場所で、光を浴びる。そんなこと、望んでいなかったかもしれないのに。
「イヴさん」
名を呼べば、少女はグリーフを見た「こんにちは」と慣れない挨拶を口にして『ファルベリヒト』と同じかんばせを向けてくる。
「少し、良いでしょうか」
「勿論。……何か、あった?」
囁くその言葉に、僅かに感じた人間らしさ。彼女の様子を伺えば、屹度、イヴはグリーフを責めることはないだろう。
それでも願った者として謝罪をしなければならない。彼女が生きていくために進むと望んだそれを、知る為に。
●
ファルベライズ遺跡へと足を踏み入れたシキは祈りを捧げていた。
――祈る場所か、そう問われれば「そうだろう」と彼女は静かに返すだろう。
土塊に魂が宿るか。彼等が朽ちる様子は死と言うのだろうか。そうした疑問を宿す者も居る。あれは、生き物ではなかった、と。
シキはどうしてもそうは思うことが出来なかった。これが自己満足だと言われようとも、ホルスの子供達の『人間らしさ』を否定したくはなくて。
(――彷徨う魂に導灯を、死者に安寧の暗闇を。大層な死の意義なんて、私には与える権利もないけれど。
でも……絶対、覚えている。私がずっとずっと、覚えているから。私がこの地で出会った『彼ら』のことを)
それがホルスの子供たちにとって救いになるならば。
精霊と共に遺跡の奥へ。フルールは小さく息を吐く。あの時はゆっくりと見て回る事ができなかったこの場所は、落ち着いて見遣れば美しい。
「ここでは戦いばかりだったけれど、リュシアンおにーさんは今はどこにいるのかしらね。
綺麗なこの景色を見ることなくオーナーと呼ぶ誰かの所に帰って行ったのかしら。……魔種であっても、人らしく生きることはできるでしょうに」
フルールはぽつり、と呟く。あの美しい青に散ったシャルロット。自身が『滅びを助長する存在』で在る事を知っている彼女はイレギュラーズに討たれることを望んでいた。
「魔種と、共に笑い合うことはできないのかしらね……私は仲良くしたいのに。さて、そろそろ行きましょうか」
精霊達と共に、ゆっくりと歩き出す。彼の痕跡は此処には残っては居ないのだろう。
「……そうだ。リヴィ、ちょっとでかけないかい? ここの夜空も星が綺麗だって聞いたんだ。せっかくだから、ちょっとした冒険って事でさ」
勿論、と頷いたリヴィエールの手を引いてニアは「ほら、祝賀会から食べ物なんかもこっそり拝借してきたんだ」と悪戯っ子のように笑った。
時刻が下れば夜の星が瞬き美しい。寒さを感じさせる砂漠の中で、ニアは「リヴィ」と呼んだ。
「色々あったけど、これからもこうやって一緒に星を見れると良いな、って思ってさ」
「綺麗っすね」
「――そうだね」
その眸で星が散っている、なんて。口にも出来ないかとニアは小さく微笑んで。
「それに、雰囲気に水を差すワケじゃないけど……ご先祖様の冥福ってヤツも祈りたいしね」
ファルベライズは――ファルベリヒトも、其れに纏わる伝説も。全てがパサジール・ルメスの彼女に繋がっているのだから。
酒は飲んでも飲まれるな。シャッファはふらりと酒を煽り乍ら一人でファルベライズの中を進んでいた。土塊の人形が人の形を作って、朽ちている。
「諸行無常よねぇ……」
瞼を伏せさせれば人のようなのに、手に伝わるのは土の感覚だけなのだ。願わくば幸福で在れば――そう考えるのは自身の優しさなのだろうか。
メモ帳と鉛筆を用意して、エルは進む。庸介と共に二人、進むのはファルベライズの内部だ。
「冬が終って、春が来る前の、ように。
どこかに、博士さんの名残が、積もり積もった何かが、少しでも見つかるように、エルは頑張って探します」
「ああ、探そう。其れが何処にあるのかは分からないが……」
庸介にエルは「頑張ります」と告げた。猛々しくも、探し求める。それでもイヴにさえ知られなかった痕跡は存在して居ない。
進む道は静かに、戦場となっていたときの喧噪は今はもう、遠い――
「付き合わせる様な形になってしまったな、済まない。リュティス」
二つの花束を。ひとつは、リュティスの元主であったキールに。もう一つは友のローランドに。
「いえ、構いません。ご主人様。人形とはいえ、旦那様への祈りでも捧げましょう。既に一度見送ったので花束などは用意はしておりませんが……」
そう困ったように肩を竦めたリュティスにベネディクトは頷いた。屹度、彼女の方が気持ちの整理が付いているのだろう。
友たるローランドの遺体はドゥネーブへと連れ帰った。彼女の主は人形が姿を借りたものだった。勇ましいメイドを見遣りながらベネディクトは小さく笑う――弱いのは、自分か。
「……お前は、お前の為に生きろと。そう言われてな」
死んだ人間に心を囚われるなと、そう言われたのだとベネディクトは静かに囁いた。
「過去を全て無かった事になど、出来はしない。だが――
君の主であったキール・クロイツァーが。そして俺の戦友達が認めてくれる答えを何時か出してみせる」
このままでは何時まで経っても彼等は安心して逝くことが出来ない。それが何時になるかは分からずとも答えを見つけるために進みたい。
「最期まで、俺の側に仕えてくれるか? リュティス」
彼女の答えは、もう決まっていた。それが、リュティスと呼ばれた少女の在り方だからだ。
「消滅した大精霊、叶えられた願いと、叶わなかった望み。奇跡は色を失い、石はもはや夢を紡ぐことはない。
……この遺跡もいつか、砂に埋もれ、忘れられていくのだろうか。風化して、消えていくのだろうか」
アムルはそう呟いた。星空の下、それでも『何処か遠く』に薄れていく記憶を追いかけるように。
「でも……彼らの事を誰かが謳い、物語り……いつかその中から新たな精霊が生まれるのかもしれない。そういう意味では、彼らはまだ、永遠に近いところにいるのかも」
御伽噺のように紡がれる其れを好んだのは『兄さん』の方だった。アムルは思い出す。『姉さん』は「男はいつまでも夢ばかり見ている」と笑って居た。
ああ、それでも――今はどこに。
(また逢えるのだろうか。その資格が……あるのだろうか?)
その答えを探すように、夜のしじまを一人歩いて。
●
――この世界で同じような境遇のモノと邂逅するとはどんな確率だろう。
ロロンは静かに考えた。救いたいと考えた、否、想い感じて言葉にしたならばファルベリヒトは救われたと笑ってくれた。
「それをボクは望んだハズだ。見届けて満足しなくてはおかしい。
ああ。でも……救っておいてこんなにも思考にノイズが走る。
星ほど大きくなった時は多くを失ったにも拘らず、あんなにも回路は冴え渡っていたのに――ボクは感情を知ってしまった」
持っていたものを自覚してしまった。過去と向き合わねば鳴らぬと、分かってしまった。ファルベリヒト、同じ存在。それがあんな風に終れたことが羨ましい。
残されたファルベリヒトの欠片、イヴはまた別の生を贈るならば。それは別の存在だ。故に、ファルベリヒトを失った悲しみに浸りながら――
「パーティーで挨拶を、と思ったけど。やっぱりこっちに。
探索は色々としてみたけど、ホルスの子供達もいないこの場所をゆっくり歩くのは少しだけ新鮮で物寂しいわね」
アセナは静かに息を飲む。もう少し博士と話してみたかった。死者蘇生が何時か叶うというならば反転してしまった者も『新しい人生』を歩めるのかも知れない。
それを『混沌世界が許容していない』以上は為し得なくとも――その心に触れてみたかった。
「……まぁまた会う機会があるかもしれないから、その時を楽しみにしていましょ。
その時に他者を犠牲にするやり方をするのなら、また殴ってあげましょう。
ここは夜空が狭くて、凄く綺麗に星が見えるのね。……えっと、帰り道はどこかしら?」
方向音痴は首を傾ぐ。さて、帰り道は何処だろうか。
『オンネリネン』の少女・オイリと共に希はファルベライズ遺跡の中を進んでいた。子供達が仲間のために、金のためにと求めた色宝は今や我楽多だ。
ファルベライズと何か、ファルベリヒトという大精霊の話の説明を聞きながらオイリはこくりと頷き続ける。
「オイリ、黙祷をしましょう」
「何に?」
「……そうね、ホルスの人形達とこの事件でなくなった人のために、かな。
ただの土の塊であって、そこには魂なんてなかった。それでも、誰かが誰かを思った結果、再生されたわけで。
……人形だけど、あれだけの人が誰かに思われているのに、死んでいるんだなって」
だから――此処に確かに存在した証に、と目を伏せる。オイリの仲間だって此処でなくなった。友人であったかも知れない、子供達。
生き残ったオイリの仲間達はどうなっただろうか。組織だって動いていたならば、何処かに姿を眩ませたか。
(それでもこの子は生きている。亡くなったお友達が来世で幸せになれるよう願ってあげて欲しい。
……それとは別にまだアドラスティアにいるお友達をどうしたいのか考えて欲しい。それが、オイリの出来ることだから)
黙祷を。そうして目を閉じるオイリの横顔を希は眺めて居た。まだまだぎこちない関係であれど――彼女が何を考え、何を行うかを知っていきたい。
それが、『今から』のオイリだから。
「イヴさん、改めて御無事でよかったです。ただ、ファルベリヒト、貴女のお母様を、祈りの先を助けられなかった。それだけは後悔しております」
星空の下、痛む身体を悟られぬように正純はそう微笑んだ。右肩に刻まれた鎖状の痣――その詛いと祝福をイヴは何となく察している。
「……いえ、こんなことが言いたいのではありませんね。
貴女をこうしてここに連れてきたのは、もし良ければ共に祈ろうと思ったからです。互いに祈る先は違いますが一緒に」
星に祈りを。イヴがそうしていたことを正純は知っていた。故に、信ずるものが違っていたとしても、祈ることは出来る筈だと囁いて。
「…貴女のお母様たる大精霊ファルベリヒトに、散っていった数多の命に祈りを。
これだけ星が出ていれば、空が晴れていれば、きっとその祈りは、どこまでも遠くまで届くでしょう」
「……はい」
祈りの間に――正純の身体が痛んだ。酷く、身体を蝕む呪い。そして、星の存在を感じる祝福。
「――さん」
呼ばれたことに、正純は気付かない。美しすぎる星が、眩く包み込んでくれるから。
「正純、さん」
「……ああ、ごめんなさい。イヴさんは此れからローレットの依頼を手伝いながらラサで仕事をすると聞きました。……であるならば何かあればぜひ私を、私達を頼ってください」
「ええと……」
「あ、えっと……。勝手に親しみを覚えているので、厚かましかったらごめんなさいね?
貴女を初めて見た時、空へ祈りを捧げた姿を見た時、そしてあの戦いの後の涙を見た時、何だか放っておけなくて。
……こほん。同じ巫女として、友人として、仲良くしたいなって。良ければ私とお友達になりませんか?」
ぱちり、と瞬いたイヴは「勿論」と小さく頷いた。空の器。何も持たない彼女は「教えて欲しい、どう生きていくのか」と緊張を滲ませた。
眩い星に蝕まれるその痛みを、僅かに察知しながらもイヴは知らない振りをしていた。それが人間として生きていくと言うことだと知っているように。
アントワーヌと共に、行人はファルベライズ遺跡の中へと進んできた。中立の視点をとれないと自己認識してこの一件から身を引いていたと添えて。
今まで戦ってきたホルスの子供たちの事を思ってアントワーヌは眉を寄せる。今まで戦ってきた彼等は最後、安らかな眠りにつけただろうか。
「安易な同情も彼ら、彼女らを貶めるかもしれないが、死ねば皆仏、という言葉も俺の世界にはある。死後のことを祈るくらいはさせて欲しい」
「ああ。……私が思うのは、祈るのは、烏滸がましいのかもだけれど、優しい夢を見ていて欲しいと思うよ」
目を伏せたアントワーヌに行く人は小さく頷いた。ふと、「怪我の具合はどうだい」とアントワーヌは問い掛ける。
「俺よりも君の方だよ。傷跡が残らないといいけど」
仕事だから何方も分かっている。アントワーヌにとって行人が怪我し痛い思いをするのは苦しいことだ。姫を護るのが王子様の仕事――だと、言うのに。横に立っていただけで何も出来なかったと悔やむ。
王子様である彼女は、お姫様と手を差し伸べては来るがイレギュラーズであろうともまだ20歳。仄かな幼さと危うさが存在して居る。
「君は最後まで精霊としてのあの子との疎通を試みたのに、私は……」
「……お互い護りあったから、生きているんだ。大丈夫だよ、俺も、君も」
それから、行人は小さく笑った。アントワーヌのぎこちない笑い。不自然に視線が揺らがないそれはギフトを使って感情を隠した証。
「また君は……常日頃思っているけれども、随分と意地っ張りだよな。君」
「何がだい?」
揶揄うようなその声に行人は肩を竦めた。
世界はハッピーエンドが確約されない。絵本のような煌びやかなものでもない。簡単に、命の灯火が消える。
(『行人君。私は君の旅に何処までも着いていきたいと思っている。例えその旅先がこの世でなくなったとしてもね。手を繋いで微笑みながら歩いていきたいんだ』――なんて、云えるわけもないか)
アントワーヌの笑みを眺めて、行人はその頬を悪戯めかしてつん、と突いた。
「少しくらいは頼ってくれても良いんじゃないか?」
王子様という原点から一歩進んで生身の人間のように――自身に頼ってと、言葉を濁して。
花と酒を手にファルベライズを訪れたルカは「……ま、アンタらだけが無事に残るなんて都合のいい話はねえよな」と小さく呟いた。
アナスタシア。聖女だった者が生前為し遂げられなかった『夢』を叶えたはずだった名残。
そして――『ルカにとっての戦友』が戦った場所。
土塊に戻ってしまった彼女たち。其処に『存在(いき)た』筈だと寂しげに微笑んでから穴を掘った。
「……土塊を埋葬なんて我ながら馬鹿な事してるよな。けどよ、お前はやっぱ流石だよ」
埋葬を終え、花を捧げて酒を注ぐ。どかりと腰を下ろしたルカは語りかける。彼は屹度最後までここで仲間を護ったのだろう。
だからこそ、誇らしい。だからこそ、過る寂しさと名残惜しさを飲み干して。
「今度こそ、守れたんだな――じゃあな。今度こそ、さよならだ」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。ファルベライズの終焉に。
それから、此れからも冒険に出掛ける皆様にエールを。
GMコメント
ファルベライズお疲れ様でした。祝勝会です!
※一行目:行動は冒頭に【1】【2】【3】【4】でお知らせください。
※二行目:ご同行者がいらっしゃる場合はお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
【1】パーティーに!
ローレットと傭兵商会連合の連盟で行われる祝賀パーティーです。
屋内と屋外何方にも会場は広がっており目一杯に楽しむことが可能です。
食事はアジアンテイストなものが多いですが流石は大商人、各国の料理を取りそろえているようです。(残念ながらカムイグラはちょっぴり残念な出来かも……)
持ち込みや調理も大歓迎です。キッチンはパレスト家の料理人が皆さんを歓迎して自由に使わせてくれます。
酒類も種類様々。蒸留酒が中心ですが、商人である事を活かしてワインなどなども取りそろえて有ります。
*ディルク、イルナス、ハウザー、ファレン、フィオナが此方には居ます。
【2】パレスト邸の個室を借りる
休憩のために良ければと客室を用意してくれています。天蓋付のふわふわのベットがあります。
窓からは祝勝会が行われると賑わうサンドバザールを見下ろすことが出来ます。灯りがとても綺麗です。
とてもアラビアンな客室ですが、其れなりに過ごしやすいようです。自由に借りることが出来ます。
【3】ファルベライズへ……
ファルベリヒトが死に、色宝はその力を失ったファルベライズ遺跡です。
モンスターなどがいるために注意して下さい。ホルスの子供たちは動力を失いゆっくりと動作を停止して土塊に戻り崩れていきます。
何処か浮世離れしたその空間はクリスタルの迷宮へと通じる扉も失われ、今は普通の遺跡です。
夜空には、星が綺麗な、そんな場所です。探索される方はどうぞ。
【4】その他
上記に当てはまらない場合はこちらに。
ご希望にお応えできなかった場合は申し訳ありません。
●NPC
・ラサのNPC(ディルク、イルナス、ハウザー、ファレン、フィオナ)
・ローレットの情報屋(ユリーカ、ショウ、プルー)
・イヴ
・夏あかねのNPC(月原、リヴィエール、深緑家出司教フランツェル)も居ります。
・無制限イベントシナリオですので、ステータスシートを所有するNPCが参加する場合があります。
(通常の参加者と同じように気軽にお声かけしてあげて下さいね)
●EXプレイング
解放しております。ご入り用の際はご使用下さい。
関係者によっては登場できない場合もございます。予めご了承下さい。
それでは、どうか楽しんで!
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