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シナリオ詳細

再現性東京2010:寒月の湯

完了

参加者 : 35 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 師走の風が夜の街に吹けば、白く立籠める湯気がゆらりと捩れる。
 石作りの温泉。露天風呂には温かな湯が満ち満ちていた。
 指先を湯から上げれば、白い肌を水滴が伝っていく。
 冬夜の寒さと熱めの温度。その境目を行き来するのは心地よかった。

 小さく息を吐いた『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)は水面に浮かぶ月を見つめる。
「何を見ているんだい?」
 水面に視線を落とす廻に問いかけるは『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)だった。
「月が浮かんでるなぁって」
「ふむ。月が浮かんでるのは夜空だろう?」
 インク・ブルーの夜空には細い月が僅かに顔を覗かせている。
「いえいえ。こうやって水面に浮かんでるんですよ」
 廻はお湯を手で掬って暁月に差し出した。悪戯な笑みを浮かべた廻に暁月は小さく吹き出す。
「成程ね。手の中の月か。風流じゃないか……ところでここに日本酒があるのだけど」
「月見酒ですか! 良いですね、呑みましょう!」
 木の桶に日本酒を入れて、湯に浮かべる。心地よい酔いは日々の疲れを癒してくれるだろう。
 熱くなれば湯から上がり涼んでも良いかもしれない。

「月と温泉、やっぱり露天風呂は良いね。家にも作ろうか」
「それも良いかもしれませんが、白銀さんに怒られませんか? 誰が管理するんだって」
「はは、確かに叱られそうだ。それにこうして温泉宿に泊まる楽しみも半減しそうだからなぁ。毎日入れてしまうと有り難みが薄れてしまうね」
 暁月と廻はこの仕事のついでにこの温泉宿に来ていた。
 依頼の内容自体は簡単で、イレギュラーズと協力して逃げ出した温泉アヒルの夜妖を捕まえるというものだったのだ。それも無事に解決し、こうして晴れて温泉に浸かっているという次第だった。

 この温泉宿には露天風呂があり、景色と月が楽しめる。
 混浴は水着必須だが、男湯女湯もあって伸び伸びと過ごせるだろう。
 貸し切りなので、人目を気にすることも無い。
 温泉宿ということもあって、個室に露天風呂が備え付けられている部屋もある。
 友達や恋人とゆったり過ごすには持って来いだろう。

 ――――
 ――

 お湯の流れる音が耳朶に響く。
 心地よさに身体を委ね、伸びをすれば心が洗われるようだ。
 冷えてきた肩に夜風が吹き付ける。首まで湯に入ればじんわりと温かさが広がった。
 風に揺れる湯気を見つめながら物思いに耽る。
 寒い夜は温泉に浸かってのんびり過ごすのが一番なのだ。

GMコメント

 もみじです。寒い夜には温泉に入りたい。

●目的
 温泉宿で過ごす

●ロケーション
 希望ヶ浜の山奥にある温泉宿。
 貸し切りですので人目を気にしなくても大丈夫。
 露天風呂も女湯、男湯、混浴とあります。
 個室の露天風呂も。

●出来る事
 適当に英字を振っておきました。字数節約にご活用下さい。

【A】露天風呂
 月を見ながら温泉につかれます。
 男湯、女湯、混浴があります。
(※混浴は、必ず水着着用のこと。性別不明は混浴へどうぞ)
 寒い夜風と熱めの温泉が心地よいです。
 飲食物、お酒等の持ち込みもOKです。ゆったり過ごしましょう。

【B】お部屋
 お食事や個室の露天風呂など。
 お布団を並べておしゃべりなんてのも、お泊まりの醍醐味ですね。

・お食事
 旬のブリの刺身や和牛のステーキなど。
 温泉宿ですので、一通り取りそろえています。

『一例』
 食前酒:花梨酒(未成年はジュース)
 先付:甘鯛昆布じめ、かぼちゃ煮、ごま豆腐
 前菜:鮭ルイベ、切り干し大根、くわい、アワビ、(氷頭膾を出すか聞かれます)
 お凌ぎ:おそしそば
 お造り:ブリ、サワラ、マグロ、ヤリイカ、アカガイ、
 炊合せ:里芋、鱈の真子、海老しんじょ
 焼物:焼き伊勢エビ
 台の物:カニのしゃぶしゃぶ
 強肴:黒毛和牛のステーキ
 蒸し物:真鱈の白子蒸、銀杏、生姜
 酢の物:春菊、大根、柚子
 椀物:お食事、香の物
 お茶:みかんシャーベット
  ※他、定食や単品料理有、河豚コース、寒ブリコース、アンコウコース有
  ※各種日本酒を取りそろえております。

【C】
 その他
 温泉宿にありそうなものがあります。
 卓球とか、座敷の休憩室とか。

●プレイング書式例
 強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。

一行目:出来る事から【A】~【C】を記載。
二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
三行目から:自由

例:
【A】
【廻酒】
 月を見ながらお酒を飲むよ。
 この日本酒美味しいなぁ。すいすい呑めちゃうや。
 温泉に月にお酒なんて、極楽かも。
 ふふ、楽しくなってきたな~

●NPC
○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
 希望ヶ浜学園大学に通う穏やかな性格の青年。
 裏の顔はイレギュラーズが戦った痕跡を綺麗さっぱり掃除してくれる『掃除屋』。
 今回は【A】で月を見ながらお酒を飲んでいます。
 女湯以外の場所にも呼ばれれば居ます。

○『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)
 希望ヶ浜学園の教師。裏の顔は『祓い屋』燈堂一門の当主。
 記憶喪失になった廻や身寄りの無い者を引き取り、門下生として指導している。
 今回は【A】で月を見ながらお酒を飲んでいます。
 女湯以外の場所にも呼ばれれば居ます。

●諸注意
 描写量は控えます。
 行動は絞ったほうが扱いはよくなるかと思います。
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。

  • 再現性東京2010:寒月の湯完了
  • GM名もみじ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2021年01月04日 22時10分
  • 参加人数35/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 35 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(35人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
海淵の騎士
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
ニル=ヴァレンタイン(p3p007509)
引き篭もり魔王
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
眞田(p3p008414)
輝く赤き星
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
鏡(p3p008705)
エクレア(p3p009016)
影の女
アンジェリカ(p3p009116)
緋い月の

サポートNPC一覧(2人)

燈堂 廻(p3n000160)
掃除屋
燈堂 暁月(p3n000175)
祓い屋

リプレイ


 月夜の湯。寒空に吹く風が肌を浚う。
「リンディスさんは大丈夫? 熱くない?」
 マルクは熱い湯に傷口が染みて、隣のリンディスを気遣った。
 二人とも戦闘での怪我が体に刻まれている。
「私は大丈夫ですよ。……そういえば、湯治はぬるめのお湯に長く、が良いと本に」
 湧き出る湯からぬるい温度へと移動していく二人。
「リンディスさんは、怖くないの?」
 仲間を守り抜いて自分が傷付くこと。消えない傷が刻まれてしまうかもしれない。
 命を落としてしまうかもしれない。そんな死線が怖くないのかとマルクは問う。
「怖くないの――ですか。怖くない……なんて、嘘は言えませんよ」
 それでも。誰かの物語が紡がれなくなるのは嫌なのだ。
「それ以上に、私が耐えれば。守り切れれば、必ず道を拓いてくれる人がいる――って信じていますから」
 切り開かれる物語を信じているからこそ。耐えることが出来る。独りじゃ耐えられない。
「じゃあ僕は、君がもっと信じられる男に、ならないといけないな」
 頼ってもらえるように。少しでも痛みを分かち合えるように。

「温泉! いやぁこの季節の定番ですね。あ、あれはニルじゃないですか。珍しいですね?」
 ヨハンは混浴の湯にニルを見つけ手を上げた。
「お城に籠りきりかと思ってましたけど、ニルもたまにはこういうの来るんですねぇ」
「妾をニートとか引きこもりと勘違いしておらぬか? 妾だってこういう時は外に出るのじゃ」
 せっかくだからとヨハンとニルは同じ湯に浸かる。
 湯が湧き上がり、風が木々を揺らす音が耳を打った。
 静けさに浸りながら、ヨハンは湯の中で揺れる大きな尻尾を見つめる。
「いやほんと、この尻尾でっかいですね……毎日洗うの大変だったりして」
「まあ、のう」
 ヨハンの視線から逃げるように洗い場へと移動するニル。
「まぁ、ここは任せて。僕が洗ってあげましょう、ふふ」
「むぅ……今回は特別じゃからな?」
 僅かに膨らむ頬は薄桃色。ヨハンの手に尻尾を委ねる。
「そうだ、ニルのお部屋あとで教えてくださいよ。遊びに……泊りにいきます」
「お主。段々と要求がぐれーどあっぷしておらぬかや?」
 懐疑的な視線を送るニルにヨハンはにっこりと微笑んだ。

「月と温泉、それに月を眺めながらの月見酒ですか」
 アンジェリカは少し落ち着かないと自分の愛らしい体を見遣る。
 アバターとしての少女の姿と男としての自意識の狭間で揺れる心。
「あ、廻さん。こっちです、こっち!」
「アンジェリカさん! 月見酒ですか? いいですね!」
 先ずは一献。持ってきた日本酒を共に語らう。
「ふふっ、態々こっちまで来ていただいて御免なさいね。
 私が其方の方にお訪ねすると色々と問題になってしまいそうですので」
 中身が男とはいえ、少女の姿で男湯に入るのは色々といけない。
「そうですね。アンジェリカさん可愛いからみんなびっくりしちゃいますね」
「ええ。不便なものです。でも、廻さんに可愛いと言われるのは悪い気はしませんね?」
「またまたぁ。冗談が上手いんだから」
 悪戯な笑みを浮かべるアンジェリカの頬をちょんとつつく廻。
 仕返しにとばかりに、少女の指先が廻の頬を引っ張った。
 子供の様な応酬に何方からともなく笑い合って。

 アーリアとミディーセラは月を見上げほぅと息を吐く。
 勿論傍らには木桶に酒を入れてあった。
 素晴らしき時間。大切な人と一緒ならばついつい酒も進むというもので。
「おいしさもかくべつ。いくらでも飲めてしまう気分になりますね」
「それに、隣にみでぃーくんがいるから安心ねぇ……」
「その声は、アーリアさん?」
「……ってあら、燈堂家のお二人じゃない!」
 アーリアは湯煙の中から現れた暁月と廻に手を上げる。
「おや、彼が噂の欠月君か」
 暁月がアーリアとミディーセラを交互に見遣り微笑みを浮かべた。
「さすがに温泉で自己紹介するなんて始めてですわあ……ああ、ああ。ゾーンブルクのミディーセラです」
 アーリアが酒を飲む度にミディーセラの惚気を聞いていたものだから初めて会った気がしない。
「あの、こちら掃除屋で私の生徒の廻くん。こっちは祓い屋で学園では同僚の暁月さんで。
 ……か、彼はその、みでぃーくんです」
 頬を赤く染め、照れるアーリアを三人が微笑ましく見つめる。
「な、なによぉ皆でなんか! その顔!」
「アーリアさんの恥ずかしそうな姿をもっと見ていたいけれど、そっちでのお話も聞かせてもらえたら嬉しいですねえ。色々なアーリアさんのエピソードが知りたいです」
「みでぃーくんっ! うう恥ずかしい、もう飲むしかないわぁ!」
 照れ隠しに日本酒を一気に煽るアーリア。ぐるぐると視界が揺らぎ、意識が遠のいていく。
「……あら?」
「おっと。危ない」
 咄嗟に体を支えた暁月はアーリアを湯から抱え上げベンチに座らせた。
「あら、あら。大丈夫ですか? アーリアさん。ちょっと飲み過ぎましたかねえ。ほら、お水を飲んで」
 ミディーセラは彼女の前髪を分けて心配そうに見つめる。
 傍に彼が居てくれて良かったと、愛おしさと感謝を込めてアーリアはミディーセラの指先に触れた。

「いやー、ご時世柄お酒の持ち込みNG温泉は多いですが、ここは天国ですね」
 寛治は極楽に上機嫌だ。
「熱い温泉と合わせて熱燗もヨシ、温度差を楽しむ冷もヨシ」
 肴も手で摘まめる落花生や、鮭とば、干し芋などをチョイスする。
「お酒はいいなぁぁ」
 寛治の向かいにはグリムが月を見上げながら酒を煽っていた。
「このお酒、少し辛いけどまろやかだからいくらでも呑めそうだぁ」
 甘い団子とよく合うのだとグリムは幸せそうに微笑む。
「あぁ、あまり早く飲み過ぎないように。温泉に入って酒を飲むと余計に回りますよ」
「そうなのか?」
「はい。しかし、温泉の外で酒を飲んでも回りますよね?
 大事なことはセルフマネジメントです。具体的にはチェイサー、和らぎ水を飲みましょう」
「和らぎ水。成程な」
 寛治の提案にグリムは水を口にする。確かに辛いだけの後味が和らぐ。
「あっお酒とお団子あと三本づつ追加でお願い出来るだろうか?」
「焼酎を温泉割りで楽しむのもいいですよ」
 寛治達の楽しげな声を聞きながら、バルカルは人心地着いた。
 やっと仕事から解放されての休息なのだ。ゆっくりと寛ぎたい。
 岩に体を任せ湯を楽しむ。
「湯は程々に熱く、頭が風にて冷える。
 これこそが良き風呂という物、長くゆっくりと楽しめ体の疲れも取れてくるのが有難い限りです」
 今はこの湯の安らぎを楽しみたい。
「特に今日のような月は、湯に浸り眺めるが一番楽しめるという物です。
 雲に陰り、また現れた時の光がまた美しいですからねぇ」

「はぁぁぁぁ……やはり寒いときは広い温泉で足を延ばして入るのが一番ですね」
 綺麗なラクリマの口から暁月みたいな言葉が出て、廻はくすりと笑った。
「ラクリマさんってギャップが凄いですよね」
「ええ、そうですかね」
 くすくすと笑う廻の頬をつつくラクリマ。
「日本酒といえば、おつまみ! あたりめ欲しいですね。あたりめといえば(自家製)マヨネーズ!」
「嘘でしょ? どこから持ってきたんです?」
 木桶に日本酒と一緒に入れて来たのかと感心する廻。
「大丈夫です今日は飲みすぎません!
 前回一緒に飲んだ時はちょっと恥ずかしい姿を見せてしまったので
 今日は飲みすぎないようにするのです」
「はい。お水も一緒に飲んで、ゆっくりしましょう」
 火照る頬を程よく夜風が浚って行く。肩が触れあって、何方からとも無く笑い合った。
「ふふ、こうやってのんびりとお酒を一緒に楽しむ友人ができてとても嬉しいのです。
 一人で飲むより、誰かと楽しく飲むお酒はとても美味しい」
「僕もラクリマさんとお酒飲めるの楽しいです。また一緒に飲みましょうね」

 アヒルを追いかけてくたくたなシルキィは温泉へとやってくる。
 早速水着に着替えて混浴の露天風呂へ。
「良かったら一緒にどうかなぁ、廻君?」
「はい。ゆっくりしましょう」
 身体を包み込むお湯は温かく芯から解れていくようで。心も体も浄化されていく。
「誘ってくれてありがとうねぇ! お礼にお酌してあげるよぉ」
「やったー! ありがとうございます~!」
「だけど飲み過ぎには気をつけてねぇ~」
 酒を注ぎながらシルキィは夜空の月を見上げた。
「良い月が出てるねぇ……あんなに遠くにあるのに、見つめていると吸い込まれてしまいそう。
 こういう時は……『月が綺麗ですね』なんてねぇ?」
 微笑んだシルキィに廻は一瞬だけ間を置いてから言葉を紡ぐ。アメジストの瞳にシルキィが映った。
「……確かにとても綺麗で闇を照らし導いてくれる光ですね。でも、僕はシルキィさんの様なあたたかい陽だまりも好きですよ」
 陽光の中で笑うシルキィは、きっと大切で尊いものだから。触れることさえ戸惑ってしまいそう。
「それに月は太陽が居ないと泣いて隠れちゃうんです……なんてね?」
 くすくすと二人の笑い声が温かな湯に響いた。

「ねえ、君が廻? 噂を聞いて、一度会ってみたいなって思ってたんだぁ。
 俺はイーハトーヴで、こっちはオフィーリア!」
「よろしくお願いします!」
 イーハトーヴと廻は同時にぺこりとお辞儀をする。
 最近希望ヶ浜に来る事が多くなってたから、いつか会えるかもと期待していた。
「あっ、お酒注ぐね! お酒! 飲まねば! ねっ!」
「わわっ!」
「お、やってるな。俺も混ぜてくれよ。いや、一本持ってきちゃってさ。あと食堂から軽食貰ってきたから食べようぜ」
 二人が振り向けば眞田が酒瓶を抱えてにっかりと笑う。
「同年代の生徒ってやっぱ楽しいよな」
「はいっ!」
 眞田のペースに乗せられてどんどん酒を飲み干していく廻とイーハトーヴ。
「ええー、いいでしょ、オフィーリアぁ。温泉だよ? おんせん!
 それに、まだぜーんぜん素面らもの! ねえ?」
「ねえ?」
 顔を真っ赤にしたイーハトーヴと廻がこてりと首を傾げる。
「あれ? なんかさっきと雰囲気違くない? 強そうに見えて実は弱い系か! ハイハイ面白いな!」
 カラカラと笑う眞田は二人の頭をぐりぐりと撫で回した。
「いぇーい! 楽しい!」
「うんうん!」
 三人の楽しげな笑い声が温泉に響く。


「あぁ、こいつは沁みるねぇ。この季節に入る温泉ってのは格別だ」
 個室の露天風呂に首まで湯に浸かった十夜は肺の其処から息を吐いた。
 希望ヶ浜に来るのは初めてのこと。らしくなく働きづめてる自分へのご褒美には丁度良い。
 木桶に花梨酒を浮かべ月を見上げる十夜。
「国が違っても、月の美しさは変わらねぇ、ってな。――お前さんに乾杯」
 月に向かって杯を掲げた十夜の瞼には『月夜の君』の笑顔が浮かび。
 そんな自分に困った様に口の端をあげた。

「ああ、なんて楽なんだろう。一日中蓑虫の如く布団に籠り切る事がここまで幸せとは!!」
 世界は部屋の布団に転がって四肢を伸ばす。
 しかし、温泉宿に来てまで布団に籠もっていては家に居るのと一緒ではないか。
「という訳で急遽予定を変更」
 一人枕投げを開始する世界。勿論壁投げなんてことはしない。
 精霊を呼び出して遊ぶのだ。
「これはこれでやっぱり悲しいが」
 だが、独りぼっちよりきっと楽しいに違いない。

「……しかし、忍の身には勿体無いほどのご馳走だな」
 章姫と鬼灯は料理に舌鼓を打つ。暦達に知られればずるいと言われてしまいそう。
 新鮮な魚介の旨味と日本酒はとても相性が良い。
 腕の中のお姫様は食事することはできないが、楽しそうに鬼灯を見つめていた。
「鬼灯くん、あーん」
 小さな手が辿々しく、鬼灯の口元へ料理を運ぶ。
「鬼灯くん、美味しい?」
「ああ、美味いよ」
 誇らしげに微笑む章姫のなんと愛らしい事か。

「いいんですかぁ? ピリムちゃん、大きいお風呂だったら皆の綺麗な脚が見れたんじゃないですかぁ?
 今から行ってきてもイイですよぉ?」
 個室の露天風呂に鏡の声が響く。
「なんで意地悪言うんですかー。確かに皆さんの脚を拝みたい気もしますが、今夜は鏡ちゃんと2人がいいんですー」
 頬を膨らませた後、鏡の瞳に視線を合わせるピリム。
「この特別な夜にあなた以外を瞳にいれたくないのですよー」
 ピリムの赤い瞳に鏡が映り込む。
 鏡の前では感情的になれる自分が居ることに嬉しさを覚えるピリム。
 なんて、愛おしく、可愛らしく、そして美しい。執着以外の感情を彼女に与える存在。
「愛してます……鏡ちゃん。」
 意地悪な事を言って苛めてしまうのは、相手が自分を好いていると分かるから。
 否、自分が相手を好いているから。
 鏡は愛する者を選ばない。されど、ピリムにあげられる特別はあるのだ。
「……私も好きですよぉ、ピリムちゃん。もう少しこっち、おいで?」
 小さな吐息と湯の雫が白い肌を滑って行く。

「マリィ、こっちでしてよー!」
「はーい! 今行くよー!」
 風呂の中から手を振るヴァレーリヤに笑顔で応えるマリア。
 されど、一糸纏わぬ姿で彼女の前に出るのは緊張してしまう。
 そのマリアの姿を見て、湯の中のヴァレーリヤも恥ずかしさに気付き視線を逸らす。
「その、ここ、空いていましてよ?」
「隣、失礼するね……」
 視界の端に見えるマリアの足が湯に沈んで行った。
 緊張をはぐらかす様にヴァレーリヤは湯の中で指を絡ませる。
 僅かに溶けた緊張に視線を上げれば、優しく照らす月が見えた。
「お月様、綺麗ですわね。貴女と見ると、一段と……」
 身を寄せてくるヴァレーリヤの唇に乗る言葉。それは『愛』を紡ぐ旋律。
 きっと彼女は知らないのだろう。抱きしめたい衝動を抑えマリアは言葉を返す。
「ふふ! 私にとって月はずっと綺麗だったよ♪」
 まだ仕舞ったままの心。触れられるのは怖い。けれど、灯焔は時に揺らめく。愛を点す。
「来年もまた、二人でここに来ましょうね……」
 マリアの肩に頭を預ければ遠慮がちに頬が乗せられ、ヴァレーリヤは愛おしげに月を見上げたのだ。


「氷頭、というのですね……!」
「海洋とはまるで趣きが違うのに、なぜだか親しみが湧く」
 フェルディンとクレマァダは運ばれてきた料理に目を輝かせる。
 この東京という場所は、独特の文化をもっているのに何故か親近感が湧くのは。
「ここの者らが求める「トーキョー」とやらが海洋国家であることは疑いがないな!」
 エビ、カニ。獣肉!
 普段は清楚で可憐なクレマァダのはしゃぎっぷりにフェルディンは目を細めた。
 口に運んだ日本酒がもう無い事に気付いた時には、クレマァダが徳利を手に注ぐ合図をする。
「っとと、と……!? す、すみません、ありがとうございます……!」
 お酌をさせてしまった事に眉をさげるフェルディン。
 美しい女性にお酌をしてもらい、月見酒。なんという贅沢だろうか。
「……月が、綺麗ですね。クレマァダさん」
「うん。月は良いな。どこにあっても変わらず見ていてくれる」

 食後のお風呂。
 思ったよりも近いフェルディンとの距離。
 クレマァダは慌てて湯からあがる――!

 花丸は暁月と廻を誘い夕食を楽しむ。
 仕事や学園で会うことはあれど、のんびりと話す機会は無かったから。
「今日はご飯を食べながらゆっくりお話したいなーって!」
「はい。僕も花丸さんとお話したかったです」
「花丸ちゃんは寒ブリコースでっ! この時期のブリはとっても美味しいし、やっぱり外せないよねっ!」
 暁月と廻も同じ物を選ぶ。ついでにお酒も。
「皆美味しそうに飲んでるけど、お酒ってそんなに美味しい物なのかな?」
 二人が飲んでいる姿をじっと見つめながら花丸は首を傾げる。
「そうだね。楽しい気分、アクセントとして飲んだり。
 まあ、嫌な事を忘れたいって気持ちもあるんじゃないかな?
 もし大人になって機会があれば飲んでみると良い。経験しておくのは悪く無いよ」
「なるほどぉ! でも、花丸ちゃん、今は寒ブリの方が美味しい!」

「うむ、此処の露天風呂も素晴らしかった。リュティスも少しは屋敷の仕事での疲れは取れたか?」
「はい。お気遣いありがとうございます」
 温泉から上がったベネディクトとリュティスは浴衣に着替える。
 着心地は悪く無いのだが、少し落ち着かないとリュティスは浴衣の裾を正した。
 個室に戻り、運ばれて来た食事に目を瞠る二人。
「流石にお料理は豪華ですね。どれも良い物のように思えます」
「こういった場所での食事はいつも楽しみにしているのだが……どれも美味そうだな」
 無辜なる混沌に来てからというもの、毎日リュティスに美味しい料理を作って貰っているベネディクトは向かいの彼女が真剣な表情で味を確かめているのに微笑む。
 少しでも味を盗めるようにしなければとリュティスは頷いた。
「程度はさておき、我が領内でもこういった和食を扱えるかどうか参考にさせて貰おうか。リュティス、忌憚ない意見を頼む」
「ふむ……そうですね。変わったお料理もありますのですぐには無理そうでしょうか?」
 前菜に使われているような物から少しずつ。馴染んで広めて貰えば良さそうだと伝える。
「確かに。次は領内の料理人を誰か伴うか」
 そうすれば、少しでも領民達に美味しいものを食べさせる事が出来るだろうから。

「おねーちゃん! 次々ご飯が出て来るねぇ。すごいなぁ」
「うむ、これは食べきれるかわからんのぅ」
 お品書きを眺めながら結乃はお造りをつつく。向かいの華鈴が何やら烏賊をさけているようで。
「この後は海老の焼き物や蟹にステーキ……メインの前にお腹がいっぱいになりそうじゃ」
「楽しみが沢山だねぇ……。んとんと、おねーちゃん。ボクの鯛と、ねーちゃんのイカ交換する?」
 苦手なら無理して食べる必要も無いと結乃は華鈴に提案する。
「結乃は良い子じゃのぅ……いや、両方結乃が食べても良いのじゃよ?」
「ううん。おねーちゃん鯛好きみたいだし、沢山食べてね」
 にっこりと微笑んだ結乃は華鈴のお皿に鯛をのせた。
「それなら、半分だけ貰うとするかのぅ」
 美味しい鯛を全部貰うのは流石に悪いから。
 お腹いっぱいになれば、眠気が結乃を襲う。
「いいかな。ちょっとだけ……おねーちゃんと眠っちゃっても」
「今日はのんびり、結乃と二人で幸せな時間を満喫じゃな」
 ころころとお布団に転がって、華鈴と結乃は微笑み合った。

「確かに邪な気持ちで監視も恐れず混浴行った。けど最初から最後まで二時間弱誰も来ん?
 そんな事あって良いの? 嘘って――イッ!?」
 膝裏をカックンされて、夏子はその場に崩れ落ちた。しかも、足の長さ的に届かないからぐーで行った。
「やほー夏子さんっ。男湯はどう? あったまった?」
 転がったままの夏子に視線を合わせるタイム。浴衣から湯上がりに色づく肌が見える。
「いや、悪く無いね」
「ん。浴衣これ初めて着たんだけど何か変かしら」
 首を傾げるタイムの手を借りて立ち上がる夏子。
 豊満なバストだったら危なかった。だが、小さくてもそれはそれで。
「夏子さんどれにする? わたしコーヒー牛乳!」
 売店に並べられた瓶を前にタイムのキラキラした瞳が夏子を見上げる。
「ソレじゃ俺はフルーツ牛乳? ……にしようかな」
「はーい、じゃあ今日はお疲れさま! かんぱーい」
「うぃ~。今年一年お疲れ様。なんか遊んでくれて嬉しいよ僕ぁ」
 フルーツ牛乳の爽やかさに夏子の気分は晴れ。ついでにタイムを混浴に誘えば。
「混浴って水着を着るんしょう? それならおっけーよ。行きたいならそう言ってくれれば良かったのに」
 愛らしい表情で首を傾げるタイム。
 ラッキーおしり。拝ませて貰いますと夏子は心を躍らせた。

「やあ盟友諸君。僕はエクレアお姉ちゃん……いや、今は『早撃ちガンマン・エクレア』と名乗ろう。
 大事な局面で僕に安手で上がられた者は数知れず、今宵の戦場も冷めた空気にしてから温泉で温まってやるぜ。ふふふのふ!」
 ちょ、おま、わたしの大三元が! 大三元が!
 そんな四人の戦士が手元を睨む――東二局。
「チー」
「あ、じゃあ。ロン」
「……満貫は痛え」
 エクレアの声と共に始まった麻雀は白熱していた。
 発端は一刻ほど前に遡る。

 ――温泉宿に来たら何をするか? そうだな、麻雀だよな。
   温泉入って美味い飯食ったら次は何するか?決まってんだろ、麻雀だよ。
   つーわけでやるぞ、麻雀。オラァこいよ!!

 ニコラスが吠える隣で、ブレンダがルールの本に視線を落とす。
「ふむふむ……大体覚えた。つまりは牌を使ったポーカーの様なものか。役を作ればいいわけだな
 習うより慣れろだ。まずは遊んでみるとしよう」
 浴衣姿で日本酒を脇に置いたレイリーは転がる牌をじっと見つめる。
「今夜は寝かせねーぜ? なんてな。冗談だ」

 そんな訳で、普段はトラッシュトークで場をかき混ぜつつも打ち方は堅実なニコラスだが、今回は強気に出ていた。
「こんな温泉宿での麻雀なんて最高に愉快な状況なんだ。ガンガン行かせてもらうぜ!!」
 目指すは一発逆転。スリルを味わいながら突き進んで行くニコラス。
 堅実なレイリーらしく危うい牌は止めるが――
「おっと。自摸。四暗刻ってなぁ!!」
 まさかの役満である。

(あ、当たり牌しかツモらないのはなぜだ……)
 不運を自認するブレンダだが、積み上がる順子は既に一向聴を迎えている。
 なんというか、逆に怖い。だが――風に乗る。
「よし! 通らばリーチ!」
 ブレンダが勢い良く吠える声が遊技室に響いた。
 来るか。来るか。再び巡った時だ。
「立直一発、門断平!」
 来た。裏ドラが乗り――跳ねている!

 そして南場。
 激闘は続いていた。
「白、發、中は待たずに鳴く。平和と断ヤオを優先的に狙って早上がり。これこそ早撃ち(クイックドロウ)ガンマンだよ。決してチキンじゃあないのさ!」
 エクレアの強気のリーチ。負けるかもしれない瀬戸際の駆け引き。それが楽しいのだ。

 一度しか和了れていないレイリーは背中が煤けている。
 だが勝負は分からない。
 ついに自風鳴きで親を奪ったレイリーの逆襲が始まろうとしていた。
「ふふ、これで逆転勝利にしてやるさ、リーチ!」
 立直、断幺九、一盃口、赤ドラ一つ。しかも三面待ち!
 裏ドラが乗れば一気に最下位を脱出する。
 来るか!? 親満ラッシュ!
 エクレアの喰断は怒濤の進撃を阻むことが出来るのか!?

 後の世に雀鬼地獄門と呼ばれる長い長い夜が――激闘が始まろうとしていた。
 次回、特異運命雀夜録。『ロンしないで、お願いにゃあ』。
 エクレアの色仕掛けに、どうする、ニコラス!?

「もう男湯はダメですよ。一応、不明なんですから」
 愛無を連れて個部屋の風呂へやってきた廻。
「じゃあ、背中をながしてあげよう」
「わわ、くすぐったい」
 本来の姿で、愛無は廻を抱きかかえ背中を洗っていく。
「廻君の肌は白くて綺麗な肌だ。透き通るような肌というヤツだね。舐めてもいいかな?」
「ダメです」
「じゃあ、食べても?」
 愛無は廻の肩を掴み振り向かせ、大きな口を目の前に開いた。滴る唾液が白い肌を伝う。
 ――首筋に歯を立てたのは冗談だったけれど。
 廻は抵抗もせず愛無を見つめていた。
 驚きはしただろう。けれど、その後は『諦めと期待』に紫瞳を伏せた。暁月が刻んだ絶対者への服従。
 捕食者たる愛無にとってそれは暴食の本能を揺さぶる禁断の果実だ。
 鋭い牙で四肢を貪れば甘く極上の肉が舌に蕩けるだろう。事切れる寸前の吐息さえ甘美に違いない。
 だが、絶対に喰らってはならないもの。大切で儚いぬくもりだ。
「……冗談はさておき。廻君に紹介したい人がいてね」
 愛無の恩人。廻にとっての暁月のような存在。少しろくでなしだけど、と話を逸らす。
 そうでもしなければ壊してしまいそうだったから。

「おや、廻、首の所どうしたんだい? 歯形がついてる」
 アーリア達と晩酌を楽しんでいた暁月が部屋に戻ってきて開口一番、眉を寄せた。
「えっと。大型犬に噛まれました」
「それは大変だなぁ。ちょっと詳しく聞かせてくれるかい?」
 妖気漂う暁月の瞳が赤く染まる。その様子に廻は涙目になりながらぶんぶんと首を横に振ったのだ。

 月の夜に。寒さ染みて。湯に染みて。
 極楽浄土の温泉に。雪化粧と月明かりが降り注ぐ――



成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 寒い冬には温泉にゆっくりと浸かりたいですね。

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