シナリオ詳細
<夏祭り2020>憩いのひと時和の香り
オープニング
●
「……あっつ」
げんなりとした表情の『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は水着を纏い、アイスバーを咥えていた。太陽はひとこと物申したいくらいにジリジリ肌を焼いていくが、氷菓のおかげで口の中だけが快適だ。
(いや、頭ん中痛くなりそう)
キンと冷えたそれが痛覚を刺激しそうなものだから口の中から引っこ抜くが、そうすると途端に太陽の熱で溶ける、溶ける。
「シャルルさん、溶けてますよ」
「知ってる。……っていうか、何で来てるの」
ジトリと視線を向けた先にはかのひよこ──ではなく、人間姿になったブラウ(p3n000090)がいた。しかもちゃっかり水着を持ってきていたらしい。あの絶望の青──今は静寂の青だったか──を越えてまでよく来たものだ。
あの海を越えてまで来たのだから『イレギュラーズの助けになりたい』という気持ちもほんの少しばかりあるだろう。けれど、今は。どう考えてもその様相は『お祭りを楽しみに来ました!』と言わんばかりである。
まあいいか。いいのか? いいってことにしよう。来た以上は遊びだけでなく、ちゃんと仕事してくれるはずだから。
「ところでシャルルさん、遊んできていいですか?」
「……好きにしたら」
その言葉ににっこり笑顔を浮かべ、いってきますと駆け出したブラウ。まったくもって元気のよい事である。そんな背中を見送ったシャルルはイレギュラーズたちが浜へ向かってくることに気づいて視線を巡らせた。やあ、と軽く手を上げれば向こうも同じように挨拶する。
「アンタたちも遊びに来たの? アイス売ってる露店はあっちにあるよ」
すっかり食べ切ったシャルルは頭痛い、と顔を歪める。それも夏の醍醐味というやつだろう。しかしアイスバーの残った棒を見たシャルルは目を瞬かせ、イレギュラーズへそれを見せる。その表情はどこか──得意げ、とでもいうのだろうか?
「当たった。交換してくるよ」
見せた棒には『あたり』の3文字。これが出たらアイスバーがもう1本貰えるのだとか。
じゃあねと砂浜を1歩踏み出したシャルルと見送るイレギュラーズの耳には突如悲鳴が入る。聞き慣れた声だ……じゃなくて。
「お、溺れっ、ぴいいぃぃぃぃぃっ」
ばっしゃばっしゃと海でもがくブラウ。持っていた浮き輪は一体どこへ行ったのかと視線を移すまでもなく近くにプカプカ浮いているのだが、いかんせん必死な彼は見えていないようだ。
数人のイレギュラーズが彼を助けるために走り出し、シャルルはあーあとそれを眺める。何故行かないのかって? シャルルの近くに転がる浮き輪で察してあげて欲しい。
「まあ、あっちは大丈夫でしょ。ああならないように適当に過ごしたら? カムイグラの甘味もあるみたいだしね」
アイス貰ったらそっち行こうっと。そう呟いてシャルルは改めてアイスの露店へ向かっていった。
というわけで──憩いのひと時である。
- <夏祭り2020>憩いのひと時和の香り完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2020年08月07日 22時10分
- 参加人数50/50人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(50人)
リプレイ
●波打際と海の香
浮き輪でブラウの救助に行ったメイメイは今、砂浜でせっせと砂を積み上げていた。周りでカピブタがメイメイの手元を興味津々に眺めている。
「ええと、これを……こうして……」
バケツの水を足しながら、せっせと固めるメイメイ。それは次第に丸から色々なものが生え出して──。
「……完成、です!」
小さいけれど、これが等身大。ひよこブラウのオブジェである。メイメイはきょろりとあたりを見回しブラウを見つけると大きく手を振った。
ソフィリアの眼前には青い海──と思った直後、突然視界が暗くなる。
「??」
不思議そうにもそもそと顔を出したソフィリアに誠吾は思わず溜息をつきそうになり、そっと飲み込んだ。言ったってわかるまい。
「これから海で遊ぶのに、上着を着るのです?」
「水に入るとき以外は上着ちゃんと着ておけ、な?」
誠吾の言葉に首を傾げながらも頷く彼女。心配しているということは伝わったらしい。とりあえずこれで今日は着ていてくれるだろう。
「で? 砂浜と海中。どっちで遊びたいんだ?」
「上着着てるし、とりあえず砂浜で遊ぶのですよー!」
しっかりと上着を着たソフィリアが砂浜を指す。大きな城でも目指してみるか、と砂を積み上げるも、ソフィリアの希望により城下をトンネルが通ることとなった。それらを作るにはかなりの時間が必要で、次第にヒリヒリしてきた肌にソフィリアははっと思いつく。
(上着がなかったら、全身ヒリヒリなのです……!)
なるほどこれを見越してのことだったのか、と遅れてようやく理解らしきものをしたが──本当の理由はそんなわけもなく。
(簡単にかどわかされそうなんだよな、こいつ)
ちらりと視線を向けた誠吾はすぐさま砂へ視線を戻す。その心にあるのは親心的な想いと、面白くないと思う気持ちと。
その理由を知るのは、きっともう少し先のことなのだろう。
「花丸ちゃーん、いくよー!!」
「ヘイヘーイっ! どこにでも飛ばしてきていいよ、メルトさんっ!」
高く上がるビーチボール。それが本当にどこにでも──どこかに飛んでいってしまうなどと誰が思うだろうか。取りに走る花丸の足元を海水がチャプチャプ跳ねていく。次はこちらからだ!
「ふっふっふ、花丸ちゃんの必殺技を受けてみろ!」
必殺技!? とメルトリリスが身構えるも、投げられたのは普通のトス。これなら取れるだろうというそれを、しかし彼女はどうしてかあらぬ方向へと飛ばしてしまった。
(まさか私、球技系のスポーツ苦手!?)
愕然とするメルトリリス。でも確かに今までは剣のような棒ばかり振っていたから、もしかしたら。
「仕方ない、この花丸ちゃんがご教授して進ぜようっ!」
ドヤァと仁王立ちする花丸。ヘトヘトになるまで教えてもらって、2人は露店へ行ってみようと駆け出した。
準備運動までしたオリヴィアは決意とともに海へ入る。海で遊ぶのに決意がいるのかと言う者もいるかもしれないが、彼女にとっては必要なのだ。
なぜならば──金属たる体は、どうしても浮力が足りないからである。
あえなくゴボゴボと溺れていくオリヴィアは命からがら浜辺へ這い上がり、しかし負けるかと再び飛び込んで。その結果がどうなるかなどお察しである。
「……くっ。今年はこの辺で勘弁してあげましょう……!」
悲しいかな、今年も自力で泳げなかったとオリヴィアは浮き輪に掴まる。けれど水の気持ち良さは、オリヴィアの中にある悔しさも流してしまうようだった。
サーフィンボードを手に海へ向かう咲耶。穏やかな波と、サンサンと降り注ぐ陽の光は絶好のサーフィン日和である。
しかしつい先日始めたばかり、油断はできない。徐々に慣らしていく咲耶へ、しかしカムイグラの波は甘くなかった。
「っと、」
バランスを崩しかける咲耶。すぐさま立て直すが、ひやりとしたものを感じたのは事実だ。
(拙者は紅牙の忍び。バランス感覚はお手の物でござっ、)
「あーーっ!」
跳ねる水しぶき。けれどまだ1回だと咲耶は再び波に乗る。打ち寄せ引いていく波に感覚を合わせ、その流れに身を任せんと感じ取って。
咲耶の喜びの声が上がるまで、あともう少し。
「海だーー!!」
歓声を上げたソロアはくるりと振り返るなり、アルペストゥスの姿に目を丸くする。かの古代竜はお宝を集めたと言わんばかりにご満悦だ。
「遊び道具にパラソルまでバッチリじゃないか」
ソロアに請われてパラソルを渡せば、ぽん! と傘が開く。アルペストゥスには小さいけれど、ソロアにはちょうど良さそう。けれど彼女はアルペストゥスが入らないと苦笑をこぼして。
「じゃあボールで遊ぼう!」
「ギャウ!」
弧を描くボールを追いかけて、砂をぶわりと巻き上げて。ソロアもそれを追いかけ、浅瀬まで突撃すれば一緒に水を掛け合って遊ぶ。アルペストゥスの喉が小さく、嬉しそうに鳴った。
「アル君、これ割れるかい?」
スイカを差し出したソロアへもちろん、と言いたげに爪を立てたアルペストゥス。ざくざくと割れた赤い中身は、とても甘くて美味しくて。
「次は何をしようか?」
「グルルッ」
ソロアの言葉にアルペストゥスはお宝を探る。まだまだ楽しい時間は終わらないのだ。
「ゴリョウさん……あそこまで、泳ぎたいですの!」
可愛い嫁に言われて嫌などあるわけもない。らゴリョウはニカッと笑うと準備運動をして、ノリアとともに泳ぎ始めた。
(ゴリョウさんの方が、早いですの……)
自分は海種なのに、とほんの少ししょげてしまう。けれど彼が待ってくれるから、ゆっくり行こうと言ってくれるから。下向きな気持ちは少しだけ上を向いた。
のんびりのんびりとたどり着いた2人は、注連縄の前で祈りを捧げる。麓で休ませてもらうのだ、これくらいはすべきだろう。
座ったゴリョウへノリアは上半身を預け、そんな嫁にゴリョウは団扇で風を送る。
「何時も引っ張ってくれててありがとうな、ノリア」
「引っ張る、ですの?」
「おうよ。今後ともよろしくしてくれりゃあ嬉しいぜ」
大したものは返していないが、と口にするゴリョウにノリアは心の内で否定する。それはむしろ自分の方。恋人らしくならなくちゃと焦る彼女を、ゴリョウが優しくリードしてくれるのだ。
今、この時間もそうであるように。
「蒼い空! 碧い海! そして!」
\きらめけ!/
\ぼくらの!/
\\\タント様!///
「──ですわーー!」
空に浮かぶお天道並み輝く存在、もうお分かりだろう、タント様である!
タントの後ろで決めポーズをした数子ことミーティアとともに浮き輪を装着。カナヅチ必須アイテムである。
「ザブーン!」
「ひゃh、んみゃあっ!」
続いて飛び込めば、先が跳ねさせた海水を後がかぶるのは道理というもので。さらにミーティアが冷たい海水をタントへとかけたものだから、モロに海水を飲んだタントが顔をくしゃっとさせる。お返しにとかけ返せばまたかけられ、かけ返しの繰り返し。しょっぱい水を飲んだ2人は喉の渇きに砂浜へ上がった。
「トロピカルなジュースですわー! 綺麗ですわよ!」
「本当……あ、コレ美味しいわね……!」
さっぱりと甘いジュースを飲んで、2人は話題が尽きることなく喋り続ける。もちろん尽きたら尽きたで──もしくは遊びたくなったなら──次は砂の城作りだ。
「周りで一番デカイのを作るわよ!」
「ええ! 本日は存分に遊びますわよー!」
「んんー、和やかな夏で最高だよ。ねぇ雛ちゃん」
妹分である雛乃の手を握った姫喬。反対側の腕に抱えたトリプルヘッドシャークが海の気配に小さく身じろいだ気がした。
(海で勝手に泳ぐんだよなぁ……乗ってみるか?)
2人なら優に乗れる大きさだ。雛乃も後ろから支えてあげれば落ちることはないだろう。
雛乃を誘うと、その表情がパッと華やぐ。ああ、なんて可愛らしいのだろう!
「ひなは、海種に生まれて良かったぁ……って思います」
「いっひひ、あたしも海種でよかったよ! 可愛い妹も出来たしねぇ!」
浅瀬でサメボートに乗り、姫喬が足で蹴り出せばゆっくりとボートは海へ進んでいく。陽の光を反射してキラキラ光る海に雛乃は歓声を上げた。小さくかかる水しぶきも冷たくて、ほんの少しくすぐったい。後ろには姫喬もいて今日は楽しい1日だ。
──が。
「だんだん速くなっている気がするのです……!」
「それなら!」
止めてくれるのだろうかという思いは一瞬で消え去る。ビターン! と後方から音がした瞬間、ボートが速度のギアをあげたのだ。
「ヒャッホウー!」
「き、ききょうおねーーちゃぁんっ!!」
歓声と悲鳴。目をぎゅむっと瞑った雛乃だったが、姫喬は今日も輝いている……と感じたのだった。
ラピスは愛しい人に波打ち際へと手を引かれる。先が読めずに小首を傾げた矢先、顔面へ冷たい海水がかけられた。
「あははっ、ラピスびしょびしょ……きゃあっ!?」
「お返しだよっ」
悪戯に成功したと言わんばかりのアイラへかけ返せば、ぷぅとむくれて。水鉄砲で勝負だという彼女にラピスは乗った。
(夏が好きになったのは、キミのおかげ)
暑くて眩しいこの季節は、嫌いだった。それを覆したのはラピスだとアイラは思う。彼と出会ったのも、契りを交わしたのも、夏だから。
ラピスからすれば、その白皙の肌が焼けてしまうのはきになるけれど。それでもやっぱり2人にとって愛の季節は夏だ。
「ラピス!」
不意にアイラが海へ飛び込む。ラピスも追いかけ、その体をすくうように抱きしめてやると見るからに強張った顔が緩んだ。
「……泳げない筈だろう?」
「でもほら、みてみて、ラピス!」
彼女の楽しげな声に視線を巡らせれば、空の青と海の青が混じり合ったようで。
「ボクら、ひとつになったみたい!」
「……嗚呼、確かに。この上なく綺麗な、夏の色彩だ」
ラピスの色とアイラの色を混ぜたようなそれは、とても美しかった。
(きっと奴は何かしらしてくる。俺は知ってる!)
ラクリマは抜け目なく浮き輪を装備。だって『海に慣れていない』と知った時のライセルはなんだか楽しそうだった。
とはいえ2人とも海ではしゃぐお年頃でもなく。浜辺を歩いていれば、夫婦岩が視界に入る。そこで見に行ってみましょうかなどと誘ったことこそ失敗だったのかもしれない。
「えっ? ちょっと?? 俺は泳ぐの得意じゃないって言ったでしょう!!」
「大丈夫、浮き輪してるだろう?」
慌てて浮き輪を装備したのをいいことに、ライセルはどんどんラクリマの浮き輪を引いていく。不安そうに浮き輪へしがみついた彼も可愛らしく、ついむくむくと悪戯心が芽生えた。
──もしも、溺れそうになったら?
ライセルが潜水した次の瞬間、ラクリマは足首を掴まれて海中へ沈む。すぐさま抱き上げられたけれど、遅れて心臓がバクバクと鼓動を立てて。
「ほんと、いつもいつも……ッ」
言葉を封じるように唇が塞がれる。毒気を抜かれたラクリマに、ライセルは小さく笑った。
「もう怖くないよ。ここなら皆にも見えないしね」
顔を真っ赤にして、頭をペシペシ叩いてくる君も可愛い。ああ、もっと、もっと色んな顔を見せて。
●賑やかさと食の香
海岸を少し離れてみるだけで、所狭しと露店が立ち並んでいる。ルル家はきょろきょろと楽し気に見て回っていた。
「お師匠、あのかき氷とかどうですか!」
師匠──竜胆の奢りと聞いたルル家はあとあれとそれと、とお祭りならではの軽食を強請り、竜胆と一緒に食べて巡る。
「次はあれを……お師匠?」
振り返ったルル家は竜胆が笑っているのを見てきょとんと目を瞬かせ。そんな彼女に竜胆はごめんなさいと謝りながらもまだ小さく笑っている。
「少し見ない間に、貴女が随分と見違えたから」
「ふふん、そうでしょう! 拙者成長期ですから!」
ドヤァと胸を張るところは前とあまり変わらないかもしれない。けれどその立ち姿が、振る舞いが、それらが変化していく様を横で見られなかったことはほんの少し寂しくて。
「でもお師匠を大好きなところとかは変わっていませんよ!」
「わ、っと……もう、本当にこの子は」
ぎゅむっと抱きしめれば、ルル家から竜胆の顔は見えなくなる。それでいい、今は見せられないから。
次は傍で、と約束を。
「えりちゃん、あれもこれも美味しそうだよ!」
「ユーリエは人間らしい食欲が変わりませんね」
ぱぁっとはしゃぐユーリエと、対照的なエリザベート。吸血鬼にとっての『食』は血であるが故、こういったものに関心が薄い──はずなのだが、とユーリエを見ながら思わざるを得ない。
「ねぇねぇあのかき氷、凄く美味しそう……いや、あのシャーベットも捨てがたいし」
気が付けばユーリエは苺のアイスかシャーベットで迷っているようで。エリザベートは我に返って謝るユーリエの頬を撫でるとかき氷を推した。
スプーンで掬って口に入れれば、キンと頭が痛くなる。そんな時間もこの味も、どこか故郷が懐かしくなる味だ。
「久しぶりだね、こうしてまったり過ごせる時間って」
「一緒に過ごせるのは幸せですね。まあ……食べ歩きをしていると、ユーリエはずっと食べ物に目移りするけれど」
それでも彼女が喜ぶ姿は嬉しいもの。けれど──。
「またここに来てゆっくり……えりちゃん?」
エリザベートの顔がユーリエのそれに近づく。ゆでだこのように真っ赤になったユーリエが目を瞑ると、その口元をぺろりと舐められた。
「……ソフトクリーム、ついてましたよ」
(海洋王国からの氷菓は……っと)
きょろきょろ見回す隠岐奈は、人混みに紛れて目的の露店を見つける。高身長が紛れやすいと言っても、やはり背が高いと目的物が見つけやすい。
外の世界から来たと言う食べ物を買うと隠岐奈はそれをしげしげ見つめた。洋風の軽食は何となく思い浮かんだのだが、こればかりは全く想像できなかったのだ。
「かき氷みたいに食べ続けたら、キーンってなっちゃうのかな?」
物は試し。溶けてしまう前にと隠岐奈はアイスに齧りついた。
「2人で出かけるのって初めてですね」
「知り合って結構経つのにね」
リディアとサクラは決して仲が悪いわけではない。他の友人たちと遊びに行っていたことだってある。けれどもなぜかどうして、2人きりで遊びに行くのはこれが初めてであった。
「こっちは涼し気な食べ物が多いよねぇ。かき氷と冷やしたスイカ、美味しかったな」
「私は焼きそばとか焼きとおもろこしが美味しいと思いました」
焼いたものが好きなわけではなくて、勿論偶然ではあるけれど。冷たいものはおなかが痛くなりそうだから、そう考えれば温かい食べ物が挙がったのは道理だろう。
(サクラさん、気さくですね)
素敵なお姉さんがこうして話しかけてくれることにリディアはどきどき。けれどこんな機会はそうそうないかもしれないから、沢山お話ししないと。
「私はこれであと温泉があると嬉しいですね」
食べ歩きながら言うリディアにサクラは「温泉かぁ」と考える。実は探したらあるかもしれない。食べ歩きが終わったら探してみるとしよう。
升麻はパラソルの下、これでもかと露店で買い込んだ軽食を並べていた。焼きそばにイカ焼き、焼き鳥、エトセトラ。美味しそうな匂いを吸い込み、彼女──今は女性姿である──はご満悦である。
(まともな人の姿を得て、マジで良かったぜ)
食いしん坊万歳、自堕落万歳。あっもう食べ切っちゃった。次の軽食を買わねばと升麻は露店が連なる方へ立ち上がる。折角だから何か珍しいものが良いだろう。
(『たぴおか』とかいうヤツってあんのかな?)
和洋どちらの露店も出ているのだ。探してみる価値はあると升麻はゆっくりじっくり探すことにした。
「フレイムタンくん、1つを2人で半分こしない?」
これだけ屋台が軒並み連ねていれば、色々と食べてもみたくなるもの。けれどお腹は有限だからと誘う焔にフレイムタンから否やがあるはずもなく。
「おじさーん! タコ焼き1つ下さい!」
早速と注文する焔へ店主はあいよっと返事ひとつ、焼きたてのたこ焼きを出す。熱いけれど美味しいそれを堪能して、焔は爪楊枝で次のたこ焼きを刺す。言われるがままに口を開けたフレイムタンはたこ焼きを噛み締め、美味いなと顔を綻ばせた。
「お祭りッス! お祭りッスよカナ!」
キラキラと目を輝かせる鹿ノ子にカナメは空を仰いだ。ああ、今日も推しが尊い。隣にいる。やばい。
「カナ?」
「あ、大丈夫! 屋台巡り、行ってみよー♪」
双子ははぐれないように手を繋いで回っていたものの、それぞれ気になる屋台があれば一時解散。
「かき氷1つくださいッスー!」
シロップはこれとこれと、と選ぶ鹿ノ子。その傍らでカナメはたこ焼きを注文。鰹節が熱で踊り、良い匂いがカナメの鼻腔を満たす。
「カナー!」
「お姉ちゃんこれおいし──」
振り返ったカナメに鹿ノ子はほらっとかき氷を見せる。カナメの髪色に似た色だよ、と。
(尊い)
なんてものを見せてくれるんだ夏祭り。ありがとう夏祭り。
幼い頃もこうして遊んでいたのか、鹿ノ子にはわからない。カナメは今も昔も変わらないと言ってくれるけれど、記憶を失った原因は不明なままだ。
(ま、でも、記憶なんて新しく作り直したほうが早いッスよね!)
わからないものは仕方がない。鹿ノ子はカナメに次の目的地を示して駆け出した。
「さぁカナ! 次の屋台にれっつらごーッスよ!」
「あ、待ってよー!」
きょろきょろと屋台を眺めて回る紅椿は海洋王国の露店に興味津々。知らない料理ばかりだが、このような機会でもなければ食べないだろう。
「やはり甘味じゃな」
クレープやチョコバナナをもっもっと食べ、タピオカなるジュースを飲んで目を丸くする。どれもカムイグラでは見ないが、考えられた料理だし美味しい。
「最後は定番じゃの」
真っ白な氷の欠片に、ブルーハワイのシロップをかけ──いざ。
「この間はありがとう、シャルル嬢」
たこ焼きを差し出しながら礼を言うイーハトーヴに、シャルルはきょとんと目を瞬かせた。いや、差し出されたものは確かに『食べたいもの』ではあったのだけれど。
「ご、ごめん何かあったっけ……」
「ほら、看病してくれた時の」
ああ、とシャルルが納得したように頷く。倒れたイーハトーヴを介抱して看病したのだ。
心身というのはどこか繋がっているもので、体が弱れば心も弱る。けれどシャルルのおかげか、此度は嫌な夢どころか良い夢を見たのだ。お陰で苦しさもなく快復したのである。
「今、夢が本当になったみたいな気持ちなんだよ!」
皆で遊ぶ夢の中に君もいたから、と嬉しそうなイーハトーヴにシャルルは目を細める。
「それじゃあ……これ、一緒に食べようよ」
示されたのは持っていたたこ焼き。熱いものを食べたら次は冷たいものもアイスを買って。それを齧りながら2人はのんびり海の動きを眺めた。
「今日も、君と一緒に見る世界はキラキラしてるや」
「うん。アイスもさっきより美味しい気がする」
美味しいのはきっと、大事な友達と一緒だから。それを知ることができたのも、巡り合わせのおかげだった。
「凄いです!」
リディアは目を輝かせる。このような場所も食べ物も全く縁のなかった彼女にとっては憧れの場所だ。目移りさせ、今にもどこかへ行ってしまいそうな彼女の手がカイトに握られる。
「あまり遠くに行かれると僕が見つけられなくなってしまうよ」
「そんな……こ、子供じゃないんですから……!」
思わず顔が熱くなる。彼に特別な気持ちなどあるわけない、だって彼には心に決めた人がいるのだから。
手を繋いだまま屋台を眺めるカイトに、あの! とリディアは声を上げる。
「お家の事、大変だと思いますけど、私で良ければこれからもお手伝いしますからね」
そう、手伝えればそれで良い。それだけだ。
「あはは、いきなりだなあ。でも勿論、期待してるよ」
彼女の心配にカイトは笑みを浮かべる。天義の依頼ではその勇気に何度だって感銘を受けたのだ。期待しないわけがない。
「さ、買ったら何処か座れるところを探そう」
その言葉にようやくリディアの視線が屋台へ戻る。少なくとも今ばかりは楽しもうと2人は雑踏の中へ消えていった。
カラフルに氷菓やドリンクを用意して、蛍と珠緒はグラスを手にする。
「ボク達の熱い夏に」
「ふたりのキラキラな夏に」
「「乾杯!」」
カチンとグラスが鳴る。それぞれが持つかき氷は苺味と葡萄味のシロップがかかっていた。お互いの色──なんて、言わずともわかるだろう。
「珠緒さんを食べちゃうわよ、なんてね」
「ふふ……珠緒は蛍さんに食べられるなら、よいですよ」
冗談めかして、くすくすと笑いあって。蛍は片目を瞑りながら「今年の夏は特別なのよ」と告げる。
「特別、ですか?」
「ええ。だって……恋人同士になって初めての夏、でしょ?」
きっと特別な夏になる。いいや、特別な夏にするのだ。そのためにも、2人でこれでもかと沢山の思い出を作らなくては。
「手始めに海遊びよ! さ、行きましょ?」
「あ、はい!」
差し出された手に珠緒は自らのそれを重ねる、先を行く蛍の姿はとても、とても眩しくて。
(幸せなことなのです)
ふわりと頬を緩ませる珠緒。もうこの時点で十分素敵な思い出になるというのに、蛍との夏はまだまだ終わらなさそうだ。
●穏やかさと陽の香
大きな日傘の下へ入ったヒィロは、美咲が取り出したものに興味津々。
「日焼け止めの塗りなおし?」
「そう。ある程度は押さえたいし」
日焼けした肌が魅力的と言う声もあるだろうが、美咲は出来るだけ日焼けしたくない。海で遊べば落ちてしまうから適度な塗り直しが大切なのだ。
「それじゃあボクが塗りたーい! 綺麗なお肌を保つお手伝いさせて!」
はいはいっと元気よくヒィロが手を上げ、それならと美咲は寝転がって背中をお願いする。やはり届きづらい場所は塗りにくい。
「ボクもこういうお肌になりたいな」
楽しそうに歌いながら塗っていたヒィロがぽつりと呟く。けれど美咲からしてみれば、彼女の肌質は余裕だ。最近教えているケアを怠らなければこの先も大丈夫だろう。
ヒィロは背中に触れながら、そっと頬を赤らめる。なんだかドキドキしてきてしまって、落ち着かない。
(ずっと触っていたような、ボクを触ってほしいような……)
「あ、そうだ!」
その言葉に転寝していた美咲が目を覚ます。サンオイルを塗ってほしいと頼まれれば、今度は立ち位置交代だ。
「ケアする時はもっともっとって気持ちを込めるの」
「はーいっ」
綺麗に、可愛くなるように。美容は自信も大切なのだから。
アーリアと蜻蛉は、日陰の下でひと涼み。蜻蛉の手首で光るそれにアーリアは目を細める。
妙齢の女が2人いれば、少なからずそういった話に発展する可能性はある訳で。けれども蜻蛉にとっては新鮮で、まるで夢のよう。
「好きな人は……そうねぇ、とっても優しくて、お酒が強くて」
遠くを見るようなアーリアの表情が、一瞬だけ拗ねる。
「──私よりとっても長生きの、ずるい人」
女同士だからこその本音。彼には絶対見せられない表情だ。
それでと返された蜻蛉は、恋する表情だったアーリアからの視線に目を瞬かせて。あの人を想って浮かぶのは──。
「魚みたいに逃げてく人。ずっと追いかけとるの」
冗談めかして笑う蜻蛉は知っている。あの人は逃げていくけれど、決して遠くには行かないことを。近いけれど届かない、そんな距離であることを。
「ほんと、男ってずるいわよねぇ」
「ふふ、でも……もう、どうしようもないんよね」
だって好きになってしまったから。恋に落ちるとはよく言ったもので、落ちたらもう遅いのだ。
傍のテーブルに置いてあったカクテルのグラスを取り、2人は乾杯するように小さく掲げる。こんな話をした後は、きっと格別な味だろう。
「この辺なら熱くないかな? 大丈夫?」
目の見えない小夜をしっかり補助するように、ウィズィは腕を組む。その腕に縋りながら小夜は足の裏から熱を感じるが、これくらいなら間に何か敷くことで防げることだろう。
「後は傘が倒れないように……」
「うん、任せて」
借りたパラソルで日陰を作ると2人は敷物の上にごろん。潮の香りが風に乗って鼻孔をくすぐった。
「ねえ、小夜。私も小夜と同じ黒のビキニなんだよ!」
「あら、そうなの?」
どんな水着なのかしら、とその手は導かれるままウィズィの体へ。鍛えられた体に触れ、自らのそれよりずっと布地が少ないのだとわかる。
「そっちの方が普通なのかしら?」
「って、ふははっ、撫ですぎ……もー!」
確かめるような手つきは、やがて悪戯するそれに代わり。擽られたウィズィもお返しにと擽り返せば、あっという間に砂まみれになってしまった。
気が済むまで笑って、何気なく小指同士を絡め合って。その視線が交錯することはないけれど、互いの存在はこれだけですぐ感じられる。
「そろそろ戻ろっか?」
「砂だらけになってしまったしね?」
そう言葉を交わした2人は、どちらからともなくクスクスと笑い始めた。
リンディスとバスティスは協力して敷物を敷き、借りたパラソルを立てる。ようやく日陰に入れば揃ってひと息ついて。
「それにしても暑いですね……」
「ここの暑さは湿った暑さだね」
もっと乾いた気候で過ごしていたバスティスにとって、暑さ自体は何でもない。けれども場所が違うだけで暑さも違うとは知らなかった。
「そういう”違い”もまた、楽しいですよね」
リンディスは持ってきた冷たい飲料を2人で分け合って、海の方向を眺めた。
カムイグラとはまた面白くも独特な国で、少しばかり面倒な問題も多いが楽しい場所だ。最も2人とも旅人であるから、この世界自体が新鮮なのだけれど。
「バスティスさんの世界のお話、聞かせて頂いてよろしいですか?」
「死の国の事? 面白い話じゃないよ?」
それでもと言うリンディスに話して聞かせるのは永遠に変化のない世界。詳しいことを話すような場所ではないけれど、こうして巡り合えたのだ。運命が導くのならば、より詳細に話せる機会もあることだろう。
きっと、全ては繋がっているのだから。
ばさりと着流しを脱いだゲオルグは、下に水着を履いており準備万端。しっかりとストレッチしてから海の中へと身を躍らせる。
(海洋では激しい戦いが続いたからな)
ここでまで気合を入れて泳ぐ必要も無かろうと、軽く泳いだ彼は海面へ浮かぶ。雲の流れる様を見ているとそれだけで時間が経ってしまいそうだ。
(ここでも依頼が大量に舞い込んでくるだろうな)
そのための英気を養うため──おっと。これを1人で楽しむのは勿体ない。ゲオルグは露店で浮き輪を買うと、ふわふわ羊ジークを呼んで再び海へと入っていった。
マッダラーは砂浜の上に座っていた。暑い。暑いけれど、これはカムイグラの土だ。さらりとした感触が足を撫で、断続的な波の音がマッダラーの耳を楽しませる。静かに迷走をしていれば──どこからか、古風な音楽が聞こえてきた。
砂浜も綺麗だなぁ、とBinah──ビナーが歩いていた矢先、聞こえてきたのは三味線の音と不思議な歌。ふらふらと引き寄せられるように向かった先では。
「アトゥイ ラン レプン カムイ」
カムイグラで見られる三味線を手にしたアリアが、どこかの国の言葉を詩に乗せて歌い上げる。一節を口ずさんだアリアは知己の姿にあっと声を上げた。
「ビナー君だ! こんにちは!」
「こんにちは。アリア君も来ていたんだね」
軽く挨拶をして、隣同士で座って。互いに訪れていたことも驚きだが、歌っていると思わなかったし聞き入られるとも思っていなかった。不思議な巡り合わせである。
「もし良かったら、また聴いても良いかな?」
そんなビナーのリクエストにアリアは勿論と頷いて、三味線を脇に置く。アカペラで歌うのは、目の前の景色に相応しい穏やかな歌。
長閑な海もまた、アリアの歌に聞き入っているかのようであった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お楽しみいただけましたか、イレギュラーズ。
暑さも続きますが、しっかり水分とって乗り切りましょうね。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●バカンスである!!
・遊ぶ
・食べる
・憩う
上記3種類からお選び頂けます。
●遊ぶ【遊】
海、或いは砂浜で思いっきり遊びましょう!
波は穏やかできれいです。夫婦岩が見える事でしょう。
砂はさらさらと細かく、しかし海水と混ぜれば何かしらのオブジェなど作れそうです。
また、露店などで買ったことにすれば浮き輪や水鉄砲なども用意できます。
●食べる【食】
露店をめぐり、飲み食いして楽しむことができます。
カムイグラだけでなく海洋王国からも露店が出されており、和洋どちらも楽しむことが出来ます。
氷菓や軽食などの露店が多いです。
●憩う【憩】
海や砂浜でのんびりします。涼んだり誰かとお喋りしたりするパートです。
大きな日傘(和製パラソル)を借りることができます。
砂浜には寝転がれるベンチもあるようですが、あまり多くはありません。
●NPC
当方の所有するNPCは登場する可能性があります。多分3人ともカナヅチです。
●イベントシナリオ注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関してはNGの場合のみ記載ください。基本アドリブが入ります。
●ご挨拶
夏だ! 愁です!
暑い所はとても苦手ですが、海とか行きたいですね。
ご縁がございましたらよろしくお願い致します!
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