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シナリオ詳細

星迎ロマネスク

完了

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オープニング


 眺むるば、交叉の頃に天蓋を粧うは宝珠が如き星屑。煌めき流るる箒星を指先辿り篝火など必要ないと落ちる光の道を歩む。
 人工灯など存在しないと潮騒響く海へと向かえば、漣が静寂を攫い往く。
 誂えたと立て掛けられた笹の葉に飾られる短冊は人の願いを形に変えて、天に住まう者へと届けるらしい。
 嗚呼、けれど――愛しいと泣き濡れる恋人同士を穿ったその川は今日と言う日も反乱を見せる。今宵の空に立ち込める暗澹の雲は二人の逢瀬を邪魔するやうに。

 ある人がインスピレヱションを働かせて言ったそうだ。
 願いの短冊を込めて二人の架け橋になりませうと。
 戀ひ渡る逢瀬の邪魔はしてはならぬと唇に嘯くように揶揄い半分に。

「――たなばた、ですか」
 瞬く『聖女の殻』エルピス(p3n000080)は先程まで美しく空を仰ぎ天蓋の星を眺められたのにと、一層闇夜を落とした雲に落胆したようにそう呟いた。
「そ、エルピスに分かり易く言うならさ、御伽噺だよ。
 織姫と彦星は天の川で分かたれてるけど、七夕の日は逢うお許しが出て川を渡ってい受けるらしい」
 ロマンチックだろう、と告げる『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)にエルピスはこくりと頷いた。けれど、美しいその空は曇天に覆われた、これでは星の川を渡ってゆくことは出来ないのではないか、とエルピスは不安を浮かべる。
「それで、さ――カムイグラの伝承の一つ。
 七夕の日は雨雲を生み出す妖が居るらしい。『短冊に願いを書いて』空へと届ければ、そいつを退治する事が出来るらしいんだ。だから、願いに行こう」
 雪風は、地方によって諸説ありけり、と付け加える。エルピスと雪風が向かう黄泉津のある地方ではそのように伝えられているのだそうだ。
 願いを認め、天の川へと届かすがために笹へと飾る。祈り、願い、そして天の妖(くも)を取り払わんと。
「……それで、障害は取り除けるのでしょうか」
「さあ。どうだろう。案外、雲が隠しているときに織姫と彦星は空の妖と戦っているのかもしれないね」
 そう、ですか、とエルピスは目を伏せた。
 空一杯の灯りを取り戻すべく――さあ、祈ろう。

GMコメント

 日下部あやめです。

●依頼の内容
 恋人たちの逢瀬の邪魔を取り払う事

●一章
 短冊に願いを込めて祈りませう。カムイグラから少し離れた辺境の浜辺です。
 漣響く美しい浜辺にて笹の葉に願いを込めることが可能です。
 浜の周囲には雲の妖が顕現したものも居ます。

 1章で出来る事
 ・短冊に願いを込めてお祈りする(空へ届ける)
 ・浜に『降りて』きた雲の妖を撃退する

●二章以降
 空が晴れれば、天体観測を楽しみながら。
 雪風の言う通り織姫と彦星は何かと戦っているかもしれませんね……?
 一章の結果を受けてその様子は変化致します。

●同行NPC
 山田・雪風
 エルピス
 がご一緒致します。エルピスは回復等を担当。山田はあまり戦闘能力はありません。
 何かございましたらお声かけください。

●同行者や描写に関して・注意事項
・ご一緒に参加される方が居る場合は【同行者のIDと名前】か【グループ名】をプレイング冒頭にお願いします。

  • 星迎ロマネスク完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別ラリー
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年07月19日 14時22分
  • 章数2章
  • 総採用数42人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

古木・文(p3p001262)
文具屋
イアン・ガブリエル・ニコルソン(p3p006415)
小さな仕立て屋
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

 巡り逢ひて――然して、その運命を交叉する事さえ叶わぬというならば。何と哀しい事であろうか。天蓋を覆い隠した厚雲は先ほどまで嫁殿が眺むるびいどろの様な煌めきを閉ざしてしまう。
『鬼灯くん、このままじゃお空が曇ったままなのだわ! なんとかしなくちゃ!』
 硝子玉の瞳が映すのは曇空など似合わない。鬼灯は彼女の言葉にゆったりと笑み浮かべる。
 思えば七夕、元の世界では部下たちと一緒に願い事をしたものだ――役者の様に恭しくビスク・ドールのレディの手を取って「さぁ、舞台の幕を上げよう」と短冊へと筆滑らせる。

 ――嫁殿がいつまでもそばで笑ってくれています様に――

 愛しい人へと溢れた言葉。それを見遣れば嫁殿は自分の短冊も用意して欲しいと拗ね変える。嗚呼、今日も愛らしく告げる彼女は自分の願いも空に届いてと願わずには居られないのだ。
「なんて?」
『ふふ、――みんなといつまでも仲良くくらせますように!』
 何と優しい願いであるかと鬼灯は笑み零す。その腕でしかと嫁殿を抱き上げて天近い場所へと一つ飾る。闇夜に生きる忍の頭領が星願うなどロマンスチストが過ぎるだろうか、と淡く笑えば「素敵だよ」と文が首を振る。
 故郷を思えば七夕祭りには馴染みも深く好ましい祭りの一つであろうに。先ほどまで眩い程に光を落とした星は今や雲に隠されたかと僅かな落胆が肩落とす。
『それは?』と嫁殿が問いかけたのは文の万年筆がゆっくりと落とされたインク瓶。夜海を詰め込んだようなそのぬばたまは緩やかに想いを綴る文字と化す。
「晴れますように、だなんて。捻りが無いかな?」と揶揄い空へと掲げた願い。
 願い事を短冊へ――なんて、幼き頃のようで、どうにも面映い。
 一年に一度の逢瀬。それが恋仲の二人であれば、どうにかと願わずには居られない。
 これで雲が減り、美しい空が拝めるというならばやきもきするよりずっといい。何時もは雨雲も好ましいけれど『今日だけは』許しておくれ。
「ふうん、1年に1度のチャンスを邪魔するなんて……無粋だね」
 イアンはそう呟いた。藤色に描くは愛しい愛しい姉と過ごす時間をもう少しと小さな悪戯。

 ――姉さんの婚期が伸びますように。あと、恋人居るなら、羨ましい四散爆散しろ。

 其処まで滑ったインクに咳払い一つ。天蓋の恋人たちに笑われてしまうであろうかとイアンが重ねるは織姫と彦星が出会えるようにと言う僅かな願い。そう、と祈れば天蓋の雲間より曇天の色が降り注ぐ。
「無粋なのは君達か。……まあ、そういう顔をしているかな。
 服が戦闘で汚れるからあんまり近寄らないでくれる?
 僕は空気を読まない奴と無粋な奴と服を汚す奴が嫌いなんだ」
 重ねて嫌いだと口を酸っぱくしたイアンは自身のみの内で魔力を巡らせ神秘の呪本の頁に指先掛けた。ああ、きっと、服が汚れてしまう。
 大仰なため息ついて、その美しいかんばせに似合わぬ落胆を乗せた唇は「新しい服のデザイン起こそうかな」と呟くのだった。
 いつだって、意中の相手の前では見目麗しく在りたいものだなんて――愛おしくなるようなこころの片を小さく漏らし。

成否

成功


第1章 第2節

恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

 一年でたったの一時。その逢瀬。七夕と呼ばれたその日に纏わるおとぎ話は錬とてよく知っていた。ソレを妨害するというのだから、まさしく『馬に蹴られるなんとやら』なのだ。
 天蓋に飾られた美しい星空が恋人達の逢瀬を邪魔する川だという為れば、それもそれで問題ではあるのだが――別れた者達の再会を邪魔をするのは『旅人』としては放置はしておけぬ事柄だ。自身らも元の世界を分かち混沌世界へと召し喚ばれたのだから。
「あちらにも文が届くと良いのだが……そこまでこの川は融通を利かせてはくれないか」
 妖にとっては一日掛かりの防衛戦というならば、無理矢理にでもこじ開けて天ノ川に思いを乗せるのも悪くはない。
 掻き立る情熱の赤い色。錬は式符を摘まみ上げる。日輪を作り上げるは符の魔力――陽光の鏡を創鍛し、穢れ祓うが如く魔力を乗せる。
「七夕にちなんで、天まで届く光で祓ってやるよ……!」
 鮮やかなる光を追いかけて、その拳に力を乗せた花丸はにんまりと笑みを浮かべる。
「ふんふんっ! 異世界にまで七夕の行事があるなんてビックリって感じっ!
 でもでも、伝わってる伝承は不思議がいっぱいエキセントリックっ!」
『異世界』は不思議がいっぱい。だからこそ、アメジストの瞳にキラリと光を乗せる。
『花丸ちゃんに任せればマルっと解決』と唇乗せて矜持を胸にぴょこりとはねる。
「大事な逢瀬を邪魔させない為に頑張る事に決めたのでした、ぶいっ!」
 願うのはおいしいものを食べたいな、と何とも可愛らしい。色気も恋も何もかもないけれど、妖退治を頑張れば素敵な願いを届けて雲をも晴らせると至近距離で力を込める。
「エルピスさーんっ! こっち前出るから援護お願いするね?」
「はい……! 任せてください」
 頷いたエルピスの声を聞き、花丸は前線へと責め立てる。その動きを追いかけるは愛無。どろりと自信の本性を僅かに覗かせてからすぐにソレはひた隠す。今日という日にそのような姿は無縁だ。
「――逢瀬の邪魔をするというのも無粋がすぎる。
 それが年に一度の物ともなれば、なおの事ではあろう」
 こいごころ。愛しい――いとしい、かなしい、そのこころ――愛無はタダの静かに向き直る。
 生憎と馬ではないがご愛敬。蛇であれども、『けだもの』であれども今は恋を運ぶ存在だ。
「何かに縋って望みが叶うならいくらでもそうするが。
 生憎と現実は、そんなに甘くない。ゆえに願いなどという物は、自分で奪う物ゆえ」
 奪うが為に、邪魔立てする者は脅威と見なして倒し続ける。
 そういえば、と愛無は、ふと、思い出す。

 ――そういえば昔、雲を食べてみたいなどと思ったことがあったか。

 決して美味とは言えないだろう。あの天蓋飾った煌々たる星の方が十分に甘味であろうか。

成否

成功


第1章 第3節

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり

 美しき海浜に真白のその巨躯がうごめいている。ゴリョウは「ぶははっ」と快活に笑みを浮かべる。状況は非常に端的で分かり易いに程がある――雲を倒せば、空に晴れ間が広がるというのだ。広大なる星空を求めて止まぬアーリアは「無粋な妖ねぇ」と静かに笑みを浮かべる。
「折角のこんな素敵な夜、大好きな彼と星見酒――なんていきたいけれど、彼をこんなに危ないところに連れてくるわけにはいかないもの。私と彼との夜のため、お邪魔な雲は払っておきましょ!」
 カクテルグラスに揺らした恋心は一先ずお預け。輝かんばかりの夜を愛しい人と過ごせぬのは織り姫と同じであろうか。今はまだ浜へと訪れぬ彼を思ってアーリアは『一足早く』うっとりと酔いしれるように月の雫を一つ足らした。
「ほぉら、とってもとっても効くでしょう?」
 ガラスの小瓶より毀れ落つるはヴァイオレットの雫。魔女の魔力は『とっておき』と酔いしれる。かみ切った小指よりあふれる赤い血はまるで恋を紡いだ血の如く赤き豹が雲食らう。
「……早く片付けて彼を呼んで、美味しいお酒を飲みたいんだもの! 頑張るわぁ!」
 アーリアのその言葉へと頷きを返すゴリョウも無粋な雲には容赦もしない。叶えたい願いがそこにあるならば――二枚重ねて内側にもうこっそり一つ挟み込んだ短冊をシューターズを内蔵したトンファーに括り付け、飛び込んでゆく。風切る様にすばしっこく、愚鈍などと言うなかれとその腕を振るいあげれば霧散する雲の合間よりちらりと星覗く。
 豊作祈願(五穀豊穣)は良き米を作れるようにと願ったもの。豊作を願うのは米作りを担う者として重要なのだ。その様子を眺めながら鹿ノ子は静かに息をつく。
 ――行方不明のご主人が見つかりますように!
 その姿が掻き消えてからと言うものの『特異運命座標』である自身への行動理由がそこにはあった。魔種なる『ご主人』を探し求める神威神楽。果たして何処で待っていてくれるのかと願っては已まない。
 その願いを届けるべく雲を見据えて黒蝶を構える。その掌に馴染む魔剣は犬よりも尚軽やかだ。
「人の恋路を邪魔するひとは馬に蹴られてなんとやら!
 一撃の威力は軽いけれど、さぁそれが一撃でなかったら?
 二度、三度、四度、いつ終わるか分からぬ連撃を前に、いつまで立っていられるッスかね?」
 繰り返し、繰り返し、灯火を削り取る。断ち切るは雪の如く。
 降り積もった痛みの意味を教えるように鹿ノ子はちいさく笑んだ。
「その体力も、精神力も、行動力も、気付いた頃にはどれだけ減らされているか! ――さぁ、雪が降り積もる如く、深々と受けるがいいッス!」

成否

成功


第1章 第4節

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

 七夕――と唇に乗せて音にすれば、それは幼子が嗜む行事のようにリュティスは感じられた。短冊に願いを込めて祈るというのは趣あり、それも神を自称するヤオヨロズが闊歩する黄泉津ならではなのだろうかとさえ感じさせた。
「願いを叶える為に、天の妖を払う必要があるというのなら我々も手を貸そうか。行こう、リュティス」
 この地ならではなのだろうか、と問いかけたベネディクトに練達地区ならばもしかすればとリュティスは静かに告げ、一つ、瞬きを返す。
「ご主人ならそう仰ると思い、準備をしておきました。このリュティスお供致しましょう」
 主人の言葉を待っていたとでも言う様に彼の武装を手渡したリュティスは一歩彼の背後へと下がる。前線に立ち栄光<グロリアス>を振り抜くベネディクを支えるが如く、黒蝶はその鱗粉より呪いを振りまいた。大仰な白き雲がぐらりとその身を揺らがせる。その様子をちらと眺めてらメイドは主人と動きを合わせ、自信の持ち得る最大の力を繰り出した。
「そういえば、リュティスには短冊に込める様な願いはあったのか?」
 付き合わせてしまっただろうか、と眉を下げたベネディクトにリュティスは首を振る。短冊に込める願いは、と問われれば考えもしなかったとリュティスは首を傾いで見せた。
「願うより、自分でつかみ取ると考えておりましたので……。
 でもそうですね、あえて願うのであれば黒狼隊の皆様の無事をお祈りするでしょうか?」
 リュティスらしいとベネディクトは小さく笑みをこぼして見せた。
「ははあ、七夕。ミィちゃんの元いた世界でも似たようなものがあったんですよね?」
「ええ。そうなの。でも七夕の日って天気が悪いことが多いのよね……退治して晴れるのなら、たくさんお願い事しましょう!」
 にんまりと微笑んだ数子――ミーティアは短冊に書くものに迷うように筆をゆらりと揺らし続ける。
「僕一人だったら願い事なんてあんまり思いつかなかったのですけど、ミィちゃんもカムイグラに来てたのなら話は別ですよねー、ふふ」
「私はお願い事決まったわ! 美味しいもずく酢が食べれますようにと、ケーキを沢山食べたいのと……あとあと、山盛りの白米が食べたい! 沢山あるから、妖もすぐ退治できちゃうわね!」
『食いしん坊』な彼女にヨハンは小さく笑う。ヨハンが短冊に書いたのは『これからもずっと仲良く過ごせますように』という優しい願い。「何て書いたの?」と覗き込んだ彼女へとヨハンは「見せませーん、ふふーん」とひらひらと短冊を揺らしその瞳から逃れるようにぺろりと舌を見せる。雲が覆い隠した空を眺めるように「見せてくれないなんて狡い」と悪戯めいたミーティアも『秘密』を願う。
 ――ヨハンくんに私の事、もっと大好きになってもらえますように。
 秘密をそっと笹へと添えて、ヨハンがエスコートですと手を差し出したそれに恭しく重ねてからミーティアは微笑んだ。
「雲の妖などに僕のミィを傷付けさせるものかっ!」
「僕のミィ、だなんて……えへへ~照れちゃう! 私達と織姫彦星の邪魔をするのは許さないわ!」
 地上にキラリと輝いた星を眺めてから幻は傍らの夫――ジェイクへと視線をくべて笑みを零す。紆余曲折、重ねた時間に更に擦れ違いを重ねてから、漸くを持って交わった運命に酔い痴れるように幻は短冊へと筆を滑らせた。
『ジェイク様と一生夫婦でいられますように』
 幸福を祈ることはしなかった。共に存在れる今のこのさいわいに勝る物はないだろうが――例え、二人を別つ事があろうとも、ソレを乗り越え共に生きる事を結婚式にて誓ったのだ。
「砂浜でロマンチック、も楽しみたかったが生憎な空模様だな? 幻」
「ええ。……けれど、祈れば良いのだそうですよ、ジェイク様。
 織姫様と彦星様もこの願いで逢瀬が果たされますように。
 僕はジェイク様の演技で振られたと思ってました。でも、その間もずっと僕のことを想ってくれていたのです。……二人も分かたれても心は一緒でありますように」
 彼女の言葉にジェイクは頬を掻いた。一度は、一人彼女を遺すことが苦しく、病に冒された自身からは遠ざけた。だが、漸く掴んだその手を二度とは離したくはない。
 ジェイクは短冊へと二人一生仲の良い間柄で居られるようにと願った。夫婦となって、共に訪れたこの地での思い出を胸に、この幸福を永久にと願って為らない。
「俺のこの願いを聞き届けて欲しい――どうか、俺達に満天の夜空を見せてくれ」
 その雲間より、満天の星空を。彼女との幸福への贈り物として――

成否

成功


第1章 第5節

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
マギー・クレスト(p3p008373)
マジカルプリンス☆マギー
日向寺 三毒(p3p008777)
まなうらの黄

「大好きな人に年に1回しか会えないのに、それを邪魔しちゃうなんて!
 そのまま会えなくなっちゃうなんて悲しいもん。お願いを書くのが妖を倒す手伝いになるなら、いっぱい思いを込めたお願いを書くよ!」
 焔は短冊を手にしてからこてり、と首を傾いだ。その赤々と燃えるような髪はゆるりと波を打つ。
「うーん……でも、お願い事かぁ……何を書こうかなあ。
 ……うん、これにしてみよう。今までもいろんな機会にお願いしたけど――」
 けれど、自身が生まれ育った世界と似ているこの場所ならば、もしかすればもっとお願いが届くかもしれないと、そう感じたのだ。神が闊歩するこの場所で焔は叶うかも分からぬ願いを口にする。
「どうか――下の世界に帰れますように」
 この世界で友人だってできた。彼女たちと離れるのは悲しいけれど――役目と、両親のことが気になってしまうのだ。
「短冊か! 願いを書くぞ! カムイグラ、否ここは欲張って混沌全土の鬼が絶滅しますように……いや、これだと他力本願であるな」
 頼々という少年は悪鬼と敵対していた。それ故に、角を持つ存在が忌々しくて堪らぬのだ。角の付いた忌々しき存在を絶滅させるまでは『失敗(ファンブル)』しませんように――と言うのも無理があるかと筆で黒く塗り潰して小さく唸る。
「……取り敢えず目下の問題は鬼共がローレットに所属できるようになったことであるか……!」
 鬼人種たる存在が自身の故郷の悪鬼とは異なれど忌々しき鬼であることには違いはない。共に存在るべきを否定することはローレットの異にも反すると頼々は小さく唸る。
「――となれば、混沌世界の滅びとやらを見事防いでローレットの目的を果たし、解散させれば鬼を狩り放題であるな?」
 目標は定まった。描くべきは『混沌の滅びを皆一丸となって防げますように』――なのだ。
「たなばた……ですか? ロマンチックなお話なのですね。ボクにはちょっと縁が遠い話ですが……」
 目を伏せったマギーはそっと視線をそらしてから雪風にしぃ、と告げた。内緒の仕草で誤魔化したマギーは「山田さん」と短冊をまじまじと見つめる雪風を覗き込む。
「そういえば、山田さんは、お願いごとをしたのですか?」
「あ、ああ……その、これからも好きな物を作る人が楽しく生きてられますように、って」
 マギーはぱちりと瞬いた。雪風の好むアニメや漫画は人力そのものだ。だからこその願いなのだろうかとマギーは「ボクのお願いごと……どうしましょうか?」とむむ、と唸った後、雪風へと囁く。
「山田さんのお願いごとが叶いますように、とか」
「え、も、勿体ない。願った方がいいよ」
 慌てる雪風に「だめですか?」とマギーは首傾げてううむと唸った。織り姫と彦星が無事に出会えますように――七夕伝説をなぞったその願いに雪風は「すごく良いね」と微笑んだ。
(まだ母様が生きてたガキの頃にゃやってたかもしれねェが、もうさっぱり覚えちゃいねェなァ。
 しかし年に一度の逢瀬を邪魔するたァ野暮な雲だ……短冊ひとつで散らせるってんなら丁度空いてるこの手を貸してやろうかねェ)
 三毒はそっと天蓋を見上げる。覆う雲は妖だというのか。薄れつつあるがまだまだ厚い。
 慣れたようにさらさらと筆を滑らせ存外達筆なる文字で描いたのは此度、黄泉津に吹いた風のことだ。
『外より吹き込んだ新しい風が淀み歪んだこの地の流れを変える嵐を起こしてくれることを願う』
 ローレットとは何か。そう思えど、彼らを気にしても自身の外見や言葉使いで怖がられたくはないと極力目を瞑り続ける。きっと、神使達は『慣れている』のだろうが――
(女子供に泣かれんのはちぃとばかし堪えるからなァ。海向こうの神使サンらはどうだかねェ……)
 ちら、と視線を向ければ、その先でエルピスがぱちりと瞬き微笑んだ。

成否

成功


第1章 第6節

エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
鐵 祈乃(p3p008762)
穢奈

「ね、エルピス。わたしたちもおてつだいしよう。
 でも……お星さまにもうひとつおねがいなんて、よくばりかな。ふふ!」
 そう囁いたエーリカにエルピスはくすりと笑みを零す。澄んだそらいろ、彼女によく似た色の短冊を手にしたエーリカを真似て、エルピスは薄いこおりのいろを手に取った。
「書いた?」
「はい、……書けたと、おもいます」
 視線を合わせ、せえのと笹の葉へ。

 エルピスと、みずあそびができますように――たのしいなつを過ごせますように

 なつのことも、知って欲しい。四季折々のたのしいをたくさん、そう願うエーリカの思いはきっと、伝わっている。
「エルピス、うしろにいてね?」
 傷つけることも、傷つけられることも怖いけれど、逃げてばかりはいられない。逃げるばかりの夜鷹ではないとエルピス庇うエーリカに、そっと癒やしが降り注ぐ。
「わたしも、手伝います」
 エルピスの囁く声を聞きながら。
 祈乃はぐん、と前へ前へと進んだ。短冊に書いた願い事は『美味しいご飯が食べられますように』『皆と仲良くできますように』。二つ並べて祈りを捧げる。
 けれど、それでも訪れるというならば――
 一人は心細いと告げた祈乃にエルピスとエーリカは頷きあった。ならば、共に。
「回復、ありがとね。これでまだまだ戦えるたい」
「……むりは、なさらず」
 祈るエルピスの声を聞き祈乃は頷いた。ぐん、とその身を前に走らせる。その拳と、その脚を使用してコンビネーション攻撃に浜の砂がざらりと宙を踊り出す。
 曇天の体に吸い込まれた砂の上、踊るように跳ねた祈乃はあと少し、と感じていた。

成否

成功


第1章 第7節

ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
只野・黒子(p3p008597)
群鱗

 こうも雲が多くては折角の七夕だというのに星見酒にも向かぬかと咲耶は小さく息をつく。
 為ればこそ、酒の肴となるべき星を眺むるべく『退屈しのぎ』に年に一度の逢瀬を手伝うのも悪くはない。
「さて、この斬九郎も助太刀いたそうか。短冊に書くのは――そうだな、今回は『来年もまたイレギュラーズの者達とこの日を迎えられる様に』という事にしておくとしよう」
 そっと、筆を滑らせてからつい咲耶の唇には笑みが浮かび上がる。仕えた主と仲間を失い他者との間に距離を構えた。だと、言うのに、斯様なことを考えるようになるとはローレットに入れ込んでいる自分に気づいて、ついぞ面白くなったのだ。
「いやはや、誠に人生はどう転がるか解らぬもので……。
 それでは気落ちを切り替えよう。待たせたでござるな、妖共よ。死合う覚悟は宜しいか?」
 そう笑う咲耶の隣でハロルドはあんぐりと口を開いた。織り姫と彦星。妖怪と戦っているかどうかは定かではないが、空の上に妖が居るのは確かなのだ。
 ハロルドにとって『魔』という存在は滅すべき。もしも『魔』が居るというならば何処へでもというのが彼の考えだ。
「短冊に願いを書いて妖怪を退治する、なんて まどろっこしいことを言っていないで、俺に戦場を提供してくれ。直接 妖怪どもをブッ殺しに行く」
 短冊に書くというならば『俺をその場へ連れて行け』という至極、単純明快な答えであった。身に纏わせた魔を退ける障壁と共に雲の妖の袂へとその身を投じる。唇が釣り上がり、ヘの文字を描いたその口にゆったりと笑みが浮かんだのは――『魔を滅せられる』からであろうか。
「ははははっ! おら、掛かってこいよ! ブッた斬ってやるぜ!」
 ハロルドのその傍らをぐん、と進む黒子は闘争本能を暴走させる。当て勘は研ぎ澄まされ、防御をも気にする素振りなく、奪静<アバレロ>と自身の命を媒介に相手の冷静さを奪い往く。
 自身を縦とするが如く、雲をその身に引きつければ、空よりぞろりと曇天が浜へと墜つる。それを逃さぬかのように仲間達へと声かけて、閃緑の目はしかと雲の妖を捉え続けた。
 自身の闘争心に声かけて――そして、空より雲が拭われた。
 誰かが、あ、と声を漏らしたのは天蓋にびいどろの如くきらりきらりと星屑が瞬いたからであろう。七夕伝説をなぞるように天に流れた川より落ちた妖をこの浜で倒せば、きっと、恋情なる二人はその手を取り合うことができるであろう。

成否

成功

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