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花見酒/月見酒
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オープニング
●桜散る
はらはら、はらはらと桜の花弁が散っている。
幻想北部商都サリュー近くの街道には、余りに見事なその咲振りから『血吸い桜』の異名を持つ一本の桜が生えていた。
曰く血を糧にしているだとか。
曰く儚く散るその花は死者への手向けであるだとか。
真偽は知れなかったが、その見事な一本は昔から変わらずそこにあった。
傷付けようとする愚か者も居たとは聞くが――果たして、何かの祟りなのか、皆揃って不幸にあったという。尤もその話も、幾分かおどろおどろしいその異名も心なき誰かに樹を傷付けられぬよう、先人が流した逸話なのやも知れないが。
「『血吸い桜』よ。主は血を好んでおるのよな?
では、今宵は幾分か――何時もよりは満足じゃろう?」
空には煌々と輝く月。
雲は無く三月の空気は澄み切っていた。
瞬く星さえ数えられそうな夜に和装の男は――死牡丹梅泉は小さく笑う。
「主を歓喜させ、枝振りを、その花弁を彩るだけの色があろう?
何、礼は要らぬ。こちらも主には『世話』になっておる故な」
『血吸い桜』の根元に座り、幹に体を預けるようにした梅泉はまるで瀟洒な美女にでも語りかけるかのようにそう言った。片手に持つ朱塗りの杯を傾ける彼は至極機嫌が良く――幻想的な風景は絵画的に美しい。まるで月さえ魔人と古木の風景を讃えているかのようだった。
「しかし、幾分か弱った。
花に酒、月に酒。酒には肴も必要じゃが――
喰らわば喰らい、斬れば斬ったで失せてしまうのが困りものよ。
主にもっと咲いて貰うなら、仕込み直しも必要よ」
はらはら、はらはらと桜の花弁が散っている。
「まこと綺麗よな――」
嘆息した梅泉は花を愛でる。月を愛でる。酒を愛でる。
噎せ返るような血の匂いの中心でまるで全く涼やかに、此の世の地獄を省みる事も無く。
『血吸い桜』の周囲には夥しい程の血液と、誰かの『残骸』が転がっていた。
●稀人来たりて
「やぶからぼうに構えるでないわ」
その日、ローレットを訪れたのはイレギュラーズにとっては知った顔。大半にとっては二度と見たくなかった顔であり、またほんの僅かな一部にとってみれば焦がれて止まなかった顔であった。
「真昼間から堂々と。喧嘩の押し売りは御免だぞ」
「わしを何だと思うておる。こんな趣の無い場所で抜くものかよ」
牽制球を投げるイレギュラーズに肩を竦めた梅泉はローレットをじろりと見回し「ふむ、初めて来たが悪くない」と小さく感想を漏らしていた。
「お前の悪くないは悪いようにしか聞こえないんだが」
「素直に褒めておるつもりじゃがな?」
「その心を言ってみな。正直に」
「中々斬り応えがありそう、じゃな」
くっくっと鳩が鳴くような笑いを零した梅泉は満足そうに頷いた。
人斬りジョークは余人に理解出来ないが、今のは冗談の心算だったのかも知れない。
「それで、何しに来た? クリスチアンのお使いか?」
梅泉は稀に王都を訪れるという。
それは多くはイレギュラーズの指摘した『クリスチアン・バダンデールのお使い』であるが、当然と言うべきか人斬りのお使い等というものは碌な属性を帯びていない。たまには平和な事もあるが、彼がやって来た前後で何処ぞの貴族や商人の死体が増えるのは『確か』である。
「いや、今日は個人的な用じゃ。それでここに参った」
「……どんな?」
「珍しい話でもない。今回はわしが『依頼』をしようかと思うてな」
鋭すぎるその面立ちを愉悦に歪めた梅泉にイレギュラーズは答えを悩んだ。
ここはローレット。混沌に冠たる、混沌一番の何でも屋である。
確かに彼が依頼人だというのなら、断る理由は無いのだが――
- 花見酒/月見酒完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別ラリー
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2020年04月19日 19時57分
- 章数2章
- 総採用数48人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
●梅泉の依頼I
(はぁ…?梅泉がローレットにきたぁ? そんな馬鹿な話……マジかよ!)
人生は驚きの連続だ。
驚きの連続だが、待ってくれないからこそ人生でもある。
ままらないからこそ楽しいとも言うが、それも時と場合に拠ろう。
「……いつだったかの夜以来、だな」
『ディザスター』天之空・ミーナ(p3p005003)の呟きは幾ばくかの口惜しさを帯びていた。
それは以前に彼――死牡丹梅泉と出会った時の事を思い出したからである。
(あの時は、そう。何かの仕事を終わらせた帰り道に。たまたま出くわした。
それだけだったのに、何故か斬り合いになって。無様にやられたもんだ。
他でもない『アイツ』の目の前で。『アイツ』を最後まで守る事すら叶わずに――)
有閑なローレットの風景。
その何時も何処にでもある空間をたった一人の来訪が全くガラリと変えていた。
「音に聞く、死牡丹梅泉――
一度は話をしてみたいと思ってはいたが……
いやはや。よもや、このような形で叶う事になるとはのう。
おっと、失敬。客人に対して取る態度では無かったな。
ゆっくりしていくがよい。詫びとして、茶菓子でも出す故な?」
佇まいを見るだけで通ずるのは、そんな風に冗句めいた『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が相応の技量を持つ故だ。その姿、認めれば否が応無く肌がひりつく。本人にその気があろうとなかろうと場自体を変えてしまう魔人の在り様は、相応の場数を踏んでいるからこそ引き立つ単純な事実になろう。
(奴を直接目にするのはまだ二度目だと言うのに……
奴と言い、クリスチアンと言い――全く『嫌な物を目にした』気分にさせてくれる。
いっそこのままここで処分してしまうのが最善じゃないか?
尋常でない被害が出るにせよ、リスクを犯すだけの価値はあるだろう)
『踏み出す一歩』楔 アカツキ(p3p001209)の頭の中に些か物騒な思い付きがもたげた。
敵は『とんでもない』が地の利、数の利は確実にある。
傲慢極まる彼はこんなアウェーでも動じた様子は無いが……
「辞めておけ。抜かぬとは言ったが――わしは火の粉を払えばやり過ぎる性質故な」
「上等ってやつだな」
……視線の一つも投げずにそうまで大上段で言われればアカツキも覚悟が決まろうというものだ。
そんな微妙に剣呑とした一瞬を、
「これは銀河連合介入あ……
ナンでしょうか、剣呑な地上人ですね。まるでヒト喰いカマキリですね。人間大の。
こう……隙のない御方で。あ、これは『右繞(うにょう)』といい、かつてエアルが調査していた古代インド式の敬意の表現です。そう真面目にお気になさらず」
「死牡丹梅泉、こちらも噂はかねがね聞いています。
イレギュラーズと若干のいざこざがあったらしいですが……依頼をしたいという事であれば。
……ええ。何でも受けるのがローレットです。どうぞどうぞ、受付の方へ」
梅泉の周りを右回りする『宇宙人調査員』驚堂院・エアル(p3p004898)の酷い胡乱さが撹拌し、『イワ死兆』アルプス・ローダー(p3p000034)が刈り取(インターセプト)った。
やたらに出鱈目なようでいてアルプスは独特ながら視野が広い。
持ち前の反応速度はこんな時にも生きるのか、生きないのか――
(話を聞くに、強者しか相手にしないとはいうけれど、彼の気がいつどう変わらないとも)
――『アバター』――つまり少女のホログラムをカウンターのスツールに腰掛けさせたアルプスは『もし万が一に何かがあった時』の事を考え、その実油断なく彼を見据えていた。目配せをしたレオンも似たような事を考えているのか、その辺りはやはり捨て目の利く男であった。
「……と、いうわけで依頼は敏腕美少女情報屋のユリーカを通してくれ」
あくまで態度はにこやかに『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)が言った。
今まさに廃滅病なる間近な死とお付き合いしている彼は『回避』出来るものならばこんなイベントは回避したいものだったが――依頼をしたいとのたまう梅泉から良い予感は全くしなかった。
「……で、お前も食うか?何か摘みながらの方が依頼っぽいだろ?」
自分が喰われるよりは余程マシだとばかりにカイトがツマミの一つも薦めている。
一方で、
「依頼? バイセン、アンタが依頼? ヨソウ外な発言だね!
でもキョウミはあるな。ヒトゴロシなら自分でやりに行きそうだよね?
一体何をローレットに頼みたいのさ?」
「貴方が、噂に名高い梅泉、か。ローレットにゃア、真摯に『パパを助けて』だのと駆け込む子供も居りゃア、『娘を消せ』とか言うゲスい貴族方も居ル。
故に、何が飛び込んでも不思議じゃあないけど――」
「ご無沙汰だね死牡丹の旦那!
妖刀に手足がついてこの世を謳歌してる様なキミが、荒事の代理を頼みにきたとは考えにくいが――まァお話ししようぜ、座って座って。茶でも飲む? 酒でもいいよ、何なら奢るし。
血を求めるキミも好きだが、荒事抜きにキミと話すのも好きだからねぇ、我(アタシ)は!」
同じ属性(バトルマニア)には違いないが刹那的な梅泉の在り様はいまいち好きになれない――少し違う『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377) が意外とエグイ一言と共に首を傾げた。「何れにせよ、稀人には違いなイ」と『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)が極々軽い探りを入れ、少し興奮気味に『闇之雲』武器商人(p3p001107)がまくし立てれば梅泉はくくと笑う。
「では、お言葉に甘えてゆるりとするか。とは言え……
情報屋を介するのは吝かではないのじゃがな。肝心のあちらが怯えておるぞ?」
「あー、それはたしかにー」
『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)がのんびりと合点し、梅泉の言葉を肯定した。カウンターの奥で帽子を押さえてガタガタと震えるユリーカはどうも話を聞く心算はないらしく、要するにこれは『受付を通しての依頼』ではなく、イレギュラーズ自身が彼より請ける他は無いという事実を示しているようである。
「でも、良くここまでこれたというか……
いえいえ、ここまで誰にも衛兵とか呼ばれなかったのかな、と不思議に思いましてー。
真新しい血なまぐさい匂いはしません……わよね? ね?」
「主も純真じゃな。この都の衛兵を頼りに考えるとは。
とはいえ、返り血を気にする性質ではないが、汚れを好む風でもないわ。
香袋の一つも携えれば、わしの剣呑も上書きされようよ」
冗談か本気か分からぬが梅泉は「もう一曲歌を披露せよ」等と言ってくる。
「そういえばそろそろ春だから桜の季節よな、キミは好きかい桜。
我(アタシ)は好き。ヒラヒラ舞って綺麗だよねぇ。
そういえばニンゲンには花粉症って病があるようだがキミは平気?
くしゃみをしているキミも可愛いし素敵かも知れないけど!」
「正直言えばとても会いたかったよ。
おにーさんの大切なトモダチが執心している宵の君。
いつか彼を殺すのは俺でありたいと思ってるから、彼を殺すかもしれない君を知りたかった」
何時になく饒舌な武器商人に「戯けめ。胡乱か」と肩を竦めた梅泉は、苦笑交じりにそう告げた『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)に「主も苦労をする性質じゃな?」等と言う。
「おにーさんに同情されるって大概すごいことじゃない?」
へらりと笑ったヴォルペに梅泉は「運が良いな」とさらりと返した。
人だかりの中心でのんびりと語らう彼からは今の所殺気らしい殺気は感じない。
「この伝わる存在感、静かな狂気! やばい、抜刀しそう。なにこれなにこれ!
思わず笑顔になるし、汗も出るし、顔も赤くなっちゃうし、これは……恋!?」
「うん……? 確かにすごく強そうな人だけど……皆そんなに慌ててどうしたのだわ?
有名な人なのかしら……世間の情勢には疎いからなあ……私」
何だかアレな方向に頬の一つも染めてみせる『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)に『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は可愛らしく小首を傾げる。
「悪い方に中々ね」
「成る程……勉強になったのだわ!」
「でもオマエは俺の方がいいでしょ?」
「れ、れおんさん……!? そ、その私は!
依頼があっていらしたのなら、その、受付とかおもてなしをしないとかなって……!」
「大丈夫だから行っといで」
先程アカツキとやりあった時だけは刹那空気が張りつめたが、あれもどちらかと言えば応戦の方である。ユリーカの如き未熟者はさておいて。
レオンの方は大体それを察したのか、梅泉を出汁に華蓮に『いつもの姿』を見せている。要するに気付けば最初の警戒も何処へやらだらけたレオンの通常営業という事である。
「んンッ! コホン! そういう訳でギルドマスターを信じて話を進めましょう。
華蓮、席は出来上がってるみたいだから――
緑茶で良いでしょ、茶菓子はとびっきり甘い物を。良い甘味は舌がよく回るようになるわ」
華蓮の毒気の無さにつられて微笑んだ『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が軽く冗句めいて言った。
(二回も殺し合い……いやどっちも『不意遭遇』と『遊び』だけど、顔くらいは覚えてくれてるわよね。死兆を患ってるから見逃し……いや明らかに前より『尖って』るものね私)
覚えてくれていない方が平和なような、それでいてそれはそれでつまらないような。
イーリン・ジョーンズは複雑で、だから華蓮と一緒に梅泉の前に現れてこんな風に告げたのだ。
「――さて、未だ私の名を云わぬ貴方。甘味で腹が膨れる前に依頼を話すほうが吉ってものよ!」
成否
成功
第1章 第2節
●梅泉の依頼II
「――というわけで妾なのじゃ!
して、結局。死牡丹の梅ちゃんよ。妾にたっての依頼とは一体何なのじゃ?」
「面妖な呼び方をするでないわ」
「ん? 梅泉故、梅ちゃんなのじゃ。
喜ぶが良い。妾が今名付けたのじゃ。出来たてホヤホヤじゃ。
なんかこう、梅ちゃんっぽい顔とかもしておるしの。
まあ、折角じゃ、茶の一杯でも飲んで落ち着いて話すと良いのじゃ。
確かこの辺に……あったのじゃ!
う~め~こ~ぶ~ちゃ~!」
梅泉は『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)のあまりと言えばあんまりなマイペースさに思わず閉口し、目線で「此奴は何時もこうなのか?」と周囲に問い掛ける。
実際の所、デイジーは何時もこうなのでそれをよく知るイレギュラーズは「はい、そうです」と首を横に振る以外の選択肢を持たなかった。
「他ならぬ梅泉さんですし……
梅泉さんじゃないですか!
あの底知れない貴族からこっちに……って話じゃないですよね」
「わしが使いの使いなぞする筈が無かろうよ」
「まぁ、はい。そうですね、分かってました……」
睥睨されれば微妙に背筋を縮こまらせ、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は色紙を持っていれば良かった、等と少し呑気な事を考えていた。
早速始まった――如何にも何処までもイレギュラーズらしい、全く胡乱なやり取りはさて置いて、梅泉が依頼の為にローレットを訪れたというならば確かにここからが本題である。
紅梅に
色めき立つや
春の昼
こぼれる花の
薫りゆかしき
「お久しぶりであるなぁ、梅泉殿。息災であったであろうか?
吾はこの通りよ。くはっ、見れば練度が分かるというのは美少女の良い所であろう!」
一句口ずさんた『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)に、
咲く百合の
色付き匂う
春うらら
誇れどされど
早摘みを待ち
「見れば分かるが、余り煽るな」
百合子は満面の笑みである。
「センセーが依頼だなんて。明日は血の雨かな?」
怯えている者もおり、露骨に敵視している者も居る。
実際の所『半分以上は敵』であろう梅泉に酷く親しげに、どうしようもなく嬉しそうに。全身を華やがせるのは、身を乗り出した『恋桜』サクラ(p3p005004)も同じである。
「そういえば先日はどうも。またあっさり負けちゃって悔しいったらないよ、ホント。
……ここ、ちょっと痕になっちゃってるかも」
つ、と腹部を撫でるサクラは『何故か嬉しそう』である。
梅泉が「戯けめ。わしの技量を侮るな」と鼻を鳴らせば「そっか」と笑う。
痕も残さぬように殺しかけたらしいとくれば、これまた実に意味不明の関係である。
口にする言葉はどうしようもない位に物騒だが、雰囲気それそのものはまるで恋する乙女のようであり――実際にそれをそう呼ぶかどうかは知れないが――大多数の例に漏れず、そんな彼女は平素よりも一層可憐にその美貌を輝かせている。
「で、何の依頼? ま、センセーの事だからマトモな依頼のはずないよねー」
「梅泉さん、こんにちは! 今日はどんなご用件なの?」
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はそんなサクラの親友である。些か言動が怪しい時もなくはないが、彼女をとても大切に思っている綺麗な幻想種である。
(ぱっと頭に浮かぶのは切り合いでもしたいから人を用意したいからなんだけど……
まさかそんなことはないよねー! うんうん! 違うに決まってるし。
人は探求心には抗えないの! 悪気はないの! 当たってたらごめんね、レオンさん!)
はい、超合金。スティア・スタイル。
「夜のお仕事なら張り切って受けそうなお姉さんが多そうだけど。
血なまぐさいのはあんまり街中でやらないでよね」
「『その気』でなければ即刃傷沙汰になる訳でも無し。
時と場所を選ぶ程度には普通に話の出来る男です。
『今の所は』そう警戒する事でもないでしょう」
『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)の言葉に『月下美人』久住・舞花(p3p005056)が答えた。「読みが良いな、娘」と梅泉。
「ま、身も蓋もなく言えばそう難しい依頼ではないのじゃがな……
主等にはわしの『花見』に付き合って貰いたいのじゃ。
サリュー近くの街道に『血吸い』と呼ばれるそれは見事な桜がある。
特に夜桜が見事でな。わしは毎夜、酒を愛で、月を愛で、花を愛でる事にしておる」
「お酒!
……なぁに、冬は私からお酒に誘ったから今度は貴方からお酒に誘ってくれるの?
なんてね、こっちにも丁度いいお酒も手に入ったし一杯開けるのもいいかもねぇ。
『生憎私は切った張ったは得意じゃない、ちょっと嫌がらせが得意なだけのか弱い魔女っ子おねーさんだから……そっちのお望みはあんまり叶えられないけど』。
その分、飲みながら他愛もない話するのは得意なつもりよぉ?」
「……お花見?
おにーさんは月見酒かしら? 私にも飲める?
おにーさんはすっごく強いんでしょう?
どうしたらそんなに強くなれるのかしら。
そのくらい強くなったら、独りも怖くないのかしらね?」
「ニホンシュでしょ、あなたは」と冗句めいた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)、「ふふ、うふふ」と意味深に『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が微笑む。
聞く限り――そう、少なくとも字面においては極端な危険の臭いは感じない。
されど、恐らくフルールの嗅覚は正しい。
梅泉を知る者は概ねこの男が『そういう』言い回しを好む事を知っていた。
例えばアーリアにせよ、それを理解した上で言葉遊びを交わしているふしがある。
「それでな」
梅泉はたっぷり勿体をつけた後、そろそろとかと言わんばかりに話を続ける。
「三月幾日かは我が親父殿の命日なのじゃ。
まぁ、親父殿といっても碌な男ではない。我道邁進を極め、唯剣の道だけを追った唯の修羅よ。
とはいえ、わしが斬りたくて斬れなかった数少ない獲物であり、親であり、師でもある。
『桜』を前に菱の隆盛を見れば地獄の釜の底で親父殿も本望というものであろうよ?」
亡き父に捧ぐと言えば聞こえは良いが、酷い親孝行もあったものだ。
(ああ……これは、これはやっぱり。斬り合う相手の募集、とかなのでしょうね)
(やっぱり、絶対そのパターンだこれ! レオンさんごめん!!!)
口の端を歪める梅泉を見て舞花は、スティアは頭を過ぎった事実を確信し。サクラはもう既にソワソワソワソワもっと詳しくを聞きたそうにしている。
そして、もう一人。
「またあの殺人剣を『見たい』と思いながらその機を待ち侘びて。
まさかその本人が『依頼』だなんて――人生にはたまには素敵な事もあるものね。
別に依頼でなくても事と次第によってはお付き合いしてもいいのだけれど――」
基本的に物静かであり、傍らで目を閉じてやり取りを聞いていた『真昼の月』白薊 小夜(p3p006668)が彼女には非常に珍しく熱っぽく悩ましげな――何とも言えない吐息を漏らした。
「酔狂な娘じゃな。これでも切っ先を二度、三度と見せぬ事がほとんどなのじゃがな?」
梅泉の言葉は『殆どの相手は二度目無く死んでいる』という意味を持つ。
だが、小夜は「それでもよ」と艷やかに笑った。
「しかし桜ね、仮にお花見のお誘いなら桜もいいけれど。
『梅のハナ』を見せてくれても……なんて、ね?
きっと零れる梅は美しいでしょう、手折って自分の物にしたい程に!」
成否
成功
第1章 第3節
●梅泉の依頼III
寒空の
月夜に嗅ぎし
牡丹花
探し歩むも
香る松の末葉よ
「――と、いった所ですか。ふふ、正直を言えばこれは重畳。これは最良」
余り人だかりに近寄りたがるタイプではないから――梅泉の依頼については、耳をそば立てる風情だった彼岸会 無量(p3p007169)だが、彼の言を聞けば我慢が出来ぬも道理であった。
「日に日に色濃くなりゆくこの死臭。
命惜しくはあらねども、このままで終わる心算も御座いませんが……」
艶然と笑った無量は視線を向けた梅泉に続けた。
「然しだからと言ってこの機会を逃せる筈もなく。
女から男を誘うなど、恥も何もあったものでは御座いませぬが。
端なくもこの私にも一献、頂きたく。『お花見』の話、その続きを宜しくて?」
全く危険な男の近くには同種が集うものである。
呵々と笑った梅泉は「此度の夜は一人ずつ相手にする心算じゃ」と応じる。
「念のために言わせてもらうけど!
他の人ならともかく、わたしに勝負を仕掛けるとかやめてよね。
魔術師と剣士の違いはあっても力の差ぐらい分かるわ。
そもそもがお花見で斬り合えとか、供養に斬り合うとか訳わかんないけど!
一対一とかもうそれ本当に冗談にもならないわよ!」
サクラとか舞花とか小夜とか無量とか、もうその辺のヤバ気なおねいさん方はもうwktkがとまんねぇ、今日ローレットに来て本当に良かった!!! みたいな意味の分からないソワ感を隠せていないが、『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)の感性は連中に比べて至極真っ当である。
「花見は花見じゃ。
血沸き、肉躍る三月を納める為のそは式のようなもの。
そう心配せぬでも嫌がる相手に仕掛けるものかよ」
その理由は『面白くないから』に他なるまい。気安く戦え等とは言うが、そもそもこの死牡丹梅泉――幾度かのイレギュラーズとの対決、命の奪い合いにおいて唯の一度もその底を見せていない。
「お父様の命日が近いので斬りあう人が欲しい……でいいのかな?
あれ、ちがうかな?とりあえず斬りあいたい……のよね?
それならば、私も頭数にいれて貰えると嬉しいかな。
少しでも満足して貰えれば収まるの……かしら? それなら、うん」
「おうとも、主等はわしの依頼を受けるなり、唯花見をするなり、見届けるなり。
酒を一献傾けるなり、三月の寒夜に毛布にくるまりなり全て一切合切好きにせい。
誰を相手にするとは答えぬが、主が十分ならわしの切っ先もその気になろうよ」
口を挟んだ『ふんわりおねーちゃん』メアトロ・ナルクラデ(p3p004858)に応じた梅泉は「結果は保証せぬが、別に必ず殺すとも謂わぬ。幾人来ても良いが、わしが満足すればそれで終わりじゃ」と続ける。
「ただの花見――そんな平和な依頼で収まる訳ないですよね。あの夜もそうでしたし」
「依頼は花見。主な仕事は一対一でやりあう事。
相手が尽きるかあなたが疲れたらおしまい――要するにこういうことね……」
正負の感情入り交じり、何処かむすっとした調子の『斬城剣』すずな(p3p005307)。
尚更、顔を顰めた彼女に「然り」と頷いた梅泉にメリーは心から理解が出来ず頭痛を禁じ得ない。
「これは……何というか、貴重な」
「何だ、勿体をつけて。桜も梅も咲くのじゃない」
「せんせー、ちゃんと本気を出してよね!」
「ふふ、百花繚乱と相成りましょうか」
だが、ヤバ気なおねいさん方は得物の手入れを始めたり以下略。
(ああ、もう……!)
すずなは深く嘆息した。そわそわした面々を見やり、内心自分だってもっと素直に喜べれば、と割と真剣に嘆いている。もし――もし、である。姉の、伊東時雨の件が無かったなら。自分も間違いなくそのグループにいた筈だと自嘲する。嫌いか嫌いでないかと言えば嫌いではない。但し、素直にこの人斬りを受け入れ難い理由は余りにもハッキリしているのだ。
「死牡丹梅泉。数奇だな、この機会も。
しかし、何であれ、依頼というからには依頼主が誰であれ全力を尽くすのみよ。それが例え今までローレットの連中と何度も刃を交えてきた死牡丹であっても例外はない」
その強面と重いセリフに似合わぬクレープを片手にした『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)はペロリと唇(のクリームを)舐めた。
「……だが切り結ぶというのならばそれは高揚せざるをえまい。
赤き血の花、刃鳴散る宴に、刃鳴より団子などと無粋なことは言えまいよ。
こんな話をするのも何だが、この依頼――」
――至極、愉快よな――
一晃の言葉に頷ける者もいよう。
到底理解し難い者もいよう。
さりとてこの依頼は確かに、余りにも確かに。ある種の価値観を共有する者達にとっては、『日常という世界では余りにも触れるが難しい真に危険な武芸者に戦いの名乗りを上げる好機』に過ぎなかった。恐らくは梅泉は自身のその世界観をイレギュラーズに期待してここに来たに違いない。
話は分かった。始まりは明日の夜――日も暮れた七時。
訪れる者は戦ってもよいし、眺めても良い。唯、戦うならば『保証』はない。
「最後に一つ――良いですか?」
すずなは諦め半分の溜息で梅泉に問う。
「姉は――時雨は息災ですか……?」
成否
成功
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
並行でラリーをもう一本。
以下詳細。
●依頼達成条件
・死牡丹梅泉の『依頼』を完遂する
●何をするシナリオなの?
人斬りが依頼にやって来たので何とかしてあげましょう。
但し、貴方は『嫌な予感がしまくること』を選んでも良い。
恐竜並みの鈍感さでちっとも気に留めなくても構わない。
●第一章のシチュエーション
ローレットに死牡丹梅泉がやって来ました。
何でも彼は他らぬローレットに依頼をしたいというのです。ハートフルな会話や依頼の詳細を聞きだす等、ローレットを舞台にしたトークを展開してみて下さい。
●登場し得るNPC
・梅泉
・レオン
・ユリーカ
※レオンは万が一の為の『保険』という事で一応警戒してくれています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ラリーシナリオ
※報酬について
ラリーシナリオの報酬は『1回の採用』に対して『難易度相当のGOLD1/3、及び経験値1/3の』が付与されます。
名声は『1度でも採用される度』に等量ずつ付与されます。パンドラはラリー完結時に付与されます。
※プレイングの投稿ルール
・投稿したプレイングはGMが確認するまでは何度でも書き直しができます。
・一度プレイングがGMに確認されると、リプレイになるまで再度の投稿はできません。リプレイ公開後に再度投稿できるようになります。
・各章での採用回数上限はありません。
返却多分遅いです。
二章以降で難易度が上がります。
以上、宜しくお願いいたします。
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