PandoraPartyProject

シナリオ詳細

花見酒/月見酒

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●桜散る
 はらはら、はらはらと桜の花弁が散っている。
 幻想北部商都サリュー近くの街道には、余りに見事なその咲振りから『血吸い桜』の異名を持つ一本の桜が生えていた。
 曰く血を糧にしているだとか。
 曰く儚く散るその花は死者への手向けであるだとか。
 真偽は知れなかったが、その見事な一本は昔から変わらずそこにあった。
 傷付けようとする愚か者も居たとは聞くが――果たして、何かの祟りなのか、皆揃って不幸にあったという。尤もその話も、幾分かおどろおどろしいその異名も心なき誰かに樹を傷付けられぬよう、先人が流した逸話なのやも知れないが。
「『血吸い桜』よ。主は血を好んでおるのよな?
 では、今宵は幾分か――何時もよりは満足じゃろう?」
 空には煌々と輝く月。
 雲は無く三月の空気は澄み切っていた。
 瞬く星さえ数えられそうな夜に和装の男は――死牡丹梅泉は小さく笑う。
「主を歓喜させ、枝振りを、その花弁を彩るだけの色があろう?
 何、礼は要らぬ。こちらも主には『世話』になっておる故な」
『血吸い桜』の根元に座り、幹に体を預けるようにした梅泉はまるで瀟洒な美女にでも語りかけるかのようにそう言った。片手に持つ朱塗りの杯を傾ける彼は至極機嫌が良く――幻想的な風景は絵画的に美しい。まるで月さえ魔人と古木の風景を讃えているかのようだった。
「しかし、幾分か弱った。
 花に酒、月に酒。酒には肴も必要じゃが――
 喰らわば喰らい、斬れば斬ったで失せてしまうのが困りものよ。
 主にもっと咲いて貰うなら、仕込み直しも必要よ」
 はらはら、はらはらと桜の花弁が散っている。
「まこと綺麗よな――」
 嘆息した梅泉は花を愛でる。月を愛でる。酒を愛でる。
 噎せ返るような血の匂いの中心でまるで全く涼やかに、此の世の地獄を省みる事も無く。
『血吸い桜』の周囲には夥しい程の血液と、誰かの『残骸』が転がっていた。

●稀人来たりて
「やぶからぼうに構えるでないわ」
 その日、ローレットを訪れたのはイレギュラーズにとっては知った顔。大半にとっては二度と見たくなかった顔であり、またほんの僅かな一部にとってみれば焦がれて止まなかった顔であった。
「真昼間から堂々と。喧嘩の押し売りは御免だぞ」
「わしを何だと思うておる。こんな趣の無い場所で抜くものかよ」
 牽制球を投げるイレギュラーズに肩を竦めた梅泉はローレットをじろりと見回し「ふむ、初めて来たが悪くない」と小さく感想を漏らしていた。
「お前の悪くないは悪いようにしか聞こえないんだが」
「素直に褒めておるつもりじゃがな?」
「その心を言ってみな。正直に」
「中々斬り応えがありそう、じゃな」
 くっくっと鳩が鳴くような笑いを零した梅泉は満足そうに頷いた。
 人斬りジョークは余人に理解出来ないが、今のは冗談の心算だったのかも知れない。
「それで、何しに来た? クリスチアンのお使いか?」
 梅泉は稀に王都を訪れるという。
 それは多くはイレギュラーズの指摘した『クリスチアン・バダンデールのお使い』であるが、当然と言うべきか人斬りのお使い等というものは碌な属性を帯びていない。たまには平和な事もあるが、彼がやって来た前後で何処ぞの貴族や商人の死体が増えるのは『確か』である。
「いや、今日は個人的な用じゃ。それでここに参った」
「……どんな?」
「珍しい話でもない。今回はわしが『依頼』をしようかと思うてな」
 鋭すぎるその面立ちを愉悦に歪めた梅泉にイレギュラーズは答えを悩んだ。
 ここはローレット。混沌に冠たる、混沌一番の何でも屋である。
 確かに彼が依頼人だというのなら、断る理由は無いのだが――

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
 並行でラリーをもう一本。
 以下詳細。

●依頼達成条件
・死牡丹梅泉の『依頼』を完遂する

●何をするシナリオなの?
 人斬りが依頼にやって来たので何とかしてあげましょう。
 但し、貴方は『嫌な予感がしまくること』を選んでも良い。
 恐竜並みの鈍感さでちっとも気に留めなくても構わない。

●第一章のシチュエーション
 ローレットに死牡丹梅泉がやって来ました。
 何でも彼は他らぬローレットに依頼をしたいというのです。ハートフルな会話や依頼の詳細を聞きだす等、ローレットを舞台にしたトークを展開してみて下さい。

●登場し得るNPC
・梅泉
・レオン
・ユリーカ

※レオンは万が一の為の『保険』という事で一応警戒してくれています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ラリーシナリオ
※報酬について
 ラリーシナリオの報酬は『1回の採用』に対して『難易度相当のGOLD1/3、及び経験値1/3の』が付与されます。
 名声は『1度でも採用される度』に等量ずつ付与されます。パンドラはラリー完結時に付与されます。

※プレイングの投稿ルール
・投稿したプレイングはGMが確認するまでは何度でも書き直しができます。
・一度プレイングがGMに確認されると、リプレイになるまで再度の投稿はできません。リプレイ公開後に再度投稿できるようになります。
・各章での採用回数上限はありません。

 返却多分遅いです。
 二章以降で難易度が上がります。
 以上、宜しくお願いいたします。

  • 花見酒/月見酒完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別ラリー
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2020年04月19日 19時57分
  • 章数2章
  • 総採用数48人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

●花見酒

 ――あの跳ねっ返りめ、稽古をつけてやると言えば命知らずに向かいよる。
   本当に我ながら最悪の選びを進めたものよ!

 すずなの問いに呵々大笑した梅泉はかくてローレットへの『依頼』を終えた。
 約束は翌日の夜七時以降――場所はサリュー近くの『血吸い』桜。よくよく調べれば『こうなる前』に既に現場で辻斬り事件が頻発している事はすぐに知れた。梅泉からすれば『面白くない相手』に業を煮やしての依頼だったかも知れないが、その異常性はつくづく際立つ。
「ふむ、主か」
『血吸い』に背中を預け、腕組をした梅泉が片目だけの視線を寄越した。
 悪趣味なイレギュラーズは恐らくは次々とこの現場に来るだろう。
 梅泉が何人を相手にするかは知れないが、やるならば早い方が良いと考える者も多かろう。
 彼の殺人的な技量、その最高を見たいと思うなら『疲れていない方が余程良い』。
 尤もその思考自体が大なり小なり『逸脱』である事は疑う余地もないのだが――
「話は分かっておるな? 聞いての通りじゃ。
 主はわしとやり合う。それは花見であり、依頼であり、供養である。
 殊更にとどめを刺そうとは思わぬが、死んでもそれまでと思えぬならば今夜は不適ぞ?」
 梅泉が『親切』にそう告げるのは依頼を受けてくれた事への感謝か、それとも『絶対に見たくないものを弾く為』の自衛か。知れないが、兎に角はそういう事だ。
「では、そろそろ――精々ゆるりと始めるか」
 梅泉は『血吸い』より背を起こし、月下に佇む。

 満ち咲くも
 一夜の晩の
 艶桜
 刃鳴散る先に
 色ぞあるかな

 妖刀の切っ先は目の前の酔狂な客をねめつける。
 素晴らしきかな、花見酒。『血吸い』桜に紅(ち)ぞ零れん――


※補足

●成功失敗について
 戦わない場合は便宜上必ず『失敗』になります。
 戦った場合は何か特殊な場合は『成功』が有り得ますが、基本的に『失敗』します。
 リソース的には適当だと思うので『そういうもの』とお考え下さい。

●死牡丹梅泉
 月下の剣士。人斬り。
 サリューのクリスチアン・バダンデールの食客で用心棒のようなもの。
 妖刀『血蛭』を扱うバトルマニアです。
 本件、彼と一対一で戦いますが、とても勝てるレベルではありません。
 主に戦う事それ自体がメインのシナリオと考えて下さい。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 実際に戦うのは『戦っても死傷率がある程度下がる』相手のみとします。
 戦わない場合でも見届けるとか、仲間が心配とか、お花見するとかでもOKです。
 採用するかどうかはバランスによります。
 梅泉が疲れたら終了しますのでご注意ください。


第2章 第2節

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標

●一番速い奴(一番手)
「これは謂わば私闘です」
 僅かに夜桜の枝を揺らし、花弁を舞わせた『風』に梅泉は目を細めた。
 一番手――先陣の誉れは、やはりそれを至上の価値に置く『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)にこそ微笑んだのだ。
「ここを訪れるイレギュラーズは貴方を『依頼』を受け、望んで刃を交わすのでしょう。
 そこに横槍を入れる意味はなく、意義はない。
 誰も強制はされず、誰もそれを厭うてはいないのでしょう。
 理知的に考えればここで貴方と戦う意味は全くない……」
 アルプスの言葉に「然り」と梅泉。
「脅しの一つもくれてやるは効果的だったかも知れぬがなぁ。
 わしも酔狂なれど、主等もそう『変わらぬ』わ。
 その手間さえ省いてやり合うというならば、無粋に言葉を増やす必要もあるまいて?」
「そう。『だから、私闘です』。
 僕が関わる事もないんですが、イレギュラーズが死ぬ可能性があるとしたら話は別です。
 その可能性を少しでも減らす為に、『そちらにも付き合って貰います』よ」
 理屈はどうあれ、経緯はどうあれ。
 ことこの期に及べば血吸い桜の樹の下で『つまらぬ相手』に成り下がる心算は毛頭無い。
(僕には抜き打ちの速さしかない。
 戦うならそれを出し切らないなら『手を抜いた』事になる。
 だから真っ先に、最短で、彼が知覚するより速く一撃を与えて……
 あわよくば、後の味方が楽をできる事を祈るしかない。
 全力の彼と戦いたい皆さんには申し訳ないですけどね――)
 不器用なアルプスに真っ当な手札はない。
 出来る事は少なく、叶う確率も高くはない。されど、磨き上げた一は圧倒の高みに登る目の前の男にさえ通ずるだろう。唯、雷撃の如く――この梅泉よりも先に動き、全力全霊馬鹿げたまでに愚直なる一撃をその刹那に差し込むのみ!
 風の神の息吹を成し、その撃鉄は上げられた。
 瞬時に絶後の加速を見せたアルプスは目を見開き、その目標だけをねめつける。
 音さえも置き去りにして、叩きつけられる暴威には確かな手応え。
「この猪武者め。大概に刹那が過ぎるわ!」
 間近で聞いた呆れ交じりの一喝は愉悦を含み、風鳴の刃の気配と共にアルプスの視界は暗転した。

成否

失敗


第2章 第3節

黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃

●攻め達磨でやべぇ奴(二番手)
「桜は儚いからこそ美しい。
 古来より人の目を、寂寥の心を魅了して止まなかったのは――何ら不思議な話ではない」
『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)の言う通り、一夜散るその美学は永年の想いを勝ち取るにさえ相応しかったと言えるだろう。長くもたぬは痛恨、されど長くもたぬからこそのこの桜――
「月の下にて花吹雪ならぬ血飛沫を供養とは、いい趣向をしている。
 くく、この好機をくれた返礼だ。貴様の父君を楽しませられるようには努力はしよう。
 昂る刹那の為ならば魂すら閻魔にくれてやる。その位が俺には丁度いい――」
 二人目、構えを取った一晃の視線の先にはこちらはゆらりと妖刀をぶら下げたままの梅泉が居る。
 紙一重の差で『一番手』を譲った一晃は梅泉が手傷を負っているのを確認し、『自分よりも酔狂な打ち上げ花火』に苦笑した。彼の刃も先陣と同じ事。幾ばくか毛色こそ異なるが、二の太刀要らずの――というより二の太刀中々迎えられない――示現の如き必殺である。
「また、続け様に――面倒なのが来たものよ」
 恐らくは一晃の事も知っているのだろう。
 梅泉は腰を低く落とした彼に対して感嘆のような呆れのような、何とも言えぬ感慨を漏らしていた。
 悪鬼羅刹の如きこの剣鬼、次から次へと捨て身で一撃見舞うような邪剣共に絡まれる事等滅多にない。
「邪魔もなく二人舞台で刃を交えられる事に感謝しよう。
 嗚呼、真打を前にして俺の贋作も飢えている――」
 独白めいた一晃の声はこれより始まる『刹那』への予告のようなもの。
「墨染鴉、黒星一晃……一筋の光と成りて、死色牡丹色の刃鳴散らす!」
 吐き出された裂帛の気合と共に一晃の姿が消える。
 地面に焼け焦げさえ作り出した彼の一歩は抜群の速力膂力推進力を猛烈なる大跳躍へと変え、『偽』を号した妖刀に持てる全てを注ぎ込む!

 ――ギン、と。

 甲高く怖気立つように刃と刃が泣き喚く。
 彼方、鍔迫り合いの向こうには「中々の打ち込みじゃ」と涼やかなる梅泉の顔。
 此方、一晃は歯を剥き出し獰猛なる笑みを見せている。
(奴の本気を引き出させるには至るまいが、この一太刀にて貴様を超えてみせる。
 戯れに生き延びれば、今度こそ貴様の本気を超えてやるのも悪くない!)

成否

失敗


第2章 第4節

武器商人(p3p001107)
闇之雲

●果てしなくめんどくせぇ奴(三番手)
 血生臭い現場には何処までも似合わない和気藹々とした風情が漂う。
「や、依頼(あそび)に来たよ死牡丹の旦那――」
 全身から溢れ出る好感を、『遊びにこれた満足感』をまるで隠さない、隠せない――黒衣の剣士を退けた梅泉の前に三番手として現れたのは出迎えた彼をしてやや辟易した顔をさせた、他ならぬ『闇之雲』武器商人(p3p001107)その人であった。
「主も飽きぬな」
「ヒヒ、商売人ってのはね。粘り強いモンなのさ」
 この二人、やり合った回数は恐らく一番多い。
 梅泉からしても『殺せなかった回数』については一番だろう。
 向けられた水に肩を竦めた武器商人は続ける。
「キミにとって今の我(アタシ)は、終始キミを疲れさせるだけのモノだから大変心苦しく思うが……
 こんなに月も桜も綺麗なのにキミと遊ばないなんて勿体ないだろう?
 ま、可愛い小鳥もいることだし意地でも生きてるさ。
 キミの場合、『上手くいかない方が案外喜ぶ』かも知れないしね」
 丁々発止のやり取りも十分に手馴れている故か。
 本人は「疲れさせるだけ」と嘯くが、マギ・ペンタグラムとルーンシールド――それぞれ物理と神秘の猛攻に対して無効化という防御の適解の一つを備え、泥仕合こそを得手とする武器商人は先の二人に増して『面倒極まる相手』である事に間違いはない。
 だが、如何なこの武器商人と言えど、一つの油断も出来ぬのが目の前の男である。
 数多、切っ先を見てきたから『知っている』。
「長い付き合いじゃが――そろそろ死んで貰うのも悪くはないか」
「期待してるよ。『今度こそ』は」
 言葉は半ば本気で半ば冗句だ。
 さりとて、宣告に意味がないとは思わない。到底、全く思えない――
「――――」
 疾風の如く踏み込んだ梅泉がその刃を一閃、否。三閃する。
 武器商人に降りかかったのは確かな死のイメージだが、その不死性はそれでも彼を縫い留める。
「最初からやってくれるじゃないか」
「主相手に出し惜しんでも意味はあるまい?」
 目前で『死』が復元される光景に梅泉は嘆息し、武器商人は喜色満面を見せた。
「我(アタシ)はキミに絶対勝てないが…
 負けない、まで持っていけたらそれはとても素敵なことだと思わない?」
『我らが隣人の眼差しは慈悲深くーーそして狂気を齎すもの』。
 成る程、銀の月は煌めき、武器商人は相変わらず――彼の戦い(ゆうぎ)を始めるばかりだった。

成否

失敗

状態異常
武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲

第2章 第5節

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者

●運ゲー万歳な奴(四番手)
 噎せ返るような血の匂いにも、その平静は崩れない――
「和歌の嗜みは無くてすまないな」
 ――肩を竦めて嘯いた『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は今、まさに四番手として梅泉の前に立っていた。これまでに斃された者には良く知る友人も居る。されど彼もこの惨状を前にしても挑戦を選んだ数奇者である。
「何、気にするでない。わしの歌は癖のようなものよ。わしは『育ちが良い故』な」
「同じような郷里の育ちに思えるが……
 生憎こっちは不作法な育ての親でね。その代わり剣の腕はあんたと似たような化物だったけど」
 梅泉の冗句にクロバが涼しく応じた。
「だから試させてくれ――いや、尋ねるも愚問か」
 問いながらクロバはその無意味さに軽く笑った。
『化け物』と称された育ての親の一言にその柳眉がぴくりと動くも、今は目の前の相手――花見が先決と思い直したのか、梅泉は抜身の妖刀をゆらりと向ける。
 ぴたりと止まった殺気の指しそのものが「応」の返答に違いない。
「俺の二刀とその剣聖の技『無想刃』……その模倣。
 こちとら、力量の差を理解できない程ボンクラでないつもりだが――今届くかは問題じゃない。
 やがて来る時、何れ来るその時に。高みを昇るその為に――新たな境地に至る為にも。
 胸を貸して貰おうか、死牡丹梅泉」
 ガンブレードとガンエッジ――『正統派の邪剣使い』からしても大いなる邪道こそ、クロバの得手、クロバの戦い方である。今まさに迫る刹那の幕開けにクロバはもう一つだけ注文を足した。
「――唯、あんまり油断しすぎないで欲しいな。
 生憎と俺だってずっと炉端の石ころで終わるつもりはないんでね!」
 梅泉の姿勢が落ちる。
 地を蹴る音が連続し、彼は馬鹿げた速度で間合いを奪う。
「キェェェェェェェェ――ッ!」
 猿叫にも似た気合と共に放たれる斬劇は『見て見られるものではない』。
(ああ――そうだ。分かってる。分かってるとも、これは勝負なんかじゃない。
 これは運だ。紙一重の博打の繰り返しだ)
 だが、クロバは数閃放たれたその悉くを直感だけで回避した。
(だが――)
 己が魔力を練り上げ、大気中に散らばる生命エネルギーを得物に集める。
 クロバは前のめりに間合いに飛び込んできた梅泉の姿をきっと見据え、爆速で生み出された残像と共に邪を祓う光の斬撃を――その『初見殺し』を叩き込まんとした。
「――アンタを相手の運否天賦は、研いで磨いた結果だぜ!」

成否

失敗

状態異常
クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
深緑の守護者

第2章 第6節

セララ(p3p000273)
魔法騎士

●戦闘民族みてぇな奴(五番手)
 人を形作る価値観は、人の作り出した世界観は様々だ。
 何を良しとし、何を悪しきとするか――何を先に置き、何を後に置くかは千差万別。似ているか近しいそれがあったとしても完全な一致等望むべくもない。
「実際の所、ボクは戦いで友情を育てるっていうのもアリだと思うんだよね」
 五番手、梅泉の前に立った『魔法騎士』セララ(p3p000273)はその価値観、その生きがいから『戦闘』や『強さ』を切り離さない生まれついての『戦士』である。
「剣を交えてこそ見えることもある……って漫画でやってたし。
 そういうの結構憧れなくもないかなって。
 んー、だからね! というワケで、ボクが勝てたら梅泉さんはボクのお友達ね!」
 さりとて、梅泉をまさに今苦笑させたその言の通り――彼女の世界には戦いに付き物ともいえるドロドロした感情、命のやり取りそのものに対しての畏怖や執念がまるで感じられない。

『ただ戦う為に戦う』――

 カラッとした青空の如き世界観は恐らくは梅泉のものと似ているようでまるで違う。
「……わしが勝ったらどうする心算じゃ」
「ボクが負けたら? うーん。今度、ローレットのランチを奢ってあげる!
 また遊びに来てね! よーし、頑張るぞー!」
 一方的に告げるだけ告げて腕をぶしたセララに梅泉は本日幾度目かの溜息を見せた。
 ローレットの魔法騎士――セララの名は知れている。外部からすればローレットでも指折りの『武闘派』と認識される彼女は『ゆるい』その雰囲気とは裏腹に質実剛健に叩き上げた見事な剣のようである。
(……さて、これまでのとは少し違う厄介か)
 さしもの梅泉でも一太刀で仕留めるには難しい相手である。
 じわりと間合いは詰まり、鋭い呼気が吐き出された。
 当然の如く先手をとった梅泉の切っ先にパラパラと鮮血が飛ぶ。
 傷に構わず赤い瞳で猛撃を振り切った剣士を見据えたセララは怯まない。
(打たれたら、打ち返す――!)
 一歩も譲らず、痛みにもむしろ踏み込んで高められた集中力のままに渾身の十字斬――セララスペシャルを繰り出した。
「一発同士――いや、もう一発いくよ!」
 負けず嫌いは更にもう一歩を踏み込んだ。
 セララの武器は安定感、安定感だけに非ずそこに手数をも足した彼女は、
(ボクは――勝ちたい。ボクは、勝つ!)
 無理と言われて諦める程、まだ大人にはなりきれない――

成否

失敗

状態異常
セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士

第2章 第7節

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

●そろそろ趣が出てくる奴(六番手)
 心は静かに、月映す水面が如く。
 紡ぐ声は、ひどく静かに――これ即ち明鏡止水の境地なり。
「死牡丹梅泉。一手だけ、手合わせ願えるか」
 桜の花弁が舞う夜の風景に返り血を浴びた魔人が佇んでいる。これまでにもう何れも強力な五人ものイレギュラーズとやり合い、未だ余力を十分に残すその姿は悪夢めいて美しい。
 決して手傷も消耗も無い訳ではないのだろうが――『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は仲間の誰かが言ったある言葉を思い出して納得した。

 ――梅泉は追い込まれる程、戦い続ける程に強くなる――

「次は主か。態々赴いたのじゃ。愉快な芸の一つも見せるのであろうな?」
「期待に沿うかは知れぬがな」
 何故、こんな場に赴いたかと問われれば簡単だ。

 ――今、私は『何処』にいるのか?
   五里霧中、険しき峰の頂はまるで姿を見せず。
   武は迷い、技は惑い。なればこれは其を見極める為の、無二の機会に違いなく。
   彼奴めは物差しで、大海の地図。
   ならば、示すべきは全てを掛けた殺気か――否。
   一手に乗せるは、我が道そのもの、其の全て。
   この刃は果たして届くのか。『我が道を以て、語り合えるのか』。
   神仏への問い掛けにも劣るまい――

「わしも大層に見られたものじゃな」
 敢えて語るに落ちる事はない――そんな汰磨羈の顔(かんばせ)から何を察したのか。
 鳩が鳴くような声で軽く笑った梅泉は決意滲む彼女に告げる。
「かかってくるがいい。但し、老婆心でわしが一つ説教でもくれてやろう」
「……?」
 怪訝な顔をした汰磨羈に梅泉は告げる。
「『一手』等と。そう言うようでは主の望みは叶わぬぞ?」
「――――」
 奇妙なやり取りは奇妙な親しみさえ交えて言葉を紡ぐ。
 抜身の殺気をぶつけ合い、数瞬の後には殺し合いしか待たぬのに。
 間違い等有り得ないのに――それだけは確かだった。
「ご忠告痛み入る。
 厄狩闘流、初代師範。仙狸厄狩 汰磨羈。
 我が陽、我が陰。全てを擦り合わせ、太極を成してこの死地へと――推して参る!」
 選ぶ一手は残影百手。
 煌く陽の刃、忍ぶ陰の刃。
 天地六方、斬撃刺突に撫で打ち払い。
 会得した全てを一として放つ刹那の連環――即ち、仙狸厄狩 汰磨羈。我道全ての顕現也!
 打ち合いは刹那の数度。
 横薙ぎの一撃に崩れ落ちるは白装束。
「――まさに、御美事」
 血を零した女の唇は満足気な微笑みを浮かべていた。

成否

失敗

状態異常
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)[重傷]
陰陽式

第2章 第8節

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

●今日はシリアスな芸人の奴(七番手)
 酸素に触れれば黒に染まる鮮血は、散り急ぐ桜花にも似ている。
 一夜限りの大供養と梅泉が嘯く戦いは『血吸い』の異名を持つ夜桜が満悦する程に、周囲を鉄分の薫りに染め上げていた。
「次は主か。流石に此度の話では、見た顔も多いようじゃ」
「やはり――と言うべきか。
 貴方は仕合い相手が欲しかっただけ――のようですね」
 未だ意気軒高、やる気十分の梅泉の前に立つイレギュラーズ側の七番手は『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)。
「それは良しとしても、既に辻斬りをした後とは……」
「わしのやりようなぞ、幾つも無かろう?」
「ええ、そうでしょうとも。
 しかし、この国の治安を守れないのは騎士として悔やむべき事だ。
 ……貴方に最初からローレットに来れば良い、と思わせられなかった事は」
 生真面目に愚直に誰ぞ為の騎士を貫くリゲルにとってはどうしても痛恨に違いなかった。
「主の生き様も大概に『損』な性分よなぁ」
 呆れたように、軽やかに笑う梅泉は「では、構えよ」とリゲルに妖刀を向ける。
 彼一流のやり口を思えば「その願いは腕でこそ叶えてみせよ」といった所か。
 攻めに出る梅泉は獣の如き獰猛さと危険性を如何なく発揮する――妖刀が赤く煌めき、リゲルはまず死力を尽くして『見えない斬劇』を凌ぐに全精力を注がざるを得なかった。
 しかし――
「――『損』等と思った事はありませんよ」
『死力の聖剣』は如何な刃の瀑布を受けようとも決して折れない。
「どれだけ不器用でも、天がどれ程の試練を望もうとも。
 もっと強くなりたい。正義を叶えるには力が必要なんだ」
 かつて父が叶えられなかった理想の為にも。
「魔種から与えられる力ではない、歪んで折れたそれでもない。
 唯、剛健と場数や経験や執念で――己を磨いた末に得られる力でなければ。
 巨悪には立ち向かえる訳がない」
 自身に縋る誰かの為にも、愛する人の為にも。
「――貴方を、貴方でも! 乗り越えてみせます!」
 銀閃を纏ったリゲルの銀冠が僅かに逆立った。
 同時に至近距離で迸ったのは彼の渾身の一撃だ。
 罪業が服を着て歩いているような男の間合いに、静かなる断罪の斬刃が食い込んだ。
 紙一重で受け止めた妖刀の刃を押し込み、その端正な顔を幾ばくか歪ませる。
(一手、次の一手へ。『届かせるべく』振るう。振るい続ける――だから、届けッ!!!)
 ――リゲル・アークライトの理想は手を伸ばしても届かない星。夜空に瞬くシリウスの如く。

成否

失敗

状態異常
リゲル=アークライト(p3p000442)[重傷]
白獅子剛剣

第2章 第9節

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽

●幕間
「花見……花見、か。
 ……私が知っている花見とは大分異なるが……
 ……………うん、世の中にはこういう事もあるのだろう……」
 余りに見事な夜桜を見上げ、『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)が呟いた。
 死牡丹梅泉の『依頼』を受け、彼の花見――或いは父の供養――に付き合う、物好きなイレギュラーズは結構な数に上っていた。ポテトは一対一で斬り合うようなタイプではないから、少し離れた場所で専ら『花見』をしている状態ではあったが、
(これが依頼なら、私は成功するように――悪い事が起きないように。最善を尽くすだけだ。
 一対一の戦いの最中に邪魔は出来ないけど、終わった人の回復なら)
 その実、この現場においてポテトの存在はある意味で誰よりも重要だったかも知れない。
 梅泉は宣言通り『殺す気で刃を振るい、止めは積極的に刺しに来ない』。通常の戦士ならば軽く何度も死ねている結果は間違いないが、良く言えば運命に愛され、悪く言えば圧倒的にしぶとく生き汚いイレギュラーズは成る程、恐らくは彼の期待した通りこれまで命を落としたような者はいない。
 しかしながら一方で傷付いていないかと言えばそんなものは愚問なのだから、癒し手としてアフターフォローに回るポテトの忙しさはとんでもない状態なのだった。
「……うーん、参考になるな」
 そんなポテトをチラリと眺め、『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)が声を漏らした。
「今のなら――ギリギリ、避けれる範囲かなぁ。
 ……いや、あそこからもう一歩伸びたな。逃げ切れるかどうか」
 カイトが今まさに眺めるのはリゲルと梅泉の死闘であった。
 受けに優れ、並々ならぬ決意で挑むリゲルは梅泉を相手にしても比較的長い戦いを見せていた。
 カイトがポテトの様子を伺ったのは勿論、ポテトが見てられないとばかりに顔を赤くしたり青くしたりとても忙しい状態だからである。
「……やっぱ強いよな。全く規格外だぜ」
 未成年だから――酒の代わりにジュースをちびりとやりながらカイトは感嘆した。
 目前の戦いに自分を重ね、やるならばどうするかと考えた。
 変幻自在の邪剣の切っ先から逃れるのは容易くあるまいが、回避こそカイトの全てを表す得手なれば、これをどう凌ぐか、攻略するか、遅延するかは考えるに相応しいテーマである。
「大丈夫だよ」
「……ほ、本当に大丈夫だろうか?」
 ハラハラと不安気なポテトを見ていられず、カイトは一つ頷いた。
 リゲルは強い。梅泉にしては攻めあぐねているのだからそれは間違いない。
「次は――俺が行くか」
 この雰囲気に呑まれたら負けだが、戦うのはやぶさかでもないのだ。
 リゲルに続きたっぷりと梅泉を苦労させ、余力の一つでも削いでやる――それがカイトの戦い方なのだから、やってやれぬ事は無い。

 ――燕は剣士じゃ落とせないっていうけど、燕より早い俺でも斬れるのか?

 そう問うたら梅泉はどんな顔をするだろう?
 カイトはそれを想像して不敵な笑みを見せていた。

成否

失敗


第2章 第10節

彼岸会 空観(p3p007169)

●やべぇおねいさんの奴(九番手)
「幾分かお疲れのようで」
 ひらりひらりと死線を舞う――何とも厄介な『羽(カイト)』を捕まえた梅泉に声を掛けたのは美しい女――彼岸会 無量(p3p007169)だった。
「何、言う程でもない。主を数回殺す程度の余裕はまだまだある故な」
 何とも物騒な丁々発止に「ほほ」と笑う。
 桜の下での決闘に何とも似合いの無量は梅泉と同じく大太刀を備えている。
 剣戟を高く鳴らすなら、何とも似合いのその相手に自然と梅泉の口も滑らかになる。
「そうして煽る位じゃ。よもやつまらぬ時間を見せまいな?」
「無論、その心算ですとも。故に私から問いを一つ。
『自分を斬れると思っているのか』と私に問うたあの夜を憶えていますか?」
 剣士は剣士との宿縁を繋ぐものなのかも知れない。
 無量の如き危険人物が、梅泉と出会ったのも偶然のような必然と言えよう。
「それで?」と顎で続きを問う梅泉は仕草で言葉を肯定し、無量を促す。
「斬れませんでした」
 艶やかなる花が満開に咲く。
 にっこりと笑った無量は場違いに華やかで場違いに美しい。
「あれから幾夜幾日、幾度となく貴方との逢瀬(ころしあい)を思い描き、ついぞ一度も。ええ、一度もです。私の刃がその身に届く事は御座いませんでした。
 夢幻ではない貴方は更に上をいくでしょう。妄想めいた想像なぞ、まさに一蹴するのでしょうね。
 だから――だからこそ私は嬉しいのです」
 鬼渡ノ太刀――妖を失った大太刀を構え、無量は微笑(わら)う。
「――改めまして、性を彼岸会名を無量。剣の修羅道を望む者、いざ勝負」
「責任重大じゃな。幻影なぞに敗れては死牡丹梅泉の名が廃る」
 無量の言いようは『興』そのもの。
 飛び出した梅泉は一部を除いた――大半の相手と同じように敵の先を取る。
『疲れ』など殆ど見せず、冴え渡る技は彼が戦う程に強くなる事を告げていた。
「……っ……!」
 後方に飛び下がりながらこの威圧を受けた無量の唇が血を吐いた。
 梅泉の技量はその彼女を一気に仕留めんともう一撃を見事見舞う。
 元より受けに優れぬ彼女が防げるような攻撃ではない。
 なればこそ、彼女は。『受けと攻めが切り替わるその瞬間だけを待っていた』。
(届かない? 其れで良い、其れが良い。
 彼の刃が見えずとも良い。反応出来ずとも、迫る刃に身を寄せて……
 その位は出来ましょうや。元より、長く続かぬというならば――)
 伸びてきた刃を迎え入れるように腹に妖刀を抱いた女は凄絶に笑む。
「梅花を我が身に一輪挿し、さながら活花の様で」
 深すぎる間合いは梅泉にとっても幾分かの誤算か。
 嘯いた彼女の上段からの斬撃は受け損ねた梅泉の血を散らす――

成否

失敗

状態異常
彼岸会 空観(p3p007169)[重傷]

第2章 第11節

冷泉・紗夜(p3p007754)
剣閃連歌

●やべぇおねいさんの奴II(十番手)
 戦の花を見て、散り花と詠う――
「これぞ文字通りの死合い。設えの十二分な大舞台ではありませんか」
 月下、桜、魔性。匂うは酒、臭うは鉄分。誰がどう見ても踏み込んではならない領域で、誰がどう見ても『風韻流月』冷泉・紗夜(p3p007754)は場違いな満足感に浸っていた。
「ローレットには随分と酔狂が多いようでな。
 主も含め――どうもわしを本気で倒す気の者が多いようじゃな」
「――故に、満足でしょう?
 命を賭して戦うのは、何処まで行っても士の本懐。
 それが戦狂い、剣鬼の類いでも――強さと思いに、その鋭さに正邪はありません」
「然り」
 笑う梅泉の着物には袈裟懸けの傷がある。
 その向こうで滲む血からも、本人の態度からもそれがどれ程の手傷を読むのは難しかったが――一人前が無茶をした結果である事は知れている。同時に如何な無双とはいえ、それは梅泉が傷付く事も消耗する事もある存在である事を告げている。
「一歩も十歩も、果たして百歩も。足らぬ私は、詠いましょう。
 斯くも素晴らしき花見酒。ならば、月見酒との返歌もまた……」
 紗夜は、折り目正しく、死合うもの達の名乗りを読む。華やかに、絢爛に、或いは傾くように。
「……無粋でしょうか?」
「いや」
「いいえ、剣の道を穢す無礼かもしれぬのですが」
「それも違うな。美しきを愛でるは風流。
 剣は剣、『それはそれ』故な。わしとて悪鬼羅刹、修羅邁進を自負しておるが――
 人生はそれだけでは些か長い故にな。
 娘、わしは牛飲馬食――美しきを食らい、美しきを斬るとしよう」
 やり取りは瀟洒であり、同時に何処までも物騒だった。
「成る程、雅な様としたのです。ならば、その筋、通しましょう」
 迫り来る梅泉の切っ先は魔獣の顎のよう。
 目を見開いた紗夜は己を喰らい、己を斬ると宣告した『それ』を焼き付ける。
 何れ越える天峰と、今は切っ先見据え――
「――花と刃の散り様、これも次へと語り継がれる美となりましょうや!」

成否

失敗

状態異常
冷泉・紗夜(p3p007754)[重傷]
剣閃連歌

第2章 第12節

久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏

●やべぇおねいさんの奴III(十一番手)
「見事な桜。この世界にもこんな場所があるなんて」
 長い黒髪、涼やかなる切れ長の瞳。
 幾分か『混沌風』の和装に似合う流麗なるその美貌――
「――妖気すら漂うようなこの美しさ。
 明るい内に見るには些か似合わない雰囲気かもしれないけれど……
 月下に見るこれはとても……綺麗。成る程、全く風流だわ」
 嘆息する『月下美人』久住・舞花(p3p005056)を眺め、一息を入れた梅泉が目を細めた。
 幾ばくか長い付き合いの中で、飲み交わした事もある二人である。
「主も変わらずのようじゃな。わしを前に随分と静やかなる事よ」
 大方の予想を外さず、舞花はこの機会を逃さず。自身の予想通りのこの邂逅を梅泉は愉しむ事に決めていた。花やら月やら愛でるその通りに――この男は『硬質で美しいもの』を好む性質もある。
「侮っている訳ではないのよ。
『花見』で刃を交える『供養』と聞いて、なるほど、と最初は思ったけれど……
 ……これ程のものなら、これ以上なく納得というもの。
 それだけの舞台で貴方が相手なら、剣を握る者の何処に不満がありますか」
 風が吹き、また花弁が散る。
 桜吹雪の中向かい合うのは、片や妖刀をぶら下げる邪剣士。
 片や秘蹟の聖刀をピタリと構える――邪道ならぬ破邪の女剣士である。
(――嗚呼、むしろ安心すら感じる)
 戦いに向かう呼吸が舞花の中で嫌になる位に落ち着き払っていた。
(死の匂いと景色の中で、死牡丹の剣……心奪われるあの銀閃の煌めきを見れるかと思うと。
 ……柄ではないし人に言えたものでもないけれど)
 鼓動は早鐘を打ち、高揚は世界を色鮮やかに染めていた。
 誰よりも相手を理解しているのに畏れは無く、震えも無い。
 舞花はそれを『逸脱』と理解しながら、己を律する事が出来ていない。
 鏡を見たなら自分がどんな表情をしているか――推測出来てしまう事に内心だけで苦笑する。
「尋常に、存分に愉しむとしましょう――いざ!」
「上げた腕を精々見せよ。その首、まだ獲りたくは無い故にな!」
 玲瓏たる舞花の声と肝胆寒からしめる梅泉の宣告はほぼ同時だった。
 目前の邪剣士が踏み込みだけで『消えて』見せた。
「……っ……!?」
 殆ど直感で――幾ばくかは技量の成せる技だった。
 舞花が縦に構えた太刀が硬質の剣戟を響かせた。
「ほう、中々。それを受けるか!」
 吠えた梅泉の斬撃は二連、三連止まらない。
 極限の集中を見せた舞花はこれを数度弾き、早鐘の鼓動に突き動かされるように次を『返す』。
(嗚呼、嗚呼! 何処まで彼の剣を引き出し、迫れるものか――!)
『柄にもなく』。
 幾多の残像さえ夜に残した舞花の無数の剣が影と襲う。
 永き刹那の果し合いは始まったばかりだった――

成否

失敗

状態異常
久住・舞花(p3p005056)[重傷]
氷月玲瓏

第2章 第13節

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

●まずそうな箸休めのおっさんな奴(十二番手)
 月下の、桜下の死合いは続く――
 これまでに倒されたイレギュラーズは十一人。一方で涼しい様だが、藍衣を黒く染めた梅泉とて、それが返り血なのか、己の出血なのか分からない程度には傷んでいる。
「ハッ! ……いいじゃねぇか。ああ?」
 激しい消耗戦の様相を呈する『花見』で次に現れたのは――幾分か疲労の見える梅泉にとってはかなり厄介な相手だったと言えるだろう。
「おめえみてえな奴に目ェかけてもらえるたあ、最高だ!
 ちったあこのグドルフさまの名が売れてきたようだなあ!?」
 豪放磊落、野太い声で大笑するのは名乗った通りの大男。自らを山賊と称し『それらしい言動に終始する』――『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)その人だった。
「次は主か。ローレットもなかなかどうして――綺羅星のように獲りたい首が続きよる。
 色々な意味で名前を聞く。まるで売る程名前ぞある『主役』のバーゲンセールじゃな」
 皮肉めいた梅泉の台詞は果たして本気か否か。
 何れにせよ、やる気十分のグドルフは止まらない。
 否、疲れようと負傷しようと刻一刻と鬼気強まる梅泉は当然止める心算もあるまいが――
「ちなみに――予め言っておくが、おれさまはメチャクチャ強ェぞッ!!」
「違うなよ」
 吠えたグドルフに軽く笑い、梅泉が動き出す。
「簡単におれさまを沈められると思うなよッ!」
 梅泉の刃を受けるも血走った目でその影を睥睨するグドルフは持ち前の体力でこれを跳ね返す。
『山賊には不似合いな』賦活術と高い防御、体力を軸に泥仕合を狙うグドルフの目算は、成る程、梅泉に小さく舌を打たせる程度には奏功している。巨大な壁のように敵前に立ち塞がるこの男は、正面から暴威を受け止めるだけの存在感を放っていた。
(化け物め、だが――)
 せめて一分、否さ百秒。
 勝てるかどうかと問われれば初太刀合わせで結論なぞ出る。
 さりとてグドルフが意地になるのは『楽をさせない』事である。
『山賊らしい』斧が唸りを上げ、梅泉を脅かす。
 斬りつけられるも、歯を食いしばってこれを耐える。
 血を吐き出し、笑う膝を堪え、十秒、二十秒、そして……
「……ああ、畜生……」
 轟音を立て、遂に大の字に倒れたグドルフは月を見上げて呟いた。
「クソッ……痛ェな……畜生が……俺と、お前……同じ人間の癖に、何が違ェってんだよ……」
 恨み言のように、独白のように。
 呟いたグドルフに血糊を払った梅泉が茫と応える。
「何を捨てるかじゃ」
「……あん?」
「主を抑圧するは思い煩いぞ。
 謂わば『解放』が足りぬのじゃ。
 ……何、当てずっぽうの老婆心故。聞き流すが良いぞ」

 ――お前位分かり易ければ、誰も苦労はしないんだ――

成否

失敗

状態異常
グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]

第2章 第14節

すずな(p3p005307)
信ず刄

●やべぇおねいさんの奴IV(十三番手)
「遅かったではないか。いの一番に飛んでくるものと思ったら」
『斬城剣』すずな(p3p005307)の姿を認めた梅泉は珍しい軽口を叩いていた。
『血吸い』に寄りかかって新手を待っていた梅泉の呼吸は幾らか乱れていた。
 それもその筈、何れ劣らぬイレギュラーズの最精鋭を十二人も叩きのめしてきたのだ。それも一人一人丹念に破ってである。爆発的かつ破滅的な手管を持つ彼からすれば纏めて相手にした方が幾らか『マシ』だったかもしれない位であろう。
「姉の無事はお知らせ頂きましたので」
 そんな梅泉に軽く意趣返しをしたすずなは小さく笑った。
 肩の力はローレットで話をした時よりも大分抜けていた。

 ――嗚呼、如何にも姉らしい――

 あの時。つい笑みを零してしまったその時から、死牡丹梅泉は仇から興味の対象へと移った事は否めない。いや、思う所が無い訳ではないのだが――スッキリしてしまったのは確かなのである。
「それで、覚悟は十分なのであろうな?」
「やり合うか否か、と問われれば――言うまでもなく。
 此度の機会を逃すなど、いち剣士としてあり得ない。
 それが依頼である以上尚更です。
 覚悟なぞ、剣を握っている以上とっくに済んでいます。
 斬り、斬られる――その性根も無しに剣の道を往くなど、馬鹿げている」
 真っ直ぐに、曇りなく梅泉を見据えた今のすずなは――『圧倒的に強い剣鬼に素直に挑む』という本懐を十分に果たしていた。彼女の願いは今叶う。ゆらりと闇にその身を躍らせた邪剣使いは満足そうに頷いていた。
(早々簡単に斬られてなるものか――相手が、死牡丹であろうとも!)
 燃ゆる気概は剣士の矜持。
 増してや多数を相手取った男に簡単に下されては姉もさぞや残念に思うだろう。
「――全身全霊、参ります」
 正眼に刃を構え、すずなは裂帛の気を吐いた。
「我が道、まだ途上。
 未だ全て未熟なれど、持ち得る体を技と心を以て!
 血吸い桜、月下で刃鳴散らしましょう――!」
 宵闇に剣戟が鳴り響く。
 情念と情熱が絡んで踊る、それはまるで美しい一つの舞のようにも見えた――

成否

失敗

状態異常
すずな(p3p005307)[重傷]
信ず刄

第2章 第15節

雪村 沙月(p3p007273)
月下美人

●やべぇおねいさんの奴V(十四番手)
「お噂の方はかねがね」
「碌な話ではあるまい?」
「――ええ、一般的には。されど、その名は極少数には憧れすら帯びましょう」
 すずなを退けた梅泉の前に現れたのは楚々たる和装――着物姿の『百錬成鋼之華』雪村 沙月(p3p007273)だった。
 一見して淑やかなるその美貌はこんな場所に似合いのそれでは無い。しかして彼女の場合、『辺りに広がる惨状に頓着していない事』こそがこの場の相応しきを示している。
「いざ、相対できるのは運が良いと言えるのでしょうね。
 なればこの機会逃すわけには参りません」
「見た所、剣士には見えぬがな――」
「ええ。此方は徒手空拳。それは冬の雪、秋の月、春の花。
 但し、『道』ではなく『術』と認識下さいませな」
 雪村家に伝わる雪月花は平和に絶えて久しき実戦武術である。
 殺気が擬人化されたような男を前にしても一歩も引かぬのはそれを修める彼女の胆力に拠る。
「成る程、楽しめそうじゃな」
「得物の差はあれど同じ武術を嗜む者として興味がありますからね。
 その強さ見せて頂くとしましょう」
 妖刀を構えた梅泉が小さく笑った。
 今日の相手も様々だったが、彼の剣の前に徒手空拳で立ったものはいない。
 殺人技の異種戦はその見極めも含めて滾るのか、発せられる気配はすぐに剣呑なものとなる。
「――――」
 鋭い呼気と共に梅泉が地面を蹴った。
 迎え撃つ沙月は――小細工のない正面勝負。
 繰り出された斬撃に鮮血が散る。
「女性(にょしょう)らしからぬ割り切りよな!」
「加減は無用に。要らぬ心配とは思いますが――」
『防御を得手としない彼女は、急所だけを守り、それ以外の全ての傷を無視してそこに立つ』。
「――然り! 誰がこの時間を退屈にするものかよ」
 刃の瀑布が一瞬の切れ目を見せた時、血染めの沙月は目を見開く。
 ここぞ反撃と強烈に間合いに踏み込んだ彼女は爆発的な手数を発揮し、『芒に無月』――見る者を、受ける者を魅了する流れる所作で目前の男に乱打を打ち込む!
 攻防は刹那、されど体感するのは永劫か。
「強敵との戦いというのは心躍るもの。できればずっと撃ち合っていたいですが……
 月に叢雲花に風――この時間にやがて終わりがくるというのは寂しいものです」
 打撃と言葉を受け取った梅泉はにぃと歯を剥き出した。

成否

失敗

状態異常
雪村 沙月(p3p007273)[重傷]
月下美人

第2章 第16節

白薊 小夜(p3p006668)
永夜

●やべぇおねいさんの奴VI(十五番手)
 ――私の彩なき闇を染め上げて咲いた赤い花。
   あの花を今一度と待ち侘びて。

「漸く主か」
「順番を譲ってきた心算はないのだけれどね」
「では、『好物は後回しにした』のじゃろうな」
 梅泉の珍しい軽口に『真昼の月』白薊 小夜(p3p006668)の雰囲気が僅かに華やいだ。
 何せ気の利いた世辞を言うような男ではない。彼がそう言ったなら――多かれ少なかれそれは事実なのだろうとそう踏める。この邪剣士の何気ない一言は、いざ待ちに待った短い時間に挑む小夜にとってこの上なく情熱的に響くのだ。
「言っておくけれど――負けるつもりは毛頭ないわ」
「わしを斬れる心算か?」
「死牡丹梅泉に勝ちを望むのは正気を疑う?」
「いや? 主の下げるその得物が飾りでないならば、そうでなくては眠気も勝るわ」
「相手が貴方だからこそ、よ」
 親し気なやり取りの間にも両者の間には触れなば切れん緊迫感が張り詰めている。
 始まりは何時か――今か、先か。
 姿勢を低く落とした小夜が先に動いた。
(――遊ぶのね)
 かつてとは全く裏腹、全く逆に。
 今の小夜の修めるは殺意を束ねたかのような正真正銘の殺人剣。
『まるで梅泉のような剣である』。
 何時かの邂逅で或る意味でそれに魅入られた彼女はその切れ味だけを鍛え上げてきた。
 本番とも呼べるこの夜に、梅泉が『先を譲った』のはそれを眺めたかったからに違いない。
(彼を相手に長くは保たない。けれどその剣の極意は――)

 ――倒される前に、倒す事に違いない!

「――――!」
 声にならない裂帛が弾けた。
 超高速で繰り出されたその切っ先は邪道の極み、殺意の極み。
「懐かしい、見たような筋じゃな――!」
 一連、血蛭が斬撃を跳ね上げた。
 二連、踏み込みは深く、掠めた切っ先は浅く。
 三連、逃さじと追いすがり幾ばくかの手応え。
 四連、
「キェェェェェェェェ――!」
 声を張り上げた梅泉は完全に刃の軌道を見切り、横殴りのような切り払いで『赤丹』を退けた。
「随分と『まし』になったではないか?」
 凄絶に笑う梅泉は至極満足そうに言う。
「なれば、もう少し研いでやるか。
 その切っ先が二度と鈍らぬよう、温い刃がより鋭くなるように!」
 変幻自在の邪剣が文字通り小夜を『切り刻む』。
(嗚呼、嗚呼――)
 常識外。
 肌に感ずる痛みは、絶望的なまでの技量差は――彼女にとっての『悦び』だ。紙一重の運に縋り、時に傷みの全てを受け。血染めの小夜はもう一撃を、振るえる限りに落椿をお返しする。

 待ち侘びて
 一夜の夢の
 梅の花
 散り過ぐ刃鳴の
 色ぞをしえよ

 彼女はこの時間を愉しんでいる。
 嫌になる位に焦がれた男は、ちっとも『乙女心』を理解しそうも無いけれど。

成否

失敗

状態異常
白薊 小夜(p3p006668)[重傷]
永夜

第2章 第17節

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

●やべぇおねいさんの奴VIIとかVIIIとか〆のお話(十六、十七番手)
「実を言うとね。少しだけ気に入らなかった」
 静寂の中、その舞台を訪れた『恋桜』サクラ(p3p005004)は言う。怪訝そうに自分を見る梅泉の視線を正面から受け止めて、彼の瞳が自分を映す姿に少しだけ困ったようにはにかんで。
「自分でも理不尽だと思うけどね。
 私以外の『サクラ』に魅せられてるなんて、妬けちゃうから」
「戯言を。熱でもあるのか、娘」と鼻で笑う梅泉にサクラは「それ」と唇を尖らせる。
「いつまでも娘、なんて呼ばれたくないし、もう一回教えておくね。
 私の名前はサクラ。無理に覚えろとは言わないよ、嫌でも今日ここで刻みつけて魅せるから」
 思えば何とも奇妙な関係である。
 サクラは天義の貴族――厳格なる正義の家に産まれ落ち、潔癖に己を律して生きてきた。
 されどその本質は家名が望む正義には程遠く。『サクラは善良なままに内に獣性を飼いながら生きてきた』。或いは梅泉に出会わなければ『ここまで』自覚する事は無かったかも知れないが――
(今更、過ぎるね)
 構えを取ったサクラは半ば自嘲し、半ばそんな事実に高揚した。
 出会う度に斬り合い、命を取り合うような関係だ。
「―――はっ!」
 この瞬間に閃かせた雪花の太刀は無遠慮に命を奪う為に放った全力であり、全開である。
(まだ届かない! もっと速く! もっと精緻に!)
 邪剣士の必殺の間合いに潜り込み、執拗にその影を追いかける。
 喰らいつく程に遠ざかる男は、数条の銀光を瞬かせあっという間にサクラの余力を削ぎ落とした。
 一歩踏み違えれば死ぬ状況。血の一滴一滴が沸き立ち、サクラを高揚させる。
 それは彼女の抱く獣性であり、それから。

 ――この瞬間がどうしようもなく楽しく、愛おしい。私は、貴方に恋してる――

 凡そ有り得ない位に不似合いな熱情そのものだった。
(だからこそ、貴方の前で華麗に艶やかに咲き誇りたい。
 誰かに余所見出来ない位に――私のこの手で梅泉を討ち取りたい!)
 青い瞳を爛々と輝かせたサクラはどれ程に手酷く『振られて』も尚も食い下がる。
 なんて救えない。なんて破滅的――そう理解していても『微塵も後悔等無いのだから仕方ない』!
「……この、サクラは――『似ておらぬが、何処か似ておる』! わしにその首獲らせるか!」
「それも、本望かも」
 そう斬る事も、斬られる事も、彼女にとっては忌避ではない。
 そして、サクラの相手もまた――酷く無遠慮な男だった。
 余りにしつこく喰らいつかれ『興が乗り過ぎた』梅泉の殺気の質が変わる。
 サクラの刃を跳ね上げ、前蹴りで彼女を地面に叩きつけた彼は刃を手に気を吐き出し――

 ――鮮烈な銃声を前に足を止めていた。

「……一対一と言った筈じゃが?」
 意識を失ったサクラが小さく呻いて血を吐き出した。
 一方で梅泉は彼方、十分な距離を置き彼に向けて『紳士用の長傘』を構えた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)を見据えていた。
「まさか、違うとはな?」
 声色は冷え冷えと研ぎ澄まされ、単純ならぬ憤怒を帯びている。
「梅泉さんに夢中な人、特に女子が多いものですから。安全弁は必要だと思いましてね」
 悪びれない寛治は常人ならばとても受け止めようがない梅泉の本気の殺意を容易く逸らした。
「勝負を邪魔する無粋はしない。ただ『やりすぎ』を止めただけ。
 約束と言うならば――今ので勝負ありだった。『殊更に止めは刺さない』筈でしょう?」
「……………」
 或る意味でそれは詭弁だが、梅泉は幾らか思い当たったかこの言葉に押し黙る。
「彼女は命のやり取りで満足でしょうが、私としては、勘定が合わない。
 貴方が『真剣勝負を邪魔した』と言うならば、私にも言い分はある。
 悪い雇い主を持った事を恨んで頂きたい。
 事もあろうにリーゼロッテ様がね、ダンスの最中に私を『クリスチアンみたい』と称したのです。その意趣返しですよ。私にも相応に、意地はありますからね」
「もう良いわ。長広舌に気も削げたわ!」
 不機嫌に一喝した梅泉に寛治は「そうですか」とにこやかだった。
 ビジネスに差し障る最悪の事態を回避した事に彼は至極満足している。
 そして、この場にはもう一人。
「心配してるこっちの身にもなれー!」
 サクラ(しんゆう)を介抱する『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が心からの声を上げて――それから大きな溜息を吐いていた。
「何回傷ついても、こんなになっても――向かっていくんだもん」
 形の良い眉をハの字にしたスティアに薄目を開けたサクラが「ごめんね」と呟く。
「いいよもう。サクラちゃんが先生と呼ぶ相手……気にならないと言えば嘘になるよね」
 サクラを木に寄りかからせたスティアの視線が抜身をぶら下げたままの梅泉を向いた。
「サクラちゃんが何を求めて、何のために戦うのか……戦ってみれば少しは理解できるのかな?
 まあ考えても答えは出ないし、とりあえず戦ってみようかな!」
「取り敢えずでそれを言うか、主は」
 聞きしに勝る超合金ぶりに梅泉さえもが苦笑する。
「あ、随分怪我してるみたいだから治してあげるね」
「……これまでの仲間の苦労も無に帰すか」
「折角の機会だし、万全がいいよね」
 スティアの強烈なマイペースぶりはとどまる所を知らず。
 彼女は一応ヒーラーの筈なのだが、
(防御や回復は後回し。受けに回って勝てると思えないからね!)
 サクラちゃんに勝るとも劣らぬアレ目な闘志を内に秘めていた。
 一体なんやこの女……



 事実は小説より奇なり。
 梅泉がこの夜に相手にしたのはやりもやったり実に十七人。
 この花見を亡き父の供養と嘯いた彼だが、その時間は存外に良いものになったに違いない。

 満ち咲いた
 一夜の晩の
 恋桜
 刃鳴散る先に
 色ぞあるかな――

成否

失敗

状態異常
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
サクラ(p3p005004)[重傷]
聖奠聖騎士

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