シナリオ詳細
北方温泉一泊二日のご招待
オープニング
●ノドクロ温泉旅館のプレオープン
幻想(レガド・イルシオン)の北。
海と山に挟まれた土地にわき出した温泉水。
大地からわき出した魔力によって肩こり腰痛、傷の治癒やストレス解消の効能があるとして、このたび温泉宿が建設されることとなりました。
されどサービスに未だ自信の置けぬ駆け出し宿でございます。
人材豊富で個性豊かな、それでいて信頼の置ける方々に一度ご利用頂きたく存じます。
――ノドクロ温泉旅館、館長より。
「という、ことだそうよ。温泉に興味はあるかしら?」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は、ギルド・ローレットに依頼された『温泉旅館のおためし客募集』の依頼書をはらりと翳した。
依頼書には旅館のパンフレットがついている。
内容はこうだ。
どんな種族もウォーカーも、ゆったりくつろぐノドクロ温泉旅館。
当旅館は種族個性の大きな方でも安心しおくつろぎ頂ける新築旅館となっております。
暖かくて広いお風呂で泳ぎたいディープシーの皆様。
獣性にあったお風呂にゆっくり浸かりたいブルーブラッドの皆様。
金属部位をいためずにやさしくお湯につかってリラックスしたいオールドワンの皆様。
翼を休めて暖かな水浴びを楽しみたいスカイウェザーの皆様。
安らかな花々たちに囲まれて心穏やかに楽しみたいハーモニアの皆様。
そしてざまざまな個性あふれる出身世界の空気を感じたいウォーカーの皆様。
当旅館はそんな皆様にあった温泉をご用意いたしております。
くわえて美味しい料理や美しいロビー、整ったお部屋をご用意しております。
どうぞ一日、ゆっくりとおくつろぎくださいませ。
「まだオープンしたばかり……というより、まだ厳密にはオープンしていない旅館よ。
ギルドへ寄せられたオーダーも、温泉をゆっくり楽しむこと。反応はスタッフたちが通常業務の中で観察するそうだから、感想を送ったりする必要はないわ。
普通の……と言っていいのかわからないけど、温泉旅行を楽しんできて」
- 北方温泉一泊二日のご招待完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年02月05日 21時50分
- 参加人数100/100人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 100 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(100人)
リプレイ
●冬はやっぱり温泉がいい
このたびオープンしたノドクロ温泉は様々な種族にお楽しみ頂けるバリエーション豊かな温泉が魅力だ。
そして勿論、温泉ということは絶景があるということ。
雪景色、大空、そして――。
「宿泊に食事、何よりもあっつい風呂! 寒い日々には何よりの馳走にござる!」
胸板を晒した修理亮が岩に背を預けてほっこりしていた。
「あー……こいつだよこいつ……こういうのを待ってたんだよ」
隣では豪真が肩まで湯につかっている。
「そもそも……普段は、シャワーだから……お湯につかる、というのも……新鮮……かも」
はふーと息を吐くグレイル。
「それがしの故郷では蒸し風呂が多うござったが、温泉を張って浸かるのも良いですな」
「他にもいろんな風呂があるらしいぜ。酒を使った風呂とかねぇのかな?」
「あったまる……落ち着く……これが……温泉か……」
みなそれぞれご満悦の様子だ。自然と周りとも仲良くなってるらしい。
そこへ新たに入ってくる明寿と湊。
「獣姿では入れる場所はそう多くはないゆえな、抜け毛を気にせず入れる温泉とやらにお邪魔させていただく」
「こちらの世界に来る以前、日本と言う国は温泉を楽しむ文化が根強く、開放感と心地よさを求めて人が集まる場でしたが、まさか混沌にも温泉があるとは」
ゆっくりつかるとしましょうと言って湯の温かさに浸る湊たち。
ふむと息をつく明寿。
湯から上がると毛がぺちゃんとして恥ずかしいだろうなと思いつつ、けれど乾いた後はふかふかになるだろうな……なんて。
ゆったりしたことを考えていると、湊が『デュフフ』と言いながら立ち上がった。
「実は温泉など建前! 拙者が求めているのは可愛い幼女たちのキャッキャウフフする声なのでござるよデュフフフフォカヌポォ!」
壁に張り付き耳をたてる。
「きっと隣は女子たちが入っているでしょうしキャッキャウフフの声を聞くのです!」
「それがしなにを考えて! いかんぞそれがし!」
うおお離すでござるおちつけ貴様ふんじばれ外へはこべやんややんや。
そんな声を……。
隣のお花風呂に使っていたイースは首を傾げて聞いていた。
まあいいかと思い直し、湯への癒やしを喜ぶように歌い始める。
喧噪が歌と混じり合って、湯煙にきえてゆく。
おまちかね、というべきか。
「うへぇー、温泉だぁー。こんなのテコ入れだよぉー」
と言いながらリンネが温泉でぷかぷかしていた。
「しかしあれだね。温泉といえば湯煙。そして殺人事件だよねー。もし起きたらあたしの出番。死神探偵リンネの出番さ」
目をきらーんとさせるリンネのそばで、そんなのおきたら困るよという顔で入ってくるニーニア。
いつもの髪をアップにして、愛用の風呂桶とおもちゃのアヒルさんを装備しての出陣、もとい入浴である。
「風流だね~。やっぱり温泉はこうじゃないとね~」
リーカーは肩をふるわせ、この先のスケジュールにうきうきしていた。
「次は飛行種用の翼に水浴びする温泉にも行かなきゃいけないな~。足湯にミストサウナも気になるな~。そして夜は露天風呂で星空を眺めながらゆっくり浸からなきゃね~」
同じく温泉へちょんと浸かるデュテ。
「喚ばれるまで寒い地域に居たからね。やはり全身とっぷり浸かれると言うのは、よいものだ」
デュテはそういうと美味しい紅茶を取り出して、温泉と一緒に楽しみ始めた。
この湯でお酒やお茶を飲むのはアリなようで、らむねが桶に浮かべたとっくりを手に取った。
「皆さん! おまたー☆ 勧善懲悪美少女天使アイドルらむね姫様の貴重な入浴シーンですよ! ギャルゲだったらCGシーンものですよ! ピンとかも頼みたい!」
なんて言いながら、とくとくと熱燗をいく自称17歳。デュテの視線をうけてはっと振り返った。
「今日はオフですから! 17歳はお休みですから! あ゛~おいちい、おしゃけおいちぃよぉうぇへへへへ」
こうして羽を伸ばしている人も居れば、真面目なひともいるようで。アルテロンドは注意書きを隅々まで熟読していた。
「おや、今から入るのですか?」
明日が身体にタオルを巻いて露天風呂へとやってきた。
「はい。温泉といったら露天風呂、ととある異界から来た方は仰ってましたので、私も入ろうかと」
「いいですね。温泉には他にも沢山ありますよ……」
砂風呂電気風呂ジェットバス。明日は色々なものを思い浮かべてうっとりとした。
それでは早速、と二人はお湯の前に立った。
素肌を出すのは恥ずかしいらしいみたいだが……。
「他の方はきっと誰も来ないとおもいますから、少しぐらい開放的になってもいいですよね!」
シフォリィはえいっとタオルを脱いで、湯に足からつかっていった。
同じく肩までつかる明日。
「はふぅ」
そうしてから、らむねやシフォリィの胸元を見て……明日はぺたんと自分の胸に手を当てた。
「どーしたの? 殺人事件ごっこする?」
するーっと流れてきたリンネ。
その胸元をみて、明日はなんだかほっとした顔をした。
いくつにも分かれている湯のひとつ。
ベルンシュタインは堂々と湯につかると、ふうと息をついて岩に背を持たれた。
「話に聞いちゃいたが、本当に色んな種類の風呂があるんだなァ。おもしれぇ」
入浴中に読める案内板にはいろんな温泉の紹介が書かれている。お花風呂や水浴び風呂、メカの湯ゲルの湯性別不詳の湯。
「けど、一番良いのはやっぱ露天風呂だなァ。雪景色、空に浮かぶ月。熱い温泉の湯。やっぱり粋なもんだ。あー極楽、極楽」
頭にタオルをのっけて、ベルンシュタイン。持ち込んだ盆をたぐりよせると、のっけた小瓶をあおった。
「露天風呂に入りながら酒を傾ける。ちとやってみたかったンだよな。こりゃあ、いつもより酔いが回るのも早そうだ」
上機嫌なのはベルンシュタインばかりじゃない。
「力を失ったりロクでもない国の情勢だったりとこの世界は色々大変だけど、こういういいことはちゃんと存在してくれるだけ遥かにマシねぇ」
ロスヴァイセも同じように熱燗をちびちびやりながらしみじみ湯に使っていた。
「はー。癒されるわ……。こっちの世界に来てから、はじめての温泉。ゆっくり浸かりましょ」
タオルで長い髪をまとめて湯につかるアクア。
その横で、タオルで身体を隠して湯につかりながら周囲を観察するシェリー。
みな楽しみかたはそれぞれだが、温泉を自分なりに楽しんでいるようだ。
「やはり温泉はまた違った存在です。一日一回は……いえ二回、常に温泉と共に活動したいぐらいですね」
なぜ温泉にと問われてそう語ったのはフィオリーレ。
「可能ならばあるだけの温泉、すべてをめぐってみたいのですが、どうでしょう」
たしかにそうですねと頷くアリーシャ。
「色んな温泉に入ってみるのも良いかもしれませんね。ウォーカーの人達にむけた温泉なんて、どんな個性的なのでしょうか。それを考えると今から少し楽しみです」
二人はノーマルな露天風呂から上がると、タオルを手に取った。
「さあ、温泉巡りを開始するのです」
ノドクロ温泉の魅力は温泉のバリエーション。
そう聞いていたコルザは例に漏れず温泉巡りをしていた。
「これは一つだけではもったいないね、色々調査して僕の温泉バリエーションの糧とさせていただくのだよ!」
そう言ってやってきたのは滝風呂である。
滝壺でしか和めない特殊なウォーカーさんのためにある温泉らしいが……。
「これはこれはコルザ殿ではありませぬか!」
上流でルル家が手を振った。
「ああ、夢見君……これはどのような温泉なのだろうか、打たせ湯……にしては規模が大きすぎるし」
ご存じない? では楽しみ方をご教授いたします。
そう言ってルル家はコルザにダイビングキャッチ。
「え、ちょ、待って、待つのじゃっ……!?」
「あーいーきゃーん! ふらーい!」
悲鳴と共に二人は滝を飛び降りていった。
一方こちらはお花風呂。
リディアは無数の花々に囲まれて、のんびり湯を楽しんでいた。
人はほとんど居ないがある意味の混浴。リディアは周囲の花々に植物会話をこころみて、ここでの暮らしはどうですかなんて雑談を交わしていた。
そこへそっと混ざるように入るアメリア。
なんだか不思議な気持ちですと呟いて、かつてのことを思い出していた。
「本当は一緒に楽しみたかったけれど……あの子がいない今、叶わない事」
つぶやきはお湯に溶け込み、湯煙となってのぼってゆく。
静かに清らかに、時は過ぎてゆく。
さて、バリエーション豊かな温泉とそれを楽しむ人々をダイジェストでご紹介しよう。
こちらはディープシーむけの露天風呂。
「んんーっ、やっぱり水んなかは落ち着くなぁ」
クーはタコ足をくねくねさせながら温泉を彼女なりに満喫していた。
ここは湯加減ひかえめで泳げるくらい深い温泉なのだ。
水を得た魚ならぬ水を得たディープシー。クーは同じくディープシー風呂を楽しむ同族たちとお喋りすべく、すいすいと泳ぎ回っていった。
でもってこちらは硫黄風呂。
「匂いが強いのが気になるところかもですが、お肌のケアこそおなごの嗜みですよね」
悠凪は同じくこのお風呂を楽しむ人々と会話をしながら、お肌によいとされる成分にゆでられていた。
種族や趣味に特化したお風呂ばかりではない。
中には……。
「聞いた話通りですと脱衣して入浴するとの事……いざ温泉を体験であります!」
すぱーんとタオルを払ったクロウディアには湯煙めいたフィルターがかかり、首から下がなんだかよくわからない感じになっていた。
本人はそれで何の問題もないらしく、お湯につかってほっこほこしはじめる。
「温泉とは……なんとも良いものでありますな」
肩まで使ってはふうと息をつくクロウディア。
ここはいわゆる性別不明の湯。あるところにはあるという第三の湯である。
そこへ、タオルを持ったみつきが入ってきた。
「雪化粧の山を眺めながらの温泉なんて最高だね!」
しっかりフィルターをかけつつお湯につかる。そういえばここまで色々あったなあと過去をふりかえっていく。
ウォーカーには(もしかしたら幻想にも)性別があっちこっちいってる人は少なくない。そういう人には、この温泉は居心地がよいだろう。
そうは言っても一人きりもナンだな、とみつきは周りに人を探した。離せるヤツがいたら、仕事の話でもしてみたいな……と。
●プライベートバスタイム
ノドクロ温泉の魅力はバリエーションだけではない。たっくさん用意された個室風呂も魅力の一つなのだ。
貸し切り状態を示す木札を手に露天風呂へやってくるイリスとシルフォイデア。
「真水が文字通り湯水のように! すごい!」
「わたしもこんなに広いお風呂は初めてなのです」
温泉が初めてなのか、二人ははしゃいだ様子だった。
洗い場にあがってくるっと振り返る。
「シルフィー、洗いっこしよーよー。鱗を磨きたいけど手は届かないの。シルフィの身体も洗ってあげるからー」
「洗いっこするのはいいのですが……」
そうそう、まだ言っていなかったが。
イリスは完全魚類型の姿をよくとるディープシーだった。
「板の上の鯉……」
「ちゃんと変身するからー」
と、こんな具合でお肌がデリケートな人や人目を気にしたい人でも安心して入浴できるのも魅力だ。
こんな具合で、それぞれの個室風呂をご覧頂こう。
ケイが衣の背中をごしごししていた。
「……ブルーブラッドの肌って普通の人間の肌と変わらないんだね。……全身もふもふの人たちもいるけど」
「もふもふしてるのを期待してた? しっぽと耳なら期待通りのはず」
そう言って耳に手をやる衣。
まだお湯を被っていない耳が、ちょっぴりついた滴をぴんとはねさせた。
それに応じてか、ふんわりとハニーシロップの香りがする。
備え付けの石けんに含まれていた香りだ。
さて自分も洗わないととスポンジを握るケイに、衣は首を傾げて振り返った。
「なんで剣持ってきたの?」
「剣も洗おうと思って」
剣を手にスポンジをにぎにぎするケイ。
「……さびるよ」
「さびるの?」
甘い香りのする石けんだ。刃が虫歯になってしまうかも……なんてことはないけれど。
うんと頷きつつ、もしかしたらここの温泉は金属でもさびないお風呂があるやも……なんて思ったりもする、衣であった。
「そこの籠に置いてきたらいいよ」
それに寒くなってきたし。一旦流してお湯につかろう。
そんな提案をうけて、ケイはおけを手に取った。
「ふぃいい~~……」
クィニーとメルトは二人並んで、湯気たつ水面に肩を沈めた。
そのままぶくぶくと鼻の下まで沈んでいくクィニー。
メルトはその様子を横目に、なんだかほっこりとしていた。
「見て、ちらほらとだけど雪が降ってる」
ついさっきまでは青空が見えるくらい晴れていたのに不思議だねと言って、メルトは手を伸ばした。
岩で囲まれた露店風呂は、山の斜面に作られただけあってなかなかの絶景だ。
ちゃぷんと顔を出すクィニー。
「ほんと、冬はずっとお風呂に浸かってたいな……」
「風情も楽しめるってものだよね」
登る湯煙。
遠い景色。
白くかすむ景色。
空気が澄んでいるのか、ずっとずっと遠くの山が見えた。
「こーいう時にさぁ、お酒なんて飲めたらきっと楽しいんだろうねぇ」
クィニーの言葉に、メルトは想像をしてみた。
大人になった自分たちが、お盆にのったとっくりを傾けるさまをだ。
そういうのも、いいかもしれない。
「ああ、いっそ世界中が温泉になればいいのに」
個室化したお風呂は沢山あれど、中にはニュートラルな混浴風呂なんてものもある。『温泉といったら普通は混浴じゃないの?』という文化性をお持ちの方にと作られたお風呂だ。
そんなお風呂の扉をがらりと開ける竜胆。
着込んだ水着とその上から巻いたタオルで完全防備を固めていた。
「んーっ、雪国の露天風呂って最高ねっ! これで雪見酒って出来たら最高なんだけど……って」
「……ん」
別の脱衣所から入ってきたノインがくるりと振り返った。
飲んだ酒が回っているのか、随分と気の抜けた様子だ。
竜胆の姿を薄目で見ている。
「あ、アンタは何時かの壁ドン男! 何でアンタが此処に」
ここは混浴ではありませんかと返すノインに、竜胆はぐぬぬった。具体的にどうぐぬぬったかはさておいて。
「……はぁ、もう少し気を付けておくべきだったかしら」
「気になるなら女性専用の浴場へ行けば良いではありませんか」
「嫌よ。先に入ってたのは私だもの。それに見られて困る体でもないし?」
はあ、と気のない返事をしながらも竜胆の体つきを観察するノイン。
「ガン見すんな馬鹿!」
「誰が馬鹿ですか。小娘の身体に欲情なんてしませんよ」
「こむ……っ!」
ふるふると首を振り、ノインは額に手を当てた。
「ん、なんだか酔いが覚めてしまった。できればもう少し……畳に座椅子の和室、それと鬼。良いですね、趣があって」
何か思いついたようで、ノインが振り返った。
「お前、酌はできるか? 食事は済ませましたか? 俺が奢りますから付き合え」
「……ったく。いいわよ、アンタの奢りって言うなら付き合ってあげる」
竜胆は腰に手を当て、堂々と言って見せた。
温泉というものに、アリシスはまるで縁が無かったという。
『温泉のある国の話はよく聞いたものの訪れる機会と理由がかつての世界ではありませんでした』とは彼女の弁である。
その恐らくは初めての機会に、彼女はアレフと同席していた。
「そういえば、アリシス……少し尋ねるが君は美か、愛の女神の加護でも授かっているのか?」
「…………はい?」
首を傾げるアリシス。
「あぁ、勿論君の世界に神は居なかったと聞いている。だからこその疑問でもあるんだが」
話を続けるアレフの様子に、アリシスは概ねのところを察した。
これは、あれですか。所謂口説き文句とかいう類のもの?
アリシスは口元に手を当て、奥ゆかしく笑った。
「君は美しい──少なくとも私が手に入れたいと思う程度には。私の世界で最も美しいと言われた月に、勝るとも劣らないだろう」
「貴方のような存在も、そういう事を言うのですね」
アリシスの反応の示すところを深く察したアレフは、空を見上げた。
「そうだな、今は……」
美しい月でも一緒に眺めてくれ。
アレフはそんな風に言った。
「温泉だー!! わーい!!」
プティが おんせんを まんきつ していた!
「…………」
その様子をじっと観察する雷霆。
「私の真の姿は全裸の時にしか見られないのさ! でもザンネン! 今日はタオルを巻いてるよ~」
肩だけ見せてきゅっと腰をひねるプティ。
「湯浴みスタイル! 乙女の柔肌はそう簡単に晒さないのだよ♪」
「…………」
という動作を、湯船に浮いた木桶の中でやっていた。
その様子を黙って観察する雷霆。
「え、興味ない?」
「その真の姿とやらも別に戦闘力が上がると言う話じゃないのだろう?」
「なんだとう!?」
思わず立ち上がったプティがバランスを崩して、そのまま湯船に落ちそうになった。
木桶の縁を掴んでばたばたやる。
「それより盆に酒と猪口を持って来た。一丁飲み比べと行こうじゃないか」
「乗った乗った! 私の蟒蛇っぷりに見惚れるとイイさ!」
手を振るプティ。雷霆は小さく頷いて、なんかぐつぐつしたお酒を手に取った。
これが、後の温泉ゆでプティ事件のはじまりであった。
……と言っておくとサスペンスっぽくなる気がして、言ってみるのであった。
「私と君ではこれから先、どうしてもすれ違い傷付け合うのだよ……分かってくれレインッ」
「僕は、別れたくないぃー!!」
カタリナとレインが銃撃戦をかわしていた。
個室風呂に持ち込んだ水鉄砲的なもので、互いにお湯をぶつけあっての銃撃戦である。
その上で互いにぶつけあっているのが、別れ話であった。
レインがいうには儚き花、性的魅力、人心掌握術のどれを使っても別れ話は止められなかったそうだ。その結果としての、である。
「私も別れたくはなかった。 君と過ごしたかった、だがそれは出来ないんだ……!」
カタリナは太陽を背にしてのダイナミック射撃。
直撃を受けて……というか足を滑らせて転倒したレインは、かなしげに目を閉じた。
「……くらうす、…カタリナ、君。……さよなら。愛してる」
瞑目と別れ。それが、二人の結末であった。
個室風呂にも色々ある。
具体的には、粘液状のスライム風呂がある。
「ぬるぬるが全身を刺激してくるのが堪らなく気持ち良いんですの♪」
とは、メルトアイの感想である。
一方でそれに付き合ったオクトは……。
「いやああああああああああああ!」
メルトアイに引っ張り込まれるようにして、なんかぬめぬめにされていた。
「さぁ、マッサージもして、たっぷり気持ちよくして差し上げますわね……♪」
「メ、メルト! 何だこれは、話が違っ、あっ。や、やめ、あぁ~~~っ!?」
はじめはとってもいいお風呂がありますのと言われて上機嫌だったオクトは、ここぞとばかりにぬめられた。
大人版お風呂でやりたい放題である。
二人のギフト能力『災いの赤星』と『心蕩滅却』があれしてこれしてマッドな化学反応的なことが起きるのは、火を見るよりも明らかだ。
この後二人がどうなってしまうのか。
それはDVD収録特典映像もしくは2人ピンナップでお楽しみ頂きたい。頂きたい!
香りのよい木材で組んだ浴槽に、クラリーチェと雪之丞、そしてA01(アオイ)が浸かっていた。
「湯あみ着のおかげで気軽に温泉に入れて便利ですね」
「やはり、湯船へ浸かる誘惑は如何とも……」
リラックスした息をつくクラリーチェ雪之丞。
一方のアオイはなんだかくらくらとしていた。
「温泉……僕にはちょっと熱いみたい」
湯船からあがり、足だけお湯につけながらそばに置いておいたミントアイスを手に取った。
アオイは温泉というものが初めてらしく、はじめは広さと大きさにびっくりしていた。
それは他の二人も同じようで……。
「拙は、浴場など、初めてのことです。御二方は、このような場所へ来られたことはあるのでしょうか」
雪之丞アイスクリームを浮かべたソーダ飲料を手に取った。
鮮やかなグリーンのしゅわしゅわがグラスの側面についてはきえる。
「今まで人様とお風呂などはなかったので、これが初めてなのです」
一方でクラリーチェはあまずっぱいスムージーをとった。
身体を温めながら冷たいものをいただく贅沢……というやつである。
「こうして、穏やかに過ごすというのも、とても。いいものですね」
「うん。人とこうして同じ事を共有するって『楽しい』事なんだね。皆と知り合えて『良かった』また遊びたい」
アオイの言葉に、雪之丞とクラリーチェも頷いた。
「そうですね。折角のご縁です。また後日どこかに行きましょうか」
温泉につかりながら冷たいものを……なんていうのも贅沢だけれど、お酒で内外共に暖まるというのもまた贅沢なもの。
鶫、セリス、リアナルの三人はそれぞれタオルや水着を着用して温泉につかり、ほっこりほのぼのしていた。
お酒をくいっとやった鶫が、なんだか楽しそうに首を傾げる。
「ふふふ。御主人様もぉ、お酒飲みます? あ~、でも未成年ですしねぇ、うふふっ」
「鵺殿は酒は飲める口かの? あぁ、セリス坊にはオレンジジュースじゃ」
一方でリアナルは間をとるようにセリスにオレンジジュースを渡してやる。
が、そんな気遣いとはうらはらに。
「ぅあ……顔が、熱くて……ぼーっと、しちゃう」
酒気にあてられてか場の雰囲気にあてられてか、もしくは温泉の効能か、セリスはぽーっとしてリアナルたちに甘えかかった。
「うぅ、セリス坊は可愛いのぉ……鵺殿も美人じゃし、天国か……天国じゃ」
「ぇへ~。御主人様ってばぁ、ほんと~に可愛いっ」
二人もウェルカムな空気ができあがり、すっかり場はぽかぽかになった。
テンションにまかせてべたべたに甘えるセリス。
「んー……もっと、ぎゅうってしてほしいなぁ……?」
「ッッッ!? ダメじゃよセリス坊!? 儂死ぬえ?!」
しっぽをびびびっとさせ、顔を真っ赤にしたリアナルが何かの高みにのぼりはじめると……先にできあがっていた鶫が二人まとめて抱きよせた。
「ん~っ。こうなったら、二人ともぉ、お姉ちゃんが面倒みちゃうっ」
「いやもう我慢ならん!」
といった具合に、三人はすりすりと温泉を満喫した。
順番に決して他意はない。が。
「い、いや、別にジークが温泉に入るのが珍しいとは思ってねぇが……まさか女物の水着とは思わなかったぜ……」
「ちょっと、何ジロジロ見てるんだよ。私が温泉入るのがそんなに珍しいか?」
全身殆どホネみたいなジークが女性用水着をきてジャグジー風呂にうごごごしていた。
これもこれで他意があるわけじゃなく、ジークの元いた世界では公衆浴場は水着着用を義務付けられているので、女性物のビキニを着用しているのだ。
「…………」
一方で羽毛に色々うもれたカイトが、零と共に風呂につかるところだった。
ジャグジーの横についている炭酸風呂に二人して入っていく。
「あーバチバチして気持ちいいなァ。翼の隙間から泡出てて楽しいや」
どうだと誘ってみると、ジークは『溶けたら困るし』と言ってジャグジーにつかり続けていた。
「溶けはしないと思うけどなぁ……? あ、砂風呂っていうのもある」
「砂風呂は俺も遠慮したいかな。翼から砂取るの面倒なんだよ」
「私も、生き埋めにされるかもしれん」
見る人が見たら高等なジョークみたいな光景だが、本人たちは至って真面目だ。
「じゃあ、釜は?」
「鷹鍋!?」
「出汁!?」
この後、いろんなお風呂でこのカンジのやりとりが交わされた。
マナの湯、と呼んだか呼ばないか。とてもキラキラとした神殿のようなお風呂があった。
からからと扉を開けるシエラ。
「綺麗な所ー!」
「へ~、色んな温泉があるのね」
それに続いて、セシリアとユウが入ってきた。
「皆とこんな所に来るなんてね~。やっぱり大勢で来ると楽しいよね」
最後に入ってきたウィリアが、てちてちと湯船へと浸かっていく。
「ぬくぬく……ぽかぽか。旅の疲れが、全部吹き飛ぶ……気持ちよさです」
それはいいとばかりに自分もつかるシエラ。
「お気楽極楽だね~♪」
「ユウもほら折角だし一緒に入ろうよ? 何なら背中でもながそうか、私に任せて?」
「結構よ、あなたどうせいらない事もする気でしょ」
「やっぱそういうのってお約束じゃない?」
なんて、仲良しならではの会話をしつつ入っていくセシリアとユウ。
そんな二人が羨ましいのか、ウィリアがシエラに振り返った。
「とっても、仲良しさん。私も、そんな風に、なりたいな……なんて」
「んん? 仲良しさんになりたい?」
シエラはちょっぴりイタズラっぽい顔をすると、手を組み合わせてウィリアにお湯を飛ばした。
「それー! 魔法の仲良しお湯鉄砲だ~☆」
「わわっ……シエラさんってば。じゃあ……お返し」
ちょっとぎこちなくもばしゃばしゃとし始める二人。
それを見たユウは息をついて肩をしずめた。
「何をやってるのかしら……少しは落ち着いて浸かって……っ!?」
「お湯を掛け合ってるのを見たらやっぱりここは参戦しないと駄目でしょう!」
ばしゃんと顔にお湯がかかった。セシリアの不意打ちである。ユウは顔をぬぐうと……。
「ふふ…よくもやってくれたわね? 覚悟は出来てるのでしょうね!」
「かかって来なさい返り撃ちしてあげる!」
なんて。彼女たちはお湯を掛け合ったりお肌の調子を見られたり、賑やかな時間を過ごした。
四人の仲も、温泉でぽかぽかに暖まったようである。
●あなたのお部屋へご案内
「いや、マジすごいのうノドクロ温泉旅館」
ウォーカーにも満足を。そんなノドクロ温泉のコンセプトに感激するウォーカーがここにいた。
霧緒である。
「竹垣に岩風呂とか半ば諦めとったぞ妾。頑張りすぎちゃう? 妾通うぞ?常連待ったなしぞ? 依頼で稼いだ金を此処で吐き出すぞ?」
「部屋も綺麗ね、今度ハウスにも和室作ろうかしら」
温泉を堪能し終えたキツネも、宿のつくりには満足したようだ。
「おっ、おぉ~! タタミに布団! まさか、混沌に来てからは諦めておったのに!! 温泉でほっかほかになってからの畳! 布団、たまらん!」
霧緒がうおーと言いながら転がっていると……。
「さーて……ツバメにシャッチ、ココで二人きりで何してたのかしらね?」
キツネがツバメとシャッチをお部屋にひきずりこんできた。
「待ちなさい、逃がさないわよ? 覚悟しなさいよシャッチ?」
「じんもんですか。やりますか」
「お、おいっやめっ、ツバメ止め、なんでお前までノリノリなんだよ!? やめろっ、あっあっ、あーっ!?」
聞こえてくる悲鳴を、霧緒は一旦スルーした。でもって。
「宴じゃウッヒョー!」
齢十前後の少年少女だーとばかりにテンションをマックスにした。
今日はいい日になりそうだ。
「温泉と言えば湯につかりながら月見酒、もあるが……やっぱり一番は風呂上りの卓球勝負だな!!」
クロバは卓球という屋内球技スポーツ用の――いえ、詳しい説明はいりませんね。卓球ラケットをビッと構えて台の前に立った。
対するは汰磨羈。
「という訳で勝負だ、クロバ!」
「死神の卓球を見せてやる、いざ参る!!」
クロバは大鷲が獲物を狩るがごとく二枚のラケットを両手で翳した。
対して急流下りのオールがごとく両端に平面を備えたツインラケットを構える汰磨羈。
あれ、おかしい。どうやら異世界の卓球のようでございます。
「ああ。折角だから、賭けでもしようか。負けた方は……明日の飲み代、全持ちだ!」
「飲み代全持ちだけでいいのか? なら勝ちに行かせてもらうぜ!!」
異世界のエクストリームな卓球で思い切りぶつかり合う二人。
そこへリリーがわんこにのって現われた。
「なんだろう、これ? たっきゅー? ふんふん、なるほどー」
二人の間をボールが超高速で行き交うさまを、リリーはほうほうと眺めた。
「ちょっときになるし、みていこうかなっ? ……って、わー!?」
時折すごい勢いで台をそれて迫るボール。リリーは思わずのけぞった。
勝負のゆくえは――そしてリリーの運命やいかに!
お部屋は沢山、種類も沢山。
ノドクロ温泉のお風呂をそれなりに満喫したイレギュラーズたちは、それぞれのお部屋でものんびりとした時間を過ごしている。
例えばレオンだ。
『そうね。お星さまでも見ましょうか』
「お月様も良いね。夜には夜の楽しさがある」
眼鏡をかけた子供がふたりのお人形を抱えて和室に座っていた。
子供は言葉を発しないが、どうやら気持ちが通じているみたいだ。
『分からない。でも!』
「今は今を楽しもうか」
楽しそうにお話をするお人形たち。
その一方隣の部屋では……黒羽が布団に横になり、ぐっすりと眠っていた。
『俺も依頼も始まって疲れも溜まってんだよ、たまの休みくらい寝かせろくださいマジで』とは彼の弁である。
彼にとってタタミ部屋や布団は珍しくも嬉しかったようで、ふかふかの布団でぐっすりだ。
隣の話し声もまったく聞こえてこない。
それはまたまた隣の部屋に宿泊しているミストリアも同じだった。
タタミと布団の文化があるところからやってきたウォーカーなのか、その様子に感激して……そしてがっつりと眠った。
『これから先、戦う事になる場合はそんな暇はなさそうだしね』なんて呟いたのはずっと前。ゆっくりできるうちに、ゆっくりしておきたいミストリアだった。
お一人様用のお部屋もあれば、お二人様用のお部屋だってある。
お布団が二人用になることだってある。
「えりちゃん…えへへ。今日は一緒に温泉旅館へ来れて嬉しかった」
エリザベートとユーリエは一緒のお布団に入って向き合っていた。
「この世界に来てから、色んな事があって色んな人と出会ったよ。色んな楽しいことも経験できたし……あっ、美味しい食事もこっちに来てからいっぱいあった!」
枕を並べてのお喋りだ。
「でもね。えりちゃんと恋人になって、眷属になって。その楽しさはいっぱい、いーっぱい膨らんだの。愛すること愛されることがこんなに心地良いなんて……えへへ」
「うん、ユーリエを人間ではなくしてしまったけどこれはきっと幸せなこと。この世界なのか、どこかの世界かになるかわからないけど、貴女は私とずっと過ごすのです。これからも今後も」
今日はいっぱい甘えたいなと呟くユーリエに抱きつかれながら、エリザベートは甘く囁いた。
「何を言ってるのですか。今日はきっと寝かせませんよ?」
窓から雪の庭園が見える。
リゲルは緑茶を飲みながら、ポテトと語らっていた。
「ポテトは寒さに弱いそうだけど、温泉で暖まって暖かい部屋で眺める雪は綺麗だろ?」
「ああ、綺麗だな」
語らいは、ぽつぽつと。
「春になれば今度は桜を見に行こうか。お弁当を作って、一緒に手を繋いで。それからピクニックにも行って、夏はまた海に行こう」
「移り変わる景色を、これからもポテトと一緒に目にしたい」
視線は窓のそと。けれど心はひとつだった。
「早く温かくなると良いな。まだ少し寒いし」
「じゃあこうすれば暖かいだろ?」
リゲルはポテトを自分の膝に乗せ、後ろから抱き包んだ。
「寒い時はこうやって温めるからさ。心も体もな」
「……有難う」
「世界中を旅して遊んで時には冒険して、色々なものを二人で見て回ろう。いつかポテトが女神さまの元へ帰ることができた時に沢山話ができるように」
「そうだな。一緒にこの世界を旅して、沢山のものを見に行こう」
ふと顎を上げるリゲル。
「でも最終的にポテトが帰る場所は、俺の元だからな!」
「分かってる。女神様の元に一度は戻りたいが、私の帰る場所は、リゲルの腕の中だからな」
ポテトは振り返り、二人は暖かそうにキスをした。
「初めての温泉旅館! 団体旅行! これは夢にまで見たあれをやるしかないのです……!」
ギルドの仲間たちと遊びにきて、決意に燃えた愛莉が手にしたもの。
それは、枕であった。
旅館に泊まったらやりたかったあれやこれやを満喫した彼女の考える夜のシメ。
「枕投げをしましょう!」
「枕マスターの俺に勝てるかなー……ふははー……」
棒読みで愛用枕を抱きしめるシオン。
アリソンも旅館といえば枕投げよねと言って、ルーミニスめがけて枕を投げつけた。
咄嗟に枕をよけるルーミニスに、アリソンはにやりとした。
「ふふふ、お姉さんが真の枕投げを見せてあげるわっ!」
「アタシが勝ってみせるわ!ぶっ飛んだって、後悔したって知らないからね!!」
勝ち負けになると燃えてくる二人。
その一方で、ミディーセラは枕を手にほっこりと観察していた。
「楽しく、怪我のないように、ですわ。だって、とても楽しいのです。ふふ……わたし、とても嬉しいのです」
なんだかいつもよりほっこりしているミディーセラに手を止めてみると、ミディーセラは口に手を当てた。
「酔ってる?」
「酔ってなんていませんわ。みなさまと一緒だから、そう言っているのです。……お許しになって?」
そう言ってなんとなく枕投げに参加してみるミディーセラ。
勿論他のメンバーも黙ってはいないミーシャもぎゅっと枕を掴んだ。
『会ったばかりだから、一緒に遊んで、いっぱい。仲良くなれたら、嬉しいな』とバス(?)の中で語っていたミーシャである。枕を投げたり払ったり、なんだかとても楽しそうだった。でもって、眠たそうだった。
「枕。当たっても痛くなくて、ふわふわで、うん。……すごく、眠くなるね」
わかるー、とシオン。
二人が軽く眠り我慢対決に入りつつある中、アイリスとエルメスはまた別に白熱していた。
「ふふ、遊びとはいえ勝負事……ここは『お覚悟を!』って言っておいた方がいいかしら」
「思わず降参しちゃうくらいの枕投げとやらを見せてもらいますよ! やるからには私も負けません!」
「ふふ、これは避けれるかしらっ」
彼女たちははしゃぎにはしゃぎ、妙に投げやすく当たっても心地よい枕を投げ合った。
お部屋の名前は、『大部屋(枕投げ用)』。
●美味しいものがあればいい
人は寒さと飢えと不眠によって身体を壊すと言われ、逆に暖かさと美味しさと眠れる場所があれば元気になれるとも言われる。
温泉とお布団があるこのノドクロ温泉にもう一つ必要なものがあるとすればそれは……。
「俺は強い! というわけで食べるぞおおぉ!」
フユカは沢山積んだ料理を前に、うきうきとフォークをとった。
「どこまで食えるか試されている気がするぜぇ!」
「美味しい料理をお腹いっぱいに楽しむ! これに勝る幸せはない! 多分!」
テーブルの隣では渓がお箸をとった。
皆で食べればもっと美味いという理論のもと、なんとなあく相席した彼女たちである。
味に感謝、自然に感謝、作ってくれた人たちに感謝。
いただきますして、二人は料理に挑んだ。
「後で体重計に乗るのが怖いけどまぁ大丈夫! きっと!」
一方別のテーブル。ガンスキはジュースやお茶をそばに置き、パチンと手を合わせた。
「下戸にも優しい宿てのが気に入った! いや肩身が狭いンすよ。このナリで飲めねーってのは」
目の前には炊いた白米やジャガイモのコロッケ。
「もってこい炭水化物! どんとこい血糖値! おうどンがうめぇーなぁ!」
そんな彼に相づちを打ちながら一緒におうどん食べるフリをするアルプス。
「地球が懐かしいですね。相棒もよく口にしていました。けれどどう食べて、どう美味しいと言っていたか既に記憶外ですね……」
「いいンだよそンなのは!」
細かいことは気にすンなとばかりにコロッケうどんにし始めるガンスキ。
横でおうどんを前にしたアルプスは……正確にはそれをホログラム投影しているバイクは、昔をぼんやり懐かしんだ。
食べるという行為。
それを共にするという行為。
その意味と、暖かさ。
スタッフが気を利かせて質の良い燃料を持ってきたのを見て、ガンスキはコップを掲げて見せた。
スタッフの気遣いは多種族が入り交じる混沌事情に留まらず、多くの旅人にまで届いていた。
「どんな種族にもくつろいで貰えるようにという想いが伝わってくるね、私もメイドとしてそういった考え方を見習っていかなくてはね」
それを見ていたメートヒェンが感心したように言う。
「そして、これがこことは違う世界から来た人達から伝わったという料理か、確か地球という世界だったかな?」
興味深そうに料理をつまむメートヒェン。
隣の席では雪があちこちから集めてきた和食や洋食を眺めていた。
「普段はあまり食べないし食べられない、このような機会も二度とないだろうし……」
と、しっかりいただきますの気持ちをもちつつオサシミをつまんだ。
一口食べて、どこかうっとりとする雪とメートヒェン。
気に入った、のだろうか。
食堂は大盛況だ。中にはバイキング形式に慣れない人も居るようで……。
「これ本当に全部食べちゃっていいの?」
シラスがきょろきょろとしている。
場の空気におされるようにしてちょろちょろとしていると、お皿の上は大盛りになっていた。
ハンバーグにエビフライ、プリンやケーキにいたるまでだ。
そうして席に戻ると、たまたま隣に座っていたシャルレィスが上機嫌でフォークを握っていた。
「わ、このエビフライ、衣はサクサクで中はぷりぷりっ! ハンバーグもジューシーだし……ううう、幸せ過ぎてどうしよう……! あ、ねぇねぇ、それなに?美味しい?」
幸せを満喫していたシャルレィスがシラスのプリンに気づいたようだ。
まだ分からないと言いつつ一口食べてみると……。
シラスは深い甘みにうっとりとなった。
「美味しそう! 私も取ってこようかな?」
「こっちの世界だと食材を揃えるのが大変なんだよね。スーパーとか無いんだもん」
そこへ、セララがハンバーグやナポリタン(という名前の料理らしい)をお皿につんでやってきた。
「ローレットに戻ったら日本のお料理再現するんだー!」
なんとも楽しそうなセララ。
ここは好きなものを食べられるだけじゃなく、新しい(もしくは懐かしい)食への出会いもあるようだ。
特に懐かしさに浸っていたのが天満である。
「混沌に訪れて以来、生魚なぞ久しく味わっていなかったのでな、魚介類の刺身を今宵はたんまり堪能しようと思っていた所である」
オサシミを前に箸をとる天満。
小食ゆえにせめて美味しいものをと選びに選んで持ってきた、厳選の一皿だ。
そこには白くてぷっくりしたオサシミが並んでいる。
「鯛の如き白身の刺身。味は……」
お箸でつまんで一口。
どうやら、想像の通りの味がしているようだ。
そんな彼女の隣の席に座ったのがエスラだ。
『幻想の北方ってことは国境とも近いわけよね。異国や異世界の珍しいお菓子も食べられたら嬉しいわ』と語ってあちこちのスイーツを集めてきたらしい。
お菓子をバランスよくもってきたらしく、エスラもそのバランスには自信ありのようだ。
「ここのとこちょっと忙しかったし、こういう骨休めの機会が貰えたのはありがたいって思うわ」
一口サイズのお饅頭を手に取り『あとでお礼の気持ちを伝えなきゃね』とうっとりした。
「私からはエマ殿にフグ刺しとカキをお勧めしましょう! 私の故郷のお勧め品です」
「私からは……やっぱり山の幸、肉! シカ、イノシシ! おいしいです! それと木の実! 甘い奴にありつけた日は幸せなんですよ! 刀根さんにもオススメ!」
灰とエマがお互いのお勧めを出し合って、それぞれのお皿にのせていた。
自由に選べるのもいいが、誰かの選択に乗ってみるのいうのもステキなもの。
二人はお互いのおすすめ料理をたくさんお皿に盛ってテーブルに戻った。
やっぱりお勧めだけあって美味しいのだが、そんな中で……。
「ところで雀の味噌肉もどうです? 高いから普通は食べられませんぞ」
「スズメ? スズメっておいしいんですか」
「そうだ! 高いと言えば私の脳――」
少々エキセントリックな話を繰り出す灰ではあるが、エマはえひひと笑ってなんだか楽しそうにしていた。
灰としてもこういう相手が珍しいのか、それとも純粋な気持ちからか、しみじみと語り始めた。
「こうして一緒に楽しめる出来る友人が出来たのが嬉しいです」
「えひひ……」
独特の照れ笑いをするエマ。なんだかとってもニンゲンしてる。二人はそんな風に、思ったのかも知れない。
ノースポールはじっとお皿を見つめていた。
ルチアーノが紹介した料理だ。
「まずは故郷のイタリア料理。トマトとモッツァレラチーズのマルガリータピザに、バジルとベーコンのフレッシュパスタ。デザートのティラミス!」
「うわぁあ……どれも美味しそう! いただきますっ」
普段とはまた違う料理にノースポールは喜び、美味しそうに食べている。
どうやら長く伸びるチーズが気に入ったらしい。混沌にあるかどうかは別として、食べていて楽しい料理というのはいいものだ。
そんな様子を見ていたルチアーノは、ぽんと手を叩いてまた新しいものを紹介した。
「フルーツやマシュマロやミニカステラを使ったチョコフォンデュはどう?」
「チョコが湧き出てるの? わたし、初めて見るよ」
イチゴにチョコレートをつけたものをぱくりとやってはしゃぐノースポール。
もっと教えてとはしゃぐ彼女に、ルチアーノもどこか楽しそうに頷いた。
さて、場面はもどって賑やかなバイキング。
ルクスリアここぞとばかりに気合いを入れた。
これは女子会というやつですねと、幻やアニー、ヨルムンガンドやミーシャ、聖夜といったメンバーでテーブルを囲んでいるのだ。
「赤ワイン、鰯のトマト煮、サーモンのリエットにガーリックシュリンプ……勿論白カビのカマンベールチーズ、クリームチーズと胡桃のディップ、リヴァロも頼まないと……」
海のものを重点的に食べようとしているのは幻。初めての赤ワインにうっとりとしている。
「幻想にきてから初めて呑みましたが、深紅の美しい色を口に含むと風味豊かな香りが鼻に抜けて、その舌触りは天鵞絨のよう」
と、どこか詩的に味わいを語っていた。
ミーシャは熱燗を片手に、それじゃあ手品を見せるよといってトランプカードを取り出した。
「見ててね~。選んだ数字がここに――」
ミーシャの手品に驚きつつ、ヨルムンガンドはたっくさん積んだ料理をマイペースにもりもり食べていた。
「大人数で集まってご飯食べるのは賑やかでいいなぁ……! 一緒にご飯食べるのはいつもよりも仲間って感じがして嬉しいよぉ……!」
と、特別な時間にご満悦なようだ。
他の皆はどんなの食べてるのかなとお皿を覗き込むと、アニーのちょっぴり控えめなお皿が目に入った。
といってもお寿司、お刺身、エビフライ、おうどん、プリンにアイスクリーム……となかなかに大盛りなのだが。
「食事はいつも一人なのでこうして誰かと一緒だと楽しくて、心があたたかくなります」
わかるよぉと言ってご飯を頬張るヨルムンガンド。
アニーは少しほっこりとして、彼女たちに飲み物を注いであげた。
実年齢は分からないが自己申告でお酒が飲めるらしい女性たちの中でアニーはすっかり未成年ということもあって、ブドウジュースなのだが。
それでもしっかり、乾杯はしたい。
「さ、どうぞどうぞ」
「ん……んんん!?」
瓶をよせてやると聖夜が急に色っぽい声を出した。
どうやら上質なアイスクリームがえらく美味しかった様子なのだが……。
「……おいしい……っ! 冷たい! 甘い! くりぃみぃ! ふぁあああっん!」
反応が色っぽすぎる聖夜である。
大丈夫なのかなと振り返ると、ルクスリアがこれもまたよしという顔で頷いていた。
この後も、雑談で盛り上がったり美味しいものをあーんしたりたまに抱きついてみたりと大はしゃぎの女子会であった。
「賑やかなのも良いけれど、こういうのも悪くないだろう?」
基本バイキング形式のノドクロ旅館だが、勿論静かなレストランも存在している。
リョウブはその一角で、グラスを手に窓の外を眺めていた。
隣に座っているのはリュグナーだ。
『我はリュグナーと呼ばれる者だ、よろしく頼む』といって同じ避けを交わしている。
「酒のつまみという訳ではないが、是非とも貴様の話を聞きたいものだ。対価として、そうだな、我が元居た世界。貴様で言う異世界の話でもしてやろう」
それはおもしろい。リョウブはグラスに口をつけて渋く笑った。
「私は、数年前まで故郷の島からほとんど出たことが無くてね、そのせいで島の外のことには酷く疎い。だから、人の話を聞くのは好きなんだ。世界が広がり、知識が深まり、心が好奇心に沸き立つ」
食や酒が、隣り合った椅子が、個人という扉を介して世界を交えていく。
やがて夜も更け、それぞれ賑やかに、もしくは穏やかに過ごしていたイレギュラーズたちもぐっすり眠って翌日の朝を迎えた。
満足げな顔で帰って行く彼らの様子を見て、ノドクロ旅館のスタッフたちも旅館の成功を確信したという。
そしてこう続けるのだ。
『またのお越しを、お待ちしております』
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
いってらっしゃいませ、イレギュラーズの皆様。
当旅館はこれより平常営業を始めます。
ゆっくりとハネを伸ばしたくなったとき、毎日の依頼に疲れたとき、なにかいいことがあったとき。是非また遊びにいらしてくださいませ。
GMコメント
ご機嫌いかがでしょうか、プレイヤーの皆様。
寒い季節になりますと、温泉が恋しくなりますね。
それが雪のある季節となれば尚のことで、雪景色を眺めての露天風呂は本当に風情のあるものでございます。
さてこのたびお届けしますのは、そんな雪景色に囲まれた温泉旅行でございます。
一泊二日のスケジュール。
温泉とお部屋とお食事のパックとなっております。
では早速、それぞれのご紹介へと参りましょう。
【温泉】
種族個性を考えた温泉が用意されております。
例えば毛が沢山抜けて水面がぼわぼわになってしまうという方であっても、魔法でキレイに保たれる温泉があれば素敵ですよね。
他にも、植物の声をいつも気にしてしまう方にとって、花びらを無理に沢山浮かべるお風呂はイヤかもしれません。逆に丁寧に育てられた花々に囲まれていれば、心地よいホストになってくれますよね。
そのほかにも翼にぱしゃぱしゃと水浴びをしたいタイプの方や、お湯じゃなくミストサウナがあうという方。
そんなさまざまなニーズに応えた沢山の温泉が作られています。
混沌在来種の皆様は自分の種族にあった温泉を、ウォーカーの方々は『こんな温泉はあるかな?』と言った具合にお試しください。
大体はあるそうです。旅館さん、がんばりました。
【お部屋】
ベッドと木目床のお部屋がご用意されています。
こちらも種族毎にあわせた作りになっており、ハンモックがよいという方や撥水ベッドを好む方、籠がよいという方、カプセルタイプを好む方などなど……ご要望にあったお布団をご用意いたします。
一部ウォーカー様におかれましては、『タタミ部屋に布団』という組み合わせもご用意しておりますので、部屋の好みをお気軽にお申し付けくださいませ。
【お食事】
山の幸と海の幸をそれぞれ得やすい土地でございますので、きっとご満足いただける筈です。
お食事はバイキング形式となっておりますので、お好きな料理をお好きなだけご堪能ください。
メニューは沢山。
みっしりと詰まった牛お肉やミルク、チーズといった山のお料理。
新鮮な魚介をさばいた刺身や特別な衣で揚げたフライ。
プリンやアイスクリームといったスイーツ類は勿論、定番のお料理を多く揃えております。
特に当館がお勧めしますのは、地球という世界からいらしたウォーカーの皆様から伝わった洋食や和食といったメニューでございます。
ハンバーグ、エビフライ、スパゲッティナポリタン。
お寿司、天ぷら、おうどん。
もし出身世界が近かったならば懐かしいお味が、そうでなくとも新鮮なお味をお楽しみ頂けることでしょう。
【プレイングと描写】
さて、当館にお越しいただいた皆様にはチェックインからチェックアウトまで一通りお楽しみ頂くのですが、プレイングやリプレイでは一部クローズアップ形式でお楽しみ頂くことを推奨しております。
と申しますのも、温泉やお食事や眠る前のお遊びなどを全て盛り込もうとしますととてもぎゅうぎゅうになってしまい、満足にお楽しみ頂けないおそれがございます。
ですので、プレイヤー様はプレイングには『温泉』『部屋』『食事』のいずれかをクローズアップしてお書きくださいませ。
※迷ったらサンプルプレイングをご参考になさってください。
加えまして、お友達やカップルでのご宿泊の際は『レオン・ドナーツ・バルトロメイ (p3n000002)』というようにフルネームとIDをプレイングの頭あたりにご記載くださいませ。
またギルドの皆さんや、複数のお友達とご一緒される際は『【○○ギルド】で参加します』といった風に【】で囲っていただくことも可能でございます。
仮にかきそびれてもできるだけ配慮と努力をいたしますが、万一にはぐれてしまうこともございますので、くれぐれもご注意くださいませ。
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※サンプルプレイング
『温泉』【○○の会】で参加
温泉なんて久しぶりだぜ!
前に入ったときは俺の毛が抜けまくって怒られちまったが、ここはそういうのがねえってことなんだろ?
見たとおりの熊男だからよ、毛がこくって……。
ふいー、いい湯だぜ。ついでの酒でもいただきたいねえ。お盆にのせてぐいっと。中から外から暖まるぜ!
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