PandoraPartyProject

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遠き『不凍』を思えば

「――一先ずは勝利、っすかね……?」
 フィオナ・イル・パレスト(p3n000189)の言葉に僅かな含みが存在していたのは、総督府での報告で判明した事実が余り喜ばしくなかったからだ。
 シレンツィオの深海『竜宮』に生まれた不和は乙姫であるメーア・ディーネーを始めとした幾人かの無意識下での裏切り行為が要因であるという。
 故に、竜宮はイレギュラーズに加護を与え続けるために仮初の乙姫を立てることに決めたのだと言う。
 乙姫とは世界がそうあるべきと与えた存在だ。つまりは世界が承認した特異な立場に当たる。神霊という世界と強く紐付いている存在が常に傍らにあったカムイグラの要人である月ヶ瀬 庚(p3n000221)は乙姫とは『双子巫女』などのような特殊な役割を与えられた存在なのだろうと認識していた。
(しかし――我が豊穣郷の『けがれ』祓いの巫女のかたわれも姿を消してしまっている。
 フィオナ君の仰る通り『一先ず』という枕詞を取り払う事ができないのも実情でしょう)
 渋い表情をした庚は自国の要人が行方知らずと言う実情に早期解決を図らねばならぬと急く気持ちを抑えられずに居た。
「シレンツィオ総督府では再度のインス島攻撃作戦の立案が始まっていますわ。
 部隊を再編しての攻略作戦……静寂(へいおん)を守るための早期作戦は即ち、此処で解決でき粘らぬと言う意味合いでもあります」
「そうっすね。これ以上、被害や騒動が広がればリゾートとしての評判にも瑕が付きかねないっすから」
 肩をがくりと落としたカヌレ・ジェラート・コンテュール(p3n000127)は兄や女王の代わりにシレンツィオの運営に大きく携わっている。
 領土の拡大と、国力の増強を目指した海洋王国は交易拠点や観光における経済活性を充実させる目的でリゾート地の建設を行っている。
 フィオナの言う通り、耳の早い商人達はいち早くシレンツィオの離脱を目論むほどであった。
「庚様もフィオナ様も耳にしておられるかもしれませんが、海洋王国は第三次グレイス・ヌレ海戦において、鉄帝国との戦争を行ったことがありますの。
 その際に、海洋王国大号令に協力してくださっていたローレットはわたくしたちの友軍でした」
「その後は鉄星会談で、無事解決したんですっけ?」
「ええ。攻め込んできた鉄帝国との協定を結んだ歴史がございます」
 それはカヌレの兄であるソルベ・ジェラート・コンテュール(p3n000075)が『話題の人』である『元』皇帝・ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ(p3n000076)との間に結んだ協定である。
 簡潔に話せば鉄定刻軍の捕虜の解放と鉄帝国に貿易港の『貸与』、そして『あの冬のみ人道的な食糧支援』を実施すると鉄帝国に宣言したコンテュール卿は自国側は領海の侵犯の禁止とバラミタ鉱山の貸与、そして輸送ルートとして不凍港ベデクトの使用権を求めたと言う。
「その『不凍港』の使用についてイレギュラーズから我が国へと要請がありました」
「あー……ウチの兄貴――公の場所でそう呼んだら怒られるんだった、やべ――お兄さんが個人的支援したっていう鉄帝国の動乱への物資支援の話っすね?
 ラサにも要請があったみたいっすね。勿論、中立国である練達にも。
 深緑は動乱の後っすから、支援できないでしょうし、天義や幻想にいたっては鉄帝は敵国っすから、支援は無いでしょう」
「練達を除けば『彼の国との中立的立場』は期せずしてこの場に集まってしまっている、と。
 豊穣にも要請があったと主上――霞帝から聞いております。しかし、我等には運輸に関する技術を有していない」
「ウチも陸路じゃないってんなら海洋の手を借りたいっすね」
 庚とフィオナをまじまじと見つめてからカヌレは緩く頷いた。航海に関しては海洋王国の右に出るものは居ない。
 つまりは、鉄帝国が他国からの支援を受けたいと望むならば海洋王国の協力は必要不可欠なのである。
「我が国としては『大号令の立役者』に協力したい気持ちは山々。ですが、シレンツィオがこの状況では国力の分散も恐ろしい。
 もしも『作戦が失敗に終わった』際に、その影響がリッツパーク近海に迫ったならば? 国力が乏しい我が国では対応は難しいでしょう」
「それは此方も同じですね。豊穣は海に関してはそれ程優れては居ない。
 カヌレ君はシレンツィオの動乱が終われば鉄帝国への物資提供が叶う、と?」
「いいえ。『寒々しい冬をあの地で過ごすイレギュラーズに多少なりの物資提供が行えるのではないか』ですわ」
 渋い顔をしたカヌレに庚は成程と頷いた。鉄帝国に攻め込まれた経験のある海洋王国は『其れが起因してあの絶望を越えられた』としても、大手を振って支援する訳には行かないのだろう。だが、限られた貴族達の支援やラサや練達、豊穣などの物資配送の手を貸す事は商売として成り立つと考えている節もある。
「まあ、ウチも深緑に物資提供が終わった後……ラサとて、今後何が在るか分からないっすから備蓄はしておきたいっすけど。
 イレギュラーズがおねだりするなら多少はって所はあるにはあるというか、まあ、恩を売る相手にしては最上じゃね? って感じで」
 口調こそ砕けているが商人としての勘を有するフィオナはにぃと唇を吊り上げた。
「何にせよ、ダガヌなんとかを斃さなくっちゃ話は進まねーって事か」
「そうですわね。……交易に関してはその様にお返事差し上げましょう。
 それに、実はわたくしたちも現在の不凍港の様子は分かりませんの。一体どうなっているのか――
 調査を、とも思いますけれど、海洋がそうした手を裂く事が出来ないのも、また実情。この静寂を守るためにもわたくしたちは今に尽力せねばなりませんもの」
 カヌレは大きく頷いた。筆頭貴族コンテュールの娘としてこの国を何が何でも守らねばならない。
 故に、カヌレは責任を胸にこの場所に立っていた。だが、総督府のエルネストからの報告がどうしようもなく胸を締め付けるのだ。

 ――乙姫の代理は、世界から選ばれた天恵(ギフト)を持たずに乙姫の力を行使することになるの。
 だから、体や心は耐えられない。乙姫の力を体に使うたびに、あたしは何かを外に出さなきゃいけないの。
 それが、あたしの思い出。あたしがこれまで、皆と作ってきた、思い出が、今も少しずつ、薄れていく。
 これが空っぽになるまでに、メーアを助けないといけない。

「……おんなのこが、思い出を犠牲にしても皆様が作り上げた静寂を守ろうとしているのですもの。
 それを無視している場合ではありませんわ。何もかもを忘れてしまうだなんて、悲しすぎますもの」

 ※シレンツィオにて、第一次ダガヌ島攻撃作戦(<デジールの呼び声>)が完了しました!
 ※第二次攻撃の作戦が計画されています。警戒と準備をお願いします!

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