PandoraPartyProject
『新時代』
「喜べ。大いに喜べ――我が息子。遂に大山が動いたぞ!」
ノーザンキングス連合王国――
王国と名乗ってはいるものの、大陸北東部奥深くに勢力圏を構えるシグバルド統王の国は公的な勢力として正当性を認められた事は無い。
各々に強い言い分こそあれど、ゼシュテル中央とノーザンキングスの間柄はのっぴきならないもので在り続けてきた。時に歴代の王や政治家の間で多少の話し合いが持たれ、多少の均衡や小康状態が齎されたとしても、そんなものは結論の先送りに過ぎなかった。
――どの道、最後は力による解決以外にはあるまいよ?
シグバルドが認めるかどうかは別として、彼等にも鉄帝国の流儀と血が流れているのだから当然の事だ。
「新皇帝と我等は何の取り決めも持っていない。そしてそれは力による現状変更を認めたのだ!」
シグバルドが昂るも当然である。『本命』たる鉄帝国中央と即座に開戦するかは別にして、この状況は好都合に過ぎる。
全ての警察機構を解体するとした新皇帝に反発し、各地では軍閥が立ち上がりつつあるのだ。
壮絶な混乱の中、方面軍が正確に機能する目は殆どない。辺境(ノーザンキングス)と『国境』を接する領地に侵食するのは容易かろう。
「ああ、父上。俺もこの時を待っていた。
だから――何でも命じてくれ。首でも何でも幾らでも取って来るからよ!」
何時に無く上機嫌な息子(ベルノ・シグバルソン)の顔を眺め、シグバルドは力強く頷いた。
「まずはどうする? どう動く?」
「まずは時間が武器になる。状況を大きく動かすのは他方ではない。我等であるべきなのだ」
「ああ。と、なると――手始めは目障りな偏屈狼(ローゼンイスタフ)か」
口元を大きく歪め、凶相を見せた息子に父は薄笑いを浮かべて頷く。
鉄帝国の貴族であるヴォルフ・アヒム・ローゼンイスタフ家は『金狼』の名で呼ばれる精強な武人だ。
その『偏屈』な気質により中央から遠ざけられたとの噂も絶えない男だが、結果的に適材適所で最も面倒な辺境の要石となってきた経緯がある。
「長かったな――ここまで」
長年の宿敵の事を幾ばくか想いを馳せ、シグバルドは深く息を吐き出した。
「長かったが、これから全てが始まるのだ」
「ああ……」
野蛮であり、暴力的であり、露悪的でさえある――
だが、彼等には彼等の理と目的がある。凍土の先に見える未来は鮮烈な光か、永劫の闇か――
「戦争になる」
短く、端的に、何の遠慮も無く放たれたヴォルフの言葉はやはり暗澹たる響きを持っていた。
「恐らくは高確率でな。領土の開墾推進にせよ、兵の配置にせよだ。
……どれだけ抑制的に動いたとて、相手方に自重する気が無いのならそれは無意味な事になろう」
無責任な噂より、余程中央に信頼を受けているヴォルフは優れた領主であると共に軍人でもあった。
政治は好かないが、それに対しての見識を持ち合わせていない訳ではない。『国境』を接する宿敵(ジグバルド)とは長年の付き合いであり――彼の良い所も悪い所も知り尽くしている。
「……望む戦いではないがな」
敵か味方かと言えば敵だが、好きか嫌いかで言えばそう嫌いではない。
豪放磊落にして苛烈な辺境の王がどう動くのかを読めないヴォルフでは無い。
それが『何時』なのかは兎も角、『やがて来る』のは殆ど確信出来る事実でしか無かったのだ。
「やはり、不可避ですか」
ギルバート・フォーサイス――ハイエスタの村ヘルムスデリーの心優しき騎士である――は眉目秀麗なその顔をやや曇らせてそう呟いた。
戦争は何も生みださない。戦争は避けるべきものだ。これまでは『何とか』緊張を堪えてきたのに。
何処の誰とも分からない傍迷惑な皇帝は些細な気まぐれでその器を壊してしまったのだ。
ギルバートはその事実に何とも言えない虚無感と無力感を感じずにはいられなかった。
「私は鉄帝国には借りが――と、言うよりつく理由があるのでね。
戦争屋は所詮戦争屋でしかないが、力でこそ語らねばならない事もある。
それが男の世界なら――それが鉄帝国においてなら、尚更だ」
ギルバートの肩をポン、と叩いた軍服の男は榛名慶一。
元々は鉄帝国辺境の『紛争地帯』だった『鳳圏』で大佐の職を務めた男だ。実に食えない男だが、彼の言う『借り』とは鳳圏が紆余曲折の末、鉄帝国に編入された時の事を言っているのだろう。
ローレットを『てこ』にして政治的解決の図られた鳳圏は事実上の自治区として機能しており、落とし所として彼はまあまあ納得しているように見えた。
尤も言葉を額面通りに受け取っていいのかどうかも含め、この男は信頼出来る会話相手ではないのだが。
「力を貸すのも吝かではないよ、ヴォルフ卿。
それに若い騎士君、君も悲観する事は無い。
運命は何時でも残酷だが、これ程分かり易く切り拓ける未来を与えられているのだ。
『人は為すべきしか為せないし、為せる事は為すべきだ』。
禍が転じて福となる、と気休めを言う心算は無いが、人生等、何時も幾分かマシなものを選び取る連続でしかないだろう?」
歳の功を口にした慶一にギルバートは「ええ」と気を取り直した。
ゼシュテル全土に広がりつつある大混乱は誰にとっても他人事ではない。
数限りない『最前線』の内、一つ一つがこれからの祖国の、そして民の運命を占うものになる。
ギルバートが『騎士を語るなら』これは彼の奏でる物語の最も重要な一幕足り得よう。
理想を胸に、前に進む。そこにどんな痛みがあろうとも――
「兎に角、時間が惜しい。準備を進め、情報を集める。
我が領土だけではない。この後何が起きるのかは――例の皇帝以外、恐らく誰も知らないのだから」
ヴォルフの言葉は重いが――そこに畏れは有り得ない。
※『新皇帝』バルナバス・スティージレッドの『勅令』にゼシュテルが揺れています!
※アーカーシュでの戦いが終わりました。ローレットは『ラトラナジュの火』を撃つための設備を手に入れました。
※鋼の咆哮(Stahl Gebrull)作戦が成功しました。イレギュラーズの勝利です!
※アーカーシュの高度が回復しました!
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