PandoraPartyProject
灰の雷鳴III
焼け焦げた絨毯、乱雑に散らかった装飾。
宮殿でも一番頑丈な玉座の間を支える太い石の柱にはヒビさえ入っている。
あちこち、そこかしこで破壊の爪痕が隠しようもない程の自己主張を続けており、この場所で起きた『事件』の大きさを知らしめていた。
「全く……ありゃあ本当に人間か?」
一人になった『戦場』で男は――バルナバス・スティージレッドは半ば呆れたような声を発していた。
今回行き当たった状況は元々の予定とは既に随分違う。
そもそも今回の帝位挑戦がこのタイミングまでずれ込んだのは『気乗りがしなかったから』に過ぎない。
それもその筈、煉獄編冠位なる大魔種の中でも彼は特別な一だったから。『たかが人間相手にいざ尋常なる戦いに赴く等、眠過ぎる』。
割り当てになったゼシュテル鉄帝国の気候風土と、彼の趣味からして『これ』は既定路線に違いなかったが、何れも曲者たる冠位なら、気乗りしないバルナバスが遅れたのは実に自然な成り行きだろう。
だと言うのに、この戦いは一体何だ?
「聞いてねぇと言えば聞いてねぇが――まぁ、確かに確認もしてなかったからな」
一人ごちたバルナバスは幾つかの痣と手傷を撫でて実に身勝手に納得していた。
――丁度いい。七罪って連中がどんなモンか知りたかった所でね。
――いやあ、大した力だが。俺の方が幾分速いぜ?
――追いかけっこでもしたいのかい? 別に構わんが、俺が折れるのは期待してくれるなよ!
「……いやはや。ありゃあ中々どうして。獣だな、唯の」
対戦者は飄々と見せかけて随分と獰猛だった。
続く程に本質が明らかになる『憤怒同士』の戦いは人間を己に並び立つと認めていないバルナバスをして素晴らしい時間と言わざるを得なかった。
常人が刹那で死ねる殲滅空間は昼夜を平気でぶち抜いて馬鹿馬鹿しい位に長く続いたものだ。
七罪でも最強を自負するバルナバスが身の危険を感じたのはあのルストとやり合った時以来の事だった。
それを達成したのが魔種でも竜種でもない唯の人間だというのだから、驚く他は無い。
『一体どんな冗談で自分と一対一の戦いが成り立つのか時間があるなら聞いてみたい位だった』。
「……ま、だが。一先ずは予定通りだ。中身は兎も角、予定通りだ。
そっちはそっちで愉しめたから、尚更良かったんだろうがよ」
バルナバスは幾らか草臥れた顔をして、無人になった玉座にどっかと腰を下ろした。
蝶のように舞い、蜂のように刺す――そのスピードは飛燕の如しか。
されど、蝶や蜂や飛燕では規格外の巨獣を仕留める事等出来はしない。
玉座を染める緋色の海がその証明だ。
砕け散った鎧の、剣の破片が言葉よりも雄弁に物語っている。
「……さっきのは、死んだだろ」
手応えは十分だった。
「死んだだろ? 所詮全部――無駄なんだよ、皇帝陛下」
玉座のバルナバスは『天井に開いた大穴』を半眼で眺めて小さく呟いた。
ゼシュテル最強の男の奮闘も、これより始まる狂乱を一日と少し遅延したに過ぎない。
それ以上、何の意味も無い。
幾ばくも経たぬ内に灰色の雷鳴が空を灼く。
この戦いは――いっそ、華々しき号砲のようでは無かったか?
「イカレ野郎に敬意を表して――まぁ、そういう事にしておくか」
僅かに痛む自分自身を自覚した時、バルナバスの凶相は上機嫌に歪んでいた。
※ゼシュテル鉄帝国首都スチールグラードで異変が起きているようです……
※アーカーシュでの戦いが終わりました。ローレットは『ラトラナジュの火』を撃つための設備を手に入れました。
※鋼の咆哮(Stahl Gebrull)作戦が成功しました。イレギュラーズの勝利です!
※アーカーシュの高度が回復しました!
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