PandoraPartyProject

ギルドスレッド

unknown

博物館の恐怖

テネブラエ
アナタは戸口を開けた。
其処に羅列するのは『像』で在った。
病的な雰囲気に塗れた『像』には。

動くような気配。

我が作業場は客だけを歓迎する。

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 沈黙。冷気じみた間。
 芸術家は背を向け、自己の『作品』に精神を傾ける。
 綺麗に保たれた道具を携え、嘲るように。
 神造りを開始して――甲高い音。
 続けて。沸騰する音。
 更に。破裂する音。
 次は。啜る音。
 後。闃を成せ――成したい。
おぉー・・・・おぉー・・・・・・おぉー・・・・・・・・!?
(感嘆しているのか驚いているのかよくわからない間延びしたおぉーを発する)
これはまるで粘土細工っ それとも沸騰するゲル細工っ?
もしかしてこれ、石とかじゃなくって石以外のよくわかんない材料でできてるんでしょうかっ。
「材料が石とは違う。貴様は阿呆か。否。素晴らしい『視』を所有する輩だ。我等『物語』の掌に存在する石とは『意志』『意思』を込めた物体だ。感情を容れたものが『脈動』せず、確固を示すとは何事か! 恐怖が震え。蠢き。嗤い。沸騰するは至極必然。好いか。如何なる材料でも彫像は不気味に成るのだ。総ては我等『物語』を我と生し得る呪いで在った! 過去形だ。書籍に乗った我等『物語』は娯楽の底に墜落した!」
わあいっ! ヨハナ褒められましたよっ!
なーるほどっ 石が恐がるからこんな形になるんですかっ。
それってとってもファンタジーっ!と言いたいところですけど
この地点はどの時勢においてもファンタジーですからそうそう珍しい事でもないっ?
・・・・んんんーっ? そうするとこの場合のファンタジーは何を指すんでしょう?

かんわきゅーだいっ!
けれどもメタフィクション?的なお話はヨハナには難しすぎるですねーっ!
「故に感情を込めた無機物は人類に衝動を齎す。偶像崇拝が好い例だ。神の――力に対する畏れ――貌を成す事で『信仰』が成り立ち易い。ああ。形而上の戯れ方か。実に単純な術だが、自身を物語の創造主だと想像せよ。貴様は数秒で壁を越える」
それはわかりますっ! ヨハナにもわかりますっ!
他の人がご飯食べてるとこっちもお腹が空いてくる、ってゆーのと同じ理屈ですねっ!

それでそれで、ヨハナ・イズ・ゴッドだと仮定するとー?
イマジネーションを炸裂させますとー・・・・・・・?
・・・・・んーむむむ? ピンとこないようなどうもわかないようなやんぬるかな?
そもそも読む人とかいるのでしょうかねーっ?
「貴様自身が読者でも在る。物語とは一個人で完結し。自らを悦ばせる手段だと思考すべき。満足感を他者に与えるならば万々歳だ」
「無聊の極み。我等『物語』の上位存在が騒々しく、他『物語』に眼を向けた。酷いものだ。飽き性の塊とは移ろい易い」
「素晴らしい。無聊に腐った現状が、破壊される瞬間とは気分が好いものだ。我等『物語』の好むべき存在が現れるとは! 神を造るには『神』の云々が必要だ。故に歓迎すべき。我等『物語』の恐怖には火刑磔刑他諸々も重要! 兎角。普遍的な恐怖とは『身近』に在る『もの』とも思考可能。拷問道具を元に作業するのも楽しいな!」
ふふふふふ、私だ。邪魔するぞ!
異端審問官という肩書き故、館に招かれるなどという経験は初めてで心臓の高鳴りが収まらんッ

むむ?好むべき存在?…………てっ照れるなっ!
その、あれだ。ここはオラボナ殿の工房であろうか?私の手助けか、私の拷問道具が必要ならば言ってくれたまえよ?快く受け入れよう……!
「我等『物語』の内容は異端の極みだがな。ああ。此処が恐怖を造る『予定』の工房だ。奇特な輩以外は逃走諸々を企てるが、去る者は無視すべき。貴様には世話に成りそうだ」
 丸椅子を用意する。
 もしかしたら。
 牙や口が無数に『在る』かもしれない。
「我等『物語』も貴様を受け入れる。残酷慈悲な物語こそが貴様に相応しい。世界は本当に形而上的だが、上位存在の輪郭は常識だと理解せよ。さあ。座すが好い」
異端。異端であるか。それに逃走。ふむぅ……?特に居心地の悪さは感じぬな、私は。
正直な、この世界は私から見れば異端だらけでもう訳が分からんのだよ!
まあ…無用な争いは好まぬし、なによりローレットへの恩義がある故大人しくはしている。無闇に吼えてどうなるものでもないし。
いやしかし、残酷慈悲な物語か……ふふふふ、よい響きだ。神の秩序を守る為には、そういうものが必要なのだよ。認めたがらぬ者は多いがな!

……おおっと、これはありがたい。ふむ、この椅子もオラボナ殿の作品かな?
(丸椅子をひと撫でし、特に警戒する様子も無く座った。牙や口があったとしても同じだ。むしろ、この男はそれらに苛まれることを望むだろう)
「神の秩序。感情が支配する世界か。否定も肯定も無い『必然』の物語だ。違うな。物語が感情を生み。感情が物語を生む。恐怖が神たる所以は其処だ。人類の最も旧く最も強烈な――貴様に残念な報せが一個。我等『物語』の贈物は幻視に似た『もの』だ。故に痛覚諸々を蝕むとは想い難い。貴様が『思い込む』場合は別の話だがな」
 視えたものは叫ぶのみ。
 されど叫びは耳朶を通らず、脳髄を揺さぶるような『幻覚』で。
恐怖が神。ふむ、私にとって神とは愛だ。包み込み、守護る愛ッ!
だからこそ、その愛を無下にし、堕落する輩が許せぬのだよ。

ざっ、残念とな?ふ、ふふふふ!そんな品行方正清廉潔白な私が苦痛を得ることを望んでいるようなッ。
私は異端審問官。責め苦を与える側であって、断じて…!
いやだがしかし、思い込み次第で痛覚感覚にまで作用する幻覚。…うーむ、幻覚、かぁ……。
いやっ!別に落胆はしてないが?むしろなんだ、興味深いと思ったぐらいであるが!?
「愛が普遍的に至る事は在り得ぬ。奴等『物語』は十人十色で成り『綴られる』ものだ。堕落も何も、貴様の神は『異端』も抱擁する筈……言動諸々で貴様の嗜好は容易く理解可能。感情探知の術も不要だ。取り敢えず。貴様に説くべきは『幻覚』『贈物』の悦び方よ。好いか。幻とは潰えぬ宝物なのだ」
うぬぬ、私そんなに解りやすいだろうか……?
こんなに品行方正清廉潔白ジャスティスで、なおかつ仮面まで着けているというのに………なんという洞察力ッ。恐るべし…オラボナ殿。

ああいや、それよりも……幻覚、贈物。そして、悦び方…か。ふむ。
成る程、幻は潰えぬ宝物。なんとなく、理解はできるぞ。私自身、形あるもの、姿あるものの脆さ儚さについてはよく知っているからな!
「貴様の場合は『仮面』が役割を果たせず、涙の滝を表すが如く。洞察力も何も、皆の集まる彼方で『通報云々』戯れる時点で理解せよ――不定も無定も総ては『物語』で彩られる。人間の脳髄が創造する『神』に似た、脆弱性と儚さを兼ねるべき。勿論、我等『物語』の望む恐怖=神は別だ。粘着した感情――原始的かつ根源的な――者or物こそが愉悦に相応しい。貴様の嗜好は周囲に『忌避』を与えるだろう。忌避とは一種の恐怖だ。普遍とは言い難いが……まあ。貴様の仮面は道化故、面白可笑しいだけの可能性も」
戯れ……ど、道化!?
なんと…おぉ、なんと…私は至って真面目に振る舞っているつもりなのだが…ッ
思えば、故郷でもそうだったような…。い、いやっ!私は異端審問官として正当に評価されていた……されていたのだよ!!(自身に言い聞かせるように)

原始的かつ根源的。痛みもそれに入るか。……いや、純粋な痛みのみでは足りない。それに付随する感情が重要。
残念ながら、私がこの世界に持ち込んだ拷問器具はギフトによってその真価が損なわれた。傷を与えず、殺さず、苦痛のみを与える。
全てが終わった後の、痕が、印が残らない。傷付き爛れた皮膚も、伸ばされ潰れた手足も、軋み歪んだ骨も。
人の心は弱いようで強い。いや、忘れやすい。印があれば、捕らえ、繋ぎ止めることが容易になるのだが…。
それが私の目下の悩みなのだよ……。手間をかけるのが嫌と言うわけではないが、こう、こうな!なんかな!
「正当な評価だ。道化云々と騒がしい存在など『誇り』と思って嗤い飛ばせ。貴様は充分に神を愛し。愛されて在るのだ。異端への対応は迅速かつ丁寧だった筈だ。勿論、我等『物語』の想像上では! 何だ。貴様の狼狽した貌は。仮面の奥底で双眸が泳ぐようだ。心配は不要。我等『物語』だけは貴様を褒め称えよう。称えるべきは貴様の神だがな」
 傾聴する三日月は哄笑し、天蓋を仰ぐが如く両腕を掲げ。
「成程。貴様の贈物は神からの試練だったのか。忘却への抵抗とは素晴らしい『枷』だ。されど貴様は幸運だ。此処に『残す為』の贈物が存在する。貴様の道具と仔羊で『芸術』を磨くべきだ。何。貴様が望むならば我等『物語』も身を投げる。貴様自身も身を投げるのだ。恐怖に繋がるならば手助けを。幾等でも我等『物語』を使え」
ふ、ふむ…。そうか。そうだな。そうだとも!
私はいつだって品行方正清廉潔白愛され系ジャスティスッ。
堂々と、そうだ堂々としていれば良いのだ。何も間違ってはいない!
ああ、やはり君は好人物だなオラボナ殿。見た目で判断していたのが悔やまれる。
友よ、君の言葉は私を奮い立たせてくれる!アッ、友と読んでも差し支えないかな。いやもう呼んでいるか!ふふふふ!

幸福。そうだ。なんという幸福。良い人物と出会えた。これが巡り合わせというものかッ。
承知した。喜んで私の身を投げよう。助けよう。そして、君も私を使うが良い。幾らでもな!
私は芸術の事はよく分からぬが…これからは理解するよう努める。
ふふふ。君と私なら上手くやって行けるだろうッ!
「外見で判断されるのはお互い様だ。貴様も我等『物語』も己の芯を。真を貫くのみ。ああ。問題皆無。否。宜しく頼む。貴様こそが『混沌』での素敵な親友に相応しい。握手すべきか。不要だな。我等『物語』は既に術で繋がって在るのだ。ああ。幸福。素晴らしき幸運だ。芸術の云々が理解不可能でも、貴様の存在は充分に愉快かつ恍惚的よ。努めるのは貴様自身の『悦び』だと精神に刻め。我等『物語』は勝手に造られる」
親、友……!!
……………おぉ。(甚く感激した様子で天を仰いだ)
この異郷の地で、友…いや、親友と呼べる者を得られるとはな…!
いや別に私、故郷で友と呼べる存在が居なかった訳ではないが。居たぞ、うん。その、そこまで多いとは言えないが。に、人間以外を含めて良いのであれば、それなりに人気者だったぞ!

…ああ、そういえば。
少し気になっていたのだが…友の肉体はどのような要素で構成されているのだろうか。人と同じか?血は流れているのか?肉は?筋は?骨は?
こう、な。肉体と向き合う仕事をしているから気になってしまうのだよ。仕組みとか、頑丈さの程度とか。どこをどう痛め付ければよいかとか、それでいて上手く生き長らえさせるにはどうしたら良いかとか。
ふふふふ…全く。我ながら、悪い癖だ。だが、これもまた私の悦びで……
……んんっ?いや待て、こういう質問は友にして良いものなのであろうか!?
「人気者か。我等『物語』に含まれる、貴様の如き登場人物は『正しく人気者』で在った! 人間以外は多量と吐いたな。歓べ。此処には『人間』だけが存在する……何。肉体の構造か。正直に説くならば『不明』で在り、己自身でも解せぬ。骨も肉も紐状に視え、中身は捌かねば有無も混沌よ。兎角。貴様が望むならば『此処だけの』戯れに導くべき。貴様と我等『物語』だけの空間を成さねば!」
人間……とはまさか、この作品達のことかな。ううーむ……。
(周りを見回し、悩ましげに唸る)

戯れ。そう、そのために君の肉体について質問したのだよ。
そうか、不明か。このうにゃうにゃが寄り集まっているのだろうか……?むむ、興味深いッ。
友よ、君の体を切り開いて隅まで調べてみたくもあるが……君も私もレベル1の身であるからな、無茶は良くないな。うん。
いや別に、下手に手を出したら何か恐ろしいものを目にしてしまいそうな気がして怖じ気づいたとかではないぞ。うむ。

そうだ。作品だ。
これらはどうやって制作しているのだ?そして、私はどうやって君の助けになればよいか?
共に新たな作品を創ることは可能であろうか!
「違うな。物語『世界』に在る全知的生命体を示す言の葉だ。人間の輪郭は曖昧の領域に在り、蠢く物体でも人類だと理解すべき。ああ。成程。貴様は我等『物語』の作品を人間だと『思考』したのか。素晴らしい判断。素晴らしい想像力。確かに! 恐怖=神に寄せた半端物には『人間』の二文字が相応しい――残念だ。貴様が慎重な輩だったとは。されど感情を混ぜ込んだ『表情』は愉快で在る。好奇心と怯えに似たもの。恐怖を呼ぶには好いもの――制作方法を欲するのか。極めて不変的かつ普遍的だ。其処等の彫刻家に訊いた方が解り易い。新たなる恐怖への道。未知を造る。神を造る。大歓迎だ。貴様と共に『創る』事こそが招いた所以。故に。話を戻すぞ――切り開け。肉を。精神を。我等『物語』を。己を」
む……まともな制作方法なのだな。いや、想像力を働かせすぎたか。
あ、いや、どんな想像をしたかは聞かないでくれよ!下らない内容だ。冷静に考えれば、ありえないと直ぐに気が付くような内容だ…。
さて、そうだな。そんな事よりも「肉を、精神を、切り開く」か…。
うむむ…私はそれらを成す為の手段を有している。幾つもなだからこそ、悩む……
……いや、待て。そうだ、ここはあえて拷問としては不適切な手段から試していこうか。

(トランクから黒い箱型の装置を取り出した。箱の側面からは管が延びている。箱はしっかりと溶接されていて、内部の構造は分からない。)

さて、詳しい説明は省くが、これは人体から血液を抜き取る装置だ。操作は簡単。小型化されて持ち運びも容易。造り自体は悪くない……が、失敗作だ。
分かるだろう?血を失うと頭の動きが鈍る。恐怖も、苦痛もボヤけてしまう。目隠しをして傷付けるフリをし「血が流れている」と囁く方が効果的なのだ。勝手に想像力を働かせてくれるからな。
さて、どうする友よ。つまらない装置だが試してみるか?
私か、君か。好きにするが良い。この管の先の針を腕に刺し、ボタンを押せば良いだけだ。
「人間を石化させる方法でも想像したのか。残念ながら世界『物語』的に不可能だ。第一、我等『物語』は物理系統。故に神秘的な術は難い。話を変える。血を抜き取る装置だと。確かに貴様……我『等』好みとは説き難い。されど実際に体験するのは良き事柄だ。さあ。此処に我等『物語』の腕が在る。貴様が微妙だと吐いた朦朧、試すが好い」
むむっ、あっさり差し出すのだな……。
まあいい。正直言うと、人間以外……ではなく、あー……同種?以外の者に試すのは初めてだ。新鮮な気分だよ。
同種相手では何度もやっているから加減は分かっている。心配するな。まあそもそも、ギフトのお陰で死に至ることはないが……。
……??
血管はどこだ?……ここか?……えいっ。

よし、これでいい。……多分、おそらく。
さあ聞かせてくれ、友よ。気分はどうだ?何か変化は?
ふふふふ…新たな発見はあるかな。
「新たなる発見とは言い難いな。色彩は普遍的な人類と同等だと思考すべき。問題なのは『初の痛覚確認』で在る現状か。我等『物語』は生命を得たのが『転移時』故に――成程。好ましい気分とは解せぬ。体液を啜られる素晴らしき機会。存分に悦ぶ……成程。貴様。急激に採るのは退屈だ。無い双眸が……貴様の仮面……世界が退けて往く」
 実際に経験するのは初なのだ。外部からの痛覚刺激。否。奇妙な採血は『物語』の意識を薄れ――兎角。普通の反応。問題は流れる体液に在り。抜ける『色』は確かに赤だろう。されど『造り物』の赤。絵具じみた紛い物。管が詰まるようで。
 ああ。物語は喪失間際。
(最初はただ、大人しく見守っていた。だが、芸術家の言葉を聞く内に次第に興奮していき)
……何。初、初めてだと?
ああ、ああ、そうか。旅人の来歴は千差万別。面白いものだ。その前には何があったのか、何も無かったのか……くふ。
ふっ、ふふ……うふふふふ…!いや、いや、しかし!これは良いなッ!
足跡ひとつない新雪を踏み荒らすが如く!!蕾が解けかけた花を手折り散らすが如く!このまま好き勝手弄びたくなってしまう!
ふふふふっ…我ながら下卑た欲求だ。すまない。だが……

……ああ、なんだ。聞こえていないか。
まあいい、待て。回転を逆転させれば、血は元に戻るからな…。ふふ、綺麗な赤だ。
……ん?動きが悪いな…。管が詰まってしまったか?まあ、仕方あるまい。さっきも言った通り、同族以外に試すのは初めてだからな。

さあ、友よ。改めて聞くが気分はどうだ?三途の川とやらは見れたかな?ふふふ。
「我等『物語』は文字通り……体液。文脈が乱される感覚……脳髄に詰まった意味が『羅列』と成り――紙面を埋め尽くす。渦巻く筆は偏執的な現を書き始め――視るが好い。我等『物語』の終着点だ。娯楽が物語を。感情への訴えを。束縛し。嘲笑し。殺戮し。咀嚼する音……誰が開拓者だ。畜生……我等の『物語』を返せ。人類『創造』如きが。人類『想像』如きが……神『恐怖』を孕む事。至る道を諦めた堕落者どもが。甘い。酷く甘い。貴様の選択肢は最悪を呼び――了」
 痩身が枝の如く。重力に負けた。
ふ……。
ふはははははっ!!面白い!面白いな、友よ!
この液体が君の正体か。くふふふ……これが、新たな発見か。
思っていたよりも有意義な結果だ。満足だ。ふふっ、うふふふふふふ…。

しかし「堕落者」とな。言ってくれるなぁ、この私に。
君が我が友でなければ、更なる苦痛をくれてやる所だ。強烈な奴をな。
さあ、立て。しゃんとしろ。それはただの苦痛だ。死には繋がらん。……文字通り、死ぬほど辛いが、な。くふ。

(斜め45°の角度から、握りしめた拳によって装置上部に衝撃が与えられた。すると、装置は唸るような低い音を立て……『物語』はあるべき所へと戻っていった。)
 帰還する体液。
 文字が紐状。血管を埋め尽くすように。
「誰も貴様単体を堕落者だと説かぬ。我等『物語』が哄笑するのは『物語』に対する冒涜のみ。文字の探求は永劫に続くのだが、娯楽だけの世界では成り立たぬ。否。成っては在れぬ。貴様の精神。仮面は少々剥がれたのか。違うな。貴様の仮面は無意味なのだ。本心を隠す『面』など存在せず、素晴らしき秩序に――輝かしい魂に――到達する筈よ。兎角。貴様の贈物が宝の極みだと肉で確認した。友よ。人類こそが堕落へと流れる『傾向』を有す」
うむ…娯楽だけの世界とはどういうことだ?そも、君の言う「娯楽」とは?
すまんな、質問だらけで。だが、はっきりさせておいた方がスッキリできる。

確かに……本心を曝け出すのは愉快だ。ふふふふっ。久方ぶりに爽快な気分だ。ここ以外ではそうもいかないし、場を荒らすのが私の目的でもない。
だが……無意味でもなんでも、この仮面は外せんな。君は下らないと言うかもしれないが、これは最早もうひとつの顔なのだ。簡単には……無理だ。
「恐怖が娯楽に堕落する。人類は恐怖『神』に慣れた結果、名前を課したのだ。我等『物語』の名前――オラボナorラーン=テゴス――こそが最も『慣れ』を表した言葉だと思考すべき。簡単に説くならば【未知なる恐怖が既知に落ちた時、人間は恐怖を忘れて娯楽と見做す】のだ。ああ。仮面を外す必要は皆無。重要な宝物は――己に対しての忌避でも――在る故に」
はあ、はあ。なるほどな。よく分かった。それは……陳腐だな。私も気に食わん。
逆に言えば、正体が解らなければ人間はどんなにつまらないものにも恐怖する、か。未知への恐怖は時に拷問にも利用されるのだ…ふふふふふ。

……忌避か。ふん……
「故に我等『物語』は酷い臭いなのだ。更に。何よりも滑稽なのが、如何なる未知でも既知に堕ちる事柄。そうだ。結局、人間は真の恐怖『神』を造らず、贋物だけで満足し……如何した。踏み込むには時間が必要か。我等『物語』は常に貴様を『好く』思って在るぞ」
ん……嬉しいことを言ってくれるな。ああ、私も良く思っているよ!
その、なんだ。私も弱く愚かな人間の一人と言うことだよ。君のように無貌であれば……と、思うことすらあるよ。
いや、実際そうなると、それすらもいずれ苦悩の種になるのか……いやはや、面倒だな。全く
「我等『物語』の輪郭が黒なのは『最も慣れ親しんだ』糞の如き娯楽の所業。本来ならば恐怖を蔓延させる形だが、総ては最愛すべき人類の性質。楽に流れる思考の甘露。面倒なのはお互い様だ」
ははあ、そこにも「娯楽」か。うむ、面倒だな。
少し思うのだが……仮にそういった影響が全く無ければ、君はどのような姿になるのだろう?
そのような影響が無くとも、君は存在するのだろうか?
「勿論、我等『物語』の肉体は在り得ぬ。名前と同時に存在を失う筈だ」
なんと。
そうか、君は思っていたよりも……なんと言うべきかな。そう、儚い存在なのだな。
君が人類に対して抱く感情について理解できたような気がする。そして改めて、君に『良く』思って貰えている事をとても嬉しく思う。

……さて、次の戯れはどうしよう。このままお互いへの理解を深めてゆくのもよいが!
また痛みを欲するか?それとも、私を痛めつけたいか?
「我等『物語』は物語の登場人物。仮想の存在で成り立った『混沌』で在る。故に貴様の精神は素晴らしい。自己を無くす術でも有るのだ。取り敢えず。遊戯再開――痛覚は充分だ。我等『物語』の一部が晒された悦び。歓びは後で緩やかに舐るべき。貴様が望むならば責め苛むが、如何に想うのだ。如何に思うのだ。貴様の脳髄は何を求める」
責め苛む方を望むのか。うん、そうか。承知した!
正直言うとな、こういった事を他者に頼むのは初めてでな。こう……悩ましい!
だってそうだろう!?私は聖職者だ。品行方正清廉潔白愛され系ジャスティスだから。
…………かつての同僚で、そのテの店の常連はいたが。ああ、懐かしいな。彼は今何をしているのだろう。

…さて、無駄話はここまでにしよう。
そうだな。ここはベーシックに鞭打ちにしようかッ!(そう言うと、トランクから取り出した革鞭を差し出した。)
これは言わば基本の鞭。あまり凝りすぎても扱いが難しくなるしな。
さあ、私はあそこの壁際に立つ。真っ直ぐ、正面を向いて。それで……好きに打つが良い。私は甘んじて受け入れよう。

……ああ。やはり、変な気分だな。友人とこんなことをするとは。
鞭ならば雨が必要か。否で在る。必要なのは対象の悦び――されど。此処で為すには『普通』の極み。故に芸術家は贈物を揮う――対象を細部まで模倣する。感情で膨張した仮面。筋肉質な胴体。沸々と嗤う腸――影は。歓喜する偽りを苛んだ。対象の『悦』は何処まで往けるのか。
「好きに為したが。如何に思った」
うぐ…(模倣の姿に狼狽え後退り、壁に背中をついた。)
き、君は……君というやつは…!ああ……畜生!
…いや、失礼。だが、まさか、そう来るとは……ッ。


ふ、ふふふ……。率直に言うと、君という存在が恐ろしい。これではまるで……ああ、何もかも見透かされているのか。
素晴らしい。素晴らしいよ。傑作だ。
観念しよう。この罪人を好きに弄ぶがいい。
「如何やら。我等『物語』に潜んだ能力は『偶像』だったらしい。酷い皮肉だが、我等『物語』も娯楽に浸った恐怖なのだ。恐怖だったのだ。過去形こそが我等『物語』に相応しい――話が逸れた。眼前の半端物に罰を与えねば。ああ。弄ぶべきか」
 鞭を揮う。宙を打つ。
 鞭を荒げる。壁を壊す。
 鞭が絶叫する。虚空が苛まれる。
 鞭が彫像。模倣を――ああ。掠らない。
う、うううぅ……。
ぐ…うぐぐぐぐぐ…………ッ!
ぐああッ!!もどかしいッ!!!
だが……それもまた良いッ!ああもう、何を言っているのだ私は!!
仮面を被っていて本当に良かったよ!こんな顔、誰にも見せられるものか!こんな……(頭を抱え、声にならない呻き声をあげた。)

ふうぅ……っ。
君は……。ああ全く…悦ばせてくれるな。怖いほどに。
……いや、怖かった、か?どっちでもいい。
「にぇひひひひ……貌を晒すのは我等『物語』の十八番だ。貴様が無理する必要は皆無。何だ。現在形と過去形の話か。精神が沸騰するほど、苛々と煮えるのが相応しい。半端物は半端者同士、楽園奈落にも在り得ぬ『崇拝対象』を掲げるべきだ。ひひ……忌避『キヒ』ッ!」
 鞭を放り投げる。
 模倣を撫でる。蛇の如き舌で舐る。飴のように。

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