PandoraPartyProject

ギルドスレッド

月見酒の縁側

クロバ私室【1:1】

――カムイグラでの決戦が終わり、妖精郷での戦いに引き続いた大きな騒乱はひとまずの静けさを迎えた。

深緑内の自領に仮住まいを構えたクロバは自室にて大きなため息をついた。

「……まったく、バカだよなどいつもこいつも」

”彼女たち”の感情も理解できる。
ただ――それでもし帰ってこれなかったらどうなる?
置いて行かれるこっちの気持ちを考えたことはあるのか?
つい、そんなことを思いしばらくシフォリィですら少し距離を取ってしまっている日々が続いていた。

まったく馬鹿だよな……俺含めて。


そんな黄昏ていた時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

(シフォリィとの1:1RPスレです。該当PC以外の発言はご遠慮ください)

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深緑まで足を運び、新たにしつらえられた住まいへ足を踏み入れる。実のところ、ここまで足を踏み入れるのは初めてだ。
今日ここに来たのはほかでもない、クロバさんに会う為。奥へと向かい、扉の前に来たところで、足がすくむ。
───いまさら、どんな顔をして会いに行けばいいのだろうか。
共に歩むと誓った大事な人が居ながら、私はあの時、己の命を使ってでも、事をなそうとした。
親友の為に、命を懸けたところで、精いっぱいだったというのは理由にならないというのに。

それでも、私は、向き合わなくちゃいけない。謝らなくちゃ。意を決して、木製の扉を敲く。一度、二度。
「クロバさん、いらっしゃいますか?私です……シフォリィです。今日は、貴方に、話があってきました」
「……」

返事をすればいいものの、声を詰まらせる。
ここまで来た用件には大体の察しはつく。
しかしどんな顔をして出迎えればいいのかが、彼女に対していつもどんな感じで言葉を交わしてたのかが今は分からなくなっていたから。

「――あぁ、いるよ。今開ける」

待たせても悪いし、意を決して扉を開く。

「……やぁ、遠いところわざわざようこそ」

我ながらよそよそしい態度だなと内心苦笑が漏れる。
玄関先で話しこむよりも中に案内した方がいいだろう、とそのまま彼女を中へと通した。
失礼します、と部屋の中へ足を踏み入れる。深緑らしい木のかぐわしい香りが入ってきても、心はざわめいたまま。
何からいうべきか、いわなくては、なんでもいいから。
「あっ、あの!」
ようやくだせた声が上ずる。普段通りに言えばいいだけなのに、その普段通りすら、まともにできなくなっている。
こういう時の為にちゃんと用意もしてきた、大丈夫、私はやれる、やらなくちゃだめだから。
「その、本日はお日柄もよく……あっ、えっと、こちら、私のところの特産品のお茶なんです、もしよろしければ、その。ご賞味ください」
違う、私は、そんなことを言う為だけに来たんじゃない。
「あ、あぁ……ありがとうな」

茶を受け取りつつ、正直身構えていたがために少し狼狽えてしまった。
だが彼女の声や顔色、様子からしてきっと言いたいことはほかにあったのだろうかと。

「……なぁ、話、って何かな」

沈黙が続き、心が締め付けられそうな思いの中。
意を決して話しかける。

「……そこまで緊張した面持ちで来た、ってことはきっと何か言いたくて来たんだろう?」

それに、君がそんな様子でいるのはとても、見てられない。
「っ……」
そうだ、いつだってこの人は、私のことを思ってくれているのだ。そんな人に、私個人のためらいだけで、足踏みするなんて、してはいけない……いや、したくない。

「クロバさん……私……」

喉から出かけた声が戻ろうとする。だめ、そんなことはさせない。私は、言わなくちゃならないのだから。

「私は、貴方を、裏切ってしまいました、貴方が居るのに、私は、命を捨てようとした」

ようやく出た言葉。私はこの人を裏切った。

「貴方と一緒に歩むって誓ったのに、貴方にこの命を助けられたのに、その命を、私は親友の為といって捨てようとした!私は……ごめんなさい、ごめんなさい……!私は、貴方とともに居たかったはずなのに……!」
「………」

”気にしなくてもいい、君は君のしたいようにやったのだ”と、口にできなかった。
したくてもできない。
何故なら――

「……わかってるのなら何故そうした。あの言葉は嘘だったのかよ」

思わず握った拳が震える。
違う、こんな事を言ってやるべきではないのだと。
頭ではわかっているのに心で納得できないでいる。

「俺を置いて行ってもいいと――そう、お前はしようとしたんだぞ」

”また”選んでもらえないのかと。
あの男と同じように、信じた誰かに置いてかれてしまうのかという心の疵が素直に彼女を受け入れようとはしてくれなかった。
「ごめんなさっ……私、私は……!」

彼の言葉が胸に突き刺さる。言い訳なんてできない、あの時、私は自分のことを選んだ。

「嘘じゃない、嘘じゃないのに、私は、それを嘘にしようとしてしまった……!貴方がどれだけ大事なのか、私自身でもわかっていたのに、いなくなれば、貴方を置いていくことをわかっていたのに、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「言葉だけならなんとでも言えるだろ……」

悪態をつきながら、彼女から目を逸らしてしまう。
分かっているんだ。彼女はそれでも自分の大切な絆の為なら頑張ってしまう。
それを認められないのは――俺の弱さのせいだ。

(……ほんとさ、バカだよな)

自嘲気味に笑いながら、頬をかく。

「――この世界に来る前、俺は一度死んだんだ。この左目と左腕はその時に吹き飛んだはずなんだけどいつの間にかくっついてたものなんだよ」

突拍子のない話。
彼女には本来なんの関係もない、自分自身の話。でも、語り始めたのは理由がある。

「あの男、クオンに裏切られた時の事だ。
内心超えて、認められたいと思ってた男に捨てられて、妹を失って。俺のすべてだと思ってたものが全部無くなった。
だからもう何もなくしたくないって求めることをやめたんだよ一度。
でもこの世界に来ていろんな出会いがあって、世界が広がって――君を好きになって。

もう失わない為に強くなろうと意固地になってたし、恐れてもいた。
だから俺はこうして君に対して正直なところ、怒りと苦しさを感じている」

今まではこうだった、でも先の”決戦”で知ってしまった。

「――なぁ、もしかして君はエルメリアの事を親友の妹以上に”他人とは思えなかった”んじゃないか?」

断片なれど、ギフトで拾った記憶。

「なぜ君をあそこまで駆り立てたのか、真実を知ったうえで向き合わねば……俺も答えを出せない」
「っ…………」

語られた彼の過去に、自白に、そして、投げかけられた疑問に、息が詰まる。

私は彼のその体の理由を本当の意味で知らなかった。
私は彼がなぜ失うのを恐れたのか知らなかった。
私は彼にその事を気づかれたことが、なによりも。

「私は……私は、彼女が何を失ったのか、予想、ついていました。彼女が何をされたのか、なぜ姉が居ながら、あそこまで堕ちたのか……帰るべき場所を、望みを失う事がどれだけつらいか、知っていたから」

そう、私は、気づいていた。堕ちるほどの理由は、そうそうなくて。でも。

「でも、私は、それ以上に、私は……知っていたんです、彼女が、どうして、落ちてしまうほどの何を、想いを、秘めていたのか」

それは、ずっとずっと昔交わした、二人だけの約束。

「私は、彼女にも、アルテミアにも明かせていない、彼女の秘密をずっと、知っていたから。そして、それが、外に出るのが、何よりも怖かった……!あのとき私が、あんなことを言わなければ!ちゃんとあの人の願いを聞いていれば!彼女は堕ちなくて済んだかもしれないのに!明かせていれば、あそこまで思い詰めることもなかったかもしれないのに!」

もう全部明かすのを止められない。

「そうです、私は彼女が、なんでエルメリアがああなったのか、わかってしまったから!私は彼女がどんな想いを抱えていたのか知っていたんです!それが明るみになるのが怖かっただけなんです!私は、そのためだけに……自分の為だけに命を使おうと、したんです……!ごめんなさい、ごめんなさい……!」
シフォリィがすべてを打ち明け、ようやく己の中で合点がいった気がした。

「ブラフのつもりで言ってみたんだがまさか大正解、とはな……」
(まったく、お貴族様周りはどれだけ闇に包まれているんだか)

苦笑を漏らし、うん、とうなずく。

「まったく、清廉潔白な奴だと思ってたけどそんなことを考えてたなんて悪いやつだな、ホント。
向こう見ず、思い立ったら一直線。どれだけ俺も怖かったか想像してみろよ、ったく」

だけど口調は罰するためのものでなく、いたずらをした子どもを窘めるかのように。

「まぁ、そうだな。
エルメリアの想いは知った。そして彼女が”どんな目”に遭ったかが君に想像できる以上、つまりそういう事なのだろう。……それが君の想いの真実だというのなら、仕方ないとも思えるけど。
――けどそれはあくまでそれは君が俺にとってのただの友だったなら、という話だ」

そう、ただの友であったなら。
でも――

「でも”俺”は違うから。
君に命を使われ切られると非常に困る。……言わなくてもわかるだろう、ここ? というか、察してくれ」
「ごめ……、なさっ……!私は、私は……!こんな私なんて、愛してもらう価値なんて、ないって、言われても、おかしくないのに……!」

私は、本当に愚かだ。こんな優しい人を、置いていこうとしていたのだから。

「私、こんどこそ、貴方と一緒に居続けるって、約束、しますから……自分から命をかけるのではなく、生き続けることで誰かを助けるって、約束しますから……!だから……!また、あ貴方の隣に、いるというわがままを、許して、下さっ……!」
「――ばーか」

言う前にシフォリィを抱き寄せて言葉を遮ってやろうとする。

「それ以上何も言うな」

わかってる。
命を賭けるなというのは彼女の自由すら奪うものだ、一緒に生きるとは多分こういう事じゃない。
正直なところ失うのは怖い、でも――

「俺から言うのはたった一つだけ。
勝手にどっかに行かないでくれ。……あ、一々出かける先報告しろって意味じゃないぞ?
一緒に歩く……まぁ、実質的に一緒に生きてくれって事なんだけど。その言葉を受けてくれた責任は取ってくれってことだ。

つまり、だ。
別にそんな我儘とか言われなくても元から俺は君を離すつもりはないし、何かあれば君の力になりたい。
君の帰る場所にもなりたいし……俺の帰る場所になってほしいから……って、何言ってるんだろうな俺」
「……はい……!」

抱き寄せられて遮られた言葉。そうだ、ここが、私の帰る場所だったんだ。

「私、誓います、貴方の元に必ず帰ってきます、そして貴方が帰る場所になります、この後の私の人生全てをかけて、貴方のそばにいますから……!」

胸に顔をうずめる。ここが自分の帰る場所だと、己のいるべき場所だと私の心が言っているから。
「……そうか。ならその言葉信じることにするよ」

思えば数か月ぶりか、ここまで近くにシフォリィがいるのって。
抱き寄せた彼女の銀の髪にどこか愛おしさを感じていたのは時のせいか、それとも――

「不甲斐ない俺だと思うけれど……これからも、よろしくな」

あとから思えば、あれって何か自分が感じてた以上に重い言葉だったのではないかということに気づくのはまた暫く後の事。
今はただ――ようやく彼女と過ごせる時間を大切にできるのだという安心感と温もりを感じている事に夢中だったから――

ー了―

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