シナリオ詳細
<Autumn Festa>月の舟、星の林に~月見の秋
オープニング
●今秋の流行り
暑さも和らいで、秋。
幻想国内を蠍が騒がせているが、それでも季節は移ろいゆくもの。
特に流行りに敏感な一部の貴族などは蠍ばかりにかまけていられない。
誰が聞いたか最早定かでないが、旅人から聞いた『ある事』が国さえも越えて広まりつつあるのだ。
曰く──『○○の秋』と称して催し物をする、というもの。
人から人へと伝わっていくうちに内容は変わっているかもしれないが、まあ概ねそのような内容だった。
催しを行う貴族によって規模も内容も様々。当然、集客力も様々である。
沢山集まってるけどイレギュラーズも呼んでもっと賑やかにしようとか。
全然集まらないから客として来てくださいとか。
むしろイレギュラーズだけお呼びしてますとか。
結果──貴族の思惑は色々あるだろうが、催し物は依頼としてローレットへ持ち込まれたのだった。
●
探求都市国家アデプト――練達と呼ばれるその国は美しい球体のドームに覆われている。
その練達にも『○○の秋』の話題は伝わっていたのだろう。少し肌寒くなる時節、グレーのカーディアンで指先まですっぽりと隠した『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)はバレッタで留めた長い前髪を気にする様に僅かに弄る。
「練達って人工的に気候が変わるんじゃなかった……っすっけ?」
雪風の言葉に練達でフィールドワークを生業とするファンが大きく頷く。
コンピュータが制御した都市国家。電子的なその街のドーム越しに人工光ではない美しい月が差し込むのだという。
その日を秋祭りにしようと誰が言ったか。……凡そは毎日がハッピーバースディな塔の主が楽しみながら提案したのだろう。
夕闇落ちて、辺りが静かになった頃。室内も薄茫と照らす程度の灯りに制御される。
ドーム内は快適な温度を保たれるため、快適な秋祭りを楽しめるだろう。
「旅人が多い風土で結構懐かしい物も多いみたいで。
俺なんかだと、秋は焼き芋だーとか、そういうのに憧れたんすけど、ホントそういう感じで」
皆の故郷に似た何かもあるかもしれないと柔らかに笑みを浮かべた雪風。
美しい月にはまん丸のお団子を添えて。
秋の夜長をのんびりと楽しもうではないか。
- <Autumn Festa>月の舟、星の林に~月見の秋完了
- GM名日下部あやめ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年10月20日 22時15分
- 参加人数52/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 52 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(52人)
リプレイ
●
人工の灯りよりも尚、美しく。欠けのない丸い月がその輪郭を黒いキャンバスに飾っている。
茫と照らす提灯は薄明かりと共に人情を感じさせるようにゆらりと揺れていた。
周辺に並んだ屋台は普段の練達の風景とは変わって見える。秋といえば『食欲の秋』という言葉がルナールの頭には過った。
淡く色づく色違いの瞳。片方は紅を、もう片方には映える月色を宿して彼は周囲を見回す。
「お? サツマイモのソフトクリームか。うむ、一つ買おう」
良い年齢の野郎がソフトクリーム片手に屋台散策――といえば、絵面としてはナンセンスな気もするが気には市内。
「うーん、義妹でも連れてくれば良かった気がするなぁ……せめて土産くらいは。焼き芋20本くれ」
大量の焼き芋を抱えてルナールはふと、これで足りるだろうかと眠たげな表情をした義妹を思い浮かべた。
「今日は食欲の秋だ! ロク君と共に露天で食べ歩きだ!」
クリスティアンの言葉にロクがぴょんぴょんと跳ねる。おすすめは外せない。
「異界のものが多くてわくわくしちゃうね! サツマイモ? すごくおいしい芋だね! なのにどことなく安心できる郷愁にかられる不思議な味だ!」
もぐもぐと口を動かし続けるロク。その動きに合わせてクリスティアンは屋台を見回しふむふむと大仰に頷いた。
「焼き芋、サツマイモのプリンにパウンドケーキに……天ぷら?」
「テンプラ?」
ロクとクリスティアンは首を傾げる。それにしても――普段は華美な『王子様』から漂う庶民オーラ、それっていいのかしら、なんてロクは瞳をぱちぱち。
「……ウッ。なにこの迫り来るお腹の不快感!? これは………おなら……」
ぷぅ、と音を立てたのはロク――ではなくてクリスティアン。かぁ、と端整な顔立ちを赤らめてクリスティアンは「あ、あ」と何度も繰り返した。
「サツマイモを食べると、お、おならが、出やすくなるとよく言われているけれど――ご、ごめんよぉぉぉぉ」
「ああああ! 待って! 待って! わたしを置いていかないで! あああああ!! 鳴るぅぅうう!!」
リリーとェクセレリァスの前を通り過ぎていく二人。
視線で見送ってェクセレリァスは頭上にリリーを乗せて慎重に慎重に飛行する。
「夜空を眺めて月や星を楽しむ……というのもどこかのウォーカーが持ち込んだ文化かねぇ……ま、どうでもいいか」
頭に掴まったリリーが自分を好いてくれているのが心地いい。今日の月は、何時もより美しく見えてくる。
彼女は今、どんな顔でこの月を見てるだろうか? 綺麗だな、と感じてくれていればと宵月を眺めてそう思った。
「おおー! 異世界スイーツ! これは食べないわけにはいかないよね♪ よーし、スイーツ全品制覇目指してガンバルゾー!」
ウキウキ気分のミルキィは早速の食べ歩き。おすすめのサツマイモのソフトクリームと南瓜ポタージュは欠かせない。
クリィム色の短い髪は彼女の軽い足取りと共にふわりと揺れている。大きな瞳が探すのは勿論『甘味』だ。
「あれもこれも……ううん、迷っちゃうなー。すみませーん! 秋らしい一品をお願いしますっ!」
「へぇ……サツマイモのソフトクリームに……かぼちゃのポタージュか、悪くないな」
スプーンで掬えばソフトクリームは空に登る月の様に柔らかな色をしている。アオイは練達お馴染みの突飛な発明品を探しながら緩やかに露店巡り。
大きな帽子がずれないように確りと被りなおして、プロパティ・アナライザーで読み取れないものかと露店を眺める。
やや中性的で幼く見える彼に「おにいちゃん、ギフトで情報を得れた?」と幼さを感じさせる子供が冗談めかして声をかける。
そう言ったのもまた楽しいではないか。「さあ」とぼかして見せた彼に子供はくすくすと小さく笑った。
サツマイモの料理やデザートを食べてみたいなとニミッツは周囲をきょろりと見回す。
「スイートポテトとか、美味しいよね……」
ふんわりとした羊を思わせる桃色の髪がゆらりと揺れる。光を灯さぬ深海色の瞳はぱちり、と瞬いた。
「流石に、新しいものには、手を出しにくいけど……どれがそうなのか、まではちょっと分からないかな」
ニミッツにとっても旅人たちの創作料理は中々に手を出しにくい――が、旅人たちのアピールを受ければ、美味しそうにも見えてきて。
よくあるレシピだよと言われて口にしたサツマイモのニョッキに何らかのソースを合わせたものは後々聞けばその旅人が故郷の料理と混沌世界のものを併せて作った創作料理であったそうだ。
「ハカセが混沌法則の事を調べてくれるなら、混沌でのオイラの力ももっと引き出せるかも……?」
練達の発明品や機械や魔術。何処までが混沌法則の影響を受けるのか。それを調べるというミシャに付いて回りながらチャロロはぽそりと呟いた。
「あ、このビールサーバー欲しいわ……」
その言葉に、真剣に見て回らねばと決めていたチャロロはぽかんとする。「研究するんじゃなかったの?」と思わずミシャへとツッコミをいれる。
「こっちのジャーキーメーカーも美味しいおつまみが作れそうね……。全自動うさ林檎製造機……これもかわいいかも!」
「あと、うさリンゴくらいならオイラが直接包丁で作ったほうが早いよ!? それならオイラだっておもちゃとか欲しいよ!」
派手な演出で対戦できる練達ゴマとか立体映像で出てくるちっちゃいモンスターを集めるやつとか、と指折り数えるチャロロ。
もう、と腰に手を当ててミシャは幻想のカードゲームを買ってあげたでしょうと唇を尖らせた。
いつの間にか当初の目的を忘れて――今は露店巡りを楽しもうではないか。
屋台を回って両手いっぱいの食べ物を手にニーニアは食べ歩き。懐も暖かで依頼でも美味しい物が食べれて幸せだ。
此の儘食べて食べて、食べ――「ハッ!? し、しまった。間違いなく買いすぎちゃったよ」
慌てるニーニアははっと顔を上げる。周囲をきょろきょろと見回っていた雪風に気付き「雪風君」とニーニアは大仰な程に手を振った。
「あ、ニーニアさん……ち、ちっす……」
「ちっす。半分食べない?」
きっと男の子だから――そう告げて、瞳をキラキラと輝かせる。その言葉に美味しそうだなあと小さく溢した雪風の胃も秋の味覚に凭れて来るだろうか。
露店巡りを使用かな、とステファンは周囲を眺める。描きたい芸術の刺激になるだろうとステファンは異世界の物を選ぶ。
「今まで見た事ないようなものがありそう――だけど、見ていると疲れて来ちゃうな」
此処に来るまでもたくさんの商品を見る事が出来た。雪風オススメのソフトクリームを食べながら休憩でもしようか、とステファンはうんと伸びを一つ。
「さぁ、気力も体力も回復したし、もう一巡りしよう。一つくらい何かお土産を買っていっても良いな」
レイと共に秋祭り。秋といえば『読書の秋』だ。周囲を見回し歩むトゥエルを追い掛けて、レイは待って、と歩を進めた。
「そんなにはしゃぐと危ないよ。迷子になっても探してあげないからね」
ソフトクリームを手にしたトゥエルは魔導書もあるのだろうかと練達の珍しい景色に瞳を輝かせるトゥエル。
「焼き芋も食べてみたいですし、スイートポテトとクッキーと……炊き込みご飯も良いですね。レイ君は何か食べたいですか?」
「そうだね……あ、あれ見てみなよ。あのポーチ。トゥエルに似合うんじゃないかな? 買ってあげるよ」
ほら、と手に取ったポーチ。その意匠からも本を集めるトゥエルにはぴったりだろうとレイはゆるりと笑みを浮かべた。
秋といえば発明の秋――なんて、口にすれば。柔らかに瞳を細めて、二人して練達を楽しもう。
一人では不安だった。けれどアレクシアと一緒ならアニーは心強いと笑みを溢す。
「練達って何から何まで幻想とは違うのですね。見慣れないものばかり……アレクシア様は、どうですか?」
顔を上げたアレクシアは「色々とお店をめぐって面白いものがないか探そう」とアニーのてをぎゅ、と握る。
「逸れないようにしようね。サツマイモのソフトクリームとか美味しそうなものも気になるけど、折角の練達だから、発明品も見ていきたいな!」
これからの季節にぴったりなパーティーグッズもあるかな、と笑うアレクシアにアニーはこくこくと頷く。
いつもは買い物に夢中になって逸れてしまいそうだから沢山見て回るだけでも楽しいけれど共に居る事を意識して。
「アニー君は何を買うの?」
「……結局どこでも見かける様なものなんですが。少し切ない節が心に響いて――この曲はこの世界の物じゃないらしいです」
旅人たちの持ち込んだ文化は何処までも美しく、何処までも素敵だとアニーは柔らかに小さく笑みを浮かべた。
夏に幻想のお祭りに向かったけれど、それと練達はまた違うんだね、とノースポールはルチアーノの手を握りゆっくりと歩む。
旅人たちの作った都市国家。科学的じゃない昔ながらの玩具があるのは故郷から持ち込んだからかとルチアーノは周囲を見回し、傍らで笑みを浮かべるノースポールを見遣る。
「なんだろう、これ! 見た事ないっ」
瞳を輝かせ、あれはこれは、と笑って振り仰ぐノースポールが愛らしくて。手にした商品を見詰めて首を傾げたノースポールは「これは?」と目を細めた。
「これは水笛だね。水を入れて吹いてみれば鳥の囀りのような音が鳴るんだよ。まん丸でシマエナガっぽいものあるね」
「えっ……いいの?」
きょと、としたノースポールに差し出したシマエナガの水笛。嬉しいと心を躍らせて、サツマイモのソフトクリームを食べに行こうかと喜ぶノースポールの頬についたクリーム。
「頬についてるよ。……ご馳走様、甘くて、美味しかったよ」
頬を赤らめて。ひゃ、と声を上げたノースポールに溶けないようにね、と笑みを溢す。こうして歩くのはノースポールの幸せそうな笑顔に勝るものはない。
「季節は秋か」
秋祭りが行われている中、颯人はほう、と小さく息をつく。機械的に気候を制御したドーム状の都市と聞けば何所かで見た事のあるファンタジーを思わせると舞花はぱちりと瞬く。
「もう少し時が廻れば、秋を越えて冬か……久住は好きな季節はあるのか?」
露店の焼き芋を二人分。一つを手渡す颯人に舞花は小さく頷く。実際に練達の『ドーム』を目にすれば、この制御で穏やかな日常を楽しむ事が出来るのだとその技術力には目を瞠るばかりだ。
「寒すぎず、しかし暑くない……静かな空気は、確かに秋という風情ですね。よくできてる。
――暑いのが少々苦手なので、そうですね……好きな季節――なら、春か秋……かな、私は」
颯人さんは、と顔を上げた舞花に颯人は「春、かな」と冬の寒さを乗り越えれば暖かい季節がやってくる。それはきっと襲い来る苦難と似ているのだろうと彼は小さく告げた。
「さて、他にもまだまだ出し物はあるようだ。色々見て回るとしようか」
●
良い月だな、と縁は口を開く。練達まで来た甲斐があるとのんびりと空を見上げる縁に津々流は流石は『旅人の国』かと小さく息をついた。
「……ところで、何だってそんな夜にパシられてるのかねぇ、おっさんは」
かぼちゃのポタージュにサツマイモのソフトクリーム。スイートポテトを並べれば、津々流はありがとうと柔らかに笑みを浮かべ、傍らの――凄いお面をつけているけれど気さくでいい人だと実感した――ジェックに笑みを浮かべた。
「いやー、カイに行かせちゃって悪いネー。でもアタシたちにはセキトリっていう大事なヤクメがあるからさ」
絶好のポイントは人が少なく前に遮蔽物がなく凭れられる場所。ジェックの提案もよかったけれどという津々流にジェックは善く見えるから、と微笑む。
「あ、買ってきてクレテありがとね、オジサン」
「ん? ……あぁ、代金はいらねぇよ。いい場所見つけてくれた礼だ、おっさんが奢ってやる」
本当に、とぱちりと瞬いた津々流共にジェックにそれぐらいの甲斐性は在る心算さ、と縁は胸を張った。
勢いよく飲んだポタージュが熱いとジェックは顔を上げる。
「チクショウ月がキレイだ!」
広い空は海、雲は波。月の船が海を往き星の林に隠れるのは世界が違っても素敵だと告げた津々流に笑みを浮かべて。
「月の美しさが変わらねぇのは嬉しいね。願わくば――海の底のあいつにも、見えているといいんだが」
周囲をきょろきょろと見回してコルははあ、と小さく息をつく。
「……もう……少し……暖かい時期が……好み……寒く……ないけ……ど……」
『秋の祭りなのだ、無理は言わない様に』
コルはぼんやりと月を見上げる。丸い、明るい、と首を傾げるコルはぱちぱちと瞬いた。
「……お月見……も……なかなか……難しい……」
『奥が深い出ないところが我が契約者殿らしい……ところか?』
コルはふと、顔を上げる。ゆっくりと散歩している雪風に気付き「だれ……だっけ……?」と首を傾いだ。
『山田殿だ、我が契約者殿が不作法で申し訳ない』
露店で買った団子をぱくりと口に含んで。ペッカートは木へと寄りかかり月見を楽しむ。
「寒くなってきたなァ。もうすぐ冬か……衣替えしないとヤバいな。つっても盛ってた服は前の世界に置いてきたからどこかで新調しないと……」
長い銀の髪が風に揺れる。特殊な瞳孔はゆるりと穏やかな月を眺め風情がないな、と小さく笑みを溢した。
「混沌の月でもウサギが持ちをついてんのかなぁ。そもそも宇宙ってどうなってんだろな……」
――夜はこれからだ、と口にして。さあ、他の場所でも月を楽しんでみよう。
レジャーシートに腰かけて。買い込めるだけ買い込んだ露店の食べ物を手に威降は準備万端だと月を眺める。
サツマイモのソフトクリームに次はかぼちゃのポタージュ。すぐに食べないとだめになるものから順々に消化して。
何も特別な事を考えている訳じゃない――どこの世界でも月はきれいだと威降は小さく息をつく。
『月が綺麗』と言葉を口にして。威降は故郷を思い返して少し笑みを浮かべた。
「月が綺麗ですね……か」
いつか、誰かに言えたならば――きっと。
露店で購入したソフトクリーム。傍らに座ったエリシアにイージスは自分がいた世界と似た月が空を飾っているとぱちりと瞬いた。
「エリシアさんの世界で見えた月は、今見ている月と似た月でしょうか?」
「ああ、似ているな。こちらの世界に月の神はいるかわからんが……見た目は似ている」
顔を上げたエリシアにイージアは「月の女神様、居ると思います」と緩やかに頷いた。
少し肌寒さも感じる中で、はあ、と小さく息をつくイージアにエリシアはゆっくりと彼女の肩を引き寄せる。
「……月を見るのも良いが。我はお前を隣で見ていたいのだがな。例えば今、寒さに震えておったお前を」
その言葉に鼓動が音たてる。守るのはお互い様ですよ、と温かさを感じ、ゆっくりとその肩へと凭れた。
大きなドームの中は炎が無くても明るくて。精霊の息吹を感じられない事はエーリカにとっても不安で、少し心細かった。
強請る様に手を引いて、祭りの喧騒から抜け出した。
「綺麗名付だね。手を伸ばせば届きそうだ」
折角のお祭り。静かに二人で練達の夜に寄り添い合って。空に向かって手を伸ばした彼の傍らで、エーリカはへくちと小さくくしゃみを一つ。
「……エーリカ」
足の間へおいで、と手招いて。着ていたコートに二人で包まれば、暖かさが背に伝わった。
「きれい。大地が違ってもおつきさまはかわらないね。……ね、ラノールはこんな日は胸が躍るの?」
彼の体に通る因子。それはどうなのだろうか、とぱちりと瞬くエーリカにラノールは「ふふ、そうだね。落ち着くかな」と小さく告げた。
「今は君も居てくれるからね」
そう言って、頬を摺り寄せて。常よりも甘えたくなるのか、瞬いて、赤い頬を隠す様に冷たい空気にそれを晒した。
人工のあかりが仄かに照らす。地面とそら。二つの月が浮かんでいるようだとサンティールはウィリアムを見遣る。
美しい星々を愛するウィリアムは人口の光に管理された都市の静謐さが嫌いではないと静かに告げる。
「じつはね、ウィル、いやがるんじゃないかってちょっぴり心配だったの」
故郷を奪った『堕つる星』。思い出させてしまうのでは、と告げたサンティールにウィリアムは怖くて寝れない夜もあったと静かに告げて、ウィリアムは「忘れることも出来なかったんだ」と静かに告げる。
「星の煌めき、月明り。その神秘と美しさを――忘れられなかった。
夜の優しさを、俺はもう知っている。他ならぬお前が教えてくれたんだ」
「うん。月も、星も夜型だ暗闇ではない事を教えてくれるから――きみのふるさとで見たかったんだ」
寒くない、と差し伸べた掌に、大丈夫だと重ねて。怖くもない、寒くもないけれど、今はその手を握って居たいんだ。
「明るい夜ですね。明かりに頼らなくてもジョセフ様のお姿が浮かび上がってきます」
ほう、と息をついた礼拝にジョセフはこんなにも明るい物なのだな、とぱちりと瞬いた。
「ご存知ですか? 月が綺麗ですね、という言葉は婉曲な愛の告白なのですって。
初めにそう言った方にとって感性を共有できることが愛だったのでしょうか。
もしくは、狂気の象徴の月を好ましいと告げる事で、狂おしい程の思いを伝えたかったとか……」
随分と回り諄いとそう告げてジョセフは「いや失礼」と肩を竦める。ロマンチシズムと呼べばいい形なのだろうか。
月は狂気をも孕む。礼拝が見るにジョセフは愛というものは極めて異常だと狂気的な気配を感じているのだろうと実感していた。
「月は月だ。ただそこにあるだけ。手も届かない。光って見えても、ただ単に太陽の光を反射しているだけで、巨大な石くれだ」
「ふふ、ジョセフ様は現実的ですのね。でも、私もそう思います。
所詮は口実。貴方の隣で安らいでいられるのなら、きっとその先に何があろうと美しいのです」
カーネリアンは月を見上げ、柔らかに笑みを浮かべる。
「月というのは不思議なものだね。星のひとつにすぎない筈なのに、不思議とどんな世界にもある。
そして、厳粛な気持ちにさせられるのも、やはり不思議だ。これもひとつの魔法なのかもしれないね」
マルベートは饒舌にそう告げる。今宵はパーティーだと聞き及んだマルベートはカーネリアンの手招きに応じて露店で購入した食料をレジャーシートに並べる。
「レジャーシートにブランケットを被って、ちょっとしたパーティーを楽しもうか」
マルクは呈茶のスキルを活かして、暖かな紅茶を水筒から取り出す。火は美しい月の邪魔になるから、と。
暖かなお茶を差し出すマルクにアンナは「ありがとう」と柔らかに笑みを浮かべた。
「露店で購入してみたの。みたらし団子、というそうよ。お月見と言えば団子……なのでしょう?」
その言葉にリディア楽し気に小さく笑う。露店で買った南瓜のモンブランケーキに月見団子をトッピング。
花瓶に芒の束を二つ花瓶に入れて設置してリディアは「お月見に月見団子がないと寂しいかなって」小さく笑みを浮かべた。
「寒くないですか?」
「大丈夫だよ。それじゃ、色々あってお祝いしそびれちゃった人へ。お誕生日おめでとう。それから皆も、いつもお疲れ様、ってことで!」
傍らに腰かけたリディアにマルクは頷きて微笑みを浮かべる。
「誕生日おめでとう。また物々しい騒ぎもあるけど、今日くらいはゆっくり楽しみましょう」
アンナの言葉に顔を上げて、カーネリアンはにっこりと笑みを浮かべた。屋台で見つけたドーナツとミートボール。お酒の代わりのぶどうジュースは秋らしい。
「誕生日、おめでとー! ほらほら、食べて食べて。今夜は楽しもうね」
●
「ふふー……りんごあめとか綿菓子とか沢山……!」
雪之丞の傍らで、シオンは自信満々に笑みを浮かべる。一口大のカステラを手にした雪之丞をじぃと見遣って首をこてんと傾げる。
「……あ、でもゆきのじょーのカステラおいしそー……! 一口ちょーだい……?」
「ふふ。欲張りですね。ええ、どうぞ」
一つ、口元に差し出したカステラ。お腹いっぱい、と眠たげなシオンに雪之丞はぽん、ぽん、と膝を叩いた。
「……月も綺麗だし月明かりに照らされるゆきのじょーもとっても綺麗……!」
「……ありがとうございます。月明かりのシオンの髪も、綺麗ですね」
ふふ、と笑みを浮かべる。褒められると今どんな顔をしているのだろうかと自分では分からないと雪之丞はシオンを見下ろす。
「……うん、とってもいい夢が見られそう……おやすみゆきのじょー……」
「はい、おやすみなさい」
暫し、その夢の中で楽しんで――おやすみなさい、とその頬に掛った髪をさらりと撫でた。
露店で買った南瓜パイとホットワイン。レジャーシートに腰掛けてアーリアはトロイカちゃん、と手招いた。
真っ白でもふもふの毛並みのパカダクラ。何時だってアーリアが酔いつぶれたならば家まで連れて帰ってくれる優しい相棒の暖かさにに溺れる様にアーリアは頬を寄せた。
「この前水着や浴衣を着ていたと思ったら、あっという間にこんなに肌寒くなっちゃうなんてねぇ。
目まぐるしく回る日々は、大変だけどとっても楽しくて、とっても愛おしいわぁ」
そうして月が廻る、その瞬間がひどく愛おしくて。お隣どうかしら、とホットワインを片手に笑ったアーリアにクレッシェントはゆっくりと腰掛けた。
風流に、月見酒を楽しもうとクレッシェントは鉄の肌越しにお酒の美しさを感じられる気がすると薄布を顔に塗りたくる。
(僕の名前もそういえば三日月を指す言葉です…が、月と鎌じゃ形が似てるだけで比べ物にならないかな。
……いや、月は確かに美しく偉大な存在だ。でも、空から眺めるだけでは知り得ぬ地上の美しさを私は沢山知っている)
ほう、と息をつく。嗚呼、月よ。尊大なる月はきっと知るまい。
泥田の温もりの心地良さを、青田を渡る風の音を、刈り取られた稲穂の重さを、炊き上がったご飯の白い輝きと、その芳醇なる香りを――そして、この酒の旨ささえ。
なんて誇らしい気持ちになって酒を煽る様にゆっくりと、ゆっくりと顔を上げた。
今日をとても楽しみにしていたとマナは南瓜のポタージュを手にドームの外へ。月が良く見える場所でレジャーシート広げたマナにヨハンはサツマイモのソフトクリームを差し出した。
「ちょっぴり肌寒いですが、やっぱり美味しそうですしね!」
「はい。月を見ながらのんびりしましょうか」
人気がない場所で二人静かに空を眺めて――寒かったときはコートを準備して風邪にはしっかりと配慮して。
ゆっくりと寄り添ったマナに「寒いですか?」とヨハンは笑みを浮かべる。
もし、今、顔を見られたならば赤くなっているだろうかとマナは静かに目を伏せる。ドキドキとする胸の高鳴りを隠す様にゆっくりと、ゆっくりと手を握りしめて。
「今宵は本当に月が……綺麗ですね……」
膝に乗せた『煤猫ちゃん』がくるりと丸くなる。その暖かさを膝に感じながらグレイはクラリーチェの酌を受けて、ご満悦だ。
「月明りってこんなに明るいものなのですね」
「僕には馴染みのない習慣だけれど、こういったものもなかなか乙なもの……うん?」
ゆっくりと煤猫ちゃんがもじもじと動く。ジュースを傾けたクラリーチェは月を眺め「花や月、雪や星。巡る季節をお酒と楽しむ……。素敵な習慣ですね」と言葉にしたが――首を傾げる。
ぐん、と背を伸ばし、のそのそとクラリーチェの膝に乗ろうと動きを見せた煤猫ちゃん。
「煤猫ちゃんが私の事、お友達だと思ってくれたのならとっても嬉しいです」
ゆっくりと抱き上げて膝に乗せた煤猫ちゃんの暖かさに頬が緩むクラリーチェを見遣り、グレイは小さく笑う。
「月光に映えるキミと煤猫ちゃんに――」
乾杯、と杯を持ち上げて。今日はこのまま楽しもうか。
ゆったりとお月見を。コーデリアは露店で購入した暖かい飲み物をアマリリスへと手渡した。
「異郷の地にて同郷の方といるのは不思議な気分ではありますが、悪いものではないですね」
レジャーシートに軽食を並べて。アマリリスは同郷の徒と共に過ごす事は安心感を感じると端整な顔立ちに柔らかな笑みを浮かべた。
「わわ、飲み物ありがとうございます! 10月ですし、随分と夜は冷えますね」
さ、と差し出した上着。コーデリアの肩へとかけたそれは暖かさと安心感を仄かに感じさせて。
まるで幼い子供の様にアマリリスは「ところで、月には餅を搗く兎が見えると言いますね」と月を見上げて笑みを浮かべた。
月に見える染み。それが何に見えるか、と問い掛けるアマリリスにコーデリアは「本を読んでいる女性とも言いますね」と月を見上げる。
「今となっては、何の変哲もない模様に見えてしまいますが……知識を付けて俗信に惑わされなくなったのか、はたまた想像力を失ったのか……」
「女性の横顔――そう言われるとぼんやりと。私は、美味しそうなオムレツが見えますね、ハイ! 目玉焼きの黄身にも!」
その発言は何時も変わらない。嗚呼、ほら、心の底から穏やかな気持ちがふわふわと舞い上がってくるではないか。
「さて、少し買い過ぎたけれど、こういうのは雰囲気だからね。多少ハメをはずした方が楽しめるものだよ」
鼎は並んだ菓子を眺め、傍らのミーシャがどれがおいしいかな、とぱちりと瞬く様子を眺める。
「ボクは、芋けんぴ、っていうのと、スイートポテトが好き」
「私は綿あめとか好きだよ。ほら、ミーシャ君の毛並みみたいにふわふわのね」
鼎の言葉にミーシャは小さく笑う。あまり近づけば、ミーシャ自身のふわふわの髪の毛を食べちゃうだろうかと冗談めかして。
「お菓子食べてたら、眠くてウトウトしちゃうね。……ふああ」
羊の形になって、ころりと転がった鼎にミーシャは柔らかに笑う。もふもふとした体はとても心地よく手、暖かで。
白い毛に埋もれる様に撫でつけて。ころりと転がったミーシャは「鼎おねーさんが眠くなっても大丈夫だよ」とうとうととしながらつぶやいた。
「もふもふされると、気持ちよくて余計眠くなっちゃうね。おねーさんの手は、優しくて好きー」
優しく撫でつける掌が心地よく手。穏やかで優しい雰囲気の君が落ち着くんだと鼎は静かに声をかけた。
美しい月に、ころりと転がって――このまま、ゆっくりと眠ってしまおう。
ねえ、静かな夜はまだまだ続くから。
――天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ――
穏やかな月見の秋は未だまだ続く。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
今年の月は山際に見えて、美しく。
鮮やかな空を飾る月を眺めるにはいい季節となりました。
気候は移ろいますが、のんびりと過ごしていただければ。
この度はご参加ありがとうございました。また、ご縁がございましたら。
GMコメント
菖蒲です。素敵な一日になりますように。
●秋の夜長
練達のドーム内でのんびりと秋祭りを楽しむ事が出来ます。
時刻は夕刻~深夜まで。美しい月夜をどうぞ、お楽しみください。
●行動
以下をプレイング冒頭にご記入くださいませ。
※行動は文字数短縮の為に数字でOKです。是非ご活用くださいね。
行動:【1】【2】
【1】旅人たちの作った秋祭りに参加
旅人たちが用意した秋祭りに参加できます。
食べ物(サツマイモを基調とした料理やデザート)の他、雑貨など様々な異世界のものが売られています。突飛な発明などもある為、露店を回るだけでも楽しいかもしれません。
雪風曰く、おススメはサツマイモのソフトクリーム、かぼちゃのポタージュなど秋らしいものです。
【2】ドームの外でのんびりお月見
練達のドームから出てのんびりと月を見ることができます。
穏やかな日ですが少し肌寒さを感じる時節です。希望すればレジャーシートのお貸し出しもします。
折角ですから露店で何か買ってから月見にお出かけしてみてはいかがでしょうか?
●NPC
山田・雪風が参ります。お声かけがなければ出番はありません。
その他、練達のNPCさんは無茶なお願いがない限りは『もしかすると』お顔出ししてくれるかもしれません。
何かございましたらお気軽にお声掛けください。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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