シナリオ詳細
<総軍鏖殺>記憶探しとゴミ掃除
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オープニング
●
皇帝の交代――
長らくヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズの王位が続いてきた鉄帝が、ついに大きく揺らいだ。
アーカーシュの動乱があろうとも、派閥が分かれようとも根は揺るがなかった鉄帝が、である。
新しく玉座に座った者の名は、バルナバス・スティージレッド。彼の“正体”が何処まで広がっているかは判らないが、突然の王位簒奪に鉄帝の民は大いに動揺した。
そして、新しく王となったバルナバスが最初に下した勅令は更に動乱を齎す事となる。
警察機構の総解体。奪おうと殺そうと罪のない国への方針転換。
「強ぇ奴は勝手に生きろ。弱い奴は勝手に死ね」
弱肉強食――弱者の完全なる斬り捨てを、バルナバスは一言にして成したのである。
鉄帝は変わって行く。強き者が生き残り、弱き者は逃げなければならない国へと。
様々な思惑が交錯していく。強くなりたいと願うもの、富を得たいと暴れる者。
或いは――
●
ガシュカはラド・バウの闘士だ。
――といっても、順列は付けられていない。
理由は簡単。彼はラド・バウで戦う事を目的としていない為である。
彼の目的はただ一つ。己から“名前と記憶と愛剣”を奪った男を探す事。
其の為にラド・バウに顔を出しては、こいつではなかったと落胆する日々を過ごしていた。
そんな時、王位が簒奪されたとの法が発表された。
新しく王になった男は、バルナバスというらしい。顔も見た。知らぬ顔だったので、ガシュカは直ぐに興味を失くした。
たまたまラド・バウの傍にいた彼は、自治区として独立するというラド・バウに留まる事にした。
……しかし、何もせずにただ刃を磨いているだけというのは合わない。
どうせなら少しくらい、この自治区の為に何かしてやっても良いかもしれない。
最近ゴロツキが多いのだと誰か闘士が零していた気がするので、其の掃除でもしようと腰を上げたのだが。
ガシュカは己の力量を良く知っている。
少し囲まれれば、己は直ぐに戦闘不能に陥ってしまうだろう。
こんな時、鉄帝はどうしていたのだったか――ガシュカは考えて、とある組織の存在を思い出した。
ローレット。
イレギュラーズ。
彼らの手を借りれば良いのではないか。
そうすれば、あわよくば、あの男と再び相まみえたとき、其の力を借りられるように――
- <総軍鏖殺>記憶探しとゴミ掃除完了
- GM名奇古譚
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年10月10日 21時30分
- 章数2章
- 総採用数72人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
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「あんたらがイレギュラーズか」
君たちが指定された場所に付くと、其処に男が待っていた。
抜き身の剣に、深く被ったフード。簡素な服装。
「俺がガシュカだ」
不審を覚えるイレギュラーズに、男は先手を打つ。
自分こそが彼らに助力を請うた者だと。
そして問う。
此処までの道のりを見たか、と。
「力のあるやつはやりたい放題だ。街を壊し、酒が欲しければ酒屋を襲い、女が欲しければ民家を襲う。――この辺り、ラド・バウ自治区なんて平和なもんだ」
「だが――此処にもたまに“無作法な奴”はいるもんでな。そういう奴らの掃除をしようと思ったんだが……俺には力が足りない」
「理由は知らなくて良い。ただ、俺が弱い事だけ知っていてくれればいい」
「北西と南東の護りが薄いと報告が上がってる。二手に分かれて行動しよう。……暇があれば、俺に戦い方を教えてくれ。今の俺は、剣の振り方すら三流なんだ」
第1章 第2節
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「ヴァイスドラッヘ! 今日もまた悪党退治にただいま参上よ」
レイリーはにこやかに、宜しくね、とガシュカに微笑む。
「大丈夫、私がいれば貴方には絶対傷付けさせないから」
「……ああ。俺は剣の振り方も三流だが」
「剣を振るだけが戦いではないわ! 例えば――」
「おお? こんなところに女がいやがる!」
「お嬢ちゃん~、此処は危ないよ?」
猫なで声がいやに耳に障る。
棍棒を携えたゴロツキたちがレイリーに声を掛け……ガシュカをみると、ぺっと唾を吐いた。
「なンだよ、誰かと思ったらガシュカじゃねえか」
「其の顔見るだけでムカつくぜ。負けっぱなしの癖に余裕ぶっこいて」
男たちがずかずかと近寄って来る。剣を構えるガシュカだが――其の前にレイリーが立った。
「!」
「おやおや。お嬢さんには後でお話を」
「いいえ。貴方達とする話なんてないわよ」
護りの体勢をとるレイリー。
白騎士の其の守りは鉄壁。ごろつきが怒り任せに振り上げたこんぼうなど、痛くもかゆくもない。
「良い? ガシュカ殿。避け切れないときは躊躇わず受けなさい」
「……」
「そうすれば少しでも長く戦えるわ。逃げない方が傷が浅い事もあるの」
「……長く」
この程度なら蹴散らすのは簡単だ。
舞うようにガシュカを護りながら、レイリーはごろつきをあしらっていく。
もしかしたら、戦の匂いにつられて強者が来るかもしれない。
そうしたら……楽しみね?
成否
成功
第1章 第3節
●
「ラド・バウには恩義もあるからね。頑張らせて貰うわ。この界隈はいつも私の知らない者を教えてくれるから」
「戦い方ぁ? 要は生きのこりゃ良いんだよ。教えてくれる、護ってくれる、そんな恵まれた環境にいつでも誰でもいられる訳じゃねぇ」
イーリンはそうね、とルナの言に頷く。
或いは戦う術とは盗んで学ぶもの。ですって、とガシュカを振り返ると、……頷きが返って来た。彼とて、教われると思って言ったわけではないのかもしれない。どんな事情があるのか知らないが、兎に角此処は、囲みこみつつあるゴロツキを斃す事が第一だろう。
「まあ、お前の事が嫌いで言ってる訳じゃないぜ。生きるために他者を使うのは間違いじゃねえ。何もしない奴よりはお前の方が百倍マシだ。――だが、まあ! 俺の戦い方は参考にはなりゃしねぇだろうけどな!」
ルナに戦域の距離など関係ない。
ひとっ跳びしてごろつきどもにいかづちの如き一撃を繰り出すと、今度は別の一団へと雷撃戦を挑む。其の様は確かに――ガシュカには参考にならなかった。消えたかと思えば現れ、現れたかと思えば消えるルナの姿は、まるで神がかっているかのようだったから。
「……まあ、ああいうのは参考にならないと思うけど……私から何かいうなら、そうね」
ルナと己の距離を計算しながら、彼女を的確に支援し癒していくイーリン。其の隣をガシュカは未熟ながら護っている。
だが、生憎イーリンにもガシュカの護りは必要なかった。イーリンは適当な一団を選ぶと佩いていた剣を抜き放ち、一気に距離を詰めると其の動きを止め――生と死を一つの魔力剣と束ねて振り下ろし、叩き落としてゴロツキを吹っ飛ばした。
「効率よく敵を倒していけば、……其れに対して“向かって来る”という面白さを重視する奴がいるかもね。ところで」
「……なんだ?」
「時々ラド・バウに顔を出すレイディって子を知らない? 無事を知りたくて」
「! ……ああ、知ってる。今回も、俺は彼女に情報を貰った。」
今も戦場の状況を集めて回っているはずだ。
そう言ったガシュカに、そう。とイーリンは背後のラド・バウ闘技場を見上げた。
成否
成功
第1章 第4節
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「申し訳ありませんが、私には戦い方を教える事は難しいかと思います」
グリーフはゴロツキを押し留めながら、ガシュカに言う。
ガシュカはグリーフが留めた敵に斬り込んでいくが、成る程、自身で申告した通り其の身体は明らかに未熟なものだ。
「……ですが、倒れない事、癒す事は出来ます。相手を観察して下さい。何処かに傷がないか、弱点はないか」
「観察? そんなもの」
「暇は作るのです。そうすれば必ず、勝機は開きます」
己を回復しながらグリーフはガシュカに言う。
「おい、こいつ秘宝種だ!」
「ヒャア! バラしたら高く売れるかな?」
「バカ野郎、売るんじゃないんだよ。今のご時世なら物々交換だ」
「……変なところで頭の回る方々ですね」
「全くだ。だが、今の鉄帝はそういう国だ」
ガシュカはフードを被り直して、グリーフが留めている敵を斬り倒していく。
――観察する。
鎧の間に隙間があれば狙う。護っていない場所を重点的に狙う。
そうすれば、今の俺の弱い剣でも――
「……そうです。覚えが早いですね」
宣言通り倒れぬままに、グリーフはガシュカに笑み掛けた。
ガシュカは照れ隠しか、フードを引っ張って……そうしてまた、ゴロツキへと剣を向けて飛び込んだ。
成否
成功
第1章 第5節
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「一通り見回りはしてきたけど、特に悪い事をしてる人とか怪しい人は見当たらなかったね」
スムーズに終わったから、少し時間が出来ちゃった。焔はそう言ってのびー、としなやかな腕を伸ばす。
ガシュカはどこか手持無沙汰そうに、己の剣を見ている。其の姿を見て、そうだ! と焔は声を上げた。
「ねえね、ガシュカくんは戦いを教えて欲しいって言ってたよね!」
「? ああ」
「じゃあさ、今のうちにちょっと特訓してみる? といっても、ボクは槍が得意で……ガシュカくんは剣だから、ちょっと勝手は違うかもしれないけど……うん! 今日は攻撃を避ける特訓にしよう!」
じゃあ、取り敢えず避けてみてね!
焔は“カグツチ天火”を逆手に持ち、まずは突きを繰り出す。ガシュカは其れを、横に跳ぶ事で避けて……うーん。
「うーん、ちょっとオーバーかも」
「オーバー?」
「うん。コツはね、そうだな……ぼんやりでいいから、相手の身体全体を見る事かな? 目線とか脚運びとか、そういう動き出しが見られれば、少しだけ早く回避行動に入れる。……よし! じゃあこの感じで攻撃してみるから、ボクの事をよく見ててね!」
「……判った。よく見る」
しかしよく見過ぎて、次の一撃で額をコツンとやられるのだった。
成否
成功
第1章 第6節
●
「“お国柄”といえども、三下が束になったところで闘士に勝てるとは思わんが」
愛無は首を傾げた。
何か切り札や、黒幕でもいるのだろうか?
いや、単なる考えなしかもしれない。何にしろ、早計はよくないだろう。今は仕事だ。“この国らしいやり方”で。
一帯を見渡し、香りを嗅いで周辺を警戒する。
――までもなく、ゴロツキさんがいっぱいいらっしゃる。小柄な愛無を考えなしだと思っているのだろう。動きを封じてどうのこうの、と考えているのだろう。下卑た笑みを浮かべながら近付いてくる。
数が多い。正直食べたくはないが……取り敢えずは攻撃してから考えよう。
ずろり、と愛無の影から触手が出て来る。其れは二本、三本と数を増やし――取り敢えず目の前のゴロツキに触手を巻き付け、動きを封じて持ち上げる。余りにも呆気ない。ひいひいと悲鳴があちこちから上がっている。
「なあ」
「な、なんだよぉ!」
「お前らはどれくらいの規模なんだ? 主犯は誰だ?」
「お、俺達は……雇われたんだ! 兎に角、この辺りが空いてるって……“アイツ”に、聞いて!」
「アイツって?」
「わ、わからねぇよ! フードを被ってたし……犬みたいなのを沢山連れてた!」
「……。」
怪物を連れた何物かが、このゴロツキたちを先導している?
何の為に?
暫く触手で締め上げて、殺さない程度に生命力を搾取しながら――愛無は少しの間、考えていた。
成否
成功
第1章 第7節
●
強者は好きなようにやれ。弱者は死ね。
――そんな信条、くそったれだと彩陽は吐き捨てた。
「ひっひ。でも鉄帝って、元々そう言う国だったのでは?」
「茶化さんで。此れでも結構腹立ててんねんから」
「おやおやぁ失礼。腹が立ったからって間違えたーって攻撃しないでくださいね?」
「せんよ、そんな事。一応仲間やもん」
「ありがたい事です」
ひっひ。エマが笑う。
――強さも弱さも、関係あらへん。
自分が誰かを護れるいうなら、其れに手を貸すだけや。
人の想いに手を貸す、其れが自分や。
「やから、宜しくな」
「ああ」
ガシュカの返事は手短だった。
彩陽の怒りを間近で見ていたからか、其れともまだ怒りが煮えているのを判っているからか。
「ひひ、えひひ。こんなこそどろに負けないでくださいねぇ」
先に動いたのはエマだった。闘技場の周りには空き家が多くなってしまったが、まだ建造物としてはしっかり足場に出来る方だろう。とっかかりに足を掛けて跳躍し、高所から周囲を俯瞰する。おーおー、いっぱいいますねぇ。
じゃあ、取り敢えずあのデカブツにしましょ。ふわりとエマは空を舞う。縦と横ではない、奥行きも利用した動きで狙ったゴロツキへと肉薄すると、一気に其の意識を刈り取った。
エマが動いたのを彩陽も見る。エマが一人を狙ったのを確認すれば、彩陽は周囲の敵を薙ぎ払う。一気に弾幕を張り、ゴロツキの武器を撃ち落とし、其のひじを撃ち抜いていく。
「……」
エマが更に、別の敵に切りつける。え? 一撃一撃は大した事ない? そうですね。でも、油断していたら動けないくらいの貧血になりますよ。
「……遠距離か」
「せやね」
ガシュカは近付いてきた敵を斬り伏せながら――まるで剣に振り回されているようだが――彩陽とエマの戦法を見る。其の様をしっかりと刻み付けるように。
「あんまり参考にはならへん?」
「……さあな。いつか俺も、銃を持つ日が来るかもしれない」
成否
成功
第1章 第8節
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「わあ、ガシュカ! 宜しくね!」
「!?」
フレンドリーに握手して来たイーハトーヴに、ガシュカは流石に驚いた。
吃驚して振り払ってしまった手。すまなそうな雰囲気を受け取って、大丈夫だよとイーハトーヴは笑う。
「鉄帝は俺にとって特別な国の一つなんだ。だから護れるように尽くすよ。……其れにね? 俺も、此処の闘士なんだよ?」
「お前も?」
「そう。ふふふ、吃驚した?」
――イーハトーヴが展開した気糸の群れが、周囲の敵を切り刻む。
ガシュカは合わせて一気に突っ込み、斬り込む。これまで学んだ事――弱点を見る事。避けられなければ敢えて受ける事、様々――を実践するように、簡易鎧を着こんだゴロツキの鎧の隙間を突き、其の動きを止めていく。
「っ!」
「この野郎!」
ナイフを持った素早い不良が、ガシュカを捉えた。
“避け切れない。――ならば、受けた方が傷が軽い事もある”
其の通りにして、ガシュカは敢えて其の傷を受けた。ナイフに深く切り裂かれ、血がぱたぱたと落ちる。
「ガシュカ!」
イーハトーヴは直ぐに準備をして、ガシュカの傷を癒す。
「囲まれないように気を付けて! もし駄目なら撤退しよう!」
「……ああ、……だけど、そうならないように、……する……!」
強情だ。
イーハトーヴは呆れつつも、だからこそ力を求めるのだろうとガシュカを評価する。
剣で斬るだけではない。様々な戦い方があると、知って貰えたら良いのだけれど。
成否
成功
第1章 第9節
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「んー、戦い方ねぇ」
私じゃ大した戦い方は教えてあげられないけど……と、オデットは少し渋る。
其れでも良い、とガシュカが言うと、其れなら、と少女は頷いた。
指で、僅かに宙を弾く。
すると其れは熱砂を呼び起こす波紋となって。
熱砂は蛇のように近付いてきていたゴロツキたちに絡み付き、其の体力を奪っていく。
「私に出来るのは、こうやって精霊に呼び掛けて、手伝って貰う事くらいなの」
オデットは笑む。だから学べるとしたら、貴方が前で戦っている間に後ろで何が起こっているのかという事よ、と。
「貴方は前衛だけど、覚えておいてね。私みたいな、撃たれ弱いのもいるって事を」
だから、やられる前にやるのよ。
熱砂を呼び、熱砂を呼ぶ。其れを乗り越えて来る巨躯の持ち主は、極光の一撃で吹き飛ばす。――悪い人だものね。手加減してあげる必要なんてないんでしょ?
「――其れは其れとして」
オデットは周囲を見回した。
何か、嫌な予感がするのだ。何か……獣の香りが、する。
周囲を見渡しても其れらしき獣はいない。……天啓にしては不明瞭すぎるわ、と、オデットは天を恨んだ。
成否
成功
第1章 第10節
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“そういう国”だと片付けてしまうのは簡単で。
事実、“そういう国”なのだろうと雨紅は略奪者たちを前にして思う。
けれども。
国の摂理を望まず、故に笑顔を奪われる方々もいる。
ならば私は、其の方々を手助けしましょう。
闇の帳にそっと隠れた麗人は、舞うように略奪者たちへ肉薄すると、次元すら寸断するほどの一撃を見舞った。
どおん、と上がる砂埃。
いてえ!
なんだ!?
闘士か!?
男たちの怒号。
其の中央に雨紅はしん、として立ち――
「そちらが無作法を働くならば」
「力で総てを通そうとするのなら」
「私も、其れで返させて頂きましょう」
「――訳判らねェ事を!」
無作法者が振り翳した刃を、雨紅は舞うように避ける。
ふわりと足取りは軽く、指先まで丁寧に、刃を的確に避けていく。
「こいつ、フラフラと……!」
「ナメてやがんのか、アァ!?」
……此処まで思い通りだと、恐ろしい。
けれども、と雨紅は仮面の奥で困った顔をする。
こうしなければ、戦うのが恐ろしいだけなのに。……ナメているとは、心外です。
成否
成功
第1章 第11節
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親分が魔種じゃなくても、こうなる可能性ってのがずっとあるんだろうなあ。
夏子はのんびりと考える。
ガシュカは不審そうに彼を見詰める。だってそうだろう、開口一番に言った事が「女性を助けるので案内ヨロ!」だったのだから。
しかし、今の鉄帝では歩かぬ犬でも無法者に当たる。
ガシュカが剣を振るが、其の動きは見え見えだ。するりと避けられた剣戟、あらら、仕方ないなぁ。と夏子がぱちぱちと手を叩いて誘う。
「ほらほら、こっちこっち」
そうして誘われた奴らには、懇切丁寧な横薙ぎをお見舞いしよう。
ばちばちばちばち! と弾ける発砲音と強い光は、まるで一斉掃射を喰らったかのようで。驚いた無法者にマラソン頑張って、と声を掛けてから。
「あー、ちゃんガシュ」
「其れは俺の事か?」
「そうそ。まずはさ、体力つけよ? 疲れてるっしょ。体力あれば色々出来るし、先見据えてやってこ! な!」
「……ああ、……そうだな」
こんな軽い調子の夏子だが、言う事は的確だ。
悔しそうに汗を拭うガシュカに、にこにこと夏子は笑う。
「まー俺タンクだからさ、戦い方地味シブな訳。まー、ちゃんガシュが剣振るの苦手だっていうなら受けてもいいだろうし……まずは自分に合った戦い方さがそ?」
「……いや。俺は、此れで良い」
「なんで?」
「これが、合ってたんだ。……奪われるまでは」
成否
成功
第1章 第12節
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「勅令、ね」
ジェックは銃の調子を見ながら呟く。
新皇帝のたった一言。たった一言で、此処まで治安が悪くなるなんて――これまでの治世が良かったのか、民の気質が偏っているのか、果たしてどちらなのだろう?
恐らく、其れは“どちらも”なのだが――だが、重要なのは其処ではなく。ジェック達イレギュラーズにとって、こういった騒乱は他人事では済まされない。
特に玉座に座るものが“煉獄編の冠位を戴く者”であれば、尚更。
何処に付くのか。
どう動くのか。
其れをきっと、鉄帝中が見ているのだ。
「アタシは剣士の戦い方を知らないから、参考になるかは判らないけれど……そうだな。相手に攻撃をさせない、相手の距離で戦わない、が出来れば上等じゃないかな」
言って、ジェックは銃を構える。
そうして奏でる。恐ろしき殺戮の銃弾重奏を。跳弾して、命中して、貫通して、命中する。鉛が一瞬にして奏でたブラッド・バスに、先んじて前に出ていたガシュカは驚いたように瞳を瞬かせた。
だが、まだ立つもの、立っているものがいる。
ガシュカが其の内の一人を斬り捨てる。其の剣は拙いが、剣筋には躊躇いがなく……其の背後を狙った無法者の頭を、ジェックの銃弾が違えなく貫いた。――ああ。死神が、嗤っている。
成否
成功
第1章 第13節
●
「君に貸しを作りたい」
「……貸し?」
今までにない言葉に、ガシュカは憂炎へと視線を向ける。
其の視線に不審がるものを感じて、けれど憂炎は言葉を続ける。
「僕は南部戦線、ザーバ派の解・憂炎」
「……ザーバ派。少しくらいなら話には聞いてる、あちらも反新皇帝派だと」
憂炎は咆哮する。ゴロツキはまた邪魔が入ったと向かってくる。まるでガシュカが目に入っていないかのように、憂炎へ一直線に。
「いざとなったら、君に新皇帝攻略の傭兵として働いて欲しい」
攻撃を受けながら、憂炎は話し続ける。
南部に所属してくれとは言わない。だが、腕を磨くにはこれ以上ない良い機会だろうと。
「……」
ガシュカは剣を振り翳し、憂炎へと攻撃を加える無法者を切り裂いた。其れはとても拙い剣で、……けれど怒りに駆られた無法者を切り裂き、命を奪うには十分だった。
「……こんな俺でも、いいなら」
ガシュカには探し人がいる。
出来るなら、其の範囲は広い方が良い。
「……交渉成立だね」
「だが、俺は南部にはつかない」
「ああ、其れで良いさ」
頷く。
――十分に攻勢に出られる。
そう判断して憂炎は、雷霆の一撃を無作法者たちへと叩き付けた。
成否
成功
第1章 第14節
●
「ふーむ」
ブランシュは唸る。ラド・バウでお掃除ですよ?
まあ、良い心掛けだと思うですよ!
「なので、そういうのはお任せして欲しいですよ!」
「……」
大丈夫だろうか、とガシュカが戸惑っているのが判る。
イレギュラーズではあるが、ぱっと見ればブランシュは純粋無垢な少女にも見えるからだ。
「さあさあ、ガシュカさんは前へ出るですよ! ブランシュは後方支援するですよ!」
言われるがままにガシュカは前に出て、……其れでも無法者を前に、フードを下げる。
数は少ないが、ガシュカの力量では荷が重いものが数人。
ブランシュは後方からそっと、其の様子を伺って……
「うーん、まだまだですよ。これはちーとばかし、助けてあげるですよ」
銃弾を放つ。一、二、三、……連射した鉛は踊る。
悲鳴が上がる。其れはまるで重奏のように。其の“舞踏”を見極めてブランシュは一発、一人の頭すれすれに銃弾を掠めてやった。
―― 一度だけ忠告します。次は、頭ですよ。
狙われている。
己の間合いではない遠距離から、まるで鴨撃ちのように。
弱い男の後ろに立つ少女の実力を見て、無法者たちは怯え切った顔で去って行った。
「? ……お前……」
「ん? なんですよ、ガシュカさん? 何もなかったですよ?」
「……そうか」
「幾ら達人でも、強大な兵力差の前では無謀ですよ。いずれ一流になればいいですよ! 其れまでは、どんどん皆を頼るですよー!」
成否
成功
第1章 第15節
●
「ラド・バウって確か……政治不干渉、って方針でしたわよね?」
丁寧に、一礼を。
そして其処から、三撃。これで大抵のゴロツキは意識を失う。
リドニアはふと気が付いたように、後ろで弱いゴロツキを切り払うガシュカを見た。
「……ああ」
ガシュカはフードを被り直す。
「だが、其処にもこうやって現れる奴らはいる。普段から闘士に恨みを持っていたり、新皇帝の言うままに暴力を振るいたい奴……この自治区はあくまで“不干渉”であって、“無法地帯”じゃないんだけどな」
「そうですか……貴方はどうして闘技場に参加を?」
まだ立ち上がって来る者がいる。
やられっぱなしでいられるかよ、と向かって来る其の勇気を湛えて――リドニアは其の身体を宙へと打ち上げ、撃ち落とす。
どさり、と落ちたゴロツキの身体。ぱん、とお掃除の後よろしく両手を打ち払うと、さあ、話して下さいまし! とリドニアはガシュカを振り返った。
「……ある男を探してる。俺から“ガシュカ”を奪った男だ」
「まあ」
思ったより深みのありそうな話に、リドニアはきらりと瞳を輝かせるのだった。
成否
成功
第1章 第16節
●
「全く。この国も随分治安が悪くなったものだな」
思考は脳筋だけど、人が良い民が多くて嫌いではなかったのに。
モカは溜息を吐き、――まあ、人が悪い奴はいつまでも悪いか、とも思い直す。
其れは兎も角として、歪んでしまったなら正すまでだ。
「ガシュカさん」
「……なんだ」
急ぎ駆け付けたのだろう。息の荒い彼に、モカは笑み掛けた。
「貴方は決して弱くはない。強いだけの悪に抗い、弱い民を救う。そんな心意気を持つ人こそが『強い』のだ。――戦闘技術は努力と訓練あるのみだ。大丈夫だよ」
モカは一気に敵陣へ斬り込む。
其れはまるで、雀蜂の群れが敵を一網打尽にするように。
たった一匹の雀蜂は、百とも千とも見える一撃の十重二十重を繰り出す。更に肉弾戦を挑み、相手を押し込むと――相手の鎧ごと破壊する一撃で、其の戦気を一気に削ぎ切った。
「生きろ」
噛み締めるように言う。
「これからは、これまでの罪を償いながら! 生きろ!」
成否
成功
第1章 第17節
●
「こういうさあ、お国がどうとかっていうの……俺には難しくてわっかんねえ」
飛呂は頭を抱える。
けど、と顔を上げた。此処は高所。鉄帝には珍しい、狙撃にはおあつらえ向きの場所だ。
「だけど、何かあった所為で荒れてて困ってる人がいるんなら……助けないと、だよな」
ラド・バウへうきうき向かうゴロツキどもに狙いを定める。
弱肉強食の掟を嬉々として受け入れる輩に、何故だか胸がざわざわしてやまない。
そのざわめきを落ち着かせるように飛呂は狙撃銃から弾丸を放つ。其れは遠く遠くから放たれる一撃。腕を撃ち抜かれたごろつきは、自分が何を受けたのかもわからず一瞬ぽかんとして、……一気に肉体に広がる痛みと熱に、いてえ! と転げ回った。
――どうした!?
――銃創だ! 狙われてるぞ!
気付いたところで遅いんだよ。
更に飛呂は弾丸を重ねる。まだ場所は特定されていない。其の内に、一方的に終わらせてしまいたかった。
一撃、二撃、三撃。
重ねるごとに転がり回るゴロツキは増えていく。手を、足を狙って撃つ。
……そろそろか。
何度も撃てば、何処から撃っているか推測される。
あらかたのゴロツキを撃ち抜き終わると、ふわり、と其の場を後にした。別の高所を探さねばならない。
常に移動を考える。これはスナイパーの基本。
――何故胸がざわつくのか。飛呂には判らなかった。或いは彼が……“天使に恋をしているから”かも、知れなかった。
成否
成功
第1章 第18節
●
「はいはーい、“お掃除”のお手伝いなら、ボク得意だよ!」
ガシュカはソアの顔をしっていた。
彼女もまた、ラド・バウの闘士に名を連ねるものだからだ。
とはいえ、彼女だけに任せている訳にもいかないと、二人は見回りをする。
「何だか悲しいね」
「……そうだな」
ほんの少し前までなら、賑わっていた筈の鉄帝の街。
それがあっという間に、こんなに静かになっちゃった。こんなの、変えたいなあ。そう呟くソアに、変えるんだ、とガシュカは言う。
「……。俺達が」
「……ふ、はは! なんだか熱血だね、ガシュカさん!」
「うるさい」
そうして順調にゴロツキを倒し、お掃除をこなしていく。
弱い奴は組技で一気に。少し手を焼く相手には、爪と雷撃を加えて。
「ねえ、ガシュカさん」
ガシュカの出る幕は殆どない。
そんな中で、ソアはふと問うた。
「どうしてお掃除を?」
「……どうだって良いだろ」
「えー! 気になるに決まってるよ!」
「……。…。捜してる奴が、いるんだよ」
其の言葉を聞くに、明らかに恋人の類ではなかった。
憎悪と嫌悪、そして怒りが、其の声色には混じっていた。
成否
成功
第1章 第19節
●
鉄帝で一体なにが起こっているのか、慧にはいまだに良く判っていない。
幾つかの派閥が出来て、彼らが思い思いに動いている。
魔種が玉座に座って、弱肉強食の国を作ろうとしている。
――ぼんやりと、其れくらいしか判らないけれど。
「ややこしいことは置いといて、ゴロツキがアレコレ荒らしてんのは嫌っすからね」
「アァ!?」
其のゴロツキからの攻撃を受け止めながら、慧はもう一度、「嫌っす」と言った。
歪んだ角が、殴りかかったゴロツキに逆にダメージを与える。そうして出来た隙に踏み込んで、――死よ遠ざかれ。其の呪詛を攻撃へと転じて、相手に叩き込む。
「其の程度の実力で、ラド・バウの闘士に挑みにいこうとしたんすか?」
「まあ、俺、闘士の方には余り勝てないんすけどね~」
煽る、煽る。
正確に言うなら、「勝ちはしないが負けもしない」なのだが、此処は隠すが華だろう。
立ち上がって慧を怒りの目で見付めるゴロツキたち。
――其処に鉄帝に張り巡らされようとしている悪意の根を見た気がして。
「……喰らえッ!」
慧を助けようと横合いから斬り込んだガシュカに、見事っすよ、と笑ったのだった。
成否
成功
第1章 第20節
●
「取り敢えずパトロール行くか」
シラスがガシュカにそう提案したのは、至極当然の流れで。
そうして見回りしていたらゴロツキがついてくるのも、当然の流れであった。
「ガシュカ、ちょっとストップな」
「え?」
言うや否やシラスは振り返り、魔力弾を解き放つ。
其の衝撃はばしばしと強く追跡者たちを捉え、吹き飛ばし。其の命までは奪わないと誓った一撃は、ゴロツキたちの意識を綺麗に吹き飛ばした。
「まだいる……!」
ガシュカが言う。
シラスが目を向けると、巨躯の男が憤怒の表情でこちらに向かって来ていた。
「出来れば、相手に何もさせずに勝つのが理想なんだけどな」
まあ見ててくれよ。
シラスは指を振るうと、巨躯を結界の中にぎちり、と閉じ込める。
そうして動きを封じたところで、極大の一撃を叩き込み――そうしてまさに“相手に何もさせずに”終わらせた。
「――まあつまり、アレだ。戦いは相手の嫌がることを、躊躇わずに徹底してやってやろうな、って事」
成否
成功
第1章 第21節
●
サンディとティスルは、敢えて弱く見える服装をしていた。
ティスルは質素な服に少しの防具。新人闘士風に。サンディもまた簡素に、明らかに新品です、というぴかぴかの防具を付けて。
二人はいかにも「ラド・バウ周辺で初めてのパトロールに緊張しています」という顔で歩き回っていた。
そうしたら、釣れるわ釣れるわ。此処は釣り堀か? と思う程のゴロツキども。
相手の剣を“何とか受け流すふり”。蹴りを“敢えて気付かずに受ける”ふり。
略奪者たちは増長する。そうして、ティスルの顔を見るとおお、と歓声を上げた。
「おう、よく見たらお嬢ちゃん可愛いじゃねえか! なあ、そっちの兄ちゃんなんかより俺とどうだ?」
「そっちの兄ちゃんはよォ、色々と“おぼつかない”ンじゃないのかァ~~? ヒャッヒャ!」
「……サンディさん、やっちゃっていい?」
「あー、もう良いか。十分に集まったしな!」
一度後ろに下がり、略奪者たちを挑戦的に見つめる二人。
明らかに威容の変わった其の視線に、なんだ、と略奪者はどよめく。
――光!
極彩色の光が二人を包み込み、光の嵐が已む頃には二人はいつもの姿に。
変身バンク中はお触り禁止。其のルールはしっかり鉄帝でも適用されます!
「生憎だったな。ティスルちゃんはお前達みたいなならず者にはなびかねぇよ!」
「な、なん……!?」
「其の通り! アンタ達全員、此処でまとめて相手してあげる。――まあ? どうせ“おぼつかない”んでしょうけどッ!」
ティスルの腕輪が輝き、剣の形へと為していく。其のまま振り上げ、振り下ろす――真の技とは、其れだけで為るものだ。
“対城技”。余りの破壊力からそう謳われた一撃を、贅沢にもティスルは略奪者たちにお見舞いしてやった。俺はどうだ、なんて言っていた奴が呆気なく吹っ飛んでいく。
そしてサンディとて手加減はしない。溢れんばかりの生命力を破壊力と変えて、一気に薙ぎ払う!
「うわ、」
「ちょ、」
「お助け!?」
新人相手にあれだけイキっていたのに、ちょっと本気を出したらこのザマ。
手ごたえが無さ過ぎて逆に面白いよ、と笑うティスルに、内心でサンディは“彼女には下卑た言葉を使うまい”と誓うのだった。
成否
成功
第1章 第22節
●
「技術ってのは一朝一夕では見につかん。猶予のない今は、力任せに戦う方がいくらか目があるはずだ」
昴はそのようにガシュカに言う。
そしてこのように、と相手の群れに突っ込んでいく。
至近距離で拳を繰り出す。攻撃としてこれほど信頼できるものはないだろう。相手からの被弾なぞ織り込み済み。一気に引き付けて、雷撃の如き一閃を叩き込む。
ガシュカがどう行動するかは、彼自身に任せた。
そして此れから起こる事も、考える事はやめた。
下手な考え休むに似たり。昴が幾ら考えたところで結論は出ないと思うし、状況を変えられる一手がある訳でもない。
ならば目の前の敵をただひたすらに粉砕していったほうが、建設的というものだろう?
「幾らでも相手になってやろう」
かかってこい。
昴はそう言って、――ふと、隣の気配に気づいた。
ガシュカが剣を構えている。
……。ふ、と口元に笑みだけを浮かべて。昴は再び、構え直すのだった。
成否
成功
第1章 第23節
●
北西。
フーガはかりかりと頭を掻き、略奪しようとする者たちと対峙していた。
まあ、会話は不要だろう。どうせ相手は一言目に「金目のものをよこせ」と言って来るから。
だからフーガは一気に距離を詰めた。手刀で、とん、とん、とん。相手に痺れを与え、其の武器を持つ握力を奪っていく。
「こいつ!」
「やっちまえ! 一人だ!」
まー、そういうと思ったよ。
くるり、とフーガが取り廻したのは、いつの間にやら手元にあったトランペット。
ぷう、と鳴らせば一気に衝撃波が奔り、無作法者を吹き飛ばしていく。
「歌はガラじゃないんだが、これは特別サービスだ。受け取っておけ、野郎ども」
……戦い方を教えて欲しい。
そう言った男の鋭い瞳を思い出す。
元の世界であれば、フーガは衛兵の心得をきちんと教えられていただろうか?
今は……剣や銃じゃなくて、トランペットと一緒に戦うのが楽しい。
ま、戦いも大事だが――次の戦いに備えるための楽しみも必要ってね。勝利の凱歌はいつだって必要だろう?
ぞろり、ぞろり。際限なく集まって来る略奪者を、今度こそフーガはトランペットの音色で大地に沈めた。
成否
成功
第1章 第24節
●
「初めまして、ガシュカさん。ヨゾラっていいます」
丁寧な挨拶にガシュカは慣れていない。
フードで目元を隠すようにすると、……宜しく、と小さく呟いた。
「僕の戦い方は参考にならないかもしれないけれど……掃除のお手伝いはするよ!」
「ああ。……其れで良い」
見て学ぶ。
そう言ったガシュカに、ヨゾラは笑みを浮かべるのだった。
ゴロツキたちはいとも簡単に吹き飛んでいく。
ヨゾラの一撃ではそうだけれども、ガシュカの一撃ではそうはいかない。剣でじりじりと撃ち合う彼を助けようと、ヨゾラはそっと見えない手を伸ばす。
周囲への警戒は怠らない。――嫌な予感がするのだ。
冠位の権能に、……憤怒に関わる何かが起きてもおかしくない。そうでなくても、純種が反転する事だってあるかも知れないのだ。
或いは、ガシュカに何かあるかもしれない。
……そんな事はさせない。
誰も傷付けさせないし、護りたいと願う人を反転させたりもするものか。
願いを胸に抱きながら、ヨゾラはまた指を振るう。
成否
成功
第1章 第25節
●
「僕が勝ったら、言う事を聞いて欲しいな」
文はゴロツキたちに、そう駆け引きを持ちかける。
ああ? と見上げるように睨んでくる彼らに、文は動じる事無く笑み掛けた。
「君たちに話が通じるなら、だけど。一般人を護る為に、これからは力を貸してくれないだろうか」
「ああ!? 皇帝サマの言葉聞いただろうがテメェ! なンで俺達が弱ェ奴らを護ってやらなきゃ」
ゴロツキの言葉は途中で途切れた。
文の姿が消えたかと思えばすぐ傍にあって、蛇がしゅるりとゴロツキの腕に巻き付き、其のアギトを大きく開いて屈強な腕に噛み付く。
「ああああ!? いっでえええ!!!」
「うーん、結構数がいるね。じゃあ」
悲鳴などおかまいなし。だって相手だって、自分の話を聞かなかったのだから。
文は熱砂の精を躍らせる。此処は鉄と砂の国、鉄帝。砂なら飽きるほどある。――熱砂が躍る。其れは嵐となって、言う事聞かない不良たちを小石や砂で切り刻んだ。
「……」
驚いたようにガシュカが見つめて来る。
まあ、自分が非力そうに見えるのは今に始まった事ではないけれど。文は改めてそんな視線を受けて、気恥ずかしそうに眼鏡の位置を直した。
「まあ、僕も強い方ではないから。アイテムや装備に頼ったり、相手の嫌がる戦い方を心がけているんだ。さっきの蛇とかがそうだね。――君は、何か訳ありのようだけど……」
「……」
「無茶をしてはいけないよ。何事も、命があってこそだからね」
成否
成功
第1章 第26節
●
匂い立つような色香に、ガシュカは慣れていない。
其の様を初心だとリカは笑い、殊勝だわ、と彼を評した。
「ただ強者に縋りつくだけの子もいるけど、……強くなりたいから学びたい、だなんて」
「……俺を誘惑でもしているつもりか」
「あら、私をただの淫魔だと思ってるの? 闘士リストにも載っているのよ、これでも。ふふ――ゴミ掃除が終わったら、お姉さんと一つ特訓をしましょうか」
勿論其の後の“息抜き”もね。
なんて言いながら、リカはゴロツキをいともたやすく見付けてみせた。略奪の跡がある。成る程、センサーに引っ掛かる訳だ。
「ふふ、はしゃいじゃって……そんなコトよりイイコトを私としましょ?」
良い女だ、と視線が向くのはさもありなん。
けれども、リカがただの“良い女”だったなら、イレギュラーズには選ばれていないのだ。
寄ってきた男たちを一撃のもとに大地に叩き付ける。漆黒に還してあげる、と囁いた言葉は果たして、彼らに届いたのかどうか。
「ああ、つまんない。ねえ貴方、ガシュカ? 貴方はどうして強くなりたいの?」
「……倒したい男がいるからだ」
「あら。其の男って、強い?」
うふふ。お姉さん、お話を聞きたいわ。
淫魔と闘士、二色の光を灯すリカに、ガシュカは溜息を零すのだった。
成否
成功
第1章 第27節
●
「まあ、とはいえ」
私もそこまで強い訳じゃないんスけど。
美咲は笑みで誤魔化しながら、己の頬を掻く。
「其れでも良いなら見てって下さい」
まずは索敵っス。
私はこの偵察機とか、リトルワイバーンで敵を探す事が多いスね。
可能なら事前に情報網や捜索で……まあ、実際に歩いてみる、現場を知るのが大事っす。
其れで……ああ、いた。
ああいう感じで敵を見付けたら、隠れながらバレないように……
飛び込むのは一瞬っス。少しでも躊躇えば相手に防禦の暇を与えてしまう。
兎に角奇襲は速度が勝負! 確実に先手を取って数発キメたら……一目散に逃走!
「……。斃さないのか?」
「相手が倒れるまで繰り返しまス」
「大変だな」
「まあねー。私は強くなることを目的とはしてないんで。斃せたらいいって割り切るのも一つの方法かなって思いまスよ……っと、あれ?」
「どうした?」
「いや、一つ反応が。こっちに奔って来るっス」
迎撃するか否か。
美咲が悩んでいた其の時、
「――ガシュカ君ッ!」
声が、聞こえた。
成否
成功
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
こちらは2章完結のラリーシナリオです。
宜しくお願いします。
●目標
ラド・バウの“掃除”をせよ
●立地
ラド・バウ周辺です。
闘技場として盛り上げながらも自治区を護る闘士たちのお陰でおおむね治安は良いですが、時折「我こそは」というゴロツキが紛れ込んできます。其れが今です。
掃除するにはガシュカでは力量が足りませんので、イレギュラーズの力を貸してあげてください。
●エネミー
ゴロツキx複数
???x1
???x複数
心に夢の詰まったゴロツキです。
今ならラド・バウ闘士に負けた恨みを晴らせるのではないかとか思っています。
ナイフを持っていたり、弓を使ったり、素手で戦ったりします。
ラド・バウの闘士リストには名前のない者ばかりです。実力はお察し下さい。
……何か、嫌な予感がします……
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●特殊ドロップ『闘争の誉れ』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争の誉れ』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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