PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Stahl Gebrull>もういちど、君の手を取って

完了

参加者 : 116 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アーカーシュ決戦
 ――鉄帝国が確保していたアーカーシュ産のゴーレム。そのほとんどは、敵の手に落ちた。
 最高権限を持つ島の主、パトリック・アネルにとっては、ゴーレムの命令を上書きすることなどは容易い事だったのである。
 鉄帝の運用する新型ゴーレムはアーカーシュの指揮系統を外れているために無事ではあったものの、それでも相当の被害を被ったのは違いない。
 敵の手に落ちたゴーレムの対処。それが、現時点で鉄帝軍・ローレット両者に課せられた課題でもあった。
「結局のところ」
 オリーブ・ローレル(p3p004352)が静かに言った。魔王城、作戦室。集ったイレギュラーズ達は、対ゴーレム作戦の立案を開始していた。
「衝突は避けられないものだと思います」
 衝突。つまり、敵の手に落ちたゴーレムとの、だ。ゴーレム達は、血の涙を流しながら、我々を手にかけた。その心に、確かに我々との友情を覚えながら。意思に反する嬢命令に身体を縛られ、絶望の声をあげながら、友をその手にかけた。
 ならば、我々がやるべきことはなんだ。速やかに、その苦痛を終わらせてやることか――。
「でも……でも……!」
 リオーレ(p3p007577)が声をあげた。
「そんなことは、嫌だ。ボクは、嫌だ……!」
「お気持ちは分かります」
 オリーブは頷いた。
「……ですが、現実問題として、我々のゴーレムコントローラーは効果を無効化されてしまった。
 打つ手が、無いのです」
 悔し気に、オリーブは呻く。鉄帝の友として、ゴーレムに気持ちを寄せる者たちの気持ちくらいは、オリーブもわかっていた。だが、周到に張り巡らされた魔種の罠は、そのような感傷をあざ笑うかのように強固だ。
 打つ手が、無い。それは、リオーレにもよくわかっていたことだった。身を縛る、絶望。その冷たさに身体を震わせながらも、それでも、どうにか、どうにか、と光を求め、喘ぐように言葉を紡ぐ。
「だけど……だけど……!」
 伸ばした手に、女神が微笑む気配は感じられない。あの、友達の……アクス・ツーの見せた、恐ろしい赤の瞳を思い出す。友達が見せた、確かな敵意。でもそれ以上に、苦しんでいるように、泣いているように、見えたのだ。
「いいえ、手はあるっス!」
 ばん、と扉を開けて飛び込んできたのは、キャナル・リルガール(p3p008601)を始めとする、EAMDの面々だった。
「ガスパー! 怪我は大丈夫なの!?」
 リオーレが言うのへ、ガスパーは頷く。
「うむ。こう見えても私は頑丈である……いや、今はそれはいい。
 対抗策が、一つだけある」
「本当ですか?」
 オリーブが言うのへ、キャナルは頷いた。
「そうっス! 敵がアーカーシュのシステムでゴーレム達を操っているならば、その装置を見つけ出して、ジャミングを仕掛けるっスよ!」
「ジャミング……つまり命令阻害ですか」
「うむ。残念ながら、アーカーシュのシステムを乗っ取り命令を上書きすることや、アーカーシュのシステムそのものを破壊することはできん。こればっかりは、私がいくら天才でも、である。
 だが、アーカーシュのシステムから発せられる、命令電波……いや、魔力波であろうか? 兎に角、そう言ったものを逆探知し、命令システムの基部を発見することはできた! そして、その命令電波を遮断するためのシステムも、ゴーレムをリビルドする過程で研究が進み――ようやく完成した所である!」
「つまり、ゴーレム自体にこのシステムをとりつければ、外部からの命令をシャットダウンできた……んだけど」
 EAMDのアリディアがそういうのへ、ノバリシアが続ける。
「ゴーレムは、今は敵の手に落ちているわ。今から一台一台に回路を取り付けるのは不可能なの」
「じゃ、じゃあ、どうすればいいの?」
 リオーレが言うのへ、ガスパーは頷いた。
「簡単だ。大元のシステムに、こいつを取り付けてやればよい! 大元で電波を遮断すれば、すなわちゴーレム達への命令が届かなくなるというものである!」
「そのためには、遺跡に侵入して、大元のシステムの下にたどり着かなければならないっス」
 キャナルが言った。
「ここからが本題っスよ。うちらはアーカーシュ中枢に侵入し、三つのゴーレム管理システムに向かうっス。
 そこで、このジャマー装置を取り付けて、ゴーレムへの命令を阻害する……!」
「そうすれば、ゴーレムの暴走は止まるんだね?」
 リオーレの言葉に、ガスパーは頭を振った。
「正直に言おう。わからん。我々ができるのは、命令を遮断する、までだ。その後のゴーレムが、どのように振る舞うか……底案では予測できん。はっきり言おう、後は、諸君らの、ゴーレムとの絆がモノを言う!」
 ガスパーは声を張り上げた。
「諸君らが、ゴーレムとの絆を結んでいたのならば……きっと、ゴーレム達は力を貸してくれるであろう。
 或いは、諸君らの声が届けば、命令そのものをはねのけてくれるかもしれん。
 良いか、最終的にものをいうのは、諸君らの、心だ。
 私は科学者ゆえ、そう言ったゆらぎは信用していないが……今は、諸君らの心に、絆に、すべてを託そうと思う」
「なるほど。なら話は早いですね」
 オリーブが言った。
「EAMDの皆さんを護衛し、ゴーレムを救う。
 簡単なことですよ、リオーレさん。
 では、始めましょう。あのクソッタレの魔種から、我々の友を取り返すのです」
 オリーブの言葉に、リオーレは頷いた。
「待っててね、みんな。待っててね、アクス・ツー。
 絶対に、助けるから……!」
 かくして決意のもとに、ゴーレム奪還作戦は開始される!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 友を、奪還しましょう。

●成功条件
 三か所のアーカーシュシステムに、ジャマー装置を取り付ける。

●失敗条件
 EAMDの三名、ガスパー・オークソン、アリディア・オルタニス、ノバリシア・ユードラがシステム到着前に戦闘不能になる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 しかし、あなたたちとゴーレムとの絆があれば、どのような困難も突破できるはずです。

●重要な備考
 本シナリオは運営都合上の理由により、通常よりも納品日が延期される場合が御座います。

●状況
 鉄帝が運用していたアーカーシュ産のゴーレムは、パトリック・アネルを騙る魔種によって奪い取られました。
 アーカーシュシステムによる上位命令に、ゴーレムは逆らえないのです。
 しかし、逆転の一手はまだ残されていました。
 EAMDのメンバーが開発したジャマー装置。これを中枢システムに取り付けることによって、命令系統を妨害。
 ゴーレム達を強制的に暴れさせるという命令を、止めることができるのです。
 そこから先は、皆さんとの絆がモノを言いますが、もう一度手を差し伸べることができるのは確か。
 さぁ、奪われた友を奪還しましょう!
 作戦エリアは、アーカーシュ遺跡中枢への道。
 敵は、アーカーシュ産のセレストアームズたちと、鉄帝とローレットから奪ったゴーレム達で構成されています。

●プレイングの書式について
 戦場での迷子などを防ぐため、一行目に戦場の番号を、
 二行目に、【グループタグ】か、同行するお仲間のIDを、
 三行目以降にプレイングをお書きください。

==例==
【A】
ラーシア・フェリル (p3n000012)

がんばります!
======

●戦場
【A】システム・バルタザール
  一つ目のゴーレム制御システムです。道中はほとんど直線に近い構成になっており、最も敵と遭遇し、激戦となる可能性が高いエリアになります。最も戦闘力を要求されます。
  此方には、ガスパー・オークソンが同道します。ガスパーを守りながら中枢に向かい、ガスパーがジャマーシステムを取り付けるのが目標です。
  此方には、リオーレさんの友達であるアクス・ツーや、アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)さんのゴーレムNox sidereum、風花 雪莉(p3p010449)さんのゴーレムとみかさん、アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)さんのソーダセレストやメンテナンスアームズ。エーレン・キリエ(p3p009844)さんのローレンスが存在します。
 また、防衛機構として、無数のセレストアームズ、および強敵であるクルーエル・アームズタイプαが存在します。

【B】システム・メルキオール
  ふたつめのゴーレム制御システムです。道中は複雑な迷路のようになっており、敵との遭遇を避けられる可能性もありますが、同時に踏破に時間がかかってしまうかもしれないエリアです。最も探索力を要求されます。
  此方には、アリディア・オルタニスが同道します。アリディアを守りながら中枢に向かい、アリディアにジャマーシステムを取り付けさせてください。
  此方には、炎 練倒(p3p010353)さんのゴーレム、ジェイル・ブレイカーや黎明院・ゼフィラ(p3p002101)さんのゴーレム、マイルストーン、百合草 瑠々(p3p010340)さんのゴーレムである 神か悪魔か 、そしてサイズ(p3p000319)さんのゴーレムである百里の人形や、ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)さんの月蒼翼の姿が見えます。
 また、防衛機構として様々なセレストアームズ、および強敵であるクルーエル・アームズタイプβが存在します。

【C】システム・カスパー
  三つ目のゴーレム制御システムです。道中は短く、ダンジョンとしては単純な構造をしています。敵との遭遇もそこそこ。バランスよく行動するのが良いでしょう。
  此方には、ノバリシア・ユードラが同道します。ノバリシアを守りながら中枢に向かい、ノバリシアにジャマーシステムをとりつけさせるのが目標です。
  此方には、ライ・ガネット(p3p008854)さんのゴーレム もふもふ宝玉丸!や、ルビー・アールオース(p3p009378)さんのステラロッサ、リック・ウィッド(p3p007033)さんのスターゲイザー。さらにエーミール・アーベントロート(p3p009344)さんの 夕焼けの守護者アメテュスト などの姿が確認できます。
 また、防衛機構として様々なセレストアームズと、強敵であるクルーエル・アームズタイプγが存在します。

●エネミーデータ
 セレストアームズ ×???
  遺跡に大量に保管されていた、パトリック陣営のゴーレム達です。
  武装タイプによってさまざまな戦闘行動を行ってきます。
  近接特化型、射撃特化型、援護特化型など。最も遭遇する分、倒しやすくはなっています。

 クルーエル・アームズタイプα
  【A】の戦場の中枢入り口を守っています。
   近接特化型のゴーレムで、強烈な斬撃から繰り出される必殺の一撃と出血系列のBSが驚異的。
   半面、攻撃に特化しているため防御面は薄く、他のゴーレムに護らせるような動きもとります。
   孤立させ、一気に叩きましょう。

 クルーエル・アームズタイプβ
  【B】の戦場の中枢入り口を守っています。
   此方は射撃特化型。強烈なビームと強固な装甲を持つ、遠距離砲撃タイプです。
   半面、動きは鈍重。命中率もさほど高くはないため、素早く動いて翻弄してやりましょう。
   火炎系列のBSや、ブレイクも使用してきます。ご注意を。

 クルーエル・アームズタイプγ
  【C】の戦場中枢入り口を守っています。
   此方は支援タイプで、無数のセレストアームズや、皆さんのゴーレムにバフと回復をかけて、デコイのように操って攻撃させます。
   様々なバフ能力を持ちますが、単体としての戦闘能力はかなり低いです。
   上手く敵の陣容を突破し、速やかに撃破してやるのがいいでしょう。

  イレギュラーズ・ゴーレム
   イレギュラーズや、鉄帝軍が運用していたゴーレム達です。
   全て強制的に命令に従わされています。
   中枢に到達できれば、強制命令を遮断できるので、此方の味方になってくれる可能性があります。
   そうでなくても、皆さんが心から言葉を届ければ、その絆は強制命令を乗り越え、すぐに味方に戻ってくれる可能性は十分にあります。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております!

  • <Stahl Gebrull>もういちど、君の手を取って完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別決戦
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月02日 22時20分
  • 参加人数116/116人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 116 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(116人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000668)
ツクヨミ
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
古木・文(p3p001262)
文具屋
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)
優しきおばあちゃん
ナハトラーベ(p3p001615)
黒翼演舞
DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)
ゲーミングしゅぴちゃん
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
トカム=レプンカムイ(p3p002363)
天届く懺悔
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
ハインツ=S=ヴォルコット(p3p002577)
あなたは差し出した
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
姉ヶ崎 春樹(p3p002879)
姉ヶ崎先生
シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
クロサイト=F=キャラハン(p3p004306)
悲劇愛好家
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
御幣島 十三(p3p004425)
自由医師
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
斉賀・京司(p3p004491)
雪花蝶
ヴァトー・スコルツェニー(p3p004924)
鋼の咆哮
札貫 リヒト(p3p005002)
タロットも任せとけ
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
パーシャ・トラフキン(p3p006384)
召剣士
河鳲 響子(p3p006543)
天を駆ける狗
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)
海軍士官候補生
リック・ウィッド(p3p007033)
ウォーシャーク
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
城火 綾花(p3p007140)
Joker
アンジェラ(p3p007241)
働き人
リオーレ(p3p007577)
小さな王子様
久留見 みるく(p3p007631)
月輪
ウルリカ(p3p007777)
高速機動の戦乙女
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し
エステル(p3p007981)
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
雨紅(p3p008287)
愛星
紅迅 斬華(p3p008460)
首神(首刈りお姉さん)
イスナーン(p3p008498)
不可視の
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
キャナル・リルガール(p3p008601)
EAMD職員
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
黒野 鶫(p3p008734)
希望の星
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
明星・砂織(p3p008848)
カードデュエラー
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
シエル・アントレポ(p3p009009)
運び屋
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート
星影 昼顔(p3p009259)
陽の宝物
エーミール・アーベントロート(p3p009344)
夕焼けに立つヒト
ルビー・アールオース(p3p009378)
正義の味方
ファニアス(p3p009405)
ハピネスデザイナー
アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)
不死呪
形守・恩(p3p009484)
柳暗花明の鬼
ナナ(p3p009497)
自分を失った精霊種
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
マナ(p3p009566)
太陽の恵み
テリエル=ギア=トゥレラ(p3p009598)
狂界の接続者
アナト・アスタルト(p3p009626)
殺戮の愛(物理)天使
白妙姫(p3p009627)
慈鬼
ハビーブ・アッスルターン(p3p009802)
何でも屋
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ウルファ=ハウラ(p3p009914)
砂礫の風狼
囲 飛呂(p3p010030)
きみのために
フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)
彷徨いの巫
ベルトア・ウル・アビスリンク(p3p010136)
死を謳う者
リュビア・イネスペラ(p3p010143)
malstrøm
志岐ヶ島 吉ノ(p3p010152)
手向ける血の花
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
百合草 瑠々(p3p010340)
偲雪の守人
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン
ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)
ラッキージュート
風花(p3p010364)
双名弓手
シャールカーニ・レーカ(p3p010392)
緋夜の魔竜
秋霖・水愛(p3p010393)
雨に舞う
劉・麗姫(p3p010422)
姫拳
レオナ(p3p010430)
不退転
風花 雪莉(p3p010449)
ドラネコ保護委員会
紲 酒鏡(p3p010453)
奢りで一杯
紲 蝋梅(p3p010457)
紲一族のお母さん
劉・紫琳(p3p010462)
未来を背負う者
ジルベール(p3p010473)
切り裂きジル
ガマ・グランザ(p3p010489)
シンギングトード
空木 姫太(p3p010593)
一般人のモブ
水無比 然音(p3p010637)
旧世代型暗殺者
エリカ・フェレライ(p3p010645)
名無しの暴食
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
アザレア・ラビエル(p3p010678)
イチゴ(p3p010687)
一護一会
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
JACK・POT(p3p010726)
新たな可能性
十善寺 百八(p3p010808)
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

リプレイ

●友を、この手に
「さて……電波……いや、魔力波であるかな。
 めんどうだ、『命令波』と呼ぼう。兎に角、ゴーレムに命令を出す『命令波』。これを出す『命令中枢』は三つある」
 アーカーシュ遺跡、侵入の道すがら、EAMD所長であるガスパー・オークソンはそう言った。
「つまり、この部隊を三つに分け、三つの中枢に向かって進撃する必要があるのだ。そしてそれぞれに、このジャミング装置を装着し、『命令波』を停止させる。
 一つは、私が受け持つ。残り二つは、私と同じEAMD所属のノバリシア、アリディアに、それぞれジャミング装置を任せることになる」
「よろしくねぇ」
 ノバリシアが、イレギュラーズ達へと向けて手を振った。
「所長はともかく、アタシのノバリシアは充分に戦える。けど、念のため、戦闘自体はキミたちに任せたいんだ」
 アリディアがそういうのへ、キャナルが頷いた。
「先輩たちは、作業に集中してほしいっス。道中は、うちらが」
「ええ。繊細な作業でしょう。ケガなどされては大変です」
 オリーブがそういう。
「ごめんねぇ……わたしたちが不甲斐ないせいで、皆を何度も傷つけることになったわ。
 『命令波』の解析が、もっと早く済んでいたら、わたしたちの作ったゴーレムコントローラーでも拮抗できたかもしれないのに……」
「ううん、気にしないで。
 ……もしかしたら、そうなってしまった方が……ボク達も、間違っちゃったかもしれないから」
 リオーレが言うのへ、ガスパーが、ふむ、と虚を突かれたような声をあげた。
「或いは……むしろ『命令』出来てしまう方こそが、ゴーレム達との絆を結ぶ妨げになってしまったかもしれないという事か。
 いや、ロマンを求める我々EAMDとしては、初心を忘れる所であったな」
「そうっスよ、所長。夢と浪漫! そして実利! それこそがEAMDっス!」
 キャナルは笑った。ガスパーは頷く。
「私は、まだまだこのアーカーシュを研究したい。そして、君たちローレットと、ゴーレムの絆もだ!
 此処でそれを終わらせたくはない……力を貸してくれ!」
 そういうガスパーに、イレギュラーズ達は頷いた。
 友を救うため。
 友の、友を迎えるため。
 この悲劇を終わらせるためにも。
 今、イレギュラーズ達の前には、三つの道が広がっている。どれも一見すれば同じに見える。キューブ上の奇妙な壁や床で出来ていて、広大ながら、明確に道として機能している、遺跡の道。
 その一つは、直線をメインとした、まさに直進すべき路。
 その一つは、複雑な構造をした、迷宮然とした路。
 その一つは、比較的単純な構造の迷宮然とした路。
 その全ての先に、友を取り戻すため、到達すべき命令中枢が眠っている。
「ではゆこう! 諸君!」
 ガスパーが声をあげる。イレギュラーズも――あなたも、頷いた。
 激しい戦いが、待ち受けているだろう。
 それでも、この先に、暖かな未来があると信じて。
 突き進む! もう一度、君の手を取るために――。

●バルタザールへの道
 広大な通路を先へ、先へ。ガスパー・オークソンが同道する第一の道、命令中枢システム・バルタザールへと向かうこの道は、ほとんどを直線で構成された、長い通路となっている。
 ほとんどが直線、と伝えた。つまりここは『敵と遭遇した場合、避けることのできない道』であるという事だ。必然、最も敵と遭遇する可能性の高い場所であり、最も激戦が繰り広げられる場所であり、最も敵も防衛を厚くする場所であった。
「敵は私がひきつける!」
 レーカが吠える! 手にした刃を煌かせ、突撃するは、無数のセレストアームズの群れ!
 セレストアームズの装甲に汚れた個所はなく、この遺跡中枢にて手厚く保管された者たちなのだろう。必然、性能は外で遺棄されていたゴーレムの日ではない。その手を、叩きつけるように振るうセレストアームズの一撃を受けながら、レーカは叫んだ。
「叩け!」
 仲間へと、攻撃を要請する! グドルフは斧を手に接近!
「へっ。石人形だか鉄人形だか知らねえが、使えるモンは使うのが山賊サマの流儀よお。
 オラオラ、道を開けやがれ! 最強の山賊、グドルフさまのお通りだァ!!」
 言葉通りに、道を斧が力に手誇示あけるグドルフ! 手にした武器がセレストアームズの装甲をぶちやぶり、機能を停止させた。
「オウ、てめえら、とっとと行け! サクッとボス猿をブチのめしてきやがれ!」
 振るう武器が、手近に居たセレストアームズに突き刺さる。石化したかのように身体を硬直させるセレストアームズは、突破を狙うイレギュラーズ達を追えない。
「前に、たくさん敵がいるよ!」
 水愛が叫ぶ。その通りに、眼前には無数の砲撃型セレストアームズたちが隊列を組んで待ち構えていた。水愛は軽く跳躍してその手を振るう。氷の鎖がゴーレムのうち一体をからめとった。同時に放たれたビーム砲撃が、態勢を崩して明後日の咆哮へと飛んでいく。壁を焼くビーム。奇妙なにおいが立ち込める。
「突破組は足を止めないでね! ここはまかせて!」
「んー、それじゃあ、エリカがビームを防ぐのです。
 さぁ、グラ」
 エリカが声をあげると、その影が盾のように広がった。影の疑似生命体『グラ』が、エリカの影の正体だった。放たれる無数のビームを、エリカとグラが受け止める――同時、ゲンリーが飛び込み、その自慢の斧でセレストアームズのビームレンズを粉砕する!
「ドワーフの戦士の戦い方を見るが良い! 生きる道も死に場所も、前にしか開かれんのだ!」
 雄叫びと共にさらなる攻撃! 隣にいた砲撃型のレンズに、斧を叩き込む! ばぢり、と音を立てて砲撃型の頭部が爆発。フッ飛ばされつつも、ゲンリーが再度武器を振りかぶる。
「ちょっとちょっと、エリカが食べる分、残しておいてくださいね?」
 妖しく笑うエリカが、グラによる攻撃を仕掛ける。一方で、
「……ふん!」
 昴の強烈な一撃が、砲撃型セレストアームズへと叩きつけられる。ぐしゃり、と頭部が粉砕し、そのまま倒れるセレストアームズを蹴り上げ、次の目標を攻撃!
「……ここは私に任せて先に行け」
「そうそう、此処はボク達に任せて~。これでフラグはおっけーだよね、美咲さん!」
 ヒィロがケタケタと笑う。美咲は頭に手をやりつつ、
「こういう時、フラグってどう働くのかな……まぁ、いいけれど。どっちに働いても、私たちはこんな所で負けたりはしないから」
 美咲が頷く。果たして、蛍、珠緒も含めた桜花の四人が、セレストアームズ達へと立ちはだかる。
「珠緒は直接ゴーレムの方々と触れ合ったことはないのですが、
 友を取り戻したいということであれば、協力に否はないのです」
「そうだね。委員長としても、皆の和を乱すようなことは許せないもの!」
 珠緒の言葉に、蛍が笑いかけた。
「美咲さん、ヒィロさん、よろしくね! ゴーレムとの友情、此処で繋ごう!」
「ふふ、ボクは生きてるって実感が得られればそれでいいけど~……ま、たまには良い事しておくのも悪くないよね?」
「そうだね。面倒ごとばっかりで、軍人は偉そうだしで、結構ストレスたまってたから。
 良い事して憂さ晴らしもできるなら、丁度いいね」
 美咲の言葉に、蛍が苦笑する。
「もう! 真面目にやってよ……えーと、珠緒さん、いける?」
「はい。それでは、皆様、珠緒についてきてくださいね」
 その言葉に続くように、四人は戦闘を開始した。その剣戟が鳴り響く中、仲間達は突破を試みる。砲撃型の強烈な一撃を耐え、仲間達に後を託し、さらなる先へ! だが、敵の『壁』もまた分厚い。壁の一部が形を変えたかと思うと、遺跡に格納されていたセレストアームズが次々と飛び出して、攻撃を行う。奇妙な、平べったい皿のような頭をした複数体のセレストアームズが、指令電波のようなものを発射した。それは攻撃タイプのセレストアームズのプログラムを最適化し、攻撃を機敏なものへと変える。
「援護タイプやな……あちらさんもようさんお出迎えしてくれるみたいやな」
 彩陽が呟く。放たれた矢が援護タイプの皿のような頭を砕いた。
「あれがアンテナみたいなものなんやな……! ええわ、まとめて数を減らしましょ」
「ええ。まとめて撃ち抜きます」
 攻撃に、風花が続く。弓を引けば、強烈な魔力の奔流が、その矢に纏う。放たれれば、それは強烈な魔力砲撃となって、前衛型、援護型、問わずにその光の内に飲み込んだ。
「今はまだ、此方の『友』を出してきてはいませんか」
 風花の言葉に、アルメリアが頷いた。
「そうね……でも、敵ってかなり性格悪そうだから! 嫌なタイミングで出してくるのかも!」
 アルメリアの放つ雷の鎖が、援護型の頭の皿を次々と粉砕していった。果たして援護電波の受信を強制停止させれた前衛型の動きが目に見えて鈍っている。そこにアルメリアの雷の鎖が再度踊り、前衛型を次々と粉砕――だが、天井の形が組み変わるや、底から見覚えのあるゴーレム達が次々と出現する。その身体の一部には、鉄帝の所属を示すマーキングが記されていた。イレギュラーズ、そして鉄帝の兵士たちと縁を結んだゴーレム達が、いよいよ戦線に投入されようとしていた。
「もう、やっぱり! 噂をすれば、っていう奴! こっちの話を聞いてたのかしら……!」
 アルメリアが悲鳴を上げると同時に、イレギュラーズ・ゴーレムがビーム砲撃を放った。倒れたセレストアームズの残骸に身をひそめつつ、イレギュラーズ達の脚がわずかに止まる。
「やれやれ、どうする?
 この者も流石に、ただ破壊して進めばいい……と言えないことくらいは分かるよ」
 ロゼットが尋ねる。確かに、彼らはかつては友と読んだ間柄のゴーレムであり、そして今も望まぬ命令に無理やり従わされている者達だ。
 だが、突破できなければ、そもそもとして彼らを救い出すことはできまい。
「足止めはする必要があるだろうね。
 その分、此方の被害は大きくなるだろう」
 ロゼットの言葉に、吉ノは頷いた。
「望むところだ。
 縁、絆、情。それらによって我ら人は弱くも強くもなる。
 それらを弱きに寄せる為に利用しようとするのは卑劣なる行いだ。
 そのような卑劣なものの思惑に、そのままおぼれてなるものか」
「ま、しょうがねぇな。元々体張って皆を守るつもりでいたんだ。
 それをやるだけだ」
 獅門が笑う。
「よし、ガスパーさん、他の連中と一緒に先に行けよ!
 こいつらはちゃんと抑える! 壊しもしねぇ……まぁ、ちょっと傷はつくかもしれねぇが……」
「絆を守ることを約束しよう。行ってほしい」
 吉ノも静かに頷いた。
「すまん……! よろしく頼む……!」
 ガスパーがそういう。
「急ぎましょう、ガスパーさん!」
 響子がそう言った。
「中枢まで、必ず守り抜きます!
 私たちが、必ず道を作ります!」
 響子の言葉に、ガスパーは頷く。
「行こう! 私が為すべきことが、被害を最小限に抑えらえることなのなら……!」
 ガスパーと共に、イレギュラーズ達は進む。道中の戦闘は、ますます激しさと辛さを増していった。
「俺だって友達にこんなコトされたら、ぜってえキレる」
 飛呂が怒りをあらわにしたように声をあげる。無数のセレストアームズと共に迫りくるのは、かつてともに笑いあったゴーレム達だった。
「無理矢理、殺し合わせるなんて、そんなのありかよ!」
 破壊はしたくない。だが、交戦はしなければならない。無抵抗にやられるわけにはいかないのだ。少しでも戦闘能力を削いで、此方の主力を奥へ奥へと進ませる必要性が、確実に存在していた。
「お願い、どうか負けないでください!」
 リディアが叫んだ。イレギュラーズ・ゴーレムたちが、苦しそうに瞳を明滅させる。彼らとて、必死に命令にあらがっているようだった。心が壊れる位に、必死に。だが、どうしても、残り一歩、踏み出すことができない。
「……こんな、酷い事って……!」
 リディアが辛そうに表情を曇らせた。戦わなくてはならなかった。意志に反してでも――望まぬ戦いに、身を委ねなければならなかった……。
「……手を下さねばならぬか、私が……」
 ルブラットが、静かにそう言った。縁を紡いだものを破壊するのだとしたら、それはあまりにもつらい事だった。もしそうしなければならないのなら、自分がそれを行うべきだと、ルブラットは考えていた。
「だが……だとしても、まだ私がそうすべきではないと思う私がいる。
 或いは……これは、ただの願いなのかもしれないが」
 戦いは続く。そのささやかな願いを摘み取る様な、苛烈な戦いが、繰り広げられていた。

●メルキオールの試練
 二つ目の道――まるで迷宮のように入り組んだこの地にも、イレギュラーズ達は進軍している。
「ゴーレム――来る――」
 ナハトラーベがそう呟きつつ、通路を飛翔しながら戻ってきた。果たしてそれ追うかのように、数体のゴーレムががしゃがしゃと走ってやってくる。
「――」
 ナハトラーベ、そしてイレギュラーズ達が迷宮の影に身を隠した。ゴーレム達はこちらを見失ったようで、がしゃがしゃと別方向へと去っていく。その身体には、鉄帝所属を示すマーキングが施されていた。イレギュラーズ・鉄帝軍と絆を結んだはずのゴーレム達だった。
「……行ったようだね。しかし、かつての友と戦う事になるとは……」
 ガマがふむ、と唸った。幸いにして、イレギュラーズ・ゴーレム達との本格的な戦闘には至っていない――これは、イレギュラーズ達の探索と行動がよかったこともある――が、しかしそれでも、いつまでも衝突せずにいられるとは限るまい。
「それにしても、ゴーレムに心があるとはな……私の音色が届けばいいのだが……」
 そういうガマに、昼顔はいう。
「衝突が避けられなくなったら、お願いしたいね。
 今は大丈夫でも……多分、この先は、敵の警戒も強いみたいだ」
「直感、かな」
「うん。頼りないと思うけど、これが結構当たるんだ」
 昼顔が微笑んで見せるのへ、
「その直感、あたりだ」
 中空を飛んできたシエルが言う。
「この先はどのルートも……だ。それから、イレギュラーズ・ゴーレムもいる。
 いちばん敵が少ないのが、残念ながらイレギュラーズ・ゴーレムと当たるルートだよ」
「地図も描いてきたのよ!」
 キルシェ、そして蜻蛉も後からやってくる。
「歩きながら地図描くの大変なのね……!
 でも、ちゃんと、しっかり、描いてきたわ!」
「ふふ、お疲れ様、な?」
 蜻蛉がそう言って、キルシェの頭をなでる。
「道に迷うことはないと思うけど、でも敵との闘いは避けられへんよ?」
「そうだな。我が使い魔も同様の結論を示している」
 混沌卿……いや、姫太が言った。
「さて、どうするものかな? 友との戦闘を避け、あえて迂回するのも悪くはあるまい」
 姫太がそういう。出来ればイレギュラーズ・ゴーレムと接触しないのであれば、ジャミングの成功後に接触し、対話をすることは可能だろう。だが、その分中枢到達に時間がかかるのであれば、他のルートを進んだメンバーに負担をかけることとなる。
 ここまでは、非常に順調に、一行は進んでいたといえる。前述したが、イレギュラーズの探索はしっかりとしており、不要な敵との戦闘は避け、同時に可能な限り最短のルートで進んでいたのだ。
「此処で足踏みしているわけにはいかない」
 サイズが言った。
「俺も、『百里の人形』を傷つけたくはない。けど、そうしなければならない覚悟はしてきた。
 大丈夫、俺も、殺さずに無力化させることぐらい、できるはずだ」
「そうか。汝がそう言うなら、その意志を尊重したい」
 レオナが言う。
「私が先頭を行こう。万難は排そう。
 友を救え。汝らにはできる」
 レオナの言葉に、一行は頷いた。
「大丈夫よ。傷ついたら、ちゃんと癒します」
 蜻蛉の言葉に、皆は頼もし気に頷く。レオナ、そしてシエルの先導に進めば、果たして道の先に小部屋が存在する。そこにはセレストアームズ、そしてイレギュラーズ・ゴーレムの姿があり、それは間違いなく、『百里の人形』、そして『マイルストーン』のものであった。
「……マイルストーン。キミは単に歴史研究のための史料として修復したのだけどね。
 妙に愛嬌があるものだから、思ったよりキミの事が気に入ってしまったじゃないか」
 ゼフィラの言葉に、マイルストーンの瞳が、ちかちかと明滅した。赤。そして青。抗うように。
「キミも戦っているのか……私も、キミと共に戦おう。
 ……少々手荒に扱うが、壊すつもりはないよ。
 まだまだ、アーカーシュ研究の節目には程遠いのだから」
「そうだ。絶対に、お前を壊したりはしない」
 サイズが言う。『百里の人形』が、辛そうに身体をきしませた。
「自らの意思を持つことができたのに、それを奪われ、意に添わぬ命令を強制される。
 あまりにも悲しい事だと思いますし、助けたい気持ちはわたしも同じなのです。
 精一杯支援させていただきますね」
 シルフォイデアが言うのへ、ゼフィラは頷く。
「頼む。友を救うため、キミの……皆の力を貸してくれ」
「はい。助け出しましょう。皆の、友達を」
 シルフォイデアの言葉に、仲間達は頷く。友を持つもの。それを助けるもの。多くの想いを背に、メルキオールへと向かう道中での戦いは激化していく。

●カスパーの問
「てぇっ、やーーーっ!」
 アリアが叫びと共に、クルーエル・アームズへと飛び掛かる! その手に凝縮した、強烈な魔力が、クルーエル・アームズへと叩きつけられた! このエリアのクルーエル・アームズは支援タイプだ。周囲には無数のセレストアームズ、そしてイレギュラーズ・ゴーレムが存在し、その影に隠れるように戦っていた。アリアはそれを見つけるや、一気に接敵。ダメージを叩き込むべく怒涛の攻撃を開始したのである。
「多分、この子が他のゴーレムたちに指示を出しているみたい!」
「おっけー! そいつをぶっ倒せば、お話もしやすくなるんでしょ!」
 京が叫び、駆けだす。が、クルーエル・アームズも黙ってやられてはくれない様だ。肩のレンズのようなものをちかちかと光らせると、セレストアームズ、イレギュラーズ・ゴーレムが操られた様に京の進路をふさぐ。
「もふもふ宝玉丸!!」
 ライが叫んだ。
「今までの俺との時間を思い出すんだ!
 俺を抱いて散歩したり……一緒に魔王城に乗り込んだりもしたな。
 楽しかったよな。俺はこれからもお前と色んなことしたいと思ってるし……お前もそう思ってるだろう!?」
 言葉が、戦場を飛ぶ。もふもふ宝玉丸!が、京の前に立ちはだかる。その瞳を、ちかちかと明滅させて。
「その思いはきっと、ふざけた命令を打ち砕く武器になる!
 大丈夫、お前は強いし俺も一緒にいる。不可能なんてない!
 だから、来い!」
 思いっきり、叫んだ。思いのたけを、心から。刹那、もふもふ宝玉丸!が、その瞳を蒼に輝かせた。京を飛び越えるようにジャンプすると、横合いから狙っていたセレストアームズを殴りつける!
「正気に戻ったのか……!?」
 ライの言葉に、頷くように、もふもふ宝玉丸!は瞳を蒼く輝かせた。
 京が、ちらり、と背後を見た。もふもふ宝玉丸!が、道を開いてくれた。ならば、その道を進む!
「アタシがぶっ倒れるかアンタがぶっ壊れるか……試してみようじゃないのっ!!」
 叩き込まれる、全力全開の一撃! クルーエル・アームズがぎゅお、と悲鳴のような声をあげる。叩き込まれた一撃は、クルーエル・アームズの胴体に突き刺さった。べごり、と装甲がへこむ。クルーエル・アームズがちかちかと肩のレンズを明滅させ、アームズたちに命令を下す。
「さぁ、私の愛しい子供達。貴方達がしたい事を全力で成して? お母さんが手伝うから」
 蝋梅がそう声をあげた。仲間達を背中から支えるべく、紡ぎあげる回復の術。
「だって私、お母さん。子供達の絆を下らない事で壊させはしないわ?」
 友がいるのならば、その絆を紡ごう。声を届けるために、母はその力を存分に、子供たちのために――。
「エーミール。お前はここで止まるわけねぇよな?
 俺が知ってるお前は弟のためなら命を投げ出す奴だからな。
 任せろ。お前と弟の語らいを邪魔するヤツはぶっ飛ばすさ」
 ベルトアが、エーミールへとそう言った。背中合わせに、二人は立つ。無数のセレストアームズに囲まれ、しかしエーミールが相対するのは、夕焼けの守護者アメテュスト――かの、友。
「アメテュスト、聞こえてますか?
 お友達と一緒に帰る時間ですよ。
 ここで遊ぶのはもうおしまい。
 私の手があなたを殺す前に、帰りましょう」
 もちろん、殺したいはずがなかった。でも、そうしなければならないという覚悟はあった。もし戻れないならば、そうするしかないと。それだけの哀しみと覚悟を、エーミールは持っていたし、それを理解しているからこそ、ベルトアもまた、エーミールの為に死力を尽くしていた。
「聞いてくれるだろ……アンタならさ……」
 ベルトアが呟く。それを聞きながら、エーミールはもう一度言葉を紡いだ。
「あなたのいるべき場所は、ここではないのです。
 知らないおじさんについていっちゃダメですよ?
 さぁ、帰りましょう」
 そう言って、手を差し出した。苦し気に、アメテュストがその瞳を明滅させる。やがて、アメテュストは一歩を踏み出した。襲われるのかもしれない、という心配を、誰も持ち合わせていなかった。アメテュストはゆっくりと歩みよると、くるり、と二人に背中合わせになった。
 エーミールは、微笑を浮かべた。
「そうですね。まだ、帰れません。他の皆も、助けなくては」
 そう、まだまだ、助けるべきもの達はいる。イレギュラーズと縁を結んだ友、そして鉄帝の皆と縁を繋いだ者たちだ。
「ステラロッサ!」
 ルビーが叫んだ。
「あなたはこんな所にいるべきじゃないでしょ!
 また一緒に、星を見ようよ!」
 ルビーにはわかる。彼らはただ操られるだけの機械なんかじゃないと。心を持ち、共に歩むことのできる存在なのだ、と。
「だから! まってて、すぐに自由にしてあげるから!」
 手にした武器を振るう。操られたゴーレム達を、なるべく破壊しないように、でも無力化しながら、ルビーは叫んだ。
「スターゲイザー! お前もだ!
 お前は、星を見るためのゴーレムだ!
 こんな遺跡なんかで、暴れてるようなゴーレムじゃない!」
 リックが叫ぶ! 無数のセレストアームズと相対しながら、その中に見つけた、共に声を届くようにと。
「行こうぜ、スターゲイザー! こんな所から、抜け出すんだ!」
 二人の声が、響く。同時、二体の、いや、二人のゴーレムの瞳が、空のような青さに変わる。リックとルビーの攻撃に合わせるように、スターゲイザーとステラロッサはその腕を振り下ろした。リックとルビーの攻撃を受けたセレストアームズが、スターゲイザーとステラロッサの腕によって機能を停止する。
「帰ってきたな!」
「おかえり……!」
 その様子に、二人は笑顔を向けて見せた。
「クルーエルなんとかを倒したいですが、セレストなんとかがじゃまデスね!」
 JACK・POTが声をあげる。一部のイレギュラーズ達が前進し、クルーエル・アームズを攻撃しているが、それでも一部、だ。大半のイレギュラーズ達は前線のセレストアームズたちと戦闘を行っており、未だクルーエル・アームズを堕とすには戦力が足らない。
「では、少しでも前線を散らし、クルーエル・アームズへの道筋を作りましょう」
 瑠璃が言う。フィノアーシェはその言葉に頷いた。
「我は盾となろう。これが友を救う戦いならば、友に手を伸ばすものたちのために」
「一気に攻め立てマスか!」
 JACK・POTの言葉に、仲間達は頷く。前線へ向けて、一気に駆けだす!
「遊びに来ましたよゴーレムさん、私を捕まえたら造花をプレゼントです」
 翻弄するように戦う瑠璃、お互いを補い合うように、フィノアーシェは真っ向からアームズたちに斬りかかる!
「聞こえるか、友なるゴーレム達よ!
 無理矢理操られ、望まぬ殺しを強いられる……苦しいだろうな。
 我に言えることでもないかもしれないが……。
 できる限りで良い、その命令に抵抗するんだ!
 戦うのなら、大切な人の傍で共に戦え!」
 イレギュラーズ・ゴーレム達の動きが、目に見えて鈍るのを感じていた。解放とまではいかずとも、イレギュラーズたちの言葉は確実に届いている。
「楽しい、楽しい、ナァそうだろう!?」
 一方で、ジルベールはセレストアームズたちと相対する。その手を掲げるや、強烈な魔力砲撃をうち放つ!
「ハハハ! 悪いが、俺はお前達には加減をする気はない!」
 セレストアームズたちへの加減は不要だ。強烈な攻撃を続けながら、ジルベールは笑う。
「ううっ、一番楽そうなところに来たつもりだったけど、結構敵がいるのね……!」
 奈々美がたじろぎながらそういう。とは言え、その瞳はクルーエル・アームズへと注がれている。
「あ、あれを倒せば……何とかなりそうね……! 狙い撃って、終わらせましょ……!」
 奈々美の放つハートの魔弾がクルーエル・アームズの肩のレンズを貫いた。ハート型にぶち抜かれたレンズが光を失う。ぎゅあ、と悲鳴を上げるクルーエル・アームズに、然音の攻撃が突き刺さった!
「……同じ機械として、強く思ってくれる方がいるというのは……少々妬けるものですが。
 しかし、あなたは私と同じ機械同士、存分に壊し合いましょうか……!」
 然音の銃撃が撃ち込まれる。がん、がん、と装甲を叩くそれが激しい音をたてた。
「これは壊していい方なんだよね!?」
 ナナが声をあげて飛び掛かる。雷の如き斬撃が、クルーエル・アームズを切り裂いた。
「あぁ、なんて楽しいのかしら! 貴方もそう思わない?
 さぁ、壊れるのは私か貴方か……どっちになるかコインを投げましょう?」
 不安定な一撃、どちらに転ぶかは運しだい。狂気のように笑いながら、ナナはクルーエル・アームズへの攻撃を続行する。果たして此度は表を見せたか。強烈な一撃がクルーエル・アームズを捉え、その装甲を破砕。同時、その破砕された装甲を縫うように、アッシュの銀の一撃が解き放たれた。
「譬え其の身が傷付こうと……。
 役割を果たす為に、絶対の命令の為に、命果てる其の瞬間まで。

 其れが、造られたもののさだめ。
 ……ですが」
 ああ、でも違うのだ。今はもう、暖かいものを知ったあなたたちならば。
「返してもらいます」
 アッシュが呟いた。同時、雨紅の追撃が、クルーエル・アームズへと突き刺さる。
「彼らが選んだ道の、邪魔はさせません」
 雨紅の呟きと共に、クルーエル・アームズの内部が爆発! 強烈な爆音と共に、クルーエル・アームズが地に足を突いた。同時に、セレストアームズたちの、イレギュラーズ・ゴーレムたちの動きが鈍る。支援の切れた彼らの戦闘力は、明確に低下していた。
「支援機は破壊しました。これならば……!」
 雨紅の言葉に、仲間達は頷く。此処から一気に、攻めに転じる!
「今です! イレギュラーズ・ゴーレムの皆さんは、破壊まではしないでください……!」
 朝顔が叫んだ。完全破壊はせず、一時的な機能停止に追い込む、朝顔の一撃がイレギュラーズ・ゴーレムを一時停止させた。がくん、と倒れるゴーレムに、
「ごめんなさい、命を助けるためなんです……!」
 そう、辛そうに言う朝顔。彼らとは絆を結んだ間柄だ。一時的とはいえ傷つけないといけないのは、あまりにもつらい……。
「ええい、首領を倒したというのに、数があまり減らんな!」
 白妙姫がセレストアームズを切り伏せながらそういう。クルーエル・アームズを倒せはしたものの、セレストアームズたちの数は多く、未だその全てを機能停止には追い込めていない。
「此処で全滅させている時間も惜しいのう! 先に行け! じゃみんぐとやらをしてくるのじゃ!」
「そうね、作業中くらいの時間なら耐えられるようになってるから!」
 綾花が笑った。
「ああ、命令波が途絶えたら、この子達も友達にするからね!
 上手く教えられたら、カジノの従業員とかお願いしたいから!」
「うん、皆仲良くがいいよね!」
 マナがそう言って笑った。
「それに、この島が落ちちゃったら、精霊たちだって困るから。
 わたし、がんばるよ! 皆と一緒に、この島でもっと過ごしたいから!
 今のわたしは精霊種のドルイド、調停の使者っていうんだって。だから、がんばるよ!」
 マナの編み上げる癒しの術式が、仲間達の支えとなる。未だ悲しい戦いを続行するゴーレム達をも癒すかのような、暖かな光が戦場を包み込んだ。
「ノバリシアさん、目的を果たしましょう」
 エステルがそう言った。
「パトリック大佐にも困ったものですが……痛みを感じぬ軍隊として扱われるのは非情に厄介です。速く、彼らを解放してあげましょう」
「道は俺たちがひらくっす」
 慧が声をあげた。
「敵はブロックしますから……その間を、駆け抜けるっすよ」
 セレストアームズを抑え込み、慧はいう。
「直掩、お願いするっす! 中枢でも、何があるか分かりません!」
「わかったよ。さぁ、ノバリシアさん、こっちへ」
 文がそういうのへ、ノバリシアは頷いた。
「ええ、ありがとう、古木……護衛、お願いね!」
「もちろん。さぁ、行くよ!」
 イレギュラーズ達と共に、ノバリシアが走り出す。戦線を突破し奥の扉に飛び込めば、奇妙な球形の光に包まれた、四角い柱のようなものが見える。
「間違いない……あそこから、命令波が出ているわ」
 ノバリシアの言葉に、ハインツが頷いた。
「すごいな……考古学者としてはじっくり見て回りたい所だが……」
「そうも言ってられないよね、ハインツ君。後方を警戒して。敵に追い付かれると面倒だからね」
 十三がそういうのへ、頷いたのはヴァトーだ。
「敵の察知は欠かさず行っておく。作業を頼む、ノバリシア」
「ええ、ちょっと待っていてね……」
 ノバリシアが柱に備え付けられたコンソールを操作する。
「見たことのない様式だな」
 ハインツが声をあげる。
「ええ……だから、慎重に行かないとね……」
 ノバリシアがコンソールを操作すると、やがて柱の一部が開き、何かを差し込むようなスロットが現れた。そこにカード状態の器具をセットする。
「これで、此処の遮断は完了よ!」
「よし、ゴーレムと特異運命座標の禁断の恋! そのハッピーエンドまで第一歩か!」
 春樹がそういう。
「他の中枢に皆がたどり着けたのかは、わからないのか?」
 春樹の言葉に、ノバリシアが頷く。
「そうね……ちょっと待ってね?」
 ノバリシアがコンソールを操作すると、三点の光が見える。その一つが酷く小さくなっていて、残り二つは煌々と輝いていた。
「この消えそうなのが、ジャミングされたこの中枢。残り二つは、まだジャミングされていないみたい」
「つまり、此処が一番乗りか……」
 ヴァトーの言葉に、ノバリシアは頷いた。
「けど、まだ一息とはいかないですね」
トールがそういう。
「まだ外で戦いは続いていますし、中枢を守らないといけないですよね?」
「そうね。もう少しだけ、頑張ってもらえる?」
 ノバリシアがそういうのへ、トールは頷いた。
「はい! ……その分、女装バレの可能性が増えますが……頑張ります!」
 小声でそういうトールへ、ノバリシアは小首をかしげて見せた。
 いずれにせよ、一つの中枢の占拠は、此処に成功したのであった。
 そしてここから、イレギュラーズ達の反撃の狼煙はあがろうとしていた。

●バルタザールの猛攻
 一方、直進する通路へと進んだイレギュラーズ達の戦いは激しさを増していた。
「苛烈な戦場と聞いていたが……!」
 瑞鬼が声をあげる。そのままにやり、と笑いながら、
「確かにその通りじゃな! 生きておるか、神使の子らよ!
 わしが健在である限り、おぬしらがやるべきこと、その背を押そうぞ!」
 大号令が、イレギュラーズ達の背中を押す! 真っすぐの戦場を、機械人形、そしてイレギュラーズ達が疾駆する!
「アンジュ、パーシャ! あたしの後ろへ! 道を切り開くわ……着いてきて!」
 みるくが声をあげる。続くアンジュ、パーシャが構えた。
「せっかく心を通わせられたのに……どうして……。
 ううん、悲しんでいる暇なんか、無いんですよね。
 私達は、私達に出来る事を!
 ……召剣──ウルサ・マヨル!」
 パーシャの召喚する剣が、仲間達の元へとふりそそぐ。それは先手を打つための先導の剣となって、仲間達を導くようにその身に侍る。
「こいつら、いわし食べてないよね!」
 アンジュが叫びながら、いわ死兆をセレストアームズ達へと叩き込む。
「よし、食べてない! 許す! でもごめんね、手加減はしないよ!」
 アンジュの放ついわしの怨念、それに怯んだセレストアームズへ、みるくの刃が翻り、その装甲を切り裂いた。
「まぁ、こいつら口ないものね……! パーシャ、サポートお願い!」
「うん! ウルサ・マヨル、皆の力になって!」
 双星剣の導きに従い、みるくが先手を打ってセレストアームズへと斬りつけた。斬撃がセレストアームズの回路を切り裂き、機能を停止させる。
「シュピーゲル、汝(あなた)を先頭にして突撃するわよ!」
「了解!」
 レジーナの声に、SpiegelⅡが頷いた。レジーナ、SpiegelⅡ、ツクヨミ、三人が隊列を組んで敵陣へと突撃。SpiegelⅡはレジーナを庇いつつ、先頭に切り込む!
「ツクヨミ、キミは警戒をお願い! 後ろからとり付かれないようにね!」
「ええ、了解いたしました」
 ツクヨミが頷く。使い魔(ファミリアー)を飛ばしつつ索敵。すぐに正面から飛び込んできたセレストアームズの攻撃を、SpiegelⅡが受け止めた。
「レジーナ!」
「分かっているわ」
 レジーナがその手を掲げると、黒き顎がセレストアームズの頭部を噛み砕く。ぐしゃり、と頭部を破砕されたセレストアームズが地面に転がる。
「次、左手から二体、きます」
「シュピーゲル、構えて!」
「オッケー!」
 構えるSpiegelⅡが攻撃を受け止め、レジーナが反撃を行う。ツクヨミは後方からサポートトレーダーの役目を果たす。三位一体の突撃陣形が、戦場を一直線に侵攻!
 だが――その時、通路の構造が変化した。具体的には、壁が迫る様にせり出し、イレギュラーズ達の足を止めたのだ。
「遺跡の形状が変わった……操作されてる? 誰に?」
 レジーナが呟いた。パトリック・アネルではないだろう。こちらの方まで意識が回らないはずだ。中枢システム自体に意志はなく、命令が無ければ動きはすまい。では、誰か――。
「とみか、さん……!?」
 雪莉が声をあげた。壁に自らの端子を接続し、遺跡の一時的な操作権を得ていたのは、雪莉と絆を結んだゴーレム、とみかさんだった。
「くそっ、メンテナンスアームズもいる! そうか、あの二人はアーカーシュの施設やゴーレムの修復が仕事だったから、こう言う事も出来るんだ……!」
 アクセルが悔しげにうめいた。メンテナンスアームズの他に、ソーダセレストの姿もあった。彼らは直接戦闘向きの個体ではない分、こういった搦め手に利用されたのだろう。
「二人の友じゃな? 儂が抑える! 言葉をかけ続けけよ!」
 鶫が叫び、突撃! 周囲のセレストアームズからの攻撃を受け止めながら、
「あの三人を止めよ! それは、アクセル殿と雪莉殿にしかできないはずじゃ!」
 鶫の言葉に、雪莉、そしてアクセルが頷いた。
「とみかさん、夏はまだ終わっていません。貴方の水遊び場を求める人はまだまだいます。だから帰りましょう!」
「二人とも、こんな所で戦ったりする子じゃないでしょ!?
 炭酸水作ったり、洗濯工場で働いたり……また一緒に、遊ぼうよ!」
 二人の言葉に、三人のゴーレムは辛そうに瞳を光らせた。その手が震えているのが分かる。必死に抵抗しているのだ。
 だが、そんな気持ちを知らぬセレストアームズたちは、イレギュラーズ達へ容赦のない攻撃を浴びせてくる。命令にあらがう三人のゴーレムも、しかし完全に命令を遮断することは難しく、少しずつ、遺跡内部が組み変わろうとしていた。
「まったく、無粋無粋無粋ですわ! 今とってもいいお話をしていますのよ!」
 麗姫が叫ぶ。その拳を、セレストアームズへ打ち付ける!
「力こそパワー! そして姫はパワー!
 掛かって来やがれですわ! 姫は逃げも隠れもしませんわ~~~!
 ほら、ハビーブ様も、今ここがやる時ですわよ!」
「やれやれ、だが、確かに此処が商売時のようだ!」
 ハビーブが放つ矢が、セレストアームズたちの足を止めた。攻撃を反らし、二人の声が届くように、邪魔者を払いのける!
「わしほど裏切りも常の世界で長生きしとると、決して退けぬ戦いを邪魔するならば友とて――ゴーレムではなく生身の長年の親友だったとしても討つのに然程躊躇いは必要無くなるものだ……が、かと言って最初から諦めるほどわしも落ちぶれてはおらん……っ!」
 再び放つ矢が、セレストアームズたちの脚を貫いた。
「さあさあ! 愛を理解しない哀しき獣共! この私の愛をうけとりなさい!
 アハッ! アハハハ!」
 叫ぶアナトが、鈍器をセレストアームズへと叩きつける。ごり、と音を立てて装甲がへこむのへ、アザレアが感激の声をあげた。
「愛を取り戻す為に……ブッコミを掛けるんですね! 流石、師匠です!
 任せてください! 支援は僕に任せて! 師匠は暴れてください!」
 もちろん、他の仲間達への支援も抜かりはない。アザレアの癒しの光が――いや、愛が周囲を照らし、仲間達の傷をいやす愛(ちから)となる――。
「ああ、そうです、すばらしいですよアザレア! 受けた愛を、私は愛(物理)として、この愛なき獣たちに教え続けましょう!」
 ガンガンとセレストアームズをぶん殴るアナト。「はい、師匠!」とアザレアは再度感激の声をあげた。
 セレストアームズたちの攻撃が鈍る。戦場に、二人の声が響く。
「オイラは絶対に、諦めない! 帰ろう、二人とも!」
「とみかさん! さぁ、手を取って!」
 アクセルと雪莉の、悲痛な声が響く。抗うように、二人のゴーレムの瞳が明滅する。やがてその瞳が空のような青に変わると、同時、遺跡の壁の変動が止まった。命令に抗ったのだ。だが、同時にアクセス権を失ったらしく、力なく三人のゴーレムは項垂れる。
「いいんです、とみかさんが無事なら……!」
 雪莉が、優しくとみかさんの身体を撫でた。アクセルもまた、嬉し気に二人のゴーレムの頭を撫でてやる。
「機械であったゴーレムが心を持ち、絆を育んだ。これは本来意図されていたものなのか、それとも……」
 そんな光景を見ながら、紫琳は静かに呟いた。制作者の意図は、わからないままだ。だが、これは奇跡と呼ぶには十分すぎるほど、美しい光景だろう。
「……いえ、考え事はいまではありませんね。ジャマー設置が最優先です。
 みなさん、まだいけますか?」
「もちろんだとも。ワタシもまだまだ、遺跡もゴーレムも解析し足りないのでね?」
 テリエルがニヒルに笑ってみせる。その足元には、解体されたセレストアームズたちの姿がある。
「ああ、もちろんちゃんと戦闘はしていたから心配なく。さぁ、この勢いを殺さぬまま先に進もうじゃないか。フフフ」
 そういうテリエルに、仲間達は頷いて見せた。いずれにせよ、この道を足を止めることなく突破するしか他に手はないのだ。
「参りましょう。私のフェロモン感覚が……何か、命令系統が近づいているのを捉えています。もしかしたらこれが、命令波、なのかもしれません」
 アンジェラがそういうのへ、エマがえひひ、と笑った。
「じゃあ、そろそろ中枢が近い、ですかね……?
 中々しんどかったですが、そろそろ終わりそう、ですか?」
「ですが、敵も中枢に戦力を集中させているものと思われます」
「じゃあ、もっとしんどいわけですか……」
 エマがえひひ、と笑う。
「でも、行かなくては、ね」
 シャルロットがそういうのへ、仲間達は頷く。シャルロットが視線を、遺跡の奥へと向けた。その先、そう遠くない先に、中枢への扉があるはずだった。
「……パトリックはダメね……鉄帝の本質を何もわかっていないわ。
 ただ強い兵器があれば皇帝になれるのなら、それこそ大罪魔種が支配していてもおかしくないのに」
 何処か残念そうに呟くシャルロットの声を、きいた者はいない。ただ、遺跡の奥へ、風が運んでいったかのようだった。

●メルキオールの突破
「くっ……! 流石に中枢の入り口ですわね! これまでとは比にならぬ戦力!
 それに……!」
 強烈なクルーエル・アームズのビーム砲撃に加え、何体ものセレストアームズとイレギュラーズ・ゴーレムたちの姿があった。彼らを盾にするように配置し、自身は遠距離からビーム砲撃を撃ち放つのが、この場所のクルーエル・アームズの戦術のようだ。
「気に入りませんわね……! 巣穴に籠って、命を盾に好き放題とは……!」
 百八が悔しげにうめいた。京司がゴーレムの残骸から顔を出しつつ、呟く。
「ファニアス、私たちを『引っ張れる』か?」
 そう尋ねる京司へ、ファニアスは応える。
「任せて~! じゃんじゃん引っ張るよ~§」
「よし……任せた。
 瑠々さんのゴーレムだが――」
「そいつはウチに任せてくれ」
 瑠々が言う。
「別に愛情だのなんだので名前を付けたわけじゃあねぇ。
 でも、アイツはウチのもんだ。
 とりかえす。絶対にだ」
「よし……なら、行こう! ファニアス!」
「いくよ~±」
 ファニアスが駆けだす――同時、それに引っ張られるように、仲間達は駆けだした!
「戦の中で救えるモンがあるなら手を尽くす。それが亡き家族への手向だ。
 パーティーの盾役は任せな」
 トカムが声をあげた。武器を掲げて、敵陣へと突っ込む! 放たれたクルーエル・アームズの砲撃を、トカムが受け止める!
「行け! セレストアームズを散らせ!」
 冥夜は頷き、その拳を突き出した。放たれる魔力波は強烈な打撃となって、セレストアームズを殴りつける!
「京ちゃんにいいとこ見せに……ではなく、ゴーレムを強制的に操るなんて、経営者から見てみたらパワハラの極地! 許せませんね。労働環境の改善を訴えます!」
 声をあげつつ、跳躍。上段から脚を振り下ろした。かかとに纏う魔力が解き放たれ、強烈な上段からの魔力打撃がセレストアームズを叩きつけた!
「さぁて、無粋な客は抑えておくからのう。
 声を届けておくれ。
 友なのじゃろう? イレギュラーズと。
 ならば、届くはずじゃ」
 恩がそういう。瑠々は叫んだ。
「ウチを誰だと思ってやがる! てめえの主人だろうが! 止まれボケ!」
 口調は激しかったが、しかしその想いは確かに、己が友の事を想っていた。
「はっはっは! 叫ぶことなら任せるのである!
 何せここまで吾輩たち、叫んで道を突破してきたのだから!」
 練倒が笑う。実際そうだ。練倒は雄叫びをあげて、その反響音を拾って周囲の地形を解析し、先に進んでいたのだ。
「つまり、叫ぶことなら完璧デス。耳がおかしくなるかと思いまシタ」
 アオゾラが小首をかしげてそういう。
「まったく、いきなり叫び出した時はどうかと思ったが、いや、それでここまでたどり着いちまったのもどうかと思ってるが!」
 狂歌が声をあげるのへ、ガイアドニスがにこにこと笑った。
「今日のおねーさんは迷宮探索特化なのでっす! 絵もかけちゃいます!
 けれども、今は、声を届けることを優先させてあげたいのです。
 ノットプリズン、君の友達が、迎えに来たのでっす!」
「無理矢理ゴーレムを操るとは敵の戦力を削りつつ自身の戦力を増やす悪辣ですが確実な一手ですね。
 ですがこちらに挽回する手段があるなら何も問題ありませんね。
 さぁ、練倒さん。声を届けましょう」
 イスナーンの言葉に、練倒が頷いた。
「おお、ジェイルブレイカーよ! 自由を意味する貴殿がその身の自由を失うとは何たることか! 友として必ずや身を自由にしてしんぜようではないか。
 そして聞くが良い! 友としての、この叫びを! インテリジェンスに満ちた、雄叫びを!」
 すぅ、と練倒は息を吸い込み。
「ガァァァァァァァァァッ!!」
 叫んだ! インテリジェンスに満ちた雄叫び!
「ハハハ! あれは凄いな、母上。真似してみるかァ?」
 セレストアームズたちと激しく切り結ぶレイチェルが楽しげに笑うのへ、ルーキスは、ふふ、と笑ってみせた。
「おやおや、月蒼翼の耳は繊細だからね。こっちは囁くくらいでちょうどいいんだよ?」
 立ちはだかる月蒼翼。その眼は赤と青に激しく明滅していた。
「よくよく考えたら、ルーキスは基本的に機械関連は弱いはずだが、これは直せたのか……」
 苦笑するルナールに、ルーキスは笑う。
「私を信じて欲しいな……ふふ、じゃあ、お話を始めようか、月蒼翼?」
 ルーキスが疎通を開始するのへ、ルナールはその身をもってルーキスを庇った。レイチェルが迫るセレストアームズを薙ぎ払う仲、ルーキスが静かに囁く。
「おーい、やられっぱなしでいいのかい?
 ちょっとは根性のある所を見せて欲しいなあ!」
 くすくすと笑うような、そんな声。戻ってきてくれると信じている、そういう声。
「私が直々に改造したんだ。くだらない命令なんざ跳ね除けてみなさいな」
 子供に言い聞かせるような声だった。君ならできるだろう、とそう信頼する声だった。
 瑠々も、練倒も、ルーキスも。
 戻って来いと、伝えていた。戻ってくると、信じていた。
 だから――。
 戻ってくるのだ。友は、その手を取るために!
 月蒼翼が、その瞳を空のように真っ青な青に輝かせた。同時、その瞳から放たれたビームが、セレストアームズを薙ぎ払う!
「おかえり、月蒼翼」
 ルーキスが笑う。一方、ノットプリズン、そして 神か悪魔か もまた、セレストアームズたち、そしてクルーエル・アームズへと反撃を開始した。その腕が、ビームが、放たれる。友の敵に。打ち倒すべき敵に!
「それでこそ、である!」
「手間かけさせやがって!」
 二人が、嬉しそうにそう言った。取り戻した友と、イレギュラーズ達の進撃が、はじまった。セレストアームズ達を撃破し、後衛に控えるクルーエル・アームズへと迫る!
「ふふ、その首、貰いました――」
 斬華が、クルーエル・アームズの頭部を切り裂いた。ぼん、と音を立てて首が火を噴き、切り離された頭部が床へと落下する。
「ああ、良い斬り心地でした。
 出来ればもう少し切りたい所ですが――」
「後にしよう!」
 アリディアがそう言った。
「今からジャミング装置を取り付けてくる! すぐ終わるはず!
 えーと、ベルンシュタイン! 確か使い魔、持ってたよね」
「あァ、連絡だな? 任せておけ」
 レイチェルが頷くと、使い魔の蝙蝠を解き放つ。
「この場所の確保もしておく。万が一敵が近づいてきても、中枢には近寄らせない」
 ルナールがそういうのへ、アリディアが頷いた。
「ありがとう! すぐに何とかするから、お願いね!」
 そう言って、中枢へと入っていく。果たしてそのすぐ後に、命令波は止まることとなる。

●バルタザールの陥落
「とうとう中枢手前……っスけど!」
 キャナルが叫んで飛びずさった。その後を追うように、強烈な拳の一撃が宙をきる。
 クルーエル・アームズ。その中でも攻撃性能に特化したそれが、今イレギュラーズ達に牙をむいていた。強烈な攻撃はイレギュラーズ達に打撃を与え、取り巻きのセレストアームズ、イレギュラーズ・ゴーレムたちがさらなる追撃をみまう。
「所長、まだ下がっててください! これは危険っス!」
「任せて、カナが引き付けるよ!」
 カナメが声をあげ、クルーエル・アームズの前に立った。
「性能チェックの時間だよ~♪ ま、所詮ポンコツなんだろうけど?」
 挑発するように笑うカナメに、強烈な拳の一撃が振るわれる。カナメはあえてそれを受け止めると、ぺろり、と唇を舐めた。
「っはぁ……! 手加減を知らない迫力……骨まで響く衝撃……うぇへへ、最っ高~♥」
 打撃に恍惚としているカナメだが、しかしその言葉通りに加減を知らぬ強烈な一撃だ。そう何度も耐えられはしないだろう。
「アクス・ツー! ボクだ! 分かるよね!」
 リオーレが叫ぶ。ちかちかと明滅する、アクス・ツーの瞳。それはまるで、苦しみに鳴いているようにも見えた。
「いいかローレンス、よく聞いてくれ!
 お前は俺の友だ。友とは一度や二度の過ちで縁を切るような関係ではない! 何も心配はいらないぞ!」
 エーレンも、ローレンスと切り結びながら叫ぶ。ローレンスは苦痛に呻くように体を慣らし、しかし命令に逆らいきれないのだろう。明らかに動きは鈍いが、エーレンを狙うように拳を振り下ろす。
「諦めないで! 信じてれば絶対に声は届くはずだよ! 向かってくる敵はアタシに任せて!」
「ああ、頼む……!」
 咲良の言葉に、エーレンは頷いた。再び、エーレンは、リオーレは、言葉を紡ぐ。
「一緒に戦おう! 俺達の望みは人もそうでないものも助け合う未来、そうだろう!?
 お前の友達もお前と同じように苦しんでいる、一緒に助けよう!」
「アクス・ツー! 大丈夫だよ。アクス・ツーは誰も傷つけなかったんだ。誰もアクス・ツーを恨んだりしてない。だから、心配しないで。泣いたり、しないで……!」
 言葉を紡ぐ。想いを紡ぐ。此処にも一人。アルチェロ。そして、わが友よ。
「……遅くなってごめんなさいね。迎えに来たわ。Nox、私の夜月の子」
 優しく、そう伝える。Nox sidereum、あなたも苦しんでいるのでしょう。Nox sidereumの眼が、苦し気に明滅した。ああ、嫌だ、嫌だ、あなたを傷つけたくない。でも、私の腕は、あなたを殺さんと動くのです。まるで悪魔に身体を乗っ取られているように。
「そうね、Nox。辛いでしょう。痛いでしょう。あなたも泣いているのね。
 思い出して、私を肩にのせてくれた時のこと。暖かな気持ちを、思い出して。
 きっと、あなたなら――」
 想いを、伝える。届くようにと、願う。その想いを踏みにじる様に、冷酷なる兵器はその爪腕を振るい、全てを薙ぎ払わんと暗躍する。
「語りかける時間を稼ぐぐらいは……きっとあたしでも出来るはずなんです……!」
 クルーエル・アームズの拳を、イチゴは受け止めた。が、勢いを殺しきれずに吹き飛ばされる。激痛が、身体を駆け巡った。それでも、立ち上がる。
「あたしは、負けない……辛い別れがあるならば、出会わなければよかったなんて、そんな言葉を皆の口から言わせたりしません!
 ゴーレムさん達との出会いは、この言葉で終わるんです! めでたしめでたし、って!」
 イチゴは敢然と立ちはだかる。恐るべき冷酷なる兵器に向かって――。
「そうですね。物語の終わりは、めでたしめでたし、がいちばんいい」
 オリーブがそう言って、イチゴの前に立った。
「見知った誰かが悲しんでいる。しかし希望がある。それに自分も手を貸せる。
 それなら、格好付けてみるのも良いと思うのですよ。
 たまには、自分も――勇者のように、振る舞っても。きっとばちは当たらない」
 オリーブが剣を抜いて立ちはだかる。それは聖剣ではない。何の変哲もないひと振りの刃。
 だが、今この瞬間は、勇者の持つ聖なる剣に匹敵する勇気をくれた。
「行きましょう。全ての涙を、この剣でたってみせましょう」
 オリーブが跳ぶ。斬撃を、冷酷なるマシンに突き立てるために。振り下ろす斬撃を、マシンは受け止めた。きぃ、と甲高い音がなって、刃が装甲をかける――オリーブは身体を振った。マシンが、その爪を突き立てんと腕を振り払った。オリーブの身体をかすめて爪が奔る。
「もちろん、勇者とは、自分一人ではないのです」
 オリーブは言った。その後方から、すさまじい速度で飛び込んでくる、リュビア・イネスペラ。その刃を懐に。
「ふ――」
 息を吐いた。シンプルに。呼気と共に、刃を振るう。雷切。雷を、切る。無双の如き刃。振るう。それが見事に、マシンの振るっていた腕を切り落とした。そこまで、世界は無音のように感じた。刹那。刃が振るわれ、マシンの腕が落下する。同時、ずしん、という音が鳴った。その時初めて、世界に音が生まれたような気持を覚えた。耳鳴りと共に、世界に音が生まれた。きゅいいい、という音が鳴った。それが、マシンの挙げた悲鳴なのだと、誰もが気づいた。
「畳みかけて!」
 リュビアが叫んだ! ごうごう、と音が聞こえた。マシンが動く音であり、友が抗う音だった。
「ぃっく……なんだかよくわからないけど、あのデカブツをぶっ飛ばせばいいんだよねー?
 火力は酒鏡さんの得意分野だからねー! 頑張っちゃうよー!」
 酒鏡が、その手を掲げた。同時に放たれる魔力砲撃が、マシンを飲み込み、その装甲を融解させる。このクルーエル・アームズは、攻撃面に性能を偏らせている。
 必然、装甲は他のそれに比べて脆い。
「おおおおおッ!!」
 義弘が吠えた! 振るわれる、拳。シンプルながら、強烈な打撃! それが振り下ろされる。融解しかけていた装甲! そこにぶち込まれる、打撃! 強烈な音が鳴り響く。バリバリと割れていく、脆くなった装甲。その拳を痛めながらも、義弘は殴りつけた。内臓(メカ)が砕ける音が聞こえる。オイルやチューブや歯車が、飛び散った。
 ぎ――ぃ。
 マシンが吠えた。飛びずさる。強烈な打撃に、しかし身体は極限の状態だった。マシンが吠える。己を守る様にと――。イレギュラーズ・ゴーレムたちが、その身を震わせた。上位者の命令に、従うように記された本能(プログラム)。抗うのは思い出。
「アクス・ツー!」
 友が呼んでいる。叫んでいる。あんな小さな体で精一杯。
 わたしを呼んでいる。
 どろりとこぼれたものはオイルだろう。
 でも人はこれを、涙と呼ぶのだろう。
 アクス・ツーはそんな風に思った。恐らく、友達はみんな泣いているのだろう。そう思った時。
 腕は自由に動くようになっていた。脚は自由に動くようになっていた。
 誰もがそうなのだろう。この場にいるものも、別の場所にいるものも。
 あなたの想いを受け取ったから。
 今、心から、本当にやりたいことができる。
 あなたたちを守る。この世界に生まれた悪意から。
 アクス・ツーが、その瞳を光らせた。強烈な熱線が、クルーエル・アームズへと突き刺さった。それは涙だったのだろう。間髪入れず、ローレンスが、Nox sidereumが、涙を放った。強烈な閃光は、冷酷なるマシンを引き裂いた。
 切り裂かれたクルーエル・アームズの身体が沈む。
「アクス・ツー……」
 リオーレは声をあげた。
「アクス・ツー……泣かないで。
 ボクは大丈夫、傷ついてなんてない。
 屋しきの皆もキミを待ってるよ。
 何回だって迎えに来るから……一緒に、帰ろう?」
 それはあまりにも幸せな言葉だった。アクス・ツーは、レンズを汚したオイルをぬぐった。人はきっとそうするだろうと思ったから。
「やった、のか」
 ジュートが声をあげる。クルーエル・アームズは倒れた。だが、まだセレストアームズたちが交戦を続けている!
「これもまた悲劇と言えましょう。もはや無益な戦いに、それでも身を投じなければならぬは作られしもの故か……ああ、しかし、その例外が目の前にいるというのに――」
 クロサイトがそういうのへ、ベルナルドが声をあげた。
「ああ、そうかもしれんが――今はまだ、戦闘中だ!
 攻撃を続行してくれ!」
「ええ、もちろん、もちろんです」
 クロサイトが頷き、混沌の泥を解き放つ。セレストアームズたちが次々とそれに飲み込まれていく中、ジュートが支援術式を解き放つ!
「ガスパーさん、行ってくれ! 此処は抑える!」
「まだ操られてるゴーレム達も居るんだ! 被害は少ない方がいい!」
 リヒトがそういうのへ、ガスパーが頷く。ガスパーが中枢へと向かっていくのを見ながら、リヒトは呟いた。
「これで、丸く収まるかな……!」
「もちろんだ。めでたしめでたし、だろう?」
 ベルナルドがそういうのへ、リヒトはくすりと笑った。

 中枢はやけに静かだった。外から戦いの音こそ響きこそすれ、中は。
「……イレギュラーズ・ゴーレム アームズ 同型。
 デモ 片方友 片方敵 見ナサレル。
 ……ソレガ縁。縁 分カツタ。
 モシカシタラ 君コッチ 貴方アッチ アッタ。
 攻撃デナク言葉 向ケラレテル アッタ」
 フリークライがそう言った。
「……ン。ゴーレム 命令遮断時。
 絆無イ アームズ ドウナル?」
「確実に言えることは、少なくとも、此処からの命令で動いているセレストアームズたちは機能を停止するだろう。命令が遮断されれば、ゴーレムは本来動くことはできないのだ」
 ガスパーが言った。
「では、何故イレギュラーズ・ゴーレム達は、命令が遮断されても動けるのか、であるな?
 イレギュラーズ・ゴーレムたちはある意味で、本当に、イレギュラーなのだ。本来は『中枢からの命令が無ければ、ゴーレムは動かないはずなのに』……スタンドアロンで動いている。それは本来、ほとんどのゴーレムが壊れ、廃棄され、島の上層で長い年月を経て発生した、バグなのだろう。
 自律意思……それは、本来のゴーレムには存在しないはずだ、と私は考えている。故に……これは、奇跡だ……」
「ソレガ 縁 絆?」
「そうだ――ふ、趣味と酔狂が我々EAMDだ。実に興味深い結論であるなぁ」
 ガスパーが、ふ、と笑い声をあげた。そのまま、中央のコンソールを操作した。スロットが開かれ、そこにカード状のジャミング装置を差し込む。
 コンソールの画面に記された、三つの丸が、著しく小さくなった。すぐに、がちゃん、がちゃん、と外から音が聞こえた。セレストアームズたちが、機能を停止していったのだろう。
「これで、少なくとも、イレギュラーズ・ゴーレムたちは命令波の影響を受けることは無くなった……だが、本来は消えるべき命令は、恐らくまだ頭にこびりついているだろう。要するに、まだ寝ぼけているようなものだ……そこから目覚めらえるかは、絆次第。
 或いは、目覚ましでも鳴らしてやれば――」
「それなら、まかせるデス」
 砂織が言った。
「声を、持ってきまシタ。皆の声デス。
 それを流しまショウ。爆音で。皆の耳に届くように。寝坊助たちがさっさと起きるように。
 さぁ、目覚めの時です。sound of alarm clock。最高の目覚めになるはずデス」
「なるほど……そうか! そのあでぷとふぉんとか言う板切れに保存したのだな?
 やってくれ! 此方は遺跡の音響設備を使う……これくらいなら、何とか使えるはずだ――」

●目覚ましのベル
 声が聞こえた。
 友の声だ。
 帰ってこい、という声だった。
 怒ってはいない、という声だった。
 悲しかったけれど、という声だった。
 もう会えないものも居るけれど、という声だった。
 でももう一度、お前に会いたい。
 そういう、声だった。最高の、目覚ましの音が鳴った。遺跡のあちこちに、ガンガンと鳴り響いた。
 起きろ、と。
 帰ってこい、と。
 鳴る。
 鳴り響く!
 嗚呼。
 なんてひどい夢を見ていたのだろう。
 でもきっと夢ではないのだ。
 やってしまった罪は消えず。
 僕たちはこの作られた身体に、ずっとそれを背負っていくけれど。
 でもあなた達は、もう一度迎えてくれるんだね。
 ありがとう。
 ありがとう、大好きな友達。
 今から帰るよ。あなたたちのもとに。
 もういちど、君の手を取るために。

成否

成功

MVP

明星・砂織(p3p008848)
カードデュエラー

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 ゴーレム達は、もう一度、友の下へ。

PAGETOPPAGEBOTTOM