シナリオ詳細
<貪る蛇とフォークロア>君の描く英雄譚
オープニング
●
雪解けに豊かな深緑を覗かせた木々を潜り抜け、その地へ踏み出した。
山をくり抜いて作られた遺跡の中に踏み込めば、そこは何本もの柱で天井を支える神殿のようになっている。
その奥には混沌肯定『崩れないバベル』をもってしてもなおその意味が判別し切れぬ文字で構築された魔方陣が浮かぶ。
「皆、準備はできた? 覚悟はいいかい? これから僕らが戦うのは神話だよ。
確実に強い、油断したら普通に死ぬかもね。
これから僕たちは、神話の目撃者になり――神話の勝利者にならなくちゃね。
ふふっ、言うまでもないか。皆はとっくの前から神話の英雄だ」
イルザが朗らかな口調で、けれど真剣な面持ちで問うた。
「ヴィルトーチカ様、術式はこれでよろしいですか?」
アリシス・シーアルジア(p3p000397)は神殿の床に刻んだ術式を見下ろして魔女へと問う。
「えぇ、大丈夫よ。協力してくれてありがとう」
魔術の心得があるアリシスがヴィルトーチカの教えも受けつつ神殿の床に描いた魔方陣は、春霊祭なるお祭りを楽しんでいた人々の正の感情を保存したもの。
ニーズヘッグは怒りや嘆きのような負の感情を喰らって成長するが、反面、正の感情で腹を壊すという。
「――うん、良さそうだね。じゃあ、始めようか」
そう言ったイルザが目配りすれば、魔女ヴィルトーチカが祭壇の魔方陣を弄り、すぅ、と溶けて消えていく。
先史文明時代に描かれた、当時にしか存在しない文字で記されたその術式は――今日、この日を以ってその役目を終える。
先史時代では不可能だった、その封印の向こう側に捉えた大いなる魔獣――かつては『神』とまで崇め奉られた魔獣。
名を『ニーズヘッグ』――怒りに燃えてうずくまる者。
いずこかの世界では終末戦争を生き延びる竜とも、蛇とも目される強大なる魔。
それを今、この時を以って討ち滅ぼすために。
正規の手続きを経て、緩やかに術式はその役割を終えた。
『俺を見ているな』
神殿を貫くような、重厚な音(こえ)が響く。
『忌々しい。この俺に怒れることも無く、恐れる事も無く、折れる事も無く、ただ真っすぐ見ているな!』
遺跡が震えた。
何かを削り、砕く音が響き渡る。
どくん、どくんと響き始めたのは、魔獣の心臓の音色であろうか。
遺跡が軋んで、天井がぱらぱらと落ちて行く。
攻撃――否。それはただ移動しているだけ。
解かれた封印に気付いて、外へと這いずり出んと奥地より進み出る。
その挙動だけで、それを封じ込める遺跡を軋み上げ、罅が入る。
『あぁ、臭い、臭い、臭い。覚えている。覚えているぞ。この臭い、人間だ』
『この俺をこんなところに隔離して勝ったつもりの人類ども。
今度こそ、その貧弱な身体に籠る怒りを、嘆きを喰らいつくして血祭りにあげてくれよう!』
暗がりに光。赤い、赤い光。
――それがぎょろりと動いて、瞳であることに気付いた。
くぱりと暗がりに赤が浮かぶ。くぱりと開いたソレは蛇の口。
蛇の呼気が白い靄となって神殿を包み込む。
赤い鞭がしなりを上げて靄を払い、口元から生えたソレが舌であることに気付いた。
巌がせりだすような錯覚を覚えさせながら、途方もない大きさをした蛇が顔を出す。
それこそは、先史、神とも謳われた大オロチ。
怒りに燃えてうずくまる者。
怒りを喰らい、嘆きを喰らい、成長する魔獣。
先史時代、この地にあった国が滅びる原因となった、その由縁。
『俺を、見るか。人類。恐れ多くも、この俺を!
どうやら俺に恐れおののいた者達とも、俺を殺したいと思い上がった者共とも違うようだ!』
ニーズヘッグが舌なめずりしながら尊大に笑っている。
矮小な――けれど、無限の可能性を秘めた君達を見下ろして。
『恐れよ、嘆け、喚け。死に絶えろ、そして俺への憎悪を滾らせるがいい!
それら全てを喰らい潰して、腹の足しにはちょうどいいわ!』
「でかいな……壁画や文献で見ていた時から思ってはいたが!」
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は文献や壁画で見ていた人々とのサイズの違いを新たに認識する。
『しかもこの臭い、俺以外の蛇の臭いがするぞ。忌々しい、腹立たしい。何者だ貴様』
「これがニーズヘッグ……!」
ピリピリと全身が粟立つような感覚がアーマデル・アル・アマル(p3p008599)に襲い掛かったのは、その蛇がこちらを認識してからすぐの事だった。
それはまるで、縄張りへの侵入者を警戒するが如く!
『しかし、たかが10人程度で俺に勝てるとでも思ったか、愚か、愚かよな、人類』
「本当にたかがその程度の数で相手となるとお思いですか?」
せせら笑うようなニーズヘッグへゆっくりとアリシスが答えを述べれば。
『なに?』
「外に出れば私の言うことも理解できるでしょう」
アリシスの淡々とした、けれど少し挑発を込めた言葉に触発されたニーズヘッグが、蛇行して伸び、神殿の外へ。
その挑発は、神殿に描いた術式から意識を削ぐためであり、侮りへの挑戦。
それは、そのまま神殿のある山をぐるぐる、ぐるぐると渦巻いて、7周半。周囲を見下ろせば。
『バカな。なんだこれは、何だこの数は!』
そこにはヴィーザル地方にてイレギュラーズが絆を育んできた戦士達や鉄帝国の精兵が陣を作る。
「時は来たわ。アイツがいなければ、貴方達が連中に利用されることも無かった。
さぁ、始めましょう――神がそれを望まれる」
姿を見せたるは空を突かんばかりの大オロチ。
それを見上げたイーリン・ジョーンズ(p3p000854)は傭兵連盟によって蹂躙された過去を持つベロゴルスクに属する反ニーズヘッグ義勇軍を率いていた。
「ええ、行きましょう、決着を付けに!」
同じく、ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)もまた、告げるものだ。
途方もないサイズ感、けれどそれでもあのリヴァイアサンよりは小さい。
心を奮い立たせるように、ウルバニの剣を掲げもつ。
「今日は一緒に頑張るのでして!」
ふんすと元気よく空砲をぶち上げたルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)に、獣種達の咆哮が続く。
彼らはベロゴルスクという森林地帯に存在するシルヴァンス系の町に住んでいた義勇兵の面々である。
1月ほど前にあったお祭りで一緒に遊んだ知人たちであり、ルシアに好意的な様子を見せてくれている。
装備はルシアを真似たのか魔砲をぶっ放せそうなライフルだの大砲だのである。
「お初にお目にかかるが……また随分と巨大だな」
ラダ・ジグリ(p3p000271)はケンタウロス状態のまま遠巻きに見ている。
その周囲には同じようにライフルを装備した戦士たち。
「来年の春にお前はいらない。決着をつけようか」
その視線の先にある魔獣には流石に聞こえては無いだろうが――
「待ちに待ったわ! あれが魔獣ニーズヘッグ……! 騎士として、戦士として……守り抜く!」
レイリー=シュタイン(p3p007270)は白竜をモチーフとした装甲の下、真っすぐに大蛇を見据えた。
山に取り付くように渦を巻いた巨体は驚くべき程だ。
ユージヌイの戦士団、ヴァルデマール討伐で一緒に戦った戦士たちとともにその戦場に立っていた。
「リュカシス。あれがアンタが言ってた魔獣ニーズヘッグッてやつか?」
「マリー! うん、そうだよ。だから気を付けて……何を言われても怒ったりしないで」
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)はユージヌイ警備隊とともに布陣している。
「あぁ、分かってる。……あそこまででかいと、逆に怖くなくなってきたな」
「くれぐれも、無理はしないで。ボクの命はパンドラがあるけど……」
「あぁ、分かってる。俺達の命は1つしかない……だろ?」
受け継いだマリウスの言葉にこくりと頷いて、リュカシスは改めて戦場を見る。
「恐ろしいとは思う、けど。皆であの魔獣を打ち倒そう!! 来年を、もっと先の未来を見る為にも!」
Я・E・D(p3p009532)の宣言に従うように、兵士達が雄叫びを上げる。
●
ニーズヘッグに巻きつけられた望む山のその頂上に数人の人影がある。
「おやおや、一人で山登りごくろう様であります」
エッダ・フロールリジ(p3p006270)は静かにカーテシーを挑発的に決めてみせる。
「久し振り、ですわね。ベルガ」
そう言ったヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)に、魔女が笑う。
「あら……よくここがわかったわね?」
「キミがニーズヘッグに食べられるつもりだってことは分かってたからね。
さぁ――戦おうか!」
魔女――魔種ベルガの微笑に拳を握り締めたのはイグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)である。
「鉄帝で選りすぐりの名声をお持ちの方が皆こぞってとは……ふふっ、懐かしい気がするわね?」
「ニーズヘッグを強化されてしまうわけにはいきませんので」
オリーブ・ローレル(p3p004352)は静かに剣を構えた。
『君達イレギュラーズがニーズヘッグに食べられたら何が起こるかわからない。
けれど、ある意味それ以上に――魔種ベルガがニーズヘッグに食われてはどうなるかわからない。
どうか、君達の手で止めてほしい』
友人であるユリアーナの言っていた言葉を思い出しながら、マリア・レイシス(p3p006685)は紅を纏う。
「ヴァリューシャ、気を付けて」
恋人へそう告げれば、眼前の魔女が臨戦態勢を取り始めた。
- <貪る蛇とフォークロア>君の描く英雄譚完了
- GM名春野紅葉
- 種別長編
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年09月07日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
●災炎の魔女Ⅰ
「そういえば、聞いていなかった事がありますの」
臨戦態勢を取る魔女に、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は戦いが始まる前に聞いておくべき――置きたかったことがある。
「あら、何かしら司祭様。ここで死ぬのだろうから、なんでも答えるけれど」
その手に炎を浮かべながら、さも不思議そうに首を傾げる魔女は穏やかなものだ。
怒りの権化であることを忘れるくらいに。
「どうして、こんな事をしようと思いましたの?
ニーズヘッグの国が滅ぼされたのは遥か過去の話。貴女自身には、何の関係もないはずでしょう。
単に興味が湧いたのであれば、遺跡の調査に止めれば良し。動機としては弱いのですわよね」
「そうでありますね、蛇っころ一匹よみがえらせたところで死体が増えるだけでありますのに」
頷いたのはエッダ・フロールリジ(p3p006270)であった。
「……あら、なんだ。そんなこと」
思ってもみなかったのか、ベルガが目を瞠る。
「安い同情なんてするために聞いたのではございませんわ。
戦いが終わって、貴女の墓に花を手向ける人間が、何も知らないままというのは寂しいでしょう?」
「ふ、ふふ……え、えぇ……そうね。
ごめんなさいね。まさかそんな風に言われるとは思わなかったわ」
ヴァレーリヤが真っすぐに見据えて告げた単語に、ベルガが笑みを零した。
本当に思いもよらぬと、そう言わんばかりの零れるような笑みを。
「……世界への怨みとか、そういうつまらない理由であれば粛々と倒すのみであります」
静かに見据えるエッダに、思いのほか穏やかに――懐かしむようにベルガが笑む。
「そうね……私があの魔獣を神と崇めてた一族の生き残り、というのは知ってるわね?」
ヴァレーリヤや覚えのある者がそれに頷いて見せれば、ベルガは更に続け。
「寝物語、私はあの魔獣の神話を聞かされて育ったの。
――私はもちろん、あの魔獣を信奉した故郷の連中はきっとみんなそう」
生存闘争に敗れて滅んだ国。
その神話が細々とでも存続していたというのは珍しくとも不思議ではない。
「だから――死ぬ前に見てみたかったの。この眼で。
母が信じた神さまが本当にいるのか。この眼で見て確かめたかったのよ」
「それなら――なおのこと、遺跡を調査して終わりにすればよかったでしょう?」
「そうね。貴方達が魔獣ニーズヘッグを封印を解いて討伐する、なんて手に出るとは思ってなかったわ。
けれど――封印から解き放たれたのなら、見てみたかった。
どう思ったか――は秘密。案外、『こんなものか』とかかもしれないわね?」
つぅ、とここからでも見える魔獣を見上げて、ベルガはそう言って笑うのだ。
「さぁ――おしゃべりはここまでにしましょうか。
こんなところで呑気に話していても埒があかないものね」
その両腕に浮かべた炎が腕を包み込んでいく。
「なるほど……」
紡がれた言葉に、エッダは小さく頷いた。
エッダは自らの心情をおくびにも出さず、悠々と告げた魔女を見据える。
「――自由に生きるって、楽しいでありますものね」
それは聖職者たる友人が、眼前の魔女の言葉に理由を求めるのなら。
その言葉の刃から護るための騎士として自分はここにいるのだと。
「そうね? ふふ、本当にそうだわ」
微笑するベルガに、どこか嘘のようなものを感じたのは気のせいだろうか。
「――それでは改めて。さっさと片付けてしまいましょう」
想いは遺さず、静かに、エッダは前を見た。
「そうしてみていただける?」
くすりと零すような微笑の後、魔種の手を黒炎が覆う。
「ベルガ君、久しぶりだね。こんな形で再会するのは残念だよ」
魔女と相対して、『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)が言えば、彼女は微笑んだまま。
「君が魔種である以上、私達には君を倒すという選択肢しかない。
でもね……あの交渉の件以来、ずっと君とゆっくり話してみたいと思っていた……
君をここまで突き動かし、魔種へ落としたその情動がなんだったのか知りたかった」
「そうね……でも、それを言ったところでどうしようもないわ。
それはもうほとんど終わったことだもの。
それに、ここで逃がしてくれる訳でもないでしょう?」
「……そうだね、私にも友との約束がある。悪いがここで止めさせてもらうよ!」
マリアは不思議そうに首を傾げる魔女に小さく頷くと、その瞳に闘志を漲らせ、出力を上げた。
「息切れするまで付き合ってもらうよ!」
瞬くうちに紅雷を迸らせるマリアに、ベルガは微笑を絶やさず炎の出力を増すことで答えてくる。
「蛇の餌以前に、森林に炎の魔女なんて山火事スターターキットですわ!
豪農お嬢様(※自称)として見逃せませんわ~!」
そう声をあげるのは『自称・豪農お嬢様』フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)である。
「皆様、大仕事になりますわよ~~!」
そういい振り返ればそこにいるのは都合10人の工作兵。
精鋭たる彼らは皆、喋ると消火器を握っている。
「準備はばっちりですわね!」
「お嬢ーッ!!」
そう声をあげる彼らにうんうんと頷いてから、くるりと身体を戦場に向ける。
そのままぴょんと跳躍すれば、一足飛びで魔女目掛けて跳んでいく。
「魔女さんごきげんよう!」
文字通り矢のように突っ込んでいったフロラにベルガが数歩後ろに下がれば、そのままびゅんと飛んでいく。
それもそのはず、そもそもその狙いはベルガに非ず。
突き立った木が軋みをあげて倒れて行く。
「あら、こんにちは……初めましてよね?」
倒れてきた倒木を魔法陣で防ぎ、そのまま放り捨てたベルガが首を傾げる。
「もしかして、私の動きを制限したいのかしら。
でも私、魔術師なのよね……得意分野は遠距離よ?」
刹那、魔女の背中に魔法陣が浮かび上がる。
手を払うように薙いだ瞬間、魔法陣から無数の炎の弾丸が迸る。
「くぅ~~仕方ありませんわね! これはもう捨て身ですわ!」
打ち出された魔弾を受け切って、フロラはマイラブ斧ちゃんを握り締めた。
そのまま一気に走り出せば、渾身の魔力を籠めて走り抜ける。
切っ先が顎のように魔力を経て膨張を繰り返した斧を、思いっきり横薙ぎに振り払う。
壮絶な火力の横薙ぎがベルガの身体を切り裂いた。
「魔獣ニーズヘッグ。魔女ベルガ……どうしてあなたはこんなものに」
木々の合間、背中の見える大蛇を見上げてから『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は視線を魔女に戻す。
(……いいえ、こんなことを問う理由も……今のあなたにはもう、ないのかもしれません)
心の内側で、マリエッタは思い馳せる。
「私はこの戦いが起きている最中は何も考えず、ただ平穏に暮らしていました。
……けれど、今の私は……特異点として、血の魔女としてやる事が一つ、見えています」
たしかにベルガを見る。
人には無くなった、魔の者。
既に同じような存在とは幾度か戦っている。
――だからこそ。血の魔女は、ヘリオドールに移り変わったその瞳で黒に染まった魔女を見る。
「魔種ベルガ。貴方の血を奪い、魔女ベルガを、あるべき場所へと送ります」
「あるべき場所……ふふ、そのような場所が、私に残されているかしら?」
遠い目をして微笑した魔女が、その手の炎に力を籠める。
それとほぼ同時、爆ぜるようにマリエッタは一気に飛び込んだ。
ベルガの魔術が攻勢へと移るよりも前、肉薄と同時に振り抜いた血影の大鎌が血色の軌跡を描いた。
「危機、強敵、立ち向かうイレギュラーズ。いつも通りです。
ですからいつも通り、死力を尽くす事になりますね」
武骨なる長剣を静かに抜いて『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)はベルガへと相対する。
「ええ、それでは貴女の言う通り、始めましょうか」
そう言ったオリーブの後ろでは、重装備の部下たちが盾を構える。
「自分達の後ろにいる人々を想い決して退かないように。
勝利は大前提ですが――出来るなら生き残るように」
そう伝えていた部下たちの動きは秩序だっている。
「なんだか、とっても大所帯ね? まぁ、私は構わないのだけれど」
ベルガがそれに驚いた様子を見せながらも、余裕そうに微笑んでいた。
「一気に削り落とします」
「まぁ、なんだかとても目が怖いわ?」
そんなこと微塵も思ってなさそうな声で言いつつ、術式で障壁を張り巡らせる彼女へと、一気に飛び込んでいく。
当然のように障壁が邪魔をする――けれど。
振り抜かれる破城の剣は、その守りなど物ともせぬ。
武骨にあるいは愚直に。
強かに撃ち込まれる斬撃が障壁を紙のように裂いて、魔種の身体を大きく切り裂いた。
「――これはっ」
明確に驚く彼女の身体に入った傷は思いのほか浅い。
振り抜く直前に咄嗟に退いたか。
攻めかかる戦友たち。それを見据えつつエッダは静かに敵の姿を見る。
ほんのわずかに見えた隙、それを突くように身体を奔らせた。
強烈な回転運動を以って振り抜かれる拳を叩きつけ、そのまま魔女の服を引っ掴んで足を払い、放り投げた。
スパークが爆ぜ、全身が軋みをあげる。
「なんだかんだ長い付き合いになったねベルガ! ここで決着を付けよう!」
肉薄した『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)に対して、ベルガが魔方陣を描く。
「そうね。すっかり長い付き合いになったわね」
「鉄帝のピンチだって言うんだからキアイが入るし、何よりもベルガが強い!
強敵に挑む時には楽しまなきゃソンだよね!」
「あらあら、色男に迫られては答えないといけないわね!」
相対するように艶っぽく笑った魔女が掌に炎を浮かべている。
「ところで、ベルガのモチベーションってなんなのかな!」
「モチベーション?」
「オレは戦えない人達の代わりに戦って鉄帝を守る! 鉄帝で最強になる!
そういう気持ちで戦ってる。そっちはどう?」
「あー……なるほどねぇ……少し前までは、故郷を滅ぼした奴を殺し尽くすつもりだったけれど。
貴方達のおかげでそれも晴らしてしまったのよね。だから今は……特にはないわね」
体捌きで互いにけん制し合いながら、2人の戦いが続く。
(この地での大規模な戦いはこれが最後になろう。いや、最後にする)
宣言するように思いを抱く『葬送の剣と共に』リースヒース(p3p009207)の視線の先では魔女が笑っている。
「多すぎる死を望むものへ、我々という災厄をぶつけよう。
聞け。先祖の声を。この地で生きて来た強き血は、苦難など軽々と退けてきたであろう!」
影の甲冑を身に纏い、リースヒースは九告鐘を掲げ持つ。
葬送の鐘の音を告げる黒に導かれるように霊魂たちが動く――ように見せる。
「見よ。この地に眠る死者たちもまた、我らの背を押している。負けることはない!」
そのまま九告鐘を逆手にするようにして持ち、地面へと突き立てた。
響くは福音の音色。
葬送を告げる鐘の音色は、穏やかな祝福の色を奏でて傷を受けた仲間達へと降り注いでいく。
●貪る蛇Ⅰ
(魔獣ニーズヘッグ……ふふっ、実物を目の前にすると武者震いがするね
ここまで強大な敵はいつ以来かな。伝説の魔獣に挑むなんて心踊る試練、全力でいくしかないだろう?)
威容を見据え『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は胸を躍らせる。
ゼフィラの声に合わせて兵士達が勇壮な音楽を掻き鳴らす。
「ニーズヘッグの名前に恥じぬでっかい蛇だわね。
さて、英雄譚に蛇退治の物語を書き加えましょうか……やるわよ……!」
爪に魔力を籠めながら『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はニーズヘッグを見据えていた。
その視線を後ろへ。
そこには鉄帝軍の兵士達。
特に射撃戦を得意とする者達を選りすぐった小隊である。
「自称とは言え、神殺し、私達は新しい英雄譚の先頭に立っている。
ここで神殺しを成して、この世界の英雄譚の一節に私達の名前を刻むのよ!」
「「おおー!」」
爪を突き上げるようにして鼓舞すれば、それに応じるような兵達の雄叫び。
「ちなみに無事に勝利できたら盛大に宴会を開催するわよ!
全額無料で好きなだけ飲んで、食べて、遊ぶ。冥土(あの世)に出張しての参加拒否は許さない、全員が強制参加だわ!」
より一層と大きな声が響き渡った。
兵士達が一斉射撃を開始するのに合わせて、イナリも動き出す。
「蛇の神様なら、やっぱりこのお酒よね。
たっぷり酔わせてマムシ酒ならぬ、オロチ酒にして露天販売してあげるわ!」
その爪に抱くは異界の神話。
八岐なるオロチを退治せんとする神話に使われた神酒。
それを紛いなりに再現した一品である。
爆ぜるように駆け抜け、帯びた魔力を払う。
鱗を削り、肉を裂く斬撃はニーズヘッグの肉体を内側から酔わせていく。
圧倒的な速度を見せた斬撃にニーズヘッグの身体が微かに動きを鈍らせる。
「今までも降りかかった災いを振り払って、勝利をつかみ取ってきたのですよ!
今回はこの日に備えて準備もしましたし、訓練もしっかりしたのです!
みなさん魔砲の準備はバッチリでして?」
IrisPalette.2NDを抱えるようにして持つ『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)は首を傾げながら問いかける。
「あぁ! 隊長のスパルタのおかげでばっちりだぜ!」
「うんうん、でもやっぱり魔砲こそ楽しいのでして!」
「そりゃあそうだ!」
心の底からそう思っているであろう満面の笑みを浮かべる彼らにルシアは笑って、視線を魔獣の方へ向けた。
戦いの準備は整っている。
こちらを睨む魔獣は、微かな驚愕をその目に映したまま。
「ルシアたちの魔砲は! 戦場に轟く鬨の声であり!一足早い祝砲でもあり!
ここをお祭り会場に変える奇跡の演出でもあるのですよ!
だからこの『ずどーん!』は、戦うみんなに希望を与えるいい『ずどーん!』でしてー!!」
構えられた11丁の狙撃銃から、一斉に魔砲が戦場を爆ぜる。
それこそは魔神の神威、殲滅を為す破壊の閃光。
壮絶たる大いなる魔砲。美しき青き閃光を描く魔砲は祝砲であり、開戦を告げる鏑矢となる。
その行く先を見ながら、ルシアは心の奥底から溢れ出る砲撃の喜びを隠すことなく笑みを浮かべた
「いやあ、ニーズヘッグくんド派手にでっかいなあ!
ヤバたんすぎて神と崇め奉られていた時期もあったんだって? 許せねえよなあ!
もっとおっそろしい蛇の神様知ってるから怖いうちに入らないぜ! ぶはは!」
愛剣を抜いた『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はいつもどおりの陽気を見せる。
「デカいだのやばすぎて神だの言われてたとは聞いていたがなんだ、拍子抜けじゃねえか。
態度と体躯がちょっとデカいだけのただのクソヘビだ
悪いがオレと秋奈は希望ヶ浜でマジモンの蛇の神から呪い食らってんだ、態度だけデカい蛇はお呼びじゃねえ!
やるぞ秋奈、このデカいだけの蛇を斬って斬って斬りまくってやる!」
特式・紫電影式を抜いた『戦神護剣』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)が荒々しく視線を上げる。
「行くぞ、貴様ら! 平常心を抱いて進め、斬り刻め! あのデカい蛇を刺身にしてやれ!
毒と炎にも怯むな! ただし己の生命優先でだ! 体力危険域だと思ったら下がれ! オレからは以上だ!」
それに応じるのは、自身の動きについてこれるであろう精鋭たち。
「……うむ。義勇軍の子たちも盛り上がってきたっつーか、今からまさに最終決戦……みたいな?
ムチャ振りな戦いで期待通りの反応が返ってきそうだな!
特にリハーサルとかないもんな! だっはっは!」
その様子を見た秋奈は頷くとすっと切り替える。
「さあ、紫電ちゃん。お喋りはここまでだぜ
始めるか……! この森の命運をかけたラストバトル!」
「あぁ――行こうぜ、秋奈!」
2人に先導されるように、小隊が動き出す。
なだれ込むように、戦場を走り抜ける。
「こちとら腕と舌に真性怪異の影響受けてんだ、ただのデカいヘビに遅れをとってたまるか
負けられない、いや、オレたちは負けない! イレギュラーズ根性なめんじゃねえぞ!」
激情を露わにニーズヘッグを刈り取るような蹴撃を叩きつけ、跳ねるような動きに合わせて振り払った斬撃が跳ねるように上へ伸びて行く。
「ニーズヘッグ……成程。同担絶対拒否強火勢みたいになってるが大丈夫か?
しかしなかなか可愛い顔をしているな。でかいけど」
殺気をひしひしと感じながら『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はニーズヘッグを見る。
『嫌な臭いだ……貴様からは俺以外の蛇の臭いがする』
長い舌を伸ばし、ニーズヘッグの声が響く。
「そんな顔をしても可愛いだけだぞ」
しかしその殺気を平然と受けながらアーマデルが返せば、ニーズヘッグの顔が歪む。
『――先程から、それだ。この俺を、可愛いだと?
恐れるでなく! まるで愛玩動物のような台詞を吐くか!』
ぎらつく瞳孔が敵意に満ちている。
「その語尾が『ッピ』になるまで可愛いというのを止めない」
『忌々しい!』
激情を隠すこともせず、蛇が口を開いた。
その瞬間、アーマデルは動いた。
「蛇だからではなく、その在り方だ。
僅かならば変わる可能性もあろうが、成り立ちに密接した性質までは変えられまい」
しなりを上げた蛇鞭剣を振り払う。
複雑な軌道を描く斬撃がニーズヘッグの舌を斬りつけた。
『ガァァ!?』
「蛇の舌は鋭敏な臭覚を担う箇所。
そこを狙えば嗅覚を損なえる。俺に続け」
応じるように、兵士達が一斉に各々の武器を取り、敏感な舌を撃ち抜き、或いは斬りつけて行く。
(……凄いのが見えるなあ。
結構おっきい怪物なんかとかは戦ってきましたけど、あそこまでのは中々)
ルナ・ヴァイオレットの内側から、遥かに見える魔獣をみて『月下美人の花言葉は』九重 縁(p3p008706)は思う。
「ちょっと物騒な場所ですけど……喜んでください! 復帰ライブです! ……なんて。
皆さんを支えるために覚悟、決めましょうね☆」
ファンサとばかりにウインクを披露する縁に小隊兵(ファン)のボルテージも最高潮だ。
復帰一曲目には気分の盛り上がるポップな曲を。
自分自身も盛り上げるぐらいの気持ちで歌うアップテンポな曲に魔力が宿り、アーマデルを癒す光となる。
「みんなも、手の届く範囲でいいから、傷ついた日を助けてあげてくださいね!」
手を振り、ファンへと呼びかけは忘れずに。
推しからの言葉に震え上がりファンたちも積極的に近くにいる傷ついた者たちの救援に向かっていく。
「あの傭兵共の後始末を、ラサの傭兵と共につけるってのも皮肉だな」
途方もない大きさの魔獣が取り巻くチェルノムス山。
その麓に広がる森の中で『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は小さく感想を漏らす。
視線を上げれば、銀色に輝く魔獣の鱗が見えた。
視線を巡らせ、同じように息を潜める傭兵達の方へ視線をやる。
どれもこれもその視線には勝気な物が浮かんでいる。
「それに聞いたか? 奴は怒りや嘆きなどの負の感情を喰らい、成長するんだとさ。
……商人の私が傭兵に恐れるなだなんて説教垂れるのはおこがましい話さ。
だが奴相手でも怯まない者をと雇ったつもりだ。
次も声をかけたくなる、そんな戦いぶりを見せてくれよ!
返答はないが、ジェスチャーが返ってくる。
「我々の狙いは敵の頭部、目鼻と口周りだ。
視覚嗅覚とピット器官とかいう感覚器を潰しにかかる。
目の良い者は口まわりのくぼみをよく見て撃ってくれ。
それ以外の者は仲間の射撃に続くように……ではいくぞ!」
そういったラダの声を掻き消すように、平野部から放たれたであろう弾丸が炸裂する音が響き渡る。
「みんなーーついて来てくれてありがとーー。
これが最後の戦いだよ、これが終わればこの地域には平和が訪れる。
ずっと大変だったけどようやく全てが終わるんだ!」
黒いオーラをマスケット銃に束ね、『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)はそれを空に向けて掲げた。
居並ぶは反ニーズヘッグ義勇軍。
銃口を静かに下げ、ニーズヘッグの方へと向ける。
「だから、行こう!! とても大きな怪物だけど、みんなで戦えばきっと倒せるよ!!
みんなの未来を、わたし達の手で作り出すんだ!!」
艱難辛苦を乗り越えた獣種達の咆哮が戦場に轟く。
義勇軍たちの自慢の脚力、自らの機動力を駆使してニーズヘッグの死角へと回り込みながら、一斉に弾丸をぶちまけて行く。
ここにあるは幾つもの狩人。
怪物を倒すのは、狩人たちの役目なのだから。
「相対する者の感情、心の在り様に直接的な影響を受けてしまうという性質は、精霊や真性怪異にも通ずるものがある。
神と称される存在には相応しいと言えますが、同時に難儀なものでもありますね」
ニーズヘッグを見上げながら『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)はその在り方を思う。
「――常に他者の認識によって型に嵌められる事でしか、今の己を定義し切れないと言う事なのだから。
……故に、ニーズヘッグ。貴方はもはや、滅びる他に道は無い」
――貴方は、もういらない。
それが今の結論。
それを思い、アリシスは術式を展開していく。
展開された浄罪の剣と部下の魔術師達が構築する幾つもの術式。
一斉に放たれたそれらがニーズヘッグへと走る。
「正義の魔法騎士、セララ参上! 皆の笑顔はボクが守る!」
愛剣を突きつけるようにして告げる『魔法騎士』セララ(p3p000273)を、蛇がぎらりとその瞳で睨む。
『――小粒風情に何ができる!』
傲慢とすら言える声は純粋なサイズ感もあろうか。
「きみを野放しにしたら、きっと多くの人達が悲しむことになる。
そんな未来にしちゃダメだよ。ボクは皆に笑顔でいて欲しいんだ。
そのためだったらボクは命を賭けられる」
『――言ったな! ならば、その台詞、本当にしてやる!』
くわっと大口を開き、怒りに満ちた殺意を向けるニーズヘッグにセララは一気に飛び込んでいく。
その口から炎が溢れ出す。
「ボク達は一人じゃない。こんなに多くの仲間がいて、ニーズヘッグを打倒するために気持ちを一つにしてる。
ここに集まった皆の想い。それがキミを殺す剣となる! これが人間の力だ!」
セララは怯むことなく更に速度を上げて行く。
その時だった。蛇が大きく身体を揺るがせ顔を起こす。
それは開戦を告げる仲間達の砲撃。
『おぉぉぉ!!』
声をあげたニーズヘッグに対して、セララは愛剣を握る手に力を入れる。
蛇の頭上、そこで構えた聖剣に天雷が降り注ぎ帯電。
「食らえ――全力全壊! ギガセララブレイク!」
雷光を払うように打ち出す聖剣の振り下ろしが蛇の頭部を真っすぐに払う。
終わり行く軌跡を跳ねるようにして追撃の刺突に雷霆を纏い、眉間相当部分に突き立った。
『小粒がぁぁ!!』
激昂する大蛇が大きく口を開いた。
――その瞬間だった。
ラダは直ぐに引き金を引いた。
空へと走り抜けた弾丸は遥かな高み、蛇の口周り目掛けて駆け抜ける。
『ガァ!!』
顔を振るい、蛇が身体を大きく揺らす。
反撃はない。けれどそれは効果がないことを意味するのではなく。
もっと単純な話、サイズが違いすぎてどこから撃たれたか気づいてないのだ。
「狙いは間違ってない! 撃ち続けろ! 弾代なぞ気にするな。全額うち持ちだ!」
叫ぶように指示を聞いたのかは定かではないが、鋼の驟雨は瞬く間に降り注いでいく。
「へー。あれがニーズヘッグかあ。思っていたより小さいね。ギアバジリカのが大きい」
ニーズヘッグを見据えながら、『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は明るい調子で振り返った。
「ぜんっぜん負ける気がしないよね!」
「「おう!!」」
応じるのはハイエスタの戦士たち。
「神だったこともあるとはいえ、もはやアレは遺物でしょう。
ボク達、そんなモノには負けないよ。
マリーも含め、今回着いてきてくれる仲間達とは長く一緒に戦ってきた。
同じ場所で戦える喜びと、背中を預ける心強さを知っているから」
それは戦士たちへと告げる思い。
「一瞬たりとも絶望している暇は無い! みんな行くぞ! 突撃!!!」
喚声が轟けば、それを背に山へと巻き付く巨大な蛇の胴体の一箇所目掛けて突撃していく。
握りしめた鉄腕を思いっきり殴りつける。
インパクトの瞬間、拳に捻りを加えて胴体を引きちぎるように殴りつければ。
それに続くようにしてユージヌイの戦士団が波打つように斬撃を、刺突を叩きつけて行く。
皮膚を破るような連撃の最後、破城槌を思わせる巨大な杭が飛んでくる。
それが皮膚にぶつかった刹那、リュカシスはそれを殴りつけた。
打ち込まれた杭がニーズヘッグ貫いて、その身体を山へと縫い付ける。
「旧き神、ニーズヘッグ…か。どんな世界にもいるな、お前は。何回目だったかわかりゃしねぇ。
もっとも、てめぇは私のことなんざ知らないだろうがな。……死神、いざ、参る
剣と鎌、変則二刀流の武器を静かに構え、『天駆ける神算鬼謀』天之空・ミーナ(p3p005003)は馳せる。
その後ろを行くは選りすぐりの騎士たち。
希望の剣を空へと掲げれば、遥かな天空に亀裂が生じた。
斬り裂かれた空より降り注ぐは四象の権能。
複数の権能を交えた厄災の如き大魔術が魔獣の動きを微かに鈍らせる。
その結果を確かめるように、ミーナは鎌を構えて走り出した。
「これだけ大きいと、武者震いしちゃうわ」
白竜の鎧を着込んだ『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)はその兜の中で笑む。
強がりそれは強がりなどではない。
(今までいろいろな敵と戦った。
その中には冠位の魔種や龍もいた……なら、大蛇ぐらい勝てるわよ)
握る愛槍に力を籠めて、レイリーは前衛の方へ進み出る。
槍を突き上げるようにして構え、振り返ればそこには義勇兵たちが構えている。
「みんな来てくれてありがとう!
相手はただただ大きい蛇よ、これだけ味方がいるなら、みんながいるなら絶対に勝てるわ!
だから、貴方達の命、私に預けてちょうだい! 絶対に生きて返すから」
「おうよ、信じてるぜ、大将!」
義勇兵たちが頼もしそうに笑う。
それに頷いて、レイリーは更に前に進み出て行く。
「私の名はレイリー=シュタイン! さぁ、大蛇よ、この私を倒せるかしら!」
『騎士の10や20が何をする!』
せせら笑うように言った魔獣へ、レイリーは返すように悠然と笑ってやった。
その身は白亜の城壁の如く。
ニーズヘッグの視線が確かにレイリーに注がれていた。
「呼ばなくても来るって言ったけど、
それでも私についてくるのは命知らずじゃない? 貴方達」
戦旗を掲げる『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は義勇兵たちへと思わずそう声をかけた。
「――そうね、生きる為に備えろも、私が言ったことね」
答えを聞いて、イーリンは微かに笑んだ。
戦旗が風に踊る。
轟く砲声と閃光が戦場を駆けた。
それはルシアが、その小隊が放った開戦の砲撃。
「征きましょう! 神がそれを望まれる!」
黒剣を抜いて、戦場を疾駆すれば、蛇の鱗に黒剣を斬り結ぶ。
圧倒的な手数を以って探るは、この途方もない蛇が持つその強度。
探る斬撃は、決して手を緩める理由には非ず。
「たかが神話。魔種も竜種も大罪も、全て倒さないといけないんだ。
神話相手程度で止まれるほど時間があるわけではない。
運命として刻み込むぞ、神殺しなど序の口だ――そうだろう?」
挑発的に、あるいは自らの自信を兵士達に伝えるように、『戦支柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は言い放つ。
そこにいるのは、イーリンが率いる義勇兵たちと同じベロゴルスクにて組織された義勇兵だ。
「恐れるな、奮い立たせろ、弱音は無しだ、貴君らは今日神殺しの一端を担うのだから。
英雄の奮起は今ここで、勝たなきゃではないぞ。勝つんだ」
言い聞かせるように叱咤するように告げても、兵士達の目には多少ながらの恐怖がある。
「いいか、あのどすけべシスターを見ろ。微塵も負けると思ってないぞ」
改めて先に走り出していったイーリンを見せる。
旗が揺らめいている場所ゆえ、直ぐに分かる彼女の衣装は、夏とはいえいくら何でも寒そうだ。
だが悠然と翻る旗には迷いはない。
「アレは特殊だが……まぁそういう事だ。負けないよ、私たちは」
――兵士達から迷いが消えるのを見た。
「ふ、そうだ。それでいい。では行こうか」
メーヴィンが笑ったその時だった。閃光が空を行く。
走り出すイーリン隊と合わせて、メーヴィンは動き出した。
(あれがニーズヘッグ。たしかに大きい。
でも、冠位魔種が場にいたときに受ける、
胸が万力のようなものでぎゅっと潰されるような、あの苦しい感覚がない――)
眼前の魔獣を見上げ、『諦めない』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はぎゅっと拳を作る。
「うん、怖くない。わたしは十二分に動ける、大丈夫」
その理由を、ココロは理解していた。
考えるまでも無い。前を行くイーリンの前で不甲斐ない真似なんてできない。
「皆が一緒なら――怖くなんて、ない。
頼りにしてますよ、赫塊」
愛馬の首筋をそっと撫でてやれば、嘶きの返答が返ってくる。
「わたし達が治療します! 辛い人は手を挙げれば治療します、さあたちあがって!」
「はーこりゃ魂消たもんだ、こんなでっけえ蛇見るのは流石に初めてなもんだ」
見上げるほどの威容に『放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が素直に感想を述べる。
「……この蛇にどんな因縁があるかなんて放浪者の俺にゃ知ったことじゃないが、
正直食いでがあってうまそうだ、怪王種は食えるか? ソウルオブガストロリッターあるし食えるか」
それはグルメを追う世界を駆け抜ける帝国の魂を抱くバクルドの目には、たしかにそう映っている。
「負の感情だけで成長するなんざコスパよくて羨ましい限りだ、代わりに俺たちはお前さんを食って生き延びさせてもらうぞ」
ニヤリと笑うと、握りしめた拳の機構を爆ぜさせ一気に肉薄する。
巨大な蛇の鱗を穿つように拳を放てば、衝撃がニーズヘッグの肉体を山へと叩きつけられた。
「おんやまあ、随分と大きいでごぜーますねえ?
……美味しそう。食べてみたい……やはりここはステーキでありんすかな?
事が終わったら肉をいただくと致しんしょう」
威容を大きな食料に見ているのはバクルドだけではなく『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)もだ。
アルカニックスマイルを浮かべるエマはニーズヘッグの正面に立たないように気を付けながら魔術を行使する。
「……わーお、なんて言うか一々狙いを定めなくてもよいぐらいの巨体だね。
此れはちょーっと忙しくなりそうな予感。
……各員、準備はOK? それじゃあ、諸君……自称神話に謳われた大蛇とやらに挑むとしようか?」
『咎狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が問いかけた先、そこにいるはアイリスの領地から連れてきた魔導機械化歩兵たち。
その眼は爛々と輝き、魔獣を宛ら検証用の動物とでも思っているかのようですらある。
「まぁ、聞くまでも無かったね。それじゃあ、行こう」
いつもの調子に肩を竦めてから、アイリスは魔導機刃に手をかけた。
高速で打ち出された魔力の刃は世界に溶け、不可視となりて連続する太刀筋がニーズヘッグの身体に斬撃を刻む。
続くように、小隊兵達が各々の武器で攻め立てる。
その眼はやはり、自らが起こした攻撃の結果をつぶさに見据える研究者のそれ。
「でけー蛇だな……世界まるごと飲み込んじまいそうだ。
でも! こういうのを倒してこそ、冒険譚に語られる英雄になるんだよな」
蛇を見上げた『ウォーシャーク』リック・ウィッド(p3p007033)はにやりと笑う。
「イレギュラーたちのみんなを英雄譚に語れるように、ここでみんなで倒しちまおうぜ!」
その周囲にはリックの領地よりから姿を見せた精霊たちがいる。
「助け合って被害を少なくして、生きて帰ろうな!」
仲間達の攻撃がニーズヘッグへと連続してぶつかっていく。
その様子を見据えながら、リックは波濤の魔術を行使する。
『ちょこまかと鬱陶しい奴らめ!』
ニーズヘッグが大きく口を開いたかと思えば、ごう、と紅蓮の炎が戦場を走り抜ける。
圧倒的な熱量を帯びた魔の炎が爆ぜる。
その様子をリックは冷静に見据えていた。
「あれには気を付けろ!」
精霊たちへとそれだけ告げて、リックは一機に近づいていく。
複数の防御術式を前に押し立てるようにした状態から術式を発動する。
呼び起こされるは霧氷魔。
精霊たちが呼び起こす小さな子らを合わせ、霧氷の波濤がニーズヘッグの肉体を凍てつかせていく。
●貪る蛇Ⅱ
戦場全体の士気をあげるように、ゼフィラ隊は勇壮な音楽を掻き鳴らす。
人々の心を癒し、前へ向く気迫を生む。
「今日ここで神話に終止符を打ち、この地に新しい歴史を始めよう」
心を掴むその音楽に導かれるように、仲間達の動きがキレを取り戻す。
『――なんだ、何なのだお前らは……この俺を前に、畏怖を抱かぬ!
いいや、そればかりか、なんだその、不快だ! あぁ、忌々しい! 忌々しい奴らめ!』
前へ、前へ。怯むことなく、委縮することなく、正面からぶつかってくる者達への怒り、苛立ち。
そのまま口を空に向け、何かを貪り喰らうように空中を泳ぐ。
舌なめずりをしたまま、にんまりと蛇が笑う。
『だが――だがこれまでだ! くは、くははは! 貴様ら、せいぜい愉しげに足掻いてくれたな。
だが、所詮はそれまで! 恐れよ、神の威を! 平伏せ、全てが無意味だと知れ!
そして、頭を垂れよ! 殊勝な奴から喰らってやる!』
嘲るように笑った魔獣の身体が、メリメリと裂けて行く。
「ニーズヘッグ。貴方を封じていた間、人も惰眠を貪っていた訳ではなかったようですよ」
アリシスは、静かに魔獣へと告げる。
果たしてそれは、聞こえていた距離であったのかは分からないが。
「――それではニーズヘッグ、存分に喰らいなさい」
刹那――ニーズヘッグが取り巻くチェルノムス山そのものが、鮮やかに光を放つ。
『――なっ、この光――は! まさか、まさか、うっ……うぐぅぅ……』
光を浴びた刹那、呻くように蛇が身を縮める。
そのまま、何かを吐き出そうとでもいうかのように、口を大きく開け、びたん、びたんと尻尾の先をのたうたせる。
『貴様――貴様らが起動させたか――忌々しい!』
蛇の双眸がアリシスの方を向いてくる。
「えぇ、それが私達から貴方に捧げるモノ、今を生きる人類の答えです」
『――おのれ、俺のことを何だと思って……くそ、くそが! っつぁ!?』
びきりと音が鳴る。
どうやら脱皮不全を引き起こした身体が悲鳴を上げているらしい。
「それでは皆様。畳みかけましょう」
アリシスは静かにそう宣告を告げる。
それに合わせて魔術兵達の魔弾が一斉にニーズヘッグへと襲い掛かっていく。
多種多様なそれに続くように、連合軍が動き出す。
ニーズヘッグの動きが停滞し、下に向かって嗚咽する。
その瞬間、Я・E・Dは掌に黒きオーラを集束させていく。
生み出されたのはマスケット銃。
それはЯ・E・Dの全てを注ぎ込んだものだ。
『はぁ、はぁ……うげぇぇ……不味い、不味い不味い不味い!
こんなゲテモノを食わせてくれるなぁぁあ!!』
激昂する真紅の瞳。
それを見上げながら、Я・E・Dは全身の力の全てを注ぎ込んでいく。
「何度でも言うよニーズヘッグ、わたし達は絶対に負けない。
遠い遠い神話の時代は今、ここで終わりを迎えるんだ!!」
注ぎ込む弾丸は極光。
魔獣の頭部へ向けて射線を固定してぶっ放した。
『――忌々しい、忌々しい! のぼせあがるなよ、人間ども、俺を――俺を舐めるな!』
激昂の声と共にニーズヘッグがその口から炎を吐いた。
けれど、極光は止まらない。
刹那の拮抗も無く、炎を裂いた極光が蛇の頭部をぶち抜いた。
「――止まらない。わたしが出せる全て、注ぎ込むんだ!」
それは自分に対して言い聞かせるように、Я・E・Dは弾丸をぶっ放す。
「さあ行こうぜ紫電ちゃん! ウチらは絶対、勝てるんだから!」
攻勢へ傾こうとする戦況、秋奈は紫電へと笑いかけて、走り出す。
「あぁ――勝ってやる!」
紫電は愛剣を振り払う。
振り抜かれた斬撃は次元すら断つ大いなる絶技。
灼燿の闇刃が蛇の肉体を抉り取る。
合わせ、秋奈は剣を閃かせる。
双刀を結ぶ斬撃は三度の軌跡を描き、壮烈なる連撃となって刻まれていく。
『なぜだ――なぜだ、どうして俺がこんなにも後れを取る!?
あれから、あれから何年たったのだ!』
魔獣が激昂する。
「フッ…お膳立てとしては役不足だったようだな。……力不足だったようだな?
司書ちゃん! ココロちゃん! みんなかましたれー!」
秋奈は小さく笑って、後ろから迫る『本命』へ声をかけた。
魔獣が高らかに笑うのを聞いた。
「怯まないで、私たちは勝つわ。あの戦場もそうだった」
イーリンは小隊兵に言い聞かせるように余裕を示すように微笑を浮かべ――閃光が戦場を包み込んだ。
「――ね? 言ったでしょう?」
そういって笑い、一斉に走り出す仲間達に遅れじと走り抜けた。
「OK、王手を決めに行こうか」
メーヴィンは笑うと同時、走り出したイーリンに続いて行く。
最早、兵士達から迷いはない。
戦争の帰趨は決まりつつあった。
「行くぞ、自分の出せる全力を叩き込め!」
術式が起動し動きを止めた刹那、ミーナは部下たちへとそう告げて走り出す。
目指すべきは魔獣の頭部。
その身を焼くは終焉の炎、大いなるレーヴァテイン。
自分の出せるあらん限りを籠めて、ミーナは斬撃を振り払う。
死神の鎌がニーズヘッグの首を落とさんと閃き、それが終わるのとほぼ同時、希望の剣を前へ。
切り開かれた魔獣の傷痕を、押し広げるように希望の刃が突き刺さる。
歌うことを、アイドルとして振舞う事を最大限に楽しみながら、縁は真っすぐにニーズヘッグを見上げた。
「私の声は世界を変える……。なんちゃって! この声が届く限りは、絶望なんてしませんからね」
支える――その意思を強く持って、縁は歌い続ける。
怖気づくなんてありえない。
――さぁ、次の一曲を歌いましょう。
アンコールだって決めてるんですから。
攻勢に移る仲間たちに遅れずに。
「――こんなことも出来るようになったんですよ」
縁はルナ・ヴァイオレットについているボタンをぽちり。
「反応弾投射!」
煙幕を上げて放たれた幾つかの弾丸がニーズヘッグ目掛けて走り抜ける。
煙幕はニーズヘッグの頭部辺りを丸々包み込む。
『えぇい!』
ぶんぶんと顔を振るったニーズヘッグの舌が、ビュンと鞭のようになって煙幕を裂いて走る。
術式の発動により、動きを止めたニーズヘッグ目掛け、アーマデルはある物を投げつけた。
くるくると回りながら投擲されたそれは、ニーズヘッグの口の中に入り込むと同時に衝撃で炸裂し、中身が体内へと消えていく。
『ぐぅぅ……うぐぅぅ』
荒い息を続けるニーズヘッグへと放り投げたそれは、あらかじめ用意しておいた毒である。
ダメージを追わせることは難しくとも、多少なりとも疲弊させられるだろう。
「脱ぎ終えていない抜け殻を狙うぞ!」
その様子を見て、直ぐにアーマデルは声をあげた。
近くに見える、表皮から剥離しかけたそれめがけ、剣を払う。
それは神酒である。一翼の蛇へと本能されるべきそれに浸ったニーズヘッグの身体が焙られ、収縮する。
『ぐぅぉぉおぉぉ!!』
痛みからか、術式の影響からか、ニーズヘッグの苦痛に満ちた声がした。
『えぇい!』
苛立ちを露わに、ニーズヘッグが尻尾を持ち上げた。
「前へ行くんだ!」
リックはその瞬間、精霊たちにそう告げていた。
「勢いが一番強くなる離れた場所よりも起点になる尻尾の付け根くらいにいたほうがダメージは比較的低いはずだぜ!」
その指示に応じるように、精霊たちが前へ向かう。
薙ぎ払うような尻尾の動きを抑え込むようにして、精霊たちが霧氷の魔術を叩き込んでいく。
●災炎の魔女Ⅱ
マリエッタは血色の鎌を再び作り出すと、それを杖のようにして立ちあがる。
「貴方がどんな人間だったか。
それは、もうわからないですけれど……それでも、せめて魔種として反転してしまった、本来のあなたを。
安らかな眠りと……可能性の未来へと導いてあげられたら」
「安らかな眠りと可能性の未来……ふふ、それが貴方の言った、あるべき場所かしら?」
「えぇ……きっとそうだと、私は信じます。
……だから、血を奪う、輝きを奪う者として――」
「貴方にもっと早く出会えていたら――もしかしたら、私は今、こんなところにいなくて済んだのかしらね」
ベルガが紅蓮の蛇を嗾けてくる。
それと合わせ、マリエッタは一気に走りこむ。
頭上を越えた蛇が地面に叩きつけられ、跳ね返るように追ってくる。
それより早く、マリエッタは血刃を振り抜いた。
赤と黒の入り混じった独特な炎が幾度に渡ってエッダに向けて放たれている。
「自分らが止めているうちに道の一つや二つでも味方が潰してくれると助かるのでありますがねえ――そこの破壊力が有り余ってる赤毛司祭とか!!」
猛攻を受けながら、エッダがそういえば。
先を動く仲間達が疾走して連撃を放つその合間、聖句を紡いだヴァレーリヤは一気に走り出す。
「主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。
毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を」
懐へと潜り込み、顔を上げればそこには魔女が静かにこちらを見ている。
「――永き眠りのその前に」
最後の一節の刹那、ヴァレーリヤはメイスを薙ぐように振り抜いた。
振り払われたメイスが連撃となる衝撃波を刻む。
「私に出来ることは限られてるけど、これならだれにも負けない!」
そう叫ぶように告げ、マリアは一気に跳躍する。初速より放たれたのは蒼雷。
流星のように蒼く輝く軌跡を描き、雷光が戦場を迸る。
炸裂の瞬間、蒼雷がベルガの身体を貫き、彼女の身体を足場代わりに、顎辺りを蹴り飛ばす。
苛烈に攻め手たる紅の閃光は眩く戦場を駆け巡る。
四肢に黒炎を纏う術式を発動させているのか、放たれる猛攻は近接が殆どだった。
「騎士様、本当に素敵ね……でも、もっと他の人達もお相手しないと申し訳ないわ!」
そういって笑った直後、ベルガがそれに向けて手を掲げた。
頭上に浮かび上がる極大の魔法陣。
「其は悪意を打ち下ろすモノ」
何らかの詠唱の刹那、小さな蛇の形をした無数の炎が頭上から広域目掛けて降り注ぐ。
「全く、生き生きとしてるでありますな!」
エッダは自らを巻き込む紅蓮の雨を受け止めた直後、ベルガの衣装を掴みかかる。
掌底を魔女へと叩きつけ、足を払って体勢を崩すや、そのままその場で投げを打つ。
打ち下ろした魔女がエッダに手を翳し、炎がチリリと燃えた。
「これまで、ワザワザ姿を見せて鉄帝を引っ掻き回したワケだけれど、一体何がモクテキだったのかな?」
エッダと入れ替わるように前へ向かって、イグナートは意識を向けさせるように声をかける。
「目的?」
「何を求めてあんなヘビを連れ出して、しかも喰われようって思ってるのか気にはなるよね!」
軽めの踏み込みの直後、イグナートは拳に闘志を籠めた。
溢れる闘志は、竜への挑戦。
渾身の力を籠めた、幻想を穿つ竜撃の一手。
受けてはならぬと動いたベルガの防御障壁の均衡を破砕して、確かな一撃を叩き込む。
「目覚めたのは貴方達の仲間の手による物でしょう。
私はただ、見たいと思っただけだもの。
食べられようとした理由? それなら簡単よね。
どうしようもないくらい、渇いてるのよ、私も」
イグナートを真っすぐに見据えるベルガの瞳は力強い意志が灯り続けている。
「怒りに任せて暴れ、故郷を焼いた連中に力を振り下ろしてやった。
――次は何をすればいいのか、私には分からなかったわ。
少しだけ取り逃した連中も、あなたたちに倒させた。
だからイライラしてイライラしてたまんなくて――私はここにいるのよ」
思い出して腹だったように、ベルガの炎の出力が増す。
「聞け。御身らの祖らが音色を。
聞け。御身らの先を行く者らの声を。
奮い立て。御身らは、魔に屈服するような者ではない!」
黒炎を蛇のように踊らせるベルガの猛攻が戦場を焼き続けている。
肉が燃える臭いが、木々が燃える匂いが辺りを包んでいる。
怯む兵士達を奮い立たせるように、リースヒースは己が最前線に立つと、祝福の音色を前線で争う仲間達へ振り下ろす。
それに背中を押されたように、部下のヒールが齎されていく。
「あらあらまあまあ、でっかい蛇に魔女さんとハ。こりゃもうおとぎ話の世界ですネ」
木々の影より蛇の背中を見上げ、『挫けぬ魔弾』コヒナタ・セイ(p3p010738)は呟いた。
その視線を降ろせばそこではイレギュラーズ達と会話のようなものをする魔女の姿が見える。
(よく分からないけど、あんたを倒すことがふんばりどころの1つなんだろ! なら――やってやる!)
握りしめた愛銃を呼吸と共に構え直す。
サイトを覗き、もう一度呼吸する。
「狙うぞ―……確実に」
確かに魔女を撃つ――そのつもりで構えたあたりから、全身をぞわぞわ感覚が包み込む。
魔種。初めて相対するそれは、一対一で戦えば敗北を避けえぬ圧倒的な『異物』。
――どうにも、緊張しているらしい。
「……当てる……」
それは殆ど、自分に言い聞かせるようでさえあった。
――勝つ、負ける、そんなのは問題じゃなくて。
いつも、ただ対象を狙って撃つ、それだけだった。
過去の自分を思い起こしながら、引き金を引いた。
「さあ、ここが死に場だ、魔女さんよ」
放たれた銃弾は真っすぐに致命傷を中てるべく戦場を奔る。
「最後ぐらい、私も本気でお相手しないと失礼かしら?」
悠然と笑ったベルガの足元から魔法陣が浮かび上がる。
陣からはこぼこぼと炎が溢れ出して塊を為せば、やがて炎の蛇を思わせる姿を取った。
それどころか、炎の色が黒く変質していく。
「これが私の全て。私が、私達が遺す最後の炎。受けてもらえるかしら!」
爛々と輝く瞳は彼女の全力を示すものだ。
「エッダ、イグナート! 悪いのだけれど、あと少し時間を稼いで下さいまし。次で仕留めてご覧に入れますわ!」
その上で、ヴァレーリヤはメイスへと聖句を紡ぐ。
炎を湛えるメイスが揺らめきを放つ。
「オリーブ! 好機でございますわ!」
「ヴァレーリヤがああ言うんだからココが正念場だね! 大技をこっちで止めればオレたちの勝ちだ!」
イグナートは改めて拳を握り締めると、一気に前へ。
ベルガを囲むようにぐるぐると渦を巻いた黒炎の蛇が、イグナート目掛けて突っ込んでくる。
「――ッ!!」
文字通り、全身が燃える。
壮絶な痛みを、この場にいる他の仲間へと到達するはずの炎さえも、己が受けるのだと。
「はは、いいね! こうでなくちゃ!」
パンドラの光が輝く。
落ちそうな膝を、前に出ることで抑え込んで、イグナートは拳を握った。
「貴方のように誰かの為に全てを受け止めてくれる人がいたのなら――変わってたのかもね」
そんな声と同時、霞む視界に黒い炎を見た。
「相手を理解して、ソレを超える!それがオレの戦い方だよ!」
巻き付く業火を払い、雷が吼える。
全霊を籠めるべき黒き雷を、前へ。
●災炎の魔女Ⅲ
「――今度こそ、芯を捉えさせてもらいますよ!」
ただの一撃で山肌を燃やし尽くす炎を生んだ直後、大技の代償と言うべき隙を見て、オリーブは踏み込んだ。
連撃の黒炎がエッダを呑みこみ、それに合わせての一セットらしい黒炎の砲撃を受けるその直後、オリーブは爆ぜるように前へ。
息を呑むベルガ。それに合わせての見てくる手。
それを躱すようにして、オリーブは上段から剣を振り下ろした。
破城を為す絶剣を振り下ろす。
黒炎がオリーブを包むことなど、些細の事だ。
「――どっせええええい!!」
続けざま、ヴァレーリヤはメイスを振り抜いた。
「はぁ、はぁ、拙いわね……」
ベルガが肩で息をしながら黒炎の出力の低下を見たベルガが思わずつぶやくのを見る。
どれほど出しても出力が上がらない辺り、弾切れのようだ。
「……覚悟したまえ」
バチリと音を立てる雷を手に、マリアは静かに見据えれば。
「流石に余裕がなくなってくるわねぇ……」
そう魔女が溜息をつく。
「君とは何度かやり合っただけの仲だけど、君を嫌いにはなれなかったよ。
どうか君の来世は……君にとって素晴らしい人生になりますように……」
雷の出力を保ったまま、マリアは祈るようにそういって、再び出力を上げた。
「……そう言ってもらえるのは、嬉しい事なのかしらね?」
小さなそんな声が聞こえた気がした。
そのまま、ベルガは顔を上げて――どこかに向けて微笑する。
セイは再びサイトを覗く――そして、目が合った。
魔女が微笑んだ。
――ありえない。
けれど、たしかに目があったのだ。
「――ッ」
思わず息を呑んで、固唾をのむ。
唇をかんだ痛みで呑まれかけた心を奮い立たせる。
「勝ってやる、すべての勝負に、何があってもだ!」
自分を奮い立たせるように声をあげる。
隠密性を旨とするスナイパーとしては落第なのかもしれないが――『バレてるなら気にしても仕方ない』
「この世界に来て浅いけど! 世話になった人がいるんだ!
恩義がある人がいるんだ! 守ってやりたい人がいるんだ!
――そして私が死んだら絶対に悲しむ! だから! 勝って帰って、皆に笑って『大冒険した』って言ってやる!」
気迫を籠めて放った弾丸が真っすぐに走り抜けて――魔女の心臓を貫いた。
●貪る蛇Ⅲ
戦いは続いている。
攻勢は完全に連合軍側に傾いていた。
『焼き切れるがいい!』
悪あがきのように幾度目か蛇の口が大きく開いた。
放たれた炎の吐息が、戦場に立ち上り、迫りくる壁のように走る。
「大丈夫よ、みんな! この私がいる限り! 誰一人倒させない! だから、安心して戦いなさい」
波濤の如き業火を全て一身に受け止める。
圧倒的な熱量に、激痛が全身を駆け巡れば、パンドラの光が輝いた。
振り抜かれた魔獣の尻尾が空へと持ち上がる。
「下がれ! 来るぞ!」
ミーナが叫び、騎士たちが後退する。
その直後、ニーズヘッグの尻尾がぐるりと地表を薙ぎ払うように走る。
「傷を負った奴は下がれ! 死んで名を残すなんざ考えるな! 生きて、そして私達の勝利を信じろ!」
立ち上がろうとした騎士へとそう告げて、ミーナはもう一度前を向いた。
踏み込んで跳躍。
暴れるニーズヘッグの脱皮しかけた皮膚目掛けて、渾身の魔力を籠めた大鎌をふりおろした。
「負けられない――あいつらにも!」
その視線の先にあるは、信頼を置くレイリーであり、イーリンだ。
長い付き合いだからこそ、彼女たちの居る場所で自分だけ退く気にはなれなかった。
「勝ちを取りましょう、勝利はすぐそこですよ!」
戦いは続く。
戦況は明らかに連合軍の優勢に動きつつある。
だが、それでも心の負担は大きい。
戦闘は長く、その分の人々の傷は確かに増えて行く。
『思ったよりも大丈夫』と、そう思えるのは――一人一人の奮闘のおかげだ。
「大丈夫、わたしの手を取ってください。
貴方がまだ生きていたいと思うなら、わたしが支えます」
傷をおった兵士の手を取ってココロは真っすぐに目を向けた。
医術士見習いの一人に後を任せ、戦場を向いた。
業火が戦場を包み、壁のように伸びた炎が停止する。
放たれたパンドラの輝きをみた。
「レイリーさん!」
どくんと心臓が高鳴り、熱を帯びる。
鮮やかに放たれた熱を、彼女へと注いでいく。
「行こうぜ、皆! 完封して、ピンチにも負けずに立ち上がって――そして勝つ!
イレギュラー達だけじゃなく、ここにいるみんなでつかみ取るんだ!」
波濤が大きく打つように、仲間達の胸を叩くようにリックの鼓舞が戦場に響き渡る。
それがもう一つの後押しとなって、戦場を包み込んでいく。
『はぁ、はぁ、はぁ……ふざけおって……おぉぉお!!』
激昂の声をあげたニーズヘッグが、大きく息を吸った。
「――させないよ!」
その瞬間、セララは一気に飛び込んでいく。
大きく開いた口めがけ飛び掛かり、上段から雷剣を振り下ろし、その勢いのままに斬り上げた。
連撃を撃ち込まれたニーズヘッグの頭部ががちんと合わさり、口の中で猛毒が溢れだした。
そのまま僅かに落ちた顔――その瞬間、セララは剣を再び掲げた。
見開かれた真紅の瞳めがけ、雷光が迸る。
「よし、銃撃は任せる! 撃って撃って撃ちまくれ!」
流れが完全に連合軍に傾いたのを確認すると、ラダは愛銃を握り締めると一気に走り出す。
そのまま山肌を、蛇の身体その物を足場代わりに駆け抜ける。
同じような仲間達を見ながら頭部まで駆け抜け――思いっきり銃床で殴りつけた。
「くっふふ、その肉、置いていけでごぜーますよ?」
エマは笑いながらニーズヘッグを食べるその瞬間を思い術式を起こす。
放たれた不可視の魔弾が戦場を奔り抜けて仲間の与えた傷口を抉り取る。
「各員状況は?」
戦いが続く中、アイリスは傾きつつある戦況を観察すると、兵士達へと問いかけた。
「これは出力の変更が必要か?」
「あの蛇の皮膚は魔術の媒介に使えそうです」
「……その調子ならまだまだ平気っぽいね。
正念場だよ戦線維持に注力……何枚目かの皮剥ぎチャレンジといこうか……革製品が作り放題だね」
興味深げに呟く面々の様子に、頷いてから、再び肉薄するべく走り出す。
移動しながら、自らも術式を展開して補助に回りつつ、徐々にニーズヘッグへと再接近していった。
「もうひと踏ん張りだよ、皆! 行こう!!」
リュカシスは蛇の背面を駆け抜けるようにして蛇の頭部の方へ。
握りしめた拳が胡乱な魔力を帯びる。
頭上から降ってくる液体。それはニーズヘッグが吐いた毒の液。
「命を大事に! アッ。皆さんご存知でしたネ!」
リュカシスがそれを躱し振り返れば、そこでは毒液を躱して続いてくれる戦士たちの姿。
それをみて、リュカシスは笑って前を向く。目指すは遥かな頭頂部。
ガウス・インパクトによる高速移動で蛇の身体を駆け抜け、眼前へ。
ぎらりとした真紅の瞳と目が合った。
たしかにこちらを見たその瞳へバグルドは獰猛に笑む。
「所詮お前さんはただただでかいだけの蛇、丸焼きにゃ出来んだろうが食い尽くしてやるぞ」
『――この俺を! 事欠いて食らいつくすだと……!』
蛇が激昂し、口を開いた。直後に、毒を含んだ液体がバクルドへと齎されるが――短く笑う。
「毒だぁ火だぁ? んなもん俺にゃ効きやしねぇんだよ!」
握りしめた拳、開いた口目掛け、振り払うは三連撃。
柔らかそうな肉質の口腔へ、連打を叩き込んだ。
連打の終わり、引き裂かれた蛇の頭部へ最後の一撃を振り下ろす。
蛇が倒れ地響きが鳴る。
しばしの静寂が辺りを包み込んだ。
「ほら、司書殿。いう事があるだろ?」
メーヴィンはイーリンへとそういった。
兵士達の視線が彼女を見ているが分かる。
「そうね……今こそ凱歌を、貴方達が打ち立てる栄光は今ここにあるのだから!」
倒れた魔獣を見て、イーリンは旗を突き上げる。
「お、おお……おおおおお!!」
その声は、イーリン隊から始まり、戦場各地へと伝播していく。
●祝宴
戦いのが終わった後の戦場にリースヒースは立っていた。
幾つもの死に満ちているその地を見渡すようにして墓守は黒剣を掲げる。
静かな夜の空、星々がさながら一つ一つの魂のように煌いていた。
「……うむ、御身らが喜んでいるのであればいい」
疎通を試みた霊魂たちから穏やかな安堵するような空気を感じ取る。
にわかに生じた戦乱が終わった事への安堵が感じ取れた。
「……ニーズヘッグ、ベルガ。御身らも安らかに眠れ」
――それらが決して怨霊の類にならぬように。
そう願って、視線を空に投げかけた。
ヴァレーリヤは、宴の席から外れ、小さな教会にて祈りを捧げていた。
(聡い貴女の事ですもの。分かっていたのでしょう?
あれだけ喋れば、私達が貴女を討伐しに来ると。
暗躍に徹していれば、結末は違っていたでしょうに……)
あるいは、それこそが狙いだったのだろう。
徹頭徹尾、彼女にはどこか諦観めいた自殺願望があったように思う。
断片的に彼女の語った所を繋ぎ合わせて考えれば、彼女は『生き残ってしまった側』であったのだろう。
傭兵団か盗賊団か。そういった者の手で焼き滅ぼされた故郷。
怒りに燃えて復讐を果たし、燃え尽きる為に故郷があった場所に――この国に戻る。
他人からすれば傍迷惑ではあるが、そういった果てに燃え尽き方を探したのだとしたら。
死に場所を求めて戦場で死んだヴァルデマールと手を組んだのは『本質的に似た者同士だったから』なのかもしれない。
本人たちが死んだ以上、それを知るすべはないのだが。
(主よ、貴方の元へと旅立つ魂に、どうか慈悲を、安寧をお与え下さい)
祈りを捧げ、一つ息を吐く。
「おやすみなさいベルガ。貴女の事は、覚えておいて差し上げますわ」
聞こえる相手のいないその場所で、ヴァレーリヤは静かにそれだけを残して身を翻した。
「あれほどの蛇が宿るこの土地は豊かになる。信じられない?
あんた達がやるのよ、先祖代々の誇り、私も驚いたんだから」
なる――それは、これからのことだから。
イーリンは義勇兵たちへとそう告げれば、彼らは驚いた様子だった。
「『また』会いましょう? その時を待ってるから」
驚いた様子の義勇兵たちに笑いかけて、イーリンは彼らと握手を交わしていく。
「恐れるな、奮い立たせろ、弱音は無しだ、だよ」
メーヴィンはこれからこの地に待つものを思ってそういうと、彼らが頷くのを見た。
「マリー、ユージヌイにもニーズヘッグに関する神話って伝わってる?」
宴の最中、リュカシスは問うた。
「これがあの蛇の話かは知らないが……1つ聞いたことがある」
「そうなんだ。どんな話?」
「あぁ……なんでも町長の一族に伝わってきた話らしい。
俺も死んだ町長の息子から聞いた話なんだが……」
そういって語ったのは、ユージヌイの町が作られた理由。
最初に訪れた時も『ハイエスタの一部が土地を切り開いて都市国家を作り、鉄帝国に組み込まれた』と、そう言っていた。
その都市国家を作った理由が、『大いなる蛇を祀る者』に追われたが故である――と。
大いなる蛇がニーズヘッグに相当するのなら、古い因縁を断ち切ることになったと言えるのだろうか。
「食うにしてもちぃと量が多いな、焼くのにも一苦労だ!」
バクルドは山に巻き付いたままに死んだニーズヘッグの死体を眺めながら笑っていた。
「いくら宴と言っても、こりゃあ食いきれんか?」
唸りつつ顔を上げる。
あぁ、全く。どうしてくれようかと。
「どうやらヘビのお肉って美味しいらしいのですよ。
これも同じかは分かんないけども味見でして!!」
――と割かしルンルン気分でニーズヘッグの肉を食べようと思っていたルシアだった。
「蛇はニョロニョロしてるからきっと蒲焼きが美味しいですわ!」
それに同意しして頷くフロラもまた、目を輝かせている。
何せこの量だ。此処に要る人数がたらふく食べてもまだ余りかねない。
直面する問題は1つ。『このサイズをどう焼くか』
「これはもう魔砲で細切れにすれば問題ないのでして!」
愉しい魔砲連打の余韻に引っ張られるように、ルシアは目を輝かせながらニーズヘッグへと近づいていった。
「それは私そうですわ~~! わたくしも混ぜてくださいまし!」
愛斧担いでフロラもまた続いて行く。
「さぁ、皆! 思いっきり飲んでちょうだい!」
そういいながらもイナリは笑っていた。
重傷者たちはいる。それでも死者はほとんどいない。
それは分かっている。ゼロではない。
ゼロではないが、生まれた死者たちへの手向けの分もこの宴を為さねばならない。
自腹のつもりの開催日は、何故か鉄帝から降りていたが。
「みんなもおつかれさまーー」
そういって笑うのはЯ・E・Dである。
小隊の義勇軍の面々には死者は出ていない。
「おう! おつかれ!」
疲労は濃く、けれど晴れ晴れとした表情を浮かべる彼らを見れば、為したことは意味あることだったと、そう思えた。
「あそこに今までいたんですネ」
セイは静かに言葉に漏らす。
「……えぇ、これはもう、帰ってから皆に言わなくては! 『大冒険だった』って!」
心の奥から溢れるような思いが、突いて出て行く。
ようやっと、勝ちを実感した気がした。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
大変お待たせしました。
これにて貪る蛇とフォークロア、完結となります。
幾つか称号が出ております。
MVPは攻勢を優勢から勝利へ傾けた貴方へ。
GMコメント
こんばんは、春野紅葉です。
それでは、最終決戦と参りましょう。
●オーダー
【1】『貪る蛇』ニーズヘッグの討伐
【2】『黒き智嚢』ベルガの討伐
●フィールド
【1】チェルノムス平原
鉄帝国の北部、チェルノムス山と呼ばれる小さな山とその周辺にある森林及び平野です。
森林は遮蔽物になります。それ以外の平野は大きく軍勢を展開できる空間になります。
【2】チェルノムス山頂
チェルノムス山と呼ばれる小さな山の山頂です。
近隣は木々も生い茂っています。
なお、皆さんの位置からもやろうと思えばニーズヘッグを狙えますが、気付かれる恐れもあります。
●エネミーデータ
【1】『貪る蛇』ニーズヘッグ
小さな山を七巻半する途方もないでかい蛇の怪王種です。
かつては神と崇め奉られていた時期も存在する先史時代の怪物です。
途方もないHP、AP、物攻、神攻、EXA、豊富なEXF、防技、抵抗を持ちます。
サイズの関係上、回避という概念は存在しません。あらゆる戦闘方法が範囲攻撃です。
薙ぎ払いなどの物理攻撃、毒や炎のBSを与えるブレスを用います。
そのターンの行動を放棄してHP、AP、BS解除を行う脱皮を行います。
また、そのサイズ感の都合上、近接戦闘ではニーズヘッグに登って先頭をすることも可能です。
また、ニーズヘッグには『怒りや嘆きなどの負の感情を喰らい、成長する』能力があるようです。
逆に『絶対に勝つんだ!』などの前向きな感情には感情を持ち続けている弱体化します。
【2】『黒き智嚢』ベルガ
戦闘方法は炎を用いる魔術師タイプの魔女。
基本的には神秘タイプですが、魔種なので物理も出来ます。
防技、抵抗、命中、EXAなどが高めですが、HPは若干不安があるようです。
●特殊ルール
・小隊兵×10
皆さんは自分の領地ないし鉄帝軍、これまでのフォークロアシリーズで関係を結んだベロゴルスク、ユージヌイなどの町からから10人の兵を部下として率いることも可能です。
この場合、特別な明記の無い限り、兵士の性質は皆さんと同系統となります。
皆さんはプレイングにて兵士をどう導くかを記してください。
例えば自身は前衛に立ってその活躍で奮い立たせるも良し、
自らは支援に回って落ち着いて兵士を導くもよし、
アイドル風に歌って踊って鼓舞するもよし。
その他諸々、ご自身らしい指揮をお取りください。
※優先者について
・ラダ・ジグリ(p3p000271)さん
ラダさんはラサから連れてきた傭兵を義勇兵として見繕っても構いません。
その場合、貴方の商会や領地、ご実家の商会、イルザなどの知己として扱い、ほかの集落の兵士との関係も悪くない者とします。
傭兵達は各々が比較的好き勝手に動きますが、その分、ステータスが高めです。
・リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)さん
ユージヌイ警備隊を中心とする反ニーズヘッグ義勇軍を率いることもできます。
この場合、ハイエスタ系の戦士で構成される彼らの士気は非常に高く、攻撃能力にバフが加わります。
・レイリー=シュタイン(p3p007270)さん
ユージヌイの戦士を中心とする反ニーズヘッグ義勇軍を率いることもできます。
この場合、ハイエスタ系の戦士で構成される彼らの士気は非常に高く、防御能力にバフが加わります。
・イーリン・ジョーンズ(p3p000854)さん
ベロゴルスクに属する反ニーズヘッグ義勇軍を率いることもできます。
歩き巫女としてこれまで潜入していたこともあり、貴方の御旗の下で戦う兵士の士気は非常に高くなります。
いずれかの任意の能力にバフが掛かり、また全員がエキスパートを活性化している扱いとなります。
・ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)さん
ベロゴルスクに属する反ニーズヘッグ義勇軍を率いることもできます。
この場合、医術士見習いを選択すれば回復性能に、戦士を採用すれば神攻にバフが加わります。
・Я・E・D(p3p009532)さん
ベロゴルスクに属する反ニーズヘッグ義勇軍を率いることもできます。
彼らの士気は非常に高く、シルヴァンス系の獣種から構成された部隊は反応、機動にバフが加わっています。
・ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)さん
ベロゴルスクから連れてきた兵士を率いることが出来ます。
その場合、ルシアさん自らにやり方を教わった兵士達の魔砲の命中率が若干ながら上昇しています。
・弱体化術式
アリシス・シーアルジア(p3p000397)さんは任意のタイミングでニーズヘッグ弱体化術式を発動できます。
6ターンの間、ニーズヘッグはお腹を壊し、判定が自動的にファンブルします。
●友軍データ
・『壊穿の黒鎗』イルザ
物神両面に加えて反応が高めのパワーファイター。
騎兵を率いてで戦います。
・『銀閃の乙女』ユリアーナ
EXA反応アタッカーです。
歩兵を率いてで戦います。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●プレイング書式について
出来るだけ下記のような書式でお願いします。
プレイングの1行目に向かう場所(下記A~C)※1
プレイングの2行目に同行者やタグがあれば
プレイングの3行目から本文を書いてください。
※1
プレイングのキャパも考えますと、
出来る限り場所選択は1か所をおすすめします。
AとBは実質同じフィールドですが、
どちらの方面に注力してプレイングを書くかで選択してください。
例:
A
【疾風】
突っ込んでぶん殴るよ!
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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