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シナリオ詳細

<貪る蛇とフォークロア>冬を送り、春に願えば

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●氷雪払い、日差しに煌く
 傭兵連盟『ニーズヘッグ』はその頭であったヴァルデマールがクラスノグラードに戦死してから瞬く間に瓦解した。
 ただ戦場を求めてラサより鉄帝へと流れ着いた男の死後、その後を継ぎうるような存在が彼らには存在しなかった。
 それが幹部クラスを失ったがためか、ノーザン・キングス系の三部族がそれぞれ少なからずの傷を負った結果なのか。
 ――あるいは、その結束力も含めてヴァルデマールという魔種の能力の一つであったのか。
 最後の一点については最早それを答える者はいないが――なんにせよ、ローレットより訪れたイレギュラーズの手助けもあって、連盟に征服された地域は尽くが鉄帝に再編された。

 森林地帯に存在する小さな町ベロゴルスク――そこはかつてニーズヘッグの攻撃に対して臣従を選び生き残った町である。
 戦いが終わってから少しばかり経ったある日、暇を見つけてイーリン・ジョーンズ(p3p000854)はこの町に訪れていた。
「全員、無事に帰ってこれて良かったじゃない」
「全くだ。あんたのおかげだぜ、シスター」
「貴方達自身の手柄よ。私はそれを少し手伝っただけ」
「……そうかい。まぁ、あんたがそう言うならそれでいいけどよ……」
 獣種の男は不思議そうに首を傾げる。
 彼もまた、イーリンが率いたベロゴルスク義勇軍の1人だ。
「そうだ、シスター! そんなことより、あんたは来てくれんのか?」
「来てくれるって……何によ」
 イーリンが首を傾げれば、今度は獣種の方が首を傾げる番だった。
「ありゃりゃ? 聞いてねえのかい? ベロゴルスク(うち)やクラスノグラード、あとそれからユージヌイだっけ?
 そういうとこの連中が、傭兵の連中を追放して故郷を取り戻した記念に祭りを開くのさ。うちの連中も大盛り上がりだぜ?」
「あぁ……皆が浮足立ってるように見えたのはそういうこと」
 町へ訪れてから、人々の雰囲気が明るかった。
 どうやらそれは、故郷を取り戻したことへの喜び――だけではないようだ。

「ココロさん、先日はありがとうございました!」
 ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)に対してそう言ったのはあの戦いでココロの下にいた医術士見習いの女性だった。
「いえ! 皆さんも無事で良かったです。他の人もまだこの町に?」
 医術士見習いで構成されたチームは、あの戦いの後もベロゴルスクへ滞在しているらしいという話は伝え聞いていた。
「ええ、お祭りが開かれるという話ですから、地元に戻る前にそれだけでも見てみようと」
「お祭り……ですか?」
「えぇ、なんでも、国から提案があったとか何とか」
 それだけ言った彼女は、誰かに呼ばれたようでもう一度お礼を言って立ち去った。

●春の芽吹いた町
「お祭りですか! いいと思います!」
 リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)はマリウスは表情を綻ばせている。
「町の連中も楽しみにしてる見たいだ。俺ら警備隊も頑張らねぇとな」
 そういう彼の瞳が精気に満ちている。
「そうだ。これはアイツらにも言ってるんだが……この祭りが終わって落ち着いたら、俺は警備隊を辞めようと思う」
「えっ!? どうするんです?」
「……アンタが良ければでいい。その時は、俺をアンタの為に使ってほしい」
 マリウスはそう言って――静かに膝を屈して礼を示す。

「……で、うちにはその祭りで使う食品やら資材やらを商会(うち)で取り扱うわけか。
 まさかこんな大口がくるとはな」
 ラダ・ジグリ(p3p000271)は自らの商会にて独り言をつぶやいていた。
 注文をしにきた者から聞いた話によれば、春霊祭なる祭りを執り行うという。
 それに使う諸々の発注がユージヌイ潜入時のまま存在していた商会の支部にも殺到しているのだ。
「商人として腕が鳴るな……」
 今ある物はどうか、無いならどこから取ってくるか――それを考えながらペンを走らせる。

●遅れたる春霊祭
「やぁ。皆、もう何人かは聞いてるかな? 傭兵連盟『ニーズヘッグ』から解放された町が合同でお祭りを開くってやつ」
 イルザはイレギュラーズが集まる中で笑いかけながら口を開く。
 集められた者の中には、知っている者もいれば、知らないといった様子を見せる者もいる。
「クラスノグラード周辺では春の訪れを告げる祭りが開かれる。
 傭兵連盟の連中に占領されてて、出来なかったお祭りなんだけどね。
 それにニーズヘッグから解放された記念日を重ねて今からやっちゃおうよ――ってのを、鉄帝から提案がしたんだ。
 で――皆には『本当のところ』を言っておこうと思う。よろしくね、ヴィルトーチカさん」
 すらすらと語ったイルザは、話を切り替えるようにウインクをして席を譲り、代わって姿を見せたのは魔女ヴィルトーチカである。
「皆さんの中にはご存知の方もいると思うけれど。
 今回の戦いはもう一つ――魔獣ニーズヘッグなる魔物の討伐もお願いしたいの。
 私達はニーズヘッグが封印から出た時の為に何代もかけてきた」
「気持ちはわかるわ……だからこちらから攻めたい。お祭りを開きたいって彼らの気持ちも分かるけど、先に攻めるべきなんじゃ」
 そう声を上げたのはレイリー=シュタイン(p3p007270)だった。
「貴方達が傭兵連盟と戦っていた頃、ベロリェスコエ地下神殿ではニーズヘッグへの対抗策を見つけることができたの。
 ニーズヘッグは『怒りや嘆き』を食べて成長する魔獣。なら、逆の物をたくさん上げたらどうなるのか」
「怒りや嘆き……悲しみの逆、『喜びや楽しさ』……とかか?」
 イズマ・トーティス(p3p009471)が何となく口に出せば、ヴィルトーチカが微笑を零す。
「……なるほど、それで祭りを開くんだね。
 必要なのは祭りじゃなく、祭りを楽しんでいる民衆が感じる喜びや楽しいという気持ちなんだね」
「えぇ、あるいは『生きたいという願い』でも構わない。
 魔獣ニーズヘッグが嫌いそうな人々の感情を術式を通して貯め込んでおく。――その時が来たら使えるように」
 Я・E・D(p3p009532)が結べば、ヴィルトーチカは静かに頷いてそう答える。
「でも、それって大丈夫なの? せっかく楽しんでるはずなのに」
 気になるのはそこだ。せっかくの喜びや楽しみを奪われたらたまったものでは無かろう。
「えぇ、問題ないわ。そもそも、1人1人から貰う分は微々たるものだし、奪うのではなく余剰で生まれたエネルギーを受け取るだけだから」
「やりたいことは分かった。でも、彼らにはなにも言わずにやるんだね」
「貴方達なら多分こうやって事前に話しても、それはそれとして楽しんでくれるでしょう。
 でも、彼ら無辜の民に事前に『命一杯楽しんでくれ、そしたらその喜びや楽しさを力に変えて魔獣を討つ』なんてことを言って、まともに楽しめるかしら」
 Я・E・Dの疑問にヴィルトーチカはそう答える。
 要するに、人々に身構えさせる必要はなく寧ろ身構えさせることの不利益があると判断した、ということだろう。
「やっと苦しみから解放されたところに、やらなくてもいい考え事を増やしてお祭りを楽しめなくさせるぐらいなら――黙っている方が良いわ」
 そう言って魔女は緩やかに笑う。

GMコメント

 さてそんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 フォークロア第四弾。
 祭りじゃ!!! 以上!!! となります。

●オーダー
【1】春霊祭を成功させる
【2】自分達も春霊祭を楽しむ
【3】クラスノグラードを調査する

【3】についてはしなくても構いません。

●出来る事
 皆さんは下記フィールドにて祭りの参加者、或いは主催者側に立つことができます。
 参加者として普通に祭りに参加して楽しむもよし、自ら主催者側に立ち何らかの行事や遊びなんかを催すもよし。
 皆が楽しんでしまえれば勝ち――ただそれだけとなります。

●フィールドA:ベロゴルスク
 森林地帯にひっそりと存在するシルヴァンス系の人々が住まう町です。
 イレギュラーズへの感情は肯定的で、鬱屈した状況から解放されて喜んでいます。
 幾つかの屋台の他、伝統行事らしい冬送りの儀が行なわれています。

・冬送りの儀
 町の中央にある大きな人形に願いを込めたリボンを括り付け、
 最終日に人形と共に燃やすことで天に送る……という物の様子。

・その他
 獣種達は自分達の俊敏さを生かした鬼ごっこ風の競技を行っている様子。
 とはいえ、鉄帝らしくその鬼ごっこも反撃ありのようです。
 お遊びではあるので、参加者には特別に【不殺】が付きます。
 イーリンさんと一緒に戦った義勇軍などはここに参加しているようです。

●フィールドB:ユージヌイ
 木々と雪原の間に高い塀と共に存在する、ハイエスタ系の町です。
 イレギュラーズへの感情は肯定的で、鬱屈した状況から解放されて喜んでいます。
 幾つかの屋台の他、伝統行事らしい春送りの儀が行なわれています。

・冬送りの儀
 度数の高い酒と近くで獲れた動物の肉や小川で取れた魚を肴にした宴会が行なわれています。
 冬の寒さごと吹き飛ばす勢いで宴を催し、来る春を歓迎する……と言った様子。

・その他
 ユージヌイでは先の戦いでのイレギュラーズの活躍を伝え聞いた者が自分の腕試しをしたい、と名乗りを上げています。
 ちょっとした模擬戦風のバトルが行なえます。ちょっとした商品もある様です。
 ハイエスタらしく正々堂々とした戦いなんかを好んでいます。

●フィールドA&B:情報精度
 フィールドの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●フィールドC:クラスノグラード
 赤い城壁が特徴的な城塞都市です。
 前段シナリオの後、鉄帝軍によって制圧されました。
 イルザが『後ほど調べたいっていう人がいるかもしれないから』と現場保全をお願いしたらしく、
 傭兵連盟による制圧後の姿をほぼそのまま残しています。

 この城塞都市の中にはもしかしたら傭兵連盟の残党が潜んでいる……かもしれません。
 重要な情報が残っている可能性は少ないですが、探ってみるのもいいかもしれません。
 とはいえ、あくまで主目的はA,Bになります。

●フィールドC:情報精度
 このフィールドの情報精度はCです。
 成果を得られるかを含め、情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●NPCデータ
・ヴィルトーチカ
 かつて魔獣ニーズヘッグと相対した先史文明の末裔。
 今回はA、Bどちらの町にいても声をかけることができます。
 自分の知ってることについては何でも話してくれます。

・『壊穿の黒鎗』イルザ
 フィールドB:ユージヌイの冬送りの儀に参加しています。
 つまり思いっきり酒飲んで楽しんでます。

  • <貪る蛇とフォークロア>冬を送り、春に願えば完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月29日 22時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)
戦乙女の守護者
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

リプレイ

●ベロゴルスクの冬送りⅠ
 雪が綻び陽の光に照らされる美しい針葉樹の群れの中、ひっそりと存在するベロゴルスクは一月ほど前まで占領下にあったとは思わせない。
 既に町の中央では冬送りの儀で使われる人形が設置されている。
 キラキラと輝くエフェクトが人形を照らす中、『赤い頭巾の魔砲狼』Я・E・D(p3p009532)は人形の前に出てぺこりと頭を下げた。
「ベロゴルスクの皆さん!! 貴方達の尊い献身によって、
 ニーズヘッグは討たれて無事に長い冬が明けようとしています!!
 どうか今日はわたし達も手伝ったこの春霊祭を存分に楽しんで下さい!!
 声が通るように拡声器を使ってЯ・E・Dは声を上げる。
 集まっているのは町に住まう多くの住民たちだ。
 その優れた弁舌能力に魅了されたように人々の歓声が響く。
 その手には色とりどりのリボンが握られている。
 それらもまたЯ・E・Dが製作にかかわったものだ。
 視線を人々からやや降ろせば、子供達の手にはЯ・E・Dが背を向ける人形と同じような形状の、けれど小さな人形が握られている。
 それらはЯ・E・Dが自身の持つ技術力を用いて大量に作り上げたものである。
「最終日まで楽しんでください!」
 改めてそう言ってЯ・E・Dが頭を下げると、人々から更なる歓声が響くのだった。

「大きな人形に願いを込めたリボンを括りつけて最終日に人形とリボンを燃やして天に送る……一種の願掛け、なのかな」
 町の中央にある人形を見て、『心優しきオニロ』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はこの人形の話を振り返る。
 視線の先では様々な人々が人形へとリボンを括り付けている。
 何となくそちらに視線を送ってみれば、あれは親子だろうか。
 母親らしき女性が先にリボンを括り付けて、次に彼女に抱き上げられて少年がリボンを括り付けている。
 その表情は穏やかで幸せそうだ。
 別の人に視線を送れば、そちらには少しばかり悲し気な女性が一人でリボンを括り付けている。
(今日は、そしてこれからも……少しずつでいいから、楽しめるようになるといいな。
 きっと楽しみや笑顔が、これからの力になるから)
 何を願ったのか、聞いてみようか。
 まだ祈り続けている様子の女性に近づいて、彼女の祈りが終わるまで待って聞いてみれば。
「私は……夫が安らかに眠れるようにと」
 そう言って女性が悲しそうに告げる。
 聞いてみれば傭兵連盟の攻撃で最初にクラスノグラードが陥落した時に出稼ぎに出ていた夫の遺体が確認されたという。
「ごめんなさい、聞いてしまって」
「いいえ。大丈夫です……今はまだ悲しいですが、この思いごと、夫の場所まで人形は連れて行ってくれると、そう信じてます」
 そう言って女性は願うように笑みを浮かべた。
「私達の願ったものですか?」
 続けて家族連れに聞いてみれば、不思議そうにした母親らしき女性は直ぐに愛おしそうに微笑んで、少年を抱き上げた。
「この子が今年一年無事に暮らせますようにと」
「ぼくは美味しいものがたくさん食べたい――って!」
「そうなんだ」
 ヨゾラは微笑みを絶やさず頷いた。
 この町の人々にとって、この祭りは基本的に毎年の物だろうから、本当に些細なお願いでもいいのだろう。
(ベロゴルスクの人達や傭兵連盟から解放された町や人々が多くの日を楽しんだり笑顔で過ごせるようになりますように。
 ……本当の意味で、『ニーズヘッグ』から解放されますように。僕も願望器志望の魔術紋として、叶えたいから)
 笑顔を浮かべるままにヨゾラは人形に改めて願いを語り掛けてから、星空の竪琴で即興の歌を披露していく。
 少し続けれていれば、いつの間にか人々が集まってきていた。

(ベロゴルスク…鉄帝にもこうした町があるのね。
 普段はひっそりしてる場所と資料にあったけれど……今日はお祭り騒ぎみたい。
 力こそ全て……みたいな印象を持ってたからなんだか新鮮だわ)
 その地を始めて踏みしめた『青鋭の刃』エルス・ティーネ(p3p007325)は中央に人形を眺めみる。
 その手には、町の入り口で配られたリボンが握られていた。
「冬送りの儀……ここのは確かあの大きな人形にこれを括り付け、最終日に人形と共に燃やすことで天に送る……か。
 人形を燃やすのはなんだか可哀想な気がするけれど……風習の違いかしら?」
 少しばかり首を傾げながら、親子らしき女性と少年が人形の方に歩いていくのを見送り。
(なんて、考えていても仕方ないわ。何にしてもリボンに願いを書いてみましょうか!)
 視線を降ろして、もう一度首を傾げる。
(と言っても願い……願い……正直願いは叶わないものだと思っているからこう言うのに書くのはいつも悩むのよね。
 誰かと……『あの方』と一緒にいたい……なんて願いも別に叶うなんて思えないし……
 まぁ、真面目に考えるものでは無いんでしょうけれどねっ)
 赤髪の傭兵を思い浮かべつつ、少しだけ首を振って思わず苦笑する。
(……ラサの皆が健やかで……私の領地で働く皆……地区長や子供達……皆が安心して暮らせる場所にしたい。
『あの世界』で叶えられなかった願いを……私はきっとこの地で夢見ているのかもしれない……なんて)
 細やかなけれど大切な願いである。
 悠久の命を持つ異界の始祖種は本当に細やかな願いをそっと括り付けて、人々の方を見た。
(少し感傷に浸ってしまったわね……『あの世界』にいた頃に比べたら何もかもが違ったから…。
 求めてもいいのかしら……もう一度、愛を求めても……いえ、ダメ。期待なんてもう何度裏切られた事か……諦めていた方がいい。
 だから受け入れられるの、何もかも……意地悪されていても、遊ばれていても……愛されなくても)
 この気持ちを彼らには分からないと、酷く乾いた気持ちを胸の奥に抑え込んだ。

「他にもいくつかリボンがあるみたいだから、ここでもいいよねっ」
 意外に大きい人形の足元へリボンを括り付けたのは『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)である。
 しっかりと括り付けたリボンは愛おしき彼との幸せを願って書いてある。
(……本当はシルフィナも連れてきたかったけど、なんか凄い疲れてるように見えたし、ゆっくり休んでもらおっと)
 傭兵連盟との戦いで部隊を任せた獣種の少女を思い浮かべつつ、立ち上がる。
「……この辺りも、ホント大変だったよねっ。……今だけでもゆっくりしたいところ、だねっ」
 うんうん、と頷きながら、振り返る。
(後は……鬼ごっこ? もあるんだよねっ。
 リリーも行ってみようかなっ!)
 もう一度だけ祈ってから、くるりと会場に向かって走り出す。

「ようやく今回の騒動の殆どが解決して!
 これで心置きなくお祭りを楽しめるー、のです、けども……
 やっぱり今になっておかしいような気がしてきたのですよ……!」
 愛銃を抱きながら『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)はふるると声を上げた。
 その姿は若干――いや、意外と露出の多めなシスター服。
「これが正装ってホントでして……?」
 ここにきて直ぐに疑問が頭をよぎった。
『ええ、もちろん。ほら、周りを見ても誰も変な目で見てこないでしょ?』
 その時はそんな風にさらっと告げられてしまったが――町の人々はルシアの方をちらりと見た後、自然な様子で視線をそらしている。
 その視線は不思議そうなものだったが、同時に納得して立ち去ったようにも見える。
「……本当に、正装でして……?」
 正装、と言う割にはイーリン以外にこの格好をしている者がいないような――いや。
 きっと、多分、きのせいなのでして!
 ふるふると自分の疑心を振り払い、ルシアは楽しむべく屋台の方へ走り出すのだった。

「美味しかったよ、ごちそうさま!」
 熊肉の串焼きを食べ終えた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は串をゴミ箱に捨てながら告げた。
「毎度あり」
 他にも森で取れた木の実や薬草、香草の類、動物や鳥の肉なんかの調理されたものが食べ物の類では多いか。
 そのままの流れで歩き続けてみればいつの間にか町の中央にたどり着いていた。
 思い出したようにポケットから取り出したのは1本のリボン。
(願いを込めたリボンか……ふむ、願うなら街の人々の幸福かな?)
 少しばかり考えてから頷けばさらさらと書き記して、そっと括り付ける。
(そうだ。もし伝統的に差し支えなければ、人形を燃やす時に少し……音楽を活用して盛り上げたいな。
 音楽は言葉に依らず、文化を越えて共に楽しめるものだ。気持ちを一つにしたり、願いを伝えたりするのを助けられると思う。
 楽器ならあるし、俺は『響音変転』で色々な音を出せる)
 思いついたことを町長に大丈夫か聞きに行けば、了承の言葉が返ってきた。
「町の民族的な音楽とかがあればぜひ教えてほしい! 合わせるよ!」
「それでしたら……」
 少しばかり考えた様子の町長はイズマに着いてくるように言って歩き出した。

「冬が去り、春が訪れる。生命の循環は美しい。
 埋葬者としても、行うことは多い……」
 祭りの喧騒から離れ、墓地へと足を運んでいたのは『葬送の剣と共に』リースヒース(p3p009207)である。
(さて……彼らが次の巡りに逝けるよう、此度のいくさの物語、そして活躍したさるシスターの勇姿について、語ろう。
 ニーズヘッグへの攻撃に臣従を選んだことに不満を抱いていただろう、先祖の魂も。
 これで浮かばれることだろう)
 事の顛末を語り聞かせながら、彼は思う。
(ニーズヘッグは『怒りや嘆き』を食べて成長する魔獣。
 ならば、死者の嘆きもニーズヘッグの糧となろう。静かな休息に付けるよう、死者たちには鎮魂の祈りを捧げる)
 静かに目を閉じて捧げる黙祷は死者への祈りである。
 それが終わってから、リースヒースは立ち上がった。
「そろそろ祭りにも顔を出して置こうか」
 くるりと踵を返して、町の方へ歩き出す。
 町へと戻ったリースヒースはある程度の場所でそっと腰を掛けた。
 詩人のように語り聞かせるは此度の戦の事。
 此度の顛末を語り、自分達が対峙した危険を語り、その末の勝利を語り聞かせる。
 結局、どんな苦難にあっても、人の世では意志強きものが勝利するのだと――。
 あるシスターの姿を浮かべ思うのだ。
(本当に意志の強い者だ。長い生で、あれほどの御仁は見たことがない。
 希望を、そして勇気を。私には、少しばかり、遠い言葉だが)
 語り聞かせ始めると、集まってくるのは小さな子供達が多い。
 外の事を知らない子供達は、リースヒースの言葉の1つ1つに目を輝かせている。
 その様子は興味深く――そして勝てたから見れたものなのだから。

●鬼教官(シスター)
「冬の終わりの祭り。祭を盛り上げるのは難しいようでいて、簡単。
 みんなが参加すればいい。それだけでもう、きっと楽しい」
 冬送りを終わらせたであろう人々の楽し気な声は、町の外に広がるこの森林地帯にまで聞こえてくる。
 それに『諦めない』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は頬を綻ばせる。
「勝って今までの災厄を、冬とともに送る。風流ね」
 そんなココロに同意するように『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が頷いた。
 その身体はこの町に来るならとシスター服に包まれている。
 イーリンやココロの他、ベロゴルスクに訪れた多くのイレギュラーズは、冬送りの儀の他にも催されている行事に出ようとする者が多い。
「そろそろ始まりかしらね」
 この町の住人――そのうちでも腕っぷしに自信があるという者達によって催される今回のもう一つの目玉行事。
 それがこの凍結森林地帯を舞台とした鬼ごっこである。
 敏捷性と極めて高い反射神経を武器にする獣種との、ちょっとしたお遊びである。
「おう、あんたも来たのか!」
 そう言ったのはイーリンが先だって率いた義勇兵の1人だ。
「えぇ――そろそろいいわよね?」
「……おう」
 にこやかに笑ったイーリンに、獣種の表情が強張り、ピリリとした緊張感が場を支配した。
「それじゃ、戦場を導いたシスターとして、責任取って鬼を始めるわ」
 ――刹那の開幕、紫苑に塗り潰すかのような一閃が振り払われた。
 集まった獣種の殆どはその奇襲に対して持ち前の反射神経で反応こそするが、紫苑の巨剣の振り払いに巻き込まれていく。
「お師匠様、御指南おねがいします!」
 射程外にいたココロはウルバニの剣を抜き払うや一気に打ちかかっていく。
 対するイーリンは穏やかなままに黒剣を鞘ごと構えて応対する。
「かかってきなさい、鬼ひとつ打ち負かせないでこの先どうするの?」
 分かりやすい挑発に対して、様子を窺うように遠巻きに見ていた獣種がピクリと動く。
(ココロもありがとう。あの戦場についてきてくれて――)
 務めて真剣に、けれど余裕は忘れず。
 内側には攻め立てる少女への感謝を。
 ココロのそれは、弛まぬ修練のままにある剣である。
 遠慮などするまい。それは隙にしかならないのだ。
 足を止めず、突き、払い、反撃のように伸びる剣に合わせて後ろへ。
(お師匠様と一緒に戦えて、嬉しく、そして安心していられました。
 これからもお側に置いてください――)
 ただ、その思いを剣に乗せる。
 それは幾度目かの応酬。
 緩やかなに余裕を見せて鋭い一撃を見舞う師の一瞬へ、ココロは踏み込んだ。
 両手で握りしめたウルバニの剣を重心事思いっきり薙ぎ払うように。
 当然のように合わせようとした相手に、ココロは剣を手放した。
 けれどそれすら読んでいたが如く師匠は合わせてくる。
 踏み込みを変えて、半歩踏みこんで身を沈めたままに打ち込んだただの拳が師匠を吹き飛ばす。
 受けた師匠が、誇らしげに笑っているのが見えた。
 一瞬の静寂を裂いて、人々の声が響く――けど。
 ――まだまだ、まだまだ。熱気が足りない。
「さぁ、皆さん、そこで立ち止まって何言い訳してるんですか?
 こちらには聞こえませんね。考えるのを止めて、行動しましょう!」
 首をかしげて、ほんの少しだけすっきりしたようにココロが笑いかければ、獣種達の咆哮が益々増えていく。
 それにあてられるようにココロは不思議と自分が笑っているのに気づいた。
「ラウンドツー。さあ、鬼を追っ払うのも鬼ごっこみたいなもんでしょ、私から鬼を奪ってみなさい!」
 吹っ飛ばされて木へ思いっきり叩きつけられたイーリンはそのままぴょんっと跳ね起きるや、キメるとばかりに髪を振り払い――ドゥ、とその頭を砲撃がぶち抜いた。
 直線を穿つは魔砲。唖然としているのはどちらかというと獣種達だった。
「たっぷり楽しかったのでして! ここからはルシアも参加するのでして!」
 楽しそうに笑いながらそういうルシアは、自分でも言っていた通り、屋台で楽しんだのかお土産を片手に愛銃を構えている。
 その銃口には、既に次の魔砲を充填し始めている。

「おーおー、やってますなぁ……さて。
 祭りと来れば参加しないのが無粋というもの。
 自分も参加するであります」
 ド派手にぶちまけられた紫苑の閃光を眺めみた『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は本のわずかにストレッチだけして、その喧騒に跳びこんでいく。
 会場内へ飛び込むや否や、参加を示すように彼らの前に躍り出れば、勢いよく獣種達が突っ込んでくる。
「猪のようでありますな……」
 感想を述べつつも、ほんの一瞬の足の踏み込みの深さを感じ取るや、身を屈めた。
 かなりの距離を、一気に跳びこんできたそいつをくるりと躱して身体を入れ替える。
「そういえば反撃もして良いのでありましたね。
 では遠慮なく。何せ元から徒手なので加減も自在でありますよ。
 ――なんて、うそであります。しんだらごめんな」
(まあ、したたかに戦役を生き延びた町であります。あまり心配はしていない)
 本音は告げず、けれど脅し文句を淡々と告げてみれば、殺気に気づいたように彼らが距離を取ろうと動き出す。
 逃げの一手――ではあるまい。
(なるほど、地の利はそちら、こっちを引き込みたいのでありますな)
「それだけで勝てると思われるのも心外であります」
 合わせるように、エッダは走り出した。
 木々の間を走り出す彼らを無為に追いかけるように思わせながら、その視線は鋭く先を読み続けている。
「「いったぁ!?!?」」
 数人の声が前から聞こえてくる。
 追いついたところで見れば、顎やら頭やらを抑える数人の獣種達。
「追い詰めたであります。
 ほら、かかってこい。まだまだ祭りは終わってないでありますよ」
(……指南と言うには烏滸がましいでありますが、一つ自分の防戦のやり方でも見て行って頂ければ、得る物の一つでもあればいいでありますなぁ)
 騎士(メイド)として、立ちふさがってみせれば、彼らの眼に闘志が揺らめいている。
 それを見て、この者達が要れば大丈夫だと、そう理解した。

(いくら獣種でも、これに反応し切れるかなっ)
 リリーは夜の帳の向こう側、木々の洞に隠れるようにしてじっとその時を待つ。
 それはかくれんぼをするようにじっと身を隠していた。
 ファミリアーの小型犬が追い立ててきた獣種は不意に姿を見せたリリーに思わず声を上げる。
 ブレーキを仕切れなかったそいつは跳躍すると木を足場に駆け上がり、そのままバク転して逃亡を図る。
「逃がさないよっ!」
 そこへ姿を見せたのはリョクである。
「うわっ!?」
 天から直下で降ってきた亜竜に獣種が驚いた声を上げた。

「鬼を倒した報酬として馬車一杯の飯をプレゼントよ。で、次は誰が鬼の役?」
 茶目っ気たっぷりなウインクに、一瞬たじろいだ獣種達は自らを奮い立たせるように起き上がる。
「や、やってやんよ! なぁ!」
「ちょっと声震えてるじゃない?」
 くすりと小さく笑って見せる。
「ルシアも鬼でして! 堂々と迎え撃つのでして!」
 銃口が陽の光に照らされて鈍い光を放っていた。
「今回の目的は勝つことじゃなくて楽しむことでして!
そういう訳なので!ルシアの魔砲の波を最初に超えた人が勝ちなのですよー!!」

(うーん、リリーが逃げる側、なら……)
 リリーは先程までとは反対の要領でこっそり姿を隠しながら思うのだ。
(反撃は止めといたほうがいいよねっ!)
 手加減しようにもちょっとばかり面倒な状態異常を与えるものが多いリリーでは下手すれば殺しかねないという理由だった。
「見つけた! 捕まえてやるぞ!」
「……おねがいっ!」
 走って近づいてくる獣種に、小型犬が不意に姿を見せて吼えれば、一瞬とはいえ意識がそちらに行く。
 その隙とばかりに、リリーはその場から離れるように走り出した。

●ベロゴルスクの冬送りⅡ
 時は流れ、ベロゴルスクでの最終日が訪れる。
 夕焼け空がやがて月の夜空に代わる頃、イズマの演奏が町の中に響いていた。
 この町の伝統的な民族楽曲らしき物を奏でるコンサートの中で、
 いよいよ人形に火が付けられようとしていた。
 その様子を見ていたЯ・E・Dが微笑する。
「楽しみですな」
「みんなに喜んでもらうためだからね。
 普段の祭りではできないような、なんかこうド派手なパフォーマンスが合っても良いと思うんだ」
 町長からの言葉に頷きながらЯ・E・Dはその時を待っていた。
 つけられた火が人形を焼き始める。
 仄かな熱がこちらまで感じ取れるようになった頃、Я・E・Dは仕掛けを起こした。
 直後、ヒュゥ、と音を立てて温かな光が天へと走り抜け、薄く、細くなって消えていく。
 かと思うと、それは流星群を思わせるような光の雨となって降り注ぎ始めた。
 春を告げる光の雨は、静かに降り注ぎ続ける。
 『決死行の立役者』ルチア・アフラニア(p3p006865)はその様子を見ながら、そっと祈りを捧げた。
 祈りは聖なる祈りが周囲を包み、鬼ごっこでの疲労感に包まれていた人々の身体をそっと癒していく。

●ユージヌイの宴Ⅰ
「ここがユージヌイってとこかぁ……うぅさんんっみ!
 覇竜は南の方にあるからよー寒さには慣れてねぇ!
 鉄帝に来る事増えてっし今度来る時は厚着でも用意すっかねぇ……」
 思わず震える『二花の栞』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)は雪原の中にたたずむ塀に囲まれた町を見渡してみた。
 夏が近づき、比較的過ごしやすくなってきたとはいえ、それでも故郷たる覇竜と比べればかなり寒い。
「っと、こっちの冬送りの儀は宴会か! 鉄帝の飯はどんなもんかねぇ……」
 視線の先に見るは宴会場。
 屋外にテーブルを広げ、多種多様な料理が並べられている。
 温かいものに限っては室内で作られているようだが、メインの会場は外らしい。
「お! 美味そうなもんあるじゃねぇか!
 いいぜーあったけぇ飯で身体も暖まるってもんよ!
 国によってこんなにも食文化が変わってくんのなぁー」
 暖かそうなスープに味付けの濃さが一目でわかる肉厚なステーキのような料理。
 視線を巡らせればそれ以外にも多くの料理が目に映る。
(土地に環境に文化…そんだけで覇竜とはまるで違う。
 まぁ覇竜の内部でも各集落で色々と風習はあったが……メンツも違うだけで変わってくる。
 こういうの、いいな……覇竜の外、もっと知りてぇぜ!)
 改めて触れた異文化に目を輝かせながら、受け取った料理を片手に催し物の方へと視線を向ける。
 その光景を横目に、ふと頭をよぎる幼馴染のこと。
 今頃どうしてんのかね、とか、どんな土産もんや土産話を持っていこうかとか
 らしくない――でもそれを悪くないと思う自分もいるのだから、不思議なものだ。

 赤い髪を揺らしながら、『煉獄の剣』朱華(p3p010458)はユージヌイの町の中をゆっくりと歩いていた。
 どんちゃん騒ぎになりつつある宴会場は聞いていたこれまでの経緯を吹き飛ばさんとばかりに明るい。
(この料理、肉厚なわりにすごく柔らかいわ。
 多分、長い時間煮込んでるのね、味が染み込んでて美味しいわ!)
「ノーザン・キングスの方まで足を延ばしたのは今回が初めてなのよね。
 せっかくだからこっちの独自の屋台料理も食べてみたいわね」
「なら、これなんかどうだい? この辺でしか見かけない種類の鳥で作った煮込み料理なんだけどね」
 考え込む朱華の声を聞きつけたのか、現地人らしき女性が声をかけてきた。
 差し出された山椒の振りかけられた鳥肉を葉野菜にくるんでそのままぱくりと食べてみれば、今度はさっぱりとした味が口の中に広がる。
「んんっ! すっごい美味し――ッ、くふっ、けふっ」
 ぺろりと食べ終えようとしたあたりで異様に山椒の量が多い部分に思わず咽てしまったのは仕方のない事だろう。
「美味しかったわ、ありがとう。
 あぁ、そうだ、少し聞いていいかしら?」
「なんだい?」
「折角だから食事以外にもこの町の事とか他の行事や遊びといったモノとか、
 色々と話したり聞いたりしてみたいわね。誰に聞くのが一番かしら?」
「それなら……やっぱり町長が一番だろうね、ほら、あっちの方にいる……」
 そう言って、彼女は会場の奥の方、模擬戦風のバトルが行なわれるという舞台の袖にいる男性を指さした。

(町2つだけではあるが良い交流を持つ所があってもいいと思うが、どうなるかな)
 商人としての仕事をするべく一度ベロゴルスクへと訪れていた『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は大量の手土産――もといベロゴルスクでの宴会料理を以って帰ってきていた。
(それにしても、一体どうやってニーズヘッグを相手するかと思いきや、祭とはな。
 ここで引導を渡せないのは不安が残るが、長く占領され疲弊した町と人々も放ってはおけない)
 既に宴が始まりつつあるのか、町の中では喧騒が聞こえてくる。
 顔を出したラダはそのまま少しばかり周囲を見た。
「イルザ、まだ潰れてないよな?」
「当然、このぐらいじゃ潰れないよ!」
 住人らしい人間種と酒を酌み交わしていたイルザへと声をかければ、そちらからきょとんとした様子で笑みが返ってくる。
「それじゃあ、すこしいいか?」
「もちろん、まずは乾杯だね! お疲れ様! 君、今までお仕事してたんでしょ?
 たっぷり食べなよ。せっかくだしね!」
 あっけらかんと笑って、まだ手を付けてないらしい料理を手渡される。
 空気を読んで住人らしい人間種が姿を消せば、ラダはそっとグラスをイルザへ。
「私は折角の縁だし、ユージヌイの支部は今後も人を置いて運営を続けようと思ってる。
 イルザはこれからどうするんだ?」
「んー……関わっちゃったからねえ、とりあえず、最後の一仕事まではここにいるかな。
 その後は……どうだろう? 考えてないけど、まぁ、鉄帝軍人にはならないかな」
 不思議そうに首を傾げたイルザがラダが手渡した酒に口をつけてから目を見開いた。
「これ、ラサ(うち)のだね?」
「あぁ、騒動直後、ラサの匂いがする物を表立っては持ち込みづらかった。
 だから2人でこっそり開けてしまおう」
「なるほどね。それなら仕方ない、楽しんじゃおうか」
 ラダが小声で言えば、にやりとイルザが笑う。
「そういえば、ヴィルトーチカはどこにいるか知ってるか?
 祭の本来の目的を伏せるのは分かったが、それは一度で足りるのかな。
 何年かかけるのなら、或いはそうでなくとも、彼女達にもこの祭に参加して欲しいと思ってね」
「祭り自体は今後、ずっと続くだろうけど、それは今回だけで大丈夫よ」
 どこから聞いていたのか、いつの間にか姿を見せたヴィルトーチカがそう言って笑う。
「私も1杯いいかしら?」
「あぁ、構わないさ。それより、今回だけで大丈夫って?」
「あら? 言い忘れてたかしら? この祭が終わったら、こっちからニーズヘッグを叩き起こすつもりだってこと」
「……そうなのか?」
「えぇ、じゃないといつまで経っても終わらないでしょう。
 何より貴方達(イレギュラーズ)がたくさんいる今の時代以上に終わらせるのに一番の好機はないと思うもの」
 くすりと静かに魔女は微笑んで、ラサの酒を真水の如くさらりと呑みほした。

「宴会と聞いては、逃すわけにはいきませんわよねっ! さあ、飲みましょう食べましょう!」
「ふふ! やっぱり宴会は賑やかでいいね! たくさん食べて、たくさん飲もう!」
「楽しいお祭りの始まりでございますわー! 乾杯かんぱーーーい!」
「ひゅー! かんぱーーーい!」
「……けふっ。このお酒、けっこう強いですわね。ぺこぺこのお腹に染み渡りますわー!」
 瓶ごといった『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はご機嫌の様子。
「もぅ!ヴァリューシャ!すきっ腹に強いお酒はあとで酷い目にあっちゃうよ?
 それにしても美味しそうな料理がたくさんだね……! ほら、これとかとってもいい香りだよ!」
 そんな様子を見て『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は楽しそうに笑って。
「本当に、いい香りですわね! 少しだけ、シェアしてもよろしくて?」
「ふふ! 勿論さ! 私もヴァリューシャの少し欲しい!」
「もちろんですわ! でしたら、こちらのお肉とそちらのお魚からにしましょうか」
 楽しい宴を命一杯と楽しむ2人は、やがて喧騒に気付いて顔を上げる。
「あら……よく見たらあっちで腕試しをしているみたいでしてよ! 折角ですし、参加してみましょう!」
「いいね! 私も軍人として負けられない! よし! 参加してみよう! 腕試しだ!」
「……と、その前に、少しだけいいかしら? 彼女に少し話を聞いてみたいですわ」
 ヴァレーリヤが不意に立ち止まったところで首を傾げれば、その視線の先に魔方陣を眺めるヴィルトーチカがいた。
「うん、分かった! 行ってみよう!」
「……あら? こんにちは」
「こんにちは。話を伺っても?」
「ええ、構わないわ。少しだけ場所を変えましょうか」
 少しばかり奥まで移動してから、くるりと振り返ってくる。
「この辺りであればいいでしょう。何をお話すればいいの?」
「ええ、あの魔獣に関する伝承について。魔獣を擁していたのはどんな人々で、どのような決着を迎えたのかしら?」
「元々、ニーズヘッグは『怒りや嘆きと言った悪感情を喰らう魔物』でしかなかった。
 魔物に敢えてそういう感情を食べて貰って、問題を解決する……みたいなことをしてる少数部族がいたの。
 肥大化した彼らの勢力はやがて国になり、この一帯で避けえぬ問題――食糧問題に直面するの」
「だから隣国へ攻撃した? その頃から、代わってないってことですわね」
 ヴァレーリヤの言葉にヴィルトーチカは曖昧に笑んだ。
「その後、反撃を受けて敗れたその小さな国の民は各地へ四散したらしいわ」
「ベルガ君はその小さな国の末裔だって言っていたよね?
 彼女の目的は何なんだろう……」
 飲み物を取ってきたらしいマリアの問いにヴィルトーチカは肩を竦める。
「さぁ? けれど、そうね……彼女がもし、本当に最後の一人になってしまったのなら
 ……どうでもよくなってるかもしれないわね?」
「どうでもよく……ですの?」
「――あるいは、彼女は先祖と同じことをしてようというのかもしれないわ」
「先祖と同じ……というのはどういうことですの?」
「自分の、もうどうしようもない怒りを全部食べてもらおう……なんて、ね?」
「魔種としての『憤怒』を食べてもらおうとしてるってコトかい!?」
「もしそうだとしたら……それは酷く独りよがりに他人を巻き込んだ『自殺』ともいえるわね。
 まぁ、これは私の勘でしかないけれど」
 それだけ言って『まだ何か聞きたいことは?』と視線を向ける魔女に2人は暫しの間、返事を出来なかった。

「……あっ、それ、運びます!」
 住人が運び出そうとしている食器とジョッキの山を見て、『拵え鋼』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)は元気よく走り寄る。
「ありがとう、それじゃあ、こっちをお願いできるかしら?」
 暫しの問答の後、頷いた年配の女性が指し示した同じような山を持ち上げる。
 町の様子は最初に来た時からは考えられないほどに明るい。
 人々の声は明るく、その影響下一帯全部が明るく感じられる。
 ある程度のお手伝いを終えた後、リュカシスは見知った顔の面々と遭遇した。
「警備隊の皆さん。
 耐え忍んだ時も、戦いの時も、ほんとうにお疲れ様でした!」
「俺達だけじゃあ、何もできなかった。アンタ達のおかげだよ」
「ユージヌイの春と解放の芽吹きに……乾杯ッ!」
「あぁ、ユージヌイの春と解放の芽吹きに」
 グラスがカチンと音を立てる。
 豪快に呷る彼らに合わせるようにノンアルコールを飲んでから、貰ってきた料理を口へ運んでいく。
 シンプルな干し肉や焼き肉、焼き魚の他、家庭料理のようなものの類が幾つも見える。
 しっかりと食べ、しっかりと飲んで、エネルギーを充填し終えれば、口元を拭ってからリュカシスは視線を上げる。
「食べ終わったら、折角ですし模擬戦もやりましょう!」
「おう!」
 眼を瞠った彼らが頷くのを見て、リュカシスも笑う。

「何があったかはよくわからんが酒と祭りの匂いがしたんで来たぞ!
 ほう! 冬送りの儀とな、冬から春への移り変わりを祝うとはますます良い!
 じゃんじゃん酒と肉をもってこい!」
 豪快に笑って料理を注文していたのは『悠遠の放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)である。
 ウィスキーだかウォッカだかガツンと来る度の強い酒を飲みほして、そのまま肉へと箸を入れる。
 濃い味付けに濃いソースをかけたステーキ類はなるほど肴としては抜群だ。
「全く祭りは酒と飯が旨いから放浪したついでに寄るのがやめられん!」
 そんな時だ、どこかから人々の歓声が聞こえてくる。
 たった今、誰かが空に舞った。恐らくは投げ飛ばされでもしたか。
「……お? 模擬戦でもしてるのか、腕試しだな?」
「ええ、この町の人達って腕試しが好きだから、ローレットの活躍知って一戦、ってのが多いのよ」
 視線を上げたバクルドの声が聞こえたらしき若い女性が応えてくれる。
「そりゃあいい。こういう興行は酒の肴になるってもんだ、どれ見物でもするか」
 腰を上げて、紙皿とコップに酒と肴を分けて何となく見に行ってみれば。
 何やら見たことのあるような気もするイレギュラーズが戦士風の男と向き合っている。
 喧騒はうるさく、けれどこの昂りが無ければ意味がない。
「よし! そこを左だ! いいぞ、いけぇ! やっちまえ!」
 ――そんな時だった。
「あんたもローレットだろ? どうだ、俺と一戦やってみてくれねえか?」
「ん? 俺はただ祭囃子に誘われただけで今回の戦いに……いや、祭りで見るだけは確かに無粋だな」
「武器とかってねえのか?」
「なぁにステゴロは滾るだろ?」
「間違いねぇ!」
 にやりと笑って、告げた男に会場へと案内されながら、もう一杯だけあおっておいた。

「ユージヌイの皆の力があって勝てたのよ! ありがとう!」
 町の人々や先の戦いで自分が率いた義勇兵の前で『不屈の白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)は安堵の笑みをこぼしながら笑っていた。
(ええ、本当に……ヴァルデマールを倒して各都市は解放されたわ。
 それは今まで活動してきたユージヌイも。皆の力で勝てたのよ! 一緒にお祝いよ。
 ……だから大丈夫、皆の笑顔があればニーズヘッグも怖くない)
 まだ残っているもう一つの大仕事。その前に、楽しんでおかなくては。
 そう考えるレイリーは、視線を大切な人にも向ける。
「ミーナのおかげでもあるわ。来てくれて嬉しかったわ」
「大袈裟だなレイリーは。私は何もやってねーよ」
 大したことはしてない――そう言いつつもどこか照れくさそうに『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)は笑う。
(ま、ほんの少し手伝っただけなんだがね私は。
 それでも……理由があれば、何度だって手伝ってやるよ)
 嬉しそうに笑ってそう告げたレイリーの視線の影にまだ終わっていないと光が見えている。
 故に――言葉に出すことはせず、ミーナは心のうちでそう思うのだ。
「にしても、今更冬送りってのも変な感覚だが、それが風習なら従うまで、だな」
「私達も今年はもうできないと思っていたのですよ?」
 ニーナの呟きにそういった町人は嬉しそうに笑っている。
 本来であればもっと前に――それこそ冬のうちにやるはずだった風習が今にもズレたらしい故に諦めていたとその町人は笑っている。
 その後も町人達との食事を楽しんでいた所でレイリーがそろそろかと立ち上がる。
「ミーナ、楽しそうなことしてるから、一緒に行こう!」
「おいおい、レイリー。お前酒飲んだとこ……あー、仕方ないな、付き合うか……」
 ちらりと視線を向ければ中途半端に開いた瓶が町人に回収されていく。

「なにやら事情があるとはいっても、祭りは祭りだ。精一杯楽しんでいこうじゃないか」
 剣を携える『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は宴会場の一部にて立つとすらりと剣を向いた。
「これより余興として、1つ舞を披露させてもらおう。シェヴァリエ家の、幻想騎士の剣舞をご覧あれ」
 質実剛健、民を守るという意志の籠められた堂々たる舞を踊りはシュヴァリエ家の結晶の一。
 シューヴェルトが修練をつづけた果てに到達した剣は鋭く、実戦的な舞に、それを眺めていた人々からも感嘆の息が漏れ聞こえる。

●腕を競い
「イレギュラーズの力を見たいんだって? そう言われちゃ受けないワケにはいかないね!」
 拳闘士だった頃を思い出すように『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は舞台へと上がった。
「俺はゲロルト、あんたの名前は?」
「オレはイグナート・エゴロヴィチ・レスキン! ゼシュテル鉄帝国の流儀ってヤツをお見せしようじゃないか!」
 拳を握り構えたイグナートに対して、ゲロルトと名乗った男は剣を握っていた。
「簡単には負けてやらねえぞ!」
 そういったゲロルトの剣が炎を帯びる。
「もっとたくさんでもいいケド……ほら、一発は殴らせてやる! オレに一発入れたらソレがゴングだよ!」
 挑発的に言って、咆哮の如き雄叫びを上げれば、それに弾かれるようにゲロルトが動き出した。
 一気に至近距離まで肉薄した剣士が炎を帯びた剣を振り下ろす。
 真っすぐな太刀筋に対して、イグナートは静かに拳を握り――斬撃がその身を撃つ刹那に反撃の拳を叩きつけた。
「ぐふっ!? ――っらぁっ!」
 耐えきったゲロルトがもう一度剣を振るえば、それを片手で握り、獰猛に笑って――反対の拳を思いっきり叩きつけた。
「良い太刀筋だね! これならオレもちょっとだけ本気出しても良さそうだ!」
 踏み込みと同時、拳に闘志を籠める。
 収束し、可視化した闘気は竜の如くうねりを上げた。
 そのまま強かに殴りつける。
 ゲロルトの剣が動き、防がんとするものの、みしりと音を立てて弾かれ、真っすぐに拳がゲロルトの鍛えられた腹部を貫いた。
「ぐっ……お見事!」
「まだまだだよね!」
「うむ……!」
 そう言って互いに笑って構える。

「僕も相手してみようじゃないか。幻想貴族騎士シューヴェルト・シェヴァリエ、参る!」
 シューヴェルトは細身の長剣を握った戦士と向かい合う。
「行くぞ!」
 跳びこむようにして走り出したままに己が身の足へと青白い呪いが集束していく。
 目に見える形まで変質した呪詛をもって、思いっきり飛び蹴りを叩き込む。
 盾に防がれ勢いの殺された辺りで、懐目掛けてもう一度蹴りを叩きつける。
「貴族騎士……なんだかよく分からんが、次はきっとの番だ!」
 そう叫ぶや、戦士が振り下ろした剣を、抜き放った愛刀で弾いて見せれば。
「さぁ、かかってこい! 何人でも相手してやる!」
 叫ぶシューヴェルトに応じるように、周囲に戦士たちが集まってくる。
「お次は剣舞と行こう」
 それは宴でも披露した剣技。
 鮮やかに美しき剣舞が会場に閃いた。

「折角やるのですから賞品の獲得を目指しますか」
 愛剣を静かに構えれば、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は真っすぐに前を見た。
 視線の先にいるのは同じように剣を構える武人。
「――手加減は不要、多少の怪我はお互い仕方ありません」
「それで構わない――参る!」
 ほぼ同時、互いに肉薄していく。
(とはいえ、派手な技などこれぐらいですね――)
 呼吸を整え、敵を見据えながら剣を構えていく。
 それは城をも穿つ大いなる剣。
 踏み込んで薙ぎ払わんと向かう敵の剣が、僅かに動きを止める。
 それは恐らくは警戒だったが――致命的な隙にしかならない。
 振り上げるような斬撃は美しい軌跡を描いて武人の握るクレイモアを中ほどから断ち割った。
「なっ!?!?」
 一瞬の静寂、直後のざわめき。
 眼を見開く男はそれでも剣を手放しはせず、鈍器代わりに殴りつけてきた。
 観客たちの声が響く中、オリーブは更に前へ向かっていく。

「私の名はレイリー=シュタイン! 誰でもいいからかかってらっしゃい!」
 会場へ踊りこんだのはレイリーだ。
 突如の乱入、だれも文句は言わないどころか、新規参加者だとばかりに会場の戦士たちの眼が輝く。
「こんなものなの? こっちからいくわよ!」
 雄叫びを上げて突っ込んできた戦士たちや、遠くから魔弾を叩き込むドルイド、それらの攻撃を全て受け切るや、レイリーは盾を大きく構えた。
 そのまま、一気に前向かって突撃を交わす。
 白竜が咆哮を上げるが如き突撃を以って一番近くの戦士へと槍を叩きつけた。
「……もう酔ってんのかあいつ?」
 凄まじい勢いで突っ込んでったレイリーに軽く頭痛を覚えながらもミーナもまた会場へ乗り込んでいく。
 その姿に気づいたらしき戦士がこちらに剣を構えてくる。
「悪いが、私は手加減できるほど器用じゃないぜ? 死にたくないなら……近寄らないのをオススメするぞ!」
 剣と鎌、特徴的な二刀流を構えたミーナに警戒を示す戦士たちの中から、1人が槍を手に突っ込んでくる。
 合わせるように剣でそれを受け止めれば、そのまま肉薄、刃先に籠めた魔力で思いっきり横に薙いだ。
 2人はそれぞれにある程度の戦士たちを相手にしていたが――その様子を横目にレイリーは仄かに笑うと。
「さぁ、私を倒せるものはいるかしら?」
 一番近くにいた兵士を思いっきり押し返してから、ミーナへと手招きを見せる。
「お前……最初からこれが目的だったな?」
 挑戦的な笑みを浮かべて構えたレイリーへ、ミーナはため息を吐いた。
「死なないぐらいで本気出してよ。負けたら何でも言うこと聞くから」
「死なない程度にってのは、難しい話だが……なんてな。
 冗談はさておき、やるってんなら、やるぜ!」
「――イレギュラーズ同士の戦い、みんな楽しんでいってね」
 ここまでは観客へのアピール。
 ――ここからは貴女とのデートだから。
 雷の如き速度で爆ぜたレイリーの突撃へ、返すように笑ったミーナは鮮やかなステップでそれを躱してみせる。
「精々……闇の、奥に潜むモノに喰われないように、な!」
「貴女の攻撃も闇も全て受け止めて愛しつくして
 最愛の人とのデート(バトル)、絶対最後まで倒れずに楽しむから」
 黒く、紅く、白く互いを塗り潰しあうようにぶつかり合う。
 周囲の音など最早聞こえない。

「やっぱすげえや……」
「イレギュラーズ同士の戦い……流石に派手になりますね……」
 唖然とそれを見る観客の声を聞きながら、戦いを終えたオリーブはそんなことを呟いていた。
 その手には腹ごしらえの肉と酒がある。
(これが終わったら誰かと話に行ってみますか)
 濃厚なソースの絡んだ肉は絶品で、微かに残る疲労感を打ち消すにあまりある。

●ユージヌイの宴Ⅱ
「ニルさんは、どうして食事をするのですか?」
 始まった宴をぼんやりと眺めていた『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)は、その中に同胞――秘宝種の姿を見た。
 ハインには『食事をする』機能が備わっていない。
 だからこそ、不思議だった。もちろん、秘宝種でも嗜好として食事や睡眠を楽しむ個体は存在することは分かってる。
 それでも――なぜか、その瞬間、ハインには不思議でならなかった。
 それはきっと、目の前にいる青髪の同胞の食事(それ)に、何か別の意味があるように――そう見えたからだ。

 対する『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)は、淡々と述べられた問いかけに不思議そうに目を瞠った。
「そうですね」
 一瞬の間こそあくものの、ニルとて分かっている。
「ニルとハイン様は、おんなじ秘宝種で。
 おんなじように、食べなくても、眠らなくてもよくて……」
 それは同胞だから、分かっていることだった。
「……ニルは『おいしい』というのがわかりません。何を食べても、変わりありません」
 ハインの問いかけは理解できる。同じ秘宝種だからこそ。
「でも……ごはんは、ごはんのある場所は、ごはんを作るひとは、ごはんを食べるひとは、あったかいです。
 おいしいものを食べているひとは、みんなにこにこ、わいわいしてます。
 おいしいものをくれるひとは、ニルが食べるのを見てうれしそうにしてくれます。
 そうするとニルはうれしくなって、こころがぽかぽかします」
 いつの間にか、眼を閉じていた。
 思い起こす人々の笑顔に、そして、そっと目を開いて広がる人々の笑顔に。
 そっと胸を抑えるようにして、ニルは答えを述べる。
 難しいことは分からなくて――何のために、とかもわからない。
「でも心がぽかぽかするから、だからニルはごはんを食べるの、すきです。
 誰かと一緒に食べるのがすきです」
 自然と頬を綻ばせて微笑みに変えてそう言えば。
「……したいなって思うこと、やってうれしいことはしたほうがいいと思うのです。
 ニルはハイン様とも食べれたら、とってもとってもうれしいです。春をお迎えする宴ですもの」
 その笑みをハインにも届けるように、ニルはハインを見て、そっと手を差し伸べる。

 告げられた言葉に、ハインは目を瞠っていた。
(ボクは、戦うために設計された存在です。それ故に、戦いがボクの本質です)
 改めて、周囲の人々の姿が視界に入る。そこにいる人々は、笑顔に満ちている。
 解放感と喜びと、おいしいを楽しんでいる笑顔に満ちている。
 ――それはフロイント ハインという個体とは本日からして違うもの。
(多くの人々は違います。この平和な一時にこそ皆さんの本質があります。
 ニルさんが『おいしい』と呼ぶそれは、ボク達には決して手に入らないモノだから)
 それは、羨望だった。愛おしいと――どうやらボクは思っていたのだと、ニルの眼を見てハインは自覚した。
 差し伸べられた手を取って、ニルが食べていたものを1口だけ切り分けてもらう。
「ん……ボクも『おいしい』は、わからないです」
 何かが舌の上に乗って、味があるのだと分かって――でも結局それだけで。
 それでも――不思議と穏やかで、満たされていた。
(これがボク達なりの、『おいしい』なのかもしれません)
 別にもう一品頼みながら、ハインはそんなことを思い浮かべるのだった。

 リュカシスは模擬戦の終了後、警備隊の1人の声をかけていた。
「ボクの命はパンドラがある分、あなたのものよりずっと軽いよ。
 ボクは、あなたにはあなたの命を自分の為に使ってほしい、と思う。
 ……でも、その上で、あなたが着いてきてくださるのなら、こんなに心強い事はないや。
 マリウスサン。えっと、マリー! それでも良ければ、力になってくれますか」
 彼が自分に着いてきてくれると、そう言った時のことを思い出しながらの問いかけに、男――マリウスが静かに手を伸ばしてきた。
「もちろんです。例え貴方にパンドラがあろうとなかろうと、それでも、受けたご恩は変わらないのですから。
 こちらこそ、どうかよろしくお願いします」
 真っすぐに偉丈夫が言うのを、リュカシスは今度こそ肯定した。

●遺されたるは紅の城
 その町に訪れて最初に目につくのはやはり美しき赤の城壁であろう。
 その次に目が行くのは、やはり巨大な門であろう。
 そこにあるべき城門は、今なお再度の設計中である。
 一歩でも足を踏み込めば、その町は鉄帝軍の監視、鎮撫の最中であった。

(傭兵連盟『ニーズヘッグ』の首魁、敵将ヴァルデマールは戦死した……
 それは良い、として。残るピースはニーズヘッグそのものと……行方を晦ましたままのベルガという魔種が居る。
 ヴァルデマールのニーズヘッグに関する知識は彼女の差し金で間違いないとして、反転も恐らくは同様なのでしょうね)
 街道と思しき場所を歩きながら『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は考えている。
(ニーズヘッグの解放を真に狙っていたのはベルガであり、ヴァルデマールは目的にこそ共通するところがあったが故の動きだったけれど、
 大局的に見れば走狗に過ぎなかった……か。さて、ベルガはどう動くものか)
 町を歩いてみると、遠巻きにこちらを監視するような視線がいくつか存在しているのを感じ取る。
「残党がいるようですね。攻撃してこないのであれば手出しはしませんが……」
 ふと溜息を漏らす。不躾に見られることに露骨に反応するつもりもないが、面倒だという気持ちが擡げるのも仕方あるまい。
(これは早々に調べて退散した方がよさそうですね)
 アリシスは歩みを進め、鉄帝軍が接収したという建物の中へ。
(ここですか……ふむ、あちらの壺は何らかのものを集積する魔術具の一種のようですね……)
「あの、申し訳ありませんが、これらの物品が当時どこに合ったかは分かりますか?」
 幾つかの物を眺めみた後、アリシスは衛兵へ問うた。
「こちらに乗っております」
 案内された場所に張り出された配置図へ、視線を真っすぐに。
(これは……)
 やがて、その双眸が少しずつ開かれていく。

(これまで報告を見るとニーズヘッグのそのメカニズムが大変興味深い。
 その名の語源は『怒りに燃えてうずくまる者』――怒り等の負の感情を喰らう奴には相応しい名前だ。
 だからこそ、奴を消し去る為に行われるこの祭りにも頷けるってものさ)
 町に足を踏み入れた『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)はこれまでの戦いの報告書を見ながら頷いて見せる。
 町の中を忍び足と気配遮断で息を殺しながら、その一方で辺りの様子を地図に書き記していく。
 やがて表通りを抜け、裏路地に入り、さらに進んでいた――その時だ。
「おいあんた、そこで何してる? 外から来た連中が表で何か調査してるみたいだが、ここまで来て何の用だ?」
 そう言われて振り返れば、そこには傭兵風の男。
 すらりと剣を抜いて臨戦態勢になった男へ、ジェイクは一気に跳びこんだ。
 驚いた様子を見せる男へ、身を屈めて吶喊、そのまま銃の持ち手で鳩尾を殴りつけた。
 口から声を漏らして倒れこんだ男を見下ろして一つ息を吐く。
「今日はお祭りなんだよ、こんな日に殺しはしたくない」
 男を地面に寝かせながら、視線を奥へ。嫌な予感がして、ジェイクはそちらへと歩みを進めた。

「お祭りね、楽しそう。あちらは凄く賑やかね。皆笑っている」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)はここに来る前に少しばかり訪れていた別の2箇所の事を思い起こす。
(喧嘩もちょっとはあるかもしれないけれど、それでも本気で殺し合うなんてないのでしょうから、些細なことよね)
 力で語り合う彼らなら、その喧嘩さえも日常だろう、とそんなことを考えつつ、フルールは辿り着いた町の様子を眺めていた。
(何だか気になるのよね。何か明確なものがあるわけではないのだけど。戦の残り香というのかしら? 敵も味方も、命がたくさん燃えた場所。
 どこか悲しくて、寂しくて、仄暗い雰囲気に呑まれているような。そんな気持ちになって落ち着かない)
 何をするでもなく、比較的ゆっくりと辺りを見て回りながらフルールは感じ取るものに寄り添っていた。
「こんなに大きな町なら、すべてをくまなく探すなんて短時間では不可能でしょう。それこそ、年単位の時間が必要になってくるでしょうね。
 古い土地という話だから改築増築は当たり前に行われてきたでしょうし、その際に隠し部屋とか隠し通路を作ってもおかしくはない」
 その上、傭兵連盟には全くもって土地勘を持たないこちらと違い、数ヶ月とは言え根拠地を置いた分だけ土地勘がある筈。
(より長い間ここに住んでいた人に話を聞けばどうとでもなるのでしょうけど)
 フルールがのんびりとしているのには理由がある。
 今なおちらちらとこちらを見てくる視線を感じ取るも、それらの警戒心をフルールは気にしない。
(無為に命を散らす必要もないでしょう。投降するなら、私は彼らを助けてあげたい。捕まったとしても、命を奪われることがないようにしたい。
 そして、罪を償ったら、頑張って生き抜いて欲しい。生ぬるいと言われようと、それが私)
 自らの周囲を揺蕩う精霊たちもそれに応じてくれているような気がした。

 旅の者だと自らを偽り、『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は町の中を散策していた。
(さて、この辺りには……)
 辺りを散策する一方で、その視線は一帯の霊魂を探し求めていた。
 もしもこの地に古くからいる霊があれば、傭兵連盟がここで何をしたのかを見ていた者もいるかもしれないという判断だ。
「占領者が動かした古いものはないか? あればそれがどこへ動かされたか知っているか?」
 アーマデルの問いかけに対して、霊魂は反応を示さない――というより、そんなものはない、とでも言うように見える。
(壁画に描かれていたのはどの街なのだろう。ここだろうか、それとも別の?
 ここであればかつて術式を展開した、その礎、焦点……基礎。
 そのようなものを置いた痕跡が遺されて、或いは形を変えて伝わっているかもしれないな……)
「さぁ……聞いたことはありませんね。たしかに、この町が今の名前になる前……鉄帝国がこの城塞を築くよりも前にもここに町はあったらしいですけれど」
 アーマデルの問いかけに対して、町人は首を傾げる。
 鉄帝国以前の歴史を紐解かなくてはならない。それだけは確かなようだ。それに重要な発言もあった。
(この城塞を築くよりも前に、此処に町があった……だとすれば、かつての町の基礎は、既に土の中である可能性が高い……だが)
(春霊祭か……元々伝統あるお祭りみたいだけど、来年からは戦勝記念の意味も込められるかもしれないね。
 これも歴史かな。学者の端くれとしてはこの地方の文化を学術的に記録しておきたいけれど……今は他にやることがあるからね)
 町の中を歩く『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は人へと聞き込みをしていた。
「傭兵連盟はこの町で何をしていたんだ?」
「何をと言われてもねぇ……ああ! でも、最初の頃、ずっと町の中を散策して回ってたよ。
 最初は出会い頭に追剥にでも会うんじゃないかってみんな戦々恐々としてたけどね、どうにもそんなつもりはなかったみたいだよ」
「町の中を、散策? 本当に何もされなかったのかい?」
「うん、誰も何もされてないよ」
「ふむ……この町の歴史が分かるような場所や史料を保存している場所はだろうか?」
「ああ、あるけど……ご案内しようか?」
「ああ、頼めるかな」
 町人に案内されて辿り着いた場所は図書館のような場所だった。
 司書らしき人物から大隊の場所を聞いたあと、資料を探しだせば、直ぐに歴史書は手に取ることができた。
(これは……この町がまだ前線基地であった頃の話だね。
 ということは、これより古いものが必要だ……)
 手に取った資料は、町の創設にかかわるものだったが、それはあくまで鉄帝国にとっての城塞創設にかかわるものでしかなかった。
 しかし、いくら調べても『それ以前』は出てこない。
(……史料、として扱われていないという可能性もあるか)
 考えつつ、ひとまず引っこ抜いてきた史料は史料で横に置いておく。
 実のところ、ゼフィラとアーマデルの2人は同じ推論を立てている。
 即ち、遥かなる大古、先史時代のニーズヘッグとの戦いが繰り広げられた場所は、この町――あるいは前身にあたる町なのではないか、と。
 実際、その推測は道理が通ってもいる。
 ノーザンキングス連合王国からクラスノグラード、そしてチェルノムス遺跡まではほぼ直線で結べる位置にある。
 言い方を変えればそれは『最短ルートで遺跡まで到達した』ともとれる。
 故に、ゼフィラは『クラスノグラードを落としたのは少なくとも戦略的な意味だけではない』との推論を立て、アーマデルはその痕跡が遺されているのではないかと考えたのである。

成否

成功

MVP

黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風

状態異常

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)[重傷]
鏡花の癒し

あとがき

MVPはゼフィラさんへ。
お待たせしましたイレギュラーズ。
凄まじく描写量の多いイベシナのようなかたちとなりましたね。
最終決戦、魔獣との戦いまで、暫しの休息でした。
次回が最終決戦となります。
そう長くはお時間を頂くことはないでしょう。
お楽しみに(?)

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