シナリオ詳細
玉髄に集う
オープニング
●『玉髄の路』
これはフリアノンの”仙人”たる『梅家』が記録した話である。
玉髄の路と呼ばれたその場所には『2』対の獣が居た。
天と地をそれぞれの位置で見詰めているその獣は互いの対と1つで2つであったそうだ。
4匹はその渓谷を決まった位置で守護している。
太陽に程近い渓谷の入り口に佇み天を眺めるもの、地を見据えるもの。
日の光も届かぬ渓谷の出口に佇み天を眺めるもの、地を見据えるもの。
その獣の名はシャームロック。
天を眺めるものは立ち上がり、空に焦がれるように常に見守り続けた。
地を見据えるものは腰を据え、その大地を汚される無きよう願い続けた。
未だ幼い対たる獣を愛するシャームロックはこの地を『脅威』より救ったイレギュラーズとの友誼を結んだという。
その眸は玉髄。
美しく、視る者によって色彩を変えると言われている。
故にこの渓谷は玉髄の路と呼ばれていた。
――巨竜フリアノンの尾に沿って、流れる川の潺と共に広がった渓谷はラサと覇竜を繋ぐ重要な『道』となるだろう。
●交易拠点
「此処を拠点とします!」
堂々と告げた『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)はこの地を護る為に『蛇石竜』ラードーンを撃退したイレギュラーズの為にと救急箱を片手に携えていた。
渓谷は上空から飛来するワイバーン等の亜竜の脅威を出来る限り避けることが出来、ラサとの交易の為の道として利用しやすい印象を受ける。
と、言えどもラサとの交易は『フリアノン』と『その周辺集落』に限る話ではある。
玉髄の路とて安全とは言い切れず、中間拠点をこの地に設営したとて亜竜や其れに類するモンスターの襲撃を全て防ぎきる事は出来ない。
「今後はこの道を通じての訪れるラサの商人さんの護衛もあるかもしれないわね。
……と、言っても里まで直接来て貰うわけには行かないから、此処を商売拠点にすることになるのだけれど」
『外』を今まで知らずに生活してきた亜竜種達の中ではイレギュラーズの存在も受け入れていない者も居る。
商人達を大勢里に受け入れてしまえば、里の内部でも反発が起きる可能性があるからだ。
一先ずはこの地を中心とした交易を開始する為の拠点設営などを行うべきだろうというのが琉珂の案である。
「――で! 難しい話は此処まで!
皆で頑張って頑張ってラードーンを斥けたんだから、拠点を整備しつつパーティーしましょうよ。シャームロックたちのお世話もしたいしね!」
この地で行うのはちょっとした祝勝会兼拠点整備である。
ラードーンとの戦いで破損した部位をしっかりと整え簡易的な宿泊所なども用意しておきたいと琉珂は言う。
ある程度の物資は此れまでイレギュラーズが運び込んだものがあるために心配は無さそうだ。
同様に、この地を拠点としてフリアノンやラサの商人達にアピールするために祝勝会とお披露目会を行いたいのだと言う。
「お食事とかは私が用意すると、ほら、芋虫とか……食べれそうな亜竜とか用意しちゃうから……ね、あの……」
ぐううと腹を鳴らした琉珂は「良ければ、皆で持ち寄って……」とごにょごにょと声を潜めた。
「あ、あとね、皆で助けたシャームロックなんだけど……。
元凶のラードーンを倒したから石化が解けた大人のシャームロックは風化してたこともあって肉体に傷があるみたいなの。
その怪我の治療をしてあげたいことと、幼獣シャームロックのお世話も出来るだけして上げたいなあと思って。
何方もイレギュラーズには好意的だから!
大人のシャームロックはまだまだ動けなさそうだけれど、幼獣シャームロックの遊び相手にもなって上げると良いかもっ」
痩せてしまった幼獣シャームロックは少しばかり元気を取り戻し腹を空かせて琉珂の揺れた尾をばしばしと叩いてくるそうだ。
イレギュラーズに懐いてしまったのだろうが、この地の守護者であるシャームロックに好かれることは悪いことでは無い。
「空は遠くて、明かりは少ないけれど、松明を灯せば問題は無いわ。
定期的に見回りをして、此処をしっかりと拠点とすれば覇竜領域(クニ)に新しい文化が入り込むはず。
美味しいご飯とか、食べれるかもだしっ! 今まではあまり外に出られなかった同胞達も外に冒険に出られるかもっ!
そうなったのはアナタ達のお陰よ。だから、アナタさえよければ私の案に乗ってくれないかしら?」
一緒にこの場所を盛り立てようと笑った琉珂の尾を幼いシャームロックは遠慮無くばちんと叩いた。
「痛いッ!!!」
- 玉髄に集う完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年06月13日 23時10分
- 参加人数49/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 49 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(49人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
玉髄の路――
その地に纏わる伝承が新たな幕開けをする事になったのは、覇竜領域では『本来は観測されていなかった彼等』のお陰であった。
可能性(パンドラ)の蓄積が亜竜種を仲間とし、手を取り合う機会を与えたことにより遙々ラサとの道を続けることが出来るようになったのだ。
此処を拠点とすると宣言した琉珂に応えるようにスースァは更に拠点の整備を行おうかと腰を上げる。
「獣除けとかの設置手伝うよ、柵とかかな。獣の嫌いなニオイの植物とかって手もあるけど、あったっけね?
まぁ獣は無理でも、虫よけの植物くらいは用意できるかもしれん。拠点あたりにあると助かるんじゃないか?」
「凄いわ、スースァさん! その通りだと思う」
里長、改め拠点整備の依頼人である琉珂が眸をきらきらと輝かせればスースァはふ、と吹き出した。
「まあ、出来ることならしないとね。少し散策して地形を確認して護衛依頼にも備えて置こうか。
前まではゆっくり見られなかったし、新しい気づきもあるかも……横道とか、食えそうな植物とか、単純に獣のいそうな穴とか。
大変なのはこれからもだけど、やっぱ思う。けど――シャームロックたちと、ここ。守れてよかったな」
スースァと同じように土地の整備に獣除け、物資の貯蔵へと忙しなく活動をするアンバーは少し楽しくなってきたと小さく笑みを零した。
こうした裏方も遣ってみれば楽しいものだ。この後に祝勝会で料理を鱈腹食べて未来について語るのも良いだろう。
「この地も遂に拠点として利用できるようになりましたか……障害も解決されてなによりです。
前里長の掲げていた目標の一つ……生活圏の拡大にまた一歩進みましたね。
フリアノンの発展……ドラゴニアの一人として誠心誠意努めさせていただきますとも」
アンバーが頷けば「有り難う」と琉珂がその手を握りぶんぶんと振り回す。相変わらずの現里長だ。
くすくすと笑った紫琳は「いよいよですね」と頷いた。
「私は最初に少しお手伝いしただけですが感慨深いです。
里にいるここに来られない方々も、外の世界から入ってくる書物が増えればより多くのものを得ることができるようになりますね。
書物の管理の仕事は忙しくなってしまうでしょうが、それも楽しみです」
「ええ。紫琳さんの好きな書物が沢山増えると良いわね!」
「そうですね。ああ、それと……これからより多くの方に来ていただいて活発な交易を行っていただくためにも、丁重におもてなししなくては。
そのために外の世界で給仕を行う方々の制服も用意したことですし。……琉珂様も着てみますか? 着てみましょう。琉珂様の分も用意してありますので。さあ!」
「えっ! あ、此れを着るのが『外』のおもてなしなのね!? わ、分かったわ!」
紫琳のお勧めでメイド服を着用した琉珂は「これでいいのかしら……」と困惑していた。
「姫様、見聞を広げてんなあ」
揶揄うように笑った雪華に琉珂は「似合っているなら良いけど」と頬を膨らませた。
「まあまあ。芋虫だなんだもイケるが、見聞が広まるのはいいことだぜ。色んな料理、特にこの辺りじゃ縁遠い海産物の類でもピックしてくかね。
その前に、拠点整備だ。また作り直し、やんなるがそれもまた良し。
作っちゃ直してそれだけ騒げる理由が出来る。変化できることの楽しさだもんな、これも」
そう笑った雪華に芋虫、と渋い顔をしたのは朱華であった。
「あのね、琉珂……祝いの席で流石に芋虫やらはちょっとないと思うわ。
分からなくはないんだけど、今後はちょっと料理の勉強もした方が良いんじゃないかしら?」
「うぐ、お、教えてくれる……?」
呆れる朱華は頷きながら何もはともあれここまでお疲れ様よ」と微笑みかけた。
「これでまた少し覇竜領域(クニ)が未来へ向けて一歩を踏み出せるのね。琉珂と同じ思いを抱く者の一人として本当に嬉しく思うわ!」
「有り難うっ」
里が開かれる。それが見聞を広げて行くという事だ。
「――さて、と。朱華は整備の手伝いに行ってくるわ。ラードーン……だったかしら。そいつに色々と壊されちゃったんでしょ?
今迄この件に協力出来なかったし、せめてこの位は手伝わせて頂戴ね」
――右も左もわからぬ小娘の私が活動できたのも、ラサの御方々の助力あってのこと。
ついては、是非とも一度御足労頂いて、その成果の程をご覧頂きたい。
この拠点を整備する際にラサの商人達に助力を乞うたレーカは護衛を担い、この地まで商人を誘うことと決めていた。
「あの時は随分な啖呵を切って済まなかった。しかし、それに見合うだけの成果は得られたと確信している」
拠点整備の話、シャームロックの話、ラードーンとの戦いの話を上人に語るレーカの傍でドラゴニアであろうとも玉髄の路は『御伽噺』の一つとしか聞いたことのなかった水愛は「すごいねー」と周囲を見回す。
「護衛してた時のレーカちゃんもしっかりして強そうだったし置いていかれちゃってるなぁ」
「……そうか?」
「うん、でもレーカちゃん頑張ったんだね」
屹度、水愛がレーカの話を聞きたがっていることは商人達にもレーカ本人にもバレているだろう。
「秋霖の家のものとしてこの話は是非伝えていきたいんだ、任せてよ」
にんまりと笑った水愛を傍から眺めているのは水弥だ。あくまでも水愛にはばれないように眺めているだけではある。
(……姉さんは変わらないな……)
自分がいなくとも、何不自由なく変わらない様子の水愛が水弥は幾許か複雑な心境に陥るのであった。
「拠点の整備か。悪くないな。交易なんかも盛んになればもっとこの辺りも栄えるだろう」
重いものの運搬や道の整備などの重労働を行う天川はふう、と息を吐いた。営業や情報収集も必要不可欠だ。
「おっさんにゃ堪える仕事だが、いい鍛錬になるな。戦闘には使わない筋肉が鍛えられるってもんだな。
……人脈も広がる。俺の仕事はともかく、再現性東京にも利益が出ることも考えられるしな」
ラサの商人達を招待し、深緑出のことよりも明るい話題を提供したいとラダは微笑んだ。
コネクションを用いて幅広く声を掛ければ、彼女と懇意にしていたファレンも協力してくれたのだろう。
竜種の影響もあり覇竜への嫌悪や恐怖を抱いていた商人達も試しにとこの地までイレギュラーズの護衛がある事を条件に遣ってきてくれたのだ。
「これからは護衛を付けて行動すれば良いと思う。勿論、不安ならばローレットに依頼してくれれば良い」
そう声を掛けて、定期的な交流市を行えるまで発展することを望んだ。
「どれ、私も少し商売させてもらおうかな。この前は獣骨の細工物を見たけれど、今回は織物とか見て見たいな――ああ、この敷物と交換できるだろうか?」
亜竜種達との交易はラダにとっても重要な商いの一つとなるだろう。
●
「あー、疲れた。流石に休みてえ……」
あれだけ必死こいて働いたんだとルカはどかりと座り込んでからひらひらと手を振った。
「琉珂は元気だな。お前サンも戦ってたのに大したもんだ。……つっても働かざる者食うべからずとも言うしな。
腹も減ってるし飯は遠慮なく喰いてえから飯の材料でも調達してくるか」
「ご飯ね! あ、でも、私じゃ変な物を選ぶかも」
ごにょごにょと呟いた琉珂にルカはふ、と笑みを零す。芋虫と言い出したことには驚いたが――自然豊かなのだ仕方ない面もあるのかも知れない。
「アレだな。カレー粉持ってくりゃ良かったな。食ったことあるかカレー?」
「カレー?」
「練達に美味いカレー作る喫茶店あんだよ。ラサとの販路も繋がって落ち着いたら案内してやるよ」
本当に、と身を乗り出した琉珂の頭をわしゃわしゃと撫でてから約束だとルカは笑った。
「しかしお前さんもその若さで里長とは大変だな。
俺も親父がどっか行きやがって、母親は物心ついた時からいねえもんだから傭兵団の団長代理なんて任されてる……だからちったぁお前の気持ちがわかるぜ」
「ルカさんも大変だったのね?」
「まあな。こうやって里のやつらがいねえ時ぐらいは気ぃ抜いても良いんだぜ。
俺の事をアニキだと思って甘えたって構わねえぜ。俺もお前みたいな妹なら大歓迎だしな!」
わしゃわしゃと頭を撫でるルカに琉珂は「十分甘やかして貰っているわ」とくすくすと笑ったのだった。
「覇竜の商人とイレギュラーズが交渉するってんなら、橋渡しがいた方がいいだろう。
お前ら幸せだぜ。なんせ俺様がいるからな。特異運命点かつ、覇竜の民だ。
お互いの文化のすれ違い、あるいは誤解が起きないよう、基本的には横で見遣って、必要な時は仲立ちに入ることができるだろうぜ。
当事者同士だと盛り上がりやすいか、或いは及び腰になりやすいからな。初対面ってのは。
基本、里でやってたことと変わんねぇ気もするが……"ヒト”ってなどこでも大して変わらんと。そういうわけだな?]
「頼りにしてるわ?」
「姫様に言われちゃァ、仕方ないしな」
雪華は笑ってから宴へとふらりと歩を進めた。
食後のデザートでも作るかと月色は準備を続ける。里の外に出たことで料理のレパートリーが増えたことは僥倖だ。
取りあえず口に入れてみて、食べれたから里の皆に食料が増えたと喜んでしまう雑食系里長を眺めてから月色が肩を竦めたのは言うまでもない。
「……姫は相変わらずなんでも食べるんだな。良いことだが。
外部から人を招く機会も増えるだろうし、料理は味だけでなく見た目も大事である。吾輩はこう見えて菓子を作るのが好きでな」
「えっ、そうなの? あ、ごめんなさい。なんだか意外で……」
「ああ、意外だとはよく言われるのだが。ほら、どうだ姫よ、食べるのが勿体ないくらい可愛らしい菓子だろう?
一口サイズならば食べやすいし、食後や箸休めにもちょうどよかろう。疲れたときには甘いものが欲しくなるものだしな」
気に入ったものがあれば教えてくれ、と食後のデザートを披露した月色のそばでひょい、と菓子を摘まんでから琉珂は「可愛くて美味しいって最高じゃない?」と微笑んだ。
「……ほんと、リュカに任せると食は……うん。なんでうちって食料番が居るのに芋虫食べるのよ。やめなさい」
叱り付けるような鈴花に「だって、フリアノンって食糧少ないから」と琉珂はもごもごと言った。手をそろそろと伸ばす彼女の手をぺしりと叩いて「めっ!」と叱る。
「外の世界のものと、アタシたちの世界のものとを合わせた特製料理よ。……あとこれは! そう、ぱんけーき!!!」
「パンケーキ。凄いわ、見たことある!」
鈴花は美味しそうだと燥ぐ琉珂に自慢げに微笑んだ。
「……ねーえ、リュカ。アタシは外なんて交流しなくていいって思ってたけど。
美味しいものはまぁ、いっぱいあるし。それなりに悪くないって思うわ。……楽しいわね、ほんと」
「……鈴花が、そう思ってくれるのなら、嬉しいわ。里を開いて、良かった」
ちょっとだけ不安だったのだと琉珂はどこか照れたように微笑んだ。
「お料理、用意してきたよー! フルーツを使ったサラダ! 本当は故郷の果物を使いたかったのだけど、今はちょっと無理なので!」
「アレクシアの故郷のフルーツ美味しそうよね」
琉珂がにまりと笑えばアレクシアは「商人さんたちと果物やお野菜を取引してみたいね」と微笑んだ。
「……それはそうとして、琉珂君にちょっとお話を!
琉珂君さっき、芋虫とか……言ってたけど、普段どんな物食べてるんだろう?
ううん、それが悪いってわけじゃないけれど……もしかしてお料理とかできない……?
簡単な炒めものとか、お鍋とか……そんなレベルのものでも……」
「……」
「んー……今度お料理教えるからどうだろう? お料理できるようになると、もっと楽しくお食事できるようになるし、ね?」
「う、うん……」
お料理よりも里長になる事で精一杯だったのだともごもごと言った食いしん坊里長にアレクシアは「美味しいものも一杯教えないとね」と微笑んだ。
「琉珂ちゃんに任せると危険って話も聞いたから頑張らなきゃ! 芋虫とかは避けたいしね……出ないよね? 嘘だと言ってー!」
「う、うそ」
「ががーん、嘘じゃ無さそう! 教えるからね!
う、うーん……下味の大事さと一手間が大事だって教えてあげないと! 味見をしながら勧めていけば少しはわかるかなー?」
琉珂にしっかりとお料理をアドバイスして外でのことを教えてやろうとスティアは決意したのだった。
「今日は人数が多いから全力出しても大丈夫そうってことで山盛りだよ。シャームロックさん達もいるから安心だね!」
「ねえ、スティア。いっぱい盛り付けるのは大事なこと?」
「え? うーん」
多分、と微笑んだスティアの傍でトラコフスカヤちゃんがぴょんぴょんと跳ねていた。
「ふふふ! 玉髄の路にマリ屋出張所を建設しよう! ヴァリューシャ! マリ屋2号店で荒稼ぎして酒代を得よう! 完璧な作戦だとは思わないかい?」
「流石はマリィ、とっても素敵なアイディアでございますわー!
1本50Goldの串カツも、500Goldで売り出せば利益10倍! 一生酒代に困らない日々がやって来ますわねっ!」
ヴァレーリヤとマリアの様子を眺めた琉珂がスティアの服をつんつんと摘まんで――「あれはいいの?」と問うた。スティア・エイル・ヴァークライト、天義の聖職者として何も答えられない。
「『せーの』で行きますわよマリィ、トラコフスカヤちゃん! せーのっ!」
資材を持ち込んでいくマリアとヴァレーリヤ。そのお手伝いをしながらぐびぐびと酒を飲んでいるトラコフスカヤちゃん。
「酔っ払ってませんわ~!」
「マリィも無理をしないで……あっあっ、トラコフスカヤちゃん! 自分だけお酒を飲むなんてズルいですわよ! 私にも分けて下さいまし!」
ぐびぐびと飲んでいるヴァレーリヤとトラコフスカヤちゃんにマリアは可愛いなあとにんまりと笑った。
「ねえ琉珂、ちょっと飲み食いして行きませんこと? 今日だけは開店記念大サービス!
お友達ですし、無料にしておきましてよ! 良いですわよね、マリィ?」
「ふふ! ヴァリューシャは太っ腹だね! 勿論さ! 琉珂君もおいで!」
琉珂はもう一度スティアの服をつんつんと摘まんでからマリアとヴァレーリヤを見遣って「あれっていいの?」と問うたのだった。
「色々ありましたが、周辺の脅威はこれで排せた……と言っていいのでしょうか。
シャームロックさんたちのことも気になりますが、生憎メイドたる私にはやるべきことがあるのです。
新拠点のプロモーションも兼ねて、覇竜・傭兵のお客様方に、より完璧なおもてなしを準備せねば。メイドの本領発揮はここからなのです!」
じゃーん、と痛げに胸を張ったクーア。旅亭『雨宿り』の従業員、多少のノウハウはある――筈なのだ。
料理の具合を確認し、設営を行う仲間達にも気を配る。そうして、この拠点運用をしっかりと行っていくことこそがクーアにとっての本番なのだ。
祝勝会に参加していた商人に天川は問いかける。商人達はビジネスチャンスかと楽しげに笑みを浮かべて彼へと応えた――が、
「なぁ。女性に贈る土産物なんかはあるか? ん? 装飾品や宝石? 違う違う。ブサカワグッズとかないのか?」
困惑していた。ブサカワと言われても商人達はアクセサリー類を売ることが多いのだ。
「出来れば相手が重く感じたり、受け取り辛いものは避けてくれ。本当にブサカワグッズはないのか?」
普段遣いしても嫌みではないものを、と考えたのは土産を渡す相手――晴陽がそうした装飾品類を貰うことになれて居らず受け取ってくれない可能性があるからだ。最後までブサカワグッズを粘った天川に商人はシルバーのブレスレットなんかはどうだろうかと妥協案を出すように提案したのだった
「見てみ姫様! 悪魔の魚だってよこれ! 新しい拠点、新しい飯、新しい酒、新しい仲間と希望、新しい困難と絶望。
変わって行くぜ。色んなことが。俺様はもうそんなに変わるこた出来ねえ。お前はこれからどう変わる?」
「雪華さんったら酔って……んん―――――!!!」
琉珂の口の中に戯れるようにわさびを突っ込んだ雪華に朱華は「あ、ちょっと!」と慌てた様に手を伸ばす。
「琉珂、水!」
――はじめての、わさびはとっても辛かった、と里長は語ったのだった。
●
「さぁて、念願の覇竜での商売拠点だ。商人ギルド・サヨナキドリとしても遅れを取るわけはいかないねぇ」
武器商人は拠点設立にはしっかりと『噛んでおかねばならない』とわざわざと遣ってきた。
「さて、ラードーンは倒せたが……それはあくまで必要な過程であって、目的はこの先だからな、最後まで手抜かりなくやり遂げよう」
ジンは宿泊や休憩の拠点に使える場所を考案した。しっかりと雨風を凌げることを重視し、快適性よりも安心を確保する。
「出来るだけシンプルな作りかつ後で崩しやすいように、角材を凸凹に加工して組み合わせた骨組みをベースに布や亜竜の皮膜を張るのがいいだろうか。
屋根と壁があれば、地面は藁や敷物、綿などでまずは十分かと思う。
そうと決まれば行動だな。角材の確保、加工、仮組……もたもたしていると日が暮れてしまいそうだ」
計画は大切だ。素材を少しばかり余るくらいに集めてワイバーン達やシャームロックが休める場所を作るのも良いだろう。
ミニサイズのものを用意しておけば亜竜達にとっても憩いの場にもなりそうだ。
「宿泊施設を作るよ! 立派な施設……まではいかないけど、これは第一歩。ぐっすり眠れるベッドがあれば体力回復して皆もっと色々出来るかも……!」
――と言うわけでホテル玉髄を作るのだとフラーゴラは馬車に商業知識で仕入れた資材を積んで遣ってきた。
此処が拠点となればラサにとっても重要なのだと説明し、出来る限りの協力を得てきたのである。
「とうとうラサと交易できるのね! ようやく覇竜支店(ウチ)の仕事が増えそうで助かるわ〜」
この渓谷を中心に里まで商人を連れて行くには未だ未だ難しい障壁があるだろうが、それでも直接出入りが出来るようになったとなれば冥穣の仕事も安定してくるはずだ。
「シャームロックさんたちを救ったみなさん、すごいです! 私はあまり力になれなかったですけど、ホテル作りをお手伝いしてお役に立てたらと……!」
フラーゴラの計画したホテル作りに協力しますとドラネコ達と共に遣ってきたユーフォニー。リクサメさんたちに協力を仰げば高所作業も楽々だ。
建築の知識は事前に資料検索をして身につけて置いた。雨が降れば資材が悪くなるかも知れないと天気予報を確りと行って、素敵なホテルが出来るようなおまじないも行った。
Я・E・Dは職人魂と家事と裁縫、ついでに鍛冶屋としての技術を身に付けて、作業に当たる。
地面から少し上げた床と骨組みだけ木材で作成し、壁や屋根はテント生地を貼ることで一先ずは完成形としておこう。
「これを沢山作れば部屋をわける事もできるし……さすがに頑丈な建物はゆっくり作るしか」
頷いて窓憑きの小屋も作っていきたいとフラーゴラは提案したベッドシーツは洗い立てで真っ白。それから、太陽の香りがするものを。
「建築技術は無いが、ベッドや椅子テーブルくらいの簡単な木工はできるぞ。力仕事も大丈夫だ。これらを運べばいいんだな」
任せてくれとモカは本職の料理や呈茶、接客も請け負うと宣言したのだった。
「ホテルに商品保管庫も作りたいね。常に商人が商品を全て持ち運ぶスタイルでは取扱える数も種類も限られてくるから、商人達が泊まる所にあれば便利とは思うのだよね。台帳を用意して名前と割札で管理する感じで……そうすれば、このホテルも取引の重要拠点として使えるんじゃあないかな」
本当は地下に何か作れれば良いが地質の調査などを行ってからがいいだろうか。悩ましげに呟いた武器商人は空を見遣る。
「渓谷のホテル、素敵な響きね〜。でも上空からの亜竜の脅威を出来る限り避けられる、とは言っても施設が増えてきちゃうとちょっと心配よね」
上空からの亜竜の脅威。冥穣の不安は消えることはない。出来る限り施設を隠蔽工作し、周りの地形に溶け込むように工夫してみるのも良いだろうか。
「ほてる? ……ほぇ〜、いっぱいのひとがお泊まりできる施設なのですか。
みんなが休める場所は絶刃も必要だと思うのです。でも建築、のことはよくわからないので必要な資材とかベッドとか色々運ぶです」
必要な事があれば何でもお手伝いすると絶刃は頷いた。小さなロップイヤーはお耳をぴょこりと揺らがせて、てこてこと歩いて行く。
「ベッドも木箱を流用して組んで、マットレスは良いのを持ってくれば早いし、シーツも縫えるよ。
せっかくだから料理も作って琉珂さんを招待しようかな? ホテルのお客さん第一号になってくれると嬉しいな」
Я・E・Dの声かけに琉珂は「いいの?」とフラーゴラとЯ・E・Dの顔を見比べたのだった。
「ようこそ……ホテル玉髄へ、なんてね」
にこりと笑ったフラーゴラに誘われて「お邪魔します!」と琉珂は緊張したように一歩、踏み入れた。
●
「無事でよかったぁー……」
思わず力が抜けてしまったリリーは動物の世話やワイバーンの世話を通して此れまで経験してきたことが天と大地の役に立たないだろうかと静かに寄り添った。
楽しげな幼竜達は皆が遊び相手になってくれるはずだ。今静かに寄り添って天と大地をゆっくりとさせてやりたいのだ。
「色々あったんだもん。ゆっくりさせてあげないとねっ。
……リリーも、今はゆっくりするから……。って、あっそらもりくも引っ張らないであーっ!」
小さなリリーが『持って行かれた』。お騒がせ幼竜達は楽しそうなのである……。
「ふう、ラードーンに石化された足も、どうにか無事に治った見てえだな」
自身の身体を確認してから藍世は祝勝会に参加する前に天と大地に挨拶をしておきたかった。
「ラードーンの野郎の住処まで行けたのは、旦那サン方が方向を教えてくれたおかげだ。改めて礼を言わしてくれ。
……それとまあ、恩の押し売りは好かねえが、改めてこの土地を使わしてもらいてえ」
獅子の形をした亜竜、シャームロックは顔を見合わせる。そしてゆるゆると頷いた。イレギュラーズへは信頼を寄せているのだろう。
「怪我、まだまだ酷いんだろ? 怪我もひでえみたいだし、食えるもんは食っといたほうが良いだろう。
旦那さん方も一緒に、美味いもん食って楽しむとしようぜ。何か選んでくるから待ってな」
藍世の呼びかけに、ご飯が食べれるのだろうかと天の頭に飛び乗ったりくがぶんぶんと尾を振った。
「大人のシャームロック達は未だ傷が癒えない様でな、良かったらリュティスの回復術で癒してやってくれないか」
効果があるかは分からないが、と付け加えたベネディクトにリュティスは頷いた。
「確かに酷い傷ですね。お任せ下さい。御主人様」
「それにあの子らも可愛らしい姿をしていてな。リュティスも嫌いではないだろう?」
そらとりくを眺めながら微笑んだベネディクトにリュティスは傷の具合を確認しながら頷いた。無邪気にじゃれつく幼竜達は可愛らしいものだ。
だが、ポメ太郎と比べればシャームロックは些か大きい。
「じゃれつくのは良いですが、安易に口に近づいては駄目ですよ。勢い余ってダイブしちゃうと大変ですから……」
食べられるんですかと慌てるポメ太郎にベネディクトはクスクスと笑った。
「やあ、元気にしていたか。そら、りく。今日は天と大地の様子見と遊びに来たよ」
「そら様、りく様、初めまして。御主人様の従者でございます。天様と大地様の傷は少しずつですが、治癒の効果が見えていますから安心して下さい」
土産のボールを持ってきたベネディクトに続きリュティスはポメ太郎共々宜しくお願いしますとシャームロック達に挨拶をした。
「ええと、久しぶりだね。覚えているかな? あの時は綺麗な瞳を見せてくれてありがとう。
お礼になるかわからないけれど、俺はご飯が大好きなんだ。だから、今日は練達からハンバーガーを買って来たんだ。30個位。祝勝会だし、一緒に食べてくれると嬉しいな」
どっさりと買って来たハンバーガーは大きな紙袋に詰め込まれていた。玲樹が一つ取り出せば頂戴頂戴と足元でそらとりくが跳ね回っている。
可愛らしい小さな猫を思わす彼等に玲樹は思わず笑みを浮かべた。
「初めまして、これからよろしくね。君達も一緒に食べるかい? ふふ、気に入ったならまた君達に会うついでに買ってくるよ。
食べ終わったら、琉珂も誘ってボール遊びをしようか! 腹ごなしに思いっきり動くのも良いと思うよ」
小さな亜竜達。その傍らで熾煇は小さな仔竜の姿になって、ちょこりと座っていた。
「しゃーむろっく? 初めましてだな。俺、熾煇。ドラゴンだけど、ドラゴンじゃないらしいんだぞ。
こっちはペット仲間のワイバーンだ。名前は……付けてない。よくわかんないからな。
『天』『大地』『そら』『りく』、可愛いな。琉珂が名前付けたのか?」
頷いた大地に「なるほどー」と熾煇はまんまるとした赤い瞳をぱちぱちと瞬かせた。
「そら、りく。追いかけっことかしたいな。ほら、ボールをぽーんって投げてもらって、それを取りに行くんだ。俺と競争だぞ。
俺も同じくらいの大きさだから、良い勝負になるかもしれないな。でも負けないぞ。
それで、たくさん遊んだら一緒にご飯食べてお昼寝しよう。ご飯はお肉が良いな? 『そら』『りく』、お肉は大好きか? 俺は好きだぞ」
おにくと言葉を聞いてからそらとりくは玲樹の方向を向いた。確かに彼が持っていたのは『おにく』だ。
「そう、あれがお肉だぞ」
美味しそうなお肉だと笑った熾煇にそらとりくは遊ぼうと尾をぶんぶんと振る。
そのボールを追掛けるのはアンリのドラネコだった。ドラネコのおやつを持ってきたアンリは「たべる?」とそらとりくへと問いかける。
シャームロックを見て、桜花はこれがこの地に棲まう亜竜なのかとまじまじと眺めた。
「束の間ではあるけれど、平和な時間を楽しむとしようか!」
美透は折角の縁だと幼いシャームロックの元へと向かった。
「それにしても琉珂君、既に名前を付けていたのか。そら君にりく君、いい名前じゃないか」
「便宜上よ。他の名前があればっておもったのだけれど」
美透が気に入ってくれたのならばこの名前も良いのかな、なんて琉珂は微笑んだ。琉珂の尻尾をバシバシと叩いていたのは空腹なのか戯れなのか。
美透はもう一度琉珂の尾をばしばしと叩きに遣ってきた幼いシャームロック達を眺め遣る。
「悪気はないだろうが、あまり琉珂君に負担をかけ過ぎるのも……そうだ、良いことを思いついた」
美透は自身の陣術を使用して、防御力を向上し、「さぁ来い。そら君にりく君!」と尾を揺らがせた。
「石化、解けたんですね!ㅤよかったです!!あっ、こっちはロスカです!ㅤ仲良くしてあげてくださいね!」
「くぁ〜」
そらとりくにロスカを紹介するウテナは出来ればそらとりくとも仲良くなりたいと思って――髭が狙われていることに気付いた。
「あっ、だめですよ!ㅤうちのおひげ取らないでください!!ㅤロスカ助けて!ㅤ……ロスカ居ない!!」
「くぁ~」
ロスカの後ろをちょこちょことついていくりくにぴょこぴょことおひげを狙うそら。ウテナは慌てた様に叫んだ。
「ロスカ!ㅤ落ちてるもの食べちゃだめですよ!!ㅤりくちゃんも真似したらだめですよ!! むーん!ㅤ忙しい!!」
そんな微笑ましい様子を眺めてから玉兎はくすりと笑う。
「ラサとの交易路を作る。元々そういう話でしたわね。ええ、ええ、忘れていた訳ではございませんわ。
しかしひとまず、シャームロック……天様と大地様、で良いのかしら。本来のお名前とかあるのではないかしら?」
お怪我の具合を見せて下さいと玉兎は天と大地を覗き込んだ。シャームロックは人とは関わらないで生きてきた。故に、名前という呼び分けを必要としていなかったのだろう。便宜上、と琉珂が言ったとおりに人が呼び分けるための呼称として彼等へと接するべきだろうか。
玉兎が治療を行おうとするとそらとりくが絡みついてくる。リックは「よしよし、おれっちが遊ぶぜ!」とそらとりくの元へとふわふわと浮遊しながら近寄った。
赤飯を渡してみれば小さなシャームロック達がぴょこぴょこと走りながら近寄ってくる。守護者的な存在にお供えする食品だと耳にしたこともあったために今日にぴったりだとリックは考えていたのだろう。
――勿論、赤飯が初めてのそらとりくは「不思議~」と言いたげな顔をして赤飯に顔を埋めている。
「まあ、さ、長い間大変だったけど、丸く収まってよかったよな!」
●
「……グルル?」
(……なかま?)
首を捻ったアルペストゥス。気紛れに見に来た彼からするとシャームロックはお仲間のようで――
言葉を話すことはなくとも『そら』と『りく』を前にすればアルペストゥスも一緒に遊びたいと跳ね回る。
首を地面スレスレまで下ろして小さな幼獣と目線を交わしては追いかけたり、じゃれついたり。楽しげな彼はふと思う。
「……。ギャウ?」
(えものの獲り方、教えてきていい?)
保護者に伺いと問えば、天と大地は応えるように首を縦に振った。
獅子のような出で立ち。天と大地からは気品が感じられる。一礼する桜花の衣服をぎゅうと引っ張ったのはそらか。
何かに似ているような気配を感じているが――例えば、猫だろうか。
「かわいいですね。まだ加減が分からない感じも子供特有でしょうか」
そらの頭から背中を、そして喉からお腹までをわしゃわしゃと撫で回した。自分も、と言いたげなりくが同じようにくいくいと引っ張る。
愛らしい。彼等は対と共に過ごす少数種らしい。それでも、少しずつ数が増えて言ってくれれば嬉しいと感じられた。
撫でて、抱き締めて。そのぬくもりを感じられるのはイレギュラーズの活躍のお陰、といえるだろうか。
「うおー! あーそーぶーぞー! 約束したから遊びに来たよ! そらちゃんりくちゃん!
へいへーい、何して遊ぶ―?わたしはなんで歓迎だよー! 鬼ごっこ? かけっこ? ボール遊びもおっけー! さとちょーも一緒に遊ぼ! ボール投げて!」
まるでユウェルにボールを投げて遊ぶ気持ちだと琉珂は揶揄うように笑った。
「ふっふーん、わたしはボール遊びのタツジン! まっけないよー。
あ、さとちょー、お腹空いたらりんりんがお料理してるらしいしそこを狙ってごーごー」
ニコニコと笑ってそらとりくと共に駆けるユウェル。遊び終わったら天や大地とも沢山お話ししておきたいところだ。
そらとりくを抱っこしたいのだと微笑んだメイは飛行を使ったアクロバットなダンスを見せて、二匹を楽しませる。
「わ、わ、ニルは、シャームロック様に会いに来ました!
前に会ったときはまだ石だったので、ニルは今度こそ、シャームロック様に聞きたいのです。
……天様も大地様も、そら様もりく様も、パイはお好きですか?
好きだったら切り分けて、みんなで食べたいです! ベッツィータルトは祈りの込もったパイだそうです。
シャームロック様たちがこれからも元気でいますようにってニルもお祈りするのです」
そわそわと身を揺らすニルに天と大地はまだまだタルトは分からないと言った様子で首を傾げる。これは『はじめて』の『おいしい』を与える機会だろうか。
そらやりくと遊びたいニルへとユウェルが「一緒に遊ぼう!」と手を振った。
「おうおう、元気に動き回ってるな子供シャームロック! 『そら』と『りく』だったか? いい名前だな!
『天』と『大地』の方はまだ安静が必要そうか。お大事にな。早く子供達に走り回れるといいな!」
快活に笑った獅門はユウェルが投げたボールをキャッチする。差し入れの鮭は祝勝会の調理組に手渡した。
おやつ様の鮭は後で天と大地と共に囓ってのんびりと過ごす為に使用しようか。
「シャアッス! 色々お疲れ様っした! まずはゆっくりと傷を癒してください!
石になってでもずっとこの地を守るってアンタ達のその心意気、俺の胸にグッと来ました!
今後、もし何かありそうなら呼んで貰えりゃいつでも駆け付けます! ってな感じで、これからも一つヨロシク頼んます」
挨拶する千尋を見付けてユウェルがぶんぶんと手を振った。そらとりくに向かってバイクで徐行しながら飛び込んでいく千尋は「そこの亜竜っ子もどうだい?」と声を掛ける。物怖じしないユウェルにエンジンを盛大にふかしてみれば琉珂がおっかなびっくりという顔をした。
「何何!?」
「これが俺の鋼鉄の竜の咆哮ってヤツよ」
揶揄うように笑った千尋に琉珂はぱちくりと瞬いた。そらとりくと遊んでいたヨゾラは猫じゃらしを手にぱちくりと瞬いた。
そらが上にどすりと乗ってきて「あはははは、可愛い強くて凄い~あはははは!」と笑ってはいるが潰れそうではある。
素敵な名前だと呼びかければイレギュラーズ達に呼ばれる度に気に入っていくのか二匹は嬉しそうにじゃれついている。
眺めているだけで穏やかであったゲオルグはある程度は天と大地の傷の具合を見て遣っていた。骨などが露出している部分は痛々しい。
その治療を行って見るが傷を直ぐに癒やすことは難しいだろうか。ゲオルグの傍らでリースリットはこんにちは、と天と大地に微笑みかける。
「この地を交易拠点とする、というのは考えましたね。唯の中継点や通り道とするには難しい場所ですし、何より距離がある。危険も多い。
それなら……此処を交易拠点、市としてしまえば治安維持と安全確保の戦力を駐屯させる事もできます。
そしてラサ側とフリアノン側、双方の人の交流場所にも出来る、問題があるとすれば……」
ちら、と見遣ったのは天と大地だ。そらとりくは楽しげに遊んでいるがまだまだ痛ましい傷でこの地を護ってきた天と大地にとっては急に訪れた転機でああるだろう。
「ごめんなさい、この地が騒がしくなってしまう事になります。節度を知る者達がきちんと管理をするとはいえ……」
大丈夫なのだと尾を揺らす天と大地に「協力はしますから」と穏やかに微笑んだ乗った。
「整備はサボる……じゃなくて」と首を振ったのはシラス。人に懐いているそらとりくは愛らしい。渓谷には余り食べるものは無さそうだが腹を空かせた彼等は何でも食べたがっているようである。
「そいや竜は何を食えばあんなに馬鹿デカくなるんだ? ……まあいいや、こいつらは見た目に肉が好きだろ絶対に」
「確かにそれっぽいね!」
覗き込んだ焔は一緒に遊ぼうよ、とそらとりくと視線を合わせる。シラスが干し肉を取り出せばそらとりくは涎をだらだらと垂らしている。
「よーし、それじゃあ一緒に遊ぼうか! でも何して遊ぶのがいいかな?
一応ボールとかフリスビーとか、あとねこじゃらしとか色々遊べそうな道具は持ってきたけど」
早く早くと身体を起こしたそらに押し倒されて焔はくすくすと笑う。ユウェルや琉珂が走り寄ってきたことを確認し、りくが小さく鳴き声を上げた。
「って、わわっ! もうっ、そんな風に引っ張ってイタズラしちゃダメでしょ!
そんな子達にはまとめてこうだっ! わしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃっ!」
「よし、良いか? 上手に遊べたら食べさせてやるからさ」
噛んで引っ張る二匹に襤褸の古着や靴を持ってきていたシラスは干し肉を使って気を引いて力加減を学ばせるように相手をした。
沢山持ち込んだ玩具の一つ一つを、屹度二匹は喜んで使用するだろう。其れ等を置いておく為にもこの拠点は活かされそうだ。
「やっほー !シャーム……んん??? 天と大地? スカイとアース?
んー、かっけー! 老竜ってやつはやっぱいいもんですな! 趣味とかある? どこ住み? 体どっから洗う?」
揶揄うように声を掛けた秋奈に天と大地は首を捻った。因みに居住地は現在地である。
「よしちゃん琉珂! 私ちゃんちょっとちびっこと遊んでくるぜー! くぁー! ナニコレ、かわいいの化身かよー!
というかすっごいなコレ。でかい。でかもふ。うんうん、強いぞーかっこいいぞー! そしてやっぱかわいい前足ふにふにするしかないなうん。かわいあじ」
異国の地でかわいいいきものと遊ぶのは心が躍る――と言い掛けてずしりとその身体の上に乗っかったシャームロックに「う、うごけん」と秋奈は呟くのだった。
天と大地の傍らで龍笛を吹き鳴らす獅門の傍でニルはほっとしたように微笑んだ。
「ここにくれば、シャームロック様にいつでも会えるのですね、ニルはとってもとってもうれしいです」
「そうだね。僕ね……シャームロックさん達に会えて嬉しくて、できれば一緒に見たいものがあるんだ。
玉髄の道の……夜の空、星空。きっと綺麗なんだろうなって楽しみにしてたんだ。シャームロックさん達の瞳も綺麗で……幸せ、だね」
この地で安全に過ごせるようになれば、屹度。ヨゾラは夜空を眺めることが出来るだろう。
天と大地は人の拠点が出来た時に、また彼が共に過ごしてくれる時間を楽しみにしているかのようだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
長編から続き、やっとこさの『拠点』です。
此処を交易の拠点としラサから此処へ、フリアノンから此処へ。そうして、亜竜種達の生活が広がってゆく事を目指しましょう。
先ずは、第一歩。
商人さん達を護衛して、覇竜が発展して行きますように!
GMコメント
『玉髄』での交易路、最終話
当シナリオは長編『玉髄の路』『玉髄に潜む』『玉髄に棲まいし者』で得た渓谷の拠点整備を行うイベントシナリオです。
訪れと無かったけど折角だから、行くぞ~!も大歓迎ですのでお気軽に遊びに来て下さいね。
●『玉髄の路』
フリアノンの『やや後ろ側』――尾骨に沿った場所に流れる川と渓谷です。
玉髄の路と名付けられたのはこの地に住まう二対の獣シャームロックの瞳が由来であるそうです。
それらは朽ちた骨の姿をしていますが石化が解かれ、現在はこの渓谷の守護者として佇んでいます。
『玉髄の路』『玉髄に潜む』にてイレギュラーズの皆さんが作成した拠点には少しばかりの物資や松明が存在します。
が、『玉髄に棲まいし者』にて脅威であった亜竜ラードーンが割と破壊していきました。良ければ再度整備を行って上げて下さい。
●プレイング書式
一行目:【番号】
二行目:【グループ】or同行者(ID) ※なしの場合は空行
三行目:自由記入
例:
【1】
珱・琉珂 (p3n000246)
●出来ること
【1】拠点整備&拠点での祝勝会
玉髄の路の拠点を整備して、商人達の交易を行いやすくしましょう。
簡易的な宿泊施設や、獣よけなどを作っておくと良いかも知れませんね!
また、拠点での祝勝会は『お料理持ち込み式』です。琉珂ちゃんは食事に困ると割と何でも食べるので美食は皆さん頼りです。
この地を使えるようになったぞ~!と楽しくお料理を食べるだけでも良いですし、渓谷の設営確認と言いながら少し散歩してみるのも良いかも知れません。
この拠点祝勝会にはラサ&覇竜の商人をご招待することが出来ます。
皆さんが護衛をして『玉髄の路』と名付けられたこの拠点へと誘って上げて下さい。
皆さんが商人として覇竜の商人達と交易を行うことも出来そうです。
【2】シャームロック達と遊ぶ
大人のシャームロックは石化が解かれましたが所々が骨を露出し非常に痛ましい姿です。
どうやら骨になって朽ちては居ましたが石化で『時が止まっていた』為、大きく破損した場所以外はまともな姿で過ごせているようです。
琉珂は大人のシャームロックを『天ちゃん』『大地ちゃん』と呼んでいます。
幼獣シャームロックは『玉髄に棲まいし者』にて皆さんが確保した小さな獣です。獅子を思わせ、とてもかわいい姿をしています。
人懐っこく、『そらちゃん』『りくちゃん』と琉珂は呼んでいるようです。
腹を空かせているほか、遊んで欲しいとイレギュラーズの衣服を引っ張ったり、悪戯をしてきます。
●シャームロック
『天』『大地』『そら』『りく』と琉珂が便宜上適当にお名前を付けてたこの地の守護者です。
その由来は天と地を見据える獣であるから……だそうですが、基本は守護者としての持ち場がありますが今回はその持ち場を離れて皆さんの輪に入ります。
・獅子のように強大な亜竜です。幼獣でもサイズは大型犬くらい在ります。
・羽は片翼ずつあります
・渓谷の出入り口にそれぞれ、天地のシャームロックが2匹鎮座するため、4匹居ます。
・幼獣の『そら』と『りく』はイレギュラーズが保護した際に懐いたのか遊んでほしがります。ボール遊びなどが良いかもしれません。
・大人の『天』と『大地』は少しですが言葉を介してコミュニケーションを行う事は出来そうです。
●ラードーン
シャームロックを石化させていた脅威です。イレギュラーズによって倒されました。
●同行NPC
珱・琉珂がばっちりおります。
「皆で遊びに来たら良いのに~~!!」と張り切ってます。これが里の未来に繋がると思えばやる気も漲りますね!
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